IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ デクセリアルズ株式会社の特許一覧

特開2023-44051拡散板、表示装置、投影装置および照明装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023044051
(43)【公開日】2023-03-30
(54)【発明の名称】拡散板、表示装置、投影装置および照明装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/02 20060101AFI20230323BHJP
   G02B 3/00 20060101ALI20230323BHJP
   G03B 21/00 20060101ALI20230323BHJP
   F21V 5/04 20060101ALI20230323BHJP
   F21V 5/08 20060101ALI20230323BHJP
【FI】
G02B5/02 C
G02B3/00 A
G03B21/00 D
F21V5/04 200
F21V5/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021151885
(22)【出願日】2021-09-17
(71)【出願人】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】有馬 光雄
(72)【発明者】
【氏名】石渡 正之
【テーマコード(参考)】
2H042
2K203
【Fターム(参考)】
2H042BA04
2K203HA65
2K203HA69
2K203HA92
2K203MA40
(57)【要約】
【課題】出射光の光束を所望方向に偏向させる。
【解決手段】
マイクロレンズアレイ型の拡散板であって、基材と、前記基材の少なくとも一方の表面におけるXY平面上にランダムに配置された複数のマイクロレンズから構成されるマイクロレンズアレイと、を備え、前記マイクロレンズの表面形状は、非球面形状を有し、前記マイクロレンズの光軸は、前記基材の前記表面に対する法線方向であるZ方向に対して、1°以上の傾斜角αで傾斜している、拡散板が提供される。
【選択図】図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロレンズアレイ型の拡散板であって、
基材と、
前記基材の少なくとも一方の表面におけるXY平面上にランダムに配置された複数のマイクロレンズから構成されるマイクロレンズアレイと、
を備え、
前記マイクロレンズの表面形状は、非球面形状を有し、
前記マイクロレンズの光軸は、前記基材の前記表面に対する法線方向であるZ方向に対して、1°以上の傾斜角αで傾斜している、拡散板。
【請求項2】
前記マイクロレンズの前記光軸が前記Z方向に対して傾斜していることにより、前記拡散板から出射する出射光の主光線は、前記拡散板に入射する入射光の主光線に対して偏向する、請求項1に記載の拡散板。
【請求項3】
前記入射光が前記拡散板に対して前記Z方向に入射する場合、前記出射光の主光線が偏向する方向は、前記マイクロレンズの前記光軸の傾斜方向に対して反対方向である、請求項2に記載の拡散板。
【請求項4】
前記マイクロレンズの表面形状は、前記傾斜角αで傾斜した前記光軸を中心として回転対称な非球面形状を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の拡散板。
【請求項5】
前記マイクロレンズの表面形状は、前記Z方向の光軸を有する基準非球面形状を、前記光軸の傾斜方向に前記傾斜角αだけ回転させた傾斜非球面形状を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の拡散板。
【請求項6】
前記マイクロレンズの頂点は、前記傾斜非球面形状の頂点であり、前記傾斜角αだけ傾斜した前記光軸からずれた位置に配置される、請求項5に記載の拡散板。
【請求項7】
前記マイクロレンズの前記非球面形状を、コーニック係数Kを用いた非球面レンズの式で表したとき、前記コーニック係数Kは、0超である、請求項1~6のいずれか一項に記載の拡散板。
【請求項8】
前記マイクロレンズの表面形状のアスペクト比kが、前記複数のマイクロレンズの最大レンズ高さhMAXと、前記マイクロレンズの基準開口幅Dkとの比であるとき(k=hMAX/Dk)、前記アスペクト比kは、0.1以上、1.1以下である、請求項1~7のいずれか一項に記載の拡散板。
【請求項9】
前記傾斜角αは、60°以下である、請求項1~8のいずれか一項に記載の拡散板。
【請求項10】
前記傾斜角αは、45°以下である、請求項1~9のいずれか一項に記載の拡散板。
【請求項11】
前記複数のマイクロレンズの前記光軸は、実質的に同一の前記傾斜角αで、実質的に同一な傾斜方向に傾斜している、請求項1~10のいずれか一項に記載の拡散板。
【請求項12】
前記複数のマイクロレンズの前記光軸は、相互に異なる前記傾斜角αで、相互に異なる傾斜方向に傾斜している、請求項1~10のいずれか一項に記載の拡散板。
【請求項13】
前記複数のマイクロレンズの前記光軸の前記傾斜角αは、相互に異なり、
前記傾斜角αは、所定の基準傾斜角αkを基準として、所定の変動範囲でランダムに変動している、請求項12に記載の拡散板。
【請求項14】
前記マイクロレンズの前記光軸の傾斜方向を表す角度を方位角βとしたとき、
前記複数のマイクロレンズの前記光軸の前記方位角βは、相互に異なり、
前記方位角βは、所定の基準方位角βkを基準として、所定の変動範囲でランダムに変動している、請求項12または13に記載の拡散板。
【請求項15】
前記マイクロレンズの開口幅Dは、所定の基準開口幅Dkを基準としてランダムに変動しており、
前記マイクロレンズの曲率半径Rは、所定の基準曲率半径Rkを基準としてランダムに変動している、請求項1~14のいずれか一項に記載の拡散板。
【請求項16】
前記XY平面上において、相互に隣接する前記マイクロレンズ同士の重なり量Ovが、予め設定された許容範囲内になるように、前記複数のマイクロレンズがランダムに配置されている、請求項1~15のいずれか一項に記載の拡散板。
【請求項17】
前記マイクロレンズを平面視した場合に、前記マイクロレンズの平面形状の外形線は、互いに曲率が異なる複数の曲線で構成される、請求項1~16のいずれか一項に記載の拡散板。
【請求項18】
請求項1~17のいずれか1項に記載の拡散板を備える、表示装置。
【請求項19】
請求項1~17のいずれか1項に記載の拡散板を備える、投影装置。
【請求項20】
請求項1~17のいずれか1項に記載の拡散板を備える、照明装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、拡散板、表示装置、投影装置および照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光の拡散特性を変化させるために、入射光を所望の方向に拡散させる拡散板が用いられている。拡散板は、例えば、ディスプレイ等の表示装置、プロジェクタ等の投影装置、または各種の照明装置等といった様々な装置に広く利用される。拡散板の表面形状に起因する光の屈折を利用して、入射光を所望の拡散角で拡散させるタイプの拡散板がある。当該タイプの拡散板として、数十μm程度の大きさのマイクロレンズが複数配置されたマイクロレンズアレイ型の拡散板が知られている。
【0003】
かかるマイクロレンズアレイ型の拡散板では、各マイクロレンズからの光の波面が干渉した結果、マイクロレンズ配列の周期構造による回折波が生じ、拡散光の強度分布にむらが生じるという問題がある。このため、マイクロレンズの配置や、レンズ面の形状、開口の形状をばらつかせることにより、干渉や回折による拡散光の強度分布のむらを低減する技術が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、ハニカム構造を基本パターンとして、複数のマイクロレンズをランダムに配列することが開示されている。この特許文献1では、各マイクロレンズの面頂点位置が、基本パターンにおける面頂点位置を中心とした所定の円内に位置するように、複数のマイクロレンズが拡散板の表面上にランダムに配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4981300号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に記載のような従来の拡散板では、複数のマイクロレンズを、拡散板の表面上(XY平面上)におけるランダムな位置に配置したり、個々のマイクロレンズの面頂点位置をずらして、光軸を偏心させている。しかしながら、従来の拡散板では、個々のマイクロレンズの光軸は全て、拡散板の表面に対して垂直な方向(法線方向:Z方向)に延びていた。このため、拡散板により拡散される出射光(拡散光)の主光線の方向は、入射光の主光線の方向に対して平行になるので、入射光の光束に対して出射光(拡散光)の光束を、所望の方向に偏向させることができなかった。例えば、従来の拡散板の表面に対して垂直な方向(法線方向:Z方向)にコリメート光を入射する場合、出射光(拡散光)の光束は、法線方向(つまり、マイクロレンズの光軸方向)を中心軸として対称に拡散して出射されていた。このため、出射光(拡散光)の主光線の方向はあくまでも法線方向となるので、出射光の光束を法線方向に対して所望方向に傾けて、入射光の光束に対して偏向させることができなかった。
【0007】
もちろん、従来の拡散板でも、拡散板を透過して拡散される出射光(拡散光)全体のマクロ的な出射方向は、拡散板の屈折作用によって、入射光とは異なる方向に傾斜することはある。しかしながら、上記のように従来のマイクロレンズの光軸は拡散板の法線方向(Z方向)と平行であるため、拡散板の通常の屈折作用とは異なる所望方向に、出射光の光束を偏向させることができなかった。
【0008】
したがって、従来では、例えば、拡散板に対する入射光や出射光の光軸方向の設計自由度の拡張や、光学機器システムの小型化などを図るために、出射光の光束を所望方向に偏向させることが可能なマイクロレンズアレイを備えた拡散板が希求されていた。
【0009】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、出射光の光束を所望方向に偏向させることが可能な拡散板と、これを備えた表示装置、投影装置および照明装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、
マイクロレンズアレイ型の拡散板であって、
基材と、
前記基材の少なくとも一方の表面におけるXY平面上にランダムに配置された複数のマイクロレンズから構成されるマイクロレンズアレイと、
を備え、
前記マイクロレンズの表面形状は、非球面形状を有し、
前記マイクロレンズの光軸は、前記基材の前記表面に対する法線方向であるZ方向に対して、1°以上の傾斜角αで傾斜している、拡散板が提供される。
【0011】
前記マイクロレンズの前記光軸が前記Z方向に対して傾斜していることにより、前記拡散板から出射する出射光の主光線は、前記拡散板に入射する入射光の主光線に対して偏向するようにしてもよい。
【0012】
前記入射光が前記拡散板に対して前記Z方向に入射する場合、前記出射光の主光線が偏向する方向は、前記マイクロレンズの前記光軸の傾斜方向に対して反対方向であるようにしてもよい。
【0013】
前記マイクロレンズの表面形状は、前記傾斜角αで傾斜した前記光軸を中心として回転対称な非球面形状を有するようにしてもよい。
【0014】
前記マイクロレンズの表面形状は、前記Z方向の光軸を有する基準非球面形状を、前記光軸の傾斜方向に前記傾斜角αだけ回転させた傾斜非球面形状を有するようにしてもよい。
【0015】
前記マイクロレンズの頂点は、前記傾斜非球面形状の頂点であり、前記傾斜角αだけ傾斜した前記光軸からずれた位置に配置されるようにしてもよい。
【0016】
前記マイクロレンズの前記非球面形状を、コーニック係数Kを用いた非球面レンズの式で表したとき、前記コーニック係数Kは、0超であるようにしてもよい。
【0017】
前記マイクロレンズの表面形状のアスペクト比kが、前記複数のマイクロレンズの最大レンズ高さhMAXと、前記マイクロレンズの基準開口幅Dkとの比であるとき(k=hMAX/Dk)、前記アスペクト比kは、0.1以上、1.1以下であるようにしてもよい。
【0018】
前記傾斜角αは、60°以下であるようにしてもよい。
【0019】
前記傾斜角αは、45°以下であるようにしてもよい。
【0020】
前記複数のマイクロレンズの前記光軸は、実質的に同一の前記傾斜角αで、実質的に同一な傾斜方向に傾斜しているようにしてもよい。
【0021】
前記複数のマイクロレンズの前記光軸は、相互に異なる前記傾斜角αで、相互に異なる傾斜方向に傾斜しているようにしてもよい。
【0022】
前記複数のマイクロレンズの前記光軸の前記傾斜角αは、相互に異なり、
前記傾斜角αは、所定の基準傾斜角αkを基準として、所定の変動範囲でランダムに変動しているようにしてもよい。
【0023】
前記XY平面上における前記マイクロレンズの前記光軸の傾斜方向を表す角度を方位角βとしたとき、
前記複数のマイクロレンズの前記光軸の前記方位角βは、相互に異なり、
前記方位角βは、所定の基準方位角βkを基準として、所定の変動範囲でランダムに変動しているようにしてもよい。
【0024】
前記マイクロレンズの開口幅Dは、所定の基準開口幅Dkを基準としてランダムに変動しており、
前記マイクロレンズの曲率半径Rは、所定の基準曲率半径Rkを基準としてランダムに変動しているようにしてもよい。
【0025】
前記XY平面上において、相互に隣接する前記マイクロレンズ同士の重なり量Ovが、予め設定された許容範囲内になるように、前記複数のマイクロレンズがランダムに配置されているようにしてもよい。
【0026】
前記マイクロレンズを平面視した場合に、前記マイクロレンズの平面形状の外形線は、互いに曲率が異なる複数の曲線で構成されるようにしてもよい。
【0027】
上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、上記の拡散板を備える、表示装置が提供される。
【0028】
上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、上記の拡散板を備える、投影装置が提供される。
【0029】
上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、上記の拡散板を備える、照明装置が提供される。
【発明の効果】
【0030】
以上説明したように本発明によれば、出射光の光束を所望方向に偏向させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の一実施形態に係る拡散板を模式的に示す平面図と拡大図である。
図2】同実施形態に係る拡散板の構成を模式的に示す拡大平面図および拡大断面図である。
図3】同実施形態に係るマイクロレンズの境界近傍を模式的に示す拡大断面図である。
図4】同実施形態に係るマイクロレンズの平面形状(外形)を模式的に示す平面図である。
図5】同実施形態に係るマイクロレンズの光軸を傾斜させる態様を示す模式図である。
図6】同実施形態に係るマイクロレンズの偏向機能を示す模式図である。
図7】同実施形態に係るアナモルフィック形状のマイクロレンズの平面形状を示す説明図である。
図8】同実施形態に係るアナモルフィック形状のマイクロレンズの立体形状を示す斜視図である。
図9】同実施形態に係るトーラス形状のマイクロレンズの平面形状を示す説明図である。
図10】同実施形態に係るトーラス形状のマイクロレンズの立体形状を示す斜視図である。
図11】同実施形態に係るトーラス形状の曲面を示す斜視図である。
図12】同実施形態に係る複数のマイクロレンズが配列されたマイクロレンズアレイの具体例を模式的に示す断面図と平面図である。
図13】同実施形態に係る複数のマイクロレンズが配列されたマイクロレンズアレイの具体例を模式的に示す断面図と平面図である。
図14】同実施形態に係る複数のマイクロレンズが配列されたマイクロレンズアレイの具体例を模式的に示す断面図と平面図である。
図15】同実施形態に係る複数のマイクロレンズが配列されたマイクロレンズアレイの具体例を模式的に示す断面図と平面図である。
図16】同実施形態に係るマイクロレンズの設計方法を示すフローチャートである。
図17】同実施形態に係るマイクロレンズのレンズ中心座標の配置を示す平面図である。
図18】同実施形態に係る回転対称な非球面形状を有するマイクロレンズの配置を示す平面図である。
図19】同実施形態に係る回転非対称な非球面形状を有するマイクロレンズの配置を示す平面図と斜視図である。
図20】同実施形態に係るマイクロレンズの基準非球面形状の決定方法を示す斜視図である。
図21】同実施形態に係るマイクロレンズの基準非球面形状の傾斜方法を示す斜視図である。
図22】同実施形態に係る拡散板の製造方法を示すフローチャートである。
図23】比較例1に係る拡散板に関する説明図である。
図24】比較例2に係る拡散板に関する説明図である。
図25】実施例1に係る拡散板に関する説明図である。
図26】実施例2に係る拡散板に関する説明図である。
図27】実施例3に係るインプリントフィルムによる拡散光の配光特性を示すグラフである。
図28】実施例に係る複数種類のマイクロレンズアレイの表面形状のパターンを示す共焦点レーザ顕微鏡画像である。
図29】実施例に係る複数種類のマイクロレンズアレイの表面形状のパターンを示す共焦点レーザ顕微鏡画像である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0033】
<1.拡散板の概要>
まず、本発明の実施形態に係る拡散板の概要について説明する。
【0034】
以下に詳述する本実施形態に係る拡散板は、光の均質拡散機能を備えたマイクロレンズアレイ型の拡散板である。かかる拡散板は、基材と、当該基材の少なくとも一方の表面(主面)におけるXY平面上に形成されたマイクロレンズアレイを有する。マイクロレンズアレイは、XY平面上にランダムに配列および展開された複数のマイクロレンズから構成される。当該マイクロレンズは、光拡散機能を有する凸構造(凸レンズ)または凹構造(凹レンズ)からなり、例えば、数十μm程度の開口幅D(レンズ径)と、数十μm程度の曲率半径Rを有する。
【0035】
そして、本実施形態に係る拡散板では、各マイクロレンズの表面形状は、非球面形状を有しており、各マイクロレンズは、非球面レンズとなっている。さらに、各マイクロレンズの光軸は、拡散板の平坦な基材の表面(XY表面)に対する法線方向(Z方向)に対して、例えば、0°超、60°以下の傾斜角αで傾斜している。このように各マイクロレンズの光軸をZ方向に対して傾斜させることにより、各マイクロレンズの非球面形状も当該傾斜方向に回転して、Z方向に対して傾斜している。
【0036】
このように本実施形態では、非球面マイクロレンズを任意の方向に回転させて、その光軸自体を傾斜角αで傾斜させる。これにより、拡散板を透過して拡散する出射光(拡散光)を、拡散板が有する通常の屈折作用とは異なる方向に、偏向させることができる。かかる拡散板の偏向作用により、出射光の光束を所望方向に屈曲させることができる。したがって、拡散板に対する入射光の入射方向(入射角θin)の自由度と、出射光の出射方向(出射角θout)の自由度を向上できる。よって、拡散板に対する入射光や出射光の光軸方向の設計自由度を拡張することができ、拡散板が搭載される光学機器システムを小型化することができる。
【0037】
また、本実施形態によれば、拡散板の基材のXY平面上において、複数のマイクロレンズがランダムな位置に配置されている。例えば、XY平面上において、相互に隣接する複数のマイクロレンズ同士の重なり量Ovが、所定の許容範囲内になるように、複数のマイクロレンズが相互に重なり合いつつ、ランダムな位置に配置されてもよい。さらに、複数のマイクロレンズの開口幅D(レンズ径)および曲率半径Rが相互に異なるように、各マイクロレンズの開口幅Dおよび曲率半径Rがランダムに変動していてもよい。このとき、各マイクロレンズの開口幅Dは、所定の基準開口幅Dkを基準として、所定の変動率δDの範囲内でランダムに変動していてもよい(D[μm]=Dk[μm]±δD[%])。同様に、各マイクロレンズの曲率半径Rは、所定の基準曲率半径Rkを基準として、所定の変動率δRの範囲内でランダムに変動していてもよい(R[μm]=Rk[μm]±δR[%])。
【0038】
また、傾斜角αは、拡散板の表面の法線方向(Z方向)に対するマイクロレンズの光軸の傾斜角(0~90°)である。方位角βは、XY平面上におけるマイクロレンズの光軸の傾斜方向を表す角度であり、例えば、X軸方向を基準とした傾斜方向の角度(0°~360°)で表される。傾斜角αと方位角βは、複数のマイクロレンズ間で実質的に同一の固定値であってもよい。あるいは、傾斜角αと方位角βは、複数のマイクロレンズ間で相互に異なる変動値であってもよく、ランダムに変動してもよい。このとき、傾斜角αは、所定の基準傾斜角αkを基準として、所定の変動範囲内(例えば、αk±Δαの範囲内)でランダムに変動してもよい(α[°]=αk[°]±Δα[°])。同様に、方位角βは、所定の基準方位角βkを基準として、所定の変動範囲内(例えば、βk±Δβの範囲内)でランダムに変動してもよい(β[°]=βk[°]±Δβ[°])。
【0039】
このように、本実施形態では、複数のマイクロレンズの配置や、開口幅D、曲率半径R、傾斜角α、方位角β等を、ランダムに変動させてもよい。これにより、XY平面上に展開して配列された複数のマイクロレンズの表面形状は、ランダムに変動して、相互に異なる形状となる。
【0040】
これにより、ランダム性の高いマイクロレンズアレイの3次元表面構造を実現できるので、各マイクロレンズから出射される拡散光の位相の重合せ状態を制御することができる。したがって、複数のマイクロレンズから出射される拡散光の干渉や回折による拡散光の強度分布のむらを低減できるとともに、拡散光を均質に配光することができる。この結果、高透過性の輝度特性を有するとともに、拡散光の配光の均質性を満足しつつ、拡散光の強度分布のカットオフ性を制御することができる。
【0041】
以下では、以上のような特徴を有する本実施形態に係る拡散板について、詳細に説明する。
【0042】
<2.拡散板の全体構成>
まず、図1を参照して、本発明の一実施形態に係る拡散板の全体構成と、マイクロレンズのレイアウトパターンについて説明する。図1は、本実施形態に係る拡散板1を模式的に示す平面図と拡大図である。
【0043】
本実施形態に係る拡散板1は、基板上に複数のマイクロレンズ(単レンズ)からなるマイクロレンズアレイが配置された、マイクロレンズアレイ型の拡散板である。かかる拡散板1のマイクロレンズアレイは、図1に示すように、複数の単位セル3から構成されている。単位セル3は、マイクロレンズの基本配置パターンである。個々の単位セル3の表面には、所定のレイアウトパターン(配置パターン)で複数のマイクロレンズが配置されている。
【0044】
ここで、図1では、拡散板1のマイクロレンズアレイを構成する単位セル3の形状が矩形、特に正方形である例を示している。しかしながら、単位セル3の形状は、図1に示した例に限定されるものではなく、例えば、正三角形状または正六角形状などのように、拡散板1の表面(XY平面)上を隙間なく埋めることが可能であれば、任意の形状であってもよい。
【0045】
拡散板1のマイクロレンズアレイの表面を複数の単位領域に分割したとき、単位セル3は、個々の単位領域に相当する。図1の例では、拡散板1の表面上において、正方形の複数の単位セル3が、縦横に繰り返し配列されている。拡散板1を構成する単位セル3の個数は、特に限定されるものではなく、拡散板1が1つの単位セル3から構成されていてもよいし、あるいは、複数の単位セル3から構成されていてもよい。拡散板1においては、互いに異なる表面構造を有する単位セル3が繰り返し配列されてもよいし、あるいは、互いに同一の表面構造を有する単位セル3が繰り返し配列されてもよい。
【0046】
また、図1中の右側の拡大図に模式的に示したように、単位セル3内に設けられた複数のマイクロレンズのレイアウトパターン(配置パターン)は、相互に隣接する複数の単位セル3間で、単位セル3の配列方向(換言すれば、アレイ配列方向)に連続している。相互に隣接する複数の単位セル3間の境界部分においてマイクロレンズの連続性を保ちながら、単位セル3を隙間なく配列することにより、マイクロレンズアレイが構成されている。ここで、マイクロレンズの連続性とは、相互に隣接する2つの単位セル3、3のうち、一方の単位セル3の外縁に位置するマイクロレンズと、他方の単位セル3の外縁に位置するマイクロレンズとが、平面形状のずれや高さ方向の段差がなく、連続的に接続されていることを意味する。
【0047】
このように、本実施形態に係る拡散板1では、マイクロレンズアレイの単位セル3(基本構造)が、境界の連続性を保って隙間なく配列されることで、マイクロレンズアレイが構成されている。これにより、相互に隣接する単位セル3、3間の境界部分において、光の回折、反射、散乱等の意図しない不具合の発生を防止して、拡散板1による所望の配光特性を得ることができる。また、マイクロレンズアレイを単位セル3の繰り返し構造とすることにより、マイクロレンズアレイの設計効率と生産性を向上できる。
【0048】
<3.拡散板の構成>
次に、図2図4を参照して、本実施形態に係る拡散板1の構成についてより詳細に説明する。図2は、本実施形態に係る拡散板1の構成を模式的に示す拡大平面図および拡大断面図である。図3は、本実施形態に係るマイクロレンズ21の境界近傍を模式的に示す拡大断面図である。図4は、本実施形態に係る基材10の表面に対して垂直な方向からマイクロレンズ21を平面視した場合のマイクロレンズ21の平面形状(外形)を模式的に示す平面図である。
【0049】
図2に示すように、本実施形態に係る拡散板1は、基材10と、基材10の表面に形成されたマイクロレンズアレイ20と、を備える。
【0050】
まず、基材10について説明する。基材10は、マイクロレンズアレイ20を支持するための基板である。かかる基材10は、フィルム状であってもよく、板状であってもよい。また、基材10は、平板状であってもよく、湾曲板状であってもよい。図2に示す基材10は、例えば矩形平板状を有するが、かかる例に限定されない。基材10の形状や厚さは、拡散板1が実装される装置の形状、構成等に応じて、任意の形状および厚さであってよい。
【0051】
基材10は、光を透過することが可能な透明基材である。基材10は、拡散板1に入射する光の波長帯域において透明とみなすことが可能な材質で形成される。例えば、基材10は、可視光の波長帯域において光透過率が70%以上の材質にて形成されてもよい。
【0052】
基材10は、例えば、ポリメチルメタクリレート(polymethyl methacrylate:PMMA)、ポリエチレンテレフタレート(Polyethylene terephthalate:PET)、ポリカーボネート(polycarbonate:PC)、環状オレフィン・コポリマー(Cyclo Olefin Copolymer:COC)、環状オレフィンポリマー(Cyclo Olefin Polymer:COP)、トリアセチルセルロース(Triacetylcellulose:TAC)等といった公知の樹脂で形成されてもよい。あるいは、基材10は、石英ガラス、ホウケイ酸ガラス、白板ガラス等といった公知の光学ガラスで形成されてもよい。
【0053】
次に、マイクロレンズアレイ20について説明する。マイクロレンズアレイ20は、基材10の少なくとも一方の表面(主面)に設けられる。マイクロレンズアレイ20は、基材10の表面上に配列された複数のマイクロレンズ21(単レンズ)の集合体である。本実施形態では、図2に示すように、マイクロレンズアレイ20が、基材10の一方の表面(主面)上に形成されている。しかし、かかる例に限定されず、基材10の両方の主面(表面と裏面)に、マイクロレンズアレイ20が形成されてもよい。
【0054】
マイクロレンズアレイ20が設けられる基材10の表面は、例えば、平坦面であってよい。以下では、当該基材10の平坦な表面を、XY平面と称する場合もある。XY平面におけるX方向およびY方向は、当該基材10の表面に対して平行な方向である。X方向とY方向は相互に垂直である。また、Z方向は、基材10の表面に対して垂直な方向(即ち、法線方向)であり、拡散板1の厚み方向に相当する。Z方向は、XY平面、X方向およびY方向に対して垂直である。
【0055】
マイクロレンズ21は、例えば数十μmオーダーの微細な光学レンズである。マイクロレンズ21は、マイクロレンズアレイ20の単レンズを構成する。マイクロレンズ21は、拡散板1の厚み方向に陥没するように形成された凹構造(凹レンズ)であってもよいし、拡散板1の厚み方向に突出するように形成された凸構造(凸レンズ)であってもよい。本実施形態では、図2に示すようにマイクロレンズ21が凸構造(凸レンズ)である例について説明するが、かかる例に限定されない。拡散板1の所望の光学特性に応じて、マイクロレンズ21は凹構造(凹レンズ)であってもよい。
【0056】
マイクロレンズ21の表面形状は、非球面形状を有する。マイクロレンズ21の表面形状は、少なくとも一部に非球面成分を含む曲面形状であれば、特に限定されない。例えば、マイクロレンズ21の表面形状は、非球面成分のみを含む非球面形状であってもよいし、あるいは、非球面成分と、球面成分またはその他の曲面成分とを含む曲面形状であってもよい。例えば、マイクロレンズ21のレンズ面頂点側の部分の表面形状が非球面形状であってもよく、他の部分の表面形状が球面形状であってもよい。このような表面形状も、本実施形態に係るマイクロレンズ21の非球面形状に含まれる。
【0057】
図2に示すように、複数のマイクロレンズ21は、互いに隙間なく隣接するように密集して配置されることが好ましい。換言すると、互いに隣接するマイクロレンズ21、21間の境界部分に隙間(平坦部)が存在しないように、複数のマイクロレンズ21が連続的に配置されることが好ましい。基材10上にマイクロレンズ21が隙間なく配置されることが好ましい。換言すれば、マイクロレンズ21の充填率が100%となるように配置されることが好ましい。これにより、入射光のうち、拡散板1の表面で散乱せずにそのまま透過してしまう成分(以下、「0次透過光成分」ともいう。)を、抑制することが可能となる。その結果、複数のマイクロレンズ21が互いに隙間なく隣接するように配置されたマイクロレンズアレイ20により、拡散性能を更に向上させることが可能となる。
【0058】
なお、0次透過光成分を抑制するためには、基材10の上のマイクロレンズ21の充填率は、90%以上であることが好ましく、100%であることがより好ましい。ここで、充填率とは、基材10の表面上(XY平面上)において複数のマイクロレンズ21が占める部分の面積の割合である。充填率が100%であれば、マイクロレンズアレイ20の表面は、曲面成分で形成され、平坦面成分をほぼ含まないことになる。
【0059】
ただし、実際のマイクロレンズアレイ20の製造上では、複数のマイクロレンズ21の曲面を連続的に接続するために、相互に隣接するマイクロレンズ21、21間の境界における変曲点近傍が略平坦となることがあり得る。このような場合、マイクロレンズ21、21間の境界において、略平坦となる変曲点近傍領域の幅(図3図4に示すマイクロレンズ21、21間の境界線24の幅)は、1μm以下であることが好ましい。これにより、0次透過光成分を十分に抑制できる。
【0060】
また、本実施形態に係るマイクロレンズアレイ20では、複数のマイクロレンズ21は、XY平面上においてランダムに(不規則に)配置される。ここで、「ランダム」とは、マイクロレンズアレイ20の任意の領域において、マイクロレンズ21の配置に実質的な規則性が存在しないことを表す。ただし、微小領域においてマイクロレンズ21の配置に何らかの規則性が存在したとしても、任意の領域全体としてマイクロレンズの配置に規則性が存在しないものは、「不規則」に含まれるものとする。なお、本実施形態に係るマイクロレンズアレイ20におけるマイクロレンズ21のランダムな配置方法については、後述する。
【0061】
さらに、各マイクロレンズ21の表面形状を決定する開口幅D、曲率半径Rなどのレンズパラメータは、マイクロレンズ21ごとにランダムに変動していてもよい。つまり、各マイクロレンズ21の開口幅Dおよび曲率半径Rは、所定の固定値ではなく、ランダムに変動する変動値であってもよい。なお、開口幅Dは、マイクロレンズ21の開口部27のX方向またはY方向の幅であり(図5参照)、マイクロレンズ21のレンズ径に相当する。曲率半径Rは、マイクロレンズ21の曲面形状のX方向またはY方向の曲率半径である。
【0062】
例えば、各マイクロレンズ21の開口幅Dは、所定の基準開口幅Dkを基準として、所定の変動率δDの範囲内でランダムに変動してもよい(D=Dk±δD%)。同様に、各マイクロレンズの曲率半径Rは、所定の基準曲率半径Rkを基準として、所定の変動率δRの範囲内でランダムに変動してもよい(R=Rk±δR%)。これにより、所定の基準開口幅Dk、基準曲率半径Rkを中心として、開口幅D、曲率半径Rを適切にばらつかせることができるので、拡散板1の所望の光学特性(拡散性能)を維持しつつ、各マイクロレンズからの光の干渉や回折による拡散光の強度分布のむら(輝度むら、色むらなど)を低減できる。
【0063】
このように、本実施形態に係るマイクロレンズアレイ20においては、各マイクロレンズ21の曲率半径Rおよび開口幅Dが、基準曲率半径Rk、基準開口幅Dkを中心に所定範囲内でランダムに変動し、ばらつきを有している。各マイクロレンズ21の光学開口の位相分布は、方位によって異なる。さらに、基材10の表面上(XY平面上)において、複数のマイクロレンズ21が互いに重なり合うように密集して連続的に配置され、かつ、個々のマイクロレンズ21は、XY平面上においてランダムな位置に配置されている。
【0064】
これにより、各マイクロレンズ21の表面形状(立体的な曲面形状)および平面形状(基材10のXY平面に投影した形状)は、所定の基準形状を基準として、ランダムに変動することになる。この結果、各マイクロレンズ21の表面形状や平面形状は、相互に異なる形状となる。したがって、複数のマイクロレンズ21は、図2に模式的に示したように、様々な平面形状を有するようになり、対称性を有しないものが多くなる。
【0065】
この結果、図3に示すように、マイクロレンズ21Aの曲率半径がRである一方、当該マイクロレンズ21Aに隣接するマイクロレンズ21Bの曲率半径がR(≠R)であるという状態が生じるようになる。互いに隣接するマイクロレンズ21A、21Bの曲率半径R、Rが互いに異なる場合、当該マイクロレンズ21A、21Bの間の境界線24は、直線のみで構成されず、少なくとも一部に曲線を含んで構成されるようになる。
【0066】
具体的には、図4に示すように、基材10の表面に対して垂直な法線方向(Z方向)からマイクロレンズ21を平面視した場合を考える。この場合、マイクロレンズ21の平面形状の外形線(当該マイクロレンズ21と、隣接する他の複数のマイクロレンズ21との間の境界線24)は、互いに曲率が異なる複数の曲線で構成されることになる。このように、相互に隣接するマイクロレンズ21、21間の境界線24が、互いに曲率が異なる複数の曲線を含む場合、当該マイクロレンズ21、21間の境界の規則性がさらに崩れるため、拡散光の回折成分をさらに低減することができる。
【0067】
<4.マイクロレンズの光軸の傾斜と、拡散光の偏向機能>
次に、図5を参照して、本実施形態に係る光軸25が傾斜したマイクロレンズ21について説明する。図5は、本実施形態に係るマイクロレンズ21の光軸25を傾斜させる態様を示す模式図である。図5中の上側の図(図5A)は、光軸25を傾斜させる前のマイクロレンズ21の表面形状(基準非球面形状)を示す。図5中の下側の図(図5B)は、光軸25を傾斜させた後のマイクロレンズ21の表面形状(傾斜非球面形状)を示す。なお、以下の説明では、マイクロレンズ21の表面26を「レンズ面26」と称し、マイクロレンズ21の表面形状(つまり、レンズ面26の曲面形状)を「レンズ表面形状」と称する場合もある。
【0068】
<4.1.傾斜した光軸とレンズ表面形状>
図5に示すように、本実施形態に係るマイクロレンズ21のレンズ面26の曲面形状(レンズ表面形状)は、例えば、楕円面、放物面または双曲面などの非球面形状を有する。図5では、レンズ面26の非球面形状が、光軸25の方向に縦長の楕円面(コーニック係数K>0)である例を示している。なお、楕円面は、回転楕円体の表面である回転楕円面を意味する。回転楕円体は、楕円をその長軸又は短軸を回転軸として得られる回転体である。K>0の場合の楕円面は、楕円の長軸を回転軸として得られる回転楕円体(つまり、長楕円体)の表面である。一方、-1<K<0の場合の楕円面は、楕円の短軸を回転軸として得られる回転楕円体(つまり、扁平楕円体)の表面である。いずれの場合も、回転楕円体の回転軸が、マイクロレンズ21の光軸25に一致する。
【0069】
図5Aに示すように、マイクロレンズ21の光軸25を傾斜させていない場合、マイクロレンズ21の光軸25は、拡散板1の基材10の表面(XY平面)に対する法線方向(Z方向)に延びる。つまり、光軸25はZ軸に重なっている。この場合、当該マイクロレンズ21の表面形状も、Z方向に対して傾斜していない基準非球面形状(図5A)となる。本実施形態に係る基準非球面形状は、例えば、XY平面に対する法線方向(Z方向)を中心として回転対称な非球面形状である。なお、基準非球面形状は、光軸25がZ方向に平行な非球面形状であれば、例えば、Z方向を中心として回転非対称な非球面形状であってもよい。レンズ表面形状が基準非球面形状である場合、マイクロレンズ21の頂点28は、光軸25およびZ軸上に位置する。なお、基準非球面形状(図5A)は、傾斜非球面形状(図5B)を設計するときの基準となるレンズ表面形状である。
【0070】
マイクロレンズ21の開口幅Dは、XY平面におけるマイクロレンズ21の開口部27の幅(レンズ径)である。開口幅Dは、X方向の開口幅Dxと、X方向の開口幅Dxで表される。また、マイクロレンズ21の曲率半径Rは、レンズ表面形状の頂部における曲率半径である。曲率半径Rは、X方向の曲率半径Rxと、Y方向の曲率半径Ryで表される。図5Aに示すように、レンズ表面形状が基準非球面形状であり、かつ、光軸25を中心に回転対称な形状である場合、Dx=Dy、Rx=Ryとなり、DxおよびDyは、基準開口幅Dkに等しくなり、RxおよびRyは、基準曲率半径Rkに等しくなる。
【0071】
一方、図5Bに示すように、本実施形態に係るマイクロレンズ21の光軸25は、拡散板1の基材10の表面(XY平面)に対する法線方向(Z方向)に対して、所定の傾斜角αで傾斜している。傾斜角αは、光軸25と法線方向(Z方向)とのなす角度である。また、光軸25の傾斜方向は、方位角βで表される。方位角βは、傾斜した光軸25をXY平面に投影した場合において、当該XY平面上に投影された光軸25と、X方向とのなす角度である。このような光軸25の傾斜に追従して、マイクロレンズ21のレンズ面26も、方位角βで表される傾斜方向に、傾斜角αで傾斜する。この結果、傾斜したマイクロレンズ21のレンズ表面形状は、基準非球面形状(図5A)を傾斜させた非球面形状、即ち、傾斜非球面形状(図5B)となる。
【0072】
図5Bに示すように、マイクロレンズ21の光軸25がZ方向に対して傾斜角αで傾斜している場合、当該マイクロレンズ21の表面形状も、方位角βで表される傾斜方向に、Z方向に対して傾斜角αで傾斜した傾斜非球面形状となる。この傾斜非球面形状(図5B)は、基準非球面形状の中心点30を中心に、基準非球面形状(図5A)を傾斜角αだけ回転させた形状である。かかる傾斜非球面形状は、傾斜角αで傾斜した光軸25を中心として回転対称な非球面形状である。
【0073】
なお、中心点30は、マイクロレンズ21の基準非球面形状を設計するときの原点(x,y,z)である。詳細には、マイクロレンズアレイ20の設計段階では、マイクロレンズ21の基準非球面形状の開口面を、円または楕円等に設計する。このとき、当該円の半径x(x=y)、または当該楕円の短径xと長径yが、設定した長さになるような開口面を、z=0のxy平面に設定する。このようなxyz空間における原点(x=0,y=0,z=0)が、基準非球面形状を設計するときの原点(x,y,z)であり、当該原点(x,y,z)は、上記の中心点30に相当する。なお、図5では、中心点30が、基材10の表面(XY平面)上にあるように図示されているが、中心点30は、XY平面上になくてもよい。
【0074】
上記の図5Aに示したように、レンズ表面形状が、傾斜していない基準非球面形状である場合、マイクロレンズ21の頂点28は、光軸25およびZ軸上に位置する。
【0075】
これに対し、図5Bに示すように、光軸25およびレンズ表面形状が傾斜すると、傾斜したマイクロレンズ21のレンズ面26の頂点29は、上記図5Aに示したレンズ面26の頂点28とは異なる位置に移動する。この頂点29は、傾斜非球面形状(図5B)のZ方向の最高点であり、傾斜角αだけ傾斜した光軸25からずれた位置に配置される。
【0076】
以上のように、本実施形態では、マイクロレンズ21の光軸25とレンズ表面形状を傾斜させ、マイクロレンズ21の頂点29を光軸25からずれた位置に移動させる。これにより、光軸25が傾斜したマイクロレンズ21に光を入射したとき、当該マイクロレンズ21を透過して出射される出射光(拡散光)を、入射光に対して偏向させることができる。偏向とは、出射光の主光線の方向を、入射光の主光線の方向に対して所望方向に屈曲させて、出射光(拡散光)の主な進行方向を所望方向に偏らせることを意味する。
【0077】
<4.2.出射光の偏向機能>
ここで、図6を参照して、本実施形態に係るマイクロレンズ21による出射光(拡散光)の偏向機能について、より詳細に説明する。図6は、本実施形態に係るマイクロレンズ21の偏向機能を示す模式図である。図6中の上側の図(図6A)は、光軸25が傾斜していないマイクロレンズ21による透過光の拡散機能を示す。図6中の下側の図(図6B)は、光軸25が傾斜したマイクロレンズ21による透過光の拡散機能および偏向機能を示す。
【0078】
図6に示すように、拡散板1に対する入射光40として、拡散板1の表面の法線方向(Z方向)に平行なコリメート光が入射される場合を考える。この場合、入射光40の入射角θinは、0°であり、入射光40の主光線41の方向はZ方向に平行である。拡散板1にコリメート光が入射されると、拡散板1を透過する光は、マイクロレンズ21によって拡散されるので、出射光50は拡散光となる。
【0079】
ここで、図6Aに示すように、マイクロレンズ21の光軸25が傾斜していない場合、マイクロレンズ21を透過する光は、マイクロレンズ21の光軸25の方向(Z方向)を中心として対称に拡散される。このため、出射光50は、Z方向を中心として対称に拡散する拡散光となる。この結果、出射光50の主光線51の出射角θoutは、0°となり、出射光50の主光線51の方向は、Z方向に平行になる。
【0080】
一方、図6Bに示すように、マイクロレンズ21の光軸25が傾斜角αで傾斜している場合、拡散板1から出射する出射光50の主光線51は、入射光40の主光線41に対して偏向する。詳細には、拡散板1を透過する光は、Z方向とは異なる偏向方向を中心としてほぼ対称に拡散される。この偏向方向は、入射光40の主光線41に対して出射光50の主光線51が屈曲した方向であり、偏向角γで表される。図6Bに示すように、入射光40が拡散板1に対してZ方向に入射する場合(θin=0°)、出射光50の主光線51の偏向方向は、マイクロレンズ21の光軸25の傾斜方向(図6Bの右方向)に対して反対方向(図6Bの左方向)となる。この偏向方向を表す偏向角γは、光軸25の傾斜角αと、マイクロレンズ21の傾斜非球面形状、頂点29の位置などによって定まる。偏向角γは、傾斜角αに応じて変化する。レンズ表面形状が同一であれば、傾斜角αが大きいほど、偏向角γも大きくなる。
【0081】
このように、マイクロレンズ21の光軸25が傾斜角αで傾斜している場合、出射光50の光束は、入射光40の光束に対して偏向方向(偏向角γで表される方向)に偏向され、当該偏向方向を中心としてほぼ対称に拡散する拡散光となる。この結果、出射光50の主光線51の出射角θoutはγ°になり、出射光50の主光線51の方向は、Z方向に対して偏向角γだけ傾斜した方向であって、光軸25の傾斜方向とは反対の方向となる。
【0082】
以上説明したように、本実施形態によれば、マイクロレンズアレイ20を構成する各マイクロレンズ21の光軸25が、拡散板1の基材10の表面(XY平面)の法線方向(Z方向)に対して傾斜している。さらに、各マイクロレンズ21のレンズ表面形状は、基準非球面形状(図5A図6A)を傾斜角αで同方向に回転させた傾斜非球面形状(図5B図6B)となっており、当該レンズ表面形状も、光軸25の傾斜に追従して傾斜している。これにより、入射光40の方向に対して出射光50の方向を、光軸25の傾斜方向とは反対方向に屈曲させて、出射光50を所望方向に偏向させることができる。したがって、本実施形態によれば、拡散板1が有する通常の屈折作用による屈折方向とは異なる方向にも、出射光50を偏向させることができる。
【0083】
なお、本実施形態に係る拡散板1に入射される入射光は、例えば、光学系によりコリメートされたコリメート光であってもよいし、1つの点光源から入射される拡散光であってもよいし、拡散板1に対して同一方向に配置された複数の光源から入射される拡散光またはコリメート光などであってもよい。本実施形態に係るマイクロレンズアレイ20は、これらの入射光を好適に偏向することが可能である。
【0084】
<4.3.傾斜角αの好ましい範囲>
また、本実施形態に係るマイクロレンズ21の光軸25の傾斜角αは、60°以下であることが好ましい。傾斜角αが60°超であると、マイクロレンズ21の表面形状が崩れてしまい、マイクロレンズ21が極端な異方性を有することになる。このため、過度に傾斜したマイクロレンズ21の成形が困難になり、マイクロレンズアレイ構造の実現性が低下する場合がある。また、出射光の偏向機能を明確に顕現させることが困難になったり、マイクロレンズ21の光学特性も低下したりする場合がある。したがって、マイクロレンズ21の成形性や、マイクロレンズアレイ構造の実現性、マイクロレンズ21による偏向機能の明確な顕現性、およびマイクロレンズ21の光学特性などを確保するためには、傾斜角αが60°以下であることが好ましい。
【0085】
さらに、傾斜角αは、45°以下であることがより好ましい。傾斜角αが45°超であると、傾斜したマイクロレンズ21の形状に依存して、拡散光のノイズが発生しやすくなる場合がある。このレンズ形状に依存したノイズは、例えば、0次回折光のノイズ、またはスペクトルノイズなどを含む。スペクトルノイズは、屈折散乱された異常光や、比較的周期性のあるピーク状の回折光からなるノイズであり、マイクロレンズアレイ20の形状の不連続性に起因した回折現象により発生する。したがって、マイクロレンズ21による拡散光のノイズの発生を低減するためには、傾斜角αが45°以下であることが好ましい。
【0086】
また、傾斜角αは、1°以上であることが好ましい。傾斜角αが1°未満であると、マイクロレンズ21の形成誤差や、偏向角の検出精度の限界などの原因により、偏向機能の実現が未確定となり、出射光の偏向機能が不十分となる場合がある。したがって、偏向機能を好適に実現するためには、傾斜角αが1°以上であることが好ましく、2°以上であることがより好ましい。
【0087】
<4.4.回転対称な非球面形状>
本実施形態に係るマイクロレンズ21の表面形状(レンズ表面形状)は、例えば図5に示したように、傾斜角αで傾斜した光軸25を中心として回転対称な非球面形状であることが好ましい。回転対称な非球面形状は、例えば、楕円面(-1<K<0、K>0)、放物面(K=-1)、または双曲面(K<-1)などである。なお、「K」は、コーニック係数であり、非球面形状を規定する式に用いられる。
【0088】
このように、本実施形態に係るレンズ表面形状は、傾斜した光軸25を中心として回転対称な傾斜非球面形状であることが好ましい。これにより、光軸25が傾斜したマイクロレンズ21を比較的に容易に設計、製造できるという利点がある。さらに、当該マイクロレンズ21により出射光50を所望方向に好適に偏向させることができ、偏向機能の精度と均一性を高めることができる。
【0089】
<4.5.非球面形状のコーニック係数K、アスペクト比>
さらに、本実施形態に係るマイクロレンズ21の非球面形状を、コーニック係数Kを用いた非球面レンズの式で表したとき、当該非球面レンズの式におけるコーニック係数Kは、0超であることが好ましい(K>0)。K>0であれば、レンズ表面形状は、光軸25の方向に縦長の楕円面となる。これにより、偏向機能と拡散制御の両立を行いやすいという効果がある。
【0090】
なお、マイクロレンズ21の非球面形状が、光軸25を中心として回転対称な非球面形状である場合、当該非球面形状を表す非球面レンズの式は、例えば、以下の式(0)を用いることができる。
【0091】
Z=(x/R)/{1+(1-(1+K)・x/R0.5}+A・x+A・x ・・・(0)
なお、式(0)において、各パラメータは以下のとおりである。
Z:Sag量
x:Z軸からの距離
R:曲率半径
K:コーニック係数
,A:4次、6次の非球面係数
【0092】
また、マイクロレンズ21の表面形状(即ち、上記の非球面形状)のアスペクト比kは、0.1以上、1.1以下であることが好ましく、0.2以上、0.6以下であることがより好ましい。これにより、拡散角の制御性と、マイクロレンズ21の構造形成の実現性を得やすいという効果がある。
【0093】
ここで、アスペクト比kは、複数のマイクロレンズ21の最大レンズ高さhMAXと、マイクロレンズ21の基準開口幅Dkとの比である(k=hMAX/Dk)。最大レンズ高さhMAXは、最大レンズ頂点高さh1と、最小境界点高さh2との差である(hMAX=h1-h2)。最大レンズ頂点高さh1は、図1に示す1つの単位セル3内に含まれる複数のマイクロレンズ21のうち、頂点の高さが最も高いマイクロレンズ21の頂点の高さである。最小境界点高さh2は、当該マイクロレンズ21の周囲の境界線のうち最も低い位置の高さである。
【0094】
<4.6.その他の非球面形状>
上述したように、本実施形態に係るマイクロレンズ21は、傾斜した光軸25を中心として回転対称な傾斜非球面形状であることが好ましい。この回転対称な傾斜非球面形状は、光軸25を中心として等方性を有する非球面形状である。しかし、マイクロレンズ21の表面形状は、かかる例に限定されず、例えば、傾斜角αで傾斜した光軸25を中心として回転対称でない非球面形状であってもよいし、異方性を有する非球面形状であってもよい。レンズ表面形状が、回転非対称な非球面形状や、異方性を有する非球面形状であっても、マイクロレンズ21の光軸25が傾斜していれば、当該傾斜した光軸25の作用により、出射光を所望方向に偏向させることは可能である。
【0095】
以下では、図7図11を参照して、マイクロレンズ21の表面形状が、光軸25に対して回転非対称であり、かつ、異方性を有する非球面形状である例について説明する。所定の方向に延伸した異方性を有する非球面形状として、例えば、アナモルフィック形状、または、トーラス形状などを用いることができる。
【0096】
(1)アナモルフィック形状
まず、図7図8を参照して、アナモルフィック形状のマイクロレンズ21について説明する。図7は、アナモルフィック形状のマイクロレンズ21の平面形状を示す説明図である。図8は、アナモルフィック形状のマイクロレンズ21の立体形状を示す斜視図である。
【0097】
図7および図8に示すマイクロレンズ21は、いわゆるアナモルフィックレンズであり、その表面形状は、アナモルフィック形状の曲面を含む非球面形状である。図7に示すように、当該マイクロレンズ21の平面形状は、異方性を有する楕円形状である。当該楕円形状のY軸方向の長径がDyであり、X軸方向の短径がDxである。これらDx、Dyは、マイクロレンズ21のX方向およびY方向の開口径に相当する。図8に示すように、当該マイクロレンズ21の表面形状は、楕円形状の長軸方向および短軸方向の各々に所定の曲率半径Rx、Ryを有する非球面形状の曲面からなる。かかるマイクロレンズ21は、Y軸方向に異方性を有する非球面形状となっている。
【0098】
ここで、図8および下記数式(1)を参照して、アナモルフィック形状のマイクロレンズ21の表面形状の設定方法について説明する。図8に示すアナモルフィック形状の曲面(非球面)は、下記数式(1)で表される。下記数式(1)は、アナモルフィック形状の曲面(非球面)を表す式の一例である。
【0099】
【数1】
【0100】
なお、数式(1)において、各パラメータは以下のとおりである。
Cx=1/Rx
Cy=1/Ry
Rx:X方向の曲率半径
Ry:Y方向の曲率半径
Kx:X方向のコーニック係数
Ky:Y方向のコーニック係数
x4,Ax6:X方向の4次、6次の非球面係数
y4,Ay6:Y方向の4次、6次の非球面係数
【0101】
図8に示すように、上記数式(1)で規定されるアナモルフィック形状の曲面から、XY平面上の楕円形状のX方向の短径がDxとなり、Y方向の長径がDyとなるように、曲面を切り出す。この切り出した一部の曲面形状を、マイクロレンズ21の表面形状(アナモルフィック形状)に設定する。ここで、楕円形状の長径Dy、短径Dx、Y方向(長軸方向)の曲率半径Ry、およびX方向(短軸方向)の曲率半径Rxを、マイクロレンズ21ごとに、所定の変動率δの範囲内でランダムに変動させて、ばらつかせる。これにより、相互に異なるアナモルフィック形状からなる複数のマイクロレンズ21の表面形状を設定できる。
【0102】
(2)トーラス形状
次に、図9図11を参照して、マイクロレンズ21の非球面形状の別の例(トーラス形状)について説明する。図9は、トーラス形状のマイクロレンズ21の平面形状を示す説明図である。図10は、トーラス形状のマイクロレンズ21の立体形状を示す斜視図である。図11は、トーラス形状の曲面を示す斜視図である。
【0103】
図9図11に示すように、マイクロレンズ21の表面形状は、トーラス形状の一部の曲面を含む非球面形状である。トーラスは、円を回転して得られる回転面である。具体的には、図11に示すように、小円(半径:r)の外側に配置された回転軸(X軸)を中心として、大円(半径:R)の円周に沿って当該小円を回転させることにより、いわゆるドーナツ型の円環体が得られる。この円環体の表面(トーラス面)の曲面形状がトーラス形状である。このトーラス形状の外側部分を切り出すことにより、図10に示すようなトーラス形状のマイクロレンズ21の立体形状が得られる。
【0104】
図9に示すように、トーラス形状のマイクロレンズ21の平面形状は、異方性を有する楕円形状である。当該楕円形状のY軸方向の長径がRであり、X軸方向の短径がrである。これらr、Rは、マイクロレンズ21のX方向およびY方向の開口幅Dx、Dyに相当する。図10に示すように、当該マイクロレンズ21の立体形状は、楕円形状の長軸方向および短軸方向の各々に所定の曲率半径R、rを有する非球面形状の曲面からなる。かかるマイクロレンズ21は、Y軸方向に異方性を有する非球面形状となっている。
【0105】
ここで、図11および下記数式(2)を参照して、トーラス形状のマイクロレンズ21の表面形状の設定方法について説明する。図11は、下記数式(2)で表される非球面の曲面を示す斜視図である。なお、数式(2)において、Rは大円半径であり、rは小円半径である。
【0106】
【数2】
【0107】
図11に示すように、上記数式(2)で規定されるトーラス形状の曲面から、XY平面上の楕円形状のX方向の短径がrとなり、Y方向の長径がRとなるように、曲面を切り出す。この切り出した一部の曲面形状を、マイクロレンズ21の曲面形状(トーラス形状)に設定する。ここで、楕円形状の長径Dy、短径Dx、Y方向(長軸方向)の曲率半径R(レンズの曲率半径Ryに相当。)、およびX方向(短軸方向)の曲率半径r(レンズの曲率半径Rxに相当。)を、マイクロレンズ21ごとに、所定の変動率δの範囲内でランダムに変動させて、ばらつかせる。これにより、相互に異なるトーラス形状からなる複数のマイクロレンズ21の表面形状を設定できる。
【0108】
上記のアナモルフィック形状およびトーラス形状などの非球面形状は、マイクロレンズ21の光軸25を中心として回転対称な形状ではない。しかし、当該非球面形状は、光軸25を含むXZ平面を基準としてY方向に対称な形状であり、かつ、光軸25を含むYZ平面を基準としてX方向に対称な形状である。マイクロレンズ21の表面形状は、このような対称性と異方性を有する非球面形状(例えば、アナモルフィック形状、トーラス形状)であってもよい。この場合でも、当該非球面形状を有するマイクロレンズ21の光軸25を傾斜させて、レンズ表面形状を当該傾斜方向に回転させて傾斜させれば、当該傾斜した光軸25とレンズ表面形状の作用により、出射光を所望方向に偏向させることができる。さらに、X方向とY方向で相互に異なる拡散特性を得ることができる。
【0109】
なお、異方性を有するマイクロレンズ21の非球面形状として、上記の例以外にも、例えば、楕円球体から切り出した非球面形状などを用いることもできる。
【0110】
<5.マイクロレンズアレイの具体例>
次に、図12図15を参照して、本実施形態に係る複数のマイクロレンズ21が基材10の表面上にランダムに配列されたマイクロレンズアレイ20の具体例について説明する。図12図15は、本実施形態に係る複数のマイクロレンズ21がランダムに配列されたマイクロレンズアレイ20の具体例を模式的に示す断面図と平面図である。
【0111】
(1)全ての傾斜角αおよび方位角βが同一の基準値である場合
まず、図12を参照して、複数のマイクロレンズ21の傾斜角αおよび方位角βを実質的に同一の基準値に固定する具体例について説明する。
【0112】
図12に示すように、マイクロレンズアレイ20を構成する複数のマイクロレンズ21について、Z方向に対する光軸25の傾斜角αは実質的に同一であり、かつ、光軸25の傾斜方向を表す方位角βも実質的に同一である。例えば、次の式(10)、(11)で示すように、全てのマイクロレンズ21の傾斜角αは、所定の基準傾斜角αkと実質的に同一であり、全てのマイクロレンズ21の方位角βは、基準方位角βkと実質的に同一である。なお、基準傾斜角αkは、傾斜角αの基準となる固定値であり、所望の偏向方向の傾斜度合いに対応する角度に設定される。基準方位角βkは、方位角βの基準となる固定値であり、所望の偏向方向の方位に対応する角度に設定される。図12の例では、基準傾斜角αkが15°であり(α=αk=15°)、基準方位角βkが45°である(β=βk=45°)。

α=αk ・・・(10)
β=βk ・・・(11)
【0113】
また、複数のマイクロレンズ21の表面形状は、次の式(12)で表される放物面である(光軸:Z軸)。各マイクロレンズ21の放物面の形状に対応する放物線(YZ平面)を規定する係数pは、所定の基準値pkを基準として、所定の変動率δpの範囲内でランダムに変動している。例えば、pk=5[μm]、δp=5[%]である場合、係数pは、次の式(13)で表される。

y=4×p×z ・・・(12)
(z=p×t2、y=2×p×t、t=cosθ)
p=pk[μm]±δp[%]=5[μm]±5[%] ・・・(13)
【0114】
このように各マイクロレンズ21の放物面の形状を変動させることにより、次の式(14)で示すように、マイクロレンズ21の曲率半径Rも、所定の基準曲率半径Rkを基準として、所定の変動率δRの範囲内でランダムに変動することとなる。この結果、複数のマイクロレンズ21間で、曲率半径Rが相互に異なる値となる。

R=Rk[μm]±δR[%] ・・・(14)
【0115】
また、各マイクロレンズ21の開口幅Dは、所定の基準開口幅Dkを基準として、所定の変動率δDの範囲内でランダムに変動している。例えば、Dk=20[μm]、δD=5[%]である場合、各マイクロレンズ21の開口幅Dは、次の式(15)で表される。

D=Dk[μm]±δD[%]=20[μm]±5[%] ・・・(15)
【0116】
以上のように、図12に示す例では、マイクロレンズアレイ20を構成する全てのマイクロレンズ21の光軸25は、実質的に同一の傾斜角αで、実質的に同一の傾斜方向(方位角β)に傾斜している。そして、全てのマイクロレンズ21の表面形状は、放物面であり、光軸25を中心として回転対称である。しかし、上記の係数pおよび開口幅Dが基準値pk、Dkを中心にランダムに変動しているので、個々のマイクロレンズ21の表面形状は、基準放物面の形状から変動している。したがって、複数のマイクロレンズ21の表面形状は、相互に異なる放物面となっている。
【0117】
かかる構成のマイクロレンズアレイ20により、複数のマイクロレンズ21から出射される出射光を、所定の傾斜角αに対応する実質的に同一の偏向角γで、所定の方位角βに対応する実質的に同一の偏向方向に偏向することができる。よって、マイクロレンズアレイ20全体として、実質的に同一の偏向角γで、実質的に同一の偏向方向に出射光を偏向できるので、出射光を所望方向に好適に偏向できる。また、各マイクロレンズ21の開口幅D、係数pを所定範囲内でランダムに変動させることにより、各マイクロレンズ21の表面形状が変動している。これにより、複数のマイクロレンズ21からの出射光の干渉や回折による拡散光の強度分布のむらを低減することもできる。
【0118】
(2)傾斜角αおよび方位角βが所定の基準値から微小変動している場合
次に、図13を参照して、複数のマイクロレンズ21の傾斜角αおよび方位角βを実質的に同一の基準値から微小な範囲内でランダムに変動させる具体例について説明する。なお、図13の断面図では、傾斜角αで傾斜した光軸25を実線の矢印で示し、基準傾斜角αkで傾斜した光軸25を二点鎖線の矢印で示してある。また、図13の平面図では、方位角βの方向に傾斜した光軸25を実線の矢印で示し、基準方位角βkの方向に傾斜した光軸25を二点鎖線の矢印で示してある。
【0119】
図13に示すように、マイクロレンズアレイ20を構成する複数のマイクロレンズ21について、Z方向に対する光軸25の傾斜角αは、所定の基準傾斜角αkを基準として微小変動しており、かつ、光軸25の傾斜方向を表す方位角βも、所定の基準方位角βkを基準として微小変動している。例えば、次の式(20)で示すように、全てのマイクロレンズ21の傾斜角αは、基準傾斜角αkを基準として、所定の微小な変動幅Δαの範囲内でランダムに変動している。また、次の式(21)で示すように、全てのマイクロレンズ21の方位角βは、基準方位角βkを基準として、所定の微小な変動幅Δβの範囲内でランダムに変動している。図13の例では、基準傾斜角αkが15°であり(αk=15°)、変動幅Δαが3°であり(Δα=3°)、基準方位角βkが45°であり(βk=45°)、変動幅Δβが5°である(Δβ=5°)。

α=αk±Δα ・・・(20)
β=βk±Δβ ・・・(21)
【0120】
また、複数のマイクロレンズ21の表面形状は、次の式(22)で表される双曲面である。各マイクロレンズ21の双曲面の形状に対応する双曲線(YZ平面)を規定する係数rz、ryの比pは、所定の基準値pkを基準として、所定の変動率δpの範囲内でランダムに変動している。例えば、pk=0[μm]、δp=5[%]である場合、係数rz、ryの比pは、次の式(23)で表される。

(z/rz)-(y/ry)=1 ・・・(22)
(z=rz×cosθ、y=ry×sinθ)
p=rz/ry
p=pk[μm]±δp[%]=±5[%] ・・・(23)
【0121】
このように各マイクロレンズ21の双曲面の形状を変動させることにより、次の式(24)で示すように、マイクロレンズ21の曲率半径Rも、所定の基準曲率半径Rkを基準として、所定の変動率δRの範囲内でランダムに変動することとなる。この結果、複数のマイクロレンズ21間で、曲率半径Rが相互に異なる値となる。

R=Rk[μm]±δR[%] ・・・(24)
【0122】
また、各マイクロレンズ21の開口幅Dは、所定の基準開口幅Dkを基準として、所定の変動率δDの範囲内でランダムに変動している。例えば、Dk=20[μm]、δD=5[%]である場合、各マイクロレンズ21の開口幅Dは、次の式(25)で表される。

D=Dk[μm]±δD[%]=20[μm]±5[%] ・・・(25)
【0123】
以上のように、図13に示す例では、マイクロレンズアレイ20を構成する複数のマイクロレンズ21の光軸25は、相互に異なる傾斜角αで、相互に異なる方向(方位角β)に傾斜している。この際、複数のマイクロレンズ21の光軸25の傾斜角αは、所定の基準傾斜角αkを基準として、所定の微小な変動範囲(例えば、微小な変動幅Δαの範囲内)でランダムに変動している。同様に、複数のマイクロレンズ21の光軸25の方位角βも、所定の基準方位角βkを基準として、所定の微小な変動範囲(例えば、所定の変動幅Δβの範囲内)でランダムに変動している。
【0124】
そして、全てのマイクロレンズ21の表面形状は、双曲面であり、光軸25を中心として回転対称である。しかし、上記の係数pおよび開口幅Dが基準値pk、Dkを中心にランダムに変動しているので、個々のマイクロレンズ21の表面形状は、基準双曲面の形状から変動している。したがって、複数のマイクロレンズ21の表面形状は、相互に異なる双曲面となっている。
【0125】
かかる構成のマイクロレンズアレイ20により、複数のマイクロレンズ21から出射される出射光を、所定の基準傾斜角αkに対応する概ね同様な偏向角γで、所定の基準方位角βkに対応する概ね同様な偏向方向に偏向することができる。よって、マイクロレンズアレイ20全体として、概ね同様な偏向角γで、概ね同様な偏向方向に出射光を偏向できるので、出射光を所望方向に好適に偏向できる。さらに、各マイクロレンズ21の開口幅D、係数pだけでなく、傾斜角αおよび方位角βも所定の変動範囲内で変動しているので、複数のマイクロレンズ21からの出射光の干渉や回折による拡散光の強度分布のむらを、一層低減することもできる。
【0126】
(3)傾斜角αおよび方位角βがランダムに変動している場合
次に、図14を参照して、複数のマイクロレンズ21の傾斜角αおよび方位角βをランダムに変動させ、相互に異なる変動値に設定する具体例について説明する。
【0127】
図14に示すように、マイクロレンズアレイ20を構成する複数のマイクロレンズ21について、Z方向に対する光軸25の傾斜角αは、所定の基準傾斜角αkを基準としてランダムに変動しており、かつ、光軸25の傾斜方向を表す方位角βは、ランダムに変動している。例えば、次の式(30)で示すように、全てのマイクロレンズ21の傾斜角αは、基準傾斜角αkを基準として、所定の変動幅Δαの範囲内でランダムに変動している。また、次の式(31)で示すように、全てのマイクロレンズ21の方位角βは、比較的広い変動範囲でランダムに変動している。図14の例では、基準傾斜角αkが0°であり(αk=0°)、変動幅Δαが20°であり(Δα=20°)、方位角βの変動範囲は、0°~360°の範囲でランダムである。

α=αk±Δα ・・・(30)
β=0°~360° ・・・(31)
【0128】
また、複数のマイクロレンズ21の表面形状は、次の式(32)で表される楕円面である。各マイクロレンズ21の楕円面の形状に対応する楕円(YZ平面)を規定する係数rz、ryの比pは、所定の基準値pkを基準として、所定の変動率δpの範囲内でランダムに変動している。例えば、pk=0[μm]、δp=5[%]である場合、係数rz、ryの比pは、次の式(33)で表される。

(z/rz)+(y/ry)=1 ・・・(32)
(z=rz×cosθ、y=ry×sinθ)
p=rz/ry
p=pk[μm]±δp[%]=±5[%] ・・・(33)
【0129】
このように各マイクロレンズ21の楕円面の形状を変動させることにより、次の式(34)で示すように、マイクロレンズ21の曲率半径Rも、所定の基準曲率半径Rkを基準として、所定の変動率δRの範囲内でランダムに変動することとなる。この結果、複数のマイクロレンズ21間で、曲率半径Rが相互に異なる値となる。

R=Rk[μm]±δR[%] ・・・(34)
【0130】
また、各マイクロレンズ21の開口幅Dは、所定の基準開口幅Dkを基準として、所定の変動率δDの範囲内でランダムに変動している。例えば、Dk=10[μm]、δD=5[%]である場合、各マイクロレンズ21の開口幅Dは、次の式(35)で表される。

D=Dk[μm]±δD[%]=10[μm]±5[%] ・・・(35)
【0131】
以上のように、図14に示す例では、マイクロレンズアレイ20を構成する複数のマイクロレンズ21の光軸25は、相互に異なる傾斜角αで、相互に異なる方向(方位角β)に傾斜している。この際、複数のマイクロレンズ21の光軸25の傾斜角αは、所定の基準傾斜角αkを基準として、所定の変動範囲(例えば、比較的広い変動幅Δαの範囲内)でランダムに変動している。同様に、複数のマイクロレンズ21の光軸25の方位角βも、相互に異なり、当該方位角βは、所定の変動範囲(例えば、比較的広い変動幅Δβの範囲内)でランダムに変動している。
【0132】
そして、全てのマイクロレンズ21の表面形状は、楕円面であり、光軸25を中心として回転対称である。しかし、上記の係数pおよび開口幅Dが基準値pk、Dkを中心にランダムに変動しているので、個々のマイクロレンズ21の表面形状は、基準楕円面の形状から変動している。したがって、複数のマイクロレンズ21の表面形状は、相互に異なる楕円面となっている。
【0133】
かかる構成のマイクロレンズアレイ20により、各マイクロレンズ21から出射される出射光を、各光軸25の傾斜角αにそれぞれ対応する偏向角γで、各光軸25の方位角βにそれぞれ対応する偏向方向に偏向することができる。よって、マイクロレンズアレイ20全体として、所望の角度を中心としたランダムな偏向角γで、ランダムな方向に出射光を偏向できる。よって、出射光の偏向方向や偏向角γをばらつかせることができるので、出射光の均質性を向上できる。さらに、各マイクロレンズ21の開口幅D、係数pが所定の変動範囲で変動しているだけでなく、傾斜角αおよび方位角βも比較的広い変動範囲で大きく変動しているので、複数のマイクロレンズ21からの出射光の干渉や回折による拡散光の強度分布のむらを、より一層低減することもできる。
【0134】
(4)反射特性の面内分布
次に、図15を参照して、複数のマイクロレンズ21の傾斜角αおよび方位角βをランダムに変動させたときの反射特性の面内分布の具体例について説明する。
【0135】
図15に示すように、マイクロレンズアレイ20を構成する複数のマイクロレンズ21について、Z方向に対する光軸25の傾斜角αは、所定の基準傾斜角αkを基準としてランダムに変動しており、かつ、光軸25の傾斜方向を表す方位角βは、ランダムに変動している。例えば、次の式(40)で示すように、全てのマイクロレンズ21の傾斜角αは、基準傾斜角αkを基準として、所定の変動幅Δαの範囲内でランダムに変動している。また、次の式(41)で示すように、全てのマイクロレンズ21の方位角βは、比較的広い変動範囲でランダムに変動している。図15の例では、基準傾斜角αkが0°であり(αk=0°)、変動幅Δαが20°であり(Δα=20°)、方位角βの変動範囲は、0°~360°の範囲でランダムである。

α=αk±Δα ・・・(40)
β=0°~360° ・・・(41)
【0136】
また、複数のマイクロレンズ21の表面形状は、次の式(42)で表される非球面である。
【0137】
z=C×r/(1+(1-(1+K)×C×r0.5)+A×r+A×r ・・・(42)

なお、式(42)において、各パラメータは以下のとおりである。
C:曲率(C=1/R)
R:曲率半径
r:Z軸からの距離
K:コーニック係数(例えば、K=-2)
:4次の非球面係数(例えば、A=2E-5)
:6次の非球面係数(例えば、A=2E-7)
【0138】
かかる非球面において、各マイクロレンズ21の曲率半径Rは、所定の基準曲率半径Rkを基準として、所定の変動率δRの範囲内でランダムに変動している。例えば、Rk=15[μm]、δR=5[%]である場合、各マイクロレンズ21の曲率半径Rは、次の式(44)で表される。

R=Rk[μm]±δR[%]=15[μm]±5[%] ・・・(44)
【0139】
また、各マイクロレンズ21の開口幅Dは、所定の基準開口幅Dkを基準として、所定の変動率δDの範囲内でランダムに変動している。例えば、Dk=30[μm]、δD=5[%]である場合、各マイクロレンズ21の開口幅Dは、次の式(45)で表される。

D=Dk[μm]±δD[%]=30[μm]±5[%] ・・・(45)
【0140】
以上のように、図15に示す例では、マイクロレンズアレイ20を構成する複数のマイクロレンズ21の光軸25は、相互に異なる傾斜角αで、相互に異なる方向(方位角β)に傾斜している。そして、全てのマイクロレンズ21の表面形状は、上記式(42)で表される非球面であり、光軸25を中心として回転対称である。しかし、上記の曲率半径Rおよび開口幅Dがそれぞれ、基準曲率半径Rk、基準開口幅Dkを中心にランダムに変動しているので、個々のマイクロレンズ21の表面形状は、基準非球面形状から変動している。したがって、複数のマイクロレンズ21の表面形状は、相互に異なる非球面形状となっている。
【0141】
かかる構成のマイクロレンズアレイ20により、各マイクロレンズ21から出射される出射光を、各光軸25の傾斜角αにそれぞれ対応する偏向角γで、各光軸25の方位角βにそれぞれ対応する偏向方向に偏向することができる。よって、図15に示すように、光源60から拡散板1に光を入手したとき、拡散板1における反射光の反射方位は、各マイクロレンズ21の光軸25の傾斜角αおよび方位角βに応じて、多様に変化する。よって、よりいっそう均一性の高い反射拡散光を実現できるという効果がある。
【0142】
<6.マイクロレンズの設計方法>
次に、図16図21を参照して、本実施形態に係るマイクロレンズの設計方法について説明する。図16は、本実施形態に係るマイクロレンズの設計方法を示すフローチャートである。
【0143】
(S10)レンズ中心座標の設定
図16に示すように、まず、マイクロレンズアレイ20の表面上(XY平面上)において、各マイクロレンズ21のレンズ中心座標pnを設定する。レンズ中心座標pnは、各マイクロレンズ21の中心点30(図5参照。)のXY平面上の座標である。レンズ中心座標pnを設定するとき、XY平面上における複数のレンズ中心座標pn同士の間隔が、予め設定した範囲内に分布するように、複数のレンズ中心座標pnがランダムな位置に設定されることが好ましい。
【0144】
具体的には、図17に示すように、予めサイズが設定されたマイクロレンズアレイ20の単位セル3のXY平面上に、複数のレンズ中心座標pn(xpn,ypn)を設定する。なお、nは、マイクロレンズ21の設置数である(n=1,2,3,・・・)。複数のレンズ中心座標pn同士の間隔が、予め設定された範囲となるように、XY平面上に複数のレンズ中心座標pn(xpn,ypn)が配置される。
【0145】
さらに、必要に応じて、図18に示すように、相互に隣接するマイクロレンズ21、21同士の重なり量Ovの調整処理を行ってもよい。この調整処理により、XY平面上において、相互に隣接するマイクロレンズ21、21同士の重なり量Ovが、予め設定された所定の許容範囲(例えば、所定の所定値以下)になるように、レンズ中心座標pnを調整して、複数のマイクロレンズ21のレンズ中心座標pnがランダムに配置される。
【0146】
詳細には、図18に示すように、まず、新たに配置されるマイクロレンズ21のレンズ中心座標pnのx座標とy座標、レンズ半径rを乱数で決定する。次いで、既に配置されている各マイクロレンズ21の平面形状と、新たに配置されるマイクロレンズ21の平面形状との重なり量Ovを計算する。重なり量Ovは、相互に隣接する2つのマイクロレンズ21、21の平面形状の重なり幅であり、以下の式(50)で計算することができる。
【0147】
Ov=ri+rj-((xi-xj)+(yi-yj)0.5 ・・・(50)

なお、式(50)において、各パラメータは以下のとおりである。
Ov:相互に隣接するマイクロレンズ21、21の重なり量
xi,yi:一方のマイクロレンズ21のレンズ中心座標pi
ri:一方のマイクロレンズ21の半径
xj,yj:他方のマイクロレンズ21のレンズ中心座標pj
rj:他方のマイクロレンズ21の半径
【0148】
このようにして、XY平面上に新たなマイクロレンズ21を配置するとき、既に配置されているマイクロレンズ21との重なり量Ovを計算し、重なり量Ovが、予め設定された許容範囲内であれば、新たなマイクロレンズ21を配置するようにする。逆に、計算した重なり量Ovが許容範囲外である場合(例えば、許容範囲の上限値を超える場合、または、許容範囲の下限値未満である場合)には、新たなマイクロレンズ21を配置しないようにする。許容範囲は、マイクロレンズアレイ20に要求される光学特性等に応じて、予め求めておくことが好ましい。
【0149】
以上のようにして、図18に示すように、XY平面上にマイクロレンズ21のレンズ中心座標pnをランダムに配置しつつ、重なり量Ovを許容範囲内に調整してもよい。これにより、XY平面上において、複数のマイクロレンズ21を適切な重なり量Ovで相互に重なり合わせつつ、各マイクロレンズ21をランダムな位置に配置できる。したがって、隣接するマイクロレンズ21、21間において、レンズ面にならない平坦部の発生を抑制できるので、拡散板1の平坦部を透過する0次回折光の発生を抑制できる。また、複数のマイクロレンズ21から出射される拡散光の干渉や回折による拡散光の強度分布のむらを低減できる。さらに、マイクロレンズ21、21同士が過度に重なり合っていないので、マイクロレンズアレイ構造の成形性や実現性を損なうこともない。
【0150】
(S12)レンズパラメータの設定
次いで、図16に示すように、各マイクロレンズ21のレンズパラメータを設定する。レンズパラメータは、マイクロレンズ21の表面形状(レンズ表面形状)を決定するパラメータである。レンズパラメータは、予め設定された変動範囲内でランダムに設定されることが好ましい。
【0151】
レンズ表面形状が、光軸25を中心として回転対称な基準非球面形状、例えば、楕円面(光軸25の方向を回転軸とする回転楕円体の表面)、放物面、双曲面などである場合(図18参照。)、レンズパラメータは、例えば、マイクロレンズ21の開口幅D(レンズ径)、マイクロレンズ21の頂部の曲率半径R、傾斜角α、方位角βなどを含む。
【0152】
複数のマイクロレンズ21の開口幅Dおよび曲率半径Rが相互に異なるように、各マイクロレンズ21の開口幅Dおよび曲率半径Rは、ランダムに変動した値に設定されてもよい。このとき、開口幅Dは、所定の基準開口幅Dkを基準として、所定の変動率δDの範囲内でランダムに変動した値に設定されてもよい(D=Dk±δD%)。同様に、各マイクロレンズ21の曲率半径Rは、所定の基準曲率半径Rkを基準として、所定の変動率δRの範囲内でランダムに変動した値に設定されてもよい(R=Rk±δR%)。このようにレンズパラメータである開口幅Dおよび曲率半径Rを変動させることにより、複数のマイクロレンズ21のレンズ表面形状(回転対称な基準非球面形状)を変動させて、相互に異なる非球面形状に設定することができる。
【0153】
一方、図19に示すように、レンズ表面形状が、光軸25を中心として回転非対称であり、異方性を有する非球面形状、例えば、アナモルフィック形状、トーラス形状などである場合、レンズパラメータは、当該非球面形状を規定する関数(z=f(d))に用いられるパラメータであってもよい。この場合、レンズ表面形状の高さ方向の値zは、XY平面上におけるレンズ中心座標pnからの距離dの関数(z=f(d))で表される。距離dは、XY平面上におけるレンズ中心座標pnからのX方向の距離dxと、Y方向の距離dyとを含んでもよい。この距離dx、dyを用いた関数により、レンズ表面形状の高さ方向の位置zを決定することができる(z=f(dx、dy))。このようなレンズ表面形状を表す関数(z=f(d))に含まれるパラメータをランダムに変動させることにより、複数のマイクロレンズ21のレンズ表面形状(回転非対称な非球面形状)を変動させて、相互に異なる非球面形状に設定することができる。
【0154】
なお、レンズ表面形状が、光軸25を中心として回転対称な基準非球面形状(例えば、楕円面、放物面、双曲面など)である場合、マイクロレンズ21の平面形状は、例えば、図18に示すように円となる。一方、レンズ表面形状が、光軸25を中心として回転非対称な基準非球面形状(例えば、アナモルフィック形状、トーラス形状)である場合、マイクロレンズ21の平面形状は、例えば、図19に示すように楕円もしくは楕円に近似した形状となる。
【0155】
(S14)レンズ表面形状の決定
次いで、上記S12で設定されたレンズパラメータに基づいて、各マイクロレンズ21のレンズ表面形状を決定する。具体的には、図20に示すように、上記設定されたレンズパラメータに基づいて、各マイクロレンズ21の表面形状を表すZ座標位置を計算して、マイクロレンズ21のレンズ表面形状を設定する。そして、設定されたレンズ表面形状のXY平面上におけるサイズ(例えば、開口幅D)が、上記S12で設定されたパラメータのサイズ(例えば、上記S12で設定された開口幅D)に合うように、設定されたレンズ表面形状のZ方向の高さ位置を調整する。そして、当該高さ位置を調整した後のレンズ表面形状のXY平面による水平断面を、z=0の位置の断面とする。
【0156】
(S16)レンズ傾斜処理
次いで、図21に示すように、各マイクロレンズ21の光軸25を、Z方向に対して傾斜角αで傾斜させる。この光軸25の傾斜方向は、上記方位角β(図5参照。)で規定される方向である。さらに、当該光軸25の傾斜に合わせて、上記S14で決定されたレンズ表面形状(基準非球面形状)を、各マイクロレンズ21の中心点30を回転中心として回転させる。このときの回転角は、傾斜角αと同一であり、回転方向は、上記方位角β(図5参照。)の方向である。また、回転中心となる中心点30は、上記S12、S14でマイクロレンズ21の基準非球面形状を設計するときの原点(x,y,z)である。
【0157】
かかる回転処理により、図21に示すように、レンズ表面形状が、Z方向に対して傾斜角αで傾斜して、基準非球面形状から傾斜非球面形状に変化する。また、マイクロレンズ21の頂点は、回転前の頂点28から、新たな頂点29に移動する。この新たな頂点29は、基準非球面形状を傾斜角αだけ回転させた傾斜非球面形状の頂点であり、傾斜角αだけ傾斜した光軸25からずれた位置に配置される。
【0158】
以上のように、本実施形態に係るマイクロレンズ21の設計方法によれば、マイクロレンズ21の光軸25を傾斜させ、レンズ表面形状を回転させる。これにより、図6に示したように、マイクロレンズ21に入射する入射光40の主光線41に対して、出射光50の主光線51を所望方向に屈曲させ、入射光40の光束に対して出射光50の光束を所望方向に偏向させることができる。
【0159】
さらに、本実施形態に係るマイクロレンズ21の設計方法によれば、レンズ表面形状を規定するパラメータ(例えば、開口幅D、曲率半径R等)をランダムに変動させる。さらに、複数のマイクロレンズ21は、相互に隙間なく重なり合うように配置され、相隣接するマイクロレンズ21間の境界部分に平坦部が存在しないことが好ましい。これにより、XY平面上に複数のマイクロレンズアレイ20を、相互に隙間なく連続的に配列しつつ、各マイクロレンズ21に対して相互に異なる拡散特性を付与することができる。かかる構成のマイクロレンズアレイ20は、レンズ表面構造に依存するマクロ光量変動や、回折光による光量変化が小さく、均質性の高い多様な配光制御性を有する。
【0160】
<7.マイクロレンズの製造方法>
次に、図22を参照して、本実施形態に係る拡散板1の製造方法について説明する。図22は、本実施形態に係る拡散板1の製造方法を示すフローチャートである。
【0161】
図22に示すように、本実施形態に係る拡散板1の製造方法では、まず、基材(マスタ原盤の基材または拡散板1の基材10)が洗浄される(ステップS101)。基材は、例えば、ガラスロールのようなロール状の基材であってもよいし、ガラスウェハまたはシリコンウェハのような平板状の基材であってもよい。
【0162】
次いで、洗浄後の基材の表面上にレジストが形成される(ステップS103)。例えば、金属酸化物を用いたレジストにより、レジスト層を形成することができる。具体的には、ロール状の基材に対しては、レジストをスプレイ塗布またはディッピング処理することにより、レジスト層を形成することができる。一方、平板状の基材に対しては、レジストを各種コーティング処理することにより、レジスト層を形成することができる。なお、レジストとしては、ポジ型光反応レジストを用いてもよいし、ネガ型光反応レジストを用いてもよい。また、基材とレジストとの密着性を高めるために、カップリング剤を使用してもよい。
【0163】
さらに、マイクロレンズアレイ20の形状に対応するパターンを用いて、レジスト層が露光される(ステップS105)。かかる露光処理は、例えば、グレイスケールマスクを用いた露光、複数のグレイスケールマスクの重ね合わせによる多重露光、または、ピコ秒パルスレーザもしくはフェムト秒パルスレーザ等を用いたレーザ露光など、公知の露光方法を適宜適用すればよい。
【0164】
その後、露光後のレジスト層が現像される(S107)。かかる現像処理により、レジスト層にパターンが形成される。レジスト層の材質に応じて適切な現像液を用いることで、現像処理を実行することができる。例えば、レジスト層が金属酸化物を用いたレジストで形成されている場合、無機または有機アルカリ溶液を用いることで、レジスト層をアルカリ現像することができる。
【0165】
次いで、現像後のレジスト層を用いてスパッタ処理またはエッチング処理することにより(S109)、表面にマイクロレンズアレイ20の形状が形成されたマスタ原盤が完成する(S111)。具体的には、パターンが形成されたレジスト層をマスクとして、ガラス基材をガラスエッチングすることで、ガラスマスタを製造することができる。または、パターンが形成されたレジスト層にNiスパッタまたはニッケルめっき(NED処理)を行い、パターンが転写されたニッケル層を形成した後、基材を剥離することで、メタルマスタを製造することができる。例えば、膜厚50nm程度のNiスパッタ、または膜厚100μm~200μmのニッケルめっき(例えば、スルファミン酸Ni浴)等によって、レジストのパターンが転写されたニッケル層を形成することで、メタルマスタ原盤を製造することができる。
【0166】
さらに、上記S111で完成したマスタ原盤(例えば、ガラスマスタ原盤、メタルマスタ原盤)を用いて、樹脂フィルム等にパターンを転写(インプリント)することで、表面にマイクロレンズアレイ20の反転形状が形成されたソフトモールドが作成される(S113)。
【0167】
その後、ソフトモールドを用いて、ガラス基材またはフィルム基材等に対して、マイクロレンズアレイ20のパターンを転写し(S115)、さらに、必要に応じて保護膜、反射防止膜等を成膜することにより(S117)、本実施形態に係る拡散板1が製造される。
【0168】
なお、上記では、マスタ原盤(S111)を用いてソフトモールドを製造(S113)した後に、当該ソフトモールドを用いた転写により拡散板1を製造(S115)する例について説明した。しかし、かかる例に限定されず、マイクロレンズアレイ20の反転形状が形成されたマスタ原盤(例えば無機ガラス原盤)を製造し、当該マスタ原盤を用いたインプリントにより拡散板1を製造してもよい。例えば、PET(PolyEthylene Terephthalate)またはPC(PolyCarbonate)からなる基材に、アクリル系光硬化樹脂を塗布し、塗布したアクリル系光硬化樹脂にマスタ原盤のパターンを転写し、アクリル系光硬化樹脂をUV硬化させることで、拡散板1を製造することができる。
【0169】
一方、ガラス基材自体に対して直接加工を施して、拡散板1を製造する場合には、ステップS107における現像処理に引き続き、CF等の公知の化合物を用いて基材10に対してドライエッチング処理を施し(S119)、その後、必要に応じて保護膜、反射防止膜等を成膜する(S121)ことにより、本実施形態に係る拡散板1が製造される。
【0170】
なお、図22に示した製造方法は、あくまでも一例であって、拡散板の製造方法は、上記の例に限定されない。
【0171】
<8.拡散板の適用例>
次に、本実施形態に係る拡散板1の適用例について説明する。
【0172】
以上説明したような拡散板1は、その機能を実現するために光を拡散させる必要がある各種の装置に対して、適宜実装することが可能である。かかる装置としては、例えば、各種のディスプレイ(例えば、LED、有機ELディスプレイ)等の表示装置や、プロジェクタ等の投影装置、各種の照明装置を挙げることができる。
【0173】
例えば、拡散板1は、液晶表示装置のバックライト、拡散板一体化レンズ等に適用することも可能であり、光整形の用途にも適用可能である。また、拡散板1は、投影装置の透過スクリーン、フレネルレンズ、反射スクリーン等にも適用可能である。また、拡散板1は、スポット照明やベース照明等に利用される各種の照明装置や、各種の特殊ライティングや、中間スクリーンや最終スクリーン等の各種のスクリーン等に適用することも可能である。さらに、拡散板1は、光学装置における光源光の拡散制御などの用途にも適用可能であり、LED光源装置の配光制御、レーザ光源装置の配光制御、各種ライトバルブ系への入射配光制御等にも適用できる。
【0174】
なお、拡散板1が適用される装置は、上記の適用例に限定されず、光の拡散を利用する装置であれば、任意の公知の装置に対しても適用可能である。例えば、本実施形態に係る拡散板1は、各種の照明光学系、画像の投影光学系、または計測検出センシング光学系などの光学機器に搭載することができる。
【0175】
<9.まとめ>
以上、本実施形態に係るマイクロレンズアレイ20を備えた拡散板1について説明した。本実施形態によれば、非球面形状を有するマイクロレンズ21の光軸25は、拡散板1の基材10の法線方向(Z方向)に対して、0°超の傾斜角αで傾斜している。そして、当該光軸25の傾斜に合わせて、マイクロレンズ21の非球面形状も、マイクロレンズ21の中心点30を中心に傾斜角αだけ回転しており、傾斜非球面形状となっている。
【0176】
さらに、各マイクロレンズ21は、基材10の表面(XY平面)上において、ランダムな位置に配置されている。
【0177】
また、各マイクロレンズ21の非球面形状を決定するレンズパラメータ(例えば、開口幅D、曲率半径R)は、所定の基準値(例えば、基準開口幅Dk、基準曲率半径Rk)を基準として、所定の変動率(例えば、変動率δD、δR)でランダムに変動している。これにより、各マイクロレンズ21の非球面形状は、基準非球面形状を基準として変動しており、複数のマイクロレンズ21の非球面形状は、相互に異なる形状となっている。
【0178】
本実施形態に係るマイクロレンズアレイ20は、上記のように光軸25が傾斜した傾斜非球面形状を有するマイクロレンズ21を最小構造単位としている。そして、相互に傾斜非球面形状が異なる複数のマイクロレンズ21が、マイクロレンズアレイ20の面内に、緻密かつランダムに配置されている。
【0179】
かかる構成のマイクロレンズアレイ20により、拡散板1を透過して出射される出射光50(拡散光)の主光線51を所望方向に屈曲させ、当該出射光50(拡散光)の光束を入射光40に対して所望方向に偏向することができる。
【0180】
この点、従来の一般的な拡散板においては、マクロ的な全体の透過光軸は、拡散板の透過屈折の作用によって決定されていた。これに対し、本実施形態に係る拡散板1によれば、マイクロレンズ21の光軸25自体を傾斜角αで傾斜させて、非球面形状を回転させることにより、出射光50の光束を、通常の透過屈折の作用とは異なる方向に偏向させることが可能である。この偏向作用によって、拡散板1に対する入射光40や出射光50の光軸方向の設計自由度を拡張できるとともに、拡散板1が搭載される光学機器システムの小型化や、視認性などの光学機能の最適化を図ることができる。
【0181】
また、本実施形態に係るマイクロレンズ21は、その光軸25を中心として回転対称な形状、つまり、光軸25周りに等方的な非球面形状であってもよい。これにより、出射光の偏向機能を実現するための傾斜非球面形状を有するマイクロレンズ21を容易に設計、成形、製造することができる。しかし、かかる例に限定されず、マイクロレンズ21は、その光軸25を中心として回転非対称な形状、つまり、特定方向の異方性を有する非球面形状であってもよいし、方位によってレンズ表面形状が変化する非球面形状であってもよい。
【0182】
また、各マイクロレンズ21の傾斜角αや方位角βは、所定の基準傾斜角αk、基準方位角βkを基準として、所定の変動幅Δα、Δβでランダムに変動していてもよい。つまり、複数のマイクロレンズ21の傾斜角αや方位角βは、相互に同一でなくてもよく、所定の微小な変動幅Δα、Δβの範囲内でランダムに変動していてもよい。これにより、マイクロレンズアレイ20全体としては、概ね同様な偏向方向と偏向角γで出射光を偏向しつつ、個々のマイクロレンズ21の偏向機能に、ある程度のばらつきを付与することができる。よって、偏向された出射光50の光束において、回折光に起因するノイズを抑制して、出射光50の光束の強度分布のむらを抑制でき、出射光50の光束の均質性を向上できる。
【0183】
また、複数のマイクロレンズ21による出射光50の偏向方向は、マイクロレンズアレイ20全体で同一方向であってもよいし、マイクロレンズ21の領域ごとに異なる方向であってもよい。同様に、複数のマイクロレンズ21による出射光50の偏向角γも、マイクロレンズアレイ20全体で同一の角度であってもよいし、マイクロレンズ21の領域ごとに異なる角度であってもよい。
【0184】
偏向方向および偏向角γが同一であれば、マイクロレンズアレイ20全体として、出射光50の光束を、同一の偏向方向に、同一の偏向角γで偏向することができる。一方、マイクロレンズアレイ20の領域ごとに、偏向方向および偏向角γが異なる場合には、マイクロレンズアレイ20の各領域により、出射光50の光束を、異なる偏向方向および偏向角γで偏向することができる。このように、マイクロレンズアレイ20の同一の面内に、偏向方向や偏向角γが相互に異なる複数の領域が含まれており、領域ごとに偏向方向や偏向角γが変化していれば、1つのマイクロレンズアレイ20により多様な偏向態様で出射光を偏向することができる。これにより、例えば、広範囲の拡散光の光束を効率的に利用したり、光学投影系における主光線の制御により、投影画像の視認性を向上したりすることが可能となる。
【0185】
また、本実施形態に係る傾斜非球面形状を有するマイクロレンズ21を備えた拡散板1は、例えば、当該マイクロレンズ21の凹凸構造を備えた原盤を用いたインプリント加工等により、製造することができる。当該原盤は、レーザ光または制御された光源による高精細な精度の描画露光またはステッパ露光と、エッチングなどのフォトリソグラフィー技術とによって製造することができる。例えば、原盤は、リソグラフィーにより成形された構造面を電鋳により転写して製造することも可能であり、ガラスエッチングによる無機デバイスとして製造することも可能である。あるいは、当該原盤は、精密機械加工技術によって製造することもできる。
【0186】
本実施形態に係る拡散板1の製品は、例えば、ガラスエッチングによる無機デバイスとして提供されてもよい。また、拡散板1は、例えば、原盤から複製される有機インプリントフィルムとして提供されてもよい。このように、拡散板1の製品は、転写フィルム品、または部材面転写品として提供することができる。拡散板1の転写品を製造する際、平板原盤またはロール状原盤を使用して、射出成形、溶融転写、もしくはフォトポリマリゼーション法のUVレジン転写などを利用できる。
【実施例0187】
次に、本発明の実施例に係る拡散板について説明する。なお、以下の実施例は、あくまでも本発明に係る拡散板の効果や実施可能性を示すための一例にすぎず、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0188】
マイクロレンズアレイの表面構造を変更しつつ、以下で説明する設計条件により、実施例および比較例に係る拡散板を設計した。
【0189】
実施例および比較例とも、各マイクロレンズの表面は、コーニック係数Kを用いた非球面の式で表される非球面形状とした。この際、コーニック係数Kを正の値とし(K>0)、各マイクロレンズの非球面形状を、Z方向に凸となる縦長の楕円面とした。各マイクロレンズの開口幅Dは、所定の基準開口幅Dkを基準として、所定の変動率δDの範囲内でランダムに変動させた。同様に、各マイクロレンズの曲率半径Rは、所定の基準曲率半径Rkを基準として、所定の変動率δRの範囲内でランダムに変動させた。
【0190】
かかる非球面形状を有する複数のマイクロレンズを基材のXY平面上に、緻密かつランダムに配置して、実施例および比較例に係るマイクロレンズアレイを設計した。このマイクロレンズアレイに対して、入射光として、法線方向(Z方向)のコリメート光を入射したときの、マイクロレンズアレイによる拡散配光の状態をシミュレーションした。
【0191】
また、以下で説明する製造方法により、実施例および比較例に係る拡散板を実際に製造した。
【0192】
具体的には、まず、ガラス基材を洗浄した後、ガラス基材の一方の表面(主面)に、光反応レジストを5μm~20μmのレジスト厚で塗布した。光反応レジストとしては、例えば、PMER-LA900(東京応化工業社製)、またはAZ4620(登録商標)(AZエレクトロニックマテリアルズ社製)などのポジ型光反応レジストを用いた。
【0193】
次に、波長405nmのレーザを用いるレーザ描画装置にて、ガラス基材上のレジストにパターンを描画して、レジスト層を露光した。なお、g線を用いたステッパ露光装置にて、ガラス基材上のレジストにマスク露光を行うことで、レジスト層を露光してもよい。
【0194】
続いて、レジスト層を現像することで、レジストにパターンを形成した。現像液としては、例えば、NMD-W(東京応化工業社製)、またはPMER P7G(東京応化工業社製)などの水酸化テトラメチルアンモニウム(Tetramethylammonium hydroxide:TMAH)溶液を用いた。
【0195】
次に、パターンが形成されたレジストを用いて、ガラス基材をエッチングすることにより、拡散板を製造した。具体的には、ArガスおよびCFガスを用いたガラスエッチングによって、レジストのパターンをガラス基材に形成することで、拡散板を製造した。
【0196】
そして、上記のシミュレーション結果と、実際に製造した拡散板を用いて、拡散板による拡散配光特性や、出射光の偏向機能を評価した。
【0197】
表1は、上記のように設計および製造した実施例1、2および比較例1、2に係る拡散板に関し、マイクロレンズアレイの表面構造の設計条件と、当該拡散板による出射光の偏向機能の評価結果を示す。
【0198】
【表1】
【0199】
<比較例1>
比較例1では、マイクロレンズの基準非球面形状において、基準開口幅Dk=60μm、基準曲率半径Rk=55μm、コーニック係数K=+0.5に設定した。そして、各マイクロレンズの開口幅Dを、Dkを基準として変動率δD=±10%の範囲内で、ランダムに変動させた値に設定した(D=Dk±10%)。また、各マイクロレンズの曲率半径Rを、Rkを基準として変動率δR=±10%の範囲内で、ランダムに変動させた値に設定した(R=Rk±10%)。このようにDおよびRが設定された複数のマイクロレンズを、マイクロレンズアレイの基材の表面上(XY平面上)に、緻密かつランダムに配列して、マイクロレンズを設計した。このとき、マイクロレンズ同士の重なり量Ov=30μmとした。また、マイクロレンズの頂点の高さZmax=11μmであった。
【0200】
比較例1では、マイクロレンズの光軸の傾斜角α=0°であり、マイクロレンズの光軸およびレンズ表面形状を、マイクロレンズアレイの法線方向(Z方向)に対して傾斜させなかった。つまり、比較例1において、全てのマイクロレンズの光軸はZ方向と平行であり、レンズ表面形状は、傾斜していない基準非球面形状とした。
【0201】
<比較例2>
比較例2では、マイクロレンズの基準非球面形状のコーニック係数Kを+1.0としたこと以外は、比較例1と同様にマイクロレンズを設計、製造した。Zmax=12.4μmであった。比較例2でも、マイクロレンズの光軸の傾斜角α=0°であり、マイクロレンズの光軸およびレンズ表面形状を、マイクロレンズアレイの法線方向(Z方向)に対して傾斜させなかった。
【0202】
<実施例1>
実施例1では、マイクロレンズの光軸およびレンズ表面形状を、マイクロレンズアレイの法線方向(Z方向)に対して傾斜させたこと以外は、比較例1と同様にマイクロレンズを設計、製造した。Zmax=16μmであった。実施例1では、マイクロレンズアレイを構成する全てのマイクロレンズの光軸を、一方向に、傾斜角α=30°だけ傾斜させた。傾斜方向を表す方位角β=0°とし、全てのマイクロレンズの光軸をX軸正方向に傾斜させた。また、当該光軸の傾斜に合わせて、全てのマイクロレンズのレンズ表面形状を、レンズ中心点を中心として、一方向に、傾斜角α=30°だけ回転させた。つまり、実施例1において、全てのマイクロレンズの光軸は、Z方向に対して傾斜角α=30°で傾斜しており、レンズ表面形状は、Z方向に対して傾斜した傾斜非球面形状とした。
【0203】
<実施例2>
実施例2では、マイクロレンズの光軸およびレンズ表面形状を、マイクロレンズアレイの法線方向(Z方向)に対して傾斜させたこと以外は、比較例2と同様にマイクロレンズを設計、製造した。Zmax=16.4μmであった。実施例2では、マイクロレンズアレイを構成する全てのマイクロレンズの光軸を、一方向に、傾斜角α=25°だけ傾斜させた。傾斜方向を表す方位角β=0°とし、全てのマイクロレンズの光軸をX軸正方向に傾斜させた。また、当該光軸の傾斜に合わせて、全てのマイクロレンズのレンズ表面形状を、レンズ中心点を中心として、一方向に、傾斜角α=25°だけ回転させた。つまり、実施例2において、全てのマイクロレンズの光軸は、Z方向に対して傾斜角α=25°で傾斜しており、レンズ表面形状は、Z方向に対して傾斜した傾斜非球面形状とした。
【0204】
上記の比較例1、2および実施例1、2に係る拡散板のマイクロレンズアレイの表面形状のパターン、拡散光の配光特性や輝度分布等のシミュレーション結果および実測結果を、図23図26にそれぞれ示す。
【0205】
図23図26(比較例1、2、実施例1、2)において、「A」は、コンピュータにより生成された1つの生成領域(図1の単位セル3)全体のマイクロレンズアレイの表面形状を示すビットマップデータ画像である。「B」は、拡散板から100mmの距離にあるスクリーンに投影された拡散光の照度分布のシミュレーション結果を示すグラフ(横軸:スクリーンの水平方向の座標位置[mm]、縦軸:照度)である。「C」は、当該スクリーンの面上における拡散光の輝度分布のシミュレーション結果を示す画像(横軸:スクリーンの水平方向の座標位置[mm]、縦軸:スクリーンの垂直方向の座標位置[mm])である。「D」は、上記「B」の照度分布における拡散角(半値全幅:FWHM)を示す。また、実施例1、2に係る図24図25の「D」には、上記「B」の輝度分布におけるピーク領域の偏向角(Shift1)と、FWHM(半値全幅)の偏向角(Shift2)も示してある。
【0206】
表1および図23図26の結果から分かるように、マイクロレンズアレイの表面(XY平面)に対して垂直な法線方向にコリメート光が入射されたとき、比較例1、2に係るマイクロレンズアレイでは、拡散光は、法線方向に対して特定方向に偏向されていない。このため、偏向角γは0°であり、マイクロレンズアレイは、偏向機能を有していない。
【0207】
これに対し、実施例1、2に係るマイクロレンズアレイでは、拡散光は、法線方向に対して特定方向(X軸正方向)に偏向されている。この結果、実施例1、2の偏向角γはそれぞれ、約3°、約4°であり、マイクロレンズアレイは、明瞭な偏向機能を有している。
【0208】
詳細には、図23図24に示すように、比較例1および比較例2では、出射光(拡散光)の主光線の方向は、入射されたコリメート光の主光線の方向と同一であり、当該両方向はともに法線方向である。そして、出射光(拡散光)の配光は、当該法線方向を中心として等方的であり、当該法線方向を中心軸として回転対称な特性を有している。このように、比較例1および比較例2では、出射光(拡散光)の主光線の方向は、法線方向に対して屈曲しておらず、出射光(拡散光)の光束は特定方向に偏向されていない。
【0209】
これに対し、図25図26に示すように、実施例1および実施例2では、出射光(拡散光)の主光線の方向は、入射されたコリメート光の主光線の方向(即ち、法線方向)に対して傾斜している。つまり、出射光(拡散光)の光束は、マイクロレンズの光軸の傾斜方向に対応する偏向方向(偏向角γで表される方向)に屈曲しており、当該偏向方向に偏向している。この結果、出射光(拡散光)の配光は、当該偏向方向に異方的であり、法線方向に対して回転非対称な特性を有している。このように、実施例1および実施例2では、出射光(拡散光)の主光線の方向は、法線方向に対して屈曲しており、出射光(拡散光)の光束は、法線方向に対して傾斜した偏向方向に偏向されている。
【0210】
以上のように、実施例1、2によれば、光軸が傾斜した複数のマイクロレンズを備えるマイクロレンズアレイにより、出射光(拡散光)を好適に偏向できることが確認された。このときの出射光(拡散光)の偏向角γは、約3°、約4°を示すことが確認された。
【0211】
<実施例3>
次に、実施例3に係るインプリントフィルムについて説明する。実施例3では、上記実施例1に係る拡散板を原盤として用いて、インプリントフィルムを製造した。上述したように、基材ガラスに形成されたレジスト露光パターンをドライエッチングすることにより、基材ガラスからなる無機材質の拡散板を製造した。この拡散板は、上記実施例1の拡散板に相当し、出射光の偏向機能を有する拡散配光デバイスである。そして、この実施例1の無機材質の拡散板を原盤として、当該原盤のマイクロレンズアレイの表面構造を有機レジンに転写することにより、実施例3に係るインプリントフィルム、即ち、有機材質の拡散板を製造した。
【0212】
図27は、実施例3に係るインプリントフィルムによる拡散光の配光特性を示すグラフ(横軸:拡散角度(deg)、縦軸:相対輝度(a.u.))である。図27に示す「0deg」のグラフの配光特性は、偏向していない方位の配光特性を表し、「90deg」のグラフの配光特性は、偏向している方位(即ち、上記偏向していない方位に対して垂直な方位)の配光特性を表している。
【0213】
図27に示すように、「90deg」のグラフでは、拡散光が特定方向に偏向されており、その偏向角γは約4°である。このように、実施例3に係るインプリントフィルム(有機材質の拡散板)を用いた場合であっても、出射光(拡散光)の偏向機能を好適に発揮できることが確認された。
【0214】
<傾斜角αの好適な範囲>
次に、図28および図29を参照して、コンピュータにより、マイクロレンズの光軸の傾斜角αを30°~90°の範囲で変化させて、複数種類のマイクロレンズアレイを生成し、傾斜角αの好ましい範囲を評価した結果について説明する。図28および図29は、下記の設計条件でコンピュータにより生成された1つの生成領域(図1の単位セル3)全体のマイクロレンズアレイの表面形状を示すビットマップデータ画像である。
【0215】
以下の設計条件で複数種類のマイクロレンズアレイをコンピュータにより生成した。マイクロレンズの光軸の傾斜角αについては30°~90°の範囲で変化させたが、その他の設計条件(マイクロレンズの開口幅D、曲率半径R、変動率δD、変動率δR)については、全て同一条件とした。
Dk=60μm
Rk=50μm
δD=±10%
δR=±10%
α=30°、40°、45°、50°、60°、70°、80°、90°
【0216】
図28および図29に示すように、傾斜角αが70°以上であると、レンズ表面形状が過度に傾斜して、傾斜方向に顕著に異方化してしまうため、Zmaxも急激に大きくなり、レンズ表面形状が崩れてしまい、マイクロレンズアレイ構造の成形性や実現性が低下した。したがって、マイクロレンズの成形性や、マイクロレンズアレイ構造の実現性、マイクロレンズアレイによる偏向機能の明確な顕現性、および光学特性などを確保するためには、傾斜角αが60°以下であることが好ましいことが確認された。
【0217】
また、傾斜角αが45°超であると、傾斜したマイクロレンズの形状に依存して、拡散光のノイズが発生しやすくなった。したがって、マイクロレンズによる拡散光のノイズの発生を低減するためには、傾斜角αが45°以下であることが好ましいことが確認された。
【0218】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0219】
1 拡散板
3 単位セル
10 基材
20 マイクロレンズアレイ
21 マイクロレンズ
23 矩形格子の中心点
24 境界線
25 光軸
26 表面
27 開口部
28、29 頂点
30 中心点
40 入射光
41 主光線
50 出射光
51 主光線
D 開口幅
R 曲率半径
δD 変動率
δR 変動率
α 傾斜角
β 方位角
γ 偏向角
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29