(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023044056
(43)【公開日】2023-03-30
(54)【発明の名称】アスファルトフィニッシャ
(51)【国際特許分類】
E01C 19/48 20060101AFI20230323BHJP
【FI】
E01C19/48 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021151890
(22)【出願日】2021-09-17
(71)【出願人】
【識別番号】000201515
【氏名又は名称】前田道路株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520106253
【氏名又は名称】有限会社レーザービーム
(74)【代理人】
【識別番号】100095337
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100174425
【弁理士】
【氏名又は名称】水崎 慎
(74)【代理人】
【識別番号】100203932
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 克宗
(72)【発明者】
【氏名】村本 孝
(72)【発明者】
【氏名】古島 勝
(72)【発明者】
【氏名】松下 勇太
(72)【発明者】
【氏名】雨宮 保明
【テーマコード(参考)】
2D052
【Fターム(参考)】
2D052AA03
2D052BD03
2D052BD12
2D052CA09
(57)【要約】
【課題】事前準備の作業負担を減らすと共に、高精度な舗装作業を省力化・省人化して行えるアスファルトフィニッシャを提供する。
【解決手段】アスファルトフィニッシャ1による敷設方向に連続する型枠3あるいは既設舗装面2′と被舗装面2との境界である敷設境界部BSを、アスファルト混合物AMXを敷き均した直後にサーモカメラ5にて撮影し、その熱画像からアスファルト混合物AMXと型枠3あるいは既設舗装面2′との境界であるジョイント部を抽出し、熱画像内の基準境界部をジョイント部に一致させる方向へスクリード12の左右ワイドナ13L,13Rのワイドナ外端部132を移動させる制御をスクリード制御装置6が行うことで、スクリード12の両端部を自動的に適正状態に戻す。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
敷設方向に移動しながら被舗装面にアスファルト混合物を敷き均し、前記被舗装面の幅員に応じてワイドナの伸縮をアクチュエータにより調整する伸縮式ワイドナ付きのスクリードで前記アスファルト混合物を締め固めるアスファルトフィニッシャにおいて、
前記ワイドナの外端側に設けられ、前記被舗装面と型枠あるいは既設舗装面との境界である敷設境界部を含む前記敷設方向の熱画像を取得可能な熱画像取得手段と、
前記熱画像取得手段により取得した前記熱画像に基づいて、敷き均された前記アスファルト混合物と前記型枠あるいは前記既設舗装面との境界であるジョイント部を判断し、前記熱画像取得手段の取付位置に応じて予め設定してある基準境界部と前記ジョイント部とが一致していない場合には、前記基準境界部と前記ジョイント部とを一致させる方向に前記アクチュエータを動作させて、前記ワイドナの位置を調整するスクリード制御装置と、
を備えることを特徴とするアスファルトフィニッシャ。
【請求項2】
前記熱画像取得手段は、連続する動画像として前記熱画像を取得するようにしたことを特徴とする請求項1に記載のアスファルトフィニッシャ。
【請求項3】
前記熱画像取得手段は、予め設定したインターバル期間が経過する毎に前記熱画像を取得するようにしたことを特徴とする請求項1に記載のアスファルトフィニッシャ。
【請求項4】
前記スクリード制御装置は、予め設定した駆動時間の駆動信号を前記アクチュエータに発信することで、前記ワイドナの外端位置を定量変化させるようにしたことを特徴とする請求項1~請求項3の何れか1項に記載のアスファルトフィニッシャ。
【請求項5】
前記スクリード制御装置は、PWMによる駆動信号を前記アクチュエータに発信することで、前記ワイドナの外端位置の変化速度を調整するようにしたことを特徴とする請求項1~請求項3の何れか1項に記載のアスファルトフィニッシャ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、敷設方向に移動しながら被舗装面にアスファルト混合物を敷き均し、前記被舗装面の幅員に応じてワイドナの伸縮をアクチュエータにより調整する伸縮式ワイドナ付きのスクリードで前記アスファルト混合物を締め固めるアスファルトフィニッシャに関する。
【背景技術】
【0002】
アスファルトフィニッシャでアスファルト混合物を敷き均すと共に締め固めるとき、アスファルトフィニッシャの敷設方向に直交する横方向(幅員方向)の敷設端を調整する必要がある。ワイドナの伸縮をアクチュエータにより調整する伸縮式ワイドナ付きのスクリードを備えるアスファルトフィニッシャでは、人がワイドナの伸縮制御を行って、ワイドナ端部の位置を微調整し、舗装幅員端である型枠部やジョイント部までアスファルトを敷設する。
【0003】
人によってスクリードのワイドナを調整する方式では、舗装施工時にアスファルトフィニッシャの敷きならし厚さを調整(調節)するアジャストマンや舗装ジョイントを仕上げる作業員等がワイドナ付近に立ち、手動でワイドナの伸縮を操作している。すなわち、ワイドナの外端部が型枠部やジョイント部の位置にあるかずれているかを監視し、ずれていれば必要なだけワイドナを伸縮させるように調整しなければならないので、相応の熟練者でなければ務まらない。しかも、修繕工事の場合、ワイドナの伸縮を操作するアジャストマンや作業員は、供用部分に近い作業帯の端に立つことになるため、非常に危険な作業となる。工事中でも供用部分で車両を通行させる場合、供用部分に近い作業帯の端に立っているアジャストマンや作業員は、横を通過する自動車等と接触する可能性があるからである。また、アスファルトフィニッシャのオペレータの運転技量が低ければ、アスファルトフィニッシャを施工基準通り(例えば、施工方向に対してまっすぐ)に走行させられないため、頻繁に型枠部やジョイント部に近づいたり離れたりするため、ワイドナの伸縮調整が頻発する。このような場合は、アジャストマンや作業員の負担が一層重くなる。
【0004】
建設機械の操作等に熟練を要する作業を自動化できる建設機械自動制御システムが提案されている(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1には、GPS受信器で測位された現況3次元位置の施工路面の形状が、その施工路面に対応する計画3次元データの位置形状と一致するように、作業部による施工路面の剥ぎ取り作業を、制御装置により自動制御するシステムが記載されている。また、この建設機械自動制御システムは、アスファルトフィニッシャに適用して、舗装路面上のアスファルト混合物を敷きならして締め固める場合にも適用できる(特許文献1の段落[0043]を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の発明では、舗装施工前に計画3次元データを作成しておく必要があり、事前準備に手間がかかるという問題がある。また、計画3次元データの作成には高度な技術知識が必要とされるので、高度な技術を持った人員を確保しなければならない。しかも、事前に準備しておいた計画3次元データに不備があると、本来の舗装作業を行うことができない。作業中に施工状態の異常に気づいても、現場で計画3次元データを修正することは難しく、作業の中断を余儀なくされる可能性もある。
【0007】
このように、特許文献1に記載の発明では、アスファルトフィニッシャ等の建設機械を自動制御することで、舗装作業中には人手を省ける反面、計画3次元データの作成が重要であるために、事前準備の負担が重いという問題がある。
【0008】
そこで、本発明は、事前準備の作業負担を減らすと共に、アスファルトフィニッシャによる高精度な舗装作業を省力化・省人化して行えるアスファルトフィニッシャの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、敷設方向に移動しながら被舗装面にアスファルト混合物を敷き均し、前記被舗装面の幅員に応じてワイドナの伸縮をアクチュエータにより調整する伸縮式ワイドナ付きのスクリードで前記アスファルト混合物を締め固めるアスファルトフィニッシャにおいて、前記ワイドナの外端側に設けられ、前記被舗装面と型枠あるいは既設舗装面との境界である敷設境界部を含む前記敷設方向の熱画像を取得可能な熱画像取得手段と、前記熱画像取得手段により取得した前記熱画像に基づいて、敷き均された前記アスファルト混合物と前記型枠あるいは前記既設舗装面との境界であるジョイント部を判断し、前記熱画像取得手段の取付位置に応じて予め設定してある基準境界部と前記ジョイント部とが一致していない場合には、前記基準境界部と前記ジョイント部とを一致させる方向に前記アクチュエータを動作させて、前記ワイドナの位置を調整するスクリード制御装置と、を備えることを特徴とする。
【0010】
また、前記構成において、前記熱画像取得手段は、連続する動画像として前記熱画像を取得するようにしてもよい。
【0011】
また、前記構成において、前記熱画像取得手段は、予め設定したインターバル期間が経過する毎に前記熱画像を取得するようにしてもよい。
【0012】
また、前記構成において、前記スクリード制御装置は、予め設定した駆動時間の駆動信号を前記アクチュエータに発信することで、前記ワイドナの外端位置を定量変化させるようにしてもよい。
【0013】
また、前記構成において、前記スクリード制御装置は、PWMによる駆動信号を前記アクチュエータに発信することで、前記ワイドナの外端位置の変化速度を調整するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、スクリード制御装置が、熱画像取得手段により取得した熱画像に基づいて、高温で敷き均された直後のアスファルト混合物と型枠あるいは既設舗装面との境界であるジョイント部を判断し、基準境界部とジョイント部とを一致させる方向にアクチュエータを動作させる。したがって、高度な技術を持った人員によって計画3次元データ等を事前に準備しておく必要がなく、事前準備の負担を減らすことができる。また、アスファルトフィニッシャのオペレータの操作技量に左右されることなく、均一な舗装端部の仕上がりが得られると共に、ワイドナの伸縮操作を行う作業員等を必要としないから作業員等は本来の業務(例えば、アジャストマンなど)に専念でき、省力化・省人化に効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本実施形態に係るアスファルトフィニッシャの平面図である。
【
図2】本実施形態に係るアスファルトフィニッシャの左側面図である。
【
図3】(A)は、型枠と被舗装面との敷設境界部を含む前記敷設方向の熱画像を取得できるようにサーモカメラを配置した状態の説明図である。(B)は、
図3(A)の被舗装面にアスファルト混合物を敷き均してジョイント部が形成された状態の説明図である。(C)は、
図3(B)のジョイント部を含む可視画像のイメージ図である。(D)は、
図3(B)のジョイント部を含む熱画像のイメージ図である。
【
図4】(A)は、既設舗装面と被舗装面との敷設境界部を含む前記敷設方向の熱画像を取得できるようにサーモカメラを配置した状態の説明図である。(B)は、
図4(A)の被舗装面にアスファルト混合物を敷き均してジョイント部が形成された状態の説明図である。(C)は、
図4(B)のジョイント部を含む可視画像のイメージ図である。(D)は、
図4(B)のジョイント部を含む熱画像のイメージ図である。
【
図6】スクリード制御装置が熱画像に基づいてワイドナ外端部の状態判定を行う過程を示す説明図である。
【
図7】スクリード制御装置が油圧シリンダを駆動させるPWM制御の一例を示すパルス波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、添付図面に基づいて、本発明に係るアスファルトフィニッシャの実施形態につき説明する。
【0017】
図1および
図2は、アスファルトフィニッシャ1を示し、アスファルト舗装路を敷設する被舗装面2上を敷設方向(前方)に移動する。アスファルトフィニッシャ1が移動する敷設方向は、舗装幅員端となる型枠3が連続して設置された方向である。なお、型枠3は、被舗装面2よりも所定量だけ高く突出する上面3aが、アスファルトフィニッシャ1による敷設方向に連続し、新設する舗装路面の高さは、型枠3の上面3aがおおよその指標となる。
【0018】
アスファルトフィニッシャ1は、ダンプトラック等で運搬されてきたアスファルト混合物AMXをフロントホッパ10より受け、コンベアにて後部のオーガ11へ供給し、オーガ11でアスファルト混合物AMXを被舗装面2へ均一に拡げ、スクリード12(伸縮式ワイドナ付き)によって締め固める。また、アスファルトフィニッシャ1のスクリード12は、スクリード本体の左右両側にそれぞれ左ワイドナ13Lと右ワイドナ13Rを備えており、アクチュエータである油圧シリンダ131のピストンロッドを伸縮させて、ワイドナ外端部132の左右位置(ワイドナの外端位置)を調整できる。
【0019】
左右ワイドナ13L,13Rの外端側には、それぞれカメラ取り付けステー4を設け、このカメラ取り付けステー4によってサーモカメラ5を所要位置に保持する。このカメラ取り付けステー4は、サーモカメラ5の撮像範囲を調整可能な構造である。サーモカメラ5は、被舗装面2と3との境界である敷設境界部BSを含む敷設方向の熱画像を取得可能な熱画像取得手段として機能する。型枠3の温度は常温(外気温+α)程度であるのに対して、敷き均された直後のアスファルト混合物AMXの温度は、140~160〔℃〕前後の高温であるから、アスファルト混合物AMXと型枠3との境界であるジョイント部(後に詳述)を熱画像から判断できる。
【0020】
サーモカメラ5によって写す範囲は、敷き均された直後のアスファルト混合物AMXが見える限定された範囲(敷設方向に狭い範囲)であるから、カーブ等の湾曲路面に対応させて敷設境界部BSが湾曲状に形成されていても、取得画像内での敷設境界部BSは、概ね直線状とみなすことができる。なお、熱画像取得手段としては、サーモカメラ5に限らず、可視光域の可視画像取得機能と赤外光域の熱画像取得機能を切り替えられるデジタルカメラを用いてもよい。また、熱画像取得手段による熱画像取得サイクルは特に限定されず、連続する動画像(例えば、30fps)として熱画像を短周期で取得する設定でもよいし、予め設定したインターバル期間(例えば、1秒)が経過する毎に熱画像を取得する設定でもよい。
【0021】
上述したスクリード12の左右ワイドナ13L,13Rの自動制御は、スクリード制御装置6が、サーモカメラ5からの検出情報に基づいて行う。例えば、敷設境界部BSと一致するようにワイドナ外端部132が移動して行けば、アスファルトフィニッシャ1による舗装端部の仕上がりが良好となる。そこで、サーモカメラ5の取得した熱画像内で敷設境界部BSに該当する基準境界位置を予め設定しておき、実際に取得した熱画像から抽出したジョイント部と基準境界位置とのずれを解消するように油圧シリンダ131を動作させて、ワイドナ外端部132の位置を調整する。このように、スクリード制御装置6は、アスファルトフィニッシャ1のスクリード12の自動制御において核となる制御装置である。
【0022】
スクリード制御装置6は、例えば、スクリード12本体に直接あるいは近傍に取り付けられ、図示を省略した給電部から電源ケーブルを介して電源供給を受けて動作する。また、スクリード制御装置6は、左ワイドナ13L側のサーモカメラ5および右ワイドナ13R側のサーモカメラ5から信号ケーブルを介して熱画像を受け、ワイドナ外端部132の片寄りを判定する。そして、スクリード制御装置6は、判定結果に基づいて、ワイドナ外端部132の片寄りを戻すために、駆動信号ケーブルを介して各油圧シリンダ131へ駆動信号を出力する。具体的には、油タンクから油圧シリンダ131への油流入および油流出を切り替える伸縮用油圧切替弁(図示省略)の開閉をスクリード制御装置6が制御することで、ピストンロッドの移動方向および移動速度を制御する。
【0023】
次に、サーモカメラ5による熱画像の取得過程を
図3に基づいて説明する。なお、
図3においては、左ワイドナ13L側に設けたサーモカメラ5のみを例示するが、右ワイドナ13R側に設けたサーモカメラ5による熱画像取得も同様である。
図3(A)に示すように、カメラ取り付けステー4に適切な状態で保持されているサーモカメラ5の撮像範囲IAは、被舗装面2と型枠3との境界である敷設境界部BSを含み、敷設方向(アスファルトフィニッシャ1の進行方向)に向かう適宜な奥行範囲をカバーする。また、サーモカメラ5の撮像範囲IAに敷設境界部BSが含まれていれば、左右ワイドナ13L,Rの位置判定用の熱画像として利用可能であるが、熱画像の縦方向もしくは横方向が敷設方向と平行になるようにサーモカメラ5を配置しておくことが望ましい。
【0024】
ここで、
図3(B)に示すように、被舗装面2にアスファルト混合物AMXを敷き均すと、アスファルト混合物AMXと型枠3との境界であるジョイント部JSが形成される。このジョイント部JSを含む可視画像のイメージを
図3(C)に示す。この可視画像を人間が見ると、アスファルト混合物AMXと型枠3の上面3aとの明度・色相・彩度の違いからジョイント部JSを推認することは容易である。しかしながら、このような高精度の画像認識を機械学習させて実用化のレベルにするのは大変である。一方、
図3(D)に示す熱画像では、温度と表示色が対応付けられているので、スクリード制御装置6は、高温の範囲から急激に低温の範囲に変わった領域として、ジョイント部JSを容易に画像認識できる。なお、前述したように、サーモカメラ5による取得画像内での敷設境界部BSは、概ね直線状とみなすことができるので、熱画像内のジョイント部JSも概ね直線状とみなせる。
【0025】
図4(A)に示すのは、右ワイドナ13R側に設けたカメラ取り付けステー4によって、被舗装面2と既設舗装面2′との境界である敷設境界部BSを含む撮像範囲IAが形成されるようにサーモカメラ5を保持した状態を示す。ここで、
図4(B)に示すように、被舗装面2にアスファルト混合物AMXを敷き均すと、アスファルト混合物AMXと既設舗装面2′との境界であるジョイント部JSが形成される。このジョイント部JSを含む可視画像のイメージを
図4(C)に示す。このジョイント部JSを含む熱画像のイメージを
図4(D)に示す。アスファルト混合物AMXと既設舗装面2′との境界であるジョイント部JSも、スクリード制御装置6は、熱画像から容易に画像認識できる。
【0026】
上述したサーモカメラ5からの熱画像を受けるスクリード制御装置6の一構成例を
図5に示す。スクリード制御装置6は、サーモカメラ5からの熱画像を受け取ると共にワイドナ外端部132の状態を判定する左ワイドナ外端部状態判定手段61Lおよび右ワイドナ外端部状態判定手段61Rを備える。これら左右ワイドナ外端部状態判定手段61L,61Rによって適正状態ではないと判断された場合には、左油圧シリンダ駆動制御手段62Lおよび右油圧シリンダ駆動制御手段62Rが油圧シリンダ131の駆動制御を行って、ワイドナ外端部132を適正状態に戻す方向へ移動させる。
【0027】
スクリード制御装置6の動作は、例えばアスファルトフィニッシャ1の運転席近傍に設けられたスイッチボックス7から指示する。スイッチボックス7の電源スイッチ71をオンにすることでスクリード制御装置6が起動し、左自動制御スイッチ72Lをオンにすると左ワイドナ13Lの自動制御が、右自動制御スイッチ72Rをオンにすると右ワイドナ13Rの自動制御が行われる。すなわち、スクリード制御装置6に対して、左ワイドナ13Lと右ワイドナ13Rの自動制御を個別に指示できる。
【0028】
左右ワイドナ外端部状態判定手段61L,61Rは、予め設定したインターバル期間が経過する毎(例えば、1秒間隔)にサーモカメラ5による熱画像を取得し、熱画像を取得する毎にワイドナ外端部132が適正状態か否かを判定する。ワイドナ外端部132が適正状態にあると判定した場合、左右ワイドナ外端部状態判定手段61L,61Rは次回のセンサ情報を取得するまで何もしない。しかしながら、ワイドナ外端部132が適正状態でないと判定した場合、左右ワイドナ外端部状態判定手段61L,61Rは、左油圧シリンダ駆動制御手段62Lまたは右油圧シリンダ駆動制御手段62Rへ指示し、油圧シリンダ131を伸縮制御する。
【0029】
ここで、スクリード制御装置6の左右ワイドナ外端部状態判定手段61L,61Rが熱画像に基づいて左右ワイドナ13L、13Rのワイドナ外端部132の状態判定を行う過程を、
図6に基づいて説明する。例えば、左側のサーモカメラ5より取得した熱画像は、温度分布が色変化に対応付けられているので、高温色から低温色に急激に変わる中温色範囲をジョイント部JSとして検出できる。なお、型枠3として熱伝導率の低い木片を使用していれば、型枠3の温度上昇が抑えられているので、中温色範囲は狭小となり、適正なジョイント部JSの抽出が容易である。抽出したジョイント部JSと、サーモカメラ5の配置状態から予め設定した基準境界部ISとを対比し、その誤差距離を、例えば、画素数(ピクセル数)から算定する。
【0030】
基準境界部ISは、スクリード12の端部がちょうど敷設境界部BSまでのアスファルト混合物AMXを締め固める適正状態か否かを判定するための境界情報である。具体的には、スクリード12の両端部である左右ワイドナ13L、13Rのワイドナ外端部132が、サーモカメラ5より得られる熱画像内の敷設境界部BSと一致するように調整したときに、敷設境界部BSと重なる線分を基準境界部ISとして用いることができる。そして、左右の各サーモカメラ5に対応する基準境界部ISの情報は、スクリード制御装置6にプリセット値として記憶させておく。アスファルトフィニッシャ1による敷設作業中は、左右ワイドナ13L、13Rの移動に伴ってサーモカメラ5も移動するため、熱画像内に写る敷設境界部BSの位置は変化するが、基準境界部ISは熱画像内で常に一定位置に固定された情報として再現される。
【0031】
なお、アスファルト混合物AMXを敷き均す前の敷設境界部BSをサーモカメラ5で写しても、熱画像から常温時の敷設境界部BSを認識することは困難である。そこで、サーモカメラ5としても使えるデジタルカメラを熱画像取得手段として用い、プリセット時には可視画像を取得することで、基準境界部ISのプリセット情報を設定するようにしてもよい。また、サーモカメラ5の取付位置を変えた場合など、取得画像内で基準境界部ISを適正な位置に再現できなくなった可能性がある場合には、基準境界部ISのプリセット値を再設定する運用とすることが望ましい。
【0032】
上記のように設定した基準境界部ISが熱画像より抽出したジョイント部JSと一致していれば、左右ワイドナ13L、13Rのワイドナ外端部132が敷設境界部BSと一致していることを意味する。逆に、基準境界部ISが熱画像より抽出したジョイント部JSと一致していなければ、左右ワイドナ13L、13Rのワイドナ外端部132が敷設境界部BSと一致していないことを意味し、その誤差量は、基準境界部ISとジョイント部JSとのずれ量に等しい。また、サーモカメラ5により取得した熱画像内のピクセルと実寸長さとの縮尺比を事前に設定しておけば、抽出したジョイント部JSと基準境界部ISとの間のピクセル数から、左右ワイドナ13L、13Rのワイドナ外端部132と敷設境界部BSとの誤差距離を算定できる。
【0033】
図6に示す例では、アスファルトフィニッシャ1の進行方向左側に配置した型枠3の右側にアスファルト混合物AMXを敷きならすので、ジョイント部JSよりもアスファルト混合物AMX側に基準境界部ISがあれば、左ワイドナ13Lのワイドナ外端部132は内側にずれている内寄り状態となる。逆に、ジョイント部JSよりも型枠3側に基準境界部ISがあれば、左ワイドナ13Lのワイドナ外端部132は外側にずれている外寄り状態となる。また、基準境界部ISとジョイント部JSとの誤差(アスファルトフィニッシャ1の進行方向に直交する幅員方向のずれ)は概ね5ピクセルであるから、左ワイドナ外端部状態判定手段61Lは、左ワイドナ13Lのワイドナ外端部132が内寄り状態で5ピクセルの誤差距離と算定できる。
【0034】
なお、
図6の例示では、熱画像内のピクセルと実寸長さとの縮尺比を設定するキャリブレーション等を事前に行い、例えば1ピクセルが実寸で1cm程度としたので、5ピクセルの誤差距離は約5cmの誤差に相当する。なお、ピクセルと実寸との関係は、サーモカメラ5の解像度やサーモカメラの取付高さ(型枠3や既設舗装面2′からの距離)によって変わるので、1ピクセルの実寸距離は1cm程度に限定されるものではない。この誤差(内寄り約5cm)を解消するために、左ワイドナ外端部状態判定手段61Lが左油圧シリンダ駆動制御手段62Lへ油圧シリンダ131を左へ伸ばす指示を行い、左ワイドナ13Lのワイドナ外端部132を外寄りに移動させればよい。しかしながら、誤差距離が予め定めた補正基準値に満たない場合には、左右ワイドナ13L、13Rのワイドナ外端部132とジョイント部JSとが一致している適正状態と看做して、油圧シリンダ131への駆動制御を行わないようにしてもよい。
【0035】
上記のようにして、左ワイドナ外端部状態判定手段61Lが、ワイドナ外端部132の内寄り状態を判定した場合、左ワイドナ13Lの油圧シリンダ131を伸ばす動作を行うようする。これにより、左油圧シリンダ駆動制御手段62Lが左ワイドナ13Lの油圧シリンダ131のピストンロッドを伸ばすように制御し、ワイドナ外端部132が左側(外側)へ移動する。逆に、左ワイドナ外端部状態判定手段61Lがワイドナ外端部132の外寄り状態を判定した場合、左ワイドナ13Lの油圧シリンダ131を縮める動作を行うよう左油圧シリンダ駆動制御手段62Lへ指示する。これにより、左油圧シリンダ駆動制御手段62Lが左ワイドナ13Lの油圧シリンダ131のピストンロッドを縮めるように制御し、ワイドナ外端部132が右側(内側)へ移動する。なお、左ワイドナ13Lの油圧シリンダ131は、左ワイドナ伸縮手動スイッチ8Lによって人為的に操作可能であり、スクリード制御装置6による自動制御を使わない場合は、従来通り、人手によって左ワイドナ13Lの伸縮制御を行うことができる。
【0036】
同様に、右ワイドナ外端部状態判定手段61Rが、ワイドナ外端部132の内寄り状態を判定した場合、右ワイドナ13Rの油圧シリンダ131を伸ばす動作を行うよう右油圧シリンダ駆動制御手段62Rへ指示する。これにより、右油圧シリンダ駆動制御手段62Rが右ワイドナ13Rの油圧シリンダ131のピストンロッドを伸ばすように制御し、ワイドナ外端部132が右側(外側)へ移動する。逆に、右ワイドナ外端部状態判定手段61Rがワイドナ外端部132の外寄り状態を判定した場合、右ワイドナ13Rの油圧シリンダ131を縮める動作を行うよう右油圧シリンダ駆動制御手段62Rへ指示する。これにより、右油圧シリンダ駆動制御手段62Rが右ワイドナ13Rの油圧シリンダ131のピストンロッドを縮めるように制御し、ワイドナ外端部132が左側(内側)へ移動する。なお、右ワイドナ13Rの油圧シリンダ131は、右ワイドナ伸縮手動スイッチ8Rによって人為的に操作可能であり、スクリード制御装置6による自動制御を使わない場合は、従来通り、人手によって右ワイドナ13Rの伸縮制御を行うことができる。
【0037】
左右油圧シリンダ駆動制御手段62L,62Rによる油圧シリンダ131の制御は、予め設定した駆動時間に対応する所定時間幅の駆動信号を送信することで、左右ワイドナ13L,13Rを定量変化させる単純な制御でもよいが、その他の駆動制御手法を採用しても構わない。例えば、次に左右ワイドナ外端部状態判定手段61L,61Rからの指示が来るまで、左右油圧シリンダ駆動制御手段62L,62Rが駆動信号を出し続けることで、左右ワイドナ13L,13Rを移動させ続ける制御でもよい。この場合、次の熱画像取得タイミングとなり、各サーモカメラ5からの熱画像を取得した左右ワイドナ外端部状態判定手段61L,61Rが、ワイドナ外端部132の片寄りは解消されて適正状態にあると判定すると、左右油圧シリンダ駆動制御手段62L,62Rへ動作停止を指示する。これにより、左右油圧シリンダ駆動制御手段62L,62Rが油圧シリンダ131に対する伸縮動作を中止するので、ワイドナ外端部132は適正状態の範囲内と想定される位置にて停止する。
【0038】
一方、ワイドナ外端部132の片寄りを解消するために油圧シリンダ131の動作制御を開始した後の熱画像取得タイミングで、左右ワイドナ外端部状態判定手段61L,61Rが、ワイドナ外端部132の片寄りが解消されていない(取得された熱画像内で基準境界部ISとジョイント部JSが一致していない)と判定する場合もある。このような場合、左右油圧シリンダ駆動制御手段62L,62Rによる油圧シリンダ131の動作制御をそのまま継続し、ワイドナ外端部132が適正状態の範囲内に戻るまで油圧シリンダ131の伸縮を同速度で続ける方法も考えられる。しかしながら、前回の熱画像取得タイミングから次回の熱画像取得タイミングまでの期間(以下、単に周期という)内でワイドナ外端部132を適正状態へ戻せない場合、油圧シリンダ131の伸縮速度を超える速度で、敷設境界部BSから離隔し続けている可能性がある。そこで、左右ワイドナ外端部状態判定手段61L,61Rがワイドナ外端部132の外寄り状態または内寄り状態を連続して判定した場合、左右油圧シリンダ駆動制御手段62L,62Rは、前回の伸縮速度よりも次回の伸縮速度(アクチュエータ駆動速度)を上げるように油圧シリンダ131を動作制御するようにした。
【0039】
図7に、左右油圧シリンダ駆動制御手段62L,62Rが油圧シリンダ131の動作制御を行うための駆動信号の一例を示す。本例における左右油圧シリンダ駆動制御手段62L,62Rは、PWM(Pulse Width Modulation)による給電制御で油圧シリンダ131の駆動速度(ピストンロッドの伸縮速度)を調整する。これにより、左右ワイドナ13L,13Rのワイドナ外端部132(ワイドナの外端位置)の変化速度を調整できる。
【0040】
左右ワイドナ外端部状態判定手段61L,61Rが最初にワイドナ外端部132の片寄りを判定した1周期目に、左右油圧シリンダ駆動制御手段62L,62Rが出力する駆動信号は、ON時間α1よりもOFF時間β1が十分に長いパルス信号であり、油圧シリンダ131の伸縮速度は低い。次の画像取得タイミングで取得した熱画像に基づいて左右油圧シリンダ駆動制御手段62L,62Rが算定した誤差距離(誤差ピクセル数)から、ワイドナ外端部132と敷設境界部BSとが未だ一致していないと判定される場合には、更にワイドナ外端部132の変化速度を上げた片寄り調整が必要である。左右ワイドナ外端部状態判定手段61L,61Rが2回続けてワイドナ外端部132の片寄りを判定した2周期目に、左右油圧シリンダ駆動制御手段62L,62Rが出力する駆動信号は、ON時間α2がON時間α1よりも長く、OFF時間β2がOFF時間β1よりも短いパルス信号に変わり、油圧シリンダ131の伸縮速度は上がる。次の画像取得タイミングで取得した熱画像に基づいて左右油圧シリンダ駆動制御手段62L,62Rが算定した誤差距離(誤差ピクセル数)から、ワイドナ外端部132と敷設境界部BSとが未だ一致していないと判定される場合には、更にワイドナ外端部132の変化速度を上げた片寄り調整が必要である。左右ワイドナ外端部状態判定手段61L,61Rが3回続けてワイドナ外端部132の片寄りを判定した3周期目に、左右油圧シリンダ駆動制御手段62L,62Rが出力する駆動信号は、ON時間α3がON時間α2よりも長く、OFF時間β3がOFF時間β2よりも短いパルス信号に変わり、油圧シリンダ131の伸縮速度は一層上がる。なお、4周期目以降も同様に油圧シリンダ131の伸縮速度を徐々に上げるようにしても良いし、油圧シリンダ131の伸縮速度がMAXに達した特定周期以降は、最高伸縮速度を保持するようにしても良い。
【0041】
このように、前周期の結果を次周期の信号出力に反映(フィードバック)し、徐々に油圧シリンダ131の伸縮速度を変化させる制御を行えば、ワイドナ外端部132の片寄り状態に応じた伸縮速度の増減を適切に行うことができ、迅速に適正状態へ戻すことが可能となる。特に、ワイドナ外端部132と敷設境界部BSとの誤差量が大きい(基準境界部ISとジョイント部JSとの誤差ピクセル数が多い)場合には、ON時間をより長くするPWM制御を行ってワイドナ外端部132の変化速度を高めれば、より短時間で適正状態へ戻すことが可能となる。また、最初にワイドナ外端部132の片寄りを判定したときは、油圧シリンダ131の伸縮速度を比較的低い所定速度に抑えておくことにより、ワイドナ外端部132がジョイント部JSを行き過ぎる(通過する)オーバーランを繰り返すオーバーシュートが生じることを防げる。
【0042】
また、サーモカメラ5の取付位置は、ワイドナ外端部132に近いところが理想であるが、アスファルトフィニッシャ1の機種や作業条件等の様々な要因により、ワイドナ外端部132から離れた位置にサーモカメラ5を設置しなければならない場合もある。敷設方向指標体の検出位置であるサーモカメラ5の取付位置と、制御対象であるワイドナ外端部132の位置とが無視できないぐらい離れている場合、サーモカメラ5の位置にワイドナ外端部132が到達するまでの時間差が問題となる可能性がある。そこで、サーモカメラ5とワイドナ外端部132との敷設方向の離隔距離およびアスファルトフィニッシャ1の移動速度から推定される制御遅延時間を設定し、サーモカメラ5の熱画像に基づく油圧シリンダ131の制御を検出タイミングより制御遅延時間だけ遅らせる制御を行っても良い。
【0043】
上述したように、本実施形態のアスファルトフィニッシャ1は、左右ワイドナ13L,13R付きのスクリード12を備える既存のアスファルトフィニッシャ1にサーモカメラ5とスクリード制御装置6を取り付けることで構成できる。従って、高度な技術を持った人員によって計画3次元データ等を事前に準備しておく必要がなく、施工計画通りに被舗装面2と型枠3あるいは既設舗装面2′との境界である敷設境界部BSが適切に形成されていれば良いので、事前準備の負担を減らせるという効果がある。
【0044】
また、本実施形態のアスファルトフィニッシャ1は、アスファルトフィニッシャ1のオペレータの操作技量に左右されることなく、均一な舗装端部の仕上がりが得られる。加えて、左右ワイドナ13L、13Rの伸縮操作を行う作業員等を必要としないから、作業員等は本来の業務(例えば、アジャストマンなど)に専念できる。よって、本実施形態のアスファルトフィニッシャ1は、省力化・省人化の効果もある。
【0045】
以上、本発明に係るアスファルトフィニッシャを実施形態に基づき説明したが、本発明は、この実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載の構成を変更しない限りにおいて実現可能な全てのアスファルトフィニッシャを権利範囲として包摂するものである。
【符号の説明】
【0046】
1 アスファルトフィニッシャ
12 スクリード
13L 左ワイドナ
13R 右ワイドナ
131 油圧シリンダ
132 ワイドナ外端部
2 被舗装面
2′ 既設舗装面
3 型枠
3a 上面
5 サーモカメラ(熱画像取得手段)
6 スクリード制御装置
BS 敷設境界部
JS ジョイント部
IS 基準境界部