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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023044079
(43)【公開日】2023-03-30
(54)【発明の名称】遅れ破壊性評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 17/00 20060101AFI20230323BHJP
   G01N 1/28 20060101ALI20230323BHJP
【FI】
G01N17/00
G01N1/28 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021151919
(22)【出願日】2021-09-17
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【弁理士】
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100167634
【弁理士】
【氏名又は名称】扇田 尚紀
(74)【代理人】
【識別番号】100187849
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 隆史
(74)【代理人】
【識別番号】100212059
【弁理士】
【氏名又は名称】三根 卓也
(72)【発明者】
【氏名】広瀬 智史
(72)【発明者】
【氏名】白神 聡
(72)【発明者】
【氏名】早坂 英之
(72)【発明者】
【氏名】壇 龍也
【テーマコード(参考)】
2G050
2G052
【Fターム(参考)】
2G050AA01
2G050BA02
2G050CA04
2G050EC05
2G052AA12
2G052AD32
2G052AD52
2G052GA06
2G052GA20
2G052JA09
(57)【要約】
【課題】端面における遅れ破壊性評価を行う際に、複数の試験片を用いて評価試験を行うことができ、かつ、製品形状の部品に生じると想定される塑性ひずみと残留応力の状態を試験片に反映させやすくして評価精度を向上させる。
【解決手段】鋼板からなる円形ブランクに対して円筒絞り加工を行い、絞り成形物から、円筒部と、フランジ部の一部とを取り除くことでC字状鋼板を作製し、C字状鋼板に対して荷重を付与して当該C字状鋼板を面内方向に弾性変形させ、C字状鋼板に対する荷重が取り除かれる際にC字状鋼板の弾性変形が維持され、かつ、C字状鋼板に面外変形が生じないように当該C字状鋼板を拘束し、C字状鋼板を拘束した状態で荷重を取り除くことによって試験片1を作製し、試験片1を用いて遅れ破壊性評価を行う。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板からなる円形ブランクに対して円筒絞り加工を行うことで絞り成形物を作製し、
前記絞り成形物から、円筒部と、フランジ部の一部とを取り除くことでC字状鋼板を作製し、
前記C字状鋼板に対し、当該C字状鋼板の両端部が互いに接近または離隔する方向に荷重を付与して当該C字状鋼板を面内方向に弾性変形させ、
前記C字状鋼板に対する前記荷重が取り除かれる際に前記C字状鋼板の弾性変形が維持され、かつ、前記C字状鋼板に面外変形が生じないように当該C字状鋼板を拘束し、
前記C字状鋼板を拘束した状態で前記荷重を取り除くことによって試験片を作製し、
前記試験片を用いて遅れ破壊性評価を行うことを特徴とする、遅れ破壊性評価方法。
【請求項2】
鋼板からなるブランクに対して打抜き加工、せん断加工又は切断加工を行うことでC字状鋼板を作製し、
前記C字状鋼板に対し、当該C字状鋼板の両端部が互いに接近または離隔する方向に荷重を付与して当該C字状鋼板を面内方向に弾性変形させ、
前記C字状鋼板に対する前記荷重が取り除かれる際に前記C字状鋼板の弾性変形が維持され、かつ、前記C字状鋼板に面外変形が生じないように当該C字状鋼板を拘束し、
前記C字状鋼板を拘束した状態で前記荷重を取り除くことによって試験片を作製し、
前記試験片を用いて遅れ破壊性評価を行うことを特徴とする、遅れ破壊性評価方法。
【請求項3】
前記C字状鋼板を拘束する際に、二つの拘束部材で前記C字状鋼板の面外方向から当該C字状鋼板を挟持し、前記二つの拘束部材を互いに固定することで前記C字状鋼板を拘束することを特徴とする、請求項1または2に記載の遅れ破壊性評価方法。
【請求項4】
前記C字状鋼板に切欠き又は貫通孔が形成されていることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の遅れ破壊性評価方法。
【請求項5】
鋼板からなる円形ブランクに対して円筒絞り加工を行うことで絞り成形物を作製し、
前記絞り成形物の円筒部のみを取り除くことで試験片を作製し、
前記試験片を用いて遅れ破壊性評価を行うことを特徴とする、遅れ破壊性評価方法。
【請求項6】
鋼板からなる円形ブランクに対して円筒絞り加工を行うことで絞り成形物を作製し、
前記絞り成形物のフランジ部に切欠き又は貫通孔を形成することで試験片を作製し、
前記試験片を用いて遅れ破壊性評価を行うことを特徴とする、遅れ破壊性評価方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板の遅れ破壊性の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、世界中で自動車の燃費規制が厳格化され、自動車の軽量化のために車体材料への高張力鋼板の適用が推進されている。また、カーボンニュートラルの潮流に伴う自動車の動力源の電動化が進むことにより、バッテリー保護性能向上の観点から鋼板のさらなる高張力化も要求され、超高張力鋼板の適用も検討されている。
【0003】
鋼板から成形される自動車部品などの部品には、一定の時間が経過した後に割れが生じる現象、いわゆる遅れ破壊が発生する場合がある。このため、部品にそのような遅れ破壊が発生しないように、製品形状の部品に生じる塑性ひずみと残留応力を付与した試験片を用いて遅れ破壊性の評価を行うことが一般的である。遅れ破壊は、鋼板の引張強さが大きいほど発生しやすいことから、超高張力鋼板の適用が検討されている近年においては、超高張力鋼板にも対応可能な遅れ破壊性の評価方法についても検討されている。
【0004】
従来の遅れ破壊性の評価方法として、特許文献1には、正多角形状の高張力鋼板からなるブランクに対して円筒深絞り加工を施した試験片を作製し、その試験片を用いて遅れ破壊性評価を行う方法が開示されている。特許文献2には、薄鋼板水素脆化評価用試験片を電解槽内の治具に取り付け、その試験片および治具を電解溶液中に浸漬させた状態で試験片に引張応力を付与する評価方法が開示されている。特許文献3には、高強度鋼板の試験片にU曲げ加工またはV曲げ加工を行い、曲げ加工された試験片の両辺部分に圧縮応力を付与して遅れ破壊性評価を行う方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6614197号
【特許文献2】特許第4901662号
【特許文献3】特許第4646134号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
遅れ破壊は、鋼板から部品への成形過程で生じる塑性ひずみや残留応力などが影響することで発生する。特に、鋼板の打抜き、せん断または切断等の加工により形成される打抜き端面、せん断端面または切断端面などの端面には、製品形状の部品への成形過程で塑性ひずみや残留応力が加わりやすい。このため、遅れ破壊性評価においては、打抜き端面、せん断端面または切断端面などの端面に生じる塑性ひずみまたは残留応力と、遅れ破壊性との関係を十分に把握する必要がある。
【0007】
しかしながら、端面に生じる塑性ひずみの大きさ及び残留応力の大きさは、端面の形状や端面の周囲の形状に応じてそれぞれ異なる大きさとなる。このため、端面における遅れ破壊性を精度良く評価するためには、評価試験で使用する試験片に対して塑性ひずみの大きさと残留応力の大きさをそれぞれ個別に付与できることが好ましい。
【0008】
この観点において、特許文献1に記載の評価方法では、円筒深絞り加工を施すブランクが正多角形状であるため、深絞り加工の際、試験片には塑性ひずみのみならず、残留応力も付与される。すなわち、特許文献1に記載の評価方法では、試験片に付与する塑性ひずみの大きさと残留応力の大きさを個別に設定することができない。このため、遅れ破壊性の評価対象となる部品の形状によっては、部品に生じると想定される塑性ひずみと残留応力の状態を試験片に反映することができず、遅れ破壊性の評価精度の観点で改善の余地がある。
【0009】
また、特許文献1に記載の評価方法では、試験片に対して塑性ひずみと残留応力が同時に付与されるため、塑性ひずみのみが付与された試験片、あるいは残留応力のみが付与された試験片を作製することができない。このため、遅れ破壊性の評価対象となる部品の形状によっては、部品に生じると想定される塑性ひずみ又は残留応力の状態を試験片に反映することができず、遅れ破壊性の評価精度の観点で改善の余地がある。
【0010】
特許文献2に記載の評価方法では、試験片に付与する残留応力の大きさを自由に設定することが可能である。しかし、この方法では、電解溶液中で試験片を引っ張るための引張試験機が必要となり、遅れ破壊性の評価試験を行う際に使用する試験装置が大掛かりな装置となる。このため、複数の試験片を用いて評価試験を行うことは困難であり、評価対象となる試験片が複数ある場合、全ての試験片の評価を完了するまでに時間がかかる。
【0011】
特許文献3に記載の評価方法は、長方形状のブランクを面外方向に曲げ加工した試験片を用いる方法であるため、打抜き端面、せん断端面または切断端面などの端面における遅れ破壊性評価を行うことはできない。
【0012】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、打抜き端面、せん断端面または切断端面などの端面における遅れ破壊性評価を行う際に、複数の試験片を用いて評価試験を行うことができ、かつ、製品形状の部品に生じると想定される塑性ひずみと残留応力の状態を試験片に反映させやすくして評価精度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決する本発明は、遅れ破壊性評価方法であって、鋼板からなる円形ブランクに対して円筒絞り加工を行うことで絞り成形物を作製し、前記絞り成形物から、円筒部と、フランジ部の一部とを取り除くことでC字状鋼板を作製し、前記C字状鋼板に対し、当該C字状鋼板の両端部が互いに接近または離隔する方向に荷重を付与して当該C字状鋼板を面内方向に弾性変形させ、前記C字状鋼板に対する前記荷重が取り除かれる際に前記C字状鋼板の弾性変形が維持され、かつ、前記C字状鋼板に面外変形が生じないように当該C字状鋼板を拘束し、前記C字状鋼板を拘束した状態で前記荷重を取り除くことによって試験片を作製し、前記試験片を用いて遅れ破壊性評価を行うことを特徴としている。
【0014】
別の観点による本発明は、遅れ破壊性評価方法であって、鋼板からなるブランクに対して打抜き加工、せん断加工又は切断加工を行うことでC字状鋼板を作製し、前記C字状鋼板に対し、当該C字状鋼板の両端部が互いに接近または離隔する方向に荷重を付与して当該C字状鋼板を面内方向に弾性変形させ、前記C字状鋼板に対する前記荷重が取り除かれる際に前記C字状鋼板の弾性変形が維持され、かつ、前記C字状鋼板に面外変形が生じないように当該C字状鋼板を拘束し、前記C字状鋼板を拘束した状態で前記荷重を取り除くことによって試験片を作製し、
前記試験片を用いて遅れ破壊性評価を行うことを特徴としている。
【0015】
別の観点による本発明は、遅れ破壊性評価方法であって、鋼板からなる円形ブランクに対して円筒絞り加工を行うことで絞り成形物を作製し、前記絞り成形物の円筒部のみを取り除くことで試験片を作製し、前記試験片を用いて遅れ破壊性評価を行うことを特徴としている。
【0016】
別の観点による本発明は、遅れ破壊性評価方法であって、鋼板からなる円形ブランクに対して円筒絞り加工を行うことで絞り成形物を作製し、前記絞り成形物のフランジ部に切欠き又は貫通孔を形成することで試験片を作製し、前記試験片を用いて遅れ破壊性評価を行うことを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、打抜き端面、せん断端面または切断端面などの端面における遅れ破壊性評価を行う際に、複数の試験片を用いて評価試験を行うことができ、かつ、製品形状の部品に生じると想定される塑性ひずみと残留応力の状態を試験片に反映させやすくして評価精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態に係る遅れ破壊性評価に用いられる試験片を示す図である。
図2】円形ブランクを示す斜視図である。
図3図2の円形ブランクに円筒絞り加工を施した絞り成形物を示す斜視図である。
図4】絞り成形物の円筒部が取り除かれた円環状鋼板を示す斜視図である。
図5】C字状鋼板を示す図である。
図6】C字状鋼板に対して荷重を付与している状態を示す図である。
図7】C字状鋼板を拘束部材で拘束した状態を示す図である。
図8図7を矢印Zの方向から見た図である。
図9】試験片を浸漬液に浸漬させた状態を示す図である。
図10】切欠きが設けられたC字状鋼板の形状例を示す図である。
図11】フランジ部に貫通孔が設けられた絞り成形物の形状例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する要素においては、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0020】
本実施形態に係る遅れ破壊性評価方法は、塑性ひずみと残留応力が付与された図1に示す試験片を作製し、その試験片を用いて遅れ破壊性評価を行う方法である。なお、試験片に用いる鋼板の引張強さは特に限定されないが、遅れ破壊は鋼板の引張強さが大きいほど発生しやすい。このため、本実施形態に係る遅れ破壊性評価方法は、引張強さが780MPa以上の鋼板を用いて評価試験を行う際に特に有用である。
【0021】
以下、試験片の作製方法の一例について説明する。
【0022】
まず、鋼板を打ち抜いて図2に示すような円形ブランク2を作製する。なお、本明細書における「円形ブランク」には、楕円形ブランクは含まれない。また、ブランクの外形が円形であっても、ブランクに貫通孔や切欠きが形成されている場合には、そのブランクは本明細書における「円形ブランク」には含まれない。
【0023】
次に、図3に示すように、円形ブランク2の円筒絞り加工を行う。これにより、円筒部3aとフランジ部3bを有する絞り成形物3が得られる。この絞り成形物3においては、円筒部3aとフランジ部3bに塑性ひずみが生じているが、ここで発生する塑性ひずみの大きさは、円筒部3aの成形高さH(絞り深さ)に応じて変化する。換言すると、円筒絞り加工を行う際に成形高さHを調節することで、円筒部3aとフランジ部3bに所望の塑性ひずみを付与することができる。すなわち、製品形状の部品に生じると想定される塑性ひずみの大きさに合わせて成形高さHを決定することによって、遅れ破壊性評価に用いる試験片1に対して製品形状の部品に生じる塑性ひずみと同等の塑性ひずみを設定することができる。
【0024】
なお、多角形ブランクに円筒絞り加工を行う場合にはフランジ部に残留応力が生じるが、本実施形態のように円形ブランク2から円筒絞り加工を行う場合には、フランジ部3bの残留応力は生じにくい。すなわち、円形ブランク2の円筒絞り加工によって得られる絞り成形物3においては、残留応力を生じさせずに所望の塑性ひずみのみを設定することができる。また、多角形ブランクの絞り成形物においては、フランジ部に生じる塑性ひずみの大きさがフランジ部の周方向に沿って変化するが、円形ブランク2の絞り成形物3においては塑性ひずみの大きさが均一になりやすい。このような均一な塑性ひずみが発生した試験片1においては、塑性ひずみが局所化していないことから、発生ひずみを正確に評価し易い。このため、遅れ破壊性への塑性ひずみの影響を評価しやすくなり、遅れ破壊性評価をより精度良く行うことができる。
【0025】
次に、図4に示すように、絞り成形物3から円筒部3aを取り除くことでフランジ部3bのみを残し、円環状鋼板4を作製する。絞り成形物3から円筒部3aを取り除く方法は特に限定されないが、例えばレーザー切断などの切断加工により円筒部3aが切除される。前述のように円形ブランク2に対して円筒絞り加工を行う場合は、フランジ部3bに残留応力が生じないことから、絞り成形物3から円筒部3aを取り除いたとしても、フランジ部3bに生じていた塑性ひずみの大きさは変化しにくい。すなわち、円環状鋼板4においては、図3に示す円筒絞り加工後のフランジ部3bの塑性ひずみが残存している。
【0026】
次に、円環状鋼板4の周方向の一部領域を取り除いて、図5に示すC字状鋼板5を作製する。円環状鋼板4の一部領域を取り除く方法は特に限定されないが、例えばレーザー切断などの切断加工や、せん断加工により一部領域が切除される。C字状鋼板5の開口部6の間隔、すなわちC字状鋼板5の一方の端部5aと他方の端部5bとの間隔は、後述するC字状鋼板5への荷重付与の際にC字状鋼板5の両端部5a、5bが互いに接触しない間隔であればよい。
【0027】
本実施形態におけるC字状鋼板5は、二つの平面部7を有している。各平面部7は、C字状鋼板5の外縁部の2箇所を、例えばレーザー切断などの切断加工や、せん断加工によって取り除くことで形成される。各平面部7は、線対称形状のC字状鋼板5の対称軸Aと平行であり、各平面部7とC字状鋼板5の内径中心Oまでの距離はそれぞれ等しい。
【0028】
なお、図3に示す絞り成形物3から図5に示すC字状鋼板5を作製するための手順は、本実施形態で説明された手順に限定されない。例えば図3に示す絞り成形物3のフランジ部3bに対して開口部6と二つの平面部7を形成した後に、円筒部3aを取り除くことでC字状鋼板5を作製してもよい。
【0029】
次に、図6に示すように、C字状鋼板5に対し、C字状鋼板5の両端部5a、5bが互いに近づく方向に荷重を付与し、C字状鋼板5を面内方向(図6の紙面平行方向)に弾性変形させる。換言すると、C字状鋼板5を塑性変形させないようにC字状鋼板5の両端部5a、5bが互いに近づく方向にC字状鋼板5を曲げ変形させる。
【0030】
本実施形態においては、C字状鋼板5の二つの平面部7を万力8で挟持することによって、C字状鋼板5の対称軸A側に向かって荷重が付与される。C字状鋼板5に対して荷重が付与されることで、C字状鋼板5に応力が発生するが、本実施形態においては、ここで発生する応力が後述の試験片1の残留応力となる。すなわち、C字状鋼板5に対して付与する荷重を調節することで、C字状鋼板5の応力を調節することができ、試験片1に所望の残留応力を付与することができる。このため、製品形状の部品に生じると想定される残留応力の大きさに合わせてC字状鋼板5に付与する荷重を決定することで、試験片1に対して製品形状の部品に生じる残留応力を設定することができる。
【0031】
なお、C字状鋼板5への荷重付与手段は、所望の応力を発生させることが可能な手段であれば特に限定されない。例えばC字状鋼板5に荷重を付与する際には、後述の二つの拘束部材9を用いて、C字状鋼板5の面外変形を抑制しつつ、面内方向の弾性変形を阻害しない程度の弱い拘束力でC字状鋼板5を拘束しながら荷重を付与してもよい。
【0032】
また、本実施形態においては、C字状鋼板5を万力8で挟持して荷重を付与するために二つの平面部7を設けているが、他の荷重付与手段でC字状鋼板5に所望の応力を付与することができれば、二つの平面部7を設けなくてもよい。また、C字状鋼板5に対する荷重入力位置も本実施形態で説明した位置に限定されない。
【0033】
次に、図7および図8に示すように、C字状鋼板5に荷重を付与している状態で、C字状鋼板5の面外方向(図7の紙面垂直方向)から、二つの拘束部材9でC字状鋼板5を挟持する。その後、二つの拘束部材9を例えばボルト締結によって互いに固定する。このようにC字状鋼板5が拘束されることでC字状鋼板5の面外変形が抑制される。
【0034】
拘束部材9によるC字状鋼板5の拘束力の大きさは、C字状鋼板5への荷重付与時に生じていた応力が、図1のようにC字状鋼板5に付与していた荷重を取り除いた際に残留応力として残るように設定される。換言すると、C字状鋼板5への荷重付与時に発生させた面内方向の弾性変形が、荷重を取り除いた際にもそのまま維持されるような拘束力でC字状鋼板5を拘束する。これにより、図6に示す荷重付与工程で遅れ破壊性評価のために付与した応力が、残留応力としてC字状鋼板5に残存する。
【0035】
なお、本実施形態における拘束部材9は、四角形状の板であるが、C字状鋼板5を拘束することが可能であれば、拘束部材9の形状や厚み、個数は特に限定されない。また、二つの拘束部材9の固定方法もボルト締結に限定されない。また、二つの拘束部材9の材料や、各拘束部材9を互いに固定する固定具の材料は、C字状鋼板5の材料と異なっていてもよい。
【0036】
本実施形態における遅れ破壊性評価に使用される試験片1は、以上の手順によって作製される。そして、図9に示すように、その試験片1を例えば塩酸やチオシアン酸アンモニウムなどの浸漬液に浸漬させることで遅れ破壊性評価が実施される。なお、試験片1の作製後に行われる遅れ破壊性の評価試験は、公知の試験方法を適用することができる。
【0037】
C字状鋼板5の外周面や内周面は、製品形状の部品の打抜き端面、せん断端面または切断端面などの端面に相当する部分であるため、上記の試験片1を用いて遅れ破壊性評価を行うことで、端面における塑性ひずみ又は残留応力と、遅れ破壊性との関係を評価することができる。
【0038】
本実施形態における試験片1の作製方法によれば、試験片1に対して付与する塑性ひずみと残留応力をそれぞれ個別に設定することができる。すなわち、塑性ひずみの大きさを自由に設定することができると共に、残留応力の大きさも自由に設定することができる。このため、製品形状の部品に生じると想定される塑性ひずみ及び残留応力を試験片1に付与することができるため、この試験片1を用いることで、従前より精度良く遅れ破壊性の評価を行うことができる。
【0039】
また、本実施形態における遅れ破壊性の評価方法によれば、塑性ひずみと残留応力が付与された試験片1を浸漬液に浸漬するだけで評価試験を行うことができるため、浸漬液に複数の試験片1を浸漬することができる。すなわち、一度の評価試験で複数の試験片1の遅れ破壊性を評価することが可能である。
【0040】
なお、C字状鋼板5には、例えば打抜きや、せん断、切断等の加工により切欠き又は貫通孔が設けられてもよい。図10に示す例では、C字状鋼板5の外周面と対称軸Aが交差する位置において、打抜き加工により形成された切欠き10が設けられている。このような切欠き10が形成されたC字状鋼板5を用い、図6図8に示した方法で残留応力を付与することで、曲げ外側で残留応力が発生している部品の打抜き端面を想定した遅れ破壊性評価を行うことができる。切欠きや貫通孔の形成位置は、遅れ破壊性の評価対象となる部品の形状に応じて適宜決定される。
【0041】
また、前述の実施形態においては、塑性ひずみと残留応力の両方が付与されるように試験片1を作製したが、遅れ破壊性評価においては、塑性ひずみが発生せず、残留応力のみが発生する部品について評価を行う場合もある。そのような部品を想定して遅れ破壊性の評価を行う場合には、例えば図2図4に示す円形ブランク2から円環状鋼板4を作製する工程を省略すればよい。具体的には、鋼板のブランクに対して打抜き加工、せん断加工または切断加工を行うことで図5に示すC字状鋼板5を作製し、その後に図6図8に示す方法で試験片1を作製すればよい。これにより、塑性ひずみが発生せずに、残留応力のみが発生した試験片1を作製することができる。この試験片1を用いて、遅れ破壊性の評価を行うことで、残留応力のみが生じる部品を想定した遅れ破壊性の評価を行うことができる。
【0042】
なお、以上の実施形態では、C字状鋼板5に残留応力を設定するために、C字状鋼板5の両端部5a、5bが互いに接近する方向に荷重を付与したが、C字状鋼板5の両端部5a、5bが互いに離隔する方向(遠ざかる方向)に荷重を付与してもよい。例えば図5に示すC字状鋼板5の対称軸Aで分割される上側の部分と下側の部分をそれぞれ逆方向に引っ張るように弾性変形させ、その状態で拘束部材9によってC字状鋼板5を拘束することで試験片1を作製してもよい。
【0043】
また、遅れ破壊性の評価においては、残留応力が発生せず、塑性ひずみのみが発生する部品について評価を行う場合もある。そのような部品を想定して遅れ破壊性の評価を行う場合には、例えば図2図4に示す工程を経て作製された円環状鋼板4を試験片1として用いて遅れ破壊性評価を実施すればよい。この試験片1には、図3に示す円筒絞り加工によって所望の塑性ひずみが付与された状態にあり、残留応力は付与されていない。この試験片1を用いて、遅れ破壊性の評価を行うことで、塑性ひずみのみが生じる部品を想定した遅れ破壊性の評価を行うことができる。
【0044】
また例えば、塑性ひずみのみが付与された部品端面の遅れ破壊性を評価するために、図3のように円形ブランク2を円筒絞り加工した後、絞り成形物3のフランジ部3bに切欠き又は貫通孔を設けることで、試験片1を作製してもよい。図11に示す例では、フランジ部3bにおいて、打抜きにより貫通孔11が形成されている。この貫通孔11が形成された絞り成形物3を試験片1として用いることで、貫通孔11の周囲に塑性ひずみのみが生じた部品を想定した遅れ破壊性評価を行うことができる。
【0045】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しうることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、鋼板の遅れ破壊性評価に適用することができる。
【符号の説明】
【0047】
1 試験片
2 円形ブランク
3 絞り成形物
3a 円筒部
3b フランジ部
4 円環状鋼板
5 C字状鋼板
5a 端部
5b 端部
6 開口部
7 平面部
8 万力
9 拘束部材
10 切欠き
11 貫通孔
A 対称軸
H 成形高さ
O 内径中心
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11