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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023044091
(43)【公開日】2023-03-30
(54)【発明の名称】車両用窓構造
(51)【国際特許分類】
   B60J 1/00 20060101AFI20230323BHJP
   C03C 27/06 20060101ALI20230323BHJP
【FI】
B60J1/00 H
C03C27/06 101E
C03C27/06 101F
C03C27/06 101J
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021151943
(22)【出願日】2021-09-17
(71)【出願人】
【識別番号】000002059
【氏名又は名称】シンフォニアテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137486
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 雅直
(74)【代理人】
【識別番号】100129377
【弁理士】
【氏名又は名称】瀬川 耕司
(72)【発明者】
【氏名】小久保 拓実
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 仁
【テーマコード(参考)】
4G061
【Fターム(参考)】
4G061AA11
4G061BA02
4G061CB02
4G061CB06
4G061CD02
4G061CD23
4G061CD24
(57)【要約】      (修正有)
【課題】車窓の防音特性を調整することで音を透過させる周波数帯を可変できる車両用窓構造を提供する。
【解決手段】本発明の車両用窓構造1は、パネル部材2aと、パネル部材2aと対向するように配置されるパネル部材2bと、パネル部材2aとパネル部材2bとの間に配置され、気体が充填された第1中間層5aと、パネル部材2a及びパネル部材2bを変形させる圧力調整部10とを備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1パネル部材と、
前記第1パネル部材と対向するように配置される第2パネル部材と、
前記第1パネル部材と前記第2パネル部材との間に配置され、気体が充填された第1中間層と、
前記第1パネル部材及び前記第2パネル部材の少なくとも一方を変形させるパネル特性変更調整手段とを備えることを特徴とする車両用窓構造。
【請求項2】
パネル特性変更調整手段は、前記第1中間層に充填された気体の圧力を調整する圧力調整手段であることを特徴とする請求項1に記載の車両用窓構造。
【請求項3】
前記第2パネル部材と対向するように配置される第3パネル部材と、
前記第2パネル部材と前記第3パネル部材との間に配置され、液体が充填された第2中間層とを備えることを特徴とする請求項1または2に記載の車両用窓構造。
【請求項4】
前記第1~第3パネル部材は、樹脂で形成されることを特徴とする請求項3に記載の車両用窓構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば静粛性の優れた自動車に搭載される車両用窓構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、車両の電動化が急速に進んでおり、種々の電気自動車が開発されている。電気自動車では、従来のエンジンを搭載した自動車においてエンジン音に埋もれていた振動騒音が顕在化してしまう。また、自動運転(運転アシスト)の普及により運転者が車の操作を行う頻度が減っており、より振動騒音を感じやすい状況になってきている。そのため、車内の快適性が強く求められる傾向にある。
【0003】
車内の快適性を損なう要因の一つとしてロードノイズが挙げられる。ロードノイズはタイヤ起因の騒音であり、タイヤのトレッドパターンが路面に接地するときに発生するパターンノイズと、段差乗り越え時に発生する気柱共鳴音があり、いずれも車内に騒音として伝搬する。これらの騒音は、特に車窓からの侵入が問題となっており、高級車では、ガラスを合わせガラスに変更することで、特に車窓からのロードノイズを低減する対策を施している。また、窓以外にも騒音対策は施されており、高級車の静粛性は大衆車のそれと比べ、大幅に優れている。
【0004】
車両などに使用される遮音性に優れた合わせガラスとしては、1対のガラス板と、1対のガラス板に挟持される中間膜とを有するものがある(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載された合わせガラスにおいて、中間膜は、樹脂で形成されており、1対のガラス板を接着している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017―214274号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば特許文献1に記載された合わせガラスを使用すると、車窓からの騒音の侵入が抑えられるため、車内の快適性が向上する。しかしながら、元々静粛性が優れている自動車において、合わせガラスで更に車窓の防音性能を高めると、時として、聞こえなければならない音(例えば緊急車両のサイレン音など)まで消してしまう恐れがある。そのため、周囲環境の認知を遅らせてしまい、運転手が危険や緊急事態を瞬時に把握できない可能性がある。
【0007】
そこで本発明は、車窓の防音特性を調整することで音を透過させる周波数帯を可変できる車両用窓構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明に係る車両用窓構造は、第1パネル部材と、前記第1パネル部材と対向するように配置される第2パネル部材と、前記第1パネル部材と前記第2パネル部材との間に配置され、気体が充填された第1中間層と、前記第1パネル部材及び前記第2パネル部材の少なくとも一方を変形させるパネル特性変更調整手段とを備えることを特徴とする。
【0009】
これにより、第1パネル部材と第2パネル部材との間に気体が充填された第1中間層を設けて、第1パネル部材及び第2パネル部材の少なくとも一方を変形させてパネルの振動特性を変化させることにより、防音特性を調整することができる。よって、車両用窓構造の防音特性を必要に応じて調整することで、運転手が周囲環境を適正に認知することができる。
【0010】
本発明に係る車両用窓構造において、前記パネル特性変更調整手段は、前記第1中間層に充填された気体の圧力を調整する圧力調整手段であることを特徴とする。
【0011】
これにより、第1中間層に充填された気体の圧力を変化させることにより、パネルを変形させて、パネルの振動特性を容易に変化させることができる。
【0012】
本発明に係る車両用窓構造において、前記第2パネル部材と対向するように配置される第3パネル部材と、前記第2パネル部材と前記第3パネル部材との間に配置され、液体が充填された第2中間層とを備えることを特徴とする。
【0013】
これにより、2つのパネル部材間に充填される液体が、2つのパネル部材間の相互作用を遮断するバッファとして作用し、2つのパネル部材が独立している状態となる。そのため、音が入射される時にパネル部材による遮音が2回発生することになる。また、それに加えて、2つのパネル部材間に充填される液体による遮音効果も得られる。よって、第1中間層内の空気による共鳴透過現象による防音特性の低下した分を補完でき、既存の合わせガラスと同等以上の防音性能が得られる。
【0014】
本発明に係る車両用窓構造において、前記第1~第3パネル部材は、樹脂で形成されることを特徴とする。
【0015】
これにより、軽量化と既存の合わせガラスと同等以上の防音特性を保持しつつ、車両用窓構造の防音特性を必要に応じて調整することで、運転手が周囲環境を適正に認知することができる。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明によれば、車両用窓構造の防音特性を必要に応じて調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の第1実施形態の車両用窓構造1の正面図である。
図2図1の車両用窓構造1のa-a線断面の模式図である。
図3】ガラス板とパネル部材2の防音性能を示す図である。
図4】比較例の車両用窓構造501の断面図である。
図5図1の車両用窓構造1と比較例の車両用窓構造501の防音性能を示す図である。
図6】第1中間層5aの空気圧を減圧させた際のパネルの振動特性の変化を示す図である。
図7】第1中間層5aの空気圧を減圧させた際の図1の車両用窓構造1の防音特性の変化を示す図である。
図8】本発明の第2実施形態の車両用窓構造101の正面図である。
図9図8の車両用窓構造101のa-a線断面の模式図である。
図10図8の車両用窓構造101と比較例の車両用窓構造501の防音性能を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0019】
(第1実施形態)
本実施形態の車両用窓構造1は、図1及び図2に示すように、パネル部材2aと、パネル部材2aと対向するように配置されるパネル部材2bと、パネル部材2aとパネル部材2bとの間に配置される第1中間層5aとを有している。
【0020】
パネル部材2aが車内側に配置され、第1中間層5a、パネル部材2bの順に車外側に近づくように配置される。なお、以下の説明では、パネル部材2a及びパネル部材2bをそれぞれ、単にパネル部材2と称する場合がある。
【0021】
2つのパネル部材2は、無色透明な略矩形状の板状部材であり、それぞれ略同一の大きさを有している。パネル部材2は、例えばアクリル樹脂などの樹脂を材料として形成される。
【0022】
パネル部材2aとパネル部材2bとの間には、その外周部の全周にわたってシール部材3が配置される。シール部材3としては、例えばOリングが使用される。
【0023】
パネル部材2aとパネル部材2bとの間の第1中間層5a(シール部材3に囲まれた領域)には、無色透明な気体が充填される。本実施形態では、気体として空気が使用される。
【0024】
そのため、車両用窓構造1は、従来の合わせガラス(ガラス板が使用されるもの)と同程度の透明度を有している。
【0025】
第1中間層5aには、接続管6が取り付けられている。接続管6の一端部は、第1中間層5aの内部に配置され、接続管6の他端部は、圧力調整部10(パネル特性変更調整手段10)に接続される。そのため、圧力調整部10を制御することで、第1中間層5aに充填された空気の圧力(空気圧)を調整可能である。
【0026】
本実施形態の車両用窓構造1は、例えば自動車などの車両の窓構造として使用される。
【0027】
アクリル樹脂製のパネル部材2と同一の厚さのガラス板とで防音性能を比較すると、図3に示すように、パネル部材2は、ガラス板よりも透過損失が低く、防音性能が低い。なお、図3の横軸は騒音の周波数を示し、縦軸は透過損失を示している(図5図7図10においても同様)。
【0028】
車両用窓構造において、従来の合わせガラスのガラス板をアクリル樹脂製のパネル部材2に置き換えることで軽量化の点で有効であるが、防音性能が低下してしまう課題がある。
【0029】
そこで、車両用窓構造1では、アクリル樹脂製のパネル部材2を2重構造とし、パネル部材2aとパネル部材2bとの間に気体を充填した第1中間層5aを形成する構造とした。
【0030】
本実施形態の車両用窓構造1と従来の合わせガラス501とで、防音性能の比較を行った。
【0031】
比較例としては、図4に示すように、2つのガラス板502と、2つのガラス板502に挟持される中間膜505とを有する合わせガラス501を使用した。中間膜105は、樹脂で形成されている。ガラス板502は、パネル部材2と同一の厚さを有する。
【0032】
比較例の合わせガラス501のガラス板502を、アクリル樹脂製のパネル部材2a及びパネル部材2bへ置換して、その間に第1中間層5aを形成し、第1中間層5aに充填された空気圧を大気圧にした場合、その防音性能は、図5に示すように、650kHz以上の周波数帯では、比較例の防音性能より相対的に高くなる。
【0033】
例えば、元々静粛性が優れている自動車に比較例のような合わせガラスで更に車窓の防音性能を高めた場合と同様に、聞こえなければならない音(例えば、緊急車両のサイレン音など)を消してしまう可能性がある。よって、運転手が危険や緊急事態を瞬時に把握できるように、音を透過させる必要がある。
【0034】
そのため、本実施形態の車両用窓構造1では、パネル部材2aとパネル部材2bとの間の第1中間層5a内の空気圧を調整することにより、パネルの共振周波数(パネル部材2a及びパネル部材2bの共振周波数)を異なる周波数帯にシフトさせて、パネルの振動特性(周波数特性)を変化させることができる。
【0035】
第1中間層5a内の空気圧を減圧した場合のパネルの振動特性の変化について、図6に基づいて説明する。
【0036】
図6は、第1中間層5a内の空気圧が大気圧の場合と、第1中間層5a内の空気圧を減圧して低圧にした場合のパネルの振動特性を示している。本実施形態では、各周波数の騒音に対してパネル部材2がどのように振動するかについて測定した。
【0037】
第1中間層5a内の空気圧が大気圧(1気圧)の場合、図6に示すように、パネルの共振点(共振周波数)が400Hz付近にあることが分かる。なお、550Hz付近にある共振点(図6で一点鎖線で囲んだ部分)は、第1中間層5a内の空気による共鳴透過現象によるものであり、パネルの共振とは直接関係ない。その点は、第1中間層5a内の空気圧を減圧した場合も同様である。
【0038】
これに対して、第1中間層5a内の空気圧を減圧すると、第1中間層5a内外の圧力差により、パネル部材2a及びパネル部材2bの中央部が、他方のパネル部材2側に向かって曲がるようにそれぞれ変形し、パネルの曲げ剛性が高まる。すると、その剛性向上によってパネルの共振周波数は、高周波側へシフトする。そのため、車両用窓構造1において、音が透過しやすい周波数帯も高周波側へシフトするため、防音特性が変化する。
【0039】
すなわち、第1中間層5a内の空気圧を減圧した場合(低圧の場合)、図6に示すように、パネルの共振周波数が1kHz付近にあることが分かる。図6では、第1中間層5a内の空気圧を大気圧からa気圧(ただしaは正数)減圧した場合を示している。このように、第1中間層5a内の空気圧を減圧することにより、パネルの共振周波数が、大気圧の場合の400Hz付近から1kHz付近に変化している。
【0040】
よって、第1中間層5a内の空気圧を減圧することで、パネルの共振周波数が高周波側へシフトして、第1中間層5a内の空気圧が大気圧の場合と比べて、車両用窓構造1の音が透過しやすい周波数帯も高周波側へシフトする。
【0041】
上述したように、第1中間層5a内の空気圧を減圧した場合の車両用窓構造1の防音特性の変化について、図7に基づいて説明する。
【0042】
第1中間層5a内の空気圧が大気圧の場合の車両用窓構造1の防音特性は、図7に示すように、比較例に比べ、650Hz以上の周波数帯で高い状態である。その状態において、第1中間層5a内の空気圧を減圧することにより、パネルの共振周波数を1kHz付近に変化させる。すると、車両用窓構造1の音が透過しやすい周波数帯も高周波側へシフトするため、車両用窓構造1の防音性能は、図7に示すように、1kHz周辺を中心にした周波数帯において低下する。これにより、1kHz周辺以外では防音特性を保持しつつ、比較例のような合わせガラスで車窓の防音性能を高めた自動車において聞こえにくかった音(例えば緊急車両のサイレン音など)が聞こえるようになる。
【0043】
なお、650Hz以下の周波数帯について、第1中間層5a内の空気圧を減圧しても、車両用窓構造1の防音特性は、第1中間層5a内の空気圧が大気圧の場合の防音特性とあまり変化していない。
【0044】
本実施形態の車両用窓構造1を有する自動車において、第1中間層5a内の空気圧を減圧することにより、周囲環境を認知するために、特定の周波数帯の音を透過させることができる。
【0045】
以上のように、本実施形態の車両用窓構造1は、第1パネル部材であるパネル部材2aと、パネル部材2aと対向するように配置される第2パネル部材であるパネル部材2bと、パネル部材2aとパネル部材2bとの間に配置され、気体が充填された第1中間層5aと、パネル部材2a及びパネル部材2bを変形させるパネル特性変更調整手段10とを備える。
【0046】
これにより、パネル部材2aとパネル部材2bとの間に気体が充填された第1中間層5aを設けて、パネル部材2a及びパネル部材2bを変形させてパネルの振動特性を変化させることにより、車両用窓構造1の防音特性(特に遮音特性)を調整することができる。よって、車両用窓構造1の防音特性を必要に応じて調整することで、運転手が周囲環境を適正に認知することができる。
【0047】
本実施形態の車両用窓構造1において、パネル特性変更調整手段10は、第1中間層5aに充填された気体の圧力を調整する圧力調整部10である。
【0048】
これにより、第1中間層5aに充填された気体の圧力を変化させることにより、パネル部材2を変形させて、パネルの振動特性を容易に変化させることができる。
【0049】
本実施形態の車両用窓構造1において、第1~第3パネル部材であるパネル部材2a~2cは、樹脂で形成される。
【0050】
これにより、軽量化と既存の車載ガラスに対して同等以上の防音特性を保持しつつ、車両用窓構造1の防音特性を必要に応じて調整することで、運転手が周囲環境を適正に認知することができる。
【0051】
(第2実施形態)
本実施形態の車両用窓構造101が、第1実施形態の車両用窓構造1と異なる点は、第1実施形態では、パネル部材2の2重構造であるのに対して、本実施形態では、パネル部材2の3重構造である点である。本実施形態の車両用窓構造101の構成において、第1実施形態の車両用窓構造1と同一の部分については、詳細説明を省略する。
【0052】
本実施形態の車両用窓構造101は、図8及び図9に示すように、パネル部材2aと、パネル部材2aと対向するように配置されるパネル部材2bと、パネル部材2bと対向するように配置されるパネル部材2cと、パネル部材2aとパネル部材2bとの間に配置される第1中間層5aと、パネル部材2bとパネル部材2cとの間に配置される第2中間層5bとを有している。
【0053】
パネル部材2aが車内側に配置され、第1中間層5a、パネル部材2b、第2中間層5b、パネル部材2cの順に車外側に近づくように配置される。なお、以下の説明では、パネル部材2a、パネル部材2b及びパネル部材2cをそれぞれ、単にパネル部材2と称する場合がある。
【0054】
3つのパネル部材2は、無色透明な略矩形状の板状部材であり、それぞれ略同一の大きさを有している。パネル部材2は、例えばアクリル樹脂などの樹脂を材料として形成される。
【0055】
パネル部材2bとパネル部材2cとの間には、その外周部の全周にわたってシール部材3が配置される。シール部材3としては、例えばOリングが使用される。
【0056】
パネル部材2bとパネル部材2cとの間の第2中間層5b(シール部材3に囲まれた領域)には、無色透明な液体が充填される。本実施形態では、液体として常温水が使用される。
【0057】
そのため、車両用窓構造101は、従来の合わせガラス(ガラス板が使用されるもの)と同程度の透明度を有している。
【0058】
第1中間層5aには、接続管6が取り付けられており、圧力調整部10を制御することで、第1中間層5aに充填された空気の圧力(空気圧)を調整可能である。
【0059】
本実施形態の車両用窓構造101では、アクリル樹脂製のパネル部材2を3重構造とし、パネル部材2aとパネル部材2bとの間に気体を充填した第1中間層5aを形成するとともに、パネル部材2bとパネル部材2cとの間に液体を充填した第2中間層5bを形成する構造とした。
【0060】
本実施形態の車両用窓構造101と従来の合わせガラス501とで、防音性能の比較を行った。比較例としては、第1実施形態と同様に、合わせガラス501を使用した。また、車両用窓構造101の5a内の空気圧は、大気圧である。
【0061】
比較例の合わせガラス501では、ガラス板502同士が樹脂を介して一体化されているため、実質、1枚のガラス板として防音性能を示すのに対して、本実施形態の車両用窓構造1では、第2中間層5bに充填された液体が、パネル部材2bとパネル部材2cとの間の相互作用を遮断するバッファとして作用し、パネル部材2b及びパネル部材2cがそれぞれ独立している状態となる。そのため、音が入射される時に、パネル部材2による遮音が2回発生することになる。そのため、第1中間層5aに気体が充填された状態によって発生する共鳴透過現象による400~700Hzの周波数帯の透過損失の低下分を補完する効果が得られる。また、第2中間層5bに充填された液体による遮音効果も得られる。
【0062】
そのため、パネル部材2bとパネル部材2cとの間に液体を充填した第2中間層5bを形成することで、図5に示すように、第1実施形態の第1中間層5aに充填された空気圧を大気圧にした場合の防音特性が比較例よりも低下する周波数帯(約400~700kHz)において、図10に示すように、防音性能の低下した分を補完される。よって、車両用窓構造101は、1kHz以下の周波数帯において、既存の合わせガラス501と同等以上の防音性能が得られるが、それ以上の周波数帯では、比較例の防音性能より相対的に高くなる。
【0063】
そのため、本実施形態の車両用窓構造101では、パネル部材2aとパネル部材2bとの間の第1中間層5a内の空気圧を調整することにより、パネルの共振周波数(パネル部材2a及びパネル部材2bの共振周波数)を異なる周波数帯にシフトさせて、パネルの振動特性を変化させる。
【0064】
すなわち、車両用窓構造101において、パネル部材2a及び第1中間層5aは、1kHz以上の周波数帯の防音特性を調整するためのものである。
【0065】
第1中間層5a内の空気圧を減圧した場合のパネルの振動特性の変化は、第1実施形態と同様である。
【0066】
本実施形態において、第1中間層5a内の空気圧を減圧した場合の車両用窓構造101の防音特性の変化について、図10に基づいて説明する。
【0067】
第1中間層5a内の空気圧が大気圧の場合の車両用窓構造1の防音特性は、図10に示すように、比較例に比べ、1kHz~2kHzの周波数帯で高い状態である。その状態において、第1中間層5a内の空気圧を減圧することにより、パネルの共振周波数を1kHz付近に変化させる。すると、車両用窓構造101の音が透過しやすい周波数帯も高周波側へシフトする。すなわち、車両用窓構造101の防音性能は、図10に示すように、1kHz~2kHzの周波数帯において比較例以下まで低下する。これにより、比較例のような合わせガラスで車窓の防音性能を高めた自動車において、聞こえにくかった音(例えば緊急車両のサイレン音など)が聞こえるようになる。
【0068】
なお、1kHz以下の周波数帯について、第1中間層5a内の空気圧を減圧しても、車両用窓構造101の防音特性は、第1中間層5a内の空気圧が大気圧の場合の防音特性とあまり変化していない。
【0069】
以上のように、本実施形態の車両用窓構造101では、比較例と同等以上の防音性能を確保しつつ、第1中間層5a内の空気圧を減圧することにより、運転手が危険や緊急事態を瞬時に把握するための音を透過できる。
【0070】
本実施形態の車両用窓構造101において、第2パネル部材であるパネル部材2bと対向するように配置される第3パネル部材であるパネル部材2cと、パネル部材2bとパネル部材2cとの間に配置され、液体が充填された第2中間層5bとを備える。
【0071】
これにより、2つのパネル部材2b、2c間に充填される液体が、2つのパネル部材2b、2c間の相互作用を遮断するバッファとして作用し、2つのパネル部材2b、2cが独立している状態となる。そのため、音が入射される時にパネル部材2による遮音が2回発生することになる。また、それに加えて、2つのパネル部材2b、2c間に充填される液体による遮音効果も得られる。よって、第1中間層5a内の空気による共鳴透過現象による防音特性の低下した分を補完でき、既存の合わせガラス501と同等以上の防音性能が得られる。
【0072】
なお、具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではない。
【0073】
例えば上記第1及び第2実施形態では、パネル部材2が、アクリル樹脂で形成されるが、それに限られない。パネル部材2は、例えば、アクリルガラス、有機ガラス、ポリカーボネート、塩化ビニルなど、樹脂を材料として形成されるものであればよい。本発明の車両用窓構造が有するパネル部材2の形状、厚さ、数は、任意である。
【0074】
上記第1及び第2実施形態では、シール部材3がOリングであるが、それに限られない。シール部材3は、2つのパネル部材2間に充填された液体5をシールするものであればよい。
【0075】
上記第1及び第2実施形態では、第1中間層5aに充填される気体として空気が使用されるが、それに限られない。第1中間層5aに充填される気体の種類は、任意である。
【0076】
上記第2実施形態では、第2中間層5bに充填される液体として常温水が使用されるが、それに限られない。第2中間層5bに充填される液体の種類は、任意である。例えば、液体として、温水、冷水、油、不凍液、水溶液などを使用してもよい。また、液体として、着色された有色透明の液体を使用してもよい。液体を着色する色は任意である。
【0077】
上記第2実施形態では、第2中間層5bに充填される液体として常に常温水が充填されているが、それに限られない。例えば、第2中間層5b内に充填される液体の水温を調整し、循環させるシステムを追加してもよい。その場合、車窓の熱貫流率を変化させ、車窓からの熱の移動を低減させる効果が得られ、車内温度を一定に保つ効果が得られる。
【0078】
上記第1及び第2実施形態では、第1中間層5aに充填された気体の圧力を減圧することでパネルの振動特性を変化させているが、それに限られない。例えば、第1中間層5aに充填された気体の圧力を加圧することでパネルの振動特性を変化させてもよい。
【0079】
上記第1及び第2実施形態では、車両用窓構造1が、パネル特性調整手段として、第1中間層5aに充填された気体の圧力を調整する圧力調整手段10を有しているが、それに限られない。本発明のパネル特性調整手段は、パネル部材2a及びパネル部材2bの少なくとも一方を変形させてパネルの振動特性を変化させるものであればよい。例えば、空気層である第1中間層5a内にピストンを挿入し、そのピストンの伸縮運動によってパネルを変形させてパネルの振動特性を変化させてもよい。
【0080】
本発明において、パネル部材2a及びパネル部材2bの少なくとも一方を変形させてパネルの振動特性を変化させるパネル特性調整手段は、パネル部材2a及びパネル部材2bの少なくとも一方を変形させてパネル剛性を変化させるパネル剛性調整手段でもある。
【0081】
上記第1及び第2実施形態では、第1中間層5aに充填された気体の圧力を調整して、1kHz~2kHzの周波数帯について音が透過しやすいようにして防音性能を低下させたが、それに限られない。第1中間層5aに充填された気体の圧力を調整して、音が透過しやすいようにする周波数帯を、1kHz~2kHzの周波数帯以外の周波数帯にしてもよい。車両用窓構造1において、第1中間層5aに充填された気体の圧力を調整して、パネルの共振振動数を低周波側へシフトしてもよい。
【0082】
上記第2実施形態では、空気層である第1中間層5aが車内側に配置され、液体層である第2中間層5bが車外側に配置されるが、それに限られない。液体層である第2中間層5bが車内側に配置され、空気層である第1中間層5aが車外側に配置されてもよい。
【0083】
上記第2実施形態では、パネル部材2aと、パネル部材2aと対向するように配置されるパネル部材2bと、パネル部材2bと対向するように配置されるパネル部材2cと、パネル部材2aとパネル部材2bとの間に配置される第1中間層5aと、パネル部材2bとパネル部材2cとの間に配置される第2中間層5bとを有していたが、それに限らない。例えば、パネル部材2bを2つに分割して、パネル部材2aとパネル部材2cの各々に対向するように配置し、分割した部分を従来の合わせガラスで使用されている中間膜で接着させてもよい。
【0084】
上記第1及び第2実施形態では、自動車の車両用窓構造1、101について説明したが、それに限られない。本発明の車両用窓構造は、自動車以外の車両にも適用可能である。
【符号の説明】
【0085】
1 車両用窓構造
2 パネル部材
2a パネル部材(第1パネル部材)
2b パネル部材(第2パネル部材)
2c パネル部材(第3パネル部材)
3 シール部材
5a 第1中間層
5b 第2中間層
10 圧力調整部(圧力調整手段、パネル特性調整手段)
101 車両用窓構造
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10