(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023044207
(43)【公開日】2023-03-30
(54)【発明の名称】シートフレーム、シート、および乗り物
(51)【国際特許分類】
B60N 2/68 20060101AFI20230323BHJP
A47C 7/02 20060101ALI20230323BHJP
A47C 7/00 20060101ALI20230323BHJP
【FI】
B60N2/68
A47C7/02 A
A47C7/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021152113
(22)【出願日】2021-09-17
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】榎本 健史
(72)【発明者】
【氏名】菊池 昭一
(72)【発明者】
【氏名】浅岡 和弘
(72)【発明者】
【氏名】オラフ ハートマン
(72)【発明者】
【氏名】パトリック ショルツ
(72)【発明者】
【氏名】レアズ―ミルチア サラク
【テーマコード(参考)】
3B087
【Fターム(参考)】
3B087DB02
3B087DB03
3B087DB09
3B087DB10
(57)【要約】
【課題】使用者の座り心地がより改善された、シートフレーム、当該シートフレームを有するシート、および当該シートを有する乗り物を提供すること。
【解決手段】クッション部およびバック部の少なくとも一方に、シートの幅方向に伸びている板状の弾性構造体が配置されたシートフレームである。前記弾性構造体は、端部が使用者側を向くように屈曲した板状の第1屈曲部材と、端部が使用者側とは反対側を向くように屈曲した板状の第2屈曲部材とが、前記第1屈曲部材の前記端部と前記第2屈曲部材の前記端部とが互いから離れる方向を向くように配置されてなる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クッション部およびバック部の少なくとも一方に、シートの幅方向に伸びている板状の弾性構造体が配置されたシートフレームであって、
前記弾性構造体は、端部が使用者側を向くように屈曲した板状の第1屈曲部材と、端部が使用者側とは反対側を向くように屈曲した板状の第2屈曲部材とが、前記第1屈曲部材が前記第2屈曲部材よりも使用者側に配置されてなり、
前記第1屈曲部材および第2屈曲部材はいずれも、一方向に配向した複数の強化繊維とマトリクス樹脂とを含む、
シートフレーム。
【請求項2】
前記第1屈曲部材の端部は、枠体に固定されていない、請求項1に記載のシートフレーム。
【請求項3】
前記第2屈曲部材の端部は、枠体に固定されていない、請求項1または2に記載のシートフレーム。
【請求項4】
前記第1屈曲部材の端部を所定の高さで保持する高さ保持部材を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載のシートフレーム。
【請求項5】
前記弾性構造体は、クッション部に配置された、請求項1~4のいずれか1項に記載のシートフレーム。
【請求項6】
前記弾性構造体は、クッション部およびバック部の両方に配置された、請求項1~5のいずれか1項に記載のシートフレーム。
【請求項7】
前記マトリクス樹脂は、熱可塑性樹脂である、請求項1~6のいずれか1項に記載のシートフレーム。
【請求項8】
前記マトリクス樹脂は、ポリアミド樹脂またはポリオレフィン樹脂を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載のシートフレーム。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載のシートフレームと、パッド部材と、を有する、シート。
【請求項10】
請求項9に記載のシートを有する、乗り物。
【請求項11】
クッション部およびバック部の少なくとも一方に、シートの幅方向に伸びている板状の弾性構造体が配置されたシートフレームであって、
前記弾性構造体は、端部が使用者側を向くように屈曲した板状の第1屈曲部材と、端部が使用者側とは反対側を向くように屈曲した板状の第2屈曲部材とが、前記第1屈曲部材の前記端部と前記第2屈曲部材の前記端部とが互いから離れる方向を向くように配置されてなる、
シートフレーム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートフレーム、シート、および乗り物に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などのシートは、シートフレームと、シートクッションおよびシートバックなどのクッション材と、を有する。そして、シートフレームには、使用者の座り心地を向上させるためのばね部材(弾性部材)が配置される。たとえば、上記ばね部材としては、特許文献1などに記載のように、金属製ワイヤーから構成されたばね部材などが用いられる。
【0003】
また、特許文献2には、枠体およびばね部材を繊維強化合成樹脂から一体に成形したシートフレームが記載されている。特許文献2には、上記ばね部材の形状として、S字が連続した形状、および中間部が平面状で両端部が厚さ方向に湾曲された波形の形状、を採用し得ることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-25993号公報
【特許文献2】実開昭55-89357号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のような、従来使用されている金属製のばね部材(例えばワイヤー)は、細径であることから、均一な変形を実現し、乗り心地を向上させるために、煩雑な加工による複雑形状部品を成形する必要がある、という問題がある。この問題を解決するため、またシートの軽量化を図るため、本発明者らは繊維強化樹脂製の弾性体によりシートフレームのばね部材を代用する方法を検討した。
【0006】
しかし、特許文献2に記載のような形状では、ばね部材(弾性体)の弾性が不足しており、使用者の座り心地が良好であるとはいえなかった。
【0007】
本発明は、上記従来技術の課題に鑑みなされたものであり、使用者の座り心地がより改善された、シートフレーム、当該シートフレームを有するシート、および当該シートを有する乗り物を提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に関するシートフレームは、クッション部およびバック部の少なくとも一方に、シートの幅方向に伸びている板状の弾性構造体が配置されたシートフレームである。前記弾性構造体は、端部が使用者側を向くように屈曲した板状の第1屈曲部材と、端部が使用者側とは反対側を向くように屈曲した板状の第2屈曲部材とが、前記第1屈曲部材が前記第2屈曲部材よりも使用者側に配置されてなり、
前記第1屈曲部材および第2屈曲部材はいずれも、一方向に配向した複数の強化繊維とマトリクス樹脂とを含む。
【0009】
上記課題を解決するための本発明の他の実施形態に関するシートは、前記シートフレームと、クッション材と、を有する。
【0010】
上記課題を解決するための本発明の他の実施形態に関する乗り物は、前記シートを有する。
【0011】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に関するシートフレームは、クッション部およびバック部の少なくとも一方に、シートの幅方向に伸びている板状の弾性構造体が配置されたシートフレームである。前記弾性構造体は、端部が使用者側を向くように屈曲した板状の第1屈曲部材と、端部が使用者側とは反対側を向くように屈曲した板状の第2屈曲部材とが、前記第1屈曲部材の前記端部と前記第2屈曲部材の前記端部とが互いから離れる方向を向くように配置されてなる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、使用者の座り心地がより改善された、シートフレーム、当該シートフレームを有するシート、および当該シートを有する乗り物材が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に関するシートフレームの例示的な構成を示す分割斜視図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態における弾性構造体の形状を示す模式図である。
【
図3】
図3は、弾性構造体の上側-下側方向への断面図である。
【
図4】
図4は、本発明の一実施形態に関するシートフレームを有するシートを示す模式的な斜視図である。
【
図5】
図5は、シートフレームの別の態様を示す模式図である。
【
図6】
図6は、
図5に示すシートフレームに取り付けられる弾性構造体の形状を示す模式図である。
【
図7】
図7は、
図1と同様のシートフレームのクッション部に取り付けられる、
図2に示す弾性構造体とは異なる構造を有する弾性構造体の一例の形状を示す模式図である。
【
図8】
図8は、
図1と同様のシートフレームのクッション部に取り付けられる、
図2に示す弾性構造体とはさらに異なる構造を有する弾性構造体の一例の形状を示す模式図である。
【
図9】
図9は、
図1と同様のシートフレームのクッション部に取り付けられる、
図2に示す弾性構造体とはさらに異なる構造を有する弾性構造体の一例の形状を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、本発明の一実施形態に関するシートフレームの例示的な構成を示す分割斜視図である。
【0015】
シートフレーム100は、ヘッド部110、バック部120、クッション部130、およびオットマン部140を有し、それぞれの角度を、使用者に応じて変更可能である。これらの各部分は、金属製でもよいし樹脂製でもよいが、軽量化の観点からは樹脂製であることが好ましく、繊維強化樹脂製であることがより好ましい。そして、シートフレーム100には、使用者からの荷重が付与される板状の弾性構造体200が複数個配置されている。
【0016】
そして、バック部120およびクッション部130にはそれぞれ、シートフレーム100の外枠を規定する枠体である枠部122および枠部132と、弾性構造体200を支持するための支持部124および支持部134が配置されている。
【0017】
支持部124および支持部134はいずれも、補強板124aおよび補強板134aと、板状の弾性構造体200の端部が挿入される挿入保持部124bおよび挿入保持部134bと、を有する。
【0018】
補強板124aおよび補強板134aは、向かいあう2辺を枠部122または枠部132に支持されて枠部122および枠部132の枠内に配置された、略矩形の部材である。補強板124aおよび補強板134aは、使用者からの荷重による枠部122および枠部132の変形を抑制するための剛性部材である。また、補強板124aおよび補強板134aは、使用者からの荷重によりたわんだ弾性構造体200の、枠部122または枠部132の使用者とは反対側への屈曲変形を抑制する。
【0019】
挿入保持部124bおよび挿入保持部134bは、枠部122および枠部132の枠内方向に開口した、薄型の箱状の部材である。挿入保持部124bおよび挿入保持部134bは、補強板124aおよび補強板134aの、枠部122または枠部132に支持され辺上に配置されて、枠部122または枠部132に対して固定される。そして、上記開口に、板状の弾性構造体200の端部(後述する第2屈曲部材220の端部222aおよび端部222b)を挿入されることにより、弾性構造体200を保持する。
【0020】
弾性構造体200は、2つの屈曲部材により構成される、シートの幅方向に伸びている板状の部材である。本実施形態では、弾性構造体200は、バック部120に4個、クッション部130に3個、配置されている。
【0021】
図2は、弾性構造体200の形状を示す模式図である。
【0022】
弾性構造体200は、いずれも板状かつ屈曲した形状を有し、シートフレーム100の幅方向に伸びるように配置された、いずれも応力により変形可能な第1屈曲部材210と第2屈曲部材220とを有する。
【0023】
第1屈曲部材210は、第2屈曲部材220よりも使用者側(以下、使用者側を単に「上側」、使用者側とは反対側を単に「下側」ともいう。)に配置される。そして、第1屈曲部材210は、両側の端部212aおよび端部212bが上側を向くように屈曲した板状の形状を有する。本実施形態では、第1屈曲部材210は、その全体が下側に凸状の形状を有する。言い換えると、第1屈曲部材210は、下側に凸状となっている突端部214を1つのみ有する。
【0024】
第2屈曲部材220は、第1屈曲部材210よりも下側に配置される。そして、第2屈曲部材220は、両側の端部222aおよび端部222bが下側を向くように屈曲した板状の形状を有する。本実施形態では、第2屈曲部材220は、その全体が上側に凸状の形状を有する。言い換えると、第2屈曲部材220は、上側に凸状となっている突端部224を1つのみ有する。
【0025】
そして、第1屈曲部材210と第2屈曲部材220とは、第1屈曲部材210の下側に凸状となっている突端部214と、第2屈曲部材220の上側に凸状となっている突端部224と、が接触して、互いに保持しあっている。なお、上記突端部同士は、接着剤により接着されていてもよいし、ボルトおよびナットなどにより接合されていてもよいし、接着または接合されずに単に接触しているだけでもよい。
【0026】
第2屈曲部材220は、上記下側を向いている端部(両側の端部222aおよび端部222b)が、シートフレーム100の幅方向に対向して配置された一対の挿入保持部124bまたは一対の挿入保持部134bに挿入される。これにより、弾性構造体200はシートフレーム100の支持部124および支持部134に保持される。
【0027】
シートフレーム100を有するシート400(
図4参照)に使用者が座ると、第1屈曲部材210は、使用者からの荷重により、下側に凸状となっている突端部214が下方向に移動し、両側の端部212aおよび端部212bが枠内中央方向に移動するように変形する。このとき、上側(使用者側)に配置される第1屈曲部材210は、使用者の形状に応じて使用者を包み込むように変形することになる。上記使用者を包み込むような変形により、第1屈曲部材210は、使用者の座り心地を向上させる。
【0028】
一方でこのとき、第2屈曲部材220は、上記接触している突端部224により第1屈曲部材からの(使用者からの)荷重を受け、突端部224が下方向に移動するように変形する。しかし、このとき、第2屈曲部材220は、両側の端部222aおよび端部222bが挿入保持部124bまたは挿入保持部134bに挿入されて保持されているため、端部222aおよび端部222bは、挿入保持部124bまたは挿入保持部134bでわずかに回動するのみであり、ほぼ移動しない。そのため、第2屈曲部材220は、下方向への変形を解消するような反発力を第1屈曲部材210に付与する。この反発力により、第1屈曲部材210の過剰な変形を抑制して、弾性構造体100を使用者の形状にあわせて適度に変形させることにより、第2屈曲部材220も、使用者の座り心地を向上させる。また、上記反発力によるクッション性が使用者に伝わることによっても、使用者の座り心地が向上される。さらには、使用者がシート400から離れた後には、上記反発力により弾性構造体200は元の形状に戻ることができる。
【0029】
このように、弾性構造体200は、第1屈曲部材210の両側の端部212aおよび端部212bが上側を向くことによる、使用者を包み込むような第1屈曲部材210の変形と、第2屈曲部材220の両側の端部222aおよび端部222bが下側を向くことによる、第2屈曲部材220から第1屈曲部材210への反発力と、によって、使用者の座り心地を向上させることができる。
【0030】
なお、上記変形を容易にするため、第1屈曲部材210の端部212aおよび端部212bは枠部122または枠部132には固定されていない。
【0031】
また、第2屈曲部材220の端部222aおよび端部222bはそれぞれ、いずれも薄型の箱状の部材である挿入保持部124bおよび挿入保持部134bに挿入されているが、その先端部は枠部122または枠部132には固定されていない。そのため、第2屈曲部材220の変形時には、端部222aおよび端部222bが挿入保持部124bおよび挿入保持部134bの内部で自由に移動および回動することができる。これにより、変形による第2屈曲部材220の破壊が生じにくくなる。
【0032】
第1屈曲部材210および第2屈曲部材220は、上記変形により第1屈曲部材210が使用者を適度に包み込み、かつ第2屈曲部材220が適度な反発力を付与する形状であることが好ましい。たとえば、弾性構造体200の上側-下側方向への断面図(
図3、なお、
図3には、補強板134aおよび挿入保持部134bも点線で示す。)において、第2屈曲部材220の端部222aおよび端部222bから第1屈曲部材210の端部212aおよび端部212bまでの高さ(
図3中のH1)は、2cm以上15cm以下であることが好ましく、3cm以上10cm以下であることがより好ましい。また、第2屈曲部材220の、端部222aおよび端部222bから突端部224までの高さ(
図3中のH2)は、1cm以上10cm以下であることが好ましく、2cm以上6cm以下であることがより好ましい。
【0033】
また、第1屈曲部材210および第2屈曲部材220は、使用者から付与される荷重による上記変形に耐えうる特性を有していることが好ましい。たとえば、第1屈曲部材210および第2屈曲部材220を構成する材料はいずれも、JISK 7171(2016年)に規定されるサイズの試験片を用い、該規格の方法に準じて測定される曲げ弾性率が10GPa以上150GPa以下であることが好ましく、15GPa以上120GPa以下であることがより好ましい。また、第1屈曲部材210および第2屈曲部材220はいずれも、JISK 7161-1(2014年)に準じて測定される引張強度が50MPa以上5000MPa以下であることが好ましく、100MPa以上300MPa以下であることがより好ましい。
【0034】
いずれも板状である第1屈曲部材210および第2屈曲部材220の厚みは、上記変形および反発力を発揮できる限りにおいて特に限定されないが、0.3mm以上6mm以下であることが好ましく、0.5mm以上5mm以下であることがより好ましい。
【0035】
本実施形態では、第1屈曲部材210および第2屈曲部材220は、いずれも一方向に配向した複数の強化繊維とマトリクス樹脂とを含む。このような材料から形成された第1屈曲部材210および第2屈曲部材220は、軽量であり、かつ強度と弾性のバランスに優れるため、シートフレーム100を軽量化し、耐久性を高めつつ、座り心地を向上させやすい。
【0036】
上記強化繊維が配向する方向は特に限定されず、シートフレーム100の幅方向であってもよいし、シートフレーム100の幅方向に直交する方向であってもよいし、これらの中間の方向であってもよい。上記強化繊維が配向する方向は、曲げ弾性率をより向上させる観点から、シートフレーム100の幅方向であることが好ましい。また、第1屈曲部材210および第2屈曲部材220は、強化繊維が配向する方向が異なる複数の層を有していてもよいし、強化繊維が配向する方向が同一の複数の層を有していてもよい。
【0037】
上記強化繊維の材料は、特に限定されない。たとえば、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、ボロン繊維、および金属繊維などを、上記強化繊維として用いることができる。これらのうち、炭素繊維およびガラス繊維が好ましい。
【0038】
上記強化繊維は、強化繊維による強度の向上効果を十分に高める観点からは、平均直径が1μm以上20μm以下であることが好ましく、4μm以上10μm以下であることがより好ましい。
【0039】
上記強化繊維の長さは、通常15mm以上である。上記強化繊維の長さの下限値は、20mm以上が好ましく、100mm以上がより好ましく、500mm以上がさらに好ましい。上記強化繊維の長さの上限値の最大値は、たとえば50mである。通常、後述する成形体の製造方法に用いられるUDシートは、UDシートを製造後に所望の長さに裁断されたものが用いられる。そのため、成形体が含むUDシートが含む強化繊維の長さは、上述の長さの最小値によりも小さくなることがあり得る。
【0040】
また、上記強化繊維は、サイジング剤によりサイジング処理されていてもよい。
【0041】
上記サイジング剤は特に限定されないが、変性ポリオレフィンが好ましく、得には、カルボン酸金属塩を含む変性ポリオレフィンであることがより好ましい。上記変性ポリオレフィンは、たとえば、未変性ポリオレフィンの重合体鎖に、カルボン酸基、カルボン酸無水物基またはカルボン酸エステル基をグラフト導入し、かつ上記官能基と金属カチオンとの間で塩を形成させたものである。
【0042】
上記未変性ポリオレフィンは、エチレンに由来する構成単位の含有量が50モル%以上であるエチレン系重合体、またはプロピレンに由来する構成単位の含有量が50モル%以上であるプロピレン系重合体であることが好ましい。上記エチレン系重合体の例には、エチレン単独重合体、およびエチレンと炭素原子数3以上10以下のα-オレフィンとの共重合体が含まれる。上記プロピレン系重合体の例には、プロピレン単独重合体、およびプロピレンとエチレンまたは炭素原子数4以上10以下のα-オレフィンとの共重合体が含まれる。上記未変性ポリオレフィンは、ホモポリプロピレン、ホモポリエチレン、エチレン・プロピレン共重合体、プロピレン・1-ブテン共重合体、またはエチレン・プロピレン・1-ブテン共重合体であることが好ましい。
【0043】
また、上記強化繊維は、集束されて繊維束となっていてもよい。このとき収束された炭素繊維束あたりの単糸数は、100本以上100,000本以下であることが好ましく、1,000本以上50,000本以下であることがより好ましい。
【0044】
第1屈曲部材210および第2屈曲部材220において、それぞれの層の全質量に対する、上記強化繊維の含有量は、20質量%以上80質量%以下であることが好ましく、30質量%以上75質量%以下であることがより好ましく、30質量%以上65質量%以下であることがさらに好ましく、35質量%以上60質量%以下であることが特に好ましい。
【0045】
第1屈曲部材210および第2屈曲部材220において、それぞれの層の全体積に対する、上記強化繊維の含有量は、10体積%以上70体積%以下であることが好ましく、15体積%以上60体積%以下であることがより好ましく、20体積%以上60体積%以下であることがさらに好ましい。
【0046】
(マトリクス樹脂)
上記マトリクス樹脂の材料は、特に限定されない、上記マトリクス樹脂は、熱可塑性樹脂であってもよいし、熱硬化性樹脂であってもよい。また、上記マトリクス樹脂は、結晶性樹脂であってもよいし、非結晶性樹脂であってもよい。
【0047】
上記熱可塑性樹脂の例には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、およびポリ4-メチル-1-ペンテンなどを含むポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルファイド樹脂、ポリアセタール樹脂、アクリル系樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエーテルニトリル樹脂、塩化ビニル樹脂、ABS樹脂、ならびにフッ素樹脂などが含まれる。
【0048】
上記熱硬化性樹脂の例には、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、フラン樹脂、ケトン樹脂、キシレン樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂およびジアリルテレフタレート樹脂などが含まれる。
【0049】
これらのうち、第1屈曲部材210および第2屈曲部材220の曲げ特性を所望の範囲に調整しやすいという観点からは、熱可塑性樹脂が好ましい。また、熱可塑性樹脂のうち、ポリアミド樹脂およびポリオレフィン樹脂が好ましく、湿度可変の環境における曲げ特性の安定性の観点からは、ポリオレフィン樹脂がより好ましく、ポリプロピレン樹脂がさらに好ましい。第1屈曲部材210および第2屈曲部材220のいずれかがこれらの樹脂であることが好ましく、第1屈曲部材210および第2屈曲部材220の双方がこれらの樹脂であることがより好ましい。
【0050】
上記マトリクス樹脂は、添加剤を含む樹脂組成物であってもよい。上記添加剤の例には、公知の充填材(無機充填材、有機充填材)、顔料、染料、耐候性安定剤、耐熱安定剤、帯電防止剤、スリップ防止剤、酸化防止剤、防黴剤、抗菌剤、難燃剤、および軟化剤などが含まれる。たとえば、レーザーの照射によって切込プリプレグを融着させてカットシートを形成するときは、上記マトリクス樹脂は、照射する波長のレーザーを吸収する色素を含有する樹脂組成物であることが好ましい。上記色素は、300nm以上3000nm以下のいずれかの波長の光を吸収する色素であればよく、カーボンブラックであることが好ましい。
【0051】
また、マトリクス樹脂は、上記以外の樹脂や、上記強化繊維よりも短い長さの短繊維などの他の成分を含んでいてもよい。
【0052】
第1屈曲部材210および第2屈曲部材220において、それぞれの層の全質量に対する、上記マトリクス樹脂の含有量は、20質量%以上80質量%以下であることが好ましく、25質量%以上70質量%以下であることがより好ましく、35質量%以上70質量%以下であることがさらに好ましく、40質量%以上65質量%以下であることが特に好ましい。
【0053】
第1屈曲部材210および第2屈曲部材220の製造方法は、特に限定されない。たとえば、一方向に配向して配列された複数の強化繊維と、上記強化繊維に含浸されたマトリクス樹脂と、を有する薄膜状の繊維強化樹脂(単に「UDシート」ともいう。)を、積層させながら熱プレスやレーザー照射により互いに融着させて所定の幅、長さおよび厚みを有する板状の部材を作製し、その後、熱および応力をかけながら第1屈曲部材210および第2屈曲部材220の形状に加工すればよい。
【0054】
このとき、積層されて融着されるUDシートは、強化繊維の配向する方向を層間で異ならせてもよいし、すべての層で強化繊維を同一の方向に配向させてもよい。
【0055】
本実施形態では、シートフレーム100は複数の弾性構造体200(バック部120に4個、クッション部130に3個)が配置されている。ただし、弾性構造体200の個数および配置はこれに限定されるものではなく、たとえばバック部120にのみ弾性構造体200が配置されていてもよいし、クッション部130にのみ弾性構造体200が配置されていてもよい。あるいは、必要に応じてヘッド部110やオットマン部140に弾性構造体が配置されていてもよい。
【0056】
また、バック部120およびクッション部130(あるいは他の部位)に配置された複数の弾性部材を、弾性構造体200と、従来のばね部材との組み合わせとしてもよい。このとき、使用者の座り心地をよりよくする観点から、弾性構造体200は、使用者からの荷重が最も多くかかる位置、たとえば使用者の臀部や腰部や背中中央部に相当する位置に、配置することが好ましい。なお、使用者の座り心地をよりよくする観点からは、シートフレーム100に配置される弾性部材のすべてが弾性構造体200であることが好ましい。
【0057】
図4は、本実施形態のシートフレーム100を有するシート400を示す模式的な斜視図である。シート400は、シートフレーム100と、シートフレーム100の上側(使用者側)に配置されたパッド部材410と、を有する。
【0058】
パッド部材410は、使用者に接する軟質の部材である。パッド部材410は、ポリウレタンやポリオレフィンなどの発泡体を材料とする基材と、基材を被覆する表皮部とを有する。
【0059】
シート400は、使用者が座ったときに弾性構造体200が変形して、使用者を包み込み、かつ使用者に適度な反発力を付与する。そのため、使用者の座り心地が向上されている。
【0060】
図5は、シートフレームの別の態様を示す模式図であり、
図6は、
図5に示すシートフレームに取り付けられる弾性構造体の形状を示す模式図である。
【0061】
図5に示すシートフレーム100aは、クッション部130aに配置された弾性構造体600が、第1屈曲部材610の端部612aを所定の高さで保持する高さ保持部材630a、および第1屈曲部材610の端部612bを所定の高さで保持する高さ保持部材630b、を有する点で、
図1に示すシートフレーム100と異なる。
【0062】
高さ保持部材630aおよび高さ保持部材630bは、挿入保持部134bの上側の面に配置されて、第1屈曲部材610の端部612aおよび端部612bを上側に支持する。これにより、高さ保持部材630aおよび高さ保持部材630bは、第1屈曲部材610の端部612aと第2屈曲部材620の端部622aとの間の間隔、および第1屈曲部材610の端部612bと第2屈曲部材620の端部622bとの間の間隔を所定の間隔に固定する。こうして、高さ保持部材630aおよび高さ保持部材630bは、特に体重が重い使用者がシート400に座ったときの、第1屈曲部材610の下側に凸状となっている突端部614が過剰に沈み込み、端部612aおよび端部612bが過剰に上方および内側に移動するような変形を抑制する。このように、高さ保持部材630aおよび高さ保持部材630bは、使用者が座ったときに、第1屈曲部材610を過剰に変形させず、使用者を包み込む程度の変形にとどめることで、良好な座り心地を確保することができる。
【0063】
図7は、
図1と同様のシートフレーム100のクッション部130に取り付けられる、
図2に示す弾性構造体100とは異なる構造を有する弾性構造体の一例の形状を示す模式図である。
図7に示す弾性構造体700では、第1屈曲部材710が複数回にわたって変形しており、下側に凸状となっている3つの突端部714a、突端部714c、および突端部714e、ならびに上側に凸状となっている2つの突端部714bおよび突端部714dを有する。そして、中央の突端部714cが、上側に凸状となっている突端部724を1つのみ有する第2屈曲部材720の、当該上側に凸状となっている突端部724と接触している。
【0064】
第1屈曲部材710は、上側に凸状となっている2つの突端部714bおよび突端部714dが使用者の足(太腿の裏側)に当接する。この2つの突端部714bおよび突端部714dが使用者の足を支え、上方向に適度な弾性を付与することで、使用者の座り心地をより向上させることができる。
【0065】
なお、この弾性構造体700が配置されるシートフレームも、第1屈曲部材710の端部712aを所定の高さで保持する高さ保持部材、および第1屈曲部材710の端部712bを所定の高さで保持する高さ保持部材、を有していてもよい。
【0066】
また、複数回にわたって変形している第1屈曲部材710は、使用者の足に当接するクッション部130のみに配置され、バック部120には配置されなくてもよい(
図7参照)。一方で、バック部120にも複数回にわたって変形している第1屈曲部材710を有する弾性構造体700を配置して、使用者の背中に適度な弾性を付与して使用者の座り心地を向上させてもよい。
【0067】
図8は、
図1と同様のシートフレーム100のクッション部130に取り付けられる、
図2に示す弾性構造体100とはさらに異なる構造を有する弾性構造体の一例の形状を示す模式図である。
図8に示す弾性構造体800では、第1屈曲部材810が複数回にわたって変形しており、下側に凸状となっている2つの突端部814aおよび突端部814c、ならびに上側に凸状となっている1つの突端部814bを有する。そして、突端部814aおよび突端部814cが、上側に凸状となっている突端部824を1つのみ有する第2屈曲部材820と接触している。
【0068】
第1屈曲部材810は、上側に凸状となっている突端部814bが使用者の臀部に当接する。この突端部814b使用者の臀部を支え、上方向に適度な弾性を付与しつつ、下側に凸状となっている2つの突端部814aおよび突端部814cが使用者の足(太腿の裏側)を支えることで使用者の足を包み込むように変形し、使用者の座り心地をより向上させることができる。
【0069】
なお、この弾性構造体800が配置されるシートフレームも、第1屈曲部材810の端部812aを所定の高さで保持する高さ保持部材、および第1屈曲部材810の端部812bを所定の高さで保持する高さ保持部材、を有していてもよい。
【0070】
また、複数回にわたって変形している第1屈曲部材810は、クッション部130のうち使用者の臀部に当接する後方の部位のみに配置され、クッション部130の前方の部位およびバック部120には配置されなくてもよい(
図8参照)。一方で、クッション部130のすべての弾性部材を複数回にわたって変形している第1屈曲部材810としてもよいし、バック部120にも複数回にわたって変形している第1屈曲部材810を配置して、使用者の背中に適度な弾性を付与して使用者の座り心地を向上させてもよい。
【0071】
図9は、
図1と同様のシートフレーム100のクッション部130に取り付けられる、
図2に示す弾性構造体100とはさらに異なる構造を有する弾性構造体の一例の形状を示す模式図である。
図9に示すように、弾性構造体は、複数の第1屈曲部材と第2屈曲部材との組み合わせのうちに、他の組み合わせとは形状が異なる組み合わせが含まれていてもよい。
図9に例示する弾性構造体900は、一番前側が、下側に凸状となっている突端部214を1つのみ有する第1屈曲部材210と、上側に凸状となっている突端部224を1つのみ有する第2屈曲部材220との組み合わせとなっており、その他は、下側に凸状となっている2つの突端部814aおよび突端部814c、ならびに上側に凸状となっている1つの突端部814bを有する第1屈曲部材と、上側に凸状となっている突端部824を1つのみ有する第2屈曲部材220との組み合わせとなっている。
【0072】
なお、
図9に示した例はあくまで例示であって、これ以外のいかなる組み合わせが弾性構造体に含まれていてもよい。
【0073】
また、
図2、
図6、
図7、
図8および
図9に示すように、クッション部130に取り付けられる複数の第1屈曲部材と第2屈曲部材との組み合わせは、一番前側に配置された組み合わせが、他の組み合わせよりも高い位置に配置されていてもよい。これにより、使用者がシートに座ったときに臀部が沈み込むような座り心地を得ることができる。
【0074】
なお、上述の実施形態は本発明の一例を示すものであり、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の思想の範囲内において、他の種々多様な各実施形態も可能であることは言うまでもない。
【0075】
また、上述の実施形態では、自動車用シートについて説明したが、ここに開示されたシートフレームを有するシートは、自動車用シートには限られず、自動車以外の乗り物用シート、たとえば、航空機用シート、鉄道用シート、船舶用シート、または、車椅子用シートであってもよい。また、ここに開示されたシートフレームを有するシートは、屋内または屋外で使用される据え置き型の椅子、たとえば、オフィス用チェア、ゲーミングチェア、ダイニングチェア、ソファ、座椅子、キャンプ用チェアであってもよい。
【0076】
特に、上記シートを有する乗り物は、使用者の座り心地が改善されているため、長時間にわたって座っていても使用者は不快感を感じにくい。そのため、上記シートを有する乗り物は、使用者の乗り心地が向上する。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明に関するシートフレームは、使用者の座り心地が向上されている。そのため、本発明は、各種シートや、当該シートを有する乗り物の利用およびさらなる開発を促進し、各種分野の発展に寄与すると期待される。
【符号の説明】
【0078】
100、100a シートフレーム
110 ヘッド部
120 バック部
122 枠部
124 支持部
124a 補強板
124b 挿入保持部
130、130a クッション部
132 枠部
134 支持部
134a 補強板
134b 挿入保持部
140 オットマン部
200、600 弾性構造体
210、610、710 第1屈曲部材
212a、212b、612a、612b、712a、712b、812a、812b 端部
214,614、714a、714b、714c、714d、714e、814a、814b、814c 突端部
220、620、720 第2屈曲部材
222a、222b、622a、622b 端部
224、624、724、824 突端部
400 シート
410 パッド部材
630a、630b 高さ保持部材