(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023004423
(43)【公開日】2023-01-17
(54)【発明の名称】医用画像処理装置、医用撮像装置、及び、医用画像におけるノイズ低減方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/055 20060101AFI20230110BHJP
A61B 6/03 20060101ALI20230110BHJP
G06T 1/00 20060101ALI20230110BHJP
G06T 9/00 20060101ALI20230110BHJP
【FI】
A61B5/055 380
A61B6/03 360B
G06T1/00 290B
G06T9/00 200
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021106065
(22)【出願日】2021-06-25
(71)【出願人】
【識別番号】320011683
【氏名又は名称】富士フイルムヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000888
【氏名又は名称】弁理士法人山王坂特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金子 幸生
(72)【発明者】
【氏名】白猪 亨
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 敦郎
(72)【発明者】
【氏名】雨宮 知樹
(72)【発明者】
【氏名】横沢 俊
【テーマコード(参考)】
4C093
4C096
5B057
【Fターム(参考)】
4C093AA22
4C093CA06
4C093CA13
4C093FF03
4C093FF18
4C096AA01
4C096AB07
4C096AB11
4C096AD14
4C096AD24
4C096DB07
4C096DC05
4C096DC21
5B057AA09
5B057BA03
5B057CA02
5B057CA08
5B057CA12
5B057CA16
5B057CB02
5B057CB08
5B057CB12
5B057CB16
5B057CC01
5B057CE02
5B057CE03
5B057DA12
5B057DB02
5B057DB05
5B057DB09
(57)【要約】
【課題】種々のノイズやアーチファクトを含む画像や、撮像条件の違いによってノイズパターンが変化する画像についても、効果的且つ適切にノイズ除去を行うことができる技術を提供する。
【解決手段】AIを利用したノイズ除去技術を基本として、画像毎にアーチファクトも含むノイズ特性を分析し、分析結果に基づく画像分類を行って、分類ごとに最適なノイズ処理用ニューラルネットワークを適用し、ノイズ及びアーチファクトを低減する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
医用撮像装置が取得した画像を入力し、ノイズを低減した画像を出力する医用画像処理装置であって、
複数のノイズ低減用の処理器と、
入力画像の信号及びノイズのパターンを分析し、前記入力画像を分類する分析部と、
前記分析部の分類結果に基づき、前記複数の処理器から1ないし複数の処理器を選択し、選択した処理器を起動させる処理器選択部と、
を備えることを特徴とする医用画像処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の医用画像処理装置であって、
前記分析部は、前記入力画像を画像空間以外の空間データに変換し、変換後のデータから算出した特性値を用いて前記入力画像を分類することを特徴とする医用画像処理装置。
【請求項3】
請求項2に記載の医用画像処理装置であって、
前記分析部は、前記入力画像をスパース空間データに変換し、前記スパース空間データの複数領域の信号値またはその比を用いて前記入力画像を分類することを特徴とする医用画像処理装置。
【請求項4】
請求項2に記載の医用画像処理装置であって、
前記分析部は、前記入力画像を周波数空間データに変換し、前記周波数空間データの信号パターンを用いて前記入力画像を分類することを特徴とする医用画像処理装置。
【請求項5】
請求項1に記載の医用画像処理装置であって、
前記分析部は、前記入力画像のテクスチャ分析により算出した特性値に基づき、前記入力画像を分類することを特徴とする医用画像処理装置。
【請求項6】
請求項1に記載の医用画像処理装置であって、
前記分析部は、前記入力画像に含まれるアーチファクトのパターンに基づき、前記入力画像を分類することを特徴とする医用画像処理装置。
【請求項7】
請求項6に記載の医用画像処理装置であって、
前記分析部は、前記入力画像に含まれるライン状アーチファクトの有無とラインのパターンに基づき、前記入力画像を分類することを特徴とする医用画像処理装置。
【請求項8】
請求項1に記載の医用画像処理装置であって、
前記入力画像は、磁気共鳴撮像装置が取得した画像であり、受信コイルで受信する生体からの信号の空間分布の情報を用いて、前記入力画像を分類することを特徴とする医用画像処理装置。
【請求項9】
請求項1に記載の医用画像処理装置であって、
前記分析部は、前記入力画像とともに前記入力画像を取得したときの撮像パラメータを取得し、当該撮像パラメータを用いて前記入力画像を分類することを特徴とする医用画像処理装置。
【請求項10】
請求項9に記載の医用画像処理装置であって、
前記入力画像は、磁気共鳴撮像装置が取得した画像であり、前記撮像パラメータは、計測マトリクスサイズおよび再構成マトリクスサイズであることを特徴とする医用画像処理装置。
【請求項11】
被検体を撮像し医用画像を取得する撮像部と、
前記撮像部が取得した医用画像を処理する画像処理部と、を備えた医用撮像装置であって、
前記画像処理部として、請求項1に記載の医用画像処理装置を備えたことを特徴とする医用撮像装置。
【請求項12】
医用撮像装置が取得した画像に含まれるノイズを低減するノイズ低減方法であって、
画像のノイズのパターンを分析し、入力画像を分類するステップと、
分類毎に用意された複数のノイズ低減用の処理器から、前記分類するステップの分類結果に基づき、所定の処理器を選択するステップと、
選択された処理器により前記入力画像のノイズ低減処理を実行するステップと、
を含むノイズ低減方法。
【請求項13】
請求項12に記載のノイズ低減方法であって、
前記ノイズのパターンの分析は、画像のヒストグラム分析、テクスチャ分析、及び周波数空間又はスパース空間変換後のデータの分析のいずれかを含み、1ないし複数の分析の結果に基づいて前記入力画像の分類を行うことを特徴とするノイズ低減方法。
【請求項14】
請求項12に記載のノイズ低減方法であって、
前記分類するステップは、前記入力画像の分類において、前記分析結果とともに前記入力画像を取得したときの高速撮像条件を用いることを特徴とするノイズ低減方法。
【請求項15】
請求項12に記載のノイズ低減方法であって、
前記分類するステップ後に、処理器を選択しないステップと、処理器を選択しないことを表示装置に表示させるステップとを、さらに含むことを特徴とするノイズ低減方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁気共鳴撮像(MRI)装置やCT装置などの画像診断装置に係り、特に画像診断装置における画像のノイズ低減技術に関する。
【背景技術】
【0002】
画像診断装置として、磁気共鳴撮像(MRI)装置、CT装置、超音波撮像装置などの医用画像撮像装置が広く用いられている。被検体の負担を軽減し、また検査数を増大するために高速撮像の重要性が高まっている。一般に撮像装置では、取得するデータ数を減らすことで高速化を図ることができる。例えば、MRI装置では画像マトリクスに必要なエコー信号よりも少ないエコー信号を計測する(アンダーサンプリング)し、それを演算によって復元するパラレルイメージングや圧縮センシング等の高速撮像法が種々提案されている。
【0003】
しかし高速撮像では、得られる画像のノイズが大きくなる、即ちSNR(信号ノイズ比)が低くなるという課題がある。この課題は、CT装置や超音波装置にも共通する。
【0004】
近年、AIを用いた画質向上の研究開発が盛んに行われており、高いノイズ低減効果が示されつつある。特許文献1には、ニューラルネットワーク(NN)を用いた画像処理システムが開示され、NNの内部パラメータを入力画像に関連するデータに基づいて調整することが提案されており、それによって学習用の画像とノイズ量が異なる画像であってもノイズ低減性能を向上できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
医用画像撮像装置で取得される画像では撮像方法や撮像条件などに起因して様々な画質劣化が発生する。特に撮像部位や、患者の体格等が異なった場合、ノイズの特性が変わる。例えば、MRI装置では、患者に合わせて、画像化する範囲などを調整して撮像条件を決めると、それに伴いノイズの空間分布の特性が変わる。また、患者の体形に応じて、信号取得の感度の空間分布が異なり、それに伴いノイズの特性が変わる。例えば、特許文献1に記載されるようにノイズの大きさに応じた調整を行ったとしても、ノイズの空間分布を考慮した処理を行わないと、適切なノイズ低減処理ができない可能性があり、その場合、画像のボケが生じるなど新たな課題が発生する。
【0007】
例えば、MRI装置では、計測マトリクスサイズや再構成マトリクスサイズなどの撮像パラメータを異ならせて撮像した複数の画像間では、撮像データに同じノイズパターンのノイズ例えばガウシアンノイズが混入しても、得られる画像を比較すると、ノイズパターンは異なることとなり、両者を同様のノイズ低減手法で処理しても、適切なノイズが得られない場合がある。
【0008】
本発明は、撮像パラメータの違いによってノイズパターンが変化する画像についても、効果的且つ適切にノイズ除去を行うことができる技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、AIを利用したノイズ除去技術を基本として、画像毎にノイズ特性を分析し、分析結果に基づく画像分類を行って、分類ごとに最適なノイズ処理用ニューラルネットワークを適用することによって、ノイズを低減する。
【0010】
即ち本発明の画像診断装置は、医用撮像装置が取得した画像を入力し、ノイズを低減した画像を出力する医用画像処理装置であって、複数のノイズ低減用の処理器と、入力画像の信号及びノイズのパターンを分析し、入力画像を分類する分析部と、分析部の分類結果に基づき、複数の処理器から1ないし複数の処理器を選択し、選択した処理器を起動させる処理器選択部と、を備える。
【0011】
また本発明のノイズ低減技術は、医用撮像装置が取得した画像に含まれるノイズを低減するノイズ低減方法であって、画像のノイズのパターンを分析し、入力画像を分類するステップと、分類毎に用意された複数のノイズ低減用の処理器から、前記分類するステップの分類結果に基づき、所定の処理器を選択するステップと、選択された処理器により前記入力画像のノイズ低減処理を実行するステップと、を含む。
【0012】
なおノイズの特性は、主に、ノイズの大きさとノイズの空間分布で決まり、ノイズのパターンとはノイズの大きさおよびノイズの空間分布を意味する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、予めノイズ特性に応じて用意された複数の処理器から、入力画像のノイズ特性に最適な処理器を選択して適用することで、不適切なノイズ低減処理が行われるのを防止し、効果的なノイズ低減処理を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の医用画像処理装置の全体構成を示す図。
【
図2】
図1の医用画像処理装置の処理の概要を示す図。
【
図5】実施形態の医用画像処理装置を用いた処理の流れを示す図。
【
図7】(A)、(B)は、ノイズパターンが異なる画像の例を示す図。
【
図8】ヒストグラム内の範囲の領域を抽出して画像化したものを示す図。
【
図9】(A)、(B)は、ノイズパターンが異なる画像について、画像空間以外の空間データに変換したデータを示す図。
【
図10】(A)~(D)は、ノイズパターンが異なる異なる画像について、
図8、
図9に対応する図を示す図。
【
図11】分析すべきノイズパターンのユーザ選択を受け付けるGUIの一例を示す図。
【
図12】(A)、(B)は、それぞれ、処理器の構成の変形例を示す図。
【
図13】医用撮像装置の一例としてMRI装置を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の医用画像処理装置及び医用撮像装置の実施形態を説明する。
【0016】
<医用画像処理装置の実施形態>
図1は、医用画像処理装置の一実施形態の構成例を示す図である。この医用画像処理装置2は、医用撮像装置(以下、単に撮像装置ともいう)1が取得した医用画像を入力し、医用画像に含まれるノイズを低減する処理を行うものであり、医用画像のノイズ特性(ノイズパターン)に応じて最適なノイズ低減処理を行うように学習された複数の処理器23と、撮像装置1から処理対象である医用画像を入力し、画像(入力画像)の特性を分析し、入力画像を所定のパターンに分類するノイズパターン分析部(以下、分析部という)21と、複数の処理器23の中から、分析部21によって分類されたパターンに対応する処理器を選択する処理器選択部22と、分析部21、処理器選択部22及び処理器23の動作を制御する制御部24とを備えている。
【0017】
医用撮像装置1は、MRI装置、CT装置、超音波撮像装置など一般的な医用撮像装置である。このような撮像装置1が撮像した画像を処理する画像処理部を備える場合には、医用画像処理装置2は、医用撮像装置1の画像処理部の一部として機能するものであってもよいし、撮像装置1から独立した装置であって直接或いはネットワークを介して接続されていてもよい。また医用画像を格納する医用画像データベースなどの記憶装置5に接続することも可能であり、その場合、データベース(記憶装置5)から医用画像を取得する。
【0018】
さらに医用画像処理装置2は、表示装置3や入力装置4を備えていてもよく、入力装置4を介してユーザーによる処理の条件や指令を受け付けたり、処理結果を表示装置3に表示させたりすることができる。
【0019】
処理器23は、処理すべき入力画像のノイズパターンによって処理内容が異なる複数の処理器23-1、23-2、・・・23-Nからなり、各処理器は、入力層、中間層、及び出力層を備えたニューラルネットワーク(CNN)から構成されている。このようなCNNを用いた処理では、中間層において画像の畳み込み処理を繰り返し行うことで、目標とする高画質(ノイズ低減)画像を得る。畳み込み処理の最適化、すなわち各層のノードの重みや畳み込みの計数の最適化は、データ学習によって行うが、処理器23-1、23-2、・・・23-Nは、予めノイズパターンが異なる複数の画像を学習データとして学習を行い、ノイズパターンごとに適切なノイズ低減処理を行うように、各層のノードの重みや畳み込みの係数などが設定されている。また中間層の数も処理器ごとに異ならせてもよい。
【0020】
分析部21は、上述した処理器23による処理に先立って、入力画像のノイズパターンを分析し、分類する。分析には、画像を、画像空間とは異なる空間のデータに変換し、その空間における特性値を用いる方法、画像自体の特性、例えば、テクスチャ解析などの手法を用いることができ、これらの手法は適宜組み合わせてもよい。
【0021】
複数の処理器23-1~23-Nを用意する処理器の学習ステップは、上述した分析部21による分析及び分類と同様の手法で、予め多数の画像のノイズを分類し、分類毎の学習データセットを用いてそれぞれ学習を行う。この学習ステップの分析及び分類は、本実施形態の医用画像処理装置2の分析部21が行ってもよいし、分析部21と同様の構成を持つ別の画像処理装置を用いて行うことも可能である。
【0022】
処理器選択部22は、分析部21の分析結果に基づいて、入力画像を処理するのに最適な処理器を選択する。
【0023】
制御部24は、上述した各部の動作を制御するもので、処理器選択部22が入力画像に対し所定の処理器23を選択すると、選択された処理器23が入力画像を処理するように、その動作を制御する。
【0024】
画像処理装置2は、CPU(Central Processing Unit)やGPU(Graphics Processing Unit)等のプロセッサーと、メモリとを備えたコンピュータ等によって構成され、CPUが、メモリに格納されたプログラムを読み込んで実行することにより、処理器23-1~23-N、分析部21、および、処理器選択部22の機能をソフトウエアにより実現する。なお処理器23-1~23-N、分析部21、および、処理器選択部22の一部または全部をハードウエアによって実現することも可能である。例えば、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)のようなカスタムICや、FPGA(Field-Programmable Gate Array)のようなプログラマブルICを用いて処理器23-1~23-N、分析部21、および、処理器選択部22の機能を実現するように回路設計を行えばよい。
【0025】
上記構成の医用画像処理装置2の処理の概要を
図2に示す。図示するように、医用画像処理装置2が行う基本的な処理は、処理対象画像(入力画像)を入力した後、ノイズを分析するステップS201、分析結果に基づいて画像を分類するステップS202、分類された画像に最適な処理器を選択するステップS203、選択された処理器を適用してノイズを低減するステップS204からなる。
【0026】
これら処理の前提として、各処理器を学習する処理(学習ステップ)があるが、学習ステップは必ずしも同じ医用画像処理装置2で行う必要はなく、それとは別の画像処理装置で行ってもよい。但し、医用画像処理装置2の分析部21が行う分析手法と同じ手法で分類された画像を学習セットとして用いた学習を行う。
【0027】
またノイズ低減後の画像は、医用画像処理装置2が表示装置3を備える場合には、表示装置3に表示させてもよいし、撮像装置1に転送したり、撮像装置1の表示装置に表示させてもよい。
【0028】
以上説明した医用画像処理装置2の構成及び処理の概要を踏まえ、以下、処理の具体的な実施形態を説明する。
【0029】
<実施形態>
本実施形態では、画像がMRI装置で取得した画像であって、主としてノイズのパターンが計測マトリクスのサイズによって異なる場合の処理を説明する。
【0030】
[処理器の学習]
処理器23の学習を行って学習モデルである各処理器23-1~23-Nを作成しておく。
図3に処理器を構成するCNN(Convolutional Neural Network)の一例を示す。図示する例は、SRCNN(Super Resolution CNN)の例で、図中、f1~f3は中間層のカーネルサイズ、N1~N3は、層の深さである。このCNNの構造を基本として、学習により、カーネルサイズ、カーネルの係数(畳み込み係数)を最適化するが、さらに、層の数、深さなどを変更してもよい。
【0031】
学習は、
図4に示すように、フルサンプリングすることによって得た多数の医用画像を教師画像とし、サンプリングを減らしたアンダーサンプリングにて得た、ノイズを含む画像(以下,ノイズあり画像)と、教師画像とをセットで学習を行う。分析部21でノイズ画像に含まれるノイズパターン分析し、ノイズパターンに応じて複数のパターン(1~N)に分類する。分析は、例えば、教師画像から特性値を算出し、その特性値(数値のほか、ベクトルや行列を含む)をもとに複数に分類する。特性値は、画像そのもののテクスチャをグレーレベル同時生起行列(Gray Level Co- occurrence Matrix; GLCM)で数値化したものや、画像をフーリエ変換、Wavelet変換或いは離散コサイン変換することで画像空間以外の空間データとしたものを用いて特性値を抽出したもの、を用いることができる。複数の特性値を組み合わせて分類することも可能である。分析手法の詳細は後述する。
【0032】
このように画像を分類した後、ノイズパターン毎に、教師画像と、ノイズ画像とを学習データセットとして学習する。この学習データセットからパッチ画像を切り出し、数万枚以上の画像セットで学習を実行し、パターン毎の処理器を作成する。
【0033】
なお分類に際しては、画像やその変換画像から抽出される特徴値のみならず、画像を取得したときの撮像条件、例えば、計測マトリクスサイズなどの撮像パラメータの情報も分類時の要素に含めてもよい。
【0034】
計測マトリクスサイズが分類の要素として追加される場合、計測マトリクスサイズ毎に学習を行って、計測マトリクス毎の処理器を作成することも可能であるが、所定の計測マトリクスサイズの画像データセットを用いて学習した処理器のカーネルサイズやカーネルの係数を調整することで、学習データセットに用いた画像とは計測マトリクスサイズが異なる画像用の処理器を生成することも可能である。
【0035】
[ノイズ・アーチファクト除去処理]
ノイズパターンに対応する複数の処理器の学習を行った後、医用画像処理装置2は実際に入力される医用画像についてノイズ処理を行う。ノイズ処理の概要を
図5に示す。図示するように、画像処理装置2が医用画像を入力すると(S501)、分析部21が入力画像のノイズを分析し(S502)、分析結果に基づいて、入力画像を、予め決められた複数のノイズパターンのいずれかに分類する(S503)。分析部21が行う分析及び分類は、学習モデルを作成する際に行った分析及び分類と同様であり、画像の特徴から抽出した特性値を基づいて行われる。
【0036】
処理器選択部22が、入力画像が分類されたノイズパターンに対応する処理器23を選択する(S505)。分析部21の分析結果、例えば、特性値が複数のパターンの境界にある場合や、分類に用いた複数の計測マトリクスサイズの間の値である場合などは、複数のパターンの処理器を併用してもよいし、特性値と分類された群における中央値との距離が最も近い群に対応する処理器を用いてもよい。
【0037】
また処理器選択部22は、分析部21による分析の結果、例えば、ノイズ量が処理器23の学習に用いた学習データのノイズ量の範囲を大きく超えていたり、アーチファクトが大きくて分類に当てはまらないなど、適切な分類が行えない場合には、最適な処理器がないとして(S504)、それを表示装置3に表示してもよく(S507)、それにより不適切な処理を未然に防ぐことができる。
【0038】
処理器選択部22により選択された処理器23は、入力画像に対し画質向上処理を実行する(S506)。CNNによる処理では、処理の信頼性を、例えば出力結果の確率として得ることができるので、確率等から信頼性を判断し、表示装置3に表示してもよい(S507)。
【0039】
次に、具体的な分析部21の処理を説明する。ここではノイズパターンが異なる画像の例として、画像がMRI装置で取得した画像であって、計測マトリクスサイズが異なる2つの画像について特性値を算出する例を説明する。
図6に分析処理の流れを示す。
【0040】
ノイズ分析部21は、ノイズ特性として、入力画像におけるノイズのパターンを分析する。
【0041】
ノイズの大きさ(ノイズレベル)は、たとえば、ノイズあり画像のヒストグラムから算出することができる。分析部21は、ノイズレベルをヒストグラムより算出し、これに閾値を設定してノイズの大きさによる分類(大分類)を行う(S511)。
【0042】
次いでノイズレベルの違う群毎に、ノイズパターンの分析を行う(S512)。
図7にノイズパターンが異なる画像の例を示す。
図7は、計測マトリクスサイズを異ならせて取得したMR画像で、
図7(A)は計測マトリクスサイズが512×512、
図7(B)はマトリクスサイズが256×256の画像であり、再構成マトリクスは512×512に揃えた場合を示している。画像全体のヒストグラムで見た場合、(A)、(B)で同じような分布を示しており、ノイズレベルは同じように見える。
【0043】
図8に、
図7(A)、(B)の画像について、ヒストグラム内の所定の範囲の領域を抽出して画像化したものを示す。
図8(A)は計測マトリクスサイズが512×512,(B)は256×256であるが,拡大図を見るとわかるように,ノイズの模様が異なることがわかる。具体的には、(A)と比べ(B)の方が、模様が粗くなっている。
【0044】
分析部21は、このパターンを分類するために、まず、画像を画像空間以外の空間のデータに変換し(S513)、変換後の空間データの特性から特性値を算出する(S514)。
【0045】
図9に、
図7(A)、(B)の画像について、ノイズあり画像を画像空間以外の空間データに変換したデータを示す。ここでは、離散コサイン変換(DCT)後のデータ(周波数空間データ)を示す。
【0046】
同じ空間データで各データを比較すると、ノイズパターンの違い(ここでは計測マトリクスサイズに起因するノイズの空間分布の違い)に応じて、各データの特徴が異なる。(A)と比べ、(B)は図右下側の値が小さくなっているが、これは、ノイズあり画像に含まれる高周波成分が小さいことを示している。このことは、ノイズの模様が粗いという特性を表している。
【0047】
従って、本実施形態では、まず入力画像を離散コサイン変換し(S513)、変換後のデータについて、
図9に示すように、変換後データの4つの領域の領域に対して、平均値を算出し(S514)、閾値によって、パターンを分類する(S515)。或いは複数の領域の信号値の比などを用いてもよい。例えば、ある比の閾値として、0.5、1、1.5などを設定し、比が0.5未満、0.5~1.0未満、1.0~1.5未満、1.5以上の群に分類する。
【0048】
さらに計測マトリクスが非対称な場合を
図10に示す(
図10中、(A)及び(B)は、
図9に示した計測マトリクスが512x512、256x256の場合である)。(C)は計測マトリクスサイズが512x256、(D)は256x512であるが、(C)の場合では、縦方向に細かい周波数、(D)の場合では横方向に細かい周波数を持つノイズとなっており、DCTの結果でもその様子がわかる。
【0049】
以上、
図6~
図10を用いて、計測マトリクスサイズによるノイズ分布の違いを、分類のパターンとする例を示したが、それ以外のノイズパターンの違いについても、そのパターンを分類するのに適した非画像空間データを用いることで、分類することが可能である。
【0050】
たとえば、分析部21は、離散コサイン変換(DCT)以外の変換として、フーリエ変換や,ウェーブレット変換を用いてもよい。また、非画像空間データに変換するのではなく、画像自体の特性をもとに分類してもよい。例えば、画像のテクスチャ分析を行って、GLCM(Gray-Level Co-occurrence Matrix)やGLZM(Gray-Level Size Zone Matrix)を算出し、その分布からノイズによる均一性低下の指標を特性値として算出してもよい。画像のテクスチャ分析を行う場合には、入力画像を表示装置3に表示させて、分析すべき領域をユーザーが指示するようにしてもよい。これにより分析部21による演算負荷を軽減できる。
【0051】
また、受信コイルで受信する生体からの信号の空間分布の情報を元に分類してもよい。同じ検査で同じ部位の撮像の場合においても、患者の体のサイズによって、感度の空間分布が異なる。例えば、サイズの大きい患者の場合の腹部撮像では、複腹部の深部領域では受信感度が低くなりやすい。また,撮像部位や使用する受信コイルの種類によって、受信感度が局所的に低くなる領域や高くなる領域が生じることがある。たとえば、脊椎の撮像において、背中側のみに受信コイルを配置する場合と、背中と腹部側の両方に受信コイルを配置する場合とで、受信感度分布が異なる。この受信感度分布に応じて、ノイズの空間分布も異なることとなる。このノイズの空間分布をノイズパターンと捉え、画像を分類してもよい。この場合には、ノイズの空間分布である複数のノイズパターンで学習された処理器を用意しておく。
【0052】
さらに、上述したノイズの空間分布をノイズパターンとして分類された画像について、分析すべき領域を指定して或いは分割して、それ以外のノイズパターン(例えば計測マトリクスサイズに基づくノイズパターンや受信感度分布に基づくノイズパターン、さらにはノイズに関連する信号パターンなど)の分析を行い、領域毎に当該ノイズパターンに対応する処理器を選択してノイズ低減処理を行うことも可能である。
【0053】
ノイズパターンの分析は基本的に分析部21が自動的に行うものであるが、どのノイズの空間分布を用いた分類を行うか、或いは、どのようなノイズパターンの分析を行うかについて、補助的にユーザーが指定できるようにしてもよい。ユーザー指定を受け付けるGUIの一例を
図11に示す。
【0054】
図11に示す例では、ノイズの空間分布をノイズパターンとして選択するGUIブロック1101、計測マトリクスによるノイズパターンを選択するGUIブロック1102、及び信号パターンによるノイズパターンを選択するGUIブロック1103が設けられている。
図11の下側は、これらGUIブロック1101~1103で選択されるノイズパターンを示す図である。GUIブロック1101では、例えば、頭部の断面について、受信感度分布に応じたノイズパターン1~4が選択することができ、ユーザーは予め得た受信感度分布情報に基づき、所望のノイズパターン(ここでは画像中央部の感度が高いパターン3)を選択する。GUIブロック1102、1103では、所定の大きさの領域(断面画像の一部の領域)について計測マトリクスサイズや信号パターンに基づきノイズパターンを選択できるようになっている。
【0055】
このようなGUIを設けることで、例えば分析部21が自動的に分析して行うデノイズ処理に対し、ユーザーが適宜調整或いは追加の処理を行うことができ、ユーザーの自由度を上げることができる。
【0056】
以上、分析部21が行う処理の具体的な内容を説明したが、分析部21は、受信感度分布のみでなく、送信RFコイル151により生成される送信感度の空間分布の情報を基に分類してもよい。
【0057】
また、ノイズパターンを分析する場合を説明したが、パターン分析として、アーチファクトの特性を分析し、それに応じて分類してもよい。
【0058】
たとえば、MRI画像のアーチファクトとして、MRI装置のそばに配置される生体モニターなどの電気製品に起因するライン状のアーチファクトがある。アーチファクトを含む画像について、フーリエ変換、ウェーブレット変換、離散コサイン変換、テクスチャ解析などによる分析を行ってもよい。
【0059】
アーチファクトの分析においても、入力画像を表示装置3に表示させて、分析すべき領域をユーザーが指示するようにしてもよい。これにより分析部21による演算負荷を軽減できる。
【0060】
或いは、アーチファクトの分析の際に、さらにラインの位置や幅を抽出し、それを特性値とし分類してもよく、この場合には、学習済モデルとして、所定のノイズパターン(例えば計測マトリクスサイズ)毎にアーチファクトの有無によって異なる処理器23を作成している場合には、ノイズパターン分析を省略して分類することも可能である。
【0061】
また、ライン状のアーチファクトについて記したが、リンギングアーチファクト、血流アーチファクトなど、それ以外の種類のアーチファクトについても、同様にパターン分析し、分類してもよい。
【0062】
また、撮像パラメータとして、計測マトリクスサイズ以外の情報として、たとえば、スライス厚や、磁場強度の情報を用いてもよい。
【0063】
<変形例>
以上、分析部21による分析手法の実施形態を説明したが、これら手法は組み合わせることができ、それによって、適切な学習モデルの構築と、それを利用した画質向上処理を実現できる。
【0064】
また処理器23の適用は、単一の処理器23で処理するのではなく、
図12(A)に示すように、複数の処理器23で同時に処理し、その結果を画像合成部25で合成したり、
図12(B)に示すように、複数の処理器を順次適用して処理することも可能である。例えば、まずアーチファクトの有無によってアーチファクト除去用の処理器で処理を行い、続いてノイズパターン分類に基づく処理器による処理を行ってもよいし、計測マトクリクスサイズに基づくノイズ除去処理を行った後、それ以外のノイズパターンに基づく分類に従って選択された処理器による処理を行ってもよい。処理器を順次適用する場合、分析部21による処理を中間処理として、介在させることも可能である。
【0065】
<医用撮像装置の実施形態>
医用撮像装置の一実施形態として、MRI装置の構成を説明する。
【0066】
図13は、本発明が適用されるMRI装置の一実施形態を示す図である。このMRI装置100は、静磁場磁石(静磁場発生部)110、傾斜磁場コイル(傾斜磁場発生部)131、送信RFコイル151、受信RFコイル161、傾斜磁場電源132、シムコイル121、シム電源122、RF磁場発生器152、受信器162、計算機(画像再構成部)170、シーケンサ140を備える。なお、102は、撮像空間に被検体(被検体)103の撮像部位を載置するテーブルである。
【0067】
静磁場磁石110は、撮像空間に静磁場を発生する。静磁場磁石110は、ソレノイドコイルによって水平方向の静磁場を生成するトンネル型磁石であってもよいし、垂直方向に静磁場を生成する静磁場磁石110を用いてもよい。
【0068】
傾斜磁場コイル131は、傾斜磁場電源132に接続され、撮像空間に傾斜磁場を発生する。シムコイル121は、シム電源122に接続され、静磁場の均一度を調整する。
【0069】
送信RFコイル151は、RF磁場発生器152に接続され、被検体103にRF磁場を照射(送信)する。RF磁場の周波数は、撮像を所望する被検体103の核種の原子核(プロトン等)の核磁気を励起する周波数に設定される。送信RFコイル151としては、どのような構造のものを用いてもよく、例えば鳥かご型のRFコイルを用いることができる。
【0070】
受信RFコイル161は、受信器162に接続され、被検体103からの核磁気共鳴信号を受信する。受信RFコイル161は、例えば、複数のコイルユニットからなる多チャンネルRFコイル(アレイコイル)であり、これにより、パラレルイメージング法により高速撮像が可能になる。
【0071】
シーケンサ140は、傾斜磁場電源132、および、RF磁場発生器152に命令を送り、それぞれ動作させる。またシム電源122に命令を送り静磁場の均一性を補正する。命令は、計算機170からの指示に従って送出する。また、シーケンサ140は、計算機170からの指示に従って、受信器162に検波の基準とする磁気共鳴周波数をセットする。具体的には、撮像時には、シーケンサ140からの命令に従って、傾斜磁場およびRF磁場がそれぞれ所定のタイミングで傾斜磁場コイル131および送信RFコイル151から被検体103に照射される。被検体103が発生する核磁気共鳴信号は、受信RFコイル161によって検出され、受信器162で検波が行われる。これにより、所定の撮像方法を実現する撮像パルスシーケンスを実行する。
【0072】
計算機170は、MRI装置100全体の動作の制御、各種の信号処理を行う。例えば、計算機170は、予めプログラムされたタイミング、強度で各装置が動作するようシーケンサ140に命令を送出する。パラレルイメージングを行う場合、位相エンコードを1行おき等にして間引き、撮像パルスシーケンスの実行時間を短縮し、高速撮像にする。
【0073】
また、計算機170は、受信器162で検波された信号を不図示のA/D変換回路を介して受信し、画像再構成などの信号処理を行う。またパラレルイメージングなどの高速撮像の場合には、アレイコイルの感度マップを用いて画像再構したり、画像再構成後に折り返しを除く演算を行ったりする。さらに計算部170は、再構成後の画像に対し、ノイズ低減を含む補正などの処理を行う。これらの処理は、計算機170内に構築された画像処理部200が実行する。また計算機170には、処理結果を表示する表示装置や、ユーザーが所望の撮像条件などを入力するため入力デバイスを備えた出入力装置180が接続される。
【0074】
画像処理部200の構成は、
図1に示した画像処理装置2と同様であり、計算機170が再構成した画像を入力画像として、ノイズ低減やアーチファクト除去などの画質向上処理を実行する。この際必要に応じて、入力画像を撮像したときの撮像パラメータを用いて、入力画像の分析・分類を行う。
【0075】
画像処理部200によって高画質化処理された画像は、出入力装置(表示装置)に表示される。この際、高画質化前の画像などを併置して表示したり、高画質化処理の信頼性などを表示してもよく、これによりユーザーは処理が適切に行われたかを確認することができる。
【0076】
本実施形態のMRI装置によれば、異なる撮像条件や異なる高速化率で取得した種々の画像に対し、不適切なノイズ処理を行うことなく、適切なノイズ処理を行うことができる。
【符号の説明】
【0077】
1:医用撮像装置、2:画像処理装置、21:分析部、22:処理器選択部、23:処理器、24:制御部、25:画像合成部、3:表示装置、4:入力装置、5:記憶装置、100:MRI装置、200:画像処理部