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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023044232
(43)【公開日】2023-03-30
(54)【発明の名称】樹脂成型品および高周波機器
(51)【国際特許分類】
   H01Q 1/42 20060101AFI20230323BHJP
   G01S 7/03 20060101ALI20230323BHJP
   H01Q 17/00 20060101ALI20230323BHJP
   H05K 9/00 20060101ALI20230323BHJP
【FI】
H01Q1/42
G01S7/03 246
H01Q17/00
H05K9/00 Q
H05K9/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021152150
(22)【出願日】2021-09-17
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100183265
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 剣一
(72)【発明者】
【氏名】鶴田 崇
(72)【発明者】
【氏名】桑原 涼
(72)【発明者】
【氏名】西木 直巳
【テーマコード(参考)】
5E321
5J020
5J046
5J070
【Fターム(参考)】
5E321AA02
5E321AA22
5E321BB14
5E321BB32
5E321BB33
5E321BB60
5E321GG11
5E321GH10
5J020EA03
5J046AA02
5J046RA03
5J046RA18
5J070AB24
5J070AC01
5J070AC02
5J070AE01
5J070AF03
5J070AK40
(57)【要約】
【課題】設計自由度を向上し製造コストを低減した高周波機器用の樹脂成型品および高周波機器を提供する。
【解決手段】
電磁波を送受信する回路を収容する樹脂成型品であって、鱗片状の第1グラファイトフィラーを含む平坦部と、平坦部と一体で形成され、鱗片状の第2グラファイトフィラーを含む透過部と、を備え、平坦部は第1面と第2面とを有する平板形状を有し、透過部は、第1方向に窪み第1方向に向かって断面積が連続して小さくなる複数の第1凹部と、第2方向に窪み第2方向に向かって断面積が連続して小さくなる複数の第2凹部と、が設けられた凹凸形状を有し、第1凹部は第1面に対して65度以上90度未満の角度で傾斜する側壁を有し、第2凹部は第2面に対して65度以上90度未満の角度で傾斜する側壁を有し、第1グラファイトフィラーは平坦部の形状に沿って配置され、第2グラファイトフィラーは複数の第1凹部の側壁または複数の第2凹部の側壁に沿って配置される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁波を送受信する回路を収容する樹脂成型品であって、
鱗片状の複数の第1グラファイトフィラーを含む平坦部と、
前記平坦部と一体で形成され、かつ鱗片状の複数の第2グラファイトフィラーを含む透過部と、
を備え、
前記平坦部は、第1面と、前記第1面の反対側の第2面と、を有する平板形状を有し、
前記透過部は、前記第1面から前記第2面に向かう第1方向に窪み、前記第1方向に向かって断面積が連続して小さくなる複数の第1凹部と、前記第2面から前記第1面に向かう第2方向に窪み、前記第2方向に向かって断面積が連続して小さくなる複数の第2凹部と、が設けられた凹凸形状を有し、
前記複数の第1凹部は、それぞれ、前記第1面に対して65度以上90度未満の角度で傾斜する側壁を有し、
前記複数の第2凹部は、それぞれ、前記第2面に対して65度以上90度未満の角度で傾斜する側壁を有し、
前記複数の第1グラファイトフィラーは、前記平坦部の形状に沿って配置され、
前記複数の第2グラファイトフィラーは、前記複数の第1凹部の側壁または前記複数の第2凹部の側壁に沿って配置される、
樹脂成型品。
【請求項2】
前記複数の第1凹部は、複数の円錐状の凹部により構成され、
前記複数の第2凹部は、複数の円錐状の凹部により構成され、
前記第1方向から見たときに、前記複数の第1凹部の底部と前記複数の第2凹部の底部とが互いに異なる位置に配置される、
請求項1に記載の樹脂成型品。
【請求項3】
前記第1方向から見たときに、前記複数の第1凹部および前記複数の第2凹部は、それぞれ正三角格子状に配列される、
請求項2に記載の樹脂成型品。
【請求項4】
前記平坦部の厚みをt、前記複数の第1凹部の開口部の直径をd1、前記複数の第1凹部が配列される間隔をp1、前記第1面に対する前記複数の第1凹部の側壁の傾斜角をθ1、とすると、
t×sinθ1≦d1≦2×t×sinθ1、および、d1<p1≦1.5×d1、を満たし、
前記平坦部の厚みをt、前記複数の第2凹部の開口部の直径をd2、前記複数の第2凹部が配列される間隔をp2、前記第2面に対する前記複数の第2凹部の側壁の傾斜角をθ2、とすると、
t×sinθ2≦d2≦2×t×sinθ2、および、d2<p2≦1.5×d2、を満たす、
請求項2または3に記載の樹脂成型品。
【請求項5】
前記複数の第1凹部は、線状に形成された複数の溝により構成され、
前記複数の第2凹部は、線状に形成された複数の溝により構成され、
前記第1方向から見たときに、前記複数の第1凹部と前記複数の第2凹部とは、平行であって互い違いに整列される、
請求項1に記載の樹脂成型品。
【請求項6】
前記複数の第1凹部の底部は、前記複数の第2凹部の底部よりも前記第2面側に配置される、
請求項1から5のいずれか1項に記載の樹脂成型品。
【請求項7】
前記複数の第2グラファイトフィラーは前記第1面に対して65度以上90度以下での角度で傾斜するベーサル面を有する、
請求項1から6のいずれか1項に記載の樹脂成型品。
【請求項8】
前記複数の第1グラファイトフィラーはベーサル面を有し、前記複数の第1グラファイトフィラーのベーサル面における最大長さの平均値は、1μm以上100μm以下であり、前記複数の第1グラファイトフィラーのベーサル面に交差する方向の最大厚みの平均値の10倍以上であり、
前記平坦部における前記複数の第1グラファイトフィラーの含有量は、5重量%以上30重量%以下であり、
前記複数の第2グラファイトフィラーのベーサル面における最大長さの平均値は、1μm以上100μm以下であり、前記複数の第2グラファイトフィラーのベーサル面に交差する方向の最大厚みの平均値の10倍以上であり、
前記透過部における前記複数の第2グラファイトフィラーの含有量は、5重量%以上30重量%以下である、
請求項1から7のいずれか1項に記載の樹脂成型品。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載の樹脂成型品と、
前記樹脂成型品に収容される基板と、
前記基板に実装され、電磁波を送受信する回路と、
を備える、
高周波機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミリ波レーダまたは準ミリ波レーダなどの高周波機器用の樹脂成型品、および高周波機器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の安全性の向上、自動運転、または運転アシストなどを目的としたセンシング機器の需要が高まっている。センシング機器に用いられるレーダには、ミリ波などの高周波信号を送受信可能な高周波機器が用いられる。
【0003】
このような高周波機器においては、高周波の送信回路と受信回路とのアイソレーションを確保して信頼性を向上させるために、様々な対策が検討されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、電磁波を選択的に透過するケースと、電磁波を吸収するケースとを備える高周波モジュールが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-126939号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の高周波モジュールは、製造コストの低減および設計自由度の向上の点で、未だ改善の余地がある。
【0007】
本開示は、設計自由度を向上し製造コストを低減した高周波機器用の樹脂成型品および高周波機器を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様にかかる樹脂成型品は、
電磁波を送受信する回路を収容する樹脂成型品であって、
鱗片状の複数の第1グラファイトフィラーを含む平坦部と、
前記平坦部と一体で形成され、かつ鱗片状の複数の第2グラファイトフィラーを含む透過部と、
を備え、
前記平坦部は、第1面と、前記第1面の反対側の第2面と、を有する平板形状を有し、
前記透過部は、前記第1面から前記第2面に向かう第1方向に窪み、前記第1方向に向かって断面積が連続して小さくなる複数の第1凹部と、前記第2面から前記第1面に向かう第2方向に窪み、前記 第2方向に向かって断面積が連続して小さくなる複数の第2凹部と、が設けられた凹凸形状を有し、
前記複数の第1凹部は、それぞれ、前記第1面に対して65度以上90度未満の角度で傾斜する側壁を有し、
前記複数の第2凹部は、それぞれ、前記第2面に対して65度以上90度未満の角度で傾斜する側壁を有し、
前記複数の第1グラファイトフィラーは、前記平坦部の形状に沿って配置され、
前記複数の第2グラファイトフィラーは、前記複数の第1凹部の側壁または前記複数の第2凹部の側壁に沿って配置される。
【0009】
本開示の一態様にかかる高周波機器は、
上述の樹脂成型品と、
前記樹脂成型品に収容される基板と、
前記基板に実装され、電磁波を送受信する回路と、
を備える。
【発明の効果】
【0010】
本開示によると、設計自由度を向上し製造コストを低減した高周波機器用の樹脂成型品および高周波機器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施の形態1にかかる高周波機器を示す概略平面図
図2図1の高周波機器1のA-A断面図
図3図2の領域Z1を拡大した図
図4】透過部の一部を拡大した平面図
図5】グラファイトフィラーの一例を示す図
図6】樹脂成型品の製造方法を示すフローチャート
図7図5のB-B断面図
図8図5のC-C断面図
図9図5のD-D断面図
図10図5のE-E断面図
図11】実施の形態1の変形例1にかかる高周波機器の概略平面図
図12図11のF-F断面図
図13】実施の形態1の変形例2にかかる樹脂成型品の一部を示す概略図
図14】グラファイトフィラーの角度と電磁波の遮蔽率の相関を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0012】
(本開示に至った経緯)
近年、自動車の安全性の向上、自動運転、または運転アシストを目的としたセンシング機器の需要が高まっており、これらのセンシング機器を搭載した車両の流通が活発化している。センシング機器に用いられるレーダには、ミリ波などの高周波信号を送受信可能な高周波機器が用いられる。
【0013】
このような高周波機器は、送信回路で生成した信号をアンテナから発信し、ターゲットに反射して戻ってきた信号を、アンテナを通じて受信回路によって受信する。受信回路は、送信回路から基板の回線を通じて供給された信号とアンテナを通じて受信した信号とを比較し、ターゲットの位置またはターゲットとの距離などを検出する。
【0014】
また、個車情報の送信、または道路状況の受信など、高周波機器の用途は多様化している。このため、高周波機器では、必要な信号を選択的に送受信することが求められている。
【0015】
このような高周波機器の用途の一例として、前車との距離測定を行うための直線間の信号処理、前々車との距離測定を行うための前車の下を反射させる信号処理、および、個車または道路情報などのデータの送受信を行うための上方からの信号処理、などが挙げられる。
【0016】
交通量の多い道路などにおいて、自車に搭載された高周波機器以外からの信号により、ターゲットの位置または距離などの検出精度の低下、またはゴーストなどの問題が生じ得る。または、高周波機器内の送信回路で生成された信号が、基板の配線ではなく空間を経由して受信回路で受信されることにより、送信回路と受信回路とのアイソレーションが悪化することがある。
【0017】
このため、ある高周波機器が送受信する信号が、他の高周波機器へ影響を与えることのないよう、対策が検討されている。例えば、信号の位相変換、または樹脂と機能性材料とを複合化したケースを用いて電磁波を選択的に透過させることにより、高周波機器の信頼性を向上させる対策などが挙げられる。
【0018】
樹脂と機能性材料とを複合化したケースを用いて電磁波を選択的に透過させる高周波機器としては、例えば特許文献1に記載の高周波モジュールが挙げられる。
【0019】
特許文献1に記載の高周波モジュールでは、選択的に電磁波を透過および吸収することにより、信頼性を向上させている。
【0020】
しかし、特許文献1に記載の高周波モジュールでは、電磁波を選択的に透過するケースと電磁波を吸収するプレートとを別の部品として、または2つの工程に分けて形成するため、製造コストを低減することが困難である。また、ケースの内部において、グラファイトフィラーを回路に対して所定の方向に配向させるため、設計自由度を向上させることも難しい。また、電磁波の透過機能を有するケースには、他の機器からの信号を受信しないような設計の配慮をしなければならない。
【0021】
そこで、本発明者(ら)は、設計自由度を向上させ、製造コストを抑制した高周波機器の樹脂成型品、および高周波機器を検討し、以下の発明に至った。
【0022】
本開示の第1態様にかかる樹脂成型品は、
電磁波を送受信する回路を収容する樹脂成型品であって、
鱗片状の複数の第1グラファイトフィラーを含む平坦部と、
前記平坦部と一体で形成され、かつ鱗片状の複数の第2グラファイトフィラーを含む透過部と、
を備え、
前記平坦部は、第1面と、前記第1面の反対側の第2面と、を有する平板形状を有し、
前記透過部は、前記第1面から前記第2面に向かう第1方向に窪み、前記第1方向に向かって断面積が連続して小さくなる複数の第1凹部と、前記第2面から前記第1面に向かう第2方向に窪み、前記第2方向に向かって断面積が連続して小さくなる複数の第2凹部と、が設けられた凹凸形状を有し、
前記複数の第1凹部は、それぞれ、前記第1面に対して65度以上90度未満の角度で傾斜する側壁を有し、
前記複数の第2凹部は、それぞれ、前記第2面に対して65度以上90度未満の角度で傾斜する側壁を有し、
前記複数の第1グラファイトフィラーは、前記平坦部の形状に沿って配置され、
前記複数の第2グラファイトフィラーは、前記複数の第1凹部の側壁または前記複数の第2凹部の側壁に沿って配置される。
【0023】
このような構成により、設計自由度を向上し製造コストを低減した高周波機器用の樹脂成型品を提供することができる。
【0024】
本開示の第2態様にかかる樹脂成型品において、
前記複数の第1凹部は、複数の円錐状の凹部により構成され、
前記複数の第2凹部は、複数の円錐状の凹部により構成され、
前記第1方向から見たときに、前記複数の第1凹部の底部と前記複数の第2凹部の底部とが互いに異なる位置に配置されてもよい。
【0025】
このような構成により、第2グラファイトフィラーを所望の角度で配向することができ、さらに、製造コストを抑制することができる。
【0026】
本開示の第3態様にかかる樹脂成型品において、
前記第1方向から見たときに、前記複数の第1凹部および前記複数の第2凹部は、それぞれ正三角格子状に配列されてもよい。
【0027】
このような構成により、第2グラファイトフィラーを所望の角度で配向することができ、さらに、製造コストを抑制することができる。
【0028】
本開示の第4態様にかかる樹脂成型品において、
前記平坦部の厚みをt、前記複数の第1凹部の開口部の直径をd1、前記複数の第1凹部が配列される間隔をp1、前記第1面に対する前記複数の第1凹部の側壁の傾斜角をθ1、とすると、
t×sinθ1≦d1≦2×t×sinθ1、および、d1<p1≦1.5×d1、を満たし、
前記平坦部の厚みをt、前記複数の第2凹部の開口部の直径をd2、前記複数の第2凹部が配列される間隔をp2、前記第2面に対する前記複数の第2凹部の側壁の傾斜角をθ2、とすると、
t×sinθ2≦d2≦2×t×sinθ2、および、d2<p2≦1.5×d2、を満たしてもよい。
【0029】
このような構成により、透過部においては電磁波を透過させ、平坦部においては電磁波を反射するよう、樹脂成型品を形成することができる。
【0030】
本開示の第5態様にかかる樹脂成型品において、
前記複数の第1凹部は、線状に形成された複数の溝により構成され、
前記複数の第2凹部は、線状に形成された複数の溝により構成され、
前記第1方向から見たときに、前記複数の第1凹部と前記複数の第2凹部とは、平行であって互い違いに整列されてもよい。
【0031】
このような構成により、設計自由度を向上し製造コストを低減した高周波機器用の樹脂成型品を提供することができる。
【0032】
本開示の第6態様にかかる樹脂成型品において、
前記複数の第1凹部の底部は、前記複数の第2凹部の底部よりも前記第2面側に配置されてもよい。
【0033】
このような構成により、透過部における電磁波の透過特性の向上と製造コストの低減とを両立した高周波機器用の樹脂成型品を提供することができる。
【0034】
本開示の第7態様にかかる樹脂成型品において、
前記複数の第2グラファイトフィラーは前記第1面に対して65度以上90度以下の角度で傾斜するベーサル面を有してもよい。
【0035】
このような構成により、樹脂成型品において電磁波を吸収する部分と電磁波を透過する部分とを設けることができ、高周波機器の信頼性を向上させることができる。
【0036】
本開示の第8態様にかかる樹脂成型品において、
前記複数の第1グラファイトフィラーはベーサル面を有し、前記複数の第1グラファイトフィラーのベーサル面における最大長さの平均値は、1μm以上100μm以下であり、前記複数の第1グラファイトフィラーのベーサル面に交差する方向の最大厚みの平均値の10倍以上であり、
前記平坦部における前記複数の第1グラファイトフィラーの含有量は、5重量%以上30重量%以下であり、
前記複数の第2グラファイトフィラーのベーサル面における最大長さの平均値は、1μm以上100μm以下であり、前記複数の第2グラファイトフィラーのベーサル面に交差する方向の最大厚みの平均値の10倍以上であり、
前記透過部における前記複数の第2グラファイトフィラーの含有量は、5重量%以上30重量%以下であってもよい。
【0037】
このような構成により、電磁波の透過吸収特性の向上と、樹脂成型品の強度の維持とを両立することができる。
【0038】
本開示の第9態様にかかる高周波機器は、
第1態様から第8態様のいずれかの樹脂成型品と、
前記樹脂成型品に収容される基板と、
前記基板に実装され、電磁波を送受信する回路と、
を備える。
【0039】
このような構成により、信頼性を向上させた高周波機器を提供することができる。
【0040】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。また、各図においては、説明を容易なものとするため、各要素を誇張して示している。
【0041】
(実施の形態1)
[全体構成]
図1は、実施の形態1にかかる高周波機器1を示す概略平面図である。図2は、図1の高周波機器1のA-A断面図である。
【0042】
図1および図2に示すように、高周波機器1は、樹脂成型品10と、基板2と、回路3と、を備え、高周波帯域の電磁波を送受信する装置である。高周波機器1は、一般的に高周波機器で使用される10GHz以上300GHz以下の周波数帯域の電磁波を送受信することができる。なお、図中のX、Y、Z方向は、それぞれ高周波機器1の幅方向、奥行き方向、高さ方向を示している。
【0043】
<基板>
基板2は、図2に示すように、主面2aを有する板状に形成されている。主面2aには回路3が実装されている。基板2には、回路3以外の電子回路が実装されていてもよい。
【0044】
<回路>
回路3は、電磁波を送信する送信回路、電磁波を受信する受信回路、および演算回路を含む。回路3の送信回路は、例えば、ミリ波またはマイクロ波などの高周波信号を生成し、高周波信号を電磁波としてターゲットに向けて送信する。回路3の受信回路は、送信回路から送信された電磁波のうち、ターゲットに反射して戻ってきた電磁波を受信する。回路3の演算回路は、受信回路で受信された電磁波に基づいて演算処理を行う。例えば、回路3の演算回路は、送信回路から送信される電磁波と、受信回路で受信される電磁波とを比較し、ターゲットの位置およびターゲットまでの距離を演算する。
【0045】
<樹脂成型品>
樹脂成型品10は、電波を送受信する回路3を収容する筐体である。樹脂成型品10は、鱗片状の複数のグラファイトフィラー5が分散されたマトリクス材により構成される。マトリクス材は、熱可塑性樹脂またはエラストマーにより形成される材料である。樹脂成型品10は、平坦部30と、平坦部30と一体で形成された透過部20と、を備える。
【0046】
平坦部30は、鱗片状の複数の第1グラファイトフィラー5aを含む。平坦部30は、第1面30aと、第1面30aと反対側の第2面30bと、を有する平板形状を有する。
【0047】
本実施の形態では、樹脂成型品10は、平坦部30の第2面30bを囲むように配置された側壁31を有し、箱状に形成されている。すなわち、樹脂成型品10は、平坦部30と側壁31とを有し、凹形状に形成された筐体である。また、樹脂成型品10には開口10aが形成されている。樹脂成型品10において、開口10a側に基板2が配置され、平坦部30と基板2の主面2aとが向き合うように基板2および回路3が収容されている。すなわち、樹脂成型品10の平坦部30は、基板2の主面2aと向き合う位置に配置される。
【0048】
透過部20は、平坦部30と一体で形成されている。本実施の形態では、平坦部30の第1面30aに垂直な方向から見たときに、回路3と重なる位置に透過部20が形成されている。透過部20は、鱗片状の複数の第2グラファイトフィラー5bを含む。
【0049】
樹脂成型品10において、透過部20は、回路3の送信回路から送信され第2方向A2(図3参照)に進む電磁波と、第1方向A1(図3参照)に進み受信回路で受信される電磁波と、を透過する。一方、透過部20を除く、平坦部30および側部31は、電磁波を吸収する領域である。すなわち、平坦部30および側部31は電磁波を吸収するよう機能し、透過部20は電磁波を透過するよう機能する。
【0050】
電磁波を吸収するとは、平坦部30および側部31に照射された電磁波を、平坦部30および側部31の内部に取り込み、平坦部30から外に出さないことを意味する。なお、平坦部30および側部31で反射して外に出る電磁波も存在するが、その割合は非常に小さいため、簡略化のために説明を省略する。一方、電磁波を透過するとは、透過部20の一方側(第1面30a側)で照射された電磁波が他方側(第2面30b側)から出射されること、または他方側で照射された電磁波が一方側に出射されることを意味する。電磁波が透過部20を透過することができるため、透過部20を通過した電磁波が基板2および回路3に到達することができる。
【0051】
樹脂成型品10は、鱗片状の複数のグラファイトフィラー5(第1グラファイトフィラー5aおよび第2グラファイトフィラー5b)が分散されたマトリクス材により構成される。
【0052】
後述するように、樹脂成型品10において、平坦部30では、第1グラファイトフィラー5aが平坦部30の第1面30aまたは第2面30bに沿って配置される。第1グラファイトフィラー5aが第1面30aまたは第2面30bに沿って配置されるとは、第1グラファイトフィラー5aが第1面30aまたは第2面30bと略平行に配置されることを示す。このため、平坦部30では、第1方向A1(図3参照)からの電磁波を吸収することができる。
【0053】
一方、透過部20では、第2グラファイトフィラー5bは、第1凹部21の側壁21aまたは第2凹部22の側壁22aに沿って配置される(図3参照)。したがって、第2グラファイトフィラー5bは、平坦部30の第1面30aまたは第2面30bに対して角度をつけて配置される。このため、透過部20では、第1方向A1からの電磁波を透過することができる。
【0054】
図3は、図2の領域Z1を拡大した図である。図4は、透過部20の一部を拡大した平面図である。図3および図4を参照して透過部20について説明する。
【0055】
透過部20は、図1に示すように、樹脂成型品10の平坦部30のうち、基板2の主面2aに垂直な方向からみたときに、回路3と重なる部分に形成されている。図3に示すように、透過部30は、複数の第1凹部21と、複数の第2凹部22と、が設けられた凹凸形状を有する。
【0056】
複数の第1凹部は、平坦部30の第1面30aから第2面30bに向かう第1方向A1に窪み、第1方向A1に向かって断面積が連続して小さくなる。複数の第2凹部22は、平坦部30の第2面20bから第1面30aに向かう第2方向A2に窪み、第2方向A2に向かって断面積が連続して小さくなる。ここで、第1凹部21および第2凹部22の断面積は、XY平面に沿って切断したときの第1凹部21および第2凹部22の開口部の面積を示す。
【0057】
樹脂成型品10は、例えば、射出成形により形成することができる。本実施の形態では、表面に複数の凸形状を有する金型を使用することで、複数の第1凹部21および複数の第2凹部22を形成している。
【0058】
本実施の形態では、第1方向A1から見たときに、第1凹部21の断面が円形になるよう形成されている(図4参照)。ここで、第1凹部21の断面は、XY平面に沿って切断したときの第1凹部21の開口部を示す。複数の第1凹部21は、複数の円錐状の凹部により構成されている。また、本実施の形態では、第1凹部21は、第2面30bに向かうにつれて、断面積が小さくなるよう形成されている。第1凹部21は、平坦部30の第1面30aに対して、65度以上90度未満の角度θ1で傾斜する側壁21aを有する。
【0059】
本実施の形態では、第2方向A2から見たときに、第2凹部22の断面が円形になるよう形成されている(図4参照)。ここで、第1凹部21の断面は、XY平面に沿って切断したときの第2凹部22の開口部を示す。複数の第2凹部22は、複数の円錐状の凹部により構成されている。また、本実施の形態では、第2凹部22は、第1面30aに向かうにつれて、断面積が小さくなるよう形成されている。第2凹部22は、平坦部30の第2面30bに対して、65度以上90度未満の角度θ2で傾斜する側壁22aを有する。
【0060】
第1面30aに対する側壁21aの角度θ1および第2面30bに対する側壁22aの角度θ2が65度以上90度未満であると、樹脂成型品10の成形工程において離型性が向上し、樹脂成型品10の生産性を向上させることができる。また、角度θ1および角度θ2が65度以上90度未満であると、グラファイトフィラー5が電磁波を反射しづらくなり、透過部20の電磁波透過特性を向上させることができる。より好ましくは、角度θ1および角度θ2は75度以上90度未満であるとよい。この場合、透過部20の電磁波透過特性および樹脂成型品10の生産性をさらに向上させることができる。
【0061】
図3に示すように、第1凹部21の底部21bと第2凹部22の底部22bとは、互いに異なる位置に配置される。すなわち、基板2の主面2aに垂直な方向から見たときに、第1凹部21の底部21bと第2凹部22の底部22bとが、それぞれ重ならないように配置される。第1凹部21の底部21bは第1凹部21の最も深い部分を示し、第2凹部22の底部22bは第2凹部22の最も深い部分を示す。
【0062】
また、複数の第1凹部21は、図4に示すように、第1方向A1から見たときに、正三角格子状に配列されている。正三角格子状に配列されるとは、第1凹部21が複数の列で配列される場合において、隣接する列の第1凹部21がそれぞれ互い違いに配列されることをいう。複数の第2凹部22もまた、図5に示すように正三角格子状に配列されている。本実施の形態では、図3に示すように、第1凹部21の底部21bは、隣接する2つの第2凹部22の底部22bの中間に位置するよう、第1凹部21および第2凹部22が配置されている。
【0063】
また、第1方向A1から見たときに、第1凹部21の底部21bは第2凹部22の底部22bよりも平坦部30の第2面30b側に配置される。逆に、第1方向A1から見たときに、第2凹部22の底部22bは第1凹部21の底部21bよりも平坦部230の第1面30a側に配置される。このような構成により、第1凹部21と第2凹部22とを入り組んだ形状とすることができる。第1凹部21と第2凹部22とが入り組んだ状態となることで、第2グラファイトフィラー5bを、側壁21aまたは側壁21bに沿って配向させやすくなり、透過部20における電磁波の透過特性を向上させることができる。
【0064】
本実施の形態では、第1凹部21の開口の幅d1、平坦部30の厚さt、および角度θ1、の間に(1)式の関係が成立する。
【0065】
【数1】
【0066】
第1凹部21の開口の幅d1が(1)式の範囲内である場合、透過部20の電磁波透過特性を向上させつつ、樹脂成型品10の成形時の生産性を向上させることができる。第1凹部21の開口の幅d1が(1)式の下限値を下回る場合、および(1)式の上限値を上回る場合、第1面30aに対する第1凹部21の側壁21aの角度θ1を適切な値にすることができず、透過部20の電磁波透過特性が低下してしまうことがある。
【0067】
同様に、第2凹部22の開口の幅d2、平坦部30の厚さt、および角度θ2、の間に(2)式の関係が成立する。
【0068】
【数2】
【0069】
第2凹部22の開口の幅d2が(2)式の範囲内である場合、透過部20の電磁波透過特性を向上させつつ、樹脂成型品10の成形時の生産性を向上させることができる。第2凹部22の開口の幅d2が(2)式の下限値を下回る場合、および(2)式の上限値を上回る場合、第2面30bに対する第2凹部22の側壁22aの角度θ2を適切な値にすることができず、透過部20の電磁波透過特性が低下してしまうことがある。
【0070】
また、第1凹部21の開口の幅d1と、隣接する第1凹部21が配列される間隔p1と、の間に(3)式の関係が成立する。
【0071】
【数3】
【0072】
間隔p1が(3)式の下限値を下回る場合、樹脂成型品10を成形する際に、第1凹部21を形成する金型の凸部と、第2凹部22を形成する金型の凸部とが干渉してしまい、生産性が低下してしまうことがある。間隔p1が(3)式の上限を上回る場合、電磁波透過特性が低下してしまう。
【0073】
同様に、第2凹部22の開口の幅d2と、隣接する第2凹部22が配列される間隔p2と、の間に(4)式の関係が成立する。
【0074】
【数4】
【0075】
間隔p2が(4)式の下限値を下回る場合、樹脂成型品10を成形する際に、第1凹部21を形成する金型の凸部と、第2凹部22を形成する金型の凸部とが干渉してしまい、生産性が低下してしまうことがある。間隔p2が(4)式の上限を上回る場合、電磁波透過特性が低下してしまう。
【0076】
<マトリクス材>
マトリクス材は、熱可塑性樹脂もしくはエラストマーで形成することができる。また、マトリクス材は、弾性を有さない熱可塑性樹脂と、弾性を有するエラストマーとの混合物を用いて形成してもよい。
【0077】
熱可塑性樹脂としては、スチレン-アクリロニトリル共重合体、スチレン-無水マレイン酸共重合体、(メタ)アクリル酸エステル-スチレン共重合体等のスチレン系重合体、ABS樹脂、AES樹脂等のゴム強化樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体、塩素化ポリエチレン等のオレフィン系重合体、ポリ塩化ビニル、エチレン-塩化ビニル重合体、ポリ塩化ビニリデン等の塩化ビニル系重合体、ポリメタクリル酸メチル等の(メタ)アクリル酸エステル系重合体、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド等のイミド系重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系重合体、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素樹脂、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン等のケトン系重合体、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン等のスルホン系重合体、ウレタン系重合体、ポリ酢酸ビニル等が挙げられる。マトリクス材は、これらの材料のうちいずれか1つを単独で用いて形成してもよい。あるいは、マトリクス材は、これらの材料のうち2種以上を組み合わせて形成してもよい。
【0078】
エラストマーとしては、特に限定されないが、クロロプレンゴム、イソプレンゴム、天然ゴム、スチレン-ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、ブチルゴム、エチレン-プロピレンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、ニトリルゴム、ウレタンゴム、アクリルゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、水素化ニトリルゴム等が挙げられる。マトリクス材は、これらの材料のうち1つを単独で用いて形成してもよい。あるいは、マトリクス材は、これらの材料のうち2種以上を組み合わせて形成してもよい。
【0079】
<グラファイトフィラー>
グラファイトフィラー5は、鱗片状に形成されている。本明細書において、「鱗片状」とは、平板状、湾曲板状等のように、所定の角度から観察した際(平面視した際)の面積が、当該観察方向と直交する角度から観察した際の面積よりも大きい形状を意味する。
【0080】
図5は、グラファイトフィラー5の一例を示す図である。なお、鱗片状とは、鱗状の形状だけでなく、楕円状、円状、多角形状、または薄膜を粉砕して得られる不定形な形状を含んでもよい。本実施の形態では、グラファイトフィラー5においては、例えば、長径が1μm以上100μm以下であり、かつ、長径/厚さ比が平均10以上である。
【0081】
グラファイトフィラー5の比誘電率は、7以上17以下であるとよい。グラファイトフィラー5の比誘電率が7以上17以下であると、平坦部30において、第1方向A1に向かって入射する電磁波の透過率を10%未満にすることができる。グラファイトの比誘電率が7未満である場合、多重反射による電磁波の吸収が不十分であり、電磁波の透過率が10%以上となってしまう。一方、グラファイトシートの比誘電率が17を超える場合、電磁波の反射が支配的となり、内部の不要輻射まで反射してしまうため、高周波機器の信頼性が低下してしまうことがある。
【0082】
グラファイトフィラー5の製造方法について説明する。グラファイトフィラー5は、例えば、人工グラファイト、または天然グラファイトを粉砕することにより得ることができる。グラファイトフィラー5は、天然の鱗片状グラファイトパウダーを用いて製造してもよい。長径が平均1μm以上100μm以下であり、かつ、長径/厚さ比が平均10以上である条件を満たす限り、複数種のグラファイトフィラーを混合してグラファイトフィラー5を製造してもよい。
【0083】
人工グラファイトは、高分子フィルムを不活性ガス下で、2400℃以上、好ましくは、2600℃以上3300℃以下の高温で熱処理することにより得ることができる。熱処理は、一段階で行ってもよく、または、二段階以上に分けてそれぞれ温度を変えてもよい。不活性ガスは、特に限定されないが、窒素ガスまたはアルゴンガス等が安価で好ましい。熱処理時間は、特に限定されないが、例えば、2時間以上10時間以下が好ましい。
【0084】
グラファイト化される前の高分子フィルムの厚さは、適宜選択することができるが、例えば、400μm以下であり、特に、1μm以上150μm以下とすることが好ましい。比較的厚い高分子フィルムを用いる場合でも、グラファイトフィルムを粉砕するときにグラファイトの層間で剥離が起こるため、より薄い鱗片状のグラファイトフィラー5を得ることができる。高分子フィルムが400μm以上の厚さの場合、フィルム内で均等に熱が加わりにくくなり、グラファイトの結晶性が低下してしまう。また、1μmよりも薄くなると、熱処理で破壊されてしまう。
【0085】
高分子フィルムとしては、例えば、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリオキサジアゾール、ポリベンゾチアゾール、ポリベンゾビスチアゾール、ポリベンゾオキサゾール、ポリベンゾビスチアゾール、ポリ(p-フェニレンイソフタルアミド)、ポリ(m-フェニレンベンゾイミタゾール)、ポリ(フェニレンベンゾビスイミタゾール)、ポリチアゾール、ポリパラフェニレンビニレンなどが好ましい。
【0086】
グラファイトフィラー5の製造方法は、上記に限定されない。これらの材料は、1種を単独で用いてもよく、複数種を組み合わせて用いてもよい。例えば、それぞれ異なる複数種のフィルムをグラファイト化し粉砕してから、それらを混合してもよい。あるいは、複数種の材料を予め複合化もしくはアロイ化してからフィルム化し、そのフィルムをグラファイト化してもよい。得られたグラファイトフィルムを粉砕処理することにより、鱗片状に形成された複数のグラファイトフィラー5が得られる。
【0087】
粉砕方法は特に限定されないが、グラファイトフィラー5同士を衝突させるか、または、グラファイトフィラー5と硬度の高い物質とを物理的に衝突させるジェットミル法が好ましい。それ以外の方法として、ボールミル法、ナノマイザ法、または冷凍粉砕等の方法を挙げることができる。粉砕するグラファイトフィルムの厚さは、所望の鱗片状のグラファイトフィラー5の厚さに応じて適宜選択すればよい。
【0088】
樹脂成型品10を形成するマトリクス材に対する第1グラファイトフィラー5aの含有量は、例えば、5重量%以上30重量%以下であるとよい。第1グラファイトフィラー5aの含有量がこの範囲であると、平坦部30の電磁波吸収特性を向上させることができる。マトリクス材に対するグラファイトフィラー5の含有量が5重量%を下回る場合、多重反射が起こりにくくなり、電磁波吸収特性が低下してしまう。また、マトリクス材に対する第1グラファイトフィラー5aの含有量が30重量%を上回る場合、樹脂成型品10としての強度を維持することが難しくなるだけでなく、電磁波の通り道が少なくなり、多重反射が起きにくくなることで、電磁波吸収特性が低下してしまう。
【0089】
樹脂成型品10を形成するマトリクス材に対する第2グラファイトフィラー5bの含有量は、例えば、5重量%以上30重量%以下であるとよい。第2グラファイトフィラー5bの含有量がこの範囲であると、透過部20における電磁波透過特性を向上させることができる。マトリクス材に対するグラファイトフィラー5の含有量が5重量%を下回る場合、多重反射が起こりにくくなり、電磁波吸収特性が低下してしまう。また、マトリクス材に対する第2グラファイトフィラー5bの含有量が30重量%を上回る場合、樹脂成型品10としての強度を維持することが難しくなるだけでなく、電磁波の通り道が少なくなり、多重反射が起きにくくなることで、電磁波吸収特性が低下してしまう。
【0090】
<グラファイトフィラーの配置>
図3を参照して、マトリクス材の内部でのグラファイトフィラー5の配置について説明する。
【0091】
グラファイトフィラー5は、平坦部30に配置された第1グラファイトフィラー5aと、透過部20に分散された第2グラファイトフィラー5bと、を含む。
【0092】
図3に示すように、複数の第1グラファイトフィラー5aは、平坦部30の形状に沿って配置される。より具体的には、第1グラファイトフィラー5aのベーサル面BP1と平坦部30の第1面30aとのなす角度α1の平均値は、0度以上25度以下となるよう配置される。より好ましくは、角度α1の平均値は0度であるとよい。ベーサル面BP1とは、第1グラファイトフィラー5aのベンゼン環方向の平面を示す。
【0093】
複数の第1グラファイトフィラー5aは、平坦部30においてベーサル面BP1が第1方向A1とほぼ直交するよう配置される。電磁波が第1方向A1に進んで平坦部30に到達すると、第1グラファイトフィラー5aのベーサル面BP1にぶつかって反射する。反射した電磁波が、他の第1グラファイトフィラー5aのベーサル面BP1にぶつかり、さらに反射する。このように、電磁波が複数の第1グラファイトフィラー5aで多重反射することで、電磁波が減衰する。したがって、平坦部30では、電磁波が吸収される。
【0094】
第1グラファイトフィラー5aのベーサル面BP1は、平坦部30の第1面30aまたは第2面30bに沿って配置される。これは、樹脂成型品10が、マトリクス材を金型内に射出させて成形する射出成形などにより成形されて得られるためである。具体的には、溶融流動による剪断圧力により、第1グラファイトフィラー5aのベーサル面BP1が壁面(第1面30aまたは第2面30b)に押し付けられた状態でマトリクス材が硬化するためである。
【0095】
図3に示すように、複数の第2グラファイトフィラー5bは、複数の第1凹部21の側壁21aまたは複数の第2凹部の側壁22aに沿って配置される。より具体的には、第2グラファイトフィラー5aのベーサル面BP2と、第1凹部21の側壁21aまたは第2凹部22の側壁22aとのなす角度α2の平均値は、0度以上10度以下であるとよい。より好ましくは、角度α2の平均値は、0°であるとよい。複数の第2グラファイトフィラー5bが側壁21aまたは21bに沿って配置されることにより、複数の第2グラファイトフィラー5bのベーサル面BP2と平坦部30の第1面30aとのなす角度は、65度以上90度以下となる。ベーサル面BP2とは、第2グラファイトフィラー5bのベンゼン環方向の平面を示す。
【0096】
複数の第2グラファイトフィラー5bのベーサル面BP2は側壁21aまたは22aに沿って配置されているため、透過部20では平坦部30と比較して多重反射が起こりにくい。このため、透過部20では、複数の第2グラファイトフィラー5bで電磁波が反射されず透過部20を透過する。このため、透過部20を通過した電磁波は基板2に実装された回路に到達する。複数の第2グラファイトフィラー5bのベーサル面BP2と平坦部30の第1面30bとのなす角度が65度以上90度以下であると、透過部20における電磁波の透過率を85%以上とすることができる。
【0097】
上述したように、第2グラファイトフィラー5bのベーサル面BP2は、第1凹部21の側壁21aおよび第2凹部22の側壁22aに沿って配置される。これは、後述するように、樹脂成型品10が、マトリクス材を金型内に射出させて成形する射出成形などにより成形されて得られるためである。具体的には、マトリクス材の流動による剪断圧力により、第2グラファイトフィラー5bのベーサル面BP2が壁面(側壁21aまたは側壁22a)に押し付けられた状態でマトリクス材が硬化するためである。透過部20における角度α2は、例えば、図4のような樹脂成型品10の切断面において断面観察を行うことにより測定することができる。
【0098】
マトリクス材の内部に分散した20個以上の第2グラファイトフィラー5bのベーサル面BP2の角度α2を測定することにより、角度α2の平均値を算出することができる。なお、角度α2は、第2グラファイトフィラー5bのベーサル面BP2を延長した線と、第1凹部21の側壁21aまたは第2凹部22の側壁22aを延長した線とのなす角度を測ることにより測定することができる。2つの延長した線が交わる場合、角度が2つあるが、角度α2は、小さい方の角度を採用する。
【0099】
また、図2に示すように、樹脂成型品10の側部31においては、グラファイトフィラー5のベーサル面が側面31aに沿って配置される。具体的には、樹脂成型品10の側部31において、グラファイトフィラー5のベーサル面が側面31と略平行に配置されている。さらに、側部31の端面31bの付近では、グラファイトフィラー5のベーサル面が端面31bに沿って配置される。具体的には、樹脂成型品10の側部31の端面31bの付近において、グラファイトフィラー5のベーサル面が端面31bに略平行に配置されている。
【0100】
<樹脂成型品の製造方法>
図6を参照して、樹脂成型品10の製造方法について説明する。図6は、樹脂成型品10の製造方法を説明するフローチャートである。
【0101】
まず、グラファイトフィラー5を混錬したマトリクス材を準備する(ステップS11)。次に、グラファイトフィラー5を混錬したマトリクス材を計量および溶融する(ステップS12)。次に、射出成形により、マトリクス材を金型に射出および充填する(ステップS13)。
【0102】
マトリクス材を充填する金型は、固定型と、固定型に対して移動可能な可動型と、を有する。固定型と可動型には、第1凹部21および第2凹部22を形成するための複数の凸部が設けられている。固定型および可動型において、複数の凸部は円錐状に形成されている。また、固定型および可動型において、複数の凸部は、正三角形格子状に配列されている。固定型と可動型とを型締めしたときに、固定型に設けられた複数の凸部の円錐形状の頂部と可動型に設けられた複数の凸部の円錐形状の頂部とは異なる位置に配置される。
【0103】
マトリクス材を充填した金型を保圧および冷却し(ステップS14)、金型から取り出す(ステップS15)ことで、樹脂成型品10が完成する。
【0104】
<射出および充填時のマトリクス材の流れとグラファイトフィラーの配置>
図7図10を参照して、金型内に射出および充填されるマトリクス材の流れについて説明する。図7は、図5のB-B断面図である。図8は、図5のC-C断面図である。図9は、図5のD-D断面図である。図10は、図5のE-E断面図である。図7図10において、説明を容易にするために、グラファイトフィラー5を図示省略し、マトリクス材の流れを矢印で示している。また、図7図10においては、射出成形用の金型がハッチングで示されている。また、マトリクス材は図5の矢印A1の向きに流れる。
【0105】
固定型に対して可動型が型締めされた後、金型内に流れてくるマトリクス材は、図7に示すように、第1凹部21に対応する金型の複数の第1凸部C1と複数の第2凹部22に対応する金型の複数の第2凸部D1とに到達する。第1凸部C1と第2凸部D1とに到達したマトリクス材は、凸部C1、D1の形状に沿って回り込んで流動していく。凸部C1、D1の間を1/4周ほど回ると、図8に示すように、マトリクス材は次の凸部C2、D2に到達し、凸部C2、D2に沿って回り込んで流動していく。
【0106】
図9および図10に示すように、凸部C1、D1に沿って流れたマトリクス材は、次に凸部C2、D2に到達すると凸部C2、D2に沿って流れ、さらに凸部C3、D3に到達すると凸部C3、D3に沿って流れる。このようにして、マトリクス材は、複数の第1凸部と複数の第2凸部との間を通過していく。第1凸部および第2凸部に沿って流れることを繰り返して、マトリクス材が第1凸部と第2凸部との間を通過することにより、金型内の第1凸部と第2凸部との間にマトリクス材が充填される。
【0107】
このように、マトリクス材が分流と合流とを繰り返すことで、マトリクス材に含まれるグラファイトフィラーが、凹部21、22の側壁21a、22aに沿って配置される。
【0108】
一般的に、マトリクス材に混錬されたフィラーまたはファイバーなどの添加物は、金型の壁面に沿うように配向されるが、例えば、樹脂成型品10の厚み方向の中央付近は、表面付近に比べて遅れて冷却固化するため、壁面に沿った配向とならない場合がある。本実施の形態では、金型内の第1凸部と第2凸部と間隔が小さいため、成形時のマトリクス材の流速が上昇し、フィラーまたはファイバーなどの添加物が金型の壁面に沿って配置されやすい。
【0109】
このため、第1凸部および第2凸部の円錐形状の傾斜角度を調整することで、凹部21、22の側壁21a、22aの角度θ1、θ2(図4参照)を調整することができる。凹部21、22の側壁21a、22aの角度θ1、θ2を調整すると、第1グラファイトフィラー5aの配置、すなわち、ベーサル面BP2と側壁21aまたは側壁22aとのなす角度α2を所望の角度にすることができる。
【0110】
なお、本実施の形態では、金型の複数の凸部C1~D3のそれぞれが並ぶ方向と交差する方向に、マトリクス材が流動する。これは、複数の凸部の並ぶ方向に沿ってマトリクス材を流すと、マトリクス材の分流と合流とが起きにくい部分が発生することがあるためである。
【0111】
[効果]
上述した実施の形態によると、樹脂成型品10は、平坦部30と、透過部20と、を備える。平坦部30は、鱗片状の複数の第1グラファイトフィラー5aを含み、第1面30aと第2面30bとを有する平板形状を有する。透過部20は、平坦部30と一体で形成され、複数の第1凹部21と、複数の第2凹部22と、が設けられた凹凸形状を有する。複数の第1凹部21は、第1面30aから第2面30bに向かう第1方向A1に窪み、第1方向A1に向かって断面積が連続して小さくなる。複数の第凹部22は、第2面30bから第1面30aに向かう第2方向に窪み、第2方向A2に向かって断面積が連続して小さくなる。複数の第1凹部21は、それぞれ、第1面30aに対して65度以上90度未満の角度で傾斜する側壁21aを有する。複数の第2凹部22は、それぞれ、第2面30bに対して65度以上90度未満の角度で傾斜する側壁22aを有する。複数の第1グラファイトフィラー5aは、平坦部30の形状に沿って配置される。複数の第2グラファイトフィラー5bは、複数の第1凹部21の側壁21aまたは複数の第2凹部22の側壁22aに沿って配置される。
【0112】
このような構成により、透過部20に配置される第1グラファイトフィラー5aを、平坦部30に配置される第2グラファイトフィラー5bとは異なる角度で配置することができる。このため、平坦部30では電磁波を吸収し、透過部20では電磁波を透過させることができる。また、透過部20と平坦部30とが一体的に形成されているため、製造コストを低減することができ、さらに設計自由度を向上させることができる。
【0113】
上述した実施の形態の樹脂成型品10を用いることで、広い電磁波透過吸収特性を有する高周波機器1を提供することができる。
【0114】
また、射出成形により透過部20と平坦部30とをまとめて成形することができる。また、成形品の一般的な肉厚の範囲内で、電磁波を透過させる機能を付与することができるため、高周波機器1の小型化に寄与し、設計自由度が向上する。また、透過部20の凹部21を目視確認することができるため、外観からの検証も容易である。
【0115】
なお、上述した実施の形態では、樹脂成型品10が高周波帯域の電磁波を送受信する高周波機器に用いられる例について説明したが、これに限定されない。樹脂成型品10は、高周波帯域以外の電磁波を送受信する機器にも適用することができる。
【0116】
[変形例]
図11は、実施の形態1の変形例1にかかる高周波機器1Aの概略平面図である。図12は、図11のF-F断面図である。
【0117】
図11および図12に示すように、樹脂成型品110の透過部120が複数の線状の溝により形成されていてもよい。具体的には、複数の第1凹部121が、線状に形成された複数の溝により構成されてもよい。さらに、複数の第2凹部122も、線状に形成された複数の溝により構成されていてもよい。また、第1方向A1から見たときに、複数の第1凹部121と複数の第2凹部122とは、平行であって互い違いに配置される。したがって、XZ平面で切断したときの断面形状が波形の透過部120が形成される。このような構成により、より単純な形状の金型で、樹脂成型品110を形成することができるため、製造コストを低減することができる。
【0118】
図13は、実施の形態1の変形例2にかかる樹脂成型品210の一部を示す概略図である。図13に示すように、第1凹部221の底部221cおよび第2凹部222の底部222cが、0.1mm以下のフィレット形状を有していてもよい。フィレット形状とは、図14に示すように、凹部221、222の底部221c、222cが丸く形成されていることをいう。フィレット形状の大きさは、丸く形成されている部分の幅を指す。フィレット形状の大きさは、好ましくは0.1mm以下である。さらに好ましくは、0.05mmであるとよい。フィレット形状の大きさが0.05mmより小さい場合、成形性が低下してしまうことがある。逆に、フィレット形状の大きさが0.1mmより大きい場合、第2グラファイトフィラー5bが所望の角度に配列せずに、電磁波の透過特性が低下してしまう。
【0119】
また、第1凹部221の頂部221dおよび第2凹部222の頂部222dが、0.3mm以下のフィレット形状を有している。なお、頂部221dは、隣接する2つの第1凹部221によって画定される凸部であり、頂部222dは、隣接する2つの第2凹部222によって画定される凹部である。フィレット形状の大きさは、好ましくは0.3mm以下である。さらに好ましくは、0.1mmであるとよい。フィレット形状の大きさがこの範囲であると、樹脂成型品10の成形性を向上させることができる。フィレット形状の大きさが0.1mmより小さい場合、成形性が低下してしまうことがある。逆に、フィレット形状の大きさが0.3mmより大きい場合、第2グラファイトフィラー5bが所望の角度に配列せずに、電磁波の透過特性が低下してしまう。
【0120】
なお、第1凹部221および第2凹部222が、実施の形態1のような円錐状に刳り貫かれた形状の場合、第1凹部221の頂部221dおよび第2凹部222の頂部222dのフィレット形状の大きさは0.2mm以下であると、射出成形において成形性を向上させることができる。
【0121】
第1凹部221の頂部221dおよび第2凹部222の頂部222dにフィレット形状を付与する場合、透過部220の肉厚が薄くならないよう、適切なフィレット形状の大きさを設定するとよい。
【0122】
[実施例]
グラファイトフィラー5の角度による電磁波遮蔽率の測定を行った。具体的には、電磁界シミュレーション解析により、実施の形態1の樹脂成型品10における電磁波の遮蔽率を測定した。測定に用いた電磁波の周波数は70GHz以上110GHz以下であり、電磁波は図2のZ方向から樹脂成型品10に入射する。電磁波の反射率と吸収率との和を遮蔽率と定義した。遮蔽率は、発信電磁波の総量と樹脂成型品を透過した電磁波との差分の総量に対する割合を示す。
【0123】
マトリクス材として、ポリプロピレン樹脂を用いた。マトリクス材へのグラファイトフィラーの混錬量は、30重量%である。グラファイトフィラーの大きさは、長さ0.02mm、および厚さ0.001mmである。
【0124】
平坦部30の第1面30aに対するグラファイトフィラーのベーサル面と角度(グラファイトフィラーの角度)を0度から90度まで15度間隔で変化させたときの電磁波の遮蔽率を測定した。
【0125】
図14は、グラファイトフィラー5の角度と電磁波の遮蔽率の相関を示すグラフである。
【0126】
このため、樹脂成型品10の平坦部30では、電磁波を吸収させるために、遮蔽率が85%以上となるとよい。このため、第1グラファイトフィラー5aのベーサル面BP1が第1面30aに対して0度以上25度以下となるよう配置するとよい。
【0127】
一方、樹脂成型品10の透過部20では、電磁波を透過させるために、遮蔽率が15%以下となるとよい。このため、第2グラファイトフィラー5bのベーサル面BP2が第1面30aに対して65度以上90度以下となるよう配置するとよい。
【産業上の利用可能性】
【0128】
本開示の樹脂成型品および高周波機器は、電磁波を吸収する部分と透過する部分とを有し、電磁波を送受信する高周波機器を用いる、車載機器、電子機器、産業機器などの分野に適用可能である。
【符号の説明】
【0129】
1、1A 高周波機器
2 基板
2a 主面
3 回路
5 グラファイトフィラー
5a 第1グラファイトフィラー
5b 第2グラファイトフィラー
10、110、210 樹脂成型品
20、120、220 透過部
21、121、221 第1凹部
21a 側壁
21b、221c 底部
221d 頂部
22、122、222 第2凹部
22a 側壁
22b、222c 底部
222d 頂部
30、230 平坦部
30a、230a 第1面
30b、230b 第2面
BP1 ベーサル面
BP2 ベーサル面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14