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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023044265
(43)【公開日】2023-03-30
(54)【発明の名称】疲労限度推定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 3/34 20060101AFI20230323BHJP
   G01N 3/06 20060101ALI20230323BHJP
   G01N 25/20 20060101ALI20230323BHJP
   G01J 5/48 20220101ALI20230323BHJP
【FI】
G01N3/34 Q
G01N3/06
G01N25/20 Z
G01J5/48 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021152195
(22)【出願日】2021-09-17
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001748
【氏名又は名称】弁理士法人まこと国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上田 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】中山 英介
(72)【発明者】
【氏名】白水 浩
【テーマコード(参考)】
2G040
2G061
2G066
【Fターム(参考)】
2G040AB12
2G040BA08
2G040BA27
2G040CA02
2G040DA06
2G040DA15
2G040GA01
2G040ZA01
2G061AA01
2G061AB05
2G061BA15
2G061CA02
2G061CB01
2G061CB19
2G061EB07
2G061EC02
2G061EC05
2G066BA13
2G066BA14
2G066CA01
2G066CA02
2G066CA20
2G066CB10
(57)【要約】
【課題】赤外線撮像装置を用いて測定した被測定物の散逸エネルギー分布に基づき、被測定物の疲労限度を精度良く推定する方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る方法は、被測定物に荷重幅Pの異なる繰り返し荷重を順次付加しながら、赤外線撮像装置を用いて被測定物を撮像することで、繰り返し荷重毎に被測定物の温度分布の時間的変化を測定し、これに基づき、繰り返し荷重毎に被測定物の散逸エネルギー分布を算出し、これに基づき、荷重幅Pと散逸エネルギーqとの関係を算出する関係算出ステップS1と、前記関係を荷重幅Pで1階微分して得られる荷重幅P毎の1階微分値d、2階微分して得られる荷重幅P毎の2階微分値d2、及び、荷重幅P毎の1階微分値dと2階微分値d2との積dαの3つのパラメータのうち、いずれか1つのパラメータの最大値が得られた荷重幅Pを被測定物の疲労限度として推定する疲労限度推定ステップS2と、を有する。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定物に荷重幅Pの異なる繰り返し荷重を順次付加しながら、赤外線撮像装置を用いて前記被測定物を撮像することで、前記繰り返し荷重毎に前記被測定物の温度分布の時間的変化を測定し、前記繰り返し荷重毎に測定した前記被測定物の温度分布の時間的変化に基づき、前記繰り返し荷重毎に前記被測定物の散逸エネルギー分布を算出し、前記繰り返し荷重毎に算出した前記被測定物の散逸エネルギー分布に基づき、荷重幅Pと散逸エネルギーqとの関係を算出する関係算出ステップと、
前記関係算出ステップで算出した関係を前記荷重幅Pで1階微分して得られる前記荷重幅P毎の1階微分値d、前記関係算出ステップで算出した関係を前記荷重幅Pで2階微分して得られる前記荷重幅P毎の2階微分値d2、及び、前記荷重幅P毎の前記1階微分値dと前記2階微分値d2との積dαの3つのパラメータのうち、いずれか1つのパラメータの最大値が得られた前記荷重幅Pを前記被測定物の疲労限度として推定する疲労限度推定ステップと、を有する、
疲労限度推定方法。
【請求項2】
前記疲労限度推定ステップにおいて、前記1階微分値dと前記2階微分値d2との積dαの最大値dαmaxが得られた前記荷重幅Pを前記被測定物の疲労限度として推定する、
請求項1に記載の疲労限度推定方法。
【請求項3】
前記疲労限度推定ステップにおいて、
前記1階微分値dの最大値dmaxに対する前記1階微分値dの比d_rateを前記荷重幅P毎に算出し、前記最大値dmaxについての前記比d_rateを除く全ての前記比d_rateが第1しきい値以下である場合には、前記最大値dmaxが得られた前記荷重幅Pを前記被測定物の疲労限度として推定し、
前記最大値dmaxについての前記比d_rateを除くいずれかの前記比d_rateが前記第1しきい値を超える場合には、前記2階微分値d2の最大値d2maxに対する前記2階微分値d2の比d2_rateを前記荷重幅P毎に算出し、前記最大値d2maxについての前記比d2_rateを除く全ての前記比d2_rateが第2しきい値以下である場合には、前記最大値d2maxが得られた前記荷重幅Pを前記被測定物の疲労限度として推定し、
前記最大値dmaxについての前記比d_rateを除くいずれかの前記比d_rateが前記第1しきい値を超え、且つ、前記最大値d2maxについての前記比d2_rateを除くいずれかの前記比d2_rateが前記第2しきい値を超える場合には、前記1階微分値dと前記2階微分値d2との積dαの最大値dαmaxが得られた前記荷重幅Pを前記被測定物の疲労限度として推定する、
請求項1に記載の疲労限度推定方法。
【請求項4】
前記疲労限度推定ステップにおいて、
前記1階微分値dの最大値dmaxに対する前記1階微分値dの比d_rateを前記荷重幅P毎に算出すると共に、前記2階微分値d2の最大値d2maxに対する前記2階微分値d2の比d2_rateを前記荷重幅P毎に算出し、前記最大値dmaxについての前記比d_rateを除く全ての前記比d_rateが第1しきい値以下であり、前記最大値d2maxについての前記比d2_rateを除く全ての前記比d2_rateが第2しきい値以下であり、なお且つ、前記最大値dmaxが得られた前記荷重幅Pと前記最大値d2maxが得られた前記荷重幅Pとが等しいという条件を満足する場合には、前記最大値dmax及び前記最大値d2maxが得られた前記荷重幅Pを前記被測定物の疲労限度として推定し、
前記条件を満足しない場合には、前記1階微分値dと前記2階微分値d2との積dαの最大値dαmaxが得られた前記荷重幅Pを前記被測定物の疲労限度として推定する、
請求項1に記載の疲労限度推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線撮像装置を用いて測定した被測定物の散逸エネルギー分布に基づき、被測定物の疲労限度を精度良く推定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
被測定物に発生する応力分布を非接触で測定する方法として、赤外線撮像装置(サーモグラフィ)を用いた熱弾性応力測定法が提案されている(例えば、非特許文献1参照)。
熱弾性応力測定法は、被測定物が断熱的に弾性変形する際に温度変化が生じるという熱弾性効果を利用し、繰り返し荷重が付加される被測定物を赤外線撮像装置を用いて撮像することで被測定物の温度分布の時間的変化(所定時間内における温度分布の変化)を測定し、この測定した温度分布の時間的変化を被測定物の応力分布の時間的変化(所定時間内における応力分布の変化)に換算する方法である。応力分布の初期値を把握していれば(実際に応力分布を測定して把握している場合のみならず、想定可能な場合も含む)、この初期値に応力分布の時間的変化を加算することで、所定時間経過後の応力分布を測定可能である。
【0003】
この熱弾性応力測定法を用いて被測定物の温度分布の時間的変化を測定する際、例えば、被測定物の周囲の熱(赤外線)が被測定物の表面で反射し、赤外線撮像装置で受光される場合がある。換言すれば、赤外線撮像装置を用いて測定した被測定物の温度分布の時間的変化に、上記のような外乱要因の他、被測定物内での熱伝導や、後述のエネルギー散逸に起因した発熱のように、熱弾性効果によって生じる温度変化(被測定物から放射される赤外線の強度変化)以外の要因で生じた温度変化が含まれる場合がある。
【0004】
このため、非特許文献1に記載の技術では、赤外線撮像装置から出力された画像信号から、測定対象とする熱弾性効果によって生じる温度変化に応じた信号波形をロックイン処理している。すなわち、赤外線撮像装置から出力された画像信号から、所定の周波数成分のみを抽出している。
具体的には、例えば、被測定物に繰り返し荷重を付加する疲労試験機から出力され、付加する繰り返し荷重と同じ周波数の参照信号を利用する。この参照信号で画像信号を同期検波し、参照信号に応じた周波数帯域の画像信号成分のみ(参照信号と同じ周波数を有する画像信号成分のみ又は参照信号と同じ周波数を含む狭周波数帯域の画像信号のみ)を抽出することで、測定すべき熱弾性効果によって生じる温度変化のS/N比を向上させている。そして、抽出した画像信号成分の大きさと、予め記憶されている画像信号成分の大きさ及び温度の対応関係とに応じて、被測定物の温度分布の時間的変化(赤外線撮像装置で撮像した撮像画像を構成する画素毎の温度の時間的変化)を算出する。次に、被測定物の温度分布の時間的変化と、温度の時間的変化及び応力の時間的変化の間の所定の関係式とに基づき、被測定物の応力分布の時間的変化を算出する。具体的には、被測定物の温度分布の時間的変化と、以下の式(1)で表される関係式とに基づき、被測定物の応力分布の時間的変化を算出する。
Δσ=-1/K・ΔT/T ・・・(1)
上記の式(1)において、ΔTは温度の時間的変化を、Δσは応力の時間的変化を、Tは被測定物の温度を、Kは熱弾性係数を意味する。熱弾性係数Kは被測定物の材質によって決まる物性値であり、例えば被測定物が鉄鋼材料から形成されている場合、K=3.5×10-12[Pa-1]となる。
このように、ロックイン処理を用いれば、被測定物の応力分布の時間的変化、ひいては被測定物の応力分布を精度良く算出することが可能である。
【0005】
被測定物に繰り返し荷重を付加することによって、上記の熱弾性効果に起因した温度分布の時間的変化とは別に、エネルギー散逸に起因した温度分布の時間的変化も発生する。
非特許文献2に記載のように、エネルギー散逸に起因した温度分布の時間的変化は、被測定物に最大応力と最小応力とが作用した際に、それぞれ発熱成分として発生すると考えられており、散逸エネルギーは、温度の時間的変化における、被測定物に付加する繰り返し荷重の周波数の2倍の周波数成分として定義される。この散逸エネルギーをΔTとし、赤外線撮像装置を用いて測定した温度の時間的変化(ロックイン処理前の温度の時間的変化)をΔTとし、熱弾性効果に起因した温度の時間的変化(ロックイン処理後の温度の時間的変化)をΔTとすると、外乱要因や熱伝導を考慮しない場合、以下の式(2)が成立する。
ΔT=ΔT-ΔT ・・・(2)
したがって、散逸エネルギー分布は、赤外線撮像装置を用いて測定可能である。具体的には、例えば、赤外線撮像装置を用いて測定した温度分布の時間的変化から、前述のようにロックイン処理によって算出した熱弾性効果に起因した温度分布の時間的変化を減算することによって算出可能である。
【0006】
また、非特許文献2には、赤外線撮像装置を用いて測定した被測定物の散逸エネルギーに基づき、被測定物の疲労限度を推定することが提案されている。
具体的には、被測定物に荷重幅(=最大荷重-最小荷重)の異なる繰り返し荷重を順次付加(例えば、付加する繰り返し荷重の荷重幅を段階的に増加させ、各荷重幅の繰り返し荷重を数千サイクル程度付加)しながら、赤外線撮像装置を用いて被測定物を撮像することで、繰り返し荷重毎に被測定物の温度分布の時間的変化を測定する。そして、繰り返し荷重毎に測定した被測定物の温度分布の時間的変化に基づき、繰り返し荷重毎に被測定物の散逸エネルギー分布を算出し、この繰り返し荷重毎に算出した被測定物の散逸エネルギー分布に基づき、荷重幅と散逸エネルギーとの関係を算出する。
【0007】
図1は、荷重幅と散逸エネルギーとの関係を模式的に示す図である。図1において「◆」でプロットした点が、荷重幅の異なる繰り返し荷重毎に算出した散逸エネルギーである。図1に示すように、両者の関係には、ある荷重幅を境にして散逸エネルギーが急増する急増点が本来的に生じる。そして、この急増点における繰り返し荷重の荷重幅が、いわゆるS-N線図によって求められる疲労限度に対応すると考えられている。
したがって、荷重幅と散逸エネルギーとの関係を算出し、散逸エネルギーが急増する急増点を検出すれば、この急増点における繰り返し荷重の荷重幅を疲労限度として推定可能である。
【0008】
しかしながら、赤外線撮像装置を用いて測定される散逸エネルギー分布から得られる、荷重幅と散逸エネルギーとの関係は、実際には、図1に示した通りのものになるとは限らず、被測定物が残留応力を含む熱処理材や溶接材である場合や、測定時に外乱要因の影響が大きい場合には、散逸エネルギーのばらつきが大きくなったり、全体的に散逸エネルギーが一定の勾配で単調増加してしまい、疲労限度を精度良く推定できる急増点が明確に生じない場合がある。
【0009】
なお、特許文献1、2には、赤外線カメラから得られた温度画像から、測定対象物に関する、加振の基本周波数の成分の温度振幅に対する第二高調波成分の温度振幅の関係を求め、前記関係を、二次曲線である第一の近似線と二次曲線である第二の近似線によりフィッティングし、前記第一の近似線と前記第二の近似線の交点に基づき前記測定対象物の疲労限度応力を求める方法が提案されている。
しかしながら、特許文献1、2に記載の方法は、図1に示すような荷重幅と散逸エネルギーとの関係において、疲労限度に対応すると考えられる散逸エネルギーの急増点を検出するものではない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】矢尾板達也、他2名、「赤外線カメラによる応力測定と疲労限界点の予測測定」、自動車技術会秋季学術講演会、No.98-03、(2003)
【非特許文献2】塩澤大輝、他6名、「散逸エネルギ計測に基づいたTi-6Al-4V合金の疲労限度推定」、日本材料学会第69期学術講演会講演論文集、No.132、(2020)
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2018-105709号公報
【特許文献2】特開2019-148507号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記のような従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、赤外線撮像装置を用いて測定した被測定物の散逸エネルギー分布に基づき、被測定物の疲労限度を精度良く推定する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討した結果、従来と同様に、被測定物に付加する繰り返し荷重の荷重幅と散逸エネルギーとの関係を算出した後、この関係を荷重幅で1階微分して得られる1階微分値、荷重幅で2階微分して得られる2階微分値、及び、1階微分値と前記2階微分値との積の3つのパラメータのうち、いずれか1つのパラメータに着目すれば、このパラメータの最大値が得られた荷重幅が被測定物の疲労限度に精度良く対応することを知見した。換言すれば、被測定物の残留応力や外乱要因の影響により、荷重幅と散逸エネルギーとの関係を図示するだけでは明確な急増点が生じていない場合であっても、上記3つのパラメータのうちのいずれか1つのパラメータの最大値が得られた荷重幅が本来の急増点に相当するものになることを知見した。
【0014】
本発明は、本発明者らの上記の知見に基づき完成したものである。
すなわち、前記課題を解決するため、本発明は、被測定物に荷重幅Pの異なる繰り返し荷重を順次付加しながら、赤外線撮像装置を用いて前記被測定物を撮像することで、前記繰り返し荷重毎に前記被測定物の温度分布の時間的変化を測定し、前記繰り返し荷重毎に測定した前記被測定物の温度分布の時間的変化に基づき、前記繰り返し荷重毎に前記被測定物の散逸エネルギー分布を算出し、前記繰り返し荷重毎に算出した前記被測定物の散逸エネルギー分布に基づき、荷重幅Pと散逸エネルギーqとの関係を算出する関係算出ステップと、前記関係算出ステップで算出した関係を前記荷重幅Pで1階微分して得られる前記荷重幅P毎の1階微分値d、前記関係算出ステップで算出した関係を前記荷重幅Pで2階微分して得られる前記荷重幅P毎の2階微分値d2、及び、前記荷重幅P毎の前記1階微分値dと前記2階微分値d2との積dαの3つのパラメータのうち、いずれか1つのパラメータの最大値が得られた前記荷重幅Pを前記被測定物の疲労限度として推定する疲労限度推定ステップと、を有する、疲労限度推定方法を提供する。
【0015】
本発明によれば、関係算出ステップにおいて、従来と同様に、荷重幅Pと散逸エネルギーqとの関係を算出する。そして、疲労限度推定ステップにおいて、1階微分値d、2階微分値d2、及び、1階微分値dと2階微分値d2との積dαの3つのパラメータのうち、いずれか1つのパラメータの最大値が得られた荷重幅Pを被測定物の疲労限度として推定する。このため、本発明者らが知見した通り、被測定物の疲労限度を精度良く推定可能である。
【0016】
本発明者らの知見によれば、3つのパラメータのうち、1階微分値dと2階微分値d2との積dαの最大値が、本来の急増点に相当する可能性が最も高く、被測定物の疲労限度と最も精度良く対応する場合が多い。
このため、前記疲労限度推定ステップにおいて、前記1階微分値dと前記2階微分値d2との積dαの最大値dαmaxが得られた前記荷重幅Pを前記被測定物の疲労限度として推定することが好ましい。
【0017】
好ましくは、前記疲労限度推定ステップにおいて、前記1階微分値dの最大値dmaxに対する前記1階微分値dの比d_rateを前記荷重幅P毎に算出し、前記最大値dmaxについての前記比d_rateを除く全ての前記比d_rateが第1しきい値以下である場合には、前記最大値dmaxが得られた前記荷重幅Pを前記被測定物の疲労限度として推定し、前記最大値dmaxについての前記比d_rateを除くいずれかの前記比d_rateが前記第1しきい値を超える場合には、前記2階微分値d2の最大値d2maxに対する前記2階微分値d2の比d2_rateを前記荷重幅P毎に算出し、前記最大値d2maxについての前記比d2_rateを除く全ての前記比d2_rateが第2しきい値以下である場合には、前記最大値d2maxが得られた前記荷重幅Pを前記被測定物の疲労限度として推定し、前記最大値dmaxについての前記比d_rateを除くいずれかの前記比d_rateが前記第1しきい値を超え、且つ、前記最大値d2maxについての前記比d2_rateを除くいずれかの前記比d2_rateが前記第2しきい値を超える場合には、前記1階微分値dと前記2階微分値d2との積dαの最大値dαmaxが得られた前記荷重幅Pを前記被測定物の疲労限度として推定する。
【0018】
上記の好ましい方法では、1階微分値dの最大値dmaxに対する1階微分値dの比d_rateを荷重幅P毎に算出し、最大値dmaxについての比d_rateを除く全ての比d_rateが第1しきい値以下であるか否かを判定する。最大値dmaxについての比d_rateは1であるため、第1しきい値としては、0より大きく1より小さな値(例えば、0.5)が設定される。最大値dmaxについての比d_rateを除く全ての比d_rateが第1しきい値以下であれば(換言すれば、最大値dmaxが他の1階微分値dに比べて十分に大きければ)、最大値dmaxが得られた荷重幅Pが本来の急増点に相当する可能性が高いといえる。このため、上記の好ましい方法では、最大値dmaxについての比d_rateを除く全ての比d_rateが第1しきい値以下である場合には、最大値dmaxが得られた荷重幅Pを被測定物の疲労限度として推定する。
【0019】
一方、最大値dmaxについての比d_rateを除くいずれかの比d_rateが第1しきい値を超える場合には、最大値dmaxが得られた荷重幅Pが本来の急増点に相当しない可能性がある。このため、上記の好ましい方法では、上記の場合に、2階微分値d2の最大値d2maxに対する2階微分値d2の比d2_rateを荷重幅P毎に算出し、最大値d2maxについての比d2_rateを除く全ての比d2_rateが第2しきい値以下であるか否かを判定する。最大値d2maxについての比d2_rateは1であるため、第2しきい値としては、0より大きく1より小さな値(例えば、0.5)が設定される。第2しきい値は第1しきい値と同じ値であってもよいし、異なる値であってもよい。最大値d2maxについての比d2_rateを除く全ての比d2_rateが第2しきい値以下であれば(換言すれば、最大値d2maxが他の2階微分値d2に比べて十分に大きければ)、最大値d2maxが得られた荷重幅Pが本来の急増点に相当する可能性が高いといえる。このため、上記の好ましい方法では、最大値d2maxについての比d2_rateを除く全ての比d2_rateが第2しきい値以下である場合には、最大値d2maxが得られた荷重幅Pを被測定物の疲労限度として推定する。
【0020】
そして、上記の好ましい方法では、最大値dmaxについての比d_rateを除くいずれかの比d_rateが第1しきい値を超え、且つ、最大値d2maxについての比d2_rateを除くいずれかの比d2_rateが第2しきい値を超える場合には、前述のように、本来の急増点に相当する可能性が最も高い、1階微分値dと2階微分値d2との積dαの最大値dαmaxが得られた荷重幅Pを被測定物の疲労限度として推定する。
【0021】
以上のように、上記の好ましい方法によれば、1階微分値dの最大値dmax、2階微分値d2の最大値d2max、1階微分値dと2階微分値d2との積dαの最大値dαmaxの順に、被測定物の疲労限度を推定するのに用いるパラメータを検討するため、例えば、1階微分値dの最大値dmaxが得られた荷重幅Pを被測定物の疲労限度として推定することになった場合(最大値dmaxについての比d_rateを除く全ての比d_rateが第1しきい値以下である場合)には、2階微分値d2や、1階微分値dと2階微分値d2との積dαを算出する必要がなく、推定の効率を高めることが可能である。同様に、2階微分値d2の最大値d2maxが得られた荷重幅Pを被測定物の疲労限度として推定することになった場合(最大値d2maxについての比d2_rateを除く全ての比d2_rateが第2しきい値以下である場合)には、1階微分値dと2階微分値d2との積dαを算出する必要がなく、推定の効率を高めることが可能である。
【0022】
好ましくは、前記疲労限度推定ステップにおいて、前記1階微分値dの最大値dmaxに対する前記1階微分値dの比d_rateを前記荷重幅P毎に算出すると共に、前記2階微分値d2の最大値d2maxに対する前記2階微分値d2の比d2_rateを前記荷重幅P毎に算出し、前記最大値dmaxについての前記比d_rateを除く全ての前記比d_rateが第1しきい値以下であり、前記最大値d2maxについての前記比d2_rateを除く全ての前記比d2_rateが第2しきい値以下であり、なお且つ、前記最大値dmaxが得られた前記荷重幅Pと前記最大値d2maxが得られた前記荷重幅Pとが等しいという条件を満足する場合には、前記最大値dmax及び前記最大値d2maxが得られた前記荷重幅Pを前記被測定物の疲労限度として推定し、前記条件を満足しない場合には、前記1階微分値dと前記2階微分値d2との積dαの最大値dαmaxが得られた前記荷重幅Pを前記被測定物の疲労限度として推定する。
【0023】
上記の好ましい方法によれば、1階微分値dの最大値dmax及び2階微分値d2の最大値d2max、1階微分値dと2階微分値d2との積dαの最大値dαmaxの順に、被測定物の疲労限度を推定するのに用いるパラメータを検討するため、例えば、1階微分値dの最大値dmax及び2階微分値d2の最大値d2maxが得られた荷重幅Pを被測定物の疲労限度として推定することになった場合(最大値dmaxについての比d_rateを除く全ての比d_rateが第1しきい値以下であり、最大値d2maxについての比d2_rateを除く全ての比d2_rateが第2しきい値以下であり、なお且つ、最大値dmaxが得られた荷重幅Pと最大値d2maxが得られた荷重幅Pとが等しい場合)には、1階微分値dと2階微分値d2との積dαを算出する必要がなく、推定の効率を高めることが可能である。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、赤外線撮像装置を用いて測定した被測定物の散逸エネルギー分布に基づき、被測定物の疲労限度を精度良く推定することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】荷重幅と散逸エネルギーとの関係を模式的に示す図である。
図2】第1実施形態に係る疲労限度推定方法のステップを概略的に示すフロー図である。
図3図2に示す関係算出ステップS1で算出される、被測定物の散逸エネルギー分布及び荷重幅Pと散逸エネルギーqとの関係の一例を示す図である。
図4図3(b)に示す荷重幅Pと散逸エネルギーqとの関係と、この関係から算出した1階微分値dとを示す図である。
図5図3(b)に示す荷重幅Pと散逸エネルギーqとの関係と、この関係から算出した2階微分値d2とを示す図である。
図6図3(b)に示す荷重幅Pと散逸エネルギーqとの関係と、この関係から算出した1階微分値dと2階微分値d2との積dαを示す図である。
図7】第2実施形態に係る疲労限度推定方法のステップを概略的に示すフロー図である。
図8】第1実施形態に係る疲労限度推定方法の実施例の概要を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、添付図面を適宜参照しつつ、本発明の実施形態(第1実施形態及び第2実施形態)に係る疲労限度推定方法について説明する。
【0027】
<第1実施形態>
図2は、第1実施形態に係る疲労限度推定方法のステップを概略的に示すフロー図である。
図2に示すように、第1実施形態に係る疲労限度推定方法は、関係算出ステップS1と、疲労限度推定ステップS2と、を有する。以下、各ステップS1、S2について順に説明する。
【0028】
[関係算出ステップS1]
関係算出ステップS1では、疲労試験機等によって、被測定物に荷重幅(=最大荷重-最小荷重)Pの異なる繰り返し荷重を順次付加しながら、赤外線撮像装置を用いて被測定物を撮像することで、繰り返し荷重毎に被測定物の温度分布の時間的変化を測定する。具体的には、被測定物に付加する繰り返し荷重の荷重幅Pを、応力比(=最小応力/最大応力=最小荷重/最大荷重)を一定にした条件で段階的に増加させ、各荷重幅Pの繰り返し荷重を数千サイクル程度付加しながら、赤外線撮像装置を用いて被測定物を撮像することで、繰り返し荷重毎に被測定物の温度分布の時間的変化を測定する。そして、繰り返し荷重毎に測定した被測定物の温度分布の時間的変化に基づき、繰り返し荷重毎に被測定物の散逸エネルギー分布を算出する。
具体的には、赤外線撮像装置から出力された画像信号から、熱弾性効果によって生じる温度変化に応じた信号波形をロックイン処理する(付加する繰り返し荷重と同じ周波数の参照信号で画像信号を同期検波し、参照信号に応じた周波数帯域の画像信号成分のみを抽出する)。そして、赤外線撮像装置から出力された画像信号(ロックイン処理前の画像信号)によって得られた被測定物の温度分布の時間的変化から、ロックイン処理によって抽出した画像信号成分によって得られた熱弾性効果に起因した被測定物の温度分布の時間的変化を減算することで、被測定物の散逸エネルギー分布を算出する。
なお、関係算出ステップS1の上記の手順を実行するための赤外線撮像装置としては、例えば、FLIR社製のX6580シリーズ(冷却式、温度分解能0.02℃、画素数最大640×512ピクセル、フレームレート最大350Hz)を、散逸エネルギー分布の算出用ソフトウェアとしては、同社製のAltairLIを用いることができる。
【0029】
次に、関係算出ステップS1では、上記のようにして、繰り返し荷重毎に算出した被測定物の散逸エネルギー分布に基づき、荷重幅Pと散逸エネルギーqとの関係を算出する。
図3は、関係算出ステップS1で算出される、被測定物の散逸エネルギー分布及び荷重幅Pと散逸エネルギーqとの関係の一例を示す図である。図3(a)は散逸エネルギー分布(散逸エネルギー分布を示す画像)の一例を、図3(b)は荷重幅Pと散逸エネルギーqとの関係の一例を示す。図3(a)に示す散逸エネルギー分布は、濃度の濃い(黒い)画素ほど、散逸エネルギーが大きいことを示している。図3(b)に示す関係は、図3(a)に示すような散逸エネルギー分布を繰り返し荷重毎に(段階的に増加させた異なる荷重幅P毎に)算出し、散逸エネルギー分布において、破壊起点が発生し得ると考えられる応力集中部(図3(a)に示す破線Sで囲んだ縦横数~十数ピクセルずつの画素領域)における散逸エネルギーの代表値(具体的には、平均値)を繰り返し荷重毎にプロットしたものである。なお、代表値としては、平均値に限るものではなく、例えば、最大値を用いることも可能である。
【0030】
[疲労限度推定ステップS2]
図3(b)に示す荷重幅Pと散逸エネルギーqとの関係は、図1に示す関係に比べれば、全体的に散逸エネルギーが一定の勾配で単調増加しており、急増点が明確ではない。
そこで、第1実施形態に係る疲労限度推定方法の疲労限度推定ステップS2では、関係算出ステップS1で算出した関係を荷重幅Pで1階微分して得られる荷重幅P毎の1階微分値d、関係算出ステップS1で算出した関係を荷重幅Pで2階微分して得られる荷重幅P毎の2階微分値d2、及び、荷重幅P毎の1階微分値dと2階微分値d2との積dαの3つのパラメータのうち、いずれか1つのパラメータの最大値が得られた荷重幅Pを被測定物の疲労限度として推定する。
【0031】
1階微分値dは、隣り合うプロット点の荷重幅Pの変化量をΔPとし、隣り合うプロット点の散逸エネルギーの変化量をΔqとすると、以下の式(3)で算出される(図3(b)参照)。
d=Δq/ΔP ・・・(3)
すなわち、小さい方からn番目のプロット点の1階微分値dをdとし、小さい方からn番目のプロット点の荷重幅PをP、散逸エネルギーqをqとし、小さい方からn+1番目のプロット点の荷重幅PをPn+1、散逸エネルギーqをqn+1とすれば、1階微分値dは、例えば、以下の式(3)’で算出される。
=(qn+1-q)/(Pn+1-P) ・・・(3)’
【0032】
2階微分値d2は、隣り合うプロット点の1階微分値dの変化量をΔdとすれば、以下の式(4)で算出される(図3(b)参照)。
d2=Δd/ΔP ・・・(4)
すなわち、小さい方からn番目のプロット点の2階微分値d2をd2とし、小さい方からn+1番目のプロット点の1階微分値dをdn+1とすれば、2階微分値d2は、例えば、以下の式(4)’で算出される。
d2=(dn+1-d)/(Pn+1-P)={(qn+2-qn+1)/(Pn+2-Pn+1)-(qn+1-q)/(Pn+1-P)}/(Pn+1-P)・・・(4)’
上記の式(4)’において、qn+2は小さい方からn+2番目のプロット点の散逸エネルギーqであり、Pn+2は小さい方からn+2番目のプロット点の荷重幅Pである。
【0033】
1階微分値dと2階微分値d2との積dαは、以下の式(5)で算出される(図3(b)参照)。
dα=d・d2 ・・・(5)
すなわち、小さい方からn番目のプロット点の積dαをdαとすれば、積dαは、以下の式(5)’で算出される。
dα=d・d2 ・・・(5)’
【0034】
前述のように、疲労限度推定ステップS2では、以上に説明した、荷重幅P毎の1階微分値d、荷重幅P毎の2階微分値d2、及び、荷重幅P毎の1階微分値dと2階微分値d2との積dαの3つのパラメータのうち、いずれか1つのパラメータの最大値が得られた荷重幅Pを被測定物の疲労限度として推定するが、具体的には、以下に説明する各ステップを実行する。
【0035】
図2に示すように、疲労限度推定ステップS2では、まず、関係算出ステップS1で算出した関係(図3(b)参照)を荷重幅Pで1階微分して荷重幅P毎の1階微分値dを算出し、1階微分値dの最大値dmaxに対する1階微分値dの比d_rateを荷重幅P毎に算出する(図2のステップS21)。
すなわち、小さい方からn番目のプロット点の1階微分値dについての比d_rateをd_rateとすると、比d_rateは、以下の式(6)で算出される。
d_rate=d/dmax ・・・(6)
そして、最大値dmaxについての比d_rateを除く全ての比d_rateが第1しきい値Th1以下であるか否かを判定する(図2のステップS22)。最大値dmaxについての比d_rateを除く全ての比d_rateが第1しきい値Th1以下である場合(図2のステップS22において「Yes」の場合)には、最大値dmaxが得られた荷重幅Pを被測定物の疲労限度として推定する(図2のステップS23)。一方、最大値dmaxについての比d_rateを除くいずれかの比d_rateが第1しきい値Th1を超える場合(図2のステップS22において「No」の場合)には、ステップS24に進む。
【0036】
図4は、図3(b)に示す荷重幅Pと散逸エネルギーqとの関係と、この関係から算出した1階微分値dとを示す図である。図4において、1階微分値dは「×」でプロットしている。
図4に示すように、荷重幅Pにおいて、1階微分値dが最大値dmaxとなっている。このため、荷重幅Pが本来の急増点に相当すると考えることもできる。しかしながら、荷重幅P10及びP16においても1階微分値dが大きくなっているため、荷重幅Pが本来の急増点に相当すると断定するのは困難である。そこで、上記のように、最大値dmaxについての比d_rateを除く全ての比d_rateが第1しきい値Th1以下であるか否かを判定することにしている。図4に示す例では、荷重幅P10における1階微分値d10についての比d_rate10、荷重幅P14における1階微分値d14についての比d_rate14及び荷重幅P16における1階微分値d16についての比d_rate16のいずれもが0.5よりも大きい。このため、第1しきい値Th1=0.5とすると、最大値dmaxについての比d_rateを除くいずれかの比d_rateが第1しきい値Th1を超えることになるため、ステップS24に進むことになる。
【0037】
疲労限度推定ステップS2のステップS24では、関係算出ステップS1で算出した関係(図3(b)参照)を荷重幅Pで2階微分して荷重幅P毎の2階微分値d2を算出し、2階微分値d2の最大値d2maxに対する2階微分値dの比d2_rateを荷重幅P毎に算出する。
すなわち、小さい方からn番目のプロット点の2階微分値d2についての比d2_rateをd2_rateとすると、比d2_rateは、以下の式(7)で算出される。
d2_rate=d2/d2max ・・・(7)
そして、最大値d2maxについての比d2_rateを除く全ての比d2_rateが第2しきい値Th2以下であるか否かを判定する(図2のステップS25)。最大値d2maxについての比d2_rateを除く全ての比d2_rateが第2しきい値Th2以下である場合(図2のステップS25において「Yes」の場合)には、最大値d2maxが得られた荷重幅Pを被測定物の疲労限度として推定する(図2のステップS26)。一方、最大値d2maxについての比d2_rateを除くいずれかの比d2_rateが第2しきい値Th2を超える場合(図2のステップS25において「No」の場合)には、ステップS27に進む。
【0038】
図5は、図3(b)に示す荷重幅Pと散逸エネルギーqとの関係と、この関係から算出した2階微分値d2とを示す図である。図5において、2階微分値d2は「+」でプロットしている。
図5に示すように、荷重幅Pにおいて、2階微分値d2が最大値d2maxとなっている。このため、荷重幅Pが本来の急増点に相当すると考えることもできる。しかしながら、荷重幅P及びP10においても2階微分値d2が大きくなっているため、荷重幅Pが本来の急増点に相当すると断定するのは困難である。そこで、上記のように、最大値d2maxについての比d2_rateを除く全ての比d2_rateが第2しきい値Th2以下であるか否かを判定することにしている。図5に示す例では、荷重幅Pにおける2階微分値d2についての比d2_rate、及び、荷重幅P10における2階微分値d210についての比d2_rate10のいずれもが0.5よりも大きい。このため、第2しきい値Th2=0.5とすると、最大値d2maxについての比d2_rateを除くいずれかの比d2_rateが第2しきい値Th2を超えることになるため、ステップS27に進むことになる。
【0039】
疲労限度推定ステップS2のステップS27は、前述のように、1階微分値dの最大値dmaxについての比d_rateを除くいずれかの比d_rateが第1しきい値Th1を超え、且つ、2階微分値d2の最大値d2maxについての比d2_rateを除くいずれかの比d2_rateが第2しきい値Th2を超える場合に実行される。ステップS27では、1階微分値dと2階微分値d2との積dαを算出し、この積dαの最大値dαmaxが得られた荷重幅Pを被測定物の疲労限度として推定する。
なお、1階微分値dと2階微分値d2とが共に負の値である場合には、1階微分値dと2階微分値d2との積dαの算出結果は、強制的にdα=0とする。
【0040】
図6は、図3(b)に示す荷重幅Pと散逸エネルギーqとの関係と、この関係から算出した1階微分値dと2階微分値d2との積dαを示す図である。図6において、積dαは「*」でプロットしている。
図6に示すように、荷重幅Pにおいて、積dαが最大値dαmaxとなっているため、荷重幅Pが被測定物の疲労限度として推定されることになる。荷重幅Pにおける積dαmaxと他の荷重幅Pにおける積dαとの差は、図4に示す荷重幅Pにおける1階微分値dmaxと他の荷重幅Pにおける1階微分値dとの差や、図5に示す荷重幅Pにおける2階微分値d2maxと他の荷重幅Pにおける2階微分値d2との差に比べて大きい。このため、荷重幅Pが本来の急増点に相当する可能性が高いといえる。
【0041】
以上に説明した第1実施形態に係る疲労限度推定方法によれば、疲労限度推定ステップS2において、1階微分値d、2階微分値d2、及び、1階微分値dと2階微分値d2との積dαの3つのパラメータのうち、いずれか1つのパラメータの最大値が得られた荷重幅Pを被測定物の疲労限度として推定するため、被測定物の疲労限度を精度良く推定可能である。
特に、第1実施形態に係る疲労限度推定方法によれば、1階微分値dの最大値dmax、2階微分値d2の最大値d2max、1階微分値dと2階微分値d2との積dαの最大値dαmaxの順に、被測定物の疲労限度を推定するのに用いるパラメータを検討するため、例えば、1階微分値dの最大値dmaxが得られた荷重幅Pを被測定物の疲労限度として推定することになった場合(最大値dmaxについての比d_rateを除く全ての比d_rateが第1しきい値Th1以下である場合)には、2階微分値d2や、1階微分値dと2階微分値d2との積dαを算出する必要がなく、推定の効率を高めることが可能である。同様に、2階微分値d2の最大値d2maxが得られた荷重幅Pを被測定物の疲労限度として推定することになった場合(最大値d2maxについての比d2_rateを除く全ての比d2_rateが第2しきい値Th2以下である場合)には、1階微分値dと2階微分値d2との積dαを算出する必要がなく、推定の効率を高めることが可能である。
【0042】
<第2実施形態>
図7は、第2実施形態に係る疲労限度推定方法のステップを概略的に示すフロー図である。
図7に示すように、第2実施形態に係る疲労限度推定方法も、第1実施形態と同様に、関係算出ステップS1と、疲労限度推定ステップS2’と、を有する。ただし、疲労限度推定ステップS2’の内容が第1実施形態の疲労限度推定ステップS2と異なる。以下、疲労限度推定ステップS2’について、第1実施形態の疲労限度推定ステップS2と同じ点については適宜説明を省略し、主として第1実施形態と異なる点を説明する。
【0043】
[疲労限度推定ステップS2’]
疲労限度推定ステップS2’でも、第1実施形態の疲労限度推定ステップS2と同様に、荷重幅P毎の1階微分値d、荷重幅P毎の2階微分値d2、及び、荷重幅P毎の1階微分値dと2階微分値d2との積dαの3つのパラメータのうち、いずれか1つのパラメータの最大値が得られた荷重幅Pを被測定物の疲労限度として推定するが、具体的には、以下に説明する各ステップを実行する。
【0044】
図7に示すように、疲労限度推定ステップS2’では、まず、関係算出ステップS1で算出した関係(図3(b)参照)を荷重幅Pで1階微分して荷重幅P毎の1階微分値dを算出し、1階微分値dの最大値dmaxに対する1階微分値dの比d_rateを荷重幅P毎に算出すると共に、関係算出ステップS1で算出した関係(図3(b)参照)を荷重幅Pで2階微分して荷重幅P毎の2階微分値d2を算出し、2階微分値d2の最大値d2maxに対する2階微分値dの比d2_rateを荷重幅P毎に算出する(図7のステップS21’)。
そして、以下の条件(a)~(c)を満足するか否かを判定する(図7のステップS22’)。
(a)最大値dmaxについての比d_rateを除く全ての比d_rateが第1しきい値Th1以下である。
(b)最大値d2maxについての比d2_rateを除く全ての比d2_rateが第2しきい値Th2以下である。
(c)最大値dmaxが得られた荷重幅Pと最大値d2maxが得られた荷重幅Pとが等しい。
上記の条件(a)~(c)を全て満足する場合(図7のステップS22’において「Yes」の場合)には、最大値dmax及び最大値d2maxが得られた荷重幅Pを被測定物の疲労限度として推定する(図2のステップS23’)。一方、上記の条件(a)~(c)のいずれかを満足しない場合(図2のステップS22’において「No」の場合)には、ステップS24’に進む。
【0045】
前述の図4に示す例では、荷重幅P10における1階微分値d10についての比d_rate10、荷重幅P14における1階微分値d14についての比d_rate14及び荷重幅P16における1階微分値d16についての比d_rate16のいずれもが0.5よりも大きい。このため、第1しきい値Th1=0.5とすると、最大値dmaxについての比d_rateを除くいずれかの比d_rateが第1しきい値Th1を超えることになるため、上記の条件(a)を満足しないことになる。
また、前述の図5に示す例では、荷重幅Pにおける2階微分値d2についての比d2_rate、及び、荷重幅P10における2階微分値d210についての比d2_rate10のいずれもが0.5よりも大きい。このため、第2しきい値Th2=0.5とすると、最大値d2maxについての比d2_rateを除くいずれかの比d2_rateが第2しきい値Th2を超えることになるため、上記の条件(b)を満足しないことになる。
さらに、前述の図4及び図5に示す例では、最大値dmaxが得られた荷重幅Pと最大値d2maxが得られた荷重幅Pとが共に荷重幅Pで等しいため、上記の条件(c)を満足することになる。
したがって、前述の図4及び図5に示す例では、上記の条件(a)~(c)のうち、条件(a)及び(b)を満足しないため、ステップS24’に進むことになる。
【0046】
疲労限度推定ステップS2’のステップS24’では、第1実施形態の疲労限度推定ステップS2のステップS27と同様に、1階微分値dと2階微分値d2との積dαを算出し(1階微分値dと2階微分値d2とが共に負の値である場合には、1階微分値dと2階微分値d2との積dαの算出結果は、強制的にdα=0とする)、この積dαの最大値dαmaxが得られた荷重幅Pを被測定物の疲労限度として推定する。
前述の図6に示す例では、荷重幅Pにおいて、積dαが最大値dαmaxとなっているため、荷重幅Pが被測定物の疲労限度として推定されることになる。
【0047】
以上に説明した第2実施形態に係る疲労限度推定方法によれば、疲労限度推定ステップS2’において、1階微分値d、2階微分値d2、及び、1階微分値dと2階微分値d2との積dαの3つのパラメータのうち、いずれか1つのパラメータの最大値が得られた荷重幅Pを被測定物の疲労限度として推定するため、被測定物の疲労限度を精度良く推定可能である。
特に、第2実施形態に係る疲労限度推定方法によれば、1階微分値dの最大値dmax及び2階微分値d2の最大値d2max、1階微分値dと2階微分値d2との積dαの最大値dαmaxの順に、被測定物の疲労限度を推定するのに用いるパラメータを検討するため、例えば、1階微分値dの最大値dmax及び2階微分値d2の最大値d2maxが得られた荷重幅Pを被測定物の疲労限度として推定することになった場合(最大値dmaxについての比d_rateを除く全ての比d_rateが第1しきい値Th1以下であり、最大値d2maxについての比d2_rateを除く全ての比d2_rateが第2しきい値Th2以下であり、なお且つ、最大値dmaxが得られた荷重幅Pと最大値d2maxが得られた荷重幅Pとが等しい場合)には、1階微分値dと2階微分値d2との積dαを算出する必要がなく、推定の効率を高めることが可能である。
【0048】
なお、本発明に係る疲労限度推定方法は、以上に説明した第1実施形態又は第2実施形態に係る疲労限度推定方法に限るものではない。荷重幅Pと散逸エネルギーqとの関係から得られる、1階微分値d、2階微分値d2、及び、1階微分値dと2階微分値d2との積dαの3つのパラメータのうち、いずれか1つのパラメータの最大値が得られた荷重幅Pを被測定物の疲労限度として推定する限りにおいて、種々の態様を採用可能である。
【0049】
<実施例>
以下、第1実施形態に係る疲労限度推定方法を実行した実施例について説明する。
図8は、本実施例の概要を説明する説明図である。図8(a)は本実施例で用いた試験片を模式的に示す図であり、図8(b)は図8(a)に示す試験片の疲労試験を行って求めたS-N線図である。
図8(a)に示すように、試験片としては、2枚の鋼板の一部を重ね、この重ね代にスポット溶接を施して2枚の鋼板を接合したものを用いた。
本実施例の関係算出ステップS1では、この試験片を、繰り返し荷重を付加する疲労試験機に取り付け、荷重幅P=0.8~2.4kN(応力比:0.05、繰り返し周波数:7Hz)の範囲で段階的に荷重幅Pを増加させ、各荷重幅Pの繰り返し荷重を2000サイクルずつ付加した。この状態で、赤外線撮像装置を用いて試験片のスポット溶接部の周辺を撮像することで、繰り返し荷重毎に試験片の温度分布の時間的変化を測定した。赤外線撮像装置としては、FLIR社製のX6580シリーズを用い、フレームレートを149Hzに設定して、繰り返し荷重毎に10sec間の測定を行なった(10sec間における温度分布の変化を測定した)。そして、FLIR社製のAltairLIを用いて、散逸エネルギー分布を算出した。前述の図3(a)は、上記の手順で算出した散逸エネルギー分布である。前述の図3(b)の縦軸は、図3(a)に示す破線Sで囲んだ15×15ピクセルの画素領域(破壊起点が発生し得ると考えられるスポット溶接部(応力集中部)に相当する画素領域)における散逸エネルギーの平均値である。
【0050】
前述の図4に示す1階微分値dは、本実施例の疲労限度推定ステップS2で算出した1階微分値dである。
前述の図5に示す2階微分値d2は、本実施例の疲労限度推定ステップS2で算出した2階微分値d2である。
前述の図6に示す積dαは、本実施例の疲労限度推定ステップS2で算出した積dαである。
したがって、本実施例では、荷重幅Pが被測定物の疲労限度として推定されることになる。
【0051】
図8(b)に示すように、疲労試験の結果、荷重幅Pでは試験片は未破断であったが、荷重幅Pに増加することで破断した。このため、荷重幅Pと荷重幅Pとの中間の値である荷重幅Pが疲労限度であることが分かる。したがって、第1実施形態に係る疲労限度推定方法で推定した疲労限度は、S-N線図から求めた疲労限度と一致し、精度良く推定可能であることが確認できた。
【符号の説明】
【0052】
d・・・1階微分値
d2・・・2階微分値
dα・・・1階微分値と2階微分値との積
P・・・荷重幅
q・・・散逸エネルギー
S1・・・関係算出ステップ
S2、S2’・・・疲労限度推定ステップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8