(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023044301
(43)【公開日】2023-03-30
(54)【発明の名称】アルカリ金属除去方法
(51)【国際特許分類】
B09B 3/70 20220101AFI20230323BHJP
B09B 5/00 20060101ALI20230323BHJP
B07B 7/08 20060101ALI20230323BHJP
【FI】
B09B3/00 304G
B09B5/00 N ZAB
B07B7/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021152260
(22)【出願日】2021-09-17
(71)【出願人】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】比留間 友亮
(72)【発明者】
【氏名】辰巳 慶展
【テーマコード(参考)】
4D004
4D021
【Fターム(参考)】
4D004AA37
4D004AB03
4D004BA02
4D004CA08
4D004CA13
4D004CA15
4D004CA22
4D004CA40
4D004CB05
4D004CB21
4D004CB34
4D004CB42
4D004CC03
4D004CC11
4D004CC17
4D004DA03
4D004DA06
4D004DA10
4D004DA11
4D021FA25
4D021GB02
(57)【要約】
【課題】木質バイオマス灰の飛灰からアルカリ金属を効率的に除去してセメント原料として有効利用するための、アルカリ金属除去方法を提供する。
【解決手段】本発明は、木質バイオマスの燃焼灰の飛灰からアルカリ金属を除去する方法であって、飛灰にカルシウム源及び塩素源を、一時に又は順次に混合する工程(a)と、工程(a)によって飛灰から水硬率が調整された状態の混合物を加熱して加熱処理物を得る工程(b)とを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
木質バイオマスの燃焼灰の飛灰からアルカリ金属を除去する方法であって、
前記飛灰に、カルシウム源及び塩素源を、一時に又は順次に混合する工程(a)と、
前記工程(a)によって前記飛灰から水硬率が調整された状態の混合物を加熱して加熱処理物を得る工程(b)とを含むことを特徴とする、アルカリ金属除去方法。
【請求項2】
前記工程(b)で得られた前記加熱処理物を水洗する工程(c)とを含むことを特徴とする、請求項1に記載のアルカリ金属除去方法。
【請求項3】
前記工程(a)は、前記混合物の水硬率が0.3~0.6となるように調整された量の前記カルシウム源を投入する工程を含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載のアルカリ金属除去方法。
【請求項4】
前記工程(a)で利用される前記カルシウム源は、CaCO3及びCaOの少なくとも一方が含有された、工業原料及び廃棄物からなる群に属する1種以上を含むことを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載のアルカリ金属除去方法。
【請求項5】
前記工程(b)は、800℃~1300℃の温度で加熱する工程であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載のアルカリ金属除去方法。
【請求項6】
前記工程(a)で利用される前記塩素源は、廃プラスチック及び無機化合物塩素が混入された可燃性廃棄物を含むことを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載のアルカリ金属除去方法。
【請求項7】
前記工程(a)で利用される前記塩素源は、80mm以下の大きさであることを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載のアルカリ金属除去方法。
【請求項8】
前記工程(a)は、前記飛灰の全アルカリ金属成分のモル量(M1)に対する、前記塩素源の全塩素のモル量(M2)の比率(M2/M1)が、1~4の範囲内となるように調整された量の前記塩素源を投入する工程を含むことを特徴とする、請求項1~7のいずれか1項に記載のアルカリ金属除去方法。
【請求項9】
前記飛灰を細粉と粗粉に分級する工程(d)を更に有し、
前記工程(a)は、前記工程(d)によって前記飛灰が分級された後の前記粗粉に対して、前記カルシウム源及び前記塩素源を混合する工程であることを特徴とする、請求項1~8のいずれか1項に記載のアルカリ金属除去方法。
【請求項10】
前記工程(c)は、前記工程(b)で得られた前記加熱処理物に加えて、前記工程(d)によって前記飛灰が分級された後の前記細粉を水洗する工程であることを特徴とする、請求項9に記載のアルカリ金属除去方法。
【請求項11】
前記工程(d)によって得られた前記粗粉を粉砕して粗粉粉砕物を得る工程(e)を更に有し、
前記工程(a)は、前記工程(e)によって得られた前記粗粉粉砕物に対して、前記カルシウム源及び前記塩素源を混合する工程であることを特徴とする、請求項9又は10に記載のアルカリ金属除去方法。
【請求項12】
前記工程(e)は、前記粗粉粉砕物のブレーン比表面積が7,000cm2/g以下となるように粉砕する工程であることを特徴とする、請求項11に記載のアルカリ金属除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアルカリ金属除去方法に関し、特に、木質バイオマスの燃焼灰をセメント原料等として有効利用するためのアルカリ金属除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹木の幹や枝、切削チップ、おが粉、樹皮、木質ペレット、PKS(palm kernel shell)、建築廃材等の木質バイオマスについては、発電用ボイラ等の燃料とする技術開発に並行して、木質バイオマスの燃焼で発生する燃焼灰(以後、「木質バイオマス灰」と称する場合がある。)の有効利用技術についても開発が進められている。
【0003】
木質バイオマス灰は、例えば石炭灰やごみ焼却灰等と比較すると、アルカリ金属、特にカリウムの含有量が多いことが特徴である。そのため、例えば、多量に発生する石炭灰やごみ焼却灰の有効利用を可能にしているセメント原料化技術を木質バイオマス灰に適用する場合、セメントがアルカリ金属成分を忌避成分とするために木質バイオマス灰からアルカリ金属を除去することが必要となる。更に、木質バイオマス灰の飛灰からアルカリ金属が除去できれば、石炭灰(フライアッシュ)がそうであるように、木質バイオマス灰の飛灰をコンクリート混和材やセメント混合材とする用途開発等も可能になる。
【0004】
木質バイオマス灰からアルカリ金属成分を除去する技術として、例えば、下記特許文献1には、バグフィルタで集塵された木質バイオマス灰(飛灰)を、所定の分級点で分級してカリウム濃度の高い細粉燃焼灰を分別して回収する、燃焼装置及び燃焼灰処理方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、木質バイオマス灰の飛灰は、全ての粒度の灰にアルカリ金属が存在するため、細粉燃焼灰に存在するアルカリ金属を除去するだけではセメント原料等とするには不十分である。
【0007】
上記の課題に鑑み、本発明は、木質バイオマス灰の飛灰(以後、「バイオマス灰」と称する場合もある。)からアルカリ金属を効率的に除去してセメント原料等として有効利用するための、アルカリ金属除去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究の結果、バイオマス灰に含まれるアルカリ金属には水溶性のものと水に難溶性(以後、単に「難溶性」と称する。)なものの2種類が存在すること、並びに、この難溶性のアルカリ金属は、塩素源と一緒に加熱する処理(いわゆる「塩化焙焼」)によって水溶性塩(アルカリ金属塩化物)に変化させられることを見出した。
【0009】
更に、本発明者らは、鋭意研究を重ねたところ、バイオマス灰を単に塩素源と共に加熱するのではなく、カルシウム源を混合した状態で塩素源と共に加熱することで、アルカリ金属の除去率を更に高めることができる点を見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、木質バイオマスの燃焼灰の飛灰からアルカリ金属を除去する方法であって、
前記飛灰に、カルシウム源及び塩素源を、一時に又は順次に混合する工程(a)と、
前記工程(a)によって前記飛灰から水硬率が調整された状態の混合物を加熱して加熱処理物を得る工程(b)とを含むことを特徴とする。
【0011】
カルシウム源を飛灰に混合することで、アルカリ金属の除去率が更に高められる理由について、本発明者らは以下のように考察している。
【0012】
塩素源とバイオマス灰との混合物を加熱する過程において、加熱温度によってはバイオマス灰の溶融や焼結が生じる。また、この過程において生じた水溶性のアルカリ金属塩化物(例えばKCl等)においても溶融状態となる。
【0013】
加熱工程が完了した後、温度が低下していく過程で、溶融したバイオマス灰は固体へと固まる。このとき、溶融状態のアルカリ金属塩化物は、表面張力の相違等に由来して、溶融したバイオマス灰の内部で凝集・結晶化する。この結果、冷却後のバイオマス灰は、水溶性のアルカリ金属塩化物を一部内包した状態となる。バイオマス灰に内包されたアルカリ金属塩化物については、水洗処理を施しても効果的に除去することが難しい。
【0014】
これに対し、上記方法によれば、加熱工程(b)の前段階で、バイオマス灰(飛灰)に対して、塩素源とカルシウム源が混合されている。この結果、加熱工程(b)により、カルシウム源に含まれるCaが、バイオマス灰に含まれるSi等と反応してCa含有鉱物を形成する。このようなCa含有鉱物の一例としては、CaSiO3(ウォラストナイト)、CaAl2Si2O8(灰長石)、又はCa2Al2SiO7(ゲーレナイト)等が挙げられる。これらのCa含有鉱物は、バイオマス灰よりも融点が高い。
【0015】
従って、加熱工程(b)によってバイオマス灰の少なくとも一部がCa含有鉱物に変化することにより、溶融・焼結するバイオマス灰の量が低下する。この結果、溶融状態のアルカリ金属塩が、バイオマス灰の内側に取り込まれる量を低下させることができる。このため、例えば水洗処理を行うことで水に溶解させることで、アルカリ金属の含有率が低下した残渣を得ることができる。また、水洗処理以外の方法で、加熱処理物からアルカリ金属塩を除去(分離)しても構わない。アルカリ金属塩が除去された残渣は、処理前のバイオマス灰(飛灰)と比べて、アルカリ金属の含有率が大幅に低下しているため、石炭灰に代わるセメント原料として有効に利用できる。
【0016】
なお、カルシウム源と塩素源を混合した状態で加熱することで、塩素源に含まれるClの一部が、カルシウム源に含まれるCaと反応して塩化カルシウム(CaCl2)として固定できる。CaCl2の揮発速度は、Cl2やHClと比べて低い。この結果、投入した塩素源に含まれるClのうち、バイオマス灰に含まれるアルカリ金属との反応に寄与せずに揮発する量を抑制する効果も得られる。
【0017】
前記アルカリ金属除去方法は、前記工程(b)で得られた前記加熱処理物を水洗する工程(c)とを含むものとしても構わない。
【0018】
上記のとおり、工程(b)で得られた加熱処理物は、水溶性のアルカリ金属物を含むため、水洗工程(c)によって液相中に溶出される。よって、例えば固液分離工程を経て、アルカリ金属を含む液体が除去された後に得られる残渣(ケーキ)は、処理前のバイオマス灰と比較してアルカリ金属の含有率が低下される。
【0019】
前記工程(a)は、前記混合物の水硬率が0.3~0.6となるように調整された量の前記カルシウム源を投入する工程を含むものとして構わない。
【0020】
本明細書において、水硬率は、混合物中に含まれるCaO、SiO2、Al2O3、Fe2O3の組成比に基づいて、以下の式で規定されるものとして構わない。
水硬率(HM)=(CaO[%])/{SiO2 [%]+Al2O3 [%]+Fe2O3 [%]}
なお、混合物の組成比は、蛍光X線分析法(XRF)によって得られた値を採用することができる。
【0021】
水硬率が0.3以上となるようにカルシウム源を投入することで、バイオマス灰に含まれるアルカリ金属の除去率が充分に高められる。一方で、水硬率が0.6を超える程度にカルシウム源を投入すると、加熱工程(b)で一時に加熱できるバイオマス灰の量が減少してしまう。これは、加熱工程(b)を行う燃焼炉に一時に投入できる粉体の量には制限があるためである。つまり、同一時間で、アルカリ金属を除去することのできるバイオマス灰の量が低下することになるため、処理速度が低下してしまう。かかる観点から、工程(a)においては、混合物の水硬率が0.3~0.6となるように、カルシウム源を投入するのが好適である。
【0022】
前記工程(a)で利用される前記カルシウム源は、CaCO3及びCaOの少なくとも一方が含有された、工業原料及び廃棄物からなる群に属する1種以上を含むものとしても構わない。
【0023】
このような工業原料としては、例えば石灰石、生石灰、消石灰が挙げられる。また、廃棄物としては、製紙汚泥、ペーパースラッジ焼却灰、下水汚泥焼却灰が挙げられる。
【0024】
前記工程(b)は、800℃~1300℃の温度で加熱する工程としても構わない。
【0025】
800℃未満で加熱工程(b)が行われると、温度が低いためにアルカリ金属をアルカリ金属塩に変化させにくい場合がある。また、加熱温度が1300℃を超える場合には、塩素含有物に含まれる塩素が揮発しやすくなり、アルカリ金属に対する接触量が減って反応性が低下する可能性がある。
【0026】
前記工程(a)で利用される前記塩素源は、廃プラスチック及び無機化合物塩素が混入された可燃性廃棄物を含むものとしても構わない。
【0027】
上記方法によれば、塩素含有率が高いためにリサイクル用途に乏しい廃棄物等を、バイオマス灰に含まれるアルカリ金属の除去のために有効活用できる。
【0028】
前記工程(a)で利用される前記塩素源は、80mm以下の大きさであるものとしても構わない。
【0029】
上記大きさの塩素源をバイオマス灰に混合した状態で加熱工程(b)を行うことで、バイオマス灰に含まれる難溶性のアルカリ金属を、高い割合で水溶性塩に変化できる。塩素源の大きさが80mmよりも大きい場合、加熱工程(b)の実行中に塩素源からの塩素の揮発が十分に生じず、バイオマス灰の塩化焙焼が生じ難くなることがある。なお、この塩素源の大きさとは、篩いの目開きの大きさであって、大きさが80mm以下とは目開き80mmの篩いを通過するものを指す。
【0030】
前記工程(a)は、前記飛灰の全アルカリ金属成分のモル量(M1)に対する、前記塩素源の全塩素のモル量(M2)の比率(M2/M1)が、1~4の範囲内となるように調整された量の前記塩素源を投入する工程を含むものとしても構わない。
【0031】
上記方法によれば、バイオマス灰に含まれる難溶性のアルカリ金属の多くを効率的に水溶性塩に変化させることができる。前記M2/M1の値が4を超えると、塩化焙焼に寄与しない塩素が残存してしまい、一部の塩素源を無駄にするおそれがある。また、前記M2/M1の値が1を下回る場合には、加熱工程(b)の完了後に得られた加熱処理物にも、依然として難溶性のアルカリ金属が一定程度含まれるおそれがある。
【0032】
前記アルカリ金属除去方法は、前記飛灰を細粉と粗粉に分級する工程(d)を更に有し、
前記工程(a)は、前記工程(d)によって前記飛灰が分級された後の前記粗粉に対して、前記カルシウム源及び前記塩素源を混合する工程であるものとしても構わない。
【0033】
工程(d)を行うことで、バイオマス灰を、水溶性のアルカリ金属が多く含まれる細粉と、難溶性のアルカリ金属が多く含まれる粗粉とに分離することができる。よって、この粗粉に対してカルシウム源及び塩素源を混合した後、加熱工程(b)を行うことで、効果的且つ効率的に、アルカリ金属を除去することができる。
【0034】
前記工程(d)は、5μm~90μmを分級点として分級する工程であるものとしても構わない。
【0035】
上記方法によれば、排出元が異なるバイオマス灰であっても、ほとんどのバイオマス灰について全体量の20質量%~50質量%に相当する細粉を確保することができる。言い換えれば、工程(b)に係る加熱処理を行う対象となる粗粉は、バイオマス灰の全体量に対して50質量%~80質量%に相当する。つまり、バイオマス灰の全体を加熱する必要がないため、高い加熱効率でアルカリ金属の除去が可能となる。
【0036】
前記工程(c)は、前記工程(b)で得られた前記加熱処理物に加えて、前記工程(d)によって前記飛灰が分級された後の前記細粉を水洗する工程であるものとして構わない。
【0037】
上記方法によれば、細粉側に多く含まれる水溶性のアルカリ金属と、工程(b)を経た粗粉側に含まれる水溶性のアルカリ金属塩の双方を、工程(c)に係る水洗処理によって水に溶解させて除去できる。
【0038】
前記アルカリ金属除去方法は、前記工程(d)によって得られた前記粗粉を粉砕して粗粉粉砕物を得る工程(e)を更に有し、
前記工程(a)は、前記工程(e)によって得られた前記粗粉粉砕物に対して、前記カルシウム源及び前記塩素源を混合する工程であるものとしても構わない。
【0039】
分級後の粗粉には、難溶性のアルカリ金属が全体的に満遍なく含まれていることが想定される。上記方法のように、バイオマス灰に対する分級工程(d)によって得られた粗粉に対して粉砕工程(e)を行うことで、アルカリ金属の露出面積が増加する。よって、このように粉砕された粗粉(粗粉粉砕物)に対して、塩素源とカルシウム源を混合した後に加熱工程(b)を行うことで、塩素源に含まれる塩素との反応性が向上し、より高効率でアルカリ金属塩化物に変化させることができる。
【0040】
前記工程(e)は、前記粗粉粉砕物のブレーン比表面積が7,000cm2/g以下となるように粉砕する工程とするのが好適である。このブレーン比表面積は、1,000cm2/g~7,000cm2/gとするのがより好適である。
【0041】
前記工程(b)は、大気雰囲気下で加熱する工程であっても構わないし、酸素濃度10%以下の雰囲気下で加熱する工程であるものとしても構わない。
【0042】
低酸素濃度下で加熱工程(b)を行うことで、塩素源に含まれる塩素の揮発が進行し過ぎるのが抑制され、バイオマス灰に含まれるアルカリ金属を水溶性のアルカリ金属塩化物に更に変化させやすくなる。
【発明の効果】
【0043】
本発明によれば、バイオマス灰からアルカリ金属を効率的に除去できる。これにより、例えばバイオマス灰をセメント原料等に活用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【
図1】アルカリ金属含有物の処理方法の第一実施形態の手順を模式的に示すフローチャートである。
【
図2】
図1に示す方法を実施する装置の一例を模式的に示すブロック図である。
【
図3】
図1に示す方法を実施する装置の別の一例を模式的に示すブロック図である。
【
図4】
図1に示す方法を実施する装置の別の一例を模式的に示すブロック図である。
【
図5】
図1に示す方法を実施する装置の別の一例を模式的に示すブロック図である。
【
図6】アルカリ金属含有物の処理方法の第二実施形態の手順を模式的に示すフローチャートである。
【
図7】
図6に示す方法を実施する装置の一例を模式的に示すブロック図である。
【
図8】アルカリ金属含有物の処理方法の第三実施形態の手順を模式的に示すフローチャートである。
【
図9】
図8に示す方法を実施する装置の一例を模式的に示すブロック図である。
【
図10】バイオマス灰の原粉BA1に対して、加熱温度及び水硬率HMを変えて塩素源CLと共に加熱したときのK(カリウム)除去率を、条件ごとに対比したグラフである。
【
図11】粗粉BA3に対して、加熱温度及び水硬率HMを変えて塩素源CLと共に加熱したときのK除去率を、条件ごとに対比したグラフである。
【
図12】粗粉粉砕物BA3aに対して、粉砕の程度を変えて塩素源CLと共に加熱したときのK除去率を、粗粉粉砕物BA3aのブレーン比表面積ごとに対比したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0045】
本発明が適用されるバイオマス灰は、アルカリ金属(Na,K)を塩化物、炭酸塩、硫酸塩、又はケイ酸塩ガラス等として含有し、R2O換算(R2O=Na2O+0.658×K2O)で3質量%~50質量%程度含んでいる。このアルカリ金属のうち、塩化物、炭酸塩、及び硫酸塩は水溶性であり、ケイ酸塩ガラスは難溶性である。
【0046】
本発明のアルカリ金属除去方法によれば、バイオマス灰に含まれるアルカリ金属の濃度を、上記R2O換算で2.0質量%以下、より典型的には1.5質量%以下にまで低減できるので、バイオマス灰をセメント原料等として有効利用することが可能となる。なお、バイオマス灰中のアルカリ金属の濃度は、周知の方法で測定することができ、例えば、蛍光X線装置によるFP法、又は湿式分析(酸分解-ICP発光分光分析法)などが好ましく例示される。
【0047】
以下、本発明についてより具体的に図面を参照しつつ説明する。ただし、本発明は、これら図面とともに説明する態様に限定されるものではない。
【0048】
[第一実施形態]
本発明に係るアルカリ金属除去方法の第一実施形態について説明する。
【0049】
図1は、本実施形態のアルカリ金属除去方法の手順を模式的に示すフローチャートである。また、
図2は、
図1に示すアルカリ金属除去方法を実施する装置(以下、「アルカリ金属除去装置」と称する。)の一例を模式的に示すブロック図である。
図2において、バイオマス灰等の固体及び水等の液体の流れを矢印付きの実線で示し、気体の流れを矢印付き破線で示している。後述する各図においても同様である。
【0050】
図1に示すように、本実施形態のアルカリ金属除去方法は、混合工程S1、加熱工程S2、及び水洗工程S3を含む。
【0051】
また、
図2に示すアルカリ金属除去装置1は、混合装置5、加熱装置7、及び水洗装置9を備える。
【0052】
以下、
図1に示す各工程での処理内容につき、適宜
図2を参照しながら詳述する。
【0053】
(混合工程S1)
混合工程S1は、供給されたバイオマス灰BA1に対して、カルシウム源CAと、塩素源CLとを混合する工程である。
図2に示すアルカリ金属除去装置1では、混合装置5によって混合工程S1が実行される。
【0054】
例えば、
図2に示すように、バイオマス灰BA1が貯留される貯槽2から、バイオマス灰BA1が混合装置5に向けて供給される。貯槽2は、混合装置5に対するバイオマス灰BA1の供給量を調整できる供給装置が付設されていてもよい。
【0055】
カルシウム源CAは、カルシウムを含んだものであれば特に限定されないが、CaCO3及びCaOの少なくとも一方が含有されているのが好ましい。また、カルシウム源CAは、入手の容易性や環境への配慮から、石灰石、生石灰、消石灰等の工業原料や、製紙汚泥、ペーパースラッジ焼却灰、下水汚泥焼却灰、廃コンクリート微粉、生コンクリートスラッジ等の廃棄物を好適に利用できる。例えば、アルカリ金属除去装置1は、図示しないカルシウム源CAの貯槽を備えており、この貯槽に貯留されたカルシウム源CAが定量的に混合装置5に対して供給されるものとしても構わない。より好適には、カルシウム源の貯槽には排出量調整バルブ等の排出量調整装置が付設されおり、この排出量調整装置を適切に制御することで、カルシウム源CAの供給量を調整できるものとしてもよい。
【0056】
カルシウム源CAは、カルシウムを10質量%以上含有するのが好ましく、30質量%以上含有するのがより好ましく、50質量%以上含有するのが特に好ましい。なお、ここでいうカルシウム源CA中のカルシウムの濃度は、周知の方法で測定することができ、例えば、蛍光X線装置によるFP法、又は湿式分析(酸分解-ICP発光分光分析法)を利用することができる。
【0057】
カルシウム源CAは、バイオマス灰BA1の水硬率を調整する目的で投入される。水硬率は、HMとも称される指標であり、本明細書においては、対象物(バイオマス灰BA1、混合物BC)に含まれるCaO、SiO2、Al2O3、Fe2O3の組成比に基づいて、以下の式で規定されるものとして構わない。ここで、対象物の組成比は、蛍光X線分析法(XRF)によって得られた値を採用することができる。
水硬率(HM)=(CaO[%])/{SiO2 [%]+Al2O3 [%]+Fe2O3 [%]}
【0058】
混合工程S1では、バイオマス灰BA1とカルシウム源CAの混合物の水硬率が、好ましくは0.3以上となるようにカルシウム源CAの投入量が調整される。なお、この混合工程S1では、バイオマス灰BA1に対して、カルシウム源CAに加えて塩素源CLが混合されるが、塩素源CLの混合によって混合物の水硬率は実質的に変動しないものとして構わない。つまり、この混合工程S1では、バイオマス灰BA1、カルシウム源CA、及び塩素源CLの混合物BCの水硬率が好ましくは0.3以上となるようにカルシウム源CAの投入量が調整される。なお、この混合物BCの水硬率は、0.3~0.6とするのがより好ましい。
【0059】
カルシウム源CAは、バイオマス灰BA1と混合した状態で後段の加熱工程S2が行われることで、バイオマス灰BA1に含まれるSiO2やK2O・4SiO2(カリウムガラス)等のケイ素分と反応して、カルシウム含有鉱物を生成する目的で混合される。この観点から、カルシウム源CAは、バイオマス灰BA1と良好な混合状態を形成するために、好ましくは5mm以下の大きさであり、より好ましくは3mm以下の大きさであり、特に好ましくは1mm以下の大きさである。なお、カルシウム源CAの大きさとは、カルシウム源CAが通過する最小の篩いの目開きを指す。
【0060】
上記の観点から、カルシウム源CAを貯留する貯槽の上流側に、受入れたカルシウム源CAから粗大物を除去するための分級装置や粗大物を所定の粒度にするための粉砕分級装置が付設されていてもよい。これらの分級装置や粉砕分級装置は、受入れたカルシウム源CAの状態に応じて適宜に使用するようにしてもよい。
【0061】
塩素源CLは、塩素を含んだものであれば特に限定されないが、廃ポリ塩化ビニル等のモノマー中に有機塩素を少なくとも一つ含む廃プラスチックや、CaCl2、MgCl2、PbCl2等の無機塩素化合物が混入する可燃性廃棄物を好適に利用できる。例えば、アルカリ金属除去装置1は、図示しない塩素源の貯槽を備えており、この貯槽に貯留された塩素源CLが定量的に混合装置5に対して供給されるものとしても構わない。より好適には、塩素源CLの貯槽には排出量調整バルブ等の排出量調整装置が付設されおり、この排出量調整装置を適切に制御することで、塩素源CLの供給量を調整できるものとしてもよい。
【0062】
塩素源CLは、塩素を0.8質量%以上含有するのが好ましく、1.2質量%以上含有するのがより好ましく、2質量%以上含有するのが特に好ましい。なお、ここでいう塩素源CL中の塩素の濃度は、周知の方法で測定することができ、例えば、蛍光X線装置によるFP法、又は湿式分析(エシュカ分解-イオンクロマトグラフ法)を利用することができる。
【0063】
塩素源CLは、バイオマス灰BA1と混合した状態で後段の加熱工程S2が行われることで、バイオマス灰BA1に含まれるアルカリ金属の塩化揮発を効率的に生じさせる目的で混合される。かかる観点から、塩素源CLは、バイオマス灰BA1と良好な混合状態を形成しつつ、且つ当該塩素源CLからの塩素の揮発を生じさせやすくするために、好ましくは80mm以下の大きさであり、より好ましくは40mm以下の大きさであり、特に好ましくは10mm以下の大きさである。なお、塩素源CLの大きさとは、塩素源CLが通過する最小の篩いの目開きを指す。
【0064】
上記の観点から、塩素源CLを貯留する貯槽の上流側に、受入れた塩素源CLから粗大物を除去するための分級装置や粗大物を所定の粒度にするための粉砕分級装置が付設されていてもよい。これらの分級装置や粉砕分級装置は、受入れた塩素源CLの状態に応じて適宜に使用するようにしてもよい。
【0065】
バイオマス灰BA1と塩素源CLの割合は、バイオマス灰BA1中の全アルカリ金属成分のモル量(M1)に対する、塩素源CLの全塩素のモル量(M22)の比率(M2/M1)の値が1~4となるように、設定されるのが好ましい。なお、前記比率(M2/M1)の値は、2~4であるのがより好ましく、2~3であるのが特に好ましい。
【0066】
比率(M2/M1)の値が1を下回ると、加熱装置7内で加熱される混合物BCに含まれる塩素量が少ないために、バイオマス灰BA1中のアルカリ金属成分のうち、塩素と反応できないアルカリ金属成分が多く残存してしまう場合がある。また、逆に比率(M2/M1)の値が4を超えると、揮発、散逸する塩素量が多くなって設備の腐食の進行を早めてしまう場合がある。
【0067】
なお、
図2では、混合装置5内において、バイオマス灰BA1と、カルシウム源CAと、塩素源CLとが混合される場合が想定されているが、この混合工程S1の実施態様は
図2に示す構成には限られない。
【0068】
例えば、
図3に示すように、混合装置5aにおいてバイオマス灰BA1とカルシウム源CAとがいったん混合された後、この混合物と塩素源CLとが混合装置5において更に混合されるものとしても構わない。
【0069】
また、別の例としては、
図4に示すように、混合装置5においてバイオマス灰BA1とカルシウム源CAとがいったん混合された後、この混合物と塩素源CLとが、加熱装置7内において混合されるものとしても構わない。この場合、加熱装置7が一部の混合装置を兼ねることとなる。
【0070】
更に別の例としては、
図5に示すように、バイオマス灰BA1、カルシウム源CA、及び塩素源CLが、加熱装置7内で混合されても構わない。この場合、加熱装置7が混合装置を兼ねることとなる。
【0071】
この混合工程S1が、工程(a)に対応する。
【0072】
以下では、
図2に示すアルカリ金属除去装置1を参照して説明を続けるが、
図3~
図5のアルカリ金属除去装置1を利用する場合においても同様の説明が可能である。
【0073】
(加熱工程S2)
加熱工程S2は、混合工程S1によって得られた、バイオマス灰BA1、カルシウム源CA及び塩素源CLの混合物BCを、加熱する工程である。この加熱工程S2により、バイオマス灰BA1に含まれる難溶性のアルカリ金属塩が、水溶性のアルカリ金属塩(アルカリ金属塩化物)に効率的に変化する。
図2に示すアルカリ金属除去装置1では、加熱装置7によって加熱工程S2が実行される。
【0074】
加熱装置7は、上述したように、バイオマス灰BA1、カルシウム源CA及び塩素源CLを一緒に加熱する。これにより、バイオマス灰BA1内のアルカリ金属と塩素源CLから揮発した塩素とが反応して水溶性のアルカリ金属塩が生成される。
【0075】
加熱工程S2における加熱温度は、バイオマス灰BA1中のアルカリ金属と塩素源CL中の塩素による塩化焙焼を効率的に生じさせつつ、バイオマス灰BA1を溶融させにくくする観点から、800℃~1300℃が好ましく、1000℃~1200℃がより好ましい。
【0076】
加熱温度が800℃未満であると塩化焙焼の反応が不十分となり、場合によっては水溶性アルカリ金属塩が生成しないか、生成効率が低くなることがある。
【0077】
ところで、カルシウム源CAを混合せずに、単にバイオマス灰BA1と塩素源CLとの混合物を、1000℃以上の高温で加熱した場合には、バイオマス灰BA1に部分的な溶融や焼結による大径化が生じ、これによって水溶性のアルカリ金属塩が内包される場合がある。この場合、後の水洗工程S3で水洗処理を行っても、アルカリ金属塩が水溶されずに残存してしまう。しかしながら、本実施形態では、バイオマス灰BA1と塩素源CLに加えて、カルシウム源CAが混合された状態で、加熱装置7で加熱される。このため、1000℃を超える高温下で加熱されると、バイオマス灰BA1の一部が、カルシウム源CAに含まれるCa由来の鉱物を生成する。この鉱物は、バイオマス灰BA1よりも融点が高いため、溶融したアルカリ金属塩が内包されるという現象が起こりにくい。この結果、後の水洗工程S3によって、アルカリ金属塩を除去する割合が高められる。
【0078】
なお、バイオマス灰BA1に含まれるアルカリ金属の存在形態によっては、より好ましい温度条件が異なる。具体的には、バイオマス灰BA1には、アルカリ金属が長石の形態で含まれる場合があり、この形態での存在量が多い場合には、800℃程度の温度条件では塩化焙焼による効果が十分には得られないことがあるため、1000℃~1300℃とするのがより好ましい。ただし、バイオマス灰BA1に含まれるカリ長石の含有量によっては、800℃程度でもバイオマス灰BA1に含まれるアルカリ金属をアルカリ金属塩に効率的に変化させることができるため、加熱温度については800℃~1300℃の範囲内で適宜調整されるものとしても構わない。
【0079】
加熱工程S2で行われる加熱時間は、加熱温度に応じて5分間~2時間の範囲内で適宜設定すればよい。この加熱時間は、バイオマス灰BA1中のアルカリ金属と塩素源CL中の塩素とを十分に反応させる観点から、加熱温度が高い場合には短く、加熱温度が低い場合には長くする必要がある。具体的には、加熱温度が800℃の場合は30分間~2時間、加熱温度が1000℃の場合は10分間~90分間、加熱温度が1200℃の場合は5分間~60分間とするのが好適である。
【0080】
加熱装置7内の雰囲気は、特に制限されず、酸化雰囲気でも還元雰囲気でもよい。
図2に示す例では、吸気ファン33から燃焼用の大気G1が加熱装置7内に送り込まれている。
【0081】
加熱装置7では、水溶性のアルカリ金属塩の生成反応を効率的に生じさせるために、バイオマス灰BA1と塩素源CLとは十分に混合された状態で加熱されることが望ましい。かかる観点から、加熱装置7を内燃式ロータリーキルンで構成することができる。焼成炉が回転運動するロータリーキルンであれば、被加熱処理物であるバイオマス灰BA1、カルシウム源CA、及び塩素源CLの混合及び撹拌を物理的且つ連続的に行いながら、加熱処理を行うことが可能である。
【0082】
更に、上記の観点に立てば、
図2~
図3に示すアルカリ金属除去装置1のように、バイオマス灰BA1、カルシウム源CA、及び塩素源CLが混合された状態の混合物BCが加熱装置7内に投入される態様がより好ましいといえる。ただし、
図4~
図5のように、塩素源CLが加熱装置7内でバイオマス灰BA1と混合される態様であっても、充分に混合された後に(又は混合しながら)加熱処理が行われることで、水溶性のアルカリ金属塩の生成反応を効率的に生じさせることができる。
【0083】
加熱装置7(典型的にはロータリーキルン)における加熱雰囲気を大気G1とする場合には、加熱装置7に対して燃焼用空気としての大気G1が吸気ファン33から供給される。ロータリーキルンでは、吸気ファン33によって内燃バーナ31の燃焼用空気として用いられた大気G1が、キルン内部を粗粉BA3と塩素源CLの流れに対して向流する方向に流れた後、燃焼排ガスG2としてキルン外に排出される。
【0084】
なお、加熱雰囲気を低酸素濃度の気体(例えば窒素)とする場合には、加熱装置7に対して、
図2内の大気G1に代えて低酸素濃度のガスが流入される。この低酸素濃度のガスのガス源としては、空気から酸素を分離する空気分離装置としても構わないし、他の燃焼炉からの排ガスが排出されるガス排出路としても構わない。更に、
図2に示すように、加熱装置7に対して吸気ファン33を通じて大気を流入させながら、吸気量と燃料の焚量を調整することで、加熱装置7内の雰囲気の酸素濃度を低下させるものとしても構わない。
【0085】
加熱装置7は、バイオマス灰BA1と塩素源CLとの混合物を高温で、典型的には800℃~1300℃の温度範囲で、加熱できるものであれば特に限定されず、固定炉、ストーカ炉、ロータリーキルン、流動床炉、竪型炉、多段炉等の加熱炉が使用できる。なかでも、物理的撹拌が行えるという観点からは、上記のロータリーキルンが好ましい。
【0086】
なお、アルカリ金属及び塩素は、加熱処理の際には共に揮発しやすい成分であることから、燃焼排ガスG2にアルカリ金属と塩素が含まれる場合がある。このため、加熱装置7の排気系の煙道中で、温度がアルカリ金属の塩化物の凝固点を下回る箇所において、当該塩化物の析出が生じる場合がある。かかる塩化物は、回収して肥料等に用いることも可能である。
【0087】
加熱装置7からは、難溶性のアルカリ金属が水溶性塩に変化した状態のバイオマス灰BA1又はCa含有鉱物、カルシウム源CA、及び塩素源CLの焼却残渣の混合物である、加熱処理物P1が排出される。排出された加熱処理物P1は、水洗装置9に送出される。
【0088】
この加熱工程S2が、工程(b)に対応する。
【0089】
(水洗工程S3)
水洗工程S3は、加熱工程S2で得られた加熱処理物P1を水洗する工程である。この水洗工程S3により、加熱処理物P1に含まれる水溶性のアルカリ金属塩が溶解除去される。
図2に示すアルカリ金属除去装置1では、水洗装置9によってこの水洗工程S3が実行される。
【0090】
この水洗工程S3で用いられる溶媒としては、水が好ましい。
【0091】
水洗装置9では、加熱装置7から供給された加熱処理物P1と水W1とを混合してスラリーLr1を生成した後、スラリーLr1の撹拌を継続して、加熱処理物P1中の水溶性のアルカリ金属塩を水に溶解させる。
【0092】
一例として、
図2に示す水洗装置9には、加熱処理物P1の供給ホッパ11、及び水W1の供給装置13が付設されている。また、水洗装置9には、加熱処理物P1と水W1の混合、並びに前記混合によって生成されたスラリーLr1を攪拌するためのスラリー攪拌装置35が付設されている。スラリー攪拌装置35は、例えば、一般的なパドル型やスクリュー型のものが好適に利用され、
図2に示す例では撹拌翼を備えている。
【0093】
供給ホッパ11の上流側に、受入れた加熱処理物P1中の大径物を適当な大きさに粉砕するための粉砕装置が付設されていてもよい。この粉砕装置は、加熱工程S2から供給された加熱処理物P1の状態に応じて適宜に使用するようにしてもよい。
【0094】
水溶性のアルカリ金属塩の水への溶解度は非常に高く、また水温を変えてもその溶解度は大きく変わらない。このため、水洗工程S3で用いられる溶媒としては、常温の水を、加熱処理物P1(以下、「水洗処理物」と称する場合がある。)の質量の3倍量以上、好ましくは4倍量以上、より好ましくは5倍量以上の量だけ用いればよい。
【0095】
水洗工程S3における、水洗処理物と水からなるスラリーLr1の撹拌時間は、10分以上が好ましく、15分以上がより好ましく、20分以上が特に好ましい。通常、水溶性アルカリ金属塩は水に非常に溶けやすいので、スラリーLr1の撹拌に特段の条件は必要とならない。
【0096】
かかる水洗工程S3によって、バイオマス灰BA1に含まれていたアルカリ金属が水に溶解される。アルカリ金属が水に溶解された状態のスラリーLr1は、後段に設置された固液分離装置17によって、含水率が有効に低減されてセメント原料等として利用可能な固体物(ケーキC1)と排水W3とに分離される。
【0097】
スラリーLr1を固液分離装置17に輸送する際には、スラリー用渦巻きポンプ、ピストンポンプ、及び、モーノポンプ、ホースポンプ等の汎用のスラリー液用輸送装置(不図示)を用いればよい。
【0098】
固液分離装置17としては、フィルタープレス、加圧葉状濾過装置、スクリュープレス、ベルトプレス、ベルトフィルター等の汎用のろ過装置等を用いればよい。
図2に示す実施形態では、固液分離装置17がフィルタープレスで構成されている場合が図示されている。
【0099】
固液分離装置17には、洗浄水W2の供給装置15が付設されており、輸送されたスラリーLr1を、水洗処理物のケーキC1(固相)と、アルカリ金属を含む排水W3(液相)とに分離する。このとき、ケーキC1は洗浄水W2で洗浄されつつ分離される。洗浄水W2としては、常温の水を、水洗処理物の質量の3倍量以上、好ましくは4倍量以上、より好ましくは5倍量以上の量だけ用いればよい。
【0100】
固液分離装置17によって分離されたケーキC1は、アルカリ金属成分の濃度が2.0質量%以下、より典型的には1.5質量%以下、更に典型的には1.0質量%以下にまで低減されているので、セメント原料等に有効に利用することができる。ここでいうアルカリ金属の濃度とは、周知の方法での分析値、例えば、蛍光X線装置によるFP法、又は湿式分析(酸分解-ICP発光分光分析法)による分析値を指す。
【0101】
この水洗工程S3が、工程(c)に対応する。
【0102】
[第二実施形態]
本発明に係るアルカリ金属除去方法の第二実施形態について、第一実施形態と異なる箇所を中心に説明する。
【0103】
図6は、本実施形態のアルカリ金属除去方法の手順を模式的に示すフローチャートである。また、
図7は、
図6に示すアルカリ金属除去方法を実施するアルカリ金属除去装置1の一例を模式的に示すブロック図である。
【0104】
図6に示すように、本実施形態のアルカリ金属除去方法は、第一実施形態と比較して、混合工程S1の前段に行われる分級工程S4を有している点が異なる。
【0105】
(分級工程S4)
分級工程S4は、供給されたバイオマス灰BA1を、所定の分級点で細粉BA2と粗粉BA3とに分離し、各別に回収する工程である。
図7に示すアルカリ金属除去装置1では、分級装置3によって分級工程S4が実行される。なお、以下では、分級工程S4が行われる前のバイオマス灰BA1を、「原粉BA1」と称することがある。
【0106】
ここで、バイオマス灰の細粉BA2(以下、単に「細粉BA2」と略記する。)とは、定められた分級点よりも粒径の細かいバイオマス灰を指し、バイオマス灰の粗粉BA3(以下、単に「粗粉BA3」と略記する。)とは、前記分級点よりも粒径の粗いバイオマス灰を指す。分級工程S4において定められる分級点は、好ましくは5μm~90μmであり、より好ましくは10μm~75μmであり、特に好ましくは20μm~63μm以下である。
【0107】
本明細書において、バイオマス灰(原粉BA1,細粉BA2,粗粉BA3)の粒径とは、断りのない限り、エチルアルコールを溶媒として用いたレーザ回折粒度分布測定法による測定値を指す。なお、入手できる一般的なバイオマス灰の粒径は、燃料であるバイオマスの種類、バイオマスを燃焼するボイラの形式や運転方法によって異なるが、レーザ回折粒度分布測定法によるD50値が15μm~200μmであって、粒径の最大値(D100)は150μm~1000μmである。なお、D50値とは、体積基準の粒度分布において累積50%での粒径を意味する。
【0108】
分級装置3としては、バイオマス灰の原粉BA1を上述したようなμmオーダーの分級点で分級できる装置であれば特に限定されず、例えばふるい、慣性分級装置、遠心分級装置、重力式分級装置等が好適に使用でき、分級精度の観点から、サイクロン型エアセパレータやふるい分け装置等の使用が好ましい。
図7に示す実施形態では、分級装置3がサイクロン型エアセパレータで構成されている場合が図示されている。
【0109】
なお、この分級工程S4は、乾式で行われても構わないし、湿式で行われても構わない。湿式で行った場合は、後述する細粉BA2の水洗工程S3が行われたものとみなしてもよい。
【0110】
分級装置3には、バイオマス灰の原粉BA1の貯槽が付設されていてもよい。さらに、かかる貯槽から原粉BA1を定量的に分級装置3に供給するための供給装置が付設されていてもよい。これらの貯槽や供給装置は、受入れたバイオマス灰の原粉BA1の状態に応じて適宜に使用するようにしてもよい。
【0111】
流動床式である焼却炉には、流動媒体としての石英を主成分とした砂と脱硫用の石灰石が投入される。そこで、そのような焼却炉からの飛灰(バイオマス灰の原粉BA1)には、比較的粗粒な溶融固化や凝集したガラスや砂由来物と、比較的細粒な揮発したアルカリ金属塩や前述の石灰石由来物とが含まれる。つまり、原粉BA1に含まれるアルカリ金属(Na,K)のうち、水溶性を示す塩化物、炭酸塩、及び硫酸塩については細粉BA2側に多く存在し、難溶性を示すケイ酸塩ガラスについては粗粉BA3側に多く存在する。
【0112】
つまり、この分級工程S4によって、バイオマス灰の原粉BA1を、水溶性のアルカリ金属塩を比較的多く含む細粉BA2と、難溶性のアルカリ金属塩を比較的多く含む粗粉BA3とに分けることができる。
【0113】
この分級工程S4が、工程(d)に対応する。
【0114】
(混合工程S1)
分級工程S4によって得られた粗粉BA3が、カルシウム源CA及び塩素源CLと共に混合される。
図7に示す例では、分級装置3の排出口3bから供給された粗粉BA3が、混合装置5において、カルシウム源CA及び塩素源CLと共に混合される態様が示されている。
【0115】
本実施形態の混合工程S1では、粗粉BA3とカルシウム源CAの混合物の水硬率が、好ましくは0.3以上、より好ましくは0.3~0.6となるようにカルシウム源CAの投入量が調整される。混合工程S1の実施態様は、第一実施形態と重複するため、説明を割愛する。
【0116】
分級工程S4が湿式で行われる場合には、分級後に得られるスラリー状の粗粉BA3に対して、カルシウム源CA及び塩素源CLが添加され、混合されるものとして構わない。
【0117】
本実施形態においても、混合工程S1の実施態様は、
図3~
図5と同様に行うこともできる。後述する第三実施形態においても同様である。
【0118】
なお、本実施形態のように分級工程S4が行われることで、バイオマス灰の原粉BA1に含まれているカルシウム分(CaCO3、CaO、又はCaSO4等)の比較的多くが、細粉BA2側に含まれることとなる。これは、上述したように流動床式の焼却炉で投入される脱硫用の石灰石に由来するものと考えられる。脱硫用の石灰石は、反応を高める観点から微粉砕した状態で投入されることがあり、この結果、カルシウムを含む物質は比較的粒度が細かいものと想定される。言い換えれば、分級後に得られる粗粉BA3は、原粉BA1と比べてCa含有率が低い。よって、カルシウム源CAを投入せずに粗粉BA3に対して加熱工程S2が実施される場合には、原粉BA1よりも溶融・焼結する現象が生じやすいといえる。
【0119】
これに対し、本実施形態のように、分級後に得られる粗粉BA3に対して、水硬率が0.3以上となるようにカルシウム源CAが混合された後に加熱工程S2が実行されることで、上記のような溶融・焼結の現象が抑制される。この結果、アルカリ金属塩が粗粉BA3に内包されにくくなる。
【0120】
(加熱工程S2)
加熱対象物としての混合物BCに、バイオマス灰の原粉BA1ではなく粗粉BA3が含まれる点を除いては第一実施形態と共通するため、説明を割愛する。ここで、加熱工程S2は、細粉BA2に対してのみ行われるため、より多くのバイオマス灰の原粉BA1を処理することができ、加熱によるエネルギーやカルシウム源CA及び塩素源CLの使用量が低減でき、環境負荷が小さくなる。
【0121】
(水洗工程S3)
本実施形態において、水洗工程S3は、分級工程S4において分離回収された細粉BA2と、加熱工程S2で得られた加熱処理物P1とを水洗する工程である。この水洗工程S3により、細粉BA2及び加熱処理物P1に含まれる水溶性のアルカリ金属塩が溶解除去される。
【0122】
第一実施形態と比較して、
図7に示す本実施形態の水洗装置9では、加熱装置7から供給された加熱処理物P1に加えて、分級装置3で分離回収されて排出口3aから供給された細粉BA2が水洗される点が異なっており、他は共通である。
【0123】
上述したように細粉BA2には水溶性のアルカリ金属が比較的多く含まれているため、この水洗工程S3によってアルカリ金属を水溶させて除去できる。また、粗粉BA3については難溶性のアルカリ金属が比較的多く含まれているが、前段の加熱工程S2を経たことで、難溶性のアルカリ金属の一部が水溶性のアルカリ金属塩に変化されているため、このアルカリ金属塩に含まれるアルカリ金属を水溶させて除去できる。
【0124】
本実施形態の方法によれば、難溶性のアルカリ金属を比較的多く含む粗粉BA3に対してのみ加熱工程S2が行われ、細粉BA2については水洗工程S3によってアルカリ金属が除去される。つまり、加熱装置7内で粗粉BA3に対する加熱工程S2を実施中に、細粉BA2に対する水洗工程S3を行うことも可能であるため、同一時間内にバイオマス灰の原粉BA1に対してアルカリ金属を除去する処理量を増やすことができる。
【0125】
通常、バイオマス灰の原粉BA1に含有される全アルカリ金属成分の内、水溶性塩の形態をとるアルカリ金属成分は、モル換算で、全体100%中の25%~45%であり、難溶性塩の形態をとるアルカリ金属成分は、全体100%中の55%~75%である。
【0126】
また、バイオマス灰の原粉BA1に含有される全アルカリ金属成分の内、粒径30μm以下のバイオマス灰、すなわち細粉BA2中に含有される全アルカリ金属成分は、モル換算で、全体100%中の40%~60%であり、その内、70%~90%が水溶性のアルカリ金属成分である。
【0127】
したがって、分級工程S4においてバイオマス灰の原粉BA1から細粉BA2と粗粉BA3に分級した後、水洗工程S3において細粉BA2に対して水洗することによって、バイオマス灰の原粉BA1に含有される全アルカリ金属成分の内の30%~50%を除去することができる。
【0128】
なお、分級工程S4におけるバイオマス灰の原粉BA1の分級点を53μmとした場合には、分級工程S4で分級された粒径53μm以下の細粉BA2に対して水洗工程S3において水洗することで、原粉BA1に含有される全アルカリ金属成分の内の20%~35%を除去することができる。
【0129】
更に、粗粉BA3に多く含まれる、難溶性塩の形態をとるアルカリ金属成分については、塩素源CLと共に加熱されることで塩化焙焼され、水溶性塩に変化させられる。この結果、水洗工程S3において水洗することで、その多くが除去される。
【0130】
[第三実施形態]
本発明に係るアルカリ金属除去方法の第三実施形態について、第一実施形態及び第二実施形態と異なる箇所を中心に説明する。
【0131】
図8は、本実施形態のアルカリ金属除去方法の手順を模式的に示すフローチャートである。また、
図9は、
図8に示すアルカリ金属除去方法を実施するアルカリ金属除去装置1の一例を模式的に示すブロック図である。
【0132】
図8に示すように、本実施形態のアルカリ金属除去方法は、第二実施形態と比較して、分級工程S4の後に行われる粉砕工程S5を有している点が異なる。
【0133】
(粉砕工程S5)
粉砕工程S5は、分級工程S4で分級された粗粉BA3の粒度を細かくするために行われる。粒度が細かくされた粗粉BA3(以下、「粗粉粉砕物BA3a」という。)は、混合工程S1においてカルシウム源CA及び塩素源CLと共に混合される。
図9に示すアルカリ金属除去装置1では、粉砕装置4によって粉砕工程S5が実行される。なお、カルシウム源CA及び塩素源CLとともに粗粉BA3を粉砕することで、粉砕工程S5と混合工程S1を同時に行ってもよい。
【0134】
粗粉BA3には、難溶性のアルカリ金属塩が全体的に満遍なく含まれていることが想定される。加熱工程S2の前にこの粉砕工程S5が実行されることで、アルカリ金属の露出面積が増加するため、加熱工程S2において塩素源CLに含まれる塩素との反応性が向上し、より高効率でアルカリ金属塩に変化させることができる。更に、加熱工程S2において、粗粉BA3に含まれるケイ素分とカルシウム源CAに含まれるカルシウムとの反応性が向上するため、Ca含有鉱物になりやすくなり、粗粉BA3の溶融や焼結が抑制できる。
【0135】
粉砕工程S5によって粉砕された後の粗粉粉砕物BA3aのブレーン比表面積は、好ましくは7,000cm2/g以下であり、より好ましくは1,000cm2/g~7,000cm2/gであり、特に好ましくは4,000cm2/g~7,000cm2/gである。粗粉粉砕物BA3aを細かくするほど、粗粉粉砕物BA3aに含まれるアルカリ金属と塩素源CLに含まれる塩素との反応性は向上するが、一方で粗粉粉砕物BA3aの溶融現象も起きやすくなる。ブレーン比表面積が7,000cm2/gを超える程度にまで粗粉粉砕物BA3aを細かくすると、加熱工程S2中に溶融が顕著に生じ、アルカリ金属塩が内包されやすくなる。
【0136】
粉砕工程S5によって粉砕された後の粗粉粉砕物BA3aの粒径の下限値は、ブレーン比表面積が7,000cm2/g以下となるような数値であればよく、例えば0.5μm以上である。粗粉粉砕物BA3aの粒径が0.5μm未満を示す程度にまで粉砕されると、後に行われる加熱工程S2において溶融・焼結されやすくなってしまう。
【0137】
具体的には、粉砕装置4としては、チューブミル、竪型ローラーミル、ジョークラッシャ、ジャイレトリクラッシャ、コーンクラッシャ、インパクトクラッシャ、ロールクラッシャ及びエアロフォールミル等が好適に使用できる。なお、これらの装置を複数組合せて粉砕装置4とする場合、各粉砕機の間に分級機を併設して閉回路粉砕システムを構築することによって、粒度の揃った粗粉粉砕物BA3aを効率的に得ることができる。この場合の分級機としては、所定の分級点で粗粉粉砕物BA3aを分級できるものであれば特に限定されず、篩い(面内運動篩い、振動篩い)、重力式分級機、慣性力式分級機、サイクロン等の遠心式分級機、サイクロンエアセパレータ等の回転羽根付きの遠心式分級機等が好適に使用できる。なかでも、設備の簡便性と操作、調整の容易性からサイクロンエアセパレータ等の回転羽根付きの遠心式分級機が好ましい。粉砕装置4として、分級機や篩い網が内蔵された粉砕機を用いることもできる。
【0138】
この粉砕工程S5が、工程(e)に対応する。
【実施例0139】
以下、本発明についてさらに詳細に説明するために具体的な試験例を示すが、本発明はこれら試験例の態様に限定されるものではない。
【0140】
(検証1:分級工程S4についての検証)
バイオマス灰の原粉BA1として、PKSを主燃料とするバイオマス発電プラント(循環流動層ボイラ)の排ガス集塵機(バグフィルタ)で捕集された飛灰を用い、この飛灰を分級することによる効果を検証した。
【0141】
バイオマス灰の原粉BA1に対して、分級点を53μmとして細粉BA2及び粗粉BA3に分級した。そして、分級前のバイオマス灰BA1、分級後の細粉BA2及び粗粉BA3について、化学組成を調べた。この結果を表1に示す。なお、表1では、アルカリ金属については酸分解試料のICP発光分光分析法による分析で、その他の化学成分は蛍光X線装置(リガク社製、ZSX Primus II)(FP法:ファンダメンタルパラメータ法)による分析で得られた値が採用されている。
【0142】
表1内の「R2O」とは、上述したように、本組成物中の全アルカリ金属成分量として「R2O=Na2O+0.658×K2O」で算定された値を示す。
【0143】
なお、分級前のバイオマス灰の原粉BA1のレーザ回折・散乱法に基づく粒度分布を測定したところ、D10値が8.3μm、D50値が44.3μm、D90値が274.7μmであった。
【0144】
【0145】
また、バイオマス灰の原粉BA1の分級による質量分配の比率、及びK,Clの分配の比率を表2に示す。表3は、原粉BA1、粗粉BA3、及び細粉BA2のそれぞれに含まれるK及びClの濃度分析結果を示す。
【0146】
【0147】
【0148】
表4には、バイオマス灰の原粉BA1、分級工程S4で得られた細粉BA2及び粗粉BA3のそれぞれに対するXRD解析結果を示す。なお、表4では、XRD解析の結果、存在が確認されたものを「○」、微量に存在が確認されたものを「△」、存在が全く確認されなかったものを「×」と表記している。
【0149】
【0150】
表1の結果に基づいて、バイオマス灰の原粉BA1及び粗粉BA3の水硬率(HM)を算出した。この結果を、表5に示す。
【0151】
【0152】
表4及び表5の結果から、バイオマス灰の原粉BA1を分級すると、カルシウムを含むCaO、CaSO4、及びCaCO3等は細粉BA2側に比較的多く含まれることとなり、この結果、粗粉BA3の水硬率は原粉BA1と比べて低くなることがわかる。
【0153】
(検証2:水洗工程S3についての検証)
バイオマス灰の原粉BA1、及び上記検証1で得られた粗粉BA3及び細粉BA2それぞれについて、水洗することによる効果を検証した。
【0154】
水洗工程の条件は以下の通りである。
各サンプル(原粉BA1、粗粉BA3、及び細粉BA2)に対して、4倍量の水で室温下で30分間撹拌し、得られたスラリーLr1を吸引ろ過後、スラリーLr1作成時と同量の水で洗浄、ろ過して、ケーキC1を作成した。得られたケーキC1について、アルカリ金属成分の含有量を、酸分解試料のICP発光分光分析法による分析で求めた。この結果を表6に示す。
【0155】
【0156】
なお、表6及び後述する表において、「K除去率」は、以下の(1)式で算定された値が採用された。
K除去率=[d1-{(1-d2)-d3}×d4]/d1 …(1)
ただし、(1)式内の各記号は、それぞれ以下の値である。
d1: 処理前のサンプル(原粉BA1、粗粉BA3、細粉BA2)に含まれるK(カリウム)の含有率(濃度)
d2: 加熱工程S2によるサンプルの重量減少率
d3: 水洗工程S3によるサンプルの重量減少率
d4: 固液分離後に得られたケーキC1に含まれるKの含有率(濃度)
【0157】
ただし、この検証2においては、加熱工程が行われていないため、(1)式におけるd2=0である。
【0158】
表6の結果によれば、分級後に得られた細粉BA2については、水洗をすることでK(カリウム)を効率的に除去できることが分かる。一方で、原粉BA1及び粗粉BA3については、単に水洗工程S3を行うのみでは、Kを効率的に除去できないことが分かる。このことから、原粉BA1及び粗粉BA3には、難溶性のKを含むアルカリ金属が多く含まれていることが確認できる。
【0159】
(検証3:原粉BA1についての検証)
原粉BA1に対して、カルシウム源CA及び塩素源CLを混合した後、加熱工程を行った。
【0160】
塩素源CLの混合は、原粉BA1中のアルカリ金属成分としてのK(カリウム)の含有量(mol)に対して所定倍率のモル数を有する塩素含有物(CaCl2試薬粉末)を混合することで行われた。
【0161】
カルシウム源CAの混合は、混合物の水硬率が所定値となるように投入量が調整された、炭酸カルシウム(CaCO3)を混合することで行われた。
【0162】
なお、原粉BA1に対して、カルシウム源CA及び塩素源CLを混合するに際しては、袋混合により行われた。また、上記の混合物を加熱するに際しては、アルミナるつぼに混合物を100g入れ、卓上型高速昇温電気炉(モトヤマ社製)にて60分間加熱することで行われた。
【0163】
上記混合物に対して、温度条件を異ならせて加熱工程S2を行った後、加熱処理物P1に対して、検証2と同様の方法で水洗工程S3を行い、得られたケーキC1のアルカリ金属成分の含有量を求めた。この結果を表7及び
図10に示す。なお、K除去率の算定方法は、上記(1)式に準ずる。
【0164】
【0165】
表7及び
図10に示すように、加熱温度が低い場合には、水硬率HMを高めてもバイオマス灰の原粉BA1に含まれるKの除去率は変化しなかった。一方で、加熱温度を1000℃とした場合には、K除去率が大幅に上昇した。
【0166】
このことから、加熱工程S2において、特に原粉BA1と塩素源CLとを800℃以上で加熱する場合には、予めカルシウム源CAを混合して水硬率を高めることで、原粉BA1に含まれるアルカリ金属を効率的に除去できることが分かる。水硬率を高めた状態で加熱工程S2が行われることで、原粉BA1の溶融・焼結が抑制され、水溶性のアルカリ金属塩が原粉BA1の粒子に取り込まれにくくなる。
【0167】
(検証4:粗粉BA3についての検証)
検証1で得られた粗粉BA3に対して、カルシウム源CA及び塩素源CLを混合して、加熱処理を行った。
【0168】
粗粉BA3に対して塩素源CL及びカルシウム源CAを混合する工程、及びこの混合物を加熱する工程は、検証3と同様の方法で行った。
【0169】
上記混合物に対して、温度条件を異ならせて加熱工程S2を行った後、加熱処理物P1に対して、検証2と同様の方法で水洗工程S3を行い、得られたケーキC1のアルカリ金属成分の含有量を求めた。この結果を表8及び
図11に示す。なお、K除去率の算定方法は、上記(1)式に準ずる。
【0170】
【0171】
表8及び
図11に示すように、バイオマス灰の粗粉BA3を加熱する場合には、加熱温度が800℃~1200℃のいずれにおいても、水硬率HMを高めることでK除去率が高められた。これは、バイオマス灰の原粉BA1を分級することで得られる粗粉BA3は、原粉BA1と比較して水硬率HMが大きく低下することに由来するものと考えられる(上記表5参照)。すなわち、サンプル#B1、#B4、#B7、及び#B10のように水硬率が0.08と低い場合には、塩素源CLと共に加熱を行っても、得られたアルカリ金属塩のうち、水洗工程S3によって除去できない量が比較的多くなることが分かる。
【0172】
特に、水硬率HMが0.08であるサンプル#B1と#B10を対比すると、加熱温度が高いサンプル#B10の方がK除去率が低下している。この結果は、水硬率HMが低い状況で高温で加熱されたことにより、粗粉BA3の一部が溶融・焼結してアルカリ金属塩が粗粉BA3の内側に取り込まれたことを示唆するものである。一方、水硬率HMが0.32であるサンプル#B2、#B5、#B8、及び#B11を対比すると、加熱温度が高温になるほどK除去率が低下していることが分かる。水硬率HMが0.59であるサンプル#B3、#B6、#B9、及び#B12を対比しても同様の結果が示されている。
【0173】
このことから、特に処理対象物が粗粉BA3である場合には、カルシウム源CAを混合して水硬率HMを高めた状態で塩素源CLと共に高温環境で加熱することで、含有するアルカリ金属を大幅に除去できることが分かる。
【0174】
(検証5:粗粉粉砕物BA3aについての検証)
検証1で得られた粗粉BA3に対して、更に粉砕工程S5を行って粉砕した後、カルシウム源CA及び塩素源CLを混合して、加熱処理を行った。粗粉BA3を粉砕するに際しては、タングステンベッセルを使用する微粉砕機(ハルツォク・ジャパン社製)を用いて行われた。
【0175】
なお、粉砕後に得られた粗粉粉砕物BA3aに対して、塩素源CL及びカルシウム源CAを混合する工程、及びこの混合物を加熱する工程は、検証3と同様の方法で行った。
【0176】
粉砕時間を異ならせて粉砕工程S5を行うことで、異なるブレーン表面積の粗粉粉砕物BA3aを得た後、それぞれの粗粉粉砕物BA3aに対して塩素源CL及びカルシウム源CAを混合して加熱工程S2を行った。得られた加熱処理物P1に対して、検証2と同様の方法で水洗工程S3を行い、得られたケーキC1のアルカリ金属成分の含有量を求めた。この結果を表9及び
図12に示す。なお、K除去率の算定方法は、上記(1)式に準ずる。なお、表9には、粉砕工程S5を行っていない粗粉BA3を用いた場合の結果が比較のために表示されている。
【0177】
【0178】
表9及び
図12の結果からは、粗粉BA3を粉砕することで、K除去率が高められることが分かる。粗粉BA3を粉砕した後に塩素源CLと共に加熱することで、粗粉BA3に含有されるアルカリ金属の露出面積を拡大し、塩素源CLに含まれるClとの反応性が向上し、水溶性のアルカリ金属塩の生成量が増加したものと考えられる。
【0179】
一方で、ブレーン比表面積が10,200cm2/gを示す程度にまで細かく粉砕すると、逆にK除去率が低下することが確認された。
【0180】
表9及び
図12の結果に鑑みると、粗粉粉砕物BA3aのブレーン比表面積を、1,040cm
2/g、2,630cm
2/g、4,130cm
2/g,6,580cm
2/gと細かくしていくと、Clとアルカリ金属との反応性が向上したものと考えられる。
【0181】
一方で、粗粉粉砕物BA3aのブレーン比表面積を6,580cm
2/gから10,200cm
2/gに増加する、すなわち粗粉BA3を更に細かくすると、Clとアルカリ金属との反応性の向上の程度よりも、加熱時に粗粉粉砕物BA3aが溶融・焼結する傾向が顕著になり、水溶性のアルカリ金属塩が粗粉粉砕物BA3aに内包される割合が高まったものと考えられる。言い換えれば、粗粉BA3を粉砕するに際しては、粉砕後に得られる粗粉粉砕物BA3aのブレーン比表面積が、6,580cm
2/gと10,200cm
2/gの間の上限閾値以下とするのが好適であることが分かる。表9及び
図12の結果に鑑みれば、この上限閾値は7,000cm
2/gと設定できる。