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特開2023-44309一体型鋳型、その製造方法および鋳造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023044309
(43)【公開日】2023-03-30
(54)【発明の名称】一体型鋳型、その製造方法および鋳造方法
(51)【国際特許分類】
   B22C 9/22 20060101AFI20230323BHJP
   B22C 9/02 20060101ALI20230323BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20230323BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20230323BHJP
   B33Y 80/00 20150101ALI20230323BHJP
【FI】
B22C9/22 C
B22C9/02 103A
B22C9/02 101Z
B33Y10/00
B33Y30/00
B33Y80/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021152270
(22)【出願日】2021-09-17
(71)【出願人】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114258
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100125391
【弁理士】
【氏名又は名称】白川 洋一
(72)【発明者】
【氏名】石田 弘徳
(72)【発明者】
【氏名】千石 理紗
(57)【要約】
【課題】羽根部の鋳造に用いられる中空の羽根形成部において、未硬化の砂を容易に取り除くことが可能な一体型鋳型、その製造方法および鋳造方法を提供する。
【解決手段】付加製造装置により造形砂を用いて作製され、中心軸とは異なる方向に伸びる羽根部を有する部材を鋳造する一体型鋳型100であって、羽根部の鋳造に用いられる中空の羽根形成部112を有し、羽根形成部112の外縁に中空に連続する開口部130が形成される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
付加製造装置により造形砂を用いて作製され、中心軸とは異なる方向に突き出した羽根部を有する部材の鋳造に用いられる一体型鋳型であって、
前記羽根部の鋳造に用いられる中空の羽根形成部を有し、
前記羽根形成部の外縁に前記中空に連続する開口部が形成されることを特徴とする一体型鋳型。
【請求項2】
前記開口部は、前記羽根形成部のうち前記鋳造される部材の中心軸から最も離れた位置を含む領域に形成されることを特徴とする請求項1に記載の一体型鋳型。
【請求項3】
前記一体型鋳型は、複数の前記羽根形成部を有し、
前記羽根形成部のそれぞれに前記開口部が形成されることを特徴とする請求項1または2に記載の一体型鋳型。
【請求項4】
前記羽根形成部は、螺旋状に連続する前記羽根部を形成する中空を有し、
前記開口部は、前記羽根形成部の外縁のうち、外周位置の周方向に沿った領域において形成されることを特徴とする請求項1または2に記載の一体型鋳型。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の一体型鋳型の製造方法であって、
一定厚さに前記造形砂を敷き均す工程と、
造形体として前記一体型鋳型となる所定部分にバインダを噴射し硬化させる工程と、を含む一連の工程を繰り返すことで付加製造装置を用いて前記造形体を形成することを特徴とする一体型鋳型の製造方法。
【請求項6】
請求項1~4のいずれかに記載の一体型鋳型を用いた鋳造方法であって、
金属を含まないフィルム状の封止部材で前記開口部を覆う工程と、
前記開口部が前記封止部材によって覆われた前記一体型鋳型を、鋳枠の内部に設置する工程と、
前記一体型鋳型を固定するように、前記鋳枠の内部に鋳物砂を充填する工程と、
前記一体型鋳型に溶湯を注入する工程と、
前記一体型鋳型で生成された鋳物を取り出す工程と、を含むことを特徴とする鋳造方法。
【請求項7】
請求項1~4のいずれかに記載の一体型鋳型を用いた鋳造方法であって、
前記開口部を、造形砂を用いて形成された封止部材で覆う工程と、
前記開口部が前記封止部材によって覆われた前記一体型鋳型を、型枠の内部に設置する工程と、
前記一体型鋳型を固定するように、前記型枠の内部に鋳物砂を充填する工程と、
前記一体型鋳型に溶湯を注入する工程と、
前記一体型鋳型で生成された鋳物を取り出す工程と、を含むことを特徴とする鋳造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、付加製造装置により造形砂を用いて作製され、中心軸とは異なる方向に突き出した羽根部を有する部材を鋳造する一体型鋳型、その製造方法および鋳造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、積層型の3Dプリンタで製作される鋳型が普及してきている。一般的に使用される鋳型は、原型となる木型もしくは金型を転写することによって得られるが、このような鋳型は、必ず抜型という作業を行わなければならず、木型や金型は抜ける形状とする必要がある。
【0003】
これに対し、積層型の3Dプリンタによる鋳型は、一定厚さに敷いた砂に必要な部分のみを硬化させ、それを順次積層することによって得られるため、抜型という作業が発生しない。そのため、例えば逆勾配があるような形状の鋳型であっても容易に作製できる。
【0004】
鋳型のなかでも、プロペラやスクリュー、インペラーなど、中心軸とは異なる方向に突き出した羽根部を有する部材は複雑な形状のものが多く、分割して作製することが多い。分割数が増えるほど寸法精度が落ち、性能低下を引き起こすおそれがある。しかし、積層型3Dプリンタであれば形状に制限はなく、複雑な形状であっても分割の必要がないため、羽根部を有する部材の作製に積層型3Dプリンタが利用されることが多くなっている。
【0005】
例えば、図10に示す部材は、積層型の3Dプリンタによって作製された図11A、Bに示す鋳型により作製できる。図11A、Bに示す鋳型では外形が円筒状であるが、3Dプリンタの造形時間の短縮および無駄な材料の消費を抑えることを考慮し、図12A、Bのように鋳物の形状に沿って一定の肉厚とした鋳型とすることが好適である。
【0006】
なお、羽根部を有する部材の製作は、ロストワックス鋳造で行なわれることも多いが、ロストワックス鋳造を行なうには鋳物のワックス型を製作する必要があり、大変手間がかかる(特許文献1、2を参照)。また、ロストワックス鋳造は大きな鋳物の製作には不向きであり、作製可能な鋳物が限られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平07-16701
【特許文献2】特開2003-94148
【特許文献3】特開2003-275846号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した通り、積層型の3Dプリンタによる鋳型は、形状に制限がなく、複雑な形状であっても作製可能であり、羽根部を有する部材の鋳型に適している。しかしながら、積層型の3Dプリンタによる鋳型は、造形を終えた後に、中空構造に残る未硬化の砂を取り除く必要がある。未硬化の砂が残ってしまうと、鋳造した際に所望の形状が得られないおそれがある。特に、図10のような羽根部を有する部材の鋳型は、羽根部の鋳造に用いられる中空の羽根形成部において未硬化の砂が残りやすく、取り除くことが困難である。仮に未硬化の砂を除去できたとしても、大変手間がかかり、作業者の負担となる。
【0009】
特許文献3に記載の発明では、中空構造に通気口を設け、通気口から未硬化の砂を除去している。しかしながら、特許文献3に記載の発明は、鋳型に用いる材料の節約を目的としていることから、通気口が設けられる中空構造は、材料の節約のために設けられた中空構造であり、溶湯を注入しない。そのため、羽根部の鋳造に用いられる中空の羽根形成部のような未硬化の砂が残存しやすい部分において、容易に未硬化の砂を取り除くことについて考慮されていない。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、羽根部の鋳造に用いられる中空の羽根形成部において、未硬化の砂を容易に取り除くことが可能な一体型鋳型、その製造方法および鋳造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)上記の目的を達成するため、本発明の一体型鋳型は、付加製造装置により造形砂を用いて作製され、中心軸とは異なる方向に突き出した羽根部を有する部材の鋳造に用いられる一体型鋳型であって、前記羽根部の鋳造に用いられる中空の羽根形成部を有し、前記羽根形成部の外縁に前記中空に連続する開口部が形成されることを特徴としている。
【0012】
このように、羽根形成部の外縁に開口部が形成されるから、羽根形成部において、未硬化の砂を容易に取り除くことが可能である。
【0013】
(2)また、本発明の一体型鋳型において、前記開口部は、前記羽根形成部のうち前記鋳造される部材の中心軸から最も離れた位置を含む領域に形成されることを特徴としている。これにより、羽根形成部内の未硬化の砂をより容易に取り除くことが可能である。また、鋳造時に開口部に形成されるバリを容易に取り除くことができる。
【0014】
(3)また、本発明の一体型鋳型において、前記一体型鋳型は、複数の前記羽根形成部を有し、前記羽根形成部のそれぞれに前記開口部が形成されることを特徴としている。これにより、羽根形成部のそれぞれから、未硬化の砂を容易に取り除くことが可能である。
【0015】
(4)また、本発明の一体型鋳型において、前記羽根形成部は、螺旋状に連続する前記羽根部を形成する中空を有し、前記開口部は、前記羽根形成部の外縁のうち、外周位置の周方向に沿った領域において形成されることを特徴としている。これにより、螺旋状に連続する中空を有する羽根形成部であっても、未硬化の砂を容易に取り除くことが可能である。
【0016】
(5)また、本発明の一体型鋳型の製造方法は、上記(1)~(4)のいずれかに記載の一体型鋳型の製造方法であって、一定厚さに前記造形砂を敷き均す工程と、造形体として前記一体型鋳型となる所定部分にバインダを噴射し硬化させる工程と、を含む一連の工程を繰り返すことで付加製造装置を用いて前記造形体を形成することを特徴としている。これにより、複雑な形状の一体型鋳型であっても多分割することなく寸法精度を高く維持できる。また、一体型鋳型の寸法精度が向上することで、一体型鋳型により作製される鋳物自体の性能向上を図ることができる。
【0017】
(6)また、本発明の一体型鋳型を用いた鋳造方法は、上記(1)~(4)のいずれかに記載の一体型鋳型を用いた鋳造方法であって、金属を含まないフィルム状の封止部材で前記開口部を覆う工程と、前記開口部が前記封止部材によって覆われた前記一体型鋳型を、鋳枠の内部に設置する工程と、前記一体型鋳型を固定するように、前記鋳枠の内部に鋳物砂を充填する工程と、前記一体型鋳型に溶湯を注入する工程と、前記一体型鋳型で生成された鋳物を取り出す工程と、を含むことを特徴としている。
【0018】
これにより、開口部の形成により未硬化の砂を容易に取り除くことを可能にする一方で、鋳造時に中空構造を所望の形状とすることができる。
【0019】
(7)また、本発明の一体型鋳型を用いた鋳造方法は、上記(1)~(4)のいずれかに記載の一体型鋳型を用いた鋳造方法であって、前記開口部を、造形砂を用いて形成された封止部材で覆う工程と、前記開口部が前記封止部材によって覆われた前記一体型鋳型を、型枠の内部に設置する工程と、前記一体型鋳型を固定するように、前記型枠の内部に鋳物砂を充填する工程と、前記一体型鋳型に溶湯を注入する工程と、前記一体型鋳型で生成された鋳物を取り出す工程と、を含むことを特徴としている。
【0020】
これにより、開口部の形成により未硬化の砂を容易に取り除くことを可能にする一方で、鋳造時に中空構造を所望の形状とすることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、羽根部の鋳造に用いられる中空の羽根形成部において、未硬化の砂を容易に除去できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】第1実施形態に係る一体型鋳型の概略構成を示す斜視図である。
図2】第1実施形態に係る一体型鋳型において、開口部を封止部材で覆った状態を表す斜視図である。
図3A】第1実施形態に係る一体型鋳型を用いた鋳造方法を表す説明図である。
図3B図3Aに示す鋳造方法を表す説明図のB-B断面図である。
図4】第1実施形態に係る一体型鋳型の変更例を示す斜視図である。
図5】第1実施形態に係る封止部材の変更例を示す斜視図である。
図6】第2実施形態に係る一体型鋳型の概略構成を示す斜視図である。
図7】第2実施形態に係る一体型鋳型を用いて鋳造された鋳物の概略構成を示す斜視図である。
図8】第2実施形態に係る一体型鋳型および封止部材を示す斜視図である。
図9】第2実施形態に係る封止部材の変更例を示す図であって、一体型鋳型の開口部周辺を示す部分断面図である。
図10】鋳物の概略構成を示す斜視図である。
図11A】従来の一体型鋳型の概略構成を示す斜視図である。
図11B図11Aに示す一体型鋳型の中心軸を通る断面図である。
図12A】従来の一体型鋳型の概略構成を示す斜視図である。
図12B図12Aに示す一体型鋳型の中心軸を通る断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態について図面を参照にしつつ詳細に説明する。なお、各実施形態では基本の実施形態との相違点を中心に説明し、同様の構成についてはその説明を省略する。
【0024】
図1は、本発明の第1実施形態に係る一体型鋳型100を示す斜視図である。一体型鋳型100は、造形砂およびバインダで形成されており、中空構造を有している。造形砂は、3Dプリンタ(付加製造装置)により鋳型の造形に用いられる砂である。バインダは、造形砂の粒子同士を結合して硬化されている。なお、造形砂をレーザーで焼結する場合には、バインダがなくてもよい。
【0025】
本発明の一体型鋳型100は、中心軸とは異なる方向に延びる羽根部を有する部材を鋳造できる。図1に示す一体型鋳型100は、造形砂およびバインダで形成された壁部110により中空構造を実現している。中空構造は、壁部と中空部とで作られる構造を指し、中空部は、壁部に囲われた空間自体(壁部は含まない)を指す。
【0026】
壁部110には、溶湯の注入口120が設けられている。注入口120のサイズは、特に限定されず作製される一体型鋳型100の形状に応じて適宜設定される。注入口120は、溶湯を注入しやすい位置に形成されていればよく、鋳造時に上端となる位置に形成されていることが好ましい。
【0027】
一体型鋳型100の壁部110の厚さは、2mm以上12mm以下であることが好ましい。壁部110の厚さが12mm以下であることで十分な通気性を確保でき、コストを抑えられる。壁部110の厚さ2mmを下回ると、一体型鋳型100を取り扱う際に破損のリスクが高くなるため、実用上の下限は2mmである。また、壁部110の厚さは5mm以上であることがさらに好ましい。壁部110の厚さが5mm以上であることで鋳型として破損リスクを低く抑え十分な強度を維持できる。
【0028】
また、壁部110は、軸部の鋳造に用いられる中空の軸形成部111と、羽根部412の鋳造に用いられる中空の羽根形成部112と、を有する。図1に示す羽根形成部112では、図10に示すような螺旋状に連続する羽根部412を形成する中空を有している。軸形成部111と羽根形成部112とは、互いが形成する中空構造が繋がっており、1つの中空構造を形成している。すなわち、本発明の一体型鋳型100は、羽根部412を有する部材の鋳造に用いられ、従来のように分割された複数の鋳型を組み合わせるものでなく、一体的に形成される。複雑な形状の鋳型であっても分割型ではないため、寸法精度を高く維持できる。
【0029】
一体型鋳型100には、羽根形成部112の外縁に中空に連続した開口部130が設けられている。開口部130は、羽根形成部112のうち鋳造される部材の中心軸から最も離れた位置を含む領域に形成されることが好ましい。これにより、作業がしやすい位置に開口部130が設けられるから、複雑な構造の一体型鋳型100であっても、未硬化の砂を容易に取り除くことが可能である。また、鋳造時に開口部に形成されるバリを容易に取り除くことができる。
【0030】
また、図1のように、羽根形成部112が螺旋状に連続する羽根部412を形成する中空を有している場合、羽根形成部112の外縁のうち、外周位置の周方向に沿った領域において、開口部130が形成されることがさらに好ましい。これにより、螺旋状に連続する羽根部412を形成する中空を有する羽根形成部112であっても、未硬化の砂を容易に取り除くことを可能である。
【0031】
また、螺旋状に連続する羽根部412を形成する中空を有する羽根形成部112は、中心軸上の位置に応じて、羽根部412のピッチPや中心軸から外縁までの距離が変化するように形成されてもよい。
【0032】
[一体型鋳型の製造方法]
(工程全体)
上記のように構成される一体型鋳型100の製造方法を説明する。一体型鋳型100は、積層型3Dプリンタ(付加製造装置)を用いて製造される。3Dプリンタとして市販のバインダージェットタイプのものを使用できる。
【0033】
3Dプリンタに入力する一体型鋳型100のデータは、中空構造が鋳物400の形状となるように壁部110により閉塞されている構造とするのではなく、注入口120や開口部130を形成することで一部が開放されている構造に設計されている。注入口120は溶湯の注入口となり、開口部130は未硬化の造形砂の排出口となる。
【0034】
このように3Dプリンタにより、一定厚さに砂を敷き均し、造形体となる所定部分にバインダを噴射し硬化させる一連の工程を繰り返すことで造形体を形成する。これにより、複雑な形状の一体型鋳型であっても多分割することなく寸法精度を高く維持できる。なお、造形材料の詳細については後述する。
【0035】
造形が終わると、形成された積層体内では硬化した造形体(例えば一体型鋳型100)が未硬化の砂に埋没した状態となっている。積層体から未硬化の砂を取り除くことで、造形体が取り出される。造形体が中空の場合、周囲の未硬化の砂を取り除いても中空部には未硬化の砂が存在する。注入口120から未硬化の砂をある程度排出することは可能だが、特に中心軸とは異なる方向に突出して形成された羽根形成部112における未硬化の砂を、注入口120から取り除くことは困難である。これに対し、羽根形成部112の外縁に開口部130を設けることで、羽根形成部112における未硬化の砂を容易に取り除くことを可能にする。
【0036】
(造形材料)
造形砂には、積層型3Dプリンタ用の専用砂が用いられる。専用砂として市販されているものを適宜選択して使用できる。市販の専用砂には、例えば3Dプリンタの純正材料やTCaST(登録商標、太平洋セメント社製)が挙げられる。専用砂は、例えば、鋳造する金属の溶湯温度に応じて、耐熱性を勘案して選択することができる。さらには、市販の専用砂を改良して造形砂として用いてもよい。造形砂の平均粒径は、60μm以上150μm以下が好ましく、100μm程度がさらに好ましい。
【0037】
バインダは、縮合や重合により硬化するフェノール樹脂やフラン樹脂などの有機物であってもよいが、有機物の種類によっては高温での使用が制限されることもある。そのため、高温での使用をする場合や、鋳込み時に有機物が気化することによる臭気等の環境への影響、発生したガスを起因とする鋳物の欠陥を防止しようとする場合には、バインダは、カルシウムアルミネート、セメント、石膏、石灰などの無機質水硬性物質を主成分とすることが好ましい。
【0038】
[鋳造方法]
(工程全体)
上記の一体型鋳型100を用いた鋳造方法を説明する。図2は、開口部130が封止部材200で覆われた状態の一体型鋳型100を示す斜視図である。図3Aは、鋳枠300の内部に固定された一体型鋳型100を示す斜視図である。図3Bは、図3Aの断面図である。
【0039】
鋳造時には、まず、封止部材200で開口部130を覆う。封止部材200は、鋳型の組成を変えないために金属を含まない部材である必要がある。図2に示す一体型鋳型100では、フィルム状の封止部材200によって、開口部130が覆われている。フィルム状の封止部材200は、例えば、有機物から構成される粘着テープであり、具体的にはマスキングテープやガムテープである。フィルム状の封止部材200は鋳造時に炭化してしまうが、後述するように一体型鋳型100の外表面が鋳物砂310によって覆われるため、炭化しても問題ない。
【0040】
次に、開口部130が封止部材200によって覆われた一体型鋳型100を、鋳枠300の内部に設置する。鋳枠300は、筒体もしくは上部開口した箱型であり、鋳物砂310を充填した際に一体型鋳型100の外表面を覆うことが可能であれば、形状や大きさは特に限定されない。鋳枠300の材料についても特に限定されないが、一般的な鋳枠として用いられる木枠や金枠であればよい。
【0041】
鋳枠300の内部に一体型鋳型100を設置した後に、鋳枠300の内面と一体型鋳型100の外表面との間に鋳物砂310を充填し、一体型鋳型100を固定する。このとき、図3A、Bのように、一体型鋳型100の外表面のうち、注入口120以外の部分が鋳物砂310によって覆われるように、鋳枠300の内部に鋳物砂310が充填されることが好ましい。
【0042】
鋳造時、一体型鋳型100は、中空構造に注がれる溶湯によって内部から圧力を受ける。鋳枠300の内部に一体型鋳型100を設置し、鋳枠300の内部に鋳物砂310を充填する目的には、開口部130から溶湯が漏れてしまうことの防止もあるが、溶湯の圧力による一体型鋳型100の変形や破損の抑止もある。一体型鋳型100が変形や破損してしまうと、所定の寸法の鋳物が得られなくなるおそれがある。
【0043】
一体型鋳型100の準備ができたら、一体型鋳型100に溶湯を注入し、溶湯が冷却した後に、一体型鋳型100で生成された鋳物400を取り出す。その際には、一体型鋳型100は型ばらしする。製造された鋳物400は、図10に示す形状で得られる。鋳物400は、鋳物400の中心軸に沿って設けられた軸部411と、中心軸とは異なる方向に突き出した羽根部412とを有する。
【0044】
(鋳物砂)
鋳物砂310は、一般的に使われる鋳物砂から選択することができる。鋳物砂として、例えば、珪砂、ジルコンサンド、クロマイトサンド、オリビンサンド、アルミナサンド、人工砂(セラミック系)、およびこれらを混合した砂を用いることができる。鋳物砂に使用する砂は特に限定されず、鋳造する金属に応じた耐熱性の観点で選ぶことができる。
【0045】
また、鋳物砂310には、粘結材を含ませてもよい。これにより、鋳物砂の強度を向上することができ、溶湯の圧力による変形や破損を抑止できる。鋳物砂310に粘結材を含めない場合には、鋳枠300に充填された鋳物砂310の上に重りを設置することで強度を向上させてもよく、これにより溶湯の圧力による変形や破損を抑止できる。
【0046】
[第2実施形態]
上記の一体型鋳型100では、軸部の鋳造に用いられる中空の軸形成部111を有するが、軸部の鋳造に用いられる中空の軸形成部111を有さなくてもよい。例えば、図4に示す一体型鋳型500では、壁部510が、中空の羽根形成部512のみを形成している。羽根形成部512は、軸部の無い螺旋状に連続する羽根部のみの鋳物の鋳造に用いられる。
【0047】
[第3実施形態]
封止部材は、図5に示すような造形砂を用いて形成された円筒形の封止部材210であってもよい。円筒形の封止部材210は、太い矢印の方向に移動させて一体型鋳型100を挿入した際に、開口部130と封止部材210の内側面とが接するように作製される。封止部材210は、開口部130に合わせて形成されればよく、円筒形に限らず、円筒形以外の筒体や錐体であってもよい。造形砂を用いて形成された封止部材210は、一体型鋳型100を補強し、溶湯の圧力による変形や破損を抑止できる。
【0048】
[第4実施形態]
次に、本発明の第4実施形態について説明する。第4実施形態の一体型鋳型は、複数の羽根形成部を有する点で第1実施形態のものと異なり、その他の点では同様の構成を有する。
【0049】
図6は、一体型鋳型600を示す斜視図である。図6に示す一体型鋳型600は、壁部610として、軸形成部611と3つの羽根形成部612とを有する。羽根形成部612は、それぞれにおいて、開口部630が形成されている。これにより、羽根形成部612が複数設けられていても、各羽根形成部612にて開口部630が形成されるから、すべての羽根形成部612において未硬化の砂を容易に取り除くことができる。
【0050】
一体型鋳型600は、鋳造によって図7に示す鋳物700を生成する。図7に示す鋳物700は、中心軸に沿って設けられた軸部711と、中心軸とは異なる方向に突き出した羽根部712を3つ有する。
【0051】
上記では、羽根形成部612の数が3つの場合について説明したが、羽根形成部612の数は3つに限られず、一体型鋳型600により製造する鋳物700に合わせて定められる。また、複数の羽根形成部612が同じ形状でなくてもよく、異なる形状であってもよい。また、複数の羽根形成部612が等間隔で設けられなくてもよく、羽根形成部612間の間隔が異なってもよい。
【0052】
[第5実施形態]
一体型鋳型600では、第1実施形態と同様に、鋳造時にフィルム状の封止部材200や造形砂を用いて形成された円筒形の封止部材210を用いてもよいが、図8のような封止部材220を用いてもよい。
【0053】
図8は、一体型鋳型600と封止部材220とを示す図である。図8に示す封止部材220は、開口部630の形状に合わせて、造形砂を用いて形成されている。封止部材220は、開口部630にはめ込まれることで、開口部630を封止する。このとき、開口部630から一体型鋳型600の中空部に入らないように、フィルムや接着剤を用いて封止部材220を固定してもよい。
【0054】
他の封止部材で、開口部630を外部から覆うと、鋳造時に開口部630であった部分において、羽根形成部612の肉厚の分だけバリが形成されてしまう。開口部630に封止部材220がはめ込まれることでバリが形成されにくくなり、鋳造後に鋳物700を加工する手間が削減される。
【0055】
[第6実施形態]
また、図9に示すように、開口部630と封止部材230とが係止するように、側面にインローを形成してもよい。インローとは、凹凸になった状態の部品同士が噛み合う構造をいう。開口部630には内径側に出っ張った段が形成され、封止部材230には外径側に出っ張った段が形成され、開口部630に封止部材230を嵌め込む際に、互いの段が噛み合う。図9の12A側が中空部であり、12B側が一体型鋳型100の外部であるとき、太い矢印の方向に封止部材230を移動させても、開口部630により係止され、封止部材230が一体型鋳型600の中空部に入ることを防止する。このような封止部材220、230は、一体型鋳型100にも応用可能である。
【0056】
[各実施形態の総括]
以上のことから、本発明に係る一体型鋳型は、羽根部の鋳造に用いられる中空の羽根形成部において、未硬化の砂を容易に取り除くことが可能である。また、本発明の一体型鋳型を用いて鋳造された鋳物は、分割することなく寸法精度を高く維持でき、鋳物自体の性能向上を図ることができる。
【符号の説明】
【0057】
100、500、600 一体型鋳型
110、510、610 壁部
111、611 軸形成部
112、512、612 羽根形成部
120、520 注入口
130、530、630 開口部
200、210、220、230 封止部材
300 鋳枠
310 鋳物砂
400、700 鋳物
411、711 軸部
412、712 羽根部
P ピッチ
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11A
図11B
図12A
図12B