(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023044341
(43)【公開日】2023-03-30
(54)【発明の名称】汚染土壌の浄化方法
(51)【国際特許分類】
B09C 1/08 20060101AFI20230323BHJP
B09C 1/00 20060101ALI20230323BHJP
【FI】
B09C1/08 ZAB
B09B5/00 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021152322
(22)【出願日】2021-09-17
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(71)【出願人】
【識別番号】000001317
【氏名又は名称】株式会社熊谷組
(71)【出願人】
【識別番号】596118530
【氏名又は名称】テクノス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100070024
【弁理士】
【氏名又は名称】松永 宣行
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 敏明
(72)【発明者】
【氏名】亀田 知人
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 将吾
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 優子
(72)【発明者】
【氏名】楊 心怡
(72)【発明者】
【氏名】野村 泰之
(72)【発明者】
【氏名】中村 孝道
(72)【発明者】
【氏名】河村 大樹
(72)【発明者】
【氏名】横塚 享
(72)【発明者】
【氏名】田部 智保
(72)【発明者】
【氏名】佐田 敦啓
【テーマコード(参考)】
4D004
【Fターム(参考)】
4D004AA41
4D004AB03
4D004AC04
4D004CA04
4D004CA13
4D004CA15
4D004CA34
4D004CC03
4D004CC11
4D004CC15
4D004DA03
4D004DA20
(57)【要約】
【課題】
砒素を含む汚染土壌を効率よく浄化する方法を提供すること。
【解決手段】
砒素を含む汚染土壌と、次亜塩素酸塩と、水とを混合すること、得られた混合液に高分子凝集剤を加えて混合し、沈降した固形分と、砒素を含む液分とに固液分離すること、前記固形分を回収し、浄化された土壌を得ることを含む、汚染土壌の浄化方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
砒素を含む汚染土壌と、次亜塩素酸塩と、水とを混合すること、
得られた混合液に高分子凝集剤を加えて混合し、沈降した固形分と、砒素を含む液分とに固液分離すること、
前記固形分を回収し、浄化された土壌を得ること
を含む汚染土壌の浄化方法。
【請求項2】
さらに、前記砒素を含む液分を層状複水酸化物と接触させた後に、前記砒素を含む固形分と、浄化された液分とに固液分離することを含む、請求項1に記載の汚染土壌の浄化方法。
【請求項3】
前記浄化された液分を、汚染土壌の浄化に使用することをさらに含む、請求項2に記載の汚染土壌の浄化方法。
【請求項4】
前記次亜塩素酸塩が、次亜塩素酸ナトリウムを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の汚染土壌の浄化方法。
【請求項5】
前記高分子凝集剤が、アニオン系高分子凝集剤を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の汚染土壌の浄化方法。
【請求項6】
前記層状複水酸化物が、下式(I)で表される、請求項2~5のいずれか1項に記載の汚染土壌の浄化方法。
[M2+
1-XM3+
x(OH)2][An-
x/n・yH2O] (I)
(式中、M2+は、Cu2+、Mn2+、Mg2+、Fe2+、Ca2+、Ni2+、Zn2+、Co2+およびCd2+からなる群から選択される2価の金属イオンである。M3+は、Al3+、Cr3+、Fe3+、Co3+、In3+、Mn3+およびV3+からなる群から選択される3価の金属イオンである。An-は、CO3
2-、SO4
2-、Cl-、OH-、SiO4
4-、SO4
2-およびNO3
-からなる群から選択されるn価の陰イオンである。xは0.20~0.33であり、nは1~4であり、yは1-3x/2である。)
【請求項7】
前記層状複水酸化物が、Mg2+及びAl3+を構成金属として含むMg-Al系層状複水酸化物である、請求項2~6のいずれか1項に記載の汚染土壌の浄化方法。
【請求項8】
前記砒素を含む汚染物質を含有する汚染土壌の粒径が、10mm以下である、請求項1~7のいずれか1項に記載の、汚染土壌の浄化方法。
【請求項9】
砒素を含む汚染土壌と、次亜塩素酸塩と、水とを混合すること、
得られた混合液に高分子凝集剤を加えて混合し、沈降した固形分と、砒素を含む液分とに固液分離すること、
前記砒素を含む液分を層状複水酸化物と接触させた後に、前記砒素を含む固形分と、浄化された液分とに固液分離すること、
前記浄化された液分を、前記砒素を含む汚染土壌と混合する水として循環再利用すること
を含む、汚染土壌の浄化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、汚染土壌の浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、砒素及び鉛といった重金属による土壌汚染が問題視されている。特に、砒素は、発癌性を有し、人の健康に影響を及ぼす有害な物質であるため、土壌汚染対策法では規制対象となっている。そのため、砒素によって汚染された土壌を浄化する様々な方法が検討されている。
【0003】
汚染土壌の代表的な浄化方法として、不溶化法、及び洗浄法が知られている。不溶化法は、重金属などの汚染物質を含む汚染土壌と薬剤とを混合し、重金属などの汚染物質が水に溶出しないように汚染土壌の性状を改質する方法である。そのため、引き続き汚染物質は土壌中に保持されるため、引き続き人の健康への影響が懸念される。
【0004】
一方、洗浄法は、重金属などの汚染物質を含む汚染土壌を水又は薬剤で洗浄することによって、汚染物質を溶出させ、除去する方法である。洗浄法によれば、汚染物質が除去された浄化土壌が得られる。しかし、一般的に、洗浄法によって汚染物質の含有量が低い浄化土壌を得るためには、汚染土壌の洗浄を複数回にわたって実施する必要があり、また洗浄時に使用した薬剤を洗い流す必要もある。したがって、洗浄法では、一般的に、大規模な装置、及び大量の水が必要となる。
【0005】
砒素を含む汚染土壌において、砒素は、無水亜砒酸(As2O3)、無水砒酸(As2O5)、及び、アルカリ金属又はその他金属の砒酸塩といった様々な形態で存在する。無水砒酸、及び砒酸塩は、水への溶解度が大きいが、無水亜砒酸は溶解度が低い。そのため、無水亜砒酸は、洗浄によって十分に除去されず、土壌中に残留しやすい。
【0006】
これに対し、特許文献1は、砒素で汚染された土壌を、酸化剤を含む洗浄液及びアルカリを含む洗浄液で順次もしくは同時に洗浄する砒素汚染土壌の浄化方法を開示している。この浄化方法によれば、水への溶解度が小さい無水亜砒酸を、酸化剤によって溶解度の高い砒酸に変化させることで、アルカリを含む洗浄液による洗浄効果を高めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記浄化方法では、汚染土壌を運搬しながら洗浄工程を繰り返し実施するための特定の装置が必要である。また、砒素を溶出させるためにアルカリを含む洗浄液を使用するため、アルカリ洗浄後の土壌を酸性溶液で中和する工程が必要となる。そのため、より簡便に実施でき、かつ効率よく汚染土壌を浄化できる方法が望まれている。
したがって、上述の状況に鑑み、本発明の実施形態は、砒素を含む汚染土壌を簡便かつ効率よく浄化する方法を提供する。また、本発明の他の実施形態は、砒素を含む汚染土壌の浄化に使用した水を循環再利用可能な浄化方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、汚染土壌を洗浄によって浄化する方法について鋭意検討を行い、洗浄時に特定の成分を使用することによって効率的に汚染土壌を浄化できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下に記載する実施形態に関する。但し、本発明は、以下に記載する実施形態に限定されるものではなく、様々な実施形態を含む。
【0010】
本発明の実施形態は、砒素を含む汚染土壌と、次亜塩素酸塩と、水とを混合すること、
得られた混合液に高分子凝集剤を加えて混合し、沈降した固形分と、砒素を含む液分とに固液分離すること、
上記固形分を回収し、浄化された土壌を得ること
を含む汚染土壌の浄化方法に関する。
【0011】
一実施形態において、上記浄化方法は、さらに、上記砒素を含む液分を層状複水酸化物と接触させた後に、上記砒素を含む固形分と、浄化された液分とに固液分離することを含むことが好ましい。
【0012】
一実施形態において、上記浄化方法は、上記浄化された液分を、上記汚染土壌の浄化に使用することをさらに含むことが好ましい。
【0013】
一実施形態において、上記次亜塩素酸塩は、次亜塩素酸ナトリウムを含むことが好ましい。
【0014】
一実施形態において、上記高分子凝集剤は、アニオン系高分子凝集剤を含むことが好ましい。
【0015】
一実施形態において、上記層状複水酸化物は、下式(I)で表されることが好ましい。
[M2+
1-XM3+
x(OH)2][An-
x/n・yH2O] (I)
(式中、M2+は、Cu2+、Mn2+、Mg2+、Fe2+、Ca2+、Ni2+、Zn2+、Co2+およびCd2+からなる群から選択される2価の金属イオンである。M3+は、Al3+、Cr3+、Fe3+、Co3+、In3+、Mn3+およびV3+からなる群から選択される3価の金属イオンである。An-は、CO3
2-、SO4
2-、Cl-、OH-、SiO4
4-、SO4
2-およびNO3
-からなる群から選択されるn価の陰イオンである。xは0.20~0.33であり、nは1~4であり、yは1-3x/2である。)
【0016】
一実施形態において、上記層状複水酸化物は、Mg2+及びAl3+を構成金属として含むMg-Al系層状複水酸化物であることが好ましい。
【0017】
一実施形態において、上記砒素を含む汚染物質を含有する汚染土壌の粒径は、10mm以下であることが好ましい。
【0018】
本発明の他の実施形態は、
砒素を含む汚染土壌と、次亜塩素酸塩と、水とを混合すること、
得られた混合液に高分子凝集剤を加えて混合し、沈降した固形分と、砒素を含む液分とに固液分離すること、
上記砒素を含む液分を層状複水酸化物と接触させた後に、上記砒素を含む固形分と、浄化された液分とに固液分離すること、
上記浄化された液分を、上記砒素を含む汚染土壌と混合する水として循環再利用すること
を含む、汚染土壌の浄化方法に関する。
【発明の効果】
【0019】
本発明の実施形態によれば、砒素を含む汚染土壌を効率よく浄化する方法を提供できる。また、本発明の他の実施形態によれば、砒素を含む汚染土壌の浄化に使用した水を循環再利用可能な浄化方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施形態である汚染土壌の浄化方法を説明するフロー図である。
【
図2】本発明の一実施形態である汚染土壌の浄化方法において、高分子凝集剤を添加した後の土壌粒子の状態を模式的に説明する一概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を説明する。但し、本発明は以下に記載する実施形態に限定されるものではなく、種々の実施形態を含む。
【0022】
以下、
図1に沿って、本発明の一実施形態である汚染土壌の浄化方法を説明する。本発明の一実施形態である汚染土壌の浄化方法では、先ず、砒素を含む汚染土壌と、次亜塩素酸塩と、水とを混合する(以下、工程1と称す。
図1のS1を参照)。汚染土壌と、次亜塩素酸塩と、水との混合は、例えば、汚染土壌に次亜塩素酸塩及び水を加え、振とう又は撹拌することによって実施できる。
【0023】
一実施形態において、上記浄化方法で使用する汚染土壌は、砒素などの重金属元素の単体、化合物又はイオンを含有する土壌であってよい。ここで、土壌は、山林、市街地、農耕地、及び工場跡地などから採取された土壌全般であってよい。土壌は、主成分としてシリカを含み、自然由来の又は人為由来の砒素を含んでいる。土壌において砒素は、無水亜砒酸(As2O3)、無水砒酸(As2O5)、及び、アルカリ土類金属又はその他金属の砒酸塩といった様々な形態で存在する。アルカリ金属又はその他金属の砒酸塩として、例えば、Ca3(AsO4)2、CaHAsO4、Mg3(AsO4)2・10H2O、MgNH4(AsO4)、FeAsO4、及びPb3AsO4等が挙げられる。
【0024】
一実施形態において、汚染土壌は、トンネル、及びダムなど工事において掘削によって生じる掘削ずりであってもよい。掘削ずりには、自然由来の砒素を含んでいることが多い。そのため、掘削ずりに対しても本発明の実施形態の汚染土壌の浄化方法を好適に適用することができる。
【0025】
汚染土壌において、砒素は、上述のように様々な形態で存在する。なかでも、無水亜砒酸は溶解度が低いため、汚染土壌中に残留しやすい。しかし、上記実施形態の浄化方法によれば、汚染土壌に次亜塩素酸塩及び水を加えて混合することで、水に対する砒素の溶解性が向上し、効率よく砒素を溶出(除去)することができる。次亜塩素酸塩、及び水は、別々に加えても、一緒に加えてもよい。別々に加える場合、汚染土壌と水との混合液に、次亜塩素酸塩を加えてもよい。
【0026】
次亜塩素酸塩は、次亜塩素酸ナトリウム、又は次亜塩素酸カリウムであってよく、少なくとも次亜塩素酸ナトリウムを含むことが好ましい。一実施形態において、次亜塩素酸塩の水溶液を好適に使用することができる。水溶液における次亜塩素酸塩の濃度は、適宜調整することができる。例えば、水溶液における次亜塩素酸塩の濃度は、0.01~0.15g/mlであってよく、好ましくは0.07~0.14g/mlであってよい。一実施形態において、濃度が0.01g/mlの次亜塩素酸塩の水溶液を好適に使用することができる。
【0027】
一実施形態において、水又は次亜塩素酸塩の水溶液の使用量は、浄化する汚染土壌(乾燥状態)の質量を基準として、好ましくは10質量倍以上であってよい。上記使用量は、次亜塩素酸塩による砒素の溶出(抽出)効果の観点から、好ましくは10~130質量倍、さらに好ましくは10~100質量倍であってよい。
【0028】
一実施形態において、上記工程1で得られる混合液は、スラリーの形態であってよい。混合液が明らかな異物を含む場合など、必要に応じて、混合液をろ過してもよい。混合液のスラリーを放置することによって土壌粒子を沈降させることもできる。しかし、上記実施形態の汚染土壌の浄化方法では、上記工程1で得た混合液に高分子凝集剤を加えて混合し、沈降した固形分(1)と、砒素を含む液分(1)とに固液分離することが好ましい(以下、工程2と称す。
図1のS2を参照)。上記工程1で得られる混合液に高分子凝集剤を添加した後に、これらを混合することによって、凝集効果をより高めることができる。高分子凝集剤の使用によって、スラリー状の混合液において、土壌粒子の凝集が促進され、短時間で固形分と液分との2層に分離する。
【0029】
上記実施形態において、砒素を効率よく除去する観点から、高分子凝集剤は、土壌粒子などの固形物質を凝集及び沈降させる一方で、砒素には作用しないことが望ましい。高分子凝集剤が砒素に対しても作用すると、土壌粒子の凝集時に砒素も取り込まれ、回収した土壌粒子に砒素が残存しやすくなる。このような観点から、高分子凝集剤として、アニオン系高分子凝集剤、カチオン系高分子凝集剤、又はノニオン系高分子凝集剤を使用することができる。一実施形態において、アニオン系高分子凝集剤、又はカチオン系高分子凝集剤が好ましく、アニオン系高分子凝集剤がより好ましい。
【0030】
一実施形態において、高分子凝集剤は、ポリアクリル酸エステル系、ポリメタアクリル酸エステル系、ポリアクリルアミド系、ポリアミジン系の高分子凝集剤であってよい。なかでも、ポリアクリル酸エステル系、又はポリアクリルアミド系の高分子凝集剤を好適に使用できる。一実施形態において、高分子凝集剤は、水溶液の形態で使用してもよい。
【0031】
上記ポリアクリル酸エステル系の高分子凝集剤は、アクリル酸ナトリウム・アクリルアミド共重合物を含むことが好ましい。アクリル酸ナトリウム・アクリルアミド共重合物を含む高分子凝集剤は、市販品としても入手できる。例えば、ハイモ株式会社製のハイモロックSSシリーズ等が挙げられる。特に限定するものではないが、ハイモロックSS-100、SS-120、及びSS-200等を好適に使用することができる。
【0032】
上記ポリアクリルアミド系の高分子凝集剤は、アクリルアミド・[2-(アクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウム=クロリド共重合物を含むことが好ましい。アクリルアミド・[2-(アクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウム=クロリド共重合物を含む高分子凝集剤は、市販品としても入手できる。例えば、ハイモ株式会社製のハイモロックMPシリーズ等が挙げられる。特に限定するものではないが、ハイモロックMP-384、及びMP-684等を好適に使用することができる。
【0033】
高分子凝集剤の使用量は特に限定されないが、使用量が少なすぎると、十分な凝集効果が得られず凝集による分離に要する時間が長くなりやすい。一方、使用量が多すぎると、溶液の粘度が上昇し取扱い性が低下しやすい。このような観点から、高分子凝集剤の使用量を適切に調整することが好ましい。一実施形態において、高分子凝集剤の使用量は、浄化する汚染土壌(乾燥状態)100kgに対して、好ましくは3g以上、より好ましくは5g以上であってよい。一方、上記使用量は、14g以下であってよく、より好ましくは13g以下であってよい。
一実施形態において、アニオン系高分子凝集剤、及びノニオン系高分子凝集剤の場合、これらの使用量は、浄化する汚染土壌(乾燥状態)100kgに対して、好ましくは3~10gであってよく、より好ましくは5~8gであってよい。また、一実施形態において、カチオン系高分子凝集剤の場合、その使用量は、浄化する汚染土壌(乾燥状態)100kgに対して、好ましくは3.3~13.3gであってよく、より好ましくは8~12gであってよい。
【0034】
図2は、高分子凝集剤を添加した後の土壌粒子の状態を模式的に説明する一概念図である。
図2(a)に示すように、工程1で得られる、砒素を含む汚染粒子と次亜塩素酸塩と水とを含有する混合液Aにおいて土壌粒子10と砒素20は分散している。このような混合液Aに対して、高分子凝集剤30を添加すると、
図2(b)および(c)に示すように、高分子凝集剤30の作用によって土壌粒子10が凝集し、高分子凝集剤30と一緒に沈降し固形分40を形成する。例えば、土壌粒子10と複合体を形成しやすい高分子凝集剤30を選択することによって、より高い凝集効果が得られる。
一方、砒素20は分散したままの状態で液分A1に保持される。沈降した固形分40と、砒素を含む液分50との固液分離は、例えば、ろ過などの当技術分野で周知の方法によって実施することができる。
【0035】
図1に示すように、上記固液分離によって、汚染土壌に含まれる砒素は液分(1)として除去することができる。一方、固形分(1)は、浄化された土壌として回収され、再利用することができる。固形分は、必要に応じて、レキ、砂、及びシルトと、スラッジなどにさらに分離した後に再利用してもよい。
【0036】
一実施形態において、先に説明した工程1の前に、汚染土壌を解砕し、分級する工程を設けてもよい。土壌には、レキ、砂、シルト、及び粘土などの粒度が異なる土壌粒子が混在し、それらが互いに固着して土塊を形成している。そのため、解砕によって、土塊を細かく破砕し、さらに分級によって土壌粒子の大きさを調整することによって、浄化処理が容易となる。そのため、一実施形態において、浄化処理に使用する汚染土壌は、土壌粒子の形態であることが好ましい。
【0037】
土壌粒子の粒径は、10mm以下であってよい。優れた洗浄効果が容易に得られる観点から、粒径は、好ましくは5mm以下であり、より好ましくは3mm以下であり、さらに好ましくは2mm以下である。特に、土壌粒子の粒径が2mm以下である場合、より優れた洗浄効果を容易に得ることができる。
【0038】
一実施形態において、上記浄化方法は、先に説明した工程2に続き、上記砒素を含む液分(1)を浄化すること(以下、工程3ともいう、
図1のS3を参照)をさらに含んでもよい。例えば、液分(1)と層状複水酸化物と接触させた後に、上記砒素を含む固形分(2)と、浄化された液分(2)とに固液分離することを含むことが好ましい。
【0039】
上記砒素を含む液分の浄化に使用する上記層状複水酸化物(Layered Double Hydroxide:LDH)は、下式(I)で表されることが好ましい。
[M2+
1-XM3+
x(OH)2][An-
x/n・yH2O] (I)
(式中、M2+は、Cu2+、Mn2+、Mg2+、Fe2+、Ca2+、Ni2+、Zn2+、Co2+およびCd2+からなる群から選択される2価の金属イオンである。M3+は、Al3+、Cr3+、Fe3+、Co3+、In3+、Mn3+およびV3+からなる群から選択される3価の金属イオンである。An-は、CO3
2-、SO4
2-、Cl-、OH-、SiO4
4-、SO4
2-およびNO3
-からなる群から選択されるn価の陰イオンである。xは0.20~0.33であり、nは1~4であり、yは1-3x/2である。)
【0040】
LDHは、2価の金属M(OH)2におけるM2+の一部がM3+に置換されることによって正電荷を帯びた八面体層のホスト層と、ホスト層の正電荷を補填するアニオン及び層間水からなるゲスト層とで構成され、優れた吸着能を有する。LDHは、当技術分野で周知の方法によって製造することができる。例えば、LDHは、2価金属イオンと3価金属イオンを含む混合水溶液を調製し、これをゲスト陰イオン含有水溶液にpH調整しながら滴下し、金属イオンを加水分解することによって製造することができる。
【0041】
一実施形態において、上記層状複水酸化物は、Mg2+及びAl3+を構成金属として含むMg-Al系層状複水酸化物であることが好ましい。このようなLDHは、公知の方法にしたがって製造することができ、市販品として入手することもできる。
【0042】
上記砒素を含む液分(2)とLDHとの接触は、例えば、砒素を含む液分とLDHとを混合することによって達成できる。また、LDHを充填したカラムに砒素を含む液分を通過させてもよい。さらに、LDHをろ過材料として成型し、このろ過材料を用いて砒素を含む液分をろ過してもよい。
上記接触によって、液分中の砒素をLDHに吸着させることができる。上記吸着は、砒素酸アニオン(例えば、AsO
4
3-、HAsO
4
2-)とLDHの層間アニオンとの交換によるものであり、砒素は吸着によって不溶化される。その結果、固液分離によって得られる液分(洗浄排水)は清澄化され、排水処理の負荷が低減できる。一実施形態において、回収した液分を循環させ、上記工程1において水として再利用することもできる(
図1のS4を参照)。
【0043】
固液分離によって回収された固形分(2)は、砒素を吸着したLDHであり、産業廃棄物として処理することができる。LDHによる砒素の吸着能は非常に高く、最大吸着能は、例えば、142.86mg/g(Mg/Al=2の場合)である。つまり、例えば、砒素含有量が1.93mg/kgの汚染土壌を、理論的には約74,020倍に濃縮することができる。このような観点から、上記実施形態の浄化方法によれば、最終的に処理が必要となる産業廃棄物の量を容易に低減することができる。
【実施例0044】
以下に、実施例によって本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明は、以下の実施例によって限定されるものではなく、種々の実施形態を含む。なお、実施例及び比較例における「部」の記載は「質量部」を表す。
【0045】
(参考実験)
汚染土壌を採取し、解砕及び分級し、粒径が<75μm、及び75μm~2.0mmの土壌粒子をそれぞれ準備した。誘導結合プラズマ(ICP)発光分析装置(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製 iCAP 6500 Duo)によって土壌粒子に含まれる金属成分を分析した結果を表1に示す。
次に、上記土壌粒子2.0gを100mLの容器に入れ、さらに次亜塩素酸ナトリウム2.0gと、水20mLとを加え、撹拌器を用い150rpmで撹拌し、混合液を得た。撹拌は、室温(30℃)において、2時間にわたって実施した。この混合液を0.45mmのメンブレンフィルターを使用してろ過し、ろ液を得た。次いで、ろ液をICP発光分析装置(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製 iCAP 6500 Duo)によって分析し、ろ液中の金属成分量を求めた。
一方、上記処理における混合液から、ろ液を分離して固形分を得た。この固形分を乾燥した後、質量を測定した。その結果、上記固形分(上記処理後の土壌粒子)の質量は、上記処理前の土壌粒子の質量とほぼ同じであった。このことから、上記処理において、ろ液への土壌粒子の主成分であるシリカの溶出は極めて少ないと考えられる。したがって、表1に示す土壌粒子中の成分量を基準として、上記ろ液中の金属成分量の値から、土壌粒子からろ液中に溶出した金属成分の溶出率を算出した。その結果を表2に示す。
【0046】
【0047】
【0048】
表1及び表2に示す結果から、土壌粒子に含まれる金属成分のなかでも砒素については、土壌粒子の粒径が<75μm、及び粒径が75μm~2.0mmのいずれにおいても、次亜塩素酸ナトリウム及び水との混合撹拌による溶出率が100%であり、抽出効率が非常に優れることが分かる。
【0049】
(実施例1)
汚染土壌を採取し、解砕及び分級し、粒径が<75μmの土壌粒子をそれぞれ準備した。この土壌粒子3.0gを100mLの容器に入れ、さらに次亜塩素酸ナトリウム0.3gと、水30mLとを加え、振とう器を用いて撹拌し、混合液を得た。撹拌は、室温(25℃)において、120分間にわたって実施した。混合液をICP発光分析装置(アジレント・テクノロジー株式会社製のAgilent 7900 ICP-MS)によって分析し、混合液中の砒素濃度を求めた。結果を表3に示す。
次に、上記混合液30mLに、高分子凝集剤(ハイモ株式会社の製品名「ハイモロックSS-100」の水溶液)100μLを加え、緩やかに撹拌した。高分子凝集剤の使用量(固形分換算)は、乾燥状態の土壌粒子の質量に対して0.0067%であった。撹拌は、室温において、手動にて1分間にわたって実施した。撹拌を止めて直ぐに沈降が始まり、10分間後には液分が透明になっていることを確認できた。撹拌を止めて10分後に、ろ過器を用いて固液分離を行った。固液分離後に回収した液分(1)をICP発光分析装置により分析し、砒素濃度を求めた。砒素濃度の観点から凝集効果を評価した。凝集効果の評価及び砒素濃度の結果を表3に示す。
【0050】
(実施例2~5)
実施例1で使用した高分子凝集剤を表3に示す高分子凝集剤に変更したことを除き、全て実施例1と同様にして、汚染土壌の浄化を行った。なお、実施例2、3で使用した高分子凝集剤は、順に、ハイモ株式会社の製品名「ハイモロックSS-120」、「ハイモロックSS-200」である。それぞれ、実施例1と同様に水溶液の形態で使用し、その使用量も実施例と同じとした(乾燥状態の土壌粒子の質量に対して0.0067%)。また、実施例4、5で使用した高分子凝集剤は、順に、ハイモ株式会社の製品名「ハイモロックMP-384」、「ハイモロックMP-684」である。それぞれ、実施例1と同様に水溶液の形態で使用し、高分子凝集剤の使用量(固形分換算)は、乾燥状態の土壌粒子の質量に対して0.010%であった。
次に、実施例1と同様にして、高分子凝集剤の添加による凝集効果の評価、及び固液分離後に回収した液分(1)における砒素濃度の分析を行った。これらの結果を表3に示す。
【0051】
(比較例1)
実施例1と同様にして、土壌粒子と、次亜塩素酸ナトリウムの水溶液と、水との混合液を得た。次に、高分子凝集剤を加えることなく、上記混合液をそのまま、室温において、手動にて1分間にわたって撹拌した。撹拌後に10分間放置した時点で凝集効果を目視にて評価した。なお、混合液を10分間放置した時点では相分離しなかったため、そのまま放置した。2時間後に相分離が確認できた。実施例1と同様にして固液分離後に回収した液分(1)をICP発光分析装置によって分析した。回収した液分における砒素濃度の分析結果を表3に示す。
【0052】
(比較例2~5)
実施例1で使用した高分子凝集剤1を表3に示す凝集剤にそれぞれ変更したことを除き、全て実施例1と同様にして、汚染土壌の浄化を行った。また、実施例1と同様にして、高分子凝集剤の添加による凝集効果の評価、及び固液分離後に回収した液分(1)における砒素濃度の分析を行った。これらの結果を表3に示す。
【0053】
【0054】
表3において、凝集効果の評価基準は以下のとおりである。
A:固液分離前の混合液中の砒素濃度に対し、固液分離後に回収した液分(1)における砒素濃度が、ほぼ100%であり、極めて良好である。
B:固液分離前の混合液中の砒素濃度に対し、固液分離後に回収した液分(1)における砒素濃度が、80%以上であり、良好である。
C:固液分離前の混合液中の砒素濃度に対し、固液分離後に回収した液分(1)における砒素濃度が、50%以上であり、実用上の許容範囲である。
D:固液分離前の混合液中の砒素濃度に対し、固液分離後に回収した液分(1)における砒素濃度が、50%未満であり、実用上不可である。
【0055】
表3から分かるように、実施例1~5において、固液分離後に回収した液分(1)における砒素濃度は、固液分離前の混合液中の砒素濃度とほぼ同じである。したがって、洗浄によって汚染土壌から砒素が効率よく除去され、固液分離後に回収される固形分における砒素濃度は低減され、浄化土壌として再利用できることが分かる。
一方、比較例2~5において、固液分離後に回収した液分における砒素濃度は、固液分離前の混合液中の砒素濃度よりも著しく低下している。これは、凝集剤によって混合液中の土壌粒子が凝集する時に、砒素も取り込まれ一緒に沈降するためと考えられる。
なお、比較例1については、固液分離後に回収した液分(1)における砒素濃度は、洗浄前の土壌粒子における砒素濃度とほぼ同じである。しかし、比較例1では、混合液が相分離するまでに要する時間が非常に長く、効率が著しく低下することが明らかである。
【0056】
先に表1及び表2で示したように、砒素を含む土壌粒子と、次亜塩素酸塩と、水との混合によって、土壌粒子から砒素を効率よく溶出させることができる。したがって、表3に示すように、本発明の実施形態(実施例1~5)によれば、次亜塩素酸塩を用いた溶出(浄化)と、特定の高分子凝集剤を用いた分離との組合せによって、砒素を含む土壌粒子から砒素を効率よく除去できることが分かる。また、高分子凝集剤添加後の固液分離によって回収される固形分は、砒素含有量が低減された浄化土壌粒子として再利用できることが分かる。
さらに、砒素を含有する水溶液を層状複水酸化物(LDH)と接触させると、水溶液における砒素濃度を大幅に低減することができる。LDHは砒素の吸着能が高いことから、水溶液における砒素濃度を測定限界値以下まで低減できる。これらのことから、高分子凝集剤添加後の固液分離後に得られる液分(砒素を含有する液分)をLDHと接触させることによって、液分中の砒素濃度を効率よく低減することができる。したがって、砒素を含有する液分をLDHと接触させた後に回収される液分は清浄化され、土壌粒子を洗浄するために循環再利用することが可能となる。