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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023044369
(43)【公開日】2023-03-30
(54)【発明の名称】水蒸気量観測システム
(51)【国際特許分類】
   G01N 22/04 20060101AFI20230323BHJP
   H04B 7/145 20060101ALI20230323BHJP
   H04B 7/15 20060101ALI20230323BHJP
   H04H 20/06 20080101ALI20230323BHJP
   G01N 22/00 20060101ALI20230323BHJP
【FI】
G01N22/04 A
H04B7/145
H04B7/15
H04H20/06
G01N22/00 W
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021152366
(22)【出願日】2021-09-17
(71)【出願人】
【識別番号】000227892
【氏名又は名称】日本アンテナ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】301022471
【氏名又は名称】国立研究開発法人情報通信研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100102635
【弁理士】
【氏名又は名称】浅見 保男
(74)【代理人】
【識別番号】100199820
【弁理士】
【氏名又は名称】西脇 博志
(72)【発明者】
【氏名】比留間 利通
(72)【発明者】
【氏名】北井 信則
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 琢也
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 歩
(72)【発明者】
【氏名】今井 繁雄
(72)【発明者】
【氏名】花土 弘
(72)【発明者】
【氏名】中川 勝広
(72)【発明者】
【氏名】金丸 佳矢
(72)【発明者】
【氏名】川村 誠治
【テーマコード(参考)】
5K072
【Fターム(参考)】
5K072AA29
5K072BB02
5K072BB14
5K072BB25
5K072CC02
5K072GG02
5K072GG14
5K072HH01
5K072HH02
(57)【要約】
【課題】 2つの測定点を必要としないと共に反射体を利用することなく1つの測定点において水蒸気量の観測を容易に行う。
【解決手段】 放送局BRから受信された地上デジタル放送信号は、ギャップフィラー受信局GRxから第1光線路12を介してギャップフィラー送信局GTxに伝送される。この地上デジタル放送信号はGTxから再送信されて、GRxと同じ位置に配置された測定点Mで受信される。また、第2光線路13を介してGTxから測定点Mに地上デジタル放送信号が伝送される。測定点Mの観測装置20は、測定量M1と測定量M2と測定量R2との複素遅延プロファイルに基づいて、測定点MとGTxとの間における大気中の水蒸気量を観測する。
【選択図】 図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
放送局からの地上デジタル放送波を受信した地上デジタル放送信号を第1通信線路を介してギャップフィラー送信局に伝送するギャップフィラー受信局と、
該ギャップフィラー受信局から伝送された地上デジタル放送信号を地上デジタル放送波として再送信するギャップフィラー送信局と、
前記放送局から見て前記ギャップフィラー受信局および前記ギャップフィラー送信局を超えた位置に設置され、前記放送局からの地上デジタル放送波と、前記ギャップフィラー送信局から再送信された地上デジタル放送波とを受信可能な測定点とを備え、
前記測定点は、地上デジタル放送波が前記放送局から前記測定点に直接到達するまでの遅延時間に相当する位相回転の測定量G1と、地上デジタル放送波が前記放送局から前記ギャップフィラー受信局と前記第1通信線路と前記ギャップフィラー送信局とを介して前記測定点に到達するまでの遅延時間に相当する位相回転の測定量G2とに基づいて、前記ギャップフィラー受信局と前記ギャップフィラー送信局との間における大気中の水蒸気量を観測することを特徴とする水蒸気量観測システム。
【請求項2】
放送局からの地上デジタル放送波を受信した地上デジタル放送信号を第1通信線路を介してギャップフィラー送信局に伝送するギャップフィラー受信局と、
該ギャップフィラー受信局から伝送された地上デジタル放送信号を地上デジタル放送波として再送信すると共に、第2通信線路を介して測定点に地上デジタル放送信号を伝送するギャップフィラー送信局と、
前記ギャップフィラー受信局と同じ位置に配置され、前記放送局からの地上デジタル放送波と、前記ギャップフィラー送信局から再送信された地上デジタル放送波と、前記ギャップフィラー送信局から前記第2通信線路を介して伝送された地上デジタル放送信号とを受信可能な観測装置を備える前記測定点とを備え、
前記観測装置は、地上デジタル放送波が前記放送局から前記測定点に到達するまでの遅延時間に相当する位相回転の測定量M1と、前記ギャップフィラー送信局から再送信された地上デジタル放送波が前記測定点に到達するまでの遅延時間に相当する位相回転の測定量M2と、前記第2通信線路で伝送された地上デジタル放送信号が前記測定点に到達するまでの遅延時間に相当する位相回転の測定量R2とに基づいて、前記測定点と前記ギャップフィラー送信局との間における大気中の水蒸気量を観測することを特徴とする水蒸気量観測システム。
【請求項3】
前記観測装置では、地上デジタル放送波が前記ギャップフィラー送信局から前記測定点に到達するまでの遅延時間に相当する第1位相回転を、前記測定量M1と前記測定量M2と前記測定量R2との遅延プロファイルに基づいて算出することにより、前記水蒸気量を観測することを特徴とする請求項2に記載の水蒸気量観測システム。
【請求項4】
前記第1位相回転と、地上デジタル放送信号が前記ギャップフィラー受信局から前記第1通信線路を介して前記ギャップフィラー送信局に到達するまでの遅延時間に相当する第2位相回転との和となる第3位相回転D1を、前記測定量M2と前記測定量M1との差を算出することにより求め、前記測定量R2と前記測定量M1との差を算出することにより、地上デジタル放送信号が前記ギャップフィラー受信局から前記第1通信線路を介して前記ギャップフィラー送信局に到達して、前記ギャップフィラー送信局から前記第2通信線路により折り返されて前記測定点に到達するまでの遅延時間に相当する第4位相回転を求め、前記第3位相回転D1と前記第4位相回転D2とに基づいて、前記第1位相回転を算出することを特徴とする請求項3に記載の水蒸気量観測システム。
【請求項5】
前記第1位相回転と、真空中の電波の速度に基づいて地上デジタル放送波が前記ギャップフィラー送信局から前記測定点に到達するまでの遅延時間に相当する位相回転との差となる伝搬遅延時間に基づいて、前記測定点と前記ギャップフィラー送信局との間における大気中の水蒸気量を観測することを特徴とする請求項3に記載の水蒸気量観測システム。
【請求項6】
前記ギャップフィラー受信局では、前記送信局からの地上デジタル放送波を受信した地上デジタル放送信号を中間周波数信号に変換する第1ミキサと、該中間周波数信号を地上デジタル放送信号に戻す第2ミキサとに、1つの局部発振器からの局部発振信号を印加することにより、前記ギャップフィラー受信局の位相雑音を相殺していることを特徴とする請求項2ないし請求項5のいずれかに記載の水蒸気量観測システム。
【請求項7】
前記ギャップフィラー送信局では、前記ギャップフィラー受信局から伝送された地上デジタル放送信号を分配手段により分配し、分配した一方の地上デジタル放送信号を前記第2通信線路を介して前記測定点に伝送すること特徴とする請求項2ないし請求項6のいずれかに記載の水蒸気量観測システム。
【請求項8】
前記測定点では、前記放送局からの地上デジタル放送波を第1受信手段により受信し、前記ギャップフィラー送信局からの地上デジタル放送波を第2受信手段により受信し、前記第1受信手段で受信した第1受信信号と、前記第2受信手段で受信した第2受信信号との間でレベル調整を行うことを特徴とする請求項2ないし請求項7のいずれかに記載の水蒸気量観測システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水蒸気量の観測を容易に行うことができる水蒸気量観測システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、全国各地で豪雨災害が多発しており、防災・減災・安心・安全の観点から様々な研究が進められている。豪雨災害の発生には大気中の水蒸気量が大きく起因しており、この水蒸気量を高精度に計測し、気象パラメータにデータ同化させることで、豪雨予測の精度が格段に上昇することが実証されている。現在、広範囲に渡っての水蒸気観測の研究が進められている。
ところで、電波の伝播速度は、伝播する空間に存在する水蒸気を始めとする大気の総量によって変化することが知られており、観測地点で受信される電波の伝搬遅延時間を利用することにより、水蒸気量を算出する従来の水蒸気量測定装置が特許文献1,特許文献2に記載されている。また、地上デジタル放送波を用いて水蒸気観測を行うことが非特許文献1,非特許文献2に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平2-212750号公報
【特許文献2】特開2007-10460号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】"地デジ放送波を使った水蒸気量推定手法の開発に成功 ~ピコ秒精度で電波の伝搬遅延を計測、ゲリラ豪雨の予測精度向上へ~"、2017年3月9日[online]、国立研究開発法人情報通信研究機構、[令和3年6月16日検索]、インターネット〈URL:https://www.nict.go.jp/press/2017/03/09-1.html〉
【非特許文献2】S.KAWAMURA 他14名、"Water vapor estimation using digital terrestrial broadcasting waves"、[online]、National Institute of Information and Communications Technology、[令和3年6月16日検索]、インターネット〈URL:https://agupubs.onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/2016RS006191〉
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献2に記載されている地上デジタル放送波を用いて水蒸気観測を行う従来の方法を図14ないし図16を参照して説明する。図14は地上デジタル放送波を用いて水蒸気観測を行う従来の同期法を説明する図であり、図15は地上デジタル放送波を用いて水蒸気観測を行う従来の反射法を説明する図であり、図16図15に示す反射法における複素遅延プロファイルの例を示す図である。
図14に示す地上デジタル放送波を用いて水蒸気観測を行う従来の同期法は、放送局500から放射された地上デジタル放送波を受信する測定点Aと、測定点Aと放送局500との間に配置された測定点Bとを備えており、測定点Aと測定点Bとの間における大気中の水蒸気量を観測している。大気中の水蒸気量が増加すると電波の伝播がわずかに遅れる(伝搬距離5kmで1気圧、気温20℃の湿度が1%上昇すると伝播時間は約17ピコ秒遅れる)ことを利用している。従来の同期法では、地上デジタル放送波を用いて伝播遅延を高精度に測定することで、水蒸気量の情報を得ることが可能とされる。
【0006】
測定点Aおよび測定点Bには、地上デジタル放送波を受信可能な受信部がそれぞれ設けられている。ここで、放送局500から放射された地上デジタル放送波が測定点Aに到達するまでの遅延時間に相当する位相回転をτAとし、放送局500から放射された地上デジタル放送波が測定点Bに到達するまでの遅延時間に相当する位相回転をτBとし、放送局500における送信部の位相雑音をφ、測定点Aにおける受信部の位相雑音をφ、測定点Bにおける受信部の位相雑音をφとする。すると、測定点Aで測定される地上デジタル放送波の位相回転の測定量MAは、
MA=τA+φ+φ (1)
となり、測定点Bで測定される地上デジタル放送波の位相回転の測定量MBは、
MB=τB+φ+φ (2)
となる。地上デジタル放送波が測定点Bから測定点Aに到達するまでの遅延時間に相当する位相回転は(MA-MB)で求められる。すなわち、
(MA-MB)=(τA-τB)+(φ-φ) (3)
となる。(3)式における(φ-φ)の位相雑音の項は測定誤差となることから、(φ-φ)=0とする必要がある。ここで、測定点Aと測定点Bとの同期をとればφ=φとなることは明らかである。すなわち、同期法では、測定点Aと測定点Bとの同期をとることで(φ-φ)=0として、次に示す(4)式のように測定誤差が生じないようにしている。
(MA-MB)=(τA-τB) (4)
(4)式に示す位相回転(τA-τB)と、真空中の電波の速度(2.99792458×10m/s )に基づいて地上デジタル放送波が測定点Bから測定点Aに到達するまでの遅延時間に相当する位相回転との差となる伝搬遅延時間に基づいて、測定点Aと測定点Bとの間における大気中の水蒸気量を観測することができる。
【0007】
次に、図15に示す地上デジタル放送波を用いて水蒸気観測を行う従来の反射法は、放送局500から放射された地上デジタル放送波を反射する反射体Rと、反射体Rと放送局500との間の測定点Cとを備えており、反射体Rと測定点Cとの間における大気中の水蒸気量を観測している。反射法も、大気中の水蒸気量が増加すると電波の伝播がわずかに遅れる(伝搬距離5kmで1気圧、気温20℃の湿度が1%上昇すると伝播時間は約17ピコ秒遅れる)ことを利用している。反射法では、地上デジタル放送波を用いて伝播遅延を高精度に測定することで、水蒸気量の情報を得ている。
【0008】
測定点Cには、地上デジタル放送波を受信可能な受信部が設けられている。ここで、放送局500から放射された地上デジタル放送波が反射体Rで反射されて測定点Cに到達するまでの遅延時間に相当する位相回転をτRとし、放送局500から放射された地上デジタル放送波が測定点Cに到達するまでの遅延時間に相当する位相回転をτCとし、放送局500における送信部の位相雑音をφ、測定点Cにおける受信部の位相雑音をφとする。すると、測定点Cで測定される放送局500からの直達波の位相回転の測定量MC1は、
MC1=τC+φ+φ (5)
となり、測定点Cで測定される反射体Rで反射された反射波の位相回転の測定量MC2は、
MC2=τR+φ+φ (6)
となる。
【0009】
測定点Cにおいては、放送局500からの直達波の位相回転の測定量MC1と、測定点Cにおける反射体Rで反射された反射波の位相回転の測定量MC2との複素遅延プロファイルを観測している。この複素遅延プロファイルの例を図16に示す。図16に示すように、複素遅延プロファイルは横軸が時間軸とされ、縦軸が振幅軸とされて、横軸により位相回転が遅延時間で示されている。測定量MC1が測定される測定点Cから反射体Rに到達するまでの遅延時間に相当する位相回転をτMとすると、反射体Rの反射波が測定点Cに到達するまでの遅延時間に相当する位相回転もτMとなる。そして、地上デジタル放送波が測定点Cから反射体Rに到達して、反射体Rで反射された反射波が測定点Cまで戻るまでの遅延時間に相当する位相回転は(MC2-MC1)で求められる。すなわち、
(MC2-MC1)=(τR-τC) (7)
となる。図16を参照すると明らかなように、(7)式で示す(MC2-MC1)は反射体Rと測定点Cとの間の往復の遅延時間に相当する位相回転であるから、(MC2-MC1)は2τMに等しくなり、
τM=(MC2-MC1)/2=(τR-τC)/2 (8)
となる。(8)式に示すように、反射法では、同期手段を必要とすることなく放送局500と測定点Cとの位相雑音を相殺することができる。反射法では、反射体Rと測定点Cとの間の遅延時間に相当する位相回転τMと、真空中の電波の速度(2.99792458×10m/s )に基づいて地上デジタル放送波が反射体Rから測定点Cに到達するまでの遅延時間に相当する位相回転との差となる伝搬遅延時間に基づいて、反射体Rと測定点Cとの間における大気中の水蒸気量を観測することができる。
【0010】
次に、従来の同期法における2つの測定点A,Bの配置位置を図17に示す俯瞰図を参照して説明する。図17は上空から見た俯瞰図とされている。
従来の同期法では図17に示すように、放送局500と測定点Aとを結ぶ一直線上に測定点Bは配置されている。従来の同期法では測定点Aと測定点Bとの2つの測定点を設けることにより水蒸気量の情報を得ることが可能とされている。ここで、放送局500と2つの測定点とが一直線上に配置されていない場合が考えられる。一直線上に配置されていない場合を図17を参照して説明すると、図17に示すように放送局500から測定点A’を結ぶ直線上に測定点Bが配置されていない場合は、上記(4)式が成立しないようになる。すなわち、距離LA’と距離LBとの差の距離(LA’-LB)は測定点Aと測定点Bとの距離(L4+L5)に等しくする必要があるが、LA’=(LB+L4)であり(LA’-LB)=L4となることから、距離L5を伝搬する遅延時間だけ誤差となってしまうからである。してみると、従来の同期法では測定点Aと測定点Bとの2つの測定点を設けることが必須とされており、さらに、放送局500と測定点Aと測定点Bとは一直線上に配置する必要があることになる。
なお、測定点Aと測定点Bとの間の空間と測定点A’と測定点Bとの間の空間では、通常は水蒸気量が異なることから測定点A’の位置に測定点を設けた場合は、測定点Aと測定点Bとの空間の水蒸気量を観測することはできない。
【0011】
次に、従来の反射法における測定点Cと反射体Rとの配置位置を図18に示す俯瞰図を参照して説明する。図18は上空から見た俯瞰図とされている。
従来の反射法では図18に示すように、放送局500と反射体Rとを結ぶ一直線上に測定点Cは配置されている。そして、放送局500と反射体Rとの間に1つの測定点Cを設けることにより、従来の反射法では水蒸気量の情報を得ることが可能とされている。ここで、放送局500と測定点Cと反射体Rとが一直線上に配置されていない場合が考えられる。一直線上に配置されていない場合を図18を参照して説明すると、図18に示すように放送局500から反射体R’を結ぶ直線上に測定点Cが配置されていない場合は、上記(7)式および(8)式が成立しないようになる。すなわち、距離L2と距離L1との差の距離(L2-L1)は反射体Rと測定点Cとの距離(L4’+L5’)に等しくする必要があるが、L2=(L1+L4’)であり(L2-L1)=L4’となることから、距離L5’を伝搬する遅延時間だけ誤差となってしまうことになるからである。してみると、従来の反射法では反射体Rが存在していることが前提とされており、さらに、放送局500と反射体Rとを結ぶ一直線上に測定点Cを配置する必要があることになる。
なお、測定点Cと反射体Rとの間の空間と測定点Cと反射体R’との間の空間では、通常は水蒸気量が異なることから、反射体R’の位置に反射体を設けた場合は測定点Cと反射体Rとの空間の水蒸気量を観測することはできない。
【0012】
上記説明した同期法では、水蒸気量を観測したい場所を間に置く2つの測定点が必要になると共に、2つの測定点との間で同期をとるための同期手段が必要になるという問題点があった。さらに、水蒸気量の観測はわずかな伝搬遅延時間を利用することから高精度の同期手段とする必要があり、同期手段が高額になるという問題点があった。
また、上記説明した反射法では、測定点との間で水蒸気量を観測したい場所を挟む反射体が必要になるが、低山の山間部や山陰で電波が遮断されるような広大な穀倉地帯などにおいては、高層ビル・マンションのような建造物がなく、利用できる反射体を得ることが困難なケースがある。このような地域において仮に、反射体として送電線などがあったとしても、位相変動が大きく測定に適さないと云う問題点があった。
さらに、同期法では図17で説明したように、放送局500から測定点Aを結ぶ直線上に測定点Bを設けなければならず、また、反射法においても図18で説明したように、放送局500から反射体Rを結ぶ直線上に測定点Cを設けなければならないが、山間部などでは障害物により、このような条件を満たすように測定点Bあるいは測定点Cを設けることができないという問題点があった。
そこで、本発明は、2つの測定点を必要としないと共に反射体を利用することなく1つの測定点において水蒸気量の観測を容易に行うことができる水蒸気量観測システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記本発明の目的を達成することができる本発明の水蒸気量観測システムは、放送局からの地上デジタル放送波を受信した地上デジタル放送信号を第1通信線路を介してギャップフィラー送信局に伝送するギャップフィラー受信局と、該ギャップフィラー受信局から伝送された地上デジタル放送信号を地上デジタル放送波として再送信するギャップフィラー送信局と、前記放送局から見て前記ギャップフィラー受信局および前記ギャップフィラー送信局を超えた位置に設置され、前記放送局からの地上デジタル放送波と、前記ギャップフィラー送信局から再送信された地上デジタル放送波とを受信可能な測定点とを備え、前記測定点は、地上デジタル放送波が前記放送局から前記測定点に直接到達するまでの遅延時間に相当する位相回転の測定量G1と、地上デジタル放送波が前記放送局から前記ギャップフィラー受信局と前記第1通信線路と前記ギャップフィラー送信局とを介して前記測定点に到達するまでの遅延時間に相当する位相回転の測定量G2とに基づいて、前記ギャップフィラー受信局と前記ギャップフィラー送信局との間における大気中の水蒸気量を観測することを最も主要な特徴としている。
【0014】
上記本発明の目的を達成することができる本発明の他の水蒸気量観測システムは、放送局からの地上デジタル放送波を受信した地上デジタル放送信号を第1通信線路を介してギャップフィラー送信局に伝送するギャップフィラー受信局と、該ギャップフィラー受信局から伝送された地上デジタル放送信号を地上デジタル放送波として再送信すると共に、第2通信線路を介して測定点に地上デジタル放送信号を伝送するギャップフィラー送信局と、前記ギャップフィラー受信局と同じ位置に配置され、前記放送局からの地上デジタル放送波と、前記ギャップフィラー送信局から再送信された地上デジタル放送波と、前記ギャップフィラー送信局から前記第2通信線路を介して伝送された地上デジタル放送信号とを受信可能な観測装置を備える前記測定点とを備え、前記観測装置は、地上デジタル放送波が前記放送局から前記測定点に到達するまでの遅延時間に相当する位相回転の測定量M1と、前記ギャップフィラー送信局から再送信された地上デジタル放送波が前記測定点に到達するまでの遅延時間に相当する位相回転の測定量M2と、前記第2通信線路で伝送された地上デジタル放送信号が前記測定点に到達するまでの遅延時間に相当する位相回転の測定量R2とに基づいて、前記測定点と前記ギャップフィラー送信局との間における大気中の水蒸気量を観測することを最も主要な特徴としている。
【0015】
また、上記本発明の水蒸気量観測システムは、前記観測装置では、地上デジタル放送波が前記ギャップフィラー送信局から前記測定点に到達するまでの遅延時間に相当する第1位相回転を、前記測定量M1と前記測定量M2と前記測定量R2との複素遅延プロファイルに基づいて算出することにより、前記水蒸気量を観測することを特徴とすることを主要な特徴としている。
さらに、上記本発明の水蒸気量観測システムは、前記第1位相回転と、地上デジタル放送信号が前記ギャップフィラー受信局から前記第1通信線路を介して前記ギャップフィラー送信局に到達するまでの遅延時間に相当する第2位相回転との和となる第3位相回転D1を、前記測定量M2と前記測定量M1との差を算出することにより求め、前記測定量R2と前記測定量M1との差を算出することにより、地上デジタル放送信号が前記ギャップフィラー受信局から前記第1通信線路を介して前記ギャップフィラー送信局に到達して、前記ギャップフィラー送信局から前記第2通信線路により折り返されて前記測定点に到達するまでの遅延時間に相当する第4位相回転を求め、前記第3位相回転D1と前記第4位相回転D2とに基づいて、前記第1位相回転を算出することを主要な特徴としている。
さらにまた、上記本発明の水蒸気量観測システムは、前記第1位相回転と、真空中の電波の速度に基づいて地上デジタル放送波が前記ギャップフィラー送信局から前記測定点に到達するまでの遅延時間に相当する位相回転との差となる伝搬遅延時間に基づいて、前記測定点と前記ギャップフィラー送信局との間における大気中の水蒸気量を観測することを主要な特徴としている。
さらにまた、上記本発明の水蒸気量観測システムは、前記ギャップフィラー受信局では、前記送信局からの地上デジタル放送波を受信した地上デジタル放送信号を中間周波数信号に変換する第1ミキサと、該中間周波数信号を地上デジタル放送信号に戻す第2ミキサとに、1つの局部発振器からの局部発振信号を印加することにより、前記ギャップフィラー受信局の位相雑音を相殺していることを主要な特徴としている。
さらにまた、上記本発明の水蒸気量観測システムは、前記ギャップフィラー送信局では、前記ギャップフィラー受信局から伝送された地上デジタル放送信号を分配手段により分配し、分配した一方の地上デジタル放送信号を前記第2通信線路を介して前記測定点に伝送することを主要な特徴としている。
さらにまた、上記本発明の水蒸気量観測システムは、前記測定点では、前記放送局からの地上デジタル放送波を第1受信手段により受信し、前記ギャップフィラー送信局からの地上デジタル放送波を第2受信手段により受信し、前記第1受信手段で受信した第1受信信号と、前記第2受信手段で受信した第2受信信号との間でレベル調整を行うことを主要な特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
本発明の水蒸気量観測システムは、放送局から見てギャップフィラー受信局およびギャップフィラー送信局とを超えた位置に設置された1つの測定点で、放送局から直接到達する地上デジタル放送波と、放送局からギャップフィラー受信局と第1通信線路とギャップフィラー送信局とを介して到達する地上デジタル放送波とを受信することに基づいて、ギャップフィラー受信局とギャップフィラー送信局との間における大気中の水蒸気量を観測することができる。
また、本発明の水蒸気量観測システムは、ギャップフィラー送信局が送信した地上デジタル放送波を1つの測定点で受信することに基づいて、測定点とギャップフィラー送信局との間における大気中の水蒸気量を観測することができる。これにより、本発明の水蒸気量観測システムでは、2つの測定点を必要としないと共に反射体を利用することなく1つの測定点において水蒸気量の観測を容易に行うことができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の第1実施例の水蒸気量観測システムの構成を示すブロック図である。
図2】本発明の第1実施例の水蒸気量観測システムの測定点における複素遅延プロファイルの例を示す図である。
図3】本発明の第2実施例の水蒸気量観測システムの構成を示すブロック図である。
図4】本発明の第2実施例の水蒸気量観測システムの測定点における複素遅延プロファイルの例を示す図である。
図5】本発明の第2実施例の水蒸気量観測システムにおけるギャップフィラー受信局の受信部の構成を示すブロック図である。
図6】本発明の第2実施例の水蒸気量観測システムにおけるギャップフィラー送信局の構成を示すブロック図である。
図7】本発明の第2実施例の水蒸気量観測システムにおける特徴的な構成を示すブロック図である。
図8】1気圧、気温20℃の条件での湿度に応じた伝搬遅延時間のグラフを示す図である。
図9】本発明の実施例の水蒸気量観測システムの測定点における実際の複素遅延プロファイルの例を示す図である。
図10】本発明の第2実施例の水蒸気量観測システムの測定点においてレベル調整を行う構成を示す図である。
図11】本発明の第2実施例の水蒸気量観測システムの測定点におけるレベル調整後の実際の複素遅延プロファイルの例を示す図である。
図12】本発明の第2実施例の水蒸気量観測システムにおけるギャップフィラー受信局とギャップフィラー送信局の配置位置を示す俯瞰図である。
図13】ギャップフィラーシステムの構成を示すブロック図である。
図14】地上デジタル放送波を用いて水蒸気観測を行う従来の同期法の構成を示すブロック図である。
図15】地上デジタル放送波を用いて水蒸気観測を行う従来の反射法の構成を示すブロック図である。
図16】地上デジタル放送波を用いて水蒸気観測を行う従来の反射法における複素遅延プロファイルの例を示す図である。
図17】従来の同期法における2つの測定点の配置位置を示す俯瞰図である。
図18】従来の反射法における測定点と反射点の配置位置を示す俯瞰図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[本発明の第1実施例]
本発明の第1実施例の水蒸気量観測システムの構成を示すブロック図を図1に示す。
図1に示す本発明の第1実施例の水蒸気量観測システム1は、ギャップフィラーシステムを利用している。そこで、まず、ギャップフィラーシステムの説明を図13を参照して行う。図13は一般的なギャップフィラーシステム200の構成を示すブロック図である。
図13に示すギャップフィラーシステム200は、テレビ放送波を水平面内の全方向に送信する放送局500と、テレビ放送波を受信する住宅Hとがある際に、放送局500と住宅Hとの間にテレビ放送波が伝搬する際に障害となる山等の障害物Sが存在している場合がある。このように、住宅Hにおいて障害物Sによりテレビ放送波を良好に受信できない場合に、障害物Sを超えた側にある住宅Hにおいてテレビ放送波を良好に受信できるように設置される。図13に示すギャップフィラーシステム200では、地上デジタル放送波を送信する放送局500(あるいは中継局)と、地上デジタル放送波を受信する住宅Hとの間に地上デジタル放送波が伝搬する際に障害となる山等の障害物Sが存在している。そこで、ギャップフィラー受信局Rxを障害物Sである山の頂上近傍の放送局500からの地上デジタル放送波を良好に受信できる場所に設置する。ギャップフィラー受信局Rxは、放送局500から送信される地上デジタル放送波をアンテナ411および受信部410で受信して地上デジタル放送信号を得る。地上デジタル放送信号は受信部410から光ファイバーや同軸線からなる通信線路Tに送出されて、ギャップフィラー送信局Txの送信部530に伝送される。ギャップフィラー送信局Txは、障害物Sを超えたところに点在している複数の住宅Hを見渡せる場所に設置されるのが好適とされる。ギャップフィラー送信局Txの送信部530は、ギャップフィラー受信局Rxから通信線路Tを介して伝送された地上デジタル放送信号を分配器533で分配して、それぞれの分配信号を増幅して第1送信アンテナ531および第2送信アンテナ532から送信する。これにより、第1送信アンテナ531および第2送信アンテナ532から地上デジタル放送波がそれぞれ再送信され、放送局500から見て障害物Sを超えた側にある複数の住宅Hのそれぞれにより再送信された地上デジタル放送波が受信される。この場合、ギャップフィラー送信局Txは住宅Hと同様に障害物Sを超えた側に設置されていることから、住宅Hでは良好に地上デジタル放送波を受信できるようになる。
【0019】
図1に示す本発明の第1実施例の水蒸気量観測システム1は、図13に示すギャップフィラーシステム200を利用しており、通常は既設されているギャップフィラーシステム200を放送局BRから見て超えた地点に測定点Mを設置した構成とされている。本発明の第1実施例の水蒸気量観測システム1は、地上デジタル放送波を水平面内の全方向に送信する放送局BRと、放送局BRから放射された地上デジタル放送波を受信するギャップフィラー受信局Rxと、ギャップフィラー受信局Rxから光線路13を介して伝送された地上デジタル放送信号を地上デジタル放送波として再送信するギャップフィラー送信局Txと、放送局BRとギャップフィラー受信局Rxおよびギャップフィラー送信局Txとを結ぶ直線の延長線上に設置され、放送局BRから放射された地上デジタル放送波、および、ギャップフィラー送信局Txから再送信された地上デジタル放送波を受信する測定点Mとを備えている。本発明の第1実施例の水蒸気量観測システム1は、ギャップフィラー受信局Rxとギャップフィラー送信局Txとの間における大気中の水蒸気量を、大気中の水蒸気量が増加すると電波の伝播がわずかに遅れる(伝搬距離5kmで1気圧、気温20℃の湿度が1%上昇すると伝播時間は約17ピコ秒遅れる)ことを利用して観測している。この場合、本発明の観測システム1では、ギャップフィラー送信局Txから再送信された地上デジタル放送波を用いて伝播遅延を高精度に測定することで、水蒸気量の情報を得ている。
【0020】
図1に示す本発明の第1実施例の水蒸気量観測システム1を詳細に説明すると、ギャップフィラー受信局Rxは、受信アンテナ01を備えており、受信アンテナ01で受信された放送局BRから送信された地上デジタル放送波の地上デジタル放送信号を受信している。ギャップフィラー受信局Rxで受信された地上デジタル放送信号は光信号とされて光線路03を介してギャップフィラー送信局Txに伝送される。ギャップフィラー送信局Txでは伝送された光信号とされている地上デジタル放送信号が電気信号にされて、送信アンテナ02から地上デジタル放送信号が再送信される。送信アンテナ02からは、放送局BRからの地上デジタル放送信号が良好に受信できない地域に向けて再送信される。放送局BRとギャップフィラー受信局Rxおよびギャップフィラー送信局Txとを結ぶ直線の延長線上に設置された測定点Mでは、放送局BRから送信された地上デジタル放送信号の直達波が受信アンテナ04で受信されると共に、ギャップフィラー送信局Txから再送信された地上デジタル放送波が受信アンテナ04で受信される。測定点Mでは、放送局BRからの直達波とギャップフィラー送信局Txからの再送信波とが複素遅延プロファイルとして観測され、観測された複素遅延プロファイルから送局BRからの直達波とギャップフィラー送信局Txからの再送信波との位相差が測定される。なお、測定点Mは、放送局BRから見てギャップフィラー受信局Rxおよびギャップフィラー送信局Txを超えたより遠方の位置に設置されるが、山や丘の上などの放送局BRに対する見通しが良い場所に設置されていることから、放送局BRからの地上デジタル放送信号を良好に受信することができる。
【0021】
[水蒸気量の観測]
本発明の第1の実施例の水蒸気量観測システム1における水蒸気量の観測について、図1および図2を参照して説明する。図2は本発明の第1実施例の水蒸気量観測システム1の測定点Mで観測される複素遅延プロファイルの例を示す図である。
ここで、放送局BRから送信された地上デジタル放送波が空間を伝播してギャップフィラー受信局Rxに到達するまでの遅延時間に相当する位相回転をτとし、放送局BRから送信された地上デジタル放送波が空間を伝播してギャップフィラー受信局Rxからギャップフィラー送信局Txに到達するまでの遅延時間に相当する位相回転をτとし、ギャップフィラー送信局Txから再送信された地上デジタル放送波が空間を伝播して測定点Mに到達するまでの遅延時間に相当する位相回転をτとし、地上デジタル放送信号がギャップフィラー受信局Rxで受信され、ギャップフィラー受信局Rxから光線路03で伝送されてギャップフィラー送信局Txに到達し、ギャップフィラー送信局Txから再送信されるまでの遅延時間に相当する位相回転をτGFとする。また、放送局BRにおける送信部の局部発振器の位相雑音をφ、測定点Mにおける基準信号の位相雑音をφとする。なお、τはギャップフィラー受信局Rxとギャップフィラー送信局Txとの間における大気中の水蒸気量に応じた位相回転を受けるようになる。
【0022】
上記の表記とすると、放送局BRから送信された地上デジタル放送波が空間を伝播して測定点Mに直達波として到達して複素遅延プロファイルとして観測されるが、その複素遅延プロファイルの遅延時間に相当する位相回転の測定量G1は、
G1=φ+τ (10)
となる。また、放送局BRから送信された地上デジタル放送波がギャップフィラー受信局Rxで受信され、光線路03でギャップフィラー送信局Txに伝送され、ギャップフィラー送信局Txから再送信された地上デジタル放送波が測定点Mに到達するまでの遅延時間に相当する位相回転の測定量をG2とすると、
G2=φ+τGF (11)
となる。ここで、測定量G1,G2は測定点Mにおいて複素遅延プロファイルとして測定され、測定された複素遅延プロファイルの一例を図2に示す。
【0023】
図2に示す複素遅延プロファイルは横軸が時間軸とされ、縦軸が振幅軸とされて、横軸により位相回転が遅延時間で示されている。本発明の第1実施例の水蒸気量観測システム1では、測定量G1と測定量G2との差に基づいてギャップフィラー受信局Rxとギャップフィラー送信局Txとの間における大気中の水蒸気量を観測することができる。この場合、τGFの遅延時間は正確な推定ができるものとする。ここで、測定量G1と測定量G2との差の位相回転Hを求めると、
H=G2-G1=τGF-τ (12)
となる。この場合、誤差の原因となる放送局BRの位相雑音φと、測定点Mにおける基準信号の位相雑音φとが位相回転Hでは取り除かれていることが分かる。上記(12)式から位相回転τを求めると、
τ=τGF-H (13)
となる。位相回転Hは、例えば図2に示すような2つの複素遅延プロファイル間の位相差(時間差)として求めることができる。そして、複素遅延プロファイルから求めた位相回転Hと正確な推定ができるτGFの遅延時間とから位相回転τを算出し、真空中の電波の速度(2.99792458×10m/s )に基づいてギャップフィラー受信局Rxとギャップフィラー送信局Txとの間における大気中の水蒸気量を観測することができる。
【0024】
なお、図8に示す1気圧、気温20℃の条件での湿度に応じた伝搬遅延時間のグラフを参照することにより、湿度が求められ、求められた湿度から水蒸気量を算出することができる。なお、図8のグラフの横軸は伝播距離[km]であり、縦軸は伝搬遅延時間[sec]の軸とされており、湿度を100%、80%、60%、40%、20%のそれぞれに設定した際のグラフが示されている。図8に示すグラフでは、電波が伝播するとき5kmの距離では、湿度が1%増加すると、伝搬遅延時間が約17ps(ピコ秒)となり、この伝搬遅延時間は長さ約5mmに相当することになる。このように水蒸気量による遅延は非常に小さいため、効果的な観測には非常に正確な測定(少なくとも数十psのオーダー)が必要となる。第1実施例の水蒸気量観測システム1では、誤差の原因となる放送局BRの位相雑音φと、測定点Mにおける基準信号の位相雑音φとが取り除かれると共に、τGFの遅延時間は正確な推定ができることから、非常に正確な水蒸気量を観測を行うことができる。
なお、測定点Mにおいては複素遅延プロファイルを測定して同相成分であるI信号と直交成分であるQ信号とから位相回転を観測しているが、測定点Mにおいて複素遅延プロファイルに替えて遅延プロファイルを測定して、振幅情報から位相回転を観測するようにしてもよい。
【0025】
[本発明の第2実施例]
本発明の第2実施例の水蒸気量観測システムの構成を示すブロック図を図3に示す。
図3に示す本発明の第2実施例の水蒸気量観測システム2は、上述した図13に示すギャップフィラーシステムを利用している。図13に示すギャップフィラーシステム200の説明は、上記した通りであるので、ここでは図13に示すギャップフィラーシステム200の説明は省略する。
図3に示す本発明の第2実施例の水蒸気量観測システム2は、図13に示すギャップフィラーシステム200を利用しており、通常は既設されているギャップフィラーシステム200に測定点を設置した構成とされている。すなわち、本発明の第2実施例の水蒸気量観測システム2は、地上デジタル放送波を水平面内の全方向に送信する放送局BRと、放送局BRから放射された地上デジタル放送波を受信するギャップフィラー受信局GRxと、ギャップフィラー受信局GRxから光線路を介して伝送された地上デジタル放送信号を地上デジタル放送波として再送信するギャップフィラー送信局GTxと、ギャップフィラー受信局GRxと同じ地点に設置され、放送局BRから放射された地上デジタル放送波、および、ギャップフィラー送信局GTxから再送信され空間を伝播する地上デジタル放送波を受信すると共に、ギャップフィラー送信局GTxから第2光線路13を介して伝送された地上デジタル放送信号を受信する測定点Mとを備えている。本発明の第2実施例の水蒸気量観測システム2は、測定点Mとギャップフィラー送信局GTxとの間における大気中の水蒸気量を、大気中の水蒸気量が増加すると電波の伝播がわずかに遅れる(伝搬距離5kmで1気圧、気温20℃の湿度が1%上昇すると伝播時間は約17ピコ秒遅れる)ことを利用して観測している。この場合、本発明の観測システム1では、ギャップフィラー送信局GTxから再送信された地上デジタル放送波を用いて伝播遅延を高精度に測定することで、水蒸気量の情報を得ている。
【0026】
[ギャップフィラー受信局]
本発明の第2実施例の観測システム2におけるギャップフィラー受信局GRxの構成を示すブロック図を図5に示す。図5に示すギャップフィラー受信局GRxは、放送局BRから送信される地上デジタル放送波を受信するためのアンテナ11と受信部10とを少なくとも備えている。受信部10では、アンテナ11で受信した地上デジタル放送信号を増幅AGC部110において所定のレベル値で出力されるようにゲインを調整しながら増幅している。増幅AGC部110からの地上デジタル放送信号は局部発振器114からの局部発振信号が供給される第1ミキサ111により中間周波数に変換され、中間周波信号処理部112により所定の信号処理が行われる。中間周波信号処理部112から出力される中間周波の信号は局部発振器114からの局部発振信号が供給される第2ミキサ113により地上デジタル放送信号の周波数帯域に戻される。第2ミキサ113から出力される地上デジタル放送信号は、増幅部115で所定レベルになるよう増幅されてレーザダイオード(LD)116に供給される。LD116から出力される光信号とされた地上デジタル放送信号は、第1光線路12に送出されて図3に示すように、ギャップフィラー送信局GTxに向けて伝送される。
なお、局部発振器114の位相雑音φは、局部発振器114の局部発振信号が第1ミキサ111および第2ミキサ113に供給されていることから、局部発振器114の位相雑音φは相殺されるようになる。このため、ギャップフィラー受信局GRxにおいては、位相雑音φは発生していないことになる。
【0027】
[ギャップフィラー送信局]
本発明の第2実施例の観測システム2におけるギャップフィラー送信局GTxの構成を示すブロック図を図6に示す。図6に示すギャップフィラー送信局GTxは、送信部30と第1送信アンテナ31と第2送信アンテナ32とを備えている。送信部30には、第1光線路12を介してギャップフィラー受信局GRxから伝送された光信号とされている地上デジタル放送信号が入力される。入力された光信号とされている地上デジタル放送信号は、カプラ130により2分配され、分配された一方の光信号とされている地上デジタル放送信号は、第2光線路13に送出されて測定点Mに伝送される。カプラ130で分配された他方の光信号とされている地上デジタル放送信号は、フォトダイオード(PD)131により電気信号の地上デジタル放送信号に戻されて送信機132に供給され、送信機132において所定レベルになるよう増幅されて出力される。送信機132から出力された地上デジタル放送信号は、分配器133で2分配されて、分配された一方の地上デジタル放送信号は第1送信アンテナ31に供給され、分配された他方の地上デジタル放送信号は第2送信アンテナ32に供給される。この場合、第1送信アンテナ31と第2送信アンテナ32の指向性は、複数の住宅Hが集まっているそれぞれの地域に向けられており、第1送信アンテナ31および第2送信アンテナ32から再送信された地上デジタル放送波は、複数の地域の住宅Hにより良好に受信できるようになる。
なお、第1光線路12および第2光線路13は、多芯の光ファイバーを備える1本の光ファイバーケーブルで構成され、第1光線路12および第2光線路13には多芯の光ファイバーのそれぞれの光ファイバーが割り当てられている。このため、第1光線路12および第2光線路13は同じ長さとされると共に、伝送特性もほぼ同様となっている。
また、送信機132において中間周波信号処理部が設けられている場合であっても位相雑音は発生しないようになる。それは、地上デジタル放送信号を中間周波信号に変換する構成と、中間周波信号を地上デジタル放送信号に周波数帯域に戻す構成として図5に示すギャップフィラー受信局GRxの構成と同じ構成が採用されるからである。
【0028】
[本発明の第2実施例の水蒸気量観測システムにおける特徴的な構成]
次に、本発明の第2実施例の水蒸気量観測システム2における特徴的な構成を示すブロック図を図7に示す。
図7に示すように、観測装置20には、第1アンテナ21で受信された放送局BRから送信された地上デジタル放送波の地上デジタル放送信号M1’と、第2アンテナ22で受信されたギャップフィラー送信局GTxから送信された地上デジタル放送波の地上デジタル放送信号M2’とが入力されて、地上デジタル放送信号M1’の位相の測定量M1と、地上デジタル放送信号M2’の位相の測定量M2とが測定されている。さらに観測装置20には、第2光線路13を介してギャップフィラー送信局GTxから伝送された光信号とされている地上デジタル放送信号R2’が入力されて、PD24により電気信号とされる。観測装置20では、地上デジタル放送信号R2’の位相の測定量R2も測定されている。この場合、地上デジタル放送信号M1’と地上デジタル放送信号M2’と地上デジタル放送信号R2’とが合成器23に入力されており、合成器23において合成されて複素遅延プロファイル測定・位相差計測部25に出力されている。複素遅延プロファイル測定・位相差計測部25において、地上デジタル放送信号M1’,M2’,R2’は、複素遅延プロファイルとして表示され、この複素遅延プロファイルから測定量M1と測定量M2と測定量R2とが測定されて、測定量M2と測定量M1との位相差および測定量R2と測定量M1との位相差が測定される。複素遅延プロファイルの一例を後述する図4に示す。図4に示す複素遅延プロファイルでは、測定量M1と測定量M2と測定量R2との複素遅延プロファイルとされていることが分かる。
なお、ギャップフィラー受信局GRxの受信部10で受信された地上デジタル放送信号が第1光線路12を介してギャップフィラー送信局GTxに伝送されて、ギャップフィラー送信局GTxにおいてカプラ130で分配された光信号とされている地上デジタル放送信号が、第2光線路13を介して観測装置20に伝送されている。この場合、第1光線路12と第2光線路13には、上述したように多芯構造の光ファイバーケーブルの1本ずつの光ファイバーが割り当てられており、同じ線路長とされると共に同じ伝送特性を示すようにされている。
【0029】
[水蒸気量の観測]
本発明の第2実施例の観測システム2における水蒸気量の観測について、図3ないし図7を参照して説明する。
放送局BRから送信された地上デジタル放送波が同地点に設置されているギャップフィラー受信局GRxおよび測定点Mに到達するまでの遅延時間に相当する位相回転をτ1とし、ギャップフィラー送信局GTxから再送信された地上デジタル放送波が測定点Mに到達するまでの遅延時間に相当する位相回転をτaとし、地上デジタル放送信号が第1光線路12で伝送されてギャップフィラー受信局GRxからギャップフィラー送信局GTxに到達するまでの遅延時間に相当する位相回転を(τb+τc)とし、地上デジタル放送信号が第2光線路13で伝送されてギャップフィラー送信局GTxからギャップフィラー受信局GRxに到達するまでの遅延時間に相当する位相回転を(τb+τc)とする。また、放送局BRにおける送信部の局部発振器の位相雑音をφ、測定点Mにおける観測装置20の複素遅延プロファイル測定・位相差計測部25における局部発振器の位相雑音をφとする。なお、第1光線路12および第2光線路13は同じ線路長とされると共に同じ伝送特性を示すことから遅延時間(位相回転)は等しくなるが、その位相回転を(τb+τc)としているのは、第1光線路12および第2光線路13における光ファイバー線路は、一般に石英系グラスファイバーが使われており、その膨張係数はきわめて小さいが光線路の長さが長くなると誤差となることから、膨張係数に基づく伸縮長に相当する位相回転をτcとおいている。すなわち、温度に応じて遅延時間(位相回転)が変化することになるので、固定の位相回転τbと温度に応じて変化する位相回転τcの和により、第1光線路12および第2光線路13の位相回転を表すようにしているからである。
【0030】
上記の表記とすると、放送局BRから送信された地上デジタル放送波が測定点Mに到達して複素遅延プロファイルが観測されるまでの遅延時間に相当する位相回転の測定量M1は、
M1=τ1+φ+φ (14)
となる。また、測定点Mと同地点に設置されているギャップフィラー受信局GRxで受信された地上デジタル放送信号が第1光線路12を介してギャップフィラー送信局GTxに到達するまでの遅延時間に相当する位相回転の測定量をR1とすると、
R1=τ1+τb+τc+φ (15)
となる。ただし、測定量R1は説明のための測定量とされており、ギャップフィラー送信局GTxにおいて実際に測定量R1を測定することは行われていない。なお、ギャップフィラー受信局GRxにおいては、前述したように受信部10の位相雑音φは相殺されている。そして、ギャップフィラー送信局GTxから地上デジタル放送波が再送信されると、再送信された地上デジタル放送波は測定点Mにおいて受信される。ギャップフィラー送信局GTxから再送信された地上デジタル放送波が測定点Mに到達するまでの遅延時間に相当する位相回転の測定量M2は、
M2=R1+τa+φ=τ1+τa+τb+τc+φ+φ (16)
となる。また、ギャップフィラー送信局GTxから第2光線路13を介して伝送された地上デジタル放送信号が測定点Mに到達して複素遅延プロファイルが観測されるまでの遅延時間に相当する位相回転の位相の測定量R2は、
R2=R1+τb+τc+φ=(τ1+τb+τc+φ)+τb+τc+φ
=τ1+2(τb+τc)+φ+φ (17)
となる。ここで、測定量M1,M2,R2は観測装置20における複素遅延プロファイル測定・位相差計測部25において複素遅延プロファイルとして測定され、測定された複素遅延プロファイルの一例を図4に示す。
【0031】
図4に示すように、複素遅延プロファイルは横軸が時間軸とされ、縦軸が振幅軸とされて、横軸により位相回転が遅延時間で示されている。ギャップフィラー受信局GRxで受信された地上デジタル放送信号が、第1光線路12によりギャップフィラー送信局GTxまで伝送され、さらに、地上デジタル放送波がギャップフィラー送信局GTxから再送信されて測定点Mに到達して複素遅延プロファイルが観測されるまでの遅延時間に相当する位相回転D1は(M2-M1)で求められる。すなわち、
D1=(M2-M1)=(τ1+τa+τb+τc+φ+φ)-(τ1+φ+φ
=τa+τb+τc (18)
となる。この場合、誤差の原因となる放送局BRの位相雑音φと、観測装置20の位相雑音φとが位相回転D1では取り除かれていることが分かる。また、放送局BRから送信されてギャップフィラー受信局GRxで受信された地上デジタル放送信号が、第1光線路12によりギャップフィラー送信局GTxまで伝送されて、ギャップフィラー送信局GTxから第2光線路13を介して折り返されて測定点Mに到達して複素遅延プロファイルが観測されるまでの遅延時間に相当する位相回転D2は(R2-M1)で求められる。すなわち、
D2=(R2-M1)={τ1+2(τb+τc)+φ+φ}-(τ1+φ+φ
=2(τb+τc) (19)
となる。この場合、誤差の原因となる放送局BRの位相雑音φと、観測装置20の位相雑音φとが位相回転D2では取り除かれていることが分かる。また、D2はギャップフィラー受信局GRxとギャップフィラー送信局GTxとを光線路で往復する遅延時間に相当する位相回転であるから、ギャップフィラー受信局GRxとギャップフィラー送信局GTxとの間の光線路の片道の遅延時間に相当する位相回転は(D2/2)となることは明らかである。そうすると、ギャップフィラー送信局GTxから再送信された地上デジタル放送波が測定点Mに到達して複素遅延プロファイルが観測されるまでの遅延時間に相当する位相回転は(D1-D2/2)で求められるから、
D1-D2/2=(τa+τb+τc)-(τb+τc)=τa (20)
となり、ギャップフィラー送信局GTxから再送信された地上デジタル放送波が測定点Mに到達するまでの遅延時間に相当する位相回転がτaとして求められる。この場合、第1光線路12および第2光線路13における遅延時間は相殺されており、光ファイバーの膨張係数の影響が取り除かれていることが分かる。複素遅延プロファイル測定・位相差計測部25において位相回転D1,D2の値を図4に示す複素遅延プロファイルから求めることで、位相回転τaを(20)式から算出することができる。
【0032】
上記したように、本発明にかかる水蒸気量観測システム2では、放送局BRからの地上デジタル放送波とギャップフィラー送信局GTxから再送信された地上デジタル放送波とが位相同期していることを利用することにより、同期手段を必要とすることなく放送局BRと測定点Mとの位相雑音を取り除くことができる。本発明にかかる水蒸気量観測システム2では、ギャップフィラー送信局GTxから再送信された地上デジタル放送波が測定点Mに到達するまでの遅延時間に相当する位相回転τaと、真空中の電波の速度(2.99792458×10m/s )に基づいて地上デジタル放送波がギャップフィラー送信局GTxから測定点Mに到達するまでの遅延時間に相当する位相回転との差により、測定点Mとギャップフィラー送信局GTxとの間の伝搬遅延時間を求めることができ、求めた伝搬遅延時間に基づいて、ギャップフィラー送信局GTxと測定点Mとの間における大気中の水蒸気量を観測することができる。
この場合、図8に示す1気圧、気温20℃の条件での湿度に応じた伝搬遅延時間のグラフを参照することにより、湿度が求められ、求められた湿度から水蒸気量を算出することができる。なお、図8のグラフの横軸は伝播距離[km]であり、縦軸は伝搬遅延時間[sec]の軸とされており、湿度を100%、80%、60%、40%、20%のそれぞれに設定した際のグラフが示されている。図8に示すグラフでは、電波が伝播するとき5kmの距離では、湿度が1%増加すると、伝搬遅延時間が約17ps(ピコ秒)となり、この伝搬遅延時間は長さ約5mmに相当することになる。このように水蒸気量による遅延は非常に小さいため、効果的な観測には非常に正確な測定(少なくとも数十psのオーダー)が必要となる。
なお、測定点Mにおいては複素遅延プロファイルを測定して同相成分であるI信号と直交成分であるQ信号とから位相回転を観測しているが、測定点Mにおいて複素遅延プロファイルに替えて遅延プロファイルを測定して、振幅情報から位相回転を観測するようにしてもよい。
【0033】
[本発明にかかる水蒸気量観測システムの変形例]
ここで、実際に測定された複素遅延プロファイルの一例を図9に示す。図9に示す複素遅延プロファイルでは、1つの反射波(マルチパス)が観測されている。この場合、図9に示す複素遅延プロファイルが観測装置20の複素遅延プロファイル測定・位相差計測部25で測定された場合は、反射波がギャップフィラー送信局GTxから再送信された地上デジタル放送波の測定量M2に相当する。しかし、図9に示す複素遅延プロファイルでは測定量M2のレベルが低すぎて、複素遅延プロファイル測定・位相差計測部25において高精度に伝搬遅延時間を計測することが困難になる場合がある。
そこで、複素遅延プロファイル測定・位相差計測部25において高精度に伝搬遅延時間を計測する手段を図10(a)(b)に示す。図10(a)に示す手段では、測定点Mのアンテナを観測装置アンテナ26Aとする。観測装置アンテナ26Aは、複数本の反射素子を備える反射器と、複数本の導波器とを備える高利得の八木アンテナとされ再送信波RTが到来する方向に高い指向性を有し、放送局BRから直達波が到来する方向に低い指向性を有するよう設置されている。これにより、再送信波RTの受信レベルが高くなり、複素遅延プロファイル測定・位相差計測部25で測定された複素遅延プロファイルを図11に示す再送信波RTのレベルが高い複素遅延プロファイルとすることができる。すなわち、複素遅延プロファイル測定・位相差計測部25において高精度に伝搬遅延時間を計測することができるようになる。
【0034】
また、図10(b)に示す手段では、測定点Mのアンテナを観測装置アンテナ26Bとする。観測装置アンテナ26Bは、複数本の反射素子を備える反射器と、複数本の導波器とを備える2本の八木アンテナを備え、一方の八木アンテナが図3図7に示す第1アンテナ21とされ放送局BRから直達波が到来する方向に高い指向性を有し、他方の八木アンテナが図3図7に示す第2アンテナ22とされ再送信波RTが到来する方向に高い指向性を有するよう設置されている。第1アンテナ21で受信された直達波DTは、増幅器(AMP)27で増幅されると共に減衰抵抗Re1でレベル調整されて合成器23に供給される。また、第2アンテナ22で受信された再送信波RTは、増幅器(AMP)28で増幅されると共に減衰抵抗Re2でレベル調整されて合成器23に供給される。減衰抵抗Re1からの出力と減衰抵抗Re2の出力とは、合成器29で合成されて出力される。これにより、合成器29から出力される直達波DTと再送信波RTとの受信レベルの調整を行うことができ、複素遅延プロファイル測定・位相差計測部25で測定された複素遅延プロファイルを図11に示す再送信波RTのレベルが高い複素遅延プロファイルとすることができる。すなわち、複素遅延プロファイル測定・位相差計測部25において高精度に伝搬遅延時間を計測することができるようになる。
【0035】
[本発明にかかる水蒸気量観測システムにおけるギャップフィラー送信局の配置]
次に、本発明にかかる水蒸気量観測システム2におけるギャップフィラー受信局GRxとギャップフィラー送信局GTxとの配置位置を図12に示す俯瞰図を参照して説明する。図12は上空から見た俯瞰図とされている。
結論を述べると、本発明にかかる水蒸気量観測システム2では、放送局BRと測定点Mおよびギャップフィラー受信局GRxとを結ぶ一直線上にギャップフィラー送信局GTxを配置する必要はなく、ギャップフィラー送信局GTxは複数の住宅Hに地上デジタル放送波を再送信できれば任意の位置に配置することができる。一直線上に配置しなくてもよい理由を図12を参照して説明する。図12に示すように、ギャップフィラー送信局GTxは、放送局BRから測定点Mおよびギャップフィラー受信局GRxとを結ぶ一直線上に配置されていない。これは、放送局BRとギャップフィラー受信局GRxとを結ぶ一直線上に障害物Sが存在しており、ギャップフィラー送信局GTxは上記一直線上に配置できないからである。そして、図12に示すようにギャップフィラー送信局GTxが配置されていても、測定点Mおよびギャップフィラー受信局GRxとギャップフィラー送信局GTxとの間に敷設された光線路12,13により地上デジタル放送信号が伝送されることから、図12に示す場合も上記(15)式ないし(20)式が成立するようになる。すなわち、図12に示すようにギャップフィラー送信局GTxが配置されていても、測定点Mとギャップフィラー送信局GTxとの間の距離N2を伝搬する遅延時間に相当する位相回転はτaで表されるようになる。従って、図12に示すようにギャップフィラー送信局GTxが配置されていても、伝搬遅延時間に誤差は生じないようになる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
以上説明した本発明にかかる水蒸気量観測システムにおいて、測定点は放送局とギャップフィラー受信局およびギャップフィラー送信局とを結ぶ直線の延長線上に設置することができる。また、ギャップフィラー受信局と測定点とを同じ地点に設置することができる。この場合、ギャップフィラーシステムは一般に既設とされていることから、ギャップフィラー受信局の局舎に余裕があるときは、ギャップフィラー受信局の局舎に測定点を構成するアンテナおよび観測装置を設置するようにしても良い。また、ギャップフィラーシステムを新設する場合は、ギャップフィラー受信局と測定点とを一つにすることができる。
以上説明した本発明にかかる水蒸気量観測システムは、放送局からの地上デジタル放送波とギャップフィラー送信局から再送信された地上デジタル放送波とが位相同期していることを利用しており、アンテナおよび観測装置を備える測定点を設置するだけで、ギャップフィラー送信局とギャップフィラー受信局あるいは測定点との間の水蒸気量の観測を行うことができるようになる。このため、測定点は1つだけでよく、2つの測定点を必要としないと共に、2つの測定点における同期をとる必要がなくなる。また、反射体を必要としないと共に、ギャップフィラー受信局と同じ地点に設置する場合は放送局と測定点とを結ぶ一直線上にすべての機器を配置する必要がなくなる。また、放送局とギャップフィラー受信局およびギャップフィラー送信局とを結ぶ直線の延長線上に測定点を設置する場合であっても、該延長線上に測定点Mを設けないことに基づく補正を行える場合は該延長線上に測定点Mを設ける必要はない。
さらに、本発明にかかる水蒸気量観測システムでは、ギャップフィラー受信局と同じ地点に設置する場合は、ギャップフィラーシステムが既設されていることから第1光線路を構成する多芯構造の光ファイバーケーブルは既設とされており、ギャップフィラー送信局と測定点とを結ぶ第2光線路としては、既設の第1光線路を構成する多芯構造の光ファイバーケーブルにおける使用されていない光ファイバーを利用することができる。このように、新たに光線路を敷設する作業を不要とすることができる。なお、第1光線路および第2光線路に替えて同軸線路を用いることもできるが、ギャップフィラー受信局から遠い距離を隔ててギャップフィラー送信局が設置されている場合は、同軸線路では伝送損失が大きくなり適していない。従って、第1光線路および第2光線路を用いるのが好適とされる。
さらにまた、本発明にかかる水蒸気量観測システムでは、測定誤差となる送信局および測定点の位相雑音を取り除くことができると共に、ギャップフィラー受信局と同じ地点に設置する場合は測定誤差となる光線路の伸縮に基づく遅延時間の変化を相殺することができる。
さらにまた、測定点Mにおいては複素遅延プロファイルを測定して同相成分であるI信号と直交成分であるQ信号とから位相回転を観測していると説明したが、測定点Mにおいて複素遅延プロファイルに替えて遅延プロファイルを測定して、振幅情報から位相回転を観測するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0037】
1,2 水蒸気量観測システム、01 受信アンテナ、02 送信アンテナ、03 光線路、04 受信アンテナ、10 受信部、11 アンテナ、12 第1光線路、13 第2光線路、20 観測装置、21 第1アンテナ、22 第2アンテナ、23 合成器、25 複素遅延プロファイル測定・位相差計測部、26A 観測装置アンテナ、26B 観測装置アンテナ、27 増幅器、28 増幅器、29 合成器、30 送信部、31 第1送信アンテナ、32 第2送信アンテナ、110 増幅AGC部、111 第1ミキサ、112 中間周波信号処理部、113 第2ミキサ、114 局部発振器、115 増幅部、116 レーザダイオード、130 カプラ、131 フォトダイオード、132 送信機、133 分配器、200 ギャップフィラーシステム、410 受信部、411 アンテナ、500 放送局、530 送信部、531 第1送信アンテナ、532 第2送信アンテナ、533 分配器、BR 放送局、GRx ギャップフィラー受信局、GTx ギャップフィラー送信局、H 住宅、M 測定点、Re1 減衰抵抗、Re2 減衰抵抗、Rx ギャップフィラー受信局、S 障害物、T 通信線路、Tx ギャップフィラー送信局
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