IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 地方独立行政法人北海道立総合研究機構の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023044387
(43)【公開日】2023-03-30
(54)【発明の名称】電磁波フィルタ
(51)【国際特許分類】
   H01Q 15/14 20060101AFI20230323BHJP
【FI】
H01Q15/14 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021152401
(22)【出願日】2021-09-17
(71)【出願人】
【識別番号】310010575
【氏名又は名称】地方独立行政法人北海道立総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100110766
【弁理士】
【氏名又は名称】佐川 慎悟
(74)【代理人】
【識別番号】100165515
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 清子
(74)【代理人】
【識別番号】100169340
【弁理士】
【氏名又は名称】川野 陽輔
(74)【代理人】
【識別番号】100195682
【弁理士】
【氏名又は名称】江部 陽子
(74)【代理人】
【識別番号】100206623
【弁理士】
【氏名又は名称】大窪 智行
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 隆之
(72)【発明者】
【氏名】宮▲崎▼ 俊之
(72)【発明者】
【氏名】米田 鈴枝
(72)【発明者】
【氏名】本間 稔規
【テーマコード(参考)】
5J020
【Fターム(参考)】
5J020AA06
5J020CA05
5J020DA06
(57)【要約】
【課題】 特定の方向に振動する電磁波を様々な振動方向で入射させたときのフィルタリング性能を安定させることのできる、電磁波フィルタを提供する。
【解決手段】 基材2に複数個の分割リング共振器3を近接配置して構成される電磁波フィルタ1であって、分割リング共振器3は、第1カット部41が形成されたリング状の第1分割リング4と、第1分割リング4より外周が小さくその内側に同心かつ同じ面内に配置され、第1カット部41とは反対位置に第2カット部51が形成されたリング状の第2分割リング5とから構成されており、各々の分割リング共振器3は、第1カット部41の開口位置が中心角360度を所定の角度間隔で等分した3以上の方向のうちいずれかの方向に向けられるとともに、各方向が、入射する電磁波の振動方向に対して等方的な性質が得られる頻度で表れるように配置されている。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材に複数個の分割リング共振器を近接配置して構成される電磁波フィルタであって、
前記分割リング共振器は、第1カット部が形成されたリング状の第1分割リングと、前記第1分割リングより外周が小さくその内側に同心かつ同じ面内に配置され、前記第1カット部とは反対位置に第2カット部が形成されたリング状の第2分割リングとから構成されており、
各々の前記分割リング共振器は、前記第1カット部の開口位置が中心角360度を所定の角度間隔で等分した3以上の方向のうちいずれかの方向に向けられるとともに、各方向が、入射する電磁波の振動方向に対して等方的な性質が得られる頻度で表れるように配置されている、前記電磁波フィルタ。
【請求項2】
前記第1カット部の開口位置が同一方向に向けられた複数個の前記分割リング共振器を一方向に連続して隣接配置する場合、両端に配置された前記分割リング共振器の中心間距離がフィルタリングの対象となる電磁波の波長を超えない範囲の配列個数とする、請求項1に記載の電磁波フィルタ。
【請求項3】
前記分割リング共振器による基本行列が、4行4列の16個の前記分割リング共振器で構成されているとともに、前記第1カット部の開口位置を第1方向、前記第1方向に対し時計回りに90度回転させた第2方向、前記第2方向に対し時計回りに90度回転させた第3方向および前記第3方向に対し時計回りに90度回転させた第4方向とした前記分割リング共振器が各行各列に1個ずつ表れるように配置されており、
前記基本行列を複数配置することで構成されている、請求項1に記載の電磁波フィルタ。
【請求項4】
前記分割リング共振器による基本行列が、2行2列の4個の前記分割リング共振器で構成されているとともに、前記第1カット部の開口位置を第1方向、前記第1方向に対し時計回りに90度回転させた第2方向、前記第2方向に対し時計回りに90度回転させた第3方向および前記第3方向に対し時計回りに90度回転させた第4方向とした前記分割リング共振器を、前記第1方向および前記第3方向を開口位置とする前記分割リング共振器と、前記第2方向および前記第4方向を開口位置とする前記分割リング共振器とがそれぞれ2行2列の対角位置に表れるように配置されており、
前記基本行列を複数配置することで構成されている、請求項1に記載の電磁波フィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分割リング共振器を用いた電磁波フィルタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電磁波は、通信技術やレーダー技術など様々な分野で利用されている。例えば、第5世代移動通信システムでは、28GHz帯の電磁波を用いて通信が行われている。一方、通信技術分野では、急増し続ける通信トラフィックへの対応が課題となっており、これまでに一定の方向に振動する電磁波(偏波)を利用して高速化を実現する新たな技術などが提案されている。
【0003】
また、自然環境においては、様々な電磁波が飛び交っており、不要な電磁波との干渉により、通信精度等が低下するという問題がある。そこで、このような不要な電磁波を除去するための電磁波フィルタが必要となっている。
【0004】
ところで、メタマテリアル(Metamaterials)は、電磁波(光)の波長よりも細かな構造体を利用して、自然界の物質にはない電磁気学(光学)的な特性を操作した物質であり、レンズなどの光学的な分野で応用されている。例えば、特開2014-160947号公報では、メタマテリアルが、入射した電磁波や光に対し負の屈折をさせることを利用した平面状のレンズが提案されている(特許文献1)。この特許文献1に記載の発明では、第1カット部が形成されたリング状の第1分割リングと、前記第1分割リングより外径が小さくその内側に同心かつ同じ面内に配置され、前記第1カット部とは反対位置に第2カット部が形成されたリング状の第2分割リングとから構成された分割リング共振器を、平行平板内に前記第1カット部の開口位置を同じ方向に向けて配置した構造からなるメタマテリアルが用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014-160947号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発明者等は、このようなメタマテリアルによる電磁気学的な特性に着目し、電磁波フィルタに応用することを発案し、鋭意研究を進めていたところ、特許文献1に記載の発明のように分割リング共振器を規則的にかつ第1カット部の開口位置を同じ方向に向けて並べた従来のメタマテリアル構造では、入射する電磁波の振動方向(進行方向を中心として入射側から見たときに電場が振動している方向)の変化にともない、透過および反射する電磁波の周波数が変化することを見いだした。
【0007】
つまり、従来のメタマテリアル構造を用いた電磁波フィルタをスマートフォンなどの移動体通信機器に使用した場合、前記電磁波フィルタに入射する電磁波の振動方向が移動体通信機器の動きに伴い変化するため、フィルタリング性能が安定しないという問題がある。
【0008】
本発明は、以上のような問題点を解決するためになされたものであって、特定の方向に振動する電磁波を様々な振動方向で入射させたときのフィルタリング性能を安定させることのできる、電磁波フィルタを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る電磁波フィルタは、特定の方向に振動する電磁波を様々な振動方向で入射させたときのフィルタリング性能を安定させるという課題を解決するために、基材に複数個の分割リング共振器を近接配置して構成される電磁波フィルタであって、前記分割リング共振器は、第1カット部が形成されたリング状の第1分割リングと、前記第1分割リングより外周が小さくその内側に同心かつ同じ面内に配置され、前記第1カット部とは反対位置に第2カット部が形成されたリング状の第2分割リングとから構成されており、各々の前記分割リング共振器は、前記第1カット部の開口位置が中心角360度を所定の角度間隔で等分した3以上の方向のうちいずれかの方向に向けられるとともに、各方向が、入射する電磁波の振動方向に対して等方的な性質が得られる頻度で表れるように配置されている。
【0010】
また、本発明の一態様として、入射する電磁波の振動方向に対して等方的な性質がより確実に得られるように配置するという課題を解決するために、前記第1カット部の開口位置が同一方向に向けられた複数個の前記分割リング共振器を一方向に連続して隣接配置する場合、両端に配置された前記分割リング共振器の中心間距離がフィルタリングの対象となる電磁波の波長を超えない範囲の配列個数とするようにしてもよい。
【0011】
さらに、本発明の一態様として、入射する電磁波の振動方向に対して等方的な性質がより確実に得られるように配置するという課題を解決するために、前記分割リング共振器による基本行列が、4行4列の16個の前記分割リング共振器で構成されているとともに、前記第1カット部の開口位置を第1方向、前記第1方向に対し時計回りに90度回転させた第2方向、前記第2方向に対し時計回りに90度回転させた第3方向および前記第3方向に対し時計回りに90度回転させた第4方向とした前記分割リング共振器が各行各列に1個ずつ表れるように配置されており、前記基本行列を複数配置することで構成されていてもよい。
【0012】
また、本発明の一態様として、入射する電磁波の振動方向に対して等方的な性質がより確実に得られるように配置するという課題を解決するために、前記分割リング共振器による基本行列が、2行2列の4個の前記分割リング共振器で構成されているとともに、前記第1カット部の開口位置を第1方向、前記第1方向に対し時計回りに90度回転させた第2方向、前記第2方向に対し時計回りに90度回転させた第3方向および前記第3方向に対し時計回りに90度回転させた第4方向とした前記分割リング共振器を、前記第1方向および前記第3方向を開口位置とする前記分割リング共振器と、前記第2方向および前記第4方向を開口位置とする前記分割リング共振器とがそれぞれ2行2列の対角位置に表れるように配置されており、前記基本行列を複数配置することで構成されていてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、特定の方向に振動する電磁波を様々な振動方向で入射させたときのフィルタリング性能を安定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明に係る電磁波フィルタの第一実施形態を示す斜視図である。
図2】本第一実施形態における分割リング共振器を示す模式図である。
図3】分割リング共振の他の実施形態を示す模式図である。
図4】本第一実施形態の電磁波フィルタおよび基本行列を示す模式図である。
図5】第二実施形態の電磁波フィルタおよび基本行列を示す模式図である。
図6】第三実施形態の電磁波フィルタおよび基本行列を示す模式図である。
図7】本第三実施形態における中心間距離と隣接配置について説明するための模式図である。
図8】本第三実施形態におけるフィルタリング対象となる電磁波の波長と一方向に連続して隣接配置できる同一方向に向けられた分割リング共振器の個数との関係を示す模式図である。
図9】実験で用いた分割リング共振器の寸法比を示す模式図である。
図10】本実験で作製した電磁波フィルタの比較配列の各基本行列を示す模式図である。
図11】本実験で作製した電磁波フィルタの本発明に係る配列の各基本行列を示す模式図である。
図12】本実験で用いた実験装置を示す写真である。
図13】本実験の比較配列1に基づく電磁波フィルタにおいて、分割リング共振器の外周幅1.5mmとした場合の透過率を示すグラフである。
図14】本実験の比較配列1に基づく電磁波フィルタにおいて、分割リング共振器の外周幅2.0mmとした場合の透過率を示すグラフである。
図15】本実験の比較配列1に基づく電磁波フィルタにおいて、分割リング共振器の外周幅2.5mmとした場合の透過率を示すグラフである。
図16】本実験の本発明に係る配列1に基づく電磁波フィルタにおいて、分割リング共振器の外周幅1.75mmとした場合の透過率を示すグラフである。
図17】本実験の本発明に係る配列1に基づく電磁波フィルタにおいて、分割リング共振器の外周幅2.0mmとした場合の透過率を示すグラフである。
図18】本実験の本発明に係る配列1に基づく電磁波フィルタにおいて、分割リング共振器の外周幅2.5mmとした場合の透過率を示すグラフである。
図19】本実験の本発明に係る配列2に基づく電磁波フィルタにおいて、分割リング共振器の外周幅1.75mmとした場合の透過率を示すグラフである。
図20】本実験の本発明に係る配列2に基づく電磁波フィルタにおいて、分割リング共振器の外周幅2.5mmとした場合の透過率を示すグラフである。
図21】本実験の本発明に係る配列3に基づく電磁波フィルタにおいて、分割リング共振器の外周幅1.75mmとした場合の透過率を示すグラフである。
図22】本実験の本発明に係る配列4に基づく電磁波フィルタにおいて、分割リング共振器の外周幅1.75mmとした場合の透過率を示すグラフである。
図23】本実験の本発明に係る配列5に基づく電磁波フィルタにおいて、分割リング共振器の外周幅1.75mmとした場合の透過率を示すグラフである。
図24】本実験の比較配列3に基づく電磁波フィルタにおいて、分割リング共振器の外周幅1.75mmとした場合の透過率を示すグラフである。
図25】銀ナノインク-めっき法により作製した、本実験の比較配列1に基づく電磁波フィルタにおいて、分割リング共振器の外周幅2.0mmとした場合の透過率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る電磁波フィルタの第一実施形態について図面を用いて説明する。
【0016】
本第一実施形態の電磁波フィルタ1は、図1に示すように、基材2と、この基材2に配置される複数個の分割リング共振器3とを有する。以下、各構成について詳細に説明する。
【0017】
基材2は、複数個の分割リング共振器3を配置するものであり、電磁波を透過させることのできる非金属素材により構成される。本第一実施形態における基材2は、樹脂素材からなり、矩形のシート状または板状に形成されている。
【0018】
なお、基材2の形状や厚さは特に限定されるものではなく、用途等に応じて適宜選択してもよい。
【0019】
分割リング共振器3は、対象となる電磁波の波長より細かな構造からなる金属微細構造であって、メタマテリアル分野で用いられる最も小さな構造となる単位要素の一つである。本第一実施形態における分割リング共振器3は、通過および反射する電磁波のピーク周波数を制御するために用いられる。この分割リング共振器3は、スプリットリング共振器(Split Ring Resonator:SRR)とも呼ばれる。
【0020】
本実施形態における対象となる電磁波は、約30GHz(ギガヘルツ)から約300GHzの周波数帯からなるミリ波であり、波長は1から10mm程度である。ミリ波は、直進性が非常に強く、雨や霧、雪といった耐環境性に優れ、情報伝送容量が大きい特徴から、次世代の高速通信技術や自動車の衝突軽減システムおよび自動運転システムの電磁波レーダーなどに用いられている。なお、本発明の対象となる電磁波は、ミリ波に限定されるものではなく、ミリ波より短波長の周波数帯や長波長の周波数帯の電磁波であってもよい。
【0021】
この分割リング共振器3の周波数特性は、スケーリング則に従って寸法に反比例する。例えば第1分割リング4の外周を基準とした分割リング共振器3の寸法をSとしたときに、周波数fの共振特性が見られたとき、分割リング共振器3の寸法がSより大きなLとなった場合の共振特性をfとすると、以下の式1の関係が成り立つ。
[式1]
=(S/L)f
つまり、本第一実施形態における電磁波フィルタ1は、分割リング共振器3の周波数特性がスケーリング則に沿う式1を用いることで、透過および反射させる電磁波の周波数(フィルタリング性能)を設定することができる。
【0022】
本第一実施形態における分割リング共振器3は、図2に示すように、外側の第1分割リング4と、内側の第2分割リング5とから構成される。
【0023】
第1分割リング4は、略正方形のリング状に形成されており、一つの辺の中央位置には開口された第1カット部41が形成されている。
【0024】
第2分割リング5は、第1分割リング4と同様に、略正方形のリング状に形成されており、その外周は第1分割リング4より小さく形成されている。また、第2分割リング5は、前記第1分割リング4の内側に同心かつ同じ面内に配置される。さらに、第2分割リング5には、第1カット部41とは反対位置にある辺の中央位置に第2カット部51が形成されている。前記同心とは、第1分割リング4の中心位置と第2分割リング5の中心位置とが完全に一致する場合に限定されるものではなく、分割リング共振器3の周波数特性にほぼ変化のない範囲における位置のずれを許容するものである。
【0025】
なお、第1分割リング4および第2分割リング5の形状は、略正方形のリング状に限定されるものではなく、適宜選択することができる。例えば、図3(a)に示すように、円形リング状であってもよく、図3(b)~(e)に示すように、六角形状および三角形状など種々の多角形リング状であってもよい。また、多角形状からなる第1分割リング4および第2分割リング5における第1カット部41および第2カット部51が開口される位置は、辺の中央位置に限定されるものではなく、図3(c)~(e)に示すように、多角形状の角部など、必要とされる共振特性や精度、製造コスト等に応じて適宜選択することができる。
【0026】
本第一実施形態の電磁波フィルタ1は、図1および図4に示すように、複数個の分割リング共振器3を基材2上または基材2内部の同一面において互いに近接配置させることにより構成される。ここで近接配置とは、フィルタリングする電磁波が意図せず通過するような隙間が形成されない程度に距離を近づけて配置したことをいい、第1分割リング4を構成する線の太さを基準とすると太さの5倍以下にすることが好ましく、本第1実施形態では前記太さと同程度の距離に他の分割リング共振器3が並ぶように配置されている。
【0027】
また、各々の分割リング共振器4は、前記第1カット部41の開口位置が中心角360度を所定の角度間隔で等分した3以上の方向のうちいずれかの方向に向けられて配置される。本第一実施形態における分割リング共振器3は、図4に示すように、中心角360度を90度の角度間隔で4等分しており、各々の方向を第1方向、この第1方向に対し時計回りに90度回転させた第2方向、この第2方向に対し時計回りに90度回転させた第3方向およびこの第3方向に対し時計回りに90度回転させた第4方向とし、第1方向に向けられた分割リング共振器3を第1方向分割リング共振器31、第2方向に向けられた分割リング共振器3を第2方向分割リング共振器32、第3方向に向けられた分割リング共振器3を第3方向分割リング共振器33および第4方向に向けられた分割リング共振器3を第4方向分割リング共振器34とした。
【0028】
また、各々の分割リング共振器3は、第1カット部41の各方向が、入射する電磁波の振動方向に対して等方的な性質が得られる頻度で表れるように配置されている。ここで等方的な性質とは、電磁波フィルタ1に入射する電磁波の振動方向(進行方向を中心として入射側から見たときに電場が振動している方向)を変化させたときに、透過または反射させる電磁波の特性に変化のない状態が得られる性質のことをいう。
【0029】
本第一実施形態では、等方的な性質が得られる頻度として、各方向に向けられた分割リング共振器3の表れる頻度が同一になるようにした。ここで頻度とは、電磁波フィルタ1の全体または一部の所定の面積(例えば、後述する基本行列6が配置可能な面積)に配置される複数個の分割リング共振器3において、各方向に向けられた分割リング共振器3のそれぞれの個数のことをいう。また、同一の頻度は、所定の面積内において各方向に向けられた分割リング共振器3の個数が完全に一致する場合に限定されるものではなく、等方的な性質を得られる程度の個数差を許容するものである。
【0030】
本第一実施形態では、各方向に向けられた分割リング共振器3が同一頻度で表れるような基本行列6を規定して、この基本行列6を複数配置することで電磁波フィルタ1を構成している。
【0031】
本第一実施形態における基本行列6は、4行4列の16個の前記分割リング共振器3で構成されているとともに、前記第1カット部41の開口位置を第1方向、第2方向、第3方向および第4方向とした分割リング共振器31,32,33,34が各行各列に1個ずつ表れるように配置されている。具体的には、基本行列6は、第1方向分割リング共振器31、第2方向分割リング共振器32、第3方向分割リング共振器33および第4方向分割リング共振器34がそれぞれ4個ずつの同一頻度で表れるように配置されている。
【0032】
そして、電磁波フィルタ1は、当該基本行列6を複数配置することで構成されている。このとき、各基本行列6は、分割リング共振器3同士の配置と同様に、縦横に近接配置さながら行列をなすように整列させている。このように縦横に整列させることで、本第一実施形態における各分割リング共振器3の配置は、どこの4行4列を抜き出したとしても、第1方向分割リング共振器31、第2方向分割リング共振器32、第3方向分割リング共振器33および第4方向分割リング共振器34がそれぞれ4個ずつの同一頻度で表れることになり、入射する電磁波の振動方向に対して等方的な性質が得られる。
【0033】
また、本発明の第二実施形態として、分割リング共振器3による基本行列6が、図5に示すように、2行2列の4個の前記分割リング共振器3で構成されているとともに、第1カット部41の開口位置を第1方向、第2方向、第3方向および第4方向とした分割リング共振器3を、第1方向および第3方向を開口位置とする分割リング共振器31、33と、第2方向および第4方向を開口位置とする分割リング共振器32,34とがそれぞれ2行2列の対角位置に表れるように配置されていてもよい。このとき基本行列6では、第1方向分割リング共振器31、第2方向分割リング共振器32、第3方向分割リング共振器33および第4方向分割リング共振器34がそれぞれ1個ずつの同一頻度で表れるように配置されている。
【0034】
そして、電磁波フィルタ1は、当該基本行列6を縦横に近接配置させながら行列をなすように整列させることで、各分割リング共振器3の配置は、どこの2行2列を抜き出しても、第1方向分割リング共振器31、第2方向分割リング共振器32、第3方向分割リング共振器33および第4方向分割リング共振器34がそれぞれ1個ずつの同一頻度で表れることになり、入射する電磁波の振動方向に対して等方的な性質が得られる。
【0035】
なお、複数の基本行列6の配置方法は、行列をなすように整列したものに限定されるものではなく、所定の電磁波の透過および反射する性能に影響のない範囲においてずれや隙間ができるように並べてもよい。また、各基本行列6を異なる方向に向けて配置してもよい。
【0036】
また、本発明の第三実施形態として、図6に示すように、各方向に向けられた分割リング共振器3が同一頻度で表れる構成であり、かつ第1カット部41の開口位置が同一方向に向けられた複数個の前記分割リング共振器3を一方向に連続して隣接配置する場合、両端に配置された前記分割リング共振器3の中心間距離がフィルタリングの対象となる電磁波の波長を超えない範囲の配列個数とすることを条件にランダムに配置してもよい。
【0037】
ここで中心間距離とは、図7に示すように、分割リング共振器3の中心と分割リング共振器3の中心とを結ぶ距離のことである。また、隣接配置とは、隣り合わせとなる互いの中心間距離が最も近くなるような配置であり、AとBの配置、AとCの配置、CとDの配置およびBとDの配置は隣接配置に相当する。一方、AとDの配置およびBとCの配置のように斜めの配置は中心間距離が最も近くならず隣接配置には相当しない。
【0038】
よって、本第三実施形態では、図8(1)および(2)に示すように、中心間距離が波長を超えない範囲であれば、第1カット部41の開口位置が同一方向に向けられた分割リング共振器3を一方向に連続して隣接配置することができる。
【0039】
そして、本第三実施形態における電磁波フィルタ1は、図6に示すように、分割リング共振器3が同一頻度で表れるとともに、同一方向に向けられた分割リング共振器3を一方向に連続して隣接配置する個数を、電磁波の波長を超えない2個までとしており、入射する電磁波の振動方向に対して等方的な性質が得られる。
【0040】
また、電磁波フィルタ1は、プリント基板の製造などに用いられる紫外線を用いたフォトレジスト法を用いて製造される。簡単に説明すると、分割リング共振器3を構成する模様(パターン)が印刷されたマスクと、紫外線感光剤の塗布された銅などの金属薄膜を有する樹脂シートを用意し、当該樹脂シートに前記マスクを重ね合わせ、紫外線を露光した後、現像(露光部の剥離)を行うとともに、エッチング(剥離部の銅の溶解)を行う。最後に、不要な前記紫外線感光剤を除去・洗浄する。これにより、残った樹脂が基材2となり、前記基材2の上に金属の分割リング共振器3が形成される。
【0041】
なお、電磁波フィルタ1の製造方法は、フォトレジスト法に限定されるものではなく、ナノインプリント(ホットエンボス)法やインクジェット法、レーザー照射による方法などから適宜選択することができる。
【0042】
以上のような各実施形態の電磁波フィルタ1によれば、以下の作用・効果を奏することができる。
1.入射する電磁波の振動方向に対して等方的な性質を備えることができ、移動体通信機器のように機器の向く方向が入射する電磁波の振動方向に対して変化するような環境下であっても、電磁波のフィルタリング性能を安定させることができる。
2.分割リング共振器3を規則的な方向に向けて配置することにより、設計および製作を容易に行うことができる。
【0043】
次に、本発明に係る電磁波フィルタと、比較対象となる電磁波フィルタを作成し、等方性および電磁波のフィルタリングに関する実験を行った。
【0044】
<実験に用いた電磁波フィルタについて>
本実験に用いた電磁波フィルタの製造方法や素材について説明する。本実験では、フォトレジスト法により電磁波フィルタを作成した。
【0045】
基材および分割リング共振器を構成するための素材として、厚さ100μmのポリイミドに対し、ポジ型紫外線感光剤が塗布された厚さ35μmの純銅箔を貼って形成されたサンハヤト製クイックポジ感光基板NZ-G33Kを使用した。現像液とエッチング液には、サンハヤト製のNZ-G33K専用品を用いた。
【0046】
また、マスクは、透明なPETフィルムに、市販のインクジェットプリンタにより黒インクで分割リング共振器を形成する模様(パターン)を印刷することで形成した。
【0047】
本実験で用いた分割リング共振器は、図9に示すように、正方形状の第1分割リングおよび正方形状の第2分割リングにより形成した。これら第1分割リングおよび第2分割リングの寸法比は次のとおりである。
【0048】
まず、第1分割リングは、リングを構成する線の太さを1としたとき、外周の縦幅および横幅の比率は10である。第1カット部は、四辺のうち1つの辺の中央に線の太さに対して比率2の幅で形成されている。
【0049】
第2分割リングの線の太さは、第1分割リングの線の太さと同じ太さ(比率1)である。第2分割リング外周の縦幅および横幅は線の太さに対して比率6である。そして、第2分割リングの中心は、第1分割リングと同心位置に配置されている。これにより、第2分割リングと第1分割リングとの間には比率1の隙間が形成される。
【0050】
また、第2カット部は、第1カット部と反対位置にある辺の中央に線の太さに対して比率1の幅で形成されている。
【0051】
本実験では、上記比率を保った相似形で、かつ実寸法が異なる複数種の分割リング共振器を用いた。具体的には、分割リング共振器の外周幅(第1分割リングの辺の長さ)が1.5mm、1.75mm、2.0mm、2.5mmの分割リング共振器を用いた。
【0052】
なお、分割リング共振器の上記形状および上記各比率は設計上のものであり、実際の電磁波フィルタは製造上の誤差を含む。
【0053】
本実験において、分割リング共振器による模様(パターン)を構成する基本行列は以下のように4行4列の16個の分割リング共振器で構成される。なお、各基本行列からなる電磁波フィルタにおいて、各分割リング共振器同士は、第1分割リングの線の太さ1に対して比率1の間隔を有するように配置されている。
(1)比較配列1
比較配列1は、図10(a)に示すように、第1カット部の開口位置が全て同じ方向(上方向)に向けられた分割リング共振器を行方向および列方向にそれぞれ整列配置してなる。
(2)比較配列2
比較配列2は、図10(b)に示すように、第1カット部の開口位置が全て同じ方向(上方向)に向けられた分割リング共振器を、行毎に1/2個分、横方向にずらして配置している。つまり、1行目を横方向に整列させる。これに対して、2行目は横方向に整列させるとともに、前記1行目に対して横方向に1/2個分ずらして配置する。3行目は、前記1行目および前記2行目と同様に横方向に整列させるとともに、2行目に対して横方向に1/2個分ずらして配置する。このように各行毎に横方向に1/2個分ずらした配置を繰り返す。
(3)比較配列3
比較配列3は、図10(c)に示すように、各分割リング共振器は第1カット部の開口位置を、1行目は全て上向きにし、2行目は全て下向きにし、3行目は全て右向きにし、4行目は全て左向きにしたものである。つまり、本基本行列において、第1カット部の開口位置は上方向、下方向、右方向および左方向に同一頻度で表れるように配置されている。一方、同一方向に向けられた分割リング共振器が一方向に連続して4個隣接配置されている。
(4)本発明に係る配列1
本発明に係る配列1は、図11(a)に示すように、上述の第一実施形態の基本行列と同様であり、上方向、下方向、右方向および左方向に向けられた分割リング共振器が各行各列に1個ずつ表れるように配置されている。
(5)本発明に係る配列2
本発明に係る配列2は、図11(b)に示すように、上述の第二実施形態の基本行列を正方形状に4つ並べた配置である。
(6)本発明に係る配列3
本発明に係る配列3は、図11(c)に示すように、上述の第三実施形態の基本行列と同様であり、各方向に向けられた分割リング共振器がランダムであるが同一頻度で表れるとともに、同一方向に向けられた分割リング共振器が一方向に連続する個数が2個とされている。
(7)本発明に係る配列4
本発明に係る配列4は、図11(d)に示すように、上述の第三実施形態の基本行列に基づく他の配置であり、各方向に向けられた分割リング共振器がランダムであるが同一頻度で表れるとともに、同一方向に向けられた分割リング共振器が一方向に連続する個数が2個とされている。
(8)本発明に係る配列5
本発明に係る配列4は、図11(e)に示すように、上述の第三実施形態の基本行列に基づく他の配置であり、上方向に向けられた分割リング共振器を正方形状に4つ配置したものと、右方向に向けられた分割リング共振器を正方形状に4つ配置したものと、下方向に向けられた分割リング共振器を正方形状に4つ配置したものと、左方向に向けられた分割リング共振器を正方形状に4つ配置したものを、正方形状に配列したものである。よって、この配列は、各方向に向けられた分割リング共振器が規則的に同一頻度で表れるとともに、同一方向に向けられた分割リング共振器が一方向に連続する個数が2個とされている。
【0054】
電磁波フィルタは、縦60mm×横60mmからなる略正方形のシート状基板の上に、上記(1)~(8)の各基本配列からなる分割リング共振器群を複数配置するように形成した。
【0055】
実験は、作製した各電磁波フィルタについて、高周波ネットワークアナライザによりミリ波W-band領域の透過性を評価した。実験装置は、図12に示すように.電磁波を送信するホーン状の送信アンテナと、電磁波を受信するホーン状の受信アンテナとを60mmの間隔で配置したものからなる。各アンテナ付近には、ノイズとなる多重反射を乱反射させSN比を向上させるため、しわを寄せたアルミ箔を置いた。
【0056】
各電磁波フィルタは、送信アンテナと受信アンテナとの略中間位置に置いて、入射する電磁波が垂直に入射するように配置した。そして、送信アンテナからは、電場が垂直で磁場が水平に振動する縦偏波を照射し、受信機に入射する電場振幅の減衰(dB)を測定した。また、電磁波フィルタの等方的な性質を検証するため、電磁波の振動方向は固定し、当該電磁波の入射角度を垂直に保ちながら電磁波フィルタを同一面内で回転させて測定した。そして、送信アンテナと受信アンテナとの間に何も配置せずに計測した電場振幅を透過率1として、計測した電場振幅より各電磁波フィルタの透過率を算出した。
【0057】
<比較配列1および比較配列2の等方性について>
比較配列1に基づく電磁波フィルタについて、分割リング共振器の外周幅(第1分割リングの辺の長さ)を1.5mmとした場合の電場振幅の測定および透過率の算出を行った。電磁波フィルタは、等方性を確認するため、第1カット部を上方向に向けて配置した“縦配置”と、横方向(水平方向)に向けて配置した“横配置”の両方で測定した。
【0058】
測定結果に基づく透過率のグラフを図13に示す。グラフの横軸は電磁波の周波数、縦軸は各周波数に対する電磁波フィルタの透過率である。
【0059】
図13のグラフに示すように、縦配置したときの電磁波フィルタの各周波数に対する透過率と、横配置したときの電磁波フィルタの各周波数に対する透過率は大きく異なる。
【0060】
また、図示しないが、比較配列2に基づく電磁波フィルタでも同様に、縦配置したときと横配置したときとでは、各周波数に対する電磁波フィルタの透過率が大きく異なることが確認された。
【0061】
よって、比較配列1および比較配列2のように、第1カット部が同一方向に向けられた分割リング共振器を複数配置した構成からなる電磁波フィルタでは、列毎または行毎のずれがあったとしても、入射側から見て時計方向または反時計方向に回転させたときの透過または反射させる電磁波の特性が大きく変化しており、等方的な性質は得られないことがわかった。
【0062】
<スケーリング則に沿うフィルタリング性能設定について>
比較配列1に基づく電磁波フィルタについて分割リング共振器の外周幅を2.0mmおよび2.5mmとした場合についても電場振幅の測定および透過率の算出を行った。測定結果に基づく透過率のグラフを図14および図15に示す。ちなみに、図14および図15に示すように、縦配置したときの電磁波フィルタの各周波数に対する透過率と、横配置したときの電磁波フィルタの各周波数に対する透過率とが大きく異なることは、図13に示す分割リング共振器の外周幅を1.5mmとした結果と同じである。
【0063】
まず、分割リング共振器の外周幅を2.0mmとした電磁波フィルタを横配置した場合、図14に示すように、94GHzおよび105GHz付近に急峻な吸収特性(吸収ピーク)が見て取れる。また、97.5GHz付近に透過特性(透過ピーク)が見て取れる。
【0064】
これに対し、分割リング共振器の外周幅を2.5mmとした電磁波フィルタを横配置した場合は、図15に示すように、84GHz付近の吸収特性(吸収ピーク)と、78GHz付近に透過特性(透過ピーク)が見て取れる。
【0065】
ここで、式1について、分割リング共振器の外周幅2.0mmをS、電磁波フィルタにおける吸収ピークの周波数105GHzをfとした場合、分割リング共振器の外周幅2.5mmをLとしたときの吸収ピークの周波数fは、105×2.0/2.5=84GHzとなり、図14で示した実験結果の吸収ピークの周波数と一致する。
【0066】
同様に、分割リング共振器の外周幅2.0mmの透過ピークの周波数97.5GHzに基づき、外周幅2.5mmとしたときの透過ピークの周波数を計算すると、97.5×2.0/2.5=78GHzとなり、図15で示した実験結果の透過ピークの周波数と一致する。
【0067】
以上より、式1に基づき分割リング共振器の寸法を設定することで、透過および反射させる電磁波の周波数(フィルタリング性能)を設定することができることが確認できた。
【0068】
<本発明に係る配列1~5の等方性について>
本発明に係る配列1に基づく電磁波フィルタについて、分割リング共振器の外周幅を1.75mmとした場合の電場振幅の測定および透過率の算出を行った。このとき、等方性を確認するため、電磁波フィルタの任意の一辺が略水平に配置される状態を“0度配置”とし、この0度配置における電場振幅の測定および透過率の算出を行うとともに、当該0度配置を基準として、入射側から見て時計回りに45度回転させた“45度配置”、90度回転させた“90度配置”および135度回転させた“135度配置”における電場振幅の測定および透過率の算出も行った。
【0069】
測定結果に基づく透過率のグラフを図16に示す。図16に示すように、0度配置、45度配置、90度配置および135度配置においては、各周波数の透過率に大きなずれはなく、89GHz付近に透過率0.9程度の透過ピークが見て取れる。よって、当該電磁波フィルタは、89GHz付近を透過するバンドパスフィルタとしてみることができる。
【0070】
また、本発明に係る配列1に基づく電磁波フィルタについて、分割リング共振器の外周幅を2.0mmおよび2.5mmとした場合についても電場振幅の測定および透過率の算出を行った。測定は、0度配置と90度配置で行った。
【0071】
測定結果に基づく透過率のグラフを図17および図18に示す。これら図17および図18に示すように、0度配置および90度配置における測定結果の透過率に大きなずれはない。よって、本発明に係る配列1は、入射する電磁波の振動方向に対して等方的な性質が得られることが確認できた。
【0072】
また、外周幅を1.75mmの測定結果における89GHz付近の透過ピークを、式1を用いて外周幅2.0mmとしたときの透過ピークの周波数を計算すると、89×1.75/2.0=約78GHzとなり、図17に示すように、実験結果の透過ピークの周波数と一致する。よって、本発明に係る配列1でも、スケーリング則が成り立つことが確認できた。
【0073】
次に、本発明に係る配列2に基づく電磁波フィルタについて、分割リング共振器の外周幅を1.75mmおよび2.5mmとした場合の電場振幅の測定および透過率の算出を行った。図19および図20に示すように、本発明に係る配列1と同様、0度配置、45度配置、90度配置および135度配置において、各周波数の透過率に大きなずれはなかった。
【0074】
また、本発明に係る配列3~5に基づく電磁波フィルタについて、それぞれ分割リング共振器の外周幅を1.75mmとした場合の電場振幅の測定および透過率の算出を行った。図21図23に示すように、本発明に係る配列3~5についても、0度配置、45度配置、90度配置および135度配置において、各周波数の大きなずれはなかった。
【0075】
一方、比較配列3に基づく電磁波フィルタについて、分割リング共振器の外周幅を1.75mmとした場合の電場振幅の測定および透過率の算出を行った。
【0076】
図24に示すように、周波数80GHz付近では、0度配置、45度配置、90度配置および135度配置において透過率に大きなずれはなかった。一方、周波数82GHz~93GHzの範囲において45度配置と135度配置の透過率を比較すると、45度配置の方が透過率が高く、周波数88GHz付近で最大で0.45程度の差があった。これらのことから、比較配列3に基づく電磁波フィルタでは、フィルタリング性能が安定していないと考えられる。
【0077】
この点について考察すると、比較配列3は、本発明に係る配列1~5と同様に、第1カット部の開口位置は上方向、下方向、右方向および左方向に同一頻度で表れるように配置されている。
【0078】
一方、同一方向に向けられた分割リング共振器が一方向に連続して4個隣接配置されている。これに対し、本発明に係る配列1および2では、同一方向に向けられた分割リング共振器が一方向に連続して隣接配置されたものはない。また、本発明に係る配列3~5では2個まである。
【0079】
ここで同一方向に向けられた分割リング共振器群を一つの構造と捉えた場合、比較配列3は、分割リング共振器4個の寸法の構造を有する。これに対し、本発明に係る配列3~5では分割リング共振器2個の寸法の構造を有する。
【0080】
次に、メタマテリアルは、電磁波の波長よりも細かな構造体を利用するものである。この点、周波数の範囲は75GHz~110GHzであり、電磁波の伝播速度を約30万km/sとした場合の波長の範囲は約2.7mm~約4mmである。
【0081】
分割リング共振器の外周幅を1.75mmとした場合、本発明に係る配列3~5では、2個の分割リング共振器による両端の中心間距離は1.75mmであり、今回の実験における対象となる電磁波の波長範囲約2.7mm~約4mmに対して十分に小さな構造体といえる。これに対し、比較配列3では、4個の割リング共振器による両端の中心間距離は5.25mmであり、上記波長範囲を超えている。
【0082】
以上より、第1カット部の開口位置を各方向に同一頻度で表れるように配置するとき、同一方向に向けられた複数個の前記分割リング共振器を一方向に連続して隣接配置する場合には、両端に配置された前記分割リング共振器の中心間距離がフィルタリングの対象となる電磁波の波長を超えない範囲の配列個数とすることで、電磁波の波長に対して十分に小さな構造体と見なすことができ、入射する電磁波の振動方向に変化が伴うような環境下においてフィルタリング性能を安定させることができると推察される。
【0083】
<電磁波フィルタの作製方法について>
比較配列1に基づく電磁波フィルタを、銀ナノインク-めっき法でも作製し、電場振幅の測定および透過率の算出を行った。本実験では、厚さ50μmのPETフィルムに、インクジェット印刷で銀ナノインクを印刷し、乾燥させることで銀を主成分とする金属薄膜を形成したものに、無電解銅めっきを行うことで、厚さ約3μmの銅の分割リング共振器を形成した。分割リング共振器の外周幅を2.0mmとした場合の測定結果に基づく透過率のグラフを図25に示す。フォトレジスト法により作製した、同じ配列および分割リング共振器の外周幅の測定結果に基づく透過率を示す図14と比較すると、同等の透過率が測定されており、製造方法の違いによる特性の変化は見られなかった。
【0084】
なお、本発明に係る電磁波フィルタは、前述した実施形態に限定されるものではなく、適宜変更することができる。例えば、フィルタリングの対象となる周波数はミリ波W-band領域に限定されるものではなく、波長に対して十分に小さな構造を作り出せる範囲の周波数範囲に適用することができる。また、前記電磁波フィルタを通信機器の筐体の一部または全部として用いてもよい。さらに、前記電磁波フィルタを自動車の衝突軽減システムや自動運転システムのレーダー受信部として用いる場合、エンブレムの形状に形成し、通常のエンブレム機能も兼ねて自動車のフロントおよびリヤに設置してもよい。また、前記電磁波フィルタをレーダーシステムのレドームの一部または全部として用いてもよい。
【符号の説明】
【0085】
1 電磁波フィルタ
2 基材
3 分割リング共振器
4 第1分割リング
5 第2分割リング
6 基本行列
31 第1方向分割リング共振器
32 第2方向分割リング共振器
33 第3方向分割リング共振器
34 第4方向分割リング共振器
41 第1カット部
51 第2カット部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25