(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023044393
(43)【公開日】2023-03-30
(54)【発明の名称】印刷装置
(51)【国際特許分類】
B65H 26/02 20060101AFI20230323BHJP
B41F 33/00 20060101ALI20230323BHJP
B41F 9/00 20060101ALI20230323BHJP
【FI】
B65H26/02
B41F33/00 250
B41F9/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021152411
(22)【出願日】2021-09-17
(71)【出願人】
【識別番号】000237260
【氏名又は名称】富士機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100196380
【弁理士】
【氏名又は名称】森 匡輝
(72)【発明者】
【氏名】森川 亮
(72)【発明者】
【氏名】岩藤 浩充
(72)【発明者】
【氏名】岩本 好司
(72)【発明者】
【氏名】磯崎 徹
(72)【発明者】
【氏名】片岡 啓治
(72)【発明者】
【氏名】丹生谷 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 怜志
(72)【発明者】
【氏名】松永 真一
(72)【発明者】
【氏名】村上 徹
(72)【発明者】
【氏名】久保 寛次
【テーマコード(参考)】
2C034
2C250
3F105
【Fターム(参考)】
2C034AA22
2C034AA42
2C250EA34
3F105AA04
3F105AB03
3F105BA14
3F105DA22
3F105DC03
3F105DC04
(57)【要約】
【課題】ウエブに印刷を行う印刷装置において、印刷ピッチずれを早期に検出可能な印刷装置を提供する。
【解決手段】印刷装置は、エンコーダが設置され、プラスチックフィルムであるウエブWを搬送する駆動ロールと、非接触式の磁気検出式回転センサである回転センサが設置され、ウエブWの搬送をガイドする従動ロールと、を備える。したがって、非接触式のセンサである磁気検出式の回転センサを用いて測定される従動ロールの回転状態に基づいて印刷ピッチずれを推定することにより、従動ロールの回転状態の変化を精度よく測定することができるので、印刷ピッチずれによる不具合を精度よく検出することができる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンコーダが設置され、プラスチックフィルムであるウエブを搬送する駆動ロールと、
磁気検出式回転センサが設置され、前記ウエブの搬送をガイドする従動ロールと、を備える、
ことを特徴とする印刷装置。
【請求項2】
複数の前記従動ロールを備え、
複数の前記従動ロールは、
第1の従動ロールと、
前記ウエブの抱き角が、前記第1の従動ロールの前記ウエブの抱き角より小さい第2の従動ロールと、を含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の印刷装置。
【請求項3】
前記第2の従動ロールの前記ウエブの抱き角は、10度以下である、
ことを特徴とする請求項2に記載の印刷装置。
【請求項4】
前記エンコーダ及び前記磁気検出式回転センサで測定される回転情報に基づいて、前記従動ロールの印刷ピッチずれを推定する制御部を備える、
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の印刷装置。
【請求項5】
前記制御部は、
印刷状態に影響を与える設定値と印刷ピッチずれとを含むデータセットを教師データとして、前記設定値から印刷ピッチずれを予測するように、機械学習により生成された予測モデルを用いて、印刷状態を判定する、
ことを特徴とする請求項4に記載の印刷装置。
【請求項6】
前記磁気検出式回転センサは、
周方向に複数の磁極が形成され、前記従動ロールの回転軸に配置される被検出部と、
前記回転軸近傍の固定部に配置され、磁束密度を検出する検出部と、を備え、
前記制御部は、
前記磁気検出式回転センサで検出された磁束密度の変動に基づいて前記従動ロールの偏心状態を推定する、
ことを特徴とする請求項4又は5に記載の印刷装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
搬送される長尺の印刷媒体(ウエブ)に多色印刷を行うグラビア印刷機、インクジェット印刷機等の印刷装置では、印刷ずれ等の印刷の不具合を抑制するため、ウエブの印刷ピッチずれを把握することが重要となる。このため、印刷ピッチずれを検出するための技術が種々開発されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、ウエブに印刷された2つの印刷マークを検出し、検出されたマークを画像解析して2つの印刷マークの検出位置を演算し、印刷ピッチを算出することとしている。
【0005】
しかしながら、特許文献1の印刷ピッチ測定方法では、複数の画像センサを用いて印刷ピッチを測定するので、画像センサで検出可能な程度のピッチずれが実際に生じている状態でないとピッチずれを検出できない。したがって、ピッチずれによる印刷の不具合の発生前にピッチずれを検出することは難しい。
【0006】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、ウエブに印刷を行う印刷装置において、印刷ピッチずれを早期に検出可能な印刷装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係る印刷装置は、
エンコーダが設置され、プラスチックフィルムであるウエブを搬送する駆動ロールと、
磁気検出式回転センサが設置され、前記ウエブの搬送をガイドする従動ロールと、を備える。
【0008】
また、複数の前記従動ロールを備え、
複数の前記従動ロールは、
第1の従動ロールと、
前記ウエブの抱き角が、前記第1の従動ロールの前記ウエブの抱き角より小さい第2の従動ロールと、を含む、
こととしてもよい。
【0009】
また、前記第2の従動ロールの前記ウエブの抱き角は、10度以下である、
こととしてもよい。
【0010】
また、前記エンコーダ及び前記磁気検出式回転センサで測定される回転情報に基づいて、前記従動ロールの印刷ピッチずれを推定する制御部を備える、
こととしてもよい。
【0011】
また、前記制御部は、
印刷状態に影響を与える設定値と印刷ピッチずれとを含むデータセットを教師データとして、前記設定値から印刷ピッチずれを予測するように、機械学習により生成された予測モデルを用いて、印刷状態を判定する、
こととしてもよい。
【0012】
また、前記磁気検出式回転センサは、
周方向に複数の磁極が形成され、前記従動ロールの回転軸に配置される被検出部と、
前記回転軸近傍の固定部に配置され、磁束密度を検出する検出部と、を備え、
前記制御部は、
前記磁気検出式回転センサで検出された磁束密度の変動に基づいて前記従動ロールの偏心状態を推定する、
こととしてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の印刷装置は、プラスチックフィルムのウエブに印刷を行う印刷装置において、エンコーダが設置された駆動ロールと、非接触の磁気検出式回転センサが設置された従動ロールとを備えるので、従動ロールの回転負荷を低減し、従動ロールの張力変動による印刷ピッチずれを早期に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施の形態1に係る印刷装置の概略図である。
【
図2】実施の形態1に係る印刷ユニットの構成を示す正面図である。
【
図3】実施の形態1に係る制御ユニットの機能ブロック図である。
【
図4】回転センサの被検出部の磁極配置を示す概念図である。
【
図5】回転センサの出力である磁束密度の波形の例を示すグラフである。
【
図6】ロールに偏心がある場合の回転センサの動きの例を示す図である。
【
図7】実施の形態2に係る印刷装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図を参照しつつ、本発明の実施の形態に係る印刷装置について説明する。
【0016】
(実施の形態1)
本実施の形態に係る印刷装置1は、
図1の概略図に示すように、ロール状態のウエブWを巻き出して印刷機へ送出する巻出装置11、巻出装置11から送出されたウエブWに多色印刷を行うグラビア印刷装置20、印刷されたウエブWを巻き取る巻取装置12、図示しない制御ユニット40を備える。
【0017】
ウエブWは、プラスチックフィルムである長尺の印刷媒体である。プラスチックフィルムであるウエブWは、環境温度、張力変動等の影響により伸縮し易く、一般的に印刷ずれ等の不具合を生じ易いという特性を有する。より具体的には、ウエブWが通気性を有しないプラスチックフィルムである場合、ウエブWとウエブWを搬送するロールとの間に空気を巻き込み易いので、従動ロールがウエブWの搬送速度に追従しないという不具合が生じ易い。従動ロールの回転がウエブWの搬送速度に追従していない場合、従動ロールの回転抵抗によってウエブWの張力変動が発生する。張力変動が発生すると、プラスチックフィルムであるウエブWの伸縮量が変化し、印刷ピッチずれが生じる。
【0018】
巻出装置11は、ロール状態でセットされたウエブWをグラビア印刷装置20へ送出する装置である。
【0019】
グラビア印刷装置20は、ウエブWに、色ごとに印刷を行う印刷ユニット21を備える。本実施の形態に係るグラビア印刷装置20は、3つの印刷ユニット21-1,21-2,21-3を備える。また、グラビア印刷装置20は、ウエブWを印刷ユニット21-1へ送り込むインフィードロール15、ウエブWを印刷ユニット21-3から巻取装置12へと送り出すアウトフィードロール16を備える。
【0020】
図2は、印刷ユニット21の詳細な構成を示す図である。
図2に示すように、印刷ユニット21は、ウエブWをガイドするガイドロール211,217、版胴212、ファニッシャロール213、圧胴214、インクパン215、ドクターブレード216を備える。また、印刷ユニット21は、印刷されたインクを乾燥させる乾燥装置Dを備える。
【0021】
巻出装置11から送出されたウエブWは、駆動しない従動ロールであるガイドロール211にガイドされて、印刷部へ搬送される。印刷部では、版胴212のインクがウエブWに転写されることにより、図柄が印刷される。版胴212は、外周面に各印刷ユニットの印刷色に対応する図柄が彫られたロールであり、図示しない駆動部(モータ)の駆動力によって回転する駆動ロールである。版胴212は、その版胴212を備える印刷ユニット21においてウエブWの搬送速度の基準となる基準ロールであり、版胴212の回転軸には版胴212の回転角度を測定するためのエンコーダが設置されている。
【0022】
また、印刷部で印刷されたウエブWは、複数の従動ロールであるガイドロール217にガイドされ、乾燥装置Dを通過して、印刷ユニット21から送出される。
図2に示すように、ガイドロール217は、印刷ユニット21内における配置位置によって、ウエブWとガイドロール217との接触範囲、すなわち抱き角が異なり、抱き角の深い(大きい)第1の従動ロールであるガイドロール217aと、ガイドロール217aより抱き角の浅い(小さい)第2の従動ロールであるガイドロール217bとに分けられる。一般的に、抱き角が深い場合、ガイドロール217が張力によってウエブWから受ける力は大きくなり、抱き角が浅い場合、ガイドロール217がウエブWから受ける力は小さくなる。ガイドロール217aの抱き角及びガイドロール217bの抱き角は、ウエブWの材質、設定張力等を考慮して、後述する張力変動の検出感度に基づいて設定すればよい。例えば、ガイドロール217aの抱き角は10度より大きく、ガイドロール217bの抱き角は10度以下と設定される。
【0023】
本実施の形態では、抱き角の深いガイドロール217a及び抱き角の浅いガイドロール217bについて、それぞれ少なくとも1つのロールに回転センサ60を設置することとしている。回転センサ60は、非接触式の磁気検出式回転センサであり、版胴212の回転軸に取り付けられた磁気リングの回転を、印刷ユニット21のフレームの磁気リングの近傍に配置された磁気センサで読み取る。これにより、抱き角の異なる従動ロールの回転状態を測定することができる。
【0024】
巻取装置12は、巻出装置11から送り出され、グラビア印刷装置20で印刷されたウエブWを巻き取る装置である。
【0025】
制御ユニット40は、
図3のブロック図に示すように、制御部41、記憶部42、表示部43、入力部44を備える。
【0026】
制御部41は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等から構成されており、駆動ロールの動作など印刷装置1全体の動作を制御する。また、制御部41は、印刷装置1各部のロールの回転状態を測定するとともに、測定された回転状態に基づいて、印刷ピッチずれの状態について判定を行う。
【0027】
制御部41は、制御部41のROM、記憶部42等に記憶されている各種動作プログラム及びデータをRAMに読み込んでCPUを動作させることにより、
図3に示される制御部41の各機能を実現させる。これにより、制御部41は、回転情報取得部411、印刷ピッチ推定部412、判定部413として動作する。
【0028】
回転情報取得部411は、接続されている駆動ロールのエンコーダ及び従動ロールの回転センサ60から、各ロールの回転情報を取得する。回転情報は、エンコーダ及び各回転センサ60で測定されたロールの回転角度に関するデータである。また、回転情報取得部411は、取得した回転情報を印刷ピッチ推定部412へ送信する。
【0029】
印刷ピッチ推定部412は、回転情報取得部411で取得した各ロールの回転情報と予め記憶部に記憶されているロール径とに基づいて、各ロールにおけるウエブWの搬送速度を演算する。また、印刷ピッチ推定部412は、各従動ロールについて算出されたウエブWの搬送速度と、基準ロールである駆動ロールについて算出された基準搬送速度との差に基づいて、印刷ピッチずれを推定する。
【0030】
判定部413は、上記で推定された印刷ピッチずれと、記憶部42に予め記憶されている学習済みモデルを用いて推定される印刷ピッチずれとに基づいて、印刷状態が正常であるか否かの判定を行う。
【0031】
記憶部42は、ハードディスク、フラッシュメモリ等の不揮発性メモリであり、測定された搬送速度から印刷ピッチずれを推定するプログラム、印刷状態を判定するために用いられる学習済みモデル等を記憶する。
【0032】
表示部43は、制御ユニット40に備えられた表示用デバイスであり、例えば液晶モニタである。表示部43は、推定された印刷ピッチずれ、印刷状態の判定結果等の情報を表示する。
【0033】
入力部44は、印刷装置1の各種設定値、各ロールの回転情報の検出に係る調整パラメータ、測定対象となる各ロールのロール径等を入力するための入力デバイスである。入力部44は、制御ユニット40に備えられたキーボード、タッチパネル、マウス等である。
【0034】
続いて、本実施の形態に係る印刷装置1における印刷ピッチずれの推定及び印刷状態の判定について説明する。
【0035】
印刷装置1であるグラビア印刷機の動作が開始されると、ウエブWは、巻出装置11からグラビア印刷装置20へ送出される。また、グラビア印刷装置20では、ガイドロール211,217、版胴212、ファニッシャロール213、圧胴214等が回転し、搬送されるウエブWへの印刷が行われる。
【0036】
より具体的には、印刷部では、インクパン215に貯留されているインクに浸されたファニッシャロール213が版胴212の外周面にインクを転写する。版胴212に転写されたインクは、ドクターブレード216で掻き落とされることにより、計量される。版胴212は、設定された印刷速度(ウエブWの搬送速度)となるように、図示しない駆動用モータMの駆動力によって回転する。
【0037】
また、版胴212を回転させる駆動軸212aには、エンコーダが配置されており、版胴212の回転情報を制御ユニット40の回転情報取得部411へ送信する。
【0038】
ウエブWは、圧胴214によってインクが転写された版胴212に圧接される。これにより、インクがウエブWに転写され、印刷が行われる。
【0039】
インクが転写されたウエブWは、ガイドロール217にガイドされて、印刷ユニット21に設けられた乾燥装置Dで乾燥される。これにより、インクをウエブWに定着させ、にじみ等の不具合を防止することができる。
【0040】
図2に示すように、印刷部から送出されたウエブWは、抱き角の深いガイドロール217aによって搬送方向が上方へと変えられて、乾燥装置Dへ送出される。これにより、印刷ユニット21の設置面積を小さくし、印刷装置1を小型化することができる。搬送方向が大きく変わった後、乾燥装置Dへの挿入前から、乾燥装置Dからの排出まで、ウエブWは抱き角の浅いガイドロール217bにガイドされる。
【0041】
本実施の形態では、抱き角の深いガイドロール217aと抱き角の浅いガイドロール217bのいずれにも、回転センサ60が設置され、各ロールの回転状態が測定されることとしている。回転センサ60が設置されるガイドロール217の数は特に限定されず、複数のガイドロール217に回転センサ60を設置することができる。
【0042】
そして、ガイドロール217に設置された非接触式の回転センサ60は、検出した磁気の情報に基づいて出力される回転角度の情報を制御ユニット40の回転情報取得部411へ送信する。
【0043】
グラビア印刷装置20では、印刷ユニット21-1~21-3によって各色の絵柄が順次印刷される。各色の印刷が完了したウエブWは巻取装置12によって巻き取られる。
【0044】
制御ユニット40の回転情報取得部411は、上記の各印刷ユニット21の駆動ロールである版胴212、従動ロールであるガイドロール217の回転情報を取得する。また、回転情報取得部411は、取得した回転情報を印刷ピッチ推定部412へ送信する。
【0045】
印刷ピッチ推定部412は、回転情報取得部411で取得した回転情報から、各ロールにおけるウエブWの搬送速度を演算し、駆動ロールの基準搬送速度と従動ロールの搬送速度との差に基づいて、各従動ロールにおける印刷ピッチずれを推定する。例えば、基準ロールである版胴212における基準搬送速度に対して、いずれかのガイドロール217の搬送速度が小さい場合、ガイドロール217の回転がウエブWの搬送に追従できておらず、ウエブWに張力変動が生じていると考えられる。張力変動は、プラスチックフィルムであるウエブWの伸びを生じさせ、印刷ピッチずれが生じることとなる。
【0046】
印刷ピッチ推定部412は、上述の従動ロールの搬送速度と基準搬送速度との差に基づいて各従動ロールにおける印刷ピッチずれの大きさを推定する。
【0047】
また、判定部413は、回転センサ60による測定値に基づいて印刷ピッチ推定部412で推定された印刷ピッチずれと、記憶部42に予め記憶されている学習済みモデルである予測モデルを用いて推定される印刷ピッチずれとから、印刷状態、すなわち印刷が正常に行われているか否かの判定を行う。より具体的には、ウエブWの搬送速度、張力等及びウエブWの種類、例えばウエブWの材質、厚さ、幅等の印刷状態、特に印刷ピッチずれに基づく印刷状態に影響を与える設定値と、当該設定値の条件で運転した際に測定された印刷ピッチずれとを含むデータセットを教師データとして、機械学習により、設定値から印刷ピッチずれを予測する予測モデルを作成する。予測モデルを生成するための機械学習アルゴリズムは、特に限定されないが、例えば回帰分析を用いることができる。
【0048】
判定部413は、予め作成され、記憶部42に記憶されている予測モデル、設定値及び推定した印刷ピッチずれ等に基づいて、印刷状態を判定する。具体的には、判定部413は、取得された回転情報に基づいて印刷ピッチ推定部412で推定された印刷ピッチずれと、設定値から予測モデルを用いて予測される印刷ピッチずれとの差(ずれ量の差)を算出する。そして、判定部413は、算出された差が予め定められた所定の閾値以上となる場合、当該ロールにおいて印刷ピッチのずれが、許容可能な範囲を超えており、異常が発生しているものと判定する。判定部413は、異常が発生していると判定すると、異常が生じていると判定したロールの情報を表示部43に表示させる。また、制御部41は、異常を検出した場合、警告音を鳴らすとともに、印刷装置1の運転を停止することとしてもよい。
【0049】
制御ユニット40は、印刷装置1の運転が終了するまで、上記の印刷ピッチずれの推定及び印刷状態の判定を継続する。
【0050】
以上説明したように、本実施の形態に係る印刷装置1では、プラスチックフィルムであるウエブWに印刷を行う印刷装置において、駆動ロールである版胴212がエンコーダを備え、従動ロールであるガイドロール217が、磁気検出式の回転センサ60を備える。また、印刷装置1は、駆動ロールにおける基準搬送速度と従動ロールにおける搬送速度との差に基づいて印刷ピッチずれを推定し、印刷状態の適否を判定する。したがって、印刷装置1は、非接触式のセンサである磁気検出式の回転センサ60を用いて測定される従動ロールの回転状態に基づいて印刷ピッチずれを推定するので、接触式センサを用いる場合と比較して、従動ロールに与える回転負荷が小さく、従動ロールの回転状態の変化を精度よく測定することができる。よって、印刷ピッチずれによる不具合を精度よく検出することが可能となる。
【0051】
また、本実施の形態では、各印刷ユニット21の従動ロールのうち、ウエブWの抱き角が浅いガイドロール217bに回転センサ60を配置して、回転状態を測定し、印刷ピッチずれを推定することとしている。抱き角の浅いガイドロール217bでは、ウエブWの張力によってロールにかかる力が小さいが、回転負荷の小さい磁気検出式の回転センサ60を用いることで、精度よく張力の変化を検知することが可能である。したがって、回転負荷の小さい回転センサ60でガイドロール217bの回転状態を測定することにより、微小な印刷ピッチずれ等の不具合を高い感度で発見することが可能となる。
【0052】
また、本実施の形態では、各印刷ユニット21の従動ロールのうち、ウエブWの抱き角が深いガイドロール217aに回転センサ60を配置して、印刷ピッチずれを推定することとしている。抱き角の深いガイドロール217aでは、ウエブWの張力によってロールにかかる力が、抱き角の浅いガイドロール217bと比較して大きい。したがって、抱き角の浅いガイドロール217bで推定される印刷ピッチずれよりも、抱き角の深いガイドロール217aで推定される印刷ピッチずれを優先して検出することにより、印刷ピッチずれの影響の検出感度を低下させることができる。これにより、微小な印刷ピッチずれを許容し、例えば、ウエブWの破断のように、発生頻度は低いが重大な欠陥を発見し、その発生場所を特定することが可能となる。
【0053】
さらに、制御部41が抱き角の深いガイドロール217aと抱き角の浅いガイドロール217bのいずれを優先して印刷ピッチずれを検出するか、切り替えることができることとしてもよい。これにより、不具合の検出感度を適宜切り替えて印刷状態の判定を行うことができる。
【0054】
また、本実施の形態では、磁気検出部61を印刷ユニット21の固定部に配置し、被検出部62をロールの回転軸に配置することとしたがこれに限られない。例えば、被検出部62を印刷ユニット21の固定部に配置し、磁気検出部61をロールの回転軸に配置することとしてもよい。これにより、回転センサ60の配置の自由度を高めることができる。
【0055】
(変形例)
上述の実施の形態では、磁気検出によって回転角度を検出する回転センサ60を用いることとしたが、磁気検出によってロールの偏心を検出可能な回転センサ60’を用いることとしてもよい。回転センサ60’は、印刷ユニット21の版胴212の駆動軸212a近傍に固定され、磁束密度を検出する磁気検出部61を備える。また、回転センサ60’は、版胴212の駆動軸212aに設置され、版胴212の回転に伴って磁気検出部61で検出される磁束密度が変化するように磁極パターンが形成されている被検出部62を備える。これにより、回転センサ60’は、被検出部62の回転ピッチを測定して、ロールの偏心状態を推定する。
【0056】
被検出部62は、例えば
図4に示すように、周方向にN極とS極とが交互に同じ幅で形成されており、基準パターン62aとなる磁極の幅が大きくなっている。これにより、被検出部62の回転における基準位置が検出できるように構成されている。磁気検出部61は、上記の被検出部62が回転することにより、近傍の磁極の変化によって生じる磁束密度の変化を検出し、偏心情報として出力する。被検出部62に着磁する磁極の数は特に限定されないが、例えば1つの磁極の幅(回転中心から見た角度)を10度程度とし、1周の間に複数の磁極を着磁する。これにより、より詳細な回転速度の変動、ロールの偏心を検出することができる。ロールに偏心がない場合、磁束密度の変化は、例えば
図5のグラフに破線で示すように、規則的な波形となる。
【0057】
ロールに偏心がある場合、磁束密度の大きさ、波の周期等に変化が生じる。印刷ピッチ推定部412は、予め記憶部42に記憶されている偏心のない状態を示す基準波形と、取得された偏心情報に係る波形との差から、ロールの偏心状態を推定する。
【0058】
より具体的には、被検出部62の基準パターン62a以外の磁極は、等間隔に形成されているので、磁束密度の波形は同じ周期で変動する。しかしながら、ロールに偏心がある場合、
図6(A)、(B)に示すように、磁気検出部61と被検出部62との距離が、版胴212の回転角度によって異なるので、磁束密度の波形の周期が変動する。印刷ピッチ推定部412は、この周期の変動を用いて偏心状態を推定する。
【0059】
上述のように、周期の変動に基づいて偏心状態を推定する方法は、一般的なエンコーダを用いても行うことができる。すなわち、エンコーダのクロック間隔の変動から偏心状態を推定することができる。しかしながら、これらの周期変動には、ローラの偏心だけでなく、張力変化等によるウエブWの伸縮、ロールとウエブWとの間のすべり等の影響による変動も含まれる。これに対し、磁気検出式の回転センサ60’を用いることにより、ロールの偏心の影響と、ウエブWの伸縮等の他の影響とを分離することができる。
【0060】
より具体的には、
図6(A)、(B)に示すように、測定対象のロールに偏心が生じている場合、磁気検出部61と被検出部62との距離が変動する。これにより、回転センサ60’で検出される磁束密度の大きさが
図5のグラフに示すように変動する。したがって、例えば周期変動が所定の閾値以上であり、かつ、磁束密度の大きさの変動が所定の閾値以上である場合に、偏心が生じていると判断することができる。本変形例に係る印刷ピッチ推定部412は、周期変動及び磁束密度の大きさの変動に基づいて偏心状態を推定する。これにより、印刷装置1は、各ロールの回転速度とともに、偏心状態を推定できるので、印刷ピッチずれ等の不具合の原因を早期に発見し、不具合の発生を低減することができる。
【0061】
(実施の形態2)
上述の実施の形態1では、印刷装置1が複数の印刷ユニット21を含むグラビア印刷装置20を備える場合を例として説明したが、他の方式の印刷機を用いることとしてもよい。本実施の形態では、インクジェット印刷装置を備える印刷装置2について説明する。本実施の形態に係る巻出装置11、巻取装置12、制御ユニット40等の構成は、実施の形態1と同様であるので、同じ符号を付して、詳細な説明は省略する。
【0062】
図7に示すように、印刷装置2は、巻出装置11、プレコート部31、プレコート乾燥部32、印刷部33、印刷乾燥部34、巻取装置12、複数の搬送ロール36を備える。複数の搬送ロール36には、駆動機構を有するフィードロール361と、駆動機構を有しないガイドロール362とが含まれる。
【0063】
プレコート部31は、巻出装置11にロール状態でセットされ、巻出装置11から巻き出されたウエブWの塗工面にプレコート液を塗布して当該塗工面にプレコート層を形成するユニットである。尚、本実施の形態に係るウエブWは、実施の形態1と同様のプラスチックフィルムである。
【0064】
プレコート乾燥部32は、ウエブWの搬送方向に関してプレコート部31の下流側に配置されている。プレコート乾燥部32は、プレコート部31においてウエブWの塗工面に塗布されたプレコート液を乾燥させるユニットである。
【0065】
印刷部33は、ウエブWの搬送方向に関してプレコート乾燥部32の下流側に配置される。印刷部33は、ウエブWの塗工面(詳細には、塗工面に形成されたプレコート層)に、印刷ヘッド33aから吐出されるインクを付着させて画像を形成するユニットである。
【0066】
印刷されたウエブWは、印刷乾燥部34へ搬送される。印刷乾燥部34の内部を通過することによりウエブW表面のインクが乾燥される。乾燥されたウエブWは、印刷乾燥部34から送出され、巻取装置12で巻き取られる。
【0067】
本実施の形態では、印刷部33の上流に配置されるフィードロール361にエンコーダが設置され、ガイドロール362のうち複数のロールに実施の形態1と同様の磁気検出式の回転センサ60が設置される。回転センサ60が設置されているガイドロール362には、抱き角の深いガイドロール362aと抱き角の浅いガイドロール362bとが含まれているものとする。ガイドロール362aの抱き角及びガイドロール362bの抱き角は、ウエブWの材質、設定張力等を考慮して設定すればよい。例えば、ガイドロール362aの抱き角は10度より大きく、ガイドロール362bの抱き角は10度以下と設定される。
【0068】
また、本実施の形態に係る印刷装置2は、実施の形態1と同様の制御ユニット40(不図示)を備えており、制御ユニット40は、各ロールのエンコーダ及び回転センサ60から回転情報を取得して、印刷ピッチずれの推定及び印刷状態の判定を行う。
【0069】
続いて、本実施の形態に係る印刷装置2における印刷ピッチずれの推定及び印刷状態の判定について説明する。
【0070】
印刷装置2において印刷が開始されると、巻出装置11から送出されたウエブWがプレコート部31、プレコート乾燥部32、印刷部33と順次搬送され、印刷部33の印刷ヘッド33aから吐出されるインクによって予め設定された図柄がウエブWに印刷される。
【0071】
インクジェット印刷機である印刷部33では、複数の印刷ヘッド33aによって各色の絵柄が順次印刷される。各色の印刷が完了したウエブWは、印刷乾燥部34で乾燥された後、巻取装置12で巻き取られる。
【0072】
また、制御ユニット40は、上記各ロールに設置されたエンコーダ及び回転センサ60から回転情報を取得し、実施の形態1と同様に、印刷ピッチずれの推定を行う。具体的には、回転情報取得部411は、エンコーダ及び各回転センサ60で測定されたロールの回転角度に関するデータである回転情報を取得する。印刷ピッチ推定部412は、回転情報取得部411で取得した回転情報と、予め記憶部42等に記憶されている各ロールの径等に基づいて、各ロールにおけるウエブWの搬送速度を演算する。印刷ピッチ推定部412は、基準ロールであるフィードロール361の基準搬送速度と、各ガイドロール362の搬送速度との差に基づいて、印刷ピッチずれを推定する。
【0073】
判定部413は、実施の形態1と同様に、取得された回転情報に基づいて印刷ピッチ推定部412で推定された印刷ピッチずれと、記憶部42に予め記憶されている学習済みモデルである予測モデルを用いて推定される印刷ピッチずれとから、印刷状態、すなわち印刷が正常に行われているか否かの判定を行う。判定部413は、算出された印刷ピッチずれの差が予め定められた所定の閾値以上となる場合、当該ロールにおいて印刷ピッチのずれが、許容可能な範囲を超えており、異常が発生しているものと判定する。判定部413は、異常が発生していると判定すると、異常が生じていると判定したロールの情報を表示部43に表示させる。また、制御部41は、異常を検出した場合、警告音を鳴らすとともに、印刷装置2の運転を停止することとしてもよい。
【0074】
以上説明したように、本実施の形態に係る印刷装置2では、プラスチックフィルムであるウエブWに印刷を行うインクジェット印刷装置において、駆動ロールであるフィードロール361がエンコーダを備え、従動ロールであるガイドロール362が、磁気検出式の回転センサ60を備える。また、印刷装置2は、駆動ロールにおける基準搬送速度と従動ロールにおける搬送速度との差に基づいて印刷ピッチずれを推定し、印刷状態の適否を判定する。したがって、印刷装置2は、非接触式のセンサである磁気検出式の回転センサ60を用いて測定される従動ロールの回転状態に基づいて印刷ピッチずれを推定するので、接触式センサを用いる場合と比較して、従動ロールに与える回転負荷が小さく、従動ロールの回転状態の変化を精度よく測定することができる。よって、各色の印刷ヘッド同士が近接して設置されるインクジェット印刷機においても、印刷ピッチずれによる不具合を精度よく検出することができる。
【0075】
また、本実施の形態では、印刷部33の従動ロールのうち、ウエブWの抱き角が浅いガイドロール362bに回転センサ60を配置して、印刷ピッチずれを推定することとしている。抱き角の浅いガイドロール362bでは、ウエブWの張力によってロールにかかる力が小さい。したがって、回転負荷の小さい磁気検出式の回転センサ60でガイドロール362bの回転状態を測定することにより、微小な印刷ピッチずれ等の不具合を高い感度で発見することが可能となる。
【0076】
また、本実施の形態では、印刷部33の従動ロールのうち、ウエブWの抱き角が深いガイドロール362aに回転センサ60を配置して、印刷ピッチずれを推定することとしている。抱き角の深いガイドロール362aでは、ウエブWの張力によってロールにかかる力が、抱き角の浅いガイドロール362bと比較して大きい。したがって、抱き角の浅いガイドロール362bで推定される印刷ピッチずれよりも、抱き角の深いガイドロール362aで推定される印刷ピッチずれを優先して検出することにより、張力変動による印刷ピッチずれの影響の検出感度を低下させることができる。これにより、微小な印刷ピッチずれを許容し、例えば、ウエブWの破断のように、発生頻度は低いが重大な欠陥を発見し、その発生場所を特定することが可能となる。
【0077】
さらに、制御部41が抱き角の深いガイドロール362aと抱き角の浅いガイドロール362bのいずれを優先して印刷ピッチずれを検出するか、切り替えることができることとしてもよい。これにより、不具合の検出感度を適宜切り替えて印刷状態の判定を行うことができる。
【0078】
本実施の形態では、回転センサ60を磁気検出により回転角度を検出するセンサであることとしたが、実施の形態1に係る変形例と同様に、磁気検出によってロールの偏心を検出可能な回転センサ60’を用いることとしてもよい。これにより、各ロールにおけるウエブWの搬送速度に加えて、ロールの偏心を検出することができるので、より精度よく印刷不具合を検出することができる。
【0079】
また、本実施の形態では、エンコーダを備える基準ロールとして印刷部上流に配置されるフィードロールのみを用いることとしたが、これに限られない。例えば、巻出装置11からウエブWを送出するインフィードロール、巻取装置12へウエブWを搬送するアウトフィードロール等に設置されたエンコーダによる回転情報もあわせて検出し、他の駆動ロール及び従動ロールとの搬送速度の差を演算して印刷ピッチずれを推定することとしてもよい。これにより、印刷装置2全体のウエブWの搬送速度に基づいて印刷ピッチずれを検出することができるので、より精度よく多色印刷を行うことが可能となる。
【符号の説明】
【0080】
1,2 印刷装置、11 巻出装置、12 巻取装置、15 インフィードロール、16 アウトフィードロール、20 グラビア印刷装置、21 印刷ユニット、211,217 ガイドロール、212 版胴、213 ファニッシャロール、214 圧胴、215 インクパン、216 ドクターブレード、31 プレコート部、32 プレコート乾燥部、33 印刷部、33a 印刷ヘッド、34 印刷乾燥部、40 制御ユニット、41 制御部、411 回転情報取得部、412 印刷ピッチ推定部、413 判定部、42 記憶部、43 表示部、44 入力部、60,60’ 回転センサ、61 磁気検出部、62 被検出部、62a 基準パターン、D 乾燥装置、W ウエブ