(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023044473
(43)【公開日】2023-03-30
(54)【発明の名称】熱伝導性シリコーン組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 83/07 20060101AFI20230323BHJP
C08L 83/05 20060101ALI20230323BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20230323BHJP
C08K 5/541 20060101ALI20230323BHJP
【FI】
C08L83/07
C08L83/05
C08K3/013
C08K5/541
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021152521
(22)【出願日】2021-09-17
(71)【出願人】
【識別番号】520070769
【氏名又は名称】デュポン・東レ・スペシャルティ・マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000589
【氏名又は名称】弁理士法人センダ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】玉井 智広
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002CP04X
4J002CP14W
4J002DA016
4J002DA026
4J002DA036
4J002DA076
4J002DA086
4J002DA096
4J002DA106
4J002DA116
4J002DB016
4J002DC006
4J002DE066
4J002DE076
4J002DE086
4J002DE096
4J002DE106
4J002DE136
4J002DE146
4J002DF016
4J002DJ006
4J002DJ016
4J002DK006
4J002EX007
4J002EX038
4J002EX039
4J002EX069
4J002EZ007
4J002FD016
4J002FD157
4J002FD206
4J002FD208
4J002FD349
4J002GQ00
4J002GR00
(57)【要約】
【課題】 高含有量で充填剤を含み、硬化前に粘度が低く、硬化後に高い接着強度を達成する熱伝導性シリコーン組成物を提供する。
【解決手段】熱伝導性シリコーン組成物は、(A)ケイ素原子結合アルケニル基を2個以上有するオルガノポリシロキサン、(B)ケイ素原子結合水素原子を2個以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、(C)熱伝導性充填剤:組成物の全質量を基準に85~95質量%、(D)白金族金属系触媒:(A)および(B)成分の合計量100万質量部に対して、白金族金属元素が50質量部以上、 (E) 特定の構造を有する硬化抑制剤:(A)および(B)成分の合計量100質量部に対して0.3~1質量部、並びに(F)(MeViSiO2/2)の構造単位、ケイ素原子結合アルコキシ基およびエポキシ基含有有機基を有するポリシロキサン:(A)および(B)成分の合計量100質量部に対して5~20質量部を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)~(F)成分
(A)ケイ素原子に結合したアルケニル基を一分子中に2個以上有し、およびケイ素原子に結合したエポキシ基含有有機基を有しないオルガノポリシロキサン、
(B)ケイ素原子に結合した水素原子を一分子中に2個以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:前記(A)成分中のケイ素原子に結合したアルケニル基1モルに対して、(B)成分中のケイ素原子に結合した水素原子が0.1~2.5モルとなる量、
(C)熱伝導性充填剤:熱伝導性シリコーン組成物の全質量を基準にして85~95質量%となる量、
(D)白金族金属系触媒:前記(A)成分および前記(B)成分の合計量100万質量部に対して、当該(D)成分中の白金族金属元素が少なくとも50質量部となる量、
(E) 下記一般式(I)で表される化合物および下記一般式(II)で表される化合物からなる群から選択される1種以上の硬化抑制剤:前記(A)成分および前記(B)成分の合計量100質量部に対して、0.3~1質量部となる量、
【化1】
【化2】
前記一般式(I)において、nは0または1であり、nが0の場合R
1は存在せず;R
1は炭素数1~10個の炭化水素基であり、R
2およびR
3はそれぞれ独立して、水素および炭素数1~10個の炭化水素基からなる群から選択され、ただし、R
2とR
3は相互に連結して脂環式環を形成していても良い;
前記一般式(II)において、R
4は炭素数1~10個の炭化水素基であり、R
5およびR
6はそれぞれ独立して、水素および炭素数1~10個の炭化水素基からなる群から選択され、ただし、R
5とR
6は相互に連結して脂環式環を形成していても良い、および
(F)ケイ素原子に結合したアルコキシ基を一分子中に少なくとも1個有し、ケイ素原子に結合したエポキシ基含有有機基を一分子中に少なくとも1個有し、(MeViSiO
2/2)(式中、Meはメチル基およびViはビニル基を表す)の構造単位を有し、および一分子あたりのビニル基の質量分率1~20質量%を有するポリシロキサンである接着付与剤:前記(A)成分および前記(B)成分の合計量100質量部に対して、5~20質量部となる量;
を含有する熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項2】
前記(A)成分および前記(B)成分の合計量100万質量部に対して、前記(D)成分中の白金族金属元素が60質量部~420質量部となる量である、請求項1に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項3】
前記一般式(I)において、R1、R2、およびR3がそれぞれ独立して、メチル基、エチル基、プロピル基、フェニル基およびビニル基からなる群から選択され、前記一般式(II)において、R4、R5、およびR6がそれぞれ独立して、メチル基、エチル基、プロピル基、フェニル基およびビニル基からなる群から選択される、請求項1に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項4】
前記硬化抑制剤が-20℃以下の融点を有する、請求項1に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項5】
前記硬化抑制剤が200℃以上の沸点を有する、請求項1に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項6】
前記硬化抑制剤がメチルトリス(3-メチル-1-ブチン-3-オキシ)シラン、およびメチルビニルビス(3-メチル-1-ブチン-3-オキシ)シランからなる群から選択される1種以上の化合物である、請求項1に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項7】
前記熱伝導性充填剤が無色および白色以外の色を有する、請求項1に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、熱伝導性シリコーン組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高速大容量の情報を取り扱う電子機器からの発熱を効率的に放熱するため、高熱伝導率のサーマルインターフェースマテリアルが求められている。サーマルインターフェースマテリアルには様々な形態のものがある。接着剤型のサーマルインターフェースマテリアルにおいては、一般的に、高い熱伝導率に加えて、密着対向する面への充分な追随性を確保するための硬化前の低粘度、および硬化後の対向面間の高接着強度を有することが同時に求められる。高い熱伝導率を有するサーマルインターフェースマテリアルを得る基本的な指針の一つは、高熱伝導性の充填剤を高含有量で樹脂成分に充填することである。微細な充填剤を高含有量で樹脂成分中に均一に分散させるためには、高い剪断力で樹脂成分と充填剤とを混合することが必要となる場合がある。そして、この混合は、混合物の自然発熱を生じさせる。
【0003】
特許文献1(特開2015-4043号公報)には、1分子中に少なくとも2個の脂肪族不飽和炭化水素基を有するオルガノポリシロキサンとケイ素原子に結合した水素原子を1分子中に2個以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンとを白金族金属触媒の存在下でヒドロシリル化反応させるタイプの熱伝導性シリコーン組成物が記載されている。特許文献1には、熱伝導性シリコーン組成物がアセチレンアルコール類などのアセチレン化合物、窒素化合物、有機リン化合物、オキシム化合物および有機クロロ化合物から選択される抑制剤を含みうることも記載されている。特許文献1の実施例には、1分子中に少なくとも2個の脂肪族不飽和炭化水素基を有するオルガノポリシロキサンの質量に対して、9ppm以下の白金元素含量の白金族金属触媒が使用されたことが記載されている。しかし、充填剤を高含有量で含む熱伝導性シリコーン組成物が調製される場合には、熱伝導性シリコーン組成物中に硬化抑制剤が存在しているとしても、混合による自然発熱によってヒドロシリル化反応が部分的に進行し、低粘度の組成物が得られにくいといった問題が発生していた。
【0004】
そこで、分子内にエチニル基またはビニル基を有する硬化抑制剤を通常量よりも多く熱伝導性シリコーン組成物に添加することで、混合による自然発熱に起因するこの問題の解決を試みた。分子内にエチニル基またはビニル基を有する硬化抑制剤は公知であり、例えば、特許文献2(特公昭64-2627号公報)には、エチニル基を3つ有するシラン化合物が記載されている。特許文献3(米国特許第3,445,420号明細書)には、3-メチル-1-ブチン-3-オール、およびC6H5Si(OCH2C≡CH)3等の化合物が記載されている。特許文献4(特公平1-12786号公報)には、1つまたは2つのエチニル基を有する有機ケイ素化合物が記載されている。特許文献5(特公昭53-35983号公報)には、白金触媒抑制剤として、アセチレン性シランが記載されている。特許文献6(特開平9-143371号公報)には、付加反応抑制剤として、メチルビニルビス(3-メチル-1-ブチン-3-オキシ)シランが記載されている。特許文献7(特表2009-523856号公報)には、炭素-炭素三重結合を1~4個有するシリル化アセチレン阻害剤の一般式が記載されている。
【0005】
しかし、硬化抑制剤の種類によっては、熱伝導性シリコーン組成物に多量の硬化抑制剤を添加する必要があった。この場合、硬化物の熱伝導性が低下するという問題が生じる場合があった。さらに、この場合、増大した量の硬化抑制剤に応じて白金属金属系触媒の量を増大させたとしても、硬化物の充分なダイシェア強度が得られない場合があるという問題も生じていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015-4043号公報
【特許文献2】特公昭64-2627号公報
【特許文献3】米国特許第3,445,420号明細書
【特許文献4】特公平1-12786号公報
【特許文献5】特公昭53-35983号公報
【特許文献6】特開平9-143371号公報
【特許文献7】特表2009-523856号公報
【特許文献8】欧州特許出願公開第0764703A2号明細書
【特許文献9】特開2001-139815号公報
【特許文献10】特許第6590445号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の目的は、熱伝導性充填剤を高含有量で含み、硬化前に粘度が低く、かつ硬化後に高い接着強度を生じさせる熱伝導性シリコーン組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の一実施形態は、下記(A)~(F)成分
(A)ケイ素原子に結合したアルケニル基を一分子中に2個以上有し、およびケイ素原子に結合したエポキシ基含有有機基を有しないオルガノポリシロキサン、
(B)ケイ素原子に結合した水素原子を一分子中に2個以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:前記(A)成分中のケイ素原子に結合したアルケニル基1モルに対して、(B)成分中のケイ素原子に結合した水素原子が0.1~2.5モルとなる量、
(C)熱伝導性充填剤:熱伝導性シリコーン組成物の全質量を基準にして85~95質量%となる量、
(D)白金族金属系触媒:前記(A)成分および前記(B)成分の合計量100万質量部に対して、当該(D)成分中の白金族金属元素が少なくとも50質量部となる量、
(E)下記一般式(I)で表される化合物および下記一般式(II)で表される化合物からなる群から選択される1種以上の硬化抑制剤:前記(A)成分および前記(B)成分の合計量100質量部に対して、0.3~1質量部となる量、
【化1】
【化2】
前記一般式(I)において、nは0または1であり、nが0の場合R
1は存在せず;R
1は炭素数1~10個の炭化水素基であり、R
2およびR
3はそれぞれ独立して、水素および炭素数1~10個の炭化水素基からなる群から選択され、ただし、R
2とR
3は相互に連結して脂環式環を形成していても良い;
前記一般式(II)において、R
4は炭素数1~10個の炭化水素基であり、R
5およびR
6はそれぞれ独立して、水素および炭素数1~10個の炭化水素基からなる群から選択され、ただし、R
5とR
6は相互に連結して脂環式環を形成していても良い、および
(F)ケイ素原子に結合したアルコキシ基を一分子中に少なくとも1個有し、ケイ素原子に結合したエポキシ基含有有機基を一分子中に少なくとも1個有し、(MeViSiO
2/2)(式中、Meはメチル基およびViはビニル基を表す)の構造単位を有し、および一分子あたりのビニル基の質量分率1~20質量%を有するポリシロキサンである接着付与剤:前記(A)成分および前記(B)成分の合計量100質量部に対して、5~20質量部となる量;
を含有する熱伝導性シリコーン組成物を提供する。
【0009】
本発明の一実施形態においては、(A)成分および(B)成分の合計量100万質量部に対して、(D)成分中の白金族金属元素が60質量部~420質量部となる量である。
【0010】
本発明の一実施形態においては、硬化抑制剤が一般式(I)で表される化合物および一般式(II)で表される化合物からなる群から選択され、一般式(I)において、R1、R2、およびR3がそれぞれ独立して、メチル基、エチル基、プロピル基、フェニル基およびビニル基からなる群から選択され、および一般式(II)において、R4、R5、およびR6がそれぞれ独立して、メチル基、エチル基、プロピル基、フェニル基およびビニル基からなる群から選択される。
【0011】
本発明の一実施形態においては、硬化抑制剤が-20℃以下の融点を有する。この実施形態においては、低温保管においても硬化抑制剤の結晶化による析出が起こらず、硬化抑制剤が均一に系内に分散維持されるという目的も達成しうる。
【0012】
本発明の一実施形態においては、硬化抑制剤が200℃以上の沸点を有する。この実施形態においては、硬化抑制剤の揮発性が低いので、安定した硬化抑制作用を発現し、熱伝導性充填剤を混合した後の熱伝導性シリコーン組成物の粘度が安定するという目的も達成しうる。
【0013】
本発明の一実施形態においては、硬化抑制剤がメチルトリス(3-メチル-1-ブチン-3-オキシ)シラン、およびメチルビニルビス(3-メチル-1-ブチン-3-オキシ)シランからなる群から選択される1種以上の化合物である。
【0014】
本発明の一実施形態においては、熱伝導性充填剤が無色および白色以外の色を有する。一般的に、上記濃度の白金族金属系触媒と上記濃度の硬化抑制剤との組み合わせでは、シリコーン成分が褐色~黒色に変色する。よって、この実施形態においては、熱伝導性充填剤が無色および白色以外の色を有することにより、熱伝導性シリコーン組成物の色味を安定させるという目的も達成しうる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、硬化前に粘度が低く、かつ硬化後に高い接着強度および高い熱伝導率を生じさせるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の熱伝導性シリコーン組成物の(A)成分は、ケイ素原子に結合したアルケニル基を一分子中に2個以上有し、およびケイ素原子に結合したエポキシ基含有有機基を有しないオルガノポリシロキサンである。このアルケニル基としては、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基等の炭素数2~12のアルケニル基が例示され、好ましくは、ビニル基である。また、(A)成分中、アルケニル基以外のケイ素原子に結合した基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基等の炭素数1~12のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等の炭素数6~12のアリール基;ベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基等の炭素数7~12のアラルキル基;および、これらの基の水素原子の一部または全部をフッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子で置換した基が例示されうる。
【0017】
(A)成分のオルガノポリシロキサンが、ケイ素原子に結合したアルケニル基を一分子中に2個以上有し、およびケイ素原子に結合したエポキシ基含有有機基を有しない限り、(A)成分の分子構造は限定されず、例えば、直鎖状、一部分岐を有する直鎖状、環状、分岐鎖状、または三次元網状構造であり得る。一実施形態においては、(A)成分の分子構造は直鎖状、または一部分岐を有する直鎖状であり、好ましくは、直鎖状である。(A)成分は、これらの分子構造を有する単一の重合体、これらの分子構造を含む共重合体、またはこれらの重合体の2種以上の混合物であってよい。また、一実施形態においては、本発明の目的を損なわない範囲内で、少量の水酸基やアルコキシ基が(A)成分の分子中のケイ素原子に結合されていてもよい。別の実施形態においては、(A)成分は、ケイ素原子に結合した水酸基およびアルコキシル基を含まない。一実施形態においては、(A)成分は、ケイ素原子に結合した水素原子を一分子中に2個以上含まない。別の実施形態においては、(A)成分は、ケイ素原子に結合した水素原子を含まない。
【0018】
直鎖状のオルガノポリシロキサンとしては、例えば、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖メチルフェニルポリシロキサン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、およびこれらの2種以上の混合物が挙げられうる。一実施形態においては、(A)成分は分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサンである。また、このようなオルガノポリシロキサンは、本発明の目的を損なわない範囲で、少量の水酸基やアルコキシ基が分子中のケイ素原子に結合されていてもよい。
【0019】
一実施形態においては、分岐鎖状あるいは三次元網状構造のオルガノポリシロキサンとしては、例えば、式:R7
3SiO1/2で表されるシロキサン単位、式:R7
2R8SiO1/2で表されるシロキサン単位、および式:SiO4/2で表されるシロキサン単位を含むオルガノポリシロキサンレジンが挙げられうる。
【0020】
式中、R7は同じかまたは異なり、脂肪族不飽和結合を有さない炭素数1~12の一価炭化水素基であり、この一価炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基等の炭素数1~12のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等の炭素数6~12のアリール基;ベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基等の炭素数7~12のアラルキル基;これらの基の水素原子の一部または全部をフッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子で置換した基が例示されうる。一実施形態においては、R7はメチル基である。
【0021】
式中、R8は炭素数2~12のアルケニル基であり、このアルケニル基としては、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、およびドデセニル基等が例示されうる。一実施形態においては、R8はビニル基である。
【0022】
このオルガノポリシロキサンレジンは、式:R7
3SiO1/2で表されるシロキサン単位、式:R7
2R8SiO1/2で表されるシロキサン単位、および式:SiO4/2で表されるシロキサン単位を含むが、本発明の目的を損なわない範囲で、式:R7SiO3/2で表されるシロキサン単位を含んでいてもよい。また、このようなオルガノポリシロキサンレジンは、本発明の目的を損なわない範囲で、少量の水酸基やアルコキシ基が分子中のケイ素原子に結合されていてもよい。
【0023】
(A)成分の粘度は特に限定されないが、本組成物の取扱作業性が良好であるという観点から、(A)成分の25℃における粘度が、好ましくは、20~2000mPa・sの範囲内であり、より好ましくは500~1500mPa・sの範囲内である。
【0024】
本発明の熱伝導性シリコーン組成物の(B)成分は、ケイ素原子に結合した水素原子を一分子中に2個以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンである。(B)成分は架橋剤および/または鎖延長剤などとして機能しうる。(B)成分中のケイ素原子に結合した水素原子の結合位置は限定されず、この結合位置は、オルガノハイドロジェンポリシロキサンの分子鎖末端でも、分子鎖側鎖でもよく、分子鎖末端および分子鎖側鎖の両方であってもよい。(B)成分の分子構造は特に限定されず、例えば、直鎖状、一部分岐を有する直鎖状、分岐鎖状、環状、または三次元網状構造であってよい。一実施形態においては、(B)成分の分子構造は、直鎖状、または一部分岐を有する直鎖状であってよい。(B)成分は、これらの分子構造を有する単一の重合体、これらの分子構造を含む共重合体、またはこれらの重合体の2種以上の混合物であってよい。(B)成分は、ケイ素原子に結合した水素原子に加えて、ケイ素原子に結合した有機基を含む。一実施形態においては、本発明の目的を損なわない範囲内で、少量の水酸基やアルコキシ基が(B)成分の分子中のケイ素原子に結合されていてもよい。一実施形態においては、(B)成分は、ケイ素原子に結合した水酸基およびアルコキシル基を含まない。一実施形態においては、(B)成分はケイ素原子に結合したエポキシ基含有有機基を含まない。
【0025】
(B)成分に含まれるケイ素原子に結合した有機基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基等の炭素数1~12のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等の炭素数6~12のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等の炭素数7~12のアラルキル基;および、これらの基の水素原子の一部または全部をフッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子で置換した基、例えば、3-クロロプロピル基、3,3,3-トリフロロプロピル基等のハロゲン置換の前記アルキル基が例示されることができ、好ましくは、メチル基が挙げられ得る。
【0026】
例えば、(B)成分としては、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルフェニルポリシロキサン、環状メチルハイドロジェンポリシロキサン、式:R9
3SiO1/2で示されるシロキサン単位と式:R9
2HSiO1/2で示されるシロキサン単位と式:SiO4/2で示されるシロキサン単位からなるオルガノポリシロキサン共重合体、式:R9
2HSiO1/2で示されるシロキサン単位と式:SiO4/2で示されるシロキサン単位からなるオルガノポリシロキサン共重合体、式:R9HSiO2/2で示されるシロキサン単位と式:R9SiO3/2で示されるシロキサン単位または式:HSiO3/2で示されるシロキサン単位からなるオルガノポリシロキサン共重合体、およびこれらのオルガノポリシロキサンの二種以上の混合物が例示されうる。なお、式中、R9は炭素原子数1~6のアルキル基またはフェニル基であり、好ましくはメチル基である。
【0027】
一実施形態においては、本発明の熱伝導性シリコーン組成物中の(B)成分の含有量は、(A)成分中のケイ素原子に結合したアルケニル基1モルに対して、(B)成分中のケイ素原子に結合した水素原子が、好ましくは0.1~2.5モルとなる量であり、より好ましくは0.7~2.5モルとなる量である。
【0028】
本発明の熱伝導性シリコーン組成物の(C)成分は、熱伝導性充填剤である。本発明の一実施形態においては、(C)成分としての熱伝導性充填剤は、熱伝導性シリコーン組成物の全質量を基準にして、好ましくは85~95質量%となる量で、より好ましくは、87~93質量%となる量で、さらにより好ましくは、89~91質量%となる量で、熱伝導性シリコーン組成物に含まれうる。本明細書において、「熱伝導性シリコーン組成物の全質量を基準にして」とは、熱伝導性シリコーン組成物に含まれる熱伝導性充填剤の量を特定する際に、熱伝導性シリコーン組成物に含まれる全ての成分の合計質量に基づいて、熱伝導性充填剤の質量%が算出されることを意味する。
【0029】
本発明の一実施形態においては、(C)成分としての熱伝導性充填剤は、熱伝導性シリコーン組成物の全体積を基準にして、好ましくは68~90体積%となる量で、より好ましくは、73~85体積%となる量で、さらにより好ましくは、76~80体積%となる量で、熱伝導性シリコーン組成物に含まれうる。ここでの体積%は25℃での体積%である。本明細書において、「熱伝導性シリコーン組成物の全体積を基準にして」とは、熱伝導性シリコーン組成物に含まれる熱伝導性充填剤の量を特定する際に、熱伝導性シリコーン組成物全体の体積に基づいて、熱伝導性充填剤の体積%が算出されることを意味する。
【0030】
本発明の一実施形態においては、(C)成分としての熱伝導性充填剤は、(A)成分および(B)成分の合計量100質量部に対して、好ましくは、850~2000質量部となる量であり、より好ましくは1000~1600質量部となる量であり、さらにより好ましくは1100~1500質量部となる量である。
【0031】
(C)成分は、単一種の熱伝導性充填剤であっても、粒子形状、平均粒子径、粒子径分布、及び充填剤の種類などの少なくとも1つの特性が異なる2種以上の熱伝導性充填剤の組み合わせであってもよい。一実施形態においては、熱伝導性充填剤の混合物が使用されうる。この場合、同じ化学物質で構成されていても異なる化学物質で構成されていても良い、平均粒子径が異なる複数の熱伝導性充填剤が使用されうる。例えば、一実施形態においては、より大きい平均粒子径を有する第1の熱伝導性充填剤と、第1の充填剤よりも小さい平均粒子径を有する第2の熱伝導性充填剤とが使用されても良い。また、例えば、一実施形態においては、より大きい平均粒子径を有する第1の熱伝導性充填剤と、第1の充填剤よりも小さい平均粒子径を有する第2の熱伝導性充填剤と、第2の充填剤よりも小さい平均粒子径を有する第3の熱伝導性充填剤とが使用されても良い。平均粒子径が異なる複数の熱伝導性充填剤を使用することにより、熱伝導性シリコーン組成物における熱伝導性充填剤の充填効率を向上させることができ、粘度を低減させることができ、熱伝導性を向上させることができる。例えば、一実施形態においては、より大きい平均粒子径を有する第1のアルミニウム充填剤と、より小さい平均粒子径を有する第2のアルミニウム充填剤との組み合わせが使用されても良い。一実施形態においては、より大きい平均粒子径を有する第1のアルミニウム充填剤と、より小さい平均粒子径を有する第2のアルミニウム充填剤と、第2のアルミニウム充填剤の平均粒子径より小さい平均粒子径を有する第3の酸化亜鉛充填剤および/または酸化アルミニウム充填剤との組み合わせが使用されても良い。
【0032】
熱伝導性充填剤粒子の形状は特に限定されないが、熱伝導性充填剤が円形又は球形の場合には、高含有量の熱伝導性充填剤に起因する望ましくないレベルまでの粘度の増大が抑制されうる。熱伝導性充填剤の平均粒子径は、熱伝導性充填剤の種類および量、並びに熱伝導性シリコーン組成物の硬化物が用いられるデバイスの結合部の厚さをはじめとする、各種要因に依存する。一実施形態においては、熱伝導性充填剤は、好ましくは0.1~80マイクロメートル、より好ましくは0.1~50マイクロメートル、あるいはさらにより好ましくは0.1~10マイクロメートルの範囲の平均粒子径を有していてもよい。
【0033】
(C)成分として、本発明の目的に反しない限りは、任意の公知の熱伝導性充填剤が使用されうる。熱伝導性充填剤を構成する材料としては、例えば、以下の材料が挙げられ得る:金属、例えばビスマス、鉛、スズ、アンチモン、インジウム、カドミウム、亜鉛、銀、銅、ニッケル、アルミニウム、鉄、および金属ケイ素;合金、例えば、ビスマス、鉛、スズ、アンチモン、インジウム、カドミウム、亜鉛、銀、アルミニウム、鉄および金属ケイ素からなる群から選択される2種以上の金属からなる合金;金属酸化物、例えば、酸化アルミニウム、シリカ(SiO2)、シリカゲル、酸化亜鉛、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化ベリリウム、酸化クロム、および酸化チタン;金属水酸化物、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化バリウム、および水酸化カルシウム;金属窒化物、例えば、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、および窒化ケイ素;金属炭化物、例えば、炭化ケイ素、炭化ホウ素、および炭化チタン;金属ケイ化物、例えば、ケイ化マグネシウム、ケイ化チタン、ケイ化ジルコニウム、ケイ化タンタル、ケイ化ニオブ、ケイ化クロム、ケイ化タングステン、およびケイ化モリブデン;炭素、例えば、ダイヤモンド、グラファイト、フラーレン、カーボンナノチューブ、グラフェン、活性炭、無定形カーボンブラック;軟磁性合金、例えば、Fe-Si合金、Fe-Al合金、Fe-Si-Al合金、Fe-Si-Cr合金、Fe-Ni合金、Fe-Ni-Co合金、Fe-Ni-Mo合金、Fe-Co合金、Fe-Si-Al-Cr合金、Fe-Si-B合金、およびFe-Si-Co-B合金;並びに、フェライト、例えば、Mn-Znフェライト、Mn-Mg-Znフェライト、Mg-Cu-Znフェライト、Ni-Znフェライト、Ni-Cu-Znフェライト、およびCu-Znフェライト。好ましくは、(C)成分は、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、アルミニウム、銀、および銅からなる群から選択される材料で構成された熱伝導性充填剤でありうる。
【0034】
本発明の一実施形態においては、熱伝導性充填剤が無色および白色以外の色を有していても良い。無色および白色以外の色を有する熱伝導性充填剤としては、例えば、上述の具体的に列挙された材料から任意に選択されることができる。例えば、無色および白色以外の色を有する熱伝導性充填剤としては、グラファイト、銀、アルミニウム、窒化ホウ素、および窒化アルミニウムなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0035】
(D)成分は白金族金属系触媒である。白金族金属系触媒は、本発明の熱伝導性シリコーン組成物の硬化を促進させるためのヒドロシリル化反応用触媒として機能する。成分(D)の白金族金属系触媒は、白金、ロジウム、ルテニウム、パラジウム、オスミウムおよびイリジウムからなる群から選択される1種以上の白金族元素を含みうる。一実施形態においては、(D)成分としては、白金系触媒、ロジウム系触媒、およびパラジウム系触媒が例示されうる。本発明の熱伝導性シリコーン組成物の硬化の促進という観点から、(D)成分としては白金系触媒が好ましい。白金系触媒としては、白金微粉末、塩化白金酸、塩化白金酸のアルコール溶液、白金-アルケニルシロキサン錯体、白金-オレフィン錯体、白金-カルボニル錯体が例示されうる。白金-アルケニルシロキサン錯体のアルケニルシロキサンとしては、1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1,3,5,7-テトラメチル-1,3,5,7-テトラビニルシクロテトラシロキサン、これらのアルケニルシロキサンのメチル基の一部をエチル基、フェニル基等で置換したアルケニルシロキサン、これらのアルケニルシロキサンのビニル基をアリル基、ヘキセニル基等で置換したアルケニルシロキサンが例示されうる。
【0036】
本発明の熱伝導性シリコーン組成物における(D)成分の含有量は、(A)成分および(B)成分の合計量100万質量部に対して、(D)成分中の白金族金属元素が少なくとも50質量部となる量であり、好ましくは、50質量部~220質量部となる量である。本発明における(D)成分の含有量は、特許文献1(特開2015-4043号公報)に示されるような従来技術の熱伝導性シリコーン組成物で一般的に使用される白金族金属触媒の量よりもかなり多い量である。これは、後述する(E)成分の量が、(A)成分および(B)成分の合計量100質量部に対して、0.3~1質量部である場合に、適切にヒドロシリル化反応を行うことができる量である。本発明の組成物においては、(D)成分の含有量が上記範囲の下限未満の場合には、硬化物の充分なダイシェア強度が得られない場合がある。
【0037】
本発明の熱伝導性シリコーン組成物における(E)成分は、下記一般式(I)で表される化合物および下記一般式(II)で表される化合物からなる群から選択される1種以上の硬化抑制剤である:
【0038】
【0039】
一般式(I)において、nは0または1であり、nが0の場合R1は存在せず;R1は炭素数1~10個の炭化水素基であり、R2およびR3はそれぞれ独立して、水素および炭素数1~10個の炭化水素基からなる群から選択され、ただし、R2とR3は相互に連結して脂環式環を形成していても良い;
【0040】
一般式(II)において、R4は炭素数1~10個の炭化水素基であり、R5およびR6はそれぞれ独立して、水素および炭素数1~10個の炭化水素基からなる群から選択され、ただし、R5とR6は相互に連結して脂環式環を形成していても良い。
【0041】
一般式(I)および一般式(II)におけるR1、R2、R3、R4、R5、およびR6の炭素数1~10個の炭化水素基としては、それぞれ独立して、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、並びに芳香族炭化水素基が挙げられうる。一般式(I)および一般式(II)においては、特に指定されない限りは、R1~R6の炭化水素基としてのアルキル基、アルケニル基、およびアルキニル基は直鎖、分岐鎖または環式構造のいずれであっても良く、置換基として芳香族炭化水素基を有していても良い。一般式(I)および一般式(II)においては、R1~R6の炭化水素基としてのアルキル基、アルケニル基およびアルキニル基が置換基を有する場合には、置換基も含めたアルキル基、アルケニル基およびアルキニル基の炭素数が10以下である。一般式(I)および一般式(II)においては、特に指定されない限りは、R1~R6の炭化水素基としての芳香族炭化水素基は置換基としてアルキル基、アルケニル基およびアルキニル基を有していても良い。一般式(I)および一般式(II)においては、R1~R6の炭化水素基としての芳香族炭化水素基が置換基を有する場合には、置換基も含めた芳香族炭化水素基の炭素数が10以下である。
【0042】
一実施形態においては、一般式(I)におけるR1および一般式(II)におけるR4は、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、フェニル基、ビニル基、アリル基、1-プロペニル基、エチニル基、および2-プロピニル基からなる群から選択され、一般式(I)におけるR2およびR3、並びに一般式(II)におけるR5およびR6はそれぞれ独立して、水素、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、フェニル基、ビニル基、アリル基、1-プロペニル基、エチニル基、および2-プロピニル基からなる群から選択される。別の実施形態においては、一般式(I)におけるR1がアルケニル基またはアルキニル基、例えば、ビニル基、アリル基、1-プロペニル基、エチニル基、および2-プロピニル基からなる群から選択され、R2およびR3はそれぞれ独立して、水素、アルキル基および芳香族炭化水素基から、好ましくは、水素、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、およびフェニル基から選択される。別の実施形態においては、一般式(II)におけるR4がアルケニル基またはアルキニル基、例えば、ビニル基、アリル基、1-プロペニル基、エチニル基、および2-プロピニル基からなる群から選択され、R5およびR6はそれぞれ独立して、水素、アルキル基および芳香族炭化水素基から、好ましくは、水素、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、およびフェニル基から選択される。別の実施形態においては、一般式(I)において、R1、R2およびR3がそれぞれ独立して、アルキル基および芳香族炭化水素基から、好ましくは、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、およびフェニル基から選択される。別の実施形態においては、一般式(II)において、R4、R5およびR6がそれぞれ独立して、アルキル基および芳香族炭化水素基から、好ましくは、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、およびフェニル基から選択される。別の実施形態においては、一般式(I)においてR1、R2、およびR3がそれぞれメチル基である。別の実施形態においては、一般式(II)においてR4、R5、およびR6がそれぞれメチル基である。別の実施形態においては、一般式(I)において、R2とR3は相互に連結して脂環式環を形成していても良く、R2とR3とが相互に連結して形成される脂環式環は、好ましくは、5~7員環であり、より好ましくは6員環である。別の実施形態においては、一般式(II)において、R5とR6は相互に連結して脂環式環を形成していても良く、R5とR6とが相互に連結して形成される脂環式環は、好ましくは、5~7員環であり、より好ましくは6員環である。また、一般式(I)においてR2とR3とが相互に連結して形成される脂環式環、および一般式(II)においてR5とR6とが相互に連結して形成される脂環式環は置換基を有していても良く、この置換基は好ましくはアルキル基である。
【0043】
本発明の一実施形態においては、硬化抑制剤としては、例えば、メチルトリス(3-メチル-1-ブチン-3-オキシ)シラン、メチルビニルビス(3-メチル-1-ブチン-3-オキシ)シラン、テトラ(3-メチル-1-ブチン-3-オキシ)シラン、ジビニルビス(3-メチル-1-ブチン-3-オキシ)シラン、エチルトリス(3-メチル-1-ブチン-3-オキシ)シラン、エチルビニルビス(3-メチル-1-ブチン-3-オキシ)シラン、プロピルトリス(3-メチル-1-ブチン-3-オキシ)シラン、プロピルビニルビス(3-メチル-1-ブチン-3-オキシ)シラン、フェニルトリス(3-メチル-1-ブチン-3-オキシ)シラン、フェニルビニルビス(3-メチル-1-ブチン-3-オキシ)シラン、メチルトリス(3-メチル-1-ペンチン-3-オキシ)シラン、メチルビニルビス(3-メチル-1-ペンチン-3-オキシ)シラン、テトラ(3-メチル-1-ペンチン-3-オキシ)シラン、ジビニルビス(3-メチル-1-ペンチン-3-オキシ)シラン、エチルトリス(3-メチル-1-ペンチン-3-オキシ)シラン、エチルビニルビス(3-メチル-1-ペンチン-3-オキシ)シラン、メチルトリス(シクロヘキシル-1-エチン-1-オキシ)シラン、メチルビニルビス(シクロヘキシル-1-エチン-1-オキシ)シラン、テトラ(シクロヘキシル-1-エチン-1-オキシ)シラン、ジビニルビス(シクロヘキシル-1-エチン-1-オキシ)シラン、等が挙げられうる。
【0044】
本発明の一実施形態においては、熱伝導性シリコーン組成物中の(E)成分の量は、(A)成分および(B)成分の合計量100質量部に対して、0.3~1質量部となる量であり、好ましくは0.5~1質量部となる量であり、より好ましくは0.7~1質量部となる量である。(E)成分の量が前記(A)成分および前記(B)成分の合計量100質量部に対して、0.3質量部より少ない場合には、硬化抑制剤の効果が不充分となって、熱伝導性充填剤と他の成分との混合の際に熱伝導性シリコーン組成物の粘度が高くなり、かつ硬化物の充分なダイシェア強度が得られない場合がある。(E)成分の量が前記(A)成分および前記(B)成分の合計量100質量部に対して、1質量部より多い場合には、(D)成分の白金族金属系触媒が失活し、熱伝導性シリコーン組成物の硬化不良が発生する場合がある。
【0045】
いかなる理論に拘束されることを望むものではないが、本発明においては、(E)成分が、上記一般式(I)で特定されるように一分子中にエチニル基を3個以上有することにより、または上記一般式(II)で特定されるように一分子中にエチニル基を2個以上およびビニル基を1個以上有することにより、熱伝導性シリコーン組成物の硬化が望まれない条件下、例えば、硬化温度未満の条件下において(E)成分が硬化抑制剤として働く一方で、熱伝導性シリコーン組成物の硬化条件下においては(E)成分は架橋剤としてSiH基と反応して、樹脂強度を向上させ、かつ熱伝導性シリコーン組成物の硬化物の接着強度も向上させると考えられる。そして、いかなる理論に拘束されることを望むものではないが、硬化抑制剤である(E)成分が架橋剤としても機能するので、熱伝導性シリコーン組成物に追加の成分として添加される架橋剤の量を低減することができ、熱伝導性シリコーン組成物中に含まれる熱伝導性充填剤の比率を高めることができ、結果として熱伝導性シリコーン組成物の硬化物の接着強度を維持しつつ、熱伝導率を高めることができると考えられる。
【0046】
本発明の一実施形態においては、(E)成分の一分子中に含まれるエチニル基およびビニル基の合計質量分率が、エチニル基1個をビニル基2個分と換算した場合のビニル基の合計質量分率として、一分子当たり、好ましくは、45質量%以上、およびより好ましくは、50質量%以上である。いかなる理論に拘束されることを望むものではないが、この実施形態においては、(E)成分が高い質量分率でエチニル基および場合によってはビニル基を有するので、熱伝導性シリコーン組成物のシリコーン成分あたりの架橋数を増大させることができ、結果として、本発明が奏する上記効果を達成できると考えられる。
【0047】
一般式(I)または一般式(II)で表される化合物は、公知の合成方法、例えば、特許文献7(特表2009-523856号公報)、および特許文献8(欧州特許出願公開第0764703A2号明細書)などに開示される方法に従って合成されうる。例えば、一般式(I)の化合物の場合には、R1
nSiCl4-nと、HO-CR2R3-C≡CHとを反応させるような、アルコールのシリル化反応によって調製されうる。また、例えば、一般式(II)の化合物の場合には、R4(CH2=CH-)SiCl2と、HO-CR5R6-C≡CHとを反応させるような、アルコールのシリル化反応によって調製されうる。この例示の反応において、R1、R2、R3、R4、R5、R6およびnは上述の通りである。
【0048】
本発明の一実施形態においては、硬化抑制剤が-20℃以下の融点を有する。-20℃以下の融点を有する硬化抑制剤としては、例えば、メチルトリス(3-メチル-1-ブチン-3-オキシ)シラン、メチルビニルビス(3-メチル-1-ブチン-3-オキシ)シラン等が挙げられ得る。なお、本発明における融点とは1気圧での融点である。
【0049】
本発明の一実施形態においては、硬化抑制剤が200℃以上の沸点を有する。200℃以上の沸点を有する硬化抑制剤としては、例えば、メチルトリス(3-メチル-1-ブチン-3-オキシ)シラン(沸点:250℃)等が挙げられ得る。なお、本発明における沸点とは1気圧での沸点である。
【0050】
本発明の熱伝導性シリコーン組成物の成分(F)は接着付与剤である。一実施形態においては、本発明の接着付与剤は、ケイ素原子に結合したアルコキシ基を一分子中に少なくとも1個有し、ケイ素原子に結合したエポキシ基含有有機基を一分子中に少なくとも1個有し、(MeViSiO2/2)(式中、Meはメチル基およびViはビニル基を表す)の構造単位を有し、および一分子あたりのビニル基の質量分率1~20質量%を有するポリシロキサンである。成分(F)のポリシロキサンの一分子あたりのビニル基の質量分率は、好ましくは、1~20質量%であり、より好ましくは、5~10質量%である。接着付与剤は、基材に対する熱伝導性シリコーン組成物の接着性を向上させうる機能を有する。いかなる理論に拘束されることを望むものではないが、本発明の熱伝導性シリコーン組成物においては、接着付与剤はビニル基を有する構造単位を一定以上の量でポリシロキサン鎖中に有しており、かつ接着付与剤の使用量も一般的な使用量(組成物の硬化速度に有意な影響を及ぼさない量、例えば、(A)成分および(B)成分の合計量の2質量%程度)よりも多いので、Ptへ配位する接着付与剤のビニル基の数が多くなり、その結果、熱伝導性シリコーン組成物の硬化遅延をもたらしているものと考えられる。
【0051】
成分(F)のポリシロキサンに含まれるアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、メトキシエトキシ基が挙げられ得るが、メトキシ基が好ましい。本明細書においては、「ケイ素原子に結合したエポキシ基含有有機基」とは、エポキシ基含有有機基の炭素原子を介してケイ素原子に結合されているエポキシ含有有機基をいう。本発明の一実施形態において「エポキシ基含有有機基」はオキシラン環を含有する有機基であり、好ましくはオキシラン環を含有するアルキル基である。エポキシ基含有有機基としては、例えば、2-グリシドキシエチル基、3-グリシドキシプロピル基、および4-グリシドキシブチル基などのグリシドキシアルキル基;2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル基、および3-(3,4-エポキシシクロヘキシル)プロピル基などのエポキシシクロヘキシルアルキル基;並びに、3,4-エポキシブチル基(4-オキシラニルブチル基とも称される)、および7,8-エポキシオクチル基(8-オキシラニルオクチル基とも称される)などのオキシラニルアルキル基が挙げられるがこれらに限定されない。接着付与剤としてのポリシロキサンのケイ素原子に結合するアルコキシ基、およびエポキシ基含有有機基以外の基としては、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、ハロゲン化アルキル基等の置換もしくは非置換の一価炭化水素基;3-メタクリロキシプロピル基等の(メタ)アクリル基含有一価有機基;水素原子が例示されうる。接着付与剤としてのポリシロキサンの分子構造としては、直鎖状、一部分枝を有する直鎖状、分枝鎖状、環状、網状が例示され、特に、直鎖状、分枝鎖状、網状であることが好ましい。ここで、本明細書における、用語「(メタ)アクリル」とは、アクリルおよびメタクリルのうちのいずれか一方、または両方を意味する。また、本明細書における成分(F)についての用語「ポリシロキサン」は、シロキサンポリマーだけでなく、シロキサンオリゴマーも包含する。
【0052】
接着付与剤としての成分(F)のポリシロキサンは(MeViSiO2/2)(式中、Meはメチル基およびViはビニル基を表す)の構造単位に加えて、本発明の目的に反しない限りは、任意の構造単位を含むことができる。例えば、接着付与剤としては、分子鎖両末端シラノール基封鎖のジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体オリゴマー、分子鎖両末端シラノール基封鎖のメチルビニルシロキサンオリゴマー等の分子鎖両末端シラノール基封鎖のビニル基およびメチル基含有ジオルガノシロキサンオリゴマーと、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランや2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシ基含有アルコキシシランとの反応混合物などが挙げられうる。好ましくは、(F)成分は、分子鎖両末端シラノール基封鎖のジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体オリゴマー、分子鎖両末端シラノール基封鎖のメチルビニルシロキサンオリゴマー等の分子鎖両末端シラノール基封鎖のビニル基およびメチル基含有ジオルガノシロキサンオリゴマーとエポキシ基含有アルコキシシランとの反応混合物が挙げられ得る。一実施形態においては、(F)成分は、式:
(MeViSiO2/2)a(Me2SiO2/2)b(GlySiO3/2)c(MeO1/2)d
(式中、Meはメチル基を表し、Viはビニル基を表し、Glyは3-グリシドキシプロピル基を表し、並びに、a、cおよびdは正数であり、bは0または正数である)で表されるシロキサン化合物であり得る。
【0053】
接着付与剤は低粘度液状であることが好ましく、その粘度は限定されないが、25℃において1~500mPa・sの範囲内であることがより好ましい。また、上記組成物において、この接着付与剤の含有量は(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対して好ましくは、5~20質量部であり、より好ましくは、8~15質量部である。
【0054】
本発明の一実施形態においては、熱伝導性シリコーン組成物は(G)成分として表面処理剤をさらに含んでいてもよい。熱伝導性充填剤の表面を表面処理剤で処理することにより、熱伝導性充填剤の組成物中での分散性をさらに向上させ、かつ組成物の取扱い性および成形性をさらに良好にしうる。本発明において使用されうる表面処理剤は特に限定されず、公知の表面処理剤が使用されうる。例えば、表面処理剤としては、特許文献9(特開2001-139815号公報)に記載されるオリゴシロキサン、および特許文献10(特許第6590445号公報)に記載される下記一般式(III)で表されるオルガノシロキサンなどが挙げられうる。一実施形態においては、(G)成分はケイ素原子に結合したエポキシ基含有有機基を含まない。
【0055】
R10R11
2SiO-(SiR11
2O)e-(SiR11
2)-R12-SiR11
(3-f)(OR13)f (III)
式(III)中、R10は非置換またはハロゲン置換の一価炭化水素基、例えば、直鎖状アルキル基、分岐鎖状アルキル基、環状アルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、またはハロゲン化アルキル基であり、R11は互いに同じであっても異なっていても良い、脂肪族不飽和結合を有さない一価炭化水素基、例えば、直鎖状アルキル基、分岐鎖状アルキル基、環状アルキル基、アリール基、アラルキル基、またはハロゲン化アルキル基であり、R12は酸素原子または二価炭化水素基、例えば、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基等のアルキレン基、エチレンフェニレンエチレン基、エチレンフェニレンプロピレン基等のアルキレンアリーレンアルキレン基であり、R13はアルキル基、アルコキシアルキル基、アルケニル基、またはアシル基であり、eは1以上、好ましくは1~200の整数であり、fは1~3の整数である。別の実施形態においては、(F)成分は、上記式(III)において、-R12-SiR11
(3-f)(OR13)fが-O-(二価炭化水素基)-SiR11
(3-f)(OR13)fとなったオルガノシロキサンであってもよい。
【0056】
表面処理剤の量は、上記表面処理剤の特性を充分に発揮できる量であれば特に限定されないが、好ましくは、(C)成分100質量部に対して、0.01~10質量部、より好ましくは、0.1~2質量部である。
【0057】
上記成分以外に、本発明の目的が達成される範囲内で、上記成分以外の任意選択の成分が熱伝導性シリコーン組成物に含まれていても良い。任意選択の成分の例としては、顔料、染料、蛍光染料、耐熱添加剤、トリアゾール系化合物などの難燃性付与剤、および可塑剤などが挙げられ得る。
【0058】
本発明の熱伝導性シリコーン組成物の製造方法は特に限定されない。本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、従来の熱伝導性充填剤を含むシリコーン組成物の製造方法に従って製造されうる。熱伝導性充填剤をシリコーン成分などと混合する際には、公知の混合/攪拌装置、例えば、ニーダー、ロスミキサー、ホバートミキサー、およびデンタルミキサー等を使用することができる。本発明の熱伝導性シリコーン組成物においては、熱伝導性充填剤の含有量が高いので、熱伝導性充填剤を効率的に分散させることが可能な、高剪断力を提供できるニーダー、ロスミキサー、およびデンタルミキサーなどを使用するのが好ましい。製造過程において、ヒドロシリル化反応が進行する懸念がある熱伝導性充填剤の存在下での(A)成分、(B)成分および(D)成分の混合は冷却しつつ行われるのが好ましい。より好ましくは、組成物の温度が常温となるように冷却が行われる。熱伝導性充填剤が表面処理剤で処理される場合には、あらかじめ表面処理剤で処理された熱伝導性充填剤が(A)成分をはじめとする他の成分と混合されても良いし、表面処理剤で処理されていない熱伝導性充填剤が(A)成分をはじめとする他の成分と混合される際に同時に表面処理剤で処理されても良い。一例としては、本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、(A)成分をニーダーに投入して窒素下で攪拌し、(C)成分をニーダーに投入して攪拌し、真空下(例えば、10mmHg未満)で加熱(例えば、100℃~140℃)しつつ一定時間攪拌し、常圧に戻し冷却しつつ(E)成分を投入して攪拌し、(B)成分をニーダーに投入して常圧で冷却しつつ一定時間攪拌し、(D)成分をニーダーに投入し常圧で冷却しつつ一定時間攪拌し、減圧および冷却下で攪拌を続け、次いで攪拌終了後に常圧に戻して得られた熱伝導性シリコーン組成物を回収するという一連の工程により製造されうる。
【0059】
本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、例えば、集積回路(IC)等の発熱部材とヒートスプレッダーなどの放熱部材との間に適用されうる。適用された組成物を硬化して得られた硬化体は発熱部材からの熱を効率よく放熱部材に伝達することができる。本発明の熱伝導性シリコーン組成物の硬化条件は特に限定されるものではないが、例えば、50℃~200℃、好ましくは、100℃~180℃、より好ましくは、120℃~150℃での加熱により硬化が行われる。
【実施例0060】
本発明の熱伝導性シリコーン組成物が以下の実施例により詳細に説明されるが、本発明は実施例の記載に限定されるものではない。
【0061】
実施例および比較例における熱伝導性シリコーン組成物およびその硬化物の各種特性は以下に示されるように測定された。
[粘度]
熱伝導性シリコーン組成物の粘度は、回転粘度計(Anton Paar GmbH製 Anton Paar MCR 302)を用いて25℃で測定された。熱伝導性シリコーン組成物の各成分を攪拌して調製された熱伝導性シリコーン組成物の粘度が表1において、「ミキシング後の粘度」として表される。
【0062】
[ダイシェア強度]
ポリシロキサン硬化物の接着性は、面積36mm2の正方形被着部位において、熱伝導性シリコーン組成物を150℃で2時間硬化させて得られたシリコーン硬化物の、放熱基板としてのアルミニウムに対する接着強度を西進商事製ボンドテスターModel SS-100KPにより測定した。
【0063】
[熱伝導率評価]
京都電子工業(株)製ホットディスク法熱物性測定装置TPS 2500 Sを用いて、熱伝導性シリコーン組成物を150℃で2時間硬化させて得られた10mm×60mm×30mmのシリコーン硬化物の熱伝導率を測定した。
【0064】
[スコーチタイム(ts1)および90%加硫時間(tc(90))の測定]
熱伝導性シリコーン組成物を、JIS K 6300-2:2001「未加硫ゴム-物理特性-第2部:振動式加硫試験機による加硫特性の求め方」で規定される方法に従い、キュラストメーター(アルファテクノロジーズ社製のPREMIERMDR)を用いて、一般的なダイボンディング温度(150℃)において600秒間加硫して、ts1およびtc(90)を測定した。なお、測定は、熱伝導性シリコーン組成物(5ml)を下側ダイスに載せ、上側ダイスが閉まった時点を測定開始とした。なお、ゴム用R型ダイスを用い、振幅角度は0.5°、振動数は100回/分、トルクレンジを最大の230kgf・cmにして測定が行われた。
【0065】
[ミキシング中の粘度上昇]
熱伝導性シリコーン組成物を調製する際に得られるニーダー内の材料の粘度が300Pa・sを超えなければ、ミキシング中の粘度上昇なしと判断し、その粘度が300Pa・sを超えれば、ミキシング中の粘度上昇有りと判断した。表中では、粘度上昇なしの場合に「なし」と表示され、粘度上昇ありの場合は「上昇」と表示される。
【0066】
実施例および比較例において使用された成分は以下の通りである。
(A)成分として下記の成分が使用された。
(a1)成分:分子両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン(数平均分子量(Mn)=18000、およびジメチルシロキサン単位の数=200)(分子中のケイ素原子に結合したビニル基の質量分率は、分子の質量を基準にして0.4質量%であった)。
【0067】
(B)成分として下記の成分が使用された。
(b1)成分:分子両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン(分子中のケイ素原子に結合した水素原子の質量分率は、分子の質量を基準にして0.14質量%であった)。(b1)成分は鎖延長剤として機能しうる。
(b2)成分:分子両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサンコポリマー(分子中のケイ素原子に結合した水素原子の質量分率は、分子の質量を基準にして1.59質量%であった)。(b2)成分は架橋剤として機能しうる。
【0068】
(C)成分として下記の成分が使用された。
(c1)成分:アルミニウム充填剤(D50=17μm;東洋アルミニウム製 A19-1331)(本明細書において、D50とは粒子径分布の頻度が累積で50%になる粒子径である。)
(c2)成分:アルミニウム充填剤(D50=2μm;東洋アルミニウム製TCP2)
(c3)成分:ZnO充填剤(D50=0.12μm;ZoChem社製 ZoCo102)
なお、本発明の実施例においては、酸化亜鉛の他に、酸化アルミニウム充填剤(製品名 Advanced Alumina AA04(住友化学社製))も同様に使用可能である。
【0069】
(D)成分として下記の成分が使用された。
(d1)成分:Pt触媒(Pt-VTSC-3.0IPA ユミコアジャパン株式会社製;Pt濃度が3質量%である、イソプロピルアルコール中の白金錯体の溶液)
【0070】
(E)成分として下記の成分が使用された。
(e1)成分:メチルトリス(3-メチル-1-ブチン-3-オキシ)シラン(JH-AkSi-1)((e1)成分は、本発明の硬化抑制剤に該当する。)
(e2)成分:テトラメチルテトラビニルシクロテトラシロキサン((e2)成分は、本発明の硬化抑制剤に該当しない比較例の硬化抑制剤である。)
(e3)成分:1-エチニル-1-シクロヘキサノール((e3)成分は、本発明の硬化抑制剤に該当しない比較例の硬化抑制剤である。)
【0071】
(F)接着付与剤として下記の成分が使用された。
(f1)成分:下記の式で表されるシロキサン化合物
(MeViSiO2/2)8(Me2SiO2/2)19(GlySiO3/2)38(MeO1/2)x
式中、Meはメチル基を表し、Viはビニル基を表し、Glyは3-グリシドキシプロピル基を表し、xは1以上の正の数を表す。一分子あたりのビニル基の質量分率は5.63質量%であった。
【0072】
(G)表面処理剤として下記の成分が使用された。
(g1)成分:下記式を有するポリジメチルシロキサン:
(CH3O)3Si-(C2H4)x-(O-Si(CH3)2)n-C4H9
式中、nは58~65であり、xは3である。
【0073】
実施例および比較例の熱伝導性シリコーン組成物は以下の手順で調製された。
(i)(a1)成分をニーダー(株式会社入江商会製 卓上型ニーダSNV-1H)に投入した。
(ii)窒素パージおよび攪拌を行いつつ、(g1)成分、並びに(c1)および(c2)成分をニーダーに投入し、攪拌を継続した(回転数:1/sec、攪拌時間:0.25時間、温度:常温)。
(iii)窒素パージを停止し、(c3)成分をニーダーに投入した。
(iv)ニーダーの内容物を120℃に加熱し、減圧(10mmHg未満)下で2時間攪拌したところ、温度が140℃となった。
(v)ニーダー内の圧力を常圧に戻し、硬化抑制剤として(e1)、(e2)または(e3)成分をニーダーに投入し、常圧および室温で内容物を0.5時間攪拌した。この工程では、ニーダーの内容物が室温になるように、冷却しつつ攪拌が行われた。
(vi)(b1)成分、(b2)成分、(d1)成分、および(f1)成分をニーダーに投入した。使用される場合には(f2)成分もニーダーに投入した。
(vii)常圧および室温で内容物を0.5時間攪拌した。この工程では、ニーダーの内容物が室温になるように、冷却しつつ攪拌が行われた。
(viii)減圧(10mmHg未満)下、室温で内容物を0.5時間攪拌した。この工程では、ニーダーの内容物が室温になるように、冷却しつつ攪拌が行われた。
(ix)攪拌終了後、常圧に戻して、ニーダーから熱伝導性シリコーン組成物を取り出した。
【0074】
実施例および比較例の熱伝導性シリコーン組成物を製造するのに使用された各成分の質量部、各成分の様々な量および比率、並びに得られた熱伝導性シリコーン組成物およびその硬化物の様々な特性が表1に示される。
表1におけるH/Viは[(B)成分中のケイ素原子に結合した水素原子の総数]/[((A)成分中のケイ素原子に結合したビニル基の総数)+((E)成分中のエチニル基の総数×2+ビニル基の総数)]を表す。本願発明の硬化抑制剤(実施例1)を比較例の硬化抑制剤(比較例1および2)と比較する場合に、このH/Vi値が同じになるようにそれぞれの硬化抑制剤の量が決定された。なお、実施例1~3および比較例1~4において、(A)成分中のケイ素原子に結合したアルケニル基1モルに対して、(B)成分中のケイ素原子に結合した水素原子は2.1モルであった。
表1におけるPt(ppm)/[(A)(B)]は、組成物中の(A)成分および(B)成分の合計量100万質量部に対する、(D)成分中の白金元素の質量部を表す。(本明細書において、用語「ppm」は100万あたりの部数を表し、1ppmは百万分の1を表す。)
表1におけるPt(ppm)/[(A)(B)(E)(F)(G)]は、組成物中の(A)成分、(B)成分、(E)成分、(F)成分、および(G)成分の合計量100万質量部に対する、(D)成分中の白金元素の質量部を表す。
表1における「充填剤含有量(体積%)」は25℃での熱伝導性シリコーン組成物の全体積を基準にした、(c1)、(c2)および(c3)成分の全体積の割合を表す。
表1における「充填剤含有量(質量%)」は熱伝導性シリコーン組成物の全質量を基準にした、(c1)、(c2)および(c3)成分の全質量の割合を表す。
【0075】
【0076】
実施例1~3の結果から、本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、3.0W/m・Kを超える高い熱伝導率、各成分を混合した後の組成物の低い粘度(150Pa・s未満)、および300N/cm2を超える高いダイシェア強度を達成できるという有利な効果を生じさせた。
一方、硬化抑制剤が本発明において特定される化合物でない場合(比較例1および2)には、得られた熱伝導性シリコーン組成物の粘度が高すぎ、かつ硬化物のダイシェア強度も低く、この組成物はサーマルインターフェースマテリアルとしての使用に適さないものであった。
白金族金属系触媒の量が、本発明で特定される範囲の下限を下回る場合(比較例3)、硬化物のダイシェア強度が低く、この組成物はサーマルインターフェースマテリアルとしての使用に適さないものであった。
硬化抑制剤の量が、本発明で特定される範囲の下限を下回る場合(比較例4)、得られた熱伝導性シリコーン組成物の粘度が高すぎ、かつ硬化物のダイシェア強度も低く、この組成物はサーマルインターフェースマテリアルとしての使用に適さないものであった。