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特開2023-44477不良原因分析システム、不良原因分析プログラム及び不良原因分析方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023044477
(43)【公開日】2023-03-30
(54)【発明の名称】不良原因分析システム、不良原因分析プログラム及び不良原因分析方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 46/00 20060101AFI20230323BHJP
   B22C 9/00 20060101ALI20230323BHJP
   G05B 19/418 20060101ALI20230323BHJP
   B22D 47/00 20060101ALN20230323BHJP
【FI】
B22D46/00
B22C9/00 Z
G05B19/418 Z
B22D47/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021152528
(22)【出願日】2021-09-17
(71)【出願人】
【識別番号】000100805
【氏名又は名称】アイシン高丘株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(72)【発明者】
【氏名】八幡 一義
(72)【発明者】
【氏名】池澤 秀明
【テーマコード(参考)】
3C100
【Fターム(参考)】
3C100AA57
3C100AA58
3C100AA70
3C100BB05
3C100BB13
3C100BB15
3C100BB27
3C100BB33
3C100EE10
(57)【要約】
【課題】経験値や勘に頼ることなく不良率の低減を効率的に行えるとともに、不良率の低減対策を標準化することができる不良原因分析システム、不良原因分析プログラム及び不良原因分析方法を提供する。
【解決手段】鋳造ラインに適用される不良原因分析システム60は、造型工程における砂処理装置10及び造型装置20及び注湯工程における注湯装置43から、鋳型又は注湯済み鋳型を製造する際の各種数値データを収集する。不良原因分析装置61は、収集された各種数値データを一つのデータ群として個々の鋳型又は注湯済み鋳型に紐づけて、データベース70に記憶する。データ演算部62bは、記憶された多数のデータ群を分析して、異常を示す因子を抽出するとともに、抽出された異常因子への他の種類の情報の影響度をその種類ごとに算出する。
【選択図】 図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳型砂を造型して鋳型とする造型工程、溶解材料を溶解させて溶湯を生成し、造型された鋳型に注湯して注湯済み鋳型とする注湯工程、注湯済み鋳型を冷却して注湯後冷却済み鋳型とする冷却工程、注湯後冷却済み鋳型の型ばらしをして鋳物製品を得る型ばらし工程と、を実行する鋳造ラインに適用され、前記造型工程又は前記注湯工程において前記鋳物製品の不良を生み出した原因を分析する不良原因分析システムであって、
前記造型工程によって得られる前記鋳型又は前記注湯工程によって得られる前記注湯済み鋳型を中間品とし、
前記中間品を製造する際に得られる各種製造情報について、順次製造される個々の中間品を製造する際のそれぞれの数値データを収集するデータ収集手段と、
収集された各数値データを一つのデータ群として前記個々の中間品に紐づけて記憶する記憶手段と、
前記記憶手段に記憶された多数のデータ群を分析し、前記各種製造情報の中から異常を示す因子を抽出する異常因子抽出手段と、
前記多数のデータ群を分析して、前記抽出された異常因子への他の種類の製造情報の影響度を当該製造情報の種類ごとに算出する影響度算出手段と、
を備えたことを特徴とする不良原因分析システム。
【請求項2】
前記記憶手段は、複数の前記注湯後冷却済み鋳型から得られた鋳物製品を検査して判明したその注湯後冷却済み鋳型群の不良率を、当該注湯後冷却済み鋳型群を構成する個々の注湯後冷却済み鋳型の基になった中間品にそれぞれ紐づけて記憶し、
前記異常因子抽出手段は、前記多数のデータ群のうち、不良率が不良閾値を超えるデータ群を分析し、異常因子を抽出することを特徴とする請求項1に記載の不良原因分析システム。
【請求項3】
前記異常因子抽出手段は、前記多数のデータ群を不良率に応じたグループに分類し、不良閾値を超えるグループごとに、当該グループに属するデータ群を分析し、前記各種製造情報の中から異常因子を抽出することを特徴とする請求項2に記載の不良原因分析システム。
【請求項4】
前記異常因子抽出手段は、前記多数のデータ群を用いた教師なし学習により、第1異常判別閾値を超える数が第2異常判別閾値を超えている特定の製造情報を、前記異常因子として抽出することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の不良原因分析システム。
【請求項5】
前記影響度算出手段は、前記異常因子として抽出された製造情報を教師データとする教師あり学習により生成されたモデルを用い、前記異常因子に対するそれ以外の種類の製造情報の影響度を算出することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の不良原因分析システム。
【請求項6】
前記中間品が前記注湯済み鋳型である場合、前記注湯済み鋳型を製造する際の前記各種製造情報は、前記注湯済み鋳型に注がれた溶湯の成分情報と、一つの取鍋が受湯する際の当該受湯に関する受湯情報と、受湯した前記取鍋から一つの鋳型への注湯に関する注湯情報と、一つの取鍋から設定数の鋳型への注湯が完了した後に前記取鍋に残った残湯に関する残湯情報とを含むことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の不良原因分析システム。
【請求項7】
前記中間品が前記鋳型である場合、前記鋳型を製造する際の前記各種製造情報は、鋳型砂の特性に関する砂特性情報と、鋳型砂を生成する鋳型砂生成装置に関する砂生成装置情報、一つの鋳型の造型時における造型装置に関する造型装置情報とを含むことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の不良原因分析システム。
【請求項8】
前記記憶手段は、前記鋳型ごと、当該鋳型の材料として用いられた鋳型砂に関する鋳型砂情報及び当該鋳型砂の生成に関する砂生成装置情報に加え、前記鋳型よりも前に造型された鋳型の材料として用いられた別の鋳型砂に関する鋳型砂情報及び前記別の鋳型砂の生成に関する砂生成装置情報も紐づけて記憶して前記データ群に含めることを特徴とする請求項7に記載の不良原因分析システム。
【請求項9】
鋳型砂を造型して鋳型とする造型工程、溶解材料を溶解させて溶湯を生成し、造型された鋳型に注湯して注湯済み鋳型とする注湯工程、注湯済み鋳型を冷却して注湯後冷却済み鋳型とする冷却工程、注湯後冷却済み鋳型の型ばらしをして鋳物製品を得る型ばらし工程と、を実行する鋳造ラインに適用され、前記造型工程又は前記注湯工程において前記鋳物製品の不良を生み出した原因を分析する不良原因分析プログラムあって、
前記造型工程によって得られる前記鋳型又は前記注湯工程によって得られる前記注湯済み鋳型を中間品とし、
前記中間品を製造する際に得られる各種製造情報について、順次製造される個々の中間品を製造する際のそれぞれの数値データを収集するステップと、
収集された各数値データを一つのデータ群として前記個々の中間品に紐づけて記憶するステップと、
記憶された多数のデータ群を分析し、前記各種製造情報の中から異常を示す因子を抽出するステップと、
前記多数のデータ群を分析して、前記抽出された異常因子への他の種類の製造情報の影響度を当該製造情報の種類ごとに算出するステップと、
を実行させることを特徴とする不良原因分析プログラム。
【請求項10】
鋳型砂を造型して鋳型とする造型工程、溶解材料を溶解させて溶湯を生成し、造型された鋳型に注湯して注湯済み鋳型とする注湯工程、注湯済み鋳型を冷却して注湯後冷却済み鋳型とする冷却工程、注湯後冷却済み鋳型の型ばらしをして鋳物製品を得る型ばらし工程と、を実行する鋳造ラインに適用され、前記造型工程又は前記注湯工程において前記鋳物製品の不良を生み出した原因を分析する不良原因分析方法であって、
前記造型工程によって得られる前記鋳型又は前記注湯工程によって得られる前記注湯済み鋳型を中間品とし、
前記中間品を製造する際に得られる各種製造情報について、順次製造される個々の中間品を製造する際のそれぞれの数値データを収集するデータ収集工程と、
収集された各数値データを一つのデータ群として前記個々の中間品に紐づけて記憶する記憶工程と、
記憶された多数のデータ群を分析し、前記各種製造情報の中から異常を示す因子を抽出する異常因子抽出工程と、
前記多数のデータ群を分析して、前記抽出された異常因子への他の種類の製造情報の影響度を当該製造情報の種類ごとに算出する影響度算出工程と、
を備えたことを特徴とする不良原因分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不良原因分析システム、不良原因分析プログラム及び不良原因分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋳型砂を造型して鋳型とし、造型された鋳型に注湯し、冷却後に鋳型砂をばらして鋳物製品を得る一連の鋳造ラインでは、各工程で行われる各種作業に起因して鋳物製品に不良を発生させることがある。従来、その不良をもたらす因子の特定は、ライン従事者の経験値や勘によって行われてきた。
【0003】
ところで、不良をもたらす因子ではなく、製品の設計データとそれによって生産された製品の不良データとを分析し、評価対象となる製品の設計データから当該製品の不良率を予測するシステムは知られている(特許文献1参照)。しかしながら、このシステムは不良率自体を予測するものであって、いかなる因子が不良をもたらしているのかを推定するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004‐46636号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
鋳物製品の不良をもたらす因子をライン従事者の経験値や勘に頼った状態では、不良率の低減を効率的に行うことができない。また、不良率を低減するための対策が属人的となり、経験値を有したり勘に優れた者がいなくなると、不良率の低減対策が不十分になるという問題がある。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、経験値や勘に頼ることなく不良率の低減を効率的に行えるとともに、不良率の低減対策を標準化することができる不良原因分析システム、不良原因分析プログラム及び不良原因分析方法を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成すべく、第1の発明の不良原因分析システムは、
鋳型砂を造型して鋳型とする造型工程、溶解材料を溶解させて溶湯を生成し、造型された鋳型に注湯して注湯済み鋳型とする注湯工程、注湯済み鋳型を冷却して注湯後冷却済み鋳型とする冷却工程、注湯後冷却済み鋳型の型ばらしをして鋳物製品を得る型ばらし工程と、を実行する鋳造ラインに適用され、前記造型工程又は前記注湯工程において前記鋳物製品の不良を生み出した原因を分析する不良原因分析システムであって、
前記造型工程によって得られる前記鋳型又は前記注湯工程によって得られる前記注湯済み鋳型を中間品とし、
前記中間品を製造する際に得られる各種製造情報について、順次製造される個々の中間品を製造する際のそれぞれの数値データを収集するデータ収集手段と、
収集された各数値データを一つのデータ群として前記個々の中間品に紐づけて記憶する記憶手段と、
前記記憶手段に記憶された多数のデータ群を分析し、前記各種製造情報の中から異常を示す因子を抽出する異常因子抽出手段と、
前記多数のデータ群を分析して、前記抽出された異常因子への他の種類の製造情報の影響度を当該製造情報の種類ごとに算出する影響度算出手段と、
を備えたことを特徴とする。
【0008】
第2の発明の不良原因分析システムは、
前記記憶手段は、複数の前記注湯後冷却済み鋳型から得られた鋳物製品を検査して判明したその注湯後冷却済み鋳型群の不良率を、当該注湯後冷却済み鋳型群を構成する個々の注湯後冷却済み鋳型の基になった中間品にそれぞれ紐づけて記憶し、
前記異常因子抽出手段は、前記多数のデータ群のうち、不良率が不良閾値を超えるデータ群を分析し、異常因子を抽出することを特徴とする。
【0009】
第3の発明の不良原因分析システムは、
前記異常因子抽出手段は、前記多数のデータ群を不良率に応じたグループに分類し、不良閾値を超えるグループごとに、当該グループに属するデータ群を分析し、前記各種製造情報の中から異常因子を抽出することを特徴とする。
【0010】
第4の発明の不良原因分析システムは、
前記異常因子抽出手段は、前記多数のデータ群を用いた教師なし学習により、第1異常判別閾値を超える数が第2異常判別閾値を超えている特定の製造情報を、前記異常因子として抽出することを特徴とする。
【0011】
第5の発明の不良原因分析システムは、
前記影響度算出手段は、前記異常因子として抽出された製造情報を教師データとする教師あり学習により生成されたモデルを用い、前記異常因子に対するそれ以外の種類の製造情報の影響度を算出することを特徴とする。
【0012】
第6の発明の不良原因分析システムは、
前記中間品が前記注湯済み鋳型である場合、前記注湯済み鋳型を製造する際の前記各種製造情報は、前記注湯済み鋳型に注がれた溶湯の成分情報と、一つの取鍋が受湯する際の当該受湯に関する受湯情報と、受湯した前記取鍋から一つの鋳型への注湯に関する注湯情報と、一つの取鍋から設定数の鋳型への注湯が完了した後に前記取鍋に残った残湯に関する残湯情報とを含むことを特徴とする。
【0013】
第7の発明の不良原因分析システムは、
前記中間品が前記鋳型である場合、前記鋳型を製造する際の前記各種製造情報は、鋳型砂の特性に関する砂特性情報と、鋳型砂を生成する鋳型砂生成装置に関する砂生成装置情報、一つの鋳型の造型時における造型装置に関する造型装置情報とを含むことを特徴とする。
【0014】
第8の発明の不良原因分析システムは、
前記記憶手段は、前記鋳型ごと、当該鋳型の材料として用いられた鋳型砂に関する鋳型砂情報及び当該鋳型砂の生成に関する砂生成装置情報に加え、前記鋳型よりも前に造型された鋳型の材料として用いられた別の鋳型砂に関する鋳型砂情報及び前記別の鋳型砂の生成に関する砂生成装置情報も紐づけて記憶して前記データ群に含めることを特徴とする。
【0015】
第9の発明の不良原因分析プログラムは、
鋳型砂を造型して鋳型とする造型工程、溶解材料を溶解させて溶湯を生成し、造型された鋳型に注湯して注湯済み鋳型とする注湯工程、注湯済み鋳型を冷却して注湯後冷却済み鋳型とする冷却工程、注湯後冷却済み鋳型の型ばらしをして鋳物製品を得る型ばらし工程と、を実行する鋳造ラインに適用され、前記造型工程又は前記注湯工程において前記鋳物製品の不良を生み出した原因を分析する不良原因分析プログラムあって、
前記造型工程によって得られる前記鋳型又は前記注湯工程によって得られる前記注湯済み鋳型を中間品とし、
前記中間品を製造する際に得られる各種製造情報について、順次製造される個々の中間品を製造する際のそれぞれの数値データを収集するステップと、
収集された各数値データを一つのデータ群として前記個々の中間品に紐づけて記憶するステップと、
記憶された多数のデータ群を分析し、前記各種製造情報の中から異常を示す因子を抽出するステップと、
前記多数のデータ群を分析して、前記抽出された異常因子への他の種類の製造情報の影響度を当該製造情報の種類ごとに算出するステップと、
を実行させることを特徴とする。
【0016】
第10の発明の不良原因分析方法は、
鋳型砂を造型して鋳型とする造型工程、溶解材料を溶解させて溶湯を生成し、造型された鋳型に注湯して注湯済み鋳型とする注湯工程、注湯済み鋳型を冷却して注湯後冷却済み鋳型とする冷却工程、注湯後冷却済み鋳型の型ばらしをして鋳物製品を得る型ばらし工程と、を実行する鋳造ラインに適用され、前記造型工程又は前記注湯工程において前記鋳物製品の不良を生み出した原因を分析する不良原因分析方法であって、
前記造型工程によって得られる前記鋳型又は前記注湯工程によって得られる前記注湯済み鋳型を中間品とし、
前記中間品を製造する際に得られる各種製造情報について、順次製造される個々の中間品を製造する際のそれぞれの数値データを収集するデータ収集工程と、
収集された各数値データを一つのデータ群として前記個々の中間品に紐づけて記憶する記憶工程と、
記憶された多数のデータ群を分析し、前記各種製造情報の中から異常を示す因子を抽出する異常因子抽出工程と、
前記多数のデータ群を分析して、前記抽出された異常因子への他の種類の製造情報の影響度を当該製造情報の種類ごとに算出する影響度算出工程と、
を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
第1の発明によれば、造型工程又は注湯工程において、中間品を製造するごとに得られたデータ群を分析することで、中間品を製造する際に得られる製造情報の中から異常因子が抽出される。
【0018】
鋳造ラインでは、1つの中間品を製造する際の特定の製造情報には、他の様々な種類の製造情報が影響する。例えば、一つの鋳型への注湯開始から注湯完了までの時間である注湯時間という製造情報であれば、注湯装置の駆動設定値を調整すれば注湯時間の数値データを操作できるというような単純なものではない。注湯温度、受湯重量、残湯重量等、他の様々な種類の製造情報の数値データが注湯時間の数値データに影響し、それらが注湯時間の数値データを左右し得る。そのため、各種製造情報の中から異常因子を抽出するだけでは、不良原因の分析としては不十分である。
【0019】
そこで、第1の発明では、異常因子を抽出した後、その異常因子に対して他の種類の製造情報のそれぞれの影響度が算出される。この影響度から、鋳物製品の不良率を高めている原因となる製造情報を推定すれば、その推定された製造情報を改善することで不良率を低減させることができる。その結果、経験値や勘に頼ることなく不良率の低減を効率的に行えるとともに、不良率の低減対策を標準化することができる。
【0020】
第2の発明によれば、注湯後冷却済み鋳型群ごとに判明する鋳物製品の不良率が、1つの中間品を製造する際のデータ群と紐づけられている。そのため、不良率が不良閾値を超えるデータ群を分析することで、当該不良閾値を超える不良率をもたらしている異常因子を抽出することができる。これにより、不良率が低いデータ群の分析が行われないため、異常因子を抽出する処理を効率的に行うことができる。
【0021】
第3の発明によれば、不良率ごとに分類されたグループのうち、不良閾値を超えたグループごとに、当該グループに属するデータ群を分析して異常因子が抽出されるため、全体をまとめて分析する場合には抽出できなかった異常因子も抽出することができる。これにより、不良率をより一層低減することに役立つ。
【0022】
第4の発明によれば、1つの中間品が製造されるごとに得られる各種製造情報の中で、どの情報が異常であるか否かが不明な中、教師なし学習による異常判別の手法を用いることにより異常な因子を好適に抽出できる。
【0023】
第5の発明によれば、抽出された異常因子を教師データとする教師あり学習により生成されたモデルを用いて、他の種類の製造情報の影響度を製造情報の種類ごと好適に算出できる。
【0024】
第6の発明によれば、溶湯不良率(溶湯に関する不良率)に影響し得る、注湯工程での製造情報を網羅しているため、注湯工程における異常因子の抽出や当該異常因子への影響度の算出精度が高められる。これにより、不良原因の分析精度を高めることができる。
【0025】
第7の発明によれば、砂不良率(砂に関する不良率)に影響し得る、造型工程での製造情報を網羅しているため、造型工程における異常因子の抽出や当該異常因子への影響度の算出精度が高められる。これにより、不良原因の分析精度を高めることができる。
【0026】
第8の発明によれば、前に造型された鋳型の材料として用いられた別の鋳型砂に関する鋳型砂情報及び当該別の鋳型砂の生成に関する砂生成装置情報もデータ群に含められ、異常因子の抽出や影響度の算出に用いられる。鋳型を造型する場合、その造型に用いられた鋳型砂だけでなく、それよりも前の鋳型の材料として用いられた別の鋳型砂が混入している可能性がある。そのため、その別の鋳型砂の情報も分析対象に含めることで、造型工程における異常因子の抽出や当該異常因子の影響度の算出の精度がより一層高められる。これにより、不良原因の分析精度をより一層高めることができる。
【0027】
第9の発明によれば、このプログラムを組み込んだ不良原因分析システムを運用することによって、第1の発明の不良原因分析システムによって得られる効果と同じ効果を得ることができる。
【0028】
第10の発明によれば、その不良原因分析方法を不良原因分析システムによって実行することにより、第1の発明の不良原因分析システムによって得られる効果と同じ効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】鋳造ラインの概略を示す概略図。
図2】鋳型砂の製造過程の概略を示す概略図。
図3】造型装置における造型部分の概略を示す概略図。
図4】不良原因分析システムの全体構成を示すブロック図。
図5】データベースの構成を示すブロック図。
図6】不良原因分析装置による分析処理を示すフローチャート。
図7】砂不良用の紐づけ処理の一例を模式的に示した図。
図8】溶湯不良用の紐づけ処理の一例を模式的に示した図。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明を具体化した一実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0031】
本実施の形態の不良原因分析システム、不良原因分析プログラム及び不良原因分析方法は、鋳物製品を製造する鋳造ラインに適用される。
【0032】
[鋳造ラインの概要]
初めに、当該鋳造ラインの概要を説明する。図1に示すように、鋳造ラインは、大きく分けて4つの工程を実行する。まず、鋳型砂を造型して鋳型Mとする造型工程を行う。次に、溶解材料を溶解させて溶湯を生成し、造型された鋳型Mに溶湯を注いで注湯済み鋳型Maとする注湯工程を行う。ここでは、溶湯生成と注湯とをまとめて注湯工程として説明する。次いで、注湯済み鋳型Maを冷却して注湯後冷却済み鋳型Mbとする冷却工程を行う。その後、注湯後冷却済み鋳型Mbの型ばらしをして鋳物製品Cを得る型ばらし工程を行う。
【0033】
造型工程では、図2に示すように、砂処理装置10が用いられる。砂処理装置10は混錬装置11、砂、水、添加剤等の投入装置(図示略)等を含んでいる。型ばらし工程での型ばらしによって得られた砂を回収した回収砂と、水、添加剤、新たに補給する砂とを混錬装置11に投入して混錬し、鋳型砂Sを生成する。砂処理装置10は鋳型砂生成装置に相当する。砂処理装置10で生成された鋳型砂Sは、タンク12を介して搬送装置13に送られ、その後、搬送装置13によって造型装置20のタンク21まで搬送される。
【0034】
造型装置20はその種類を問わないが、例えば縦型造型方式が用いられる。図3(a)に、当該方式の造型装置20における造型空間22の概略を示している。図3(a)に示すように、造型装置20は鋳型砂Sを成型するための金型である前型23及び後型24が水平方向に相対向して設けられ、前型23と後型24との間に造型空間22が形成されている。造型空間22には、その上方に鋳型砂Sを保管するタンク21(図2参照)が設けられ、タンク21にエア圧を作用させること(エアブロー)により、当該タンク21から造型空間22に鋳型砂Sが導入される。その後、図3(b)に示すように、前型23と後型24とを互いに近づけることで、導入された鋳型砂Sを圧縮して部分鋳型Pを生成する。次いで、両型23,24を離間させ、図3(c)に示すように、1つの部分鋳型P(ここでは後述する中段部分鋳型P2)を得る。
【0035】
ここで、部分鋳型Pは、鋳型Mを構成する一部分を意味する。複数の部分鋳型Pが積み上げられ、完成した鋳型Mとして造型される。図3(d)では、1つで3つの鋳物製品Cを鋳造する鋳造空間31を有する鋳型Mを例として示している。この場合、鋳型Mは、下段部分鋳型P1、中段部分鋳型P2、上段部分鋳型P3及び蓋部分鋳型P4という4つの部分鋳型Pを有する。図3(c)に示すように、造型された各部分鋳型Pを90度倒し、枠体32内で順に積み上げることで、造型工程における中間品としての鋳型Mを造型する。
【0036】
部分鋳型Pのうち、最下部に配置される下段部分鋳型P1と、最上部に配置される蓋部分鋳型P4との間に設けられるもの(図3の例では中段部分鋳型P2及び上段部分鋳型P3)は1個ずつ造型される。下段部分鋳型P1及び蓋部分鋳型P4は、前型23と後型24との間の造型空間22に湯口切りプレート(図示略)が設けられることにより、両者が同時に造型される。
【0037】
砂処理装置10によって1度に生成される鋳型砂Sの単位を1バッチとすると、造型工程では、1バッチの鋳型砂Sを用いて、予め設定された複数の鋳型Mが造型され、生成した鋳型Mが造型装置20から順次搬出される。砂処理装置10による1バッチの砂処理が完了すれば次バッチの砂処理が行われ、造型装置20に搬送されて、次バッチの鋳型砂Sを用いた鋳型Mの造型が行われる。造型装置20から順次搬出された鋳型Mは、コンベア等の搬送装置(図示略)によって、造型工程に続く注湯工程に順次搬送される。
【0038】
なお、1バッチの鋳型砂Sを使い切った後に、砂処理装置10や造型装置20をすべて洗浄して新たな鋳型砂Sを生成するわけではない。そのため、1バッチの鋳型砂Sを用いて複数の鋳型Mを造型した後、次バッチの鋳型砂Sを用いて鋳型Mを造型する場合、当該鋳型Mには前バッチ、前々バッチなど当該バッチよりも前のバッチの鋳型砂Sが混入している。図2では、そのことを模式的に示すため、現バッチの鋳型砂Sを丸印で示し、前バッチの鋳型砂Sを四角印で示し、前々バッチの鋳型砂Sを三角印で示している。この図示は、前々バッチよりも前のバッチの鋳型砂Sが含まれている場合を排除するものではない。
【0039】
次に、注湯工程は、溶湯を生成する工程と、生成された溶湯を鋳型Mに注ぐ工程とを有している。図1に示すように、溶湯を生成する工程では、一般に知られているように、銑鉄、鉄屑等の溶解材料を溶解させて溶湯を生成する。溶解材料の溶解には、溶解炉としてのキュポラ41が用いられる。キュポラ41の上部から燃焼材料となるコークス及び溶解材料等が順次投入され、燃焼バーナによってコークスを燃焼させることによりキュポラ41の底部にて溶解材料が溶解した溶湯が生成される。キュポラ41によって1度に生成される溶湯の単位を1バッチとすると、溶湯を生成する工程では、1バッチの溶湯を用いて、取鍋42への出湯を予め設定された回数行う。
【0040】
溶湯を鋳型Mに注ぐ工程では、注湯装置43が用いられる。注湯装置43は取鍋42を有しており、キュポラ41で生成された溶湯は、不純物を分離した後に取鍋42に注がれる。溶湯で満たされた取鍋42は注湯位置に搬送される。注湯位置では、取鍋42が傾動され、造型工程の造型装置20から搬出されて注湯位置まで搬送された鋳型Mに注湯する。注湯が完了した鋳型Mを、注湯工程における中間品としての注湯済み鋳型Maとすると、注湯済み鋳型Maは搬送装置(図示略)によって注湯位置から送り出され、注湯位置には次の鋳型Mが導入される。このように、造型工程の造型装置20から搬出された鋳型Mは注湯位置に順次搬送され、注湯位置で取鍋42から溶湯が注がれ、注湯が完了すると送り出される。キュポラ41から1度の受湯により溶湯で満たされた取鍋42が注湯位置に搬送された後、その取鍋42から注湯を受ける鋳型Mの数は予め設定されている。当該設定数の鋳型Mへの注湯が終了すると、取鍋42は受湯位置まで戻り、キュポラ41から再び受湯する。受湯後は、再び注湯位置に搬送され、鋳型Mへの注湯を行う。
【0041】
注湯位置から送り出された注湯済み鋳型Maは、搬送装置(図示略)によってばらし位置まで搬送されながら冷却される。搬送されている間が冷却工程であり、その冷却によって溶湯が固まり、注湯後冷却済み鋳型Mbとなる。
【0042】
型ばらし工程では、型ばらし装置50により注湯後冷却済み鋳型Mbの型ばらしをして鋳物製品Cを得る。なお、図1に示す型ばらし装置50は一例である。この型ばらし工程でばらされた鋳型砂Sは回収され、前述したように、新たな鋳型Mを造型するための鋳型砂Sとして再利用される。
【0043】
[不良原因分析システム]
次に、上記のような鋳造ラインを適用対象とし、造型工程における鋳型M及び注湯工程における注湯済み鋳型Maを製造する際の複数の因子について、その中から鋳物製品Cの不良をもたらす原因を分析する不良原因分析システム60について説明する。
【0044】
不良原因分析システム60は、図4に示すように、不良原因分析装置61を備えている。不良原因分析装置61は、システムの制御を司るシステム制御部62と、メモリ63と、データ記憶装置64と、データ入力部65と、情報表示部66と、ネットワークインターフェース67とを有している。これらはデータバス68を通じて接続され、互いに情報の送受信を行うことが可能となっている。システム制御部62は、CPU等で構成されるマイクロコンピュータである。メモリ63は不揮発性の記憶部であり、不良原因分析システム60が実行する不良原因分析プログラム69が格納されている。データ記憶装置64には、記憶手段としてのデータベース70が保存されている。ネットワークインターフェース67は、不良原因分析装置61を、造型工程に設けられた砂処理装置10及び造型装置20と、注湯工程に設けられたキュポラ41及び注湯装置43とに接続するためのインターフェース部である。そのため、ネットワークインターフェース67がデータ収集手段に相当する。
【0045】
砂処理装置10には、混錬装置11に投入される材料の重量を測定する重量測定装置、鋳型砂Sの水分を計測する水分計、鋳型砂Sの温度を計測する温度測定装置、鋳型砂Sのコンパクタビリティ(CB値)を計測するCB値測定装置、混錬時間等を計測するタイマなどが設けられている。これら各装置の図示は省略する。1バッチの鋳型砂Sが生成されるたびにこれらの装置によって数値データが計測され、その計測された数値データが不良原因分析装置61に送信される。砂処理装置10から不良原因分析装置61に送信される情報は、各種測定装置によって計測された数値データの他、投入される鋳型砂Sの目標値、水分量の目標値等、砂処理装置10において予め設定された設定値である数値データもある。
【0046】
造型装置20には、鋳型砂Sを導入する際のエア圧を計測するエア圧力計測装置、前型23や後型24を押圧するスクイズ圧を計測する油圧測定装置、前型23や後型24の変位量(圧縮率)や部分鋳型Pの厚み等を計測するレベルセンサ、各種時間を計測するタイマなどが設けられている。これらの装置の図示は省略する。造型装置20によって複数の部分鋳型Pが造型されるたびにこれら装置によって数値データが計測され、その計測された数値データが不良原因分析装置61に送信される。造型装置20から不良原因分析装置61に送信される数値データは、各種測定装置によって計測された数値データの他、鋳型砂Sを導入するエアブローの時間、前型23と後型24とによる押圧状態の保持時間等、造型装置20において予め設定されている設定値である数値データもある。
【0047】
注湯装置43には、取鍋42の重量を計測する重量計測装置、注湯時における取鍋42からの出湯状況を撮影するサーモカメラ、各種時間を計測するタイマなどが設けられている。これらの装置の図示は省略する。キュポラ41からの受湯時に加え、各鋳型Mに注湯するたびにこれら装置によって数値データが計測され、その計測された数値データが不良原因分析装置61に送信される。注湯装置43から不良原因分析装置61に送信される情報は、各種測定装置によって計測された数値データの他、取鍋42を傾動させる場合の角速度、湯切り角度等、注湯装置43において予め設定されている設定値である数値データもある。
【0048】
システム制御部62のデータ処理部62aは、砂処理装置10、造型装置20、キュポラ41及び注湯装置43から、ネットワークインターフェース67を通じて収集した各種情報の数値データを、データ記憶装置64のデータベース70に格納する。この過程が、不良原因分析方法におけるデータ収集工程と記憶工程に相当する。データベース70は、図5に示すように、鋳型砂データベース71、造型データベース72、溶湯データベース73、注湯データベース74、砂不良率データベース75及び溶湯不良率データベース76を含んで構成されている。
【0049】
鋳型砂データベース71には、造型工程における鋳型Mの製造にかかわる製造情報のうち、鋳型砂Sやその生成に関する情報の数値データが格納される。鋳型砂Sの生成に関する情報としては、例えば、投入される回収砂の重量、投入される補給砂の重量、投入される水の重量、投入される添加剤の重量、鋳型砂Sの水分量、温度、CB値、混錬装置11による混錬時間等がある。これらの情報を、砂生成装置情報と呼ぶ。1バッチの砂処理ごとに、当該バッチの砂処理において得られた砂生成装置情報の個別の数値データが、鋳型砂データベース71に次々格納される。
【0050】
また、鋳型砂Sに関する情報として、1バッチの砂処理によって得られた鋳型砂Sの各種特性情報、例えば、砂粒度、全粘土分、抗圧力、せん断力等の各種砂特性がある。砂特性それぞれの数値データは、生成された鋳型砂Sをバッチ単位で分析することで得られ、分析結果が判明した後にデータ入力部65を用いて作業者が入力したり、ネットワークインターフェース67と接続された砂特性分析装置から取得したりする。このように鋳型砂データベース71には、砂処理のバッチ単位で、当該バッチの砂処理において得られた砂生成装置情報や砂特性情報の個別の数値データが格納される。
【0051】
造型データベース72には、造型工程における鋳型Mの製造にかかわる製造情報のうち、鋳型Mの造型に関する情報の数値データが格納される。鋳型Mの造型に関する情報としては、例えば、鋳型砂Sを導入する際のエアブロー圧、エアブロー時間、前型23及び後型24のそれぞれのスクイズ圧、前型23及び後型24それぞれの変位量(圧縮率)、前型23及び後型24それぞれの前進時間、後退時間、金型による押圧保持時間等がある。他にも、前型変位量と後型変位量との平均値である金型全体変位量、金型間の前後中央Xから部分鋳型Pの前端又は後端までのそれぞれの厚さ(前者を前鋳型厚さといい、後者を後鋳型厚さという。)、部分鋳型Pの部分厚さ、完成した鋳型Mの全体高さもある。これらの情報を造型装置情報と呼ぶ。造型装置情報には、実測値と、例えばエアブロー圧のような設定値とが含まれている。
【0052】
部分鋳型Pを造型するごとに、当該造型において得られた造型装置情報の個別の数値データが造型データベース72に次々格納される。そして、部分鋳型Pの造型時における各数値データは、当該部分鋳型Pを用いて造型される1つの鋳型Mの値として、ひとまとまりの状態で格納される。このように造型データベース72には、1つの鋳型M(完成鋳型)単位で、当該鋳型Mの造型において得られた造型装置情報の個別の数値データが格納される。
【0053】
ちなみに、前型23や後型24の変位量や鋳型厚さの数値データは、レベルセンサから得られた数値データがそのまま格納されるのではなく、当該数値データを用いた所定の演算が必要となる。例えば、前型変位量や後型変位量の数値データであれば、レベルセンサによって得られる後退位置データと前進位置データとの差を算出する必要がある。金型全体変位量の数値データであれば、前型変位量の数値データと後型変位量の数値データとの平均値を算出する必要がある。また、前型厚さや後型厚さの数値データであれば、金型間の前後中央Xを基準として、部分鋳型Pの前端又は後端の位置データをレベルセンサから得て、基準との間の距離を算出する必要がある。部分鋳型Pの部分厚さの数値データであれば、前鋳型厚さの数値データと後鋳型厚さ情報の数値データとの合計値を算出する必要がある。データ処理部62aは、これらの演算処理を行った上で、造型データベース72に各数値データを格納する。
【0054】
溶湯データベース73には、注湯工程において、溶解材料を溶解させて溶湯を生成する溶湯生成時の情報の数値データが格納される。溶湯生成時の情報は、注湯済み鋳型Maの製造に関する情報の一つである。溶湯生成時の情報としては、例えば、溶湯の成分に関する成分情報、生成された溶湯の温度、生成された溶湯の重量等のキュポラ41に関する情報等がある。溶湯の成分情報の数値データは溶湯をバッチ単位で分析することで得られ、分析結果が判明した後に、データ入力部65を用いて作業者が入力したり、ネットワークインターフェース67と接続された成分分析装置から取得したりする。溶湯温度やキュポラ41に関する情報等もバッチ単位で得られる。そのため、溶湯データベース73には、バッチ単位で、溶湯の成分情報、溶湯温度、キュポラ41に関する情報等の各数値データが格納される。
【0055】
注湯データベース74には、注湯工程において、鋳型Mへの注湯時の情報の数値データが格納される。注湯時の情報も、注湯済み鋳型Maの製造に関する情報の一つである。注湯時の情報としては、例えば、1つの鋳型Mに注湯を開始してから完了する(湯切りする)までの注湯時間、1つの鋳型Mに注いだ溶湯の重量である注湯重量、1つの鋳型Mに注いだ溶湯の温度である注湯温度等がある。注湯時間や注湯温度の数値データは、サーモカメラによって撮影された画像情報から得られる。画像情報が不良原因分析装置61に送信されると、データ処理部62aが当該画像情報を分析して、その分析結果から注湯時間や注湯温度の数値データを得る。なお、注湯装置43の側で画像分析を行い、それによって得られた注湯時間や注湯温度の数値データを不良原因分析装置61に送信してもよい。注湯済み鋳型Maの製造に関する情報の他の例として、取鍋42を傾動させる場合の角速度、湯切り角度等、注湯ごとの取鍋42の傾動に関する各種設定値情報もある。これらの情報を注湯に関する情報として注湯情報と呼ぶ。
【0056】
注湯時の情報の他の例として、キュポラ41から取鍋42が受湯した受湯重量もある。受湯重量は受湯情報に相当する。さらに他の例として、1度受湯した取鍋42から注湯される所定数の鋳型Mに注湯が完了した後、取鍋42に残った溶湯の重量である残湯重量もある。残湯重量は残湯情報の一つである。受湯重量及び残湯重量の各数値データは前記所定数の鋳型Mに共通するため、データ処理部62aは、当該所定数の鋳型Mのそれぞれに同じ数値データを割り当てる。このようにして、注湯データベース74には、1つの鋳型Mごとの単位で、当該鋳型Mへの注湯において得られた注湯時の情報の各数値データが格納される。
【0057】
なお、データベース70に格納される情報の中には、取鍋42の傾動に関する各種設定値情報等、数値データが実測値ではなく設定値も含まれている。設定値であっても、その時々のラインの状況に応じて作業者が設定値を変更する場合があるため、ライン稼働中、常に同じ設定値が用いられるわけではない。そのため、数値データが予め設定される種類の情報も、不良の原因となり得る製造情報の一つとしてデータベース70に格納され、不良原因を分析する対象としている。
【0058】
砂不良率データベース75及び溶湯不良率データベース76には、鋳造ラインによって製造された鋳物製品Cの不良率情報の数値データが格納される。鋳造ラインでは、複数の注湯後冷却済み鋳型Mbからなる注湯後冷却済み鋳型群の型ばらしをし、それによって得られた鋳物製品Cを一つのロットとする。ロットごとに鋳物製品Cを一つ一つ検査し、不良の有無を判別する。1つの注湯後冷却済み鋳型群(1ロット)を構成する注湯後冷却済み鋳型Mbの数は、1バッチの鋳型砂Sを用いて造型される鋳型Mの数と、1バッチの溶湯で注湯される鋳型Mの数との公倍数となるように予め設定されている。
【0059】
不良の種類としては、注湯前の鋳型Mに起因する砂不良と、注湯に起因する注湯不良とがあり、それぞれを分けて検査される。1つのロットについて、砂不良がある鋳物製品Cの数、注湯不良がある鋳物製品Cの数が判明すると、作業者はデータ入力部65によりそれらの数を入力する。データ処理部62aはその入力値を用いて、1ロットの注湯後冷却済み鋳型Mbの数と砂不良の数との比率から砂不良の不良率を算出し、同様に、1ロットの注湯後冷却済み鋳型Mbの数と溶湯不良の数との比率から溶湯不良の不良率を算出する。データ処理部62aは、その算出した不良率の数値データをロットごと、砂不良率に関しては砂不良率データベース75に、溶湯不良率に関しては溶湯不良率データベース76にそれぞれ格納する。
【0060】
システム制御部62は、前記データ処理部62aの他にデータ演算部62bを有している。データ演算部62bは、データベース70に格納された多数の数値データを用いて、不良原因分析のための演算を行う。
【0061】
[不良原因分析装置による不良原因分析処理]
次に、造型工程や注湯工程において収集した各種情報の数値データに基づき、鋳物製品Cの砂不良や溶湯不良をもたらす原因を分析する不良原因分析処理について説明する。不良原因分析処理は、図6に示すように、ステップS11のデータ前処理、ステップS12の異常因子抽出処理、ステップS13の影響度算出処理、ステップS14の影響度表示処理を実行する。その実行は、メモリ63に格納された不良原因分析プログラム69に従って、不良原因分析装置61のシステム制御部62が主体となって行う。
【0062】
[データ前処理]
ステップS11のデータ前処理は、システム制御部62のデータ処理部62aが実行する。ここでは、データベース70に格納された各種製造情報の数値データについて、データ演算部62bが当該数値データを用いて演算処理を実施することが可能な状態に整理する。
【0063】
データ前処理には、数値データの紐づけ処理が含まれる。ステップS111の紐づけ処理は、砂不良をもたらす原因を分析するために行われる砂不良用の紐づけ処理と、溶湯不良の原因を分析するために行われる溶湯不良用の紐づけ処理とに分けて行われる。
【0064】
砂不良用の紐づけ処理は、鋳型砂データベース71、造型データベース72、砂不良率データベース75に格納された各情報の数値データに対して行われる。
【0065】
鋳型砂データベース71では、バッチ単位で各情報の数値データが格納されている。一方、造型データベース72では、1つの鋳型単位で各情報の数値データが格納されている。そのため、鋳型砂データベース71の各数値データと造型データベース72の各数値データとでは、データを格納する単位が異なっている。もっとも、1バッチの鋳型砂Sによって造型される鋳型Mの数は予め設定されており、その設定数の鋳型Mについては、砂生成装置情報や砂特性情報の数値データは共通している。そのため、データ処理部62aは、1つの鋳型M(注湯前の鋳型M)ごと、当該鋳型Mの材料となった鋳型砂Sを生成したバッチの砂生成装置情報や砂特性情報の数値データを割り当てて紐づける。
【0066】
図7に、1バッチの鋳型砂Sから3つの鋳型Mを造型する場合を例として、データの紐づけ処理の様子を示している。図7に示すように、1バッチの砂生成装置情報や砂特性情報は、それを用いて造型された3つの鋳型Mについては同じ値である。そのため、バッチごとに3つのセルを作成してそれぞれに同じ数値を割り当てる。その上で、造型データベース72に格納された3つの鋳型Mそれぞれを造型した際の造型装置情報の数値データと紐づける。これにより、鋳型単位で、砂生成装置情報、砂特性情報、造型装置情報の各数値データが紐づけられた一連の造型データ群ZDを作成する。
【0067】
また、鋳造ラインに関して冒頭で説明したとおり、鋳型Mを造型する場合、当該鋳型Mの造型の材料となったバッチの鋳型砂Sだけでなく、当該バッチよりも前のバッチの鋳型砂Sが混入している可能性がある。そのため、データ処理部62aは、1つの鋳型Mに対して、当該鋳型Mの材料となったバッチの砂生成装置情報や鋳型砂情報の各数値データだけでなく、それよりも前のバッチにおける砂生成装置情報や鋳型砂情報の数値データも鋳型単位で紐づける。図7の例では、2つ前までのバッチにおける砂生成装置情報や鋳型砂情報の数値データを紐づけている。なお、いくつ前のバッチまで紐づけるかは設定により任意に変更可能である。
【0068】
砂不良の不良率は、当該不良率を算出したロットを構成する各注湯後冷却済み鋳型Mbの基になった鋳型Mについて、すべて同じ値である。そのため、データ処理部62aは、砂不良率を算出したロットの各注湯後冷却済み鋳型Mbの基になった鋳型Mそれぞれに、砂不良の不良率の数値データを割り当てて紐づける。図7に示すように、1バッチの鋳型砂Sで3つの鋳型Mが造型され、4バッチの鋳型砂Sによって造型された合計12個の鋳型Mを1つのロットとした場合、当該ロットの各注湯後冷却済み鋳型Mbから得られた鋳物製品Cの砂不良率が5%であったとする。この場合、これら各注湯後冷却済み鋳型Mbの基になった12個の鋳型Mについて、鋳型単位で紐づけられている砂生成装置情報、砂特性情報及び造型装置情報の一連の数値データに、砂不良率5%という数値データも合わせて紐づける。
【0069】
以上の砂不良用の紐づけ処理により、造型された1つの鋳型Mごとに、砂生成装置情報、砂特性情報、造型装置情報及び砂不良率(鋳型砂Sに関する不良率)の各数値データが紐づけられる。これにより、造型された1つの鋳型Mごとに、互いに紐づけられた一連の数値データからなる造型データ群ZDが形成される。鋳造ラインの稼働によりこの造型データ群ZDがデータベース70に蓄積され、データベース70には大量の造型データ群ZDからなるビッグデータが格納される。
【0070】
溶湯不良用の紐づけ処理は、溶湯データベース73、注湯データベース74及び溶湯不良率データベース76に格納された各情報の数値データに対して行われる。
【0071】
溶湯データベース73では、バッチ単位で、溶湯生成時の各情報の数値データが格納されている。一方、注湯データベース74では、1つの鋳型単位で、注湯時の各情報の数値データが格納されている。そのため、溶湯データベース73の各数値データと注湯データベース74の各数値データとでは、データを格納する単位が異なっている。もっとも、1バッチの溶湯を注湯する鋳型Mの数は予め設定されており、その設定数の鋳型Mについては、溶湯の成分情報等の溶湯生成時情報の数値データは共通している。そのため、データ処理部62aは、1つの鋳型M(注湯前の鋳型M)ごと、当該鋳型Mに注湯された溶湯を生成したバッチの溶湯生成時情報の数値データを割り当てて紐づける。
【0072】
図8に、1バッチの溶湯から3つの鋳型Mに注湯する場合を例として、データの紐づけ処理の様子を示している。図8に示すように、1バッチの溶湯生成時情報は、それを注湯した3つの鋳型Mについては同じ値である。そのため、バッチごとに3つのセルを作成してそれぞれに同じ数値を割り当てる。その上で、注湯データベース74に格納された3つの鋳型Mそれぞれに注湯した際の注湯時情報の数値データと紐づける。これにより、鋳型単位で、溶湯生成時情報及び注湯時情報の各数値データが紐づけられた一連の注湯データ群CDを作成する。
【0073】
注湯不良の不良率は、当該不良率が生じたロットの各注湯後冷却済み鋳型Mbの基になった鋳型Mについて、すべて同じ値である。そのため、データ処理部62aは、溶湯不良率を算出したロットの各注湯後冷却済み鋳型Mbの基になった鋳型Mそれぞれに、注湯不良の不良率の数値データを割り当てて紐づける。図8に示すように、1バッチの溶湯で3つの鋳型Mに注湯され、4バッチの溶湯によって注湯された合計12個の鋳型Mを一つのロットとした場合、当該ロットの各注湯後冷却済み鋳型Mbから得られた鋳物製品Cの溶湯不良率が3%であったとする。この場合、これら各注湯後冷却済み鋳型Mbの基になった12個の鋳型Mについて、鋳型単位で紐づけられている注湯情報、受湯重量情報、残湯重量情報及び溶湯の成分情報の一連の数値データに、溶湯不良率3%という数値データも合わせて紐づける。
【0074】
以上の溶湯不良用の紐づけ処理により、1つの注湯済み鋳型Maごとに、溶湯生成時情報、注湯時情報、受湯重量情報、残湯重量情報、及び溶湯不良率(溶湯に関する不良率)の各数値データが紐づけられる。これにより、1つの注湯済み鋳型Maごとに、互いに紐づけられた一連の数値データからなる注湯データ群CDが形成される。鋳造ラインの稼働によりこの注湯データ群CDがデータベース70に蓄積され、データベース70には大量の注湯データ群CDからなるビッグデータが格納される。
【0075】
データ前処理では、上記のデータ紐づけ処理の他、ステップS112のデータ整理処理も含まれている。データ整理処理は、エラー値や欠損に対して行われる。造型工程や溶湯工程のライン稼働中に収集される数値データの中には、想定外の数値を示したり、データそのものが得られなかったりするエラーデータが含まれる場合がある。情報の種類ごとに上限及び下限の閾値を定め、数値データがその上限閾値を超えたり、下限閾値を下回ったりした場合にエラーデータであると判別する。エラーデータは、データ送受信時のエラーや測定装置のエラー等に起因して生じる。また、造型工程や注湯工程において、注湯前の鋳型Mや注湯済み鋳型Maが搬送装置(図示略)の不調等により欠損することがあり、その場合、収集された数値データに対応する鋳型Mや注湯済み鋳型Maが存在しない。そのため、不良原因の分析の精度を高めるため、データ処理部62aは、図7及び図8に示すように、これらエラー値を含むデータ群や欠損した鋳型Mに対応するデータ群を削除する。なお、ステップS111のデータ紐づけ処理とステップS112のデータ整理処理との処理の先後は、逆であってもよい。
【0076】
[異常因子抽出処理]
ステップS11のデータ前処理が終了すると、システム制御部62のデータ演算部62bはステップS12の異常因子抽出処理を行う。異常因子抽出処理では、大量の造型データ群ZD又は注湯データ群CDを用いて、鋳型Mの製造にかかわる各種情報又は注湯済み鋳型Maの製造にかかわる各種情報の中から、異常を示す特定の情報(異常因子)を抽出する。そのため、データ演算部62bが異常因子抽出手段に相当する。また、この異常因子抽出処理の過程が、不良原因分析方法における異常因子抽出工程に相当する。
【0077】
異常因子抽出処理では、まず、ステップS121において、造型データ群ZD又は注湯データ群CDを不良率ごとのグループに分類する。この場合、絶対値で1つのグループを構成してもよいし、所定の数値範囲で1つのグループを構成してもよい。例えば、不良閾値を0.1に設定し、不良率が不良閾値である0.1%以下のグループ、不良率が0.1を超え1%以下のグループ、不良率が1%を超え2%以下のグループ、不良率が2%を超えるグループにそれぞれ分類する。
【0078】
続くステップS122で、分類されたグループごとに当該グループに分類された造型データ群ZD又は注湯データ群CDについて、教師なし学習の学習モデルを用いた機械学習を実行する。本実施の形態では、教師なし学習の学習モデルとして、マハラノビス距離を用いた手法を採用している。また、不良閾値を設定し、不良閾値を超えるグループだけを教師なし学習の実行対象としている。例えば、先の例では、不良率0.1%が不良閾値として設定されているため、不良率が0.1%以下のグループは教師なし学習の対象としない。もっとも、不良閾値以下のグループを教師なし学習の対象することを排除するものではなく、不良閾値以下のグループも含めてすべてのグループについて教師なし学習を実行してもよい。
【0079】
この教師なし学習により、不良閾値を超えるグループごとに、当該グループに属する造型データ群ZD又は注湯データ群CDの各数値データの中で、予め定められた異常判定閾値を超える(単位空間に属さない)数値データを抽出する。併せて、その抽出された数値データの属性を把握するとともに、異常度(マハラノビス距離)を算出する。
【0080】
続くステップS123で、異常判別処理を実行する。異常判別処理では、教師なし学習の対象となった特定のグループ内で、異常度が、予め設定された第1異常判別閾値を超える数値データが、予め設定された第2異常判別閾値を超える数だけ存在する属性を異常因子と判別する。つまり、鋳型Mの製造又は注湯済み鋳型Maの製造にかかわる各種情報の中から、2つの異常判別閾値を超える数値データで構成される情報(属性)を異常因子であると判別し、その情報を異常因子として抽出する。ここで抽出される異常情報は、各種情報の中の1つが抽出される場合だけでなく、複数の種類の情報が抽出される場合もある。異常因子として抽出された情報は、その数値データのバラツキが大きいことを示している。
【0081】
[影響度算出処理]
異常因子抽出処理の後、ステップS13では、影響度算出処理を行う。影響度算出処理では、大量の造型データ群ZD又は注湯データ群CDを再度分析する。この分析により、鋳型Mの製造又は注湯済み鋳型Maの製造にかかわる各種情報のうち、異常因子となった情報に対する他の種類の情報のそれぞれの影響度を算出する。そのため、データ演算部62bが影響度算出手段に相当する。また、この影響度算出処理の過程が、不良原因分析方法における影響度算出工程に相当する。影響度の算出は、機械学習における教師あり学習の学習モデルを用いて行う。本実施の形態では、教師あり学習の学習モデルとして、正則化回帰を用いた手法を採用している。
【0082】
この正則化回帰を用いた手法の学習モデルでは、鋳型Mの製造又は注湯済み鋳型Maにかかわる各種情報について、異常因子として抽出された情報を目的変数(教師データ)とし、それ以外の種類の情報を説明変数として線形の予測モデル式を作成する。作成される予測モデル式は、次の式(1)で表される。
y=β0+β1x1+β2x2+・・・+βnxn ・・・(1)
式(1)において、yは目的変数、つまり異常因子として抽出された情報、xは説明変数、つまり異常因子として抽出された情報以外の情報である。また、βnは説明変数についての偏回帰係数、β0は切片である。
【0083】
作成された予測モデル式において、偏回帰係数βnの大きさが、目的変数とされた異常因子に対する影響度の大きさに相当する。そのため、予測モデル式を作成することにより、説明変数とされた各情報についての偏回帰係数βn、つまり影響度を算出する。この処理で算出される影響度は、異常因子とされた特定の情報が有する数値データのバラツキに、他の情報が有する数値データのバラツキがどの程度影響しているかを示すものとなる。そして、この影響度の算出結果が、不良原因分析装置61によって行われた不良原因分析の分析結果である。
【0084】
[影響度表示]
続くステップS14では、影響度表示処理を行う。影響度表示処理では、説明変数とされた情報ごとに、偏回帰係数βnの数値、すなわち影響度の数値を情報表示部66に表示する。この場合、説明変数とされたすべての種類の情報についてそれぞれの影響度を表示するようにしてもよいし、影響度が予め定められた閾値を超えるものだけを表示するようにしてもよい。情報表示部66への表示方法としては、例えば、説明変数とされた各情報を横軸に、各情報の影響度の数値を縦軸とするグラフを作成して表示すれば、情報ごとの影響度を一覧で表示することができる。
【0085】
[分析を踏まえた不良原因の推定と対策]
不良原因分析装置61によって得られた分析結果、すなわち、異常因子とされた特定の情報に対する他の種類の情報の各影響度に基づいて、作業者は、影響度が比較的高い情報を不良原因であると推定する。そして、不良原因として推定されたものの中から、対策可能な情報を選択し、その選択された情報についてその数値データにバラツキが生じないようにするための対策を実施する。
【0086】
例えば、砂不良に関する分析において、「前型変位量(圧縮率)」が異常因子であるとして抽出され、「前型変位量」に対して「砂粒度」の影響度が比較的高く、それが不良原因の一つであると推定したとする。この場合、「前型変位量」の数値データに異常なバラツキが生じており、そのバラツキには「砂粒度」の数値データのバラツキが大きく影響していると分析されたことになる。そこで、作業者は、「砂粒度」のバラツキを抑制するため、例えば、投入される補給砂を不純物のより少ないものに変更するという対策を実施する。これにより、「前型変位量」のバラツキが改善され、砂不良率の低減に寄与できる。
【0087】
また、溶湯不良に関する分析において、「注湯時間」が異常因子であるとして抽出され、「注湯時間」に対して「受湯重量」の影響度が比較的高く、それが不良原因の一つであると推定したとする。この場合、「注湯時間」の数値データに異常なバラツキが生じており、そのバラツキには「受湯重量」の数値データのバラツキが大きく影響していると分析されたことになる。そこで、作業者は、「受湯重量」のバラツキを抑制するため、例えば、受湯重量が一定となるように残湯重量に応じてキュポラ41からの出湯重量を調整して、受湯重量が一定となるようにする対策を実施する。これにより、「注湯時間」のバラツキが改善され、溶湯不良率の低減に寄与できる。
【0088】
以上説明した本実施の形態の不良原因分析システム60、不良原因分析プログラム69及び不良原因分析方法によれば、次の作用効果が得られる。
【0089】
(1)鋳造ラインでは、鋳型Mや注湯済み鋳型Maといった中間品を製造する際の特定の製造情報には、他の様々な種類の製造情報が影響する。例えば、注湯時間には、注湯装置43の駆動設定値を調整すれば注湯時間の数値データを操作できるというような単純なものではない。注湯温度、受湯重量、残湯重量等、他の様々な種類の製造情報の数値データが注湯時間の数値データに影響し、それらが注湯時間の数値データを左右し得る。そのため、各種製造情報の中から異常因子を抽出するだけでは、不良原因の分析としては不十分である。
【0090】
そこで、不良原因分析装置61では、各種製造情報の中から異常因子を抽出した後、その異常因子に対して他の種類の製造情報がどの程度影響しているのかの影響度を算出している。この影響度から、鋳物製品Cの不良率を高めている原因となる製造情報を推定すれば、その推定された製造情報を改善することで不良率を低減させることができる。その結果、経験値や勘に頼ることなく不良率の低減を効率的に行えるとともに、不良率の低減対策を標準化することができる。
【0091】
(2)造型データ群ZD又は注湯データ群CDに不良率を紐づけ、不良閾値を超えるデータ群を対象として異常抽出処理を行っている。不良率が低いデータ群の分析が行われないため、異常因子を抽出する処理を効率的に行うことができる。
【0092】
(3)造型データ群ZD又は注湯データ群CDに不良率を紐づけ、不良率ごとに分類されたグループのうち、不良閾値を超えたグループごとに、当該グループに属するデータ群を分析して異常因子を抽出している。これにより、全体をまとめて分析する場合には抽出できなかった異常因子も抽出することができ、不良率をより一層低減することに役立つ。
【0093】
(4)注湯データ群CDには、注湯情報、受湯重量情報、残湯重量情報及び溶湯の成分情報が含まれており、溶湯不良率に影響し得る製造情報を網羅している。そのため、注湯工程における異常因子の抽出や当該異常因子への影響度の算出精度が高められ、不良原因の分析精度を高めることができる。
【0094】
(5)造型データ群ZDには、砂生成装置情報、砂特性情報、造型装置情報が含まれており、砂不良率に影響し得る製造情報を網羅している。そのため、造型工程における異常因子の抽出や当該異常因子への影響度の算出精度が高められ、不良原因の分析精度を高めることができる。
【0095】
(6)造型データ群ZDには、前に造型された鋳型Mの材料として用いられた別の鋳型砂Sに関する鋳型砂情報と、当該別の鋳型砂Sの生成に関する砂生成装置情報も紐づけられ、異常因子の抽出や影響度の算出に用いられる。鋳型Mを造型する場合、その造型に用いられた鋳型砂Sだけでなく、それよりも前の鋳型Mの材料として用いられた別の鋳型砂Sが混入している可能性がある。そのため、その別の鋳型砂Sの情報も分析対象とすることで、造型工程における異常因子の抽出や当該異常因子の影響度の算出精度がより一層高められる。これにより、不良原因の分析精度をより一層高めることができる。
【0096】
(7)鋳型砂Sの各情報はバッチ単位で数値データが収集され、造型装置20の各情報は1つの鋳型単位で数値データが収集され、砂不良率の情報はロット単位で数値データが収集され、それぞれ数値データの収集単位が異なる。同様に、溶湯生成時の各情報はバッチ単位で数値データが収集され、注湯時の各情報は1つの鋳型単位で数値データが収集され、溶湯不良率の情報はロット単位で数値データが収集され、それぞれ数値データの収集単位が異なる。そのため、データ処理部62aは、バッチ単位の数値データとロット単位の数値データを1つの鋳型単位に割り当てて紐づけるためのデータ前処理を実行している。これにより、1つの鋳型単位で不良率を分析することができる。
【0097】
<その他の実施の形態>
上記実施の形態に限らず、例えば次のように実施されてもよい。
【0098】
(a)上記実施の形態では、異常因子抽出処理において、不良閾値以下のグループに分類されたデータ群を、教師なし学習の学習モデルを用いた機械学習の対象としていないが、それも教師なし学習の対象としてもよい。
【0099】
(b)上記実施の形態では、異常因子抽出処理において、教師なし学習の学習モデルとして、マハラノビス距離を用いた手法を採用した。教師なし学習の学習モデルとしてはこれに限定されず、例えば、グラフィカルモデリング、サポートベクターマシン(SVM)等の手法を採用してもよい。
【0100】
(c)上記実施の形態では、影響度算出処理において、教師あり学習の学習モデルとして、正則化回帰の手法を採用した。教師あり学習の学習モデルとしてはこれに限定されず、例えば、決定木、重回帰、深層学習(DNN)等の手法を採用してもよい。
【0101】
(d)上記実施の形態において、不良原因分析システム60は、鋳造ラインにおける造型工程及び注湯工程における不良原因を分析しているが、型ばらし工程における不良原因の分析をするようにしてもよい。この場合、型ばらし工程で用いられる型ばらし装置50の鋳型押圧部の押圧力等、型ばらし時の不良原因となり得る設定値及び実測値情報を製造情報とし、型ばらし時にそれら情報の数値データを収集し不良原因分析装置61に送信するシステムを構築する。そして、型ばらし工程を経て得られた鋳物製品Cが、ここでの中間品となる。収集された数値データを用いて、上記実施の形態における不良原因分析処理を実行すれば、型ばらし工程に起因する不良原因を分析することができる。
【0102】
(e)上記実施の形態では、不良原因分析処理におけるデータ前処理において、データ整理処理として、エラー値を含むデータ群を削除している。このように削除するのではなく、エラー値部分に任意の数値データを入れたり、前後の数値を入れたりする整理を行うようにしてもよい。
【0103】
(f)上記実施の形態では、不良原因分析システム60は、抽出した異常因子に対する他の種類の情報の影響度を分析結果とし、それを表示するところまでを実行し、その分析結果に基づく不良原因の推定は人が行っている。これに加え、システム制御部62によって不良原因を推定する不良原因推定システムを構築してもよい。この場合、メモリ63には、不良原因を推定するステップを不良原因分析プログラム69に加えた不良原因推定プログラムが記憶される。システム制御部62は、その不良原因推定プログラムに従って不良原因推定処理を実行する。
【0104】
不良原因推定処理では、異常因子に対する他の種類の情報の影響度が算出された後、予め定められた不良判別基準に基づいて不良原因を推定する。この場合の不良判別基準として、例えば、各種情報の中には現場において即時に対策可能なものと、詳細な調査検討が必要になるものとがある場合に、前者の情報を予め設定しておき、影響度が閾値を超える情報の中で、当該設定された情報に該当するものを不良原因として判別することが考えられる。
【0105】
(g)上記実施の形態では、ステップS123の異常判別処理において、2つの異常判別閾値を超える数値データで構成される情報(属性)を異常因子であると判別するようにしている。これに代えて、1つの異常判別閾値を超える数値データで構成される情報(属性)を異常因子であると判別してもよい。例えば、予め定められた異常判定閾値を超える(単位空間に属さない)数値データが、予め設定された1つの異常判別閾値を超える数だけ存在する属性を異常因子と判別するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0106】
11…砂処理装置(鋳型砂生成装置)、20…造型装置、42…取鍋、60…不良原因分析システム、62b…データ演算部(異常因子抽出手段、影響度算出手段)、67…ネットワークインターフェース(データ収集手段)、70…データベース(記憶手段)、C…鋳物製品、M…鋳型(中間品)、Ma…注湯済み鋳型(中間品)、Mb…注湯後冷却済み鋳型、ZD…造型データ群、CD…注湯データ群。
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