(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023044488
(43)【公開日】2023-03-30
(54)【発明の名称】ハイブリッド船舶推進機
(51)【国際特許分類】
B63H 20/08 20060101AFI20230323BHJP
B63H 20/00 20060101ALI20230323BHJP
B63H 21/17 20060101ALI20230323BHJP
B63H 21/14 20060101ALI20230323BHJP
B63H 25/42 20060101ALI20230323BHJP
B63H 5/08 20060101ALI20230323BHJP
B63H 5/125 20060101ALI20230323BHJP
【FI】
B63H20/08 100
B63H20/00 610
B63H21/17
B63H21/14
B63H25/42 G
B63H25/42 E
B63H5/08
B63H5/125
B63H20/00 510
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021152541
(22)【出願日】2021-09-17
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 周彦
(74)【代理人】
【識別番号】100139365
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100150304
【弁理士】
【氏名又は名称】溝口 勉
(72)【発明者】
【氏名】金原 匡利
(57)【要約】
【課題】ハイブリッド船舶推進機の内部構造の複雑化を防ぎ、かつプレーニング時における船舶の航走性能の低下を抑制する。
【解決手段】ハイブリッド船外機1は、内燃機関により船舶の推進力を生成する内燃駆動推進部11と、電動モータにより船舶の推進力を生成する電動推進ユニット30とを備えている。電動推進ユニット30は、内燃駆動推進部11においてミドルケース21の後部からギヤケース22の上側後部にかけての部分に着脱可能に取り付けられ、船舶のプレーニング状態ではない低速移動時には電動推進ユニット30のプロペラ34、54が水面下に沈み、船舶のプレーニング時には電動推進ユニット30のプロペラ34、54が水面から出るように、アンチキャビテーションプレート23よりも高い位置に配置されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関により船舶の推進力を生成する内燃駆動推進部と、電動モータにより前記船舶の推進力を生成する電動推進部とを備えたハイブリッド船舶推進機であって、
前記内燃駆動推進部は、
前記内燃機関と、
前記内燃機関から出力された動力により回転する第1のプロペラシャフトと、
前記内燃機関から出力された動力を前記第1のプロペラシャフトに伝達する動力伝達機構と、
前記動力伝達機構および前記第1のプロペラシャフトを収容する第1の収容部と、
前記第1のプロペラシャフトに取り付けられた第1のプロペラと、
前記第1の収容部に設けられ、前記第1のプロペラの上方に配置されたアンチキャビテーションプレートとを備え、
前記電動推進部は、
前記電動モータと、
前記第1のプロペラシャフトとは別々に設けられ、前記電動モータから出力された動力により回転する第2のプロペラシャフトと、
前記電動モータおよび前記第2のプロペラシャフトを収容する第2の収容部と、
前記第1のプロペラとは別々に設けられ、前記第2のプロペラシャフトに取り付けられた第2のプロペラとを備え、
前記電動推進部は、前記第1の収容部に取り付けられ、前記船舶のプレーニング状態ではない低速移動時には前記第2のプロペラが水面下に沈み、前記船舶のプレーニング時には前記第2のプロペラが水面から出るように、前記アンチキャビテーションプレートよりも高い位置に配置されていることを特徴とするハイブリッド船舶推進機。
【請求項2】
前記電動推進部には、当該電動推進部を前記第1の収容部に取り付けるための取付部が設けられ、
前記電動推進部は、前記第1の収容部に前記取付部を介して着脱可能に取り付けられることを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド船舶推進機。
【請求項3】
前記第1の収容部または前記取付部には、前記内燃駆動推進部に対する前記電動推進部の取付位置を上下方向に変更することができる取付位置変更構造が設けられていることを特徴とする請求項2に記載のハイブリッド船舶推進機。
【請求項4】
前記第2の収容部内には、前記電動モータの駆動を制御するインバータが設けられていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のハイブリッド船舶推進機。
【請求項5】
2つの前記電動推進部を備え、
当該ハイブリッド船舶推進機を上方から見たときに、前記2つの電動推進部は、それぞれの前記第2のプロペラシャフトの軸線が互いに直交するように配置されていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のハイブリッド船舶推進機。
【請求項6】
2つの前記電動推進部を備え、
当該ハイブリッド船舶推進機を上方から見たときに、前記2つの電動推進部は、それぞれの前記第2のプロペラシャフトが互いに平行またはハの字状となるように配置されていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のハイブリッド船舶推進機。
【請求項7】
前記各電動推進部の電動モータの回転を制御することにより、前記船舶を任意の位置に移動させ、または前記船舶を現在の位置に保持する移動制御部を備えていることを特徴とする請求項5または6に記載のハイブリッド船舶推進機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関を動力源とする内燃駆動推進部と、電動モータを動力源とする電動推進部とを備えたハイブリッド船舶推進機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関を動力源とする船舶推進機が一般的であるが、近時、電動モータを動力源とする船舶推進機も普及している。
【0003】
内燃機関と電動モータとを比較すると、船舶を長時間に亘って高速航行させる能力については、内燃機関の方が電動モータよりも優れているといえる。電動モータを長時間に亘って高速回転させるためには大容量のバッテリが必要であることを考えると、現在においては内燃機関の方が実用的である。一方、船舶を極めて低速で移動させる能力については、低回転域から高トルクを発生させることができる電動モータの方が内燃機関よりも優れているといえる。また、低速航行時の静粛性については、電動モータの方が内燃機関よりも優れているといえる。内燃機関においては、低速航行時の大きな駆動音が耳障りになることがある。
【0004】
また、船舶推進機の動力源として、内燃機関と電動モータとの双方を用いる方法がある。この方法によれば、高速域における内燃機関の高い能力を生かしつつ、低速域における内燃機関の能力不足を電動モータにより補うことができる。また、この方法によれば、低速航行時の騒音を抑制することができる。
【0005】
船舶推進機の動力源として内燃機関と電動モータとの双方を用いる方法には、具体的には、次の2通りの方法がある。
【0006】
第1は、内燃機関のみを動力源とする内燃駆動の船舶推進機と、電動モータのみを動力源とする電動の船舶推進機とをそれぞれ別々に用意し、これら2種類の船舶推進機を船舶に設ける方法である。例えば、内燃駆動の船外機と電動の船外機とを1隻の船舶に多機掛けすることが、これに相当する。第2は、内燃機関と電動モータとの双方を動力源として備えたハイブリッド船舶推進機を船舶に設ける方法である。
【0007】
下記の特許文献1には、内燃機関と電動モータとの双方を動力源として備えた船外機が記載されている。この船外機は、内燃機関および電動モータを内蔵しており、内燃機関の動力と電動モータの動力とが、共通のメインドライブシャフトおよび共通のプロペラシャフトを介して共通のプロペラに伝達される構造を有している。特許文献1の
図2には、内燃機関の動力および電動モータの動力をメインドライブシャフトに伝達する機構が示されており、この機構には、自動遠心クラッチや多数のギヤが設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
船舶推進機の動力源として内燃機関と電動モータとの双方を用いる方法によれば、上述したように、内燃機関の長所を生かしつつ、内燃機関の短所を電動モータにより補うことができ、広範囲の速度域において船舶の航走性能を高めることができる。
【0010】
しかしながら、内燃機関のみを動力源とする内燃駆動の船舶推進機と、電動モータのみを動力源とする電動の船舶推進機とを船舶に設ける方法については、次のような問題がある。
【0011】
内燃駆動の船舶推進機と電動の船舶推進機とを設けるには、ある程度大きなスペースを要する。それゆえ、船尾部分のスペースが小さい小型の船舶に、内燃駆動の船舶推進機と電動の船舶推進機とを設けることは難しい。また、中型の船舶においても、例えば内燃駆動の複数の船外機が船舶に既に多機掛けされている場合には、その船舶に電動の船外機をさらに取り付けることは困難なことがある。
【0012】
また、ハイブリッド船舶推進機を設ける方法については、上記特許文献1に記載された船外機のように、内燃機関の動力と電動モータの動力とを共通のドライブシャフトに伝達する機構が複雑であり、製造コストが高くなるという問題がある。
【0013】
そこで、本出願の発明者は、電動モータと、この電動モータの出力軸に接続されたプロペラとを備えた電動推進装置を、内燃機関のみを動力源とする内燃駆動の船舶推進機に外付けする方法を考えた。この方法によれば、電動推進装置が外付けされた内燃駆動の船舶推進機を船舶に設けることとなるので、船舶に直接設ける船舶推進機は内燃駆動の船舶推進機のみである。したがって、船尾部分のスペースが小さい小型の船舶においても、内燃駆動の複数の船外機が既に多機掛けされている船舶においても、電動推進装置が外付けされた内燃駆動の船舶推進機を容易に設けることができ、内燃駆動による推進力と電動による推進力とを得ることができる。また、この方法によれば、電動推進装置は内燃駆動の船舶推進機に外付けされているので、内燃機関の動力により回転するプロペラと、電動モータの動力により回転するプロペラとはそれぞれ別々であり、また、内燃機関からプロペラへ動力を伝達する機構と、電動モータからプロペラへ動力を伝達する機構とはそれぞれ別々である。したがって、内燃機関による推進力と電動モータによる推進力とを得るに当たり、内燃機関の動力と電動モータの動力とを共通のドライブシャフトに伝達する複雑な機構を船舶推進機に設ける必要がない。
【0014】
しかしながら、電動推進装置を内燃駆動の船舶推進機に外付けする方法には、次のような問題がある。内燃駆動の船舶推進機に外付けした電動推進装置は水面下に沈んでいる。そのため、船舶の移動時には、電動推進装置に水が当たり、それが船舶の移動に対する抵抗となる。その抵抗が、船舶のプレーニング時に高くなり、プレーニング時における船舶の航走性能を低下させるおそれがある。
【0015】
本発明は例えば上述したような問題に鑑みなされたものであり、本発明の目的は、内部の構造の複雑化を防ぐことができ、かつプレーニング時における船舶の航走性能の低下を抑制することができるハイブリッド船舶推進機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために、本発明は、内燃機関により船舶の推進力を生成する内燃駆動推進部と、電動モータにより前記船舶の推進力を生成する電動推進部とを備えたハイブリッド船舶推進機であって、前記内燃駆動推進部は、前記内燃機関と、前記内燃機関から出力された動力により回転する第1のプロペラシャフトと、前記内燃機関から出力された動力を前記第1のプロペラシャフトに伝達する動力伝達機構と、前記動力伝達機構および前記第1のプロペラシャフトを収容する第1の収容部と、前記第1のプロペラシャフトに取り付けられた第1のプロペラと、前記第1の収容部に設けられ、前記第1のプロペラの上方に配置されたアンチキャビテーションプレートとを備え、前記電動推進部は、前記電動モータと、前記第1のプロペラシャフトとは別々に設けられ、前記電動モータから出力された動力により回転する第2のプロペラシャフトと、前記電動モータおよび前記第2のプロペラシャフトを収容する第2の収容部と、前記第1のプロペラとは別々に設けられ、前記第2のプロペラシャフトに取り付けられた第2のプロペラとを備え、前記電動推進部は、前記第1の収容部に取り付けられ、前記船舶のプレーニング状態ではない低速移動時には前記第2のプロペラが水面下に沈み、前記船舶のプレーニング時には前記第2のプロペラが水面から出るように、前記アンチキャビテーションプレートよりも高い位置に配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ハイブリッド船舶推進機の内部の構造の複雑化を防ぐことができ、かつプレーニング時における船舶の航走性能の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明のハイブリッド船舶推進機の実施例であるハイブリッド船外機をその左側から見た状態を示す説明図である。
【
図2】本発明の実施例のハイブリッド船外機の下部をその左上後ろ側から見た状態を示す斜視図である。
【
図3】本発明の実施例のハイブリッド船外機において、ミドルケース、アンチキャビテーションプレートおよび電動推進ユニット等をそれらの上側から見た状態を示す説明図である。
【
図4】本発明の実施例のハイブリッド船外機において、ミドルケース、ギヤケース、アンチキャビテーションプレートおよび電動推進ユニット等をそれらの後ろ側から見た状態を示す説明図である。
【
図5】本発明の実施例のハイブリッド船外機における電動推進ユニットをその右側から見た状態を示す説明図である。
【
図6】本発明の実施例のハイブリッド船外機と水面との位置関係を示す説明図であり、図中の(A)は低速移動時におけるハイブリッド船外機と水面との位置関係を示し、図中の(B)はプレーニング時におけるハイブリッド船外機と水面との位置関係を示す。
【
図7】本発明の実施例のハイブリッド船外機において、電動推進ユニットを内燃駆動推進部に取り付ける構造を示す説明図である。
【
図8】本発明の実施例のハイブリッド船外機に関する電気的構成を示す説明図である。
【
図9】本発明の実施例のハイブリッド船外機による船舶の移動制御を示す説明図である。
【
図10】本発明の実施例のハイブリッド船外機のいくつかの変形例および応用例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態のハイブリッド船舶推進機は、内燃機関により船舶の推進力を生成する内燃駆動推進部と、電動モータにより船舶の推進力を生成する電動推進部とを備えている。
【0020】
内燃駆動推進部は、内燃機関と、内燃機関から出力された動力により回転する第1のプロペラシャフトと、内燃機関から出力された動力を第1のプロペラシャフトに伝達する動力伝達機構と、動力伝達機構および第1のプロペラシャフトを収容する第1の収容部と、第1のプロペラシャフトに取り付けられた第1のプロペラと、第1の収容部に設けられ、第1のプロペラの上方に配置されたアンチキャビテーションプレートとを備えている。
【0021】
電動推進部は、電動モータと、第1のプロペラシャフトとは別々に設けられ、電動モータから出力された動力により回転する第2のプロペラシャフトと、電動モータおよび第2のプロペラシャフトを収容する第2の収容部と、第1のプロペラとは別々に設けられ、第2のプロペラシャフトに取り付けられた第2のプロペラとを備えている。
【0022】
また、電動推進部は、第1の収容部に取り付けられ、船舶のプレーニング状態ではない低速移動時には第2のプロペラが水面下に沈み、船舶のプレーニング時には第2のプロペラが水面から出るように、アンチキャビテーションプレートよりも高い位置に配置されている。
【0023】
電動推進部の取付位置をこのように設定したことにより、船舶のプレーニング時に水が電動推進部に当たることによって生じる抵抗を小さくすることができ、プレーニング時における船舶の航走性能がこの抵抗によって低下することを抑制することができる。
【0024】
また、内燃駆動推進部の第1のプロペラと電動推進部の第2のプロペラとはそれぞれ別々に設けられている。また、内燃駆動推進部において内燃機関の動力を第1のプロペラに伝達する機構(動力伝達機構および第1のプロペラシャフト)と電動推進部の第2のプロペラシャフトとはそれぞれ別々に設けられている。これにより、内燃機関の動力と電動モータの動力とを共通のドライブシャフトに伝達する複雑な機構を用いることなく、内燃機関による推進力と電動モータによる推進力とを生成することができる。したがって、ハイブリッド船舶推進機の内部の構造の複雑化を防ぐことができる。
【実施例0025】
以下、本発明のハイブリッド船舶推進機の実施例であるハイブリッド船外機につき、図面を参照しながら説明する。なお、実施例において、前(Fd)、後(Bd)、左(Ld)、右(Rd)、上(Ud)、下(Dd)の方向を述べる際には、
図1~7および9中の右下に描いた矢印に従う。
【0026】
(ハイブリッド船外機)
図1は、本発明の実施例であるハイブリッド船外機1をその左側から見た状態を示している。
図2は、ハイブリッド船外機1の下部をその左上後ろ側から見た状態を示している。
【0027】
ハイブリッド船外機1は、内燃機関と電動モータとの双方を動力源とする船外機である。ハイブリッド船外機1は、
図1に示すように、内燃駆動推進部11および電動推進ユニット30を備えている。内燃駆動推進部11は、内燃機関により船舶の推進力を生成する部分である。一方、電動推進ユニット30は2つの電動推進部31、51を組み合わせてユニット化したものである。各電動推進部31、51は、電動モータにより船舶の推進力を生成する部分である。電動推進ユニット30は、
図2に示すように、内燃駆動推進部11においてアンチキャビテーションプレート23の上方に位置する部分に、内燃駆動推進部11の外側から取り付けられている(外付けされている)。以下、ハイブリッド船外機1を単に「船外機1」という。
【0028】
(内燃駆動推進部)
内燃駆動推進部11は、船外機1の上部に設けられた内燃機関12と、船外機1の上下方向中間部を上下方向に伸長するドライブシャフト13と、船外機1の下部に設けられたギヤ機構14と、船外機1の下部に設けられて、前後方向に伸長するプロペラシャフト15と、プロペラシャフト15の後端側部分に取り付けられたプロペラ16とを備えている。
【0029】
内燃機関12は、例えば、ガソリンを燃料とする4ストロークエンジンである。内燃機関12から出力された動力はドライブシャフト13およびギヤ機構14を介してプロペラシャフト15に伝達される。これにより、プロペラシャフト15は内燃機関12の動力に基づいて回転する。プロペラ16はプロペラシャフト15と共に回転し、船舶の推進力を生成する。また、ギヤ機構14にはクラッチ(図示せず)が設けられ、クラッチの動作により、内燃機関12の動力をプロペラシャフト15に伝達するか否かの切替、およびプロペラシャフト15の回転方向の切替を行うことができるようになっている。
【0030】
また、内燃駆動推進部11は、トップカウル18、ボトムカウル19、アッパーケース20、ミドルケース21、およびギヤケース22(ロワーケース)を備えている。なお、理解の便宜のため、
図1および
図6中のミドルケース21において、外部に露出している部分にドット模様を付した。
【0031】
トップカウル18およびボトムカウル19は内燃機関12を覆っている。アッパーケース20内およびミドルケース21内にはドライブシャフト13が収容されている。ギヤケース22内には、ギヤ機構14およびプロペラシャフト15の前端側部分が収容されている。また、ギヤケース22の後部の上側部分であって、プロペラ16の上方には、プロペラ16への空気の吸込みを抑制するアンチキャビテーションプレート23が設けられている。また、アッパーケース20の前方には、船外機1を船舶のトランサムに取り付けて固定するためのクランプブラケット24が設けられている。クランプブラケット24にはスイベルブラケット25が取り付けられ、船外機1は、その左右方向の向きを変えることができるように、スイベルブラケット25にステアリングシャフト26を介して回動可能に支持されている。
【0032】
なお、プロペラシャフト15は「第1のプロペラシャフト」の具体例である。また、ドライブシャフト13およびギヤ機構14は「動力伝達機構」の具体例である。また、プロペラ16は「第1のプロペラ」の具体例である。また、アッパーケース20、ミドルケース21およびギヤケース22は「第1の収容部」の具体例である。
【0033】
(電動推進ユニット)
図3は、ミドルケース21、アンチキャビテーションプレート23および電動推進ユニット30等をそれらの上側から見た状態を示している。
図4は、ミドルケース21、ギヤケース22、アンチキャビテーションプレート23および電動推進ユニット30等をそれらの後ろ側から見た状態を示している。
図5は、電動推進ユニット30をその右側から見た状態を示している。
【0034】
電動推進ユニット30は、内燃駆動推進部11が生成する推進力の方向と同じ方向の推進力を生成する第1の電動推進部31と、内燃駆動推進部11が生成する推進力の方向と直交する方向の推進力を生成する第2の電動推進部51とを備えている。
【0035】
第1の電動推進部31は、
図5に示すように、電動モータ32、プロペラシャフト33、プロペラ34、インバータ35、収容ケース36、およびプロペラガード37を備えている。
【0036】
電動モータ32は例えばブラシレスモータである。プロペラシャフト33は、前後方向に伸長し、その前端部が電動モータ32の出力軸に接続されている。プロペラシャフト33は、電動モータ32の出力軸と共に回転し、電動モータ32の回転をプロペラ34に伝達する。また、プロペラシャフト33の軸線Bは、
図1に示すように、内燃駆動推進部11のプロペラシャフト15の軸線Aと平行である。
【0037】
プロペラ34は、
図5に示すように、プロペラシャフト33の後端側部分に取り付けられている。プロペラ34は、プロペラシャフト33と共に回転し、内燃駆動推進部11が生成する推進力の方向と同じ方向(前後方向)の推進力を生成する。
【0038】
インバータ35は、電動モータ32の駆動を制御する回路である。電動モータ32、プロペラシャフト33の前端側部分およびインバータ35は収容ケース36内に収容されている。収容ケース36はその内部に水が浸入することを防止する完全防水構造を有している。
【0039】
プロペラガード37は、主に水中または水面に存在する物体のプロペラ34への接触を回避してプロペラ34を保護する部材である。プロペラガード37は、概ね円錐状の外形を有する筒状に形成され、プロペラ34の周囲を覆っている。また、プロペラガード37は、収容ケース36の後部の下側部分に取り付けられている。また、プロペラガード37の前部には、
図2に示すように、多数の孔39を有するフロントカバー38が設けられている。また、
図5に示すように、プロペラガード37において、プロペラ34の後方に位置する部分には、複数の孔40が形成されている。プロペラ34が回転したとき、水は孔39および孔40を介してプロペラガード37内を前方向または後ろ方向に円滑に流れる。
【0040】
第2の電動推進部51は、
図3に示すように、電動モータ52、プロペラシャフト53、プロペラ54、インバータ55、モータケース56、およびプロペラガード57を備えている。
【0041】
電動モータ52は例えばブラシレスモータである。電動モータ52は、
図5に示すように、完全防止構造を有するモータケース56内に収容され、プロペラガード57内に配置されている。また、モータケース56は、モータケース支持部58を介してプロペラガード57に支持されている。
【0042】
プロペラシャフト53は、
図3に示すように、左右方向に伸長し、その右端部が電動モータ52の出力軸に接続されている。プロペラシャフト53は、電動モータ52の出力軸と共に回転し、電動モータ52の回転をプロペラ54に伝達する。また、プロペラシャフト53の軸線Cは、第1の電動推進部31のプロペラシャフト33の軸線Bと直交している。すなわち、船外機1を上方から見たときに、第1の電動推進部31および第2の電動推進部51は、プロペラシャフト33の軸線Bとプロペラシャフト53の軸線Cとが互いに直交するように配置されている。
【0043】
プロペラ54はプロペラシャフト53の左端側部分に取り付けられている。プロペラ54は、プロペラシャフト53と共に回転し、第1の電動推進部31が生成する推進力の方向と直交する方向(左右方向)の推進力を生成する。また、プロペラ54により生成される推進力の方向は、内燃駆動推進部11が生成する推進力の方向と直交する方向となる。
【0044】
インバータ55は、電動モータ52の駆動を制御する回路である。インバータ55は、
図5に示すように、収容ケース36内に収容されている。
【0045】
プロペラガード57は、主に水中または水面に存在する物体のプロペラ54への接触を回避してプロペラ54を保護する部材である。プロペラガード57は、
図2に示すように、筒状に形成され、プロペラ54の外周側を覆っている。また、プロペラガード57は、収容ケース36の後部の上側部分に取り付けられている。また、プロペラガード57の左部には、主に水中または水面に存在する物体がプロペラガード57内に入るのを抑制してプロペラ54を保護する保護部材59が設けられている。プロペラ54が回転したとき、水は筒状のプロペラガード57内を左方向または右方向に円滑に流れる。保護部材59はこの水の流れをほとんど妨げない。
【0046】
なお、プロペラシャフト33、53はそれぞれ「第2のプロペラシャフト」の具体例である。また、プロペラ34、54はそれぞれ「第2のプロペラ」の具体例である。また、収容ケース36およびモータケース56はそれぞれ「第2の収容部」の具体例である。また、収容ケース36内には、第1の電動推進部31の電動モータ32およびインバータ35等に加え、第2の電動推進部51のインバータ55が収容されていることから、収容ケース36は、第1の電動推進部31の構成要素であると共に、第2の電動推進部51の構成要素である。
【0047】
(電動推進ユニットの配置)
電動推進ユニット30は、
図1に示すように、内燃駆動推進部11の下部の後方に配置されており、ミドルケース21の後部からギヤケース22の上側後部にかけての部分に取り付けられている。また、電動推進ユニット30は、内燃駆動推進部11のプロペラ16の上後方に位置している。
【0048】
また、電動推進ユニット30は、アンチキャビテーションプレート23よりも高い位置に配置されている。また、電動推進ユニット30は、アッパーケース20よりも低い位置に配置されている。もっとも、後述する取付位置変更構造66により、電動推進ユニット30の位置をアッパーケース20の下端部と同等の高さの位置まで上げることができる。
【0049】
また、電動推進ユニット30は、
図6に示すように、船舶のプレーニング状態ではない低速移動時にはプロペラ34および54が水面下に沈み、船舶のプレーニング時にはプロペラ34および54が水面から出る位置に配置されている。
【0050】
すなわち、
図6(A)中の二点鎖線S1は、船舶のプレーニング状態ではない低速移動時における水面の位置を示している。船舶のプレーニング状態ではない低速移動時には、ミドルケース21において外側に露出している部分(図においてドット模様を付した部分)の大部分、およびギヤケース22の全体が水面下に沈み、アンチキャビテーションプレート23も水面下に沈む。また、船舶のプレーニング状態ではない低速移動時には、電動推進ユニット30において、プロペラ34および54を含む大部分が水面下に沈む。
【0051】
船舶のプレーニング状態ではない低速移動時には、利用者の船舶の操縦に応じて、電動モータ32および電動モータ52のいずれか一方または双方を駆動させ、プロペラ34およびプロペラ54のいずれか一方または双方を回転させる。船舶のプレーニング状態ではない低速移動時には、電動推進ユニット30のプロペラ34および54が水面下に沈んでいるので、プロペラ34およびプロペラ54のいずれか一方または双方を回転させることにより、推進力を船舶に与えることができる。
【0052】
一方、
図6(B)中の二点鎖線S2は、船舶のプレーニング時における水面の位置を示している。船舶のプレーニング時には、船舶のプレーニング状態ではない低速移動時と比較して、船舶および船外機1が浮上し、船舶および船外機1の水面に対する位置が高くなる。船舶のプレーニング時には、水面の位置がアンチキャビテーションプレート23の位置と同等になり、ミドルケース21の全体、およびギヤケース22の上部(アンチキャビテーションプレート23よりも上側の部分)が水面から出る。また、船舶のプレーニング時には、電動推進ユニット30において、プロペラ34および54を含む大部分が水面から出る。
【0053】
船舶のプレーニング時には、電動モータ32および電動モータ52の双方の駆動を停止させ、プロペラ34およびプロペラ54の双方の回転を停止させる。船舶のプレーニング時には、電動推進ユニット30においてプロペラ34および54を含む大部分が水面から出るので、船舶の移動に対する抵抗を抑制することができる。すなわち、仮に、船舶のプレーニング時に、電動推進ユニット30においてプロペラ34および54を含む大部分が水面下に沈んでいる場合には、水が電動推進ユニット30に当たることによって生じる抵抗が船舶の移動の妨げとなる。本実施例においては、船舶のプレーニング時において、電動推進ユニット30の大部分が水面から出るので、このような抵抗の発生を抑制することができる。
【0054】
また、電動推進ユニット30は、
図4に示すように、船外機1の左右方向中央に配置されている。また、電動推進ユニット30は、ミドルケース21の幅内に収まっている。すなわち、船外機1を後方から見たとき、電動推進ユニット30は、ミドルケース21の左面において最も左に位置する部分から左方に出ず、かつミドルケース21の右面において最も右に位置する部分から右方に出ないように配置されている。これにより、船舶のプレーニング状態ではない低速移動時において、電動推進ユニット30の大部分が水面下に沈んでいるときに、電動推進ユニット30に当たる水の量を減らすことができ、電動推進ユニット30に水が当たることによって生じる抵抗を小さくすることができる。
【0055】
(電動推進ユニットの取付)
図7は、電動推進ユニット30を内燃駆動推進部11に取り付ける構造を示している。
図7に示すように、電動推進ユニット30における収容ケース36の前側の上部および下部には、上側取付ブラケット61および下側取付ブラケット62がそれぞれ設けられている。一方、内燃駆動推進部11におけるミドルケース21の後部およびギヤケース22の上側後部には上側取付板63および下側取付板64がそれぞれ設けられている。電動推進ユニット30は、上側取付ブラケット61を上側取付板63に固定部材65(例えばボルト)で固定し、下側取付ブラケット62を下側取付板64に固定部材65で固定することにより、ミドルケース21の後部からギヤケース22の上側後部にかけての部分に取り付けられている。この取付構造によれば、電動推進ユニット30を内燃駆動推進部11に容易に外付けすることができる。また、この取付構造によれば、電動推進ユニット30を内燃駆動推進部11に対して容易に着脱することができる。なお、上側取付ブラケット61および下側取付ブラケット62は「取付部」の具体例である。
【0056】
また、上側取付板63および下側取付板64には、電動推進ユニット30の内燃駆動推進部11に対する上下方向における取付位置を変更することができる取付位置変更構造66が設けられている。具体的には、上側取付板63および下側取付板64のそれぞれには、固定部材65を固定する(締着させる)ことができる穴67(例えばねじが切られたボルト穴)が上下方向に複数並んでいる。複数の穴67の中から、固定部材65を固定する穴を選択することにより、電動推進ユニット30の上下方向における取付位置を選択することができる。なお、このような取付位置変更構造を、上側取付板63および下側取付板64ではなく、上側取付ブラケット61および下側取付ブラケット62に設けてもよい。
【0057】
(船舶の移動制御)
図8は、船外機1に関する電気的構成を示している。例えば船外機1の上部には制御部71が設けられている。制御部71には、マイクロコンピュータ等が設けられている。
図8に示すように、制御部71の入力側には、リモートコントローラ72およびGPS(Global Positioning System)受信機74が接続されている。また、制御部71の出力側には、内燃駆動推進部11、第1の電動推進部31のインバータ35、第2の電動推進部51のインバータ55、および操舵装置75が接続されている。なお、リモートコントローラ72、GPS受信機74および操舵装置75は船舶に設けられている。また、制御部71は「移動制御部」の具体例である。
【0058】
船舶の操縦者は、リモートコントローラ72のレバー73を
図8中のF方向またはR方向に傾ける操作をして、クラッチを作動させ、内燃機関12の動力をプロペラシャフト15に伝達するか否かの切替、およびプロペラシャフト15の回転方向の切替を行うことができる。また、操縦者は、リモートコントローラ72のレバー73をF方向またはR方向に傾ける操作をして、内燃機関12の回転数を増減させることができる。また、操縦者は、リモートコントローラ72のレバー73をF方向またはR方向に傾ける操作をして、電動モータ32および52の駆動・停止の切替および回転数の増減を行うことができる。
【0059】
具体的は、操縦者がリモートコントローラ72のレバー73を中立位置(F方向にもR方向にも傾けない状態)にした場合、制御部71は、内燃機関12を停止させ(または内燃機関12の動力をプロペラシャフト15に伝達させないアイドリング状態にし)、かつ第1の電動推進部31の電動モータ32および第2の電動推進部51の電動モータ52を停止させる。
【0060】
また、操縦者が、船舶を極めて低速で前進させるべく、リモートコントローラ72のレバー73をF方向に小さく傾けた場合、制御部71は、内燃機関12が停止した状態(またはアイドリング状態)を維持しつつ、第1の電動推進部31の電動モータ32を駆動させてプロペラ34を正転させる。これにより、船舶は、第1の電動推進部31による推進力によって極めて低速に前進する。
【0061】
また、操縦者が、極めて低速ではないが、プレーニング状態には至らない程度の低速で船舶を前進させるべく、リモートコントローラ72のレバー73をF方向に中程度傾けた場合、制御部71は、内燃機関12を低回転で作動させ、その回転をプロペラシャフト15に伝達させてプロペラ16を正転させ、かつ、第1の電動推進部31の電動モータ32を駆動させてプロペラ34を正転させる。これにより、船舶は、内燃駆動推進部11による推進力と第1の電動推進部31による推進力によって低速前進する。
【0062】
また、操縦者が、船舶をプレーニング状態で前進させるべく、リモートコントローラ72のレバー73をF方向に大きく傾けた場合、制御部71は、まず、内燃機関12を高回転で作動させてプロペラ16を高速正転させ、かつ、第1の電動推進部31の電動モータ32を駆動させてプロペラ34を正転させる。これにより、船舶は、内燃駆動推進部11による推進力と第1の電動推進部31による推進力によって加速する。そして、船舶がプレーニング状態に達したとき、制御部71は、船舶の速度に基づいて船舶がプレーニング状態に達したことを認識し、内燃機関12の作動を維持しつつ、電動モータ32を停止させる。これにより、船舶は、内燃駆動推進部11による推進力のみによって滑走する。
【0063】
また、操縦者は、操舵装置75に接続されたステアリングハンドル76を操作することにより操舵装置75を制御し、操舵装置75により船外機1の左右方向の向きを変えて船舶を旋回させることができる。
【0064】
また、制御部71は、GPS受信機74により受信された船舶の位置情報に基づいて、操縦者が設定した位置に船舶を自動的に低速移動させる制御(自動移動制御)、および波や潮流に対抗して船舶を現在位置にとどめる制御(定点保持制御)を行うことができる。
【0065】
具体的に説明すると、制御部71は、第1の電動推進部31の電動モータ32の駆動を制御して、プロペラ34を正転または逆転させることにより、
図9(A)に示すように、船舶121を低速前進、または低速後進させることができる。また、制御部71は、
図9(B)に示すように、第2の電動推進部51の電動モータ52の駆動を制御して、プロペラ54を逆転または正転させることにより、船舶121を左または右に旋回させることができる。また、制御部71は、
図9(C)に示すように、操舵装置75の駆動を制御して、内燃駆動推進部11のプロペラ16が右後ろを向くように船外機1の向きを変え、第1の電動推進部31の電動モータ32の駆動を制御してプロペラ34を正転させ、かつ第2の電動推進部51の電動モータ52の駆動を制御してプロペラ54を正転させることにより、船舶121を左に移動させることができる。また、制御部71は、
図9(D)に示すように、操舵装置75の駆動を制御して、内燃駆動推進部11のプロペラ16が左後ろを向くように船外機1の向きを変え、第1の電動推進部31の電動モータ32の駆動を制御してプロペラ34を正転させ、かつ第2の電動推進部51の電動モータ52の駆動を制御してプロペラ54を逆転させることにより、船舶121を右に移動させることができる。
【0066】
制御部71は、GPS受信機74により受信された船舶の位置情報に基づいて船舶の現在位置を認識し、船舶の現在位置および操縦者が設定した位置に基づいて船舶の移動方向を決定し、電動モータ32および52並びに操舵装置75の駆動を制御して、船舶をその方向に自動的に移動させることができる。また、制御部71は、GPS受信機74により受信された船舶の位置情報に基づいて船舶の現在位置を認識し、波や潮流により船舶の現在位置が一定の位置からずれたときには、電動モータ32および52並びに操舵装置75の駆動を制御して、船舶が当該一定の位置に戻るように船舶を自動的に移動させ、船舶を当該一定の位置にとどめるようにすることができる。
【0067】
以上説明した通り、本発明の実施例の船外機1において、電動推進ユニット30は、内燃駆動推進部11におけるミドルケース21の後部からギヤケース22の上側後部にかけての部分に取り付けられ、船舶のプレーニング状態ではない低速移動時には、電動推進ユニット30におけるプロペラ34および54が水面下に沈み、船舶のプレーニング時にはプロペラ34および54が水面から出るように、アンチキャビテーションプレート23よりも高い位置に配置されている。電動推進ユニット30の取付位置をこのように設定したことにより、船舶のプレーニング時に水が電動推進ユニット30に当たることによって生じる抵抗を小さくすることができ、プレーニング時における船舶の航走性能がこの抵抗によって低下することを抑制することができる。また、船舶のプレーニング時に水がプロペラ34またはプロペラ54に当たり難くすることで、抵抗を小さくする効果を高めることができ、プレーニング時における船舶の航走性能の低下を効果的に抑制することができる。
【0068】
また、本実施例の船外機1において、内燃駆動推進部11のプロペラ16と第1の電動推進部31のプロペラ34とはそれぞれ別々に設けられ、これらは互いに独立している。また、内燃駆動推進部11において内燃機関12の動力をプロペラ16に伝達する機構(ドライブシャフト13、ギヤ機構14およびプロペラシャフト15)と第1の電動推進部31のプロペラシャフト33とはそれぞれ別々に設けられ、これらはそれぞれ互いに独立している。また、内燃駆動推進部11のプロペラ16と第2の電動推進部51のプロペラ54とはそれぞれ別々に設けられ、これらは互いに独立している。また、内燃駆動推進部11において内燃機関12の動力をプロペラ16に伝達する機構と第2の電動推進部51のプロペラシャフト53とはそれぞれ別々に設けられ、これらはそれぞれ互いに独立している。したがって、本実施例の船外機1によれば、内燃機関の動力と電動モータの動力とを共通のドライブシャフトに伝達する複雑な機構(例えば上記特許文献1に記載されているような自動遠心クラッチや多数のギヤを有する機構)を用いることなく、内燃機関による推進力と電動モータによる推進力とを生成することができる。したがって、船外機1の内部の構造が複雑化することを防ぐことができる。
【0069】
また、本実施例の船外機1において、電動推進ユニット30には上側取付ブラケット61および下側取付ブラケット62が設けられ、内燃駆動推進部11には上側取付板63および下側取付板64が設けられ、電動推進ユニット30は、上側取付ブラケット61、下側取付ブラケット62、上側取付板63および下側取付板64を介して、内燃駆動推進部11に着脱可能に取り付けられている。したがって、利用者は、船外機1の用途に応じて、電動推進ユニット30を内燃駆動推進部11に容易に付けたり、外したりすることができ、利便性が高い。また、本実施例の船外機1によれば、電動推進ユニット30を既存の内燃駆動の船外機に容易に外付けすることができ、既存の内燃駆動の船外機のハイブリッド化を容易に実施することができる。
【0070】
また、本実施例の船外機1は、内燃駆動推進部11に対する電動推進ユニット30の上下方向における取付位置を変更することができる取付位置変更構造66を備えている。これにより、船外機のサイズ、船舶の乗員数または積載荷物の重量、あるいは喫水に応じて電動推進ユニット30の取付位置を容易に調節することができる。
【0071】
また、本実施例の船外機1においては、電動推進ユニット30における収容ケース36内に、電動モータ32および52の駆動をそれぞれ制御するインバータ35および55が設けられている。このように電動モータとインバータとをユニット化することで、電動推進ユニット30を内燃駆動推進部11に容易に外付けすることが可能になる。
【0072】
また、本実施例における電動推進ユニット30において、2つの電動推進部31、51は、プロペラシャフト33の軸線Bとプロペラシャフト53の軸線Cとが互いに直交するように配置されている。これにより、船舶の前進、後進および旋回に加え、船舶の横移動(船首の向きを変えないで船舶を左または右に移動させること)を容易に行うことができる。また、第2の電動推進部51をスラスタとして機能させることができる。したがって、船舶の自動移動、定点保持、または船舶の着岸・離岸を容易に行うことができる。また、本実施例における制御部71により、GPSを利用して、船舶の自動移動または定点保持を容易に実施することができる。
【0073】
また、本実施例の船外機1によれば、動力源およびプロペラ等が内燃駆動推進部11から独立した電動推進部31、51を有しているので、例えば航行中に内燃駆動推進部11が故障して動作しなくなった場合でも、電動推進部31、51を利用して、船舶を岸に近づけることができる。
【0074】
また、船外機1によれば、電動推進ユニット30が内燃駆動推進部11に取り付けられているので、船外機1を船舶に取り付けることで、内燃機関による推進力と電動モータによる推進力との双方を得ることができる。それゆえ、内燃機関による推進力と電動モータによる推進力とを得るに当たり、内燃駆動の船外機と電動の船外機とを船舶にそれぞれ取り付ける必要がない。したがって、船舶が小型である場合でも、または内燃駆動の複数の船外機が船舶に既に多機掛けされている場合でも、内燃機関による推進力と電動モータによる推進力とを得ることができる。
【0075】
また、船外機1によれば、プレーニング前の低速トルクを第1の電動推進部31により容易に補うことができる。これにより、高回転域のトルク性能を高めた内燃機関を採用しても、低速域における船舶の高い航走性能または良好な加速性能を確保することができる。また、船舶の低速移動を第1の電動推進部31により補うことができるので、内燃駆動推進部11のプロペラ16として高速航走用のプロペラを採用することにより、低速域の航走性能を低下させることなく、高速域の航走性能を高めることができる。また、船舶の低速移動時に、内燃機関12の作動を停止させ、第1の電動推進部31による推進力のみにより船舶を移動させることで、騒音を発することなく船舶を低速移動させることができる。また、内燃機関と電動モータとの併用により燃費を向上させることができる。
【0076】
また、
図8において、制御部71とインバータ35との間の制御信号等の送受信、および制御部71とインバータ55との間の制御信号等の送受信を無線により行うようにしてもよい。これにより、制御部71とインバータ35、55との間において制御信号等の送受信を行うためのケーブルの配線が不要になるので、電動推進ユニット30の内燃駆動推進部11に対する着脱が一層容易になる。
【0077】
なお、上記実施例では、電動推進ユニット30を、内燃駆動推進部11におけるミドルケース21の後部からギヤケース22の上側後部にかけての部分に取り付ける場合を例にあげた。しかしながら、電動推進ユニット30を取り付ける位置は、ミドルケース21、ギヤケース22またはアッパーケース20のいずれかの部分において、アンチキャビテーションプレートよりも高い位置であり、かつ船舶のプレーニング状態ではない低速移動時には、電動推進ユニット30におけるプロペラ34および54が水面下に沈み、船舶のプレーニング時にはプロペラ34および54が水面から出る位置であればよく、ミドルケース21の後部からギヤケース22の上側後部にかけての部分に限定されない。また、本発明は、電動推進ユニット30を、船外機1においてミドルケース21等を支持するフレームまたはブラケットの部分に取り付ける構成を含む。
【0078】
また、本発明は、船外機に限らず、船内外機にも適用することができる。具体的には、
図10(A)に示すように、内燃駆動の船内外機82に電動推進ユニット30を取り付けてもよい。これにより、ハイブリッド船内外機81を構成することができる。
【0079】
また、
図10(B)に示すように、ハンドルバー86およびクランプブラケット87が設けられたフレーム88に電動推進ユニット30を取り付けることにより、電動船外機85を構成することができる。
【0080】
また、
図10(C)に示すハイブリッド船外機91のように、2つの電動推進部92、93を互いに平行に配置してもよい。具体的には、ハイブリッド船外機91は、2つの電動推進部92、93を備え、各電動推進部92、93は電動モータ94、プロペラシャフト95、プロペラ96および収容ケース97を備えている。各電動推進部92、93は、取付ブラケット98を介して内燃駆動推進部11に着脱可能に取り付けられ、アンチキャビテーションプレート23の上方に配置されている。また、ハイブリッド船外機91を上から見たときに、2つの電動推進部92、93は、それらのプロペラシャフト95が互いに平行となるように配置されている。また、
図10(D)に示すハイブリッド船外機101のように、ハイブリッド船外機101を上から見たときに、2つの電動推進部92、93をそれらのプロペラシャフト95がハの字状となるように配置してもよい。また、2つの電動推進部92、93のそれぞれの左右の向きを変えることができるようにしてもよい。
【0081】
また、内燃駆動推進部11に、単一の電動推進部、または3つ以上の電動推進部を取り付けてもよい。
【0082】
また、本発明は、請求の範囲および明細書全体から読み取ることのできる発明の要旨または思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴うハイブリッド船舶推進機もまた本発明の技術思想に含まれる。