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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023044504
(43)【公開日】2023-03-30
(54)【発明の名称】塗料組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 175/04 20060101AFI20230323BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20230323BHJP
【FI】
C09D175/04
C09D7/63
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021152557
(22)【出願日】2021-09-17
(71)【出願人】
【識別番号】000003322
【氏名又は名称】大日本塗料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100202267
【弁理士】
【氏名又は名称】森山 正浩
(74)【代理人】
【識別番号】100182132
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】関 智行
(72)【発明者】
【氏名】吉田 新
(72)【発明者】
【氏名】田邉 康孝
(72)【発明者】
【氏名】水場 翔大
(72)【発明者】
【氏名】稲田 巧
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038DG001
4J038GA03
4J038GA15
4J038JB18
4J038KA03
4J038KA08
4J038NA11
4J038PB05
4J038PC04
(57)【要約】
【課題】耐荷性が要求される剥落防止工法への使用に適した塗料組成物を提供する。
【解決手段】シリル化ウレタン樹脂(A)と、水と、を含み、乾燥膜厚が300μmの塗膜とした時の塗膜強度が25~80N、伸び率が50~400%、架橋密度が1.0×10-4(mol/cc)~5.0×10-3(mol/cc)であることを特徴とする塗料組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリル化ウレタン樹脂(A)と、水と、を含み、
乾燥膜厚が300μmの塗膜とした時の塗膜強度が25~80N、伸び率が50~400%、架橋密度が1.0×10-4(mol/cc)~5.0×10-3(mol/cc)であることを特徴とする塗料組成物。
【請求項2】
前記塗料組成物のせん断速度0.1s-1、温度23℃における粘度が10~2000Pa・sであり、せん断速度1000s-1、温度23℃における粘度が0.05~3.0Pa・sであることを特徴とする請求項1に記載の塗料組成物。
【請求項3】
前記塗料組成物は引火点がないことを特徴とする請求項1又は2に記載の塗料組成物。
【請求項4】
さらに、前記シリル化ウレタン樹脂(A)と反応する架橋剤(B)を含むことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の塗料組成物。
【請求項5】
前記架橋剤がカルボジイミドであることを特徴とする請求項4に記載の塗料組成物。
【請求項6】
前記シリル化ウレタン樹脂(A)と前記架橋剤(B)の質量比が(A)/(B)=60/40~99/1であることを特徴とする請求項4または5に記載の塗料組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料組成物に関し、特には、耐荷性が要求される剥落防止工法への使用に適した塗料組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高架橋、トンネル、橋梁等の構造物には、強度や耐久性に優れることからコンクリート製のものが広く用いられている。しかし、コンクリートの塩害による内部鉄筋の腐食や排ガス等によりコンクリートの中性化、アルカリ骨材反応、ひび割れに侵入した水分の凍結等によりコンクリート構造物が劣化し、劣化したコンクリート片が表面から剥がれ落ちることで、コンクリート構造物自体の強度低下や美観の低下、剥落による事故の危険性等が課題として挙げられている。
【0003】
コンクリートの劣化を防止する工法として実績が多い工法は表面保護工法である。表面保護工法は、構造物表面に被覆材を塗装し、劣化因子の侵入を防止または抑制する。また、コンクリート片の剥落が生じた場合に第三者被害の発生が想定される箇所に関しては、被覆材で塗装された塗膜内に繊維シート等を配置して補強効果を向上させた工法(剥落防止工法)を用いることが好ましい。
【0004】
剥落防止工法に求められる性能としては、耐荷性、付着性、耐久性、伸び性能等が挙げられ、剥落防止工法の適用箇所に応じて各性能についての評価基準が定められていることも多い。例えば、首都高速道路株式会社の「橋梁構造物設計要領 コンクリート片剥落防止片」(平成26年8月(一部改訂))には、剥落防止工法がA種、B種に分類され、種別ごとに剥落防止工法の適用範囲と耐荷性等の評価基準が定められている。剥落防止工法のA種の適用範囲は、水切り部が設けられた高欄側面および張出床版下面が規定されており、その評価基準から特に耐荷性が求められる部分であると考えられる。
【0005】
さらに近年では、環境や安全面に配慮し、危険物に該当する被覆材の使用を避けることが求められており、環境対応と性能面の両立を実現するために開発が進められている。なお、ここでいう危険物とは、消防法に定められた危険物であり、一般的には、火災発生の危険性が大きいもの、火災拡大の危険性が大きいもの、消火の困難性が高いものが含まれる。
【0006】
特開2011-99209号公報(特許文献1)には、コンクリート構造物に対して、接着用ポリマーセメントモルタル及びメッシュ状シートでコンクリート構造物表面を被覆し、その上から水系塗料で被覆することを特徴とするコンクリート剥落防止工法が記載されている。特許文献1に記載された剥落防止工法は、水系塗料を用いることで火災時にも有毒ガスがほとんど発生せず、環境に優しい工法であるといえるが、接着用ポリマーセメントモルタルが危険物に該当する点で改善の余地がある。
【0007】
特開2019-7312号公報(特許文献2)には、コンクリート構造物の表面に、下塗り塗膜、繊維シート及び上塗り塗膜を備える積層体を形成させて、コンクリート構造物からのコンクリートの剥落を防止する方法が記載されている。特許文献2に記載された剥落防止工法は、下塗り塗膜及び上塗り塗膜の形成に水系塗料が使用されており、環境や安全面に配慮した工法である。また、この水系塗料は、エマルジョン樹脂又はディスパージョン樹脂を含むと共に、乾燥膜厚400μmで可視光透過率が50%以上で且つヘーズが70以下の塗膜を形成可能な塗料であることから、特許文献2に記載の剥落防止工法によれば、施工時の膜厚の確認及び施工後のコンクリート面の確認を容易に達成することができる。一方、特許文献2に記載された剥落防止工法は、耐荷性が高いとはいえず、適用範囲が制限される。
【0008】
特開2007-247290号公報(特許文献3)には、コンクリートの表面に、プライマー層(A)、主材層(B)、コンクリート剥落防止用シート(C)、主材層(B)及び上塗り塗膜層(D)を順次積層するコンクリート剥落防止表面被覆工法が記載されている。特許文献3では、各工程に使用する塗料を全て水性塗料にすることが可能であると共に、耐荷性の評価試験では良好な結果が示されていることから、この表面被覆工法は、環境対応と性能面の両立を実現し得る工法である。しかし、主材層の塗布量の記載からその膜厚は比較的厚いと認められるため、この表面被覆工法での良好な耐荷性は、主材層が厚い場合に限られると考えられる。特許文献3に記載されるコンクリート剥落防止表面被覆工法では、主材層が薄膜である場合、主材層単膜での強度が出ず、コンクリート剥落防止用シートが塗膜を貫通することが考えられ、耐荷性は十分とは言えない。
【0009】
特開2018-159250号公報(特許文献4)には、コンクリート基材上に形成され、水溶性樹脂組成物を含む下塗塗料組成物により形成された下塗層と、前記下塗層上に形成され、メッシュシートを含んで構成されるとともに、水溶性樹脂組成物を含む中塗塗料組成物により形成された中塗層と、前記中塗層上に形成され、水溶性樹脂組成物を含む上塗塗料組成物により形成された上塗層とを含むコンクリート片の剥落防止構造が記載されている。特許文献4では、耐荷性の指標となる押抜き強度について良好な結果が示されているものの、この剥落防止構造は、メッシュシートの引張強度が2,500~4,300N/50mmであることから、比較的高い強度のシートが用いられており、この点が耐荷性(押抜き強度)に大きく寄与しているものと考えられ、中塗塗料組成物には改良の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2011-99209号公報
【特許文献2】特開2019-7312号公報
【特許文献3】特開2007-247290号公報
【特許文献4】特開2018-159250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、本発明の目的は、耐荷性が要求される剥落防止工法への使用に適した塗料組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、塗料組成物の樹脂としてシリル化ウレタン樹脂を用い、架橋密度を調整し、特定の塗膜強度および伸び率を満たす塗膜を形成可能な塗料組成物であれば、剥落防止工法での耐荷性評価を向上できることを見出し、本発明を完成させるに至った。また、この塗料組成物は、溶媒として水を使用していることから、環境への負荷も少なく、安全な塗料とすることが可能である。
【0013】
したがって、本発明の1つの態様は、シリル化ウレタン樹脂(A)と、水と、を含み、乾燥膜厚が300μmの塗膜とした時の塗膜強度が25~80N、伸び率が50~400%、架橋密度が1.0×10-4(mol/cc)~5.0×10-3(mol/cc)であることを特徴とする塗料組成物である。
【0014】
本発明の塗料組成物の好適例においては、前記塗料組成物のせん断速度0.1s-1、温度23℃における粘度が10~2000Pa・sであり、せん断速度1000s-1、温度23℃における粘度が0.05~3.0Pa・sである。
【0015】
本発明の塗料組成物の他の好適例において、前記塗料組成物は引火点がない。
【0016】
本発明の塗料組成物の他の好適例においては、さらに、前記シリル化ウレタン樹脂(A)と反応する架橋剤(B)を含む。
【0017】
本発明の塗料組成物の他の好適例においては、前記架橋剤がカルボジイミドである。
【0018】
本発明の塗料組成物の他の好適例においては、前記シリル化ウレタン樹脂(A)と前記架橋剤(B)の質量比が(A)/(B)=60/40~99/1である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、耐荷性が要求される剥落防止工法への使用に適した塗料組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0021】
本発明の1つの態様は、シリル化ウレタン樹脂と、水と、を含む塗料組成物である。本明細書では、この塗料組成物を「本発明の塗料組成物」とも称する。
【0022】
本発明の塗料組成物は、水を含む。本発明の塗料組成物に用いる水は、特に制限されるものではないが、水道水やイオン交換水、蒸留水等の純水等が好適に挙げられる。また、塗料組成物を長期保存する場合には、カビやバクテリアの発生を防止するため、紫外線照射等により滅菌処理した水を用いてもよい。本発明の塗料組成物中において、水の量は、15~75質量%であることが好ましく、20~65質量%であることがより好ましい。
【0023】
シリル化ウレタン樹脂がアルコキシシリル基を有する場合、塗料組成物中では、アルコキシリル基と水の加水分解反応が起こり得る。このため、シリル化ウレタン樹脂は、アルコキシシリル基の一部または全部がシラノール基および/またはシロキサン結合に変換されていてもよい。
【0024】
本発明の塗料組成物は、水系の塗料組成物であることが好ましい。本明細書において「水系の塗料組成物」とは、主溶媒として水を含有する塗料組成物である。水系塗料であれば、環境への負荷が少ない上、引火点を有しない塗料組成物とすることが可能である。また、水系塗料は、作業者への有機溶剤中毒の防止の観点からも好ましく、健康や安全面が考慮された塗料であるし、たとえ火災が発生しても延焼等の二次災害を引き起こすこともない。
【0025】
好ましい実施形態において、本発明の塗料組成物は引火点がない。本明細書において「引火点がない」とは、JIS K 2265-2:2007に規定された迅速平衡密閉法に従う試験において引火が観察されないことを意味する。
【0026】
本発明の塗料組成物は、シリル化ウレタン樹脂を含む。シリル化ウレタン樹脂は、反応性シリル基を有するウレタン樹脂を指す。シリル化ウレタン樹脂は、接着性、耐水性および柔軟性の高い塗膜を形成可能な樹脂であるが、さらに架橋密度を調整することで、形成される塗膜の柔軟性と強度のバランスをとることが可能である。本明細書において、シリル化ウレタン樹脂を「シリル化ウレタン樹脂(A)」と称する場合もある。
【0027】
ウレタン樹脂は、ポリオール成分と、ポリイソシアネート成分と、任意に鎖延長剤とを反応させて得ることができる。シリル化ウレタン樹脂は、このウレタン樹脂の調製の際にシリル基を導入するため、水酸基またはイソシアネート基に対して反応性を示す官能基を有するシラン化合物を更に用いることによって得ることができる。シリル化ウレタン樹脂は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
シリル化ウレタン樹脂は、アルコキシシリル基を有するウレタン樹脂(アルコキシシリル化ウレタン樹脂)であることが好ましい。また、シリル化ウレタン樹脂は、シリル基を末端に有するウレタン樹脂(末端シリル化ウレタン樹脂)であることが好ましい。更に、シリル化ウレタン樹脂は、アルコキシシリル基を末端に有するウレタン樹脂(末端アルコキシシリル化ウレタン樹脂)であることが好ましい。このようなシリル化ウレタン樹脂は、例えば、ポリオール成分とポリイソシアネート成分からウレタンプレポリマー(好ましくはイソシアネート基末端ウレタンプレポリマー)を調製し、このウレタンプレポリマーに、ウレタンプレポリマーの末端基に対して反応性を示す官能基を有するシラン化合物(好ましくはアルコキシシラン化合物)を反応させて得ることができる。また、ウレタンプレポリマーとシラン化合物との反応生成物中に残存しているイソシアネート基に対して鎖延長剤を更に反応させてもよい。
【0029】
シリル化ウレタン樹脂がアルコキシシリル基を有するウレタン樹脂である場合、塗料組成物中の水により加水分解され、アルコキシシリル基は、シラノール基に変換される場合がある。このことから、シリル化ウレタン樹脂は、シラノール基および/またはシロキサン結合を有してもよい。
【0030】
ポリオール成分は、その化合物中に少なくとも2個の水酸基を有する化合物であり、例えば、多価アルコール、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリオレフィンポリオール、ポリアクリルポリオール、ヒマシ油等が挙げられ、これらの中でも、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオールが好適である。ポリオール成分は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
多価アルコールには、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,4-テトラメチレンジオール、1,3-テトラメチレンジオール、1,5-ペンタメチレンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサメチレンジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、1,4-シクロヘキサンジオール、ビスフェノール類(ビスフェノールA等)、ソルビトール等が含まれる。
【0032】
ポリエーテルポリオールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリアルキレングリコールの他、エチレンオキシドやプロピレンオキシド等の複数のアルキレンオキシドの共重合体等が挙げられる。
【0033】
ポリエステルポリオールとしては、例えば、多価アルコールと多価カルボン酸との縮合重合物;環状エステル(ラクトン)の開環重合物;多価アルコール、多価カルボン酸及び環状エステルの3種類の成分による反応生成物等が挙げられる。ポリエステルポリオールの合成に使用できる多価アルコールとしては、上述した多価アルコールが挙げられる。ポリエステルポリオールの合成に使用できる多価カルボン酸としては、例えば、マロン酸、マレイン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸等の脂肪族ジカルボン酸;1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸;テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、パラフェニレンジカルボン酸、トリメリット酸等の芳香族ジカルボン酸等が挙げられる。また、ポリエステルポリオールの合成に使用できる環状エステルとしては、例えば、プロピオラクトン、β-メチル-δ-バレロラクトン、ε-カプロラクトン等が挙げられる。
【0034】
ポリカーボネートポリオールとしては、例えば、多価アルコールとホスゲンとの反応生成物;環状炭酸エステル(アルキレンカーボネート等)の開環重合物等が挙げられる。ポリカーボネートポリオールの合成に使用できる多価アルコールとしては、上述した多価アルコールが挙げられる。ポリカーボネートポリオールの合成に使用できる環状炭酸エステルとしては、例えば、エチレンカーボネート、トリメチレンカーボネート、テトラメチレンカーボネート、ヘキサメチレンカーボネート等のアルキレンカーボネートが挙げられる。
【0035】
ポリオレフィンポリオールは、1種または複数種のオレフィンを繰り返し単位とする骨格(または主鎖)を有すると共に、分子内に(特に末端に)水酸基を少なくとも2つ有するポリオールである。オレフィンは、特に制限されず、末端に炭素-炭素二重結合を有するオレフィン(例えば、エチレン、プロピレン等のα-オレフィン等)であってもよいし、末端以外の部位に炭素-炭素二重結合を有するオレフィン(例えば、イソブテン等)であってもよいし、さらにはジエン(例えば、ブタジエン、イソプレン等)等の複数の炭素-炭素二重結合を有するものも含まれる。
【0036】
ポリアクリルポリオールは、1種または複数種の(メタ)アクリレートを繰り返し単位とする骨格(または主鎖)を有すると共に、分子内に(特に末端に)水酸基を少なくとも2つ有するポリオールである。(メタ)アクリレートとしては、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、好ましくは(メタ)アクリル酸C1-20アルキルエステル、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル等が挙げられる。
【0037】
ポリオレフィンポリオールやポリアクリルポリオールにおいて、分子内に水酸基を導入するために、オレフィンや(メタ)アクリレートの共重合成分として、ヒドロキシル基を有するモノマー、例えば(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル等の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル等のα,β-不飽和化合物等を用いることができる。
【0038】
ポリオール成分は、アニオン性基含有ポリオールを含むことが好ましく、アニオン性基非含有ポリオールとアニオン性基含有ポリオールの両方を含むことがさらに好ましい。アニオン性基含有ポリオールを用いることで、シリル化ウレタン樹脂にアニオン性基を導入することができる。このようなシリル化ウレタン樹脂をアニオン性基含有シリル化ウレタン樹脂とも称する。アニオン性基としては、カルボキシル基、スルホ基等が好適に挙げられ、中でもカルボキシル基が最も好ましい。本発明の塗料組成物が塩基性化合物を含むような場合には、アニオン性基含有シリル化ウレタン樹脂は、塩基性化合物との中和反応により塩を形成している場合がある。よって、シリル化ウレタン樹脂は、塩の形態であってもよい。
【0039】
アニオン性基含有ポリオールとしては、例えば、上述したポリオールにカルボキシル基が導入されたカルボキシル基含有ポリオール等が挙げられる。また、アニオン性基含有ポリオールとしては、構造式(1)で表されるポリヒドロキシカルボン酸が好ましい。
(HO)L(COOH) (1)
構造式(1)において、Lは、炭素数1~12の炭化水素部位を示す。xは、2以上の整数であり、yは、1以上の整数である。
【0040】
構造式(1)において、Lは、脂肪族炭化水素部位であることが好ましく、直鎖状または分岐鎖状のいずれの形態であってもよい。水酸基を複数有する場合、複数の水酸基は、同一の炭素原子に結合していてもよいし、異なる炭素原子に結合していてもよい。カルボキシル基を複数有する場合、複数のカルボキシル基は、同一の炭素原子に結合していてもよいし、異なる炭素原子に結合していてもよい。
【0041】
ポリヒドロキシカルボン酸としては、ジメチロールアルカン酸(特に2,2-ジメチロールアルカン酸)が好適である。ジメチロールアルカン酸としては、例えば、2,2-ジメチロールプロピオン酸、2,2-ジメチロールブタン酸、2,2-ジメチロールペンタン酸、2,2-ジメチロールヘキサン酸、2,2-ジメチロールヘプタン酸、2,2-ジメチロールオクタン酸、2,2-ジメチロールノナン酸、2,2-ジメチロールデカン酸等が挙げられる。
【0042】
シリル化ウレタン樹脂にアニオン性基を導入する場合、アニオン性基を有するポリチオール化合物やアニオン性基を有するポリアミン化合物をポリオールとともに使用してもよい。
【0043】
ポリイソシアネート成分は、その化合物中に少なくとも2個のイソシアネート基を有する化合物であり、例えば、脂肪族ポリイソシアネート、脂環式ポリイソシアネート、芳香族ポリイソシアネート、芳香脂肪族ポリイソシアネート等が挙げられ、これらの中でも、脂肪族ポリイソシアネートおよび芳香脂肪族ポリイソシアネートが好ましい。脂肪族ポリイソシアネートまたは芳香脂肪族ポリイソシアネートを用いることで、シリル化ウレタン樹脂の変色を抑えることができる。ポリイソシアネート成分は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えば、1,3-トリメチレンジイソシアネート、1,4-テトラメチレンジイソシアネート、1,3-ペンタメチレンジイソシアネート、1,5-ペンタメチレンジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、1,2-プロピレンジイソシアネート、1,2-ブチレンジイソシアネート、2,3-ブチレンジイソシアネート、1,3-ブチレンジイソシアネート、2-メチル-1,5-ペンタメチレンジイソシアネート、3-メチル-1,5-ペンタメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチル-1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチル-1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、2,6-ジイソシアネートメチルカプロエート、リジンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート等が挙げられる。
【0045】
脂環式ポリイソシアネートとしては、例えば、1,3-シクロペンタンジイソシアネート、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、1,3-シクロヘキサンジイソシアネート、3-イソシアネートメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルイソシアネート、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、メチル-2,4-シクロヘキサンジイソシアネート、メチル-2,6-シクロヘキサンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、イソホロンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート等の脂環式ジイソシアネート等が挙げられる。
【0046】
芳香族ポリイソシアネートとしては、例えば、m-フェニレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、ナフチレン-1,4-ジイソシアネート、ナフチレン-1,5-ジイソシアネート、4,4’-ジフェニルジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルエーテルジイソシアネート、2-ニトロジフェニル-4,4’-ジイソシアネート、2,2’-ジフェニルプロパン-4,4’-ジイソシアネート、3,3’-ジメチルジフェニルメタン-4,4’-ジイソシネート、4,4’-ジフェニルプロパンジイソシアネート、3,3’-ジメトキシジフェニル-4,4’-ジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート等が挙げられる。
【0047】
芳香脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えば、1,3-キシリレンジイソシアネート、1,4-キシリレンジイソシアネート、ω,ω’-ジイソシアネート-1,4-ジエチルベンゼン、1,3-ビス(1-イソシアネート-1-メチルエチル)ベンゼン、1,4-ビス(1-イソシアネート-1-メチルエチル)ベンゼン、1,3-ビス(α,α-ジメチルイソシアネートメチル)ベンゼン等の芳香脂肪族ジイソシアネート等が挙げられる。
【0048】
ポリイソシアネート成分としては、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、1,3-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、イソホロンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、1,3-キシリレンジイソシアネート、1,4-キシリレンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート、1,3-ビス(α,α-ジメチルイソシアネートメチル)ベンゼン等が好適に挙げられる。
【0049】
ポリイソシアネート成分には、上述したポリイソシアネートの多量体(例えば二量体や三量体)、反応生成物または重合物、例えば、ジフェニルメタンジイソシアネートの二量体や三量体、トリメチロールプロパンとトリレンジイソシアネートとの反応生成物、トリメチロールプロパンとヘキサメチレンジイソシアネートとの反応生成物、ポリメチレンポリフェニルイソシアネート、ポリエーテルポリイソシアネート、ポリエステルポリイソシアネート等も含まれる。
【0050】
また、ポリイソシアネート成分には、変性物も含まれる。ポリイソシアネートの変性物としては、例えば、ウレトジオン、イソシアヌレート、ウレタン、ウレア、アロファネート、ビウレット、カルボジイミド、イミノオキサジアジンジオン、オキサジアジントリオン、オキサゾリドン等の構造を有するポリイソシアネートが挙げられる。
【0051】
シリル化ウレタン樹脂の調製において、ポリイソシアネート成分とともに、ジイソチオシアネート(例えば、フェニルジイソチオシアネート)を併用してもよい。
【0052】
シリル化ウレタン樹脂の調製においてシリル基を導入するために使用されるシラン化合物は、水酸基またはイソシアネート基に対して反応性を示す官能基(例えば、アミノ基)を有するシラン化合物であることが好ましく、水酸基またはイソシアネート基に対して反応性を示す官能基(例えばアミノ基)を有するアルコキシシラン化合物であることがより好ましく、アミノ基を含有するアルコキシシラン化合物であることが更に好ましく、第2級アミノ基含有アルコキシシラン化合物であることが特に好ましい。これらのシラン化合物は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0053】
第2級アミノ基含有アルコキシシラン化合物は、例えば、第1級アミノ基含有アルコキシシラン化合物(特に、第1級アミノ基を1つ有するアルコキシシラン化合物)と、不飽和脂肪族モノカルボン酸エステル(特に、芳香環を有していない不飽和脂肪族モノカルボン酸エステル)とを反応させて得ることができる。第2級アミノ基含有アルコキシシラン化合物は、第1級アミノ基含有アルコキシシラン化合物と不飽和脂肪族モノカルボン酸エステルの反応生成物であることが好ましい。このような第2級アミノ基含有アルコキシシラン化合物を用いてシリル化を行うと、シリル化ウレタン樹脂が塗料組成物中で水との反応によりシラノール基を形成する場合であっても、そのシラノール基は水中で安定に存在することができ、シラノール基間の縮合反応を抑制または防止することが可能である。
【0054】
第1級アミノ基含有アルコキシシラン化合物としては、分子内に1つの第1級アミノ基(無置換アミノ基)を有しており、かつ分子内に少なくとも1つのアルコキシ基を有するシラン化合物が好ましい。第1級アミノ基含有アルコキシシラン化合物は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0055】
アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブチルオキシ基、s-ブチルオキシ基、t-ブチルオキシ基等のC1-4アルコキシ基が好ましい。アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、およびプロポキシ基がより好ましく、メトキシ基、およびエトキシ基が更に好ましい。アルコキシ基は、通常、第1級アミノ基含有アルコキシシラン化合物のケイ素原子に結合しており、その数は、通常、1~3個(好ましくは2又は3個)である。複数のアルコキシ基を有する場合、複数のアルコキシ基は、同一でもよいし、異なっていてもよい。
【0056】
第1級アミノ基は、ケイ素原子に直接結合していてもよいが、リンカーを介してケイ素原子に結合していることが好ましい。リンカーとしては、例えば2価の基、具体的には、アルキレン基、アリレン基、アルキレン-アリレン基、アルキレン-アリレン-アルキレン基等の2価の炭化水素基;アルキレン-オキシ-アルキレン基、アルキレン-カルボニル-オキシ-アルキレン基、アルキレン-オキシ-カルボニル-アルキレン基、アルキレン-ポリ(オキシアルキレン)基等の炭化水素基と他の基(例えば、オキシ基、カルボニル基、カルボニル-オキシ基)との組み合わせにより構成される各種2価の基等が挙げられる。第1級アミノ基がリンカーを介してケイ素原子に結合している場合、第1級アミノ基含有アルコキシシラン化合物は、アミノアルキル基を有することが好ましい。アミノアルキル基としては、例えば、アミノメチル基、1-アミノエチル基、2-アミノエチル基、1-アミノプロピル基、2-アミノプロピル基、3-アミノプロピル基等のアミノ-C1-3アルキル基等が挙げられる。
【0057】
第1級アミノ基含有アルコキシシラン化合物は、構造式(2)で表される化合物であることが好ましい。
【化1】
構造式(2)において、RおよびRは、同一でも異なってもよく、アルキル基を示し、Rは、アルキレン基を示し、mは、1~3の整数である。
【0058】
構造式(2)において、Rのアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基等の炭素数1~4程度のアルキル基が好適である。また、Rのアルキル基としては、例えば、炭素数1~4程度のアルキル基が挙げられるが、メチル基やエチル基が好ましい。Rのアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基等の炭素数1~3程度のアルキレン基が好適である。
【0059】
構造式(2)で表される第1級アミノ基含有アルコキシシラン化合物の具体例としては、アミノメチルトリメトキシシラン、アミノメチルトリエトキシシラン、β-アミノエチルトリメトキシシラン、β-アミノエチルトリエトキシシラン、β-アミノエチルトリプロポキシシラン、β-アミノエチルトリイソプロポキシシラン、β-アミノエチルトリブトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリプロポキシシラン、γ-アミノプロピルトリイソプロポキシシラン、γ-アミノプロピルトリブトキシシラン等のアミノアルキルトリアルコキシシラン;β-アミノエチルメチルジメトキシシラン、β-アミノエチルメチルジエトキシシラン、β-アミノエチルメチルジプロポキシシラン、β-アミノエチルメチルジイソプロポキシシラン、β-アミノエチルメチルジブトキシシラン、β-アミノエチルエチルジメトキシシラン、β-アミノエチルエチルジエトキシシラン、β-アミノエチルエチルジプロポキシシラン、β-アミノエチルエチルジイソプロポキシシラン、β-アミノエチルエチルジブトキシシラン、β-アミノエチルプロピルジメトキシシラン、β-アミノエチルプロピルジエトキシシラン、β-アミノエチルプロピルジプロポキシシラン、β-アミノエチルプロピルジイソプロポキシシラン、β-アミノエチルプロピルジブトキシシラン、γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、γ-アミノプロピルメチルジプロポキシシラン、γ-アミノプロピルメチルジイソプロポキシシラン、γ-アミノプロピルメチルジブトキシシラン、γ-アミノプロピルエチルジメトキシシラン、γ-アミノプロピルエチルジエトキシシラン、γ-アミノプロピルエチルジプロポキシシラン、γ-アミノプロピルエチルジイソプロポキシシラン、γ-アミノプロピルエチルメチルジブトキシシラン、γ-アミノプロピルプロピルジメトキシシラン、γ-アミノプロピルプロピルジエトキシシラン、γ-アミノプロピルプロピルジプロポキシシラン、γ-アミノプロピルプロピルジイソプロポキシシラン、γ-アミノプロピルプロピルジブトキシシラン等の(アミノアルキル)アルキルジアルコキシシランや、これらに対応するアミノアルキルジアルキル(モノ)アルコキシシラン等が挙げられる。
【0060】
第1級アミノ基含有アルコキシシラン化合物としては、反応性や入手の容易さ等の点から、例えば、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-アミノプロピルメチルジエトキシシラン等が好ましい。
【0061】
不飽和脂肪族モノカルボン酸エステルは、芳香環を有していない不飽和脂肪族モノカルボン酸エステルであることが好ましい。不飽和脂肪族モノカルボン酸エステルは、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0062】
不飽和脂肪族モノカルボン酸エステルは、炭素-炭素二重結合を形成している炭素原子に直接カルボキシル基又はそのエステル(例えば、アルコキシカルボニル基、シクロアルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基等)が結合している化合物であることが好ましい。このような化合物としては、例えば、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、クロトン酸エステル、イソクロトン酸エステル、2-ブテン酸エステル、3-メチル-2-ブテン酸エステル、2-ペンテン酸エステル、2-オクテン酸エステル等が挙げられる。
【0063】
不飽和脂肪族モノカルボン酸エステルのエステル部位としては、メチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル、イソブチルエステル、s-ブチルエステル、t-ブチルエステル、ペンチルエステル、イソペンチルエステル、ヘキシルエステル、ヘプチルエステル、オクチルエステル、2-エチルヘキシルエステル、ノニルエステル、デシルエステル、イソデシルエステル、ウンデシルエステル、ドデシルエステル、トリデシルエステル、テトラデシルエステル、ヘキサデシルエステル、オクタデシルエステル等の脂肪族炭化水素によるエステル(アルキルエステル等);シクロヘキシルエステル、イソボルニルエステル、ボルニルエステル、ジシクロペンタジエニルエステル、ジシクロペンタニルエステル、ジシクロペンテニルエステル、トリシクロデカニルエステル等の脂環式炭化水素によるエステル(シクロアルキルエステル等);フェニルエステル、ベンジルエステル等の芳香族炭化水素によるエステル(アリールエステル等)等が挙げられる。
【0064】
特に、不飽和脂肪族モノカルボン酸エステルとしては、アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルが好ましい。アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルは「(メタ)アクリル酸エステル」と総称される場合もある。また、不飽和脂肪族モノカルボン酸エステルとしては、構造式(3)で表される化合物が好ましく、構造式(3)で表される(メタ)アクリル酸エステルが特に好ましい。
【化2】
構造式(3)において、R、R、Rは、同一でも異なってもよく、水素原子またはアルキル基を示し、好ましくは、Rは水素原子またはメチル基であり、RとRの両方が水素原子である。Rは、アルキル基、アリール基またはシクロアルキル基を示す。
【0065】
構造式(3)において、Rのアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基等の炭素数1~2程度のアルキル基などが挙げられる。Rのアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基等の炭素数1~20程度のアルキル基が挙げられる。また、Rのアリール基としては、フェニル基等が挙げられ、Rのシクロアルキル基としては、シクロヘキシル基等が挙げられる。Rのアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、ヘキシル基等の炭素数1~6程度のアルキル基が挙げられる。Rのアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基等の炭素数1~2程度のアルキル基等が挙げられる。
【0066】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル等が挙げられる。
【0067】
第2級アミノ基含有アルコキシシラン化合物は、第1級アミノ基含有アルコキシシラン化合物と不飽和脂肪族モノカルボン酸エステルの反応生成物である場合、不飽和脂肪族モノカルボン酸エステルの炭素-炭素二重結合におけるβ位の炭素原子が第1級アミノ基含有アルコキシシラン化合物における第1級アミノ基の窒素原子に少なくとも結合した化合物であることが好ましい。この化合物は、第1級アミノ基含有アルコキシシラン化合物におけるアミノ基の窒素原子が、不飽和脂肪族モノカルボン酸エステルの不飽和結合(炭素-炭素二重結合)に対してマイケル付加反応を行うことにより得られる化合物である。この反応は、溶媒の存在下又は非存在下で行うことができる。反応の際に加熱や加圧を行ってもよい。
【0068】
不飽和脂肪族モノカルボン酸エステルの量は、第1級アミノ基含有アルコキシシラン化合物に不飽和脂肪族モノカルボン酸エステルを反応させて得られるアミノ基含有アルコキシシラン化合物が少なくとも第2級アミノ基を有する量であることが望ましい。例えば、不飽和脂肪族モノカルボン酸エステルの量は、第1アミノ基含有アルコキシシラン化合物における第1級アミノ基1モルに対して0.8~2モル程度である。
【0069】
第2級アミノ基含有アルコキシシラン化合物としては、構造式(4)で表される化合物であることが好ましい。
【化3】
構造式(4)において、R、R、R、R、R、R、Rおよびmは、構造式(2)および(3)において定義されたとおりである。
【0070】
鎖延長剤は、アミン系鎖延長剤であることが好ましい。アミン系鎖延長剤は、分子内に第3級アミノ基以外のアミノ基(第1級アミノ基や第2級アミノ基等)を1つ以上有するアミン化合物であり、分子内に第3級アミノ基以外のアミノ基を複数有するポリアミンであることが好ましい。鎖延長剤は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0071】
アミン系鎖延長剤における第3級アミノ基以外のアミノ基の数は、例えば2~6であり、好ましくは2~4であり、さらに好ましくは2~3である。
【0072】
アミン系鎖延長剤としては、例えば、脂肪族ポリアミン、脂環式ポリアミン、芳香族ポリアミン、芳香脂肪族ポリアミン、ヒドラジン及びその誘導体等が挙げられる。
【0073】
脂肪族ポリアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、1,3-トリメチレンジアミン、1,4-テトラメチレンジアミン、1,3-ペンタメチレンジアミン、1,5-ペンタメチレンジアミン、1,6-ヘキサメチレンジアミン、1,2-プロピレンジアミン、1,2-ブチレンジアミン、2,3-ブチレンジアミン、1,3-ブチレンジアミン、2-メチル-1,5-ペンタメチレンジアミン、3-メチル-1,5-ペンタメチレンジアミン、2,4,4-トリメチル-1,6-ヘキサメチレンジアミン、2,2,4-トリメチル-1,6-ヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミンの他、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン等が挙げられる。
【0074】
脂環式ポリアミンとしては、例えば、1,3-シクロペンタンジアミン、1,4-シクロヘキサンジアミン、1,3-シクロヘキサンジアミン、1-アミノ-3-アミノメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、1-アミノ-1-メチル-4-アミノメチルシクロヘキサン、1-アミノ-1-メチル-3-アミノメチルシクロヘキサン、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、4,4’-メチレンビス(3-メチル-シクロヘキシルアミン)、メチル-2,3-シクロヘキサンジアミン、メチル-2,4-シクロヘキサンジアミン、メチル-2,6-シクロヘキサンジアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、イソホロンジアミン、ノルボルナンジアミン等の脂環式ジアミン等が挙げられる。
【0075】
芳香族ポリアミンとしては、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、2,4-トリレンジアミン、2,6-トリレンジアミン、ナフチレン-1,4-ジアミン、ナフチレン-1,5-ジアミン、4,4’-ジフェニルジアミン、4,4’-ジフェニルメタンジアミン、2,4’-ジフェニルメタンジアミン、4,4’-ジフェニルエーテルジアミン、2-ニトロジフェニル-4,4’-ジアミン、2,2’-ジフェニルプロパン-4,4’-ジアミン、3,3’-ジメチルジフェニルメタン-4,4’-ジアミン、4,4’-ジフェニルプロパンジアミン、3,3’-ジメトキシジフェニル-4,4’-ジアミン等の芳香族ジアミン等が挙げられる。
【0076】
芳香脂肪族ポリアミンとしては、例えば、1,3-キシリレンジアミン、1,4-キシリレンジアミン、α,α,α’,α’-テトラメチル-1,3-キシリレンジアミン、α,α,α’,α’-テトラメチル-1,4-キシリレンジアミン、ω,ω’-ジアミノ-1,4-ジエチルベンゼン、1,3-ビス(1-アミノ-1-メチルエチル)ベンゼン、1,4-ビス(1-アミノ-1-メチルエチル)ベンゼン、1,3-ビス(α,α-ジメチルアミノメチル)ベンゼン等の芳香脂肪族ジアミン等が挙げられる。
【0077】
ヒドラジン及びその誘導体としては、例えば、ヒドラジンや、ジヒドラジド系化合物等が挙げられる。ジヒドラジド系化合物には、例えば、カルボジヒドラジド(カルボヒドラジド)、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド等の脂肪族ジカルボン酸ジヒドラジド類;イソフタル酸ジヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジド等の芳香族ジカルボン酸ジヒドラジド類;1,4-シクロヘキサンジカルボン酸ジヒドラジド等の脂環式ジカルボン酸ジヒドラジド類等が含まれる。
【0078】
アミン系鎖延長剤としては、エチレンジアミン、1,3-ペンタメチレンジアミン、1,6-ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、4,4’-メチレンビス(3-メチル-シクロヘキシルアミン)、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、イソホロンジアミン、ノルボルナンジアミン、1,3-キシリレンジアミン等の脂肪族、脂環式及び芳香脂肪族ポリアミンや、ヒドラジン、カルボジヒドラジド等のヒドラジン及びその誘導体等が好適に挙げられる。
【0079】
シリル化ウレタン樹脂の好ましい製造方法としては、アニオン性基非含有ポリオールおよびアニオン性基含有ポリオールを含むポリオール成分とポリイソシアネート成分とからイソシアネート基末端アニオン性基含有ウレタンプレポリマーを調製し、該イソシアネート基末端アニオン性基含有ウレタンプレポリマーに第2級アミノ基含有アルコキシシラン化合物を反応させて末端部分的アルコキシシリル化アニオン性基含有ウレタンプレポリマーを調製し、該末端部分的アルコキシシリル化アニオン性基含有ウレタンプレポリマーの残存イソシアネート基にアミン系鎖延長剤と反応させてアニオン性基含有アルコキシシリル基末端ウレタンポリマーをシリル化ウレタン樹脂として調製する方法が挙げられる。この方法により得られるシリル化ウレタン樹脂は、分子内にアニオン性基非含有ポリオールに由来するアニオン性基と、末端に第2級アミノ基含有アルコキシシラン化合物に由来するアルコキシシリル基と、ポリイソシアネート成分に由来するイソシアネート基とアミン系鎖延長剤のアミノ基との反応によるウレア結合部位とを有するウレタンポリマーである。
【0080】
ポリオール成分とポリイソシアネート成分の反応は、公知の方法に準じて行うことができる。反応促進のために触媒を用いることができ、また、反応は、溶媒中で行うこともできる。
【0081】
イソシアネート基末端アニオン性基含有ウレタンプレポリマーと第2級アミノ基含有アルコキシシラン化合物の反応は、公知の方法に準じて行うことができる。反応促進のために触媒を用いることができる。また、反応は、必要に応じて加熱しながら行うこともでき、溶媒中で行うこともできる。
【0082】
末端部分的アルコキシシリル化アニオン性基含有ウレタンプレポリマーとアミン系鎖延長剤の反応は、公知の方法に準じて行うことができる。反応促進のために触媒を用いることができる。また、反応は、必要に応じて加熱しながら行うこともでき、溶媒中で行うこともできる。
【0083】
これらの反応で使用できる触媒としては、例えば、有機錫化合物、金属錯体、アミン化合物などの塩基性化合物、有機燐酸化合物等が挙げられる。有機スズ化合物には、例えば、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫マレート、ジブチル錫フタレート、オクチル酸第一錫、ジブチル錫メトキシド、ジブチル錫ジアセチルアセテート、ジブチル錫ジバーサテート等が含まれる。金属錯体としては、テトラブチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、トリエタノールアミンチタネート等のチタネート化合物類;オクチル酸鉛、ナフテン酸鉛、ナフテン酸ニッケル、ナフテン酸コバルト等のカルボン酸金属塩;アルミニウムアセチルアセトナート錯体、バナジウムアセチルアセトナート錯体等の金属アセチルアセトナート錯体等が挙げられる。アミン化合物等の塩基性化合物には、例えば、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン等のアミノシラン類;テトラメチルアンモニウムクロライド、ベンザルコニウムクロライド等の第四級アンモニウム塩類;1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセ-7-エン等の複数の窒素原子を含む直鎖または環状の第三級アミンまたは第四級アンモニウム塩等が含まれる。有機燐酸化合物としては、モノメチル燐酸、ジ-n-ブチル燐酸、燐酸トリフェニル等が挙げられる。
【0084】
ポリイソシアネート成分のイソシアネート基とポリオール成分の水酸基の当量比(NCO/OH)は、例えば1より大きく2.0以下であり、好ましくは1.02~1.5であり、さらに好ましくは1.05~1.4である。
【0085】
イソシアネート基末端アニオン性基含有ウレタンプレポリマーは、イソシアネート基の含有量が、好ましくは0.3~7.0質量%であり、より好ましくは0.4~4.0質量%であり、さらに好ましくは0.5~3.0質量%である。
【0086】
末端部分的アルコキシシリル化アニオン性基含有ウレタンプレポリマーは、アニオン性基の含有量が、好ましくは0.2~3.0質量%であり、より好ましくは0.5~2.5質量%であり、さらに好ましくは0.8~2.0質量%である。
【0087】
末端部分的アルコキシシリル化アニオン性基含有ウレタンプレポリマーは、ケイ素原子の含有量が、好ましくは0.05~1.0質量%であり、より好ましくは0.1~0.8質量%であり、さらに好ましくは0.2~0.7質量%である。
【0088】
アミン系鎖延長剤は、末端部分的アルコキシシリル化アニオン性基含有ウレタンプレポリマーの残存イソシアネート基とほぼ等しい当量で反応させることが好ましく、例えば、イソシアネート基1当量に対して0.8~1当量である。
【0089】
シリル化ウレタン樹脂は、その水酸基価(OVH)が、例えば60~400mgKOH/gであり、好ましくは80~350mgKOH/gである。本明細書において、水酸基価は、試料1g中の水酸基と当量の水酸化カリウムのミリグラム(mg)数であり、JIS K 1557-1:2007に準じて求めることができる。
【0090】
シリル化ウレタン樹脂は、ディスパージョンまたはエマルションの形態で調製されることが好ましい。
【0091】
本発明の塗料組成物中のシリル化ウレタン樹脂の量は、例えば50~90質量%であり、好ましくは65~85質量%である。
【0092】
本発明の塗料組成物は、シリル化ウレタン樹脂および水を含むものであり、水が蒸発又は揮発等により乾燥した条件下で硬化することができる。
【0093】
本発明の塗料組成物は、架橋密度が1.0×10-4(mol/cc)~5.0×10-3(mol/cc)であり、3.0×10-4(mol/cc)~1.0×10-3(mol/cc)であることが好ましい。シリル化ウレタン樹脂から形成される塗膜は柔軟性が高いため、架橋密度を上記特定した範囲に調整することが好ましい。これによって、形成される塗膜の柔軟性と強度のバランスをとることができる。
【0094】
本明細書において、塗膜の架橋密度は、式n=E’/3RT(式中、nは、塗膜の架橋密度(mol/cc)であり、E’は、塗膜の周波数1Hzにおける平坦領域貯蔵弾性率(Pa)であり、Tは、塗膜の平坦領域貯蔵弾性率の絶対温度(K)であり、Rは、気体定数(8.31×10Pa・cc/mol・K)である。)から算出される。
【0095】
塗膜の平坦領域貯蔵弾性率の測定方法の詳細は、以下のとおりである。乾燥膜厚が250~350μmとなるようにアプリケーターを用いてポリプロピレン(PP)板へ塗料組成物を塗布し、23℃50%RHで7日間養生して、単離膜を得る。固体粘弾性測定装置(例えば、RSA-GII(TAインスツルメント社製))にて、上記単離膜について、以下の測定条件にて貯蔵弾性率を測定し、塗膜の平坦領域貯蔵弾性率を読み取る。
<測定条件>
温度範囲:-50℃~200℃
昇温速度:5℃/min
測定長さ:20.0mm
測定幅:8.0mm
周波数:1Hz
歪み:0.05%
【0096】
本発明の塗料組成物は、シリル化ウレタン樹脂と反応する架橋剤を含むことが好ましい。架橋剤を用いることによって、架橋密度を容易に調整することができる。本明細書において、架橋剤を「架橋剤(B)」と称する場合もある。架橋剤は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0097】
架橋剤としては、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、アジリジン系架橋剤、ポリエチレンイミン系架橋剤、メラミン系架橋剤等が挙げられる。本発明の塗料組成物において、架橋剤は、カルボジイミドであることが特に好ましい。カルボジイミド系硬化剤は、ポットライフ(可使時間)が長く、高い架橋性能を有すると共に、塗膜形成初期の耐水性を向上させることができる。
【0098】
カルボジイミド系架橋剤は、分子中にカルボジイミド基を複数有する架橋剤である。カルボジイミド系架橋剤としては、例えば、N,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド、N,N’-ジイソプロピルカルボジイミド、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド、N-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]-N’-エチルカルボジイミド、N-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]-N’-エチルカルボジイミドメチオジド、N-tert-ブチル-N’-エチルカルボジイミド、N-シクロヘキシル-N’-(2-モルホリノエチル)カルボジイミドメソ-p-トルエンスルホネート、N,N’-ジ-tert-ブチルカルボジイミド、N,N’-ジ-p-トリルカルボジイミド等のカルボジイミド化合物;カルボジイミド化触媒の存在下でポリイソシアネートの公知の縮合反応により得られるカルボジイミド化合物;ポリイソシアネート及びポリアルキレンオキサイドを原料とするカルボジイミド化合物等が挙げられる。カルボジイミド系架橋剤は、日清紡ケミカル株式会社等から入手可能である。
【0099】
本発明の塗料組成物は、シリル化ウレタン樹脂(A)と架橋剤(B)の質量比が(A)/(B)=60/40~99/1であることが好ましく、(A)/(B)=80/20~95/5であることがさらに好ましい。
【0100】
本発明の塗料組成物は、1液型でも2液型でもよいが、架橋剤を使用する場合は、2液型の塗料組成物であることが好ましい。本明細書において「2液型の塗料組成物」とは、使用直前まで2つの部分に分けられていて、使用直前に始めて混合する塗料をいう。例えば、本発明の塗料組成物を構成する2つの部分は、シリル化ウレタン樹脂を含む主剤と、架橋剤を含む硬化剤の2つである。主剤と硬化剤との混合の際に、粘度の調整等の目的で水や希釈剤等の添加剤をさらに加えてもよい。
【0101】
本発明の塗料組成物は、乾燥膜厚が300μmの塗膜とした時の塗膜強度が25~80Nであり、30~70Nであることが好ましく、35~60Nであることがさらに好ましい。
【0102】
塗膜強度を調整する手法としては、例えば、シリル化ウレタン樹脂(A)と架橋剤(B)の質量比を調整する手法、好ましくはシリル化ウレタン樹脂(A)と架橋剤(B)の質量比を(A)/(B)=60/40~99/1の範囲となるように調整する手法、塗膜形成成分中の顔料成分の量を調整する手法、好ましくは塗膜形成成分中の顔料成分の量を5~60質量%に調整する手法、更に好ましくは体質顔料としてホワイトカーボンを用いる手法、特に好ましくは塗膜形成成分中のホワイトカーボンの量を1~30質量%に調整する手法等が挙げられ、これらの手法を組み合わせてもよい。
【0103】
本明細書において、塗膜強度の測定は、(社)日本道路協会『道路橋の塩害対策指針(案)・同解説 付録1.コンクリート塗装材料の品質試験方法(案)(6)ひび割れ追従性試験方法』昭和59年2月発行に従って行うことができる。
【0104】
本発明の塗料組成物は、乾燥膜厚が300μmの塗膜とした時の伸び率が50~400%であり、150~350%であることが好ましく、200~300%であることがさらに好ましい。
【0105】
伸び率を調整する手法としては、例えば、塗膜形成成分中のシリル化ウレタン樹脂の量を調整する手法、好ましくは塗膜形成成分中のシリル化ウレタン樹脂の量を50~95質量%に調整する手法、塗膜形成成分中の顔料成分の量を調整する手法、好ましくは塗膜形成成分中の顔料成分の量を1~30質量%に調整する手法等が挙げられ、これらの手法を組み合わせてもよい。
【0106】
本明細書において、伸び率の測定は、(社)日本道路協会『道路橋の塩害対策指針(案)・同解説 付録1.コンクリート塗装材料の品質試験方法(案)(6)ひびわれ追従性試験方法』昭和59年2月発行に従って行うことができる。
【0107】
本発明の塗料組成物は、乾燥膜厚が300μmの塗膜とした時の塗膜強度が25~80Nであり、伸び率が50~400%であることから、本発明の塗料組成物を剥落防止工法に用いることで、耐荷性を向上させることができる。
【0108】
塗膜強度および伸び率を同時に調整する手法としては、例えば、上述した塗膜強度を調整する手法と伸び率を調整する手法を組み合わせることが挙げられる。好ましくは、塗膜形成成分中のシリル化ウレタン樹脂の量を50~95質量%に調整し、シリル化ウレタン樹脂(A)と架橋剤(B)の質量比を(A)/(B)=60/40~99/1の範囲となるように調整し、塗膜形成成分中の顔料成分の量を5~30質量%に調整する手法等が挙げられ、特に好ましくは、塗膜形成成分中のホワイトカーボンの量を1~15質量%に調整する手法等が挙げられる。
【0109】
本発明の塗料組成物は、せん断速度0.1s-1、温度23℃での粘度が、10~2000Pa・sであることが好ましく、100~1000Pa・sであることがより好ましく、120~600Pa・sであることがさらに好ましい。また、せん断速度1000s-1、温度23℃での粘度が、0.05~3.0Pa・sであることが好ましく、0.05~2.5Pa・sであることがさらに好ましい。本発明の塗料組成物の粘度を上記特定した範囲内とすることで、厚膜時のタレ性を向上することができ、かつ塗装作業性を良好なものとすることができる。
【0110】
本明細書において、粘度は、回転式粘度計(例えば、レオメーター(TAインスツルメンツ社製レオメーターARES等))を用いて測定することができる。
【0111】
塗料組成物の粘度の調整は、粘性調整剤や体質顔料を使用することで行うことができる。特に、塗料組成物の粘度の調整には、体質顔料、特にはホワイトカーボンを使用することが好ましい。
【0112】
本発明の塗料組成物は、粘性調整剤を含むことが好ましい。粘性調整剤としては、ポリアクリル酸系粘性調整剤やポリウレタン系粘性調整剤であることが好ましい。ポリアクリル酸系粘性調整剤は、例えば、アクリル酸又はそのエステル、アミド及びニトリル等から選択されるアクリル成分の1種又は複数種を重合させて得られる重合体のアミン塩、アマイド塩又はナトリウム塩であり、分子内に複数のカルボキシル基又はその塩を有する。ポリアクリル酸系粘性調整剤の市販品として、例えば、チクゾールK-130B(共栄社、ポリアクリル酸脂肪族ポリアマイドの水分散液)等がある。ポリウレタン系粘性調整剤としては、例えば、水酸基とイソシアネート基の反応から形成されるウレタン部位と親水性部位を分子内に有する化合物や、アミノ基とイソシアネート基の反応から形成されるウレア部位と親水性部位を分子内に有する化合物、又はウレタン部位、ウレア部位及び親水性部位を分子内に有する化合物が挙げられる。ポリウレタン系粘性調整剤の市販品として、例えば、BYK-7420ES(BYK、ウレアウレタン溶液)等がある。
【0113】
本発明の塗料組成物中の粘性調整剤の量は、例えば0~3質量%であり、好ましくは0.15~1.5質量%である。粘性調整剤は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0114】
本発明の塗料組成物は、体質顔料を含むことが好ましい。体質顔料としては、例えば、炭酸カルシウム、シリカ、アルミナ、水和アルミナ、マグネシア、タルク、カオリン、クレー、硫酸バリウム、炭酸バリウム、ウォラストナイト、セラミック粉末、ガラス繊維粉末、ホワイトカーボン、珪酸マグネシウム、けい砂等が挙げられ、これらの中でも、ホワイトカーボン、タルク、けい砂、炭酸カルシウム、シリカ、硫酸バリウムが好ましく、ホワイトカーボンが特に好ましい。
【0115】
本発明の塗料組成物中の体質顔料の量は、例えば1~15質量%であり、好ましくは1~10質量%であり、さらに好ましくは1~5質量%である。体質顔料は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0116】
本発明の塗料組成物は、着色顔料を含んでもよい。着色顔料としては、例えば、酸化チタン及びカーボンブラック等が好適に挙げられる。本発明の塗料組成物中の着色顔料の量は、例えば0~20質量%であり、好ましくは0~10質量%である。着色顔料は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0117】
本発明の塗料組成物は、塗膜形成成分の割合が、25~85質量%であることが好ましく、35~80質量%であることがさらに好ましい。
【0118】
本明細書において、塗膜形成成分とは、水等の揮発する成分を除いた成分を指し、最終的に塗膜を形成することになる成分である。本明細書においては、130℃で30分間乾燥させた際に残存する成分を塗膜形成成分として取り扱う。塗料組成物中の塗膜形成成分の割合(R)(質量%)は、以下の式により求められる。なお、「塗膜形成成分」を「不揮発分」と言い換えることができる。
R=(塗膜形成成分の質量)×100/(塗料組成物の質量)
【0119】
本発明の塗料組成物には、その他の成分として、他の樹脂、表面調整剤、湿潤剤、分散剤、乳化剤、沈降防止剤、皮張り防止剤、消泡剤、色分かれ防止剤、レベリング剤、乾燥剤、可塑剤、防腐剤、防カビ剤、抗菌剤、殺虫剤、抗ウイルス剤、光安定化剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤及び導電性付与剤等を目的に応じて適宜配合することができる。添加剤に有機溶剤が使用される場合もあるが、本発明の塗料組成物は、環境への負荷を抑える観点から、有機溶剤の含有量が10質量%未満であることが好ましく、5質量%未満であることがさらに好ましく、有機溶剤を含まないことが最も好ましい。
【0120】
本発明の塗料組成物は、必要に応じて適宜選択される各種成分を混合することによって調製できる。本発明の塗料組成物が2液型塗料組成物である場合、主剤と硬化剤とを予め用意しておき、これらを塗装時に混合することで調製できる。主剤は、シリル化ウレタン樹脂および水を含み、必要に応じて粘性調整剤や体質顔料等をさらに含んでもよい。硬化剤は、例えば架橋剤を含み、必要に応じて水や他の添加剤をさらに含んでもよい。
【0121】
本発明の塗料組成物の塗装手段は、特に限定されず、既知の塗装手段、例えば、刷毛塗装、ローラー塗装、コテ塗装、ヘラ塗装、フローコーター塗装、スプレー塗装(例えばエアースプレー塗装、エアレススプレー塗装など)等が利用できるが、既に建設されたコンクリート構造物への塗装を考慮すると、刷毛塗装、ローラー塗装、コテ塗装およびヘラ塗装が好適である。
【0122】
本発明の塗料組成物は、周囲温度で硬化させることができるが、硬化時に加熱してもよい。本発明の塗料組成物は、常温硬化型塗料組成物であることが好ましく、塗装時の温度が5℃~40℃であることが好ましい。
【0123】
本発明の塗料組成物は、剥落防止工法、具体的にはコンクリート片の剥落防止工法への使用に適した塗料組成物である。好ましくは、本発明の塗料組成物は、繊維シートを含んで構成される塗膜の形成に使用される。このような用途では、本発明の塗料組成物は、繊維シートに浸み込み、繊維シートを固着させることから、含浸接着剤と称される場合もある。
【0124】
以下に、コンクリート片の剥落防止工法を説明する。コンクリート片の剥落防止工法の一実施形態は、コンクリート構造物の表面に、プライマーの塗装、含浸接着剤の塗装、繊維シートの設置、含浸接着剤の塗装、上塗り塗料の塗装をこの順に行い、積層構造を形成させる。プライマーの塗装の前には、コンクリート構造物に対して素地調整を行うことが好ましい。この実施形態に従い形成される積層構造は、プライマーから形成された層と、含浸接着剤から形成された繊維シートを含む層と、上塗り塗料から形成された層とを備える。本発明の塗料組成物は、この実施形態においては、含浸接着剤として使用されることが好ましい。また、コンクリート構造物の塗装表面において凹凸の激しい箇所に対しては、プライマーの塗装前にポリマーセメント等を用いて、塗装表面の凹凸を埋める工程(不陸調整工程)を追加することが好ましい。
【0125】
コンクリート構造物は、コンクリートを単体で利用した構造物や鉄筋コンクリートを利用した構造物であり、その具体例としては、高架橋、橋梁、橋脚、橋台、桁、床版、高欄、ドルフィン、トンネル、道路、導水路、貯蔵槽、壁、屋根、バルコニー等の各種コンクリート構造物やその部材等が挙げられる。首都高速道路株式会社の「橋梁構造物設計要領 コンクリート片剥落防止片」(平成26年8月(一部改訂))には、A種の適用範囲として、水切り部が設けられた高欄側面、水切り部が設けられた張出床版下面などが規定され、B種の適用範囲として、水切り部のない高欄側面、橋脚の横梁側面および横梁下面、桁側面、桁下面、トンネルの天井および側壁、ハンチ部などが規定されている。
【0126】
プライマーは、樹脂を含み、その具体例として、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、アクリルシリコーン樹脂、スチレンアクリル共重合樹脂、ポリエステル樹脂、ふっ素樹脂、ロジン樹脂、石油樹脂、クマロン樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、エポキシ樹脂、セルロース樹脂、キシレン樹脂、アルキッド樹脂、脂肪族炭化水素樹脂、ブチラール樹脂、マレイン酸樹脂、フマル酸樹脂、ビニル樹脂、アミン樹脂、ケチミン樹脂等が挙げられる。プライマーは、塗装後に形成されるプライマー層中における樹脂の量が例えば10~70質量%となるように、樹脂を含むことが好ましい。なお、樹脂は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0127】
プライマーは、エポキシ樹脂を含むことが好ましい。エポキシ樹脂は、コンクリート構造物に対する付着性に優れる。エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ハロゲン化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ポリグリコール型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、エポキシ化油、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル及びネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル等が挙げられる他、このようなエポキシ樹脂の変性物である、アミン変性エポキシ樹脂、イソシアネート変性エポキシ樹脂、アクリル変性エポキシ樹脂、ウレタン変性エポキシ樹脂、ポリエステル変性エポキシ樹脂等の、変性エポキシ樹脂等も含まれる。これらの中でも、塗膜の耐久性やコンクリート構造物に対する付着性の観点から、ビスフェノールA型エポキシ樹脂及びビスフェノールF型エポキシ樹脂が好ましい。エポキシ樹脂は、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0128】
プライマーは、水系のプライマーであることが好ましい。本明細書において「水系のプライマー」とは、主溶媒として水を含有するプライマーである。
【0129】
プライマーには、その他の成分として、他の樹脂、硬化剤、粘性調整剤、顔料、表面調整剤、湿潤剤、分散剤、乳化剤、沈降防止剤、皮張り防止剤、消泡剤、色分かれ防止剤、レベリング剤、乾燥剤、可塑剤、防腐剤、防カビ剤、抗菌剤、殺虫剤、抗ウイルス剤、光安定化剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤及び導電性付与剤等を目的に応じて適宜配合することができる。
【0130】
プライマーは、1液型でも2液型でもよい。また、プライマーは、常温乾燥型または常温硬化型であることが好ましい。
【0131】
コンクリート片の剥落防止工法では、プライマーから形成される層の膜厚は、5~50μmであることが好ましい。
【0132】
含浸接着剤には、上述のとおり、本発明の塗料組成物を使用することが好ましい。繊維シートを含む層を形成するため、繊維シートを配置する前後で含浸接着剤の塗装を行うことが好ましい。それぞれの塗装で使用される含浸接着剤は、異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
【0133】
コンクリート片の剥落防止工法では、含浸接着剤から形成された繊維シートを含む層の膜厚は、200~1000μmであることが好ましい。含浸接着剤の各塗装から形成される各層の膜厚は、100~500μmであることが好ましい。
【0134】
繊維シートは、不織布であってもよいが、格子状のシートであることが好ましい。繊維シートとしては、例えば、ガラス繊維、ポリエステル繊維、ビニロン繊維、ポリアミド繊維、ポリエチレン繊維、ポリパラフェニレン繊維、ポリアリレート繊維、アラミド繊維、炭素繊維等の繊維で構成されるシートが挙げられ、これらの中でも、ポリエステル繊維シートが好ましい。
【0135】
上塗り塗料は、樹脂を含み、その具体例として、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、アクリルシリコーン樹脂、スチレンアクリル共重合樹脂、ポリエステル樹脂、ふっ素樹脂、ロジン樹脂、石油樹脂、クマロン樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、エポキシ樹脂、セルロース樹脂、キシレン樹脂、アルキッド樹脂、脂肪族炭化水素樹脂、ブチラール樹脂、マレイン酸樹脂、フマル酸樹脂、ビニル樹脂、アミン樹脂、ケチミン樹脂等が挙げられる。上塗り塗料は、塗装後に形成される上塗り層中における樹脂の量が例えば15~50質量%となるように、樹脂を含むことが好ましい。なお、樹脂は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0136】
上塗り塗料に使用し得る樹脂は、変性樹脂であってもよい。変性樹脂の具体例としては、アルキル変性、アルキルエーテル変性、アルキルフェノールノボラック変性、アクリル変性、脂肪酸変性、ウレタン変性、アミノ変性、イソシアネート変性、シリコーン変性、その他アリル基を利用したグラフト変性等の変性がされている樹脂(好ましくはエポキシ樹脂、水酸基を含む樹脂等)が挙げられる。ここで、水酸基を含む樹脂としては、水酸基含有アクリル樹脂、水酸基含有アクリルシリコーン樹脂及び水酸基含有ふっ素樹脂等が挙げられる。上塗り塗料は、塗装後に形成される上塗り層中における変性樹脂の量が例えば1~15質量%となるように、変性樹脂を含むことが好ましい。
【0137】
上塗り塗料は、ウレタン樹脂を含む層を形成するための塗料であることが好ましい。すなわち、上塗り塗料は、ウレタン樹脂を含む塗料であるか、またはポリオールを含む主剤と、ポリイソシアネートを含む硬化剤とを含む塗料であることが好ましい。ウレタン樹脂は、耐候性に優れる。
【0138】
ウレタン樹脂は、例えば、ポリオール成分と、ポリイソシアネート成分と、任意に鎖延長剤とを反応させて得ることができるが、上塗り塗料から形成される層に含まれるウレタン樹脂としては、ポリイソシアネート、ポリカーボネートポリオールおよび鎖延長剤を反応させて得られるウレタン樹脂が好ましい。ここでのポリオール成分、ポリイソシアネート成分および鎖延長剤は、上述したシリル化ウレタン樹脂についてのポリオール成分、ポリイソシアネート成分および鎖延長剤の説明において記載したとおりである。
【0139】
上塗り塗料は、水系の塗料であることが好ましい。
【0140】
上塗り塗料には、その他の成分として、他の樹脂、硬化剤、粘性調整剤、顔料、表面調整剤、湿潤剤、分散剤、乳化剤、沈降防止剤、皮張り防止剤、消泡剤、色分かれ防止剤、レベリング剤、乾燥剤、可塑剤、防腐剤、防カビ剤、抗菌剤、殺虫剤、抗ウイルス剤、光安定化剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤及び導電性付与剤等を目的に応じて適宜配合することができる。
【0141】
上塗り塗料は、1液型でも2液型でもよい。また、上塗り塗料は、常温乾燥型または常温硬化型であることが好ましい。
【0142】
コンクリート片の剥落防止工法では、上塗り塗料から形成される層の膜厚は、10~100μmであることが好ましい。
【0143】
プライマー、含浸接着剤および上塗り塗料の塗装手段は、特に限定されず、既知の塗装手段、例えば、刷毛塗装、ローラー塗装、コテ塗装、ヘラ塗装、フローコーター塗装、スプレー塗装(例えばエアースプレー塗装、エアレススプレー塗装など)等が利用できるが、既に建設されたコンクリート構造物への塗装を考慮すると、刷毛塗装、ローラー塗装、コテ塗装およびヘラ塗装が好適である。
【0144】
本発明の塗料組成物を用いた剥落防止工法により形成される積層構造は、「首都高速道路株式会社 橋梁構造物設計要領 コンクリート片剥落防止編 平成18年8月版」に準拠した耐荷性試験において、φ10cm当たりの押抜き荷重が1.5kN以上であることが好ましく、2.0kN以上であることがさらに好ましい。φ10cm当たりの押抜き荷重の上限は特に制限されるものではないが、例えば3kN程度である。
【0145】
耐荷性試験には、コンクリート基材として、例えば、JIS A 5372:2004(プレキャスト鉄筋コンクリート製品)に規定するU形ふた、呼び名1種(400×600×60mm)を使用することができる。
【実施例0146】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0147】
≪使用材料≫
塗料組成物の調製のため、以下の材料を用いた。
[主剤]
(1)樹脂
・シリル化ウレタンディスパージョン-1(コニシ株式会社製、アクアリンカーSU-500、不揮発分;37.5質量%)
・シリル化ウレタンディスパージョン-2(コニシ株式会社製、アクアリンカーSU-501A、不揮発分;35.0質量%)
・シリル化ウレタンディスパージョン-3(コニシ株式会社製、アクアリンカーSU-100、不揮発分;30.0質量%)
・ポリウレタンディスパージョン(ダイセル・オルネクス株式会社製、DAOTAN VTW 6462/36WA、不揮発分;36質量%)
・EVA樹脂(エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂)エマルジョン(住化ケムテックス株式会社製、スミカフレックスS-355HQ、不揮発分;55質量%)
・エポキシ樹脂エマルジョン(三菱ケミカル株式会社製、jER W1155R55、不揮発分;55質量%)
(2)顔料
・ホワイトカーボン(日本アエロジル株式会社製、AEROSIL200)
・タルク(日本タルク株式会社製、タルクC)
・炭酸カルシウム(丸尾カルシウム株式会社製、TF重質炭酸カルシウム)
・着色顔料(下記の白色顔料と黒色顔料を100:1の割合(質量比)で配合したもの)
白色顔料(堺化学株式会社製、TITONE R-5N)
黒色顔料(三菱ケミカル株式会社製、三菱カーボンブラック MA-100)
(3)添加剤
・粘性調整剤(ビックケミー・ジャパン株式会社製、BYK-420、不揮発分;52質量%)
・分散剤(ビックケミー・ジャパン株式会社製、BYK-011、不揮発分;29質量%)
・消泡剤(ビックケミー・ジャパン株式会社製、DISPERBYK-190、不揮発分;40質量%)
[硬化剤]
(4)架橋剤
・カルボジイミド架橋剤-1(日清紡ケミカル株式会社製、カルボジライトE-05、不揮発分;40質量%)
・カルボジイミド架橋剤-2(日清紡ケミカル株式会社製、カルボジライトV-10、不揮発分;40質量%)
・カルボジイミド架橋剤-3(日清紡ケミカル株式会社製、カルボジライトE-02、不揮発分;40質量%)
・イソシアネート系架橋剤(旭化成株式会社製、デュラネートWE-100、不揮発分;100質量%)
・アミン系架橋剤(三菱ケミカル株式会社製、jERキュアWD11M60、不揮発分;60質量%)
【0148】
≪実施例及び比較例≫
表1~2に示す配合処方に従い、主剤成分をディスパーにより撹拌して主剤を調製した。また、表1~2に示す配合処方に従い、得られた主剤と硬化剤を混合して、塗料組成物を調製した。なお、表1~2中の配合処方における各成分の数値は「質量部」である。また、表中の「塗膜形成成分(%)」の欄には、塗料組成物中の塗膜形成成分の量(質量%)が示される。表中の「塗膜形成成分中の含有量」の「シリル化ウレタン樹脂(A)」、「架橋剤(B)」及び「顔料」の欄には、それぞれ、塗料組成物における塗膜形成成分中のシリル化ウレタン樹脂(A)の含有量(質量%)、塗料組成物における塗膜形成成分中の架橋剤(B)の含有量(質量%)及び塗料組成物における塗膜形成成分中の顔料の含有量(質量%)が示され、「シリル化ウレタン樹脂(A)/架橋剤(B)」の欄には、塗料組成物中におけるシリル化ウレタン樹脂(A)/架橋剤(B)の質量比が示される。
【0149】
【表1】
【0150】
【表2】
【0151】
≪測定・評価方法≫
実施例1~19及び比較例1~7の各塗料組成物について、各種測定及び試験を行い、得られた結果を表3~4に示す。
1.塗料性状
<引火点測定>
STANHOPE-SETA社製のSETAFLASH SERIES3 FLASHPOINT TESTERS(セタ密閉方式)により、引火点が検出されるか否かを判定した。表には、引火点が検出されない場合を「なし」、引火点が検出された場合を「あり」と示す。
【0152】
<粘度測定>
TAインスツルメンツ社製レオメーターARESを用い、せん断速度0.1(1/s)、10(1/s)、及び1000(1/s)における各粘度(いずれも温度23℃の粘度)を測定した。せん断速度0.1(1/s)における測定結果をタレ領域の粘度とし、せん断速度1000(1/s)における測定結果を塗装時の粘度とした。
【0153】
2.塗膜性能(単膜)
<供試体Aの作製方法>
実施例1~19及び比較例1~7の塗料組成物を乾燥膜厚が300μmとなるようにアプリケーターを用いてポリプロピレン(PP)板へ塗布し、23℃50%RHで7日間養生して単離膜を作製し、各塗料組成物についての供試体Aを得た。
【0154】
<塗膜強度>
得られた供試体Aを用い、(社)日本道路協会『道路橋の塩害対策指針(案)・同解説 付録1.コンクリート塗装材料の品質試験方法(案)(6)ひび割れ追従性試験方法』(昭和59年2月発行)に従い、塗膜強度を測定した。
【0155】
<伸び率>
得られた供試体Aを用い、(社)日本道路協会『道路橋の塩害対策指針(案)・同解説 付録1.コンクリート塗装材料の品質試験方法(案)(6)ひび割れ追従性試験方法』(昭和59年2月発行)に従い、伸び率を測定した。
【0156】
<架橋密度>
固体粘弾性測定装置(RSA-GII(TAインスツルメント社製))にて、得られた供試体Aについて、以下の測定条件にて貯蔵弾性率を測定し、塗膜の平坦領域貯蔵弾性率を読み取り、架橋密度を求めた。
・測定条件
温度範囲:-50℃~200℃
昇温速度:5℃/min
測定長さ:20.0mm
測定幅:8.0mm
周波数:1Hz
歪み:0.05%
【0157】
3.評価
<タレ性>
PP板(厚み150mm、幅70mm)の垂直面に、実施例1~19及び比較例1~7の塗料組成物をローラーでタレが生じるまで塗装し、23℃50%RHで168時間乾燥させた後、PP板の上端から20mmの位置の膜厚をタレ限界とし、下記の基準に従って評価した。なお、膜厚は塗膜をPP板から剥離し、ノギスを用いて測定した。
〇:タレ限界が1000μm以上。
△:タレ限界が700μm以上、1000μm未満。
×:タレ限界が700μm未満。
【0158】
<塗装作業性>
コンクリート基材の水平面に水系エポキシ樹脂プライマー(水性エポオール、大日本塗料株式会社製)を乾燥膜厚15μmとなるようにローラーで塗装し、23℃50%RHで24時間乾燥させた後、実施例1~19及び比較例1~7の塗料組成物を乾燥膜厚150μmとなるようにローラーで塗装し、下記の基準に従って評価した。このコンクリート基材は、表面が平滑な基材が、JIS A 5372:2004(プレキャスト鉄筋コンクリート製品)に規定されるU形ふた、呼び名1種(400×600×60mm)を用いた。
〇:塗料組成物を容易に塗りつけられ、均一に仕上がり、規定の膜厚に容易に塗装できる。
△:塗料組成物を容易に塗りつけられ、均一に仕上がるが、規定の膜厚に容易に塗装できない。
×:塗料組成物を容易に塗りつけられない、または均一に仕上がらない。
【0159】
<初期耐水性>
PP板(厚み150mm、幅70mm)に実施例1~19及び比較例1~7の塗料組成物を乾燥膜厚が300μmとなるよう塗装し、23℃50%RHで12時間乾燥させた後、塗膜表面の一部に温度23℃の水を5ml滴下し、24時間後の塗膜表面について下記の基準に従い評価した。
○:水を滴下した箇所にワレや膨れがなく、滴下していない箇所と比較して目視で色相の差がなかった。
△:水を滴下した箇所にワレや膨れはないが、滴下していない箇所との色相の差が明確であった。
×:水を滴下した箇所にワレや膨れが認められた。
なお、実施例2及び実施例3の塗料組成物は、乾燥時間が12時間である場合には初期耐水性の評価が他の実施例よりも劣るものであったが、乾燥時間が23℃50%RHで24時間である場合には、水を滴下した箇所にワレや膨れは認められなかった。このため、一般的な塗装条件(例えば、本発明の塗料組成物を塗装した翌日に上塗り塗装を行う条件)では、実施例2及び実施例3の塗料組成物でも問題なく使用可能である。
【0160】
<ポットライフ>
実施例1~19及び比較例1~7の塗料組成物について、主剤と硬化剤が合わせて300gとなるように電動攪拌機を用いて均一になるまで撹拌し、23℃50%RHの条件でBH型回転粘度計(東京計器株式会社製)により初期粘度を測定した。次いで、23℃50%RHの条件で静置し、BH型回転粘度計により測定した粘度が初期粘度に対して130%を超えた時間をポットライフとし、下記の基準に従い評価した。
○:ポットライフが180分以上である。
△:ポットライフが90分以上180分未満である。
×:ポットライフが90分未満である。
【0161】
<耐荷性(複層膜)>
コンクリート基材の水平面に水系エポキシ樹脂プライマー(水性エポオール、大日本塗料株式会社製)を乾燥膜厚15μmとなるようにローラーで塗装し、23℃50%RHで24時間乾燥させた後、実施例1~19及び比較例1~7の塗料組成物を乾燥膜厚150μmとなるようにローラーで塗装し、次いで、ポリエステル繊維シート(ポリエステルクレネット E4500、倉敷紡績株式会社製)を未硬化の塗膜上に配置させ、次いで、実施例1~19及び比較例1~7の塗料組成物を乾燥膜厚が150μmとなるようにローラーで塗装し、23℃50%RHで24時間乾燥させて中塗層を形成した。次いで、形成した中塗層上に、水系ウレタン樹脂上塗塗料(水性Vトップ#100H上塗、大日本塗料株式会社)を乾燥膜厚30μmとなるようにローラーで塗装し、23℃50%RHで168時間乾燥させ、コンクリート基材上に積層体を形成させた。次いで、積層体を備えるコンクリート基材に対して、「首都高速道路株式会社 橋梁構造物設計要領 コンクリート片剥落防止編 平成18年8月版」に準拠して剥落防止性能試験を行い、下記基準に従い耐荷性を評価した。
○:φ10cmあたりの押抜き荷重1.5kN以上。
△:φ10cmあたりの押抜き荷重0.5kN以上~1.5kN未満。
×:φ10cmあたりの押抜き荷重0.5kN未満。
【0162】
【表3】
【0163】
【表4】