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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023044559
(43)【公開日】2023-03-30
(54)【発明の名称】防振吊り具および天井防振構造
(51)【国際特許分類】
   E04B 9/18 20060101AFI20230323BHJP
【FI】
E04B9/18 G
E04B9/18 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021152650
(22)【出願日】2021-09-17
(71)【出願人】
【識別番号】596066530
【氏名又は名称】宇都宮工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149320
【弁理士】
【氏名又は名称】井川 浩文
(74)【代理人】
【識別番号】240000235
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人柴田・中川法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】土井 昌司
(72)【発明者】
【氏名】松井 邦彰
(57)【要約】
【課題】 通常時においては非弾性部材として安定した支持状態としつつ、衝撃音等の伝達を抑制すべき状況において防振効果を発揮し得る防振吊り具を提供し、また、当該防振吊り具を用いる天井防振構造を提供する。
【解決手段】 防振吊り具1は、梁材に着脱可能な本体部10と、本体部の一部に貫挿される吊りボルト3と、吊りボルトに作用する振動を吸収するバネ体2とを備える。バネ体は、少なくとも下面部21と上面部22とを略平行としつつ中間に連結部23を有する断面略S字状に一体化させた板バネである。本体部は、板バネの下面部を装着するための底面部11と、底部の適宜箇所に吊りボルトを挿通する挿通部と、板バネの上面部を係止する係止部5a,5bとを備える。板バネは、吊りボルトの貫挿を可能とし、上面部に、吊りボルトと連結するための雌ネジ部4が設けられ、本体部の底面部と係止部との間で適宜な圧縮を受けた状態で装着される。
【選択図】 図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
天井もしくは下地材またはこれらの双方を支持するためのフレーム類に対し、防振性能を発揮させつつ吊下するための防振吊り具であって、
梁材に着脱可能な本体部と、
前記本体部の一部に貫挿される吊りボルトと、
前記本体部に装着され、前記吊りボルトを支持しつつ、該吊りボルトに作用する振動を吸収するバネ体とを備え、
前記バネ体は、少なくとも下面部と上面部とを略平行としつつ中間に連結部を有する断面略S字状に一体化させた板バネであり、
前記本体部は、前記板バネの下面部を装着するための底面部と、該底部の適宜箇所に前記吊りボルトを挿通する挿通部と、前記板バネの上面部を係止する係止部とを備え、
前記板バネは、前記上面部、前記下面部および前記連結部の全てに、吊りボルトの貫挿を可能とする貫通孔が設けられるとともに、該上面部に、前記吊りボルトと連結するための雌ネジ部が設けられ、前記本体部の底面部と係止部との間で適宜な圧縮を受けた状態で装着されるものであり、
前記吊りボルトは、前記本体部の底部に設けられている挿通部および前記板バネの貫通部に挿通されたうえで前記雌ネジ部によって支持されるものであることを特徴とする防振吊り具。
【請求項2】
前記本体部は、前記梁材の係入を許容する係入部と、該係入部に係入される梁体を挟持するためのネジ部を備える請求項1に記載の防振吊り具。
【請求項3】
前記板バネの上面部に設けられる雌ネジ部は、該上面部の貫通孔に装着するポップナットによって構成されるものである請求項1または2に記載の防振吊り具。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の防振吊り具を用いる天井防振構造であって、
前記本体部が前記梁材に係止され、
前記吊りボルトが前記本体部に設置された前記板バネの上面部に設けられる雌ネジ部に螺合され、
前記板バネが、前記本体部の底面部と係止部との間によって予備圧縮され、
前記フレーム類が前記吊りボルトの下部において支持され、
天井もしくは下地材またはこれらの双方が前記フレーム類によって支持されている
ことを特徴とする天井防振構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防振吊り具および天井防振構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
防振吊り具は、梁材に係止する部材と、天井もしくは下地材またはこれらの双方を支持するフレーム類に装着される部材との間に、適宜な弾性変形を可能とする弾性体を備えた構造であり、当該弾性体として、ゴムを使用するもの(特許文献1参照)と、板バネ等のバネ体を使用するもの(特許文献2参照)があった。これらの防振吊り具は、専ら階上からの衝撃音等による振動が天井に伝わるのを抑制することを目的とし、振動の伝達は、弾性体によって吸収させるように構成されたものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平5-57145号公報
【特許文献2】特開2000-87497号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のような防振吊り具は、弾性体としてゴムを使用するかバネ体を使用するかの差異を除けば、基本的には同様の効果を発揮するものであり、その効果上の特性も大きく異なることはないものといえる。しかしながら、上述のように、弾性体は、梁材に係止する部材と、天井等を支持する部材との間に設けられることから、防振吊り具によって支持される状態の天井等は、弾性体を介して支持されており、既に弾性力が作用した状態となっていた。
【0005】
このように、弾性体を介して吊下される天井等は、非弾性材料によって吊下される場合に比較して、揺れやすく、階上から伝達される振動以外の振動(例えば、自室内の生活騒音等)によって、容易に振動することがあった。また、防振吊り具は、天井等の重量により弾性体が変形することとなるため、支持すべき天井等を設置する際は、予め当該天井等の重量による弾性体の変形量を考慮しなければならなかった。
【0006】
本発明は、上記諸点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、通常時においては非弾性部材として安定した支持状態としつつ、衝撃音等の伝達を抑制すべき状況において防振効果を発揮し得る防振吊り具を提供し、また、当該防振吊り具を用いる天井防振構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、防振吊り具に係る本発明は、天井もしくは下地材またはこれらの双方を支持するためのフレーム類に対し、防振性能を発揮させつつ吊下するための防振吊り具であって、梁材に着脱可能な本体部と、前記本体部の一部に貫挿される吊りボルトと、前記本体部に装着され、前記吊りボルトを支持しつつ、該吊りボルトに作用する振動を吸収するバネ体とを備え、前記バネ体は、少なくとも下面部と上面部とを略平行としつつ中間に連結部を有する断面略S字状に一体化させた板バネであり、前記本体部は、前記板バネの下面部を装着するための底面部と、該底部の適宜箇所に前記吊りボルトを挿通する挿通部と、前記板バネの上面部を係止する係止部とを備え、前記板バネは、前記上面部、前記下面部および前記連結部の全てに、吊りボルトの貫挿を可能とする貫通孔が設けられるとともに、該上面部に、前記吊りボルトと連結するための雌ネジ部が設けられ、前記本体部の底面部と係止部との間で適宜な圧縮を受けた状態で装着されるものであり、前記吊りボルトは、前記本体部の底部に設けられている挿通部および前記板バネの貫通部に挿通されたうえで前記雌ネジ部によって支持されるものであることを特徴とする。
【0008】
上記構成の防振吊り具によれば、天井もしくは下地材またはこれらの双方を支持するフレーム類の装着を受けてこれらを吊下する吊りボルトは、板バネ(バネ体)の上面部に設けられる雌ネジ部によって支持され、板バネの全体が圧縮変形することによって防振効果を得ることができるものとなっている。この板バネは、予め本体部の底部と係止部との間において適宜な圧縮(予備圧縮)を受けた状態となっており、当該予備圧縮に応じて既に変形された状態となっている。板バネに予備圧縮を与えることにより、天井等(天井や下地材およびフレーム類)を吊りボルトによって支持させた状態での板バネの変形を抑制している。すなわち、当該天井等の重量は、吊りボルトを介して板バネに作用することとなるが、予め負荷した予備圧縮の限度において板バネは圧縮変形せず、非弾性部材による支持状態と同様の安定性を得ることができる。
【0009】
上記各構成の防振吊り具にあっては、前記本体部が、前記梁材の係入を許容する係入部と、該係入部に係入される梁体を挟持するためのネジ部を備える構成とすることができる。このような構成は、各種の梁材(寸法の異なる部材)に対応しても係止を可能にするものである。
【0010】
なお、上記各構成の防振吊り具にあっては、前記板バネの上面側に設けられる雌ネジ部としては、該上面部の貫通孔に装着するポップナットによって構成されるものとすることができる。これは、バネ体を板バネによって構成する場合、薄肉部材においても雌ネジ部を形成させることができるものであり、かつ吊りボルトに作用する荷重を十分にバネ体に伝達させることができるものとなる。
【0011】
他方、天井防振構造に係る本発明は、前述した各構成の防振吊り具のいずれかを用いる天井防振構造であって、前記本体部が前記梁材に係止され、前記吊りボルトが前記本体部に設置された前記板バネの上面部に設けられる雌ネジ部に螺合され、前記板バネが、前記本体部の底面部と係止部との間によって予備圧縮され、前記フレーム類が前記吊りボルトの下部において支持され、天井もしくは下地材またはこれらの双方が前記フレーム類によって支持されていることを特徴とする。
【0012】
上記構成の天井防振構造によれば、本体部が梁材に係止された状態で固定され、この固定された本体部か吊下される吊りボルトによってフレーム類および天井等が支持されるものとなり、このとき、本体部に設けられる板バネには、吊りボルトによって圧縮荷重が作用し、この圧縮荷重に応じて弾性変形することにより防振効果をえることができる。このとき、当該フレーム類や天井等の重量に相当する荷重は、板バネに対する予備圧縮により予め付与されていることから、当該フレーム類や天井等を支持した状態において板バネは変形しないものとなっており、これを超える荷重、すなわち振動等による外部の荷重が作用するときに圧縮変形することで防振効果を得るものとなる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の防振吊り具によれば、板バネに対する予備圧縮を与えることにより、単にフレーム類や天井等を支持している状態(通常時)においては、板バネは弾性変形し得る状態ではないことから、非弾性部材として安定した支持状態となる。そして、衝撃音等の伝達を抑制すべき状況においては、上記の予備圧縮の状態を超えて板バネが変形し得るものとなるから、防振効果を発揮し得るものとなる。
【0014】
他方、本発明の天井防振構造によれば、通常時においては安定した天井等の支持状態であり、衝撃音等の伝達を抑制すべき場合には、板バネの弾性変形により防振させることができる。なお、天井構造の設計等により通常時における吊りボルトに作用する荷重の程度が異なることも予想されるが、押圧調整部材による調整機能により、適宜予備圧縮の状態を調整し得るものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】天井防振構造の概略を示す説明図である。
図2】防振吊り具に係る実施形態を示す分解斜視図である。
図3図2の縦断面図である。
図4】防振吊り具に係る実施形態を示す斜視図である。
図5】(a)は図4中のVA-VA線による断面図であり、(b)は図4中のVB-VB線による断面図である。
図6】防振吊り具に係る実施形態の作動時の状態を示す説明図である。
図7】防振吊り具に係る実施形態の作動時の状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。本発明の実施形態については、まず、天井防振構造の概略を説明したうえで、防振吊り具に係る実施形態を説明する。
【0017】
<天井防振構造>
図1は、天井防振構造の概略を示す図である。この図のように、防振吊り具1は、梁材Aに係止されるものであり、図はH型鋼のフランジ部に係止される場合を例示している。この防振吊り具1には、板バネ2を具有するものであり、防振吊り具1の本体部10に挿通される吊りボルト3の上端近傍が、板バネ2の上部に連結され、当該吊りボルト3を支持するものであるとともに、吊りボルト3に作用する荷重は、板バネ2の上方から当該板バネ2を圧縮する状態で作用し、この板バネ2の圧縮変形(弾性変形)を利用して防振させるものである。
【0018】
なお、吊りボルト3の下端近傍においては、ハンガBが装着され、ハンガBは、野縁受け(フレーム類)Cを支持し、さらにこの野縁受けCに装着されるクリップDを介して野縁(フレーム類)Eを支持する構成となっている。そして、この野縁Eを利用して面材(天井もしくは下地材またはこれら双方(以下、天井等と称することがある))Fが設けられるものである。
【0019】
天井等Fは、各種の伝達経路により衝撃音等による振動が伝達されることから、そのような振動が伝達される際に、板バネ2が弾性変形することにより振動を吸収させるものとなっている。衝撃音は天井空間(天井懐)を伝播することが知られているため、梁材Aを強固に設けた場合であっても天井の振動は生じ得るものであり、また、地震などによっても吊下された天井は振動し得るものである。そのため、フレーム類C,Eや天井等Fの重量を支持しつつ振動を吸収させるために防振吊り具1が梁材Aと吊りボルト3との間に介在されているのである。
【0020】
なお、図は、天井防振構造の一部を示すものであり、梁材Aは長尺なものであり、かつ平行に複数配置されるものである。また、野縁受けCおよび野縁Eについても同様に複数設置されるものである。従って、防振吊り具1を使用して野縁受けCを支持する箇所も複数箇所となり、そのいずれにおいても防振吊り具1が使用されるものである。さらに、図示の天井防振構造は、防振吊り具1を使用する天井構造の一例であり、ハンガBや野縁受けCを使用せずに、吊りボルト3の下部近傍において野縁Eを直接支持させる場合もある。また、野縁Eには、下地材または天井のいずれか一方を装着する場合のほか、下地材を装着したうえで化粧板を天井材として積層する場合もある。
【0021】
このように、各種のフレーム類C,Eおよび天井等Fを支持した状態において、天井等Fに発生した振動を板バネ2によって吸収させるのであるが、ここで使用される防振吊り具1は、後述のように、板バネ2を予備圧縮させたものとしている。予備圧縮とは、予め圧縮荷重が作用する方向へ圧縮変形させるものであるが、予備圧縮のための荷重に相当する範囲内の荷重が板バネに作用する場合、その荷重による弾性変形を抑止するものである。すなわち、通常のフレーム類C,Eおよび天井等Fの重量が作用したとしても板バネ2は変形せず、吊りボルト3の下降も生じさせないものとなる。これにより、吊りボルト3の装着状態は、フレーム類C,Eおよび天井等Fの装着前と装着後で変化しないこととなるため、その後の位置調整が不要となるものである。同時に、板バネ2を介して吊下される吊りボルト3は、板バネ2の復元力による上昇方向の付勢を受けることがないこととなり、設置状態において非弾性部材によって設置されているものと同視できるものとなることから、弾性変形による不安定な設定作業から解放され得るものとなる。
【0022】
そこで、このような予備圧縮を可能とするための防振吊り具1に係る実施形態について下記に詳述する。
【0023】
<防振吊り具の実施形態>
図2図5に防振吊り具1に係る実施形態の概略を示す。なお、図は、防振吊り具1を構成する要素のみを示すものであり、図2は分解斜視図であり、図3は分解された状態の縦断面図である。また、図4は全体を一体化したときの斜視図であり、図5(a)は、図4中VA-VA線による断面図、図5(b)は図4中のVB-VB線による断面図である。本実施形態は、図2に示すように、概略、本体部10と、この本体部10に装着される板バネ2と、本体部10に挿通されて板バネ2に連結される吊りボルト3とを備える構成である。
【0024】
本体部10は、板バネ2を装着するための底部11が設けられ、この底部11に挿通部12を設けることによって吊りボルト3の挿通を可能としている。また、本体部10には、前述の梁材Aの一部(例えばH型鋼のフランジ部など)の係入を許容し、この梁材を挟持することにより係止を可能としている。そのために、本体部10には一部を切り欠いて形成された係入部13が設けられ、底部11に装着できるネジ部14が設けられている。このネジ部14は、底部11に螺刻された雌ネジ15に螺合させ、先端を上昇させることにより、梁材の一部に当接できるようになっているのである。梁材との挟持は、係入部13の内側端面とネジ部14の先端との間に梁材の一部を配置することによって行われるものとなる。
【0025】
上記本体部10の底部11に装着されるバネ体としては、本実施形態においては略S字状に折曲してなる板バネ2が使用されている。板バネ(バネ体)2は、具体的には、略平行に配置される下面部21および上面部22と、これらの中間に位置する連結部23の3枚の平面領域によって構成され、その平面領域の中間には湾曲させた湾曲領域24,25が設けられたものである。このような略S字状によって板バネ2を形成することにより、板バネ2が全体として圧縮変形した際に、上面部22と下面部21とが平行状態を維持できることとなる。
【0026】
なお、このような板バネ2の下面部21には、固定用孔26,27が設けられ、本体部10の底部11に設けられるリベット用孔16,17を用いて、リベット等28,29によって固着させることができるものとしている。板バネ2が、弾性変形を繰り返す際に移動させないためである。
【0027】
また、下面部21,上面部22および連結部23には、同軸上に設けられた貫通孔41,42,43を有しており、吊りボルト3を鉛直方向に挿通できる貫挿部として機能させている。そして、上面部22の貫通孔41に設置されるポップナット4によって雌ネジ部を構成している。これにより、雌ネジ部(ポップナット)4に吊りボルト3を螺合することにより、当該吊りボルト3が、板バネ2の上面部において支持されるものとしている。吊りボルト3を雌ネジ部4との螺合によって支持させているのは、吊りボルト3の高さ調整か可能にするためであり、吊りボルト3を回転させることにより上下方向の位置を調整することによって、前述のハンガBの高さを調節し、結果的に野縁Eや天井等Fを所定の高さに設置させることができる。
【0028】
ここで、本体部10は全体として、底部11と、この底部11の両側を折曲して形成された平行な壁面部11a,11bとで、断面略U字状に構成されている。そして、前述の板バネ2が設置される領域では、壁面部11a,11bの上部を、部分的に内向きへ折曲し、係止部5a,5bを形成するものである。この係止部5a,5bは、底部11に略平行な状態で内向きに突出させており、板バネ2を底部11に装着したとき、その上面部22に当接させることができるものとなっている。
【0029】
ここで、図3に示すように、本体部10の底部11から係止部5a,5bまでの間隔H1は、板バネ2に所定の圧縮力を作用させるときに弾性変形したときの板バネ2の高さ寸法に一致させている。すなわち、板バネ2が圧縮力を受けない状態での高さ寸法H2に対して、底部11から係止部5a,5bまでの間隔H1は、h1だけ狭く構成されている(H1=H2-h1)。
【0030】
従って、板バネ2を本体部10に装着するとき、図4に示すように、板バネ2は、既に底部11と係止部5a,5bとの間に形成される間隔に応じて圧縮変形された状態となるのである。これを予備圧縮と称し、予め所定の圧縮力が付与された状態である。
【0031】
また、予備圧縮された板バネ2は、図5に示すように、下面部21は、本体部10の底部11の上面との間で、リベット28,29によって鋲着されるうえ、面全体が密着した状態で当接されており、上面部22もまた、係止部5a,5bの下面との間で適宜面積により当接されることとなる。このように、下面部21および上面部22がともに略平行な状態を維持しつつ、それぞれ底部11および係止部5a,5bに当接されていることから、上述の予備圧縮の状態を安定させることができるものとなっている。
【0032】
このときの予備圧縮に好適な押圧力としては、前述の天井等Fを支持するための部材の総重量Wと同程度(総重量よりも僅かに大きいもの)とすることができる。このような程度の押圧力を想定することにより、これらの部材を装着した状態において、板バネ2は、圧縮変形することなく本体部10に設置されることとなる。従って、天井等Fの設置工事の際には、当該重量Wを超える圧縮荷重は作用しない(振動の伝達がない)状態であることから、予備圧縮された板バネ2は変形することなく、非弾性部材を用いる工事と同様に各部材の位置が安定することとなる。
【0033】
<作動の態様>
次に、上記実施形態における作動態様について、図5図7を参照しつつ説明する。まず、本実施形態は、上記のような構成としていることから、天井等を単純に設置した状態においては、図5に示すように、板バネ2の上面部22は係止部5a,5bによって係止された状態が維持され、板バネ2は当該状態を超えて圧縮変形しないものとなっている。この状態において、通常状態(振動が伝達されない状態)であれば、天井等の重量Wのみが吊りボルト3に作用しているものであり、板バネ2を圧縮変形することはないものである。
【0034】
このような通常状態において、振動が伝達される場合には、結果的に天井等を上下に振動することとなり、そのときの天井等の重量が吊りボルト3に伝達されることとなる。このとき、天井等の振動が上向きの場合には、吊りボルト3に作用する荷重は軽減されることとなるから、板バネ2の変形は、予備圧縮された範囲内となり、吊りボルト3は上昇せず、通常状態から変化することはない。
【0035】
これに対し、図6に示すように、天井等の振動が下向きの場合には、吊りボルト3に作用する荷重(W+α)は増大するため、吊りボルト3は下向きに強く引っ張られ、その結果として、吊りボルト3が支持される雌ネジ部(ポップナット)4を介して板バネ2の上面部22を下向きに(圧縮方向へ)押圧することとなる。
【0036】
このとき、上面部22を下向き押圧された板バネ2は、全体を収縮させ(湾曲領域の曲率を変化させ)、圧縮変形することとなる。この圧縮変形により、板バネ2の上面部22は、係止部5a,5bによる係止状態が解除され、この係止部5a,5bよりも下降することとなり、両者の間に間隙h2を生じさせることとなる。ところで、このような圧縮変形においても上面部22は下面部21との間で平行な状態を維持することができる。これは、板バネ2が略S字状に設けられていることにより、湾曲領域の曲率の変更によって圧縮変形することができるからである。
【0037】
このように圧縮変形した板バネ2は、下向きの押圧が開放させるとき、上面部22が平行移動しつつ再び上昇し、当初の通常状態のように係止部5a,5bによって係止される状態まで復元することとなる。天井等の振動によって吊りボルト3に対する重量(W+α)は、繰り返し作用するものであるから、上昇した吊りボルト3は再度下降し、上記と同様に板バネ2を圧縮変形させることとなるが、このとき、吊りボルト3の上向きの移動は上記のように通常状態への復元を超えて上昇することはなく、その上昇方向への荷重は防振吊り具1の本体部10を介して梁材に吸収される。従って、上記のような吊りボルト3の昇降の繰り返しは徐々に収束されることとなる。
【0038】
また、天井等が受ける振動の状態は一定ではないことから、大きく振動する場合は、天井等(吊りボルト3)の上下の振幅は異なることとなる。そこで、上記(図6)よりも大きく昇降するときは、図7に示すように、その振幅に応じて吊りボルト3の下降時において板バネ2を大きく圧縮変形することとなる。
【0039】
このような場合においても、吊りボルト3に作用する荷重(W+β)に応じて、板バネ2が大きく圧縮変形するだけであり、その上面部22は、係止部5a,5bとの間に形成される間隙h3が大きくなるものである。
【0040】
ところで、板バネ2が大きく圧縮変形するとき、上面部22に設けた雌ネジ部(ポップナット)4の一部が、連結部23に接近することとなるが、図7(b)に示されているように、この連結部23に設けられる貫通孔42を適度な大きさの径で構成することにより、ポップナット4の一部を貫通孔42の内側に遊挿させることができる。
【0041】
<小括>
以上のように、上記実施形態によれば、板バネ2が予め圧縮された状態で本体部10に装着されていることから、通常状態においては、天井等の重量(W)のみが荷重として吊りボルト3に作用しても、板バネ2は弾性変形しないものとなるため、この状態において、非弾性材料のみによって構築された状態と変わりがないものとなる。そのため、板バネ(バネ体)2が弾性変形を繰り返して天井等の設置の位置が不安定となることがない。
【0042】
他方、天井等が振動するような場合には、上記の天井等の重量(W)を超える荷重(W+αまたはW+β)が作用するため、板バネ2を弾性変形しつつ、その振動を吸収し、収束させることができることとなる。
【0043】
本発明の実施形態およびその変形例は上記のとおりであるが、本発明が、これらの実施形態および変形例に制限される趣旨ではない。すなわち、実施形態および変形例として例示した各要素をさらに変形し、または他の要素を追加するものであってもよい。
【0044】
例えば、上記実施形態では、係止部5a,5bの構成として、本体部10の壁面部11a,11bの一部を内向きに折曲したものを例示したが、この係止部5a,5bは、壁面部11a,11bに別の部材を溶接等によって固着したものであってもよい。
【0045】
また、雌ネジ部4としてはポップナットを使用したが、これに限定されるものではなく、吊りボルト3を支持できるものであればよい。特に、ポップナットを使用する場合は、吊りボルト3の支持状態を(設置高さ)を吊りボルト3の回転によって調整可能とするためであるから、板バネ2の上面部22にナットを溶接した構成であってもよい。
【符号の説明】
【0046】
1 防振吊り具
2 板バネ(バネ体)
3 吊りボルト
4 雌ネジ部(ポップナット)
5,5a,5b 係止部
10 防振吊り具の本体部
11 本体部の底部
11a,11b 本体部の壁面部
12 挿通部
13 係入部
14 ネジ部(梁材係止用)
15 雌ネジ(梁材係止用)
16,17 リベット用孔
21 板バネの下面部
22 板バネの上面部
23 板バネの連結部
24,25 湾曲領域
26,27 固定用孔(リベット用)
28,29 リベット
41,42,43 板バネの貫通孔(板バネの貫挿部)
W 通常荷重(フレーム類および天井等の重量)
α,β 追加荷重(振動による荷重)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7