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特開2023-44563ゴムブロックの氷上摩擦特性の予測方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023044563
(43)【公開日】2023-03-30
(54)【発明の名称】ゴムブロックの氷上摩擦特性の予測方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 19/02 20060101AFI20230323BHJP
   B60C 19/00 20060101ALI20230323BHJP
【FI】
G01N19/02 A
B60C19/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021152657
(22)【出願日】2021-09-17
(71)【出願人】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100186015
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 靖之
(74)【代理人】
【識別番号】100164448
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 雄輔
(72)【発明者】
【氏名】松本 浩幸
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131LA21
(57)【要約】
【課題】本発明は、凝着摩擦特性と潤滑摩擦特性とが複合した氷上摩擦特性を予測することのできる、ゴムブロックの氷上摩擦特性の予測方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明のゴムブロックの氷上摩擦特性予測方法は、氷上摩擦を凝着摩擦及び潤潤滑摩擦の関数として定義して、氷上摩擦モデルを構築する、氷上摩擦モデル構築工程と、凝着摩擦特性を算出する、凝着摩擦特性算出工程と、潤滑摩擦特性を算出する、潤滑摩擦特性算出工程と、算出された凝着摩擦特性及び潤滑摩擦特性を用いて、前記氷上摩擦モデルに基づいて、前記ゴムブロックの氷上摩擦特性を予測する、氷上摩擦特性予測工程と、を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴムブロックの氷上摩擦特性を予測する方法であって、
氷上摩擦を、前記ゴムブロックが氷と直接接する凝着領域における凝着摩擦及び前記ゴムブロックが氷上の水膜を介して前記氷に接する潤滑領域における潤滑摩擦の関数として定義して、氷上摩擦モデルを構築する、氷上摩擦モデル構築工程と、
凝着摩擦特性を算出する、凝着摩擦特性算出工程と、
潤滑摩擦特性を算出する、潤滑摩擦特性算出工程と、
前記凝着摩擦特性算出工程において算出された凝着摩擦特性及び前記潤滑摩擦特性算出工程において算出された潤滑摩擦特性を用いて、前記氷上摩擦モデルに基づいて、前記ゴムブロックの氷上摩擦特性を予測する、氷上摩擦特性予測工程と、を含むことを特徴とする、氷上摩擦特性予測方法。
【請求項2】
前記氷上摩擦モデルは、前記氷上摩擦における前記凝着摩擦の寄与率及び前記氷上摩擦における前記潤滑摩擦の寄与率を考慮したものである、請求項1に記載の氷上摩擦特性予測方法。
【請求項3】
【請求項4】
前記凝着摩擦特性算出工程において、前記凝着摩擦特性の接地圧依存性及び前記凝着摩擦特性の氷の摩擦せん断強度依存性を仮定することにより、前記凝着摩擦特性を算出する、請求項1~3のいずれか一項に記載の氷上摩擦特性予測方法。
【請求項5】
前記凝着摩擦特性の接地圧依存性は、前記凝着摩擦係数μadが接地圧Pのべき乗に比例する関係式で表され、
前記凝着摩擦特性の前記氷の摩擦せん断強度依存性は、前記凝着摩擦係数μadが前記氷の摩擦せん断強度sに比例する関係式で表される、請求項4に記載の氷上摩擦特性予測方法。
【請求項6】
前記氷の摩擦せん断強度sは、前記氷の表面温度Tsの1次式で表される、請求項5に記載の氷上摩擦特性予測方法。
【請求項7】
前記凝着摩擦特性の接地圧依存性及び前記氷の摩擦せん断強度の氷の表面温度依存性を、予め測定により求めておく、請求項4~6のいずれか一項に記載の氷上摩擦特性予測方法。
【請求項8】
サイプにより区画された、平面視で矩形の形状を有する前記ゴムブロックの弾性変形に基づいてブロック剛性を定義して、弾性ブロックモデルを構築する、弾性ブロックモデル構築工程と、
前記弾性ブロックモデルに基づいて、前記ゴムブロックのブロック剛性を算出する、ブロック剛性算出工程と、
前記ブロック剛性、前記ゴムブロックの滑り方向に作用する氷上摩擦力、及び接地圧に基づいてブロック変形を定義して、ブロック変形モデルを構築する、ブロック変形モデル構築工程と、をさらに含み、
前記氷上摩擦特性予測工程においては、
(a)前記凝着摩擦特性算出工程において算出された凝着摩擦特性及び前記潤滑摩擦特性算出工程において算出された潤滑摩擦特性を用いて、前記氷上摩擦モデルに基づいて算出された前記氷上摩擦力と、
(b)前記ブロック剛性算出工程において算出された前記ブロック剛性と、
を用いて、前記ブロック変形モデル構築工程に基づいて、氷上における前記ブロック変形を算出して氷上摩擦特性を予測する、請求項1に記載の氷上摩擦特性予測方法。
【請求項9】
前記弾性ブロックモデルは、前記ゴムブロックの弾性変形による前記ゴムブロックの接地長の減少量を定義して構築され、
前記ブロック変形モデルは、前記ブロック変形を、前記ゴムブロックの接地長の減少量及び前記接地長に基づいて算出される前記氷上摩擦力の関数として定義して構築される、請求項8に記載の氷上摩擦特性予測方法。
【請求項10】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴムブロックの氷上摩擦特性の予測方法、特に、タイヤ接地部の溝により区画されたゴムブロックの氷上摩擦特性の予測方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、タイヤ(特にスタッドレスタイヤ)のトレッド表面に、サイプと称される細溝を設けることが知られている。サイプを設けることにより、タイヤ接地面において氷が融解することで湧出する水を接地面外に排出することができ、これにより氷上グリップ性能を向上させることができる。
【0003】
接地面の水膜を除去して氷上摩擦特性を向上させるためには、表面粗さによる除水や、サイプ等のエッジで水膜を破ることや、接地圧を最適化することなどが有効とされるが、接地面の現象を観察、計測して、これらの要因の寄与、効果を定量的に評価することは困難である。
【0004】
このため、接地面(氷上摩擦面)の現象を理解し、各種要因の寄与、効果を分析して改良方向を検討するには、氷摩擦面の状態を予測解析する手法が必要となる。従来の氷摩擦面の解析技術として、非特許文献1、2に記載の技術が挙げられる。これらの文献においては、水膜の粘性抵抗による摩擦特性(潤滑摩擦特性)を予測解析する手段が提示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】”An advanced viscous model for rubber-ice-friction”, C.Klapproth/ Ostfalia Hochschule fur angewandte Wissenschaften, T.M.Kessel, K.Wiese, B.Wies/ Continental Reifen Deutscland GmbH, Tribology International 99(2016) 169-181
【非特許文献2】Tire-ice model development for the simulation of rubber compounds effect on tire performance”, Hoda Mousavi, Corina Sandu/ Virginia Tech, Journal of Terramechanics 91(2020) 97-115
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、氷路面上の摩擦現象は、水膜を介した潤滑摩擦だけでなく、氷とタイヤ接地面が直接接触する凝着摩擦も部分的に存在すると考えられる。このため、潤滑摩擦だけを考慮した上記非特許文献1、2に記載の技術では、摩擦特性に影響する各種要因のうち、除水効果以外の寄与、効果分析ができないという問題があった。また、非特許文献1の本文中にも記述があるように、摩擦特性の予測精度に課題が残っていた。また、このような問題は、タイヤのみならず、氷上のゴムブロックの摩擦特性においても同様に生じ得るものである。
【0007】
そこで、本発明は、凝着摩擦特性と潤滑摩擦特性とが複合した氷上摩擦特性を予測することのできる、ゴムブロックの氷上摩擦特性の予測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の要旨構成は、以下の通りである。
(1)ゴムブロックの氷上摩擦特性を予測する方法であって、
氷上摩擦を、前記ゴムブロックが氷と直接接する凝着領域における凝着摩擦及び前記ゴムブロックが氷上の水膜を介して前記氷に接する潤滑領域における潤滑摩擦の関数として定義して、氷上摩擦モデルを構築する、氷上摩擦モデル構築工程と、
凝着摩擦特性を算出する、凝着摩擦特性算出工程と、
潤滑摩擦特性を算出する、潤滑摩擦特性算出工程と、
前記凝着摩擦特性算出工程において算出された凝着摩擦特性及び前記潤滑摩擦特性算出工程において算出された潤滑摩擦特性を用いて、前記氷上摩擦モデルに基づいて、前記ゴムブロックの氷上摩擦特性を予測する、氷上摩擦特性予測工程と、を含むことを特徴とする、氷上摩擦特性予測方法。
【0009】
(2)前記氷上摩擦モデルは、前記氷上摩擦における前記凝着摩擦の寄与率及び前記氷上摩擦における前記潤滑摩擦の寄与率を考慮したものである、上記(1)に記載の氷上摩擦特性予測方法。
【0010】
【0011】
(4)前記凝着摩擦特性算出工程において、前記凝着摩擦特性の接地圧依存性及び前記凝着摩擦特性の氷の摩擦せん断強度依存性を仮定することにより、前記凝着摩擦特性を算出する、上記(1)~(3)のいずれか1つに記載の氷上摩擦特性予測方法。
【0012】
(5)前記凝着摩擦特性の接地圧依存性は、前記凝着摩擦係数μadが接地圧Pのべき乗に比例する関係式で表され、
前記凝着摩擦特性の前記氷の摩擦せん断強度依存性は、前記凝着摩擦係数μadが前記氷の摩擦せん断強度sに比例する関係式で表される、上記(4)に記載の氷上摩擦特性予測方法。
【0013】
(6)前記氷の摩擦せん断強度sは、前記氷の表面温度Tsの1次式で表される、上記(5)に記載の氷上摩擦特性予測方法。
【0014】
(7)前記凝着摩擦特性の接地圧依存性及び前記氷の摩擦せん断強度の氷の表面温度依存性を、予め測定により求めておく、上記(4)~(6)のいずれか1つに記載の氷上摩擦特性予測方法。
【0015】
(8)サイプにより区画された、平面視で矩形の形状を有する前記ゴムブロックの弾性変形に基づいてブロック剛性を定義して、弾性ブロックモデルを構築する、弾性ブロックモデル構築工程と、
前記弾性ブロックモデルに基づいて、前記ゴムブロックのブロック剛性を算出する、ブロック剛性算出工程と、
前記ブロック剛性、前記ゴムブロックの滑り方向に作用する氷上摩擦力、及び接地圧に基づいてブロック変形を定義して、ブロック変形モデルを構築する、ブロック変形モデル構築工程と、をさらに含み、
前記氷上摩擦特性予測工程においては、
(a)前記凝着摩擦特性算出工程において算出された凝着摩擦特性及び前記潤滑摩擦特性算出工程において算出された潤滑摩擦特性を用いて、前記氷上摩擦モデルに基づいて算出された前記氷上摩擦力と、
(b)前記ブロック剛性算出工程において算出された前記ブロック剛性と、
を用いて、前記ブロック変形モデル構築工程に基づいて、氷上における前記ブロック変形を算出して氷上摩擦特性を予測する、上記(1)に記載の氷上摩擦特性予測方法。
【0016】
(9)前記弾性ブロックモデルは、前記ゴムブロックの弾性変形による前記ゴムブロックの接地長の減少量を定義して構築され、
前記ブロック変形モデルは、前記ブロック変形を、前記ゴムブロックの接地長の減少量及び前記接地長に基づいて算出される前記氷上摩擦力の関数として定義して構築される、上記(8)に記載の氷上摩擦特性予測方法。
【0017】
【0018】
本発明によれば、凝着摩擦特性と潤滑摩擦特性とが複合した氷上摩擦特性を予測することのできる、ゴムブロックの氷上摩擦特性の予測方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】氷上摩擦モデルの概念図である。
図2】氷上摩擦特性の予測方法のフロー図である。
図3】凝着率について説明するための図である。
図4】各係数をフィッティングして求めた一例を示す図である。
図5】氷表面近傍の温度分布の模式図である。
図6】熱量の釣り合いについて説明するための概念図である。
図7】主に潤滑領域について説明するための図である。
図8】サイプ密度が異なる3つの供試タイヤのトレッドパターン図である。
図9】サイプ密度による氷上摩擦係数の変化を示す図である。
図10】サイプが低密度の場合における、氷路面に残存する接地状態の痕跡及び接地状態観察のスケッチである。
図11】サイプが高密度の場合における、氷路面に残存する接地状態の痕跡及び接地状態観察のスケッチである。
図12】ブロック剛性の影響を考慮した場合の氷上摩擦特性の予測方法のフロー図である。
図13】他の実施形態で用いる弾性ブロックモデルを示す図である。
図14】ブロック変形の摩擦面への影響について説明するための図である。
図15】ブロック連成時の後続ブロックの摩擦面を示す図である。
図16】氷内部及び表面の温度分布の予測結果を示す図である。
図17】氷上摩擦係数の滑り速度依存性の予測結果を示す図である。
図18】サイプエッジ密度と、ブロック剛性及び摩擦係数との関係の予測結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に例示説明する。
【0021】
図1は、氷上摩擦モデルの概念図である。図2は、氷上摩擦特性の予測方法のフロー図である。本発明の一実施形態にかかるゴムブロックの氷上摩擦特性の予測方法では、まず、氷上摩擦を、ゴムブロック(例えば溝により区画されたタイヤのゴムブロック)が氷と直接接する凝着領域における凝着摩擦及びゴムブロックが氷上の水膜を介して氷に接する潤滑領域における潤滑摩擦の関数として定義して、氷上摩擦モデルを構築する(氷上摩擦モデル構築工程:ステップS101)。
【0022】
図1に示されるように、ゴムブロックが氷上を滑る際には、最初にゴムブロックが氷と直接接するが、摩擦熱によって氷が融解することによって氷上に水膜が発生するため、接地長のうち(ゴムブロックの)進行方向側は、ゴムブロックが氷と直接接する凝着領域となる一方で、接地長のうち進行方向と逆方向側は、ゴムブロックが氷上の水膜を介して氷に接する潤滑領域となる。また、接地長の端(進行方向(滑り方向)の端)においては、サイプが水膜を破る作用が生じるが、その際に掘り起こし抵抗が生じる。
【0023】
このような理由により、上記ステップS101では、氷上摩擦を、上記凝着領域における凝着摩擦及び上記潤滑領域における潤滑摩擦の関数として定義して、氷上摩擦モデルを構築する。最初に、サイプによる掘り起こし抵抗を考慮しない場合について説明する。掘り起こし抵抗を考慮する場合については後述する。
【0024】
【0025】
【数1】
【0026】
図3に示すように、凝着領域においては、氷の温度が上昇するにつれて(進行方向の逆方向側ほど)凝着摩擦係数μadが減少していく。また、潤滑領域においては、水膜の厚さが増大するにつれて(進行方向の逆方向ほど)潤滑摩擦係数μが減少していく。
【0027】
数式1で表されるように、氷上摩擦係数μを求めるためには、凝着摩擦係数、潤滑摩擦係数、及び凝着率を求めることとなる。このような理由により、本実施形態のゴムブロックの氷上摩擦特性の予測方法は、凝着摩擦特性を算出する、凝着摩擦特性算出工程(ステップS102)と、潤滑摩擦特性を算出する、潤滑摩擦特性算出工程(ステップS103)と、を含む。凝着摩擦特性算出工程(ステップS102)においては、μad及びαを凝着摩擦理論及び熱力学、伝熱工学に基づいて算出する。潤滑摩擦特性算出工程(ステップS103)においては、μを潤滑摩擦理論及び熱力学、伝熱工学に基づいて算出する。以下、これらの具体的手法について説明する。
【0028】
まず、凝着摩擦特性の算出について説明する。凝着摩擦係数は、既知の凝着摩擦理論によれば、接地圧P依存性及び氷の摩擦せん断強度s依存性を有する。よって、凝着摩擦算出工程(ステップS102)において、凝着摩擦の接地圧依存性及び凝着摩擦の氷の摩擦せん断強度依存性を仮定することにより、凝着摩擦を算出することができる。特に、既知の凝着摩擦理論によれば、凝着摩擦特性の接地圧依存性は、凝着摩擦係数μadが接地圧Pのべき乗に比例する関係式で表すことができ、凝着摩擦特性の氷の摩擦せん断強度依存性は、凝着摩擦係数μadが氷の摩擦せん断強度sに比例する関係式で表すことができる。従って、凝着摩擦係数μadは、以下の数式2で表すことができる。数式2において、k、nは係数である。
【0029】
【数2】
【0030】
また、図3に示すように、凝着摩擦を以下の数式3で定義することができる。数式3において、Ladは、凝着領域の長さ(ゴムブロックの進行方向に計測する長さ)であり、xは、ゴムブロックの進行方向側の端からの距離である。
【0031】
【数3】
【0032】
数式3に数式2を代入すると、特に、数式2の右辺がxの関数として比較的簡易に表される場合、上記の数式3の積分を解析的又は数値解析で収束可能に解くことができることがわかる。
【0033】
ここで、氷の摩擦せん断強度sは、氷の温度に対し依存性があることが知られている。また、氷の表面温度Tsのxの関数の式も既知の凝着摩擦理論及び熱力学、伝熱工学から導出することができるが、後述するようにTsのxの関数は簡易な式ではない。
以上のことから、本実施形態では、氷の摩擦せん断強度sを、(簡易な式として)氷の表面温度Tsの1次式(以下の数式4)で表す。数式4において、sは温度0℃での氷の摩擦せん断強度、εは氷の摩擦せん断強度の温度依存勾配である。
【0034】
【数4】
【0035】
ところで、数式3に数式2を代入した積分を算出してその数値を求めるに当たり、係数k、n、ε及び定数sを求めておく必要がある。このため、本実施形態では、凝着摩擦特性の接地圧依存性及び氷の摩擦せん断強度の氷の表面温度依存性を、予め測定により求めておく。
【0036】
まず、凝着摩擦特性の接地圧依存性は、与えられた接地圧Pにおける凝着摩擦係数μadを測定し、例えばこれを多数プロットして数式2を用いたフィッティングにより、k、nを同定する。凝着摩擦係数μadは、一例としては、摩擦熱による氷の融解が極微小である微低速条件(例えばゴムブロックの滑り速度V=0.01km/h)で測定した摩擦係数を凝着摩擦係数であるとして求めることができる。
【0037】
氷の摩擦せん断強度の氷の表面温度依存性は、氷の表面温度Ts及び氷の摩擦せん断強度sを測定し、例えばこれを多数プロットして数式4を用いたフィッティングにより、s、εを同定する。図4は、各係数をフィッティングして求めた一例を示す図であり、このようにして、k、n、s、εを予め求めておくことができる。
【0038】
特に、接地圧Pがxに依存しないものとすれば、凝着摩擦係数μadを以下の数式5で表すことができる。数式5において、μad0は定数、Eは凝着摩擦係数の氷の表面温度依存勾配を表す。
【0039】
【数5】
【0040】
次に、氷の表面温度Tsをxの関数として表すことについて説明する。図5は、氷表面近傍の温度分布の模式図である。全体が一様の初期温度Tの半無限の氷の表面温度が,時間t=0よりT=Tsに保たれる場合の氷表面近傍の温度変化を考える。このとき、氷表面近傍の非定常温度変化、氷内部の温度分布、及び深さy方向の温度勾配は、既知の熱力学、伝熱工学の理論により、それぞれ、以下の数式6、数式7、及び数式8で表すことができる。ここで、数式6は、温度変化が深さ方向yのみの1次元の場合の基礎式である。また、数式7において、aは係数、Tはt=0での氷温度、zは経過時間t(=x/V)、深さyとした変数z=y/2(at)1/2=(y/2)×(V/ax)1/2である。
【0041】
【数6】
【0042】
【数7】
【0043】
【数8】
【0044】
図6は、熱量の釣り合いについて説明するための概念図である。まず、既知の熱力学、伝熱工学の理論により、発熱量qは、以下の数式9で表すことができる。数式9において、μは摩擦係数、Jは熱の仕事当量である。また、既知の熱力学、伝熱工学の理論により、氷内部に伝導する熱量qは以下の数式10で表すことができる。数式10において、λは熱伝導率、cは水の比熱、ρは水の密度、tはエッジが距離xを滑るまでの経過時間である。
【0045】
【数9】
【0046】
【数10】
【0047】
発熱量qadと氷内部に伝導する熱量qadを等しいと置くことにより、以下の数式11を得ることができる。数式11において、μad0は温度0℃での氷の凝着摩擦係数であり、Eは氷の凝着摩擦係数の温度依存勾配であり、Kは係数である。
【0048】
【数11】
【0049】
ここで、μad0及びEは、μad0=ksn-1、E=kεPn-1、から求めた値を用いることができる。以上により、数式2、数式3、数式4、及び数式11を用いて、αμadを算出することができる。なお、Ladは、数式11においてTsが0℃に達する前までの接地領域として算出することができる。
【0050】
次に、潤滑摩擦特性の算出について説明する。まず、潤滑領域は、数式11においてTsが0℃に達した後の接地領域として算出することができる。潤滑摩擦特性は、既知の潤滑摩擦理論及び熱力学、伝熱工学により求めることができる。
以下に説明するように、潤滑領域内の微小部分における摩擦熱と氷の融解熱が等しいと置いて当該部分の水膜厚さと潤滑摩擦係数を求め、これを潤滑領域全体で積分することにより、潤滑摩擦特性を求めることができる。
【0051】
図7は、主に潤滑領域について説明するための図である。摩擦により発生する熱量dqfは、以下の数式12で表すことができる。数式12において、μは潤滑摩擦係数、ηは水の粘性抵抗、hは位置xにおける水膜の厚さである。
【0052】
【数12】
【0053】
また、氷の融解熱として消費される熱量dqfは、以下の数式13で表すことができる。数式13において、Rは氷の融解潜熱である。
【0054】
【数13】
【0055】
ここで、「摩擦により発生する熱量dqf=氷の融解熱として消費される熱量dqf+氷内部へ伝導する熱量dqf02」という基本概念から(ただし、Ts=0℃に達しているのでdqf02は微小であるとして、簡易的にdqf=dqfと置くことで)以下の数式14を導出することができる。数式14により潤滑摩擦特性を算出することができる。
【0056】
【数14】
【0057】
以上のように、凝着摩擦特性算出工程(ステップS102)において算出された凝着摩擦特性及び潤滑摩擦特性算出工程(ステップS103)において算出された潤滑摩擦特性を用いて、氷上摩擦モデルに基づいて(数式1に代入して)、ゴムブロックの氷上摩擦特性を予測する(摩擦係数μを算出する)(氷上摩擦特性予測工程:ステップS104)。
【0058】
本実施形態のゴムブロックの氷上摩擦特性の予測方法によれば、潤滑摩擦特性に加えて、凝着摩擦特性も算出し、これらが複合した氷上摩擦特性を予測することができる。これにより、後述の実施例にも示されるように、潤滑摩擦特性のみを考慮した場合と比較して、より精度の高い、氷上摩擦特性の予測を行い得る。氷上摩擦特性の一例としては、後述の実施例のようなμ-V特性やμ-P特性である。
【0059】
ここで、上述したように、氷上摩擦モデルは、氷上摩擦における凝着摩擦の寄与率及び氷上摩擦における潤滑摩擦の寄与率を考慮したものであることが好ましい。特に、氷上摩擦モデルは、数式1により氷上摩擦係数を定義して構築されることが好ましい。氷上摩擦特性をより精度良く予測し得るからである。
【0060】
また、凝着摩擦特性算出工程において、凝着摩擦特性の接地圧依存性及び凝着摩擦特性の氷の摩擦せん断強度依存性を仮定することにより、凝着摩擦特性を算出することが好ましい。特に、凝着摩擦特性の接地圧依存性は、凝着摩擦係数μadが接地圧Pのべき乗に比例する関係式で表され、凝着摩擦特性の氷の摩擦せん断強度依存性は、凝着摩擦係数μadが氷のせん断強度sに比例する関係式で表されることが好ましい。既知の理論によれば、凝着摩擦特性は、上記のような関係式で表されることが知られているため、凝着摩擦特性を算出するのに適しているからである。
【0061】
また、氷の摩擦せん断強度sを、氷の表面温度Tsの1次式で表すことも好ましい。数式3の積分を解析的又は数値解析で収束可能に解くのに適しているからである。
【0062】
本実施形態においては、予め、タイヤ設計パラメータ及び摩擦条件を設定する。タイヤの設計パラメータとして、ブロックの寸法を設定する。すなわち、上記におけるブロック長Lを設定する。ブロック長の他、ブロック高さやエッジ密度等も設定することが好ましい。また、摩擦条件として、t=0での氷温度T、ゴムブロックの滑り速度V、接地圧Pを設定する。
【0063】
本実施形態では、凝着摩擦特性の接地圧依存性及び氷の摩擦せん断強度の氷の表面温度依存性を、予め測定により求めておく。これにより、各数式により、凝着摩擦特性を算出することができる。具体的には、予め測定により、数式2の係数k、n及び数式4の定数s及び係数εを求めておく。
【0064】
次に、他の実施形態について説明する。他の実施形態においては、特にゴムブロックがタイヤのサイプにより区画されたものである場合に、サイプの影響(サイプ密度の影響やサイプによるエッジ効果等)をさらに考慮するものである。
図8は、サイプ密度が異なる3つの供試タイヤのトレッドパターン図である。図9は、サイプ密度による氷上摩擦係数の変化を示す図である。図9の結果は、ブロック高さを10mm、サイプ深さを8mm、氷温を-5℃とした際のものである。図8図9に示されるように、サイプを高密度に設けると排水能力が増大して氷上グリップ性能は向上するが、サイプ密度を高くし過ぎると、かえって氷上グリップ性能が低下してしまう。このようなことから、他の実施形態では、サイプ密度がブロック剛性及び氷上グリップ性能へ与える影響とそのメカニズム、これらの定量的な指標を明らかにする。
【0065】
図10は、サイプが低密度の場合における、氷路面に残存する接地状態の痕跡及び接地状態観察のスケッチであり、図11は、サイプが高密度の場合における、氷路面に残存する接地状態の痕跡及び接地状態観察のスケッチである。実際のブロック変形と接地状態の観察によれば、図10図11に示すように、サイプを高密度化するとブロック剛性が低下して、ブロックが倒れ込み変形していることが分かった。ブロックが倒れ込み変形すると、接地面積が低下するため氷上グリップ性能が低下する。
【0066】
図12は、ブロック剛性の影響を考慮した場合の氷上摩擦特性の予測方法のフロー図である。図10図11で説明した現象に鑑みて、本発明者は、氷上摩擦特性(特に氷上グリップ性能)を予測するための、ブロック剛性のモデリング及びブロック剛性を用いたブロック変形のモデリングを構築した。
【0067】
図13は、他の実施形態で用いる弾性ブロックモデルを示す図である。他の実施形態では、サイプにより区画された、平面視で矩形の形状を有するゴムブロックの弾性変形に基づいてブロック剛性を定義して、弾性ブロックモデルを構築する(弾性ブロックモデル構築工程:ステップS105)。本例では、ゴムブロックの弾性ブロックモデルは、ゴムブロックの弾性変形によるゴムブロックの接地長の減少量を定義して構築される。すなわち、図13に模式的に示されるように、ゴムブロックの接地長は、ゴムブロックの弾性変形により、接地長が(ブロック長Lから)Lcに減少する。このとき、ゴムブロックの弾性変形については、ゴムブロックの高さ方向に対する傾斜角度をθとしている。
【0068】
図13に示すように、ゴムブロックを片持ち梁と見做したモデルにて、梁の傾斜角θを算出することができる。傾斜角θは、以下の数式15で表すことができる。数式15において、Eは弾性係数(ヤング率)、Iは断面2次モーメント(I=bL/12)、k=3/2(矩形断面の場合)、A=bL、せん断剛性Gs=E/3、Fはブロックに働くせん断力(=τ×bL)、fは単位幅当たりのF(=τ×L)である。
【0069】
【数15】
【0070】
また、傾斜角θに対するブロック剛性Gθは、以下の数式16で表すことができる。
【0071】
【数16】
【0072】
他の実施形態において、弾性ブロックモデルに基づいて(数式16により)、ゴムブロックのブロック剛性を算出する(ブロック剛性算出工程:ステップS106)。ここで、ブロックの長さLは、サイプ密度に依存するため、数式16によれば、サイプ密度とブロック剛性との関係性を得ることができる。
【0073】
また、実接地長Lcは、圧縮弾性率をEc、初期の平均接地圧をPとして、以下の数式17で表される実接地部分の力の釣り合いから算出することができる。
【0074】
【数17】
【0075】
このように、ブロック剛性Gθ、ゴムブロックの長手方向に作用する氷上摩擦力F、及び接地圧Pに基づいてブロック変形(実接地長Lc)を定義して、ブロック変形モデルを構築する(ブロック変形モデル構築工程:ステップS107)。すなわち、ここでは、ブロック変形モデルは、ブロック変形を、ゴムブロックの接地長Lcの減少量及び接地長Lcに基づいて算出される氷上摩擦力Fの関数として定義して構築される。
【0076】
数式15~数式17に鑑みて、他の実施形態においては、タイヤ設計パラメータとして、滑り方向のブロック長BL、ブロック高さ(=サイプ深さ)H、サイプ密度SD、サイプ厚さt、ゴムの弾性率E’を設定する。ここで、サイプ密度SD=1/平均サイプ間隔(1/mm)である。サイプで区切られたゴムブロックの長さLは、平均サイプ間隔からサイプ厚さtを除いたブロック長である。これらを予め設定することにより、サイプ密度を考慮した氷上摩擦特性を予測するのに必要な、傾斜角θ、ブロック剛性Gθ、及び実接地長Lcを算出することができる。
【0077】
次に、ブロック変形に伴う接地面の部分的浮き上がりによる、実接地長さの減少や接地圧の増大を反映させた、摩擦力の算出方法について説明する。図14は、ブロック変形の摩擦面への影響について説明するための図である。
【0078】
まず、氷上摩擦係数は、以下の数式18で表すことができる。凝着摩擦係数は、図14に示すモデルにおいて、以下の数式19で表すことができる。また、潤滑摩擦係数は、図14に示すモデルにおいて、以下の数式20で表すことができる。数式20において、Pはブロック変形後の接地圧である。
【0079】
【数18】
【0080】
【数19】
【0081】
【数20】
【0082】
ブロック変形後の接地圧Pは、以下の数式21、あるいは簡易的に以下の数式22で表すことができる。
【0083】
【数21】
【0084】
【数22】
【0085】
よって、数式18~数式22により、接地長の減少を考慮した摩擦係数μを算出することができる。数式19に関する凝着摩擦特性および数式20に関する潤滑摩擦特性の算出については、(実接地長が減少していることを除いて)先の実施形態において説明した通りであるので、再度の説明を省略する。
【0086】
以上のように、他の実施形態にて、氷上摩擦特性予測工程(ステップS104)においては、(a)凝着摩擦特性算出工程において算出された凝着摩擦特性及び潤滑摩擦特性算出工程において算出された潤滑摩擦特性を用いて、氷上摩擦モデルに基づいて算出された氷上摩擦力と、(b)ブロック剛性算出工程において算出されたブロック剛性と、を用いて、ブロック変形モデル構築工程に基づいて、氷上におけるブロック変形を算出して氷上摩擦特性を予測する。
【0087】
ここで、摩擦力が発生するとブロック変形が生じて、実接地長が減少し、摩擦力が低下する。摩擦力が低下すると、ブロック変形が減少するため、実接地長と摩擦力が回復する。摩擦力が回復すると、ブロック変形が大きくなり、実接地長と摩擦力が低下する。このように、摩擦力とブロック変形、接地状態は相互に作用しあう。
摩擦力とブロック変形・接地状態とがバランスする定常状態は、減衰項を組み込んだ収束計算により求めることができる。
【0088】
次に、サイプにより区画されたゴムブロックが連なった連成ブロックにおけるサイプエッジ密度の影響の算出方法について説明する。まず、エッジ圧の影響を、連成ブロックのうち先行ブロックの摩擦により温度上昇した氷を、先行ブロックと後続ブロックとを区画するサイプのエッジで切削する効果を算出する。
【0089】
後続ブロックのエッジ(サイプエッジ)の圧力をP[kPa]とする。そして、「エッジ圧P×係数β」が氷の摩擦せん断強度sと見合う深さdまでエッジが食い込んで切削する、 と仮定する。その深さまで切削した後の、新たな氷表面温度Tは、以下の数式23を用いて、以下の数式24にように表すことができる。
【0090】
【数23】
【0091】
【数24】
【0092】
先行ブロック通過後のサイプエッジによる切削深さdは、氷温度分布を表す、以下の数式25において、T=T、x=Lcと置いたときのyとして求める。
【0093】
【数25】
【0094】
図15は、ブロック連成時の後続ブロックの摩擦面を示す図である。1つのブロック内にサイプにより区画されたゴムブロックが連続する場合、後続ブロックが摩擦する氷表面は、先行ブロックの摩擦により温度上昇する。従って、後続ブロックの摩擦力は、先行ブロックの摩擦による温度上昇を考慮に入れて算出することが好ましい。後続ブロックの摩擦表面温度Tsは、数式11において、Ts=Tとなるx=xeから摩擦を開始するものとして、凝着領域をx=xeからxcまで、潤滑領域をx=xcからxe+Lcまでのそれぞれの摩擦係数を積分してそれぞれの領域の摩擦係数の平均値を算出する。
このようにすることで、先行ブロックによる温度上昇を考慮した、後続ブロックの氷上摩擦特性を予測することができる。
【0095】
【0096】
それぞれの設計パラメータを独立して動かして氷上摩擦係数μの感度解析を行うことで、各パラメータの背反を解決した場合の効果の予測、最適化や設計目標・有効範囲を設定することが可能である。
【実施例0097】
(実施例1)
図2に示したフローに基づいて、Tが-2℃、接地圧Pが250kPa、ブロック長が20mmである場合に、上記の理論により、氷内部及び表面の温度分布を予測した結果を図16に示している。図16に示すように、滑り速度が低速(2km/h)の場合と、滑り速度が高速(10km/h)の場合とで、図示のような予測結果を得た。滑り速度が低速(2km/h)の場合、摩擦係数が大きいが時間当たりの発熱量が少なく、氷内部へ熱が拡散しやすく、氷の表層の温度上昇は小さくなると考えることができる。また、滑り速度が高速(10km/h)の場合、瞬間的な熱入力となり、氷内部への熱伝導が少なく、氷の表層のみ溶融すると考えることができる。
【0098】
また、ゴムブロックとして、L=28mm、W=27mmのものを用い、図2に示したフローに基づいて、上記の理論により、氷上摩擦係数の滑り速度依存性を低温時と高温時とで予測し、図17に示す結果を得た。低温時の結果は、低温時は、凝着摩擦が主体となるため、摩擦係数が大きくなり、また、滑り速度が大きくなるほど摩擦係数が減少すると考えることができる。高温時の結果は、高温時は、潤滑摩擦が支配的となるため、滑り速度が大きくなっても摩擦係数が減少するとは限らないと考えることができる。
【0099】
(実施例2)
図12に示したフローに基づいて、氷温が-2℃、接地圧Pが250kPa、ブロック長30mm、ブロック高さ6.7mm、背反ラインのサイプ間隔6mm、5mm、3.75mmとした場合に、上記の理論により、ブロック剛性及び摩擦係数を算出して予測した。その結果を図18に示している。氷上摩擦係数を向上させるために適切なサイプ密度を予測することができた。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18