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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023044569
(43)【公開日】2023-03-30
(54)【発明の名称】複合材料及び複合材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/04 20060101AFI20230323BHJP
【FI】
C08J5/04 CEZ
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021152664
(22)【出願日】2021-09-17
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 第69回 高分子討論会 開催日 令和2年9月18日 プラスチック成形加工学会 第28回 秋季大会予稿集 発行日 令和2年11月24日 プラスチック成形加工学会 第28回 秋季大会 開催日 令和2年12月1日 令和2年度 信州大学 繊維学部 化学・材料学科 機能高分子学課程 卒業研究発表会 開催日 令和3年2月18日 2021年繊維学会年次大会の予稿集 https://www.fiber.or.jp/jpn/events/2021/year/index.html https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=202102232819999152 掲載日 令和3年6月2日 2021年繊維学会年次大会 開催日 令和3年6月10日 第67回 高分子研究発表会(神戸)要旨集 https://spsj.or.jp/branch/kansai/programs/p-3.html 掲載日 令和3年7月5日 第67回 高分子研究発表会 開催日 令和3年7月9日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的イノベーション創造プログラム「CFRTPのマトリックスPEEKの複合材料化によるCFRTPの構造構築のための最適化」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(71)【出願人】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡 功介
(72)【発明者】
【氏名】福田 章雄
(72)【発明者】
【氏名】阿部 俊夫
(72)【発明者】
【氏名】西野 孝
(72)【発明者】
【氏名】松本 拓也
(72)【発明者】
【氏名】釜矢 雄介
(72)【発明者】
【氏名】後藤 康夫
【テーマコード(参考)】
4F072
【Fターム(参考)】
4F072AA02
4F072AA08
4F072AB27
4F072AD42
4F072AE12
4F072AF01
4F072AF02
4F072AF06
4F072AG03
4F072AH23
4F072AJ04
4F072AJ37
4F072AL02
(57)【要約】
【課題】結晶化速度を向上させる。
【解決手段】複合材料は、熱可塑性樹脂と、無機材料製のナノフィラーと、前記ナノフィラーよりも長い繊維状の炭素繊維と、を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂と、
無機材料製のナノフィラーと、
前記ナノフィラーよりも長い繊維状の炭素繊維と、
を含む、
複合材料。
【請求項2】
前記ナノフィラーは、窒化ホウ素、シリカ、酸化チタン、ジルコニア、炭化ケイ素、チタン酸カリウム、及びダイヤモンドのうちの少なくとも1つである、請求項1に記載の複合材料。
【請求項3】
前記ナノフィラーは、結晶構造が六方晶である、請求項1又は請求項2に記載の複合材料。
【請求項4】
前記ナノフィラーは、前記熱可塑性樹脂に対して、体積比率で、0.1%以上10%以下含まれている、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の複合材料。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂は、ポリエーテルエーテルケトンである、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の複合材料。
【請求項6】
熱可塑性樹脂と、無機材料製のナノフィラーと、前記ナノフィラーよりも長い繊維状の炭素繊維と、を含むプリプレグを加熱するステップと、
加熱した前記プリプレグを成形するステップと、
成形した前記プリプレグを冷却して固化させるステップと、
を含む、複合材料の製造方法。
【請求項7】
前記プリプレグを冷却して固化させるステップにおいては、前記プリプレグを、2℃/分以上12℃分以下で冷却する、請求項6に記載の複合材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、複合材料及び複合材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
航空宇宙分野や自動車分野などにおいて、炭素繊維強化プラスチックス(CFRP Carbon Fiber Reinforced Plastics)などの複合材料が用いられる場合がある。複合材料のマトリクスとしては、熱硬化性樹脂が用いられることが多いが、熱可塑性樹脂が用いられる場合もある。特許文献1には、異方性ナノフィラーと、熱可塑性樹脂とを含む樹脂組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-37581号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
複合材料に熱可塑性樹脂を用いる場合、加熱成形したプリプレグを冷却して熱可塑性樹脂を結晶化させることで、複合材料を固化させる。このように熱可塑性樹脂を用いた複合材料においては、生産性向上のために、熱可塑性樹脂の結晶化速度を向上させることが求められている。
【0005】
本開示は、上述した課題を解決するものであり、結晶化速度を向上可能な複合材料及び複合材料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示に係る複合材料は、熱可塑性樹脂と、無機材料製のナノフィラーと、前記ナノフィラーよりも長い繊維状の炭素繊維と、を含む。
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示に係る複合材料の製造方法は、熱可塑性樹脂と、無機材料製のナノフィラーと、前記ナノフィラーよりも長い繊維状の炭素繊維と、を含むプリプレグを加熱するステップと、加熱した前記プリプレグを成形するステップと、成形した前記プリプレグを冷却して固化させるステップと、を含む。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、結晶化速度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本実施形態に係る複合材料の模式図である。
図2図2は、本実施形態に係る複合材料の製造方法を説明するフローチャートである。
図3図3は、各サンプルを製造する際の時間毎の結晶化率を示すグラフである。
図4図4は、各サンプルの応力歪線図である。
図5図5は、各サンプルを製造する際の、冷却速度とピーク発熱温度との関係を示すグラフである。
図6図6は、各サンプルの320℃における時間毎の発熱量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態を詳細に説明する。なお、この実施形態により本発明が限定されるものではなく、また、実施形態が複数ある場合には、各実施形態を組み合わせて構成するものも含むものである。
【0011】
(複合材料)
図1は、本実施形態に係る複合材料の模式図である。本実施形態に係る複合材料10は、炭素繊維強化プラスチックス(CFRP Carbon Fiber Reinforced Plastics)である。複合材料10は、図1の例では板状であるが、用途に合わせて任意の形状に形成されてよい。また、本実施形態で説明する複合材料10は、特に断りが無い限り、所望の形状に形成される前のプリプレグであってもよいし、所望の形状に形成された最終製品であってもよい。
【0012】
図1に示すように、複合材料10は、樹脂12と、炭素繊維14と、ナノフィラー16とを含む。図1は、説明の便宜上、複合材料10の一部の領域に樹脂12と炭素繊維14とナノフィラー16とが設けられた図となっているが、実際には、複合材料10の全域にわたって、樹脂12と炭素繊維14とナノフィラー16とが設けられている。なお、図1での、樹脂12、炭素繊維14及びナノフィラー16の形状、大きさ及び位置は一例であり、樹脂12、炭素繊維14及びナノフィラー16は、図1に示すものに限られず、任意の形状、大きさ及び位置で設けられていてよい。
【0013】
(樹脂)
樹脂12は、熱可塑性樹脂である。本実施形態においては、樹脂12は、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)である。ただし、樹脂12は、PEEKに限られず任意の熱可塑性樹脂であってよく、例えば、ポリアミド樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、及びポリフェニレンサルファイド(PPS)等であってもよい。PEEK、及びPEKKを総称して、ポリアリルエーテルケトン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテル樹脂などと呼んでもよい。なお、樹脂12は、六員環を含む分子構造を有することが好ましい。
【0014】
樹脂12は、結晶性樹脂であり、結晶化温度以下においては球晶が形成される。また、樹脂12は、炭素繊維14の表面においては結晶ラメラがまっすぐ成長したトランスクリスタルとして形成されている場合もある。すなわち、複合材料10を構成する樹脂12には、多数の球晶やトランスクリスタルが存在しているといえ、言い換えれば、複合材料10には、球晶及びトランスクリスタルの少なくとも一方の樹脂12を含むことが好ましく、球晶及びトランスクリスタルの樹脂12を含むことがより好ましい。なお、樹脂12は、複合材料10がプリプレグ及び最終製品のいずれの状態においても、複合材料10が結晶化温度以下の環境にある場合には、球晶やトランスクリスタルが形成されている。
【0015】
なお、球晶とは、例えば、点状の核から結晶ラメラが細長く放射状に成長した組織構造を指す。本実施形態のように、核剤としてナノフィラー16を添加することで、同時多発的に球晶が形成されるため、球晶の平均サイズが小さくなり、透明性や破壊靱性を向上できる。
【0016】
また、トランスクリスタルとは、例えば、炭素繊維14等の固体表面から外に向かって柱状に成長したものを指してよく、所定の方向に配向するものといえる。トランスクリスタル状の樹脂12を含むことで、炭素繊維14と樹脂12との間の接着性や、樹脂そのものの力学物性や絶縁破壊耐性が高くなり、力学的及び熱的に、複合材料10の補強効果を上昇できる。
【0017】
球晶やトランスクリスタルのように、炭素繊維14を核とする結晶成長を特徴とする構造となることで、複合材料10の補強効果を上昇できる。
【0018】
樹脂12は、厚みが10μm以上1000μm以下であることが好ましい。樹脂12は、複合材料10の全域にわたって連続的に分布しているため、樹脂12の厚みは、複合材料10の一枚の厚みに相当するといえる。
【0019】
樹脂12は、炭素繊維14を囲うように形成されることが好ましい。また、樹脂12は、ナノフィラー16を核剤として結晶成長するため、ナノフィラー16の周囲に形成されることが好ましい。また、樹脂12と炭素繊維14との界面に、ナノフィラー16が位置していることが好ましい。樹脂12と炭素繊維14との界面にナノフィラー16が位置することで、界面領域を補強して、界面における剥離や滑りなどを低減することができる。
【0020】
(炭素繊維)
炭素繊維14は、炭素で構成される繊維状の部材である。複合材料10においては、複数の炭素繊維14が全域にわたって分布している。
【0021】
炭素繊維14は、ナノフィラー16より長いことが好ましく、言い換えれば、炭素繊維14の軸方向の長さは、ナノフィラー16の平均粒径よりも大きいことが好ましい。なお、ナノフィラー16の平均粒径については後述する。炭素繊維14の軸方向の長さは、1mm以上であることが好ましい。
【0022】
(ナノフィラー)
ナノフィラー16は、樹脂12の機能を高めるために設けられるナノオーダーのサイズの微粒子である。本実施形態では、ナノフィラー16は、樹脂12の結晶成長を促進するための核剤として機能する。ナノフィラー16の形状は任意であってよく、例えば球状であってもよいし、板状であってもよいし、繊維状であってもよい。複合材料10においては、複数のナノフィラー16が全域にわたって分布している。
【0023】
ナノフィラー16の平均粒径は、1nm以上500nm以下であることが好ましく、5nm以上200nm以下であることがより好ましく、5nm以上100nm以下であることが更に好ましい。ナノフィラー16の平均粒径がこの範囲となることで、樹脂12の結晶成長を好適に促進できる。なお、ナノフィラー16の平均粒径とは、複合材料10に含まれるそれぞれのナノフィラー16の径の平均値を指す。ナノフィラー16の粒径は、例えば、電子顕微鏡、原子間力顕微鏡などでの観察により測定できる。すなわち、複合材料の表面又は断面を、電子顕微鏡や原子間力顕微鏡などで撮像した画像において、ナノフィラー16と特定された領域の大きさを測ることで、ナノフィラー16の粒径を測定できる。
【0024】
ナノフィラー16は、本実施形態においては無機材料である。ナノフィラー16は、窒化ホウ素(BN)、シリカ(SiO)、酸化チタン(TiO)、ジルコニア(ZrO)、炭化ケイ素(SiC)、チタン酸カリウム(KTi17)、及びダイヤモンド(C)のうちの少なくとも1つであることが好ましい。ナノフィラー16は、窒化ホウ素であることが好ましく、シリカであることが好ましく、ダイヤモンドであることが好ましい。ナノフィラー16がこのような材料で構成されることで、樹脂12の結晶成長を好適に促進できる。なお、ナノフィラー16として、複数種類の材料を用いてもよいし、1種類の材料のみを用いてもよい。
【0025】
ナノフィラー16は、結晶構造が六方晶であることが好ましく、もしくは、グラファイト構造を持つことが好ましい。結晶構造が六方晶やグラファイト構造であることで、ナノフィラー16の原子の六員環やグラフェン構造が樹脂12の六員環に作用して、ナノフィラー16を核剤として、樹脂12の結晶成長を好適に促進できる。
【0026】
(含有量)
複合材料10において、樹脂12に対するナノフィラー16の含有量は、体積比率で、0.1%以上10%以下であることが好ましく、0.1%以上3%以下であることがより好ましく、0.1%以上1%以下であることがさらに好ましい。ナノフィラー16の含有量がこの範囲となることで、樹脂12の結晶成長を好適に促進できる。樹脂12に対するナノフィラー16の含有量は、熱重量分析による残渣秤量によって測定できる。
【0027】
(複合材料の製造方法)
次に、複合材料10の製造方法について説明する。図2は、本実施形態に係る複合材料の製造方法を説明するフローチャートである。
【0028】
図2に示すように、本製造方法においては、樹脂12とナノフィラー16と炭素繊維14とを含むプリプレグを準備する(ステップS12)。ここでのプリプレグとは、樹脂12とナノフィラー16と炭素繊維14とを含むプリプレグの状態の複合材料10であるといえる。
【0029】
プリプレグを生成する方法は任意であるが、例えば以下の方法が挙げられる。
【0030】
例えば、樹脂粉末とナノフィラー16と炭素繊維14との混合粉末を用いて、プリプレグを生成してよい。ここでの樹脂粉末とは、複合材料10に含まれる樹脂12の原料となる粉末であり、粉末状の樹脂12であるといえる。本製造方法においては、樹脂粉末とナノフィラー16と炭素繊維14とを、上述した複合材料10における含有量となるような比率で混合して、混合粉末とする。より詳しくは、樹脂粉末とナノフィラー16と炭素繊維14とを溶媒(例えばエタノール)に添加して、所定時間攪拌した後、所定温度で所定時間保持することで溶媒を除去して(乾燥して)、残った粉末を混合粉末として回収する。
【0031】
混合粉末を生成する際には、ナノフィラー16の平均粒径が1nm以上500nm以下であることが好ましく、5nm以上200nm以下であることがより好ましく、5nm以上100nm以下であることが更に好ましい。樹脂粉末やナノフィラー16の平均粒径がこの範囲となることで、樹脂12の結晶速度を適切に向上できる。なお、樹脂粉末の平均粒径は、レーザ回折・散乱法によって求めることができる。また、溶媒を除去する際の所定温度は、110℃以上であることが好ましく、150℃以上160℃以下であることがより好ましく、保持時間は、3時間以上であることが好ましく、2時間以上4時間以下であることがより好ましい。
【0032】
次に、混合粉末を複合して、プリプレグを生成する。具体的には、混合粉末を、所定温度下で、所定の回転数で所定時間混ぜることで、プリプレグを生成する。ここでのプリプレグとは、樹脂12とナノフィラー16と炭素繊維14とを含むプリプレグの状態の複合材料10であるといえる。混錬する際の所定温度は、370℃以上450℃以下であることが好ましく、回転数は、10rpm以上100rpm以下であることが好ましく、混ぜる時間は、5分以上30分以下であることが好ましい。
【0033】
なお、以上の説明では、樹脂粉末とナノフィラー16と炭素繊維14とを混合した混合粉末を用いてプリプレグを生成したが、炭素繊維14は後から添加してもよい。この場合例えば、樹脂粉末とナノフィラー16とを混合した混合粉末を生成し、混合粉末を混錬して、樹脂粉末とナノフィラー16とが含まれる混合部材を生成する。そして、その混合部材に、炭素繊維14を添加した上で更に複合して、樹脂12とナノフィラー16と炭素繊維14とを含むプリプレグを生成する。
【0034】
また例えば、一方向繊維の状態である炭素繊維14とナノフィラー16とを混合して複合させたものに、樹脂12を合わせることで、樹脂12と、ナノフィラー16と、一方向に延在する炭素繊維とを含むプリプレグを生成してもよい。この場合、例えば、炭素繊維14を、ナノフィラー16が分散した溶液に浸漬することで、炭素繊維14内あるいは表面にナノフィラー16を取り込んで複合させ、これに樹脂12を合わせてプリプレグを生成してもよい。また一方向繊維の状態以外の炭素繊維を用いてもよく、例えば炭素繊維が複数方向に延在しているものや織物状、不織布状の二次元形状の基材、あるいは三次元形状を有する基材をナノフィラー16と混合して複合させたものに樹脂12を合わせることでプリプレグを生成してもよい。
【0035】
次に、プリプレグを加熱して(ステップS14)、加熱したプリプレグを所定の形状に成形する(ステップS16)。すなわち、樹脂12は熱可塑性であるため、プリプレグは固化した状態にある。従って、固化した状態のプリプレグを加熱して軟化させて、軟化したプリプレグを所望の形状に成形する。プリプレグの加熱温度は、樹脂12を軟化可能な任意の温度に設定されてよい。また、プリプレグの成形方法も任意であってよい。
【0036】
次に、所望の形状に成形されたプリプレグを冷却させて固化させることで(ステップS18)、所望の形状に形成された最終製品としての複合材料10が製造される。すなわち、加熱されたプリプレグを冷却することで、樹脂12を結晶化させて、固化した複合材料10が生成される。プリプレグの冷却速度は、2℃/分以上12℃/分以下であることが好ましく、4℃/分以上10℃/分以下であることがより好ましく、6℃/分以上10℃/分以下であることが更に好ましい。冷却速度をこの範囲とすることで、ナノフィラー16の作用により樹脂12を適切に結晶化させつつ、冷却時間を短くすることにより製造工程を短くすることができる。
【0037】
(効果)
以上説明したように、本実施形態に係る複合材料10は、熱可塑性樹脂である樹脂12と、無機材料製のナノフィラー16と、ナノフィラー16よりも長い繊維状の炭素繊維14とを含む。本実施形態に係る複合材料10は、無機材料製のナノフィラー16を含むことで、複合材料10が形成される際に樹脂12の結晶成長を促進することが可能となるため、結晶化速度を向上させることができる。
【0038】
ナノフィラー16は、窒化ホウ素、シリカ、酸化チタン、ジルコニア、炭化ケイ素、チタン酸カリウム、及びダイヤモンドのうちの少なくとも1つであることが好ましい。ナノフィラー16がこのような材料で構成されることで、樹脂12の結晶成長を好適に促進できる。
【0039】
ナノフィラー16は、結晶構造が六方晶であることが好ましい。結晶構造が六方晶であることで、ナノフィラー16を核剤として、樹脂12の結晶成長を好適に促進できる。例えば、ナノフィラー16が六方晶の窒化ホウ素である場合、ナノフィラー16の六員環に、樹脂12の六員環におけるSP2軌道のπ電子が相互作用することによって、結晶化速度が早められると考えられる。また例えば、ナノフィラー16がダイヤモンド(ナノダイヤモンド)である場合、ナノフィラー16は、中心のコア部分がsp3炭素で構成され,外殻のシェル部分(表面)はsp2炭素で構成されており、表面上にもグラフェン構造があると推定される。従って、表面のグラフェン構造により、六方晶の窒化ホウ素と同様のメカニズムで、結晶化速度が早められると考えられる。
【0040】
ナノフィラー16は、樹脂12に対して、体積比率で、0.1%以上10%以下含まれていることが好ましい。ナノフィラー16の含有量がこの範囲となることで、樹脂12の結晶成長を好適に促進できる。
【0041】
樹脂12は、ポリエーテルエーテルケトンであることが好ましい。樹脂12としてPEEKを用いることで、複合材料10の強度を向上させつつ、ナノフィラー16により結晶化速度を向上させることができる。
【0042】
本実施形態に係る複合材料10の製造方法は、樹脂12と、無機材料製のナノフィラー16と、ナノフィラー16よりも長い繊維状の炭素繊維14と、を含むプリプレグを加熱するステップと、加熱したプリプレグを成形するステップと、成形したプリプレグを冷却して固化させるステップと、を含む。本製造方法によると、ナノフィラー16を添加することで、樹脂12の結晶成長を促進して、結晶化速度を向上させることができる。
【0043】
プリプレグを冷却して固化させるステップにおいては、プリプレグを、2℃/分以上12℃分以下で冷却することが好ましい。冷却速度をこの範囲とすることで、ナノフィラー16の作用により樹脂12を適切に結晶化させつつ、冷却時間を短くすることにより製造工程を短くすることができる。
【0044】
(実施例)
次に、実施例について説明する。
【0045】
(実施例1)
実施例1においては、樹脂としてPEEKを用い、ナノフィラーとしてダイヤモンド(ナノダイヤモンド)を用いて、ナノフィラーの含有量を異ならせて複数の複合材料のサンプルを準備した。具体的には、ナノフィラーの含有量を0%とした第1サンプルと、樹脂に対するナノフィラーの含有量を重量比率で0.5%とした第2サンプルと、樹脂に対するナノフィラーの含有量を重量比率で1.0%とした第3サンプルと、樹脂に対するナノフィラーの含有量を重量比率で3.0%とした第4サンプルと、を準備した。なお、各サンプルにおいては、炭素繊維を含有させなかった。
【0046】
図3は、各サンプルを製造する際の時間毎の結晶化率を示すグラフである。図3の線L1Aは、第1サンプルの時間毎の結晶化率を示し、図3の線L2Aは、第2サンプルの時間毎の結晶化率を示し、図3の線L3Aは、第3サンプルの時間毎の結晶化率を示し、図3の線L4Aは、第4サンプルの時間毎の結晶化率を示している。図3に示すように、ナノフィラーを添加することで、結晶化速度が向上することが分かる。なお、図3においては、樹脂を溶融させてナノフィラーと混錬した後、10℃/分の冷却速度で冷却して各サンプルを製造した場合の、時間毎の結晶化率を示している。
【0047】
図4は、各サンプルの応力歪線図である。図4の線L1Bは、第1サンプルの応力と歪の関係を示し、図4の線L2Bは、第2サンプルの応力と歪の関係を示し、図3の線L3Bは、第3サンプルの応力と歪の関係を示し、図3の線L4Bは、第4サンプルの応力と歪の関係を示している。図4に示すように、ナノフィラーを添加することで、強度と弾性率が向上することが分かる。なお、図4においては、長さ10mmの各サンプルを、1mm/分の速度で引張った場合の応力と歪との関係を示している。
【0048】
(実施例2)
実施例2においては、樹脂としてPEEKを用い、ナノフィラーとして窒化ホウ素(Sigma-Aldrich社試薬、Boron nitride powder, 98% 製品番号:255475-50G)を用いて、ナノフィラーの含有量を異ならせて複数の複合材料のサンプルを準備した。具体的には、ナノフィラーの含有量を0%とした第5サンプルと、樹脂に対するナノフィラーの含有量を体積比率で1.0%とした第6サンプルとを準備した。なお、各サンプルにおいては、炭素繊維を含有させなかった。
【0049】
図5は、各サンプルを製造する際の、冷却速度とピーク発熱温度との関係を示すグラフである。実施例2においては、樹脂を冷却して結晶化させている際の発熱量を、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定した。具体的には、樹脂とナノフィラーとを含むプリプレグを400℃で15分保持し、冷却速度を10℃/分から70℃/分に変化させて、樹脂の結晶化に伴う発熱挙動を、DSCを用いて測定した。具体的には、冷却速度毎に、DSCで検出されたサンプルの発熱温度のピーク値を、ピーク発熱温度として測定した。図5の線L5Aは、第5サンプルの冷却速度毎のピーク発熱温度を示しており、図5の線L6Aは、第6サンプルの冷却速度毎のピーク発熱温度を示している。図5に示すように、ナノフィラーを添加することにより、ピーク発熱温度が高くなっており、結晶化の際のピーク発熱が高くなり、結果として結晶化速度が高くなることが分かる。また、第6サンプルは、第5サンプルと比較して、冷却速度を上げてもピーク発熱温度の減少量が少なく、冷却速度を上げても適切に結晶化できることが分かる。
【0050】
図6は、各サンプルの320℃における時間毎の発熱量との関係を示すグラフである。図6は、サンプルが溶融した状態から320℃まで、10℃/分の冷却速度で冷却し、320℃で保持して等温結晶化させた際のDSC曲線(時間毎の発熱量を示す曲線)を示している。図6の線L5Bは、第5サンプルのDSC曲線を示しており、図6の線L6Bは、第6サンプルのDSC曲線を示している。図6に示すように、第6サンプルは、第5サンプルと比較して、発熱反応が早く終了しており、結晶化速度が高くなっていることが分かる。
【0051】
以上、本発明の実施形態を説明したが、この実施形態の内容により実施形態が限定されるものではない。また、前述した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、前述した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。さらに、前述した実施形態の要旨を逸脱しない範囲で構成要素の種々の省略、置換又は変更を行うことができる。
【符号の説明】
【0052】
10 複合材料
12 樹脂
14 炭素繊維
16 ナノフィラー
図1
図2
図3
図4
図5
図6