(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023044604
(43)【公開日】2023-03-30
(54)【発明の名称】走行型消毒装置
(51)【国際特許分類】
A61L 2/18 20060101AFI20230323BHJP
B05B 17/06 20060101ALI20230323BHJP
A61L 2/10 20060101ALI20230323BHJP
A61L 9/14 20060101ALI20230323BHJP
A61L 9/20 20060101ALI20230323BHJP
A61L 9/00 20060101ALI20230323BHJP
A61L 2/08 20060101ALI20230323BHJP
A61L 101/22 20060101ALN20230323BHJP
【FI】
A61L2/18
B05B17/06
A61L2/10
A61L9/14
A61L9/20
A61L9/00 C
A61L2/08 110
A61L101:22
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2022021654
(22)【出願日】2022-01-27
(31)【優先権主張番号】P 2021170531
(32)【優先日】2021-09-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】520054507
【氏名又は名称】株式会社日本高分子材料研究所
(72)【発明者】
【氏名】岩間 斎
【テーマコード(参考)】
4C058
4C180
4D074
【Fターム(参考)】
4C058AA23
4C058BB06
4C058BB07
4C058DD01
4C058DD13
4C058EE03
4C058JJ07
4C058JJ24
4C058KK02
4C180AA07
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4C180DD03
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4C180EA17X
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4C180GG08
4C180HH05
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4C180HH15
4C180HH19
4C180KK04
4C180KK05
4D074AA10
4D074BB06
4D074CC04
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4D074CC38
4D074DD03
4D074DD12
4D074DD14
4D074DD17
4D074DD22
4D074DD32
4D074DD37
4D074DD65
4D074FF01
4D074FF04
(57)【要約】
【課題】消毒対象空間の消毒において、床面を含む第1の消毒対象領域の消毒と、第1の消毒対象領域よりも高い位置の第2の消毒対象領域の消毒との両立が可能な走行型消毒装置を提供すること。
【解決手段】走行型消毒装置Aは、床面FLを含む下部消毒領域AR1と、下部消毒領域AR1よりも相対的に高い位置に設定された上部消毒領域AR2とを含む客室GRを消毒する。走行型消毒装置Aは、下部消毒領域AR1を消毒する噴霧消毒装置11と、上部消毒領域AR2を消毒する紫外線照射消毒装置12と、両消毒装置11、12を支持し、床面FLを走行する走行装置20とを備える。さらに、噴霧消毒装置11は、消毒液30の霧化時の粒子の大きさを、下部消毒領域AR1の消毒に応じた大きさとすべく、5~30μmの径の大きさの粒子を50%以上含むとともに、10μm以上の大きさの粒子を10%以上含むように霧化させて噴霧する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
床を含む相対的に低い位置に設定された第1の消毒対象領域と、前記第1の消毒対象領域よりも相対的に高い位置に設定された第2の消毒対象領域とを含む消毒対象空間を消毒する走行型消毒装置であって、
前記第1の消毒対象領域と前記第2の消毒対象領域との一方を消毒する第1の消毒装置と、前記第1の消毒対象領域と前記第2の消毒対象領域とのもう一方を消毒する第2の消毒装置と、前記第1の消毒装置および前記第2の消毒装置を支持し、前記床を走行可能な走行体と、を備え、
前記第1の消毒装置として、消毒液を噴霧する噴霧消毒装置が用いられ、かつ、前記噴霧消毒装置は、前記消毒液を、両消毒対象領域の前記一方の領域の消毒に応じた大きさの粒子として噴霧する走行型消毒装置。
【請求項2】
請求項1に記載の走行型消毒装置において、
前記第2の消毒装置は、両消毒対象領域の前記もう一方の領域に向けて紫外線を照射する紫外線照射消毒装置である走行型消毒装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の走行型消毒装置において、
前記噴霧消毒装置が消毒対象とする前記一方の領域は、前記第1の消毒対象領域であり、前記噴霧消毒装置は、前記消毒液の霧化時に5~30μmの径の大きさの粒子を50%以上含むとともに、10μm以上の大きさの粒子を10%以上含むように霧化させる走行型消毒装置。
【請求項4】
請求項3に記載の走行型消毒装置において、
前記噴霧消毒装置は、前記消毒液を貯留可能であるとともに、前記消毒液を霧化させるための空間を備える霧化室と、前記霧化室に設けられた振動体により前記消毒液に振動を付与して霧化させる振動装置と、を備え、
前記振動装置は、前記振動体を1.8MHz以下の振動数で振動させる消毒装置。
【請求項5】
請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の走行型消毒装置において、
前記走行体は、予め入力されたプログラムと、検出装置による前記プログラムに基づく走行に必要な情報の検出とに基づいて前記消毒対象空間の前記床を自立走行する走行装置である走行型消毒装置。
【請求項6】
請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の走行型消毒装置において、
前記第1の消毒装置としての前記噴霧消毒装置は、前記噴霧を乗せる送風を形成する送風装置を備えるとともに、前記送風装置は空気取入口を備え、
装置外郭を形成するケースの少なくとも前記空気取入口の周囲に、受光により酸化力が生じる光触媒が設けられている走行型消毒装置。
【請求項7】
請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の走行型消毒装置において、
前記第1の消毒装置としての前記噴霧消毒装置は、前記噴霧を乗せる送風を形成する送風装置を備え、
前記送風装置の空気取入口から前記噴霧が形成される部位までの送風流路の途中に、空気中の殺菌を行う殺菌装置を備える走行型消毒装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、走行型消毒装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、新型コロナ感染症(COVID-19)の広がりにより、病院、会社、ホテル、コンサートホール、列車内などの公共空間の消毒の需要が高まっている。このような空間を消毒する消毒装置として、消毒液を噴霧する消毒装置が知られている(例えば、特許文献1および特許文献2参照)。
【0003】
特許文献1に記載の消毒装置(薬液噴霧消毒装置)は、加圧薬液タンクおよびコンプレッサーを搭載したケースを、消毒作業員が背負って、ノズルから薬液と圧搾空気とを混合して噴霧するように構成されている。したがって、不特定多数の人が集まる空間を、消毒装置を背負った消毒作業者が移動しながら広範囲に消毒することができる。
【0004】
特許文献2に記載の消毒装置(病院内自動殺菌消毒装置)は、特許文献1に記載の装置と同様の消毒装置を、可搬式台車に搭載して走行(移動)可能としたものである。そして、消毒の際には、消毒担当者は、例えば、手術室や病室のなどの消毒対象となる部屋に台車を移動させて配置し、消毒装置を作動させる。また、消毒担当者は、室外に退去して室内を密閉する。したがって、特許文献1に記載の装置のように、消毒担当者が消毒装置を背負って移動することなく部屋全体の消毒を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2019/098042号公報
【特許文献2】特許3722861号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、病院、会社、ホテル、コンサートホール、列車などの広い空間を消毒対象空間として消毒する場合、特許文献1に記載の発明のように、人が背負って噴霧する装置では、作業者の肉体的負担が大きくなる。その一方、消毒液を噴霧する際には、人が消毒対象にノズルを向けて噴霧することにより消毒対象空間の全域を満遍なく消毒することが可能である。
【0007】
それに対し、特許文献2に記載の発明のように、消毒装置が可搬式台車に搭載されて走行可能であり、自動的に消毒を行う装置は、作業者は、装置の移動が容易であり、また、ノズルを消毒対象に向けて移動させる作業も不要であり、作業者の負担を軽減できる。その一方、消毒装置は、ノズル部分は可動ではあるものの、人が操作する場合のように、細かなノズルの移動は難しい。そのため、消毒液を噴霧した際の粒子の大きさによって、以下の解決すべき課題が存在することが分かった。
【0008】
すなわち、噴霧する消毒液の粒子の大きさを相対的に小さくした場合、消毒液が空中で蒸発し、空気中の浮遊物の消毒はできるものの、消毒液が床面に十分に到達できず、床面の消毒が不十分となる。特に、消毒装置を一定の場所に留まらせずに走行させながら消毒を行う場合、床面の消毒が十分得られないことが顕著となる。また、新型コロナ感染症の感染経路として、床および靴裏を介した感染経路が問題となっており、床面の確実な消毒の要望は大きい。
【0009】
一方、噴霧する消毒液の粒子の大きさを相対的に大きくすると、消毒液が短時間で床面に達し、床面の消毒を行えるものの、床面よりも高い位置の空気中の消毒が不十分となるおそれがある。なお、新型コロナ感染症の感染経路として、会話などにより空中に飛散し浮遊するウイルスが身体などに付着して感染する経路も存在し、空気中のウイルスや細菌の確実な消毒の要望も大きい。
【0010】
本開示は、上記問題に着目してなされたもので、走行型消毒装置による消毒対象空間の消毒において、床面を含む第1の消毒対象領域の消毒と、第1の消毒対象領域よりも高い位置の第2の消毒対象領域の消毒との両立を達成することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示の走行型消毒装置は、床を含む相対的に低い位置に設定された第1の消毒対象領域と、前記第1の消毒対象領域よりも相対的に高い位置に設定された第2の消毒対象領域とを含む消毒対象空間を消毒する走行型消毒装置である。そして、第1、第2両消毒対象領域の一方を、消毒する第1の消毒装置と、第1、第2の両消毒対象領域とのもう一方を消毒する第2の消毒装置と、第1、第2の両消毒装置を支持する走行体と、を備える。さらに、第1の消毒装置として消毒液を噴霧する噴霧消毒装置は、消毒液を、一方の消毒対象領域の消毒に応じた大きさの粒子として噴霧するようにした。
【発明の効果】
【0012】
本開示の走行型消毒装置では、第1の消毒装置は、消毒液を噴霧して第1、第2の両消毒対象領域の一方の領域を消毒する。この場合、消毒対象が、高さの異なる第1、第2の両消毒対象領域の一方のみであるため、消毒液を噴霧する粒子の大きさを消毒対象の一方の領域の消毒に最適な粒子の大きさとして、確実に消毒することができる。また、第1、第2の両消毒対象領域のもう一方は、第2の消毒装置により消毒する。したがって、噴霧消毒装置は、噴霧の粒子の大きさを両消毒対象領域の一方の領域に最適な大きさとしいても、高さの異なる第1の消毒対象領域と第2の消毒対象領域との両方の領域の消毒を行い、消毒対象空間の全体を確実に消毒することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、実施の形態1の走行型消毒装置を示す斜視図である。
【
図2】
図2(a)は、実施の形態1の走行型消毒装置の消毒対象空間としての列車の客室を示す平面図であり、
図2(b)は、消毒対象空間としての列車の客室の一部の側面図である。
【
図3】
図3は、実施の形態1の走行型消毒装置の第1の消毒装置としての噴霧消毒装置の構造を模式的に示す構造説明図である。
【
図4】
図4は、実施の形態1の走行型消毒装置の要部の正面図である。
【
図5】
図5は、実施の形態1の走行型消毒装置の走行体としての走行装置を示すブロック図である。
【
図6】
図6は、実施の形態1の走行型消毒装置において振動体を1.7MHzで振動させ、送風強さを強とした場合の消毒液の粒子の大きさの分布図である。
【
図7】
図7は、実施の形態1の走行型消毒装置において振動体を1.7MHzで振動させ、送風強さを中とした場合の消毒液の粒子の大きさの分布図である。
【
図8】
図8は、実施の形態1の走行型消毒装置において振動体を1.7MHzで振動させ、送風強さを弱とした場合の消毒液の粒子の大きさの分布図である。
【
図9】
図9は、実施の形態1の走行型消毒装置において振動体を1.25MHzで振動させ、送風強さを強とした場合の消毒液の粒子の大きさの分布図である。
【
図10】
図10は、実施の形態1の走行型消毒装置において振動体を1.25MHzで振動させ、送風強さを中とした場合の消毒液の粒子の大きさの分布図である。
【
図11】
図11は、実施の形態1の走行型消毒装置において振動体を1.25MHzで振動させ、送風強さを弱とした場合の消毒液の粒子の大きさの分布図である。
【
図12】
図12は、実施の形態2の走行型消毒装置の第1の消毒装置としての噴霧消毒装置の構造説明図である。
【
図13】
図13は、実施の形態2の走行型消毒装置における噴霧消毒装置の空気清浄装置の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の走行型消毒装置を実現する最良の形態を、図面に基づいて説明する。
【0015】
まず、実施の形態1の走行型消毒装置Aの構成を説明する。
(全体構成)
図1は、実施の形態1の走行型消毒装置Aの斜視図であり、この走行型消毒装置Aは、消毒装置10と、走行装置20とを備え、走行装置20により自動自立走行しながら消毒装置10により消毒を行う装置である。
【0016】
ここで、走行型消毒装置Aにより消毒する消毒対象空間の一例として、鉄道車両RVの客室GRを挙げる。
図2(a)は、鉄道車両RVの客室GRの平面図であり、
図2(b)は、客室GRの一部の側面図である。この消毒対象空間としての客室GRは、
図2(b)に示すように、客室GRの下部の領域であって第1の消毒対象領域としての下部消毒領域AR1と、この下部消毒領域AR1よりも上側の領域であって第2の消毒対象領域としての上部消毒領域AR2とを含む。
【0017】
下部消毒領域AR1は、客室GRにおいて床面FLを含む相対的に低い位置の領域であって、この下部消毒領域AR1には、座席SE、壁WL、ドアDR(
図2(b)参照)の低い位置の部分も含まれる。上部消毒領域AR2は、下部消毒領域AR1よりも高い位置の領域であって、座席SE、壁WL、ドアDRの高い位置の部分や、窓WDや、天井CEを含む相対的に高い位置の領域である。
【0018】
以下に、
図1に示す消毒装置10と走行装置20とについて詳細に説明する。
(消毒装置の構成)
まず、消毒装置10について説明する。
消毒装置10は、第1の消毒装置としての噴霧消毒装置11と、第2の消毒装置としての紫外線照射消毒装置12とを備える。噴霧消毒装置11は、主として下部消毒領域AR1を消毒し、紫外線照射消毒装置12は、主として上部消毒領域AR2を消毒する。
【0019】
<噴霧消毒装置の構成>
噴霧消毒装置11は、消毒液30(
図3参照)を噴霧する装置であり、ケース部111と、タワー部112と、噴射部113とを備える。ケース部111は、上部の六角柱形状部分と、下部の円筒状部分とが一体に形成され、かつ、内部に収容部114(
図3参照)を有する箱状に形成されている。タワー部112は、ケース部111の上面から上方に立ち上げられ、内部に送風路112a(
図3参照)を有する円筒形状に形成されている。噴射部113は、タワー部112の上端部において逆円錐状に形成され、その上端部には、噴霧を四周に噴射可能に周方向に間隔をあけて複数個所(例えば、4か所)に噴射口113aが開口されている。
【0020】
また、
図3に示すように、ケース部111の内部の収容部114は、消毒液タンク115と霧化室116と振動装置117と送風装置118とを備える。
【0021】
消毒液タンク115は、消毒液30を貯留するもので、上部には、蓋115aで開閉される供給口115bが設けられ、下部には、バルブ115cが設けられている。
【0022】
また、消毒液30として、本実施の形態1では、過酢酸液を含むものであって、一例として、15%の過酢酸を含むものを用いている。詳しくは、過酢酸15%と、酢酸45%と、過酸化水素5.5%を含む溶液を、水で略600倍に希釈したもの(過酢酸濃度250ppm程度のもの)を用いる。なお、酢酸と過酸化水素により、過酢酸は平衡状態に保たれる。そして、過酢酸液は、毒性成分の残留がなく、食品などの有機物存在下でも効果が持続し、芽胞菌・真菌・食中毒菌にも有効などの特徴を有する。ちなみに、実験によると100ppmの過酢酸は、75%のエタノール、逆性石鹸、300ppmの次亜塩素酸ナトリウムよりも優位な消毒性能を示した。
【0023】
霧化室116は、消毒液タンク115から供給された消毒液30を霧化する室であり、下部には振動装置117の振動体117aが設けられている。すなわち、霧化室116では、振動体117aが駆動回路117bにより振動駆動されることにより消毒液30が霧化される。なお、振動体117aは、複数のセラミック振動体の集合体により構成されている。
【0024】
また、消毒液タンク115のバルブ115cは、霧化室116における消毒液の液面の高さ(以下、液位という)に応じて開閉し、霧化室116の消毒液の液位を霧化に最適の高さに調整する。本実施の形態1では、バルブ115cは、フロートの上下動に連動して、液位が第1の高さよりも低くなると開弁し、液位が第1の高さよりも高い第2の高さとなると閉弁することにより、液位を第1の高さと第2の高さとの間である霧化に最適な高さであって、霧化室116において霧化するための空間を確保できる。なお、バルブ115cの開閉は、このようなフロートを用いるものに限定されず、液位センサの検出に応じて開閉作動するようにしてもよい。
【0025】
また、消毒液30の霧化にあたり、本実施の形態1では、噴霧消毒装置11の振動装置117は、消毒液30の霧化時の粒子の大きさを、下部消毒領域AR1の消毒に最適な大きさであって、消毒液30の粒子を床面FLに確実に散布できる大きさに形成する。
【0026】
ところで、振動体117aの振動周波数を、1.8MHzよりも大きな、例えば2.4MHzとした場合、消毒液30の噴霧時の粒子の大きさは、送風装置118の送風量によりバラツキがあるものの、10μm以下の大きさのものが90%以上を占める。さらに、5μm未満の大きさものの割合が50~60%を超える一方で、5~30μmと比較的大きなものの割合が全体の40%以下と相対的に少なくなる。このような相対的に小さな消毒液30の粒子は、噴霧時に、空中で蒸発して床に到達しにくく、空中を含む床上部分の消毒には有効であるが、床の消毒は不十分となったり、床を十分に消毒するのに長い時間を要したりするおそれがある。
【0027】
そこで、本実施の形態1では、振動装置117は、消毒液30の霧化時の粒子の大きさを、従来よりも大きくした。具体的には、5~30μmの径の大きさの粒子を50%以上含むとともに、10μm以上の大きさの粒子を10%以上含むように霧化させるようにした。なお、消毒液30の霧化時の粒子の大きさの詳細については後述する。
【0028】
送風装置118は、霧化室116において霧化された消毒液30を、タワー部112の送風路112aを介して噴射部113の噴射口113aから噴霧させるための送風BLを形成する。なお、この送風装置118として、上述の粒子の大きさの噴霧を、下部消毒領域AR1であって客室GRの床面FLの全体に亘って確実に散布させることができる出力のものが用いられている。また、ケース部111の下部には、送風装置118が空気を取り入れるための空気取入口119が開口されている。この空気取入口119は、
図4に示す、ケース部111の下部と、走行装置20の上部との間に設けられた隙間部50に向けて開口されている。
【0029】
以上説明した、噴霧消毒装置11は、その作動時には、消毒液タンク115に貯留された消毒液30を振動装置117により霧化し、霧化された消毒液30の粒子を送風装置118で形成された送風BLにより運んで各噴射口113aから噴射させる。そして、噴射口113aから噴射された霧状の消毒液30は、その粒子の大きさに基づいて落下し、客室GRの床面FLに散布される。また、床面FLに座席SEが設置されている個所では、消毒液30は座席SE上に散布される。なお、噴霧の量および送風装置118による送風量は、消毒液30の粒子が床面FLの全体に亘って散布されるように設定されている。
【0030】
<消毒液の噴霧時の粒子の大きさの説明>
次に、振動装置117により消毒液30を噴霧する際の粒子の大きさについて説明する。前述したように振動装置117は、消毒液30を、床の消毒に最適な大きさの粒子を多く含むよう霧化させる。具体的には、振動装置117は、消毒液30を5マイクロメータ~100マイクロメータ(以下、μmと表記する)の範囲内の大きさの粒子を多く含み、例えば、粒子の直径の最頻値を略6μmとし、5~30μmの範囲内の直径の粒子を50%以上含むとともに、10μm以上の大きさの粒子を10%以上含むように霧化させる。
【0031】
このような霧化状態は、振動体117aの振動周波数を1.8MHzよりも低い周波数とすることで達成できる。そこで、本実施の形態1では、振動体117aとして、振動周波数が1.7MHzのものと1.25MHzのものとのいずれか一方あるいは両方を用いるものとする。
【0032】
このように、振動体117aを、1.7MHzで振動させた場合と、1.25MHzで駆動させた場合とのいずれの場合も、風量により粒子の大きさの分布は多少異なるものの、殆どの風量で10μm以上の大きさの粒子の分布割合が20%を超え、また、5~30μmの範囲の大きさの粒子の分布割合は、ほぼ60%を超えることが分かった。なお、振動装置117は、これら2種類の振動周波数の振動体117aのいずれか一方を設置してもよいし、あるいは、上記の振動数の2種類の振動体117aの両方を設置し、駆動回路117bは、2種類の振動体117aの一方を選択的に振動駆動させたり、両者を同時に振動させたりするようにしてもよい。
【0033】
以下に、噴霧消毒装置11を実際に振動させて計測した粒子の大きさの分布状態を
図6~
図11に基づいて説明する。
ここで、実施の形態1では、噴霧消毒装置11の噴霧量、すなわち、送風装置118の風量の強さは、強、中、弱の三通りの設定を可能とした。そして、振動装置117の周波数を1.7MHzとした場合の単位時間当たりの噴霧量は、強では5.3L/h、中では3.3L/h、弱では、1.7L/hであった。また、周波数を1.25MHzとした場合の噴霧量は、強では4.6L/h、中では2.6L/h、弱では、1.0L/hであった。なお、送風装置118を強作動させて噴霧量を相対的に多くするほど、大きな粒子の割合が少なくなり、送風装置118を弱作動させて噴霧量を相対的に少なくするほど、大きな粒子の割合が多くなる傾向にあった。また、強中弱における噴霧量は、上記に限定されるものではなく、各段階の噴霧量をさらに多くしてもよい。
【0034】
以下、詳細に説明すると、
図6は、1.7MHzで強作動させた場合の粒子の大きさの分布を示している。この図に示すように、粒子の大きさの分布において、最頻値は略6μmであり、5μmよりも大きな粒子の割合が全体の50%zを超え、5~30μmの大きさの粒子の割合が全体の略51%強で、10μmよりも大きな粒子の割合が全体の13%程度であった。
【0035】
図7は、1.7MHzで中作動させた場合の粒子の大きさの分布を示している。この図に示すように、粒子の大きさの分布において、最頻値は略6μmであり、5μmよりも大きな粒子の割合が全体の略59%で、5~30μmの大きさの粒子の割合が全体の略58%で、10μmよりも大きな粒子の割合が全体の略22%であった。
【0036】
図8は、1.7MHzで弱作動させた場合の粒子の大きさの分布を示している。この図に示すように、粒子の大きさの分布において、最頻値は略6μmであり、5μmよりも大きな粒子の割合が全体の略64%で、5~30μmの大きさの粒子の割合が全体の略63%で、10μmよりも大きな粒子の割合が全体の略28%であった。
【0037】
図9は、1.25MHzで強作動させた場合の粒子の大きさの分布を示している。この図に示すように、粒子の大きさの分布において、最頻値は略6μmであり、5μmよりも大きな粒子の割合が全体の略62%で、5~30μmの大きさの粒子の割合が全体の略61%で、10μmよりも大きな粒子の割合が全体の略23%であった。
【0038】
図10は、1.25MHzで中作動させた場合の粒子の大きさの分布を示している。この図に示すように、粒子の大きさの分布において、最頻値は略6μmであり、5μmよりも大きな粒子の割合が全体の略63%で、5~30μmの大きさの粒子の割合が全体の略62%で、10μmよりも大きな粒子の割合が全体の略26%であった。
【0039】
図11は、1.25MHzで弱作動させた場合の粒子の大きさの分布を示している。この図に示すように、粒子の大きさの分布において、最頻値は略6μmであり、5μmよりも大きな粒子の割合が全体の略61%で、5~30μmの大きさの粒子の割合が全体の略59%で、10μmよりも大きな粒子の割合が全体の略35%であった。
【0040】
以上のように、振動装置117の振動数を、1.7MHzと1.25MHzとのいずれで振動させた場合も、消毒液30を霧化させた場合の粒子の大きさは、5~30μmの径の大きさの粒子を50%以上含むとともに、10μm以上の大きさの粒子を10%以上含んでいた。さらに、1.7MHzで強作動させた場合を除いて、5μm以上の大きさの粒子分布割合が60%を超え、また、10μm以上の割合が、そのほとんどで、すなわち1.7MHzで強作動させた場合を除いて、20%を超えた。
【0041】
(紫外線照射消毒装置の説明)
次に、紫外線照射消毒装置12について説明する。
【0042】
紫外線照射消毒装置12は、客室GRの下部消毒領域AR1よりも高い位置の上部消毒領域AR2に向けて紫外線を照射して消毒するもので、複数の直管型のLED(Light Emitting Diodeの略であり、以下、単にLEDと称する)121を備える。これらのLED121は、周方向に所定の間隔を空けてタワー部112の全周を囲んで起立して配置され、その上下端部が、ケース部111の上面と、噴射部113の下部においてタワー部112から外周に円盤状に突出された支持フランジ112fの下面とに支持されている。そして、LED121は、380~200nmの範囲内であって、好ましくは、254nmの波長の近紫外線を照射するものを用いている。
【0043】
したがって、LED121は、走行型消毒装置Aの周方向の全周に亘って254nmの波長の近紫外線を照射し、主として、上部消毒領域AR2を消毒する。
【0044】
さらに、走行型消毒装置Aは、光触媒40および光触媒用のLED41、42を備える。この光触媒40は、LED41,42およびLED121から照射される紫外光を受光すると、その表面で生じる酸化力により有機化合物や細菌などを分解するもので、本実施の形態1では、光触媒40としてタングステンを含む塗料が用いられている。なお、この光触媒40として、二酸化チタンなどの他の物質を用いてもよい。
【0045】
そして、本実施の形態1では、光触媒40は、少なくとも、
図1、
図4に示すように、噴霧消毒装置11の外郭を形成するケース部111の下端部の円筒状部分の外周および走行装置20の外郭を形成する円筒状のケース部21の外周に塗布されている。なお、本実施の形態1では、ケース部111の全体に光触媒40が塗布されているものとする。
【0046】
また、LED41,42は、光触媒40の塗布部分であって、ケース部111の下端部の円筒状部分の外周の全周および走行装置20の外郭を形成する円筒状のケース部21の外周の全周に亘って設けられている。なお、LED41,42も、LED121と同様の紫外線を照射するものとする。
【0047】
したがって、光触媒40が紫外線を受光して生じる酸化力により、その周囲の空気中の消毒を行うことができ、特に、ケース部111とケース部21との間の隙間部50から送風装置118に吸い込まれ空気の消毒を行うことができる。
【0048】
(走行装置の説明)
次に、走行装置20について説明する。
【0049】
走行装置20は、走行型消毒装置Aを、
図2に示す客室GRの通路に沿って、すなわち、一点鎖線TRに沿って自立走行させるものである。そこで、走行装置20は、
図5に示すように、駆動装置22と、走行制御装置23と、センサ群(検出装置)24とバッテリ25とを備える。なお、バッテリ25は、充電端子25aを備え、この充電端子25aを不図示の充電装置に接続することにより、充電可能となっている。
【0050】
駆動装置22は、
図4に示すように、ケース部21の下部に設けられた複数の駆動輪221および従動輪222と、
図5に示す駆動源としてのモータ223と、モータ223と駆動輪221との間に介在された駆動伝達機構224とを備える。なお、
図5に示す、駆動輪221、モータ223、駆動伝達機構224は、左右に一対備える。
【0051】
駆動輪221は、
図4に示すように、ケース部21の左右に設けられている。なお、
図4は、ケース部21およびケース部111の前面を正面から見た正面図であり、矢印Lが前方を向いた走行装置20にとっての左方向を示し、矢印Rが同右方向を示す。
【0052】
図5に戻り、左右の駆動輪221には、それぞれ独立してモータ223の正逆回転が駆動伝達機構224を介して減速して伝達される。また、駆動伝達機構224は、左右の駆動輪221にモータ223の回転を独立して伝達する。したがって、走行装置20は、左右の駆動輪221を同期回転させて前進および後退できるのに加えて、左右の駆動輪221に、回転速度差を付与したり、正逆異なる方向に回転させたりすることにより、走行装置20を左右に転舵したり、その場で旋回させたりすることが可能となっている。また、従動輪222は、走行型消毒装置Aの荷重を分担して支持し、かつ、駆動輪221による走行に伴い従動回転する。なお、駆動輪221の他に転舵輪を設けて、転舵輪を転舵させて走行装置20を旋回させることも可能である。
【0053】
走行制御装置23は、制御部231および記憶部232を備える。そして、制御部231は、記憶部232に予め入力されたプログラムおよび記憶された走行経路に関するデータと、センサ群24から得られる走行に必要な各種情報とに基づいて、駆動輪221の回転を制御して走行装置20(走行型消毒装置A)を、予め設定された走行経路に沿って任意の速度で移動させる。
【0054】
センサ群24は、少なくとも、距離センサ241、前部カメラ242、側部カメラ243,243、速度センサ244を備える。
【0055】
距離センサ241は、装置の周囲の物体の存在の有無および物体までの距離を測定する。この距離センサ241として、3次元カメラの画像から奥行きを検出するものや、所定の周期でレーザ光や赤外線や超音波を出力し、その反射を検出することにより物体の存在の有無および物体との距離を検出するものを用いることができる。
【0056】
前部カメラ242は、走行装置20の前方を撮像する。なお、距離センサ241としてカメラを用いる場合には、前部カメラ242と兼用可能である。側部カメラ243、243は、走行装置20の左右を撮像する。これらのカメラ242,243は、後述する予め設定された走行経路の要所に配置されて、位置を確認するための不図示の指標シール(例えば、QRコード(登録商標))を撮影するために設けられている。なお、指標シールは、各カメラ242,243により撮像するのに最適な高さに設ける。
【0057】
速度センサ244は、駆動輪221の回転速度を検出することにより、走行型消毒装置Aの移動速度を検出する。また、制御部231は、移動速度を積分して、走行距離を求め、予め設定された走行経路上の位置を算出する。
【0058】
また、センサ群24には、操作スイッチ群26が含まれる。この操作スイッチ群26は、
図1に示すように、ケース部111の前面に設けられている。そして、操作スイッチ群26は、複数のスイッチを備え、消毒装置10による自動消毒作動の開始や、走行経路の登録の際の操作を行うのに使用する。
【0059】
次に、走行制御装置23による制御について説明する。
走行制御装置23は、走行装置20により、走行型消毒装置Aを自立走行させながら、消毒装置10による消毒を自動的に行う制御を実行する。このような自立走行を実行させるにあたり、走行制御装置23の記憶部232に、走行型消毒装置Aを走行させる走行経路を予め設定し記憶させる。この走行経路の設定は、予め走行装置20により、設定すべき走行経路を走行させ、その経路を記憶させることで行う。
【0060】
また、走行経路の設定の際には、走行開始点、走行終了点およびこれらの中間における1または複数の中間確認点を設定する。本実施の形態1では、走行開始点、走行終了点および中間確認点を示す指標シールを、各カメラ242,243のいずれかにより撮像可能な位置に設置する。そして、走行経路の設定の際に、各カメラ242,243のいずれかにより走行開始点、走行終了点および中間確認点を示す各指標シールを撮像し、この撮像時の各指標シールに対する走行装置20の相対位置を記憶させる。
【0061】
これにより、走行装置20は、走行開始点から走行終了点に向けて、設定された走行経路に沿って自動走行するとともに、各中間確認点において、指標シールを撮像し、指標シールとの相対位置を確認することにより、走行位置にずれが生じていた場合は、位置補正を行うことができる。したがって、走行装置20は、設定された走行経路から逸脱することなく走行することができる。
【0062】
また、中間確認点は、各車両の前端および後端や、連結部などに設定することにより、鉄道車両RVから別の鉄道車両RVへ移動した際に、設定された走行経路に対するずれが生じても補正することができる。なお、本実施の形態1にあっては、
図2(a)に示す一点鎖線TRを走行経路とすることができる。
【0063】
ここで、本実施の形態1のように鉄道車両RVの客室GRを消毒対象空間とした場合、先頭車両の前端と最後尾車両の後端との一方を走行開始点、もう一方を走行終了点とすることにより、1列車の全ての鉄道車両RVの客室GRを消毒することができる。この場合、バッテリ25の容量は、1列車の全ての鉄道車両RVを移動可能な容量とするもので、最も長い車両での使用を想定して500m程度の走行が可能な容量とする。
【0064】
また、本実施の形態1では、消毒対象空間を鉄道車両RVの客室GRとしているが、消毒対象空間は、これに限定されるものではなく、病院、学校、デパートなどの公共施設や、事務所、工場、住宅などの私的施設の消毒に用いることができる。この場合、走行経路としては、例えば、施設内の全域を巡回するように設定することができる。また、この場合、走行装置20の走行開始点および走行終了点を、不図示の充電装置とすることにより、走行装置20は、充電端子25aを充電装置に接続した位置から走行を開始し、施設内の消毒を行った後に、充電装置に戻って充電端子25aを充電装置に接続するよう走行経路を設定することができる。
【0065】
(実施の形態1の走行型消毒装置の作用)
実施の形態1の走行型消毒装置Aにより客室GRの消毒を行う場合、走行型消毒装置Aは走行装置20により予め設定された走行経路に基づいて列車の全車両に亘って自動走行しながら、消毒装置10を消毒作動させて客室GRを消毒する。よって、人が走行型消毒装置Aを移動させたり、ノズルを操作したりする必要がなく作業者の負担を軽減できる。
【0066】
そして、消毒装置10の消毒作動時には、噴霧消毒装置11が噴霧する消毒液30による消毒と、紫外線照射消毒装置12が照射する紫外線による消毒と行う。
【0067】
この場合、噴霧消毒装置11は、消毒液30の噴霧の粒子の大きさを、5~30μmの径の大きさの粒子を50%以上含むとともに、10μm以上の大きさの粒子を10%以上含むように霧化させるようにした。したがって、消毒液30を客室GR内の広範囲に散布できるとともに、床面FLに短時間に落下させて確実に散布させることができる。よって、消毒液30により、床面FLを含む相対的に低い位置に設定された下部消毒領域AR1を確実に消毒することができる。
【0068】
また、噴霧消毒装置11の送風装置118が空気取入口119から吸い込む空気は、光触媒40がLED121、41、42の紫外線を受光することにより生じる酸化力により消毒される。したがって、噴霧消毒装置11が空気中に浮遊する菌やウイルスなどを吸い込んで撒き散らすことを抑制できる。なお、送風装置118が噴き出す送風BLに含まれる菌やウイルスは、消毒液30の噴霧と混ざり合うことで消毒されるが、両者が混合される時間は短いため、送風BLを予め光触媒40により消毒することは有効である。
【0069】
また、紫外線照射消毒装置12は、LED121を、下部消毒領域AR1よりも高い位置に設定された上部消毒領域AR2に向けて照射することにより、空中を含めて客室GRの上部を消毒することができる。すなわち、噴霧消毒装置11による消毒では、発明が解決しようとする課題で説明したように、消毒液30の粒子の大きさを相対的に小さくすると、上部消毒領域AR2の消毒はできるが、消毒液30が床面FLに到達できず、下部消毒領域AR1の消毒が不十分となるおそれがある。
【0070】
一方、消毒液30の粒子の大きさを相対的に大きくすることで、消毒液30を、床面FLに短時間に落下させて確実に散布でき、下部消毒領域AR1の消毒を確実に行うことができるが、上部消毒領域AR2の消毒が不十分になるおそれがある。
【0071】
そこで、本実施の形態1では、噴霧消毒装置11による消毒と同時に、紫外線照射消毒装置12により上部消毒領域AR2の消毒を行うことにより、消毒対象空間としての客室GRの全体を確実に消毒することができる。
【0072】
(実施の形態1の効果)
以下に、実施の形態1の走行型消毒装置Aの効果を列挙する。
【0073】
1)実施の形態1の走行型消毒装置Aは、床面FLを含む相対的に低い位置に設定された下部消毒領域AR1と、下部消毒領域AR1よりも相対的に高い位置に設定された上部消毒領域AR2とを含む消毒対象空間としての客室GRを消毒する。この走行型消毒装置Aは、下部消毒領域AR1を消毒する噴霧消毒装置11と、上部消毒領域AR2を消毒する紫外線照射消毒装置12と、両消毒装置11、12を支持し、床面FLを走行する走行装置20とを備える。さらに、噴霧消毒装置11は、消毒対象の領域である下部消毒領域AR1の消毒に応じ、消毒液30の霧化時に、5~30μmの径の大きさの粒子を50%以上含むとともに、10μm以上の大きさの粒子を10%以上含むように霧化させて噴霧する。また、紫外線照射消毒装置12は、380~200nmの範囲内であって、好ましくは、254nmの波長の近紫外線を照射する。
【0074】
したがって、客室GRの下側の下部消毒領域AR1を噴霧消毒装置11により消毒し、かつ、客室GRの上側の上部消毒領域AR2を紫外線照射消毒装置12により消毒して、客室GRの全体を確実に消毒することができる。ここで、噴霧消毒装置11は、客室GRのうちで床面FLを含む下部消毒領域AR1のみを消毒対象としているため、消毒液30の噴霧の粒子の大きさを、床面FLの消毒に最適の大きさとすることができる。これにより、噴射部113および噴射口113aが固定であり、ノズル部分を可動としない簡便な構造であっても、走行しながら短時間に確実に床面FLを消毒することができる。加えて、床面FLを含む下部消毒領域AR1の消毒を、噴霧消毒装置11により行うことで、直線的に紫外線を照射する紫外線照射消毒装置12により床面FLを消毒する場合と比較して、床面FLにおいて紫外線の照射では座席SEなどの影となる部分にも満遍なく消毒液30を散布でき、床面FLの全体を確実に消毒することができる。また、噴射部113は、四周に噴射口113aを備えているため、より確実に床面FLを消毒することができる。よって、床面FLおよび靴底を介した菌やウイルスの感染を抑えることができる。
【0075】
さらに、上部消毒領域AR2の消毒を、紫外線照射消毒装置12によって行うようにしたため、2種類の各消毒装置11、12をコンパクトに搭載できる。具体的には、タワー部112の外周にLED121を配置して噴霧消毒装置11と紫外線照射消毒装置12とを上下に重ねた構成することで、両消毒装置11,12を水平方向に併設した場合と比較して、コンパクトに構成できる。
【0076】
2)実施の形態1の走行型消毒装置Aにおいて噴霧消毒装置11は、消毒液30として過酢酸を含ものを用いた。過酢酸は、飲食物の消毒にも使用することができもので、人体への悪影響を抑えることができる。しかも、過酢酸は、アルコール、次亜塩素酸ナトリウム、界面活性剤と比較して、高い除菌効果を得ることができる。さらに、過酢酸は、消臭性にも優れ、消毒と同時に消臭を行うことができる。このため、不特定多数の利用者が乗車し、飲食などを行う場合もある鉄道車両RVの消毒、消臭に有効である。しかも、消毒液30は、過酢酸15%と、酢酸45%と、過酸化水素5.5%を含むため、過酢酸は平衡状態に保たれ、安定した消毒性能を得ることができる。
【0077】
また、上述のように、消毒液30は、過酢酸を含むため、装置を構成する樹脂、シール材、金属には、過酢酸による腐食や、過酢酸の分解による消毒性能低下を抑制できる素材を用いるのが好ましい。具体的には、樹脂としては、高密度ポリエチレン(PE)と、4フッ化エチレン(PTFE)、フッ化ビニリデン(PVDF)を含むフッ素樹脂とのいずれかを用いるのが好ましい。また、シール材としては、上記の樹脂に加え、フルオロエラストマー(FPM)、シリコンゴム(Q)を用いるのが好ましい。さらに、金属としては、ステンレスを用いるのが好ましい。あるいは、ステンレス以外のアルミや鉄などの金属の表面を、高密度ポリエチレン(PE)と、4フッ化エチレン(PTFE)、フッ化ビニリデン(PVDF)などのフッ素樹脂とのいずれか、またはフルオロエラストマー(FPM)、シリコンゴム(Q)のいずれかを含むコーティング材、あるいは、亜鉛メッキ、ガルバニウムメッキで被覆したものを用いてもよい。
【0078】
3)実施の形態1の走行型消毒装置Aにおいて走行装置20は、予め入力されたプログラムと、プログラムによる走行に必要な情報を検出する検出装置としてのセンサ群24の検出とに基づいて自立走行可能である。したがって、鉄道車両RVの全車両の客室GRを、自動的に消毒することができ、作業者が鉄道車両RVに沿って装置を移動させる必要がなく、作業者の負担を軽減できる。しかも、走行型消毒装置Aは、全車両に亘って走行できるため、さらに作業者の負担を軽減できる。
【0079】
4)実施の形態1の走行型消毒装置Aにおいて噴霧消毒装置11は、噴霧のための送風BLを形成する送風装置118の空気取入口119を備える。そして、空気取入口119の周囲の装置外郭を形成するケース部111、21の外周に、受光により酸化力が生じる光触媒40が設けられている。
【0080】
したがって、噴霧を形成するために取り入れられる空気が光触媒40の酸化力により消毒することができ、噴霧による送風BLで空気中の菌やウイルスが拡散されるのを抑えることができる。特に、空気取入口119が開口された隙間部50の上下にLED41,42を配置しているため、隙間部50の周囲の光触媒40に酸化力を確実に生じさせ、送風装置118に取り入れられる空気の消毒をより確実に行うことができる。加えて、光触媒40は、ケース部111、21の外周全体に設けているため、送風装置118に取り入れられる空気のみならず、走行型消毒装置Aの周囲の空気中の消毒も行うことができる。
【0081】
5)実施の形態1の走行型消毒装置Aにおいて噴霧消毒装置11は、振動装置117の振動により消毒液30を霧化させ、噴射部113の噴射口113aから四周に噴射する構成とした。したがって、ノズルにおいて消毒液と空気とを混合して噴射させる場合のように、ノズルを四周に向けて回転させる構成が不要であり、構造の簡略化を図ることが可能である。
【0082】
(他の実施の形態)
次に、他の実施の形態について説明する。なお、他の実施の形態の説明において、他の実施の形態と共通する構成には当該実施の形態と同じ符号を付して説明を省略し、当該実施の形態との相違点のみ説明する。
【0083】
(実施の形態2)
実施の形態2の走行型消毒装置A2は、実施の形態1の走行型消毒装置Aの変形例であり、
図12に示すように、送風装置118の送風流路118aの途中に、空気中の殺菌を行う殺菌装置としての空気清浄機200を設けた例である。なお、
図12では、紫外線照射消毒装置12および走行装置20の図示を省略しているが、空気清浄機200以外の構成は、実施の形態1の走行型消毒装置Aと同様とする。
【0084】
空気清浄機200は、
図13に示すように、内部の空気通路201に、通路中の送風BLに向けて紫外線を照射する紫外線照射機202と、高電圧を印加する高電圧消毒装置203とを併設している。なお、高電圧消毒装置203としては、電圧を印加して、マイナスイオンやオゾンやプラズマを発生させるものを用いることができる。
【0085】
このような空気清浄機200は、消毒液30による消毒と比較して、極めて短時間で殺菌を行うことが可能であるため、噴霧消毒装置11による空気流によって、菌やウイルスが拡散するのを、より確実に抑えることができる。なお、空気通路201には、送風BLに対して消毒に必要な時間を付与するための図示のようなラビリンス構造を設けてもよい。
【0086】
2-1)実施の形態2の走行型消毒装置A2は、噴霧消毒装置11は、噴霧を乗せる送風BLを形成する送風装置118を備えるとともに、送風装置118は空気取入口119を備える。そして、空気取入口119から噴霧が形成される霧化室116までの送風流路118aの途中に、空気中の殺菌を行う殺菌装置としての空気清浄機200を備える。
【0087】
したがって、噴霧を形成する送風BLの殺菌を行って、空気流によって菌やウイルスが拡散するのを、さらに抑えることができる。
【0088】
以上、本開示の走行型消毒装置を実施の形態に基づき説明してきたが、具体的な構成については、この実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0089】
例えば、実施の形態では、第1の消毒装置により第1の消毒対象領域を消毒し、第2の消毒装置により第2の消毒対象領域を消毒する例を示したが、これに限定されず、逆に、第1の消毒装置により第2の消毒対象領域を消毒し、第2の消毒装置により第1の消毒対象領域を消毒してもよい。この場合、第1の消毒装置である噴霧消毒装置は、噴霧の粒子の大きさを、実施の形態で示した大きさよりも小さくすることで、第2の消毒対象領域である空中の消毒が可能となる。なお、噴霧消毒装置により、第2の消毒対象領域を消毒するには、消毒液の粒子の大きさを、10μm未満の大きさにするのが好ましく、これは振動装置の振動子の振動数を2.4MHz以上の振動数とすることで達成できる。また、本実施の形態では、消毒液の霧化時の粒子の大きさの調整を振動子の振動数のみに基づいて設定する例を示したが、これに限定されず、振動子の形状や構造に基づいて調整することも可能である。
【0090】
また、実施の形態では、第2の消毒装置として、紫外線照射消毒装置を用いたが、第2の消毒装置としても、噴霧消毒装置を用いてもよい。すなわち、走行装置は、二種類の噴霧消毒装置を搭載する。また、この場合、第2の消毒対象領域を消毒する噴霧消毒装置が霧化する際の粒子の大きさは、上記のように、第1の消毒対象領域を消毒する噴霧消毒装置の粒子よりも小さくする。
【0091】
また、実施の形態では、噴霧消毒装置として、振動子を振動させて消毒液を霧化させるものを示したが、これに限定されない。例えば、噴霧消毒装置として、消毒液を噴射するノズル部分で、いわゆるベンチュリ効果を用いて消毒液と、送風とを混合させて霧化させる装置などの振動とは異なる手段により消毒液を霧化させる噴霧消毒装置を用いることができる。
【0092】
また、実施の形態1では、走行装置は、自動自立走行するものを示したが、自動自立走行させる手段としては、実施の形態1で示したものに限定されない。例えば、床に走行経路に沿って、連続的な線や所定間隔の線をひいて、この線を検出しながら、線に沿って走行させるようにしてもよい。このような自動自立走行は、床に線を設けても問題のない、工場、学校、病院などで有効である。さらに、走行装置としては、自動自立走行を行うものに限定されず、単に車輪などにより人が押し引きして走行するようにしてもよい。この場合、人が装置を移動させながら、消毒を行ってもよいし、特許文献2に記載のように、人が装置を移動させて所定の位置に配置させ、人が装置から離れた状態で所定時間消毒を行うようにしてもよい。
【0093】
また、実施の形態では、走行型消毒装置として、光触媒や殺菌装置としての空気清浄装置を備えるものを示したが、これを設けなくてもよいし、あるいは、いずれか一方のみを設けてもよい。
【符号の説明】
【0094】
10 消毒装置
11 噴霧消毒装置(第1の消毒装置)
12 紫外線照射消毒装置(第2の消毒装置)
20 走行装置(走行体)
21 ケース部(ケース)
24 センサ群(検出装置)
30 消毒液
40 光触媒
111 ケース部(ケース)
113 噴射部
116 霧化室
117 振動装置
118 送風装置
118a 送風流路
119 空気取入口
200 空気清浄機(殺菌装置)
A (実施の形態1の)走行型消毒装置
A2 (実施の形態2の)走行型消毒装置
AR1 下部消毒領域(第1の消毒対象領域)
AR2 上部消毒領域(第2の消毒対象領域)
FL 床面