(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023044626
(43)【公開日】2023-03-30
(54)【発明の名称】細胞貪食を増加させる方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/4184 20060101AFI20230323BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230323BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20230323BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20230323BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20230323BHJP
A61K 31/427 20060101ALI20230323BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20230323BHJP
【FI】
A61K31/4184
A61P35/00
A61P9/10
A61P35/02
A61K39/395 N
A61K31/427
A61P37/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】25
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022093400
(22)【出願日】2022-06-09
(31)【優先権主張番号】63/245,540
(32)【優先日】2021-09-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】505020190
【氏名又は名称】ナショナル ヘルス リサーチ インスティテューツ
【氏名又は名称原語表記】NATIONAL HEALTH RESEARCH INSTITUTES
(71)【出願人】
【識別番号】596118493
【氏名又は名称】アカデミア シニカ
【氏名又は名称原語表記】ACADEMIA SINICA
【住所又は居所原語表記】128 Sec 2,Academia Road,Nankang,Taipei 11529 TW
(74)【代理人】
【識別番号】100167689
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 征二
(72)【発明者】
【氏名】チェン, チー・ハオ
(72)【発明者】
【氏名】イェン, ウァン・チング
(72)【発明者】
【氏名】イェ, テング・クアング
(72)【発明者】
【氏名】チェン, チウング・トング
(72)【発明者】
【氏名】ワング, フウェー・ジウング
(72)【発明者】
【氏名】フアング, カイ・ファ
【テーマコード(参考)】
4C085
4C086
【Fターム(参考)】
4C085AA14
4C085CC23
4C085GG01
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC39
4C086BC82
4C086GA04
4C086GA07
4C086GA10
4C086GA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA45
4C086ZB07
4C086ZB26
4C086ZB27
(57)【要約】 (修正有)
【課題】癌などのCD47の亢進を伴う状態を処置する効果的な方法を提供する。
【解決手段】式(I)の化合物を使用するCD47の亢進を伴う状態の処置のための方法が開示される。
そのような化合物並びに各々が化合物及び抗癌剤を含む薬学的組成物を使用して細胞の貪食を増加させる方法も開示される。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
CD47の亢進を伴う状態を処置する方法であって、処置を必要とする被検体を同定するステップと、式(I)の化合物の有効量を前記被検体に投与するステップと、を備え、
【化1】
R
1、R
2、R
3、R
4、R
6、R
7、R
8及びR
9の各々は独立してH、ハロ又はC
1-6アルキルであり、
R
5はH、ハロ、C
1-6アルキル、C
2-6アルケニル、C
2-6アルキニル、アラルキル、ヘテロアラルキル、C
3-10シクロアルキル又はC
1-8ヘテロシクロアルキルであり、
HetはC
5-6ヘテロアリールであり、
XはCH
2又はCOである、方法。
【請求項2】
R1、R2、R3及びR4の各々は独立してH又はFであり、R6、R7、R8及びR9の各々はHである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
R5は、H、CF3、CH2CF3、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、イソブチル、アダマンタニル、プロピニル、ブチニル、ペンチニル、シクロプロピル、シクロプロピルメチル、4-メトキシベンジル、4-クロロベンジル又は3-メチルイソオキサゾール-5-イルメチルである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
Hetは、テトラゾール、オキサジアゾール、チアゾール、イソオキサゾール又はチオフェンの部分である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
R1、R2、R3及びR4の各々は独立してH又はFであり、R5はH、CF3、CH2CF3、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、イソブチル、アダマンタニル、プロピニル、ブチニル、ペンチニル、シクロプロピル、シクロプロピルメチル、4-メトキシベンジル、4-クロロベンジル又は3-メチルイソオキサゾール-5-イルメチルであり、R6、R7、R8及びR9の各々はHであり、Hetはテトラゾール、オキサジアゾール、チアゾール、イソオキサゾール又はチオフェンの部分である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記化合物は、化合物1~35からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記状態は癌、線維性疾患、アテローム性動脈硬化症又は感染性疾患であり、前記癌は卵巣、乳房、結腸、膀胱、前立腺、脳、頭頸部、肺、胃、膵臓、非ホジキンリンパ腫、急性転化における慢性骨髄性白血病、急性リンパ芽球性白血病及び多発性骨髄腫の癌から選択され、前記線維性疾患が膀胱線維症、心臓線維症、特発性肺線維症、腎臓線維症、肺線維症、肝線維症、骨髄線維症、膵臓線維症及び強皮症からなる群から選択され、前記感染性疾患はウイルス、細菌又は原生動物によって引き起こされる、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記被検体に治療用抗体、分子標的剤、化学療法剤、免疫療法剤及びそれらの組合せからなる群から選択される抗癌剤を投与するステップをさらに備え、
前記状態は癌であり、
前記治療用抗体は抗PD-L1抗体、抗CD20抗体、抗HER2抗体、抗EGFR抗体、抗CD47抗体、抗CD20-CD47二重特異性抗体、CD19-CD47二重特異性抗体、CD47-PD-L1二重特異性抗体、CD47-PD-1二重特異性抗体、抗CD47-HER2二重特異性抗体及びそれらの組合せからなる群から選択され、
前記化学療法剤はドキソルビシン、エピルビシン、イダルビシン、メトトレキサート、ミトキサントロン、オキサリプラチン、シクロホスファミド及びそれらの組合せからなる群から選択され、
前記分子標的剤はゲフィチニブ、エルロチニブ、アファチニブ、ダコミチニブ、オシメルチニブ、ラパチニブ、ツカチニブ、ネラチニブ、ソラフェニブ、レゴラフェニブ、レンバチニブ、カボザンチニブ、スニチニブ、アキシチニブ及びそれらの組合せからなる群から選択され、
前記免疫療法剤はニボルマブ、イピリムマブ、ペムブロリズマブ、アテゾリズマブ、アベルマブ、デュルバルマブ及びそれらの組合せからなる群から選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記式(I)の化合物は、1日あたり10mg/kg~200mg/kgの投与量で投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
細胞の貪食を増加させる方法であって、前記細胞を式(I)の化合物と接触させるステップと、
【化2】
前記細胞を貪食細胞に曝露するステップと、を備え、
前記細胞はCD47を発現し、
R
1、R
2、R
3、R
4、R
6、R
7、R
8及びR
9の各々は独立してH、ハロ又はC
1-6アルキルであり、
R
5はH、ハロ、C
1-6アルキル、アラルキル、ヘテロアラルキル、C
3-10シクロアルキル又はC
1-8ヘテロシクロアルキルであり、
HetはC
5-6ヘテロアリールであり、
XはCH
2又はCOである、方法。
【請求項11】
R1、R2、R3及びR4の各々は独立してH又はFであり、R6、R7、R8及びR9の各々はHである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
R5は、H、CF3、CH2CF3、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、イソブチル、アダマンタニル、プロピニル、ブチニル、ペンチニル、シクロプロピル、シクロプロピルメチル、4-メトキシベンジル、4-クロロベンジル又は3-メチルイソオキサゾール-5-イルメチルである、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
Hetはテトラゾール、オキサジアゾール、チアゾール、イソオキサゾール又はチオフェンの部分である、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
R1、R2、R3及びR4の各々は独立してH又はFであり、R5はH、CF3、CH2CF3、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、イソブチル、アダマンタニル、プロピニル、ブチニル、ペンチニル、シクロプロピル、シクロプロピルメチル、4-メトキシベンジル、4-クロロベンジル又は3-メチルイソオキサゾール-5-イルメチルであり、R6、R7、R8及びR9の各々はHであり、Hetはテトラゾール、オキサジアゾール、チアゾール、イソオキサゾール又はチオフェンの部分である、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記化合物は、化合物1~35からなる群から選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項16】
前記細胞は癌細胞又は骨髄性細胞であり、前記癌細胞は卵巣、乳房、結腸、膀胱、前立腺、脳、頭頸部、肺、胃、膵臓、リンパ系、骨又は血液において存在し、自身の表面にシグナル調節タンパク質アルファ(SIRPα)を有する前記骨髄性細胞はマクロファージ、単球、好中球、好塩基球、好酸球又は樹状細胞である、請求項10に記載の方法。
【請求項17】
前記細胞を治療用抗体、分子標的剤、化学療法剤、免疫療法剤及びそれらの組合せからなる群から選択される抗癌剤と接触させるステップをさらに備え、
前記細胞は癌細胞であり、
前記治療用抗体は抗PD-L1抗体、抗CD20抗体、抗HER2抗体、抗EGFR抗体、抗CD47抗体、抗CD20-CD47二重特異性抗体、CD19-CD47二重特異性抗体、CD47-PD-L1二重特異性抗体、CD47-PD-1二重特異性抗体、抗CD47-HER2二重特異性抗体及びそれらの組合せから選択され、
前記化学療法剤はドキソルビシン、エピルビシン、イダルビシン、メトトレキサート、ミトキサントロン、オキサリプラチン、シクロホスファミド及びそれらの組合せからなる群から選択され、
前記分子標的剤はゲフィチニブ、エルロチニブ、アファチニブ、ダコミチニブ、オシメルチニブ、ラパチニブ、ツカチニブ、ネラチニブ、ソラフェニブ、レゴラフェニブ、レンバチニブ、カボザンチニブ、スニチニブ及びそれらの組合せからなる群から選択され、
前記免疫療法剤はニボルマブ、イピリムマブ、ペムブロリズマブ、アテゾリズマブ、アベルマブ、デュルバルマブ及びそれらの組合せからなる群から選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項18】
前記細胞をCD47阻害物質、SIRPα阻害物質又はそれらの組合せと接触させるステップをさらに備え、
前記CD47阻害物質はCD47抗体B6H12.2、Hu5F9-G4、IT-061、CC-90002、SRF231、SHR-1603、AO-176、TJC4、TJC4-CK、SY102、PSTx-23、MBT-001、IMC-002、HMBD-004B、HLX24、BAT6004、AUR-105、AUR-104及びLYN00301、CD47二重特異性抗体NI-1701、IBI188、IMM03、NI-1801、PDL1/CD47BsAv、IMM2502、IBI322、ABP-160、HMBD-004A及びBH-29xx並びにそれらの組合せからなる群から選択され、
前記SIRPα阻害物質はSIRPα阻害物質ALX148、KWAR23、TTI-621、TTI-622、OSE-172、CC-95251、IMM01、FSI-189及びCTX-5861、SIRPα二重特異性阻害物質SL-172154、IMM02及びDSP107並びにそれらの組合せからなる群から選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項19】
抗癌剤及び式(I)の化合物を含む薬学的組成物であって、
【化3】
R
1、R
2、R
3、R
4、R
6、R
7、R
8及びR
9の各々は独立してH、ハロ又はC
1-6アルキルであり、
R
5はH、ハロ、C
1-6アルキル、C
2-6アルケニル、C
2-6アルキニル、アラルキル、ヘテロアラルキル、C
3-10シクロアルキル又はC
1-8ヘテロシクロアルキルであり、
HetはC
5-6ヘテロアリールであり、
XはCH
2又はCOである、薬学的組成物。
【請求項20】
R1、R2、R3及びR4の各々は独立してH又はFであり、R6、R7、R8及びR9の各々はHである、請求項19に記載の薬学的組成物。
【請求項21】
R5は、H、CF3、CH2CF3、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、イソブチル、アダマンタニル、プロピニル、ブチニル、ペンチニル、シクロプロピル、シクロプロピルメチル、4-メトキシベンジル、4-クロロベンジル又は3-メチルイソオキサゾール-5-イルメチルである、請求項19に記載の薬学的組成物。
【請求項22】
Hetは、テトラゾール、オキサジアゾール、チアゾール、イソオキサゾール又はチオフェンの部分である、請求項19に記載の薬学的組成物。
【請求項23】
R1、R2、R3及びR4の各々は独立してH又はFであり、R5はH、CF3、CH2CF3、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、イソブチル、アダマンタニル、プロピニル、ブチニル、ペンチニル、シクロプロピル、シクロプロピルメチル、4-メトキシベンジル、4-クロロベンジル又は3-メチルイソオキサゾール-5-イルメチルであり、R6、R7、R8及びR9の各々はHであり、Hetはテトラゾール、オキサジアゾール、チアゾール、イソオキサゾール又はチオフェンの部分である、請求項19に記載の薬学的組成物。
【請求項24】
前記化合物は、化合物1~35からなる群から選択される、請求項19に記載の薬学的組成物。
【請求項25】
前記抗癌剤は治療用抗体、分子標的剤、化学療法剤、免疫療法剤及びそれらの組合せからなる群から選択され、
前記治療用抗体は抗PD-L1抗体、抗CD20抗体、抗HER2抗体、抗EGFR抗体、抗CD47抗体、抗CD20-CD47二重特異性抗体、CD19-CD47二重特異性抗体、CD47-PD-L1二重特異性抗体、CD47-PD-1二重特異性抗体、抗CD47-HER2二重特異性抗体及びそれらの組合せからなる群から選択され、
前記化学療法剤はドキソルビシン、エピルビシン、イダルビシン、メトトレキサート、ミトキサントロン、オキサリプラチン、シクロホスファミド及びそれらの組合せからなる群から選択され、
前記分子標的剤はゲフィチニブ、エルロチニブ、アファチニブ、ダコミチニブ、オシメルチニブ、ラパチニブ、ツカチニブ、ネラチニブ、ソラフェニブ、レゴラフェニブ、レンバチニブ、カボザンチニブ、スニチニブ、アキシチニブ及びそれらの組合せからなる群から選択され、
前記免疫療法剤はニボルマブ、イピリムマブ、ペムブロリズマブ、アテゾリズマブ、アベルマブ、デュルバルマブ及びそれらの組合せからなる群から選択される、請求項19に記載の薬学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年9月17日に出願された米国仮出願第63/245540号に基づく優先権の利益を主張し、その内容及び開示は、その全体において参照によりここに取り込まれる。
【背景技術】
【0002】
CD47は、正常細胞上に発現し、その宿主細胞のマクロファージ介在性の破壊を阻害する免疫チェックポイントとして作用するタンパク質である。それは、骨髄性細胞上に発現する膜糖タンパク質であるシグナル調節タンパク質α(SIRPα)に結合する。CD47-SIRPα結合は、宿主細胞を自己としてマーキングするシグナル伝達系を形成して免疫系による貪食(phagocytosis)を回避する。
【0003】
CD47は癌細胞において亢進される(upregulated)ことが多く、癌細胞が身体による排除から逃れるように豊富なCD47-SIRPα軸を形成する。さらに、CD47の亢進は、線維性疾患、アテローム性動脈硬化症又は感染性疾患を有する患者にも見られる。例えば、Cui他、Nat.Commun.11、2795(2020)、Kojima他、Nature 536、86-90(2016)及びTal他、mBio 11(2020)を参照。CD47-SIRPαシグナル伝達系のブロッキングは、癌細胞の破壊を促進し、線維性疾患、アテローム性動脈硬化症及び感染性疾患に対する新規の処置を提供する。
【0004】
それにもかかわらず、CD47-SIRPαシグナル伝達系を阻害することによる、CD47の亢進を伴う状態の効果的な処置を開発することは、この処置に対する化合物をどのように選択するかに関して刊行物によって提供される明確なガイダンスが存在しないため、課題となる。
【0005】
CD47の亢進を伴う状態を処置する効果的な方法を開発するニーズが存在する。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、所定のベンズイミダゾール化合物がCD47の亢進を伴う状態(例えば、癌)を処置するのに有用であるという予想外の発見に基づく。
【0007】
一態様では、この発明は、CD47の亢進を伴う状態を処置する方法に関する。方法は、(i)処置を必要とする被検体を同定するステップと、(ii)式(I)のベンズイミダゾール化合物の有効量を被検体に(例えば、1日あたり10mg/kg~200mg/kgの投与量で)投与するステップと、を備え、
【化1】
R
1、R
2、R
3、R
4、R
6、R
7、R
8及びR
9の各々は独立してH、ハロ又はC
1-6アルキルであり;R
5はH、ハロ、C
1-6アルキル、C
2-6アルケニル、C
2-6アルキニル、アラルキル、ヘテロアラルキル、C
3-10シクロアルキル又はC
1-8ヘテロシクロアルキルであり;HetはC
5-6ヘテロアリールであり;XはCH
2又はCOである。
【0008】
式(I)の化合物は、以下の(i)R1、R2、R3及びR4の各々が独立してH又はFであり、(ii)R6、R7、R8及びR9の各々がHであり、(iii)R5がH、CF3、CH2CF3、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、イソブチル、アダマンタニル、プロピニル、ブチニル、ペンチニル、シクロプロピル、シクロプロピルメチル、4-メトキシベンジル、4-クロロベンジル又は3-メチルイソオキサゾール-5-イルメチル(3-methylisoxazol-5-ylmethyl)であり、(iv)Hetがテトラゾール、オキサジアゾール、チアゾール、イソオキサゾール又はチオフェンの部分であるという特徴のうちの1以上を有し得る。
【0009】
式(I)の例示的な化合物は化合物1~35を含み、その構造を以下に示す。
【化2】
【0010】
好適な化合物は、化合物30、化合物32及び化合物34である。
【0011】
上記方法は、癌、線維性疾患、アテローム性動脈硬化症又は感染性疾患の処置に適する。
【0012】
方法によって処置可能な癌は、卵巣、乳房、結腸、膀胱、前立腺、脳、頭頸部、肺、胃、膵臓、非ホジキンリンパ腫、急性転化における慢性骨髄性白血病(chronic myeloid leukemia in blast crisis)、急性リンパ芽球性白血病及び多発性骨髄腫の癌を含む。式(I)の化合物に加えて、患者は、治療用抗体、分子標的剤、化学療法剤、免疫療法剤及びそれらの組合せからなる群から選択される抗癌剤を投与されることが多い。有用な治療用抗体は、抗PD-L1抗体、抗CD20抗体、抗HER2抗体、抗EGFR抗体、抗CD47抗体、抗CD20-CD47二重特異性抗体、CD19-CD47二重特異性抗体、CD47-PD-L1二重特異性抗体、CD47-PD-1二重特異性抗体、抗CD47-HER2二重特異性抗体及びそれらの任意の組合せを含む。特異的な抗体は、CD47抗体B6H12.2、Hu5F9-G4、IT-061、CC-90002、SRF231、SHR-1603、AO-176、TJC4、TJC4-CK、SY102、PSTx-23、MBT-001、IMC-002、HMBD-004B、HLX24、BAT6004、AUR-105、AUR-104及びLYN00301;CD47二重特異性抗体NI-1701、IBI188、IMM03、NI-1801、PDL1/CD47BsAv、IMM2502、IBI322、ABP-160、HMBD-004A及びBH-29xx、SIRPα阻害物質ALX148、KWAR23、TTI-621、TTI-622、OSE-172、CC-95251、IMM01、FSI-189及びCTX-5861並びにSIRPα二重特異性阻害物質SL-172154、IMM02及びDSP107を含む。
【0013】
化学療法剤の例は、ドキソルビシン、エピルビシン、イダルビシン、メトトレキサート、ミトキサントロン、オキサリプラチン、シクロホスファミド及びそれらの組合せからなる群から選択されるものである。分子標的剤は、ゲフィチニブ、エルロチニブ、アファチニブ、ダコミチニブ、オシメルチニブ、ラパチニブ、ツカチニブ、ネラチニブ、ソラフェニブ、レゴラフェニブ、レンバチニブ、カボザンチニブ、スニチニブ、アキシチニブ及びそれらの組合せを含む。免疫療法剤は、ニボルマブ、イピリムマブ、ペムブロリズマブ、アテゾリズマブ、アベルマブ、デュルバルマブ及びそれらの組合せからなる群から選択され得る。
【0014】
この方法によって処置可能な他の状態は、線維性疾患、例えば、膀胱線維症、心臓線維症、特発性肺線維症、腎臓線維症、肺線維症、肝線維症、骨髄線維症、膵臓線維症及び強皮症である。
【0015】
感染性疾患、例えば、ウイルス、細菌又は原生動物によって引き起こされるものもこの方法によって処置され得る。
【0016】
この方法の他の態様は、細胞を式(I)の化合物と接触させるステップと、
【化3】
細胞を貪食細胞に曝露するステップであって、細胞がCD47を発現する、ステップと、を備える細胞の貪食を増加させる方法に関する。
【0017】
R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、Het及びXは、上記に定義されている。
【0018】
細胞は、卵巣、乳房、結腸、膀胱、前立腺、脳、頭頸部、肺、胃、膵臓、リンパ系、骨又は血液における癌細胞であり得る。貪食細胞は、通常は、その表面にシグナル調節タンパク質アルファを有する骨髄性細胞(例えば、マクロファージ、単球、好中球、好塩基球、好酸球及び樹状細胞)である。
【0019】
方法は、細胞を治療用抗体、分子標的剤、化学療法剤、免疫療法剤及びそれらの組合せからなる群から選択される抗癌剤と接触させるステップをさらに含み得る。上記の抗癌剤のいずれも、この方法において使用可能である。加えて、方法は、細胞を上記CD47阻害物質、上記SIRPα阻害物質又はそれらの任意の組合せと接触させるステップを含み得る。
【0020】
抗癌剤及び式(I)の化合物を含む薬学的組成物も、この発明の範囲内となる。
【化4】
【0021】
R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、Het、X及び抗癌剤は、上記に定義されている。
【0022】
用語「アルキル」は、ここでは、1~20個(例えば、1~10個及び1~6個)の炭素原子を含む直鎖又は分岐鎖炭化水素基をいう。例示的なアルキル基類は、メチル(「Me」)、エチル(「Et」)、n-プロピル、イソ-プロピル、n-ブチル、iso-ブチル及びtert-ブチルである。アルキルは、そのハロ置換誘導体、すなわち、1以上のハロゲン(クロロ、フルオロ、ブロモ又はヨード)原子で置換されたアルキルをいうハロアルキルを含む。例えば、トリフルオロメチル、ブロモメチル及び4,4,4-トリフルオロブチルを含む。用語「アルコキシ」は、-O-アルキル基(例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ及びイソプロポキシ)をいう。アルコキシは、ハロアルコキシ、すなわち、1以上のハロゲン原子で置換されたアルコキシ、例えば、-O-CH2Cl及び-O-CHClCH2Clを含む。
【0023】
用語「シクロアルキル」は、3~12個の炭素(例えば、C3-10)を有する飽和及び部分的に不飽和の単環式、二環式、三環式又は四環式炭化水素基をいう。例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロペンテニル、シクロヘキシル、シクロヘキセニル、シクロヘプチル及びシクロオクチルである。用語「シクロアルキルオキシ」は、-O-シクロアルキル基、例えば、シクロヘキシルオキシをいう。シクロアルキルオキシは、1以上のハロゲン原子で置換されたシクロアルキルオキシをいうハロシクロアルキルオキシを含む。
【0024】
用語「ヘテロシクロアルキル」は、1以上のヘテロ原子(例えば、O、N、P及びS)を有する非芳香族3~8員単環式、8~12員二環式又は11~14員三環式の環系をいう。ヘテロシクロアルキル基類の例は、ピペラジニル、ピペリジニル、イミダゾリジニル、アゼパニル、ピロリジニル、ジヒドロチアジアゾリル、ジオキサニル、モルホリニル、テトラヒドロプラニル及びテトラヒドロフラニルを含む。用語「ヘテロシクロアルキルオキシ」は、-O-ヘテロシクロアルキルオキシをいう。ヘテロシクロアルキル及びヘテロシクロアルキルオキシの各々は、そのハロゲン化されたもの、すなわち、ハロゲン原子の1以上の置換を有するものを含む。
【0025】
用語「アルケニル」は、2~20個の炭素原子(例えば、C2-4、C2-6及びC2-10)及び1以上の炭素-炭素二重結合を有する直鎖又は分岐鎖の一価不飽和脂肪族鎖をいう。例えば、(ビニルとしても公知の)エテニル、1-メチルエテニル、1-メチル-1-プロペニル、1-ブテニル、1-ヘキセニル、2-メチル-2-プロペニル、1-プロペニル、2-プロペニル、2-ブテニル及び2-ペンテニルである。
【0026】
用語「アルキニル」は、2~20個の炭素原子(例えば、C2-4、C2-6及びC2-10)及び1以上の炭素-炭素三重結合を有する直鎖又は分岐鎖の脂肪族鎖をいう。例えば、エチニル、2-プロピニル、2-ブチニル、3-メチルブチニル及び1-ペンチニルである。
【0027】
用語「アリール」は、一価又は二価の6-炭素単環式、10-炭素二環式、14-炭素三環式芳香族の環系をいい、各環は1~5個の置換基を有し得る。例えば、フェニル、ナフチル及びアントラセニルを含む。用語「アラルキル」は、アリール基で置換されたアルキルをいう。用語「アリールオキシ」は、-O-アリール基、例えば、フェノキシをいう。
【0028】
用語「ヘテロアリール」は、1以上のヘテロ原子(例えば、O、N、P及びS)を有する一価又は二価の芳香族5~8員単環式、8~12員二環式又は11~14員三環式の環系をいう。例えば、トリアゾリル、オキサゾリル、チアジアゾリル、テトラゾリル、オキサジアゾリル、オキサゾリル、イソキサゾリル、ピラゾリル、ピリジル、カルバゾリル、テトラヒドロピラニル、フリル、イミダゾリル、ベンズイミダゾリル、ピリミジニル、チエニル、キノリニル、インドリル、チアゾリル及びベンゾチアゾリルを含む。用語「ヘテロアラルキル」は、ヘテロアリール基で置換されたアルキル基をいう。用語「ヘテロアリールオキシ」は、-O-ヘテロアリール基をいう。
【0029】
用語「ハロ」は、フルオロ、クロロ、ブロモ又はヨードラジカルをいう。用語「アミノ」は、非置換又はアルキル、アリール、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル若しくはヘテロアリールで一置換/二置換されたアミンに由来するラジカルをいう。用語「アルキルアミノ」は、アルキル-NH-をいう。用語「ジアルキルアミノ」は、アルキル-N(アルキル)-をいう。
【0030】
ここで言及されるアルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、アラルキル、ヘテロアラルキル、アルコキシ及びアリールオキシは、置換部分及び非置換部分の双方を含む。置換基の例は、ハロ、ヒドロキシル、アミノ、シアノ、ニトロ、メルカプト、アルコキシカルボニル、アミド、カルボキシ、アルカンスルホニル、アルキルカルボニル、カルバミド、カルバミル、カルボキシル、チオウレイド、チオシアナート、スルホンアミド、アルキル、アルケニル、アルキニル、アルキルオキシ、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル及びヘテロシクロアルキルを含み、アルキル、アルケニル、アルキニル、アルキルオキシ、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル及びヘテロシクロアルキルがさらに置換され得る。
【0031】
用語「化合物」は、式(I)の化合物をいう場合、その塩、溶媒和物及びプロドラッグも含む。塩は、陰イオンと化合物において正に帯電した基(例えば、アミノ)との間に形成され得る。適切な陰イオンの例は、塩化物、臭化物、ヨウ化物、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、クエン酸塩、メタンスルホン酸塩、トリフルオロ酢酸塩、酢酸塩、リンゴ酸塩、トシル酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩、グルタミン酸塩、グルクロン酸塩、乳酸塩、グルタル酸塩及びマレイン酸塩である。塩は、陽イオンと負に帯電した基との間にも形成され得る。適切な陽イオンは、ナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン及びテトラメチル-アンモニウムイオンなどのアンモニウム陽イオンを含む。さらに、塩は第4級窒素原子を含み得る。溶媒和物は、活性化合物と薬学的に許容可能な溶媒との間に形成される複合体をいう。薬学的に許容可能な溶媒の例は、水、エタノール、イソプロパノール、酢酸エチル、酢酸及びエタノールアミンを含む。プロドラッグは、投与後に、薬学的に活性な薬剤へと代謝される化合物をいう。プロドラッグの例は、エステル及び他の薬学的に許容可能な誘導体を含む。
【0032】
化合物は、1以上の非芳香族系二重結合又は不斉中心を含み得る。それらの各々は、ラセミ体若しくはラセミ混合物、シングルRエナンチオマー、シングルSエナンチオマー、個々のジアステレオマー、ジアステレオマー混合物、シス異性体又はトランス異性体として生じる。そのような異性体形態の化合物は、この発明の範囲内となる。それらは、混合物として存在してもよいし、キラル合成法又はキラル分離技術を用いて単離されてもよい。
【0033】
この発明は、CD47の亢進を伴う状態を処置及び予防する医薬品の製造に対する上記式(I)の化合物のうちの1以上の使用も特徴とする。
【0034】
用語「処置している」又は「処置」は、CD47の亢進を伴う状態を有する被検体に、治療効果を与える目的、例えば、状態、その症状又はそれになりやすい傾向を治癒し、緩和し、変更し、影響を与え、改善し又は予防する目的で、式(I)の化合物のうちの1以上を投与することをいう。「有効量」は、治療効果を与えるのに必要とされる化合物の量をいう。有効用量は、当業者によって認識されるように、処置される症状のタイプ、投与経路、賦形剤の利用及び他の治療的処置との併用の可能性に応じて変化することになる。
【0035】
本発明の方法を実践するために、上記化合物のうちの1以上を有する組成物は、非経口的、経口的、経鼻的、直腸的、局所的又は口腔内的に投与され得る。ここで使用される用語「非経口的」は、皮下、皮内、静脈内、腹腔内、筋肉内、関節内、動脈内、滑液嚢内、胸骨内、髄腔内、病巣内又は頭蓋内注入及び任意の適切な点滴技術をいう。
【0036】
無菌の注入可能な組成物は、1,3-ブタンジオールにおける溶液などの、非毒性の非経口的に許容可能な希釈剤又は溶媒における溶液又は懸濁液であり得る。許容可能なビヒクル及び溶媒において採用され得るものは、マンニトール、水、リンゲル液及び等張塩化ナトリウム溶液である。加えて、固定油(例えば、合成モノグリセリド又はジグリセリド)は、溶媒又は懸濁媒体として従来的に採用される。オレイン酸及びそのグリセリド誘導体などの脂肪酸は、オリーブ油及びヒマシ油などの天然の薬学的に許容可能な油と同様に、特にそれらのポリオキシエチル化されたものにおいて同様に注射剤の調製に有用である。これらの油溶液又は懸濁液は、長鎖アルコール希釈剤若しくは分散剤、カルボキシメチルセルロース又は同様の拡散剤も含み得る。他の一般的に使用されるTweens及びSpansなどの界面活性剤若しくは他の同様の乳化剤又は薬学的に許容可能な固体、液体若しくは他の投与形態の製造において一般的に使用されるバイオアベイラビリティ増強物質も、処方の目的で使用可能である。
【0037】
経口投与のための組成物は、カプセル、錠剤、乳濁物及び水性の懸濁液、分散液並びに溶液を含む任意の経口的に許容可能な投与形態であり得る。錠剤の場合、一般的に使用される担体は、乳糖及びコーンスターチを含む。ステアリン酸マグネシウムなどの潤滑剤も、通常、添加される。カプセル形態での経口投与に有用な希釈剤は、乳糖及び乾燥コーンスターチを含む。水性懸濁液又は乳濁液が経口投与される場合、有効成分は、乳化剤又は懸濁剤と組み合わされて油相に懸濁又は溶解され得る。所望に応じて、所定の甘味料、香料又は着色剤が添加され得る。
【0038】
経鼻エアロゾル又は吸入組成物は、薬学的処方の分野において周知の技術により調製され得る。例えば、そのような組成物は、ベンジルアルコール若しくは他の適切な防腐剤、バイオアベイラビリティを増強する吸収促進剤、フルオロカーボン及び/又は他の可溶化剤若しくは拡散剤を採用して、生理食塩水における溶液として調製され得る。
【0039】
上記化合物のうちの1以上を有する組成物は、直腸投与のための坐剤の形態でも投与され得る。
【0040】
薬学的組成物における単体は、それが組成物の有効成分と適合性があり(及び好ましくは、有効成分を安定化可能であり)、処置される被検体に有害ではないという意味において「許容可能」である必要がある。1以上の可溶化剤が、活性化合物の送達のための薬学的賦形剤として利用され得る。例えば、コロイド状酸化ケイ素、ステアリン酸マグネシウム、セルロース、ラウリル硫酸ナトリウム及びD&Cイエロー#10を含む。
【0041】
本発明の1以上の実施形態の詳細が、以下の説明及び図面において説明される。本発明の他の特徴、目的及び有利な効果は、説明、図面及び特許請求の範囲から明らかとなる。
【0042】
以下の説明は、添付図面を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図1A】
図1Aは、フローサイトメトリーによって決定された、コントロール(DMSO)処置、PQ912処置、化合物30処置、化合物32処置又は化合物34処置されたヒトB細胞リンパ腫Raji細胞への、抗ヒトCD47-CC2C6抗体の細胞表面結合を示す。
【
図1B】
図1Bは、フローサイトメトリーによって決定された、コントロール(DMSO)処置、PQ912処置、化合物30処置、化合物32処置又は化合物34処置されたヒト結腸癌DLD-1細胞への、抗ヒトCD47-CC2C6抗体の細胞表面結合を示す。
【
図1C】
図1Cは、フローサイトメトリーによって決定された、コントロール(DMSO)処置、PQ912処置、化合物32処置又は化合物34処置されたヒト卵巣癌SK-OV-3細胞への、抗ヒトCD47-CC2C6抗体の表面結合を示す。
【
図2A】
図2Aは、フローサイトメトリーによって決定された、コントロール(DMSO)処置、PQ912処置、化合物30処置、化合物32処置又は化合物34処置されたヒトB細胞リンパ腫Raji細胞への、抗ヒトCD47-CC2C6の細胞表面結合を示す。
【
図2B】
図2Bは、フローサイトメトリーによって決定された、コントロール(DMSO)処置、PQ912処置、化合物30処置、化合物32処置又は化合物34処置されたヒトB細胞リンパ腫Raji細胞への、抗ヒトCD47-2D3の細胞表面結合を示す。
【
図3A】
図3Aは、フローサイトメトリーによって決定された、コントロール(DMSO)処置、PQ912処置、化合物32処置又は化合物34処置されたヒトB細胞リンパ腫Raji細胞への、ヒトSIRPα-Fcの細胞表面結合を示す。
【
図3B】
図3Bは、フローサイトメトリーによって決定された、コントロール(DMSO)処置、PQ912処置、化合物32処置又は化合物34処置されたヒト結腸癌DLD-1細胞への、ヒトSIRPα-Fcの細胞表面結合を示す。
【
図3C】
図3Cは、フローサイトメトリーによって決定された、コントロール(DMSO)処置、PQ912処置、化合物32処置又は化合物34処置されたヒト卵巣癌SK-OV-3細胞への、ヒトSIRPα-Fcの細胞表面結合を示す。
【
図4A】
図4Aは、フローサイトメトリーによって決定された、リツキシマブ(すなわち、抗ヒトCD20抗体)の有り又は無しで、コントロール(DMSO)処置、PQ912処置、化合物34処置されたヒトB細胞リンパ腫Raji細胞のヒト単球由来マクロファージによる貪食を示す。
【
図4B】
図4Bは、フローサイトメトリーによって決定された、PQ912及びリツキシマブの組合せ処置並びに化合物34及びリツキシマブの組合せ処置されたヒトB細胞リンパ腫Raji細胞のヒト単球由来マクロファージによる貪食を示す。
【
図5A】
図5Aは、腫瘍体積変化によって決定された、コントロール処置、リツキシマブ処置、化合物34処置並びにリツキシマブ及び化合物34の組合せ処置されたヒトB細胞リンパ腫Raji異種移植腫瘍のin vivo抗腫瘍効果を示す。
【
図5B】
図5Bは、体重変化によって決定された、コントロール処置、リツキシマブ処置、化合物34処置並びにリツキシマブ及び化合物34の組合せ処置されたヒトB細胞リンパ腫Raji異種移植腫瘍のin vivo抗腫瘍効果を示す。
【
図5C】
図5Cは、腫瘍体積変化によって決定された、リツキシマブ処置されたヒトB細胞リンパ腫Raji異種移植腫瘍のin vivo腫瘍成長を示す。
【
図5D】
図5Dは、腫瘍体積変化によって決定された、リツキシマブ及び化合物34の組合せ処置されたヒトB細胞リンパ腫Raji異種移植腫瘍のin vivo腫瘍成長を示す。
【
図5E】
図5Eは、コントロール処置、化合物34処置、リツキシマブ処置並びにリツキシマブ及び化合物34の組合せ処置されたヒトB細胞リンパ腫Raji異種移植腫瘍の生存期間中央値を示す。
【
図6】
図6は、コントロール処置、リツキシマブ処置並びにリツキシマブ及び化合物34の組合せ処置されたヒトB細胞リンパ腫Raji異種移植腫瘍のin vivo抗腫瘍効果及び奏効率を示す。CRは完全奏効であり、PRは部分奏効であり、SDは安定であり、PDは進行であり、ORRは全奏効率である。
【
図7】
図7は、処置後2時間、4時間、8時間及び24時間でのマウスにおける腫瘍及び血漿の化合物34の濃度を示す。
【
図8A】
図8Aは、フローサイトメトリー分析によって決定された、ビヒクル及び化合物34で処置されたヒトB細胞リンパ腫Raji異種移植腫瘍細胞におけるCC2C6
+の発現レベルを示す。
【
図8B】
図8Bは、フローサイトメトリー分析によって決定された、ビヒクル及び化合物34で処置されたヒトB細胞リンパ腫Raji異種移植腫瘍細胞における全CD47
+の発現レベルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0044】
化学療法は、抗がん剤、例えば、三酸化二ヒ素(Trisenox(登録商標)、テバ ファーマシューティカル社、米国ニュージャージー州パーシッパニー)、ボルテゾミブ(Velcade(登録商標))、カルボプラチン、シスプラチン、シタラビン(Cytosar-U(登録商標)及びDepocyt(登録商標))、エリブリン、エトポシド、エポチロン(例えば、ブリストルマイヤーズスクイブ社、ニューヨーク州ニューヨークからIxempra(登録商標)として入手可能なイキサベピロン)、ヘキサメチルメラミン、イフォスファミド(Ifex(登録商標))、レナリドミド、メトトレキサート(Trexall(登録商標))、オキサリプラチン白金塩、プロカルバジン(Matulane(登録商標))、タキサン系(ドセタキセル、パクリタキセル)、サリドマイド(Thalomid(登録商標))、ビンブラスチン、ビンカアルカロイド系及びビンクリスチンを利用する。
【0045】
これらの抗癌剤では、重篤な副作用、例えば、薬剤が正常細胞も攻撃するように化学療法誘発性の末梢神経障害の症状がみられる。
【0046】
癌細胞は、CD47を過剰発現して、自身が免疫系による検出から逃れることを可能とし、マクロファージによる破壊を回避する。CD47は、マクロファージ及び樹状細胞などの貪食細胞上に発現されるシグナル調節タンパク質アルファ(SIRPα)に対するリガンドとして作用する。CD47とSIRPαの間の相互作用は、2つの細胞間の「抗貪食」シグナルを媒介又は伝達して貪食を阻害する。換言すると、CD47は「do-not-eat-me」シグナル及び自己のマーカーとして作用する。したがって、過剰発現されたCD47は、副作用を最小化しつつ癌処置に対して可能性のある標的を与える。
【0047】
実際に、CD47阻害物質は、癌処置において広く使用される。例えば、抗CD47モノクローナル抗体、二重特異性抗体及び組換え融合タンパク質を含む。CD47阻害物質の1つの難点は、いわゆる「抗原シンク」である。正常細胞が、CD47の遍在的な発現を有し、「抗原シンク」として作用してCD47阻害物質を吸収する。したがって、CD47の効果的な治療的阻害を達成するのに、高用量が必要とされる。静脈内投与される場合、高用量のCD47阻害物質は、正常な赤血球上の「do-not-eat-me」シグナルを抑制し、マクロファージにそれらを取り込むように促す。
【0048】
抗CD47抗体治療における抗原シンク問題に対応するために、式(I)の化合物はCD47-SIRPαシグナル伝達系を低減してマクロファージ介在性の貪食を活性化し、それが抗体依存性細胞貪食(ADCP)を介して癌細胞標的抗体によってさらに刺激され得るということが、予想外にも発見されている。CD47の代わりに式(I)の化合物を用いてCD47-SIRPαシグナル伝達系を攻撃するいくつかの有利な効果が存在する。第1に、式(I)の化合物は、抗CD47治療に見られるような抗原シンクの問題による弊害を受けない。第2に、化合物は、溶血(すなわち、赤血球の溶解)及び血小板減少症(すなわち、血小板の損失)を引き起こさない。最後に、化合物は、バイオアベイラビリティ及び送達に関して、抗CD47抗体と比較して優れた特性を有する。これらの有利な効果は、固形腫瘍の処置に対して特に有益である。
【0049】
したがって、本発明は、式(I)の化合物の有効量を、それを必要とする被検体に投与することによって、CD47の亢進を伴う状態を処置する方法を提供する。細胞を式(I)の化合物と接触させ、そして細胞を貪食細胞に曝露することによってCD47を発現する細胞の貪食を増加させる方法も、範囲内となる。抗癌剤及び式(I)の化合物を含む薬学的組成物は、さらに範囲内となる。
【0050】
上記式(I)の化合物は、確立された方法により調製され得る。これらの化合物を調製するために用いられる合成変換及び保護基の方法論(保護及び脱保護)は、当技術分野において周知である。例えば、R.Larock、Comprehensive Organic Transformations(第3版、Wiley社、2018)、P.G.M.Wuts及びT.W.Greene、Greene’s Protective Groups in Organic Synthesis(第4版、John Wiley and Sons社、2007)、L.Fieser及びM.Fieser、Fieser and Fieser’s Reagents for Organic Synthesis(John Wiley and Sons社、1994)、L.Paquette,ed.、Encyclopedia of Reagents for Organic Synthesis(第2版、John Wiley and Sons社、2009)並びにG.J.Yu他、J.Med.Chem 2008、51、6044-6054を参照。
【0051】
式(I)の化合物は、初めに、当技術分野で周知のin vitroアッセイを用いてスクリーニング可能である。それらは続いて、CD47の亢進を伴う状態の処置におけるそれらの有効性について、in vivo動物モデル(例えば、以下の実施例3を参照)を用いて評価され得る。選択された化合物は、例えば、それを動物に投与することによってそれらの有効性を検証するようにさらに試験され得る。結果に基づいて、適切な投与量範囲及び投与経路が決定され得る。
【0052】
式(I)の化合物及びそれらの薬学的組成物は、卵巣、乳房、結腸、膀胱、前立腺、脳、頭頸部の癌並びに非ホジキンリンパ腫、急性転化における慢性骨髄性白血病、急性リンパ芽球性白血病、多発性骨髄腫及びその他などの血液悪性疾患を含むCD47-SIRPαシグナル伝達を伴う血液癌及び固形腫瘍の処置に特に有用である。化合物のうちの1以上が、薬学的組成物に処方され、単独又は上記のように治療用抗体、標的薬剤、化学療法剤及び免疫療法剤を含む1以上の他の抗癌剤と組み合わせて使用され得る。本発明の化合物及び薬学的組成物は、第1選択療法としての患者又は以前の処置に失敗した患者において使用され得る。化合物及び薬学的組成物は、アテローム性動脈硬化症、線維性疾患及び感染性疾患を含むCD47-SIRPαシグナル伝達を伴う他の状態を処置するのにも適している。
【0053】
式(I)の例示的な化合物は、それらの構造を示して上記に記載される。それらの中で、化合物30、32及び34は、RajiヒトB細胞リンパ腫細胞株、DLD-1ヒト結腸癌細胞株及びSK-OV-3ヒト卵巣癌細胞株を含む癌細胞の処置に特に効果的であることを示した。フローサイトメトリーによるアッセイを用いて、SIRPα及びCD47の結合に対するこれらの化合物の効果を測定した。3個の化合物が、CD47及びヒトSIRPαの結合部位を認識する抗体である抗ヒトCD47抗体CC2C6の結合を阻害した。
図2Aを参照。一方で、化合物は、CD47及びSIRPαの結合部位を認識しない抗体である抗ヒトCD47抗体2D3の結合を阻害しなかった。
図2Bを参照。2D3結合よりもCC2C6結合の選択的な阻害は、式(I)の化合物がCD47-SIRPαシグナル伝達系の阻害を介して癌細胞を処置することを示す。
図3A及び3Bに示すように、式(I)の化合物は、以下の構造
【化5】
を有する比較化合物であるPQ912よりも広い程度までCD47-SIRPα-Fc結合を阻害する。
【0054】
図1A、1B及び1Cは、式(I)の3個の化合物、すなわち、化合物30、32及び34が、それぞれヒトB細胞リンパ腫Raji細胞、ヒト結腸癌DLD-1細胞及びヒト卵巣癌SK-OV-3細胞の細胞上のCC2C6の結合を効果的に阻害したことを示し、ヒト体内においてCD47-SIRPα結合を阻害するそれらの有効性を示す。さらに、50%阻害濃度IC
50は、比較化合物PQ912のものよりも少なくとも3倍低い。
図1A~1C及び表2を参照。
図4Aに示すように、リツキシマブ(すなわち、抗CD20抗体)との組合せでの化合物34は、リツキシマブ単独と比較して、抗体依存性細胞貪食(ADCP)の15%の増加をもたらした。化合物34のADCPは、
図4Bに示す結果によって確認された。
図5A~5E及び6は、化合物34及びリツキシマブを用いた処置が、ヒトB細胞リンパ腫異種移植モデルに適用された時に、用量依存的な腫瘍成長阻害をもたらし、腫瘍体積の退縮を誘発し、リツキシマブ処置と比較して平均生存期間を28日間から47日間に延長したことを示す。
図7は、処置後24時間以内に、腫瘍における化合物34の濃度が一定であっただけでなく、8時間から24時間に劇的に低下した血漿におけるものよりもはるかに高かったことを示す。
図8A及び8Bは、化合物34が、全CD47発現レベルに影響を及ぼすことなく、腫瘍細胞表面に結合する抗CD47 CC2C6抗体を約56%低減したことを示す。さらに、式(I)の化合物は、マウスにおいて優れた薬物動態特性及び良好な経口吸収を示す(%F>50)。以下の表1を参照。
【表1】
【0055】
更なる詳述がなくとも、当業者であれば、上記説明に基づいて、本開示をその最大限まで利用し得ると考えられる。したがって、以下の具体例は、単なる例示として解釈されるべきであり、いずれにしても残りの開示を限定するものではない。
【0056】
ここに引用される特許文書を含むすべての刊行物は、その全体において参照によってここに取り込まれる。
【実施例0057】
CD47-SIRPα結合を低減する方法
CD47とSIRPαの間の結合を、任意の適切な方法を用いてCD47結合のレベルを測定することによって研究した。フローサイトメトリー分析は抗体CC2C6へのCD47の結合のレベルを定量化するのに有用であり、その後抗体CC2C6は蛍光色素複合二次抗体を使用する免疫染色手順を受け、続いてフローサイトメトリー装置による免疫染色シグナルを分析してCD47-CC2C6結合のレベルが取得される。他の方法では、CD47の分析はヒトIgG1に融合されたSIRPαから形成されるSIRPα-Fcを使用して行われ、その後ヒトIgG1は、ヒトIgG1に対する蛍光色素複合二次抗体を使用する免疫染色手順を受け、続いて免疫染色シグナルが分析される。
【0058】
SIRPαは、マクロファージ、単球、好中球又は樹状細胞などの骨髄性細胞の表面に発現される。あるいは、SIRPαは、ヒトIgG1と融合されてSIRPα-Fc組換えタンパク質を形成する。CD47とSIRPα/SIRPα-Fcの間の結合の低減は、式(I)の化合物が貪食、例えば、抗体依存性細胞貪食(ADCP)により、癌細胞の排除を支援することを示す。抗癌剤(例えば、リツキシマブ)は、式(I)の化合物と共に使用可能である。抗PD-L1抗体、抗CD20抗体、抗HER2抗体、抗EGFR抗体及び抗CD47抗体を含む有用な抗癌剤を上記に記載する。他の適切な抗癌剤は、ドキソルビシン、エピルビシン、イダルビシン、メトトレキサート、ミトキサントロン、オキサリプラチン及びシクロホスファミドなどの化学療法剤である。
【0059】
細胞株及び培養条件
結合実験に用いた細胞株及び培養条件を以下に列記する。
【0060】
ヒトB細胞リンパ腫Raji細胞を、台湾のBCRCから購入した。Raji細胞を、2mMのL-グルタミン(Hyclone社、マサチューセッツ州マールボロ)、10mMのHEPES(Hyclone社、マサチューセッツ州マールボロ)及び1mMのピルビン酸ナトリウム(Hyclone社、マサチューセッツ州マールボロ)を含む10%のウシ胎児血清(FBS)(SAFC、Sigma-Aldrich社、ミズーリ州セントルイス)が補足添加されたRPMI-1640培地(Hyclone社、マサチューセッツ州マールボロ)において5%のCO2下で37℃に維持した。
【0061】
ヒト結腸癌DLD-1細胞を台湾のNHRI IBPR HTS Labから取得した。DLD-1細胞を、直前に記載した同じ条件下で維持した。
【0062】
SK-OV-3細胞をATCC(バージニア州マナッサス)から購入した。SK-OV-3細胞を10%のウシ胎児血清(FBS)(Sigma-Aldrich社、ミズーリ州セントルイス)及び2mMのL-グルタミンを有するマッコイ5a培地(Gibco、ThermoFisher社、マサチューセッツ州ウォルサム)において5%のCO2下で37℃に維持した。