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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023044672
(43)【公開日】2023-03-30
(54)【発明の名称】セラミック電子部品
(51)【国際特許分類】
   H01G 4/30 20060101AFI20230323BHJP
【FI】
H01G4/30 515
H01G4/30 201L
【審査請求】未請求
【請求項の数】31
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022148032
(22)【出願日】2022-09-16
(31)【優先権主張番号】10-2021-0125154
(32)【優先日】2021-09-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2022-0058045
(32)【優先日】2022-05-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2022-0084012
(32)【優先日】2022-07-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2022-0109929
(32)【優先日】2022-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 2022年2月16日にウェブサイトのアドレス (https://dcollection.skku.edu/srch/srchDetail/000000169696?navigationSize=10&query=%2B%28%28all%3Aatomicscale%2Bstemeds%2Banalysis%2Bof%2Bamphoteric%2Bdopant%2Bdy%2Bdistribution%2Bin%2Bpolycrystalline%2Bbatio3%2Bgrains%29%29&pageSize=10&insCode=211040&searchWhere1=all&sortDir=desc&searchTotalCount=0&pageNum=1&rows=10&searthTotalPage=0&treePageNum=1&sortField=score&start=0&ajax=false&searchText=%5B%EC%A0%84%EC%B2%B4%3AAtomic-scale+STEM-EDS+analysis+of+amphoteric+dopant+Dy+distribution+in+polycrystalline+BaTiO3+grains%5D&searchKeyWord1=Atomic-scale+STEM-EDS+analysis+of+amphoteric+dopant+Dy+distribution+in+polycrystalline+BaTiO3+grains)で公開した。
(71)【出願人】
【識別番号】594023722
【氏名又は名称】サムソン エレクトロ-メカニックス カンパニーリミテッド.
(71)【出願人】
【識別番号】512285306
【氏名又は名称】リサーチ アンド ビジネス ファウンデーション サンキュンクワン ユニヴァーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジュン、ドン ジュン
(72)【発明者】
【氏名】ジェオン、ヒェ ジン
(72)【発明者】
【氏名】ワン ツィペン
(72)【発明者】
【氏名】パク、ジン ワン
(72)【発明者】
【氏名】キム、ミン ホエ
(72)【発明者】
【氏名】オー、サン ホ
(72)【発明者】
【氏名】リー、ジョン ホ
【テーマコード(参考)】
5E001
5E082
【Fターム(参考)】
5E001AB03
5E001AE02
5E001AE03
5E082AB03
5E082EE01
5E082FF05
5E082FG26
5E082GG10
(57)【要約】
【課題】信頼性に優れ、n型半導体化された誘電体層を含み、高温信頼性に優れたセラミック電子部品を提供する。
【解決手段】
本発明の一実施形態に関わるセラミック電子部品は、誘電体層及び内部電極を含む本体と、上記本体に配置され、上記内部電極と連結される外部電極と、を含み、上記誘電体層は、一般式ABOで表すペロブスカイト構造を主相とし、Dyが固溶された領域を含み、上記Dyが固溶された領域においてSTEM-EDSを用いて測定した上記ペロブスカイト構造のA-siteに固溶されたDyのX-ray countをAD、上記ペロブスカイト構造のB-siteに固溶されたDyのX-ray countをBDとするとき、AD/BDの平均値は1.6以上2.0以下を満たす。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体層及び内部電極を含む本体と、
前記本体に配置され、前記内部電極と連結される外部電極と、を含み、
前記誘電体層は、一般式ABOで表すペロブスカイト構造を主相とし、Dyが固溶された領域を含み、
前記Dyが固溶された領域においてSTEM-EDSを用いて測定した前記ペロブスカイト構造のA-siteに固溶されたDyのX-ray countをAD、前記ペロブスカイト構造のB-siteに固溶されたDyのX-ray countをBDとするとき、
AD/BDの平均値は1.6以上2.0以下である、セラミック電子部品。
【請求項2】
前記ABOはBaTiOである、請求項1に記載のセラミック電子部品。
【請求項3】
前記誘電体層は、複数の結晶粒及び隣接した結晶粒間に配置された結晶粒界を含み、
前記Dyが固溶された領域は、前記結晶粒及び結晶粒界のいずれか一つ以上に配置される、請求項1に記載のセラミック電子部品。
【請求項4】
前記複数の結晶粒の少なくとも一つ以上は、結晶粒全体にDyが固溶された領域を含む構造を有する、請求項3に記載のセラミック電子部品。
【請求項5】
前記複数の結晶粒のうち前記結晶粒全体にDyが固溶された領域を含む構造を有する結晶粒の個数の割合は、50%以上である、請求項4に記載のセラミック電子部品。
【請求項6】
前記複数の結晶粒の少なくとも一つ以上は、コア-シェル構造を有し、前記コア-シェル構造のシェルに前記Dyが固溶された領域が含まれる、請求項3に記載のセラミック電子部品。
【請求項7】
前記複数の結晶粒の少なくとも一つ以上は、結晶粒全体に前記Dyが固溶された領域を含む構造を有し、前記複数の結晶粒の少なくとも一つ以上は、コア-シェル構造を有し、前記コア-シェル構造のシェルに前記Dyが固溶された領域が含まれる、請求項3に記載のセラミック電子部品。
【請求項8】
前記誘電体層の平均厚さは0.4μm以下である、請求項1に記載のセラミック電子部品。
【請求項9】
前記内部電極の平均厚さは0.4μm以下である、請求項1に記載のセラミック電子部品。
【請求項10】
前記誘電体層は、シュウ酸塩法で合成したBaTiO粉末を焼結して形成されたものである、請求項1に記載のセラミック電子部品。
【請求項11】
前記Dy含有量は、前記BaTiO100mol%に対して0.1~4.0mol%である、請求項2に記載のセラミック電子部品。
【請求項12】
前記誘電体層は、n型半導体化されたものである、請求項1に記載のセラミック電子部品。
【請求項13】
前記Dyが固溶された領域において前記ペロブスカイト構造のA-siteに固溶されたDyの原子個数をAR、前記B-siteに固溶されたDyの原子個数をBRとするとき、AR/BRは2.1以上4.2以下である、請求項1から12のいずれか一項に記載のセラミック電子部品。
【請求項14】
誘電体層及び内部電極を含む本体と、
前記本体に配置され、前記内部電極と連結される外部電極と、を含み、
前記誘電体層は、一般式ABOで表すペロブスカイト構造を主相とし、Dyが固溶された領域を含み、
前記Dyが固溶された領域においてSTEM-EDSを用いて測定した前記ペロブスカイト構造のA-siteに固溶されたDyのX-ray countをAD、前記ペロブスカイト構造のB-siteに固溶されたDyのX-ray countをBDとするとき、AD/BDの平均値は1.6以上を満たし、
前記誘電体層は、複数の結晶粒及び隣接した結晶粒間に配置された結晶粒界を含み、前記複数の結晶粒の少なくとも一つ以上は、結晶粒全体にDyが固溶された領域を含む構造を有する、セラミック電子部品。
【請求項15】
前記複数の結晶粒のうち前記結晶粒全体にDyが固溶された領域を含む構造を有する結晶粒の個数の割合は、50%以上である、請求項14に記載のセラミック電子部品。
【請求項16】
前記ABOはBaTiOである、請求項15に記載のセラミック電子部品。
【請求項17】
前記Dy含有量は、前記BaTiO100mol%に対して0.1~4.0mol%である、請求項16に記載のセラミック電子部品。
【請求項18】
前記Dyが固溶された領域において前記ペロブスカイト構造のA-siteに固溶されたDyの原子個数をAR、前記B-siteに固溶されたDyの原子個数をBRとするとき、AR/BRは2.1以上である、請求項14から17のいずれか一項に記載のセラミック電子部品。
【請求項19】
誘電体層及び内部電極を含む本体と、
前記本体に配置され、前記内部電極と連結される外部電極と、を含み、
前記誘電体層は、一般式ABOで表すペロブスカイト構造を主相とし、Dyが固溶された領域を含み、
前記Dyが固溶された領域において前記ペロブスカイト構造のA-siteに固溶されたDyの原子個数をAR、前記ペロブスカイト構造のB-siteに固溶されたDyの原子個数をBRとするとき、AR/BRは2.1以上である、セラミック電子部品。
【請求項20】
前記AR/BRは2.1以上4.2以下である、請求項19に記載のセラミック電子部品。
【請求項21】
前記ABOはBaTiOである、請求項19に記載のセラミック電子部品。
【請求項22】
前記誘電体層は複数の結晶粒及び隣接した結晶粒間に配置された結晶粒界を含み、
前記Dyが固溶された領域は、前記結晶粒及び結晶粒界のいずれか一つ以上に配置される、請求項19に記載のセラミック電子部品。
【請求項23】
前記複数の結晶粒の少なくとも一つ以上は、結晶粒全体にDyが固溶された領域を含む構造を有する、請求項22に記載のセラミック電子部品。
【請求項24】
前記複数の結晶粒のうち前記結晶粒全体にDyが固溶された領域を含む構造を有する結晶粒の個数の割合は、50%以上である、請求項23に記載のセラミック電子部品。
【請求項25】
前記複数の結晶粒の少なくとも一つ以上は、コア-シェル構造を有し、前記コア-シェル構造のシェルに前記Dyが固溶された領域が含まれる、請求項22に記載のセラミック電子部品。
【請求項26】
前記複数の結晶粒の少なくとも一つ以上は、結晶粒全体に前記Dyが固溶された領域を含む構造を有し、前記複数の結晶粒の少なくとも一つ以上は、コア-シェル構造を有し、前記コア-シェル構造のシェルに前記Dyが固溶された領域が含まれる、請求項22に記載のセラミック電子部品。
【請求項27】
前記誘電体層の平均厚さは0.4μm以下である、請求項19に記載のセラミック電子部品。
【請求項28】
前記内部電極の平均厚さは0.4μm以下である、請求項19に記載のセラミック電子部品。
【請求項29】
前記誘電体層は、シュウ酸塩法で合成したBaTiO粉末を焼結して形成されたものである、請求項19に記載のセラミック電子部品。
【請求項30】
前記Dy含有量は、前記BaTiO100mol%に対して0.1~4.0mol%である、請求項21に記載のセラミック電子部品。
【請求項31】
前記誘電体層は、n型半導体化されたものである、請求項19から30のいずれか一項に記載のセラミック電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック電子部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
セラミック電子部品の一つである積層セラミックコンデンサ(MLCC:Multi-Layered Ceramic Capacitor)は、液晶表示装置(LCD:Liquid Crystal Display)及びプラズマ表示装置パネル(PDP:Plasma Display Panel)などの映像機器、コンピュータ、スマートフォン及び携帯電話などの様々な電子製品のプリント回路基板に装着されて電気を充電または放電させる役割を果たすチップ形態のコンデンサである。
【0003】
積層セラミックコンデンサは、小型でありながらも高容量が保障され、実装が容易であるという利点により、様々な電子装置の部品として使用される。最近、コンピュータ、モバイル機器などの各種電子機器が小型化、高出力化し、積層セラミックコンデンサの小型化及び高容量化に対する要求も増加しつつある。
【0004】
積層セラミックコンデンサの小型化及び高容量化を達成するためには、誘電体層及び内部電極の厚さを薄くして積層数を増加する必要がある。現在、誘電体層の厚さが約0.6μmレベルまで到達した状態であり、薄層化が進んでいる。しかし、誘電体層の厚さが薄くなるほど、同一の作動電圧で誘電体に印加される電界が大きくなるため、誘電体の信頼性の確保が必須である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明のいくつかの目的の一つは、信頼性に優れたセラミック電子部品を提供することである。
【0006】
本発明のいくつかの目的の一つは、n型半導体化された誘電体層を含むセラミック電子部品を提供することである。
【0007】
本発明のいくつかの目的の一つは、高温信頼性に優れたセラミック電子部品を提供することである。
【0008】
但し、本発明の目的は、上述した内容に限定されず、本発明の具体的な実施形態を説明する過程で、より容易に理解することができる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一実施形態に関わるセラミック電子部品は、誘電体層及び内部電極を含む本体と、上記本体に配置され、上記内部電極と連結される外部電極と、を含み、上記誘電体層は、一般式ABOで表すペロブスカイト構造を主相とし、Dyが固溶された領域を含み、上記Dyが固溶された領域においてSTEM-EDSを用いて測定した上記ペロブスカイト構造のA-siteに固溶されたDyのX-ray countをAD、上記ペロブスカイト構造のB-siteに固溶されたDyのX-ray countをBDとするとき、AD/BDの平均値は1.6以上2.0以下である。
【0010】
本発明の一実施形態に関わるセラミック電子部品は、誘電体層及び内部電極を含む本体と、上記本体に配置され、上記内部電極と連結される外部電極と、を含み、上記誘電体層は、一般式ABOで表すペロブスカイト構造を主相とし、Dyが固溶された領域を含み、上記Dyが固溶された領域においてSTEM-EDSを用いて測定した上記ペロブスカイト構造のA-siteに固溶されたDyのX-ray countをAD、上記ペロブスカイト構造のB-siteに固溶されたDyのX-ray countをBDとするとき、AD/BDの平均値は1.6以上を満たし、上記誘電体層は、複数の結晶粒及び隣接した結晶粒間に配置された結晶粒界を含み、上記複数の結晶粒の少なくとも一つ以上は、結晶粒全体にDyが固溶された領域を含む構造を有する。
【0011】
本発明の一実施形態に関わるセラミック電子部品は、誘電体層及び内部電極を含む本体と、上記本体に配置され、上記内部電極と連結される外部電極と、を含み、上記誘電体層は、一般式ABOで表すペロブスカイト構造を主相とし、Dyが固溶された領域を含み、上記Dyが固溶された領域において上記ペロブスカイト構造のA-siteに固溶されたDyの原子個数をAR、上記ペロブスカイト構造のB-siteに固溶されたDyの原子個数をBRとするとき、AR/BRは2.1以上4.2以下である。
【発明の効果】
【0012】
本発明のいくつかの効果の一効果として、ABOで表すペロブスカイト構造でB-siteに固溶されたDy含有量に対してA-siteに固溶されたDy含有量を制御することにより、信頼性を向上させることができる。
【0013】
但し、本発明の多様でありながらも有意義な利点及び効果は、上述した内容に限定されず、本発明の具体的な実施形態を説明する過程で、より容易に理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に関わるセラミック電子部品の斜視図を概略的に示したものである。
図2図1のI-I'線に沿った断面図を概略的に示したものである。
図3図1のII-II'線に沿った断面図を概略的に示したものである。
図4】本発明の一実施形態に関わるセラミック電子部品の本体を分解して概略的に示した分解斜視図である。
図5図2のP領域を拡大した図面である。
図6a】(a)比較例1の高温加速寿命試験の結果である。
図6b】(b)比較例2の高温加速寿命試験の結果である。
図6c】(c)発明例の高温加速寿命試験の結果である。
図7図6の高温加速寿命試験の結果をWeibull分布で表したグラフである。
図8】比較例1、比較例2及び発明例のB-siteに固溶されたDyのX-ray countに対してA-siteに固溶されたDyのX-ray count(AD/BD)を測定した結果である。
図9】比較例1、比較例2及び発明例の初期絶縁抵抗を測定した結果である。
図10】比較例1、比較例2及び発明例の高温電気導電度を測定した結果である。
図11】シミュレーションを行ったスーパーセル(supercell)でのAR/BRによるAD/BD値を示したグラフである。
図12a】(a)は、DyがA-siteにのみ置換された場合に対して原子カラム内のランダム分布を有するように設計された第1スーパーセルである。
図12b】(b)は、DyがB-siteにのみ置換された場合に対して原子カラム内のランダム分布を有するように設計された第2スーパーセルである。
図13a】(a)は、第1スーパーセルのDy配列のprojectionである。
図13b】(b)は、第2スーパーセルのDy配列のprojectionである。
図14】各置換カラムでの試験片の深さ別の入射電子密度を示したグラフである。
図15a】(a)は、第1スーパーセルに対するシミュレーション結果で生成された原子カラムイメージである。
図15b】(b)は、第2スーパーセルに対するシミュレーション結果で生成された原子カラムイメージである。
図16a】(a)は、図15aに対するDy L X-ray countである。
図16b】(b)は、図15bに対するDy L X-ray countである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、具体的な実施形態及び添付の図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。しかし、本発明の実施形態は、いくつかの他の形態に変形することができ、本発明の範囲が以下説明する実施形態に限定されるものではない。また、本発明の実施形態は、通常の技術者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。したがって、図面における要素の形状及び大きさなどはより明確な説明のために拡大縮小表示(又は強調表示や簡略化表示)がされることがあり、図面上に同一符号で示される要素は同一要素である。
【0016】
尚、図面において本発明を明確に説明するために説明と関係ない部分は省略し、図示した各構成の大きさ及び厚さは、説明の便宜のために任意で示したものであるため、本発明は必ずしも図示により限定されない。また、同一の思想の範囲内の機能が同一である構成要素は、同一の参照符号を用いて説明することができる。さらに、明細書全体において、ある部分がある構成要素を「含む」というのは、特に反対される記載がない限り、他の構成要素を除外するのではなく、他の構成要素をさらに含むことができることを意味する。
【0017】
図面において、第1方向は積層方向又は厚さ(T)方向、第2方向は長さ(L)方向、第3方向は幅(W)方向と定義することができる。
【0018】
セラミック電子部品
図1は、本発明の一実施形態に関わるセラミック電子部品の斜視図を概略的に示したものであり、図2は、図1のI-I'線に沿った断面図を概略的に示したものであり、図3は、図1のII-II'線に沿った断面図を概略的に示したものであり、図4は、本発明の一実施形態に関わるセラミック電子部品の本体を分解して概略的に示した分解斜視図であり、図5は、図2のP領域を拡大した図面である。
【0019】
以下、図1図5を参照して、本発明の一実施形態に関わるセラミック電子部品100について詳細に説明する。また、セラミック電子部品の一例として、積層セラミックコンデンサ(Multi-layered Ceramic Capacitor、以下「MLCC」という)について説明するが、本発明がこれに限定されるものではなく、セラミック材料を用いる様々なセラミック電子部品、例えば、インダクタ、圧電体素子、バリスタ、またはサーミスタなどにも適用することができる。
【0020】
本発明の一実施形態に関わるセラミック電子部品100は、誘電体層111及び内部電極121、122を含む本体110と、上記本体に配置され、上記内部電極と連結される外部電極131、132と、を含み、上記誘電体層111は、一般式ABOで表すペロブスカイト構造を主相とし、Dyが固溶された領域を含み、上記Dyが固溶された領域においてSTEM-EDSを用いて測定した上記ペロブスカイト構造のA-siteに固溶されたDyのX-ray countをAD、上記ペロブスカイト構造のB-siteに固溶されたDyのX-ray countをBDとするとき、AD/BDの平均値は1.6以上である。
【0021】
本体110は、誘電体層111及び内部電極121、122が交互に積層されている。
【0022】
本体110の具体的な形状に特に制限はないが、図示のように本体110は、六面体状やこれと類似した形状からなることができる。焼成過程で本体110に含まれたセラミック粉末の収縮により、本体110は、完全な直線を有する六面体状ではないが、実質的に六面体状を有する。
【0023】
本体110は、第1方向に互いに対向する第1面1及び第2面2、上記第1面1及び第2面2と連結され、第2方向に互いに対向する第3面3及び第4面4、第1面1及び第2面2と連結され、第3面3及び第4面4と連結され、且つ第3方向に互いに対向する第5面5及び第6面6を有する。
【0024】
本体110を形成する複数の誘電体層111は、焼成された状態であって、隣接する誘電体層111間の境界は、走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)を利用せずには確認しにくいほど一体化している。
【0025】
本発明の一実施形態によると、誘電体層111は、一般式ABOで表すペロブスカイト構造を主相とし、Dyが固溶された領域を含み、上記Dyが固溶された領域においてSTEM-EDSを用いて測定した上記ペロブスカイト構造のA-siteに固溶されたDyのX-ray countをAD、上記ペロブスカイト構造のB-siteに固溶されたDyのX-ray countをBDとするとき、AD/BDの平均値は1.6以上である。
【0026】
セラミック電子部品の一つである積層型コンデンサ(MLCC:multi-layer ceramic capacitor)は、高容量化及び薄層化される傾向にある。誘電体層の厚さが薄くなるほど、同一の作動電圧で誘電体に印加される電界が大きくなるため、誘電体の信頼性の確保が必須である。
【0027】
誘電体層を薄層化しながらも、信頼性を向上させるための方案として、誘電体結晶粒の大きさを小さくして誘電体層に含まれた粒界(Grain boundary)の数を増やす方案、誘電体組成を変更して誘電体層と内部電極界面の絶縁抵抗を高める方案などが考慮された。しかし、誘電体層の厚さが増々薄くなるにつれて粒界(Grain boundary)、及び誘電体層と内部電極の界面に加わる電界の負荷が高くなり、信頼性の確保が増々難しくなっているのが実情である。
【0028】
そこで、本発明の一実施形態では、誘電体層に含まれたドナー(donor)元素を増加させることで誘電体層をn型半導体化させて電界負荷を下げ、信頼性を向上させる。誘電体層をn型半導体化させる場合、初期の絶縁抵抗(Insulation Resistance、IR)は低下する傾向を示す。しかし、誘電体層へのリーク電流を適切な範囲で高めることで粒界(Grain boundary)、及び誘電体層と内部電極の界面に加わる電界の負荷が低くなり、信頼性を向上させることができる。
【0029】
3価以上の希土類がA-siteに固溶してドナー(donor)になる場合、誘電体層は、n型半導体化され、BaTiOのBaサイトに固溶される場合、下記式(1)及び式(2)のような反応が起きるようになる。下記式(1)及び式(2)を参照すると、式(1)で発生したBa欠陥は、酸素欠陥の移動を抑制し、式(2)で発生する電子は、絶縁抵抗(Insulation Resistance、IR)の低下を引き起こすが、適切な範囲で絶縁抵抗(Insulation Resistance、IR)を低下させることで、粒界や界面にかかる負荷を軽減し、結果的には、信頼性を向上させることができる。
【数1】
…式(1)
【数2】
…式(2)
【0030】
一方、希土類がB-siteに固溶してアクセプタ(acceptor)になる場合には、誘電体層は、p型半導体化され、BaTiOのTiサイトに固溶される場合、下記式(3)及び式(4)のような反応が起こるようになって、正孔(hole)の数が増加するようになる。
【数3】
…式(3)
【数4】
…式(4)
【0031】
すなわち、誘電体層をn型半導体化させて信頼性を確保するためには、A-siteに固溶された希土類濃度とB-siteに固溶された希土類濃度を適切に制御することが重要である。STEM-EDSを用いて測定した上記ペロブスカイト構造のA-siteに固溶されたDyのX-ray countをAD、上記ペロブスカイト構造のB-siteに固溶されたDyのX-ray countをBDとするとき、AD/BDの平均値は1.6以上に制御することにより、誘電体層をn型半導体化させることができ、信頼性が向上する効果を確保することができる。
【0032】
また、Dyではなく、他の希土類元素の場合には、AD/BDを1.6以上に制御することは困難である。Dyよりもイオン半径が小さい希土類元素の場合、A-siteに固溶し難い場合があるため、n型半導体化が難しいことがある。Dyよりもイオン半径が小さい希土類元素としては、例えば、Ho、Y、Er、Ybなどがある。一方、Dyよりもイオン半径が大きい希土類元素の場合、A-siteをさらに効果的に置換することは可能であるが、均一に分散させ難くなって信頼性が悪化するおそれがある。Dyよりもイオン半径が大きい希土類元素としては、La、Smなどがある。
【0033】
したがって、本発明の一実施形態によると、STEM-EDSを用いて測定した上記ペロブスカイト構造のA-siteに固溶されたDyのX-ray countをAD、上記ペロブスカイト構造のB-siteに固溶されたDyのX-ray countをBDとするとき、AD/BDの平均値は1.6以上に制御することにより、誘電体層をn型半導体化させて誘電体層へのリーク電流を適切に高めることで、粒界(Grain boundary)、及び誘電体層と内部電極の界面に加わる電界の負荷を下げて、信頼性を向上させることができる。
【0034】
AD/BDの平均値を測定するためには、原子レベルのSTEM-EDS(Scanning Transmission Electron Microscopy-Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)分析技術が必要であり、Cs correctorを搭載したSTEM-EDSを用いて測定することができる。
【0035】
具体的な例として、STEM-EDSを用いてAD/BDを測定する方法は下記のとおりである。
【0036】
AD/BD測定のために、FIB(focused ion beam)Microsampling法を用いてサンプルチップの幅方向の中央部において長さ及び厚さ方向に切断した断面の中心部で50nm程度まで薄層化したTEM試験片を用意する。次に、低加速アルゴンイオン処理により表面ダメージ層を除去し、最終的に20~30nm程度の厚さのTEM試験片を製作する。上記TEM試験片はCs correctorを搭載したSTEM-EDS装備(Cs-STEM)であるJEOL ARM300を用いて分析する。まず、4万倍率でEDSマッピングを取得し、Dyが固溶された領域を確認した後、Dyが固溶された領域のうち3ヶ所で4000万倍率でEDSマッピングを取得し、EDSマッピングに含まれるすべてのペロブスカイト構造で各AD/BD値を分析する。上記EDSマッピングでA-siteに固溶されたDyのX-ray countをAD、上記ペロブスカイト構造のB-siteに固溶されたDyのX-ray countをBDとすることができ、X-ray countはX-ray intensityを意味する。各原子カラムHAADF intensityの半値幅(FWHM:Full Width Half Maximum)は一辺の長さとした四角形領域で得たX-ray countを用いた。4000万倍率で取得したEDSマッピング当たり約100個程度のペロブスカイト構造が観察でき、合計3ヶ所で測定したため、約300個のデータ値を得ることができ、その値の平均をAD/BDの平均値とすることができる。
【0037】
一実施形態において、AD/BDの平均値は1.6以上2.0以下を満たす。AD/BDの平均値が2.0超過である場合には、絶縁抵抗が急激に下落するおそれがある。また、Dyよりもイオン半径が大きい希土類元素を用いる場合には、A-siteをさらに効果的に置換することができるが、AD/BDを2.0以下に制御することは困難である。
【0038】
一実施形態において、上記Dyが固溶された領域において上記ペロブスカイト構造のA-siteに固溶されたDyの原子個数をAR、上記B-siteに固溶されたDyの原子個数をBRとするとき、AR/BRは2.1以上である。より好ましくは、AR/BRは2.1以上4.2以下である。
【0039】
BaTiOのA-site元素(Ba、元素番号56)とB-site元素(Ti、元素番号22)の元素番号が大きく異なるため、電子チャネリング現象により入射電子の散乱及び位置別の密度が異なる。したがって、A-site及びB-siteに同量のDy原子が置換されても、Dy原子の置換サイトと配列によって異なる量のX-rayが発生するようになる。したがって、STEM-EDSを用いて測定したAD/BDの平均値を実際の各サイトを占めるDy元素の絶対量に対する割合と認め難い。つまり、STEM-EDSを用いて測定したAD/BDの平均値と実際の各サイトを占めるDy元素の絶対量に対する割合であるAR/BRが互いに一致しないことがある。
【0040】
これにより、本発明の一実施形態によると、電子チャネリング現象を考慮してシミュレーションを行い、実際のB-siteに固溶されたDyの原子個数に対してA-siteに固溶されたDyの原子個数であるAR/BRを予測し、AD/BDの平均値が1.6以上2.0以下の場合、AR/BRは2.1以上4.2以下の値を有すると判断することができる。
【0041】
電子チャネリング現象を考慮したシミュレーション方法は、特に限定する必要はないが、具体的な例として、QEP(Quantum Excitation Phonon)modelに基づいて、試験片内の入射電子の密度及びX-ray発生量を計算する方法を用いてAR/BRを予測することができる。
【0042】
まず、DyがA-siteにのみ置換された場合である第1スーパーセルとDyがB-siteにのみ置換された第2スーパーセルに対してDy L X-ray count量をシミュレーションすることができる。図12aは、DyがA-siteにのみ置換された場合に対して原子カラム内のランダム分布を有するように設計された第1スーパーセルであり、図12bは、DyがB-siteにのみ置換された場合に対して原子カラム内のランダム分布を有するように設計された第2スーパーセルである。図13aは、第1スーパーセルのDy配列projectionであり、図13bは、第2スーパーセルのDy配列projectionである。ここで、スーパーセル(super cell)とは、単位セル(unit cell)を繰り返して作った特定サイズの結晶(crystal)構造を意味する。本発明では、電子チャネリング現象により隣接した原子カラムに電子密度が広がる領域を十分に含ませるために、電子入射に垂直な方向であるa及びbの方向にそれぞれ8個の単位セルが配置されるようにし、A-site及びB-siteにDyが置換できる領域を十分に確保するために電子入射に平行な方向であるc方向に28個の単位セルが配置されるようにスーパーセルを構成した。
【0043】
図12a、図12b、図13a及び図13bのように、DyがA-siteにのみまたはB-siteにのみ置換されるが、Dy元素が同一位置分布を有するように生成された第1スーパーセル及び第2スーパーセルに対してシミュレーションを行うと、第1スーパーセルに比べて第2スーパーセルでより多いDy L X-rayが生成される。図15aは、第1スーパーセルに対するシミュレーション結果で生成された原子カラムイメージであり、図15bは、第2スーパーセルに対するシミュレーション結果で生成された原子カラムイメージである。図16aは、図15aのDy L X-ray countであり、図16bは、図15bのDy L X-ray countである。図15a、図15b、図16a及び図16bを参照すると、第2スーパーセルでより多いDy L X-rayが生成されることを確認することができる。
【0044】
一方、Dy原子番号がBa及びTiより大きいため、Dyのドーピングにより試験片の深さによる電子密度の差が生じる可能性があるが、Dy元素はBaTiOに微量ドーピングされるため、Dy元素の置換配列による入射電子密度の変化は無視できるほど小さい。図14を参照すると、同量のDyに対してX-rayの発生量の散布が発生する主な要因は、Dy元素が置換した原子カラムの種類(A-site、B-site)と入射表面からの深さで限定することができる。このような条件で、スーパーセル(supercell)でDy元素のサイト置換比を変えながら、ランダムなDy元素置換配列を生成してX-rayの発生量をシミュレーションした。図11を参照すると、スーパーセル(supercell)におけるAR/BRが1の場合、AD/BDは0.28~0.75の値を有することができ、AR/BRが3の場合、AD/BDは1.67~1.97の値を有することができる。AR/BRの値が増加するほど、Dy置換配列の場合の数が減少するため、AD/BDの散布が減少すると予想することができる。また、図11の太い実線を参照すると、STEM-EDSを用いて測定したAD/BDが1.6以上2.0以下の場合、AR/BRは2.1以上4.2以下の値を有することを確認することができる。
【0045】
一実施形態において、ABOで表すペロブスカイト構造のABOはBaTiOであることができる。これは、ABOはBaTiOである場合、AD/BDの平均値を1.6以上に制御することがより容易であるためである。
【0046】
一方、Dy含有量を特に限定する必要はないが、DyはBaTiO100mol%に対して0.1~4.0mol%であることができる。Dy含有量がBaTiO100mol%に対して0.1mol%未満である場合には、A-siteに固溶されるDy含有量が少なくて誘電体層のn型半導体化が十分でないことがあり、BaTiO100mol%に対して4.0mol%超過である場合には、絶縁抵抗が急激に低くなるおそれがある。
【0047】
一実施形態において、誘電体層111は、n型半導体化されたものであることができる。
【0048】
本発明において、誘電体層111がn型半導体化されるということは、自由電子が増加した状態になったことを意味することができる。誘電体層111がn型半導体化されたか否かは、高温電気導電度を測定して判別することができ、高温電気導電度のグラフにおいて、正の傾きを有しない場合、n型半導体化されたものと判断することができる。
【0049】
一実施形態において、誘電体層111は、複数の結晶粒11a、11b及び隣接した結晶粒間に配置された結晶粒界12を含み、上記Dyが固溶された領域は、上記結晶粒11a、11b及び結晶粒界12のいずれか一つ以上に配置されることができる。
【0050】
一実施形態において、上記複数の結晶粒の少なくとも一つ以上は、結晶粒全体に上記Dyが固溶された領域を含む構造を有する結晶粒11aであることができる。誘電体層111が徐々に薄くなるにつれて誘電体の結晶粒も徐々に小さくなり、Dyが固溶された領域が結晶粒全体に分布される場合、より効果的に誘電体層へのリーク電流を制御することができる。
【0051】
このとき、複数の結晶粒のうち結晶粒全体にDyが固溶された領域を含む構造を有する結晶粒11aの個数の割合は、特に限定する必要はない。但し、より効果的にリーク電流を制御するためには、Dyが固溶された領域を含む構造を有する結晶粒の個数の割合が50%以上であることが好ましい。
【0052】
また、上記複数の結晶粒の少なくとも一つ以上は、コア11b1-シェル11b2の構造を有する結晶粒11bであることができ、上記コア-シェル構造のシェル11b2に上記Dyが固溶された領域が含まれることができる。
【0053】
また、複数の結晶粒の一部はコア-シェル構造を有し、一部は結晶粒全体に上記Dyが固溶された領域を含む構造を有することもできる。
【0054】
但し、すべての結晶粒がDyが固溶された領域を含むものではなく、一部の結晶粒は、Dyが固溶された領域を含まなくてもよい。
【0055】
一方、AD/BDの平均値を測定するためには、原子レベルのSTEM-EDS(Scanning Transmission Electron Microscopy-Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)分析技術が必要であり、Cs correctorを搭載したSTEM-EDSを用いて測定することができる。
【0056】
例えば、まず本体110の長さ及び厚さ方向の中央部に配置された誘電体層で4万倍率でEDSマッピングを取得し、Dyが固溶された領域を確認することができる。この後、Dyが固溶された領域のうち、3ヶ所で4000万倍率でEDSマッピングを取得し、EDSマッピングに含まれたすべてのペロブスカイト構造で、それぞれのAD/BD値を分析し、これらを平均した値をAD/BDの平均値とする。
【0057】
AD/BDの平均値を1.6以上に制御する方法は、特に限定する必要はない。例えば、BaTiO粉末の製造方法の種類、焼結温度、焼結雰囲気などを制御して、AD/BDの平均値を制御することができる。
【0058】
但し、一実施形態において誘電体層111は、シュウ酸塩法(共晶法)で合成したBaTiO粉末を焼結して形成されたものであることができる。BaTiO粉末を製造する方法としては、固相法、シュウ酸塩法、水熱合成法などがあるが、これらのうち、シュウ酸塩法によって製造されたBaTiO粉末を用いる場合、固相法及び水熱合成法よりも容易にAD/BDの平均値を1.6以上に制御することができる。シュウ酸塩法とは、様々な互いに異なるイオンを水溶液、若しくは非水溶液に同時に沈殿させる方法を意味する。より具体的には、Ba-alkoxide及びTi-alkoxideをアルコール溶液中で人為的に混合した後、急速に加水分解して析出させる方法である。
【0059】
一方、誘電体層111の厚さtdは、特に限定する必要はない。
【0060】
但し、一般的に誘電体層を0.6μm未満の厚さで薄く形成する場合、特に誘電体層の厚さが0.4μm以下である場合には、信頼性が低下するおそれがあった。
【0061】
上述したように、本発明の一実施形態によると、AD/BDの平均値を1.6以上にして誘電体層をn型半導体化させることができ、これにより、電界負荷を下げて信頼性を向上させることができるため、誘電体層111の厚さが0.4μm以下である場合にも、優れた信頼性を確保することができる。
【0062】
したがって、誘電体層111の厚さが0.4μm以下である場合に、本発明に関わる信頼性向上の効果がより顕著になることがある。
【0063】
上記誘電体層111の厚さtdは、上記第1内部電極121及び第2内部電極122間に配置される誘電体層111の平均厚さを意味する。
【0064】
誘電体層111の平均厚さは、本体110の長さ及び厚さ方向(L-T)の断面を1万倍率の走査電子顕微鏡(SEM、Scanning Electron Microscope)を用いてイメージをスキャンして測定することができる。より具体的には、スキャンされたイメージにおいて1つの誘電体層を長さ方向に等間隔である30個の地点で、その厚さを測定して平均値を測定することができる。上記等間隔である30個の地点は、容量形成部Acで指定されることができる。さらに、このような平均値の測定を10個の誘電体層に拡張して平均値を測定すると、誘電体層の平均厚さをさらに一般化することができる。
【0065】
本体110は、本体110の内部に配置され、誘電体層111を間に挟んで互いに対向するように配置される第1内部電極121及び第2内部電極122を含み、容量が形成される容量形成部Acと、上記容量形成部Acの第1方向の上部及び下部に形成されたカバー部112、113を含む。
【0066】
また、上記容量形成部Acは、コンデンサの容量形成に寄与する部分であって、誘電体層111を間に挟んで複数の第1内部電極121及び第2内部電極122を繰り返し積層して形成される。
【0067】
カバー部112、113は、上記容量形成部Acの第1方向の上部に配置される上部カバー部112及び上記容量形成部Acの第1方向の下部に配置される下部カバー部113を含む。
【0068】
上記上部カバー部112及び下部カバー部113は、単一誘電体層または2つ以上の誘電体層を容量形成部Acの上下面にそれぞれ厚さ方向に積層して形成することができ、基本的には物理的または化学的ストレスによる内部電極の損傷を防止する役割を果たす。
【0069】
上記上部カバー部112及び下部カバー部113は、内部電極を含まず、誘電体層111と同様の材料を含んでもよい。
【0070】
すなわち、上記上部カバー部112及び下部カバー部113は、セラミック材料を含むことができ、例えば、チタン酸バリウム(BaTiO)系セラミック材料を含んでもよい。
【0071】
一方、カバー部112、113の厚さは、特に限定する必要はない。但し、セラミック電子部品の小型化及び高容量化をより容易に達成するために、カバー部112、113の厚さtpは、20μm以下であることが望ましい。
【0072】
また、上記容量形成部Acの側面には、マージン部114、115が配置される。
【0073】
マージン部114、115は、本体110の第5面5に配置されたマージン部114及び第6面6に配置されたマージン部115を含む。すなわち、マージン部114、115は、上記セラミック本体110の幅方向の両側面に配置される。
【0074】
マージン部114、115は、図3に示したように、上記本体110を幅-厚さ(W-T)方向に切断した断面において、第1内部電極121及び第2内部電極122の両端と本体110の境界面との間の領域を意味する。
【0075】
マージン部114、115は、基本的に物理的または化学的ストレスによる内部電極の損傷を防止する役割を果たす。
【0076】
マージン部114、115は、セラミックグリーンシート上にマージン部が形成される部分を除いて導電性ペーストを塗布し、内部電極を形成することによって形成されたものである。
【0077】
また、内部電極121、122による段差を抑制するために、積層後の内部電極が本体の第5面及び第6面6に露出するように切断した後、単一誘電体層または2つ以上の誘電体層を容量形成部Acの両側面に幅方向に積層してマージン部114、115を形成してもよい。
【0078】
内部電極121、122は、誘電体層111と交互に積層される。
【0079】
内部電極121、122は、第1内部電極121及び第2内部電極122を含むことができる。第1内部電極121及び第2内部電極122は、本体110を構成する誘電体層111を間に挟んで互いに対向するように交互に配置され、本体110の第3面3及び第4面4にそれぞれ露出する。
【0080】
図2を参照すると、第1内部電極121は第4面4と離隔し、第3面3を介して露出し、第2内部電極122は第3面3と離隔し、第4面4を介して露出する。
【0081】
この時、第1内部電極121及び第2内部電極122は、中間に配置された誘電体層111によって互いに電気的に分離されることがある。
【0082】
図4を参照すると、本体110は、第1内部電極121が印刷されたセラミックグリーンシートと第2内部電極122が印刷されたセラミックグリーンシートを交互に積層した後、焼成して形成する。
【0083】
内部電極121、122はNiを含んでもよい。但し、内部電極121、122を形成する材料は、特に制限されず、電気導電性に優れた材料を用いることができる。例えば、内部電極121、122は、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、金(Au)、白金(Pt)、スズ(Sn)、タングステン(W)、チタン(Ti)及びこれらの合金のうち一つ以上を含んでもよい。
【0084】
また、内部電極121、122は、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、金(Au)、白金(Pt)、スズ(Sn)、タングステン(W)、チタン(Ti)及びこれらの合金のうち一つ以上を含む内部電極用導電性ペーストをセラミックグリーンシートに印刷して形成することができる。上記内部電極用導電性ペーストの印刷方法は、スクリーン印刷法またはグラビア印刷法などを用いることができ、本発明がこれに限定されるものではない。
【0085】
一方、内部電極121、122の厚さteは、特に限定する必要はない。
【0086】
但し、一般的に内部電極を0.6μm未満の厚さで薄く形成する場合、特に、内部電極の厚さが0.4μm以下である場合には、信頼性が低下するおそれがあった。
【0087】
上述したように、本発明の一実施形態によると、AD/BDの平均値を1.6以上にして誘電体層をn型半導体化させることができ、これにより、電界負荷を下げて信頼性を向上させることができるため、内部電極121、122の厚さが0.4μm以下である場合にも、優れた信頼性を確保することができる。
【0088】
したがって、内部電極121、122の厚さが0.4μm以下である場合に、本発明に関わる効果がより顕著になることができ、セラミック電子部品の小型化及び高容量化をより容易に達成することができる。
【0089】
上記内部電極121、122の厚さteは、内部電極121、122の平均厚さを意味する。
【0090】
内部電極121、122の平均厚さは、本体110の長さ及び厚さ方向(L-T)の断面を1万倍率の走査電子顕微鏡(SEM、Scanning Electron Microscope)を用いてイメージをスキャンして測定することができる。より具体的には、スキャンされたイメージにおいて1つの内部電極を長さ方向に等間隔である30個の地点で、その厚さを測定して平均値を測定することができる。上記等間隔である30個の地点は、容量形成部Acで指定されることができる。また、このような平均値の測定を10個の内部電極に拡張して平均値を測定すると、内部電極の平均厚さをさらに一般化することができる。
【0091】
外部電極131、132は、本体110の第3面3及び第4面4に配置される。
【0092】
外部電極131、132は、本体110の第3面及び第4面4にそれぞれ配置され、第1内部電極121及び第2内部電極122とそれぞれ連結された第1外部電極131及び第2外部電極132を含んでもよい。
【0093】
図1を参照すると、外部電極131、132は、サイドマージン部114、115の第2方向の両端面を覆うように配置される。
【0094】
本実施形態では、セラミック電子部品100が2つの外部電極131、132を有する構造を説明しているが、外部電極131、132の個数や形状などは、内部電極121、122の形態や他の目的に応じて変わってもよい。
【0095】
一方、外部電極131、132は、金属などのように電気導電性を有するものであれば、どのような物質を用いてもよく、電気的特性、構造的安定性などを考慮して、具体的な物質が決定され、さらには多層構造を有してもよい。
【0096】
例えば、外部電極131、132は、本体110に配置される電極層131a、132a及び電極層131a、132a上に形成されためっき層131b、132bを含んでもよい。
【0097】
電極層131a、132aに対するより具体的な例を挙げると、電極層131a、132aは、導電性金属及びガラスを含む焼成(firing)電極であるか、導電性金属及び樹脂を含む樹脂系電極であることがであってもよい。
【0098】
また、電極層131a、132aは、本体上に焼成電極及び樹脂系電極が順に形成された形態であることが望ましい。また、電極層131a、132aは、本体上に導電性金属を含むシートを転写する方法で形成されるか、焼成電極上に導電性金属を含むシートを転写する方法で形成されたものであることが望ましい。
【0099】
電極層131a、132aに含まれる導電性金属として電気導電性に優れた材料を用いることができ、特に限定しない。例えば、導電性金属は、ニッケル(Ni)、銅(Cu)及びそれらの合金のうち一つ以上であることが望ましい。
【0100】
めっき層131b、132bは、実装特性を向上させる役割を果たす。めっき層131b、132bの種類は特に限定せず、Ni、Sn、Pd、及びこれらの合金のうち一つ以上を含むめっき層であることが望ましく、複数層で形成されることが望ましい。
【0101】
めっき層131b、132bに対するより具体的な例として、めっき層131b、132bは、Niめっき層またはSnめっき層であることができ、電極層131a、132a上にNiめっき層及びSnめっき層が順に形成された形であり、Snめっき層、Niめっき層及びSnめっき層が順に形成された形であることが望ましい。また、めっき層131b、132bは、複数のNiめっき層及び/または複数のSnめっき層を含んでいてもよい。
【0102】
セラミック電子部品100のサイズは、特に限定する必要はない。
【0103】
但し、小型化及び高容量化を同時に達成するためには、誘電体層及び内部電極の厚さを薄くして積層数を増加させる必要があるため、1005(長さ×幅、1.0mm×0.5mm)以下のサイズを有するセラミック電子部品100において、本発明に関わる信頼性及び絶縁抵抗向上の効果がより顕著になる。
【0104】
したがって、製造誤差、外部電極の大きさなどを考慮すると、セラミック電子部品100の長さが1.1mm以下であり、幅が0.55mm以下である場合、本発明に関わる信頼性向上の効果がより顕著になる。ここで、セラミック電子部品100の長さは、セラミック電子部品100の第2方向の大きさを意味し、セラミック電子部品100の幅は、セラミック電子部品100の第3方向の大きさを意味する。
【0105】
本発明の一実施形態に関わるセラミック電子部品は、誘電体層及び内部電極を含む本体と、上記本体に配置され、上記内部電極と連結される外部電極と、を含み、上記誘電体層は、一般式ABOで表すペロブスカイト構造を主相とし、Dyが固溶された領域を含み、上記Dyが固溶された領域において上記ペロブスカイト構造のA-siteに固溶されたDyの原子個数をAR、上記ペロブスカイト構造のB-siteに固溶されたDyの原子個数をBRとするとき、AR/BRは2.1以上4.2以下である。
【0106】
(実験例)
チタン酸バリウム(BaTiO)粉末を主成分として含み、BaTiO100mol%に対してDy1.4mol%を含み、その他の副成分を含む誘電体組成物を用意した後、上記誘電体組成物を含むセラミックグリーンシート上にNiを含む内部電極用導電性ペーストを塗布して内部電極パターンを形成した。その後、上記内部電極パターンが形成されたセラミックグリーンシートを積層して得られた積層体をチップ単位で切断した後、焼成して、サンプルチップを製作した。但し、比較例1は、固相法で製作したチタン酸バリウム(BaTiO)粉末を用い、比較例2は、水熱合成法で製作したチタン酸バリウム(BaTiO)粉末を用い、発明例はシュウ酸塩法で製作したチタン酸バリウム(BaTiO)粉末を用いた。
【0107】
まず、比較例1、比較例2及び発明例についてB-siteに固溶されたDy含有量に対してA-siteに固溶されたDy含有量(AD/BD)を測定し、その結果を図8に示した。
【0108】
AD/BD測定のために、FIB(focused ion beam)Microsampling法を用いて、サンプルチップの幅方向の中央部から長さ及び厚さ方向に切断した断面の中心部から50nm程度まで薄層化したTEM試験片を用意した。次に、低加速アルゴンイオン処理により表面のダメージ層を除去して、最終的に20~30nm程度の厚さのTEM試験片を製作した。
【0109】
上記TEM試験片をCs correctorを搭載したSTEM-EDS装備(Cs-STEM)であるJEOL ARM300を用いて分析した。まず、4万倍率でEDSマッピングを取得し、Dyが固溶された領域を確認した。この後、Dyが固溶された領域のうち3ヶ所で4000万倍率でEDSマッピングを取得し、EDSマッピングに含まれたすべてのペロブスカイト構造で、それぞれのAD/BD値を分析した。4000万倍率で取得したEDSマッピング当たり約100個程度のペロブスカイト構造が観察され、合計3ヶ所で測定したため、比較例1、比較例2及び発明例、それぞれ約300個のデータ値を得ることができ、その平均及び分布を図8に示した。
【0110】
図8を参照すると、データ値のうち25~75%に相当するデータ値が存在する領域を四角ボックスで表示し、ダイヤモンドで表示したものは、平均値を表示したものである。比較例1のAD/BDは1.55、比較例2のAD/BDは1.38、発明例のAD/BDは1.68と測定された。
【0111】
次に、比較例1、比較例2及び発明例について、高温加速寿命試験を行い、その結果のグラフを図6a、図6bおよび図6cに示し、高温加速寿命試験の結果をワイブル分布で示して図7に示した。
【0112】
高温加速寿命試験は、比較例1、比較例2及び発明例について、それぞれ40個のサンプルチップを用意し、160℃で75Vの電圧を印加した後、絶縁抵抗の変化を観察した。
【0113】
図6a、図6bおよび図6cを参照すると、初期絶縁抵抗の値は、AD/BD値が高くなるにつれて低くなることが確認できる。すなわち、比較例2、比較例1、発明例の順に初期絶縁抵抗の値が低くなる。平均寿命を比較すると、平均寿命時間が比較例1は39.30(hr)、比較例2は75.40(hr)、発明例は105.76(hr)と測定され、発明例が最も高いことが確認でき、これによりAD/BDが1.6以上を満たすことによって誘電体層がn型半導体化され、電界負荷を下げて信頼性が向上したものと判断することができる。
【0114】
下記表1は、比較例1、比較例2及び発明例のAD/BD、平均寿命時間及び160℃での初期絶縁抵抗値をまとめたものである。
【0115】
【表1】
【0116】
上記表1を参照すると、比較例1の場合、比較例2よりもAD/BD値が高く、絶縁抵抗は低いが、n型半導体化されず、信頼性が向上せず、却って低い絶縁抵抗値により比較例2よりも平均寿命時間が短いことが確認できる。AD/BD値が増加すると、平均寿命時間が低くなるが、AD/BD値が1.6以上になるにつれて、平均寿命時間が著しく向上する結果が表れることが確認できる。
【0117】
図9は、比較例1、比較例2及び発明例のAD/BD及び160℃での初期絶縁抵抗の値を示したグラフである。点線で表示したトレンドラインを参照すると、AD/BD値が増加するにつれて、初期絶縁抵抗が低くなることが確認でき、AD/BDが2.0超過である場合には、160℃での初期絶縁抵抗の値が2.5×10^4(Ω)程度まで低くなって常温での初期絶縁抵抗値が量産基準を満たさない可能性がある。
【0118】
図10は、比較例1、比較例2及び発明例の高温電気導電度を測定した結果である。図10のX軸はログスケールで示した酸素分圧であるLog[Po2](atm)であり、Y軸はログスケールで示した電気導電度であるLog[σ](Scm-1)である。
【0119】
高温電気導電度は、1000℃でMFC(Mass flow controller)を利用して気体流量調整を介して酸素分圧を変えながら2-probe conductivity測定を行った。
【0120】
酸素分圧が増加するにつれて、高温電気導電度が徐々に低くなる場合、n型半導体化されたものと判断することができる。すなわち、図10で高温電気導電度のグラフが正の傾きを有しない場合、n型半導体化されたものと判断することができ、正の傾きを有する区間が現れる場合、n型半導体化されていないものと判断することができる。
【0121】
発明例は、酸素分圧が増加するにつれて、高温電気導電度が徐々に低くなるため、正の傾きを有さず、n型半導体化されたものと判断することができ、比較例1及び2は、Log(Po2)値が-3以上になると高温電気導電度が再び上がって正の傾きを有するため、比較例1及び2は、n型半導体化されていないものと判断することができる。
【0122】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明は、上述の実施形態及び添付の図面によって限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲によって限定される。したがって、特許請求の範囲に記載された本発明の技術的思想から外れない範囲内で、当技術分野における通常の知識を有する者によって多様な形態の置換、変形、及び変更が可能であり、これも本発明の範囲に属するといえる。
【符号の説明】
【0123】
100 セラミック電子部品
110 本体
111 誘電体層
11a、11b 結晶粒
12 結晶粒界
112、113 カバー部
114、115 サイドマージン部
121、122 内部電極
131、132 外部電極
131a、132a 電極層
131b、132b めっき層
図1
図2
図3
図4
図5
図6a
図6b
図6c
図7
図8
図9
図10
図11
図12a
図12b
図13a
図13b
図14
図15a
図15b
図16a
図16b