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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023044705
(43)【公開日】2023-03-31
(54)【発明の名称】ステッチ加飾部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D05B 23/00 20060101AFI20230324BHJP
【FI】
D05B23/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021152736
(22)【出願日】2021-09-20
(71)【出願人】
【識別番号】000110321
【氏名又は名称】トヨタ車体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】村主 隆博
【テーマコード(参考)】
3B150
【Fターム(参考)】
3B150AA00
3B150BA01
3B150CB22
3B150CE23
3B150DD00
3B150FC00
3B150JA13
3B150QA04
(57)【要約】
【課題】縫製された縫い孔の拡大又は引き裂きを簡単に低減できるステッチ加飾部品の製造方法を提供する。
【解決手段】糸S1が挿通された糸係止部材1を上下動可能に保持する挿入針2と、挿入針の先端部から糸係止部材を押し出す押出しピン3とを有する縫製装置40を備え、基材と表皮材との間に糸係止部材を挿入することによって、ステッチ模様SMを縫製するステッチ加飾部品10の製造方法である。糸係止部材は、複数連結された糸係止部材ユニット20で装着され、糸係止部材ユニットへ供給される糸を上下動させる天秤装置5と、挿入針を保持し糸係止部材ユニットから切り離された糸係止部材が押出しピンに押されて下方へ通過可能に形成された糸係止部材通過孔61を有する針保持ブロック6とを備え、針保持ブロックには、糸係止部材通過孔に圧縮エアを供給し、糸係止部材通過孔内を下方へ流れる圧縮エアの気流を形成するエア送給装置8が装着されている。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の長さを有する抜け止め部と糸が挿通された糸係り部とから成る糸係止部材を上下動可能に保持する挿入針と、前記挿入針の先端部から前記糸係止部材を押し出す押出しピンと、前記挿入針及び前記押出しピンを進退させる駆動機構とを有する縫製装置を備え、基材と前記基材の表面に接着された表皮材との間に前記糸係止部材を所定の縫い目ピッチで挿入することによって、前記表皮材の表面にステッチ模様を縫製するステッチ加飾部品の製造方法であって、
前記糸係止部材は、複数の糸係止部材が直線状に形成された連結棒に所定のピッチで並列状に連結された糸係止部材ユニットの状態で前記縫製装置に装着され、
前記縫製装置には、糸供給元から前記糸係止部材ユニットへ供給される前記糸を上下動させる天秤装置と、前記挿入針を保持すると共に前記糸係止部材ユニットから切り離され前記挿入針に保持された前記糸係止部材が前記押出しピンに押されて下方へ通過可能に形成された糸係止部材通過孔を有する針保持ブロックとを備え、
前記針保持ブロックには、前記糸係止部材通過孔に圧縮エアを供給し、前記糸係止部材通過孔内を下方へ流れる圧縮エアの気流を形成するエア送給装置が装着されていることを特徴とするステッチ加飾部品の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載されたステッチ加飾部品の製造方法において、
前記エア送給装置は、前記縫製装置の稼働中、前記糸係止部材通過孔に対する前記圧縮エアのエア供給を継続することを特徴とするステッチ加飾部品の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載されたステッチ加飾部品の製造方法において、
前記針保持ブロックには、前記エア送給装置から前記糸係止部材通過孔に前記圧縮エアを送給するエア送給孔が形成され、
前記糸係止部材通過孔の前記エア送給孔より下端側の孔径は、前記エア送給孔の孔径より大きく形成されていることを特徴とするステッチ加飾部品の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載されたステッチ加飾部品の製造方法において、
前記糸係止部材通過孔と前記エア送給孔との内周側には、軸方向に沿って螺旋状に延びる凹溝が形成されていることを特徴とするステッチ加飾部品の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載されたステッチ加飾部品の製造方法において、
前記糸係り部の前記糸が挿通される糸挿通孔は、長径が上下方向に形成された長孔であり、前記糸係止部材ユニットを支持するユニット支持部には、超音波振動装置が装着され、
前記縫製装置の稼働中、前記超音波振動装置が作動して前記糸係止部材ユニットを上下方向に超音波振動させることを特徴とするステッチ加飾部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステッチ加飾部品の製造方法に関し、詳しくは、基材と当該基材の表面に接着された表皮材との間に糸が挿通された糸係止部材を所定の縫い目ピッチで挿入することによって、表皮材の表面にステッチ模様を縫製するステッチ加飾部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車の内装部品においては、硬質の合成樹脂からなる基材の表面を柔らかい表皮材で覆い、その表皮材の表面にシボ模様とステッチ模様とを施すことによって、デザイン上の見栄えを向上し、高級感やソフト感を醸す工夫がなされている。このステッチ模様を上糸のみによって形成する方法として、基材と当該基材の表面に接着された表皮材との間に糸が挿通された糸係止部材を所定の縫い目ピッチで挿入することによって、表皮材の表面にステッチ模様を縫製するステッチ加飾部品の製造方法が、例えば、特許文献1に開示されている。
【0003】
すなわち、上記特許文献1には、図13に示すように、糸係止部材101を保持して基材102と表皮材103との間に挿入する挿入針104と、挿入針104から糸係止部材101を押し出す押出しピン105と、挿入針104及び押出しピン105を進退させる駆動機構106とを有する縫製装置100を備え、糸107を挿通した糸係止部材101を保持した状態の挿入針104の先端部を、ステッチ模様SMの縫い目の位置で表皮材103の表面側から基材102と表皮材103との間に挿入した後又は挿入すると同時に、押出しピン105を前進させて挿入針104の先端部から糸係止部材101を表皮材103内に押し出して、糸107を挿通した状態の糸係止部材101を基材102と表皮材103との間に挿入させるステッチ加飾部品の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-64576号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載されたステッチ加飾部品の製造方法では、糸係止部材101が、所定の長さを有する抜け止め部101aと当該抜け止め部101aの中央部に連結され糸107を挿通した糸係り部101bとから成るので、糸係止部材101を基材102と表皮材103との間に挿入させた後に、糸係り部101bの位置と縫い孔108の位置とが一致し表皮材103に対する糸107の浮きが生じないように、例えば、図14(A)に示すように、糸供給側に設けた天秤装置200を下降させて、糸107を糸供給側へ引き戻す必要があった。
【0006】
ところが、糸107を糸供給側へ引き戻すと、挿入針104に装着された次の糸係止部材101から針先側へ延びる糸107には、緩みが無い状態となる。そのため、挿入針104を次の縫い目の位置へ移動させて挿入針104を挿入させるときには、針先側の糸107が引っ張られて縫製した縫い孔108を拡大又は引き裂く現象が起きて、ステッチ加飾SMの見栄えを悪化させる可能性があった。そこで、この縫い孔108の拡大又は引き裂きを回避するため、図14(B)に示すように、挿入針104を次の縫い目の位置へ移動させる直前に、天秤装置200を素早く上昇させ、針先側の糸107に対して、瞬時に所要の緩みを生じさせる必要があった。
【0007】
しかし、糸係止部材101は、連続した縫製作業によってその生産性を高めるため、多数の糸係止部材101が狭いピッチで並列状に連結された糸係止部材ユニット110の状態で、縫製装置100に装着されていた。そのため、図14(C)に示すように、挿入針104を次の縫い目の位置へ移動させる直前に、天秤装置200を素早く上昇させるだけでは、糸係止部材ユニット110における多数の糸係り部101bに挿通された糸107と糸係り部101bの糸挿通孔との間で発生する摩擦抵抗によって、挿入針104に装着された次の糸係止部材101から針先側へ延びる糸107に対して、瞬時に所要の緩みを生じさせることは困難であった。したがって、上記ステッチ加飾部品の製造方法において、縫製された縫い孔108の拡大又は引き裂きという問題を十分解決することができなかった。
【0008】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、糸が挿通された糸係止部材によって表皮材の表面にステッチ模様を縫製するステッチ加飾部品の製造方法において、縫製された縫い孔の拡大又は引き裂きを簡単に低減できるステッチ加飾部品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係るステッチ加飾部品の製造方法は、次のような構成を有している。
(1)所定の長さを有する抜け止め部と糸が挿通された糸係り部とから成る糸係止部材を上下動可能に保持する挿入針と、前記挿入針の先端部から前記糸係止部材を押し出す押出しピンと、前記挿入針及び前記押出しピンを進退させる駆動機構とを有する縫製装置を備え、基材と前記基材の表面に接着された表皮材との間に前記糸係止部材を所定の縫い目ピッチで挿入することによって、前記表皮材の表面にステッチ模様を縫製するステッチ加飾部品の製造方法であって、
前記糸係止部材は、複数の糸係止部材が直線状に形成された連結棒に所定のピッチで並列状に連結された糸係止部材ユニットの状態で前記縫製装置に装着され、
前記縫製装置には、糸供給元から前記糸係止部材ユニットへ供給される前記糸を上下動させる天秤装置と、前記挿入針を保持すると共に前記糸係止部材ユニットから切り離され前記挿入針に保持された前記糸係止部材が前記押出しピンに押されて下方へ通過可能に形成された糸係止部材通過孔を有する針保持ブロックとを備え、
前記針保持ブロックには、前記糸係止部材通過孔に圧縮エアを供給し、前記糸係止部材通過孔内を下方へ流れる前記圧縮エアの気流を形成するエア送給装置が装着されていることを特徴とする。
【0010】
本発明においては、糸係止部材は、複数の糸係止部材が直線状に形成された連結棒に所定のピッチで並列状に連結された糸係止部材ユニットの状態で縫製装置に装着され、縫製装置には、糸供給元から糸係止部材ユニットへ供給される糸を上下動させる天秤装置を備えたので、糸係止部材ユニットから切り離した糸係止部材を基材と表皮材との間に挿入させた後に、糸供給側に設けた天秤装置を下降させて、針先側の糸を糸供給側へ引き戻すことができる。そのため、基材と表皮材との間に挿入された糸係止部材における糸係り部の位置と縫い孔の位置とを一致させ、表皮材に対する糸の浮きが生じる不具合を回避できる。
【0011】
また、縫製装置には、挿入針を保持すると共に糸係止部材ユニットから切り離され挿入針に保持された糸係止部材が押出しピンに押されて下方へ通過可能に形成された糸係止部材通過孔を有する針保持ブロックを備え、針保持ブロックには、糸係止部材通過孔に圧縮エアを供給し、糸係止部材通過孔内を下方へ流れる圧縮エアの気流を形成するエア送給装置が装着されているので、挿入針を次の縫い目の位置へ移動させる直前に、天秤装置を上昇させ、糸供給元から糸係止部材ユニットへ供給される糸に所要の緩みを生じさせると共に、糸係止部材ユニットへ供給される糸の緩みを、エア送給装置が供給する圧縮エアに基づいて形成する糸係止部材通過孔内を下方へ流れる気流によって、針先側の糸へ移送させることができる。そのため、挿入針に装着された次の糸係止部材から針先側へ延びる糸に対して所要の緩みを生じさせることができ、挿入針を次の縫い目の位置へ移動させる際、針先側の糸によって縫製された縫い孔の拡大又は引き裂きが生じるのを抑制できる。また、この下向きに流れる圧縮エアの気流によって糸を移送させるので、例えば、糸を把持して移送する機械的な移送手段と違って、糸を傷付けることもない。
【0012】
よって、本発明によれば、糸が挿通された糸係止部材によって表皮材の表面にステッチ模様を縫製するステッチ加飾部品の製造方法において、縫製された縫い孔の拡大又は引き裂きを簡単に低減できるステッチ加飾部品の製造方法を提供することができる。
【0013】
(2)(1)に記載されたステッチ加飾部品の製造方法において、
前記エア送給装置は、前記縫製装置の稼働中、前記糸係止部材通過孔に対する前記圧縮エアのエア供給を継続することを特徴とする。
【0014】
本発明においては、エア送給装置は、縫製装置の稼働中、糸係止部材通過孔に対する圧縮エアのエア供給を継続するので、天秤装置の上下動に関わらず、常に糸係止部材通過孔内を下方へ流れる気流を形成することができる。そのため、縫製装置を高速で稼働させる場合でも、天秤装置の上昇によって糸供給元から糸係止部材ユニットへ供給される糸に形成される所要の緩みを、縫製装置の稼働中、継続して糸係止部材通過孔内を下方へ流れる気流によって、針先側の糸へ迅速に移送することができる。その結果、挿入針を次の縫い目の位置へ移動させる際、針先側の糸によって縫製された縫い孔の拡大又は引き裂きが生じるのを、より確実に抑制できる。
【0015】
なお、エア送給装置は、天秤装置を下降させて針先側の糸を糸供給側へ引き戻すときにも、糸係止部材通過孔内を下方へ流れる気流を形成することになるが、気流であるため、天秤装置による機械的な糸の引き戻しを阻止する抵抗力は殆んど生じない。そのため、基材と表皮材との間に挿入された糸係止部材における糸係り部の位置と縫い孔の位置とを一致させ、表皮材に対する糸の浮きが生じる不具合をも、同時に回避できる。
【0016】
(3)(1)又は(2)に記載されたステッチ加飾部品の製造方法において、
前記針保持ブロックには、前記エア送給装置から前記糸係止部材通過孔に圧縮エアを送給するエア送給孔が形成され、
前記糸係止部材通過孔の前記エア送給孔より下端側の孔径は、前記エア送給孔の孔径より大きく形成されていることを特徴とする。
【0017】
本発明においては、針保持ブロックには、エア送給装置から糸係止部材通過孔に圧縮エアを送給するエア送給孔が形成され、糸係止部材通過孔のエア送給孔より下端側の孔径は、エア送給孔の孔径より大きく形成されているので、エア送給装置から供給された圧縮エアが、糸係止部材通過孔からエア送給孔へ逆流するのを回避しつつ、糸係止部材通過孔の下方へより多く流れることができる。そのため、天秤装置の上昇によって糸供給元から糸係止部材ユニットへ供給される糸に形成される所要の緩みを、針先側の糸へより一層迅速に移送することができる。その結果、挿入針を次の縫い目の位置へ移動させる際、針先側の糸によって縫製された縫い孔の拡大又は引き裂きが生じるのを、より一層確実に抑制できる。
【0018】
(4)(3)に記載されたステッチ加飾部品の製造方法において、
前記糸係止部材通過孔と前記エア送給孔との内、少なくとも一方の内周側には、軸方向に沿って螺旋状に延びる凹溝が形成されていることを特徴とする。
【0019】
本発明においては、糸係止部材通過孔とエア送給孔との内、少なくとも一方の内周側には、軸方向に沿って螺旋状に延びる凹溝が形成されているので、エア送給装置から供給する圧縮エアを螺旋状に旋回させた気流として糸係止部材通過孔内を下方へ流すことができる。そのため、糸係止部材通過孔を通過する糸を、螺旋状に旋回させた気流によって、より強く下方へ押し出すことができる。したがって、天秤装置の上昇によって糸供給元から糸係止部材ユニットへ供給される糸に形成される所要の緩みを、針先側の糸へより一層迅速に移送することができ、縫製された縫い孔の拡大又は引き裂きが生じるのを、より一層確実に抑制できる。
【0020】
(5)(1)乃至(4)のいずれか1つに記載されたステッチ加飾部品の製造方法において、
前記糸係り部の前記糸が挿通される糸挿通孔は、長径が上下方向に形成された長孔であり、前記糸係止部材ユニットを支持するユニット支持部には、超音波振動装置が装着され、
前記縫製装置の稼働中、前記超音波振動装置が作動して前記糸係止部材ユニットを上下方向に超音波振動させることを特徴とする。
【0021】
本発明においては、糸係り部の糸が挿通される糸挿通孔は、長径が上下方向に形成された長孔であり、糸係止部材ユニットを支持するユニット支持部には、超音波振動装置が装着され、縫製装置の稼働中、超音波振動装置が作動して糸係止部材ユニットを上下方向に超音波振動させるので、糸と糸挿通孔との接触面積を減少させ、糸係止部材ユニットにおける糸係り部の糸挿通孔と糸との間の摩擦抵抗を低減させることができる。そのため、天秤装置の上昇によって糸供給元から糸係止部材ユニットへ供給される糸に形成される所要の緩みを、針先側の糸へより一層迅速に移送することができ、縫製された縫い孔の拡大又は引き裂きが生じるのを、より一層確実に抑制できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、糸が挿通された糸係止部材によって表皮材の表面にステッチ模様を縫製するステッチ加飾部品の製造方法において、縫製された縫い孔の拡大又は引き裂きを簡単に低減できるステッチ加飾部品の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本実施形態に係るステッチ加飾部品の製造方法によって製造したステッチ加飾部品の概略斜視図である。
図2】本実施形態に係るステッチ加飾部品の製造方法において、縫製途中のステッチ加飾部品と縫製装置の概略断面図である。
図3図2に示す縫製装置におけるA部の概略斜視図である。
図4図3に示すB矢視図である。
図5図4に示すC-C断面図である。
図6図2に示す縫製装置の動作説明図であって、(A)は挿入針の上昇開始時の概念図を示し、(B)は天秤装置の糸戻し部が下降動作中の概念図を示し、(C)は糸引き戻し完了時の概念図を示し、(D)は天秤装置の糸戻し部が上昇位置に復帰したときの概念図を示す。
図7図2に示す天秤装置の概略斜視図である。
図8図7に示すD-D断面図である。
図9図8に示すE矢視図である。
図10図2に示す縫製装置の挿入針と天秤装置とエア送給装置の動作線図である。
図11図5に示す針保持ブロックの変形例の断面図である。
図12図3に示す糸係止部材の変形例とユニット支持部の断面図である。
図13】特許文献1に記載されたステッチ加飾部品の製造方法の加工断面図であって、(a)は挿入針を縫い目の位置に挿入する前の断面図を示し、(b)は押出しピンを前進させて糸係止部材を表皮材内に押し出す断面図を示す。
図14図13に記載された縫製装置に糸戻し用の天秤装置を追加した場合の動作説明図であって、(A)は糸係止部材を基材と表皮材との間に挿入させた後に、天秤装置を下降させて、糸を糸供給側へ引き戻すときの動作説明図を示し、(B)は挿入針を次の縫い目の位置へ移動させる直前に、糸を緩ませるため、天秤装置を上昇させたときの動作説明図を示し、(C)は糸の緩みが糸係止部材ユニットの糸供給側に残った状態で、挿入針を次の縫い目の位置に移動し糸係止部材を基材と表皮材との間に挿入させるときの動作説明図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
次に、本実施形態に係るステッチ加飾部品の製造方法について、図面を参照して詳細に説明する。はじめに、本実施形態に係るステッチ加飾部品の製造方法によって製造したステッチ加飾部品の構成を説明する。次に、本実施形態に係るステッチ加飾部品の製造方法について詳細に説明する。その後、本実施形態の変形例を説明する。
【0025】
<本ステッチ加飾部品の構成>
まず、本実施形態に係るステッチ加飾部品の製造方法によって製造したステッチ加飾部品の構成を、図1図2を用いて説明する。図1に、本実施形態に係るステッチ加飾部品の製造方法によって製造したステッチ加飾部品の概略斜視図を示す。図2に、本実施形態に係るステッチ加飾部品の製造方法において、縫製途中のステッチ加飾部品と縫製装置の概略断面図を示す。
【0026】
図1図2に示すように、本実施形態に係るステッチ加飾部品の製造方法によって製造したステッチ加飾部品10は、基材KZと、基材KZの表面KZ1に接着された表皮材HZとを備え、表皮材HZの表面HZ1側から挿入した糸S1によって表皮材HZの表面側に形成したステッチ模様SMを有するステッチ加飾部品10である。また、ステッチ模様SMを形成する糸S1は、ステッチ模様SMの縫い目S2の位置で、基材KZと表皮材HZとの間に挿入された糸係止部材1によって、係止されている。
【0027】
上記構成によって、基材KZの裏面KZ2側における補強リブKZ3等に影響されずに、表皮材HZの表面HZ1側にステッチ模様SMを形成することができる。すなわち、ステッチ模様SMの縫い目S2の位置で糸S1を係止する糸係止部材1は、基材KZと表皮材HZとの間に挿入されているので、基材KZの裏面KZ2側まで糸S1を挿通させる必要がなく、基材KZの裏面KZ2側に、例えば、補強リブKZ3が形成されている場合においても、補強リブKZ3の上方又は補強リブKZ3に隣接した位置にも、ステッチ模様SMを容易に形成することができる。
【0028】
ここでは、本ステッチ加飾部品10は、例えば、車両の運転席及び助手席の前方に配置するインストルメントパネルに適用され、所要の形状に形成された硬質の合成樹脂からなる基材KZと、基材KZの表面KZ1に接着された軟質の表皮材HZとから構成されている。基材KZは、例えば、ポリプロピレン(PP)樹脂を金型に射出成形することで形成する。
【0029】
また、表皮材HZは、例えば、真空成形によって基材KZに接着することができる。表皮材HZは、表面側の延性に優れた表皮HZ11と基材側の発泡層HZ12とで構成されている。表皮HZ11には、高級感やソフト感を醸すため、革調のシボ模様が形成されている。表皮HZ11は、例えば、0.5~0.8mm程度の厚さを有するオレフィン系エラストマ(TPO)樹脂で形成されている。発泡層HZ12は、例えば、3~4mm程度の厚さを有するポリプロピレンフォーム(PPF)樹脂で形成されている。
【0030】
また、表皮材HZの表面HZ1には、例えば、車両左右方向に延びるステッチ模様SMが形成されている。ステッチ模様SMの糸S1は、例えば、外径が0.5~0.8mm程度の合成繊維等で形成されている。また、糸係止部材1は、ステッチ模様SMの縫い目S2の位置で糸S1を係止する部材であって、例えば、強度上優れたポリアミド系合成樹脂(例えば、ナイロン(登録商標)など)、又はコスト上優れたポリプロピレン(PP)樹脂等で形成されている。糸係止部材1は、基材KZの表面KZ1に当接し、表皮材HZの発泡層HZ12によって周囲が覆われている。
【0031】
また、糸係止部材1は、基材KZに沿って延びる抜け止め部11と、抜け止め部11の反基材側に形成され糸S1を挿通する糸係り部12とから成る。抜け止め部11は、棒状体(例えば、円柱体)でその長手方向の大きさが、糸係り部12より大きく形成されている。また、糸係り部12は、底辺が抜け止め部11に連結された略三角形又は略半円形の板体に形成され、頂点近傍に糸挿通孔121が形成されている。また、糸係り部12は、糸挿通孔121に挿通して係止した糸S1から掛かる負荷が、抜け止め部11の長手方向における両端部に略均等に作用するよう、抜け止め部11の長手方向の中央部に形成されている。
【0032】
なお、基材KZの表面KZ1には、ステッチ模様SMの縫製方向(矢印Fの方向)に沿って凹溝KZ12が形成され、抜け止め部11は、凹溝KZ12内に縫製方向に沿って配置されている。ステッチ模様SMの縫い目ピッチSPは、任意の長さに設定できるが、縫い目ピッチSPを抜け止め部11の長さより短く設定した場合には、隣接する抜け止め部11同士を縫製方向でラップさせて配置することが好ましい。
【0033】
<ステッチ加飾部品の製造方法>
次に、本実施形態に係るステッチ加飾部品の製造方法について、図2図10を用いて詳細に説明する。図2に、本実施形態に係るステッチ加飾部品の製造方法において、縫製途中のステッチ加飾部品と縫製装置の概略断面図を示す。図3に、図2に示す縫製装置におけるA部の概略斜視図を示す。図4に、図3に示すB矢視図を示す。図5に、図4に示すC-C断面図を示す。図6に、図2に示す縫製装置の動作説明図であって、(A)は挿入針の上昇開始時の概念図を示し、(B)は天秤装置の糸戻し部が下降動作中の概念図を示し、(C)は糸引き戻し完了時の概念図を示し、(D)は天秤装置の糸戻し部が上昇位置に復帰したときの概念図を示す。図7に、図2に示す天秤装置の概略斜視図を示す。図8に、図7に示すD-D断面図を示す。図9に、図8に示すE矢視図を示す。図10に、図2に示す縫製装置の挿入針と天秤装置とエア送給装置の動作線図を示す。
【0034】
図2図10に示すように、本実施形態に係るステッチ加飾部品10の製造方法は、所定の長さを有する抜け止め部11と糸S1が挿通された糸係り部12とから成る糸係止部材1を上下動可能に保持する挿入針2と、挿入針2の先端部21から糸係止部材1を押し出す押出しピン3と、挿入針2及び押出しピン3を進退させる駆動機構4とを有する縫製装置40を備え、基材KZと基材KZの表面KZ1に接着された表皮材HZとの間に糸係止部材1を所定の縫い目ピッチSPで挿入することによって、表皮材HZの表面HZ1にステッチ模様SMを縫製するステッチ加飾部品10の製造方法である。
【0035】
また、糸係止部材1は、複数の糸係止部材1が直線状に形成された連結棒14に所定のピッチPPで並列状に連結された糸係止部材ユニット20の状態で縫製装置40に装着され、縫製装置40には、糸供給元から糸係止部材ユニット20へ供給される糸S1(S11)を上下動させる天秤装置5を備えている。
【0036】
上記構成を備えているので、糸係止部材ユニット20から切り離した糸係止部材1を基材KZと表皮材HZとの間に挿入させた後に、糸供給側に設けた天秤装置5を下降させて、針先側の糸S1(S12)を糸供給側へ引き戻すことができる。そのため、基材KZと表皮材HZとの間に挿入された糸係止部材1における糸係り部12の位置と縫い孔NHの位置とを一致させ、表皮材HZに対する糸S1の浮きが生じる不具合を回避できる。これによって、表皮材HZの表面HZ1に形成するステッチ模様SMの品質を向上できる。
【0037】
また、縫製装置40には、挿入針2を保持すると共に糸係止部材ユニット20から切り離され挿入針2に保持された糸係止部材1が押出しピン3に押されて下方へ通過可能に形成された糸係止部材通過孔61を有する針保持ブロック6を備え、針保持ブロック6には、糸係止部材通過孔61に圧縮エアAAを供給し、糸係止部材通過孔61内を下方へ流れる圧縮エアAAの気流KRを形成するエア送給装置8が装着されている。
【0038】
上記構成を備えているので、挿入針2を次の縫い目S2の位置へ移動させる直前に、天秤装置5を上昇させ、糸供給元から糸係止部材ユニット20へ供給される糸S11に所要の緩みを生じさせると共に、糸係止部材ユニット20へ供給される糸S11の緩みを、エア送給装置8が供給する圧縮エアAAに基づいて形成する糸係止部材通過孔61内を下方へ流れる気流KRによって、針先側の糸S12へ移送させることができる。そのため、挿入針2に装着された次の糸係止部材1から針先側へ延びる糸S12に対して所要の緩みを生じさせることができ、挿入針2を次の縫い目S2の位置へ移動させる際、針先側の糸S12によって縫製された縫い孔NHの拡大又は引き裂きが生じるのを抑制できる。また、この下向きに流れる圧縮エアAAの気流KRによって糸S1を移送させるので、例えば、糸S1を把持して移送する機械的な移送手段と違って、糸S1を傷付けることもない。
【0039】
より具体的には、図2図6に示すように、糸係止部材ユニット20は、抜け止め部11を上下方向に向けた状態で、複数の糸係止部材1が所定のピッチPPで連結片13を介して水平状に配置された連結棒14に連結されたものとして形成されている。また、糸係止部材1における抜け止め部11は、所定の長さを有する円柱体として形成され、その上下方向中央部には、二等辺三角板状に形成された糸係り部12が底辺側で連結されている。糸係り部12の糸挿通孔121には、糸S1が面直方向に挿通されている。糸挿通孔121は、円形状に形成されているが、後述するように長円形状(楕円形状を含む)に形成しても良い。なお、連結片13は、糸係り部12の反対側で抜け止め部11の上下方向中央部に連結されている。連結片13の抜け止め部11に対する接続部13aは、押出しピン3によって押圧されたとき、切り離しが簡単に行えるように薄肉化されている。
【0040】
また、挿入針2及び押出しピン3は、縫製装置40の針保持部412に装着され、連結棒14から切り離される送り方向(矢印H3の方向)の先頭の糸係止部材1の抜け止め部11と同一軸上に、進退可能に配置されている。針保持部412は、縫製装置40における駆動機構4の主軸41とクランクアーム411を介して連結され、主軸41の回転に同期して上下動する。挿入針2は、先端部21が傾斜状にカットされた略円筒状の中空針である。押出しピン3は、挿入針2の中空部内で上下動可能に形成されている。
【0041】
また、挿入針2には、先端部21から針軸方向(矢印H1、H2の方向)に沿ってスリット溝22が形成されている。挿入針2の内径は、円柱体に形成された抜け止め部11の外径と略同一径に形成されている。また、スリット溝22の溝幅は、二等辺三角板状に形成された糸係り部12の板幅と略同一に形成されている。挿入針2の基端部23には、スリット溝22と直交する方向(連結棒14の送り方向:H3)に、抜け止め部11の下部を挿入可能に形成された挿入溝231が形成されている。また、基端部23の外周には、挿入溝231の下方に止めネジ用のV溝が形成されている。
【0042】
また、連結棒14を送り方向(矢印H3の方向)に移動させて、挿入針2の基端部23に挿入溝231から抜け止め部11の下部を挿入後、押出しピン3を針軸方向(矢印H2の方向)へ移動させると、連結片13の接続部13aが切り離されて、挿入針2の中空部内に抜け止め部11が挿入され、スリット溝22内に糸係り部12が挿入される。この状態で、抜け止め部11の上端面と押出しピン3とが当接し、糸係止部材1が挿入針2に保持される。また、糸係止部材1が挿入針2に保持された状態では、糸係り部12の糸挿通孔121は、挿入針2の外周側へ突出している。
【0043】
また、縫製装置40は、針保持部412を針軸方向(矢印H1の方向)へ下降させ、糸S1(S12)を挿通した糸係止部材1を保持した状態の挿入針2の先端部21を、ステッチ模様SMの縫い目S2の位置で表皮材HZの表面HZ1側から基材KZと表皮材HZとの間に挿入した後又は挿入すると同時に、押出しピン3を前進させて挿入針2の先端部21から糸係止部材1を表皮材HZ内に押し出して、糸S1を挿通した状態の糸係止部材1を基材KZと表皮材HZとの間に挿入させる。表皮材HZの発泡層HZ12は、挿入された糸係止部材1によって圧縮されている。
【0044】
また、図2図6図10に示すように、本ステッチ加飾部品の製造方法は、糸係止部材1を表皮材HZ内に押し出した後、挿入針2を上昇させる上昇開始時から上昇完了時までの間に、糸S1を引き戻して糸係り部12を縫い孔NHの位置に移動させる天秤装置5を備えている。この天秤装置5によって、糸S1を引き戻す時には、挿入針2が表皮材HZから上方へ離脱している。そのため、抜け止め部11と挿入針2の先端部21との干渉を回避しながら、糸係り部12を縫い孔NHの位置に移動させることができる。これによって、表皮材HZに対する糸S1の浮きが生じる不具合を回避できる。
【0045】
また、天秤装置5は、糸供給元の糸駒(図示しない)から各種糸ガイド54を経由して供給される糸S1を挿通可能にガイドする複数の糸ガイド孔511と、糸ガイド孔511の間で、上下動可能に形成された糸戻し部52とを備えている。糸戻し部52には、上昇位置P2では糸S1が接触せずに通過する中空部521が形成されている。ここでは、糸戻し部52は、上下方向に長く形成された略長方形状の環状体に形成されている。そして、糸戻し部52は、下降するときに、下降途中から中空部521の外縁部521Gの上端が糸S1と当接して、糸S1を糸供給側へ機械的に引き戻すように形成されている。
【0046】
ところが、糸S1を糸供給側へ引き戻すと、挿入針2に装着された次の糸係止部材1から針先側へ延びる糸S12には、緩みが無い状態となる。そのため、挿入針2を次の縫い目S2の位置へ移動させて挿入針2を表皮材HZに挿入させるときには、針先側の糸S12が引っ張られて縫製した縫い孔NHを拡大又は引き裂く現象が起きて、ステッチ模様SMの見栄えを悪化させる可能性があった。
【0047】
また、糸係止部材1は、連続した縫製作業によってその生産性を高めるため、多数の糸係止部材1が狭いピッチPPで並列状に連結された糸係止部材ユニット20の状態で、縫製装置40に装着されている。そのため、糸係止部材ユニット20における多数の糸係り部12に挿通された糸S1と糸係り部12の糸挿通孔121との間で発生する摩擦抵抗によって、糸係止部材ユニット20内の糸S1の移動が規制されている。したがって、挿入針2を次の縫い目S2の位置へ移動させる直前に、天秤装置5の糸戻し部52を素早く上昇させるだけでは、糸係止部材ユニット20における多数の糸係り部12に挿通された糸S1と糸係り部12の糸挿通孔121との間で発生する摩擦抵抗によって、挿入針2に装着された次の糸係止部材1から針先側へ延びる糸S12に対して、瞬時に所要の緩みを生じさせることは困難であった。
【0048】
そこで、上記縫い孔NHの拡大又は引き裂きを回避するため、試行錯誤した結果、以下の方策を発明した。すなわち、縫製装置40には、挿入針2を保持すると共に糸係止部材ユニット20から切り離され挿入針2に保持された糸係止部材1が、押出しピン3に押されて下方へ通過可能に形成された糸係止部材通過孔61を有する針保持ブロック6を備え、針保持ブロック6には、糸係止部材通過孔61に圧縮エアAAを供給し、糸係止部材通過孔61内を下方へ流れる気流KRを形成するエア送給装置8が装着されている。
【0049】
なお、針保持ブロック6は、縫製装置40における駆動機構4の主軸41とクランクアーム411を介して連結された針保持部412の下端部に装着されている。針保持ブロック6には、挿入針2の基端部23が装着される針装着孔64が形成されている。糸係止部材通過孔61は、針保持ブロック6の針装着孔64から偏心した位置に、糸係止部材1の糸係り部12と糸係り部12に挿通された糸S12とが下方へ通過可能な大きさに形成されている。針保持ブロック6には、糸係止部材ユニット20に連結された糸係止部材1の抜け止め部11の下部が通過する凹溝63が形成されている。また、針保持ブロック6には、糸係り部12に挿通された糸S12が下方へ屈曲して糸係止部材通過孔61に挿入できる案内ガイド613を設置しても良い。
【0050】
また、エア送給装置8は、図示しないエア供給源からエア送給管81を介して圧縮エアAA(例えば、エア圧力=0.4~0.6MPa程度)を送給する装置であり、針保持ブロック6に形成したエア送給孔62にエア送給管81を連通させる止め具82を備えている。エア送給孔62は、糸係止部材通過孔61と略T字状に交差するように形成されている。糸係止部材通過孔61のエア送給孔62より上部には、エア送給孔62から供給される圧縮エアAAが上方へ逃げにくくするため、糸係り部12と糸係り部12に挿通された糸S12とが干渉せずに下方へ通過可能な隙間を確保しつつ、内方へ突出した蓋部612が形成されている。
【0051】
そのため、エア送給装置8は、圧縮エアAAをエア送給孔62を経由して糸係止部材通過孔61に供給し、糸係止部材通過孔61内を下向きに流れる気流KRを形成する。この下向きに流れる圧縮エアAAの気流KRによって、天秤装置5の糸戻し部52が上昇したとき、糸供給側で発生する糸S11の緩みを、糸S11と糸係り部12の糸挿通孔121との間で発生する摩擦抵抗に抗して、針先側の糸S12へ速やかに移送させることができる。そのため、挿入針2に装着された次の糸係止部材1から針先側へ延びる糸S12に対して所要の緩みを瞬時に生じさせることができ、挿入針2を次の縫い目S2の位置へ移動させる際、針先側の糸S12によって縫製された縫い孔NHの拡大又は引き裂きが生じるのを抑制できる。また、この下向きに流れる圧縮エアAAの気流KRによって糸S12を移送させるので、例えば、糸S12を把持して移送する機械的な移送手段と違って、糸S12を傷付けることもない。
【0052】
また、図7図9に示すように、天秤装置5では、糸ガイド孔511の間に備える糸戻し部52を直列状に複数配置し、各糸戻し部52を同時に上下動させて糸S1を速やかに移動させることが好ましい。ここでは、同一の高さに糸ガイド孔511が形成された糸ガイド板51を等間隔で直列状に複数(4つ)配置し、各糸ガイド板51間の中間位置に同一形状の糸戻し部52を、同一の高さで1つずつ配置している。そして、各糸戻し部52は、互いに連結し一体化されている。この場合、1つ1つの糸戻し部52の上下動距離d3を短縮できる。そのため、糸戻し部52による糸S1に対する摩擦接触時間を短縮しつつ、負荷を分散できる。その結果、糸S1の切断をより一層低減しつつ、糸S1を素早く引き戻し、又は素早く緩ませることができる。
【0053】
また、図2図7図8に示すように、駆動機構4には、挿入針2を上下動させる駆動モータ4Mを備え、天秤装置5の糸戻し部52は、駆動モータ4Mの主軸41と同期して回転する駆動軸部42に形成されたカム部43によって支持部44を支点に上下動可能に形成された梃子腕53の一端に連結されている。ここで、駆動モータ4Mの出力軸(主軸41)にベルトプーリ413が連結され、駆動軸部42にベルトプーリ421が連結され、両ベルトプーリ413、421がタイミングベルト422によって連結されている。また、駆動軸部42には、駆動軸部42に対して軸芯が偏心して固定された偏心軸部431と、偏心軸部431の外周面に回転可能に形成された円環部432と、を備えたカム部43が形成されている。円環部432には、梃子腕53と連結する連結軸部433が形成されている。また、梃子腕53には、糸戻し部52が連結された一端531と反対側の他端532に、支点となる支持部44が形成され、支持部44と隣接した位置でカム部43の連結軸433が挿入される軸受け部533が形成されている。
【0054】
そして、駆動モータ4Mの出力軸(主軸41)の回転力をタイミングベルト422を介して駆動軸部42に伝達する。駆動軸部42が回転すると、カム部43の偏心軸部431が駆動軸部42の軸芯を中心に回転し、円環部432の連結軸部433が上下方向に移動する。その際、梃子腕53は、支持部44を支点にして揺動し、糸戻し部52が上下動する。
【0055】
具体的には、図10に示すように、駆動機構4の主軸部41の回転動作に伴って、挿入針2が実線で示す動作軌跡(サイン曲線)に従って上下動し、天秤装置5の糸戻し部52が点線で示す動作軌跡(サイン曲線)に従って上下動する。挿入針2の動作軌跡における針上昇点P1と針下降点P4との振幅は、糸戻し部52における糸戻し上昇点P2と糸戻し下降点P3との振幅より大きい。図10では、横軸が主軸41の回転角を示し、縦軸が挿入針2と糸戻し部52の上下方向への昇降位置を示す。
【0056】
ここで、主軸41が回転角0度から回転開始すると、挿入針2が針上昇点P1から下降開始し、糸戻し上昇点P2付近(Q1)にて押出しピン3が糸係止部材1を押圧して、連結棒14から分離させる。糸係止部材1を分離した後、糸戻し部52が糸戻し上昇点P2から下降開始する。糸戻し部52が下降開始する回転角αは、挿入針2が針下降点P4に到達する回転角(180度)より数十度手前である。そして、挿入針2が針下降点P4に到達する回転角(180度)付近(Q2)にて、糸戻し部52は糸S1と当接する。挿入針2が針下降点P4から針上昇点P1に向けて上昇する期間中に、糸戻し部52は糸戻し下降点P3に到達し、糸戻しを完了する。糸引き戻し期間Rは、挿入針2が針上昇点P1に到達する以前に終了する。
【0057】
その結果、挿入針2の上下動に対してカム部43及び梃子腕53を介して機械的に連動して、天秤装置5の糸戻し部52を上下動させることができる。そのため、挿入針2を高速で上下動させる動作と、糸供給側における糸S11の引き戻しと糸S11の緩みの形成とを、同期して連続して行うことができる。
【0058】
ここで、エア送給装置8は、縫製装置40の稼働中、糸係止部材通過孔61に対する圧縮エアAAのエア供給を継続することが好ましい。この場合、天秤装置5の糸戻し部52の上下動に関わらず、常に糸係止部材通過孔61内を下方へ流れる圧縮エアAAの気流KRを形成することができる。そのため、縫製装置40を高速で稼働させる場合でも、天秤装置5の糸戻し部52の上昇によって糸供給元から糸係止部材ユニット20へ供給される糸S11に形成する所要の緩みを、縫製装置40の稼働中、継続して糸係止部材通過孔61に下方へ流れる圧縮エアAAの気流KRによって、針先側の糸S12へ迅速に移送することができる。その結果、挿入針2を次の縫い目S2の位置へ移動させる際、針先側の糸S12によって縫製された縫い孔NHの拡大又は引き裂きが生じるのを、より確実に抑制できる。
【0059】
なお、エア送給装置8は、天秤装置5の糸戻し部52を下降させて針先側の糸S12を糸供給側へ引き戻すときにも、糸係止部材通過孔61に下方へ流れる圧縮エアAAの気流KRを継続して形成することになるが、気流KRであるため、天秤装置5による機械的な糸S12の引き戻しを阻止する抵抗力は殆んど生じない。そのため、基材KZと表皮材HZとの間に挿入された糸係止部材1における糸係り部12の位置と縫い孔NHの位置とを一致させ、表皮材HZに対する糸S1の浮きが生じる不具合をも、同時に回避できる。
【0060】
また、針保持ブロック6には、エア送給装置8から糸係止部材通過孔61に圧縮エアAAを送給するエア送給孔62が形成され、糸係止部材通過孔61のエア送給孔62より下端側の孔径d1は、エア送給孔62の孔径d2より大きく形成されていることが好ましい。
【0061】
この場合、エア送給装置8から送給された圧縮エアAAが、糸係止部材通過孔61からエア送給孔62へ逆流するのを回避しつつ、糸係止部材通過孔61の下方へより多く流れることができる。そのため、天秤装置5の糸戻し部52の上昇によって糸供給元から糸係止部材ユニット20へ供給される糸S11に形成する所要の緩みを、針先側の糸S12へより一層迅速に移送することができる。その結果、挿入針2を次の縫い目S2の位置へ移動させる際、針先側の糸S12によって縫製された縫い孔NHの拡大又は引き裂きが生じるのを、より一層確実に抑制できる。
【0062】
<変形例>
なお、上述した実施形態は、本発明の要旨を変更しない範囲で、適宜変更することができる。例えば、本実施形態では、図5に示すように、針保持ブロック6には、糸係止部材通過孔61とエア送給孔62とが略円筒状の孔として形成されているが、必ずしも円筒状の孔として形成する必要はない。例えば、糸係止部材通過孔61とエア送給孔62との内周側には、軸方向に沿って螺旋状に延びる凹溝621、611を形成しても良い。
【0063】
この場合、エア送給装置8から給送する圧縮エアAAを螺旋状に旋回させた気流KRとして糸係止部材通過孔61の下方へ流すことができる。そのため、糸係止部材通過孔61を通過する糸S12を、螺旋状に旋回させた圧縮エアAAの気流KRによって、より強く下方へ押し出すことができる。したがって、天秤装置5の上昇によって糸供給元から糸係止部材ユニット20へ供給される糸S11に形成する所要の緩みを、針先側の糸S12へより一層迅速に移送することができ、縫製された縫い孔NHの拡大又は引き裂きが生じるのを、より一層確実に抑制できる。
【0064】
また、本実施形態では、図3に示すように、糸係り部12の糸S1が挿通される糸挿通孔121は、円形状に形成されているが、必ずしもこれに限る必要はない。例えば、図12に示すように、糸係り部12の糸S1が挿通される糸挿通孔121Bは、長径が上下方向に形成された長孔であっても良い。そして、糸係止部材ユニット20を支持するユニット支持部75には、超音波振動装置76が装着され、縫製装置40の稼働中、超音波振動装置76が作動して糸係止部材ユニット20を上下方向に超音波振動させることが好ましい。
【0065】
この場合、糸S1と糸挿通孔121Bとの接触面積を減少させ、超音波振動装置76が作動して糸係止部材ユニット20を上下方向に超音波振動させることによって、糸係止部材ユニット20における糸係り部12の糸挿通孔121Bと糸S1との間の摩擦抵抗を低減させることができる。そのため、天秤装置5の上昇によって糸供給元から糸係止部材ユニット20へ供給される糸S11に形成する所要の緩みを、糸係止部材通過孔61の下方へ流れる気流RKによって、針先側の糸S12へより一層迅速に移送することができる。そのため、縫製された縫い孔NHの拡大又は引き裂きが生じるのを、より一層確実に抑制できる。
【0066】
なお、ユニット支持部75には、糸係止部材ユニット20の連結棒14をスライド可能に支持する支持面752と、連結片13と下方から係合する鋸刃状の固定送り歯751とが形成されている。また、ユニット支持部75には、糸係止部材ユニット20を送り方向(H3の方向)へ所定の送りピッチPPで移送させるユニット送り装置7の送り歯7Hが連結されている。送り歯7Hには、連結片13と上方から係合する鋸刃状の可動送り歯71が形成されている。そのため、ユニット支持部75に装着された超音波振動装置76が作動するとき、固定送り歯751と可動送り歯71とに上下方向から係合された連結片13を介して、糸係止部材ユニット20に超音波振動を伝達することができる。これによって、糸係止部材ユニット20における糸係り部12の糸挿通孔121Bと糸S1との間の摩擦抵抗を低減させることができる。
【0067】
<作用効果>
以上、詳細に説明したように、本実施形態に係るステッチ加飾部品の製造方法によれば、糸係止部材1は、複数の糸係止部材1が直線状に形成された連結棒14に所定のピッチPPで並列状に連結された糸係止部材ユニット20の状態で縫製装置40に装着され、縫製装置40には、糸供給元から糸係止部材ユニット20へ供給される糸S1を上下動させる天秤装置5を備えたので、糸係止部材ユニット20から切り離した糸係止部材1を基材KZと表皮材HZとの間に挿入させた後に、糸供給側に設けた天秤装置5を下降させて、針先側の糸S1を糸供給側へ引き戻すことができる。そのため、基材KZと表皮材HZとの間に挿入された糸係止部材1における糸係り部12の位置と縫い孔NHの位置とを一致させ、表皮材HZに対する糸S1の浮きが生じる不具合を回避できる。
【0068】
また、縫製装置40には、挿入針2を保持すると共に糸係止部材ユニット20から切り離され挿入針2に保持された糸係止部材1が押出しピン3に押されて下方へ通過可能に形成された糸係止部材通過孔61を有する針保持ブロック6を備え、針保持ブロック6には、糸係止部材通過孔61に圧縮エアAAを供給し、糸係止部材通過孔61内を下方へ流れる圧縮エアAAの気流KRを形成するエア送給装置8が装着されているので、挿入針2を次の縫い目S2の位置へ移動させる直前に、天秤装置5を上昇させ、糸供給元から糸係止部材ユニット20へ供給される糸S11に所要の緩みを生じさせると共に、糸係止部材ユニット20へ供給される糸S11の緩みを、エア送給装置8が供給する圧縮エアAAに基づいて形成する糸係止部材通過孔61内を下方へ流れる気流KRによって、針先側の糸S12へ移送させることができる。そのため、挿入針2に装着された次の糸係止部材1から針先側へ延びる糸S12に対して所要の緩みを生じさせることができ、挿入針2を次の縫い目S2の位置へ移動させる際、針先側の糸S12によって縫製された縫い孔NHの拡大又は引き裂きが生じるのを抑制できる。また、この下向きに流れる圧縮エアAAの気流KRによって糸S1を移送させるので、例えば、糸S1を把持して移送する機械的な移送手段と違って、糸S1を傷付けることもない。
【0069】
よって、本実施形態によれば、糸S1が挿通された糸係止部材1によって表皮材HZの表面にステッチ模様SMを縫製するステッチ加飾部品10の製造方法において、縫製された縫い孔NHの拡大又は引き裂きを簡単に低減できるステッチ加飾部品10の製造方法を提供することができる。
【0070】
また、本実施形態によれば、エア送給装置8は、縫製装置40の稼働中、糸係止部材通過孔61に対する圧縮エアAAのエア供給を継続するので、天秤装置5の上下動に関わらず、常に糸係止部材通過孔61内を下方へ流れる圧縮エアAAの気流KRを形成することができる。そのため、縫製装置40を高速で稼働させる場合でも、天秤装置5の上昇によって糸供給元から糸係止部材ユニット20へ供給される糸S11に形成する所要の緩みを、縫製装置40の稼働中、継続して糸係止部材通過孔61を下方へ流れる圧縮エアAAの気流KRによって、針先側の糸S12へ迅速に移送することができる。その結果、挿入針2を次の縫い目S2の位置へ移動させる際、針先側の糸S12によって縫製された縫い孔NHの拡大又は引き裂きが生じるのを、より確実に抑制できる。
【0071】
なお、エア送給装置8は、天秤装置5を下降させて針先側の糸S12を糸供給側へ引き戻すときにも、糸係止部材通過孔61内を下方へ流れる圧縮エアAAの気流KRを形成することになるが、気流KRであるため、天秤装置5による機械的な糸S12の引き戻しを阻止する抵抗力は殆んど生じない。そのため、基材KZと表皮材HZとの間に挿入された糸係止部材1における糸係り部12の位置と縫い孔NHの位置とを一致させ、表皮材HZに対する糸S1の浮きが生じる不具合をも、同時に回避できる。
【0072】
また、本実施形態によれば、針保持ブロック6には、エア送給装置8から糸係止部材通過孔61に圧縮エアAAを送給するエア送給孔62が形成され、糸係止部材通過孔61のエア送給孔62より下端側の孔径d1は、エア送給孔62の孔径d2より大きく形成されているので、エア送給装置8から送給された圧縮エアAAが、糸係止部材通過孔61からエア送給孔62へ逆流するのを回避しつつ、糸係止部材通過孔61の下方へより多く流れることができる。そのため、天秤装置5の上昇によって糸供給元から糸係止部材ユニット20へ供給される糸S11に形成する所要の緩みを、針先側の糸S12へより一層迅速に移送することができる。その結果、挿入針2を次の縫い目S2の位置へ移動させる際、針先側の糸S12によって縫製された縫い孔NHの拡大又は引き裂きが生じるのを、より一層確実に抑制できる。
【0073】
また、本実施形態によれば、糸係止部材通過孔61とエア送給孔62との内周側には、軸方向に沿って螺旋状に延びる凹溝621、611が形成されているので、エア送給装置8から給送する圧縮エアAAを螺旋状に旋回させた気流KRとして糸係止部材通過孔61の下方へ流すことができる。そのため、糸S12が糸係止部材通過孔61を通過するとき、螺旋状に旋回させた圧縮エアAAの気流KRによって、より強く下方へ押し出すことができる。したがって、天秤装置5の上昇によって糸供給元から糸係止部材ユニット20へ供給される糸S11に形成する所要の緩みを、針先側の糸S12へより一層迅速に移送することができ、縫製された縫い孔NHの拡大又は引き裂きが生じるのを、より一層確実に抑制できる。
【0074】
また、本実施形態によれば、糸係り部12の糸S1が挿通される糸挿通孔121Bは、長径が上下方向に形成された長孔であり、糸係止部材ユニット20を支持するユニット支持部75には、超音波振動装置76が装着され、縫製装置40の稼働中、超音波振動装置76が作動して糸係止部材ユニット20を上下方向に超音波振動させるので、糸S1と糸挿通孔121Bとの接触面積を減少させ、糸係止部材ユニット20における糸係り部12の糸挿通孔121Bと糸S1との間の摩擦抵抗を低減させることができる。そのため、天秤装置5の上昇によって糸供給元から糸係止部材ユニット20へ供給される糸S11に形成する所要の緩みを、針先側の糸S12へより一層迅速に移送することができ、縫製された縫い孔NHの拡大又は引き裂きが生じるのを、より一層確実に抑制できる。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、基材と当該基材の表面に接着された表皮材との間に糸が挿通された糸係止部材を所定の縫い目ピッチで挿入することによって、表皮材の表面にステッチ模様を縫製するステッチ加飾部品の製造方法として利用できる。
【符号の説明】
【0076】
1 糸係止部材
2 挿入針
3 押出しピン
4 駆動機構
5 天秤装置
6 針保持ブロック
8 エア送給装置
10 ステッチ加飾部品
11 抜け止め部
12 糸係り部
14 連結棒
20 糸係止部材ユニット
21 先端部
40 縫製装置
61 糸係止部材通過孔
62 エア送給孔
75 ユニット支持部
76 超音波振動装置
121、121B 糸挿通孔
611、621 凹溝
AA 圧縮エア
KR 気流
KZ 基材
KZ1 表面
HZ 表皮材
HZ1 表面
NH 縫い孔
S1、S11、S12 糸
S2 縫い目
SM ステッチ模様
d1、d2 孔径
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