(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023044737
(43)【公開日】2023-04-03
(54)【発明の名称】梁構築におけるコンクリート打ち継ぎ方法
(51)【国際特許分類】
E04G 21/02 20060101AFI20230327BHJP
【FI】
E04G21/02 103A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021152743
(22)【出願日】2021-09-21
(71)【出願人】
【識別番号】000201478
【氏名又は名称】前田建設工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130362
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 嘉英
(72)【発明者】
【氏名】浜口 祥治
【テーマコード(参考)】
2E172
【Fターム(参考)】
2E172AA05
2E172DB05
2E172DD01
2E172DE06
(57)【要約】
【課題】 梁の長さ方向を所定区間に区切ってコンクリートを打ち継ぐ際に、打ち継ぎ処置の施工タイミングが拘束されず、打継ぎ部に隙間を作らないようにしてノロ漏れの発生を防止する。
【解決手段】
梁を構築する際に、梁の長さ方向を所定区間に区切ってコンクリートを打ち継ぐ際に、コンクリートの打ち継ぎ部位に別日程の打設エリアを設ける。すなわち、梁の長さ方向に離隔して既打設区間(第1の既打設部60a及び第2の既打設部60b)を設けた後に、既打設区間(第1の既打設部60a及び第2の既打設部60b)に挟まれた未打設区間にコンクリートを打設して後行打設部70を設ける。第1の既打設部60a及び第2の既打設部60bの対向する端面には、コンクリート止め型枠80を設置する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
梁を構築する際に、梁の長さ方向を所定区間に区切ってコンクリートを打ち継ぐための方法であって、
コンクリートの打設開始側において梁構築位置の両側面に型枠を設置するとともに、コンクリート打設方向の終端に、打設したコンクリートが漏れ出すことを防止するためのコンクリート止め型枠を設置し、型枠とコンクリート止め型枠とで囲まれた空間内にコンクリートを打設して第1の先行打設部を構築する工程と、
前記第1の先行打設部から所定距離を隔てて、梁構築位置の両側面に型枠を設置するとともに、前記第1の先行打設部と対向するようにして、打設したコンクリートが漏れ出すことを防止するためのコンクリート止め型枠を設置し、型枠とコンクリート止め型枠とで囲まれた空間内にコンクリートを打設して第2の先行打設部を構築する工程と、
前記第1の先行打設部と第2の先行打設部との間において梁構築位置の両側面に型枠を設置し、型枠と第1の先行打設部と第2の先行打設部とで囲まれた空間内にコンクリートを打設して後行打設部を構築する工程と、
を含むことを特徴とする梁構築におけるコンクリート打ち継ぎ方法。
【請求項2】
前記第1の先行打設部及び第2の先行打設部において使用するコンクリート止め型枠は、配置された鉄筋を避けて設置する略水平方向の横板部と、当該横板部と重ね合わせることにより、横板部と配置された鉄筋との間に生じた隙間を閉塞する縦板部とからなり、
前記第1の先行打設部と前記第2の先行打設部との間に設置する型枠は、前記第1の先行打設部と前記第2の先行打設部の外側面に掛け渡して固定した板材からなる、
ことを特徴とする請求項1に記載の梁構築におけるコンクリート打ち継ぎ方法。
【請求項3】
前記コンクリート止め型枠は、前記型枠を設置するための補助部材に対して、取付部材を用いて取り付け、
前記第1の先行打設部及び前記第2の先行打設部の外側面には、前記型枠を固定するための固定部材を埋め込んでおく、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の梁構築におけるコンクリート打ち継ぎ方法。
【請求項4】
前記第1の先行打設部の終端面と、当該第1の先行打設部の終端面と対向する前記第2の先行打設部の終端面の中間位置は、梁を掛け渡す一対の柱間の距離Lに対して、前記第1の先行打設部の柱側端面から1/4Lの距離である、
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の梁構築におけるコンクリート打ち継ぎ方法。
【請求項5】
前記第1の先行打設部の終端面と、前記第2の先行打設部の終端面とは、600~1,000mm離隔している、
ことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の梁構築におけるコンクリート打ち継ぎ方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は梁構築におけるコンクリート打ち継ぎ方法に関するものであり、例えば、地中梁を構築する際に、梁の全長にわたって連続してコンクリートを打ち継ぐのではなく、所定の間隔を空けて先行打設部(既打設部)を設け、先行打設部(既打設部)におけるコンクリート打設が完了した後に、隣り合う先行打設部(既打設部)の間にコンクリートを打設することにより後行打設部を設けて、梁を構築する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
梁等の長尺のコンクリート構造体を構築する際には、コンクリート構造体を長さ方向に所定間隔で区切って、順次、コンクリートを打設するのが一般的である。このようなコンクリートの打ち継ぎ処置において、打継ぎ部におけるノロ漏れ(型枠の隙間からコンクリートペーストが漏れ出す現象)の発生を防止したり、打ち継ぎ処置を容易に行ったりするための技術が種々開示されている(例えば、特許文献1~3参照)。
【0003】
特許文献1に記載された技術は、配筋後であっても、コンクリート打継ぎのための仕切りを簡単かつ迅速に形成するとともに、脱型も容易に行うことを目的とした梁コンクリートの打継用型枠に関するものである。この梁コンクリートの打継用型枠は、鉄筋を入り込ませる切欠きを側部に形成した金属製の板体を用いて、鉄筋を切欠き内に取入れるとともに板体相互で鉄筋を挟み込むようにして複数の板体を並べることにより、梁型枠内を仕切るようにしたものである。そして、金属製の板体は、バーを沿わせ、このバーの上方への突出部を把手としている。
【0004】
特許文献2に記載された技術は、複数の柱および当該柱同士の間に複数の壁が一体として構築される壁躯体のコンクリート打設方法に関するものである。この壁躯体のコンクリート打設方法は、柱および壁の一対の側型枠を建て込むとともに、壁の略中央の位置に、壁厚方向に延びてかつ当該側型枠の底面から所定高さに至る流れ止め型枠を立設することで、一対の側型枠内に複数の打設空間を形成する工程と、打設空間ごとに柱の頂部付近からコンクリートを打設する作業を、打設空間を順次変更しながら行うことにより、各打設空間において、既に打設されたコンクリート表面に打継面処理を行うことなく、所定の打ち重ね時間間隔内で複数段に亘ってコンクリートを打ち重ねる工程とを備えている。そして、コンクリートを打ち重ねる工程では、打設したコンクリートの中央部が柱の頂部近傍に達するとともに、端部が流れ止め型枠の上端近傍に達するまで、コンクリートを打ち重ねるようになっている。
【0005】
特許文献3に記載された技術は、コンクリートを打設する際の打ち継ぎ用または打ち分け用の仕切材を有するコンクリート構造体の形成方法に関するものである。このコンクリート構造体の形成方法は、打ち継ぎ面または打ち分け面に沿って配置される網目を有する網体を有する仕切材に、網体の表裏面に網目を塞ぐようにセメント系接着剤からなる接着剤層を形成する。そして、仕切材の片面に、接着剤層と接するように第1のコンクリート材を打設し、仕切材の他面に、接着剤層と接するように第2のコンクリート材を打設するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2683877号公報
【特許文献2】特許第6484447号公報
【特許文献3】特許第6852993号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載された技術は、コンクリート止めを行うための部材(板体)の重量が重くなり、かつ、主筋の位置誤差に対応することができない。また、特許文献2に記載された技術は、単なるラス止め枠であり、このラス止め枠を用いて、上述した不都合を解消することはできない。また、特許文献3に記載された技術は、梁構造体の中にコンクリート以外の異物が入り込むことになり、特に高強度コンクリートの設計基準強度を担保できないおそれがある。このため、コンクリート枠体と吹付材の設計基準強度が問題となる。さらに、枠体は、ひび割れを抑制するためにある程度の厚さを持たせなければならないため、重量が重くなり、容易に持ち運ぶことができない。
【0008】
地中梁のように「せい」の大きな部材は、打ち継ぎ処置を行う際に、どうしても上部からのアプローチとなるため、打継ぎ部において隙間が生じやすく、型枠の隙間からコンクリートペーストが漏れ出す現象(以下、「ノロ漏れ」という。)が多発するおそれがある。上述した各特許文献に記載された技術を含めて、従来の技術では、打継ぎ部において隙間を生じさせるおそれがあり、ノロ漏れを防止するためには、さらなる工夫を行わなければならない。
【0009】
本発明は、上述した事情に鑑み提案されたもので、既打設区間(先行打設部)の間に挟まれるようにして未打設区間(後行打設部)を敢えて設けることにより、打ち継ぎ処置の施工タイミングが拘束されないばかりでなく、打継ぎ面において隙間を作らないようにして、ノロ漏れの発生を防止することが可能なコンクリート打ち継ぎ方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る梁構築におけるコンクリート打ち継ぎ方法は、上述した目的を達成するため、以下の特徴点を備えている。すなわち、本発明に係る梁構築におけるコンクリート打ち継ぎ方法は、梁を構築する際に、梁の長さ方向を所定区間に区切ってコンクリートを打ち継ぐための方法であって、既打設区間で挟まれた未打設区間を設け、既打設区間においてコンクリートの打設が終了した後に、未打設区間においてコンクリートの打設を行うことにより、一体となった梁を構築するようにしたものである。
【0011】
さらに詳しく説明すると、本発明は、連続してコンクリートを打設することにより梁を構築するのではなく、梁の長さ方向に間隔を置いてコンクリートを打設することにより先行打設部(既打設部)を構築する。その後、先行打設部(既打設部)の間にコンクリートを打設して後行打設部を構築することにより、全体として一体となった梁を構築するようにした技術である。
【0012】
このため、本発明に係る梁構築におけるコンクリート打ち継ぎ方法は、コンクリートの打設開始側において梁構築位置の両側面に型枠を設置するとともに、コンクリート打設方向の終端に、打設したコンクリートが漏れ出すことを防止するためのコンクリート止め型枠を設置し、型枠とコンクリート止め型枠とで囲まれた空間内にコンクリートを打設して第1の先行打設部を構築する工程と、第1の先行打設部から所定距離を隔てて、梁構築位置の両側面に型枠を設置するとともに、第1の先行打設部と対向するようにして、打設したコンクリートが漏れ出すことを防止するためのコンクリート止め型枠を設置し、型枠とコンクリート止め型枠とで囲まれた空間内にコンクリートを打設して第2の先行打設部を構築する工程と、第1の先行打設部と第2の先行打設部との間において梁構築位置の両側面に型枠を設置し、型枠と第1の先行打設部と第2の先行打設部とで囲まれた空間内にコンクリートを打設して後行打設部を構築する工程とを含んでいる。
【0013】
また、上述したコンクリート打ち継ぎ方法において、第1の先行打設部及び第2の先行打設部において使用するコンクリート止め型枠は、配置された鉄筋を避けて設置する略水平方向の横板部と、当該横板部と重ね合わせることにより、横板部と配置された鉄筋との間に生じた隙間を閉塞する縦板部とからなり、第1の先行打設部と第2の先行打設部との間に設置する型枠は、第1の先行打設部と第2の先行打設部の外側面に掛け渡して固定した板材から構成することが可能である。
【0014】
また、上述したコンクリート打ち継ぎ方法において、コンクリート止め型枠は、型枠を設置するための補助部材に対して、取付部材を用いて取り付け、第1の先行打設部及び第2の先行打設部の外側面には、型枠を固定するための固定部材を埋め込んでおくことが可能である。取付部材は、例えば、断面略コ字状のクランプからなり、コンクリート止め型枠と縦桟木とを挟み込んで、縦桟木に対してコンクリート止め型枠を取り付けて固定する。また、取付部材として、コンクリート止め型枠を縦桟木に打ち付ける釘やネジを用いてもよい。固定部材は、例えば、インサートからなる。
【0015】
また、上述したコンクリート打ち継ぎ方法において、第1の先行打設部の終端面と、当該第1の先行打設部の終端面と対向する第2の先行打設部のコンクリート打設方向の終端面の中間位置は、梁を掛け渡す一対の柱間の距離Lに対して、第1の先行打設部の柱側端面(第2の先行打設部に対向する終端面とは反対側の端面)から1/4Lの距離とすることが好ましい。さらに、第1の先行打設部の終端面と、第2の先行打設部の終端面とは、600~1,000mm離隔していることが好ましい。
【0016】
梁を掛け渡す一対の柱間の距離の1/4付近は、梁に対する曲げ応力の影響が小さい位置であり、この位置を後行打設部の略中央位置とすることにより、打ち継ぎ面において、梁に対する応力の作用が支障となることはない。また、第1の先行打設部の終端面と、第2の先行打設部の終端面との距離(後行打設部の長さ)を600~1,000mmとするのは、後行打設部の中に作業者が入り込んで、コンクリート止め型枠を施工することができるようにするためである。すなわち、600~1,000mmが、作業者が後行打設部の中に入り込んで作業を行うために適切な距離となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る梁構築におけるコンクリート打ち継ぎ方法によれば、敢えてコンクリートの打ち継ぎを連続させないことで、梁せいが大きい断面の場合には作業員が打ち継ぎ部位の中に入って打ち継ぎたい断面部分にコンクリート止め型枠を設置し、梁せいが小さい断面の場合には打ち継ぎ部位の側面から直接、打ち継ぎたい断面部分にコンクリート止め型枠を設置することができるので、コンクリート止め型枠の施工精度が向上し、打ち継ぎ面におけるノロ漏れを最小限に抑えることができる。さらに、打ち継ぎ処置の施工タイミングが拘束されることがなく、柔軟な施工計画を立てることができる。
【0018】
また、先行打設部に型枠を固定するための固定部材(例えば、インサート)を埋め込んでおくことにより、型枠を設置する作業者(型枠大工)の技量に左右されず、後行打設部において確実に型枠を設置することができるので、作業時間を短縮することができるとともに、施工品質を向上させることができる。
【0019】
また、先行打設部と後行打設部との位置関係を適切に設定することにより、設計通りの強度で梁を構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施形態に係るコンクリート打ち継ぎ方法による打ち継ぎ部を上方から見た状態を示す模式図。
【
図2】本発明の実施形態に係るコンクリート打ち継ぎ方法の手順を説明する説明図(1)。
【
図3】本発明の実施形態に係るコンクリート打ち継ぎ方法の手順を説明する説明図(2)。
【
図4】本発明の実施形態に係るコンクリート打ち継ぎ方法の手順を説明する説明図(3)。
【
図5】本発明の実施形態に係るコンクリート打ち継ぎ方法の手順を説明する説明図(4)。
【
図6】本発明の実施形態に係るコンクリート打ち継ぎ方法においてスラブが存在する場合の打ち継ぎ部を示す説明図。
【
図7】本発明の実施形態に係るコンクリート打ち継ぎ方法による打ち継ぎ部に設置するコンクリート止め型枠の模式図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係るコンクリート打ち継ぎ方法を説明する。
図1~
図7は本発明の実施形態に係るンクリート打ち継ぎ方法を示すもので、
図1は打ち継ぎ部を上方から見た状態を示す模式図、
図2~
図5はコンクリート打ち継ぎ方法の手順を説明する説明図、
図6スラブが存在する場合の打ち継ぎ部を示す説明図、
図7はコンクリート止め型枠の模式図である。
【0022】
<コンクリート打ち継ぎ方法の概要>
本発明の実施形態に係るコンクリート打ち継ぎ方法は、
図1~
図7に示すように、梁を構築する際に、コンクリートの打ち継ぎ部位に別日程の打設エリアを設けることにより、梁せいが大きい断面の場合には作業員が打ち継ぎ部位の中に入って、梁せいが小さい断面の場合には打ち継ぎ部位の側面から、打ち継ぎたい断面部分に直接、コンクリート止め型枠を設置することができる点にある。
【0023】
このようなコンクリート打ち継ぎ方法であれば、主筋の位置誤差に対してもフレキシブルに対応が可能であり、打ち継ぎ部位に使用する材料(コンクリート止め型枠等)もベニヤ材を使用することができるので汎用性が高い。また、ノロ漏れをほぼなくすことが可能である。さらに、コンクリート止め型枠の脱型も問題なく行うことができ、コンクリート打ち継ぎ部分において脆弱躯体が発生したり、ラスが露出して錆の発生を誘発したりすることもない。
【0024】
<梁部材の構築>
本発明に係るコンクリート打ち継ぎ方法は、一対の柱間に構築する梁部材において、梁部材の全長にわたって1工程でコンクリートを打設するのではなく、梁部材を所定区間に区切って複数工程でコンクリートを打ち継ぐことにより、一連となった梁部材を構築する際に適用する方法である。このコンクリート打ち継ぎ方法は、間隔を空けて設けた先行打設部と、隣り合う先行打設部の間に設ける後行打設部とからなる。
【0025】
<配筋と型枠の設置>
従来から実施されている梁部材の構築方法では、まず初めに、梁部材に必要な配筋を行う。そして、梁部材の両側面を規制するための型枠を設置し、コンクリート打継ぎ部にコンクリートを堰き止めるための堰き止め部材(エアーフェンス等)を取り付け、型枠と堰き止め部材とで囲われた空間内にコンクリートを打設する。本発明に係るコンクリート打ち継ぎ方法においても、梁部材に必要な配筋を行う工程と、型枠を設置するための補助部材を配設する工程は、従来から実施されている梁部材の構築方法とほぼ同様である。
【0026】
具体的には、
図1に示すように、コンクリート打設部の両側面に型枠10を設置するための補助部材として、梁部材の長さ方向であって、梁部材の両側部に位置するように単管パイプ20を設置し、配筋部30を隔てて対向する単管パイプ20の内側に、所定間隔で縦桟木40を設置する。そして、配筋部30を隔てて対向する型枠10の間隔を規定するための間隔規定部材50であるプラスチックコーン51及びセパレータ52を設置して、配筋部30を隔てて対向する縦桟木40の間であって、梁部材の長さ方向に、それぞれ板材からなる型枠10を設置する。間隔規定部材50は、配筋部30を隔てて対向する単管パイプ20に対して、それぞれ緊結金具53を用いて固定して掛け渡すことにより、型枠10の間隔(梁部材の幅)を規定する。ここまでの工程は、従来から実施されている梁部材の構築方法とほぼ同様である。
【0027】
本発明に係るコンクリート打ち継ぎ方法が従来の技術と異なるのは、間隔を空けてコンクリートを打設した先行打設部60(60a、60b)と、先行打設部60(60a、60b)を構築した後に、隣り合う先行打設部60(60a、60b)の間にコンクリートを打設して後行打設部70を設ける点である。さらに、本発明に係るコンクリート打ち継ぎ方法では、先行打設部60(60a、60b)と後行打設部70との打継ぎ部に設置するコンクリート止め型枠80及びその設置方法にも特徴がある。
【0028】
図2~
図6において、先行打設部60(60a、60b)及び後行打設部70の理解を容易にするため、後行打設部70の両側部に設置する型枠10は図示しているが、先行打設部60の両側部に設置する型枠10は図示していない。先行打設部60(60a、60b)においてコンクリートを打設する際には、両側部に型枠10を設置し、コンクリートが硬化した後に脱型するのは、従来から実施されている梁部材の構築方法とほぼ同様である。また、各図において、説明を容易なものとするため、部材の配置や鉄筋の数等が相違する場合があるが、各部材等の基本的な構成は同様である。
【0029】
<先行打設部>
先行打設部60は、まず最初にコンクリートを打設する第1の先行打設部60aと、第1の先行打設部60aと間隔を空けてコンクリートを打設する第2の先行打設部60bとからなる。第1の先行打設部60aの終端面(小口)と、当該第1の先行打設部60aの終端面(小口)と対向する第2の先行打設部60bの終端面(小口)には、コンクリート止め型枠80を設置する。そして、梁の両側面であって梁の長さ方向に設置した型枠(図示せず)と、コンクリート止め型枠80との間隔内にコンクリートを打設することにより、第1の先行打設部60a及び第2の先行打設部60bを構築する。
【0030】
<コンクリート止め型枠>
コンクリート止め型枠80は、第1の先行打設部60aの終端面(小口)及び第2の先行打設部60bの終端面(小口)に設置して、各先行打設部60(60a、60b)に打設したコンクリートが漏れ出すことを阻止するための部材であり、配置された鉄筋90を避けて設置する。すなわち、
図7に示すように、コンクリート止め型枠80は、配置された鉄筋90を避けて設置する略水平方向の横板部81と、当該横板部81と重ね合わせることにより、横板部81と鉄筋90との間に生じた隙間を閉塞する縦板部82とからなる。このコンクリート止め型枠80は、例えば、ベニヤ板を利用する。
【0031】
本実施形態では、まず初めに、鉄筋90(主筋、腹筋等)を避けるようにして、横板部81を設置する。横板部81は、鉄筋90を避けるため、上下方向に複数に分割されている。続いて、横板部81に重ね合わせる縦板部82を設置する。縦板部82は、鉄筋90を避けるため、左右方向に複数に分割されている。このようにして、横板部81と縦板部82とを重ね合わせることにより、鉄筋90を挟み込んで、第1の先行打設部60aの終端面(小口)及び第2の先行打設部60bの終端面(小口)においてコンクリートを堰き止めることができる。なお、横板部81は水平方向に設置するだけではなく、配置された鉄筋90の位置に応じて斜め横方向に設置する場合があり、縦板部82は鉛直方向に設置するだけではなく、配置された鉄筋90の位置に応じて斜め縦方向に設置する場合がある。
【0032】
<取付部材>
コンクリート止め型枠80は、型枠10を設置するための補助部材に対して、取付部材100を用いて取り付ける(固定する)。型枠10を設置するための補助部材とは、例えば、梁部材の長さ方向であって、梁部材の両側部に位置するように設置した単管パイプ20と、配筋部30を隔てて対向する単管パイプ20の内側に、所定間隔で設置した縦桟木40等のことである。具体的には、コンクリート止め型枠80を構成する横板部81または縦板部82の外側(後行打設部70側)から縦桟木40に対して釘(図示せず)を打ち込み、あるいはネジ(図示せず)をねじ込むことにより、コンクリート止め型枠80を取り付けて固定する。さらに、コンクリート止め型枠80の上部と縦桟木40の間に、取付部材100として機能する断面コ字状のクランプ部材を取り付けることにより、コンクリート止め型枠80を縦桟木40に対して強固に固定することができる。
【0033】
<固定部材>
後行打設部70の型枠10を固定するための固定部材110は、第1の先行打設部60a及び第2の先行打設部60bの打設が終了した後に、第1の先行打設部60a及び第2の先行打設部60bの両側面に型枠10を固定するための部材であり、例えば、SUS製のインサートからなる。この固定部材110は、第1の先行打設部60a及び第2の先行打設部60bにコンクリートを打設する際に、第1の先行打設部60a及び第2の先行打設部60bの両側面に埋め込んでおく。固定部材(インサート)110を埋め込むには、予め型枠10の内面にインサート取付部材(図示せず)等を用いて、固定部材(インサート)110を取り付けておけばよい。図示しないが、インサートは、例えば、有底筒状の部材であって、内面には雌ネジ部を設けてあり、第1の先行打設部60a及び第2の先行打設部60bの外側面に開放端が位置するようになっている。
【0034】
また、後行打設部70の型枠10には、固定部材110であるインサートに対向する位置にボルト挿通孔(図示せず)を開口しておく。そして、
図4に示すように、第1の先行打設部60a及び第2の先行打設部60bの型枠(図示せず)を取り外した(脱型した)後に、後行打設部70の型枠10に設けたボルト挿通孔に固定ボルト120を挿通し、固定ボルト120の先端部を固定部材110であるインサートにねじ込むことにより、第1の先行打設部60a及び第2の先行打設部60bの両側面に、後行打設部70の型枠10を取り付けて固定することができる。
【0035】
<後行打設部>
後行打設部70は、第1の先行打設部60aと第2の先行打設部60bとの間に型枠10を設置した後に、コンクリートを打設することにより構築する。後行打設部70におけるコンクリートの打設は、例えば、第1の先行打設部60aと第2の先行打設部60bにコンクリートを打設した後の2~3日以内であり、最大でも1週間程度以内に後行打設部70におけるコンクリートの打設を完了する。また、第1の先行打設部60aと後行打設部70の打ち継ぎ面及び第2の先行打設部60bと後行打設部70の打ち継ぎ面に、隙間(打ち継ぎ目地)を設けておき、この打ち継ぎ目地にシーリング材等を充填することにより、打ち継ぎ面同士の接着を十分なものとして雨水の浸入等を防水する。打ち継ぎ目地は、例えば、
図2、3、6に示すように、第1の先行打設部60aの終端面(小口)及び第2の先行打設部60bの終端面(小口)の上部に角材130を設置することにより形成する。
【0036】
<先行打設部と後行打設部との位置関係>
第1の先行打設部60aの終端面(小口)と、当該第1の先行打設部60aの終端面(小口)と対向する第2の先行打設部60bのコンクリート打設方向の終端面(小口)の中間位置は、梁を掛け渡す一対の柱間の距離(柱・柱間のスパン)をLとした場合に、第1の先行打設部60aの柱側端面(第2の先行打設部60bに対向する終端面とは反対側の端面)から1/4Lの距離とする。第1の先行打設部60aの柱側端面とは、
図2~6に示すように、第1の先行打設部60aの柱梁接合部のことである。そして、第1の先行打設部60aの終端面(小口)と、前2の先行打設部60の終端面(小口)とは、600~1,000mm(後行打設部70の長さ方向の中間位置からそれぞれ300~500mm)離隔している。すなわち、梁を掛け渡す一対の柱間のスパンをLとした場合に、後行打設部70の中間位置の長さと第2の先行打設部60bとの長さとの和は3/4Lとなる。また、第1の先行打設部60aと第2の先行打設部60bとの間隔(後行打設部70の長さ)は、600~1,000mmとなる。
【0037】
<梁コンクリートの打設手順>
図2~
図6を参照して、本発明のコンクリート打ち継ぎ方法を用いて梁を構築する手順を説明する。本発明のコンクリート打ち継ぎ方法を用いて梁を構築するには、
図2に示すように、第1の先行打設部60aの終端面(小口)に角材130とコンクリート止め型枠80を設置する。梁を構築する箇所にスラブ140が存在する場合には、
図6に示すように、スラブ140の終端面(小口)に角材130とコンクリート止め型枠150を設置するとともに、
図2に示した場合と同様に、第1の先行打設部60aの終端面(小口)に角材130とコンクリート止め型枠80を設置する。
【0038】
第1の先行打設部60aの終端面(小口)にコンクリート止め型枠80を設置したら、
図3に示すように、第1の先行打設部60aにコンクリートを打設する。そして、所定日数(例えば1日)経過後又は同日に、
図3、4に示すように、第1の先行打設部60aと同様に、第2の先行打設部60bのコンクリート打設方向の終端面(小口)に角材130とコンクリート止め型枠80を設置し、第2の先行打設部60bにコンクリートを打設する。
【0039】
本実施形態では、
図1に示すように、第1の先行打設部60aの終端面(小口)及び第2の先行打設部60bの終端面(小口)にコンクリート止め型枠80を設置する際に、第1の先行打設部60aと第2の先行打設部60bの間隔内(後行打設部70の打設位置)に、作業者160が入り込んで作業を行うことができる。また、梁せいが小さい断面の場合には、打ち継ぎ部位の側面から直接、打ち継ぎたい断面部分にコンクリート止め型枠80を設置する。
【0040】
第1の先行打設部60a及び第2の先行打設部60bにおいてコンクリートの打設が完了し、所定の養生期間が経過したら、第1の先行打設部60aの終端面(小口)及び第2の先行打設部60bの終端面(小口)に設置したコンクリート止め型枠80と、第1の先行打設部60a及び第2の先行打設部60bの側面に設置した型枠(図示せず)を取り外す(脱型する)。コンクリート止め型枠80は横板部81及び縦板部82を組み合わせて縦桟木40に固定しているため、容易に分解して脱型することができる。
【0041】
第1の先行打設部60a及び第2の先行打設部60bの両側面には、固定部材(インサート)110が埋め込んである。この固定部材(インサート)110を用いて、後行打設部60bの型枠10を取り付ける。すなわち、
図4に示すように、後行打設部70の型枠10に設けたボルト挿通孔(図示せず)に固定ボルト120を挿通し、固定ボルト120の先端部を固定部材110であるインサートにねじ込むことにより、第1の先行打設部60a及び第2の先行打設部60bの両側面に、後行打設部70の型枠10を取り付けて固定する。
【0042】
後行打設部70の両側部に型枠10を取り付けたら、後行打設部70にコンクリートを打設する。そして、所定の養生期間が経過したら、型枠10を取り外して、後行打設部70の構築を完了する。上述した手順により、
図5に示すように、第1の先行打設部60a、後行打設部70、第2の先行打設部60bが連続した梁を構築することができる。
【0043】
一般的に、コンクリートを打ち継いで梁を構築する場合には、梁に対する曲げ応力の影響が少ない位置を打継ぎ部とする必要がある。したがって、本実施形態では、第1の先行打設部60aの終端面(小口)と対向する第2の先行打設部60bのコンクリート打設方向の終端面(小口)の中間位置を、柱と柱の間隔(スパンL)の1/4付近(第1の先行打設部60aの柱側端面から1/4L程度)としている。また、第1の先行打設部60aと第2の先行打設部60bとの間隔(後行打設部70の長さ)を600~1,000mmとしたのは、
図1に示すように、作業者が、第1の先行打設部60aと第2の先行打設部60bとの間隔内に入り込んで、コンクリート止め型枠80の設置作業等を行えるようにするためである。
【0044】
<従来技術との相違>
従来、コンクリートを打ち継いで梁を構築する際に、コンクリートを連続的に打ち継いでいた。すなわち、従来のコンクリート打ち継ぎ方法では、既にコンクリートを打設した打設区間に連続させて次の打設区間にコンクリートを打設し、本発明のように、離隔して設けた既打設区間の間に未打設区間を設けるという施工方法は存在しなかった。これは、構造上の理由ではなく、打ち継ぎ方法が慣習化されており、既打設区間の間に未打設区間を設けるという発想に至らなかったためである。
【0045】
本発明者は、既打設区間(先行打設部60a、60b)の間に未打設区間(後行打設部70)を設けたとしても、日を置かずに(例えば、2~3日後に)、未打設区間(後行打設部70)においてコンクリートの打設を行えば、構造上の問題が発生することはないという知見を得た。そして、既打設区間(先行打設部60)の間に未打設区間(後行打設部70)を設けた場合には、コンクリート止め型枠80の設置作業を容易に行うことができることに着目して本発明に想到した。
【0046】
すなわち、本発明は、打ち継ぎ部位において別日程でコンクリート打設を行う打設区間を設けるという従来には存在しなかった発想により、打ち継ぎ部の断面に直接、コンクリート止め型枠80を設置することにより、主筋や腹筋の配設位置の誤差に対してフレキシブルに対応が可能となった。また、コンクリート止め型枠80としてベニヤ板を使用することができるので、汎用性を高めることができる。
【0047】
さらに、コンクリート止め型枠80からのノロ漏れもほぼ無くすことができるだけではなく、コンクリート止め型枠80の脱型も容易となり、コンクリートの打ち継ぎ部分に脆弱躯体が存在せず、ラスが露出しないので錆を誘発することもない。
【0048】
なお、コンクリート製の梁と柱との接続部分において別工程でコンクリートを打設するという技術は存在するが、これらの技術は、継手構造に関する技術や、コンクリート接続部分の断面性能を向上させるための技術である。したがって、これらの従来技術は、本発明とは異なる発想に基づくものであり、本発明のように、既打設区間(先行打設部60a、60b)の間に敢えて未打設区間(後行打設部70)を設け、複数の打設区間において別日程でコンクリートを打設することにより、上述した本発明に特有の効果を奏することを目的としたものではない。
【符号の説明】
【0049】
10 型枠
20 単管パイプ
30 配筋部
40 縦桟木
50 間隔規定部材
51 プラスチックコーン
52 セパレータ
53 緊結金具
60 先行打設部
60a 第1の先行打設部
60b 第2の先行打設部
70 後行打設部
80 コンクリート止め型枠
81 横板部
82 縦板部
90 鉄筋
100 取付部材
110 固定部材
120 固定ボルト
130 角材
140 スラブ
150 スラブのコンクリート止め型枠
160 作業者