(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023044738
(43)【公開日】2023-04-03
(54)【発明の名称】加圧装置、それを用いた顕微ラマン散乱測定装置、X線回折装置、および光学顕微鏡装置
(51)【国際特許分類】
G01N 23/20041 20180101AFI20230327BHJP
G01N 23/207 20180101ALI20230327BHJP
G01N 21/65 20060101ALI20230327BHJP
G01N 1/28 20060101ALI20230327BHJP
【FI】
G01N23/20041
G01N23/207
G01N21/65
G01N1/28 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021152744
(22)【出願日】2021-09-21
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】遊佐 斉
【テーマコード(参考)】
2G001
2G043
2G052
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001BA18
2G001CA01
2G001GA16
2G001JA14
2G001RA01
2G001RA20
2G043CA05
2G043DA06
2G043DA08
2G043EA03
2G043GA07
2G043GB08
2G052DA25
2G052GA11
2G052GA19
2G052GA32
2G052HC25
2G052JA09
(57)【要約】
【課題】 超高圧まで連続加圧を可能とする加圧装置およびそれを用いた測定装置を提供すること。
【解決手段】 本発明の試料に圧力を印加する加圧装置は、試料を挟持するダイヤモンドアンビルセルと、ダイヤモンドアンビルセルに機械的に圧力を印加する押圧機構と、ダイヤモンドアンビルセルに電気信号による圧力を印加するアクチュエータと、アクチュエータがダイヤモンドアンビルセルに印加する圧力を検知する圧力センサとを備える。加圧装置は、押圧機構、アクチュエータおよび圧力センサの動作を制御する制御機構をさらに備えてもよい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に圧力を印加する加圧装置であって、
前記試料を挟持するダイヤモンドアンビルセルと、
前記ダイヤモンドアンビルセルに機械的に圧力を印加する押圧機構と、
前記ダイヤモンドアンビルセルに電気信号による圧力を印加するアクチュエータと、
前記アクチュエータが前記ダイヤモンドアンビルセルに印加する圧力を検知する圧力センサと
を備える、加圧装置。
【請求項2】
前記押圧機構は、ステッピングモータ、油圧ピストン装置およびガス圧メンブレン装置からなる群から選択される、請求項1に記載の加圧装置。
【請求項3】
前記押圧機構は、前記ステッピングモータにより駆動される回転テーブルを有すると共に、
前記回転テーブルは、前記アクチュエータが貫通する中空部を有し、
前記押圧機構は、前記回転テーブルの中空部を貫通した前記アクチュエータの端部を収容する凹状収容室を備える、請求項2に記載の加圧装置。
【請求項4】
前記アクチュエータは、積層型ピエゾアクチュエータである、請求項1~3のいずれかに記載の加圧装置。
【請求項5】
前記アクチュエータは、中空である、請求項1~4のいずれかに記載の加圧装置。
【請求項6】
前記アクチュエータのストロークは、50μm以上200μm以下の範囲である、請求項1~5のいずれかに記載の加圧装置。
【請求項7】
前記圧力センサは、水晶圧電式センサである、請求項1~6のいずれかに記載の加圧装置。
【請求項8】
前記押圧機構、前記アクチュエータおよび前記圧力センサの動作を制御する制御機構を備える、請求項1~7のいずれかに記載の加圧装置。
【請求項9】
前記制御機構は、
(A)前記押圧機構が前記ダイヤモンドアンビルセルに圧力を印加し、
(B)前記押圧機構が前記ダイヤモンドアンビルセルに圧力を印加した状態で、前記圧力センサが前記アクチュエータによる圧力値を測定し、前記アクチュエータが圧力開始点となるよう調整し、
(C)前記押圧機構が前記ダイヤモンドアンビルセルに圧力を印加した状態で、前記圧力開始点に調整された前記アクチュエータが前記ダイヤモンドアンビルセルに連続的に圧力を印加する、
ように前記押圧機構、前記アクチュエータおよび前記圧力センサの動作を制御する、請求項8に記載の加圧装置。
【請求項10】
前記制御機構は、
(D)前記アクチュエータが前記ダイヤモンドアンビルセルに圧力を印加した状態で、前記押圧機構が前記ダイヤモンドアンビルセルにさらなる圧力を印加し、
(E)前記押圧機構が前記ダイヤモンドアンビルセルにさらなる圧力を印加した状態で、前記圧力センサが前記アクチュエータによる圧力値を測定し、前記アクチュエータが圧力開始点となるよう調整し、
(F)前記押圧機構が前記ダイヤモンドアンビルセルにさらなる圧力が印加した状態で、前記圧力開始点に調整された前記アクチュエータが前記ダイヤモンドアンビルセルに圧力を印加する、
ように前記押圧機構、前記アクチュエータおよび前記圧力センサの動作を制御する、請求項9に記載の加圧装置。
【請求項11】
前記制御機構は、前記動作(D)、前記動作(E)および前記動作(F)を繰り返すように前記押圧機構、前記アクチュエータおよび前記圧力センサの動作を制御する、請求項10に記載の加圧装置。
【請求項12】
前記制御機構は、
前記アクチュエータに電圧を印加するアクチュエータ駆動回路と、
前記圧力センサの圧力を変換し、測定する変換測定部と、
前記押圧機構に駆動電流を送るモータ駆動回路と、
前記アクチュエータ駆動回路、前記変換測定部および前記モータ駆動回路を制御する中央演算処理部と
を備える、請求項8~11のいずれかに記載の加圧装置。
【請求項13】
前記アクチュエータ駆動回路に接続されたファンクションジェネレータをさらに備える、請求項12に記載の加圧装置。
【請求項14】
前記モータ駆動回路に接続されたコントローラをさらに備える、請求項12または13に記載の加圧装置。
【請求項15】
前記ダイヤモンドアンビルセルと前記アクチュエータとの間に軸受をさらに備える、請求項1~14のいずれかに記載の加圧装置。
【請求項16】
請求項1~15のいずれかに記載の加圧装置を備えた顕微ラマン散乱測定装置。
【請求項17】
請求項1~15のいずれかに記載の加圧装置を備えたX線回折装置。
【請求項18】
請求項1~15のいずれかに記載の加圧装置を備えた光学顕微鏡装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加圧装置およびそれを用いた測定装置に関し、詳細には、ダイヤモンドアンビルセルを用いた超高圧加圧装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイヤモンドアンビルセル(DAC)の加圧は依然として多くの場合、バネの力を使った手動によるねじ込み操作によりをおこなわれおり、X線回折・ラマン散乱測定等で格子の圧縮率をはじめとする結晶構造に関するデータの収集をおこなう際、都度加圧と位置調整を必要とするため、データ精度が失われる原因となっている。
【0003】
また、100万気圧を超える圧力発生領域は、その発生原理の必然から極小部分に限られるため、精緻な技量が必要とされ、さらに、その最高到達目標圧力が高くなればなるほど、圧力-荷重曲線が急峻となることにより圧力制御が困難となっている。そこで、いくつかの自動加圧による連続加圧が試みられてきた(例えば、非特許文献1~3を参照)。
【0004】
例えば、非特許文献1は、てこの原理を利用したレバー式DACにパルスモータをとりつけ加圧する方法を開示する。非特許文献2は、ヘリウムガス等の高圧ガスを使用するガス圧メンブレンによるDAC加圧方法を開示する。最近では、非特許文献3は、ピエゾアクチュエータを利用する加圧方法を開示する。
【0005】
従来のバネの力やねじによる加圧は、都度加圧が必要となり、加圧の連続性に欠け、データの稠密性に影響する。非特許文献2によるガス圧メンブレンを利用した加圧は、高圧ガスの使用が不可欠であり。アンビルの破損時にメンブレンが不可逆的に損傷するので、再利用が困難である。ガス圧制御によるメンブレンの膨張には遅れがあり、圧力の追従性に限界がある。
【0006】
非特許文献1のようなパルスモータ等による機械的加圧方式は、X線窓を確保することが困難であるため、てこの原理による間接加圧を必要とし、パルス制御にも限界がある。また、非特許文献3のようなピエゾアクチュエータのみの加圧では、ストロークに限度があり、加圧開始点が把握できないと効率的加圧に支障が生じる。一般的なピエゾアクチュエータはX線を透過する穴がないため、高圧下でX線回折実験をおこなうことが難しい。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】H.-K.Mao,ら,Theory and Practice-Diamond-Anvil Cells and Probes for High P-T Mineral Physics Studies,Chapter December 2007,DOI:10.1016/B978-044452748-6/00037-7
【非特許文献2】Stanislav V.Sinogeikinら,Rev.Sci.Instrum. 86,072209(2015)
【非特許文献3】W.J.Evansら,Review of Scientific Instruments 78,073904(2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上から、本発明の課題は、超高圧まで連続加圧を可能とする加圧装置およびそれを用いた測定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による試料に圧力を印加する加圧装置は、例えば
図1、
図2に示すように、試料Sを挟持するダイヤモンドアンビルセル110と、ダイヤモンドアンビルセル110に機械的に圧力を印加する押圧機構120と、ダイヤモンドアンビルセル110に電気信号による圧力を印加するアクチュエータ130と、アクチュエータ130がダイヤモンドアンビルセル110に印加する圧力を検知する圧力センサ140とを備え、これにより上記課題を解決する。
前記押圧機構は、ステッピングモータ、油圧ピストン装置およびガス圧メンブレン装置からなる群から選択されてもよい。
前記アクチュエータは、積層型ピエゾアクチュエータであってもよい。
前記アクチュエータは、中空であってもよい。
前記アクチュエータのストロークは、50μm以上200μm以下の範囲であってもよい。
前記圧力センサは、水晶圧電式センサであってもよい。
前記押圧機構、前記アクチュエータおよび前記圧力センサの動作を制御する制御機構を備えてもよい。
前記制御機構は、例えば
図4に示すように、(A)前記押圧機構が前記ダイヤモンドアンビルセルに圧力を印加し、(B)前記押圧機構が前記ダイヤモンドアンビルセルに圧力を印加した状態で、前記圧力センサが前記アクチュエータによる圧力値を測定し、前記アクチュエータが圧力開始点となるよう調整し、(C)前記押圧機構が前記ダイヤモンドアンビルセルに圧力を印加した状態で、前記圧力開始点に調整された前記アクチュエータが前記ダイヤモンドアンビルセルに連続的に圧力を印加するように、前記押圧機構、前記アクチュエータおよび前記圧力センサの動作を制御してもよい。
前記制御機構は、例えば
図4に示すように、(D)前記アクチュエータが前記ダイヤモンドアンビルセルに圧力を印加した状態で、前記押圧機構が前記ダイヤモンドアンビルセルにさらなる圧力を印加し、(E)前記押圧機構が前記ダイヤモンドアンビルセルにさらなる圧力を印加した状態で、前記圧力センサが前記アクチュエータによる圧力値を測定し、前記アクチュエータが圧力開始点となるよう調整し、(F)前記押圧機構が前記ダイヤモンドアンビルセルにさらなる圧力が印加した状態で、前記圧力開始点に調整された前記アクチュエータが前記ダイヤモンドアンビルセルに圧力を印加するように、前記押圧機構、前記アクチュエータおよび前記圧力センサの動作を制御してもよい。
前記制御機構は、前記動作(D)、前記動作(E)および前記動作(F)を繰り返すように前記押圧機構、前記アクチュエータおよび前記圧力センサの動作を制御してもよい。
前記制御機構は、前記アクチュエータに電圧を印加するアクチュエータ駆動回路と、前記圧力センサの圧力を変換し、測定する変換測定部と、前記押圧機構に駆動電流を送るモータ駆動回路と、前記アクチュエータ駆動回路、前記変換測定部および前記モータ駆動回路を制御する中央演算処理部とを備えてもよい。
前記アクチュエータ駆動回路に接続されたファンクションジェネレータをさらに備えてもよい。
前記モータ駆動回路に接続されたコントローラをさらに備えてもよい。
前記ダイヤモンドアンビルセルと前記アクチュエータとの間に軸受をさらに備えてもよい。
本発明による顕微ラマン散乱測定装置は、上述の加圧装置を備え、これにより上記課題を解決する。
本発明によるX線回折装置は、上述の加圧装置を備え、これにより上記課題を解決する。
本発明による光学顕微鏡装置は、上述の加圧装置を備え、これにより上記課題を解決する。
本発明による試料に圧力を印加する加圧装置において、例えば
図1に示すように、好ましくは、押圧機構120は、ステッピングモータ121により駆動される回転テーブル125を有すると共に、回転テーブル125は、アクチュエータ130が貫通する中空部を有し、押圧機構120は、回転テーブル125の中空部125aを貫通したアクチュエータ130の端部を収容する凹状収容室127を備えるとよい。このように構成すると、アクチュエータ130が押圧機構に設けられる凹状収容室に収容されることが可能となり、ダイヤモンドアンビルセルの取り付け位置が低くてすむため、例えば、顕微ラマン散乱測定装置、X線回折装置、光学顕微鏡装置との組み合わせが容易になる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の加圧装置は、アクチュエータを備えるため、連続的にダイヤモンドアンビルセルの試料に加圧することができる。さらに、機械的に圧力を印加する押圧機構を備えるため、アクチュエータによる連続的加圧と、押圧機構による段階的な大きな加圧とを併用することにより、ストロークを長く保つことが可能となり、超高圧までの連続加圧を可能にする。特に、圧力センサを備えるため、アクチュエータがダイヤモンドアンビルセルに印加する圧力を検知し、アクチュエータの加圧開始点の特定を可能にする。その結果、ダイヤモンドアンビルセルの破壊を防ぎながら、350GPaといった超高圧までの連続加圧を可能にする。本発明の加圧装置をX線回折装置や顕微ラマン散乱装置に搭載すれば、高圧下においても、高精度な測定データを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の加圧装置を示す模式図で、一部を断面図で表している。
【
図3】本発明の加圧装置の制御機構の一実施例を示すブロック図
【
図4】本発明の加圧装置の制御機構による押圧機構120、アクチュエータ130および圧力センサ140の動作制御を示すフローチャート
【
図5】ピエゾアクチュエータへ印加する電圧と圧力との関係(A)、および、圧力センサが検知した荷重と圧力との関係(B)を示す図
【
図6】ピエゾアクチュエータへ印加する電圧と圧力との関係(A)、および、実行数と加圧変化との関係(B)を示す図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。なお、同様の要素には同様の番号を付し、その説明を省略する。
【0013】
本発明の加圧装置について説明する。
図1は、本発明の加圧装置を示す模式図で、一部を断面図で表している。
図2は、ダイヤモンドアンビルを示す模式図である。
【0014】
本発明の加圧装置100は、試料Sを挟持するダイヤモンドアンビルセル110と、ダイヤモンドアンビルセル110に機械的に圧力を印加する押圧機構120と、ダイヤモンドアンビルセル110に電気信号による圧力を印加するアクチュエータ130と、アクチュエータ130がダイヤモンドアンビルセル110に印加する圧力を検知する圧力センサ140とを備える。本発明の加圧装置100は、機械的な押圧機構120とアクチュエータ130との併用により、連続的に350GPaといった超高圧まで試料に圧力を印加できる。
【0015】
図2に、ダイヤモンドアンビルセル110内のダイヤモンドアンビル210を拡大して示す。一対のダイヤモンドアンビル210は、ガスケット220を介して試料Sを挟持するようになっている。ダイヤモンドアンビル210の最先端は平坦となっており、その面積が小さいほど、試料Sにかかる荷重は大きくなる。試料Sは、塩化ナトリウム(NaCl)などの圧力媒体物質とともに保持されてよい。一対のダイヤモンドアンビル210は、下台座および上台座で挟持され、治具に装着される。
【0016】
ダイヤモンドアンビル210は、220nmからテラヘルツ、ミリ波、さらにはマイクロ波までの非常に広い波長帯の光を透過することから、例えば、ダイヤモンドアンビル210の上部より赤外線レーザを照射し、高圧状態の試料Sを加熱することが可能である。また、ダイヤモンドアンビル210の下部よりX線を入射すれば、高圧状態の試料SについてX線回折パターンを測定できる。あるいは、ダイヤモンドアンビル210の上部より単色光を入射し、高圧状態の試料Sのラマン散乱スペクトルを測定できる。
【0017】
押圧機構120は、機械的にダイヤモンドアンビルセル110に圧力を印加するが、本明細書において、機械的に圧力を印加するとは、ダイヤモンドアンビルセル110に、てこの原理、バネの力、ねじの力などによる加圧であり、段階的に加圧をするものを意図する。
【0018】
押圧機構120としての回転テーブル用筐体120には、ステッピングモータ121、手動ダイヤル122、筒状収容室周壁123、筒状収容室底板124、凹状収容室127、押しピン128が収容されている。回転テーブル用筐体120の上面には、回転テーブル125とシェル係合部126が露出している。押しピン挿入穴129は、押しピン128を挿入するために、筒状収容室底板124の底板に沿って設けられている。
【0019】
手動ダイヤル122は、ステッピングモータ121に代わり、回転テーブル125の回転を操作する場合に用いる。筒状収容室周壁123と筒状収容室底板124は、凹状収容室127囲う筒状の収容室の隔壁を形成するもので、圧力センサ140と、アクチュエータ130の圧力センサ140側の端部が収容されている。筒状収容室周壁123と筒状収容室底板124は、ここでは、回転テーブル用筐体120の一部としても用いられる構造となっている。押しピン128は押しピン挿入穴129から装着されて、下蓋部134を押圧する構造となっている。押しピン128により、回転テーブル用筐体120とシリンダチューブ131が、下蓋部134、筒状連結部132、ネジ部133を、介して一体的に保持される。
回転テーブル125は中央部125aが中空で、シリンダチューブ131が貫通する中空部内径を有している。シェル係合部126は、一端が回転テーブル125に取り付けられ、他端がシリンダチューブ131の係合面に取り付けられている。シリンダチューブ131の係合面は、例えばシリンダチューブ131の周面に形成された平坦面で、例えば周面に4か所設けられている。シェル係合部126は、シリンダチューブ131の係合面に係止しやすいように、例えばVノッチ型の溝を形成したV字ブロックを2個組み合わせたものでもよい。V字ブロックのVノッチ型の溝の面が、シリンダチューブ131の係合面に当接した状態で、取り付けられる。
【0020】
ステッピングモータ121の回転運動は、移動ガイドとしての、例えばクロスローラベアリング(図示せず)によって、回転テーブル125の回転運動に変換される。回転テーブル125とシリンダチューブ131の係合状態は、回転テーブル125の回転運動が、シェル係合部126を介して、シリンダチューブ131の伸縮に変換されるように構成されている。
【0021】
この結果、ステッピングモータ121の回転運動は、モータの軸が一定の角度ずつ回転することにより、モータの回転角に連動して、回転テーブル125を介して、シリンダチューブ131が伸縮して、ダイヤモンドアンビルセル110を機械的に押圧もしくは減圧する。ステッピングモータ付きの回転テーブルを用いると、角度の設定により精度よく段階的に加圧ができる点が好ましい。
【0022】
なお、この実施例では、ステッピングモータを用いる場合を示しているが、油圧ピストン装置またはガス圧メンブレン装置を用いてもよい。これらは、てこの原理、バネの力、ねじの力、あるいは、油圧・ガス圧増圧装置による加圧を可能とする。油圧ピストン装置あるいはガス圧メンブレン装置を使用する際には、増圧装置とともに用いるとよい。
【0023】
アクチュエータ130は、外部からの電気信号を物理的な伸縮運動に変化できるものであれば特に制限はないが、代表的には、電気信号として電圧を力に変換する圧電素子である。中でも、積層型ピエゾアクチュエータであってよい。積層型であれば、電圧の印加によって、圧電素子の積層数に応じて、数nm~数百μmの範囲の伸縮が可能である。このようなナノメートルオーダの伸縮により、押圧機構120とは異なる連続的加圧が可能となる。
【0024】
例えば、数μmの伸び分に相当するダイヤモンドアンビルセル110に印加される圧力は、例えば、ステッピングモータである押圧機構120において1°回転させた場合に印加する圧力のわずか0.1%に相当する。すなわち、押圧機構120とアクチュエータ130とを併用することにより、押圧機構120で印加される最小圧力ステップの間を、0.1%ステップで埋めることができる。このようにして、連続加圧を可能にする。
このような圧電素子は、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT、Pb(Zr,Ti)O3)、ニオブ酸カリウム(KNN、(K,Na)NbO3)等の薄膜からなる。
【0025】
アクチュエータ130のストローク(すなわち、最大伸縮の幅)には制限はない。ストロークが短ければ、押圧機構120との連動を多く制御すればよく、ストロークが長ければ、押圧機構120との連動を少なく制御すればよい。アクチュエータ130のストロークは、好ましくは、50μm以上200μm以下の範囲である。この範囲であれば、特別なアクチュエータとすることなく、超高圧(350GPaまで)まで連続加圧可能な加圧装置を提供できる。中でも、ストロークが60μm以上100μm以下の範囲を有するアクチュエータは、入手が容易である。
【0026】
アクチュエータ130は、好ましくは、
図1に示すように、中空である。これにより、X線やレーザなどの各種光源と受光部とを組み合わせ、X線回折パターン、ラマン散乱スペクトル等の測定を可能にする。
【0027】
アクチュエータ130は、押圧機構120に噛合されたシリンダチューブ131に装填されていてよく、アクチュエータ130の伸縮に応じて、シリンダチューブ131内でアクチュエータ130は位置調整され得る。シリンダチューブ131の上端には、ダイヤモンドアンビルセル110が篏合されており、押圧機構120による圧力、ならびに、アクチュエータ130による圧力を、効率的にダイヤモンドアンビルセル110に印加できる。
【0028】
シリンダチューブ131の周面には、シェル係合部126と係合するための平坦面が設けられている。シリンダチューブ131の下端には、筒状連結部132が取り付けられている。筒状連結部132の内側周面にはネジ部133としての雌ネジが形成されており、シリンダチューブ131の下端の周面外側に形成されたネジ部133としての雄ネジと螺合する。筒状連結部132は、下端周面に下蓋部134を螺着するためのネジが形成してある。下蓋部134は、アクチュエータ130の下端側に設けられた圧力センサ140を覆っている。
【0029】
図示しないが、ダイヤモンドアンビルセル110とアクチュエータ130との間に軸受を備えてもよい。これにより、ダイヤモンドアンビルセル110の下面とアクチュエータ130との間で生じる回転方向の摩擦が低減する。その結果、せん断応力によるアクチュエータの破損を防止できる。
【0030】
圧力センサ140は、アクチュエータ130がダイヤモンドアンビルセル110に印加する圧力を検知するものであれば特に制限はないが、例示的には、水晶式圧力センサ、ひずみゲージ式圧力センサ、半導体圧力センサなどがある。中でも、圧電効果を利用した水晶圧電式センサであれば、高荷重を測定でき、繰り返し利用できるため好ましい。
ここでは、圧力センサ140は、アクチュエータ130の下端と回転テーブル125の間に設けられているが、アクチュエータ130がダイヤモンドアンビルセル110に印加する圧力を検知できれば良いので、アクチュエータ130のダイヤモンドアンビルセル110側に設けられていてもよい。
【0031】
圧力センサ140は、アクチュエータ130がダイヤモンドアンビルセル110に印加する圧力値を検知するが、アクチュエータ130による圧力値が0であり、圧力値を検知し始める点をアクチュエータ130の加圧開始点となるように、アクチュエータ130が調整される。アクチュエータ130の調整は、印加電圧、位置調整によって行われる。設定した加圧開始点からアクチュエータ130のストローク分だけ常に連続的な加圧が可能である。
【0032】
当然ながら、圧力センサ140を用いれば、アクチュエータ130のストロークが最大値であることを検知して、加圧終了点を設定することもできる。設定した加圧終了点からアクチュエータ130のストローク分だけ連続的な減圧も可能である。
【0033】
本発明の加圧装置100は、好ましくは、
図1に示すように、押圧機構120、アクチュエータ130および圧力センサ140の動作を制御する制御機構150を備える。これにより、超高圧(350GPa)までの連続加圧を自動で行うことができる。
制御機構150と押圧機構120のステッピングモータ121との間は、モータ駆動線151で接続されている。制御機構150とアクチュエータ130との間は、アクチュエータ駆動線152で接続されている。制御機構150と圧力センサ140の間は、センサ接続線153で接続されている。
【0034】
図4は、本発明の加圧装置の制御機構による押圧機構120、アクチュエータ130および圧力センサ140の動作制御を示すフローチャートである。制御機構150は、好ましくは、次のようにして、押圧機構120、アクチュエータ130および圧力センサ140の動作を制御する。
【0035】
動作(A):まず、押圧機構120がダイヤモンドアンビルセル110に機械的な圧力を印加する。例えば、押圧機構120がステッピングモータであれば、所定角度だけモータを回転させればよい。
【0036】
動作(B):次いで、押圧機構120が圧力を印加した状態で、圧力センサ140は、アクチュエータ130がダイヤモンドアンビルセル110に印加する圧力を検知し、制御機構150は、その圧力値を検知し始める状態となるようにアクチュエータ130を調整する。このとき、好ましくは、アクチュエータ130のストロークは0であり、全く伸びていない状態である。このようにして、アクチュエータ130の圧力開始点が設定される。
【0037】
例えば、アクチュエータ130が圧力を印加している場合には、印加電圧を調整し、アクチュエータ130のストロークを0にし、加圧直前となるようにする。例えば、アクチュエータ130が圧力を印加していない場合には、シリンダチューブ131内のアクチュエータ130の位置を調整し、加圧直前となるように位置調整する。このときも、アクチュエータ130のストロークが0である。
【0038】
動作(C):次いで、押圧機構120が圧力を印加した状態で、加圧開始点に調整されたアクチュエータ130がダイヤモンドアンビルセル110に連続的に圧力を印加する。例えば、アクチュエータ130が積層型ピエゾアクチュエータであれば、電圧を徐々に印加するだけで、アクチュエータ130のストロークだけダイヤモンドアンビルセル110に圧力を印加できるが、アクチュエータ130の伸縮量を制御することにより、ストローク内で細かく圧力を印加できる。
【0039】
制御機構150は、押圧機構120、アクチュエータ130および圧力センサ140の上述した動作(A)~(C)に続いて、押圧機構120による加圧、および、アクチュエータ130による加圧を繰り返すことにより、超高圧(例えば350GPa)まで連続的に試料に圧力を印加することができる。
【0040】
アクチュエータ130がダイヤモンドアンビルセル110に連続的に圧力印加するようアクチュエータ130を制御すること(動作(C))に続く動作を詳細に説明する。
【0041】
動作(D):制御機構150は、アクチュエータ130がダイヤモンドアンビルセル110に圧力を印加した状態で、押圧機構120がダイヤモンドアンビルセル110にさらなる圧力を印加する。例えば、アクチュエータ130が積層型ピエゾアクチュエータであり、押圧機構120がステッピングモータであれば、積層型ピエゾアクチュエータに印加した電圧を維持した状態で、所定角度だけさらにモータを回転させればよい。これにより、アクチュエータ130とダイヤモンドアンビルセル110とが物理的に近接するため、アクチュエータ130による圧力はダイヤモンドアンビルセル110にさらに印加される。
【0042】
なお、動作(D)に先立って、アクチュエータ130への電圧を除去し、ダイヤモンドアンビルセル110に印加される圧力を減圧してもよい。また、この減圧をアクチュエータ130のストロークだけ連続的に行ってもよい。
【0043】
動作(E):次いで、押圧機構120がさらなる圧力を印加した状態で、圧力センサ140はアクチュエータ130がダイヤモンドアンビルセル110に印加する圧力を検知し、その圧力値を検知し始める状態となるようにアクチュエータ130を調整する。この動作(E)は、上述した動作(B)と同様である。
【0044】
動作(F):次いで、押圧機構120がさらなる圧力を印加した状態で、再度圧力開始点に調整されたアクチュエータ130がダイヤモンドアンビルセル110に連続的に圧力を印加する。動作(F)は、動作(C)と同様であるが、押圧機構120が印加する圧力が異なっている。このため、新たな圧力範囲において、アクチュエータ130の伸縮量を制御することにより、細かく圧力を印加できる。
【0045】
このようにして、動作(D)~動作(F)を繰り返すことにより、超高圧(例えば350GPa)まで連続的に圧力を印加できる。本発明の装置を用いれば、ダイヤモンドアンビル210が破壊するまで加圧でき、しかも破壊の終点を特定することができる。ここでは、超高圧まで加圧する動作について説明してきたが、アクチュエータ130のストロークが0である加圧開始点に代えて、ストロークの最大値を減圧開始点とし、逆の動作を行うことにより、超高圧から連続的に減圧することも可能であることは、当業者であれば容易に理解する。
【0046】
図3は、本発明の加圧装置の制御機構の一実施例を示すブロック図である。
【0047】
制御機構150は、好ましくは、アクチュエータ130に電圧を印加するアクチュエータ駆動回路310と、圧力センサ140の圧力を変換し、測定する変換測定部320と、押圧機構120に駆動電流を送るモータ駆動回路330と、アクチュエータ駆動回路310、変換測定部320およびモータ駆動回路330を制御する中央演算処理部340とを備える。これにより、上述の動作(A)~(F)による超高圧までの加圧、あるいは、その逆の超高圧からの減圧を可能にする。
【0048】
アクチュエータ駆動回路310にはファンクションジェネレータ350がさらに接続されてもよい。これにより、アクチュエータ駆動回路310は、ファンクションジェネレータ350から出力される電気信号の波形(パルス信号)を有するパルス電圧を増幅し、アクチュエータ130に印加できる。すなわち、パルス幅に応じて、連続的にアクチュエータ130に電圧を印加できるので、連続的な加圧あるいは減圧を可能にする。例えば、1Hzのパルス電圧を用いれば、1秒周期で電圧を印加できるので、周期的な加減圧を可能にする。なお、ファンクションジェネレータはパルスジェネレータであってもよい。また、アクチュエータ駆動回路310は、パルス電圧を増幅して出力する電圧増幅機能をそなえてもよい。
【0049】
変換測定部320は、圧力センサ140の圧力を電荷量等の電気信号に変換し、測定するものであれば特に制限はない。例示的には、変換測定部320としてチャージアンプを使用できる。
【0050】
モータ駆動回路330は駆動電流を押圧機構120に送り、押圧機構120を作動させるが、好ましくは、モータ駆動回路330にパルス信号を与えるコントローラ(図示せず)に接続される。これにより、パルス信号の周波数を加減することによって、ステッピングモータのトルクを調整でき、角度制御を可能にする。
【0051】
中央演算処理部340は、コントローラが生成するパルス信号の周波数を設定し、設定したパルス信号をコントローラに出力させるための制御信号、ならびに、パルス信号の出力をコントローラに停止させるための制御信号をコントローラに出力する。これにより、押圧機構120は、コントローラからのパルス信号に基づいてモータ駆動回路330が駆動し、機械的にダイヤモンドアンビルセル110に圧力を印加する。パルス信号の周波数によっては、ダイヤモンドアンビルセル110に印加している圧力を減圧することができることは言うまでもない。
【0052】
中央演算処理部340は、変換測定部320で変換された電気信号を読み取り、アクチュエータ130が加圧開始点となるよう調整する。中央演算処理部340は電気信号を読み取り、ファンクションジェネレータ350が生成するパルス信号の周波数を設定し、設定したパルス信号をファンクションジェネレータ350に出力させるための制御信号、ならびに、パルス信号の出力をファンクションジェネレータ350に停止させるための制御信号をファンクションジェネレータ350に出力する。
【0053】
ここで、中央演算処理部340は、アクチュエータ130が加圧状態にあると判定すれば、アクチュエータ130のストロークを0にし、加圧直前となるようパルス信号を設定し、アクチュエータ130が加圧状態にないと判定すれば、シリンダチューブ131内のアクチュエータ130の位置を調整し、加圧直前となるよう位置調整部(図示せず)に制御信号を出力する。このようにして、アクチュエータ130の加圧開始点が調整される。なお、位置調整部に替えて、ユーザが手動にてアクチュエータ130の位置を調整してもよい。
【0054】
あるいは、中央演算処理部340は、アクチュエータ130のストロークの最大値が減圧開始点となるようパルス信号を設定してもよい。この場合には、連続的な減圧を可能にする。
【0055】
アクチュエータ130の加圧開始点が設定されると、中央演算処理部340は、ファンクションジェネレータ350が生成するパルス信号の周波数を設定し、設定したパルス信号をファンクションジェネレータ350に出力させるための制御信号、ならびに、パルス信号の出力をファンクションジェネレータ350に停止させるための制御信号をファンクションジェネレータ350に出力する。これにより、アクチュエータ130は、押圧機構120の圧力印加に対して、例えば0.1%ステップで連続的にダイヤモンドアンビルセル110に圧力を印加する。
【0056】
中央演算処理部340は、押圧機構120による機械的な段階的圧力の印加と、アクチュエータ130による微細な連続的圧力の印加とを繰り返し行うプログラムが記録されたメモリ(図示せず)を備えてもよい。これにより、超高圧(例えば350GPa)までの加圧/超高圧からの減圧を自動的に行うことができる。また、キーボード、タッチパネルなどの入力装置(図示せず)を介して、押圧機構120のためのパルス信号の設定、アクチュエータ130のためのパルス信号の設定をしてもよく、これら設定値をメモリに記録させてもよい。
【0057】
このような中央演算処理部340は、ハードウェアロジックによって構成されてもよいし、CPU(Central Processing Unit)を備えたパーソナルコンピュータを用いてソフトウェアによって実現されてもよい。
【0058】
上述したように、本発明の加圧装置100に、各種光源、あるいは、X線源、散乱光や回折光を受光する受光部等を備えることにより、X線回折装置や顕微ラマン散乱測定装置を構築できる。また、本発明の加圧装置100を顕微鏡に搭載すれば、高圧状態の試料を観察可能な光学顕微鏡装置を提供できる。当然ながら、これら各種測定装置を複数組み合わせてもよい。
【0059】
次に具体的な実施例を用いて本発明を詳述するが、本発明がこれら実施例に限定されないことに留意されたい。
【実施例0060】
[例1]
例1では、
図1の加圧装置100において、先端0.04mmφのベベルド型ダイヤモンドアンビルセル110に試料として金とScN(窒化スカンジウム)との混合物をセットし、試料に印加される圧力の変化を調べた。押圧機構120は、モータ駆動回路330およびコントローラ付きステッピングモータ(中央精機株式会社製、ARS-136-HP)であり、アクチュエータ130は、中空積層圧電アクチュエータ(Piezosystem Jena GmbH製、HPSt 1000/25-15/80 VS35、チタン酸ジルコン酸鉛、ストローク長:80μm)であった。以降では単にピエゾアクチュエータと称する。圧力センサ140は、水晶圧電式センサ(HBK製、CLP/62KN)であった。
【0061】
ピエゾアクチュエータには、アクチュエータ駆動回路310としてピエゾアクチュエータアンプ(Piezosystem Jena GmbH製、SVR 1000)およびファンクションジェネレータ350(株式会社エヌエフ回路設計ブロック製、WF1973)を接続し、これらを中央演算処理部340としてCPUを備えたパーソナルコンピュータに接続した。
【0062】
水晶圧電式センサには、変換測定部320として圧電センサアンプ(HBK製、CMD600)を接続し、イーサネットハブを介して、コンピュータに接続した。なお、圧力変化を、X線回折による金の格子定数から決定した(例えば、Taku Tsuchiya,JOURNAL OF GEOPHYSICAL RESEARCH, VOL. 108, NO. B10, 2462,2003)。
【0063】
ピエゾアクチュエータを取り付けたシリンダチューブ下部に水晶圧電式センサを取り付け、下部ふたを閉めた。シリンダチューブを押圧機構(ステッピングモータ)に固定した。ダイヤモンドアンビルセルに試料を装填して、ダイヤモンドアンビルセルの上部ねじ111(
図1)により適度に押圧した状態で、シリンダ上部ねじにダイヤモンドアンビルセルをねじ込んだ。
【0064】
次に、ステッピングモータを作動させ、ダイヤモンドアンビルセルに機械的に加圧した。水晶圧電式センサによりピエゾアクチュエータの加圧開始点を調整した。その後、ファンクションジェネレータにより発生させたパルス信号(電圧)をピエゾアクチュエータアンプに入力し、その120倍の電圧をピエゾアクチュエータに供給し、アクチュエータを伸長させダイヤモンドアンビルセルを加圧した。このようにして得られた試料への圧力変化の様子を
図4に示す。
【0065】
図5は、ピエゾアクチュエータへ印加する電圧と圧力との関係(A)、および、圧力センサが検知した荷重と圧力との関係(B)を示す図である。
【0066】
図5によれば、38GPaで加圧開始点に調整されたアクチュエータを用いれば、38GPaから130GPaまで連続的に加圧できることが示された。ピエゾアクチュエータにより、100GPaを超えるような超高圧下でも0.1%の圧力刻みで超高圧実験をおこなうことが可能になった。
【0067】
次に、ピエゾアクチュエータによる加圧で、ピエゾアクチュエータアンプの供給電圧が最大電圧に到達した時点(すなわち、ピエゾアクチュエータの最大ストロークまで伸長させた時点)で、ステッピングモータを5~10°回転させ、ダイヤモンドアンビルセルにさらに加圧した。なお、ステッピングモータの加圧前に、ピエゾアクチュエータへの電圧を除去してもよい。
【0068】
ここで、水晶圧電式センサによりピエゾアクチュエータの加圧開始点を再度調整した。次いで、水晶圧電式センサが感応し始めた点から、ピエゾアクチュエータに電圧供給し、加圧を始めた。この過程を繰り返すことで、ダイヤモンドアンビルが破壊することなく、311GPaまで加圧できることを確認した。
【0069】
[例2]
例2では、
図1の加圧装置100において、先端0.3mmφのフラット型ダイヤモンドアンビルセル110に試料として金とNaClとの混合物をセットし、試料に印加される圧力の変化を調べた。圧力変化は、ダイヤモンドのラマン散乱スペクトルから決定した(例えば、Yuichi Akahamaら,Journal of Applied Physics 96,3748,2004)。
【0070】
例2においても、例1と同様にして、ステッピングモータによる機械的加圧、ピエゾアクチュエータの加圧開始点の調整、ピエゾアクチュエータのストロークだけ連続的加圧、次いで、ピエゾアクチュエータの連続的減圧をし、これら過程を繰り返した。このようにして得られた試料への圧力変化の様子を
図5に示す。
【0071】
図6は、ピエゾアクチュエータへ印加する電圧と圧力との関係(A)、および、実行数と加圧変化との関係(B)を示す図である。
【0072】
図6(A)によれば、ピエゾアクチュエータとステッピングモータとの併用により、最大50.1GPaまで連続的に加圧できることが示された。例2では、例1と異なり試料と接触する面積が大きいため、到達圧力が異なっていることに留意されたい。
【0073】
図6(A)において、ピエゾアクチュエータにおける加圧過程(図中の1の挙動)と減圧過程(図中の2の挙動)の曲線が同一線上にない理由は、ピエゾアクチュエータ伸縮のヒステリシスと、加圧中の試料室の変形のためである。試料室が加圧のために薄くなっても、ステッピングモータによりストロークを進めることができるため、段階的かつ連続的に加圧を進めることができる。
【0074】
[例3]
例3では、
図1の加圧装置100において、先端0.06mmφのベベルド型ダイヤモンドアンビルセルを用いた以外は、例1と同様であるため、説明を省略する。例1と同様にして、ステッピングモータとピエゾアクチュエータとを併用したところ、250GPaまで連続的に加圧できることを確認した。その後、ダイヤモンドアンビルは、加圧中に破壊した。このことから、この先端サイズのダイヤモンドアンビルの終点(破壊点)は、250GPaであると特定できた。
本発明の加圧装置を用いれば、超高圧まで連続的に加圧できので、高精度なデータを収集できる。また、本発明の加圧装置を用いれば、ダイヤモンドの破壊の終点を特定できるので、アンビルの破損を防ぐことができ、超高圧加圧装置として有効である。また、本実施例の加圧装置を用いれば、350GPaの超高圧まで連続的に加圧できる。