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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023044749
(43)【公開日】2023-04-03
(54)【発明の名称】冷蔵菓子用ペースト
(51)【国際特許分類】
   A23G 3/00 20060101AFI20230327BHJP
   A23D 7/00 20060101ALI20230327BHJP
【FI】
A23G3/00
A23D7/00 504
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021152768
(22)【出願日】2021-09-21
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】緑川 真理
【テーマコード(参考)】
4B014
4B026
【Fターム(参考)】
4B014GG10
4B014GG12
4B014GG14
4B014GK08
4B014GL10
4B014GL11
4B014GP01
4B026DC02
4B026DG02
4B026DH01
4B026DH03
4B026DL03
4B026DL04
4B026DL07
4B026DP01
4B026DX04
(57)【要約】
【課題】白餡などの澱粉を多く含む原料を多量に使用することなく、良好な質感を呈し、かつ冷蔵保存後にも良好な外観を保てる冷蔵菓子用ペーストの提供。
【解決手段】冷蔵菓子用ペーストは、水中油型乳化油脂組成物、及び、風味素材を含有し、未加工澱粉の含有量が前記ペースト全体中15重量%未満である。前記水中油型乳化油脂組成物は、当該組成物全体中、油脂5~35重量%、ヒドロキシプロピル化及びリン酸架橋した加工澱粉3~6重量%、増粘剤0.05~0.15重量%、糖類20~40重量%、及び、水25~60重量%を含有する。前記風味素材は、20℃における粘度が90~150Pa・sのペースト状である。前記ペースト全体中、前記水中油型乳化油脂組成物の含有量が30~70重量%、及び、前記風味素材の含有量が70~30重量%である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷蔵菓子用ペーストであって、
前記冷蔵菓子用ペーストは、水中油型乳化油脂組成物、及び、風味素材を含有し、未加工澱粉の含有量が前記冷蔵菓子用ペースト全体中15重量%未満であり、
前記水中油型乳化油脂組成物は、当該組成物全体中、油脂5~35重量%、ヒドロキシプロピル化及びリン酸架橋した加工澱粉3~6重量%、増粘剤0.05~0.15重量%、糖類20~40重量%、及び、水25~60重量%を含有し、
前記風味素材は、20℃における粘度が90~150Pa・sのペースト状であり、
前記冷蔵菓子用ペースト全体中、前記水中油型乳化油脂組成物の含有量が30~70重量%、及び、前記風味素材の含有量が70~30重量%である、冷蔵菓子用ペースト。
【請求項2】
前記ヒドロキシプロピル化及びリン酸架橋した加工澱粉における澱粉は、タピオカ澱粉、及び馬鈴薯澱粉から選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の冷蔵菓子用ペースト。
【請求項3】
前記増粘剤が、キサンタンガム、ローカストビーンガム、タマリンドシードガム、及びスクシノグルカンからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の冷蔵菓子用ペースト。
【請求項4】
前記油脂のSFC(固体脂含量)が10℃で50~60%で、且つ30℃で8.5~21.5%である、請求項1~3のいずれか1項に記載の冷蔵菓子用ペースト。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の冷蔵菓子用ペーストを含む菓子又はパン。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか1項に記載の冷蔵菓子用ペーストに用いられる水中油型乳化油脂組成物であって、
前記水中油型乳化油脂組成物全体中、油脂5~35重量%、ヒドロキシプロピル化及びリン酸架橋した加工澱粉3~6重量%、増粘剤0.05~0.15重量%、糖類20~40重量%、及び、水25~60重量%を含有する、水中油型乳化油脂組成物。
【請求項7】
水中油型乳化油脂組成物全体中、ヒドロキシプロピル化及びリン酸架橋した加工澱粉の含量が3~6重量%、増粘剤の含量が0.05~0.15重量%、糖類の含量が20~40重量%、及び、水の含量が25~60重量%となるように、ヒドロキシプロピル化及びリン酸架橋した加工澱粉、増粘剤、糖類、及び、水を混合し、40~60℃に加熱して水相を得る工程、
油脂の含量が水中油型乳化油脂組成物全体中5~35重量%となるように、油脂を前記水相に添加して混合物を得る工程、
該混合物を乳化処理し、加熱殺菌して水中油型乳化油脂組成物を得る工程、及び、
冷蔵菓子用ペースト全体中、水中油型乳化油脂組成物の含量が30~70重量%、20℃における粘度が90~150Pa・sであるペースト状の風味素材の含量が70~30重量%となるように、5~35℃にて、前記水中油型乳化油脂組成物と前記風味素材とを混合する工程、
を含む、冷蔵菓子用ペーストの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風味素材を含有する、冷蔵菓子用ペーストに関する。
【背景技術】
【0002】
果実や野菜等を原料とするペースト状の風味素材を含有した菓子用ペーストは、菓子又はパンのトッピング材料として広く使用されている。菓子用ペーストが使用された菓子の代表例の1つであるモンブランは、コンビニやスーパー、菓子専門店などにおいて、冷蔵温度で通年販売されている。
【0003】
モンブランのトッピングに使用されるマロンペーストは、栗を原料として調製されるが、栗は高価であり多量には使用し難い。そこで、質感が似ている白餡を混ぜて増量することが多い。しかし、白餡には白いんげん豆由来の澱粉が含まれており、白餡を含むマロンペーストを冷蔵温度に置いておくと、澱粉が老化したり、乾燥したりして、ペースト表面にひび割れが発生して外観が悪化する傾向がある。
【0004】
一方で、消費者の食に対するニーズの多様化によって、マロンペースト以外にも、様々な風味素材を含有する菓子用ペーストが求められている。しかし、工業的生産において、多種類の菓子用ペーストそれぞれを、全ての原料を混ぜながら製造しようとすると、手間もかかり、廃棄を増やすことにも繋がるため、そのニーズに十分に応えきれていなかった。
【0005】
特許文献1には、マロンモンブランの代わりに使われる新種モンブランとして、サツマイモモンブラン、紫サツマイモモンブラン、カボチャモンブラン、バナナモンブラン、ずんだモンブランが開示されている。請求項10でサツマイモモンブランの具体的な配合が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012-44978号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示された配合では、冷蔵保存後のペースト表面のひび割れを十分に抑制できず、表面に艶がなくなり、外観が低下する場合がある。
本発明の目的は、白餡などの澱粉を多く含む原料を多量に使用することなく、良好な質感を呈し、かつ冷蔵保存後にも良好な外観を保てる、冷蔵菓子用ペースト、その製造方法、及び、該冷蔵菓子用ペーストの製造に使用される水中油型乳化油脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、油脂、特定の加工澱粉、増粘剤、糖類、及び水をそれぞれ特定量含有する水中油型乳化油脂組成物と、特定の粘度を有するペースト状の風味素材を、それぞれ特定量含有する、冷蔵菓子用ペーストは、白餡などの澱粉を多く含む原料を多量に使用することなく、良好な質感を呈し、かつ冷蔵保存後にも良好な外観を保てることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明の第一は、冷蔵菓子用ペーストであって、前記冷蔵菓子用ペーストは、水中油型乳化油脂組成物、及び、風味素材を含有し、未加工澱粉の含有量が前記冷蔵菓子用ペースト全体中15重量%未満であり、前記水中油型乳化油脂組成物は、当該組成物全体中、油脂5~35重量%、ヒドロキシプロピル化及びリン酸架橋した加工澱粉3~6重量%、増粘剤0.05~0.15重量%、糖類20~40重量%、及び、水25~60重量%を含有し、前記風味素材は、20℃における粘度が90~150Pa・sのペースト状であり、前記冷蔵菓子用ペースト全体中、前記水中油型乳化油脂組成物の含有量が30~70重量%、及び、前記風味素材の含有量が70~30重量%である、冷蔵菓子用ペーストに関する。
好ましくは、前記ヒドロキシプロピル化及びリン酸架橋した加工澱粉における澱粉は、タピオカ澱粉、及び馬鈴薯澱粉から選ばれる少なくとも1種である。
好ましくは、前記増粘剤が、キサンタンガム、ローカストビーンガム、タマリンドシードガム、及びスクシノグルカンからなる群より選ばれる少なくとも1種である。
好ましくは、前記油脂のSFC(固体脂含量)が10℃で50~60%で、且つ30℃で8.5~21.5%である。
本発明の第二は、前記冷蔵菓子用ペーストを含む菓子又はパンに関する。
本発明の第三は、前記冷蔵菓子用ペーストに用いられる水中油型乳化油脂組成物であって、前記水中油型乳化油脂組成物全体中、油脂5~35重量%、ヒドロキシプロピル化及びリン酸架橋した加工澱粉3~6重量%、増粘剤0.05~0.15重量%、糖類20~40重量%、及び、水25~60重量%を含有する、水中油型乳化油脂組成物に関する。
本発明の第四は、水中油型乳化油脂組成物全体中、ヒドロキシプロピル化及びリン酸架橋した加工澱粉の含量が3~6重量%、増粘剤の含量が0.05~0.15重量%、糖類の含量が20~40重量%、及び、水の含量が25~60重量%となるように、ヒドロキシプロピル化及びリン酸架橋した加工澱粉、増粘剤、糖類、及び、水を混合し、40~60℃に加熱して水相を得る工程、油脂の含量が水中油型乳化油脂組成物全体中5~35重量%となるように、油脂を前記水相に添加して混合物を得る工程、該混合物を乳化処理し、加熱殺菌して水中油型乳化油脂組成物を得る工程、及び、冷蔵菓子用ペースト全体中、水中油型乳化油脂組成物の含量が30~70重量%、20℃における粘度が90~150Pa・sであるペースト状の風味素材の含量が70~30重量%となるように、5~35℃にて、前記水中油型乳化油脂組成物と前記風味素材とを混合する工程、を含む、冷蔵菓子用ペーストの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明に従えば、白餡などの澱粉を多く含む原料を多量に使用することなく、良好な質感を呈し、かつ冷蔵保存後にも良好な外観を保てる、冷蔵菓子用ペースト、その製造方法、及び、該冷蔵菓子用ペーストの製造に使用される水中油型乳化油脂組成物を提供することができる。
本発明によれば、前記水中油型乳化油脂組成物に対し、様々な風味素材を添加することによって、様々な冷蔵菓子用ペーストを製造できるので、消費者が求める多種類の冷蔵菓子用ペーストを容易に製造することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態につき、さらに詳細に説明する。
本実施形態に係る冷蔵菓子用ペーストは、特定の水中油型乳化油脂組成物及び特定の風味素材を含有する。前記冷蔵菓子用ペーストにおけるペーストとは、例えば5~35℃程度の温度で、高い粘性がありながら、成形(例えば絞り出し成形)が可能な程度の流動性を有することを意味する。前記冷蔵菓子用ペーストとは、冷蔵される菓子又はパンに好適に用いることができる。前記冷蔵菓子用ペーストは、前記風味素材に由来する風味を持つものである。
【0012】
(水中油型乳化油脂組成物)
前記水中油型乳化油脂組成物とは、水及び加工澱粉、増粘剤、糖類等の水溶性原料を含む水相と、油脂と必要に応じて油脂以外の油溶性原料を含む油相とを含む、水中油型の乳化物である。本実施形態において、前記水中油型乳化油脂組成物は、少なくとも、油脂、特定の加工澱粉、増粘剤、糖類、及び、水を含有する。
【0013】
前記油脂としては、前記水中油型乳化油脂組成物に含まれる油脂の全体として、SFC(固体脂含量)が10℃で50~60%、且つ30℃で8.5~21.5%を満足する油脂を使用することが好ましい。より好ましくは、SFCが10℃で50.5~58.5%、且つ、30℃で9.5~20.5%を満足する油脂であり、さらに好ましくは、SFCが10℃で51.5~57.5%、且つ、30℃で10.5~19.5%を満足する油脂である。10℃におけるSFCが50%以上であると、冷蔵菓子用ペーストの成形性又は保形性が良好であり、60%以下であると、冷蔵菓子用ペーストが適度な硬さで絞り出しやすくなる。また、30℃におけるSFCが8.5%以上であると、冷蔵菓子用ペーストの成形性又は保形性が良好であり、21.5%以下であると、冷蔵菓子用ペーストが適度な硬さで絞り出しやすくなる。
【0014】
前記SFCは、社団法人日本油化学会編、「基準油脂分析試験法」の「2.2.9-2003 固体脂含量(NMR法)」の測定方法に従って測定することができる。前記SFCの要件は、前記水中油型乳化油脂組成物に含まれる油脂全体として満足すればよく、複数種の油脂を使用した場合、個々の油脂が示すSFCは特に限定されない。
【0015】
前記油脂の種類としては、食用油脂であれば特に限定されないが、例えば、パーム油、パーム核油、ヤシ油、菜種油、ハイエルシン菜種油、コーン油、綿実油、大豆油、ひまわり油、サフラワー油、オリーブ油等の植物性油脂や、乳脂肪、牛脂、豚脂、魚油等の動物性油脂が例示でき、これらを硬化、分別、エステル交換等の加工処理を行ったものも用いることができる。
【0016】
特に、前述したSFCの数値を満足するように、複数種の油脂を適宜組み合わせて使用することが好ましい。好適な油脂の組合せの一例として、パーム油とハイエルシン菜種極度硬化油の組合せを挙げることができる。前記ハイエルシン菜種極度硬化油とは、菜種の中でもエルシン酸(エルカ酸)含量が概ね40%以上の品種から搾油した油脂を極度硬化したものをいう。また、前記油脂の組合せに、パーム油とヤシ油のエステル交換油を併用しても良い。
【0017】
前記油脂の含有量は、水中油型乳化油脂組成物全体中、5~35重量%であることが好ましい。より好ましくは8~32重量%であり、更に好ましくは10~20重量%である。油脂の含有量が5重量%より少ないと、冷蔵菓子用ペーストの質感、又は、冷蔵菓子用ペーストの冷蔵保存後の外観が悪くなる場合があり、35重量%より多いと、水中油型乳化油脂組成物を作製する時の乳化が不十分となったり、冷蔵菓子用ペーストの質感が悪くなる場合がある。
【0018】
前記特定の加工澱粉とは、ヒドロキシプロピル化及びリン酸架橋した加工澱粉である。ヒドロキシプロピル化した澱粉とは、澱粉を酸化プロピレンでエーテル化したものを言い、リン酸架橋した澱粉とは、澱粉にトリメタリン酸塩やオキシ塩化リンなどを作用させ、澱粉の分子内または分子間の水酸基が架橋して、澱粉粒の膨潤や糊化が抑制された澱粉を言う。ヒドロキシプロピル化及びリン酸架橋した加工澱粉とは、双方の処理を行った澱粉を指す。ヒドロキシプロピル化及びリン酸架橋した加工澱粉を使用することによって、冷蔵保存中のペースト表面のひび割れを抑制して、表面の艶を保ち、冷蔵菓子用ペーストの外観を良好に保つことができる。
【0019】
前記ヒドロキシプロピル化及びリン酸架橋した加工澱粉における澱粉は、滑らかな食感を得る上で、タピオカ澱粉、又は馬鈴薯澱粉が好ましく、タピオカ澱粉であることがより好ましい。
【0020】
前記ヒドロキシプロピル化及びリン酸架橋した加工澱粉の含有量は、前記水中油型乳化油脂組成物全体中、3~6重量%が好ましく、より好ましくは3.5~5.5重量%であり、更に好ましくは4~5重量%である。澱粉の含有量が3重量%より少ないと、冷蔵菓子用ペーストの成形性又は保形性が悪くなる場合があり、6重量%より多いと、水中油型乳化油脂組成物又は冷蔵菓子用ペーストの粘度が高くなりすぎる、即ち生産時のライン適性が悪くなったり、冷蔵保存中のペースト表面にひび割れが生じやすくなり、冷蔵菓子用ペーストの外観が悪くなる場合がある。
【0021】
前記水中油型乳化油脂組成物は、前記ヒドロキシプロピル化及びリン酸架橋した加工澱粉(以下、特定加工澱粉ともいう)に加えて、未加工澱粉や、特定加工澱粉以外の加工澱粉を、発明の発明の効果を阻害しない範囲において含有してもよい。
【0022】
前記未加工澱粉とは、化学的処理及び物理的処理のいずれも施されていない澱粉を指し、特に限定されないが、例えば、馬鈴薯澱粉、甘薯澱粉、タピオカ澱粉、サゴ澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、小麦澱粉、米澱粉等が挙げられる。前記未加工澱粉としては、食感に悪影響を与えない範囲で、小麦、コーン、米、甘藷、馬鈴薯、キャッサバ、サゴヤシ等の澱粉性植物の粉状製品を使用してもよい。
【0023】
前記水中油型乳化油脂組成物中の未加工澱粉の含有量は、後述する冷蔵菓子用ペースト中の未加工澱粉の含有量を逸脱しない範囲であってよいが、具体的には、0重量%以上3重量%未満が好ましい。より好ましくは0~2重量%であり、更に好ましくは0~1重量%である。
【0024】
前記特定加工澱粉以外の加工澱粉としては、一般的な化学的処理及び/又は物理的処理が施された澱粉(但し前記特定加工澱粉を除く)であってよく、エステル化澱粉、エーテル化澱粉、酸化澱粉、酸処理澱粉、油脂加工澱粉、酵素処理澱粉などが挙げられ、それらの群より選ばれる少なくとも1種を用いることができる。
【0025】
前記増粘剤としては、例えば、グアーガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、アラビアガム、アルギン酸類、ペクチン、キサンタンガム、タマリンドシードガム、スクシノグルカン、寒天、グルコマンナン、ゼラチン、澱粉等などが挙げられ、それらの群より選ばれる少なくとも1種を用いることができる。中でも、冷凍保存後の冷蔵菓子用ペーストの外観を良好に保つ効果に優れていることから、キサンタンガム、ローカストビーンガム、タマリンドシードガム、及びスクシノグルカンが好ましく、それらの群より選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0026】
前記増粘剤の含有量は、前記水中油型乳化油脂組成物全体中、0.05~0.15重量%が好ましい。より好ましくは0.05~0.12重量%であり、更に好ましくは0.05~0.09重量%である。増粘剤の含有量が0.05重量%より少ないと、冷蔵菓子用ペーストの保形性が悪くなったり、冷蔵保存中のペースト表面にひび割れが生じやすくなり、冷蔵菓子用ペーストの外観が悪くなる場合があり、0.15重量%より多いと、水中油型乳化油脂組成物又は冷蔵菓子用ペーストの粘度が高くなりすぎる、即ち、生産時のライン適性が悪くなったり、成形性が悪くなる場合がある。
【0027】
前記糖類としては特に限定されず、上白糖、グラニュー糖、ブドウ糖、果糖、麦芽糖、乳糖、異性化糖、オリゴ糖、水あめ、糖アルコール類等が挙げられ、それらの群より選ばれる少なくとも1種を用いることができる。中でも、上白糖、グラニュー糖が味の観点で好ましい。
【0028】
前記糖類の含有量は、前記水中油型乳化油脂組成物全体中、20~40重量%が好ましい。より好ましくは20~30重量%であり、更に好ましくは22~25重量%である。糖類の含有量が20重量%より少ないと、増菌したり、冷蔵菓子用ペーストの成形性が悪くなる場合があり、40重量%より多いと、冷蔵菓子用ペーストの甘みが強くなりすぎたり、冷蔵菓子用ペーストの成形性又は保形性が悪くなる場合がある。
【0029】
水の含有量は、前記水中油型乳化油脂組成物全体中、25~60重量%であることが好ましい。より好ましくは30~55重量%であり、更に好ましくは46.5~54.5重量%である。水の含有量が25重量%より少ないと、水溶性原料の溶解性が悪くなる場合があり、60重量%より多いと、水中油型乳化油脂組成物において離水が発生する場合がある。
【0030】
前記水中油型乳化油脂組成物は、前記特定加工澱粉、増粘剤、糖類以外の水溶性原料を含有しても良い。前記水溶性原料としては、発明の効果を阻害しない範囲において、一般的に水中油型乳化油脂組成物に配合される成分を使用することができる。そのような成分としては、例えば、上述した未加工澱粉や、前記特定加工澱粉以外の加工澱粉の他、乾燥卵白などを挙げることができる。
【0031】
前記水中油型乳化油脂組成物は、油脂以外の油溶性原料を含有しても良い。前記油溶性原料としては、発明の効果を阻害しない範囲において、一般的に水中油型乳化油脂組成物に配合される成分を使用することができる。そのような成分としては、例えば、乳化剤、着色料、香料、乳製品などを挙げることができる。
【0032】
前記乳化剤としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルなどが挙げられる。その含有量は、発明の効果を阻害しない範囲において適宜設定することができる。
【0033】
前記着色料としては、例えば、カロテノイド色素などが挙げられる。その含有量は、発明の効果を阻害しない範囲において適宜設定することができる。
【0034】
前記香料としては、例えば、ミルク香料、バター香料などが挙げられる。その含有量は、発明の効果を阻害しない範囲において適宜設定することができる。
【0035】
前記乳製品としては、例えば、バター、脱脂粉乳、ホエイタンパク、バターミルクパウダーなどが挙げられる。その含有量は、発明の効果を阻害しない範囲において適宜設定することができる。
【0036】
前記水中油型乳化油脂組成物の含有量は、前記冷蔵菓子用ペースト全体中、30~70重量%であることが好ましい。より好ましくは40~60重量%であり、更に好ましくは45~55重量%である。水中油型乳化油脂組成物の含有量が30重量%より少ないと、冷蔵菓子用ペーストが硬くなりすぎて、成形性に劣ったり、冷蔵保存中のペースト表面にひび割れが生じやすくなり、冷蔵菓子用ペーストの外観が悪くなる場合があり、70重量%より多いと、冷蔵菓子用ペーストが柔らかくなりすぎて、成形性又は保形性に劣る場合がある。
【0037】
(風味素材)
前記風味素材は、特定粘度を有するペースト状を呈する風味素材である。風味素材は、食品に風味を与え得るものであれば特に限定されないが、例えば、栗、サツマイモ、カボチャ等の、野菜、果実類、種実類、チョコレート、乳製品等が挙げられる。ペースト状の風味素材の具体例として、マロンペースト、甘藷ペースト、カボチャペースト、フルーツペースト、野菜ペースト、ナッツペースト、練乳、ジャム、フルーツソース等が挙げられる。
【0038】
前記風味素材は、20℃における粘度が90~150Pa・sのペースト状であることが好ましい。より好ましくは100~140Pa・sであり、更に好ましくは120~140Pa・sである。風味素材の20℃における粘度が90Pa・sより低いと、冷蔵菓子用ペーストの成形性又は保形性に劣る場合があり、150Pa・sより高いと、風味素材が水中油型乳化油脂組成物と混ざりにくい場合がある。
【0039】
なお、前記粘度は、円筒型回転式粘度計(東機産業株式会社製「TV-35形粘度計」)により測定することができる。
【0040】
前記特定の粘度を示すペースト状の風味素材は、例えば、風味素材を必要に応じて細かく裁断した後、十分に練ることで作製することができる。また、このようにして作製されたペースト状の風味素材に対し、必要に応じ、水や液糖、牛乳、生クリーム等の液性成分を混合したり、あるいは、加熱して水分を蒸発させてもよい。
【0041】
前記風味素材の含有量は、前記冷蔵菓子用ペースト全体中、70~30重量%であることが好ましい。より好ましくは60~40重量%であり、更に好ましくは55~45重量%である。風味素材の含有量が70重量%より多いと、冷蔵菓子用ペーストが硬くなりすぎて、成形性に劣ったり、冷蔵保存中のペースト表面にひび割れが生じやすくなり、冷蔵菓子用ペーストの外観が悪くなる場合があり、30重量%より少ないと、風味素材の味が弱くなったり、冷蔵菓子用ペーストが柔らかくなりすぎて、成形性又は保形性に劣る場合がある。
【0042】
前記冷蔵菓子用ペーストにおいては、未加工澱粉の含有量が前記冷蔵菓子用ペースト全体中15重量%未満であることが好ましい。より好ましくは0重量%以上13重量%未満であり、更に好ましくは0重量%以上11重量%未満である。冷蔵菓子用ペースト中の未加工澱粉の含有量が15重量%以上であると、冷蔵保存中にペースト表面が乾燥して、ひび割れが生じやすくなり、冷蔵菓子用ペーストの外観が悪くなる場合がある。尚、冷蔵菓子用ペーストに含まれる未加工澱粉とは、水中油型乳化油脂組成物が未加工澱粉を含む場合はその未加工澱粉と、風味素材に含まれる未加工澱粉の双方を合わせたものである。
【0043】
[冷蔵菓子用ペーストの製造方法]
本実施形態に係る冷蔵菓子用ペーストの製造方法を以下に例示する。
【0044】
(水中油型乳化油脂組成物の作製)
水に、前記特定加工澱粉や増粘剤、糖類などの水溶性原料を混合し、40~60℃に加熱して水相を得る。その際、各成分の含量が、前記水中油型乳化油脂組成物全体中、前記特定加工澱粉3~6重量%、増粘剤0.05~0.15重量%、糖類20~40重量%、水25~60重量%となるように調整する。前記加熱に際しては、各成分を混合してから昇温してもいいし、昇温しながら各成分を混合してもよい。
【0045】
得られた前記水相を、好ましくは40~60℃に保って、撹拌しながら、油脂の含量が水中油型乳化油脂組成物全体中5~35重量%となるように、油脂を前記水相に添加して混合物を得る。前記水相を添加する時の油脂は、40~60℃に保持されていることが好ましい。また、必要に応じて、前記油脂に前記油溶性原料を溶解してから、前記水相に添加してもよい。
【0046】
得られた前記混合物を予備乳化し、ホモゲナイザーを用いて5~15MPaの圧力で乳化する。得られた乳化液をコンサーム掻き取り式熱交換機で95~105℃で2~3分間加熱殺菌してから、60℃以下になるまで冷却して、ペーストを得る。得られたペーストをピロー包装に充填し、2~7℃の冷水にて室温以下に冷却することで、前記水中油型乳化油脂組成物を得ることができる。ここで、ピロー包装とは、包装フィルムを、開口部を有する袋状に加工した後、内容物を充填し、前記開口部を閉じて該内容物を包装するものをいう。
【0047】
(風味素材の調製)
風味素材に関しては、20℃における粘度が90~150Pa・sであるペースト状の風味素材を入手できればそのまま使用しても良い。また、入手した風味素材の20℃における粘度が高い場合には、水、液糖、牛乳、生クリームなどの液性成分を適宜混合して粘度を下げてから使用しても良い。一方、入手した風味素材の20℃における粘度が低い場合には、加熱により水分を蒸発させたりして粘度を上げてから使用しても良い。
【0048】
(冷蔵菓子用ペーストの作製)
冷蔵菓子用ペースト全体中、前記水中油型乳化油脂組成物の含量が30~70重量%、及び、前記風味素材の含量が70~30重量%となるように両者を混合することで、本実施形態に係る冷蔵菓子用ペーストを得ることができる。混合する時の温度は、例えば、5~35℃であることが好ましい。
【0049】
(冷蔵菓子用ペーストの用途)
本実施形態に係る冷蔵菓子用ペーストは、モンブランを代表とするケーキやスイートポテトなどの菓子又はパンにおいて、口金から絞り出しながら造形する絞り出し成形によりトッピングすることで好適に使用できる。前記菓子又はパンは、本実施形態に係る冷蔵菓子用ペーストを含むものである限り特に限定されない。前記菓子又はパンにおいて、本実施形態に係る冷蔵菓子用ペーストは、絞り出し成形された形状にて含まれていることが好ましい。
【0050】
また、本実施形態に係る冷蔵菓子用ペーストは、前記菓子又はパンに対し、フィリングや、サンド、スプレッドなどの形態においても使用することができる。
【実施例0051】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、実施例において「部」や「%」は重量基準である。
【0052】
実施例及び比較例で使用した原料は以下の通りである。
1)松谷化学工業(株)製「ファリネックスVA70TJ」(タピオカ加工澱粉)
2)日新製糖(株)製「上白糖」
3)キユーピータマゴ(株)製「乾燥卵白Kタイプ」
4)日本新薬(株)製「Wheyco W80」
5)エー・ディー・エム・ジャパン(株)製「ノヴァザン200メッシュ」
6)三栄源エフ・エフ・アイ(株)製「CESAGUM LN-1/200」
7)(株)カネカ製「パーム油(10℃のSFC:50.9%、30℃のSFC:9.8%)」
8)横関油脂工業(株)製「ハイエルシン菜種極度硬化油(10℃のSFC:99.4%、30℃のSFC:98.8%)」
9)パーム油とヤシ油のエステル交換油(10℃のSFC:55.3%、30℃のSFC:11.5%)(製造の情報は後述)
10)上越スターチ(株)「ファインスノウ」
11)(株)カネカ製「菜種油(10℃のSFC:0.0%、30℃のSFC:0.0%)」
12)栗ペースト(i)(製造の情報は後述)
13)栗ペースト(ii)(製造の情報は後述)
【0053】
<質感の評価>
作製した冷蔵菓子用ペーストを、熟練した10名のパネラーが目視で観察し、以下の基準で評価した。各人の評価値の平均値を評価値とした。
5点:比較例1と比較して見た目の質感が非常に餡様である。
4点:比較例1と比較して見た目の質感が餡様である。
3点:比較例1と同等に見た目の質感がやや餡様である。
2点:比較例1と比較して見た目の質感がやや餡様でない。
1点:比較例1と比較して見た目の質感が餡様でない。
【0054】
<冷蔵保存後の外観評価>
作製した冷蔵菓子用ペーストを、口金から絞り出して小田巻状に成形し、4℃、湿度15%で72時間保管した後、熟練した10名のパネラーが目視で観察して、以下の基準で評価した。各人の評価値の平均値を評価値とした。
5点:比較例1と比較して表面に艶があり瑞々しい。
4点:比較例1と比較して表面にやや艶がある。
3点:比較例1と同等に艶がある。
2点:比較例1と比較して表面に艶がなく、ひび割れが1カ所発生している。
1点:比較例1と比較して表面に艶がなく、ひび割れが2カ所以上発生している。
【0055】
[実施例及び比較例で使用した原料9)の製造]
パーム油((株)カネカ製):76重量部、ヤシ油((株)カネカ製):24重量部の混合物を、500Paの減圧下90℃に加熱し、ナトリウムメチラート(日本曹達株式会社製):0.2重量部を加えて30分攪拌してランダムエステル交換を行った。水洗した後、500Paの減圧下、90℃で白土(水澤化学工業株式会社製):2重量部を加えて脱色し、250℃、200Paの条件で1時間脱臭してパーム油とヤシ油のエステル交換油を得た。パーム油とヤシ油のエステル交換油の10℃のSFCは55.3%で、30℃のSFCは11.5%であった。
【0056】
[実施例及び比較例で使用した原料12)の製造]
皮をむいた栗を30分茹でて、茹で栗を調製した。茹で栗400重量部、牛乳200重量部、上白糖80重量部を鍋に入れ、20分加熱した後、フードプロセッサーでペースト状にして栗ペースト(i)を得た。栗ペースト(i)中の未加工澱粉量は17.2重量%であり、粘度は126Pa・sであった。
【0057】
[実施例及び比較例で使用した原料13)の製造]
栗ペースト(i)264重量部と、水36重量部をボールに入れ、縦型ミキサー(HOBART CANADA社製「ホバートミキサー MODEL N-50」)にビーターを取り付けて139rpmで60秒間混合して粘度を調整して栗ペースト(ii)を得た。栗ペースト(ii)中の未加工澱粉量は13.5重量%であり、粘度は98Pa・sであった。
【0058】
(製造例1)水中油型乳化油脂組成物の作製
表1の配合に従って、次のように水中油型乳化油脂組成物を作製した。即ち、ヒドロキシルプロピル化リン酸架橋デンプン4.4重量部、上白糖24.4重量部、乾燥卵白0.1重量部、ホエイタンパク1.9重量部、キサンタンガム0.07重量部、ローカストビーンガム0.02重量部、及び水54.1重量部が均一になるよう攪拌、及び混合しながら当該混合物を50℃まで昇温し、ここに60℃に温調したパーム油13.5重量部及びハイエルシン菜種極度硬化油1.5重量部を添加し、充分に攪拌して原料混合物を予備乳化した。その後、ホモゲナイザー(株式会社イズミフードマシナリ製)を用い10MPaの圧力で原料混合物を乳化した。得られた乳化液をコンサーム掻き取り式熱交換機(ノリタケカンパニーリミテッド社製、ノリタケクッカー・スチームミキサー)で100℃、2分間の条件で殺菌した後、60℃まで冷却し、ピロー袋に充填した。その後、5℃の冷水にて室温以下に冷却し、水中油型乳化油脂組成物を得た。
パーム油とハイエルシン菜種極度硬化油の混合物から構成される油脂は、SFCが10℃で53.4%、30℃で17.6%であった。
【0059】
(製造例2~15)水中油型乳化油脂組成物の作製
表1及び表2の配合に従って各成分の配合量を変更した以外は、製造例1と同様にして水中油型乳化油脂組成物を作製した。
【0060】
【表1】
【0061】
【表2】
【0062】
(実施例1)冷蔵菓子用ペーストの作製
表3の配合に従って、製造例1で作製した水中油型乳化油脂組成物50重量部に、風味素材である栗ペースト(i)50重量部を25℃で、ホバートミキサーを用いて混合し、冷蔵菓子用ペーストを得た。得られた冷蔵菓子用ペーストについて、質感の評価と冷蔵保存後の外観評価を行い、それらの評価結果を表3にまとめた。
【0063】
(実施例2~14、比較例1~5)冷蔵菓子用ペーストの作製
表3及び表4の配合に従って、水中油型乳化油脂組成物の種類(製造例番号)又は配合量、及び、風味素材の種類又は配合量を変更した以外は、実施例1と同様にして冷蔵菓子用ペーストを得た。得られた各冷蔵菓子用ペーストについて、質感の評価と冷蔵保存後の外観評価を行い、それらの評価結果を表3及び表4にまとめた。
【0064】
【表3】
【0065】
【表4】
【0066】
表3より、実施例1~14で得た菓子用ペーストはいずれも、発明の要件を満足するものであり、質感の評価と冷蔵保存後の外観評価がいずれも良好であったことが分かる。
【0067】
一方、表4より以下のことが分かる。比較例1で得た菓子用ペーストは、水中油型乳化油脂組成物中の油脂含量が4重量%と少ないものである。この比較例1を質感及び冷蔵保存後の外観の評価基準とする。
比較例2で得た菓子用ペーストは、水中油型乳化油脂組成物中の油脂含量が36重量%と多いものであり、質感の評価が低い評価であった。
【0068】
比較例3で得た菓子用ペーストは、水中油型乳化油脂組成物中の増粘剤含量が0.03重量%と少ないものであり、冷蔵保存後の外観評価が低い評価であった。
【0069】
比較例4で得た菓子用ペーストは、ヒドロキシルプロピル化リン酸架橋デンプンを使用せず、代わりに未加工澱粉を使用したものであり、冷蔵保存後の外観評価が低い評価であった。
【0070】
比較例5で得た菓子用ペーストは、水中油型乳化油脂組成物の含有量が10重量%と少ないものであり、冷蔵保存後の外観評価が低い評価であった。