(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023044758
(43)【公開日】2023-04-03
(54)【発明の名称】無線通信装置および適応変調方法
(51)【国際特許分類】
H04L 27/00 20060101AFI20230327BHJP
H04W 28/18 20090101ALI20230327BHJP
H04L 27/34 20060101ALI20230327BHJP
【FI】
H04L27/00 Z
H04W28/18 110
H04L27/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021152780
(22)【出願日】2021-09-21
(71)【出願人】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126561
【弁理士】
【氏名又は名称】原嶋 成時郎
(74)【代理人】
【識別番号】100141678
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】田中 康英
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】安西 大地
【テーマコード(参考)】
5K067
【Fターム(参考)】
5K067AA13
5K067DD45
5K067EE02
5K067EE07
5K067EE10
(57)【要約】
【課題】受信局による回線品質の情報の送信頻度を増加させることなく適切な変調方式の選択を行う。
【解決手段】無線通信装置1は、通信端末9から送信される通信端末9における受信時刻と回線品質との組み合わせデータに基づいて通信端末9への送信時に使用する変調方式を選択する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
通信相手の装置との間で適応変調方式を利用して無線通信を行う無線通信装置であり、
前記通信相手の装置から送信される前記通信相手の装置における受信時刻と回線品質との組み合わせデータに基づいて前記通信相手の装置への送信時に使用する変調方式を選択する変調方式制御部を有する、
ことを特徴とする無線通信装置。
【請求項2】
前記変調方式制御部が、実際に通信を行うために前記変調方式を選択する際の前記通信相手の装置における受信時刻よりも前の時間帯における回線品質の変動傾きを用いて、前記実際に通信を行うために前記変調方式を選択する際の前記通信相手の装置における前記受信時刻よりも後の当該無線通信装置における処理時刻における回線の品質を推定する回線品質計算部を備える、
ことを特徴とする請求項1に記載の無線通信装置。
【請求項3】
前記変調方式制御部が、当該無線通信装置と前記通信相手の装置との間で行われた過去の通信における、前記通信相手の装置における或る受信時刻よりも前の時間帯における回線品質の変動傾きと前記或る受信時刻よりも後の時間帯における回線品質の変動傾きとの組み合わせのそれぞれが起こる確率の実績値を成分とする行列である遷移確率行列と、実際に通信を行うために前記変調方式を選択する際の前記通信相手の装置における受信時刻よりも前の時間帯における回線品質の変動傾きと、に基づいて予測される前記実際に通信を行うために前記変調方式を選択する際の前記通信相手の装置における前記受信時刻よりも後の時間帯における回線品質の変動傾きを用いて、前記実際に通信を行うために前記変調方式を選択する際の前記通信相手の装置における前記受信時刻よりも後の当該無線通信装置における処理時刻における回線の品質を推定する回線品質計算部を備える、
ことを特徴とする請求項1に記載の無線通信装置。
【請求項4】
前記変調方式制御部が、
実際に通信を行うために前記変調方式を選択する際の前記通信相手の装置における受信時刻よりも前の時間帯における回線品質の変動傾きを用いて、前記実際に通信を行うために前記変調方式を選択する際の前記通信相手の装置における前記受信時刻よりも後の当該無線通信装置における処理時刻における回線の品質を推定する第1の回線品質計算部と、
当該無線通信装置と前記通信相手の装置との間で行われた過去の通信における、前記通信相手の装置における或る受信時刻よりも前の時間帯における回線品質の変動傾きと前記或る受信時刻よりも後の時間帯における回線品質の変動傾きとの組み合わせのそれぞれが起こる確率の実績値を成分とする行列である遷移確率行列と、前記実際に通信を行うために前記変調方式を選択する際の前記通信相手の装置における受信時刻よりも前の時間帯における回線品質の変動傾きと、に基づいて予測される前記実際に通信を行うために前記変調方式を選択する際の前記通信相手の装置における前記受信時刻よりも後の時間帯における回線品質の変動傾きを用いて、前記実際に通信を行うために前記変調方式を選択する際の前記通信相手の装置における前記受信時刻よりも後の当該無線通信装置における処理時刻における回線の品質を推定する第2の回線品質計算部と、
前記第1の回線品質計算部によって推定される前記回線の品質と前記第2の回線品質計算部によって推定される前記回線の品質とに基づいて前記変調方式を選択する変調方式選択部と、を備える、
ことを特徴とする請求項1に記載の無線通信装置。
【請求項5】
前記変調方式制御部が、前記通信相手の装置から送信される前記組み合わせデータを当該無線通信装置が最後に受信した時点から所定の時間を経過した場合に、予め準備されている複数の変調方式のうち最も下位の変調方式を選択する受信停滞対応部を備える、
ことを特徴とする請求項1から4のうちのいずれか1項に記載の無線通信装置。
【請求項6】
実際に通信を行うために前記変調方式を選択する際の前記通信相手の装置における受信時刻よりも前の時間帯における回線品質の変動傾きの絶対値に基づいて前記組み合わせデータの伝送周期を変化させる、
ことを特徴とする請求項1から5のうちのいずれか1項に記載の無線通信装置。
【請求項7】
無線通信装置と通信相手の装置との間で適応変調方式が利用されて行われる無線通信における適応変調方法であり、
前記通信相手の装置から送信される前記通信相手の装置における受信時刻と回線品質との組み合わせデータに基づいて、前記無線通信装置が前記通信相手の装置への送信時に使用する変調方式を選択する、
ことを特徴とする適応変調方法。
【請求項8】
前記無線通信装置が、実際に通信を行うために前記変調方式を選択する際の前記通信相手の装置における受信時刻よりも前の時間帯における回線品質の変動傾きを用いて、前記実際に通信を行うために前記変調方式を選択する際の前記通信相手の装置における前記受信時刻よりも後の当該無線通信装置における処理時刻における回線の品質を推定する、
ことを特徴とする請求項7に記載の適応変調方法。
【請求項9】
前記無線通信装置が、当該無線通信装置と前記通信相手の装置との間で行われた過去の通信における、前記通信相手の装置における或る受信時刻よりも前の時間帯における回線品質の変動傾きと前記或る受信時刻よりも後の時間帯における回線品質の変動傾きとの組み合わせのそれぞれが起こる確率の実績値を成分とする行列である遷移確率行列と、実際に通信を行うために前記変調方式を選択する際の前記通信相手の装置における受信時刻よりも前の時間帯における回線品質の変動傾きと、に基づいて予測される前記実際に通信を行うために前記変調方式を選択する際の前記通信相手の装置における前記受信時刻よりも後の時間帯における回線品質の変動傾きを用いて、前記実際に通信を行うために前記変調方式を選択する際の前記通信相手の装置における前記受信時刻よりも後の当該無線通信装置における処理時刻における回線の品質を推定する、
ことを特徴とする請求項7に記載の適応変調方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、無線通信装置および適応変調方法に関し、伝搬環境に基づいて変調方式を切り替える適応変調方式を利用する衛星通信に用いられて好適な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信システムでは、周波数利用効率の向上のため、伝搬環境に基づいて変調方式を切り替える適応変調方式が利用されている。適応変調方式では、一般的に受信局(例えば、無線端末)が受信した電波に基づいて回線品質を計算し、前記回線品質の計算結果を送信局(例えば、人工衛星や基地局)へとフィードバックし、送信局はフィードバックされた回線品質の計算結果に基づいて変調方式を選択する。このような方式で、伝搬環境に適した変調方式への変更を行う。
【0003】
適応変調方式を利用する通信装置として、受信される信号に基づいて回線の品質の変化方向を検出する回線品質変化方向検出手段と、回線品質変化方向検出手段により検出される回線の品質の変化方向が良好化方向である場合には変化後より前における回線の品質に基づいて信号送信に用いる変調方式を決定する変調方式決定手段と、を備える通信装置が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来の適応変調方式では受信局から送信局へと回線品質の計算結果をフィードバックしているところ、フィードバックされた回線品質の計算結果は所定時間前の回線品質の状況であり、受信局が信号を受信した時刻(言い換えると、回線/伝搬路における通信状況が前記回線品質の計算結果のとおりであった時刻)と送信局が実際に変調方式を切り替える時刻との間には遅延時間がある。遅延時間の原因は種々考えられ、例えば、衛星通信システムの場合は衛星を介して通信を行うため、変調方式の選択に利用する情報信号の伝送遅延が大きい。また、変調方式の選択に利用する情報を受信局が送信局へと送信するためのリターンリンクはTDM(Time Division Multiplexing の略;時分割多重化)方式であることが多いため、リターンリンクの遅延時間はばらついて安定しない。これらが原因となり、変調方式の判断基準となる情報に一定でない遅延時間が生じる。受信局が信号を受信した時刻(言い換えると、回線/伝搬路における通信状況が前記回線品質の計算結果のとおりであった時刻)と送信局が実際に変調方式を切り替える時刻との間の遅延時間(「適応変調制御ループの遅延」とも呼ぶ)のため、変調方式の判断基準となる回線品質の計算結果と実際に変調方式を切り替える時の現実の回線品質との差違が生じ、伝搬環境に大きな変化が発生すると特に、適切な変調方式の選択を行ことができない、という問題点があり、延いては伝送効率が低減する、という問題がある。
【0006】
また、特許文献1のような手法では、変調方式の判断基準となる回線品質の情報の取得頻度は、伝搬環境の変化の発生頻度に対して十分に細かい必要がある。すなわち、情報を密に取得する必要があり、受信局が回線品質の情報を送信しなければならない頻度が多くなる。このため、受信局が移動機である場合に特に、バッテリーを消耗して稼働時間が短くなる、という問題がある。
【0007】
そこでこの発明は、受信局による回線品質の情報の送信頻度を増加させることなく適切な変調方式の選択を行うことが可能な、無線通信装置および適応変調方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、この発明に係る無線通信装置は、通信相手の装置との間で適応変調方式を利用して無線通信を行う無線通信装置であり、前記通信相手の装置から送信される前記通信相手の装置における受信時刻と回線品質との組み合わせデータに基づいて前記通信相手の装置への送信時に使用する変調方式を選択する変調方式制御部を有する、ことを特徴とする。
【0009】
この発明に係る無線通信装置は、前記変調方式制御部が、実際に通信を行うために前記変調方式を選択する際の前記通信相手の装置における受信時刻よりも前の時間帯における回線品質の変動傾きを用いて、前記実際に通信を行うために前記変調方式を選択する際の前記通信相手の装置における前記受信時刻よりも後の当該無線通信装置における処理時刻における回線の品質を推定する回線品質計算部を備える、ようにしてもよい。
【0010】
この発明に係る無線通信装置は、前記変調方式制御部が、当該無線通信装置と前記通信相手の装置との間で行われた過去の通信における、前記通信相手の装置における或る受信時刻よりも前の時間帯における回線品質の変動傾きと前記或る受信時刻よりも後の時間帯における回線品質の変動傾きとの組み合わせのそれぞれが起こる確率の実績値を成分とする行列である遷移確率行列と、実際に通信を行うために前記変調方式を選択する際の前記通信相手の装置における受信時刻よりも前の時間帯における回線品質の変動傾きと、に基づいて予測される前記実際に通信を行うために前記変調方式を選択する際の前記通信相手の装置における前記受信時刻よりも後の時間帯における回線品質の変動傾きを用いて、前記実際に通信を行うために前記変調方式を選択する際の前記通信相手の装置における前記受信時刻よりも後の当該無線通信装置における処理時刻における回線の品質を推定する回線品質計算部を備える、ようにしてもよい。
【0011】
この発明に係る無線通信装置は、前記変調方式制御部が、実際に通信を行うために前記変調方式を選択する際の前記通信相手の装置における受信時刻よりも前の時間帯における回線品質の変動傾きを用いて、前記実際に通信を行うために前記変調方式を選択する際の前記通信相手の装置における前記受信時刻よりも後の当該無線通信装置における処理時刻における回線の品質を推定する第1の回線品質計算部と、当該無線通信装置と前記通信相手の装置との間で行われた過去の通信における、前記通信相手の装置における或る受信時刻よりも前の時間帯における回線品質の変動傾きと前記或る受信時刻よりも後の時間帯における回線品質の変動傾きとの組み合わせのそれぞれが起こる確率の実績値を成分とする行列である遷移確率行列と、前記実際に通信を行うために前記変調方式を選択する際の前記通信相手の装置における受信時刻よりも前の時間帯における回線品質の変動傾きと、に基づいて予測される前記実際に通信を行うために前記変調方式を選択する際の前記通信相手の装置における前記受信時刻よりも後の時間帯における回線品質の変動傾きを用いて、前記実際に通信を行うために前記変調方式を選択する際の前記通信相手の装置における前記受信時刻よりも後の当該無線通信装置における処理時刻における回線の品質を推定する第2の回線品質計算部と、前記第1の回線品質計算部によって推定される前記回線の品質と前記第2の回線品質計算部によって推定される前記回線の品質とに基づいて前記変調方式を選択する変調方式選択部と、を備える、ようにしてもよい。
【0012】
この発明に係る無線通信装置は、前記変調方式制御部が、前記通信相手の装置から送信される前記組み合わせデータを当該無線通信装置が最後に受信した時点から所定の時間を経過した場合に、予め準備されている複数の変調方式のうち最も下位の変調方式を選択する受信停滞対応部を備える、ようにしてもよい。
【0013】
この発明に係る無線通信装置は、実際に通信を行うために前記変調方式を選択する際の前記通信相手の装置における受信時刻よりも前の時間帯における回線品質の変動傾きの絶対値に基づいて前記組み合わせデータの伝送周期を変化させる、ようにしてもよい。
【0014】
また、この発明に係る適応変調方法は、無線通信装置と通信相手の装置との間で適応変調方式が利用されて行われる無線通信における適応変調方法であり、前記通信相手の装置から送信される前記通信相手の装置における受信時刻と回線品質との組み合わせデータに基づいて、前記無線通信装置が前記通信相手の装置への送信時に使用する変調方式を選択する、ことを特徴とする。
【0015】
この発明に係る適応変調方法は、前記無線通信装置が、実際に通信を行うために前記変調方式を選択する際の前記通信相手の装置における受信時刻よりも前の時間帯における回線品質の変動傾きを用いて、前記実際に通信を行うために前記変調方式を選択する際の前記通信相手の装置における前記受信時刻よりも後の当該無線通信装置における処理時刻における回線の品質を推定する、ようにしてもよい。
【0016】
この発明に係る適応変調方法は、前記無線通信装置が、当該無線通信装置と前記通信相手の装置との間で行われた過去の通信における、前記通信相手の装置における或る受信時刻よりも前の時間帯における回線品質の変動傾きと前記或る受信時刻よりも後の時間帯における回線品質の変動傾きとの組み合わせのそれぞれが起こる確率の実績値を成分とする行列である遷移確率行列と、実際に通信を行うために前記変調方式を選択する際の前記通信相手の装置における受信時刻よりも前の時間帯における回線品質の変動傾きと、に基づいて予測される前記実際に通信を行うために前記変調方式を選択する際の前記通信相手の装置における前記受信時刻よりも後の時間帯における回線品質の変動傾きを用いて、前記実際に通信を行うために前記変調方式を選択する際の前記通信相手の装置における前記受信時刻よりも後の当該無線通信装置における処理時刻における回線の品質を推定する、ようにしてもよい。
【発明の効果】
【0017】
この発明に係る無線通信装置や適応変調方法によれば、通信相手の装置から送信される通信相手の装置における受信時刻と回線品質との組み合わせデータに基づいて通信相手の装置への送信時に使用する変調方式を選択するようにしているので、回線品質とともに当該の回線品質が取得された時刻(即ち、通信相手の装置における受信時刻)が考慮されて変調方式が決定されるため、適応変調制御ループの遅延と回線品質の変動傾きとの2つを想定した制御を行うことができ、適切な変調方式の選択を行うことが可能となり、例えば回線の品質を表す指標の値の推定誤差を一律に想定して変調方式を選択する場合と比べて伝送効率が一層高い変調方式を選択することが可能となる。実施の形態に係る無線通信装置1や適応変調方法によれば、また、受信局による回線品質の情報の送信頻度を増加させることなく適切な変調方式の選択を行うことが可能となる。
【0018】
この発明に係る無線通信装置によれば、通信相手の装置から送信される組み合わせデータを無線通信装置が最後に受信した時点から所定の時間を経過した場合に最も下位の変調方式を選択するようにした場合には、回線/伝搬路における通信状況の推定に用いられるデータが古いために変調方式の判断基準となる回線品質の計算結果と実際に変調方式を切り替える時の現実の回線品質との差違が大きくなる事態を回避することができ、適切とは言えない変調方式を選択する事態を回避することが可能となる。
【0019】
この発明に係る無線通信装置によれば、回線品質の変動傾きの絶対値に基づいて前記組み合わせデータの伝送周期を変化させるようにした場合には、短時間で大きく変動する伝搬環境の変化に的確に追従して適切な変調方式の選択を行うことが可能となるとともに伝搬環境の変化が緩慢である場合にはトラフィックを低減させたり機器の演算負荷を低減させたりする。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】この発明の実施の形態に係る無線通信装置の概略構成を示す機能ブロック図である。
【
図2】
図1の無線通信装置と通信端末との間における無線通信に纏わる動作タイミングの例を示す図である。
【
図3】
図1の無線通信装置と通信端末との間における無線通信に纏わる動作タイミングの他の例を示す図である。
【
図4】
図1の無線通信装置において用いられる遷移確率行列の例を示す図である。
【
図5】
図1の無線通信装置において用いられる特定伝搬路推定値と変調方式との対応テーブルの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。
【0022】
図1は、この発明の実施の形態に係る無線通信装置1の概略構成を示す機能ブロック図である。
図2は、実施の形態に係る無線通信装置1と通信相手である通信端末9との間における無線通信に纏わる動作タイミングの例を示す図である。
【0023】
無線通信装置1は衛星8を介して通信端末9との間で適応変調方式を利用してデジタルの無線通信を行い、無線通信装置1,衛星8,および通信端末9を含む無線通信システムが構成される。なお、無線通信装置1と通信端末9とは、GPS(Global Positioning System の略;全地球測位システム)の時計機能により得られる時刻情報を利用するなどして相互に同期している時刻を利用可能であるとする。
【0024】
この発明の説明における「変調方式」は、BPSK,QPSK,16QAM,および64QAMなどの(狭義の)変調方式/変調多値数と、符号化に纏わるパラメータ(例えば、符号化率,符号長)と、のうちの少なくとも一方を意味する(尚、BPSK:Binary Phase Shift Keying の略。QPSK:Quadrature Phase Shift Keying の略。QAM:Quadrature Amplitude Modulation の略)。
【0025】
通信端末9は、無線通信装置1から無線送信されてアンテナを介して受信した無線信号について、増幅および周波数変換や復調などの所定の処理を施して、無線通信装置1から送信される通信データ(即ち、無線通信装置1と通信端末9との間における本来の通信の用に供されるデータ)を取得するとともに、受信シンボルに基づいてフレームごとに回線品質を計算する。
【0026】
回線品質として用いられる指標は、特定の種類に限定されるものではなく、回線/伝搬路における通信状況の良好/不良の程度を表し得る情報であればどのようなものであってもよい。回線品質として用いられる指標として、例えば、受信レベル[dB],搬送波対雑音比(即ち、C/N比;Carrier to Noise ratio)[dB],およびRSSI(Received Signal Strength Indicator の略)が挙げられる。
【0027】
通信端末9は、例えばフレームごとに計算される回線品質と、当該の回線品質の計算に用いられた無線信号の受信時刻と、の組み合わせデータを生成する。受信時刻Tr_nにおいて受信した無線信号に基づいて計算される回線の品質(言い換えると、回線/伝搬路における通信状況の良好/不良の程度)を表す指標の値を「回線品質Ctr_n」と表す。添字nは、時系列で連続する複数の時点を時系列順に相互に区別するための識別子であり、時系列で前の時点の方が値が小さい連続値として、n=1,2,3,・・・である。
【0028】
時刻Tt_nは、通信端末9における受信時刻Tr_nと回線品質Ctr_nとの組み合わせデータを通信端末9が生成して無線通信装置1へと送信する送信時刻である。送信時刻Tt_n-1から次の送信時刻Tt_nまでの時間長さ(単位:秒)を「周期時間Δt」と呼ぶ(即ち、例えば、Δt=Tt_n+1-Tt_n=Tt_n-Tt_n-1)。
【0029】
通信端末9は、無線通信装置1へと送信する通信データ(即ち、無線通信装置1と通信端末9との間における本来の通信の用に供されるデータ)とともに受信時刻Tr_nと回線品質Ctr_nとの組み合わせデータをもとに送信フレームを生成し、前記送信フレームの変調や無線信号への変換などの所定の処理を施したうえで、アンテナを介して送信する。
【0030】
つまり、通信端末9は、周期時間Δt間隔で、通信端末9における受信時刻Tr_nと回線品質Ctr_nとの組み合わせデータを生成して送信する。
【0031】
無線通信装置1は、衛星8を介して通信端末9との間で適応変調方式を利用してデジタルの無線通信を行うための機序であり、主として、受信部2と、復調部3と、変調方式制御部4と、変調部5と、送信部6と、を有する。
【0032】
無線通信装置1は、必要に応じて、無線通信装置1を構成する各部の動作を制御する機能を備えて中央処理装置(CPU:Central Processing Unit の略)などから構成される制御部や、中央処理装置が変調方式の選択/決定に纏わる演算処理を行う際に生成されるデータや情報などを一時的に記憶などするための作業領域となったり各種の情報,プログラム,およびデータなどを記憶して格納などするための記憶領域となったりする機能を備えてROM(Read Only Memory の略)やRAM(Random Access Memory の略)などから構成される記憶部をさらに有するようにしてもよい。
【0033】
実施の形態に係る無線通信装置1や適応変調方法は、通信端末9から送信される通信端末9における受信時刻と回線品質との組み合わせデータに基づいて通信端末9への送信時に使用する変調方式を選択する、ようにしている。
【0034】
下記の説明では、通信端末9において受信時刻Tr_nに受信した無線信号に基づいて計算されて通信端末9から送信される回線品質Ctr_nを用いて無線通信装置1が変調方式の選択/決定に纏わる処理を開始する時刻を「処理時刻Tp_n」と表す。処理時刻Tp_nは、通信端末9から送信された無線信号を無線通信装置1が受信した時刻でもよい。
【0035】
また、通信端末9における受信時刻Tr_nと無線通信装置1における処理時刻Tp_nとの間の時間差(即ち、Tp_n-Tr_n;具体的には、遅延時間)を「タイムラグTlag_n」と表す(
図2参照)。なお、通信端末9における受信時刻Tr_nは通信端末9からの送信時刻Tt_nの前であり、したがってタイムラグTlag_nの始点は(図中では明確にはずらしていないが)通信端末9からの送信時刻Tt_nよりも前になる。
【0036】
受信部2は、通信端末9から無線送信されてアンテナを介して受信した無線信号に対して増幅や周波数変換を行い、変換後の信号を出力する。
【0037】
復調部3は、受信部2から出力される変換後の信号の入力を受け、前記信号に対して復調などの所定の処理を施して、通信端末9から送信される通信データ(即ち、無線通信装置1と通信端末9との間における本来の通信の用に供されるデータ)を抽出して受信データとして出力するとともに、通信端末9から送信される、通信端末9における受信時刻Tr_nと回線品質Ctr_nとの組み合わせデータを抽出して出力する。
【0038】
つまり、無線通信装置1は、原則として(言い換えると、回線/伝搬路における通信状況が良好であれば)、周期時間Δt間隔で通信端末9から送信される、通信端末9における受信時刻Tr_nと回線品質Ctr_nとの組み合わせデータを受信する。ただし、通信端末9から無線通信装置1への無線信号の伝送遅延などが一定ではないので、無線通信装置1で無線信号を受信するタイミング/時間間隔は一定ではなく、したがってタイムラグTlag_nは一定ではない。
【0039】
変調方式制御部4は、通信端末9から送信される、通信端末9における受信時刻Tr_nと回線品質Ctr_nとの組み合わせデータをもとに通信端末9への送信時に適用/使用する変調方式を選択するとともに選択された変調方式への切り替えを制御するための信号を出力するための機序であり、第1の回線品質計算部41,第2の回線品質計算部42,変調方式選択部43,および受信停滞対応部44を備える。
【0040】
第1の回線品質計算部41は、回線品質の変動傾きおよびタイムラグを用いて回線の品質(言い換えると、回線/伝搬路における通信状況の良好/不良の程度)を表す指標の値を推定する。第1の回線品質計算部41によって推定される値のことを「第1の伝搬路推定値」と呼ぶ。
【0041】
第1の回線品質計算部41は、具体的には、下記の数式1に従って第1の伝搬路推定値C1tp_nを推定する。
(数1) C1tp_n = Ctr_n+(Ctr_n-Ctr_n-1)/(Tr_n-Tr_n-1)×Tlag_n
ここに、
C1tp_n:無線通信装置1における処理時刻Tp_nにおける第1の伝搬路推定値
Ctr_n :通信端末9における受信時刻Tr_nにおける回線品質
Ctr_n-1:通信端末9における受信時刻Tr_n-1における回線品質
Tlag_n :通信端末9における受信時刻Tr_nと無線通信装置1における処理時刻
Tp_nとの間のタイムラグ(Tlag_n=Tp_n-Tr_n)
【0042】
上記の数式1のうちの回線品質の変動傾きに相当する「(Ctr_n-Ctr_n-1)/(Tr_n-Tr_n-1)」は、通信端末9によって計算されて、通信端末9における受信時刻Tr_nと回線品質Ctr_nとの組み合わせデータとともに通信端末9から無線通信装置1へと送信されるようにしてもよい。
【0043】
第1の回線品質計算部41は、つまり、通信端末9における受信時刻Tr_nよりも前の時間帯における回線品質の変動傾きが前記受信時刻Tr_nから後の時間帯においても同様に継続すると仮定して前記受信時刻Tr_nからタイムラグTlag_nが経過した時刻(即ち、無線通信装置1における処理時刻Tp_n)における回線の品質(具体的には、第1の伝搬路推定値C1tp_n)を推定する。
【0044】
第1の回線品質計算部41は、推定した第1の伝搬路推定値C1tp_nを出力する。
【0045】
ここで、第1の回線品質計算部41は、通信端末9から送信される組み合わせデータを無線通信装置1が最後に受信した時点から予め定められる停滞上限時間が経過する以前に新たな組み合わせデータを受信した場合に、第1の伝搬路推定値C1tp_nを推定する処理を行う。
【0046】
一方で、通信端末9から送信される組み合わせデータを無線通信装置1が最後に受信した時点から停滞上限時間が経過する以前に新たな組み合わせデータを受信しない場合は、第1の回線品質計算部41は、第1の伝搬路推定値C1tp_nを推定する処理を行わず、停滞上限時間を経過したことを通知する信号を受信停滞対応部44に対して出力する。この場合、下記の第2の回線品質計算部42による処理および変調方式選択部43による処理も行われない。
【0047】
停滞上限時間は、特定の時間長さ(単位:秒)に限定されるものではなく、例えば回線/伝搬路における通信状況の推定に用いられるデータが古いと変調方式の判断基準となる回線品質の計算結果と実際に変調方式を切り替える時の現実の回線品質との差違が大きくなるおそれがあり延いては適切な変調方式の選択を行ことができないおそれがあることが考慮されるなどしたうえで、適当な時間長さに適宜設定される。停滞上限時間は、例えば、周期時間Δtの1.5~4倍程度の範囲のうちのいずれかの時間長さに設定される。
【0048】
なお、
図3に示すように、停滞上限時間が周期時間Δtの2倍よりも長い時間長さに設定されている場合で、無線通信装置1が最後に(言い換えると、直前に)受信した組み合わせデータのうちの通信端末9における受信時刻Tr_n-2を基点として周期時間Δtの2倍の時間が経過した後に新たな組み合わせデータを受信した場合は(図に示す例では、送信時刻Tt_n-1に通信端末9から送信された通信端末9における受信時刻Tr_n-1と回線品質Ctr_n-1との組み合わせデータを受信ロスしている)、第1の回線品質計算部41は、無線通信装置1が最後に(言い換えると、直前に)受信した組み合わせデータ(図に示す例では、通信端末9における受信時刻Tr_n-2と回線品質Ctr_n-2との組み合わせデータ)を用いて第1の伝搬路推定値(図に示す例では、C1tp_n)を推定する処理を行う。
【0049】
図3に示す例の場合、第1の回線品質計算部41は、具体的には、下記の数式2に従って第1の伝搬路推定値C1tp_nを推定する。
(数2) C1tp_n = Ctr_n+(Ctr_n-Ctr_n-2)/(Tr_n-Tr_n-2)×Tlag_n
ここに、
C1tp_n:無線通信装置1における処理時刻Tp_nにおける第1の伝搬路推定値
Ctr_n :通信端末9における受信時刻Tr_nにおける回線品質
Ctr_n-2:通信端末9における受信時刻Tr_n-2における回線品質
Tlag_n :通信端末9における受信時刻Tr_nと無線通信装置1における処理時刻
Tp_nとの間のタイムラグ(Tlag_n=Tp_n-Tr_n)
【0050】
なお、
図3に示す例では、停滞上限時間が周期時間Δtの2倍よりも多少長い程度の時間長さに設定されており、送信時刻Tt_n-1に通信端末9から送信された受信時刻Tr_n-1と回線品質Ctr_n-1との組み合わせデータに続けて送信時刻Tt_nに通信端末9から送信された受信時刻Tr_nと回線品質Ctr_nとの組み合わせデータも仮に受信ロスした場合には、通信端末9から送信される組み合わせデータを無線通信装置1が最後に受信した時点から停滞上限時間が経過する以前に新たな組み合わせデータを受信しないこととなり、第1の回線品質計算部41は、第1の伝搬路推定値C1tp_nを推定する処理を行わず、停滞上限時間を経過したことを通知する信号を受信停滞対応部44に対して出力する。そして、下記の第2の回線品質計算部42による処理および変調方式選択部43による処理も行われない。
【0051】
第2の回線品質計算部42は、前の時間帯における回線品質の変動傾きを算出したうえでタイムラグ後の回線品質の変動傾きをマルコフ過程で推定することによって回線の品質(言い換えると、回線/伝搬路における通信状況の良好/不良の程度)を表す指標の値を推定する。第2の回線品質計算部42によって推定される値のことを「第2の伝搬路推定値」と呼ぶ。
【0052】
第2の回線品質計算部42は、具体的には、下記の数式3に従って第2の伝搬路推定値C2tp_nを推定する。
(数3) C2tp_n = Ctr_n+ΔCtr_n×Tlag_n
ここに、
C2tp_n:無線通信装置1における処理時刻Tp_nにおける第2の伝搬路推定値
Ctr_n :通信端末9における受信時刻Tr_nにおける回線品質
ΔCtr_n:通信端末9における受信時刻Tr_nから無線通信装置1における処理時刻
Tp_nにかけての回線品質の変動傾きの推定値
Tlag_n :通信端末9における受信時刻Tr_nと無線通信装置1における処理時刻
Tp_nとの間のタイムラグ(Tlag_n=Tp_n-Tr_n)
【0053】
上記の数式3のうち、回線品質の変動傾きの推定値ΔCtr_nは、遷移確率行列Tが用いられて計算される。
【0054】
遷移確率行列Tは、
図4に示すように、通信端末9における受信時刻Tr_n-1から受信時刻Tr_nにかけての(言い換えると、前の周期時間Δtにおける)回線品質の時点前変動傾きΔCbef_n(下記の数式4参照)と、通信端末9における受信時刻Tr_nから受信時刻Tr_n+1にかけての(言い換えると、後の周期時間Δtにおける)回線品質の時点後変動傾きΔCaft_n(下記の数式5参照)と、の組み合わせのそれぞれが起こる確率値p
ijを(i,j)成分とする行列である。
(数4) ΔCbef_n = (Ctr_n-Ctr_n-1)/(Tr_n-Tr_n-1)
(数5) ΔCaft_n = (Ctr_n+1-Ctr_n)/(Tr_n+1-Tr_n)
【0055】
図4におけるΔC
1,ΔC
2,ΔC
3は、回線品質の時点前変動傾きΔCbefや回線品質の時点後変動傾きΔCaftとして定められる値で、負の数,0,または正の数であり、実際には具体的な数値である。
【0056】
遷移確率行列Tは、無線通信装置1と通信端末9との間で行われた過去の通信における実績に基づいて作成される。遷移確率行列Tは、具体的には、通信端末9における或る受信時刻における回線品質と前記或る受信時刻から周期時間Δt前の受信時刻における回線品質とから算出される時点前変動傾きΔCbefと、通信端末9における前記或る受信時刻における回線品質と前記或る受信時刻から周期時間Δt後の受信時刻における回線品質とから算出される時点後変動傾きΔCaftと、の組み合わせデータの集合を作成し、前記集合における時点前変動傾きΔCbefと時点後変動傾きΔCaftとの組み合わせ各々の確率分布を求めることによって作成される。
【0057】
遷移確率行列Tは、例えば記憶部などに格納されて第2の回線品質計算部42によって適宜読み込まれて使用される。遷移確率行列Tは、必要に応じて更新されるようにしてもよい。
【0058】
回線品質の変動傾きの推定値ΔCtr_nは、具体的には例えば、遷移確率行列Tが
図4に示すように表される場合で、通信端末9における受信時刻Tr_n-1から受信時刻Tr_nにかけての(言い換えると、前の周期時間Δtにおける)回線品質の時点前変動傾きΔCbef_nがΔC
1未満であるとき、遷移確率行列Tが用いられて下記の数式6に従って計算される。
(数6) ΔCtr_n = p
11×{ΔC
1-(ΔC
2-ΔC
1)/2}
+p
12×(ΔC
1+ΔC
2)/2
+p
13×(ΔC
2+ΔC
3)/2
+p
14×{ΔC
3+(ΔC
3-ΔC
2)/2}
【0059】
回線品質の変動傾きの推定値ΔCtr_nは、あるいは、遷移確率行列Tの(i,j)成分である確率値pijが予め定められる遷移確率閾値以上になっている時点前変動傾きΔCbefと時点後変動傾きΔCaftとの組み合わせのうち、絶対値が最も大きい時点後変動傾きΔCaftの値に基づいて決定されるようにしてもよい。
【0060】
具体的には例えば、遷移確率行列Tが
図4に示すように表されるとともに遷移確率閾値がPthr(具体的には、例えば0.1~0.3程度の範囲のうちのいずれかの数値)に予め定められている場合で、通信端末9における受信時刻Tr_n-1から受信時刻Tr_nにかけての(言い換えると、前の周期時間Δtにおける)回線品質の時点前変動傾きΔCbef_nがΔC
1未満であるとする。このとき、p
14<p
13<Pthr<p
12<p
11 であるとともに、|ΔC
1-(ΔC
2-ΔC
1)/2|>|(ΔC
1+ΔC
2)/2|であれば、回線品質の変動傾きの推定値ΔCtr_nは「ΔC
1-(ΔC
2-ΔC
1)/2」とされるようにしてもよい。
【0061】
第2の回線品質計算部42は、つまり、通信端末9における受信時刻Tr_nよりも前の時間帯における回線品質の変動傾き(即ち、ΔCbef_n)と遷移確率行列Tとに基づいて前記受信時刻Tr_nから後の時間帯における回線品質の変動傾き(即ち、ΔCtr_n)を予測したうえで前記受信時刻Tr_nからタイムラグTlag_nが経過した時刻(即ち、無線通信装置1における処理時刻Tp_n)における回線の品質(具体的には、第2の伝搬路推定値C2tp_n)を推定する。
【0062】
第2の回線品質計算部42は、推定した第2の伝搬路推定値C2tp_nを出力する。
【0063】
ここで、
図3に示すように、停滞上限時間が周期時間Δtの2倍よりも長い時間長さに設定されている場合で、無線通信装置1が最後に(言い換えると、直前に)受信した組み合わせデータのうちの通信端末9における受信時刻Tr_n-2を基点として周期時間Δtの2倍の時間が経過した後に新たな組み合わせデータを受信した場合は(図に示す例では、送信時刻Tt_n-1に通信端末9から送信された通信端末9における受信時刻Tr_n-1と回線品質Ctr_n-1との組み合わせデータを受信ロスしている)、第2の回線品質計算部42は、無線通信装置1が最後に(言い換えると、直前に)受信した組み合わせデータ(図に示す例では、通信端末9における受信時刻Tr_n-2と回線品質Ctr_n-2との組み合わせデータ)を用いて第2の伝搬路推定値(図に示す例では、C2tp_n)を推定する処理を行う。
【0064】
図3に示す例の場合、上記の数式3における回線品質の変動傾きの推定値ΔCtr_nは、遷移確率行列Tの2乗の行列計算が行われたうえで、遷移確率行列T
2が用いられて上記の数式6と同様の手順で、或いは、遷移確率行列T
2に対して上記の遷移確率閾値を用いる仕法と同様の手順で、計算される。
【0065】
変調方式選択部43は、第1の伝搬路推定値C1tp_nと第2の伝搬路推定値C2tp_nとに基づいて変調方式を選択する。
【0066】
変調方式選択部43は、具体的には、まず、第1の回線品質計算部41から出力される第1の伝搬路推定値C1tp_nの入力を受けるとともに、第2の回線品質計算部42から出力される第2の伝搬路推定値C2tp_nの入力を受け、前記第1の伝搬路推定値C1tp_nと前記第2の伝搬路推定値C2tp_nとのうちの回線の品質がより悪い方を特定する。変調方式選択部43によって特定される伝搬路推定値のことを「特定伝搬路推定値」と呼ぶ。
【0067】
変調方式選択部43は、続いて、特定伝搬路推定値に基づいて変調方式の選択を行う。変調方式選択部43は、つまり、第1の伝搬路推定値C1tp_nと第2の伝搬路推定値C2tp_nとのうちの回線の品質がより悪い方である特定伝搬路推定値に基づいて変調方式を選択するようにすることにより、回線の品質を表す指標の値(具体的には、第1の伝搬路推定値C1tp_n,第2の伝搬路推定値C2tp_n)の推定誤差によって変調方式の選択を誤るというリスクを回避し得るように変調方式を選択する。
【0068】
具体的には例えば、特定伝搬路推定値CSの大きさに応じて変調方式が指定されるための特定伝搬路推定値CSと変調方式との複数の組み合わせを含む、特定伝搬路推定値CSと変調方式との対応テーブルが予め作成され、変調方式選択部43は前記対応テーブルに従って変調方式を選択する。特定伝搬路推定値CSと変調方式との対応テーブルは、例えば記憶部などに格納されて変調方式選択部43によって適宜読み込まれて使用される。
【0069】
特定伝搬路推定値CSと変調方式との対応テーブルの例を
図5に示す。
図5に示す例は、特定伝搬路推定値CSが大きいほど回線/伝搬路における通信状況が良好であることを前提としている(尚、
図5におけるCS
1,CS
2,CS
3,CS
4は、回線の品質を表す指標の種類に応じて定められる値で、実際には具体的な数値である)。
図5に示す例は、また、回線/伝搬路における通信状況が良好であるほど、複数の変調方式のうちの伝送効率が高い変調方式が選択されるようにしている。なお、伝送効率が低い変調方式を下位とし、伝送効率が高い変調方式を上位としている。
【0070】
図5に示す例は、特定伝搬路推定値CSに応じて変調方式/変調多値数が選択される場合の対応テーブルの例である。ただし、特定伝搬路推定値CSと変調方式との対応テーブルは
図5に示す例に限定されるものではなく、特定伝搬路推定値CSに応じて符号化に纏わるパラメータ(例えば、符号化率,符号長)が選択される対応テーブルが作成されて使用されるようにしてもよく、或いは、特定伝搬路推定値CSに応じて変調方式/変調多値数と符号化に纏わるパラメータ(例えば、符号化率,符号長)との組み合わせが選択される対応テーブルが作成されて使用されるようにしてもよい。
【0071】
そして、変調方式選択部43は、選択された変調方式への切り替えを制御するための信号(「変調方式制御信号」と呼ぶ)を出力する。
【0072】
受信停滞対応部44は、第1の回線品質計算部41から出力される、通信端末9から送信される組み合わせデータを無線通信装置1が最後に受信した時点から停滞上限時間を経過したことを通知する信号の入力を受けた場合に、予め定められている変調方式を選択する。
【0073】
通信端末9から送信される組み合わせデータを無線通信装置1が最後に受信した時点から停滞上限時間を経過したときは、すなわち、回線/伝搬路における通信状況が不良であるために通信端末9における受信時刻Tr_nと回線品質Ctr_nとの組み合わせデータを無線通信装置1が所定の時間にわたって受信できない事態であると考えられる。そこで、受信停滞対応部44は、予め準備されている複数の変調方式(具体的には、対応テーブルに含められている複数の変調方式)のうち、最も下位の変調方式、言い換えると、回線の品質を表す指標の値(即ち、回線品質Ctr_n)が最も大きくなることが期待される変調方式(
図5に示す対応テーブルの例では、BPSK)を選択する。
【0074】
受信停滞対応部44は、選択された変調方式への切り替えを制御するための信号(即ち、変調方式制御信号)を出力する。
【0075】
変調部5は、通信端末9へと送信する通信データ(即ち、無線通信装置1と通信端末9との間における本来の通信の用に供されるデータ)である送信データの入力を受けるとともに、変調方式制御部4から出力される変調方式制御信号の入力を受け、前記変調方式制御信号に従って変調方式を切り替えながら前記送信データに対して変調処理を施して変調信号を生成し、前記変調信号を出力する。
【0076】
送信部6は、変調部5から出力される変調信号の入力を受け、前記変調信号に対して周波数変換および増幅などの所定の処理を施したうえで、処理後の信号をアンテナを介して無線送信する。
【0077】
実施の形態に係る無線通信装置1や適応変調方法によれば、通信端末9から送信される通信端末9における受信時刻Tr_nと回線品質Ctr_nとの組み合わせデータに基づいて通信端末9への送信時に使用する変調方式を選択するようにしているので、回線品質Ctr_nとともに当該の回線品質Ctr_nが取得された時刻(即ち、通信端末9における受信時刻Tr_n)が考慮されて変調方式が決定されるため、適応変調制御ループの遅延と回線品質の変動傾きとの2つを想定した制御を行うことができ、適切な変調方式の選択を行うことが可能となり、例えば回線の品質を表す指標の値の推定誤差を一律に想定して変調方式を選択する場合と比べて伝送効率が一層高い変調方式を選択することが可能となる。実施の形態に係る無線通信装置1や適応変調方法によれば、また、受信局による回線品質の情報の送信頻度を増加させることなく適切な変調方式の選択を行うことが可能となる。
【0078】
実施の形態に係る無線通信装置1や適応変調方法によれば、通信端末9から送信される組み合わせデータを無線通信装置1が最後に受信した時点から停滞上限時間を経過した場合に最も下位の変調方式を選択するようにしているので、回線/伝搬路における通信状況の推定に用いられるデータが古いために変調方式の判断基準となる回線品質の計算結果と実際に変調方式を切り替える時の現実の回線品質との差違が大きくなる事態を回避することができ、適切とは言えない変調方式を選択する事態を回避することが可能となる。
【0079】
以上、この発明の実施の形態について説明したが、具体的な構成は、上記の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。
【0080】
具体的には、上記の実施の形態では無線通信装置1と通信端末9とで相互に同期している時刻を利用して通信端末9が無線通信装置1へと通信端末9における受信時刻Tr_nを送信するとともに無線通信装置1がタイムラグTlag_n(=Tp_n-Tr_n)を計算するようにしているが、無線通信装置1が平均的な遅延時間を算出して前記平均的な遅延時間に基づいてタイムラグTlagを決定するようにしてもよい。具体的には例えば、無線通信装置1の送信部6が送信データとしての信号を無線送信する際に前記信号に時刻情報(具体的には、無線通信装置1からの送信時刻のタイムスタンプ)を含めて送信し、通信端末9が通信データとともに前記時刻情報を含む信号を受信した際の回線品質Ctr_nおよび前記時刻情報を無線通信装置1へと送信する(尚、通信端末9における受信時刻Tr_nは送信しない)。無線通信装置1は、通信端末9へと送信して戻ってきた時刻情報(即ち、無線通信装置1からの送信時刻のタイムスタンプ)と受信時刻との間の時間差を算出するとともに過去の所定の期間における前記時間差の平均値を算出し、前記時間差の平均値の半分をTlagとするようにしてもよい。
【0081】
また、上記の実施の形態では変調方式制御部4が第1の回線品質計算部41と第2の回線品質計算部42との両方を備えるようにしているが、変調方式制御部4が第1の回線品質計算部41と第2の回線品質計算部42とのうちのどちらか一方のみを備えるようにしてもよい。この場合は、変調方式選択部43は備えられず、第1の回線品質計算部41によって推定される第1の伝搬路推定値C1tp_nに基づいて変調方式が選択されたり、或いは、第2の回線品質計算部42によって推定される第2の伝搬路推定値C2tp_nに基づいて変調方式が選択されたりする。
【0082】
また、上記の実施の形態では変調方式制御部4が受信停滞対応部44を備えるようにしているが、変調方式制御部4が受信停滞対応部44を備えないようにしてもよい。この場合は、停滞上限時間は設定されず、通信端末9から送信される組み合わせデータを無線通信装置1が最後に受信した時点からの経過時間に関係なく、第1の回線品質計算部41が第1の伝搬路推定値C1tp_nを推定する処理を行ったり、第2の回線品質計算部42が第2の伝搬路推定値C2tp_nを推定する処理を行ったりする。
【0083】
また、上記の実施の形態では周期時間Δtが一定であるようにしているが、周期時間Δtを変化させるようにしてもよい。例えば、伝搬環境の変化が大きいことに起因して(Ctr_n-Ctr_n-1)/(Tr_n-Tr_n-1)として表される回線品質の変動傾きの絶対値が予め定められる閾値を超える場合に、周期時間Δtを短くして通信端末9からの回線品質の情報(具体的には、通信端末9における受信時刻Tr_nと回線品質Ctr_nとの組み合わせデータ)の伝送周期を早めるようにしてもよい。あるいは、(Ctr_n-Ctr_n-1)/(Tr_n-Tr_n-1)として表される回線品質の変動傾きの絶対値の大きさに応じて、周期時間Δtを変化させて(具体的には、短くしたり長くしたりして)通信端末9からの回線品質の情報の伝送周期を変化させるようにしてもよい。また、前記回線品質の変動傾きの絶対値が予め定められる閾値を超える場合に、回線品質Ctr_nや通信端末9における受信時刻Tr_nの伝送処理を通信端末9が最優先の処理とするようにしたりしてもよい。これにより、短時間で大きく変動する伝搬環境の変化に的確に追従して適切な変調方式の選択を行うことが可能となるとともに伝搬環境の変化が緩慢である場合にはトラフィックを低減させたり機器の演算負荷を低減させたりすることが可能となる。
【符号の説明】
【0084】
1 無線通信装置
2 受信部
3 復調部
4 変調方式制御部
41 第1の回線品質計算部
42 第2の回線品質計算部
43 変調方式選択部
44 受信停滞対応部
5 変調部
6 送信部
8 衛星
9 通信端末