(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023044813
(43)【公開日】2023-04-03
(54)【発明の名称】ナノシリコンの製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 33/023 20060101AFI20230327BHJP
【FI】
C01B33/023
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021152868
(22)【出願日】2021-09-21
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-12-19
(71)【出願人】
【識別番号】591093140
【氏名又は名称】株式会社ファイマテック
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(72)【発明者】
【氏名】片山 正人
(72)【発明者】
【氏名】梅原 智直
(72)【発明者】
【氏名】吉田 昂平
【テーマコード(参考)】
4G072
【Fターム(参考)】
4G072AA01
4G072BB05
4G072DD06
4G072GG01
4G072GG03
4G072HH36
4G072JJ09
4G072JJ15
4G072JJ28
4G072KK01
4G072LL03
4G072MM01
4G072MM24
4G072MM26
4G072RR01
4G072RR12
4G072RR13
(57)【要約】
【課題】非晶質シリカの生成を抑制することにより、フッ酸処理工程が不要であるナノシリコンの製造方法を提供すること。
【解決手段】(a)Al2O3の含有量が3~40質量%のアルミノシリケートを還元処理する工程;及び
(b)工程(a)で得られた還元アルミノシリケートを酸処理する工程;
を含む、ナノシリコンの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)Al2O3の含有量が3~40質量%のアルミノシリケートを還元処理する工程;及び
(b)工程(a)で得られた還元アルミノシリケートを酸処理する工程;
を含む、ナノシリコンの製造方法。
【請求項2】
工程(a)で用いるアルミノシリケートが、ハロイサイトであるか、又はハロイサイトの脱アルミ処理により得られる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
工程(a)における還元処理が、還元剤として、アルカリ土類金属、アルミニウム、及びシリコンからなる群から選ばれる1種以上の金属粉又はそれらの合金の粉と、吸熱剤として、アルカリ金属塩化物及びアルカリ土類金属塩化物からなる群から選ばれる1種以上と、前記アルミノシリケートとを混合し、得られた混合物を、アルゴンガス又は窒素ガス雰囲気で加熱還元することを含む、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
工程(b)における酸処理が、塩酸、硫酸及び硝酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の酸を用いる、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
工程(b)において使用する酸が塩酸であり、且つ、その濃度が0.5~2.0mol/リットルである請求項1~4のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノシリコンの製造方法に関する。詳しくは、本発明は、アルミノシリケート鉱物中のアルミナ(Al2O3)を一定量残留させたまま還元することで精製ナノシリコンを効率的に製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノシリコンの製造方法は種々存在するが、ナノチューブ鉱産物であるハロイサイト(アルミナ鉱物)を原料とする製造方法として、特定の大きさのハロイサイトを熱酸処理してアルミナを流出させ、得られたナノシリカに、吸熱剤としてNaCl又はその他のアルカリ金属塩化物及び/又はアルカリ土類金属塩化物、および還元剤としてマグネシウム粉末を混合し、アルゴン雰囲気下で特定の昇温速度で600~1000℃まで昇温して還元し、希酸に続いてフッ酸で処理することによりナノシリコンを得る方法が知られている(特許文献1)。
しかしながら、この方法では還元されないナノシリカが残留する上、還元反応で得られたナノシリコンの一部がその後の水洗や酸処理時に再度酸化されシリカとなるため、最終的にフッ酸処理をすることでシリカを流出させるプロセスが必要になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】中国特許公開第105905908号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者らによる実験の結果、上記既存の技術では熱酸処理後のアルミナ含有量が0質量%となり、アルミナ含有量が2質量%の場合でさえ、SiO2のSiへの還元効率が低く、非晶質SiO2が多く存在したことに照らすと、上記既存の技術により得られるシリコンにも多くの非晶質SiO2が存在すると推測される。また、フッ酸での処理が必要になることは安全性およびコスト面での不利益が大きい。
したがって、本発明が解決しようとする課題は、非晶質シリカの生成を抑制することにより、フッ酸処理工程が不要であるナノシリコンの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、諸条件を変えながら実験を繰り返す中で、原料アルミノシリケート鉱物からAl2O3を全て流出させてナノシリコンにするのではなく、Al2O3の一部もしくは全部を意図的に残留させることで、還元プロセスが効率的になり、ナノシリコンを安定的に精製することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本出願により以下の各発明を提供する。
1.(a)Al2O3の含有量が3~40質量%のアルミノシリケートを還元処理する工程;及び
(b)工程(a)で得られた還元アルミノシリケートを酸処理する工程;
を含む、ナノシリコンの製造方法。
2.工程(a)で用いるアルミノシリケートが、ハロイサイトであるか、又はハロイサイトの脱アルミ処理により得られる、前記1に記載の製造方法。
3.工程(a)における還元処理が、還元剤として、アルカリ土類金属、アルミニウム、及びシリコンからなる群から選ばれる1種以上の金属粉又はそれらの合金の粉と、吸熱剤として、アルカリ金属塩化物及びアルカリ土類金属塩化物からなる群から選ばれる1種以上と、前記アルミノシリケートとを混合し、得られた混合物を、アルゴンガス又は窒素ガス雰囲気で加熱還元することを含む、前記1又は2に記載の製造方法。
4.工程(b)における酸処理が、塩酸、硫酸及び硝酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の酸を用いる、前記1~3のいずれかに記載の製造方法。
5.工程(b)において使用する酸が塩酸であり、且つ、その濃度が0.5~2.0mol/リットルである前記1~4のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
如何なる理論にも拘束されるものではないが、本発明は、Mg等の慣用の還元剤を、アルミノシリケート中に存在するSiO2だけでなく、意図的に残したアルミナにも接触させ、アルミナを還元してAlにし、得られたアルミもまたシリカの還元に使用するという2つのルート(すなわち、外部から投入したMg等の還元剤と、その還元剤により還元されて生じたAlという新たな還元剤による2種の還元剤を用いるルート)で還元することで、還元プロセスを効率化させ、かつ還元により生じたSiが再びSiO2に酸化されることなく安定してシリコンを精製できるようにするものである。本発明によれば、アルミノシリケートを還元することによってSiO2のSiへの還元効率を高め、非晶質シリカの生成を抑制し、還元によって得られたナノシリコンが再度酸化してしまわないようにすることができるので、ナノシリコンの収率を上げることができると考えられる。本発明の製造方法によれば、フッ酸処理工程を行うことなくナノシリコンが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施例1~3において得られた固形物のX線回折図である。
【
図2】比較例1~2において得られた固形物のX線回折図である。
【
図3】実施例1において得られた固形物の電界放射型走査電子顕微鏡による観察写真である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<工程(a):3~40質量%のAl2O3を含有するアルミノシリケートの還元処理>
アルミノシリケートは、ケイ酸塩のSiの一部がAlで置換されて生ずる塩であり、xMI
2O・yAl2O3・zSiO2・nH2O(ただし,金属はMIIのものもあり,nは0の場合もある)なる一般式で表わされる。アルミノシリケートは、雲母類、長石類、沸石類、粘土などの鉱物として天然に多量に存在する。なかでも、粘土鉱物であるハロイサイトは、毒性がなく、安全性が高いという特徴を有する。本発明において用いる原料のアルミノシリケートとしては、特に制限されるものではないが、天然の状態で一次粒子径が小さく、比表面積が高いハロイサイトが好ましい。高い比表面積により、還元処理が効果的に行える。
アルミノシリケートの構造は、鎖状、層状、網状、筒状など各種存在するが、本発明においては、還元反応の容易さの観点から、ジェットミルやローラーミル等により粉末にしたものを用いるのが好ましい。アルミノシリケート粉末の平均粒径は特に制限されるものではないが、還元処理の容易さ、コストの観点から、1~20μmが好ましく、2~5μmがより好ましい。なお、アルミノシリケートの平均粒径は、凝集粒子の粒径であり、乾粉の条件下で乾式分散機(例えば、マルバーン製、Aero S)を使用したレーザー回折式粒度分布測定装置(例えば、マルバーン製、マスターサイザー3000)を用いて測定することができる。
【0009】
本発明の原料のアルミノシリケートは、Al2O3の含有量が3~40質量%のアルミノシリケートである。このような範囲の量のAl2O3を含むアルミノシリケートを用いることにより、後に行う還元の効率が上がり、残留SiO2を少なくできる。そして、その後の酸処理工程(b)におけるSiの酸化を防止できる。アルミナ含有量は5~40質量%であるのが好ましく、6~39質量%がより好ましい。
ハロイサイトに元々含まれているAl2O3の含有量は、ハロイサイトの産地に関わらず、35~40質量%程度であると言われている。したがって、原料アルミノシリケートとしてハロイサイトを用いる場合、未処理のものをそのまま用いることもできるし、適当な手段によりAl2O3の含有量を上記の好適な範囲に調整したものを用いてもよい。
【0010】
アルミノシリケート中のAl2O3含有量の調整方法としては、例えば脱アルミ処理、具体的には熱硫酸処理があげられる。具体的には、硫酸濃度、硫酸とアルミノシリケートとの質量比、反応温度、反応時間等を調節することにより、Al2O3の量を制御できる。例えば、25質量%濃度の硫酸1200gで、100gのハロイサイトを、90℃において4時間処理することにより、Al2O3含有量が18%のハロイサイトを得ることができる。同条件で処理時間を5時間にするとAl2O3含有量は15%に、7時間にすると6%に、14時間にすると2%にすることができる。熱硫酸処理後は、典型的には定法に従い水洗するのが好ましい。なお、中国特許公開第105905908号公報の実施例1の開示に従い、2モル/L(17.2質量%)濃度の硫酸500gで、5gのハロイサイトを、100℃において10時間処理したところ、Al2O3含有量は0%となった。
【0011】
還元処理は、還元剤として、例えば、マグネシウム、アルミニウム、シリコン、カルシウムの金属が使用でき、マグネシウム、アルミニウム、シリコン、カルシウムから選ばれる2種以上の金属の合金も使用できる。合金については、例えば、アルミニウム系合金としては4000番台(Al-Si系合金)、5000番台(Al-Mg系合金)、6000番台(Al-Mg-Si系合金)等があげられるが、その融点に従い、還元処理時の加熱温度を調整し使用できる。還元処理は、これらから選ばれる少なくとも1種の金属粉又は合金の粉と、アルカリ金属塩化物又はアルカリ土類金属塩化物と、前記アルミノシリケートとを混合し、得られた混合物をアルゴンガスもしくは窒素ガス雰囲気で加熱還元することにより行うことができる。
還元剤としては、入手のし易さ、還元反応の効率の良さの観点からマグネシウム、アルミニウムがとりわけ好ましい。
還元剤は、通常は、原料のアルミノシリケート中のAl2O3以外はすべてSiO2と仮定し、その量に対してモル比で1~3の金属粉、例えばマグネシウム粉、アルミニウム粉を用いるのが好ましい。
【0012】
アルカリ金属塩化物及びアルカリ土類金属塩化物は、吸熱剤として作用する。すなわち、アルミノシリケート中のSiO2と還元剤、例えばMgとの反応は発熱反応であるところ、還元後に得られたSiは、反応熱により溶融し、凝集してしまう。本発明では、アルカリ金属塩化物又はアルカリ土類金属塩化物の存在下で還元処理を行うことにより、反応温度の上昇を抑制し、反応温度がシリコンの融点を超えるのを防止することができ、その結果、生成シリコンの凝集を抑制することができる。
アルカリ金属塩化物としては、NaCl,KCl等があげられる。入手の容易さとコストの観点からNaClが好ましい。
アルカリ土類金属塩化物としてはCaCl2,MgCl2等があげられる。入手の容易さとコストの観点からCaCl2が好ましい。
【0013】
吸熱剤としては、入手の容易さとコストの観点からアルカリ金属塩化物が好ましく、なかでもNaClが好ましい。
凝集を効果的に抑制するには、吸熱剤が反応熱でシリコンの融点に到達しない十分な量で吸熱剤を用いるのが良いが、多すぎると還元反応が進行しにくくなるので適切な量を用いることが好ましい。例えば、原料アルミノシリケートに対し質量比で1以上、好ましくは9以上の質量の吸熱剤を用いるのが望ましい。増量すると還元反応が進行しにくくなるため、上限は、質量比で12以下が好ましい。
原料アルミノシリケート中に存在するSiO2に対し、モル比で1~3のマグネシウム粉もしくはアルミニウム粉と、アルミノシリケートに対し質量比で8~12のNaClを用いると、還元処理の効果やコストの点で好ましい。
【0014】
還元処理は、特定量のアルミナを残留させたアルミノシリケートを、上記還元剤及び上記吸熱剤の存在下、アルゴンガス又は窒素ガス雰囲気下で加熱することにより行うことができる。
還元条件は、当業者であれば適宜設定することができる。上記加熱は、例えば500~1000℃、好ましくは500~800℃の温度範囲で行う。上記加熱時間は、例えば1~24時間、好ましくは2~6時間である。アルゴンガス雰囲気下で500~800℃、加熱時間6時間以内、例えば3時間程度、加熱するのが、還元処理の効果やコストの点で好ましい。
以上に述べてきたとおり、本発明は、アルミノシリケート鉱物を還元してシリコンを取り出す方法と捉えることもできるので、精製ないし製錬ナノシリコンの製造方法と称することもできる。
還元後は、典型的には定法により水洗し、吸熱剤を除去するのが好ましい。水洗後、洗浄水をエタノール置換し、その後加熱してエタノールを飛ばしてもよい。これにより、より十分に水を除去できる。
【0015】
<工程(b):還元処理後固形物の酸処理>
本工程により、還元反応の副生成物、例えばアルミナ、マグネシア、それらの反応物等を除去する。
本工程において用いる酸は、上記目的を達成できるものであれば特に制限されず、例えば、塩酸、硫酸及び硝酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の酸を用いることができる。このうち、比較的安全で、中和塩を水洗によって除去しやすいことから、塩酸が好ましい。
酸の濃度は、効果と安全性の観点から、0.3~8mol/リットルが好ましく、0.5~2.0mol/リットルがより好ましい。
特に、反応が十分進み、且つ、より高い安全性の観点から、0.5~2.0mol/リットルの塩酸を用いるのが好ましい。
酸の量は特に制限されず、還元工程でのアルミナやマグネシア等の副生成物を十分に溶解できる量で用いるのが良い。
酸処理後は、典型的には定法により水洗するのが好ましい。水洗後、洗浄水をエタノール置換してもよいし、その後加熱してエタノールを飛ばしてもよい。これにより、より十分に水を除去できる。
【0016】
本発明の製造方法により得られたナノシリコンは種々の用途に用いることができるが、リチウムイオン電池の負極材として用いるのが好適である。
本発明の製造方法により得られるナノシリコンは、通常、一次粒子径が10~15nm程度と小さく、
図3に示されるように粒度も均一な粒子である。リチウムイオン電池の負極材料としてSiを用いる場合、リチウムイオンの出入による体積変化により微粉化し、容量が低下することが課題になっている。しかし、シリコン粒子が小さいと、体積変化により微粉化が進みにくくサイクル特性の優れたリチウムイオン電池の負極を得ることが出来る。粒度が均一であると、粒子間の空隙が大きくなりサイクル特性に優位となる。
なお、本明細書において、「%」は、特に断りがない限り、「質量%」を表す。
【実施例0017】
<前処理1-熱硫酸処理>
25%の硫酸水溶液1200gを90℃まで加熱し、攪拌状態で、乾式粉砕されたハロイサイト粉末(商品名DRAGONITE-HP、アプライドミネラルズ社製、平均粒子径12μm)を100g投入した。水が蒸発して大きく硫酸濃度が変化しないよう蓋をし、撹拌しながら90℃を維持し、5時間反応させた。
その後、吸引ろ過により残存する固形物をろ紙上に捕集した。捕集した固形物に更に蒸留水を加え吸引ろ過を続け、ろ液のイオン電導度が30μS/cm以下になるまで水洗した。これにより、硫酸や水溶性の反応生成物を固形物から除去した。その固形物を120℃で24時間乾燥後、気流式粉砕機(日清エンジニアリング(株)製SJ-100CB)で粉砕し、平均粒径約3μmのアルミノシリケートの白色粉末を得た。このアルミノシリケートをJIS R 2216:耐火物製品の蛍光X線分析方法に従い、蛍光X線分析装置(株式会社リガク製ZSX PrimusII)を用いてガラスビードによる検量線法にて測定し、Al2O3が15%含まれていることを確認した。
【0018】
<前処理2-熱硫酸処理>
反応時間が14時間であること以外は前処理1と同じ処理により、アルミノシリケートの白色粉末を得た。このアルミノシリケートを前処理1と同様にして測定し、Al2O3が2%含まれていることを確認した。
【0019】
<前処理3-熱硫酸処理>
反応時間が7時間であること以外は前処理1と同じ処理により、アルミノシリケートの白色粉末を得た。このアルミノシリケートを前処理1と同様にして測定し、Al2O3が6%含まれていることを確認した。
【0020】
<前処理4-熱硫酸処理無し>
ハロイサイト粉末を加熱硫酸と反応させず、乾式粉砕されたハロイサイト粉末(商品名DRAGONITE-HP、アプライドミネラルズ社製、平均粒子径12μm)を、気流式粉砕機(日清エンジニアリング(株)製SJ-100CB)で粉砕し、平均粒径約3μmのアルミノシリケートの白色粉末を得た。このアルミノシリケートを前処理1と同様にして測定し、Al2O3が39%含まれていることを確認した。
【0021】
<実施例1>
(NaClとの混合・乾燥)
前処理1で調製されたアルミノシリケート4.88gに、NaCl 41.48gと、蒸留水137mLを混合し、1時間常温で攪拌した。その後、ロータリーエバポレーターで溶媒を減圧蒸発させ、更に120℃で12時間乾燥した。
【0022】
(Mgとの混合)
得られた乾燥物を、メノウ乳鉢を用いて粉砕し、粉末状にした。得られた粉末から8.94gを取り出し、Arガス雰囲気下で、還元剤として0.72g[SiO2:Mg≒1:2.22(mol比)](Al2O3以外をすべてSiO2として計算した)のMg粉末を前記粉末に加え、混合した。
【0023】
(還元反応)
得られた混合物を全量アルミナるつぼに取り、電気炉内に置いた。その後、電気炉内を減圧後、Arガス注入を3回繰り返す((減圧→Arガス注入)×3)ことによって、電気炉内をArガスに置換した。電気炉内にArガスフローし続けた状態で、10℃/分の昇温速度で580℃まで加熱し、その後、1℃/分の昇温速度で600℃まで加熱した。600℃で3時間、Arガスフローの状態で維持した後、40℃まで降温し、その後、徐々に電気炉内をArガスから空気に置換し、アルミナるつぼを取り出した。
【0024】
(水洗)
取り出したアルミナるつぼ内の固形物に大量の水を加え、その液に超音波を10分かけてから遠心分離後に上澄みを除去した。この操作(水添加→超音波→遠心分離)を3回繰り返し、NaClを除去した。その後、吸引ろ過により固形物をろ紙上に回収し、固形物の上からエタノールを加え、吸引ろ過を行うことによって、固形物内に存在する水をエタノールに置換した。その後、ろ紙上の固形物を、減圧下、60℃で3時間加熱してエタノールを取り除き、褐色の固形物を得た。
【0025】
(HCl処理)
1Mの塩酸溶液100mLに、得られた褐色の固形物を徐々に投入した。全量投入後、4時間静置した。
【0026】
(水洗)
その後、大量の水を加え、遠心分離後に上澄みを除去した。この操作(水添加→超音波→遠心分離)を3回繰り返した後、吸引ろ過により固形物をろ紙上に回収した。その後、回収した固形物にエタノールを加え、吸引ろ過を行うことによって、固形物内に存在する水をエタノールに置換した。その後、ろ紙上の固形物を、減圧下、60℃で3時間加熱してエタノールを取り除き、褐色の固形物を得た。
【0027】
得られた褐色の固形物を回折X線で分析したところ、シリコンの明確なピークが見られた(
図1)。非晶質SiO
2が存在すると出現する2θ=20~25°のハローは見られなかった。天然のアルミノシリケート由来とみられる石英のピークがわずかに見られる。アルミニウム製試料ホルダーのわずかなピークも確認された。
電界放射型走査電子顕微鏡(JEOL製JSM-6700F)で観察したところ、シリコンの一次粒子の直径はおおよそ10~15nmだった(
図3)。Si,Al,OについてのSEM-EDX分析(SEM:日立ハイテクノロジーズ 走査電子顕微鏡SU3500、EDX:堀場製作所 エネルギー分散型X線分析装置EMAXEvolution EX-370 X-MAX20)を行いて原子数濃度(%)を測定したところ、残留酸素は原子数濃度で21.49%だった。結果を表1に示す。
【0028】
<実施例2>
出発原料が前処理3で得られたアルミノシリケートであり、NaClが46.07gであること、蒸留水が148mLであること、Mgとの混合工程で、NaClと混合・乾燥後粉砕した粉末の量を8.85gとした以外は、実施例1と同様の操作で褐色固形物を得た。
得られた褐色の固形物を回折X線で分析したところ、シリコンの明確なピークが見られた(
図1)。非晶質SiO
2が存在すると出現する2θ=20~25°のハローは見られなかった。天然のアルミノシリケート由来とみられる石英のピークがわずかに見られる。アルミニウム製試料ホルダーのわずかなピークも確認された。
【0029】
<実施例3>
出発原料が前処理4で得られたアルミノシリケートであり、NaClが29.96gであること、蒸留水が103mLであること、Mgとの混合工程で、NaClと混合・乾燥後粉砕した粉末の量を9.30g、Mg粉末の量を0.94g[SiO
2:Mg≒1:2.90(mol比)](Al
2O
3以外をすべてSiO
2として計算した)であること、HCl処理工程で使用した1Mの塩酸溶液の量を160mLとした以外は、実施例1と同様の操作で褐色固形物を得た。
得られた褐色の固形物を回折X線で分析したところ、シリコンの明確なピークが見られた(
図1)。非晶質SiO
2が存在すると出現する2θ=20~25°のハローは見られなかった。天然のアルミノシリケート由来とみられる石英のピークがわずかに見られる。アルミニウム製試料ホルダーのわずかなピークも確認された。
【0030】
<比較例1>
出発原料が前処理2で得られたアルミノシリケートであり、NaCl 48.06gであること、蒸留水154mLであること、Mgとの混合工程で、NaClと混合・乾燥後粉砕した粉末の量を8.81gとした以外、実施例1と同様の操作で褐色固形物を得た。
得られた褐色固形物を回折X線で分析したところ、シリコンの明確なピークが見られた(
図2)。非晶質SiO
2が存在すると出現する2θ=20~25°のハローが見られた。
Si,Al,OについてのSEM-EDX分析(SEM:日立ハイテクノロジーズ 走査電子顕微鏡SU3500、EDX:堀場製作所 エネルギー分散型X線分析装置EMAXEvolution EX-370 X-MAX20)を行い原子数濃度(%)を測定し残留酸素は原子数濃度で51.71%だった。結果を表1に示す。
【0031】
<比較例2>
出発原料が前処理2で得られたアルミノシリケートであり、Arガス雰囲気での600℃加熱による還元処理時間が24時間であること以外、比較例1と同様の操作で褐色粉末を得た。
得られた褐色粉末を回折X線で分析したところ、シリコンの明確なピークが見られた(
図2)。非晶質SiO
2が存在すると出現する2θ=20~25°のハローが見られた。
電界放射型走査電子顕微鏡(JEOL製JSM-6700F)で観察したところ、シリコンの一次粒子は20~60nmだった。Si,Al,OについてのSEM-EDX分析(SEM:日立ハイテクノロジーズ 走査電子顕微鏡SU3500、EDX:堀場製作所 エネルギー分散型X線分析装置EMAXEvolution EX-370 X-MAX20)を行い、原子数濃度(%)を測定したところ、残留酸素は原子数濃度で56.65%だった。結果を表1に示す。
【0032】
【0033】
図2に示された回折X線分析の測定結果から、前処理2の操作によってAl
2O
3の量を2%に調整したものを還元処理した場合、非晶質SiO
2のハローが確認できるほど非晶質SiO
2が多く存在することを確認した(比較例1,2)。実施例1の還元時間が3時間であるのに対し、比較例2の還元時間は24時間であるが、還元時間を24時間まで延長しても、非晶質SiO
2のハローが明確に見られた(比較例2、
図2)。
対して、前処理1、3、4の操作によってAl
2O
3の含有量を6%、15%、39%に調整したものを還元処理した場合(実施例1~3)、還元時間3時間で非晶質SiO
2のハローは見られなかった(
図1)。更に、実施例1のシリコンの一次粒子径は10~15nmと比較例2より小さかった。
高純度のシリコンを得ようとした場合、比較例1と2では、回折X線分析によって非晶質SiO
2ハローが確認できるほどそれが存在してしまうため、高純度のシリコンを得るためにはフッ化水素酸による非晶質SiO
2の除去工程が必要となる。しかし、実施例1~3のようにアルミナをある程度残した状態で還元処理を施すことによって、回折X線分析により非晶質SiO
2ハローが確認できないほど、高純度のシリコンが得られた。実施例1のO,Al,Siの原子数濃度から酸素の質量%を計算すると13.49質量%になる。シリコンの密度を2.33、SiO
2の密度を2.3として、ナノシリコンの一次粒子径を10nmとすると、実施例1のナノシリコンの一次粒子に存在するSiO
2の被膜の厚さは約0.5nmとなる。例えば実施例1のナノシリコンをリチウムイオン電池の負極材として使用した場合でも、このSiO
2厚みではリチウムイオンや電子のナノシリコンへの出入りの阻害にならない。その為、本発明によれば、非常に危険で、しかも高コストであるフッ化水素酸による非晶質SiO
2の除去工程を行わなくても、例えば、リチウムイオン電池の負極材として使用可能な高純度のナノシリコンが得られる。
工程(a)における還元処理が、還元剤として、アルカリ土類金属、アルミニウム、及びシリコンからなる群から選ばれる1種以上の金属粉又はそれらの合金の粉と、吸熱剤として、アルカリ金属塩化物及びアルカリ土類金属塩化物からなる群から選ばれる1種以上と、前記アルミノシリケートとを混合し、得られた混合物を、アルゴンガス又は窒素ガス雰囲気で加熱還元することを含む、請求項1又は2に記載の製造方法。
工程(a)における還元処理が、還元剤として、アルカリ土類金属、アルミニウム、及びシリコンからなる群から選ばれる1種以上の金属粉又はそれらの合金の粉と、吸熱剤として、アルカリ金属塩化物及びアルカリ土類金属塩化物からなる群から選ばれる1種以上と、前記アルミノシリケートとを混合し、得られた混合物を、アルゴンガス又は窒素ガス雰囲気で加熱還元することを含む、請求項1又は2に記載の製造方法。