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2023-44845共重合体及びその製造方法、ドープ液、並びにフィルム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023044845
(43)【公開日】2023-04-03
(54)【発明の名称】共重合体及びその製造方法、ドープ液、並びにフィルム
(51)【国際特許分類】
   C08F 224/00 20060101AFI20230327BHJP
   C08F 2/38 20060101ALI20230327BHJP
   C08F 2/18 20060101ALI20230327BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20230327BHJP
【FI】
C08F224/00
C08F2/38
C08F2/18
C08J5/18 CEY
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021152933
(22)【出願日】2021-09-21
(71)【出願人】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(72)【発明者】
【氏名】井本 慎也
(72)【発明者】
【氏名】寳來 健介
【テーマコード(参考)】
4F071
4J011
4J100
【Fターム(参考)】
4F071AA33X
4F071AA81X
4F071AA86X
4F071AF30Y
4F071AH12
4F071AH19
4F071BB02
4F071BB08
4F071BC01
4F071BC12
4J011AA05
4J011BB01
4J011BB06
4J011DA03
4J011JA03
4J011JA13
4J011NA25
4J011NB04
4J011PC07
4J100AL03P
4J100AL04P
4J100AU29Q
4J100CA04
4J100DA01
4J100DA25
4J100DA62
4J100EA01
4J100FA03
4J100FA04
4J100FA20
4J100FA21
4J100JA32
(57)【要約】
【課題】α-メチレンラクトン由来の構成単位を含む共重合体の製造方法であって、得られる共重合体の透明性を改善することが可能であるとともに、ケトン溶媒を主成分とする溶媒への溶解性に優れ、且つ高い耐熱性を有する共重合体を得ることが可能な製造方法を提供すること。
【解決手段】α-メチレンラクトン由来の構成単位及び炭素数1~6のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキル由来の構成単位を含む共重合体の製造方法であって、水溶媒中で、α-メチレンラクトン及び(メタ)アクリル酸アルキルを含む単量体を重合させる重合工程を備え、共重合体におけるα-メチレンラクトン由来の構成単位の含有量が10~40質量%であり、単量体の全量を重合工程の初期から系中に存在させる、共重合体の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
α-メチレンラクトン由来の構成単位及び炭素数1~6のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキル由来の構成単位を含む共重合体の製造方法であって、
水溶媒中で、前記α-メチレンラクトン及び前記(メタ)アクリル酸アルキルを含む単量体を重合させる重合工程を備え、
前記共重合体における前記α-メチレンラクトン由来の構成単位の含有量が10~40質量%であり、
前記単量体の全量を前記重合工程の初期から系中に存在させる、共重合体の製造方法。
【請求項2】
前記共重合体における前記(メタ)アクリル酸アルキル由来の構成単位の含有量が90~50質量%である、請求項1に記載の共重合体の製造方法。
【請求項3】
前記重合を連鎖移動剤の存在下で行う、請求項1又は2に記載の共重合体の製造方法。
【請求項4】
前記重合が懸濁重合である、請求項1~3のいずれか一項に記載の共重合体の製造方法。
【請求項5】
α-メチレンラクトン由来の構成単位及び炭素数1~6のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキル由来の構成単位を含む共重合体であって、
前記共重合体をケトン溶媒を含む溶媒に25質量%で溶解させて溶液としたときのヘイズが40%以下であり、
前記共重合体のガラス転移温度が115℃以上である、共重合体。
【請求項6】
前記共重合体における前記α-メチレンラクトン由来の構成単位の含有量が10~40質量%である、請求項5に記載の共重合体。
【請求項7】
前記共重合体における前記(メタ)アクリル酸アルキル由来の構成単位の含有量が90~50質量%である、請求項5又は6に記載の共重合体。
【請求項8】
請求項5~7のいずれか一項に記載の共重合体と、分散媒とを含有する、ドープ液。
【請求項9】
ヘイズが40%以下である、請求項8に記載のドープ液。
【請求項10】
請求項5~7のいずれか一項に記載の共重合体を含有する、フィルム。
【請求項11】
厚さ100μm当たりの内部ヘイズが2.0%以下である、請求項10に記載のフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共重合体及びその製造方法、ドープ液、並びにフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
α-メチレンラクトン由来の構成単位を含む共重合体は、透明性、耐熱性、光学等方性に優れ、光学用途への適用が期待されている。例えば、特許文献1には、所定のα-メチレンラクトン由来の構成単位を含む共重合体(樹脂)の成形体であるフィルム等が、光学用部材の用途に適することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-179813号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、一般にα-メチレンラクトン由来の構成単位を含む共重合体は、溶媒に対する溶解性が低い傾向にあることから、無溶媒又はジメチルスルホキシド(DMSO)溶媒中で重合が行われる。しかし、無溶媒での重合では透明性の高い共重合体を得ることができない。また、本発明者らの検討によると、DMSO溶媒中で重合を行うと、得られるα-メチレンラクトン由来の構成単位を含む共重合体が着色してしまい、透明性が低下してしまう傾向にあることを見出した。さらに、DMSO溶媒中で重合を行うと、可塑剤として機能するDMSOが共重合体中に残り、共重合体から形成されるフィルムの物性が低下する等といった問題もある。
【0005】
また、溶解性に着目すると、無溶媒又はジメチルスルホキシド(DMSO)溶媒中で重合されたα-メチレンラクトン由来の構成単位を含む共重合体は、ハロゲン系溶媒又は高沸点溶媒(ジメチルアセトアミド等)のみに溶解することが知られている。しかしながら、ハロゲン溶媒は毒性の観点から使用が制限される場合があり、高沸点溶媒は設備上乾燥が難しい場合がある。そのため、α-メチレンラクトン由来の構成単位を含む共重合体には、高い耐熱性を保ちつつ、メチルエチルケトン等の一般的なケトン溶媒を主成分とする溶媒(例えば、ケトン溶媒を好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上の割合で含む溶媒)に可溶であることが求められている。
【0006】
そこで、本発明は、α-メチレンラクトン由来の構成単位を含む共重合体の製造方法であって、得られる共重合体の透明性を改善することが可能であるとともに、ケトン溶媒を主成分とする溶媒への溶解性に優れ、且つ高い耐熱性を有する共重合体を得ることが可能な製造方法を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の[1]~[4]に記載の共重合体の製造方法、[5]~[7]に記載の共重合体、[8]、[9]に記載のドープ液、及び[10]、[11]に記載のフィルムを提供する。
[1]α-メチレンラクトン由来の構成単位及び炭素数1~6のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキル由来の構成単位を含む共重合体の製造方法であって、水溶媒中で、α-メチレンラクトン及び(メタ)アクリル酸アルキルを含む単量体を重合させる重合工程を備え、共重合体におけるα-メチレンラクトン由来の構成単位の含有量が10~40質量%であり、単量体の全量を重合工程の初期から系中に存在させる、共重合体の製造方法。
[2]共重合体における(メタ)アクリル酸アルキル由来の構成単位の含有量が90~50質量%である、[1]に記載の共重合体の製造方法。
[3]重合を連鎖移動剤の存在下で行う、[1]又は[2]に記載の共重合体の製造方法。
[4]重合が懸濁重合である、[1]~[3]のいずれかに記載の共重合体の製造方法。
[5]α-メチレンラクトン由来の構成単位及び炭素数1~6のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキル由来の構成単位を含む共重合体であって、共重合体をケトン溶媒を含む溶媒に25質量%で溶解させて溶液としたときのヘイズが40%以下であり、共重合体のガラス転移温度が、115℃以上である、共重合体。
[6]共重合体におけるα-メチレンラクトン由来の構成単位の含有量が10~40質量%である、[5]に記載の共重合体。
[7]共重合体における(メタ)アクリル酸アルキル由来の構成単位の含有量が90~50質量%である、[5]又は[6]に記載の共重合体。
[8][5]~[7]のいずれかに記載の共重合体と、分散媒とを含有する、ドープ液。
[9]ヘイズが40%以下である、[8]に記載のドープ液。
[10][5]~[7]のいずれかに記載の共重合体を含有する、フィルム。
[11]厚さ100μm当たりの内部ヘイズが2.0%以下である、[10]に記載のフィルム。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、α-メチレンラクトン由来の構成単位を含む共重合体の製造方法であって、得られる共重合体の透明性を改善することが可能であるとともに、ケトン溶媒を主成分とする溶媒への溶解性に優れ、且つ高い耐熱性を有する共重合体を得ることが可能な製造方法が提供される。また、本発明によれば、このような製造方法によって得られる共重合体が提供される。さらに、本発明によれば、このような共重合体を用いたドープ液及びフィルムが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0010】
[共重合体の製造方法]
一実施形態の共重合体の製造方法は、α-メチレンラクトン由来の構成単位及び炭素数1~6のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキル由来の構成単位を含む共重合体の製造方法である。
【0011】
α-メチレンラクトン由来の構成単位は、α位の炭素にメチレン基が結合したα-メチレンラクトンの重合により形成される。α-メチレンラクトン由来の構成単位の具体的な構造は特に限定されない。ラクトンの環員数は、特に限定されないが、環構造の安定性が高く、この高い安定性に基づいてより高い表面強度が得られることから、好ましくは5員環(γ-ラクトン)又は6員環(δ-ラクトン)である。
【0012】
5員環又は6員環であるα-メチレンラクトンの具体例は、α-メチレン-γ-ブチロラクトン、α-メチレン-δ-バレロラクトンである。これらは置換基を有するものであってもよい。
【0013】
α-メチレンラクトン由来の構成単位は、好ましくは以下の式(1)に示す構造を有する構成単位である。
【0014】
【化1】
【0015】
式(1)におけるR~Rは、互いに独立して、水素原子又は炭素数1~18の炭化水素基である。
【0016】
式(1)に示す構造を有する構成単位は、以下の式(2)に示すα-メチレン-γ-ブチロラクトンを含む単量体の重合により形成できる。
【0017】
【化2】
【0018】
式(2)におけるR~Rは、互いに独立して、水素原子又は炭素数1~18の炭化水素基である。
【0019】
炭化水素基は、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基である。脂肪族炭化水素基は、例えば、アルキル基である。アルキル基の炭素数は、好ましくは1~10、より好ましくは1~8である。アルキル基は直鎖でも分岐を有していてもよく、環状でもよい。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0020】
芳香族炭化水素基は特に限定されず、例えば、複素環構造を含んでいてもよい。芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、トリル基、ベンジル基等が挙げられる。
【0021】
~Rは、好ましくは、互いに独立して、水素原子又は炭素数1~10のアルキル基、より好ましくは全て水素原子である。
【0022】
共重合体におけるα-メチレンラクトン由来の構成単位の含有量は、10~40質量%である。共重合体におけるα-メチレンラクトン由来の構成単位の含有量が10質量%以上であると、共重合体の耐熱性が向上する傾向にある。共重合体におけるα-メチレンラクトン由来の構成単位の含有量が40質量%以下であると、ケトン溶媒を主成分とする溶媒への溶解性に優れる傾向にある。共重合体におけるα-メチレンラクトン由来の構成単位の含有量は、耐熱性をより一層向上させる観点から、好ましくは12質量%以上、より好ましくは15質量%以上であり、ケトン溶媒を主成分とする溶媒への溶解性により一層優れる観点から、好ましくは35質量%以下、より好ましくは30質量%以下である。なお、共重合体における各構成単位の含有量は、共重合体を重溶媒に溶解させ、H-NMRを測定し各構成単位に対応するピークの面積比を算出することで求めることができる。
【0023】
炭素数1~6のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキル由来の構成単位は、(メタ)アクリル酸アルキルの重合により形成される。(メタ)アクリル酸アルキルにおける炭素数1~6のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてよい。
【0024】
(メタ)アクリル酸アルキルにおけるアルキル基の炭素数は、好ましくは1~3、より好ましくは1又は2、更に好ましくは1である。
【0025】
共重合体における(メタ)アクリル酸アルキル由来の構成単位の含有量は、好ましくは90~50質量%である。共重合体における(メタ)アクリル酸アルキル由来の構成単位の含有量が90質量%以下であると、共重合体の耐熱性が向上する傾向にある。共重合体における(メタ)アクリル酸アルキル由来の構成単位の含有量が50質量%以上であると、ケトン溶媒を主成分とする溶媒への溶解性に優れる傾向にある。共重合体における(メタ)アクリル酸アルキル由来の構成単位の含有量は、耐熱性をより一層向上させる観点から、好ましくは88質量%以下、より好ましくは85質量%以下であり、ケトン溶媒を主成分とする溶媒への溶解性により一層優れる観点から、好ましくは60質量%以上、より好ましくは65質量%以上、更に好ましくは70質量%以上である。
【0026】
共重合体は、α-メチレンラクトン由来の構成単位及び炭素数1~6のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキル由来の構成単位以外のその他の単量体の構成単位を含んでいてもよい。その具体例としては、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸クロロメチル、(メタ)アクリル酸2-クロロエチル、スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン、アクリロニトリル、メチルビニルケトン、エチレン、プロピレン、酢酸ビニル等の単量体由来の構成単位が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてよい。
【0027】
共重合体におけるその他の構成単位の含有量は、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは10質量%以下である。
【0028】
本本実施形態の共重合体の製造方法は、水溶媒中で、上記α-メチレンラクトン及び上記(メタ)アクリル酸アルキルを含む単量体を重合させる重合工程を備え、単量体の全量を重合工程の初期から系中に存在させることを特徴とする。
【0029】
本実施形態の共重合体の製造方法によれば、得られる共重合体の透明性を改善することができる。また、本実施形態の共重合体の製造方法によれば、溶媒として水溶媒を用いることから、DMSO等の有機溶媒を実質的に含まない共重合体を製造することができる。さらに、本実施形態の共重合体の製造方法によれば、ケトン溶媒を主成分とする溶媒への溶解性に優れ、且つ高い耐熱性を有する共重合体を得ることが可能となる。
【0030】
水溶媒は、水単独であることが好ましいが、本発明による効果を阻害しない範囲で、非水溶媒(特に、水溶性有機溶媒)を含んでいてもよい。水溶性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、2-メチルプロピルアルコール、2-メチル-2-プロパノール等のアルコール溶媒;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン溶媒;酢酸エチル等のエステル溶媒;ジオキサン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル溶媒などが挙げられる。
【0031】
水溶媒中の非水溶媒(水溶性有機溶媒)の割合は、好ましくは5質量%以下、より好ましくは2質量%以下、更に好ましくは1質量%以下である。
【0032】
重合温度は、好ましくは40~100℃、より好ましくは50~90℃、更に好ましくは70~90℃である。また、重合時間は好ましくは0.5~20時間、より好ましくは1~10時間である。
【0033】
重合工程において、単量体の全量を重合工程の初期から系中に存在させるためには、実質的に重合が開始する前に単量体の全量が反応器へ投入されていればよく、例えば、反応器の温度を重合温度まで上昇させる前に単量体の全量を反応器へ投入することができる。単量体を水溶媒中に分散させるときには、パドル翼等で撹拌して分散させてもよく、高速せん断タービン型分散機、高圧ジェットホモジナイザー、超音波式乳化分散機、媒体撹拌分散機、強制間隙通過型分散機等の乳化分散装置を用いて分散させてもよい。
【0034】
単量体を重合させる際には、必要に応じて、重合開始剤、連鎖移動剤、分散剤(乳化剤)及び/又は添加剤を添加してもよい。
【0035】
重合開始剤としては、例えば、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t-アミルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート等の有機過酸化物;2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、ジメチル-2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)等のアゾ化合物などが挙げられる。重合開始剤の含有割合は、用いる単量体の組み合わせ、反応条件等に応じて適宜設定すればよく、特に制限されないが、全単量体に対して、好ましくは100~50000質量ppm、より好ましくは500~30000質量ppm、更に好ましくは1000~20000質量ppmである。
【0036】
連鎖移動剤としては、例えば、n-ドデシルメルカプタン、β-メルカプトプロピオン酸等の単官能チオール化合物;両末端メルカプト変性ポリシロキサン等の2官能チオール化合物;側鎖がメルカプト変性された側鎖多官能メルカプト変性ポリシロキサンなどが挙げられる。連鎖移動剤の添加の有無、及び添加する場合には添加量によって、得られる共重合体の分子量を調整することができる。連鎖移動剤の含有割合は、用いる単量体の組み合わせ、反応条件等に応じて適宜設定すればよく、特に制限されないが、全単量体に対して、好ましくは10~10000質量ppm、より好ましくは100~3000質量ppmである。
【0037】
分散剤(乳化剤)としては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン、セルロース、ゼラチン、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリメタクリル酸ナトリウム等の水溶性高分子系分散安定剤;ラウリル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩(例えば、ポリオキシエチレンジスチリルフェニルエーテル硫酸エステルアンモニウム)等のアニオン性界面活性剤;アルキルアミン塩、第四級アンモニウム塩等のカチオン性界面活性剤;ラウリルジメチルアミンオキサイド等の両性イオン性界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル等のノニオン性界面活性剤;その他アルギン酸塩、ゼイン、カゼイン;硫酸バリウム、硫酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、リン酸カルシウム、タルク、粘土、ケイソウ土、ベントナイト、水酸化チタン、水酸化トリウム、金属酸化物粉末等の無機分散剤などが挙げられる。分散剤の添加により、重合反応の安定性を向上させることができる。分散剤の含有割合は、特に制限されないが、全単量体に対して、好ましくは0.1~4質量%、より好ましくは0.2~3質量%である。
【0038】
添加剤としては、酸化防止剤、耐光安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、アルカン等の非水溶性有機溶媒、ラジカル捕捉剤等が挙げられる。添加剤の含有割合は特に制限されないが、全単量体に対して、好ましくは0.001~2質量%、より好ましくは0.005~1質量%である。
【0039】
本実施形態の製造方法における重合反応の形態としては、例えば、懸濁重合、乳化重合等が挙げられる。これらの中で、重合反応の形態は、得られる共重合体の透明性をより向上できる点等から、分散剤の存在下で、水溶媒中に単量体を懸濁させて反応を行う懸濁重合が好ましい。
【0040】
本実施形態の製造方法においては、重合工程後に、固液分離することにより、共重合体を回収してもよい。固液分離の方法としては、濾取、遠心分離、それらの組み合わせ等が挙げられる。特に、懸濁重合により得られる共重合体は、粉体として容易に濾取することが可能であり、取り扱い性が高い。
【0041】
得られた共重合体は、乾燥させることが好ましい。乾燥温度は、例えば、60~120℃とすることができる。
【0042】
また、固液分離をせずに直接乾燥により水を取り除いてもよい。各種ドライヤーを用いて乾燥させることで直接共重合体を粉体として取得することができる。
【0043】
[共重合体]
一実施形態の共重合体は、α-メチレンラクトン由来の構成単位及び炭素数1~6のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキル由来の構成単位を含む共重合体である。共重合体は、上記製造方法によって得られる共重合体であり得る。本実施形態の共重合体は、ケトン溶媒を主成分とする溶媒への溶解性に優れる。この理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは、上記製造方法によって組成分布を抑制できたためであると考えている。また、本実施形態の共重合体は、得られる共重合体中にDMSO等の有機溶媒を実質的に含まないことから、ケトン溶媒を主成分とする溶媒に溶解させて溶液としたときの透明性にも優れる。
【0044】
共重合体をケトン溶媒を含む溶媒に25質量%で溶解させて溶液としたときのヘイズは、40%以下である。当該ヘイズは、好ましくは30%以下、より好ましくは20%以下、更に好ましくは10%以下である。ここで、ケトン溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン等が挙げられる。ケトン溶媒は、例えば、メチルエチルケトンとすることができる。ヘイズを測定する際のケトン溶媒を含む溶媒は、ケトン溶媒を主成分とする溶媒であり得る。なお、本明細書において、ケトン溶媒を主成分とする溶媒とは、ケトン溶媒を好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上の割合で含む溶媒を意味する。ケトン溶媒を含む溶媒は、ケトン溶媒からなる溶媒であってもよい。また、ここでのヘイズは、例えば、実施例に記載の方法によって測定することができる。
【0045】
共重合体のJIS K 7121の規定に準拠して測定されるガラス転移温度(Tg)は、耐熱性等を向上させる観点から、115℃以上である。ガラス転移温度(Tg)は、好ましくは118℃以上、より好ましくは120℃以上である。共重合体のガラス転移温度の上限は、特に限定されないが、例えば、160℃以下とすることができる。
【0046】
共重合体の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは100000以上、より好ましくは150000以上、更に好ましくは200000以上、特に好ましくは220000以上、最も好ましくは240000以上である。共重合体の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは1000000以下、より好ましくは750000以下、更に好ましくは500000以下である。共重合体のMwが上記所定の範囲であると、フィルムの柔軟性をより向上させることができる。なお、共重合体のMwは、例えば、実施例に記載の方法によって測定することができる。
【0047】
共重合体の数平均分子量(Mn)は、好ましくは20000以上、より好ましくは50000以上、更に好ましくは100000以上である。共重合体の数平均分子量(Mn)は、好ましくは500000以下、より好ましくは400000以下、更に好ましくは300000以下である。なお、共重合体のMnは、例えば、実施例に記載の方法によって測定することができる。また、共重合体の分散度(Mw/Mn)は、好ましくは3.0以下、より好ましくは2.8以下、更に好ましくは2.5以下である。
【0048】
共重合体は、フィルムにしたときの厚さ100μm当たりの内部ヘイズが2.0%以下である。当該内部ヘイズは、好ましくは1.5%以下、より好ましくは1.0%以下、更に好ましくは0.5%以下、特に好ましくは0.3以下である。なお、共重合体におけるフィルムにしたときの厚さ100μm当たりの内部ヘイズは、例えば、実施例に記載の方法によって測定することができる。また、共重合体を熱プレス成形する際の温度は、例えば、200~270℃であってよく、より具体的には240℃とすることができる。
【0049】
本実施形態の共重合体は、光学用途、例えば、導光部材、フィルム用途、レンズ(光学レンズ等)等の各種用途に適用することができる。
【0050】
[ドープ液]
一実施形態のドープ液は、上記の共重合体と、分散媒とを含有する。ドープ液は、例えば、フィルムの製造に好適に用いることができる。
【0051】
分散媒は、例えば、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン溶媒;ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン、1,1-ジクロロエタン等の塩化アルキル溶媒;シクロヘキサノン(アノン)、シクロペンタノン等の環状ケトン溶媒、γ-ブチロラクトン(GBL)、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトン等の環状エステル溶媒、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン(NMP)、N,N’-ジメチルイミダゾリジノン(DMI)等のアミド溶媒、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド溶媒;トルエン、キシレン、ベンゼン等の芳香族系溶媒;メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、2-ブタノール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ等のアルコール溶媒などが挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてよい。分散媒は、好ましくは、ケトン溶媒を好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上の割合で含む溶媒である。
【0052】
ドープ液中の共重合体の含有量は、フィルムを効率よく製造する観点から、ドープ液の全量を基準として、好ましくは5質量%以上であり、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上、特に好ましくは20質量%以上である。ドープ液中の共重合体の含有量は、製造設備で安定的に生産するために流動性を確保する観点から、ドープ液の全量を基準として、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下、更に好ましくは40質量%以下である。
【0053】
ドープ液は、後述のフィルムにおけるその他の重合体を含有していてもよい。その他の重合体の含有量は、ドープ液の全量を基準として、好ましくは0~50質量%、より好ましくは0~40質量%、更に好ましくは0~30重量%、特に好ましくは0~20質量%、最も好ましくは0~10質量%である。
【0054】
ドープ液は、後述のフィルムにおけるその他の添加剤を含有していてもよい。ドープ液は、1種又は2種以上のその他の添加剤を含有することができる。その他の添加剤の含有量は、ドープ液の全量を基準として、好ましくは0~5質量%、より好ましくは0~2質量%、更に好ましくは0~0.5質量%である。
【0055】
ドープ液の黄色度(YI)は、低着色なフィルムを得る観点から、好ましくは10以下、より好ましくは5以下、更に好ましくは3以下である。
【0056】
ドープ液のヘイズは、高透明なフィルムを得る観点から、好ましくは40%以下、より好ましくは30%以下、更に好ましくは20%以下、特に好ましくは10%以下である。
【0057】
[フィルム]
一実施形態のフィルムは、上述の共重合体を主成分として含有する。本実施形態のフィルムは、上述の共重合体を含有する樹脂組成物、又は、上述の共重合体を含有するドープ液を用いて製造することができる。
【0058】
共重合体の含有量は、フィルムの全量を基準として、好ましくは50~100質量%、より好ましくは60~100質量%、更に好ましくは70~100重量%、特に好ましくは80~100質量%、最も好ましくは90~100質量%である。共重合体の含有量が50質量%以上であると、透明性により優れるフィルムを得ることができる。
【0059】
フィルムは、上述の共重合体以外の重合体(その他の重合体)を含有していてもよい。その他の重合体としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、ポリ(4-メチル-1-ペンテン)等のオレフィン系ポリマー;塩化ビニル、塩素化ビニル樹脂等の含ハロゲン系ポリマー;ポリメタクリル酸メチル等のアクリル系ポリマー;ポリスチレン、スチレン-メタクリル酸メチル共重合体、スチレン-アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレンブロック共重合体等のスチレン系ポリマー;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610等のポリアミド;ポリアセタール;ポリカーボネート;ポリフェニレンオキシド;ポリフェニレンスルフィド;ポリエーテルエーテルケトン;ポリサルホン;ポリエーテルサルホン;ポリオキシベンジレン;ポリアミドイミド;ポリブタジエン系ゴム、アクリル系ゴム等の弾性有機微粒子;ポリブタジエン系ゴム、アクリル系ゴムを配合したABS樹脂、ASA樹脂等のゴム質重合体などが挙げられる。その他の重合体の含有量は、フィルム(樹脂組成物)の全量を基準として、好ましくは0~50質量%、より好ましくは0~40質量%、更に好ましくは0~30重量%、特に好ましくは0~20質量%、最も好ましくは0~10質量%である。
【0060】
フィルムは、その他の添加剤を含有していてもよい。その他の添加剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系、リン系、イオウ系等の酸化防止剤;耐光安定剤、耐候安定剤、熱安定剤等の安定剤;ガラス繊維、炭素繊維等の補強材;フェニルサリチレート、(2,2’-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-ヒドロキシベンゾフェノン等の紫外線吸収剤;近赤外線吸収剤;トリス(ジブロモプロピル)ホスフェート、トリアリルホスフェート、酸化アンチモン等の難燃剤;アニオン系、カチオン系、ノニオン系の界面活性剤等の帯電防止剤;無機顔料、有機顔料、染料等の着色剤;有機フィラー又は無機フィラー;樹脂改質剤;有機充填剤又は無機充填剤;可塑剤;滑剤;帯電防止剤;難燃剤;流動化剤;相溶化剤などが挙げられる。フィルムは、1種又は2種以上のその他の添加剤を含有することができる。その他の添加剤の含有量は、フィルムの全量を基準として、好ましくは0~5質量%、より好ましくは0~2質量%、更に好ましくは0~0.5質量%である。
【0061】
フィルムの製造方法の一態様は、上述の共重合体を含有する樹脂組成物を成形してフィルムを得る工程を備える。樹脂組成物を成形する方法としては、特に限定されないが、例えば、溶融押出法、カレンダー法、圧縮成形法等の従来公知の方法が挙げられる。これらの中でも、樹脂組成物を成形する方法は、好ましくは溶融押出法である。
【0062】
樹脂組成物は、所望のフィルムに合わせて、上述の共重合体に加えて、上述のその他の重合体、上述のその他の添加剤等を含有していてもよい。なお、樹脂組成物における共重合体、その他の重合体、その他の添加剤等の含有量は、フィルムで例示した各成分の含有量と同様であってよい。
【0063】
溶融押出法の具体例としては、例えば、Tダイ法、インフレーション法等が挙げられる。樹脂組成物の成形温度は、好ましくは150~350℃、より好ましくは200~300℃である。
【0064】
フィルムの製造方法の他の一態様は、上述のドープ液を支持体上に塗工する工程と、塗工されたドープ液から分散媒を除去してフィルムを得る工程とを備える。支持体は、特に制限されず、溶液製膜に使用される従来公知の支持体を使用することができる。支持体としては、例えば、ステンレス鋼のエンドレスベルト、回転する金属ドラム等の金属支持体、フィルム(例えば、ポリイミドフィルム、ポリエステルフィルム(二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム)等のプラスチックフィルム)などが挙げられる。ドープ液を塗工する方法は、特に限定されないが、従来公知の方法を用いることができる。ドープ液を塗工する方法としては、例えば、ダイコーター、ドクターブレードコーター、ロールコーター、コンマコーター、リップコーター等を用いて塗工する方法が挙げられる。
【0065】
ドープ液から分散媒を除去する方法としては、特に限定されないが、例えば、ドープ液を加熱して分散媒を揮発させる方法等が挙げられる。加熱温度は、使用される分散媒に合わせて適宜設定することができる。
【0066】
フィルムは、延伸することによって延伸フィルムとすることができる。フィルムは、可とう性に優れる点、場合によっては位相差を付与できる点で、好ましくは延伸フィルムである。
【0067】
フィルムを延伸する方法としては、従来公知の延伸方法が適用でき、例えば、自由幅一軸延伸、定幅一軸延伸等の一軸延伸;逐次二軸延伸、同時二軸延伸等の二軸延伸等が挙げられる。フィルム面内の任意の直交する二方向に対する耐折れ曲げ性が向上するという点で、フィルムを延伸する方法は好ましくは二軸延伸である。
【0068】
フィルムを延伸する際の延伸温度は、好ましくは上述の共重合体のガラス転移温度近辺である。より具体的には、好ましくは(ガラス転移温度-30)℃~(ガラス転移温度+100)℃、より好ましくは(ガラス転移温度-20)℃~(ガラス転移温度+50)℃、更に好ましくは(ガラス転移温度-10)℃~(ガラス転移温度+30)℃である。
【0069】
フィルムを延伸する際の延伸倍率は、例えば、縦横方向それぞれ1.05~10倍の範囲であってよい。
【0070】
フィルムの厚さは、好ましくは1μm以上350μm未満、より好ましくは10μm以上300μm以下である。
【0071】
フィルムの厚さ100μm当たりの内部ヘイズは、2.0%以下であってよい。当該内部ヘイズは、好ましくは1.5%以下、より好ましくは1.0%以下、更に好ましくは0.5%以下、特に好ましくは0.3%以下である。なお、フィルムの厚さ100μm当たりの内部ヘイズは、例えば、実施例に記載の方法によって測定することができる。
【0072】
本実施形態のフィルムは、種々の用途に適用でき、例えば、光学用途に好適に適用することができる。具体的な用途の例としては、例えば、導光部材、フィルム用途、レンズ(光学レンズ等)、カバー、発泡体用途(例えば、緩衝材、保温・断熱材、制振材、防音材、シール材、パッキング材等)などの各種用途が挙げられる。
【0073】
本実施形態のフィルムは、透明性、耐熱性、柔軟性、及び表面硬度に優れるので、フレキシブルディスプレイ用途に好適に用いることができ、特に、最表面のカバーウィンドウとしてより一層好適に用いることができる。フレキシブルディスプレイの具体例としては、薄くて曲げられるフレキシブルタイプの有機ELディスプレイ、折り畳み又は巻き取りが可能なスマートフォン等が挙げられる。また、本実施形態のフィルムは、低位相差であることから、フレキシブルディスプレイの各層の保護フィルム等として用いることも可能である。さらに、本実施形態のフィルムは、偏光板又はタッチパネルの作製に好適に用いることができる。
【0074】
本実施形態のフィルムを、フレキシブルディスプレイ用カバーウィンドウとして適用する際には、例えば、ハードコート層等の他の層を有する積層体として用いてもよい。また、フィルムから形成されるフレキシブルディスプレイ用カバーウィンドウは、例えば、接着層等を介して、フレキシブルディスプレイの表面に配置することができる。
【実施例0075】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。なお、以下においては、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を意味する。また、各種物性は、次のようにして測定・評価した。
【0076】
[重合完了時の単量体の転化率及び共重合体の組成分析]
重合完了時の単量体の転化率及び共重合体中の特定単量体単位の含有率は、得られた重合反応液中の未反応単量体の量をガスクロマトグラフィー(島津製作所製、装置名:GC-2014)を用いて測定して求めた。
【0077】
[共重合体の重量平均分子量及び数平均分子量]
共重合体の重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて、ポリスチレン換算により求めた。測定に用いた装置及び測定条件は、以下のとおりである。
システム:東ソー製GPCシステムHLC-8220
測定側カラム構成:
・ガードカラム(東ソー製、TSKguardcolumn SuperHZ-L)
・分離カラム(東ソー製、TSKgel SuperHZM-M) 2本直列接続
リファレンス側カラム構成:
・リファレンスカラム(東ソー製、TSKgel SuperH-RC)
展開溶媒:クロロホルム(和光純薬工業製、特級)
展開溶媒の流量:0.6mL/分
標準試料:TSK標準ポリスチレン(東ソー製、PS-オリゴマーキット)
カラム温度:40℃
【0078】
[共重合体中のML含有量]
共重合体中のML含有量(α-メチレンラクトン由来の構成単位の含有量)は、H-NMRにより求めた。具体的には、重溶媒として重DMSO又は重クロロホルムを使用し、核磁気共鳴分光計(BRUKER製、AV300M)を用いてH-NMR測定を行い、得られたH-NMRプロファイルの面積比から求めた。
【0079】
[共重合体のガラス転移温度(Tg)]
共重合体のガラス転移温度は、JIS K 7121の規定に準拠して求めた。具体的には、示差走査熱量計(リガク製、Thermo plus EVO DSC-8230)を用い、窒素ガス雰囲気下、約10mgのサンプルを常温から200℃まで昇温(昇温速度20℃/分)して得られたDSC曲線から、始点法により評価した。リファレンスには、α-アルミナを用いた。
【0080】
[共重合体の内部ヘイズ]
ヘイズはJIS K7136の規定に準拠して求めた。具体的には、共重合体を240℃、40MPaで10分間熱プレス成形して得られた未延伸フィルムを用意し、ヘイズメーター(日本電色工業製、NDH-1001DP)を用いて、光路長10mmの石英セルに1,2,3,4-テトラヒドロナフタリン(テトラリン)を満たし、その中にフィルムを浸漬して測定し、100μm当たりの内部ヘイズ値として算出した。
【0081】
[共重合体のMEKを含む溶媒中でのヘイズ]
共重合体をメチルエチルケトン(MEK)を含む溶媒に25質量%で溶解させたドープ液を調製し、ここで調製したドープ液のヘイズを用いてヘイズを測定した。ヘイズは、ヘイズメーター(日本電色工業製、NDH-1001DP)で、光路長10mmの石英セルを用いて測定した。具体的には空の石英セルで標準校正を行った後、ドープ液のヘイズを測定した。
【0082】
[ドープ液の黄色度(YI)]
ドープ液の黄色度(YI)は、分光色差計(日本電色工業製:Colormeter ZE6000)の透過モードで、光路長10mmの石英セルを用いて測定した。具体的には空の石英セルで標準校正を行った後、ドープ液のYIを測定した。
【0083】
[ドープ液のヘイズ]
ドープ液のヘイズは、ヘイズメーター(日本電色工業社製、NDH-1001DP)で、光路長10mmの石英セルを用いて測定した。具体的には空の石英セルで標準校正を行った後、ドープ液のヘイズを測定した。
【0084】
[フィルムの内部ヘイズ]
ヘイズはJIS K7136の規定に準拠して求めた。具体的には、延伸フィルムを用意し、ヘイズメーター(日本電色工業社製、NDH-1001DP)を用いて、光路長10mmの石英セルに1,2,3,4-テトラヒドロナフタリン(テトラリン)を満たし、その中にフィルムを浸漬して測定し、100μm当たりの内部ヘイズ値として算出した。
【0085】
[フィルムの厚さ]
フィルムの厚さは、デジマチックマイクロメーター(ミツトヨ製)により求めた。
【0086】
なお、メタクリル酸メチル(MMA)、α-メチレン-γ-ブチロラクトン(ML)、メチルエチルケトン(MEK)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、及びN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)は、東京化成工業から入手した。パーロイルL(ジラウロイルパーオキサイド、LPO)は、日油から入手した。t-アミルパーオキシ2-エチルヘキサノエート(ルペロックス(登録商標)575)は、アルケマ吉富から入手した。ポリオキシエチレンジスチリルフェニルエーテル硫酸エステルアンモニウム(ハイテノール(登録商標)NF-08)は、第一工業製薬から入手した。また、nDMは、n-ドデシルメルカプタンを意味する。
【0087】
<共重合体の合成、ドープ液の調製、及びフィルムの作製>
(実施例1)
撹拌装置、温度センサー、冷却管、及び窒素導入管を備えた反応器を用意した。容器にハイテノール(登録商標)NF-08を0.25部溶解した脱イオン水75部を仕込んだ。次いで、当該容器に、あらかじめ単量体としてのMLを13部、MMAを37部、重合開始剤としてのLPOを0.25部混合した混合液を仕込み、T.K.ホモミクサーMARK II model2.5(プライミクス製)を用い、3000rpmで15分間撹拌して均一な懸濁液とした。
【0088】
懸濁液に脱イオン水を125部追加してから反応器に移送し、撹拌しながら窒素ガスを吹き込みながら反応液(懸濁液)が70℃になるまで加熱した。内温70℃になった時点を反応開始とし、そのまま70℃で反応器を保温して自己発熱により液温がピーク温度に到達した後に75℃で保ち、さらに反応開始2時間後に反応液(懸濁液)を90℃まで昇温して4時間撹拌して重合反応を完了させた。その後、反応液を冷却し、濾過して共重合体を濾取し、さらに熱風乾燥機を用いて乾燥することによって共重合体(粉体)を得た。重合完了時の単量体の転化率は、MLにおいて98.2%であり、MMAにおいて99.1%であった。得られた共重合体のMwは25.2万、Mnは11.9万、Tgは127℃、MEK中のヘイズは7.8%、内部ヘイズは0.2%であった。
【0089】
得られた共重合体をMEKに溶解させて、共重合体の含有量が25質量%であるドープ液を調製し、5μmのフィルターで加圧濾過した。調製したドープ液を目視で確認したところ、均一に分散しており、その後、一晩静置しても沈殿が生じることなく、ドープ液の外観に変化は観察されなかった。ドープ液のヘイズは7.8%、YIは2.4であった。
【0090】
次に、ポリイミド(PI)フィルムに、調製したドープ液を滴下し、アプリケーターを使用して厚さ1mmに塗り広げた。その後、乾燥機を使用して40℃から180℃まで加熱する条件で乾燥して、厚さ160μmの未延伸キャストフィルムを得た。得られた未延伸キャストフィルムを96mm×96mmの大きさに切り出し、逐次二軸延伸機(東洋精機製作所製、X6-S)を用いて、Tg+20℃の延伸温度にて300%/分の延伸速度で縦方向(MD方向)及び横方向(TD方向)の順にそれぞれ延伸倍率が2.0倍となるように逐次二軸延伸を行い、冷却することにより、厚さ40μmの延伸フィルムを作製した。延伸フィルムの内部ヘイズは0.1%であった。
【0091】
(実施例2)
あらかじめ単量体としてのMLを7.5部、MMAを42.5部、重合開始剤としてのLPOを0.25部混合した混合液を用いた以外は、実施例1と同様にして、共重合体(粉体)を得た。重合完了時の単量体の転化率は、MLにおいて98.3%であり、MMAにおいて99.2%であった。得られた共重合体のMwは29.9万、Mnは14.2万、Tgは121℃、MEK中のヘイズは8.1%、内部ヘイズは0.2%であった。
【0092】
得られた共重合体をMEK及びDMFの7:3(質量比)の混合溶媒に溶解させて、共重合体の含有量が25質量%であるドープ液を調製し、5μmのフィルターで加圧濾過した。調製したドープ液を目視で確認したところ、均一に分散しており、その後、一晩静置しても沈殿が生じることなく、ドープ液の外観に変化は観察されなかった。ドープ液のヘイズは7.7%、YIは2.8であった。
【0093】
調製したドープ液を用いて、実施例1と同様にして、厚さ40μmの延伸フィルムを作製した。延伸フィルムの内部ヘイズは0.2%であった。
【0094】
(比較例1)
撹拌装置、温度センサー、冷却管、及び窒素導入管を備えた反応器に、単量体としてのMLを13部、MMAを37部、溶媒としてのジメチルスルホキシド(DMSO)を60部仕込み、これに窒素を通じつつ83℃まで昇温させた。その後、重合開始剤としてルペロックス(登録商標)575を0.15部加えて83~90℃で6時間かけて溶液撹拌重合を行った。得られた重合液を240℃で1時間真空乾燥(133Pa(1mmHg))して共重合体を得た。重合完了時のモノマーの転嫁率はMMAが94.1%、MLが95.5%であった。得られた共重合体のMwは25.2万、Mnは11.9万、Tgは127℃、MEK中のヘイズは78.1%、内部ヘイズは2.6%であった。
【0095】
得られた共重合体を用いて、実施例1と同様にして、ドープ液を調製した。調製したドープ液を目視で確認したところ、全体的に濁りが発生しており、その後、一晩静置したところ沈殿が生じた。なお、調製したドープ液に、ハイテノール(登録商標)NF-08を添加してもドープ液の濁りが改善することはなかった。
【0096】
調製したドープ液を用いて、実施例1と同様にして、厚さ40μmの延伸フィルムを作製した。延伸フィルムの内部ヘイズは2.6%であった。
【0097】
(比較例2)
あらかじめ単量体としてのMLを27.5部、MMAを22.5部、重合開始剤としてのLPOを0.25部混合した混合液を用いた以外は、実施例1と同様にして、共重合体(粉体)を得た。重合完了時の単量体の転化率は、MLにおいて98.2%であり、MMAにおいて99.5%であった。得られた共重合体のMwは22.7万、Mnは9.5万、Tgは144℃であった。
【0098】
得られた共重合体を用いて、実施例1と同様にして、ドープ液を調製した。調製したドープ液を目視で確認したところ、全体的に濁りが発生して、MEK不溶分が沈殿しており、ドープ液の物性を測定できなかった。また、ドープ液から延伸フィルムを形成できなったことから、延伸フィルムの物性に関しても測定できなかった。
【0099】
(比較例3)
あらかじめ単量体としてのMLを2.5部、MMAを47.5部、重合開始剤としてのLPOを0.25部混合した混合液を用いた以外は、実施例1と同様にして、共重合体(粉体)を得た。重合完了時の単量体の転化率は、MLにおいて99.0%であり、MMAにおいて99.0%であった。得られた共重合体のMwは29.0万、Mnは13.6万、Tgは112℃、MEK中のヘイズは8.1%、内部ヘイズは0.2%であった。
【0100】
得られた共重合体を用いて、実施例1と同様にして、ドープ液を調製した。調製したドープ液を目視で確認したところ、均一に分散しており、その後、一晩静置しても沈殿が生じることなく、ドープ液の外観に変化は観察されなかった。ドープ液のヘイズは7.8%、YIは3.2であった。
【0101】
調製したドープ液を用いて、実施例1と同様にして、厚さ40μmの延伸フィルムを作製した。延伸フィルムの内部ヘイズは0.2%であった。