IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 月島食品工業株式会社の特許一覧

特開2023-44853フライ用又はコーティング用油脂組成物、ポテトチップスの調理方法、及びポテトチップス
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023044853
(43)【公開日】2023-04-03
(54)【発明の名称】フライ用又はコーティング用油脂組成物、ポテトチップスの調理方法、及びポテトチップス
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/00 20060101AFI20230327BHJP
   A23L 19/12 20160101ALI20230327BHJP
   A23L 19/18 20160101ALI20230327BHJP
【FI】
A23D9/00 506
A23L19/12 A
A23L19/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021152945
(22)【出願日】2021-09-21
(71)【出願人】
【識別番号】000165284
【氏名又は名称】月島食品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】弁理士法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村川 謙太郎
(72)【発明者】
【氏名】加藤 泰成
(72)【発明者】
【氏名】永井 利治
(72)【発明者】
【氏名】山口 穣
(72)【発明者】
【氏名】橘 有咲
【テーマコード(参考)】
4B016
4B026
【Fターム(参考)】
4B016LC02
4B016LE01
4B016LG06
4B016LK06
4B016LP07
4B026DC06
4B026DG02
4B026DH02
4B026DK01
4B026DK02
4B026DK03
4B026DK04
4B026DK05
4B026DK10
4B026DP01
4B026DX01
(57)【要約】
【課題】油脂加熱調理食品のフライに使用されたとき、又は油脂コーティング食品のコーティングに使用されたとき、フライされた油脂加熱調理食品又はコーティングされた油脂コーティング食品から手指に付着する付着物の量が非常に少ない、ないしほとんどない、乳化剤含有フライ用又はコーティング用油脂組成物、このフライ用油脂組成物でフライされたポテトチップスとその調理方法を提供する。
【解決手段】フライ用又はコーティング用油脂組成物が、25℃における固体脂含有量が0~17%、かつ30℃における固体脂含有量が0~15%である油脂と乳化剤とを含有する。ポテトチップスの調理方法がこのフライ用油脂組成物でフライする工程を含む。ポテトチップスがこのフライ用油脂組成物でフライされている。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
25℃における固体脂含有量が0~17%、かつ30℃における固体脂含有量が0~15%である油脂と、乳化剤とを含有するフライ用又はコーティング用油脂組成物。
【請求項2】
前記油脂は、25℃における固体脂含有量が2~12%、かつ30℃における固体脂含有量が0~10%である、請求項1に記載のフライ用又はコーティング用油脂組成物。
【請求項3】
前記油脂は、パーム油、及びパーム分別油から選ばれる少なくとも1種を含有する、請求項1又は2に記載のフライ用又はコーティング用油脂組成物。
【請求項4】
前記乳化剤は、0.01質量/体積%の前記乳化剤が溶解しているイソプロパノール溶液5μLを、オクチル基が結合した粒径3μmの球状シリカゲルが充填された内径1.5mm、カラム長10mmの炭素量6%、エンドキャップ有りの逆相カラムと、オクチル基が結合した粒径3μmの球状シリカゲルが充填された内径2.1mm、カラム長100mmの炭素量6%、エンドキャップ有りの逆相カラムを連結させた温度40℃のカラム中を、アセトニトリル44体積%、メタノール11体積%、及びイソプロパノール45体積%からなる移動相を0.2ml/minの流量で移動させ、コロナ荷電化粒子検出器を用いる高速液体クロマトグラフィーにより検出したとき、全ピーク面積(溶媒のピーク面積を除く)に対し、テトラパルミトイルペンタステアリルオクタグリセロールのピークトップの保持時間以降のピーク面積が占める割合が0.3%以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載のフライ用又はコーティング用油脂組成物。
【請求項5】
前記乳化剤がポリグリセリン脂肪酸エステルを含有する、請求項1~4のいずれか1項に記載のフライ用又はコーティング用油脂組成物。
【請求項6】
ポテトチップスの調理に使用される、請求項1~5のいずれか1項に記載のフライ用油脂組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のフライ用油脂組成物でフライする工程を含む、ポテトチップスの調理方法。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか1項に記載のフライ用油脂組成物でフライされているポテトチップス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フライ用又はコーティング用油脂組成物、ポテトチップスの調理方法、及びポテトチップスに関する。
【背景技術】
【0002】
ポテトチップス、チキンナゲット、ドーナツ、フライドポテト、フライドチキン、揚げパン等の、油脂で加熱調理された食品、また、クラッカー、プレッツェル、ビスケット、スナック菓子等の油脂でコーティングされた食品は様々な形態で多くの消費者に提供され、食されており、これらの油脂加熱調理又は油脂コーティング食品の人気は高い。しかし、これらの油脂加熱調理又は油脂コーティング食品を手指でつまんで食する際、これらの油脂加熱調理又は油脂コーティング食品に含まれる、フライ又はコーティングに使用された油脂により付着物が手指に付着し、不快感が惹起される。
【0003】
そこで、手指に付着物が付着しにくいフライ用又はコーティング用油脂組成物が検討された。引用文献1には、特定のパーム系油脂及び特定のエステル交換油脂からなる油脂と、ステアリン酸及び/又はベヘニン酸を含有するポリグリセリン脂肪酸エステルを含む油脂組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-19700号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、大勢の消費者が、油脂加熱調理食品又は油脂コーティング食品から手指に付着する付着物の量が更に減少することを求めている。しかしながら、このようなフライ用又はコーティング用油脂組成物は提供されていなかった。
【0006】
本発明の発明者らは、25℃、30℃それぞれにおける固体脂含有量が特定範囲となる油脂と、乳化剤を含有するフライ用又はコーティング用油脂組成物でフライされた油脂加熱調理食品又はコーティングされた油脂コーティング食品から手指に付着する付着物の量が非常に少ない、ないしほとんどなくなることを見出した。本発明はこれらの知見に基づき完成されるに至ったものである。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、油脂加熱調理食品のフライ、又は油脂コーティング食品のコーティングに使用されたとき、フライされた油脂加熱調理食品又はコーティングされた油脂コーティング食品から手指に付着する付着物の量が非常に少ない、ないしほとんどない、乳化剤含有フライ用又はコーティング用油脂組成物を提供することである。本発明が解決しようとする別の課題は、手指に付着する付着物の量が非常に少ない、ないしほとんどないポテトチップスとその調理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記課題は、下記の手段により解決された。
本発明のフライ用又はコーティング用油脂組成物は、25℃における固体脂含有量が0~17%、かつ30℃における固体脂含有量が0~15%である油脂と、乳化剤とを含有する。
本発明のフライ用又はコーティング用油脂組成物において、好ましくは、上記油脂の25℃における固体脂含有量が2~12%、かつ30℃における固体脂含有量が0~10%である。
本発明のフライ用又はコーティング用油脂組成物において、好ましくは、上記油脂は、パーム油、及びパーム分別油から選ばれる少なくとも1種を含有する。
本発明のフライ用又はコーティング用油脂組成物において、好ましくは、上記乳化剤は、0.01質量/体積%の前記乳化剤が溶解しているイソプロパノール溶液5μLを、オクチル基が結合した粒径3μmの球状シリカゲルが充填された内径1.5mm、カラム長10mmの炭素量6%、エンドキャップ有りの逆相カラムと、オクチル基が結合した粒径3μmの球状シリカゲルが充填された内径2.1mm、カラム長100mmの炭素量6%、エンドキャップ有りの逆相カラムを連結させた温度40℃のカラム中を、アセトニトリル44体積%、メタノール11体積%、及びイソプロパノール45体積%からなる移動相を0.2ml/minの流量で移動させ、コロナ荷電化粒子検出器を用いる高速液体クロマトグラフィーにより検出したとき、全ピーク面積(溶媒のピーク面積を除く)に対し、テトラパルミトイルペンタステアリルオクタグリセロールのピークトップの保持時間以降のピーク面積が占める割合が0.3%以上である。
本発明のフライ用又はコーティング用油脂組成物において、好ましくは、上記乳化剤がポリグリセリン脂肪酸エステルを含有する。
本発明のフライ用油脂組成物は、好ましくはポテトチップスの調理に使用される。
本発明のポテトチップスの調理方法は、本発明のフライ用油脂組成物でフライする工程を含む。
本発明のポテトチップスは、本発明のフライ用油脂組成物でフライされている。
【発明の効果】
【0009】
本発明のフライ用又はコーティング用油脂組成物が、油脂加熱調理食品のフライ又は油脂コーティング食品のコーティングに使用されたとき、フライされた油脂加熱調理食品又はコーティングされた油脂コーティング食品から手指に付着する付着物の量は非常に少ない、ないしほとんどない。本発明のポテトチップスの調理方法は、手指に付着する付着物の量が非常に少ない、ないしほとんどないポテトチップスを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明について更に詳細に説明する。
<油脂>
本発明のフライ用又はコーティング用油脂組成物が含有する油脂の25℃における固体脂含有量(以下、「SFC」という場合がある)は0~17%、かつ30℃におけるSFCは0~15%である。当該油脂の25℃におけるSFCが17%より大きく、かつ30℃におけるSFCが15%より大きい場合、油脂組成物の口溶けが悪く、フライされた油脂加熱調理食品又はコーティングされた油脂コーティング食品の風味も感じにくくなる。
【0011】
好ましくは、当該油脂の25℃における固体旨含有量が2~12%、かつ30℃における固体旨含有量が0~10%である。当該油脂のSFCがこれらの範囲であると、フライ用又はコーティング用油脂組成物の脂っぽさと口溶けの悪さが感じられず、フライされた油脂加熱調理食品又はコーティングされた油脂コーティング食品の風味がより良くなる。
ところで、25℃における固体脂含有量が11~15%、かつ30℃における固体脂含有量が7~15%である油脂を含有するフライ用又はコーティング用油脂組成物は、乳化剤を含有していても、含有していなくても油脂加熱調理食品のフライ又は油脂コーティング食品のコーティングに使用されたとき、フライされた油脂加熱調理食品又はコーティングされた油脂コーティング食品から手指に付着する付着物の量が非常に少ない、ないしほとんどない。
なお、SFCは、基準油脂分析法(2.2.9-2013、固体脂含量(NMR法))を基にして、次のようにして測定することができる。即ち、油脂組成物を60℃で30分保持し、油脂組成物を完全に融解した後、0℃で30分保持して固化させる。その後、25℃で30分保持し、テンパリングを行った後、0℃に30分保持する。その後、各SFCの測定温度で30分保持した後、SFCを測定する。
【0012】
当該油脂として、パーム油、ラード、牛脂、乳脂肪、ヤシ油、パーム核油、なたね油、大豆油、コーン油、米油、綿実油、ひまわり油、ごま油、オリーブ油、それらの分別油、水素添加油、及びエステル交換油等、食品分野で通常使用される油脂を用いて、25℃におけるSFCが0~17%、かつ30℃におけるSFCが0~15%、好ましくは25℃におけるSFCが2~12%、かつ30℃におけるSFCが0~10%であるフライ用又はコーティング用油脂組成物を調製できる。
パーム油とは、アブラヤシの果実から搾油し精製された油脂である。パーム分別油とは、パーム油を分別することにより得られる油脂であり、例えば硬質部であるパームステアリン、軟質部であるパームオレイン等が挙げられる。パームステアリン及びパームオレインを更に分別し得られた画分もパーム分別油に含まれる。例えばパームハードステアリン、パームスーパーオレイン、パーム中融点画分等が挙げられる。
なお、単独の油脂で上記SFCに調整できるのであれば、該油脂を単独で用いることができるし、複数の油脂を混合して上記SFCに調製してもよい。また、水素添加油としては、近年心疾患との関連から使用が敬遠される部分水素添加油(ヨウ素価4以上)ではなく、極度硬化油(ヨウ素価が4未満)の使用が好ましい。これらは、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0013】
好ましくは、当該油脂は、パーム油、及びパーム分別油から選ばれる少なくとも1種を含有する。ポテトチップスの官能をよくするため、より好ましくは、当該油脂は、パームオレイン、パーム油とパームオレインの混合物、パームステアリンとパームオレインの混合物である。ポテトチップスの風味及び油脂の口溶けをよくするため、更に好ましくは、当該油脂は、パーム油とパームオレインの混合物、パームステアリンとパームオレインの混合物である。
【0014】
<乳化剤>
本発明のフライ用又はコーティング用油脂組成物に含まれる乳化剤は、食品表示法に基づく食品表示基準において、乳化剤の一括名での表示が認められている添加物である。当該乳化剤としては、例えば、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、グリセリン酢酸脂肪酸エステル、グリセリン乳酸脂肪酸エステル、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、グリセリン酒石酸脂肪酸エステル、グリセリンクエン酸脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ショ糖酢酸イソ酪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタンモノグリセリド等の合成乳化剤、大豆レシチン、卵黄レシチン、大豆リゾレシチン、卵黄リゾレシチン、酵素処理卵黄、サポニン、植物ステロール類、乳脂肪球皮膜等の天然乳化剤が挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。これらの乳化剤は市販されている。当該市販品として、ポリグリセリン脂肪酸エステルである阪本薬品工業株式会社製PO-5S、ポリグリセリン脂肪酸エステルである太陽化学株式会社製サンソフトA-186E、ポリグリセリン脂肪酸エステルである太陽化学株式会社製サンソフトQ-1810S、ポリグリセリン脂肪酸エステルである阪本薬品工業株式会社製TS-3S、ポリグリセリン脂肪酸エステルである阪本薬品工業株式会社製THL-50が挙げられる。
【0015】
フライ用又はコーティング用油脂組成物に対する前記乳化剤の含有量は、好ましくは0.1~5質量%である。当該乳化剤の含有量がこの範囲であると、フライされた油脂加熱調理食品又はコーティングされた油脂コーティング食品から手指に付着する付着物の量が非常に少ない、ないしほとんどなくなると共に、フライされた油脂加熱調理食品又はコーティングされた油脂コーティング食品の官能が向上する。当該乳化剤の含有量は、より好ましくは0.1~3質量%であり、更に好ましくは0.2~2質量%である。当該乳化剤の含有量が5質量%を超えるとフライされた油脂加熱調理食品又はコーティングされた油脂コーティング食品の風味が損なわれる。
【0016】
前記乳化剤は、好ましくは、0.01質量/体積%の前記乳化剤が溶解しているイソプロパノール溶液5μLを、オクチル基が結合した粒径3μmの球状シリカゲルが充填された内径1.5mm、カラム長10mmの炭素量6%、エンドキャップ有りの逆相カラムと、オクチル基が結合した粒径3μmの球状シリカゲルが充填された内径2.1mm、カラム長100mmの炭素量6%、エンドキャップ有りの逆相カラムを連結させた温度40℃のカラム中を、アセトニトリル44体積%、メタノール11体積%、及びイソプロパノール45体積%からなる移動相を0.2ml/minの流量で移動させ、コロナ荷電化粒子検出器を用いる高速液体クロマトグラフィーにより検出したとき、全ピーク面積(溶媒のピーク面積を除く)に対し、テトラパルミトイルペンタステアリルオクタグリセロールのピークトップの保持時間以降のピーク面積が占める割合が0.3%以上である。本発明のフライ用油脂組成物が、前記ピーク面積が占める割合が0.3%以上である乳化剤を含有していると、フライされた油脂加熱調理食品又はコーティングされた油脂コーティング食品から手指に付着する付着物の量がより少なくなる。当該乳化剤は、より好ましくは、当該ピーク面積が占める割合が11%以上である。当該ピーク面積が占める割合が高いほど、当該乳化剤は、脂肪鎖を構成する炭素数が多く、エステル化度が高い化合物を多く含むと考えられる。
オクチル基が結合した粒径3μmの球状シリカゲルが充填された内径1.5mm、カラム長10mmの炭素量6%、エンドキャップ有りの前記逆相カラムは市販されており、市販品として、例えばGLサイエンス社製InertSustainSwift(登録商標)C8のカートリッジガードカラムが挙げられる。また、オクチル基が結合した粒径3μmの球状シリカゲルが充填された内径2.1mm、カラム長100mmの炭素量6%、エンドキャップ有りの前記逆相カラムも市販されており、市販品として、例えばGLサイエンス社製InertSustainSwift(登録商標)C8が挙げられる。
【0017】
好ましい当該乳化剤はポリグリセリン脂肪酸エステルを含有する。当該乳化剤に対するポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量は、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは75質量%以上であり、更に好ましくは90質量%以上であり、特に好ましくは100質量%である。
後述する式(2)により手指に付着する付着物の減少率は、好ましくは1%以上であり、より好ましくは5%以上であり、更に好ましくは10%以上特に好ましくは20%以上である。
【0018】
<副原料>
本発明のフライ用又はコーティング用油脂組成物は、天然フレーバー、合成フレーバー、動植物抽出エキス、シーズニングオイル等の呈味剤、トコフェロール、シリコーンオイル、酸化防止剤等の食用油脂に一般的に添加される添加物を含有してよい。
【0019】
本発明のフライ用油脂組成物でフライされる揚げ種として、例えば、以下のものが挙げられる。
(a)ポテトチップス用に薄切り又は成型されたポテト、
(b)フレンチフライ用に細切り又は成型されたポテト、
(c)イースト、食塩、砂糖、水、牛乳、その他の副資材が、小麦粉を主原料とする穀粉類に加えられ、混捏されて得られた生地が、発酵、成形、ホイロ、フライされて調製されるイーストドーナツ、
(d)上記イーストの代わりにベーキングパウダーが添加された生地が発酵させられずに成形、フライされて調製されるケーキドーナツ、
(e)上記イーストドーナツ、ケーキドーナツの生地の中に具材が入れられた餡ドーナツ、クリームドーナツ、ピロシキ等の具入りドーナツ等のドーナツ類、
(f)泡立てられた卵白が、小麦粉や澱粉類などの穀粉類を主体として、卵黄、水、牛乳、食用油、塩、その他の副資材が合わされたものに混ぜられた生地に具材が包まれてフライされるフリッター類、
(g)パフ膨化スナック類、
(h)揚げ米菓類、
(i)即席フライ麺類、
(j)ポップコーン。
本発明のコーティング用油脂組成物でコーティングされる食品として、例えば、以下のものが挙げられる。
(k)ビスケット類特にハードビスケット、クラッカー、乾パン、プレッツェル、
(l)パフ膨化スナック類、
(m)米菓類。
【0020】
上記(a)ポテトチップス用に薄切り又は成型されたポテトは、ジャガイモを薄切りにして油で揚げた、いわゆるリアルポテトチップス用と、ジャガイモをフレーク状や粉末状にしたものを成型して製造された、いわゆる成型ポテトチップス用を含む。
【0021】
本発明のポテトチップスの調理方法は、フライ用油脂組成物でフライする工程を含む。フライ温度は好ましくは150~200℃である。フライ時間は好ましくは1~5分である。
【0022】
以下、本発明を実施例に基づき更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0023】
実施例及び比較例において、各種物性は以下のとおりに測定ないし算出された。
<手指に模擬的に付着する付着物の質量>
最初に、直径20mm、厚さ10mmのEPDM製独立気泡スポンジ(市販品、2021年7月2日現在、ウェブサイトhttps://www.monotaro.com/p/2349/6655/で入手可能)2つの質量をマイクロ天秤(株式会社島津製作所製AP225WD)で測定した。次に、テクスチャーアナライザー(英弘精機株式会社製TA-XT2i)を用いて、2つの当該スポンジでポテトチップスの上下を1000gの力で挟み込み、付着物が付着した2つの当該スポンジの質量を上記マイクロ天秤で測定し、下式(1)により、2つの当該スポンジ付着物の質量を、手指に模擬的に付着する付着物の質量として算出した。
(付着物が付着した2つのスポンジの質量)-(付着物が付着する前の2つのスポンジの質量)・・・(1)
【0024】
<手指に模擬的に付着する付着物の減少率>
後述する各乳化剤を含有するフライ用油脂組成物でフライしたポテトチップスの手指に模擬的に付着する付着物の質量を上記の方法で測定し、下式(2)により手指に模擬的に付着する付着物の減少率を算出した。
(乳化剤を含まないフライ用油脂組成物でフライしたポテトチップスの手指に模擬的に付着する付着物の質量-乳化剤含有フライ用油脂組成物でフライしたポテトチップスの手指に模擬的に付着する付着物の質量)/(乳化剤を含まないフライ用油脂組成物でフライしたポテトチップスの手指に模擬的に付着する付着物の質量)・・・(2)
【0025】
後述する乳化剤を、高速液体クロマトグラフィー分析装置(GLサイエンス社製GL-7400)を用い、0.01質量/体積%の後述する乳化剤が溶解しているイソプロパノール溶液5μLを、オクチル基が結合した粒径3μmの球状シリカゲルが充填された内径1.5mm、カラム長10mmの炭素量6%、エンドキャップ有りの逆相カラム(GLサイエンス社製InertSustainSwift(登録商標)C8)と、オクチル基が結合した粒径3μmの球状シリカゲルが充填された内径2.1mm、カラム長100mmの炭素量6%、エンドキャップ有りの逆相カラム(GLサイエンス社製InertSustainSwift(登録商標)C8)を連結させた温度40℃のカラム中を、アセトニトリル44体積%、メタノール11体積%、及びイソプロパノール45体積%からなる移動相を0.2ml/minの流量で移動させ、乳化剤中の各種成分を、コロナ荷電化粒子検出器を用いる高速液体クロマトグラフィーにより検出し、全ピーク面積(溶媒のピーク面積を除く)に対する、テトラパルミトイルペンタステアリルオクタグリセロールのピークトップの保持時間より前のピーク面積が占める割合(ピーク面積比1)、テトラパルミトイルペンタステアリルオクタグリセロールのピークトップの保持時間以降のピーク面積が占める割合(ピーク面積比2)を測定した。
テトラパルミトイルペンタステアリルオクタグリセロールは高速液体クロマトグラフィー分析装置(Waters社製)を用い、0.01質量/体積%の後述する乳化剤が溶解しているイソプロパノール溶液5μLを、オクチル基が結合した粒径3μmの球状シリカゲルが充填された内径1.5mm、カラム長10mmの炭素量6%、エンドキャップ有りの逆相カラム(GLサイエンス社製InertSustainSwift(登録商標)C8)と、オクチル基が結合した粒径3μmの球状シリカゲルが充填された内径2.1mm、カラム長100mmの炭素量6%、エンドキャップ有りの逆相カラム(GLサイエンス社製InertSustainSwift(登録商標)C8)を連結させた温度40℃のカラム中を、アセトニトリル44体積%、メタノール11体積%、及びイソプロパノール45体積%からなる移動相を0.2ml/minの流量で移動させ、その後0.1Mギ酸アンモニウムメタノール溶液を0.1ml/minの流量で混合させて質量分析装置によりm/z値2913.623の抽出イオンクロマトグラムのピークトップを検出した。なお、m/z値とはイオンの質量mを電荷で除した値(質量電荷比)を示す。
【0026】
実施例及び比較例において使用された油脂は以下の通りである。
パーム油(月島食品工業株式会社製)
パームオレイン(月島食品工業株式会社製)
パームステアリン(月島食品工業株式会社製)
なたね油(日清オイリオグループ株式会社製)
上記各油脂の1種又は2種が使用された。
【0027】
(A)パームオレインからなる油脂
(B)パーム油25質量%及びパームオレイン75質量%からなる油脂
(C)パーム油50質量%及びパームオレイン50質量%からなる油脂
(D)パーム油75質量%及びパームオレイン25質量%からなる油脂
(E)パームステアリン20質量%及びパームオレイン80質量%からなる油脂
(F)パームステアリン30質量%及びなたね油70質量%からなる油脂
油脂(A)~(F)の25℃、30℃それぞれにおけるSFCを表1に示す。
なお各油脂のSFCは、基準油脂分析試験法2.2.9―2013に記載の方法で定量した。
【0028】
【表1】
【0029】
実施例及び比較例において使用された乳化剤は以下の通りである。
(a)ポリグリセリン脂肪酸エステル(阪本薬品工業株式会社製PO-5S、以下「PO-5S」と称する場合がある)
(b)ポリグリセリン脂肪酸エステル(太陽化学株式会社製サンソフトA-186E、以下「A-186E」と称する場合がある)
(d)ポリグリセリン脂肪酸エステル(太陽化学株式会社製サンソフトQ-1810S、以下「Q-1810S」と称する場合がある)
(d)ポリグリセリン脂肪酸エステル(阪本薬品工業株式会社製TS-3S、以下「TS-3S」と称する場合がある)
(e)ポリグリセリン脂肪酸エステル(阪本薬品工業株式会社製THL-50、以下「THL-50」と称する場合がある)
乳化剤(a)~(e)の上記各ピーク面積が占める割合を表2に示す。
【0030】
【表2】
【0031】
[実施例1~9及び比較例1]
厚さ2mmに薄切りにしたジャガイモを、油脂(A)と、各乳化剤を表3に示す含有量で含有するフライ用油脂組成物を使用して160℃で3分間フライして各ポテトチップスを製造した。各ポテトチップスの手指に模擬的に付着する付着物の質量及び減少率を表3に示す。
【0032】
【表3】
【0033】
[実施例10~18及び比較例2]
厚さ2mmに薄切りにしたジャガイモを、油脂(B)と、各乳化剤を表4に示す含有量で含有するフライ用油脂組成物を使用して160℃で3分間フライして各ポテトチップスを製造した。各ポテトチップスの手指に模擬的に付着する付着物の質量及び減少率を表4に示す。
【0034】
【表4】
【0035】
[実施例19及び比較例3]
厚さ2mmに薄切りにしたジャガイモを、油脂(C)と、各乳化剤を表5に示す含有量で含有するフライ用油脂組成物を使用して160℃で3分間フライして各ポテトチップスを製造した。各ポテトチップスの手指に模擬的に付着する付着物の質量及び減少率を表5に示す。
【0036】
【表5】
【0037】
[実施例20~27及び比較例4]
厚さ2mmに薄切りにしたジャガイモを、油脂(D)と、各乳化剤を表6に示す含有量で含有するフライ用油脂組成物を使用して160℃で3分間フライして各ポテトチップスを製造した。各ポテトチップスの手指に模擬的に付着する付着物の質量及び減少率を表6に示す。
【0038】
【表6】
【0039】
[実施例28及び比較例5]
厚さ2mmに薄切りにしたジャガイモを、油脂(E)と、各乳化剤を表7に示す含有量で含有するフライ用油脂組成物を使用して160℃で3分間フライして各ポテトチップスを製造した。各ポテトチップスの手指に模擬的に付着する付着物の質量及び減少率を表7に示す。
【0040】
【表7】
【0041】
[実施例29~36及び比較例6]
厚さ2mmに薄切りにしたジャガイモを、油脂(F)と、各乳化剤を表8に示す含有量で含有するフライ用油脂組成物を使用して160℃で3分間フライして各ポテトチップスを製造した。各ポテトチップスの手指に模擬的に付着する付着物の質量及び減少率を表8に示す。
【0042】
【表8】
【0043】
実施例1~9のポテトチップスの手指に模擬的に付着する付着物の質量は、乳化剤を含まない油脂組成物でフライされた比較例1のポテトチップスの手指に模擬的に付着する付着物の質量より小さかった。また、実施例1~9のポテトチップスの風味と口溶けは良かったが、これらのポテトチップスを食した直後に口の中は油っぽくなった。
【0044】
実施例10~18と比較例2、実施例19と比較例3、実施例20~27と比較例4、実施例28と比較例5、実施例29~36と比較例6を比べても、上記と同様のことが確認された。実施例10~28のポテトチップスの風味と口溶けは良く、これらのポテトチップスを食した直後の口の中の状態も良かった。実施例29~36のポテトチップスの風味と口溶けは悪く、これらのポテトチップスの食感は固かった。