(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023044880
(43)【公開日】2023-04-03
(54)【発明の名称】柑橘風味アルコール飲料
(51)【国際特許分類】
C12G 3/06 20060101AFI20230327BHJP
【FI】
C12G3/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021152982
(22)【出願日】2021-09-21
(71)【出願人】
【識別番号】311007202
【氏名又は名称】アサヒビール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】山下 雄大
【テーマコード(参考)】
4B115
【Fターム(参考)】
4B115MA03
(57)【要約】
【課題】低エキスでありながらも、果実由来のボディ感が強く、すっきりとしながらも余韻のある好ましい後味が感じられる柑橘風味アルコール飲料の提供。
【解決手段】エキス分が2.5w/v%以下であり、リモネン及びメチオノールを含有する、柑橘風味アルコール飲料、リモネン及びメチオノールを含有させる工程を含み、エキス分が2.5w/v%以下である柑橘風味アルコール飲料を製造する、柑橘風味アルコール飲料の製造方法、及び、エキス分が2.5w/v%以下である柑橘風味アルコール飲料において、リモネン及びメチオノールを含有させることを特徴とする、柑橘風味アルコール飲料の香味改善方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エキス分が2.5w/v%以下であり、
リモネン及びメチオノールを含有する、柑橘風味アルコール飲料。
【請求項2】
リモネン濃度(ppm)に対するメチオノール濃度(ppb)の比率が0.0004~2.0である、請求項1に記載の柑橘風味アルコール飲料。
【請求項3】
メチオノール濃度が0.1~500ppbである、請求項1又は2に記載の柑橘風味アルコール飲料。
【請求項4】
リモネン濃度が10~1000ppmである、請求項1~3のいずれか一項に記載の柑橘風味アルコール飲料。
【請求項5】
柑橘類の果汁を含有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の柑橘風味アルコール飲料。
【請求項6】
前記果汁の含有量が5w/v%以下である、請求項5に記載の柑橘風味アルコール飲料。
【請求項7】
前記柑橘類がレモンである、請求項5又は6に記載の柑橘風味アルコール飲料。
【請求項8】
発酵果汁由来のメチオノールを含有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の柑橘風味アルコール飲料。
【請求項9】
アルコール濃度が6.0v/v%以下である、請求項1~8のいずれか一項に記載の柑橘風味アルコール飲料。
【請求項10】
アルコール濃度が3.5v/v%以下である、請求項9に記載の柑橘風味アルコール飲料。
【請求項11】
炭酸ガスを含有する、請求項1~10のいずれか一項に記載の柑橘風味アルコール飲料。
【請求項12】
炭酸ガス圧が1.5~3.5ガスボリュームである、請求項11に記載の柑橘風味アルコール飲料。
【請求項13】
クエン酸に換算した酸度が0.15~0.50g/100mLである、請求項1~12のいずれか一項に記載の柑橘風味アルコール飲料。
【請求項14】
リモネン及びメチオノールを含有させる工程を含み、
エキス分が2.5w/v%以下である柑橘風味アルコール飲料を製造する、柑橘風味アルコール飲料の製造方法。
【請求項15】
エキス分が2.5w/v%以下である柑橘風味アルコール飲料において、
リモネン及びメチオノールを含有させることを特徴とする、柑橘風味アルコール飲料の香味改善方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柑橘風味アルコール飲料、柑橘風味アルコール飲料の製造方法、及び柑橘風味アルコール飲料の香味向上方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原料用アルコールや、焼酎、ジン、ウォッカ等の蒸留酒をベース酒とし、このベース酒に、果汁、フレーバー(香料)、甘味料、及び酸味料等を添加し、風味を付したアルコール飲料が広く好まれている。近年は、その手軽さから、容器に充填されたRTD(Ready To Drink)飲料として、缶入り酎ハイ等に代表される容器詰アルコール飲料の市場が拡大している。中でも、レモン、グレープフルーツ、オレンジ等の柑橘風味を付与したアルコール飲料の人気は高く、適度な酸味と清涼感を有する柑橘風味と、果実、アルコール由来のコク感、ボディ感を併せ持つことが望まれている。柑橘風味アルコール飲料の香味を向上させる方法としては、例えば、特許文献1には、柑橘風味アルコール飲料にフラン化合物を特定の濃度範囲となるように含有させることにより、果実感を増強させられることが開示されている。
【0003】
一方で、飲用により摂取する糖分やカロリーを低減したり、食事に合うすっきりとした味覚にする目的で、エキス分を低くした低エキスのアルコール飲料に対する需要も高まっている。ところが、エキス分の低い柑橘風味アルコール飲料の場合、後味のすっきり感は増すものの、果実由来のコク味、ボディ感が不足することで、全体としての嗜好性が低下する問題がある。特にアルコール濃度が低い場合には、アルコール自体が有する特有のコク感、味の厚みや、すっきりしながらも余韻のある好ましい後味を感じ難くなり、香味上の問題がより顕著になる。
【0004】
エキス分の低いアルコール飲料の香味を改善する技術が幾つか報告されている。例えば、特許文献2には、エキス分が3.5w/v%未満であり、アルコール度数が9%未満であるアルコール飲料において、オクタン酸エチルを含有させることにより、「味の厚み」と「余韻」とを増強させることができ、アルコールに由来する「雑渋味とエグ味」を低減できることが開示されている。また、特許文献3には、低果汁かつ低カロリーのアルコール飲料において、高甘味度甘味料を含有させるとともに、オクタナールの含有量を所定範囲内とすることにより、オレンジの果皮らしさとボディ感とを増強できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-23146号公報
【特許文献2】特開2021-78408号公報
【特許文献3】特開2020-96551号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2及び3に開示されるような方法では、低エキス分アルコール飲料に対して果実由来のコク味やボディ感を付与する点において、まだ改善の余地があった。
【0007】
本発明は、低エキスでありながらも、果実由来のボディ感が強く、すっきりとしながらも余韻のある好ましい後味が感じられる柑橘風味アルコール飲料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、エキス分が2.5%以下である柑橘類の果汁を含有するアルコール飲料に、メチオノール(CAS番号:505-10-2)とリモネンを特定量含有させることによって、果実由来のボディ感を増強し、後味をすっきりとしながらも余韻のある好ましい後味に改善できることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明に係る柑橘風味アルコール飲料、柑橘風味アルコール飲料の製造方法、及び柑橘風味アルコール飲料の香味改善方法は、下記[1]~[15]である。
[1] エキス分が2.5w/v%以下であり、
リモネン及びメチオノールを含有する、柑橘風味アルコール飲料。
[2] リモネン濃度(ppm)に対するメチオノール濃度(ppb)の比率が0.0004~2.0である、前記[1]の柑橘風味アルコール飲料。
[3] メチオノール濃度が0.1~500ppbである、前記[1]又は[2]の柑橘風味アルコール飲料。
[4] リモネン濃度が10~1000ppmである、前記[1]~[3]のいずれかの柑橘風味アルコール飲料。
[5] 柑橘類の果汁を含有する、前記[1]~[4]のいずれかの柑橘風味アルコール飲料。
[6] 前記果汁の含有量が5w/v%以下である、前記[5]の柑橘風味アルコール飲料。
[7] 前記柑橘類がレモンである、前記[5]又は[6]の柑橘風味アルコール飲料。
[8] 発酵果汁由来のメチオノールを含有する、前記[1]~[7]のいずれかの柑橘風味アルコール飲料。
[9] アルコール濃度が6.0v/v%以下である、前記[1]~[8]のいずれかの柑橘風味アルコール飲料。
[10] アルコール濃度が3.5v/v%以下である、前記[9]の柑橘風味アルコール飲料。
[11] 炭酸ガスを含有する、前記[1]~[10]のいずれかの柑橘風味アルコール飲料。
[12] 炭酸ガス圧が1.5~3.5ガスボリュームである、前記[11]の柑橘風味アルコール飲料。
[13] クエン酸に換算した酸度が0.15~0.50g/100mLである、前記[1]~[12]のいずれかの柑橘風味アルコール飲料。
[14] リモネン及びメチオノールを含有させる工程を含み、
エキス分が2.5w/v%以下である柑橘風味アルコール飲料を製造する、柑橘風味アルコール飲料の製造方法。
[15] エキス分が2.5w/v%以下である柑橘風味アルコール飲料において、
リモネン及びメチオノールを含有させることを特徴とする、柑橘風味アルコール飲料の香味改善方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る柑橘風味アルコール飲料は、低エキスであるにもかかわらず、果実由来のボディ感が強く、すっきりとしながらも余韻のある好ましい後味が感じられ、嗜好性が高い。
また、本発明に係る柑橘風味アルコール飲料の製造方法や柑橘風味アルコール飲料の香味改善方法により、果実由来のボディ感が強く、すっきりとしながらも余韻のある好ましい後味が感じられる、低エキスの柑橘風味アルコール飲料が製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明及び本願明細書において、アルコール飲料とは、アルコールを含有する飲料であればよく、発泡性飲料であってもよく、非発泡性飲料であってもよい。また、発酵工程を経て製造される飲料であってもよく、発酵工程を経ずに製造される飲料であってもよい。すなわち、本発明におけるアルコール飲料には、ウォッカ、ウイスキー、ブランデー、焼酎、ラム酒、スピリッツ、及びジン等の蒸留酒やリキュール等の非発泡性のアルコール飲料;ビールテイストアルコール飲料(ビールと同等の又はそれと似た風味・味覚及びテクスチャーを有するアルコール飲料)、発泡ワイン、シードル等の発泡性のアルコール飲料;蒸留酒やリキュール等の非発泡性のアルコール飲料を、ジュース、清涼飲料、サイダー、ラムネ、炭酸水等のノンアルコール飲料と混合したチューハイ、カクテル等が挙げられる。
【0012】
本発明及び本願明細書において、柑橘風味アルコール飲料とは、柑橘類が有する風味を備えたアルコール飲料を意味する。本発明における柑橘風味アルコール飲料としては、喫飲者にいずれかの柑橘類の果実を想起させる風味を有するアルコール飲料であれば、特に限定されるものではなく、柑橘類の果汁を含有するアルコール飲料や、柑橘類の果実の特徴的な香気成分を含有するアルコール飲料が挙げられる。
【0013】
本発明に係る柑橘風味アルコール飲料は、エキス分が2.5w/v%以下であり、リモネン及びメチオノールを含有する。エキス分が低いアルコール飲料は、一般的に、後味はすっきりしているものの、コク味やボディ感が低い。特に、低エキス化のために果汁の含有量も抑えられている柑橘風味アルコール飲料では、果実由来のコク味やボディ感も弱い。これに対して、本発明に係る柑橘風味アルコール飲料は、リモネン及びメチオノールを含有することにより、エキス分が2.5w/v%以下であるにもかかわらず、ボディ感、特に果実由来のボディ感が増強され、さらにすっきりとしながらも余韻のある好ましい後味が感じられる。すなわち、エキス分が2.5w/v%以下である柑橘風味アルコール飲料に、リモネン及びメチオノールを含有させることにより、果実由来のボディ感が強く、すっきりとしながらも余韻のある好ましい後味が感じられる、嗜好性の高い低エキスの柑橘風味アルコール飲料を製造できる。
【0014】
本発明及び本願明細書において、「果実由来のボディ感」とは、果汁に感じられるジューシーなボディ感を意味しており、アルコールに由来するボディ感とは異なる。アルコール飲料にリモネン及びメチオノールを含有させることにより、果汁の配合量を増大させることなく、果実由来のボディ感を増強させることができる。
【0015】
本発明に係る柑橘風味アルコール飲料のエキス分は、2.5w/v%以下であれば特に限定されるものではない。例えば、本発明に係る柑橘風味アルコール飲料のエキス分としては、0.5~2.5w/v%であることが好ましく、1.0~2.5w/v%であることがより好ましい。また、0.5w/v%未満であってもよい。
【0016】
なお、エキス分とは、飲料中に含まれる不揮発性固形分の含有量を示す数値である。エキス分は、15℃のときにおいて原容量100cm3中に含有する不揮発性成分のグラム数をいう。エキス分の測定は、第四回改正国税庁所定分析法注解(平成5年2月20日、第四回改正版、財団法人日本醸造協会発行)を用いて行うことができる。
【0017】
リモネンは、柑橘類から得られる精油成分に多く含まれているテルペン炭化水素である。柑橘類に共通する爽やかな、さっぱりとした香りである。本発明に係る柑橘風味アルコール飲料のリモネン濃度は、エキス分が2.5w/v%以下であるアルコール飲料に対するボディ感増強効果と後味改善効果の少なくとも一方が得られる量であればよく、特に限定されるものではない。本発明に係る柑橘風味アルコール飲料のリモネン濃度としては、十分なボディ感増強効果及び後味改善効果が得られやすい点から、10ppm以上であることが好ましく、100ppm以上であることがより好ましい。また、本発明に係る柑橘風味アルコール飲料のリモネン濃度としては、後味改善効果をより高められる点から、1000ppm以下であることが好ましく、500ppm以下であることがより好ましい。なかでも、本発明に係る柑橘風味アルコール飲料のリモネン濃度としては、10~1000ppmであることが好ましい。
【0018】
メチオノールは、有機硫黄化合物の1種であり、低濃度では醤油様の香り、濃度が高いとタマネギ、畜肉用の香味を持つ。本発明に係る柑橘風味アルコール飲料のメチオノール濃度は、エキス分が2.5w/v%以下であるアルコール飲料に対するボディ感増強効果と後味改善効果の少なくとも一方が得られる量であればよく、特に限定されるものではない。本発明に係る柑橘風味アルコール飲料のメチオノール濃度としては、0.1ppb以上であることが好ましく、0.5ppb以上であることがより好ましく、1.0ppb以上であることがさらに好ましい。また、本発明に係る柑橘風味アルコール飲料のメチオノール濃度としては、メチオノール自体の香気成分による影響が抑えられる点から、600ppb以下であることが好ましく、500ppb以下であることがより好ましい。なかでも、本発明に係る柑橘風味アルコール飲料のメチオノール濃度としては、0.1~500ppbであることが好ましい。
【0019】
本発明に係る柑橘風味アルコール飲料における、リモネン濃度(ppm)に対するメチオノール濃度(ppb)の比率([メチオノール濃度(ppb)]/[リモネン濃度(ppm)])(以下、「M/L比」ということがある。)は、エキス分が2.5w/v%以下であるアルコール飲料に対するボディ感増強効果と後味改善効果の少なくとも一方が得られる比率であればよく、特に限定されるものではない。本発明に係る柑橘風味アルコール飲料のM/L比としては、0.0004以上であることが好ましく、0.001以上であることがより好ましく、0.002以上であることがさらに好ましい。本発明に係る柑橘風味アルコール飲料のM/L比としては、メチオノール自体の香気成分による影響が抑えられる点から、4.0以下であることが好ましく、2.0以下であることがより好ましく、1.0以下であることがさらに好ましく、0.4以下であることがよりさらに好ましい。なかでも、本発明に係る柑橘風味アルコール飲料のM/L比としては、0.0004~2.0であることが好ましい。
【0020】
なお、本発明に係る柑橘風味アルコール飲料のリモネン及びメチオノールの濃度は、例えば、GC-MS(ガスクロマトグラフィー質量分析法)により定量することができる。
【0021】
本発明に係る柑橘風味アルコール飲料としては、柑橘類の風味を有するアルコール飲料であれば特に限定されるものではない。柑橘類としては、みかん、オレンジ、夏みかん、レモン、ゆず、すだち、カボス、グレープフルーツ、シークワァーサー、はっさく、ライム等が挙げられる。本発明に係る柑橘風味アルコール飲料が有する柑橘風味は、1種類の柑橘類の風味であってもよく、2種類以上の柑橘類の風味を組み合わせたものであってもよい。
【0022】
本発明に係る柑橘風味アルコール飲料は、例えば、柑橘類の果実の果汁、柑橘類の果皮の精油、又は柑橘系香料を原料として含有させることにより製造できる。果汁や果皮の精油は、常法により調製されたものを用いることができる。本発明における柑橘風味アルコール飲料としては、柑橘類の果汁等に加えて又は果汁等に代えて、柑橘類の果実又は果皮を含有させることもできる。これらの果汁等は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0023】
本発明に係る柑橘風味アルコール飲料に果汁を含有させる場合、当該果汁としては、果汁を乳酸菌や酵母で発酵した発酵果汁であってもよい。発酵果汁には、メチオノールを含まれているものがあるため、発酵果汁を原料とすることにより、発酵果汁由来のメチオノールを含有する柑橘風味アルコール飲料を製造することができる。例えば、レモン果汁を酵母により発酵させた酵母発酵レモン果汁を、飲料のメチオノール濃度が0.1~500ppbとなる量含有させ、さらに柑橘類の精油を飲料のリモネン濃度が10~1000ppmとなり、かつM/L比が0.0004~2.0となる量を含有させることにより、果実由来のボディ感が強く、すっきりとしながらも余韻のある好ましい後味が感じられる、低エキスの柑橘風味アルコール飲料が製造できる。
【0024】
柑橘系香料としては、柑橘類の果実の特徴的な香気成分を有する香料が挙げられる。例えば、レモンの特徴的な香気成分としては、シトラール、リモネン、ネロール、ゲラニオール、酢酸ネリル、酢酸ゲラニル等が挙げられ、シトラールはレモン由来の精油に含まれる含酸素化合物の半分以上を占める。グレープフルーツの特徴的な香気成分としては、オクタナール、デカナール、ヌートカトン等が挙げられる。ユズの特徴的な香気成分としては、リナロール、チモール、ユズノン(登録商標)、N-メチルアントラニル酸メチル等が挙げられる。オレンジの特徴的な香気成分としては、オクタナール、デカナール、リナロール、酢酸ゲラニル、シネンサール等が挙げられる。
【0025】
柑橘系香料としては、例えば、柑橘類の果実の果皮等から香気成分をアルコール等の溶媒で抽出したものやこれを減圧蒸留や常圧蒸留等により濃縮したものを用いることができる。その他、飲料に添加される各種の市販の柑橘系香料を適宜用いることもできる。これらの柑橘系香料は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0026】
果汁には、果糖をはじめとする果実由来の様々な成分が含まれている。このため、本発明に係る柑橘風味アルコール飲料が果汁を含有する場合には、飲料のエキス分が2.5w/v%以下の範囲内になるように調整される。例えば、本発明に係る柑橘風味アルコール飲料が果汁を含有する場合には、本発明に係る柑橘風味アルコール飲料の果汁含有量は、5w/v%以下であることが好ましい。
【0027】
本発明に係る柑橘風味アルコール飲料のアルコール濃度は、特に限定されるものではない。高アルコール飲料よりも低アルコール飲料のほうが、アルコール自体が有するボディ感が弱く、後味も劣る傾向があるため、低アルコール飲料のほうが、リモネンとメチオノールによるボディ感増強効果と後味改善効果がより顕著に表れる。このため、本発明に係る柑橘風味アルコール飲料のアルコール濃度としては、6.0v/v%以下であることが好ましく、3.5v/v%以下であることがより好ましく、1.0~3.5v/v%であることがさらに好ましい。
【0028】
本発明に係る柑橘風味アルコール飲料の糖質含有量は、特に限定されるものではない。本発明に係る柑橘風味アルコール飲料の糖質含有量としては、低カロリーの点から、2.0g/100mL以下であることが好ましく、0.5g/100mL以下であることがより好ましい。
【0029】
なお、糖質とは、食物繊維ではない炭水化物をいう。糖質は、栄養表示基準(一部改正平成21年消費者庁告示第9号)の別表第2に記載の方法(当該食品の重量から、たんぱく質、脂質、食物繊維、灰分及び水分の量を控除して算定する)に従って算出できる。
【0030】
本発明に係る柑橘風味アルコール飲料は、酸味料を含有していてもよい。酸味料としては、リン酸、有機酸、又はこれらの塩を用いることができる。有機酸としては、クエン酸、グルコン酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、酢酸、アジピン酸、及びフマル酸等の有機酸が挙げられる。また、リン酸や有機酸の塩としては、ナトリウム塩やカリウム塩が挙げられる。これらの酸味料は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0031】
本発明に係る柑橘風味アルコール飲料のクエン酸換算した酸度は、特に限定されるものではなく、飲料の種類や求める製品品質等を考慮して適宜調整することができる。本発明に係る柑橘風味アルコール飲料のクエン酸換算した酸度としては、1.0g/100mL以下であることが好ましく、0.5g/100mL以下であることがより好ましい。本発明に係る柑橘風味アルコール飲料のクエン酸換算した酸度としては、0.01g/100mL以上であることが好ましく、0.15g/100mL以上であることがより好ましい。
【0032】
なお、飲料のクエン酸換算した酸度は、国税庁所定分析法(平19国税庁訓令第6号)の8頁、総酸(遊離酸)にて定められた酸度の測定方法に基づいて算出される。詳細には、酸度は、以下の方法により測定できる。
まず、試料1~50mLを正確に量りとり、水で適宜希釈する。これを、0.1mol/L 水酸化ナトリウム溶液で滴定し、pHメーターで8.2を終点とし、下記の式により算出する。式中、「A」は0.1mol/L 水酸化ナトリウム溶液による滴定量(mL)であり、「f」は0.1mol/L 水酸化ナトリウム溶液の力価であり、Wは試料重量(g)である。また、「0.0064」は、0.1mol/L 水酸化ナトリウム溶液1mLに相当する無水クエン酸の重量(g)である。
【0033】
[クエン酸換算酸度(%)]=A×f×100/W×0.0064
【0034】
本発明に係る柑橘風味アルコール飲料は、炭酸ガスを含有していない非発泡性飲料であってもよく、炭酸ガスを含有する発泡性飲料であってもよい。本発明に係る柑橘風味アルコール飲料が発泡性飲料の場合、炭酸ガス圧は、0.5~5.0ガスボリューム(GV)であることが好ましく、1.0~4.0GVであることがより好ましく、1.5~3.5GVであることがさらに好ましい。
【0035】
本発明に係る柑橘風味アルコール飲料に、リモネンを含有させる手段は特に限定されない。例えば、リモネンを原料として用いることにより、リモネンを含有する柑橘風味アルコール飲料を製造することができる。使用する原料としては、合成の又は天然物から抽出・精製されたリモネンであってもよく、リモネンを含有する香料であってもよい。本発明に係る柑橘風味アルコール飲料としては、柑橘類の果汁、精油、又はリモネンを含有している柑橘系香料を原料として製造することが好ましい。
【0036】
本発明に係る柑橘風味アルコール飲料に、メチオノールを含有させる手段は特に限定されない。例えば、メチオノールを原料として用いることにより、メチオノールを含有する柑橘風味アルコール飲料を製造することができる。使用する原料としては、合成の又は天然物に由来するメチオノールであってもよく、メチオノールを含有する香料であってもよい。本発明に係る柑橘風味アルコール飲料としては、メチオノールを含有する発酵柑橘類果汁を原料として製造することが好ましい。
【0037】
本発明に係る柑橘風味アルコール飲料は、各種アルコールをベース酒として製造することもできる。ベース酒とするアルコールは、原料用アルコールであってもよく、常法により製造された酒類であってもよい。当該酒類としては、蒸留酒であってもよく、醸造酒であってもよい。蒸留酒としては、ウォッカ、ウイスキー、ブランデー、スピリッツ、焼酎、ラム酒、ジン等が挙げられ、リキュールであってもよい。醸造酒としては、ビール、ワイン、シードル等が挙げられる。
【0038】
原料用アルコールとしては、好ましくは、廃糖蜜を発酵させて高度(例えばアルコール濃度が9v/v%以上)に精製したものが用いられる。原料用アルコールは、安価であることから、製造コストを低減できる。また、原料用アルコールは、他のベース酒として香気成分の含有量が少ないため、すっきりとした味わいの飲料を得やすくなる。
【0039】
本発明に係る柑橘風味アルコール飲料は、リモネンとメチオノールによるボディ感増強効果と後味改善効果を損なわない限りにおいて、アルコール、リモネン、及びメチオノールに加えて、その他の成分を含有していてもよい。当該その他の成分としては、果汁、果実、果皮、酸味料、炭酸ガス、炭酸水の他に、甘味料、清涼飲料水、水溶性食物繊維、着色料、起泡剤、タンパク質若しくはその分解物、酵母エキス、原料水、酸化防止剤、乳化剤等が挙げられる。
【0040】
甘味料としては、ショ糖、液糖、オリゴ糖、デキストリン、でんぷん、甘味系アミノ酸、高甘味度甘味料等が挙げられる。当該高甘味度甘味料としては、アセスルファムカリウム、アスパルテーム、ステビア、酵素処理ステビア、スクラロース等が挙げられる。これらの甘味料は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0041】
水溶性食物繊維とは、水に溶解し、かつヒトの消化酵素により消化されない又は消化され難い炭水化物を意味する。水溶性食物繊維としては、例えば、大豆食物繊維、ポリデキストロース、難消化性デキストリン、ガラクトマンナン、イヌリン、グアーガム分解物、ペクチン、アラビアゴム等が挙げられる。これらの水溶性食物繊維は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0042】
起泡剤としては、例えば、大豆ペプチド、大豆サポニン、アルギン酸エステル、キラヤサポニン等が挙げられる。これらの起泡剤は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
タンパク質分解物としては、例えば、大豆タンパク分解物等が挙げられる。これらのタンパク質分解物は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
着色料としては、例えば、カラメル色素等の飲食品に一般的に使用される色素等が挙げられる。これらの着色料は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0043】
酸化防止剤としては、例えば、亜硫酸やビタミンC等が挙げられる。これらの酸化防止剤は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
乳化剤としては、例えば、レシチン、サポニン、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル等が挙げられる。これらの乳化剤は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0044】
本発明に係る柑橘風味アルコール飲料は、例えば、リモネンやメチオノールを含む各原料を混合する方法(調合法)によって製造できる。各原料を混合する順番は特に限定されるものではない。原料水に、全ての原料を同時に添加してもよく、先に添加した原料を溶解させた後に残る原料を添加する等、順次原料を添加してもよい。また、例えば、原料水に、固形(例えば粉末状や顆粒状)の原料及びアルコールを混合してもよく、固形原料を予め水溶液としておき、これらの水溶液、及びアルコール、必要に応じて原料水を混合してもよい。さらに、原料水に原料を加熱したものを入れてもよく、調製した調合液を加熱してもよい。
【0045】
調製された調合液に、不溶物が生じた場合には、当該調合液に対して濾過等の不溶物を除去する処理を行うことが好ましい。不溶物除去処理は、特に限定されるものではなく、濾過法、遠心分離法等の当該技術分野で通常用いられている方法で行うことができる。本発明においては、不溶物は濾過除去することが好ましく、珪藻土濾過により除去することがより好ましい。
【0046】
本発明に係る柑橘風味アルコール飲料が発泡性アルコール飲料の場合、例えば、原料として炭酸水や、サイダーやラムネ等の発泡性清涼飲料を用いることにより製造できる。また、炭酸ガス以外の原料を全て混合した調合液を調製した後、この調合液に炭酸ガスを導入することによっても、発泡性アルコール飲料を製造できる。炭酸ガスの導入は、常法により行うことができる。
【0047】
製造された柑橘風味アルコール飲料を容器に充填して密封することにより、容器詰アルコール飲料が製造できる。容器への充填及び密封は、常法により行うことができる。また、容器詰アルコール飲料の空寸部には、窒素、二酸化炭素等の不活性ガスを充填させてもよい。これらの不活性ガスにより、容器内に存在する酸素を減少させることができる。
【0048】
本発明に係る柑橘風味アルコール飲料を充填する容器としては、特に限定されるものではなく、ツーピース飲料缶、スリーピース飲料缶、ボトル缶、可撓性容器、ガラス瓶などを用いることができる。可撓性容器としては、PE(ポリエチレン)、PP(ポリプロピレン)、EVOH(エチレン・ビニルアルコール共重合体)、PET(ポリエチレンテレフタレート)等の可撓性樹脂をボトル形状等に成形してなる容器が挙げられる。可撓性容器は、単層樹脂からなるものであってもよく、多層樹脂からなるものであってもよい。
【0049】
本発明に係る柑橘風味アルコール飲料が発泡性飲料の場合、耐圧性の高い容器を使用する。現在、流通しているアルミニウム(合金)製ツーピース飲料缶やアルミニウム(合金)製ボトル缶のメーカー保証耐圧は、高いもので686kPa程度であり、実際の耐圧を考慮すると加熱殺菌を要する場合はおおよそ3.2GV以下、加熱殺菌が不要な場合はおおよそ3.8GV以下となる。
【0050】
また、本発明に係る柑橘風味アルコール飲料は、その製造工程において、必要に応じて加熱殺菌処理を行う。加熱殺菌処理は、容器に充填前に行ってもよく、容器充填後に行ってもよい。殺菌方法としては、UHT(超高温)殺菌処理、パストライザー殺菌処理、レトルト殺菌処理等の常法により行うことができる。
【実施例0051】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0052】
[実施例1]
リモネンとメチオノールを各種濃度で含有させた柑橘風味アルコール飲料を製造し、リモネンとメチオノールの果実由来のボディ感や後味等に対する影響を調べた。
【0053】
原料用アルコール(アルコール濃度95容量%)、レモン果汁(リモネン5ppm含有)、果糖ぶどう糖液糖、クエン酸(無水)、クエン酸三ナトリウム、メチオノール、リモネン、及び炭酸水を用いて、アルコール濃度、メチオノール濃度、リモネン濃度、エキス分濃度、及びクエン酸換算酸度が表1~4に記載の値である、レモン風味アルコール飲料を製造し、容器に充填した。各レモン風味アルコール飲料のガス圧は2.7GV(ガスボリューム)に調整した。
【0054】
製造した各レモン風味アルコール飲料について、訓練された識別能力のあるパネル5名により、果実由来のボディ感、すっきりした後味、味の余韻、及び、美味しさの総合評価について、官能評価を行った。官能評価は、メチオノールとリモネンの両方を添加していないサンプルを対照(評点0)とする7段階(-3~+3)の相対評価を行った。全パネルの評価点の平均値を、評価対象の評価点とした。表1及び表2に記載のサンプル1-1~1-7の官能評価は、サンプル1-0を対照として行った。表3及び表4に記載のサンプル2-1~2-5の官能評価は、サンプル1-0を対照として行った。
【0055】
具体的には、果実由来のボディ感、すっきりした後味、及び味の余韻については、対照よりかなり強い場合に+3点、対照より強い場合に+2点、対照よりやや強い場合に+1点、対照と同程度の場合に0点、対照よりやや弱い場合に-1点、対照より弱い場合に-2点、対照よりかなり弱い場合に-3点、と評価した。美味しさの総合評価については、対照よりかなり良い場合に+3点、対照より良い場合に+2点、対照よりやや良い場合に+1点、対照と同程度の場合に0点、対照よりやや悪い場合に-1点、対照より悪い場合に-2点、対照よりかなり悪い場合に-3点、と評価した。評価結果を表1~4に示す。
【0056】
【0057】
【0058】
【0059】
【0060】
表1及び2に示すように、エキス分が1.5v/w%、アルコール濃度が5.0v/v%であるレモン風味アルコール飲料では、リモネンを250ppmと、メチオノールを0.1~500ppbの範囲内で含有させた場合に、果実由来のボディ感、すっきりした後味、及び味の余韻が強くなり、美味しさの総合評価が改善された。また、表3及び4に示すように、同じくエキス分が1.5v/w%、アルコール濃度が5.0v/v%であるレモン風味アルコール飲料では、メチオノールを1ppbと、リモネンを10~1000ppmの範囲で含有させた場合に、果実由来のボディ感、すっきりした後味、及び味の余韻が強くなり、美味しさの総合評価が改善された。これらの結果から、低エキスの柑橘風味アルコール飲料においては、リモネンとメチオノールを含有させることによって、果実由来のボディ感、すっきりした後味、及び味の余韻を強め、香味を改善させられることがわかった。
【0061】
[実施例2]
リモネンとメチオノールを含有させた各種アルコール濃度の柑橘風味アルコール飲料を製造し、果実由来のボディ感や後味等を調べた。
【0062】
実施例1と同様にして、アルコール濃度、メチオノール濃度、リモネン濃度、エキス分濃度、及びクエン酸換算酸度が表5に記載の値であるレモン風味アルコール飲料を製造し、容器に充填して、容器詰アルコール飲料を製造した。また、実施例1と同様にして、製造したレモン風味アルコール飲料の官能評価を行った。
【0063】
【0064】
サンプル3-1~3-3の官能評価は、サンプル1-0を対照として行った。評価結果を表5に示す。表5に示すように、エキス分が1.5v/w%のレモン風味アルコール飲料では、アルコール濃度1.0~6.0v/v%の範囲で、リモネンとメチオノールを含有させることで、果実由来のボディ感、すっきりした後味、及び味の余韻が強くなり、美味しさの総合評価が向上した。
【0065】
[実施例3]
リモネンとメチオノールを含有させた、エキス分が様々な濃度である柑橘風味アルコール飲料を製造し、果実由来のボディ感や後味等を調べた。
【0066】
実施例1と同様にして、アルコール濃度、メチオノール濃度、リモネン濃度、エキス分濃度、及びクエン酸換算酸度が表6に記載の値であるレモン風味アルコール飲料を製造し、容器に充填して、容器詰アルコール飲料を製造した。また、実施例1と同様にして、製造したレモン風味アルコール飲料の官能評価を行った。
【0067】
【0068】
サンプル4-1~4-3の官能評価は、サンプル1-0を対照として行った。評価結果を表6に示す。表6に示すように、アルコール濃度が5.0v/v%のレモン風味アルコール飲料では、エキス分が1.5~3.0v/w%の範囲で、リモネンとメチオノールを含有させることで、果実由来のボディ感、すっきりした後味、及び味の余韻が強くなり、美味しさの総合評価が向上した。