(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023044915
(43)【公開日】2023-04-03
(54)【発明の名称】分布型光ファイバ歪み測定装置及び分布型光ファイバ歪み測定方法
(51)【国際特許分類】
G01D 5/353 20060101AFI20230327BHJP
【FI】
G01D5/353 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021153032
(22)【出願日】2021-09-21
(71)【出願人】
【識別番号】000000295
【氏名又は名称】沖電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141955
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100085419
【弁理士】
【氏名又は名称】大垣 孝
(72)【発明者】
【氏名】村井 仁
【テーマコード(参考)】
2F103
【Fターム(参考)】
2F103BA10
2F103BA37
2F103CA06
2F103CA07
2F103EB02
2F103EB12
2F103EC09
2F103EC10
2F103EC14
2F103EC16
2F103ED01
2F103ED36
2F103ED37
2F103FA01
2F103FA02
(57)【要約】
【課題】分布型光ファイバ歪み測定装置及び分布型光ファイバ歪み測定方法において、SPMの影響を抑圧可能にする。
【解決手段】校正用光ファイバを用いて、自然ブリルアン散乱光の周波数変化の分布を取得する。そして、周波数変化の分布の傾きに基づいて、光パルスの形状を制御する。光パルスの形状が所望の形状に制御された後、校正用光ファイバを被測定光ファイバに切り換えて周波数変化を算出する過程までを行い、自然ブリルアン散乱光の周波数変化から、被測定光ファイバの長手方向に沿った歪みの分布を取得する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プローブ光として光パルスを生成する光源部と、
前記プローブ光により光ファイバで発生する自然ブリルアン散乱光を、第1光路及び第2光路に2分岐する分岐部と、
前記第1光路に設けられ、前記第1光路を伝搬する光にビート周波数の周波数シフトを与える光周波数シフタ部と、
前記第2光路に設けられ、前記第2光路を伝搬する光に遅延時間τの遅延を与える遅延部と、
前記第1光路及び前記第2光路を伝搬する光を合波して合波光を生成する合波部と、
前記合波光をヘテロダイン検波して差周波をビート信号として出力するコヒーレント検波部と、
前記ビート信号と同じ周波数を持つ局発電気信号を生成する局発電気信号生成部と、
前記ビート信号と前記局発電気信号とをホモダイン検波して、ホモダイン信号として出力するミキサーと、
前記ホモダイン信号に含まれる位相差信号に対して所定の処理を行い、前記ビート信号の強度変化に基づいて、前記自然ブリルアン散乱光の周波数変化を算出し、前記自然ブリルアン散乱光の周波数変化から、前記光ファイバの長手方向に沿った歪みの分布を取得する信号処理装置と
を備え、
前記信号処理装置は、
前記自然ブリルアン散乱光の周波数変化の分布を取得し、
前記周波数変化の分布の傾きに基づいて、前記光源部で生成される光パルスの形状を制御するフィードバック信号を生成し、
前記フィードバック信号を前記光源部に送る
ことを特徴とする分布型光ファイバ歪み測定装置。
【請求項2】
プローブ光として光パルスを生成する光源部と、
前記プローブ光により光ファイバで発生する自然ブリルアン散乱光を、第1光路及び第2光路に2分岐する分岐部と、
前記第2光路に設けられ、前記第2光路を伝搬する光に遅延時間τの遅延を与える遅延部と、
前記第1光路及び前記第2光路を伝搬する光を合波して合波光を生成する合波部と、
前記合波光をホモダイン検波して差周波を位相差信号として出力するコヒーレント検波部と、
前記位相差信号に対して所定の処理を行い、前記自然ブリルアン散乱光の周波数変化を算出し、前記自然ブリルアン散乱光の周波数変化から、前記光ファイバの長手方向に沿った歪みの分布を取得する信号処理装置と
を備え、
前記信号処理装置は、
前記自然ブリルアン散乱光の周波数変化の分布を取得し、
前記周波数変化の分布の傾きに基づいて、前記光源部で生成される光パルスの形状を制御するフィードバック信号を生成し、
前記フィードバック信号を前記光源部に送る
ことを特徴とする分布型光ファイバ歪み測定装置。
【請求項3】
前記光ファイバとして、被測定光ファイバと校正用光ファイバとが切り換え可能に設けられ、
前記フィードバック信号の生成は、前記校正用光ファイバで発生する自然ブリルアン散乱光を用いて行われる
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の分布型光ファイバ歪測定装置。
【請求項4】
前記光ファイバとして、被測定光ファイバと校正用光ファイバとが直列に接続されて設けられ、
前記フィードバック信号の生成は、前記校正用光ファイバに対応する区間で発生する自然ブリルアン散乱光を用いて行われる
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の分布型光ファイバ歪測定装置。
【請求項5】
前記光源部は、
連続光を生成するレーザー光源と、
電気パルスのパルス形状が前記フィードバック信号に基づく電気パルス駆動信号を生成する任意波形発生器と、
前記連続光を変調して、前記電気パルスのパルス形状に応じたパルス形状の光パルスを生成する光変調器と
を備えることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の分布型光ファイバ歪測定装置。
【請求項6】
プローブ光として光パルスを生成する過程と、
前記プローブ光により校正用光ファイバで発生する自然ブリルアン散乱光を、第1光路及び第2光路に2分岐する過程と、
前記第1光路を伝搬する光にビート周波数の周波数シフトを与える過程と、
前記第2光路を伝搬する光に遅延時間τの遅延を与える過程と、
前記第1光路及び前記第2光路を伝搬する光を合波して合波光を生成する過程と、
前記合波光をヘテロダイン検波して差周波をビート信号として出力する過程と、
前記ビート信号と同じ周波数を持つ局発電気信号を生成する過程と、
前記ビート信号と前記局発電気信号とをホモダイン検波して、ホモダイン信号として出力する過程と、
前記ホモダイン信号に含まれる位相差信号に対して所定の処理を行い、前記ビート信号の強度変化に基づいて、前記自然ブリルアン散乱光の周波数変化を算出する過程と
を有する周波数変化取得過程、
前記自然ブリルアン散乱光の周波数変化の分布を取得する過程、及び、
前記周波数変化の分布の傾きに基づいて、前記光パルスの形状を制御する過程
を備え、
前記光パルスの形状が所望の形状に制御された後、前記校正用光ファイバを被測定光ファイバに切り換えて前記周波数変化取得過程を行い、前記自然ブリルアン散乱光の周波数変化から、前記被測定光ファイバの長手方向に沿った歪みの分布を取得する
ことを特徴とする分布型光ファイバ歪み測定方法。
【請求項7】
プローブ光として光パルスを生成する過程と、
前記プローブ光により校正用光ファイバで発生する自然ブリルアン散乱光を、第1光路及び第2光路に2分岐する過程と、
前記第2光路を伝搬する光に遅延時間τの遅延を与える過程と、
前記第1光路及び前記第2光路を伝搬する光を合波して合波光を生成する過程と、
前記合波光をホモダイン検波して差周波を位相差信号として出力する過程と、
前記位相差信号に対して所定の処理を行い、前記自然ブリルアン散乱光の周波数変化を算出する過程と
を有する周波数変化取得過程、
前記自然ブリルアン散乱光の周波数変化の分布を取得する過程、及び、
前記周波数変化の分布の傾きに基づいて、前記光パルスの形状を制御する過程
を備え、
前記光パルスの形状が所望の形状に制御された後、前記校正用光ファイバを被測定光ファイバに切り換えて前記周波数変化取得過程を行い、前記自然ブリルアン散乱光の周波数変化から、前記被測定光ファイバの長手方向に沿った歪みの分布を取得する
ことを特徴とする分布型光ファイバ歪み測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ブリルアン散乱光を用いた時間領域リフレクトメトリ(BOTDR:Brillouin Optical Time Domain Reflectometry)技術を利用する、分布型光ファイバ歪み測定装置及び分布型光ファイバ歪み測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバ自体をセンシング媒体として用いる分布型光ファイバ歪み測定装置では、構造物に貼り付けた光ファイバが構造物の歪みに応じて伸び縮みすることを利用して、構造物の歪み分布を算出する。光ファイバの伸び縮みは、光ファイバを伝搬する光波に対する屈折率を変化させ、これにより光波の伝搬特性が変化する。構造物の歪みによる光波の伝搬特性の変化は、BOTDRと呼ばれる技術により検出できる。
【0003】
BOTDR技術を用いた分布型光ファイバ歪み測定装置では、光パルスを適切な時間幅と繰り返し周期に設定して、光ファイバに入力し、その光ファイバの各点において生じる自然ブリルアン後方散乱光(自然BS光)の中心周波数を計測する(例えば、特許文献1参照)。自然BS光の中心周波数は光ファイバの歪み(伸び又は縮み)量に比例して変化することが知られている。自然BS光の中心周波数の変化量を計測することにより、光ファイバの歪み量、ひいては構造物の歪み量を知ることができる。また、温度変化によっても、自然BS光の中心周波数が変化するので、その変化量から光ファイバの温度、ひいては光ファイバの周囲の温度を知ることができる。
【0004】
また、自然BS光は,光ファイバの入力端から入力される光パルス(入力光パルス)の進行方向と逆向きの方向に散乱される光波である。自然BS光は、入力光パルスに対する反射光としてみることができる。従って、光パルスを入力した時刻を基準に、反射光として自然BS光が入力端に戻ってくる時刻を計測することにより、反射点(散乱点)を特定できる。すなわち、自然BS光の中心周波数変化とその戻り時間を同時に計測することにより、光ファイバの長手方向に沿った歪みの分布を知ることができる。
【0005】
従来、BOTDR技術を用いた分布型光ファイバ歪み測定装置では、スペクトル解析器を用いて周波数を直接計測するのが一般的である。
【0006】
これに対し、特許文献1に開示されている分布型光ファイバ歪み測定装置では、光ファイバから戻ってくる自然BS光を自己遅延干渉計に入力し、自己遅延干渉計からの出力信号の強度変化をもとに自然BS光の位相変化を抽出する。このようにして得られた自然BS光の位相変化は、自己遅延干渉計の遅延時間と自然BS光の周波数変化との積で表される。従って、自己遅延干渉計の既知の遅延時間から周波数変化を算出することができる。
【0007】
このように、特許文献1に開示されている分布型光ファイバ歪み測定装置では、自己遅延干渉計を用いた自己遅延検波を行う。このため、スペクトル解析器を用いて周波数を直接計測する、一般的な分布型光ファイバ歪み測定装置で不可欠である周波数掃引を行う必要がない。この結果、特許文献1に開示されている分布型光ファイバ歪み測定装置は、従来の一般的な分布型光ファイバ歪み測定装置に比べて、高速な測定ができるというメリットを有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】R. W. Boyd, “Nonlinear Optics” , Academic Press
【非特許文献2】K. Nish Iguchi et al.,” Synthetic Spectrum Approach for Brillouin Optical Time-Domain Reflectometry,” Sensors 2014, 14, 4731-4754
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述の通り、特許文献1に開示されている分布型光ファイバ歪み測定装置は、一般的な分布型光ファイバ歪み測定装置に比べて、高速な測定ができるというメリットを有する。しかし、その一方で、自己遅延干渉計の出力信号から位相変化を抽出する方式であるため,被測定光ファイバを伝搬する過程で付加的な位相変化があると、本来測定したい歪み・温度変化による位相変化を正しく抽出できないことが懸念される。
【0011】
光ファイバ伝搬過程で生じる付加的な位相変化の代表的な効果としては、自己位相変調(SPM:Self-Phase Modulation)効果が挙げられる。SPMは、光ファイバを伝搬する光波において、その光波がもつ強度に比例した位相変化が発生するものであり、光ファイバの3次の非線形効果であるKerr効果に由来する。
【0012】
BOTDRで検出する自然BS光は極めて微弱であるので,通常は信号対雑音比(S/N比)を上げるために光ファイバに入力する光パルスのピーク強度を出来るだけ高くすることが望ましい。しかしながら、入力パルスのピーク強度を高めていくと、自ずと付加的な位相変化をもたらすSPMの影響も顕著になる。
【0013】
この発明は、上述の状況に鑑みてなされたものである。この発明の目的は、SPMの影響を抑圧可能な、分布型光ファイバ歪み測定装置及び分布型光ファイバ歪み測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述した目的を達成するために、この発明の分布型光ファイバ歪み測定装置は、光源部と、分岐部と、光周波数シフタ部と、遅延部と、合波部と、コヒーレント検波部と、局発電気信号生成部と、ミキサーと、信号処理装置とを備えて構成される。
【0015】
光源部は、プローブ光として光パルスを生成する。分岐部は、プローブ光により光ファイバで発生する自然ブリルアン散乱光を、第1光路及び第2光路に2分岐する。光周波数シフタ部は、第1光路に設けられており、第1光路を伝搬する光にビート周波数の周波数シフトを与える。遅延部は、第2光路に設けられており、第2光路を伝搬する光に遅延時間τの遅延を与える。合波部は、第1光路及び第2光路を伝搬する光を合波して合波光を生成する。コヒーレント検波部は、合波光をヘテロダイン検波して差周波をビート信号として出力する。局発電気信号生成部は、ビート信号と同じ周波数を持つ局発電気信号を生成する。ミキサーは、ビート信号と局発電気信号とをホモダイン検波して、ホモダイン信号として出力する。信号処理装置は、ホモダイン信号に含まれる位相差信号に対して所定の処理を行い、ビート信号の強度変化に基づいて、自然ブリルアン散乱光の周波数変化を算出し、自然ブリルアン散乱光の周波数変化から、光ファイバの長手方向に沿った歪みの分布を取得する。
【0016】
信号処理装置は、さらに、自然ブリルアン散乱光の周波数変化の分布を取得し、周波数変化の分布の傾きに基づいて、光源部で生成される光パルスの形状を制御するフィードバック信号を生成し、フィードバック信号を光源部に送る。
【0017】
また、この発明の分布型光ファイバ歪み測定装置の他の好適実施形態によれば、光源部と、分岐部と、遅延部と、合波部と、コヒーレント検波部と、信号処理装置とを備えて構成される。
【0018】
光源部は、プローブ光として光パルスを生成する。分岐部は、プローブ光により光ファイバで発生する自然ブリルアン散乱光を、第1光路及び第2光路に2分岐する。遅延部は、第2光路に設けられており、第2光路を伝搬する光に遅延時間τの遅延を与える。合波部は、第1光路及び第2光路を伝搬する光を合波して合波光を生成する。コヒーレント検波部は、合波光をホモダイン検波して差周波を位相差信号として出力する。信号処理装置は、位相差信号に対して所定の処理を行い、自然ブリルアン散乱光の周波数変化を算出し、自然ブリルアン散乱光の周波数変化から、光ファイバの長手方向に沿った歪みの分布を取得する。
【0019】
信号処理装置は、さらに、自然ブリルアン散乱光の周波数変化の分布を取得し、周波数変化の分布の傾きに基づいて、光源部で生成される光パルスの形状を制御するフィードバック信号を生成し、フィードバック信号を光源部に送る。
【0020】
この発明の信号処理装置の好適な実施形態によれば、光ファイバとして、被測定光ファイバと校正用光ファイバとが切り換え可能に設けられ、フィードバック信号の生成は、校正用光ファイバで発生する自然ブリルアン散乱光を用いて行われる。あるいは、光ファイバとして、被測定光ファイバと校正用光ファイバとが直列に接続されて設けられ、フィードバック信号の生成は、校正用光ファイバに対応する区間で発生する自然ブリルアン散乱光を用いて行われる。
【0021】
また、この発明の分布型光ファイバ歪み測定方法は、以下の過程を備える。先ず、プローブ光として光パルスを生成する。次に、プローブ光により校正用光ファイバで発生する自然ブリルアン散乱光を、第1光路及び第2光路に2分岐する。次に、第1光路を伝搬する光にビート周波数の周波数シフトを与える。また、第2光路を伝搬する光に遅延時間τの遅延を与える。次に、第1光路及び第2光路を伝搬する光を合波して合波光を生成する。次に、合波光をヘテロダイン検波して差周波をビート信号として出力する。また、ビート信号と同じ周波数を持つ局発電気信号を生成する。次に、ビート信号と局発電気信号とをホモダイン検波して、ホモダイン信号として出力する。次に、ホモダイン信号に含まれる位相差信号に対して所定の処理を行い、ビート信号の強度変化に基づいて、自然ブリルアン散乱光の周波数変化を算出する。次に、自然ブリルアン散乱光の周波数変化の分布を取得する。そして、周波数変化の分布の傾きに基づいて、光パルスの形状を制御する。
【0022】
光パルスの形状が所望の形状に制御された後、校正用光ファイバを被測定光ファイバに切り換えて周波数変化を算出する過程までを行い、自然ブリルアン散乱光の周波数変化から、被測定光ファイバの長手方向に沿った歪みの分布を取得する。
【0023】
また、この発明の分布型光ファイバ歪み測定方法の他の好適実施形態によれば、以下の過程を備えて構成される。先ず、プローブ光として光パルスを生成する。次に、プローブ光により校正用光ファイバで発生する自然ブリルアン散乱光を、第1光路及び第2光路に2分岐する。次に、第2光路を伝搬する光に遅延時間τの遅延を与える。次に、第1光路及び第2光路を伝搬する光を合波して合波光を生成する。次に、合波光をホモダイン検波して差周波を位相差信号として出力する。次に、位相差信号に対して所定の処理を行い、自然ブリルアン散乱光の周波数変化を算出する。次に、自然ブリルアン散乱光の周波数変化の分布を取得する。そして、周波数変化の分布の傾きに基づいて、光パルスの形状を制御する。
【0024】
光パルスの形状が所望の形状に制御された後、校正用光ファイバを被測定光ファイバに切り換えて周波数変化を算出する過程までを行い、自然ブリルアン散乱光の周波数変化から、被測定光ファイバの長手方向に沿った歪みの分布を取得する。
【発明の効果】
【0025】
この発明の分布型光ファイバ歪み測定装置及び分布型光ファイバ歪み測定方法によれば、自己遅延ヘテロダイン干渉計又は自己遅延ホモダイン干渉計において、光源部で生成されるプローブ光としての光パルスのパルス形状を所望の形状に制御することによりSPMの影響を抑圧できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図2】励起光パルスのピークパワーを変えた時の、規格化ビート強度及びBFSを示す図である。
【
図3】非線形位相シフトと、パルス包絡線関数の積を示す図である。
【
図4】励起光パルスの立ち上がり、又は、立ち下がりを5次のスーパーガウシアンに固定し、もう一方の次数を5次から1次まで変化させた場合の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図を参照して、この発明の実施の形態について説明するが、各図は、この発明が理解できる程度に概略的に示したものに過ぎない。また、以下、この発明の好適な構成例につき説明するが、単なる好適例にすぎない。従って、この発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、この発明の構成の範囲を逸脱せずにこの発明の効果を達成できる多くの変更又は変形を行うことができる。
【0028】
(構成)
図1を参照して、この発明の一実施形態に係る光ファイバ歪み測定装置(以下、単に測定装置とも称する。)について説明する。
図1は、測定装置の模式的なブロック図である。
【0029】
測定装置は、光源部10、サーキュレータ20、光バンドパスフィルタ30、光増幅器32、自己遅延ヘテロダイン干渉計40、コヒーレント検波部60、ミキサー70、電気フィルタ72、信号処理装置74、及び、局発電気信号源80を備えて構成される。なお、信号処理装置74の機能及び動作を除いては、特許文献1などに開示されている任意好適な従来公知の構成にすることができるので、従来公知の構成については、説明を省略することもある。
【0030】
光源部10は、プローブ光を生成する。光源部10は、レーザー光源12、光変調器14、及び、任意波形発生器16を備えて構成される。
【0031】
ここで、測定装置は、周波数変化に応じた位相差を測定する。このため、レーザー光源12の周波数揺らぎは、自然BS光の中心周波数変化よりも十分に小さくなければならない。そこで、レーザー光源12として周波数安定化レーザーが用いられる。例えば、測定対象となる光ファイバ(以下、被測定光ファイバとも称する。)100の歪みを0.008%としたとき、自然BS光の中心周波数変化は4MHzに相当する。このため、0.008%程度の歪みを測定するには、光源12の周波数揺らぎは4MHzより十分に小さいことが望ましい。レーザー光源12で生成された連続光は、光変調器14に送られる。
【0032】
光変調器14は、任意好適な従来周知の、音響光学(AO:Acoust Optic
al)変調器又は電気光学(EO:Electric Optical)変調器を用いて構成される。光変調器14は、任意波形発生器16で生成された電気パルスに応じて、連続光から光パルスを生成する。従って、光パルスのパルス形状は、電気パルスのパルス形状に応じて定まる。なお、一般的には、任意波形発生器16と光変調器14の間に、電気ドライバーアンプが設けられる場合も多いが、自明な構成であるため、図示及び説明を省略する。
【0033】
光変調器14で生成される光パルスの繰り返し周期は、被測定光ファイバ100aを光パルスが往復するのに要する時間よりも長く設定される。この光パルスが、プローブ光として、光源部10から出力される。
【0034】
この光源部10から出力されたプローブ光は、サーキュレータ20を経て、入力光パルスとして、被測定光ファイバ100a又は校正用光ファイバ100bの入力端に入力される。なお、サーキュレータ20に換えて、光カプラを用いても良い。
【0035】
被測定光ファイバ100aは、例えば、歪や温度の測定対象となる構造物(測定対象構造物)に取り付けられる。一方、校正用光ファイバ100bは、歪みがなく、かつ、温度が一定の環境に設置されるのが望ましい。校正用光ファイバ100bの長さは、SPMの効果が明瞭に観測できる程度の長さに調整しておくのがよい。SPMの効果をより明瞭にするために、校正用光ファイバ100bとして高非線形光ファイバを用いてもよい。
【0036】
被測定光ファイバ100aと校正用光ファイバ100bとは別系統であり、校正時には校正用光ファイバ100bが、測定時には被測定光ファイバ100aが、切り換えて用いられる。なお、校正用光ファイバ100bと被測定光ファイバ100aとの間の切り換えは、任意好適な手法で行えばよく、ここでは説明を省略する。以下の説明では、被測定光ファイバ100aと校正用光ファイバ110bを光ファイバ100と総称することもある。
【0037】
光ファイバ100の入力端に入力された光パルスが、光ファイバ100を伝搬する間に生じる自然BS光は、光ファイバ100の入力端から出力される。光ファイバ100から出力された自然BS光は、サーキュレータ20を経て、光バンドパスフィルタ30に送られる。光バンドパスフィルタ30は、10GHz程度の透過帯域を有しており、自然BS光のみを透過する。光バンドパスフィルタ30を透過した自然BS光は、光増幅器32に送られる。光増幅器32は自然BS光を増幅して自己遅延干渉計である自己遅延ヘテロダイン干渉計40に送る。
【0038】
自己遅延ヘテロダイン干渉計40は、分岐部42、光周波数シフタ部44、偏波制御部46、遅延部48、及び、合波部50を備えて構成される。
【0039】
分岐部42は、光バンドパスフィルタ30及び光増幅器32を経て送られた自然BS光を、第1光路及び第2光路に2分岐する。
【0040】
光周波数シフタ部44は、第1光路に設けられている。光周波数シフタ部44は、局発電気信号源80で生成された局発電気信号を用いて、第1光路を伝搬する光に対して、所定の周波数シフトを与える。局発電気信号源80は、上述の局発電気信号を生成し、光周波数シフタ部44及びミキサー70に送る。なお、局発電気信号の周波数をビート周波数と称することもある。
【0041】
偏波制御部46及び遅延部48は、第2光路に設けられている。偏波制御部46は、第2光路を伝搬する光の偏波を制御する。
【0042】
遅延部48は、第2光路を伝搬する光に遅延時間τの遅延を与える。この遅延部48は、受動部品である、任意好適な従来公知の遅延線で構成することができる。
【0043】
合波部50は、第1光路及び第2光路を伝搬する光を合波して合波光を生成する。合波部50で生成された合波光は、自己遅延ヘテロダイン干渉計40から出力されてコヒーレント検波部60に送られる。
【0044】
コヒーレント検波部60は、合波光をヘテロダイン検波してビート信号を生成する。コヒーレント検波部60は、例えば、バランス型フォトダイオード(PD)62とFET増幅器64を備えて構成される。
【0045】
コヒーレント検波部60で生成されたビート信号はミキサー70に送られる。
【0046】
ミキサー70は、ビート信号と局発電気信号とをホモダイン検波して、ホモダイン信号を生成する。ここで、ビート信号と局発電気信号の周波数は、いずれも局発電気信号源80の発振周波数(ビート周波数)である。従って、ビート信号と局発電気信号とをホモダイン検波することにより、自然BS光の周波数変化が位相差として出力される。ホモダイン信号は、電気フィルタ72に送られる。電気フィルタ72は、この例では、ローパスフィルタ(LPF)である。
【0047】
電気フィルタ72は、ホモダイン信号から和周波成分をカットして位相差に対応する電圧値を示す位相差信号を生成する。この位相差信号は信号処理装置74に送られ、所定の処理が行われる。
【0048】
信号処理装置74は、特許文献1に開示されている光ファイバ歪み測定装置と同様に、ビート信号の強度変化に基づいて、自然BS光の位相変化を抽出し、さらに、自然BS光の周波数変化を算出する。その後、自然BS光の周波数変化から、光ファイバの長手方向に沿った歪みの分布を取得し、測定対象の歪みや温度変化を得る。
【0049】
この発明に係る測定装置では、信号処理装置74は、フィードバック信号を生成する。フィードバック信号は、光源部10に送られ、任意波形発生器16の制御信号として入力される。任意波形発生器16は、この制御信号として入力されるフィードバック信号に応じて、電気パルスのパルス形状を変化させ、この結果、光源部10から出力されるプローブ光としての光パルスのパルス形状は、所望にパルス形状に制御される。光パルスのパルス形状については、後述する。
【0050】
(動作)
先ず、光ファイバにおけるSPMによる付加的な位相変化が、自己遅延検波型BOTDRの性能にどのように影響するかを説明する。
【0051】
光ファイバを伝搬する励起光パルス、自然BS光を誘発する音響波(圧力波)、及び、自然BS光の電界振幅(包絡関数)を,それぞれ、Ep(z,t)、ρ(z,t)、及び、Es(z、t)とすると、光ファイバにおけるこれらの発展方程式は、以下の式(1a)~(1c)で与えられる(例えば、非特許文献1参照)。
【0052】
【0053】
ここで、vg、α、及び、γは、それぞれ、被測定光ファイバ中の、群速度、光損失係数、及び、非線形定数である。また、κは、音響波と励起光パルスの結合定数であり、κ=γeωp/4cnρ0である。ここで、ωp、c、及び、nは、それぞれ、励起光パルスの角周波数、真空中の光速、及び、光ファイバの屈折率である。なお、励起光パルスの角周波数ωpは、搬送波周波数f0に対して、ωp=2πf0で与えられる。また、ρ0、及び、γeは、それぞれ、音響波(圧力波)が存在しているときの、光ファイバの平均密度、及び、電気歪み係数である。
【0054】
ここで扱う励起光パルスはナノ秒オーダーである。従って、使用する光ファイバとして標準的な光ファイバ(ITU-T G652、SMF)を想定すると、2次分散により光パルスが広がる相互作用長である分散長は数万kmに及ぶ。このため、高々数10kmの距離スケールでは,時間的な光パルスの形状は変化しないと考えることができる。そこで、包絡関数の2回微分として現れる2次分散の項は無視している。
【0055】
また、Γ=ΓB/2であり、ΓBは、音響波すなわちフォノンの減数定数(=スペクトル線幅)である。ωB(=2πfB)は、ブリルアン角周波数シフトであり、fBは、ブリルアン周波数シフト(BFS)を表す。
【0056】
R(z,t)は、Langevin noise(ランジュバン力によるランダム雑音)を表している。一般的には、Langevin noiseを白色ガウス雑音と考えてよいので、期待値を<・>で表すと、以下の式(2a)~(2c)に示される統計的性質を有する。
【0057】
【0058】
ここで、kB及びTは、それぞれ、ボルツマン定数及び温度である。また、va、及び、Aeffは、それぞれ、光ファイバ中の音速、及び、光ファイバの有効断面積である。上記式(2a)~(2c)を用いて、上記式(1a)~(1c)の微分方程式を解く(例えば、非特許文献2参照)。上記式(1a)で、初期条件Ep(0,t)=P0
1/2f(t)を用い、t’=t-z/vgとすると、以下の式(3)が得られる。
【0059】
【0060】
また、上記式(1c)から以下の式(4)が得られる。
【0061】
【0062】
ここで、ρ(z,t)ρ*(z’,t’)の期待値は、上記式(2b)を用いると、以下の式(5)のように計算できる。
【0063】
【0064】
従って、入力端(z=0)で観測される自然BS光は、初期条件Es(L,L/vg)=0を用いると、以下の式(6)となる。ここで、Es(0,t)=Es(t)としている。
【0065】
【0066】
自己遅延ヘテロダイン干渉計を用いたBOTDR(SDH-BOTDR)では、光ファイバの入力端側から出力される自然BS光に対して,自己遅延ヘテロダイン検波を行う。自己遅延ヘテロダイン干渉計の出力信号をバランス検波した後の信号は、Re{Es
*(t-τ)Es(t)exp(-iωmt)}となる。ここで、ωm=2πfmであり、fmは、光周波数シフタ部44における周波数シフト量、すなわち、局発電気信号源80の発振周波数である。
【0067】
このバランス検波した後の信号の位相変化からBFSを見積もるが、Es(t)は、ランダムな雑音因子Rを含んでいるために散乱光波形は激しく揺いでしまい、BFSを算出することはできない。そこで、実際の計測では平均化処理を施している。ここでは、Re{Es
*(t-τ)Es(t)exp(-iωmt)}の期待値を求めることにより揺らぎを除去して、BFSを見積もる。これは、極限まで平均化した場合に相当すると考えることができる。上記式(5)を用いて、期待値Re{Es
*(t-τ)Es(t)exp(-iωmt)}を計算すると、以下の式(7)~(11)が得られる。
【0068】
【0069】
この上記式(11)で与えられるΔφSPM(z、t)が、SPMによる位相変化を与えるので、上記式(8)~(10)を用いて、SPMの影響を見積もることができる。
【0070】
ここでは、例として、励起光パルスのパルス形状を立ち上がり及び立ち下がりが5次スーパーガウシアン、パルス幅を2.5nsec、自己遅延干渉計の遅延量τを1nsec、光ファイバ長を500mとする。なお、光ファイバの歪み及び温度変化はないものと仮定する。また、立ち上がり及び立ち下がりがともに5次スーパーガウシアンのパルス形状は、ほぼ矩形となる。
【0071】
ここで、励起光パルスのピークパワーが0.5W、1W、2W、5W、10W及び15Wである場合の、BFS(単位:MHz)と、規格化したビート強度を計算する。
図2は、励起光パルスのピークパワーを変えた時の、規格化ビート強度及びBFSを示す図である。
図2では、横軸に光ファイバの入力端からの距離(単位:km)をとって示し、左軸に規格化ビート強度をとって示し、右軸にBFS(単位:MHz)をとって示している。
図2中、符号Aで示す点線は規格化ビート強度であり、符号Bで示す実線はBFSである。
【0072】
図2に示されるように、BFSは、励起光パルスのピークパワーにほぼ依存せず一定値となる。ここでは、光ファイバの歪み及び温度変化がないものとしているので、BFSは0となる。一方、ビート信号の強度は、入力端からの距離が大きくなるにつれて小さくなる傾向があるが、励起光パルスのピークパワーが高くなるにつれ、SPMの影響により変化が顕著になることが分かる。
【0073】
図2からは、一見、SPMの影響はビート信号強度に大きく現れるものの、BFSへの影響は軽微であるという結果に見える。この結果が妥当か考察する。自己遅延検波型のBOTDRでは、励起光パルスに生じたSPMによる位相シフトは,受信側で観測される自然BS光において、直接的には非線形位相シフトΔφ
SPM(z、t)として、現れ、最終的には、上記式(8)及び(9)の積分の結果に影響する。
【0074】
ΔφSPM(z、t)は、以下の式(12)で与えられる、励起光パルスが距離zで散
乱されて時刻tに受信端に戻るときの自然BS光に重畳されたSPMによる位相シフトと、以下の式(13)で与えられる、遅延干渉計において遅延時間τだけ遅れて重ね合わされる自然BS光の位相シフトとの差、すなわち、パルス包絡線の二乗の差分となっている。
【0075】
【0076】
図3は、t=2×0.45[km]/v
gとしたときの、上記式(11)で与えられる、非線形位相シフトと、上記式(8)及び(9)に現れる、パルス包絡線関数の積を示す図である。
図3では、横軸に光ファイバの入力端からの距離をとって示し、右軸にSPMによる非線形位相シフトをとって示し、左軸に規格化パルス強度をとって示している。
図3では、符号Aで示す破線は、上記式(12)を規格化したものであり、符号Bで示す破線は、上記式(13)を規格化したものであり、符号Cで示す実線は、上記式(8)及び(9)に現れる、パルス包絡線関数の積であり、符号Dで示す実線は、SPMによる位相シフトΔφ
NL(単位:rad)である。なお、励起光パルスのピークパワーを10Wとしている。
【0077】
ここで、f(t-2z/v
g-τ)f(t-2z/v
g)は偶関数、Δφ
SPM(z、t)は奇関数であるので、上記式(9)で表される積分の被積分関数は、奇関数の積分と考えて良い。また、積分領域[0、L]の中の極短い領域のみ積分に寄与するので、積分により得られるQ(t)はtに関係なくほぼゼロと考えて良い。一方、式(8)で表される積分の被積分関数は偶関数なので、I(t)は正の有限値を持つと考えられる。すなわち、Q(t)/I(t)は、ほぼゼロとなる。したがって、
図2に示されるように、BFSもゼロ近傍の値をとる。一方、ビート信号強度である(I(t)
2+Q(t)
2)
1/2は、I(t)が支配的になり、Δφ
SPM(z、t)の値に依存して変化するものと考えられる。
【0078】
単純には、cos(Δφ
NL)≦1なので、SPMの影響がある、すなわち、Δφ
SPM(z、t)≠0とすると、I(t)が支配的であるビート信号強度は、
図2に示されるように低下する。
【0079】
BFSにおいて、SPMの影響があまり見られないという結果は、光ファイバ全長にわたって、各点で生じた散乱光を重ね合わせる、すなわち、積分すると、SPMによる非線形周波数シフトの影響が相殺されることを示している。これには、上記式(9)で与えられるQ(t)の被積分関数が奇関数となるようにバランスがとれていることが前提となる。このことは裏を返せば、このバランスが崩れると、BFSへの影響が顕著になることを示している。
【0080】
ここでいうバランスとは、励起光パルスの形状の対称性に他ならない。計算上は、励起光パルスに理想的な対称性を持たせることができるが、実際の装置に実装されるパルス光源では、少なからず立ち上がりや立ち下がりの急峻さなどに差があると考えられる。そこで、励起パルスの形状が非対称となる場合について、BFS及びビート信号強度にSPMがどう影響するか同様の計算により見積もった。
【0081】
図4は、励起光パルスの立ち上がり、又は立ち下がりの形状を変化させた場合の結果を示す図である。
図4(A)は、立ち下がりを5次のスーパーガウシアンに固定し、立ち上がりの次数を5次から1次のスーパーガウシアンに変化させている。ここで、1次のスーパーガウシアンは、通常のガウシアン形状である。
図4(B)は、立ち上がりを5次のスーパーガウシアンに固定し、立ち下がりの次数を5次から1次のスーパーガウシアンに変化させている。
図4(C)は、励起光パルスの立ち上がり、又は立ち下がりの形状を変化させた場合の、規格化ビート強度及びBFSを示す図である。
図4(A)~(C)では、横軸に光ファイバの入力端からの距離(単位:km)をとって示している。
図4(A)及び(B)では、縦軸に、励起光パルスのピークパワー(任意単位)をとって示している。また
図4(C)では、左軸に規格化ビート強度をとって示し、右軸にBFS(単位:MHz)をとって示している。
図4中、符号I~IVで示す線は、立下りが5次のスーパーガウシアンであり、立ち上がりが、それぞれ、1次~4次のスーパーガウシアンである。符号Vで示す線は、立ち上がり及び立下りがともに5次のスーパーガウシアンである。また、符号VI~IXで示す線は、立ち上がりが5次のスーパーガウシアンであり、立下りが、それぞれ、4次~1次のスーパーガウシアンである。
【0082】
図4(C)に示されるように、符号Vから符号Iに向けて、及び、符号Vから符号IXに向けて、すなわち、入力パルスの非対称性が大きくなるにつれて、BFSの変化が大きくなることが分かる。これは、上記式(9)で与えられるQ(t)の積分においてSPMによる非線形位相シフトが相殺せず残留するためである。
【0083】
このように、実際の装置を構成する上では、SPMの影響を抑制するために、入力光パルスの形状の対称性まで考慮する必要がある。特に、距離レンジの拡大、あるいは、入力パルス幅の狭窄化により空間分解能の向上を図る場合には、SPMの影響がより顕著に表れる。従って、入力パルスの対称性は装置設計の重要なポイントになる。
【0084】
そこで、先ず、光源部10にて生成した光パルスを、サーキュレータ20を経て校正用光ファイバ100bに入力する。信号処理装置74は、歪み、温度分布のない校正用光ファイバ100bの長手方向に沿ったBFS分布を取得する。そして、信号処理装置74は、BFS分布に傾きが出ないように、任意波形発生器16にて生成される電気パルスの形状を制御するフィードバック信号を生成する。このフィードバック信号は、光源部10の任意波形発生器16に送られる。光源部10の任意波形発生器16は、フィードバック信号に応じて電気パルスのパルス形状を制御し、その結果、光変調器14で生成される光パルスの形状が制御される。
【0085】
SPMの影響が抑圧できていることは、励起光パルスの入力パワーを変化させたときに、
図4(C)中、符号Vで示したようなBFSの傾きが出ないということをもって確認できる。SPMの抑圧を確認した後、被測定光ファイバ100aへの切り換えを行い、例えば、被測定光ファイバ100aを設置した測定対象構造物の歪みや温度変化などの測定を行う。
【0086】
以上説明したように、自己遅延検波型BOTDRにおいては、光ファイバでのSPMがBFS計測に及ぼす影響が、入力光パルスの非対称性等の形状に大きく依存する。SPMと入力光パルス形状がBFSにどのように反映されるかが分かったので、歪みや温度変化がなくBFS分布が予め一様になることが分かっている校正用光ファイバに対するBFS計測結果から、パルス形状を制御し、SPMの影響を最小化できる。SPMの影響抑圧により入力光パルスのピークパワーを上げることが可能になるので、BFS計測におけるS/N比が向上し、したがって計測精度の改善につながる。
【0087】
ここでは、
図1を参照して最初に、歪み・温度分布のない校正用光ファイバ100bに
接続して、SPMの影響が最小になるようにパルス形状を最適化し、その後、被測定光ファイバに接続して測定する例を説明したがこれに限定されない。例えば、校正用光ファイバ100bと被測定光ファイバ100aを直列に接続し,校正用光ファイバ100bに対応する区間のBFSを用いてパルス形状を調整しても良い。
【0088】
ここでは、測定装置が自己遅延ヘテロダイン干渉計を備える例を説明したが、これに限定されない。自己遅延干渉計を、自己遅延ホモダイン干渉計としてもよい。自己遅延ホモダイン干渉計は、光周波数シフタ部を備えない点が、自己遅延ヘテロダイン干渉計と異なる。この場合、コヒーレント検波部60で生成されるホモダイン信号がそのまま位相差信号に対応するため、局発電気信号生成部、ミキサー、及び、電気フィルタが不要となる。この自己遅延ホモダイン干渉計を備える測定装置は、光周波数シフタ部や局発電気信号源を備えないため、自己遅延ヘテロダイン干渉計を備える測定装置に比べて、製造コストの面で有利である。
【符号の説明】
【0089】
10 光源部
12 レーザー光源
14 光変調器
16 任意波形発生器
20 サーキュレータ
30 光バンドパスフィルタ
32 光増幅器
40 自己遅延ヘテロダイン干渉計
42 分岐部
44 光周波数シフタ部
46 偏波制御部
48 遅延部
50 合波部
60 コヒーレント検波部
62 バランス型PD
64 FET増幅器
70 ミキサー
72 電気フィルタ(LPF)
74 信号処理装置
80 局発電気信号源
100 光ファイバ
100a 被測定光ファイバ
100b 校正用光ファイバ