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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023044916
(43)【公開日】2023-04-03
(54)【発明の名称】光デバイス
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/225 20060101AFI20230327BHJP
   G02B 6/14 20060101ALI20230327BHJP
   G02F 1/01 20060101ALN20230327BHJP
【FI】
G02F1/225
G02B6/14
G02F1/01 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021153033
(22)【出願日】2021-09-21
(71)【出願人】
【識別番号】000000295
【氏名又は名称】沖電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141955
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100085419
【弁理士】
【氏名又は名称】大垣 孝
(72)【発明者】
【氏名】太縄 陽介
(72)【発明者】
【氏名】岡山 秀彰
【テーマコード(参考)】
2H147
2K102
【Fターム(参考)】
2H147AB01
2H147AB11
2H147AB28
2H147AC05
2H147BA02
2H147BA05
2H147BB02
2H147BB07
2H147BE01
2H147BE19
2H147EA13A
2H147EA13C
2H147EA14B
2K102AA28
2K102BA00
2K102BA08
2K102BB01
2K102BB04
2K102BB07
2K102BC10
2K102BD01
2K102CA02
2K102DA04
2K102DB00
2K102DB04
2K102DC05
2K102DD03
2K102EA05
2K102EA16
2K102EB11
(57)【要約】
【課題】MDM伝送システムの柔軟性を確保可能にするなどのために、伝送モードを任意に切り替える。
【解決手段】光分岐部と、第1~第N(Nは2以上の整数)のアーム導波路と、光結合部とを備えて構成される。第1~第Nのアーム導波路は、光分岐部と光結合部の間に、互いに並列にこの順に設けられ、それぞれ、強度/位相調整手段を備える。光結合部は、第1~第Nのテーパ導波路と、マルチモード導波路とを備えて構成され、Nが偶数の場合、テーパ導波路全てがアーム導波路から延伸され、Nが奇数の場合、第(N+1)/2のアーム導波路以外のアーム導波路から延伸されて設けられ、テーパ導波路を伝送する光がマルチモード導波路へと断熱的に遷移する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光分岐部と、
第1~第N(Nは2以上の整数)のアーム導波路と、
光結合部とを備え、
前記第1~第Nのアーム導波路は、前記光分岐部と前記光結合部の間に、互いに並列にこの順に設けられ、それぞれ、強度/位相調整手段を備え、
Nが偶数の場合、
前記光結合部は、第1~第Nのテーパ導波路と、マルチモード導波路とを備えて構成され、
第1~第Nのテーパ導波路は、それぞれ、前記第1~第Nのアーム導波路から延伸され、
前記マルチモード導波路は、第N/2のテーパ導波路と第N/2+1のテーパ導波路の間に設けられ、及び、
前記第1~第Nのテーパ導波路を伝送する光が前記マルチモード導波路へと断熱的に遷移し、
Nが奇数の場合、
前記光結合部は、第1~第N-1のテーパ導波路と、マルチモード導波路とを備えて構成され、
第1~第N-1のテーパ導波路は、第1~第(N-1)/2のアーム導波路から延伸されて設けられ、
第(N+1)/2~第(N-1)のテーパ導波路は、第(N+1)/2+1~第Nのアーム導波路から延伸されて設けられ、
前記マルチモード導波路は、第(N+1)/2のアーム導波路から延伸されて設けられ、及び、
前記第1~第N-1のテーパ導波路を伝送する光が前記マルチモード導波路へと断熱的に遷移する
ことを特徴とする光デバイス。
【請求項2】
前記強度/位相調整手段が、強度調整に用いられるマッハツェンダ干渉器を有する
ことを特徴とする請求項1に記載の光デバイス。
【請求項3】
前記強度/位相調整手段が、ヒーターを用いた熱光学効果を利用して位相調整する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の光デバイス。
【請求項4】
前記マルチモード導波路の後段に、モード変換器を備える
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の光デバイス。
【請求項5】
前記第1~第Nのアーム導波路の、前記強度/位相調整手段の前段及び後段に、TM偏波の基本モードとTE偏波の1次モードを相互変換するリブ導波路を備える
ことを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の光デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、モードスイッチや光スイッチとして利用可能な、光デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
情報伝達量の増大に伴い、光配線技術が注目されている。光配線技術では、光ファイバや光導波路を伝送媒体とした光デバイスを用いて、情報処理装置内のラック間、ボード間又はチップ間等の情報伝達を光信号で行う。光配線技術を用いることにより、高速信号処理を要する情報処理機器においてボトルネックとなっている、電気配線を用いることによる帯域制限を改善することができる。
【0003】
通信容量を増大させるために信号キャリアの多重化が有用である。モード分割多重(MDM:Mode Division Multiplexing)は、1つの波長光源、かつ、1つの伝送路で複数の信号をモード毎に伝送することが出来る。このため、MDMは、波長毎に信号を重畳する波長分割多重(WDM:Wavelength Division Multiplexing)や、伝送路を空間的に分割する空間分割多重(SDM:Space Division Multiplexing)に比べ、コスト効率が高く、高性能CPU(Central Processing Unit)内でのチップ間インターコネクトの伝送方式として有望である(例えば、非特許文献1又は2参照)。
【0004】
図9を参照して、一般的なMDM伝送システムを説明する。図9は、MDM伝送システムを説明するための模式図である。
【0005】
送信側では、1つの光源1000で生成された光をカプラー1010で分岐し、それぞれの光に変調器1020-1~4により信号sig1~sig4を載せ光信号を生成する。各光信号は、モード変換部1050において、各モード次数に対応するモード変換器によりモード変換され、マルチモード導波路(MMWG:Multi Mode Waveguide)1060へ送信される。
【0006】
受信側では送信側と同様に各モード次数に対応するモード変換器を有するモード変換部1070が配置され、各モード光を選択的に取り出しフォトダイオード(PD:PhotoDiode)1080-1~4で受信する。MMWG1060では、各モードは互いに直交し干渉せず伝送する。このように、1つの光源、かつ、1つの伝送路を共有し複数の信号を送受できるため、MDM伝送システムは、コスト及びスペース効率に優れる。このように、MDM伝送システムでは伝送する光のモードを切り替えるためのモード変換器が重要なデバイスとなる。モード変換器デバイスとしては、非対称方向性結合器を用いたものが一般的である(例えば、特許文献1又は2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2018-155863号公報
【特許文献2】特開2015-121696号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】CLEO 2018 OSA 2018, STh1B.5, "demonstration of 2-um on-chip two-mode division multiplexing using tapered directional coupler-based mode (de)multiplexer"
【非特許文献2】Journal of Lightwave Technology, Vol.35, Issue15, 2017 "mode-division multiplexing for silicon photonic network-on-chip”
【非特許文献3】Electronics Letters, Vol. 55, Issue 8, pp.475 - 476, 18 April 2019, ”Polarization insensitive wavelength demultiplexer using arrayed waveguide grating and polarization rotator/splitter"
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来のMDM伝送システムでは、基本的に信号の送信側と受信側との関係は非対称方向性結合器の設計により1:1で決まり、これを可変にすることは出来ない。従って、MDM伝送システムには、ネットワークとしての柔軟性に欠けるという問題があった。MDM伝送システム以外の、例えば、WDM伝送システムなどでは可変波長フィルタを用いることで、任意の送り先を指定することが可能である。
【0010】
この発明は、上述の問題点に鑑みてなされたものである。この発明の目的は、MDM伝送システムの柔軟性を確保可能にするなどのために、伝送モードを任意に切り替えることができるモードスイッチとして利用可能な光デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した目的を達成するために、この発明の光デバイスは、光分岐部と、第1~第N(Nは2以上の整数)のアーム導波路と、光結合部とを備えて構成される。第1~第Nのアーム導波路は、光分岐部と光結合部の間に、互いに並列にこの順に設けられ、それぞれ、強度/位相調整手段を備える。
【0012】
Nが偶数の場合、光結合部は、第1~第Nのテーパ導波路と、マルチモード導波路とを備えて構成され、第1~第Nのテーパ導波路は、それぞれ、第1~第Nのアーム導波路から延伸され、マルチモード導波路は、第N/2のテーパ導波路と第N/2+1のテーパ導波路の間に設けられ、第1~第Nのテーパ導波路を伝送する光がマルチモード導波路へと断熱的に遷移する。
【0013】
Nが奇数の場合、光結合部は、第1~第N-1のテーパ導波路と、マルチモード導波路とを備えて構成され、第1~第(N-1)/2のテーパ導波路は、第1~第(N-1)/2のアーム導波路から延伸されて設けられ、第(N+1)/2~第(N-1)のテーパ導波路は、第(N+1)/2+1~第Nのアーム導波路から延伸されて設けられ、マルチモード導波路は、第(N+1)/2のアーム導波路から延伸されて設けられ、第1~第N-1のテーパ導波路を伝送する光がマルチモード導波路へと断熱的に遷移する。
【0014】
また、この発明の光デバイスの好適実施形態によれば、強度/位相調整手段が、強度調整に用いられるマッハツェンダ干渉器を有する。また、強度/位相調整手段が、ヒーターを用いた熱光学効果を利用して位相調整する。
【0015】
また、この発明の光デバイスの他の好適実施形態によれば、マルチモード導波路の後段に、モード変換器を備える。また、第1~第Nのアーム導波路の、強度/位相調整手段の前段及び後段に、TM偏波の基本モードとTE偏波の1次モードを相互変換するリブ導波路を備えてもよい。
【発明の効果】
【0016】
この発明とする光デバイスによれば、伝送モードを任意に切り替えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】モードスイッチを説明するための模式図である。
図2】断熱遷移型の分岐デバイスの概略的平面図である。
図3】マッハツェンダ干渉器を利用する強度/位相調整手段を説明するための模式図である。
図4】マルチモード導波路からアーム導波路へと伝送させたときの様子をBPMシミュレーションで検証した結果を示す図である。
図5】光スイッチを説明するための模式図である。
図6】アーム導波路の幅と、各モードの位相変化量の関係を示す図である。
図7】リブ導波路を備えるアーム導波路を説明するための模式図である。
図8】FDTDによる光結合部の透過スペクトルを示す図である。
図9】MDM伝送システムを説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図を参照して、この発明の実施の形態について説明するが、各構成要素の形状、大きさ及び配置関係については、この発明が理解できる程度に概略的に示したものに過ぎない。また、以下、この発明の好適な構成例につき説明するが、各構成要素の材質及び数値的条件などは、単なる好適例にすぎない。従って、この発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、この発明の構成の範囲を逸脱せずにこの発明の効果を達成できる多くの変更又は変形を行うことができる。
【0019】
(モードスイッチ)
図1を参照して、この発明の光デバイスの一実施形態としてモードスイッチを説明する。図1は、モードスイッチを説明するための模式図である。図1(A)は、Nが2の場合の例であり、図1(B)はNが3の場合の例である。また、図1(A)及び(B)は、後述する支持基板及びクラッドを省略し、光導波路コアのみを示す概略的平面図である。図1(C)は、第1実施形態の光デバイスの概略的断面図である。なお、他の概略的平面図においても後述する支持基板及びクラッドを省略する。
【0020】
モードスイッチは、支持基板10、クラッド20、及び、光導波路コア30を備える光導波路を基本構造として有している。
【0021】
支持基板10は、例えば単結晶シリコン(Si)を材料とした平板状体で構成されている。
【0022】
クラッド20は、支持基板10上に設けられている。クラッド20は、支持基板10の上面を被覆し、かつ、光導波路コア30を包含して形成されている。クラッド20は、例えば酸化シリコン(SiO)を材料として形成されている。
【0023】
光導波路コア30は、クラッド20よりも高い屈折率を有する例えばSiを材料として形成されている。その結果、光導波路コア30と周囲のクラッド20は、光の伝送路(光導波路)として機能し、光導波路コア30に入力された光が光導波路コア30の平面形状に応じた伝播方向に伝播する。
【0024】
モードスイッチは、光分岐部200と、第1~第N(Nは2以上の整数)のアーム導波路300-1~300-Nと、光結合部400とを備えて構成される。第1~第Nのアーム導波路300-1~300-Nは、光分岐部200と光結合部400の間に互いに並列に、この順に設けられる。
【0025】
光分岐部200は1本の入力導波路101から入力される光をN分岐して出力する。光分岐部200が有するN個の出力ポートは、それぞれ、第1~第Nのアーム導波路300-1~300-Nと接続される。
【0026】
光分岐部200は、最も単純にはY分岐導波路を用いることが出来るが、光損失を低減するため、断熱遷移型の分岐デバイスを用いることができる。
【0027】
図2を参照して、断熱遷移型の分岐デバイスを説明する。図2は、断熱遷移型の分岐デバイスの概略的平面図である。
【0028】
この断熱遷移型の分岐デバイスは、入力導波路101と接続されたテーパ導波路210と、テーパ導波路210を挟む位置に一定の間隔を空けて配置された第1及び第2の逆テーパ導波路220-1及び220-2を備えて構成される。テーパ導波路210は、光の伝送方向に沿って徐々に幅が縮小する。第1及び第2の逆テーパ導波路220-1及び220-2は、それぞれ、第1及び第2のアーム導波路300-1及び300-2と接続される。
【0029】
テーパ導波路210のモードは先端に近づくにつれカットオフに近づき、両脇の第1及び第2の逆テーパ導波路220-1及び220-2へと徐々に光が移行する。このような構成とすることで、光の分岐損失及び偏波依存性を低減できる。
【0030】
第1~第Nのアーム導波路300-1~300-Nは、それぞれ、強度/位相調整手段310-1~310-Nを有する。強度/位相調整手段310-1~310-Nは強度及び位相のいずれか一方又は双方を調整する手段である。強度/位相調整手段310-1~310-Nが位相を調整する場合には、例えば、第1~第Nのアーム導波路300-1~300-Nを構成する光導波路コアの上にヒーターを実装し、熱光学効果を利用して位相を制御することができる。また、強度を調整する場合には、強度/位相調整手段310-1~310-Nを構成する光導波路コアに例えば、マッハツェンダ干渉計を挿入し、光のON/OFFを切り替える構成にすることができる。
【0031】
図3を参照して、強度/位相調整手段が、強度調整を行う、マッハツェンダ干渉器を利用する構成を説明する。図3は、マッハツェンダ干渉器を利用する強度/位相調整手段を説明するための模式図である。
【0032】
マッハツェンダ干渉器は、光分岐部311と、第1及び第2のアーム導波路312-1及び312-2と、光結合部313とを備えて構成される。さらに、第1及び第2のアーム導波路312-1及び312-2はそれぞれヒーター等の位相制御手段314-1及び314-2を備える。位相制御手段314の動作は一般的なマッハツェンダ干渉器と同様で、熱光学効果を利用して、第1及び第2のアーム導波路312-1及び312-2間の位相差に応じて光の強度を制御することができる。ここで求める機能としては、光をON/OFFする(1か0にする)ことである。図1(A)に示すNが2の場合では、強度を調整する必要はないのでこの機能を省略できる。一方、図1(B)に示すNが3の場合のように、中央の第2のアーム導波路300-2と両脇の第1及び第3のアーム導波路300-1及び300-3とで光強度の関係を調整する場合には、光をON/OFFする機能が必要となる。
【0033】
なお、位相制御手段314-1及び314-2については、上述した強度/位相調整手段310-1~310-Nが位相調整を行う場合と同様なので説明を省略する。
【0034】
先ず、図1(A)を参照して、Nが偶数の場合を説明する。このとき、光分岐部200は、入力導波路101を経て入力された光をN分岐して、それぞれ、第1~第Nのアーム導波路300-1~300-Nに送る。光結合部400は、第1~第Nのアーム導波路300-1~300-Nから延伸された第1~第Nのテーパ導波路410-1~410-N
と、マルチモード導波路420とを備えて構成される。マルチモード導波路420は、例えば、第N/2のテーパ導波路410-N/2と第N/2+1のテーパ導波路410-N/2+1の間に設けられる。テーパ導波路410-1~410-Nを伝送する光がマルチモード導波路420へと断熱的に遷移する。
【0035】
図1(A)に示す例では、Nが2であるので、光結合部400は、第1及び第2アーム導波路300-1及び300-2から延伸された第1及び第2のテーパ導波路410-1及び410-2と、マルチモード導波路420とを備えて構成される。マルチモード導波路420は、第1のテーパ導波路410-1と第2のテーパ導波路410-2の間に設けられる。
【0036】
次に、図1(B)を参照して、Nが奇数の場合を説明する。このとき、光分岐部201は、入力導波路101を経て入力された光をN分岐して、それぞれ、第1~第Nのアーム導波路300-1~300-Nに送る。光結合部401は、第1~第N-1のテーパ導波路410-1~410-(N-1)と、マルチモード導波路420を備えて構成される。第1~第(N-1)/2のテーパ導波路410-1~410-(N-1)/2は、第1~第(N-1)/2のアーム導波路300-1~300-(N-1)/2から延伸されて設けられている。第(N+1)/2~第(N-1)のテーパ導波路410-(N+1)/2~410-(N-1)は、第(N+1)/2+1~第Nのアーム導波路300-(N+1)/2+1~300-Nから延伸されて設けられている。マルチモード導波路420は、第(N+1)/2のアーム導波路300-(N+1)/2から延伸されて設けられている。
【0037】
図1(B)に示す例では、Nが3であるので、光結合部401は、第1及び第2のテーパ導波路410-1及び410-2と、マルチモード導波路420を備えて構成される。第1のテーパ導波路410-1は、第1のアーム導波路300-1から延伸されて設けられている。第2のテーパ導波路410-2は、第3のアーム導波路300-3から延伸されて設けられている。マルチモード導波路420は、第2のアーム導波路300-2から延伸されて設けられている。
【0038】
マルチモード導波路420は、少なくともM次(Mは1以上の整数)のモードを伝送できる。光結合部400では、各アーム導波路300-1~300-Nを伝送する光の強度及び位相の関係に応じて、光結合部400で励振されるモードが変化する。光の可逆性を利用すると、光結合部400のマルチモード導波路420側から各モードをアーム導波路300側へと伝送させたときの各アーム導波路300を伝送する光の強度および位相の関係が、マルチモード導波路420において所望のモードを励振するための条件となる。
【0039】
図4は、マルチモード導波路420側からアーム導波路300側へと伝送させたときの様子をBeam Propagation Method(BPM)シミュレーションで検証した結果を示す図である。
【0040】
図4(A)及び(B)は、アーム導波路本数Nが2であり、マルチモード導波路420では基本モードと1次モードが伝送可能であるとする。
【0041】
図4(A)及び(B)は、それぞれ、基本モード及び1次モードの光を光結合部のマルチモード導波路420側から、アーム導波路に向けて伝送させた場合を示している。ここで、図4(A)及び(B)の下側がマルチモード導波路420側であり、上側がアーム導波路側である。すなわち、図4(A)及び(B)では、図中、下から上に向けて光が伝送する。図4(A)及び(B)に示されるように、基本モードを選択する場合(図4(A))には、2本のアーム導波路300-1及び300-2を伝送する光の関係として等強度
であり、かつ、等位相であることが条件となる。一方、1次モードを選択する場合(図4(B))には、2本のアーム導波路300-1及び300-2を伝送する光の関係として等強度であり、かつ、位相がπずれていることが条件となることが分かる。
【0042】
図4(C)~(E)は、アーム導波路本数Nが3であり、マルチモード導波路420では、基本モード、1次モード及び2次モードが伝送可能であるとする。
【0043】
図4(C)~(E)は、それぞれ、基本モード、1次モード及び2次モードの光を光結合部のマルチモード導波路420側からアーム導波路300に向けて伝送させた場合を示している。図4(C)~(E)では、図4(A)及び(B)と同様に、図中、下から上に向けて光が伝送する。図4(C)~(E)に示されるように、基本モードを選択する場合(図4(C))には、中央の第2のアーム導波路300-2のみから光を入射し、1次モードを選択する場合(図4(D))には、中央以外の両脇の第1及び第3のアーム導波路300-1及び300-3から等強度かつ位相がπシフトしている光を入射し、2次モードを選択する場合(図4(E))には、中央以外の両脇の第1及び第3のアーム導波路300-1及び300-3から等強度かつ等位相の光を入射することが条件となることが分かる。
【0044】
各アーム導波路における強度/位相調整手段は、上述の通り、強度調整の場合にはマッハツェンダ干渉器を、位相調整の場合にはヒーターを用いた熱光学効果を利用して機能させることが出来る。
【0045】
例えば、図4(C)に示すように、基本モードを励振する場合、中央の第2のアーム導波路300-2のみから光合波部400に光を入力する必要がある。このため、両脇の第1及び第3のアーム導波路300-1及び300-3からの光をOFFすることで、基本モードを選択できる。
【0046】
一方、図4(D)及び(E)に示すように、1次モード又は2次モードを励振する場合には、両脇の第1及び第3のアーム導波路300-1及び300-3から光結合部400に光を入力する必要がある。このため、中央の第2アーム導波路300-2からの光をOFFすることで1次モード又は2次モードを選択できる。1次モードと2次モードの選択はさらに両脇の第1及び第3アーム導波路300-1及び300-3を伝送する光の位相によるため、ヒーターなどを用いて、第1及び第3のアーム導波路300-1及び300-3間の位相関係を0あるいはπに調整する。
【0047】
以上説明したように、この発明の第1実施形態の光デバイスはモードスイッチとして機能し、アーム導波路における強度、位相の関係を制御することにより、任意の次数のモードを励振することが可能となる。MDM伝送システム上では、このモードスイッチのマルチモード導波路420の後段は引き回し配線用のMMWGに接続される。
【0048】
(光スイッチ)
図5を参照して、この発明の光デバイスの他の実施形態として光スイッチを説明する。図5は、光スイッチを説明するための模式図である。図5(A)は、Nが2の場合の例であり、図5(B)はNが3の場合の例である。また、図5(A)及び(B)は、支持基板及びクラッドを省略し、光導波路コアのみを示す概略的平面図である。
【0049】
光スイッチは、上述のモードスイッチが備えるマルチモード導波路420の後段に、各モード次数に対応するモード変換器500-K(Kは1以上の整数)を備える。これにより、この光スイッチは、モード次数に応じて光の出力先を切り替えることが出来る。モード変換器500-Kとしては例えば、非対称方向性結合器などが採用される。
【0050】
モード変換器は、非対称方向性結合器として実現でき、直列に接続されて設けられる。モード変換器500-i(iは1以上M-1以下の整数)は互いに所定の間隔を空けて並列に配置された、マルチモード伝送可能なメイン導波路510-iとシングルモード伝送のサブ導波路520-iとで形成される。
【0051】
図5(A)に示す、Nが2の場合は、モード変換器500-1は、基本モードと1次モードとを切り離す。モード変換器500-1においてメイン導波路510-1を伝送する1次モードがサブ導波路520-1を伝送する基本モードに結合することが求められる。必要条件としては両者のモード等価屈折率が一致すればよい。この目的のため、メイン導波路510-1は伝送方向に沿って幅が縮小するようにテーパ構造になっており、一方、サブ導波路520-1はこれと対向するように伝送方向に沿って幅が拡大するようにテーパ構造になっている。
【0052】
なお、メイン導波路510-1を伝送する基本モードは、サブ導波路520-1を伝送するモードとは結合せずそのまま通過するため、基本モードと1次モードとで異なる経路に振り分ける光スイッチとしての動作が可能となる。
【0053】
図5(B)に示す、Nが3の場合は、モード変換器501-1は、基本モード及び1次モードと、2次モードとを切り離す。モード変換器501-1においてメイン導波路511-1を伝送する2次モードがサブ導波路520-1を伝送する基本モードに結合することが求められる。必要条件としては両者のモード等価屈折率が一致すればよい。
【0054】
また、モード変換器501-2は、基本モードと1次モードとを切り離す。モード変換器501-2においてメイン導波路511-2を伝送する1次モードがサブ導波路520-2を伝送する基本モードに結合することが求められる。必要条件としては両者のモード等価屈折率が一致すればよい。
【0055】
なお、メイン導波路511-2を伝送する基本モードは、サブ導波路520-2を伝送するモードとは結合せずそのまま通過する。このように、基本モード、1次モード及び2次モードとで、互いに異なる経路に振り分ける光スイッチとしての動作が可能となる。
【0056】
(設計例)
ここでは、光スイッチとしての設計例を説明する。なお、光スイッチはMDM伝送システムに限らず光通信ネットワークにおいて広く用いられる重要デバイスであり、モードスイッチとしての機能を含む。このため、以下に説明する設計指針はモードスイッチとしても適用可能である。
【0057】
光デバイスのプラットフォームとしてはシリコンフォトニクスの母材として採用されるSilicon on Insulator(SOI)基板を選択した。すなわち、図2に示す光導波路コア30はシリコンで、光導波路コア30の周囲のクラッド20はシリコン酸化膜(SiO)、支持基板10はシリコンで構成される。このようにコアをシリコン、クラッドをシリコン酸化膜とする光導波路は、コアとクラッドとの比屈折率差が40%に達し、光をコア内部に強く閉じ込めることができ、光デバイスのレイアウトを小さくすることが可能となる。一方で、比屈折率差の大きな導波路は、導波路を伝送する光の電界の振動方向が、幅方向に水平なTransverse Electric(TE)偏波か、厚み方向に水平なTransverse Magnetic(TM)偏波かで、光の伝送特性が大きく異なる。すなわち、いわゆる偏波依存性が大きくなりやすい。
【0058】
そこで、この出願に係る発明者は、シリコン導波路のような偏波依存性が大きな導波路
においても偏波に対して依存せずTE偏波とTM偏波とで同様の動作をするように光スイッチの偏波無依存設計を試みた。
【0059】
SOI基板のパラメータとしては、一般的に商用流通して入手が容易な、SOI層の厚みが220nm、かつ、Buried Oxide(BOX)層の厚み2~3μmのSOI基板に設定した。なお、BOX層の厚みは導波路の光閉じ込めが十分強ければ、BOX層への光の染み出しによる伝送損失が防げるため、2μm以上あれば十分である。
【0060】
動作検証のため、動作波長は1550nm、アーム導波路の本数Nを2、最大モード次数Mを1とした。モードスイッチを構成するのは、光分岐部200と、アーム導波路300-1及び300-2と、光結合部400である。光分岐部200として、光損失を低減するため、断熱遷移型の分岐デバイスを採用した。
【0061】
次に、第1及び第2のアーム導波路300-1及び300-2について説明する。N=2の場合、アーム導波路には強度制御手段は必要なく、ヒーター等による位相制御手段があればよい。基本的には第1のアーム導波路300-1と第2のアーム導波路300-2とは等長配線であり、モードスイッチは、広義には対称マッハツェンダ干渉器であると言える。
【0062】
ヒーターの熱制御による位相調整では、TE偏波とTM偏波とで温度特性が偏波無依存であることが求められる。より具体的に、温度変化に伴うアーム導波路の位相変化量を線形近似式で表すと以下の式(1)で表される。
【0063】
【数1】
【0064】
ここで、φはアーム導波路300-1及び300-2における位相、Tは温度、neffは伝送モードの等価屈折率、及び、Lは温度変化のおよぶ導波路長さを表している。温度変化による位相変化量Δφは、以下の式(2)で与えられる。
【0065】
【数2】
【0066】
位相変化量Δφが偏波無依存となるための条件は、温度に対する等価屈折率の変化量を意味する∂neff/∂T項が、TE偏波とTM偏波とで等しいことである。従って、∂neff/∂T項が、TE偏波とTM偏波とで等しくなるようにアーム導波路の寸法を設計する。そこで、アーム導波路の幅をパラメータとし、一定の温度変化量を与えたときの各モードの位相変化量との関係を求めた。
【0067】
図6は、アーム導波路の幅と、各モードの位相変化量の関係を示す図である。図6では、横軸に導波路幅(単位:μm)をとって示し、縦軸に位相変化量Δφ(単位:rad/200μm×10K)をとって示している。解析条件として、温度変化量ΔTを10K、
かつ、温度変化のおよぶ導波路長さLを200μmとした。図6において、TE0(I)はTE偏波の基本モード、TE1(II)はTE偏波の1次モード、及び、TM0(III)はTM偏波の基本モードをそれぞれ表わしている。
【0068】
図6より、導波路幅0.25μm付近で、TE0とTM0との交点を見出すことができ、この導波路幅がTE0とTM0との同一動作条件となる。しかしながら、このときの導波路断面サイズは幅×厚み=250×220nmと小さく、光の閉じ込めが弱いモードカットオフに近い寸法となり、損失が増大することが懸念される。他方、導波路幅が2μm付近ではTE0とTE1との交点を見出すことができる。この導波路幅はTE0とTE1との同一動作条件である。ここで偏波無依存動作のため、アーム導波路において一時的にTM0をTE1に変換することができればこの条件を適用することが可能となる。
【0069】
TM0をTE1に変換するための構造としてはリブ導波路が知られている(例えば、非特許文献3参照)。
【0070】
図7を参照して、リブ導波路を備えるアーム導波路を説明する。図7は、リブ導波路を備えるアーム導波路を説明するための模式図である。図7(A)は、支持基板及びクラッドを省略し、光導波路コアのみを示す概略的平面図である。図7(B)は、リブ導波路の概略的断面図である。
【0071】
図7(A)に示すように、各アーム導波路の途中の、強度/位相調整手段の前後に、リブ導波路601-1及び602-1並びに601-2及び602-2が設けられる。リブ導波路は、図7(B)に示すように、導波路コア32が膜厚の大きい中央部と、その両側に膜厚の小さいスラブを備えて構成される。リブ導波路は、TM偏波の基本モードとTE偏波の1次モードを相互変換する。従って、リブ導波路は、アーム導波路の300を伝送するTM0を一時的にTE1に変換し、2μm幅の導波路を適用することでTE0とTE1とで同一動作条件を得ることができる。
【0072】
光分岐部200から送られた光はTE0とTM0とを含み、各アーム導波路300-1と300-2を伝送し、アーム導波路の経路の途中に配置されたリブ導波路601-1と601-2により、TM0はTE1へと変換される。ヒーターが実装された位相制御部310―1及び310-2ではTE0とTE1がヒーターにより加熱され、温度変動によりTE0とTE1とは同一の位相変化量を受ける。さらにアーム導波路の経路に配置されたリブ導波路602-1及び602-2によりTE1はTM0へと再変換され、光結合部400で各アーム導波路を伝送したTE0又はTM0同士が合波される。
【0073】
なお、位相制御部310―1及び310-2は各アーム導波路にそれぞれ実装されるが、熱駆動するのは一方のアーム導波路の制御部だけでよい。第1及び第2のアーム導波路300-1及び300-2の位相差が、0あるいはπとなるように位相制御することで、後段の光結合部400で励振されるモードの次数を選択することが可能となる。
【0074】
次に光結合部400について説明する。光結合部400はアーム導波路300-1及び300-2から延伸されるテーパ導波路410-1と410-2およびそれらに挟まれたマルチモード導波路420とで構成される。テーパ導波路410-1と410-2とは光の伝送方向に沿って幅が縮小し、マルチモード導波路はそれに対向するように光の伝送方向に沿って幅が拡大する。光結合部では各々アーム導波路から送られたTE0とTM0がそれぞれテーパ導波路を介して断熱的にマルチモード導波路420へと遷移する。第1の実施形態で説明したように、マルチモード導波路ではアーム導波路から伝送される光の強度および位相の関係に応じて励振されるモードが変化する。
【0075】
マルチモード導波路420は最大モード次数Mを1として、基本モードと1次モードとが伝送可能とする。両脇の第1及び第2テーパ導波路410-1及び410-2を伝送する基本モードのTE偏波又はTM偏波(TE0又はTM0)が、マルチモード導波路420を伝送する基本モードあるいは1次モードへと結合するように設計する。基本モードは電界モード分布が幅方向に対称な偶モードであり、1次モードは電界モード分布が幅方向に反対称な奇モードである。光結合部400ではこの性質を利用し、第1及び第2テーパ導波路410-1及び410―2から送られる基本モードが同位相の場合、第1及び第2テーパ導波路410-1及び410―2を伝送する光から形成される電界モードの和分布は幅方向に対称分布となる。このため、マルチモード導波路420では偶モードである基本モードが励振され、反対称分布である1次モードとは直交し抑圧される。他方、第1及び第2テーパ導波路410-1及び410―2から送られる基本モードの位相がπずれた逆位相の場合、第1及び第2テーパ導波路410-1及び410―2を伝送する光から形成される電界モードの和分布は幅方向に反対称分布となるため、マルチモード導波路420では奇モードである1次モードが励振され、対称分布である基本モードとは直交し抑圧される。
【0076】
光結合部400における動作を検証するため3次元FDTD(Finite Differential Time Domain)法による導波シミュレーションをした。マルチモード導波路420は光の伝送方向に沿って導波路幅が0.1μmから0.85μmへ線形的に変化するテーパ構造とし、両脇の第1及び第2テーパ導波路410-1および410-2は、マルチモード導波路420と一定の間隔(ここでは0.57μm)を空け並列に配置し光の伝送方向に沿って導波路幅が0.44μmから0.1μmへと線形的に変化するテーパ構造とした。光結合部400の伝送方向長さは50μmである。
【0077】
図8は、FDTDによる光結合部の透過スペクトルを示す図である。図8(A)~(D)は、それぞれ、TE0を同位相で、TE0を逆位相で、TM0を同位相で、TM0を逆位相で、2本のテーパ導波路から、伝送させたときのマルチモード導波路420を伝送する各モードの透過スペクトルを示す。図8は横軸に、波長(単位:μm)をとって示し、縦軸に、透過率(単位:dB)をとって示している。
【0078】
図8(A)~(D)に示されるように、各入力条件に対し、同位相の場合には基本モードが、逆位相の場合には1次モードが、偏波状態に依らず得られることが確認できた。波長帯域は数百nmの範囲におよんで100dB近くのモード間アイソレーションが確保されている。
【0079】
これまでは最大モード次数Mを1として基本モードと1次モードを選択するための偏波無依存のモードスイッチの設計について説明したが、光スイッチとして使用するためのモード変換器について説明する。
【0080】
ここでは、基本モードと1次モードとを切り離すためのモード変換について説明する。メイン導波路510-1は伝送方向に沿って幅が縮小するようにテーパ構造になっており、一方、サブ導波路520-1はこれと対向するように伝送方向に沿って幅が拡大するようにテーパ構造になっている。メイン導波路は伝送方向に沿って導波路幅が0.75μmから0.44μmに線形的に縮小し、サブ導波路は伝送方向に沿って導波路幅が0.1μmから0.3μmへと線形的に拡大するようにし、メイン導波路とサブ導波路の配置間隔は0.775μmとした。モード変換器長となるテーパ長さは100μmである。
【0081】
このように設計することで、メイン導波路510-1を伝送する基本モードは、サブ導波路を伝送するモードとは結合せずそのまま通過するため、基本モードと1次モードとで異なる経路に振り分ける光スイッチとしての動作が可能となる。
【符号の説明】
【0082】
10 支持基板
20 クラッド
30、32 光導波路コア
101 入力導波路
200、201、311 光分岐部
210、410 テーパ導波路
220 逆テーパ導波路
300、312 アーム導波路
310 強度/位相調整手段
313、400、401 光結合部
314 位相制御手段
420 マルチモード導波路
500 モード変換器
510 メイン導波路
520 サブ導波路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9