(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023044980
(43)【公開日】2023-04-03
(54)【発明の名称】回転子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H02K 1/276 20220101AFI20230327BHJP
H02K 15/02 20060101ALI20230327BHJP
【FI】
H02K1/276
H02K15/02 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021153137
(22)【出願日】2021-09-21
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久田 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】鹿野 将
【テーマコード(参考)】
5H615
5H622
【Fターム(参考)】
5H615AA01
5H615BB07
5H615BB14
5H615PP02
5H615RR03
5H615RR09
5H615SS05
5H615SS09
5H615SS18
5H615TT27
5H615TT34
5H622CA02
5H622CA05
5H622CA10
5H622CA14
5H622CB03
5H622CB05
5H622PP04
5H622PP19
(57)【要約】
【課題】生産性の向上を図ることができる回転子及び回転子の製造方法を提供する。
【解決手段】実施形態によれば、回転子は、回転子鉄心44と、回転子鉄心の磁石埋め込み孔52に配置された永久磁石Mと、磁石埋め込み孔の外側面54bと永久磁石の第2主面S2との間に配置され、外側面に当接する第1面SA1と永久磁石の第2主面に当接する第2面SA2とを有する接着剤層ADと、補強繊維により形成され、接着剤層に埋め込まれ第1面よりも第2面の側に配置され、複数個所が永久磁石の第2主面に接触している布FCと、を具備している。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数枚の磁性鋼板を軸方向に積層して構成され、周方向に間隔を置いて設けられた複数の磁石埋め込み孔を有し、前記磁石埋め込み孔の各々は、内側面および前記内側面に対して外周側に位置し前記内側面と隙間を置いて対向する外側面を有する磁石装填領域と、前記磁石装填領域の一端に連通した第1空隙と、前記磁石装填領域の他端に連通した第2空隙と、を含んでいる回転子鉄心と、
前記磁石装填領域に配置され、前記内側面に対向する第1主面と前記外側面に対向する第2主面とを有する永久磁石と、
前記永久磁石の前記第2主面と前記磁石装填領域の前記外側面との間に配置され、前記外側面に当接する第1面と前記永久磁石の前記第2主面に当接する第2面とを有する接着剤層と、
補強繊維により形成され、前記接着剤層に埋め込まれて前記第1面よりも前記第2面の側に配置され、複数個所が前記永久磁石の前記第2主面に接触している布と、
を備える回転電機の回転子。
【請求項2】
前記布は、それぞれ前記補強繊維からなる多数本の糸により織られた織物であり、前記磁石装填領域内で前記軸方向に延びる多数本の糸を含んでいる請求項1に記載の回転電機の回転子。
【請求項3】
前記布は複数の開口を有し、前記布の全面の面積に対する前記開口の面積の比率は、5~50%に形成されている請求項2に記載の回転電機の回転子。
【請求項4】
前記接着剤層の膜厚は、25~100μmに形成されている請求項1に記載の回転電機の回転子。
【請求項5】
前記補強繊維は、ガラス繊維、炭素繊維、ボロン、アラミド、ケブラーのいずれかである請求項1から4のいずれか1項に記載の回転電機の回転子。
【請求項6】
前記接着剤層は、エポキシ系樹脂接着剤で形成されている請求項1から5のいずれか1項に記載の回転電機の回転子。
【請求項7】
前記磁石埋め込み孔の前記第1空隙および第2空隙は、固体材料が配置されず、空洞状態にある請求項1から6のいずれか1項に記載の回転電機の回転子。
【請求項8】
複数枚の磁性鋼板を軸方向に積層し、複数の磁石埋め込み孔を有する回転子鉄心を形成し、
第1面および反対側の第2面を有する半硬化状態の接着剤層と、補強繊維により形成され、前記接着剤層に埋め込まれて前記第1面よりも前記第2面の側に配置され、複数個所が前記第2面に露出した所定の開口率を有する布と、を具備する接着シートを用意し、
前記第1面が前記磁石埋め込み孔の外側面に当接するように、前記接着シートを前記磁石埋め込み孔の内で前記外側面の上に敷設し、
永久磁石を、前記接着シートの前記第2面の上を滑らしつつ、前記磁石埋め込み孔に前記軸方向に沿って挿入し、
前記接着剤層を硬化させる
回転子の製造方法。
【請求項9】
前記布は、それぞれ前記補強繊維からなる多数本の糸を含み、
前記多数本の糸が前記軸方向に延びる向きで、前記接着シートを前記外側面上に敷設する請求項8に記載の回転子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、回転子及び回転子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、永久磁石の目覚しい研究開発により、高磁気エネルギ積の永久磁石が開発され、このような永久磁石を用いた永久磁石型の回転電機が電車や自動車の電動機あるいは発電機として適用されつつある。通常、永久磁石型の回転電機は、円筒状の固定子と、この固定子の内側に回転自在に支持された円柱形状の回転子と、を備えている。回転子は、回転子鉄心と、この回転子鉄心内に埋め込まれた複数の永久磁石と、を備えている。
このような中、回転子鉄心内に複数の永久磁石を埋め込み固定する技術が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-58185号公報
【特許文献2】特開2015-104273号公報
【特許文献3】特開2014-54061号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本実施形態の課題は、生産性の向上を図ることができる回転子及び回転子の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一実施形態に係る回転子は、複数枚の磁性鋼板を軸方向に積層して構成され、周方向に間隔を置いて設けられた複数の磁石埋め込み孔を有し、前記磁石埋め込み孔の各々は、内側面および前記内側面に対して外周側に位置し前記内側面と隙間を置いて対向する外側面を有する磁石装填領域と、前記磁石装填領域の一端に連通した第1空隙と、前記磁石装填領域の他端に連通した第2空隙と、を含んでいる回転子鉄心と、前記磁石装填領域に配置され、前記内側面に対向する第1主面と前記外側面に対向する第2主面とを有する永久磁石と、前記永久磁石の前記第2主面と前記磁石装填領域の前記外側面との間に配置され、前記外側面に当接する第1面と前記前記永久磁石の前記第2主面に当接する第2面とを有する接着剤層と、補強繊維により形成され、前記接着剤層に埋め込まれて前記第1面よりも前記第2面の側に配置され、前記補強繊維の複数個所が前記永久磁石の前記第2主面に接触している布と、を備えている。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】
図1は、実施形態に係る回転電機の縦断面図。
【
図2】
図2は、本実施形態に係る回転電機の横断面図。
【
図3】
図3は、前記回転電機の回転子の一部を拡大して示す断面図。
【
図4】
図4は、前記回転子の一部を拡大して示す断面図。
【
図5】
図5は、前記回転子における布状繊維を拡大して示す平面図。
【
図6】
図6は、前記回転子の回転子鉄心、接着シート、および永久磁石の一部を拡大して示す断面図。
【
図7】
図7は、前記回転子において、永久磁石及び接着シートを回転子鉄心側からみた平面図であり、小さな複数のボイドが均一に分散している状態を示す図。
【
図9】
図9は、前記回転氏の製造方法において、回転子鉄心、接着シート、および挿入過程の永久磁石を示す断面図。
【
図10】
図10は、変形例に係る回転電機の回転子の一部を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、開示はあくまで一例にすぎず、当業者において、発明の主旨を保っての適宜変更について容易に想到し得るものについては、当然に本発明の範囲に含有されるものである。また、図面は説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。また、本明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には、同一の符号を付して、詳細な説明を適宜省略することがある。
【0008】
(実施形態)
図1は、実施形態に係る回転電機の縦断面図であり、中心軸線C1を中心として片側の半分だけを示している。
図2は、回転電機の横断面図である。
図1に示すように、回転電機10は、永久磁石型の回転電機として構成されている。回転電機10は、例えば、ハイブリッド自動車(HEV)や電気自動車(EV)において、駆動モータあるいは発電機に好適に適用される。
回転電機10は、環状あるいは円筒状の固定子12と、固定子12の内側に中心軸線C1の回りで回転自在に、かつ固定子12と同軸的に支持された回転子14と、これら固定子12および回転子14を支持するケーシング30と、を備えている。
以下の説明では、中心軸線C1の延在方向を軸方向、中心軸線C1回りに回転する方向を周方向、軸方向および周方向に直交する方向を径方向と称する。
【0009】
図1および
図2に示すように、固定子12は、円筒状の固定子鉄心16と固定子鉄心16に巻き付けられた固定子巻線(コイル)18とを備えている。固定子鉄心16は、磁性材、例えば、ケイ素鋼などの円環状の電磁鋼板17を多数枚、同芯状に積層して構成されている。多数枚の電磁鋼板17は、固定子鉄心16の外周面の複数個所を溶接することにより、互いに積層状態に連結されている。固定子鉄心16は、中心軸線C1と同軸的に位置する内周面、軸方向の一端に位置する第1端面16a、および軸方向の他端に位置する第2端面16bを有している。第1端面16aおよび第2端面16bは、中心軸線C1と直交して延在している。
【0010】
固定子鉄心16は、円環状のヨーク22と、ヨーク22の内周からそれぞれ中心軸線C1に向かって径方向に延出し円周方向に等間隔を置いて並んだ複数のティース21とを一体に有している。周方向に隣り合う一対のティース21の間の隙間により、径方向に延びるスロット20が形成されている。複数のスロット20は、周方向に等間隔を置いて並んでいる。各スロット20は、固定子鉄心16の内周面側から放射方向(固定子鉄心16の中心軸線に対する径方向の外側)に延出している。各スロット20は、固定子鉄心16の軸方向の全長に亘って延在している。各スロット20の軸方向の一端は第1端面16aに開口し、軸方向の他端は第2端面16bに開口している。
【0011】
複数のスロット20にコイル18が挿通され、各ティース21に巻き付けられている。コイル18は、固定子鉄心16の第1端面16aおよび第2端面16bから軸方向外側に向かって延出するコイルエンド18a、18bを有するように設けられている。コイル18に交流電流を流すことにより、固定子鉄心16(ティース21)に所定の鎖交磁束が形成される。
【0012】
図1に示すように、固定子鉄心16の軸方向両端には鉄心押え26が設けられている。ケーシング30は、ほぼ円筒状の第1ブラケット32aと、お椀形状の第2ブラケット32bと、を有している。第1および第2ブラケット32a、32bは、例えば、アルミニウム合金等で形成されている。第1ブラケット32aは、固定子鉄心16の駆動端側に位置する鉄心押え26に連結されている。第1ブラケット32aの先端側に、環状のベアリングブラケット34がボルトにて同軸的に締結されている。ベアリングブラケット34の中央部に、第1軸受35として、例えば、ころ軸受を内蔵した第1軸受ハウジング36が締結されている。
第2ブラケット32bは、反駆動端側に位置する鉄心押え26に連結されている。第2ブラケット32bの中央部に、第2軸受37として、例えば、玉軸受を内蔵した第2軸受ハウジング38が締結されている。
【0013】
一方、回転子14は、円柱形状のシャフト(回転シャフト)42と、シャフト42の軸方向ほぼ中央部に固定された円筒形状の回転子鉄心44と、回転子鉄心44内に埋め込まれた複数の永久磁石Mと、を有している。シャフト42は、軸方向の両端部が第1軸受35および第2軸受37により支持され、中心軸線C1の回りで回転自在に支持されている。回転子鉄心44は、磁性鋼板、例えば、ケイ素鋼などの円環状の電磁鋼板47を多数枚、同芯状に積層した積層鉄心として構成されている。電磁鋼板47の積層方向は軸方向に一致している。回転子鉄心44は中心軸線C1と同軸的に形成された内孔48を有している。シャフト42は内孔48に挿通および嵌合され、回転子鉄心44と同軸的に延在している。回転子鉄心44の軸方向の両端に、略円板状の端板54および鉄心押え56が設けられ、回転子鉄心44を軸方向の両側から押さえている。
【0014】
図1および
図2に示すように、回転子鉄心44は、固定子鉄心16の内側に同軸的に配置され、回転子鉄心44の外周面は固定子鉄心16の内周面(ティース21の先端面)に僅かな隙間(エアギャップ)を置いて対向している。
回転子鉄心44には、回転子鉄心44を軸方向に貫通する複数の磁石埋め込み孔52および複数の空隙孔57が形成されている。各磁石埋め込み孔52内に、永久磁石Mが装填および配置され、例えば、接着シート等により回転子鉄心44に固定されている。各永久磁石Mは、回転子鉄心44の軸方向の全長に亘って延在している。複数の永久磁石Mは、回転子鉄心44の周方向に所定の間隔を置いて配列されている。
【0015】
図3は、回転子の一部を拡大して示す断面図である。
図2および
図3に示すように、本実施形態において、回転子14は、複数磁極、例えば、8磁極に設定されている。回転子鉄心44において、中心軸線C1に対して径方向あるいは放射方向に各磁極の中心を通って延びる軸をd軸、およびd軸に対して電気的、磁気的に90°離間した軸をq軸と称する。ここでは、固定子12によって形成される鎖交磁束の流れ易い方向をq軸と称する。d軸およびq軸は、回転子鉄心44の円周方向に交互に、かつ、所定の位相で設けられている。
【0016】
回転子鉄心44には、1磁極ごとに、2つの永久磁石Mが埋設されている。回転子鉄心44の円周方向において、各d軸の両側に2つの磁石埋め込み孔(以下、埋め込み孔と称する場合がある)52が形成され、これらの埋め込み孔52に永久磁石Mがそれぞれ配置されている。
空隙孔57は、それぞれ中心軸線C1に平行な方向に延在し、回転子鉄心44を貫通している。空隙孔57は、それぞれq軸の上に設けられ、回転子鉄心44の径方向のほぼ中央に位置し、磁石埋め込み孔52と間隔を置いて対向している。空隙孔57は、多角形、例えば、三角形の断面形状を有している。
【0017】
各埋め込み孔52は、回転子鉄心44を軸方向に貫通して延びている。埋め込み孔52は、ほぼ矩形の断面形状を有し、それぞれd軸に対して傾斜している。中心軸線C1と直交する断面でみた場合、2つの埋め込み孔52は、例えば、ほぼV字状に並んで配置されている。すなわち、2つの埋め込み孔52の内周側の端はそれぞれd軸に隣接し、僅かな隙間をおいて互いに対向している。回転子鉄心44において、2つの埋め込み孔52の内周側端の間に、幅の狭い磁路狭隘部(ブリッジ部)B1が形成されている。2つの埋め込み孔52の外周側の端は、回転子鉄心44の円周方向に沿ってd軸から離間し、回転子鉄心44の外周面の近傍およびq軸の近傍に位置している。これにより、埋め込み孔52の外周側の端は、隣合う磁極の埋め込み孔52の外周側端と、q軸を挟んで対向している。各埋め込み孔52の外周側端と回転子鉄心44の外周縁との間に幅の狭い磁路狭隘部(ブリッジ部)B2が形成されている。このように、2つの埋め込み孔52は、内周側端から外周側端に向かうに従って、d軸からの距離が徐々に広がるように配置されている。
【0018】
永久磁石Mは、中心軸線C1と直交する断面形状が矩形状の細長い平板状に形成され、回転子鉄心44の軸方向長さとほぼ等しい長さを有している。各永久磁石Mは回転子鉄心44のほぼ全長に亘って埋め込まれている。永久磁石Mは、軸方向(長手方向)もしくは周方向(幅方向)に複数に分割された磁石を組み合わせて構成されてもよく、この場合、複数の磁石の合計の長さが回転子鉄心44の軸方向長さとほぼ等しくなうように形成される。永久磁石Mは、互い平行に対向する第1主面(裏面)S1および第2主面(表面)S2、並びに、互いに平行に対向する一対の側面を有している。永久磁石Mの磁化方向は、第1主面S1および第2主面S2と直交する方向としている。
【0019】
各d軸の両側に位置する2つの永久磁石Mは、ほぼV字状に並んで配置されている。すなわち、2つの永久磁石Mは、内周側端から外周側端に向かうに従って、d軸からの距離が徐々に広がるように、d軸に対し傾斜して配置されている。各d軸の両側に位置する2つの永久磁石Mは、回転子鉄心44の径方向において磁化方向が同一向きとなるように配置され、また、q軸の両側に位置する2つの永久磁石Mは、磁化方向が逆向きとなるように配置されている。
複数の永久磁石Mを上記のように配置することにより、回転子鉄心44の外周部において各d軸上の領域は1つの磁極を中心に形成している。本実施形態では、回転電機10は、隣接する1磁極毎に永久磁石MのN極とS極の表裏を交互に配置した、8磁極、48スロットで、単層分布巻で巻線した永久磁石型の回転電機を構成している。
【0020】
図4は、1つの埋め込み孔および永久磁石を拡大して示す断面図である。
図3および
図4に示すように、埋め込み孔52は、2つの空隙(内周側空隙(第1空隙)52bおよび外周側空隙(第2空隙)52c)と、2つの空隙52b、52cの間に位置した磁石装填領域52aと、を有している。磁石装填領域52aは、永久磁石Mの断面形状に対応した矩形状に形成されている。空隙52bは、装填領域52aの長手方向の一端からd軸の側に膨出し、空隙52cは、磁石装填領域52aの長手方向の他端から外周面の側に膨出している。回転子鉄心44は、装填領域52aの長手方向の両端において、埋め込み孔52内に突出した一対の係止凸部52dを有している。
【0021】
各埋め込み孔52は、平坦な矩形状の内側面54aと、この内側面54aに対して径方向の外周側に位置し内側面54aと平行に対向する平坦な矩形状の外側面54bと、を有している。内側面54aおよび外側面54bは、d軸に対し、上述したように傾斜している。これらの内側面54aと外側面54bとの間に磁石装填領域52aが形成されている。
内周側空隙52bは、装填領域52aのd軸側の端から、d軸の側および中心軸線C1の側に膨出している。2つの埋め込み孔52の内周側空隙52bは、d軸およびブリッジ部B1を挟んで互いに隣接、対向して配置されている。
外周側空隙52cは、磁石装填領域52aの外周側の端から回転子鉄心44の外周面44bの近傍まで膨出している。外周側空隙52cと外周面44bとの間に、鉄心からなるブリッジ部B2が規定されている。
【0022】
永久磁石Mは、埋め込み孔52の磁石装填領域52aに装填され、第1主面S1が内側面54aに対向し、第2主面S2が外側面54bに対向している。永久磁石Mは、一対の角部が係止凸部52dにそれぞれ当接している。更に、永久磁石Mは、第2主面S2と磁石装填領域52aの外側面54bとの間に配置された接着シートPPにより、回転子鉄心44に接着固定されている。接着シートPPは、外側面54bのほぼ全面に亘って敷設されている。これにより、永久磁石26は、装填領域52a内に位置決め、保持されている。各d軸の両側に位置する2つの永久磁石26は、内周側端から外周側端に向かうに従って、d軸からの距離が徐々に広がるように配置されている。
【0023】
本実施形態において、永久磁石Mの第1主面S1と磁石装填領域52aと内側面54aとの間には接着シートが配置されていない。また、埋め込み孔52の内周側空隙52bおよび外周側空隙52cのいずれにも合成樹脂等の固体材料は充填および挿入されておらず、空洞の状態に維持されている。そのため、内周側空隙52bおよび外周側空隙52cに、永久磁石Mを冷却するための冷媒、例えば、冷却空気、冷却油等を流通可能としている。内周側空隙52bおよび外周側空隙52cは、永久磁石Mの長手方向両端部から回転子鉄心44への磁束漏れを抑制するフラックスバリアとして機能するとともに、回転子鉄心44の軽量化にも寄与する。
【0024】
次に、接着シートPPについて、詳細に説明する。
接着シートPPとして、本実施形態では、いわゆるプリプレグシートを用いている。
図4に示すように、接着シートPPは、例えば、エポキシ系樹脂接着剤で形成され、第1面(第1接着面)SA1および反対側の第2面(第2当接面)SA2を有するシート状の接着剤層ADと、接着剤層ADに埋め込まれた布FCと、を含んでいる。布FCは、ガラス繊維、炭素繊維等の補強繊維で形成された多数本の糸(繊維の束)により布状に織られている。なお、布FCは織物に限らず、不織布を含んでいてもよい。熱硬化前の状態、すなわち、回転子の組み立て前の状態、において、接着剤層ADは、半硬化状態にある。布FCは、接着剤層ADの内において、第1面SA1よりも第2面SA2の側に隣接して位置し、複数個所が第2面SA2に露出している。一例では、後述する軸方向に延びる各縦糸の複数個所が第2面SA2に露出している。
接着シートPPは、磁石装填領域52aの外側面54bに重ねて、外側面54bのほぼ全面に亘って敷設されている。この際、接着剤層ADの第1面SA1が外側面54b、すなわち、回転子鉄心44に接するように敷設されている。接着剤層ADの第2面SA2が永久磁石Mの第2主面S2に貼付されている。布FCの複数個所は永久磁石Mの第2主面S2に接触している。このようにして、接着シートPPは、永久磁石Mの第2主面S2と埋め込み孔52の外側面(鉄心)54bとの間に配置され、接着剤層ADを熱硬化することにより、永久磁石Mの第2主面S2および埋め込み孔52の外側面54bに貼付されている。永久磁石Mは接着シートPPにより回転子鉄心44に接着固定される。
【0025】
図5は、接着シートPPの布FCを模式的に示す平面図である。図示のように、布FCは、繊維状補強材、例えば、ガラス繊維の束からなる多数本のたて糸W1とよこ糸W2とが1本ずつ交互に交わって格子状に織られた平織の織物としている。繊維状補強材は、ガラス繊維に限らず、炭素、ボロン、アラミド、ケブラー等の繊維を用いることができる。繊維は、コストや線膨張率が鉄に近い事からガラス繊維が適している。布FCは、平織に限らず、綾織等の他の織り方で形成された織物でもよい。また、布FCは、織物に限らず、不織布を用いることも可能である。
接着シートPPは、少なくとも繊維の一方向が、ここでは、たて糸W1が、回転子鉄心44の中心軸線C1と平行な方向、すなわち、電磁鋼板の積層方向(軸方向)に延在するように、配置される。これにより、接着シートPPの前記積層方向(軸方向)の強度が向上し、永久磁石Mを装填領域52aに装填する際、接着シートPP(接着剤層AD)の破れを防止することができる。
【0026】
図6は、接着シートおよび回転子鉄心の一部を拡大して示す断面図である。
図5および
図6に示すように、布FCにおいて、回転子鉄心44の積層方向(軸方向)Xの糸の間隔、すなわち、よこ糸W2の間隔d1は、回転子鉄心44を構成する電磁鋼板47の板厚T1とほぼ等しく設定されている(d1=T1)。電磁鋼板47の板厚T1は、数mmであり、一例では、T1=2.5mmとしている。
間隔d1と板厚T1とをほぼ同一とすることで、永久磁石Mから接着シートPPを介して電磁鋼板47に加わる荷重を全ての電磁鋼板47に対して均一に分散させる効果が最大となる。なお、ほぼ同一とは、完全に同一の場合、および±0.5mm程度の誤差がある場合を含んでいる。
【0027】
接着シートPPの膜厚T2は、25~100μmの範囲に形成している。永久磁石Mと回転子鉄心44との隙間がモータ特性に及ぼす悪影響、および、永久磁石M及び埋め込み孔52(回転子鉄心44)の加工精度等を考慮すると、接着シートPPの膜厚T2は100μm以下が好適である。ガラス繊維により適度な接着剤層ADの厚さが確保され、回転子鉄心44と永久磁石Mとの線膨張差により生じる熱応力を接着シートPPにより吸収することが可能である。
【0028】
図6に示すように、回転子鉄心44において、埋め込み孔52の外側面54bは、電磁鋼板47の製造誤差、積層誤差等により、完全な平坦ではなく、凹凸を有する凹凸面となる場合がある。積層方向Xと直交する膜厚T2の方向において、外側面54bを構成する電磁鋼板47の最大のギャップ(差分)をgとすると、一例では、ギャップgは0.161mm程度となる。このような凹凸がある場合、永久磁石Mに働く遠心力は、複数の電磁鋼板47のうち、永久磁石Mに最も近接した凸の電磁鋼板47に集中し易い。
しかしながら、本実施形態によれば、永久磁石Mと外側面54bとの間に配置された接着シートPPにより電磁鋼板47に加わる荷重を全ての電磁鋼板47に対して均一に分散させ、応力集中を防止することができる。すなわち、エポキシ系の接着剤層ADと布(布状繊維)FCとを組わせて形成される接着シートPPにおいて、接着剤層ADは、半導体封止用樹脂並みの弾性率、例えば、413.8Mp程度の弾性率を有している。接着シートPPにおいて、布FCは、接着剤層ADの第2面SA2の側、すなわち、永久磁石Mの側に隣接して存在し、第1面SA1の側、すなわち、回転子鉄心44の側には、接着剤層ADのみが存在している。布FCによりエポキシ系接着剤の偏在を抑制することができる。弾性率の高い接着剤層ADが回転子鉄心44の外側面54bに当接、接着され、永久磁石Mから作用する荷重を均一に分散することができる。これにより、一部の電磁鋼板47に応力が集中し、一部の電磁鋼板47が破損する事態を抑制することができる。
【0029】
図7は、接着シートPPにボイドが発生した状態を模式的に示す平面図である。
回転子鉄心44の外側面54bと永久磁石Mとの隙間にばらつきがある場合、特に、永久磁石Mと外側面54bとの隙間が接着シートの膜厚よりも大きい場合、接着シートにボイド(気孔)が発生し、永久磁石から回転子鉄心(電磁鋼板47)に加わる遠心力が不均一になる場合がある。
接着剤層ADにガラス繊維の布FCを埋め込んで形成された接着シートPPの場合、ガラス繊維の周辺に接着剤が凝集するため、
図7に示すように、小さなボイドV1がシートの全面に均質に分散した構造となる。そのため、接着シートPPは、ボイドV1が発生した場合でも、永久磁石Mからの遠心力を回転子鉄心44の外側面54bの全面に均一に分散し、特定の電磁鋼板への応力集中を防止する。
【0030】
上記のような均質なボイドV1を発生させるためには、布FCの開口(横糸とたて糸で囲まれた開口、織物に存在する目開き部分、バスケットホールと称する場合もある)を適切に設定することが望ましい。
図5に示した布FCにおいて、たて糸W1とよこ糸W2とで囲まれた矩形状の空間を開口(バスケットホール)BHとした場合、布FC全体に占める開口BHの面積の割合(開口率あるいはバスケットホール面積比率)が5~50%程度であると好適である。
開口面積比率が小さいと、接着シートPPに発生するボイドが不均質となり易い。逆に、開口面積比率が大きすぎると、前述したよこ糸W2間の間隔d1を小さくすることが困難となってしまう。そのため、開口率(バスケットホール面積比率)を5~50%程度に設定することにより、小さなボイドV1を接着シートPPのほぼ全面に均一に分散させることができる。
【0031】
以上のように構成された本実施形態に係る回転電機によれば、上述した構成の接着シートPPにより永久磁石Mを回転子鉄心44に容易にかつ確実に接着固定することができる。永久磁石Mから回転子鉄心に作用する遠心力を接着シートPPにより均一化し、回転子鉄心の特定箇所への応力集中を防止することができる。また、接着シートは、永久磁石Mと外側面との間にのみ設けられていればよく、接着剤の使用量を低減し、製造コストの低減を図ることが可能となる。磁石埋め込み孔(フラックスバリア)52の内周側空隙52bおよび外周側空隙52cを空洞状態に維持することにより、回転子鉄心の軽量化を図ることができるとともに、内周側空隙および外周側空隙に冷媒を流通させることが可能となる。
【0032】
次に、回転子14の製造方法について説明する。
図8は、貼り付け前の接着シート(プリプレグシート)を模式的に示す断面図、
図9は、回転子鉄心の埋め込み孔に接着シートを敷設し、永久磁石を挿入する状態を概略的に示す断面図である。
製造方法においては、始めに、多数枚の電磁鋼板47を積層方向Xに積層して回転子鉄心44を構成する。複数枚の接着シート(プリプレグシート)PPを用意する。
図8に示すように、貼り付け前の状態において、接着シートPPは、いわゆるBステージの状態にあり、エポキシ系接着剤層ADは半硬化状態となっている。エポキシ系接着剤で形成された、接着シートPPの第1面SA1に樹脂フィルム60が貼付されている。前述したように、布FCは、接着剤層の第2面SA2の側に位置し、少なくとも複数個所で第2面SA2に露出している。また、ガラス繊維の一部(たて糸)は、接着シートPPの長手方向(積層方向X)に延在している。
【0033】
次いで、各々の接着シートPPから樹脂フィルム60を剥離した後、
図9に示すように、接着シートPPを埋め込み孔52の磁石装填領域52aに敷設する。この際、接着シートPPの長手方向が積層方向Xと一致した状態で、かつ、第1面SA1が磁石装填領域52aの外側面54b(回転子鉄心44)に対向する向きで、回転子鉄心44の一端面44aの側から磁石装填領域52aに接着シートPPを挿入する。粘着力を有する接着剤層ADの第1面SA1を装填領域52aの外側面54bに張り付ける。また、接着シートPPは長手方向の一端部PPeが回転子鉄心44の外に位置するように配置される。この一端部PPeは、磁石埋め込み孔52と反対の方向に折り曲げられ、回転子鉄心44の一端面44aに貼付される。なお、回転子鉄心44の一端面44aは、後述するように、永久磁石Mを挿入する際の入り口側の端面となる。
【0034】
続いて、接着シートPPの第2面SA2上を滑らせつつ、一端面44aの側から積層方向Xに沿って永久磁石Mを磁石装填領域52aに挿入する。永久磁石Mの全体が磁石装填領域52a内に位置するまで、永久磁石Mを磁石装填領域52aに押し込む。これにより、永久磁石Mの第1主面S1の全面を装填領域52aの内側面54aに対向させ、第2主面S2の全面を接着シートPPの第2面SA2に対向させる。
上記永久磁石Mの挿入工程において、接着シートPPの第2面SA2の複数個所に布FCが露出しているため、第2面SA2と永久磁石Mとの間の摩擦が小さい。同時に、布FCは、たて糸が積層方向(挿入方向、軸方向)Xに延在するように埋め込まれているため、接着シートPPは挿入方向に十分な引っ張り強度を有している。これにより、永久磁石Mを比較的容易に装填領域52aに挿入、配置することができるとともに、挿入時の摩擦抵抗により接着シートPPが破れることがない。更に、本実施形態では、接着シートPPの一端部PPeを折り曲げて回転子鉄心44の一端面44aに貼付していることから、永久磁石Mを磁石装填領域52aに装填する際、接着シートPPの押し出されを防止又は抑制することができる。
【0035】
永久磁石Mを磁石装填領域52aに装填した後、接着シートPPのエポキシ系接着剤層ADを硬化(本硬化)させる。一例では、接着シートPPを150℃で0.5時間程度、加熱することにより、接着剤層ADを硬化させている。エポキシ系接着剤が硬化した接着シートPPは、いわゆるCステージの状態にあり、硬化したエポキシ系接着剤層ADにより、永久磁石Mが磁石装填領域52aの外側面54b、すなわち、回転子鉄心44に接着固定される。前述したように、磁石埋め込み孔52の内周側空隙および外周側空隙には、固体材料が装填あるいは配置されず、空洞状態に保持されてる。
永久磁石Mを接着した後、接着シートPPの一端部PPeは回転子鉄心44の一端面44aに接着されたままでもよいし、あるいは、切除されてもよい。
以上により、回転電機の回転子が製造される。
【0036】
上記のように構成された実施形態に係る固定子および回転子の製造方法によれば、接着剤を塗布する代わりに接着シートPPを用いることにより、永久磁石Mを回転子鉄心44に容易にかつ確実に接着固定することができる。永久磁石Mから回転子鉄心に作用する遠心力を接着シートPPにより均一化し、回転子鉄心の特定箇所への応力集中を防止することができる。これにより、固定子鉄心の損傷等を防止し、信頼性の向上を図ることが可能となる。
【0037】
永久磁石Mを回転子鉄心44の磁石装填領域52aに装填する際、接着シートPPを外側面54bに粘着させている。そのため、外側面54bに接着剤を塗布する必要がなく、生産性の向上を図ることができる。接着シートPPの第2面SA2の複数個所に布FCが露出しているため、第2面SA2と永久磁石Mとの間の摩擦を低減することができる。同時に、布FCは、たて糸が積層方向(挿入方向、軸方向)Xに延在するように設置されているため、接着シートPPは挿入方向に十分な引っ張り強度を有している。これにより、製造工程において、永久磁石Mを比較的容易に磁石装填領域52aに挿入、配置することができるとともに、挿入時の摩擦抵抗により接着シートPPが破れることがない。上記のことから、回転子の生産性および製造歩留まりが向上した製造方法を提供することができる。
【0038】
本発明の一実施形態を説明したが、上記実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。上記の新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。上記の実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
例えば、回転子の磁極数、寸法、形状等は、上述した実施形態に限定されることなく、設計に応じて種々変更可能である。フラックスバリアを構成する内周側空隙、外周側空隙、および空隙孔の断面形状は、実施形態の形状に限定されることなく、種々の形状を選択可能である。各磁極において、永久磁石の数は、一対に限らず、3個以上としてもよい。あるいは、各磁極に単層の永久磁石を設ける構成としてもよい。
【0039】
図10は、変形例に係る回転電機の回転子の一部を拡大して示す断面図である。本変形例によれば、回転子14の各磁極は、単一の永久磁石Mを有している。
図示のように、回転子鉄心44の円周方向において、各d軸と交差する位置に、永久磁石Mの形状に対応した形状の磁石埋め込み孔(埋め込み孔と称する場合がある)52が形成されている。永久磁石Mは、埋め込み孔52内に装填および配置され、接着シートPPにより回転子鉄心44に固定されている。
【0040】
埋め込み孔52は、回転子鉄心44を軸方向に貫通して延びている。埋め込み孔52は、ほぼ矩形の断面形状を有し、d軸とほぼ直交して位置し、d軸に対して左右線対称に形成されている。より詳細に述べると、フラックスバリアとして機能する埋め込み孔52は、永久磁石Mの断面形状に対応した矩形状の磁石装填領域52aと、磁石装填領域52aの長手方向の両端から膨出する一対の端空隙(第1空隙、第2空隙)53と、を有している。また、回転子鉄心44は、埋め込み孔52内に突出し永久磁石Mに係合する保持突起を有していてもよいが、本変形例では、保持突起を省略している。
【0041】
磁石装填領域52aは、平坦な矩形状の内側面54aと、この内側面54aに対して径方向の外周側に位置し間隔を置いて平行に対向する平坦な外側面54bと、の間に規定されている。内側面54aおよび外側面54bは、d軸と直交している。磁石装填領域52aは、内側面54aおよび外側面54bの長手方向中央がd軸と交差する位置に設けられている。
一対の端空隙53は、磁石装填領域52aの長手方向の両端からd軸と直交する方向に延出している。端空隙53は、回転子鉄心44の外周面に向かって延出している。各端空隙53と回転子鉄心44の外周面との間に幅の狭い磁路狭隘部(第2ブリッジ部)B2が形成されている。端空隙53は、永久磁石Mの長手方向両端部から回転子鉄心44への磁束漏れを抑制するフラックスバリアとして機能するとともに、回転子鉄心44の軽量化にも寄与する。
【0042】
永久磁石Mは、例えば、横断面が矩形状の細長い平板状に形成され、回転子鉄心44の軸方向長さとほぼ等しい長さを有している。永久磁石Mは回転子鉄心44のほぼ全長に亘って埋め込まれる。永久磁石Mの横断面は、互い平行に対向する第1主面S1および第2主面S2、並びに、互いに平行に対向する一対の側面を有している。永久磁石Mの磁化方向は、第1主面S1および第2主面S2と直交する方向としている。
【0043】
永久磁石Mは、埋め込み孔52の磁石装填領域52aに装填され、第1主面S1が内側面54aに対向し、第2主面S2が外側面54bに対向している。第1主面S1および第2主面S2はd軸とほぼ直交して延びている。また、第2主面S2は第1主面S1に対して回転子鉄心44の外周側に位置している。永久磁石Mは、d軸に対して左右線対称に形成および配置されている。
永久磁石Mは、第2主面S2と装填領域52aの外側面54bとの間に配置された接着シートPPにより、回転子鉄心44に接着固定されている。接着シートPPは、外側面54bのほぼ全面に亘って敷設されている。これにより、永久磁石26は、磁石装填領域52a内に位置決め、保持されている。
【0044】
接着シートPPは、前述した実施形態における接着シートPPと同様に構成されている。すなわち、接着シートPPは、例えば、エポキシ系樹脂接着剤で形成され、第1面(第1接着面)SA1および反対側の第2面(第2当接面)SA2を有するシート状の接着剤層ADと、接着剤層ADの第2面に重ねて配置され接着剤層ADに埋め込まれた布FCと、を含んでいる。布FCは、ガラス繊維、炭素繊維等の補強繊維で形成された多数本の糸(繊維の束)により布状に織られている。布FCは、第1面SA1よりも第2面SA2の側に隣接して位置し、少なくとも一部が第2面SA2に露出している。
接着シートPPは、磁石装填領域52aの外側面54bに重ねて、外側面54bのほぼ全面に亘って敷設されている。この際、接着剤層ADの第1面SA1が外側面54b、すなわち、回転子鉄心44に接するように敷設されている。接着シートPPの第2面SA2が永久磁石Mの第2主面S2に当接している。同時に、布FCの複数箇所が永久磁石Mの第2主面S2に接触している。このようにして、接着シートPPは、永久磁石Mの第2主面S2と埋め込み孔52の外側面(鉄心)54bとの間に配置され、永久磁石Mは接着シートPPにより回転子鉄心44に接着固定される。
【0045】
本変形例において、永久磁石Mの第1主面S1と磁石装填領域52aと内側面54aとの間に接着シートが配置されていない。また、埋め込み孔52の一対の端空隙53のいずれにも合成樹脂等の固体材料は充填および挿入されておらず、空洞の状態に維持されている。そのため、端空隙53に、永久磁石Mを冷却するための冷媒、例えば、冷却空気、冷却油等を流通可能としている。
以上のように構成された変形例に係る回転子においても、前述した実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0046】
10…回転電機、12…固定子、14…回転子、16…固定子鉄心、
18…電機子巻線、20…スロット、42…回転シャフト、44…回転子鉄心、
52…磁石埋め込み孔、52a…磁石装填領域、52b…内周側空隙、
52c…外周側空隙、54a…内側面、54b…外側面、M…永久磁石、
PP…接着シート、FC…布、AD…接着剤層、S1…第1主面、
S2…第2主面、SA1…第1面、SA2…第2面