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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023045028
(43)【公開日】2023-04-03
(54)【発明の名称】免疫賦活剤及び免疫賦活剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/00 20060101AFI20230327BHJP
   C12P 21/00 20060101ALI20230327BHJP
   A61K 35/74 20150101ALI20230327BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230327BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20230327BHJP
【FI】
A61K39/00 H
C12P21/00 B
A61K35/74 D
A61P43/00 105
A61P37/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021153202
(22)【出願日】2021-09-21
(71)【出願人】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】坪田 潤
【テーマコード(参考)】
4B064
4C085
4C087
【Fターム(参考)】
4B064AG30
4B064CA02
4B064CC07
4B064CE10
4C085AA03
4C085BA42
4C085BB21
4C085CC07
4C085EE01
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC31
4C087CA15
4C087NA14
4C087ZB09
4C087ZC01
(57)【要約】
【課題】微生物由来のエンドトキシンを含有し、インターロイキンの産生を誘導できる免疫賦活剤を提供する。
【解決手段】ハロモナス属に属する好塩菌由来のエンドトキシンを含有し、インターロイキンの産生を誘導する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロモナス属に属する好塩菌由来のエンドトキシンを含有し、インターロイキンの産生を誘導する免疫賦活剤。
【請求項2】
マクロファージによるインターロイキンの産生を誘導する請求項1に記載の免疫賦活剤。
【請求項3】
前記インターロイキンがインターロイキン12である請求項1又は2に記載の免疫賦活剤。
【請求項4】
前記好塩菌が、ハロモナス・エスピー(Halomonas sp.)KM-1株である請求項1~3のいずれか一項に記載の免疫賦活剤。
【請求項5】
ハロモナス属に属する好塩菌由来のエンドトキシンを含有し、インターロイキンの産生を誘導する免疫賦活剤を製造する方法であって、
前記ハロモナス属に属する好塩菌を培地中で好気培養する好気培養工程と、
前記好気培養工程後に、前記好塩菌を培地中でpHを調整しながら微好気培養する微好気培養工程と、
前記微好気培養工程後の培地から菌体を除去する除去工程と、
前記除去工程後の培地に対して分子量分画処理を施す分画処理工程と、
前記分画処理工程で得られる高分子量画分を回収する回収工程と、を含む免疫賦活剤の製造方法。
【請求項6】
ハロモナス属に属する好塩菌由来のエンドトキシンを含有し、インターロイキンの産生を誘導する免疫賦活剤を製造する方法であって、
前記ハロモナス属に属する好塩菌を培地中で好気培養する好気培養工程と、
前記好気培養工程後に、前記好塩菌を培地中でpHを調整しながら微好気培養する微好気培養工程と、
前記微好気培養工程後の培地に対して分子量分画処理を施す分画処理工程と、
前記分画処理工程で得られる高分子量画分から菌体を除去する除去工程と、
前記除去工程後の高分子量画分を回収する回収工程と、を含む免疫賦活剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫賦活剤及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の新型コロナウイルスの流行に伴い、ウイルスによる感染症の予防に高い関心が集まっている。ウイルス感染症に対する予防策の1つとして、生体の免疫機能を向上させる薬剤を含む食品やサプリメントの摂取が知られている。このような体の免疫機能を向上させる薬剤としては、例えば、サイトカインの一種であるインターフェロンαの産生を誘導する薬剤を含む免疫賦活剤が提案されている(特許文献1)。
【0003】
特許文献1記載の免疫賦活剤は、乳酸菌の中でもインターフェロンαの産生誘導能が高い乳酸菌やこの乳酸菌の核酸を有効成分として含むものである。この免疫賦活剤によれば、インターフェロンαの産生が誘導される結果、生体の免疫機能が高まり、ウイルスの感染を抑制できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5950827号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1には、乳酸菌やその核酸を有効成分として含むことで、インターフェロンαの産生が誘導される点が明らかにされている。しかしながら、乳酸菌以外の菌を用いた場合にサイトカインの産生が誘導されるかという点や、他のサイトカインの産生を誘導できる微生物由来の成分を含んだ免疫賦活剤については何ら明らかになっていない。
【0006】
本発明は、以上の実情に鑑みなされたものであり、微生物由来のエンドトキシンを含有し、インターロイキンの産生を誘導できる免疫賦活剤及びその製造方法の提供を、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明に係る免疫賦活剤の特徴構成は、
ハロモナス属に属する好塩菌由来のエンドトキシンを含有し、インターロイキンの産生を誘導する点にある。
【0008】
本願発明者は、鋭意研究を重ねた結果、ハロモナス属に属する好塩菌を所定の条件下で培養して得られる培養液を処理することで、インターロイキンの産生を誘導するエンドトキシンを含有した免疫賦活剤が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
即ち、上記特徴構成によれば、免疫賦活剤を摂取することによって、インターロイキンの産生が誘導されるため、生体の免疫機能が高まり、ウイルスの感染を抑制できる。
【0010】
また、本発明に係る免疫賦活剤の更なる特徴構成は、
マクロファージによるインターロイキンの産生を誘導する点にある。
【0011】
本願発明者は、本発明に係る免疫賦活剤を添加してマクロファージを培養することで、上記エンドトキシンがマクロファージに作用して、当該マクロファージがインターロイキンを産生することを確認している。
【0012】
また、本発明に係る免疫賦活剤の更なる特徴構成は、
前記インターロイキンがインターロイキン12である点にある。
【0013】
上記特徴構成によれば、インターロイキンとしてのインターロイキン12の産生が誘導され、その結果、生体の免疫機能が高まり、ウイルスの感染を抑制できる。
【0014】
また、本発明に係る免疫賦活剤の更なる特徴構成は、
前記好塩菌が、ハロモナス・エスピー(Halomonas sp.)KM-1株である点にある。
【0015】
本願発明者は、好塩菌がハロモナス・エスピーKM-1株である場合に、当該ハロモナス・エスピーKM-1株由来のエンドトキシンがインターロイキン12の産生を誘導することを実験により確認している。
【0016】
また、上記目的を達成するための本発明の免疫賦活剤の製造方法の特徴構成は、
ハロモナス属に属する好塩菌由来のエンドトキシンを含有し、インターロイキンの産生を誘導する免疫賦活剤を製造する方法であって、
前記ハロモナス属に属する好塩菌を培地中で好気培養する好気培養工程と、
前記好気培養工程後に、前記好塩菌を培地中でpHを調整しながら微好気培養する微好気培養工程と、
前記微好気培養工程後の培地から菌体を除去する除去工程と、
前記除去工程後の培地に対して分子量分画処理を施す分画処理工程と、
前記分画処理工程で得られる高分子量画分を回収する回収工程と、を含む点にある。
更に、上記目的を達成するための本発明の免疫賦活剤の製造方法の特徴構成は、
ハロモナス属に属する好塩菌由来のエンドトキシンを含有し、インターロイキンの産生を誘導する免疫賦活剤を製造する方法であって、
前記ハロモナス属に属する好塩菌を培地中で好気培養する好気培養工程と、
前記好気培養工程後に、前記好塩菌を培地中でpHを調整しながら微好気培養する微好気培養工程と、
前記微好気培養工程後の培地に対して分子量分画処理を施す分画処理工程と、
前記分画処理工程で得られる高分子量画分から菌体を除去する除去工程と、
前記除去工程後の高分子量画分を回収する回収工程と、を含む点にある。
【0017】
本願発明者は、免疫賦活剤の製造方法について鋭意研究を重ねた結果、ハロモナス属に属する好塩菌を利用して3-ヒドロキシ酪酸を製造する際に、好気培養工程、微好気培養工程及び分画処理工程を経て得られる低分子量画分に3-ヒドロキシ酪酸が存在し、副産物としての高分子量画分にインターロイキンの産生を誘導するエンドトキシンが含まれることを見出し、本発明を完成させた。
【0018】
即ち、上記特徴構成によれば、好気培養工程、微好気培養工程及び分画処理工程を行い、微好気培養工程後の培地から菌体を除去する、或いは、分画処理工程で得られる高分子量画分から菌体を除去し、最終的に得られる高分子量画分を回収することで、本発明に係る免疫賦活剤を製造することができる。このようにして製造される免疫賦活剤は、ハロモナス属に属する好塩菌を利用した3-ヒドロキシ酪酸の製造時に副産物として得ることができ、安価且つ安定的に供給することが可能である。また、除去工程を経ていることで、製造される免疫賦活剤から菌体が除去されているため、食品やサプリメントとして比較的安定に使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る免疫賦活剤及びその製造方法について説明する。尚、以下に好適な実施例を記すが、これら実施例はそれぞれ、本発明をより具体的に例示するために記載されたものであって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々変更が可能であり、本発明は、以下の記載に限定されるものではない。
【0020】
〔免疫賦活剤〕
本発明の免疫賦活剤は、ハロモナス属に属する好塩菌由来のエンドトキシンを含有し、インターロイキンの産生を誘導するものである。
【0021】
具体的に、ハロモナス属に属する好塩菌がハロモナス・エスピーKM-1株である場合、当該ハロモナス・エスピーKM-1株由来のエンドトキシンがマクロファージに作用してインターロイキン12の産生を誘導される。
【0022】
即ち、本発明の免疫賦活剤によれば、好塩菌由来のエンドトキシンが単球やマクロファージなどの免疫細胞に作用し、当該免疫細胞によるインターロイキンの産生が促されるため、生体の免疫機能が高まり、ウイルスの感染を抑制できる。
【0023】
本発明の免疫賦活剤は、ハロモナス属に属する好塩菌を培養して得られる培養液を処理することで得られるものであり、食品や飲料、化粧料、医薬品、医薬部外品の形態で用いることができる。
【0024】
また、本発明の免疫賦活剤は、後述する除去工程を経て製造されるものであり、菌体の混入がほぼないか、混入量がわずかであるため、食品やサプリメントとして比較的安定に使用できる。
【0025】
〔免疫賦活剤の製造方法の概要〕
本発明の免疫賦活剤の製造方法は、ハロモナス属に属する好塩菌を培養した培養液に所定の処理を施し、好塩菌由来のエンドトキシンを含有する高分子量画分を免疫賦活剤として回収する方法である。
【0026】
具体的に、本発明の免疫賦活剤の製造方法では、以下の工程を行う。
(1-1)ハロモナス属に属する好塩菌を培地中で好気培養する好気培養工程。
(1-2)好気培養工程後に、好塩菌を培地中でpHを調整しながら微好気培養する微好気培養工程。
(1-3)微好気培養工程後の培地から菌体を除去する除去工程。
(1-4)除去工程後の培地に対して分子量分画処理を施す分画処理工程。
(1-5)分画処理工程で得られる高分子量画分を回収する回収工程。
或いは、以下の工程を行う。
(2-1)ハロモナス属に属する好塩菌を培地中で好気培養する好気培養工程。
(2-2)好気培養工程後に、好塩菌を培地中でpHを調整しながら微好気培養する微好気培養工程。
(2-3)微好気培養工程後の培地に対して分子量分画処理を施す分画処理工程。
(2-4)分画処理工程で得られる高分子量画分から菌体を除去する除去工程。
(2-5)除去工程後の高分子量画分を回収する回収工程。
【0027】
〔好気培養工程〕
本発明の製造方法における好気培養工程は、ハロモナス属に属する好塩菌(以下、単に好塩菌ともいう)を培地中で好気培養して、この好塩菌にポリ3-ヒドロキシ酪酸(PHB)を蓄積させる工程である。
【0028】
好気培養工程で用いる好塩菌は、無機塩と単一もしくは複数の有機炭素源とを含む培地中にて好気的に増殖し、PHBを自らの菌体内にて蓄積する性質を有している。更に、この好塩菌は、0.1~1.0Mの塩濃度が生育至適塩濃度である好塩性を有し、特には塩を含まない培地においても生育可能な細菌である。そして、上述のハロモナス属に属する好塩菌は、通常pH5~12程度の培地にて生育する。
【0029】
このような好塩菌としては、例えば、ハロモナス・エスピーKM-1株が挙げられる。ハロモナス・エスピーKM-1は、平成19年7月10日付で、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(〒305-8566茨城県つくば市東1-1-1中央第6)に受託番号FERM P-21316として寄託されている。また、この菌株は、現在国際寄託に移管されており、その受託番号はFERM BP-10995である。当該ハロモナス・エスピーKM-1株の16S rRNA遺伝子は、DDBJにAccession Number AB477015として登録されている。尚、ハロモナス・エスピーKM-1株を培養して得られる培養物の処理物(回収工程で回収される高分子量画分)には、インターロイキンの1つでインターロイキン12の産生を誘導するエンドトキシンが含まれる。
【0030】
また、上記好塩菌の生育特性等に鑑みて、本発明における好気培養工程で用いる好塩菌は、ポリ3-ヒドロキシ酪酸を蓄積した後、後述する微好気培養工程で3-ヒドロキシ酪酸を分泌するものであれば、ハロモナス・エスピーKM-1株に限られるものでない。そのようなハロモナス属に属する好塩菌としては、ハロモナス・パンテラリエンシス(Halomonas pantelleriensis:ATCC 700273)やハロモナス・カンピサリス(Halomonas campisalis:ATCC 7000597)等も挙げることができる。
【0031】
更に、16SリボゾームRNA配列による分析から、上記の好塩菌に限らず、ハロモナス・ニトリトフィルス、ハロモナス・アリメンタリア等も、好気培養工程にて用いるハロモナス属に属する好塩菌として使用してもよい。
【0032】
尚、上記ハロモナス属に属する好塩菌には、遺伝子が導入されていてもよい。導入される遺伝子は、本発明に係る製造方法において、最終的に得られる高分子量画分に含まれるエンドトキシンの量を減少させるものでなければ特に限定されない。組換えDNAの当該菌体への導入方法及びこれによる形質転換方法としては、一般的な各種方法を採用できる。
【0033】
好気培養工程で用いる培地は、無機塩及び有機炭素源を含有する。培地のpHは上記好塩菌の生育条件を満たすpHであれば特に限定されないが、具体的には、pH5~12程度にすればよく、pH8.8~12であることがより好ましい。尚、アルカリ性の培地を用いれば、他の菌のコンタミネーションを効果的に防止できるため好ましい。
【0034】
また、培地は、液体培地であってもよいし、固体培地であってもよい。
【0035】
好気培養工程にて用いる培地に配合する無機塩は、特に限定されることはなく、例えば、リン酸塩、硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩、ナトリウム、マグネシウム、カリウム、マンガン、鉄、亜鉛、銅、コバルト等の金属塩が挙げられる。
【0036】
例えば、ナトリウムを無機塩として用いる場合は、NaCl、NaNO、NaHCO、NaCO等を用いればよい。
【0037】
これらの無機塩は、上記好塩菌にとって窒素源やリン源となるような化合物を用いることが好ましい。
【0038】
窒素源は、硝酸塩、亜硝酸塩、尿素、アンモニウム塩等を用いればよく、特に限定されないが、NaNO、NaNO、NHCl等の化合物を用いればよい。
【0039】
窒素源の使用量は、菌体の生育に影響を及ぼすことなく、免疫賦活剤を製造する目的が達成される範囲において適宜設定すればよく、具体的には、培養初期の培地100ml当たり通常であれば硝酸塩として500mg程度以上とすればよく、より好ましくは1000mg程度以上、更に好ましくは1250mg程度以上である。
【0040】
リン源は、リン酸塩、リン酸一水素塩、リン酸二水素塩等を用いればよく、特に限定はされないが、例えば、KHPO、KHPO等の化合物を用いればよい。
【0041】
リン源の使用量も、上記窒素源の使用量と同様の観点から適宜設定すればよい。具体的には、リン酸二水素塩として培地100ml当たり通常は50~400mg程度とすればよく、より好ましくは100~200mg程度である。
【0042】
尚、これらの無機塩は単一で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
好気培養工程にて用いる培地に配合する有機炭素源としては、特に限定されない。例えば、トリプトン、イーストエキストラクト、可溶性デンプン、エタノール、n-プロパノール、酢酸、酢酸ナトリウム、プロピオン酸、廃グリセロール、廃蜜糖、木材糖化液、プシコース、フルクトース、ソルボース、タガトース、アロース、アルトロース、グルコース、マンノース、グロース、イドース、ガラクトース、タロース等の六炭糖;リブロース、キシルロース、リボース、アラビノース、キシロース、リキソース、デオキシリボース等の五炭糖;スクロース、ラクトース、マルトース、トレハロース、ツラノース、セロビオース等の二糖;エリスリトール、グリセリン、マンニトール、ソルビトール、キシリトール等の糖アルコール等が挙げられる。
【0044】
有機炭素源の濃度は、PHBの蓄積が進行し、免疫賦活剤を製造する目的が達成される範囲において適宜設定すればよい。
【0045】
本発明に係る製造方法では、塩濃度が比較的高い条件の培地で、ハロモナス属に属する好塩菌を培養するので、他の菌体の混入、増殖の恐れ等がほとんどない。したがって、培地に対して滅菌処理等を行っても行わなくてもよく、且つ、簡便な設備で培養することも可能である。
【0046】
好気培養工程における好塩菌の培養は、好気培養を採用する。好気培養の条件は、当該菌体が増殖し、且つ、当該菌体内にPHBが著量蓄積するような条件であれば、特に限定されない。
【0047】
具体的には、5ml程度の培地に当該好塩菌を植菌し、所定の撹拌速度で所定の温度にて、一晩振とうしながら前培養を行う。続いて前培養して得られた菌体を、三角フラスコ、発酵槽、ジャーファーメンター等に入った培地中に100倍程度に希釈し本培養(本願における好気培養に相当)する。
【0048】
本培養の培養温度は、通常20~45℃程度の範囲内で設定可能であるが、30~37℃程度の範囲内で設定することが好ましい。また、撹拌速度は、三角フラスコを用いる場合、通常120~250rpm程度の範囲内で設定可能であるが、120~180rpm程度の範囲内で設定することが好ましい。発酵槽、ジャーファーメンターを用いる場合は上記に匹敵する酸素供給速度となるように酸素供給を行うことが好ましい。更に、本培養の培養時間は、PHBの蓄積が生じる時間であれば、特に限定されるものではないが、好塩菌の菌体内でのPHBの蓄積量が略一定となるまでの時間であることが好ましく、例えば、10時間以上60時間以下である。
【0049】
好気培養工程では、このような培養条件でハロモナス属に属する好塩菌を好気培養すればよい。具体的に、好気培養時の培地中の溶存酸素濃度は、特に限定されないが、菌体が存在しない状態で通常は2mg/Lとすればよく、5mg/L以上が好ましい。
【0050】
好気培養工程での培養方法は、回分培養、半回分培養、連続培養等の培養方法が挙げられ、特に限定はされないが、本発明に係る製造方法によって用いる好塩菌が他の菌が混入する可能性が極めて低いことを考慮すれば、長期の連続培養も可能である。尚、培養環境は、培地が空気に触れる環境とすればよく、培地表面に積極的に酸素を含む気体を吹き付ける方法や係る気体を培地中に吹き込む方法により調整してもよい。また、培養環境は、非滅菌環境下であっても滅菌環境下であってもよい。
【0051】
〔微好気培養工程〕
本発明の製造方法における微好気培養工程は、好気培養工程後に、好塩菌を培地中でpHを調整しながら微好気培養して、当該好塩菌の菌体内に蓄積されたポリ3-ヒドロキシ酪酸を3-ヒドロキシ酪酸として培地中に分泌させる工程である。
【0052】
具体的に、微好気培養工程では、好気培養工程後、曝気を止めて、pH調整剤を添加してpHを所定の範囲内に調整し、好塩菌を微好気培養する。
【0053】
尚、微好気培養の条件は、当該菌体内に蓄積されたPHBが3HBとして培地中に分泌されるような条件であれば、特に限定されない。
【0054】
微好気培養を継続した場合、有機酸の生成により、培地のpHは下がる傾向がある。このような培地のpHは適宜公知のpH測定用装置やこれが付随したジャーファーメンター等によって確認することができる。
【0055】
微好気培養工程では、pHを所定範囲内に調整及び/又は維持する。尚、「調整及び/又は維持」とは、pHの確認を行いながら、pH調整剤を添加してpHが所定範囲内である状態を保つことや、単にpH調整剤を添加して培養開始時のpHを調整し、その後はpHの調整を行わないことを意味する。
【0056】
微好気培養工程にて調整及び維持するpHは、好ましくは7.5以上、より好ましくは8.0以上、更に好ましくは8.5以上である。
【0057】
ハロモナス属に属する好塩菌は、通常は中程度の高塩濃度且つアルカリ条件下で培養することが可能であるため、夾雑菌の混入・繁殖(コンタミネーション)が少ない。しかしながら、一部乳酸菌には、中程度の高塩濃度且つpH8.4以下の環境下において増殖可能な菌も存在し、このような菌が本発明の培養系にコンタミネーションすると、ハロモナス属に属する好塩菌が分泌した3-ヒドロキシ酪酸又はその塩を乳酸発酵の基質として消費してしまい、更には培地のpHの一段の低下を生じさせる恐れがある。
【0058】
このため、本発明において、培地を滅菌せず及び/又は非滅菌環境下でハロモナス属に属する好塩菌を培養して、培地中に3HBを分泌させるためには、微好気培養工程における培地のpHの調整及び維持をpH8.5程度以上とすることが好ましい。
【0059】
pHの調整時期は、好気培養工程後であれば特に限定されないが、好塩菌の菌体内でPHBの蓄積量が略一定となった後であることが好ましい。
【0060】
〔分画処理工程〕
本発明の製造方法における分画処理工程は、後述する除去工程後の培地、又は微好気培養工程後の培地に対して分子量分画処理を施す工程である。
【0061】
分子量分画処理は、3-ヒドロキシ酪酸を含む低分子量画分とエンドトキシンを含む高分子量画分とに分離できる手法であれば、特に限定されない。そのような手法としては、限外ろ過膜を用いる手法が例示できる。
【0062】
〔除去工程〕
本発明の製造方法における除去工程は、微好気培養工程後の培地、又は分画処理工程で得られる高分子量画分から菌体を除去する工程である。
【0063】
除去工程では、微好気培養工程の培養を停止した後の培地、又は分画処理工程を経て得られる高分子量画分に対して、公知の手法を適用し、培地又は高分子量画分と好塩菌体とを分離することで、培地又は高分子量画分から菌体を除去する。例えば、液体培地を使用して好気培養工程及び微好気培養工程を行う場合、微好気培養工程の培養を停止し、培地と好塩菌体とを分離手段で分離することで、培地から菌体を除去する。
【0064】
具体的な分離の手法は、遠心操作やろ過等の公知の固液分離操作を採用できる。また、培養の停止方法も特に限定されない。例えば、微好気培養工程後に好塩菌を加熱、酸処理等の方法によって殺菌して培養を停止する方法や固液分離操作を行って培地から好塩菌を分離することで結果的に培養が停止する方法を採用し得る。
【実施例0065】
以下、本発明を実施例に基づいてより詳細に説明する。尚、本発明が実施例に限定されないことは言うまでもない。
【0066】
1.KM-1株培養用培地
KM-1株の培養には、表1に示すSOT改5(Spirulina platensis Medium改5)を基本にした培地を用いた。この培地は、Spirulina platensis Medium(国立環境研究所のHP)であり、NaHCO及びNaCOの量を調整し、窒素源のNaNOを5倍に、リン源のKHPOを4倍に増加させて調整した。上記の培地を調整した後のpHは9.4±0.1であり、オートクレーブ等の滅菌操作を行わずにそのまま使用した。
【0067】
【表1】
【0068】
培養の際には、上記培地に対して26%スクロース水溶液を添加したものを使用した。
【0069】
2.サンプル溶液の調製
容積90Lのジャーファーメンターに上記スクロース水溶液を追加した培地を50L張り込み、ハロモナス・エスピーKM-1株を40時間好気培養した(好気培養工程)。その後、曝気を止めて、pHを調整しながら5時間微好気培養し、菌体内に蓄積されたPHBを3HBとして菌体外に分泌させた(微好気培養工程)。続いて、精密ろ過膜を用いて培養液から菌体を除去した。次に、菌体除去後の培養液に対して限外ろ過膜を用いた分子量分画処理を施し、低分子量画分と高分子量画分とに分画し、得られた高分子量画分を免疫賦活剤(以下、「原液」という)として得た。その後、得られた原液を10倍、10倍、10倍、10倍、10倍、10倍に希釈した6つのサンプル溶液A~Fを作製した。
【0070】
3.エンドトキシン濃度測定
上記のようにして得られた原液について、LAL試薬(生化学工業株式会社製のPyrochrome(登録商標))を用いて付属の取扱説明書に記載された手順に従って、エンドトキシンの濃度を測定した。その結果、エンドトキシン濃度は、1×10EtIU/mLであった。したがって、原液を希釈した各サンプル溶液A~Fのエンドトキシン濃度は、それぞれ1EtIU/mL、1×10EtIU/mL、1×10EtIU/mL、1×10EtIU/mL、1×10EtIU/mL、1×10EtIU/mLである。また、原液におけるエンドトキシンの質量/体積濃度は、100μg/mLである。
【0071】
4.産生誘導確認試験
産生誘導確認試験では、JCRB細胞バンクから入手した単球・マクロファージ様細胞株であるJ774.1細胞を使用した。
【0072】
J774.1細胞は、10%のFBS、100U/mlのペニシリン及び100μg/mLのストレプトマイシンを含有するDMEM培地にて継代培養したものを用いた。培養にはT25培養フラスコを用い、3日あるいは4日毎に0.5~1×10cells/mLを植え継ぎながら、37℃、5%CO雰囲気のインキュベータ内で培養した。
【0073】
T25培養フラスコにて前培養した細胞をピペッティングによりフラスコ壁面から剥がし、得られた細胞の懸濁液を50mLコニカルチューブに移した。ついで、コニカルチューブを室温下にて遠心分離処理(1000rpm、5分間)に供し、デカンテーションによって上清を廃棄し、沈殿していた細胞を回収した。その後、タッピングにより細胞を解した後、上記DMEM培地を5mL加え、ピペッティングによって細胞を均一に懸濁し、細胞懸濁液を得て、これを用いて産生誘導確認試験を行った。尚、得られた細胞懸濁液については、一部(11μL)を別のコニカルチューブに移し、0.5%トリパンブルーを11μL添加した後、血球計算盤を用いて細胞懸濁液1ml当たりの細胞数をカウントして生存率を算出し、細胞の生存率が高い(95.7%)ことを確認した。
【0074】
次に、測定した細胞数に基づいて、細胞懸濁液に上記DMEM培地を加えて希釈し、1.6×10cells/mLとなるように細胞数を調整した。ついで、細胞数を調整した細胞懸濁液を96ウェルの平底プレートの各ウェルに100μLずつ分注した後、37℃、5%CO雰囲気のインキュベータ内で、細胞がウェルの底に接着して伸展するまで3時間培養した。
【0075】
その後、上記のように調製した各サンプル溶液A~Fを別々のウェルに100μLずつ分注した。サンプル溶液A~Fを分注後、37℃、5%CO雰囲気のインキュベータ内で24時間培養した。培養後、各ウェル内の上清150μLを1.5mLチューブにそれぞれ回収したものを測定用サンプルとし、これらについてELISA測定を行った。尚、回収した上清を使用してLDHアッセイを行い、ELISA測定の結果が細胞障害により影響を受けていないことを確認した。また、上清回収後の平底プレートに、上記DMEM培地50μLを加え、MTSアッセイを行い、同じくELISA測定の結果が細胞増殖阻害による影響を受けていないことを確認した。
【0076】
ELISA測定キット(BioLegend社製のIL-12/IL-23(p40)ELISA MAXTM Deluxe Sets)を用いて付属の取扱説明書に記載された手順に従いインターロイキン12(p40)の産生量を測定した。尚、測定には、上記各ウェル内から回収した上清を希釈剤で2倍及び50倍に希釈した溶液を使用した。
【0077】
尚、測定用サンプルの測定に先立ち、J774.1細胞によるインターロイキン12の産生量を測定することで、未知物質がインターロイキン12産生誘導能を有するか否かを評価できることを確認した。具体的には、インターロイキン12の産生を誘導することが知られているリポポリサッカライド(LPSp;Pantoea agglomerans由来)の濃度が異なる6種類の対照試験用のサンプル溶液A’~F’を作製し、作製した溶液を用いた場合のJ774.1細胞によるインターロイキン12の産生量をELISA測定によって測定し、下記表2に示すように、濃度(容量)依存的なインターロイキン12の産生量の増加を示すことを確認した。
【0078】
【表2】
【0079】
表3には、サンプル溶液A~Fに関するELISA測定の結果を示した。表3から分かるように、サンプル溶液の希釈倍率が小さく(濃度が高く)なるにつれて、インターロイキン12の産生量が増加している。このことから、ハロモナス属に属する好塩基であるハロモナス・エスピーKM-1株を培養して得られる培養液の処理物を添加することで、マクロファージによるインターロイキン12の産生が誘導されることが確認できた。また、100pg/mLで単球・マクロファージ様細胞株の培養に添加することで、30pg/mL以上のインターロイキン12(p40)の産生を誘導することが明らかとなった。
【0080】
【表3】