(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023045056
(43)【公開日】2023-04-03
(54)【発明の名称】計測装置
(51)【国際特許分類】
G01V 1/00 20060101AFI20230327BHJP
G01H 3/00 20060101ALI20230327BHJP
【FI】
G01V1/00 Z
G01V1/00 A
G01H3/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021153238
(22)【出願日】2021-09-21
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、防衛装備庁 安全保障技術研究推進制度、産業技術力強化第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】517182228
【氏名又は名称】BIOLOGGING SOLUTIONS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100167184
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 真一郎
(72)【発明者】
【氏名】野田 琢嗣
(72)【発明者】
【氏名】小泉 拓也
【テーマコード(参考)】
2G064
2G105
【Fターム(参考)】
2G064AB01
2G064AB02
2G064AB13
2G064CC02
2G064CC41
2G105AA01
2G105BB02
2G105CC01
2G105DD02
2G105EE02
(57)【要約】
【課題】観測の効率化を図ること。
【解決手段】計測装置100によれば、水中において周囲の環境を1秒に1回程度のサンプリングで検出する低周波サンプリング部2と、低周波サンプリング部2の検出結果に応じて水中の音を検出するか否かを判断する制御部1と、制御部1が水中の音を検出すると判断したとき、低周波サンプリング部2のサンプリング周波数より高い周波数で水中の音を検出する高周波サンプリング部4と、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中において周囲の環境を第1の周波数で検出する第1の検出部と、
前記第1の検出部の検出結果に応じて水中の音を検出するか否かを判断する判断部と、
前記判断部が水中の音を検出すると判断したとき、前記第1の周波数より高い周波数で水中の音を検出する第2の検出部と、
を有することを特徴とする計測装置。
【請求項2】
当該計測装置は、生体に装着され、
前記第1の検出部は、生体の移動の大きさを検出し、
前記判断部は、生体の移動の大きさが一定値以下の場合に水中の音を検出すると判断する請求項1に記載の計測装置。
【請求項3】
当該計測装置は、生体に装着され、
前記第1の検出部は、生体の位置を検出し、
前記判断部は、生体の位置が周囲の音の影響を受けにくい位置である場合に水中の音を検出すると判断する請求項1に記載の計測装置。
【請求項4】
前記第1の検出部は、水中の音を検出し、
前記判断部は、検出した音の大きさが一定以下の場合に水中の音を検出すると判断する請求項1に記載の計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの海洋生物は音をよく利用しており、音に敏感である。例えば、水中探査や、コミュニケーション、威嚇、繁殖などに音を発生させている。
【0003】
水中では、音は光と比べ物にならないほど遠くまで届く。空中では音速は1秒間に330m程度だが、水中では概ねその4.5倍、1秒間に1500m程度伝わる。光に比べればはるかに遅いが、伝達距離が長く影響は即時的である。
【0004】
近年、音の暴露による生物への影響は多く報告されている。海中には様々な人工的な音源がある。なかでも最も数が多いのは、船舶である。海運に伴い船舶から発せられる音がクジラや魚がコミュニケーションできる距離を縮め、場合によっては繁殖にも影響を及ぼしている可能性が指摘されている。
【0005】
一方で、海中には自然に発生する雑音も存在する。自然音としては、風雨や波浪、流れや火山音等が考えられる。気象や海象によっても水中音が生じる。降雨による広帯域音は、海表面から海中に放射される。荒天で波が砕け発生した泡からも広帯域音が発生する。
【0006】
また、生物音としては、生物(魚類、鯨類、等)が発生する鳴音だけでなく、咀嚼音や、魚群の遊泳音等、生物の行動や移動に伴うあらゆる音が考えられる。例えば沿岸域から絶え間なく発せられるテッポウエビ等のパルス音もある。
人工音としては、船舶、杭打ち、エアガン、洋上風力、ソナー、ダイバーから発生される音が考えられる。
以上のように水中音は、人工音・自然音・生物音で構成され、水中音をモニタリングすることで、様々な音源に起因する様々な情報を収集することができる。
【0007】
これまで水中音のモニタリングでは水中マイクロホンを船から垂らし、水中音を観測する、表層設置型(ブイ)や水中設置型のレコーダーによって水中音を観測するなどが行われている。また移動体では、海洋グライダー等によって音の観測が行われている。しかし、海洋グライダーは浅海域では利用が困難である。船からの観測は費用や労力の観点から長時間・広範囲の実施は困難である。表層設置型(ブイ)や水中設置型のレコーダーは、沿岸域においては、海上の保安上、特別な設置許可が必要、または設置場所が限定されるなど、実施困難な場合も多い。
【0008】
野生生物の行動・生理や経験環境を計測するために、様々なセンサを搭載した計測装置を生体に直接装着し計測を行うバイオロギング・バイオテレメトリー手法が知られている。
【0009】
ここで、バイオロギングは、例えば計測したデータを計測装置の内部に記録することを言う。また、バイオテレメトリーは、例えば計測したデータを無線等で計測装置の外部に飛ばし、遠隔的に計測データを回収することを言う(広義の意味では、バイオテレメトリーもバイオロギングに含まれる)。
【0010】
バイオロギングに使用する計測装置は例えばバッテリーおよびセンサやメモリ・無線端末等を搭載した電子基板、それらを覆う筐体(樹脂や金属等で製造されたケースまたはそれと同等性能を有するもの)を有する。
【0011】
水中音の観測もバイオロギングの利用が考えられる。例えば、ウミガメやアザラシなどの海洋生物に水中音レコーダーを搭載することで、自律式移動体として、水中音をモニタリングすることが可能になる。また、ウミガメやアザラシなど一部の海洋生物は、呼吸のため、定期的に水面に浮上することから、衛星等(GNSS、アルゴス衛星、イリジウム衛星等)の電波よる位置の取得に加え、衛星通信や近距離無線によるデータの送信が可能である。バイオロギングの場合、水中や表層に機材を設置しなくてよいため、沿岸域においても、広範囲に渡り、水中音の観測が可能になると考えられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】“バイオロギング”[online]2019年5月:初版を掲載、国立研究開発法人 国立環境研究所[令和3年7月13日検索]、インターネット<URL:https://tenbou.nies.go.jp/science/description/detail.php?id=109>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
このように、バイオロギングにより水中音響の観測することは、水中の人工音・環境音・生物音の観測に有効な方法と考えられる。しかし解析対象となる質がある水中音データでないと、そもそも収録しても意味ないデータとなる。また、バイオロギングでは生物への機器の装着負荷があるため、可能な限り生体に装着する機器のサイズを小さくするのが好ましい。
1つの側面では、本発明は、観測の効率化を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、開示の計測装置が提供される。この計測装置は、水中において周囲の環境や計測装置を装着した個体の行動を第1の周波数で検出する第1の検出部と、第1の検出部の検出結果に応じて水中の音を検出するか否かを判断する判断部と、判断部が水中の音を検出すると判断したとき、第1の周波数より高い周波数で水中の音を計測、検出する第2の検出部と、を有している。
【発明の効果】
【0015】
1態様では、観測の効率化が図れる。これは、水中音の観測を連続的・継続的に行うのではなく、実際に観測を行うのに好ましい期間を絞ることで、観測にかかる電力を減らし、バッテリーの小型化を促すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図2】実施の形態の計測装置の機能を説明するブロック図である。
【
図3】計測装置の動作を説明するフローチャートである。
【
図4】ウミガメから得られた深度のデータの例を示す図である。
【
図5】実施の形態の計測装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、実施の形態の計測装置を、図面を参照して詳細に説明する。
【0018】
以下の図面等において示す各構成の位置、大きさ、形状、範囲などは、発明の理解を容易にするため、実際の位置、大きさ、形状、範囲などを表していない場合がある。このため、本発明は、必ずしも、図面等に開示された位置、大きさ、形状、範囲等に限定されない。
実施の形態において単数形で表される要素は、文面で明らかに示されている場合を除き、複数形を含むものとする。
<実施の形態>
図1は、実施の形態の計測装置を示す図である。
図1に示す計測装置100は、例えば生体に直接装着される。生体としては特に限定されないが、例えば魚類や水中で生活する爬虫類、ほ乳類が挙げられる。
【0019】
例えば魚類への計測装置100の装着方法としては、魚類の腹腔内に計測装置100を入れて取り付ける内部装着と、魚類の体表に計測装置100を取り付ける外部装着がある。外部装着は、取り付けの際に金属ワイヤーやテグスやケーブルタイ等を体内部に通す場合がある。外部装着の場合、流体抵抗が増加し、取り付け部分の傷が化膿する等、一般的に長期の装着には適していない場合が多い。このため、魚類においては、長期の装着において内部装着の方が適している場合が多いと一般的に考えられている。
図2は、実施の形態の計測装置の機能を説明するブロック図である。
【0020】
計測装置100は、制御部1と低周波サンプリング部2と水中マイク3と高周波サンプリング部4とメモリ5とデータ処理部6とデータ送信部7とを有している。
制御部1は、計測装置100全体を制御する。
【0021】
低周波サンプリング部2は、複数のセンサを有している。これらのセンサは、例えば数分の1Hz~数10Hz(例えば、1秒に1回程度)のサンプリングを実行する。低周波サンプリング部2は、環境センサ部21と行動センサ部22とを有している。
【0022】
環境センサ部21は、生体の環境に関するデータを収集する。具体的には環境センサ部21は、温度センサ211と塩分センサ212と溶存酸素センサ213と照度センサ214とを有している。環境センサ部21が有するセンサとしては、特に限定されず、上記以外にも環境を測定できるクロロフィルセンサ、濁度センサ、pHセンサ、アルカリセンサ等が挙げられる。
温度センサ211は、計測装置100が位置している水中の温度を検出する。
塩分センサ212は、計測装置100が位置している水中の塩分を検出する。
溶存酸素センサ213は、計測装置100が位置している水中の溶存酸素の量を検出する。
照度センサ214は、計測装置100が位置している水中の照度を検出する。
【0023】
行動センサ部22は、生体の行動に関するデータを収集する。具体的には行動センサ部21は、速度センサ221と加速度センサ222と深度センサ223とジャイロセンサ224と地磁気センサ225とを有している。行動センサ部22が有するセンサとしては、特に限定されず、上記以外にも位置を推定できる超音波発振機や、測深機や照度機等が挙げられる。
速度センサ221は、生体の速度を検出する。
加速度センサ222は、生体の加速度を検出する。
深度センサ223は、生体が位置する場所の深度を検出する。
ジャイロセンサ224は、生体の回転や向きの変化を角速度として検出する。
地磁気センサ225は、生体が位置する場所の地磁気を検出する。
【0024】
なお、以上に説明した環境センサ部21と行動センサ部22がそれぞれ有するセンサの区分けは任意である。また、環境センサ部21と行動センサ部22はそれぞれ別個のセンサを有していてもよい。一部のセンサが省略されていてもよい
水中マイク3は、低周波サンプリング部2および高周波サンプリング部4が水中音(人工音、環境音、生物音)をサンプリングする際に用いられる。
【0025】
高周波サンプリング部4は、観測対象とする水中音をサンプリングする。これらの音は、数Hzから数百kHzの周波数帯の音波で構成される。このため高周波サンプリング部4は、低周波サンプリング部2よりも高い(例えば、数10kHz~数100kHz)のサンプリングを実行する。サンプリングにより得られたデータ(集音データ)はメモリ5に記憶される。
【0026】
データ処理部6は、高周波サンプリング部4がサンプリングした集音データをメモリ5から読み出していわゆるエッジ処理を実行する。エッジ処理としては、例えば移動平均フィルタ、メディアンフィルタ等のノイズ処理や、統計値(平均値、実効値、最大値、最小値)を抽出する統計処理や、高速フーリエ変換等の周波数解析処理等が挙げられる。また、機械学習や深層学習等のモデルにより、音声検出や分類を行うことが挙げられる。エッジ処理を行うことにより、データの送信量および送信時間を減らすことができる。
データ送信部7は、データ処理部6によって処理が施されたデータを例えば衛星や基地局等に送信する。送信されたデータはクラウドサーバ等に記憶される。
なお、データ処理部6とデータ送信部7は、計測装置100の外部に配置することもできる。
次に、計測装置100の動作の一例を説明する。
図3は、計測装置の動作を説明するフローチャートである。
計測装置100は、以下の処理を低周波サンプリング部2のサンプリングの度に実行する。
[ステップS1] 制御部1は、低周波サンプリング部2が有する各センサにてサンプリングを実行し、検出結果を取得する。
【0027】
[ステップS2] 制御部1は、各センサの検出結果に基づき、高周波サンプリング部4にてサンプリングを実行するか否かを判断する。具体的には、制御部1は、各センサの検出結果に基づき(a)環境条件、(b)深度、(c)水平位置、(d)ロガーの動揺状態、(e)日時、(f)音圧、背景雑音レベル等の音、の一部又は全部を割り出す。
【0028】
(a)環境条件は、温度センサ221、塩分センサ212、溶存酸素センサ213、照度センサ214の検出結果に基づき割り出す。(b)深度は、深度センサ223の検出結果に基づき割り出す。(c)水平位置は、衛星(GNSS:Global Navigation Satellite System、アルゴス衛星、イリジウム衛星等)や近距離無線(LPWA:Low Power Wide Area)等による電波や、超音波の複数の受信機・送信機間の到達時間差、慣性航法(速度、加速度、ジャイロ、地磁気、深度センサ等で構成される)、潮汐や照度などの環境条件と照合するなどで現在位置を算出するとともに、算出した位置を予めメモリ5に記憶した海底地形図や海洋生物の生息地図を照合することにより条件に適合しているか否かを割り出す。(d)ロガーの動揺状態は、加速度センサ222、ジャイロセンサ224、地磁気センサ225、速度センサ221、深度センサ223等の検出結果に基づき割り出す。(e)日時は、ロガー内部のRTC(Real-Time Clock)により取得する。(f)音圧、背景雑音レベルの音は、低周波サンプリング部2が水中マイク3を用いてサンプリングした結果に基づき割り出す。
上記(a)~(f)の組合せの条件およびその優先順位は装置の低周波サンプリングのセンサ構成や収録目的により予めメモリ5に記憶しておく。
【0029】
例えば、水中音全体(特定音を対象としない)の検出・分類を目的とする場合、水中音の観測に適した水面反射の影響が小さい深度およびノイズの影響が小さいロガーの動揺状態のみを条件とすることができる。一方で、特定音を対象とする場合は、目的の音が発生すると考えられる時間帯(例えば、夜行性の生物の鳴音や活動音を対象とする場合は夜間、海中工事の人工音を対象とする場合は日中など)や水平・鉛直位置(例えば、対象生物が存在すると考えられるエリアや、人工音の影響を評価したいエリア)、さらには環境(対象静物が存在すると考えられる環境条件)を追加条件とすることができる。なお、各条件の具体例は下記の例1-5を参照とする。
【0030】
制御部1は、これらの割り出した結果に基づき、高周波サンプリング部4にてサンプリングを実行するか否かを判断する。判断基準としては特に限定されないが以下の例が挙げられる。
【0031】
(例1)生体の位置する深さが一定の範囲内(例えば対象とする音の少なくとも1波長倍以上の深さ:200Hzの音波の波長は7.5mであるため、水面から7.5m以深)にある場合に、制御部1は、水中音のサンプリングを実行すると判断する。海洋生物は水面から海底まで様々な移動を伴う(生物種や季節や時間などにより変化する)。一方で、水中音は、水面直下では水面からの反射により原理的に音が存在できない。このため、海洋生物により環境中の水中音を観測させる場合、水面付近で計測しても、人工音・環境音・生物音で構成される水中音を高い質で計測することは困難である(装着した生物により水面で発せられる音である呼吸音などは除く)。
【0032】
また、波長の数倍程度の深さまでは水面からの逆位相反射の影響を受ける。このため、音源から同じ距離で水中マイク3を沈めながら音圧を測ると、受信音圧が水深に応じて上下する。水中での音響伝搬におけるもう一つの反射体は海底である。海底は固体であるため、水面のように反射波の位相反転は起こらず、水面のような完全な反射体でもない。吸収され、地質構造によってはいったん海底下に入った音波が境界面で反射され戻ってくることもある。浅い海域では水面反射と水底反射の両方の影響を受けるため、その両方からできるだけ離して水中マイク3を設置するのが望ましい。水面からの距離は、深度を圧力センサで計測することで把握可能であるが、海底からの距離は、超音波により測深するか、水平位置を海底地形図と照合することで把握することが考えられる。
【0033】
以上のように、海洋生物は水面から海底まで様々な移動を伴うが、水中音を観測する深度・水深により水中音を収録するか判断できれば、適切な(有意なデータが取得できる)タイミングで水中音の観測が可能となり、電力を削減することができる。参考までにウミガメから得られた深度のデータの例を
図4に示す。
【0034】
(例2)さらに遊泳時にはフローノイズが入る場合がある。海洋生物が移動しているか、休息しているかは、加速度センサ222(数Hzから数10Hz)や、深度センサ223
【0035】
(多くても1秒に1回程度)の値から判断することができる。このため、単位時間あたりの加速度や深度の変化が一定値以下の場合に海洋生物が休息していると判断し制御部1は水中音のサンプリングを実行すると判断する。これにより集音データのフローノイズを低減できる。
【0036】
(例3)また沿岸域ではテッポウエビなどのパルス音が発生しているが、ある程度、沖合では観測されない。このため、もし沿岸域での水中音の観測を対象としないのであれば、計測装置100を装着した生体が沖合に移動したかどうか判断して、沖合に移動したと判断したときに制御部1は水中音のサンプリングを実行すると判断する。これにより、集音データのノイズを低減できる。
【0037】
(例4)また、生物音を対象とする場合、水温や溶存酸素や塩分、照度などの環境情報により生物の分布が異なるため、予め、目的の対象生物が分布している海域でのみ音響観測することも考えられる。計測装置100を装着した生体が目的の海洋環境の水域に移動したかどうか判断して、目的の海洋環境の水域に移動したと判断したときに制御部1は水中音のサンプリングを実行すると判断する。これにより集音したい海域で集音できる。
【0038】
(例5)また低周波のサンプリングで水中音を取得し、音圧や背景雑音レベルを判断し、予めメモリ5に記憶しておいた音圧以上や一定以下の背景雑音レベルのときに制御部1は水中音の高周波サンプリングを実行すると判断する。これにより集音したいデータをノイズを低減できる。また、低周波のサンプリングで水中音する際に、特定音の音響的特徴を判断し、予めメモリ5に記憶しておいた音響的特徴に合致すれば、制御部1は水中音の高周波サンプリングを実行すると判断する(例えば、音を10kHzでサンプリングし、特定音の特徴が観察されたら、200kHzで音をサンプリングする)。これにより集音したい特定音を効率良く集音できる。
以上の例1~例5によって、適切な(有意なデータが取得できる)タイミングで水中音の観測が可能となり、電力を削減することができる。
【0039】
制御部1は、高周波サンプリング部4にてサンプリングを実行すると判断した場合(ステップS2のYes)、ステップS3に遷移する。高周波サンプリング部4にてサンプリングを実行しないと判断した場合(ステップS2のNo)、
図3の処理を終了する。
[ステップS3] 制御部1の指示を受けた高周波サンプリング部4は、水中マイク3を用いて水中音を計測し、得られた集音データをメモリ5に記憶する。
【0040】
[ステップS4] 前述したように、データ処理部6は、高周波サンプリング部4がサンプリングした集音データをメモリ5から読み出してエッジ処理を実行する。
【0041】
[ステップS5] データ送信部7は、データ処理部6によって処理が施されたデータを例えば衛星や基地局等に送信する。なお、本実施の形態ではサンプリングの都度データ処理を行ってデータを送信した。しかし、これに限らずデータ処理のタイミングやデータ送信のタイミングを任意のタイミングで実行してもよい。
【0042】
以上説明したように、実施の形態の計測装置100によれば、水中において周囲の環境を1秒に1回程度のサンプリングで検出する低周波サンプリング部2と、低周波サンプリング部2の検出結果に応じて水中の音を検出するか否かを判断する制御部1と、制御部1が水中の音を検出すると判断したとき、低周波サンプリング部2のサンプリング周波数より高い周波数で水中の音を検出する高周波サンプリング部4と、を有する。
【0043】
一般的に観測対象とする水中音(人工音、環境音、生物音)は、数Hzから数百kHzの周波数帯の音波で構成される。このため水中音の観測は1秒間に数万~数十万回(すなわち数10~数百kHz)のサンプリング周波数で観測することが多い。一方で、海洋生物の行動や環境を計測する圧力センサ、温度センサ、溶存酸素センサ、塩分センサなどは多くても1秒に1回程度のサンプリング周波数で観測することが多い。このため、サンプリング回数が圧倒的に少ない行動・環境センサで、水中音の観測を行うかどうかの判断ができれば、電力消費を削減することができる。
【0044】
また、近年、水中音の観測において、しばしばどの音源(人工音、環境音、生物音)がいつ、どの程度発生しているか、いわゆるサウンドスケープ情報を把握することが求められている。しかし、音響情報は他のセンサ(温度や圧力センサ等)と比較し高周波(~数100kHz)でサンプリングするため、データの容量が大きく、記録のために大きな電力を要する。膨大なデータをクラウドサーバに送信するには膨大な通信時間、通信電力を要するため、装置側でデータを処理するいわゆるエッジ処理が有効である。計測装置100は、生物の行動や環境によるトリガーに応じて、高周波サンプリング部4にて水中音をサンプリングして集音データを集め、データ処理部6にて集音データを処理し、処理した結果のみクラウドサーバに送信することで、送信にかかる時間および電力を削減することができる。効率的に必要な期間のみ音を収集することで、エッジ側でデータ処理するためのデータ量も減るという複合的な効果もある。
【0045】
また、計測装置100は生物に装着しない場合も想定される。例えば、設置型のブイや、生簀等に本装置を設置することもできる。ブイや生簀での設置型観測においても、音響観測するかどうかを、環境や設置したブイや生簀等の状態(動揺状態等)によるトリガーに応じて判断することで、限られたバッテリーで長期間観測することができると考えられる。電力消費量を減らせれば、トータルの運用期間の向上だけではなく、機器サイズの小型化が可能になり、設置型観測機においても機器の取り扱いや設置が簡便になる効果も考えられる。
図5は、実施の形態の計測装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
計測装置100は、CPU(Central Processing Unit)101によって装置全体が制御されている。
CPU101には、バス106を介してRAM(Random Access Memory)102と複数の周辺機器が接続されている。
【0046】
RAM102は、計測装置100の主記憶装置として使用される。RAM102には、CPU101に実行させるアプリケーションプログラムの少なくとも一部が一時的に格納される。また、RAM102には、CPU101による処理に使用する各種データが格納される。
バス106には、内蔵メモリ103、各種センサ104、水中マイク3および通信インタフェース105が接続されている。
【0047】
内蔵メモリ103は、データの書き込みおよび読み出しを行う。内蔵メモリ103は、計測装置100の二次記憶装置として使用される。内蔵メモリ103には、アプリケーションプログラム、および各種データが格納される。なお、内蔵メモリとしては、例えばフラッシュメモリ等の半導体記憶装置が挙げられる。
各種センサ104は、前述した低周波サンプリング部2および高周波サンプリング部3が備えるセンサである。
【0048】
通信インタフェース106は、ネットワーク50に接続することができる。通信インタフェース106は、ネットワーク50を介して、他のコンピュータまたは通信機器との間でデータを送受信する。
バッテリー107は、各種機器に制御電源を供給する。
以上のようなハードウェア構成によって、本実施の形態の処理機能を実現することができる。
【0049】
以上、本発明の計測装置を、図示の実施の形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、各部の構成は、同様の機能を有する任意の構成のものに置換することができる。また、本発明に、他の任意の構成物や工程が付加されていてもよい。
また、本発明は、前述した各実施の形態のうちの、任意の2以上の構成(特徴)を組み合わせたものであってもよい。
【0050】
なお、上記の処理機能は、コンピュータによって実現することができる。その場合、計測装置100が有する機能の処理内容を記述したプログラムが提供される。そのプログラムをコンピュータで実行することにより、上記処理機能がコンピュータ上で実現される。処理内容を記述したプログラムは、コンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録しておくことができる。コンピュータで読み取り可能な記録媒体としては、磁気記憶装置、光ディスク、光磁気記録媒体、半導体メモリ等が挙げられる。磁気記憶装置には、ハードディスクドライブ、フレキシブルディスク(FD)、磁気テープ等が挙げられる。光ディスクには、DVD、DVD-RAM、CD-ROM/RW等が挙げられる。光磁気記録媒体には、MO(Magneto-Optical disk)等が挙げられる。
【0051】
プログラムを流通させる場合には、例えば、そのプログラムが記録されたDVD、CD-ROM等の可搬型記録媒体が販売される。また、プログラムをサーバコンピュータの記憶装置に格納しておき、ネットワークを介して、サーバコンピュータから他のコンピュータにそのプログラムを転送することもできる。
【0052】
プログラムを実行するコンピュータは、例えば、可搬型記録媒体に記録されたプログラムもしくはサーバコンピュータから転送されたプログラムを、自己の記憶装置に格納する。そして、コンピュータは、自己の記憶装置からプログラムを読み取り、プログラムに従った処理を実行する。なお、コンピュータは、可搬型記録媒体から直接プログラムを読み取り、そのプログラムに従った処理を実行することもできる。また、コンピュータは、ネットワークを介して接続されたサーバコンピュータからプログラムが転送される毎に、逐次、受け取ったプログラムに従った処理を実行することもできる。
【0053】
また、上記の処理機能の少なくとも一部を、DSP(Digital Signal Processor)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、PLD(Programmable Logic Device)等の電子回路で実現することもできる。
【符号の説明】
【0054】
1 制御部
2 低周波サンプリング部
21 環境センサ部
211 温度センサ
212 塩分センサ
213 溶存酸素センサ
214 照度センサ
22 行動センサ部
221 速度センサ
222 加速度センサ
223 深度センサ
224 ジャイロセンサ
225 地磁気センサ
3 水中マイク
4 高周波サンプリング部
5 メモリ
6 データ処理部
7 データ送信部
100 計測装置