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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023045122
(43)【公開日】2023-04-03
(54)【発明の名称】クロスフロータービン
(51)【国際特許分類】
   F03B 1/00 20060101AFI20230327BHJP
【FI】
F03B1/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021153354
(22)【出願日】2021-09-21
(71)【出願人】
【識別番号】596069634
【氏名又は名称】株式会社新井製作所
(71)【出願人】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001726
【氏名又は名称】弁理士法人綿貫国際特許・商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】新井 達也
(72)【発明者】
【氏名】新井 君夫
(72)【発明者】
【氏名】飯尾 昭一郎
【テーマコード(参考)】
3H072
【Fターム(参考)】
3H072AA05
3H072BB20
3H072BB28
3H072BB33
3H072CC12
3H072CC25
(57)【要約】
【課題】キャビテーションの発生を抑制でき、タービン効率を高めることができる低コストのクロスフロータービンを提供する。
【解決手段】本発明に係るクロスフロータービン1は、ケーシング10と、ケーシング10の内部に回転可能に配設されたランナー12と、液体を流入させる流入路14と、流入路14に連通して液体をランナー12に向けて通流させるノズル16とを備え、ノズル16は、ケーシング10に支持されており、内部に液体の通過流量を調整する可動式のガイドベーン18を有すると共に、ガイドベーン18の一端18a側に対向して設けられる第1壁部16Aと、ガイドベーン18の他端18b側に対向して設けられる第2壁部16Bとを有し、第2壁部16Bは、先端部16aにノズル開口角を規定する開口角規定部16xを有し、開口角規定部16xの形状が異なる複数種類が設けられると共に、通過流量に応じた一つが選択されてケーシング10に着脱可能に固定されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシングおよび前記ケーシングの内部に回転可能に配設されたランナーを備えるクロスフロータービンであって、
液体を流入させる流入路と、
前記流入路に連通して、前記液体を前記ランナーに向けて通流させるノズルと、を備え、
前記ノズルは、前記ケーシングに支持されており、内部に前記液体の通過流量を調整する可動式のガイドベーンを有すると共に、前記ガイドベーンの一端側に対向して設けられる第1壁部と、前記ガイドベーンの他端側に対向して設けられる第2壁部と、を有し、
前記第2壁部は、先端部にノズル開口角を規定する開口角規定部を有し、前記開口角規定部の形状が異なる複数種類が設けられると共に、前記通過流量に応じた一つが選択されて前記ケーシングに着脱可能に固定されていること
を特徴とするクロスフロータービン。
【請求項2】
ケーシングおよび前記ケーシングの内部に回転可能に配設されたランナーを備えるクロスフロータービンであって、
液体を流入させる流入路と、
前記流入路に連通して、前記液体を前記ランナーに向けて通流させるノズルと、を備え、
前記ノズルは、前記ケーシングに支持されており、内部に前記液体の通過流量を調整する可動式のガイドベーンを有すると共に、前記ガイドベーンの一端側に対向して設けられる第1壁部と、前記ガイドベーンの他端側に対向して設けられる第2壁部と、を有し、
前記第2壁部は、先端部にノズル開口角を規定する開口角規定部を有し、
前記先端部は、ベース部に対して別体に形成され、且つ、前記開口角規定部の形状が異なる複数種類が設けられると共に、前記通過流量に応じた一つが選択されて前記ベース部に着脱可能に固定されていること
を特徴とするクロスフロータービン。
【請求項3】
前記先端部は、前記ベース部よりも機械的強度の高い材料を用いて形成されていること
を特徴とする請求項2記載のクロスフロータービン。
【請求項4】
前記第2壁部は、前記開口角規定部として、前記通過流量が相対的に多い場合に前記ノズル開口角を大きくする形状のものが選択され、前記通過流量が相対的に少ない場合に前記ノズル開口角を小さくする形状のものが選択されて構成されていること
を特徴とする請求項1~3のいずれか一項記載のクロスフロータービン。
【請求項5】
前記第2壁部は、前記ランナーに流入する前記液体の流量に応じて前記ノズル開口角が設定され、
前記ガイドベーンは、前記ノズル開口角が設定された条件下での前記液体の流量調整用として併用される構成であること
を特徴とする請求項1~3のいずれか一項記載のクロスフロータービン。
【請求項6】
前記ガイドベーンは、前記ランナーの回転軸に沿う方向において非分割の一体構造であること
を特徴とする請求項1~5のいずれか一項記載のクロスフロータービン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケーシングの内部に回転可能に配設されたランナーを備えるクロスフロータービンに関する。
【背景技術】
【0002】
水に例示される液体の流れによって駆動されて、例えば水力発電等に用いられるクロスフロータービンが従来より知られている(特許文献1:特開平4-179865号公報参照)。クロスフロータービンは、周方向に複数のブレードが設けられると共に回転可能に支持されたランナーを備えて構成されている。このランナーに対して、液体が外側から内側に流入する際、および内側から外側に流出する際に、当該液体がブレードに当たることによってランナーが回転する作用が生じる。一般的に、クロスフロータービンは、製造コストが低く、流量が大きく変化する場合でも発電ができるという特性を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4-179865号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
自然エネルギーの有効利用が叫ばれる昨今、農業用水路等の水流によってクロスフロータービンを駆動させて発電を行ういわゆる小水力発電がより一層、注目されている。実用化に当たっては、経済性の確保、具体的には、水流エネルギーを回転エネルギーに変換する際の効率(以下、「タービン効率」と称する場合がある)を向上させること、およびコスト(製造コスト、メンテナンスコスト)を低減させることが課題となる。
【0005】
ここで、農業用水路を例に挙げれば、図3のグラフに示すように、許可水量等の関係から年間の中で非灌漑期(a)、代掻き期(b)、灌漑期(c)等によって水量が大きく変動するという実情がある。より具体的には、水量が最大となる代掻き期(b)は、水量が最小となる非灌漑期(a)に対して、水量の差が3倍以上となる場合が少なくない。したがって、このような農業用水路を水源として用いる場合には、特に水量が少ない時の効率、すなわち、部分負荷運転時のタービン効率を如何にして高めるかが課題となる。
【0006】
この点に関し、特許文献1等に例示されるクロスフロータービンは、ランナーの上流位置に分割式のガイドベーン(案内部材)を備えており、ランナーに流入する水量を制御(調整)して、幅広い流量範囲での運転(実施)を可能としている。
【0007】
しかしながら、上記のような分割式のガイドベーンを備える構成の場合、ガイドベーン自体および分割駆動を行う駆動機構の双方において構造が複雑化し、製造コストおよびメンテナンスコストが共に増加してしまう課題がある。また、流入路のガイドベーン分割部に隔壁を設ける必要があり、隔壁表面と水流との摩擦によりエネルギー損失が発生してしまう課題がある。
【0008】
さらに、ガイドベーンを分割駆動させることである程度の幅(調整範囲)で流量調整が可能となるものの、極端に流量を絞った状態となった場合には、ランナーのブレードの表面もしくは表面近傍領域においてより多くのキャビテーションが発生し得る。このキャビテーションは、ランナーのブレードやケーシング壁面にエロージョン(壊食)を発生させる要因となり、また、ランナー自体において騒音振動を発生させる要因となり、ひいては、回転軸の軸受け寿命を低下させる要因ともなる。したがって、キャビテーションの発生を如何にして抑制するかが課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされ、一体式のガイドベーン構造の採用によって簡素な装置構成およびコストの低減を図ることができると共に、流量を極端に絞ることなく幅広い流量調整を可能とするノズル構成によってキャビテーションの発生を抑制でき、且つ、分割式のガイドベーン構造と比較して特に部分負荷運転時のタービン効率を高めることができるクロスフロータービンを提供することを目的とする。
【0010】
一実施形態として、以下に開示するような解決手段により、前記課題を解決する。
【0011】
開示のクロスフロータービンは、ケーシングおよび前記ケーシングの内部に回転可能に配設されたランナーを備えるクロスフロータービンであって、液体を流入させる流入路と、前記流入路に連通して、前記液体を前記ランナーに向けて通流させるノズルと、を備え、前記ノズルは、前記ケーシングに支持されており、内部に前記液体の通過流量を調整する可動式のガイドベーンを有すると共に、前記ガイドベーンの一端側に対向して設けられる第1壁部と、前記ガイドベーンの他端側に対向して設けられる第2壁部と、を有し、前記第2壁部は、先端部にノズル開口角を規定する開口角規定部を有し、前記開口角規定部の形状が異なる複数種類が設けられると共に、前記通過流量に応じた一つが選択されて前記ケーシングに着脱可能に固定されていることを要件とする。
【発明の効果】
【0012】
開示のクロスフロータービンによれば、一体式のガイドベーン構造を備えることによって、簡素な装置構成が実現でき、製造コストおよびメンテナンスコストの低減を図ることができる。例えば、液体として流量が大きく変動する水源の水を用いる場合であっても、従来の分割式のガイドベーン構造を備える構成と比べて、流量を極端に絞ることのない幅広い流量調整ができると共にタービン効率の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の第1の実施形態に係るクロスフロータービンの一例を示す断面図である。
図2】本発明の第1の実施形態に係るクロスフロータービンの他の例を示す断面図である。
図3】農業用水路における年間の水量変動を模式的に示すグラフである。
図4】本発明の実施形態に係るクロスフロータービンと従来の実施形態に係るクロスフロータービンとのタービン効率の比較を示すグラフである。
図5】本発明の第2の実施形態に係るクロスフロータービンの一例を示す断面図である。
図6】本発明の第2の実施形態に係るクロスフロータービンの他の例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第1の実施形態)
以下、図面を参照して、本発明の第1の実施形態について詳しく説明する。図1および図2は、いずれも本実施形態に係るクロスフロータービン1の例を示す側面断面図(概略図)であって、それぞれ、ノズル16(具体的には、第2壁部16B)の構成が相違する例である。なお、実施形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する場合がある。
【0015】
クロスフロータービン1は、内部を通流させる液体の液流エネルギーを回転エネルギーに変換して取り出す装置である。概略構成として、取入口(不図示)に連通して液体(図中、ドットで表示)を流入させる流入路14と、内部に回転可能に支持されたランナー12が配設されたケーシング10と、流入路14に連通して液体をランナー12に向けて通流させるノズル16と、排出口(不図示)に連通してランナー12を通過した液体を流出させる流出路20とを備えて構成されている。この構成によれば、ケーシング10の内部に流入させた液体をランナー12に当てて、当該ランナー12を回転させることができる。すなわち、この回転力を出力させて発電機等の駆動力として用いることができる。なお、本実施形態においては、「液体」として農業用水路や小規模河川等を水源とする「水」を例に挙げて説明するが、これに限定されるものではない。
【0016】
続いて、本実施形態に係るクロスフロータービン1の各構成について説明する。先ず、流入路14は、後述のノズル16と連結されて水の流路を構成する部材である。なお、流入路14は、一例として、金属材料(例えば、一般鋼、アルミニウム合金、ステンレス鋼、真鍮等)を用いて構成されている。
【0017】
次に、ノズル16は、略箱状のケーシング10によって相互に内部空間が連通するように支持(具体的には、締結ボルトを用いて連結)されている。このノズル16の内部には、水の通過流量を調整する可動式のガイドベーン18が配設されている。また、ノズル16は、ガイドベーン18の一端18a側に対向して設けられる第1壁部16Aと、ガイドベーン18の他端18b側に対向して設けられる第2壁部16Bとを備えている。なお、ノズル16の詳細構成については後述する。
【0018】
本実施形態に係るガイドベーン18は、いわゆる回動式(揺動式)ガイドベーン18であって、ノズル16に支持された回動軸18Aおよび当該回動軸18Aの軸線方向に沿って設けられたガイド体18Bを備えて構成されている。これによれば、回動軸18Aを中心としてガイドベーン18を回動(揺動)させることができ、ガイドベーン18(具体的には、ガイド体18B)の一端18aと第1壁部16Aとの離間寸法およびガイドベーン18(具体的には、ガイド体18B)の他端18bと第2壁部16Bとの離間寸法を変化させることができる。すなわち、ノズル16内部の流路断面積を変化させることができるため、ノズル16内を通流してランナー12に流入する水の流量(通過流量)を調整することができる。
【0019】
具体的に、回動軸18Aを回動させて、ガイド体18Bの一端18aを第1壁部16Aに接近させ且つ他端18bを第2壁部16Bに接近させた場合にノズル16内を通流する水の通過流量を減少させることができる。また逆に、ガイド体18Bの一端18aを第1壁部16Aから離反させ且つ他端18bを第2壁部16Bから離反させた場合にノズル16内を通流する水の通過流量を増加させることができる。例えば、図1図2中において、破線表示のガイドベーン18の設定位置P1は通過流量を最小(この場合は、全閉状態であり通過流量ゼロ)とする位置であり、実線表示のガイドベーン18の設定位置P2は通過流量を最大とする位置である。同図に示すように、ノズル16内を通流する水は、ガイドベーン18に対して第1壁部16A寄りの流路R1と第2壁部16B寄りの流路R2との二つの流路(領域)を通流して、ランナー12に流入する構成となっている。なお、可動式のガイドベーン18は、回動式(揺動式)の構成に限定されるものではなく、公知のスライド式の構成としてもよい(不図示)。
【0020】
また、本実施形態に係るガイドベーン18は、ランナー12の回転軸12Aに沿う方向(すなわち、回転軸12Aの軸線方向と平行方向)において非分割の一体構造となっている。したがって、簡素な構造が実現でき、製造コストおよびメンテナンスコストの低減を図ることができる。その一方で、本発明ならではのノズル構成(後述)によって、従来の分割式のガイドベーン構造と同等以上の幅広い流量調整を可能としている。
【0021】
次に、ランナー12は、回転軸12Aと複数のブレード12Bとを備えて構成されている。本実施形態において、回転軸12Aは、ケーシング10によって回転可能に支持されており、その軸線方向が水平方向と平行になるように配設されている。これによれば、ノズル16内を通流した水をランナー12に流入させて、当該ランナー12を回転させることができる(回転原理については後述する)。なお、ランナー12(具体的には、ブレード12B)とノズル16(具体的には、第1壁部16Aおよび第2壁部16B)との最近接部のクリアランスは、一例として1mm程度に設定される。
【0022】
ここで、複数のブレード12Bは、回転軸12Aを中心として周方向に等間隔で配置されている。これら複数のブレード12Bによって、ランナー12は内側に空間12Cを有する略円筒状に形成されている。一例として、複数のブレード12Bは、それぞれ回転軸12Aの軸線方向の両端部に連結される二つの円板部材(不図示)によって挟持されるようにして固定されている。なお、本実施形態において、回転軸12Aは空間12Cを貫通して設けられているが、これに限定されるものではなく、ケーシング10に支持される両端部のみに設けられる構成としてもよい(不図示)。
【0023】
また、各ブレード12Bは、板状で、且つ、回転軸12Aの軸線方向と直交方向の断面形状が、回転する方向に凸状となる湾曲形状に形成されている。これにより、ランナー12は、径方向外方から空間12C内に水が流入する際および空間12C内から径方向外方へ水が流出する際に、凹状部に沿って流れる水がブレード12Bに周方向(回転方向)の力を与え、ランナー12は図1、2における矢印A方向に回転する作用が生じる。
【0024】
さらに、本実施形態においては、回転軸12Aの軸線方向が水平方向と平行になるようにランナー12が配設されると共に、ランナー12に対して鉛直方向上方にノズル16、また、鉛直方向下方に流出路20がそれぞれ配設された構成を備えている。この構成によれば、ノズル16内を通流した水をランナー12に対して鉛直方向下向きに流入させることができる。すなわち、ノズル16からランナー12に流入する水には重力が作用する。したがって、ランナー12を回転させる力(エネルギー)として、ノズル16内を通流する水の圧力に加え、水に作用する重力も利用することができる。
【0025】
なお、ランナー12(特にブレード12B)および前述のガイドベーン18(特にガイド体18B)は、一例として、機械的強度が相対的に高い金属材料(例えば、ステンレス鋼)を用いて構成されている。これにより、キャビテーションに起因するエロージョン、および土砂摩耗に対して耐久性を高めることができる。ただし、当該材料に限定されるものではなく、他の金属材料(例えば、チタン合金、真鍮)や他の樹脂材料(炭素繊維強化プラスチック)等を用いる構成も考えられる。
【0026】
次に、流出路20は、ランナー12を通過した水を図示しない排出口に向けて通流させる流路を構成する。本実施形態においては、ケーシング10におけるランナー12(流出側となる部位)に隣接する空間によって構成されている。ケーシング10は、一例として、金属材料(例えば、一般鋼、アルミニウム合金、ステンレス鋼、チタン合金、真鍮等)を用いて構成されている。これにより、ランナー12から流出した水は、流出路20を経て装置外へ向かって通流される。なお、他の例として、ケーシング10とは別体の管状部材を用いて形成された流出路20をケーシング10と連結させる構成としてもよい(不図示)。
【0027】
なお、ケーシング10には、内部の流出路20と外部とを連通して通気を行う通気バルブ(不図示)が設けられている。これにより、ランナー12を通過して流出路20内へ流出する水の通流がよりスムーズになる効果が得られる。
【0028】
続いて、本実施形態に特徴的なノズル16の構成について詳しく説明する。ノズル16を構成する第2壁部16Bには、先端部16aにノズル開口角を規定する開口角規定部16xが設けられている。ここで「ノズル開口角」とは、図1におけるθ1や図2におけるθ2に例示されるように、流入路14からノズル16内を通流して、ランナー12に流入する水の流量を設定する開口部の開口量(この場合は、角度)である。
【0029】
本実施形態に係るノズル16の第2壁部16Bは、開口角規定部16xの形状が異なる複数種類が設けられると共に、ランナー12に流入する水の通過流量に応じた一つが選択されてケーシング10に着脱可能に構成されている。選択基準として、通過流量が相対的に少ない場合にはノズル開口角(一例として、図1におけるθ1=80°)を小さくする形状の開口角規定部16xを有する第2壁部16Bが選択され、通過流量が相対的に多い場合にはノズル開口角(一例として、図2におけるθ2=110°)を大きくする形状の開口角規定部16xを有する第2壁部16Bが選択されて、ノズル16が構成される(あくまでも、図1図2は説明用の一例に過ぎず、また、二種類に限定されるものでもない)。なお、本実施形態では、第2壁部16Bは第1壁部16Aと別体の構成としているが、他の例として、一体の構成としてもよい。
【0030】
また、第2壁部16Bは、アルミニウム合金を材料として、アルミダイキャスト金型製造技術によって加工されている。したがって、従来の鉄系材料やステンレス鋼等を用いたノズル構造と比較して、装置重量の大幅な軽減を図ることができる。また、複雑な外面形状であっても精密に且つ低コストで加工することができるため、通流する水の抵抗がより少ない形状で且つキャビテーション発生がより少ない形状を備えるノズル16(第2壁部16B)を実現することができる。ただし、第2壁部16Bは、アルミニウム合金以外の金属材料(例えばステンレス鋼、チタン合金、真鍮等)を用いて構成することも可能である。一方、第1壁部16Aは、第2壁部16Bと一体の場合には、第2壁部16Bと同じ金属材料を用いて構成し、別体の場合には、第2壁部16Bと同じ金属材料(アルミニウム合金)もしくは異なる金属材料(例えば、ステンレス鋼、チタン合金、真鍮等)を用いて構成すればよい。
【0031】
上記の構成によれば、先端部16aの開口角規定部16xが異なる複数種類のノズル16(本実施形態では、第2壁部16B)の中から、ランナー12に流入する水の通過流量に対応する適切なノズル16(第2壁部16B)を選択して、ケーシング10に装着することができる。したがって、例えば農業用水路等の水流のように期別で流量が大きく異なる場合であっても、ランナー12に流入する水の流量が適切となるように調整することができる。具体的には、非灌漑期では先端部16aが長い、すなわち、ノズル開口角が小さく設定される開口角規定部16xを有するノズル16(第2壁部16B)を選択して装着すればよい(図1参照)。一方、代掻き期および灌漑期では先端部16aが短い、すなわち、ノズル開口角が大きく設定される開口角規定部16xを有するノズル16(第2壁部16B)を選択して装着すればよい(図2参照)。ただし、いずれの時期においても天候等の要因によって水源の流量は変化するため、ガイドベーン18をその細かな流量変化の調整用として併用することで、より最適な流量調整が可能となる。
【0032】
これに加えて、仮に、エロージョンや土砂摩耗等によってノズル16を交換するメンテナンス作業が必要になった場合であっても、当該第2壁部16Bのみを脱着するだけで作業を完了させることができる。したがって、ノズル16全体を交換しなければならない構成と比較して、メンテナンス作業が容易となり、交換対象となる部品のコストも低廉に抑えることができる。
【0033】
また、ノズル16内へ流入する流入量が少ないときは、先端部16aの長さが長い第2壁部16Bを設置することによって流入量を絞ることができるため、ガイドベーン18を極端に絞ることなく流入量を調整することができる。したがって、ガイドベーン18を極端に絞らないことで、ガイドベーン18とランナー12のブレード12Bとの間隔が極端に狭くなることがないため、高速水流に起因するキャビテーション、エロージョンの発生を抑制することができる。このように、極端に流量を絞った状態において多発するキャビテーションを抑制できるため、キャビテーションに起因する不具合の発生を防止することができる。具体的には、ガイドベーン18やランナー12のブレード12Bにおけるエロージョン(壊食)の発生を防止することができる。また、ランナー12自体における騒音振動の発生とこれによる回転軸12Aの軸受け寿命の低下を防止することができる。
【0034】
さらに、従来のようなガイドベーン18の分割駆動が不要となる。したがって、ガイドベーン18において、ランナー12の回転軸12Aに沿う方向において非分割の一体構造を採用することができる。これにより、簡素な構造が実現でき、製造コストおよびメンテナンスコストの低減を図ることができる。
【0035】
ここで、図4のグラフに、本発明に係るノズル交換方式すなわち複数種類のノズル16(本実施形態では、第2壁部16B)を用意して通過流量に応じて適切な一つを選択してケーシング10に装着する方式を採用した場合(図4中の破線で表示)と、従来の分割構造のガイドベーンを用いて通過流量に応じて流量調整を行う方式と場合(図4中の実線で表示)とで、タービン効率を相対的に比較した結果を示す。ここで、グラフの横軸は流入する水の流量(通過流量)であり、縦軸は相対的なタービン効率である。なお、図4中の流量比100%の近傍領域においては、本実施形態と従来の実施形態とは共通(ほぼ共通)の結果となるため、一本の一点鎖線で表示する。
【0036】
同図に示すように、従来の分割構造のガイドベーン方式においては、水流がランナーに流入する幅を切り替えて流量変化に対応するため、ランナーの有効幅が狭くなることでタービン効率が低下するデメリットがある。一方、本発明に係るノズル交換方式においては、ランナー12の有効幅は常に最大幅での運用となるためタービン効率の低下は相対的に少なくなるメリットがある。
【0037】
続いて、本実施形態のクロスフロータービン1の動作について説明する。図1図2に示すように、先ず、取入口(不図示)から取り入れられた水は、流入路14内を通流して、ノズル16内へ流入する。このとき、ノズル16内に設けられるガイドベーン18の位置(開度)を制御することによって、ノズル16内を通流する水の流量を調整することができる。
【0038】
次いで、ノズル16内を通流した水は、ランナー12内へ流入する。このとき、ノズル16(本実施形態では、第2壁部16B)の先端部16aに設けられる開口角規定部16xによって設定されるノズル開口角の大きさにより、ランナー12内へ流入する通過流量を調整することができる。前述の通り、通過流量に応じて適切なノズル16(第2壁部16B)を選択可能で、且つ、ケーシング10に着脱可能に構成されているため、流量が大幅に変動(増減)する水源に対して好適に適用することができる。
【0039】
次いで、ランナー12内へ流入した水は、ランナー12外へ流出する。このとき、流入する水および流出する水の両方が、ブレード12Bの凹状部に周方向(回転方向)に押圧する力成分を発生させるため、ランナー12が矢印A方向に回転する作用が生じ、回転軸12Aを介して回転駆動力として出力させることができる。
【0040】
前述の通り、本実施形態においては、ランナー12の配置構成によって、ノズル16内を通流した水をランナー12に対して鉛直方向下向きに流入させることができる。したがって、ランナー12を回転させる力(エネルギー)として、ノズル16内を通流する水の圧力に加え、水に作用する重力も利用することができる。
【0041】
次いで、ランナー12から流出した水は、流出路20内を通流して、排出口(不図示)に向かって通流する。以上が、クロスフロータービン1の動作概要である。
【0042】
(第2の実施形態)
続いて、本発明の第2の実施形態に係るクロスフロータービン1について説明する。本実施形態に係るクロスフロータービン1は、前述の第1の実施形態と基本的な構成は同様であるが、特に、ノズル16の構成において相違点を有する。以下、当該相違点を中心に本実施形態について説明する。ここで、図5および図6は、いずれも本実施形態に係るクロスフロータービン1の例を示す側面断面図(概略図)であって、それぞれ、ノズル16(具体的には、第2壁部16Bの先端部16a)の構成が相違する例である。
【0043】
本実施形態に係るノズル16は、第2壁部16Bが分割構造を有している。具体的に、ケーシング10に固定(一例として、締結ボルトを用いて連結)されるベース部16bと、ベース部16bと別体に形成されて当該ベース部16bに着脱可能に構成される先端部16aとを備えている。
【0044】
この先端部16aには、ノズル開口角を規定する開口角規定部16xが設けられている。本実施形態において、先端部16aは、開口角規定部16xの形状が異なる複数種類が設けられると共に、ノズル16内を通流する水の通過流量に応じた一つが選択されて、ベース部16bに装着される構成となっている。なお、先端部16aをベース部16bに装着(固定)する方法には、一例として、締結ボルトを用いて連結する方法が用いられる。
【0045】
なお、開口角規定部16xに関する選択基準は前述の第1の実施形態と同様であって、通過流量が相対的に少ない場合にはノズル開口角(一例として、図5におけるθ3=80°)を小さくする形状の開口角規定部16xを有する先端部16aが選択され、通過流量が相対的に多い場合にはノズル開口角(一例として、図6におけるθ4=110°)を大きくする形状の開口角規定部16xを有する先端部16aが選択されて、ノズル16の第2壁部16Bが構成される(あくまでも、図5図6は説明用の一例に過ぎず、また、二種類に限定されるものでもない。)。
【0046】
この構成によれば、第1の実施形態と同様の作用効果を得ることができる。すなわち、例えば農業用水路等の水流のように期別で流量が大きく異なる場合であっても、ランナー12に流入する水の流量が適切となるように調整することができる。
【0047】
特に、先端部16aは、ベース部16bよりも機械的強度の高い材料を用いて形成されている構成が好適である。一例として、ベース部16bは、アルミニウム合金を用いて形成され、先端部16aは相対的に機械的強度の高いステンレス鋼を用いて形成されている。第2壁部16Bの先端部16aは、ノズル16内の下面を構成する部材であるため、特に、土砂摩耗が多く発生するという課題がある。この課題に対して、ベース部16bに軽量で加工が容易なアルミニウム合金を用いつつ、先端部16aに機械的強度の高いステンレス鋼を用いることで、土砂摩耗に対する耐久性を高めることができる。これは、エロージョンに対しても有効となる。なお、先端部16aの構成材料はステンレス鋼に限定されるものではなく、他の金属材料(例えば、チタン合金)や他の樹脂材料(炭素繊維強化プラスチック)等を用いる構成も考えられる。
【0048】
本実施形態に係る構成によれば、仮に、エロージョンや土砂摩耗等によってノズル16を交換するメンテナンス作業が必要になった場合であっても、当該先端部16aのみを脱着するだけで作業を完了させることができる。したがって、前述の第1実施形態よりも一層、メンテナンス作業が容易となり、交換対象となる部品のコストも低廉に抑えることができる。
【0049】
なお、本実施形態では、ベース部16bはケーシング10と別体の構成としているが、他の例として、一体の構成としてもよい。また、ベース部16bは第1壁部16Aと別体の構成としているが、他の例として、一体の構成としてもよい。
【0050】
以上説明した通り、開示のクロスフロータービンによれば、一体式のガイドベーン構造を備えることによって、簡素な装置構成が実現でき、製造コストおよびメンテナンスコストの低減を図ることができる。さらに、流量が大きく変動する水源の水を用いる場合であっても、従来の分割式のガイドベーン構造を備える構成と比べて、流量を極端に絞ることのない幅広い流量調整ができると共にタービン効率の向上を図ることができる。
【0051】
なお、本発明は、以上説明した実施形態に限定されることなく、種々変更可能である。一例として、ランナーの回転軸が水平方向と平行に配設される構成を挙げて説明したが、これに限定されるものではなく、ランナーの回転軸が鉛直方向と平行に配設される構成にも適用可能である。
【0052】
また、一例として、農業用水路や小規模河川等を水源の例として説明したが、これに限定されるものではない。また、水以外の液体を用いても動作可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0053】
1 クロスフロータービン
10 ケーシング
12 ランナー
14 流入路
16 ノズル
16A 第1壁部
16B 第2壁部
16x 開口角規定部
18 ガイドベーン
20 流出路
図1
図2
図3
図4
図5
図6