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特開2023-45281老化防止剤、寿命延長剤又はαシヌクレイン毒性軽減剤
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  • 特開-老化防止剤、寿命延長剤又はαシヌクレイン毒性軽減剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023045281
(43)【公開日】2023-04-03
(54)【発明の名称】老化防止剤、寿命延長剤又はαシヌクレイン毒性軽減剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/426 20060101AFI20230327BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230327BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230327BHJP
   A61P 39/00 20060101ALI20230327BHJP
   A61K 31/375 20060101ALI20230327BHJP
   A61K 31/355 20060101ALI20230327BHJP
   A61K 31/522 20060101ALI20230327BHJP
【FI】
A61K31/426
A61K45/00
A61P43/00 111
A61P43/00 105
A61P43/00 121
A61P39/00
A61K31/375
A61K31/355
A61K31/522
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021153589
(22)【出願日】2021-09-21
(71)【出願人】
【識別番号】591173198
【氏名又は名称】学校法人東京女子医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】弁理士法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三谷 昌平
(72)【発明者】
【氏名】茂泉 佐和子
(72)【発明者】
【氏名】伊豆原 郁月
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA19
4C084MA02
4C084MA35
4C084MA52
4C084NA05
4C084NA07
4C084ZB21
4C084ZC01
4C084ZC37
4C084ZC75
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA09
4C086BA18
4C086BC82
4C086CB07
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA35
4C086MA52
4C086NA05
4C086NA07
4C086ZB21
4C086ZC01
4C086ZC37
4C086ZC75
(57)【要約】
【課題】本発明は、フェブキソスタットによる寿命延長効果をさらに増強する方法を見出すことを課題とする。
【解決手段】活性酸素スカベンジャーを組み合わせることによりフェブキソスタットの寿命延長効果を低濃度から高濃度の範囲にわたって増強できることを見出した。また、同組み合わせが、αシヌクレインの毒性を軽減できることをも見出し、本発明を完成するに至った。活性酸素スカベンジャーとしては、ビタミンC、尿酸、ビタミンEから選ばれる1以上が挙げられる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェブキソスタット及び活性酸素スカベンジャーを組み合わせてなる老化防止剤、寿命延長剤又はαシヌクレイン毒性軽減剤。
【請求項2】
活性酸素スカベンジャーがビタミンC、尿酸、ビタミンEから選ばれる1以上である請求項1に記載の老化防止剤、寿命延長剤又はαシヌクレイン毒性軽減剤。
【請求項3】
フェブキソスタットおよびビタミンCを組み合わせてなる老化防止剤、寿命延長剤又はαシヌクレイン毒性軽減剤。
【請求項4】
活性酸素スカベンジャーと組み合わせて使用される、フェブキソスタットの老化防止剤、寿命延長剤又はαシヌクレイン毒性軽減剤としての使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトまたは他の生物の加齢に伴う老化を抑制し、寿命を延ばすための剤に関する。また、本発明はαシヌクレインの毒性を軽減するための剤に関する。
【背景技術】
【0002】
老化は、時間が経つにつれて個体に起こる生物学的変化である。その中でも、特に、生物が死ぬ前に起きる様々な機能低下とその過程を指す。ヒトでは、老化は、しばしば、皮膚のしわ、筋力の低下、聴力障害、視力の低下、および認知症などの神経障害によって特徴付けられる。カロリー制限は老化を減少させ寿命を延長させることが報告されており(非特許文献1)、老化の抑制は、寿命の延長につながる可能性がある。しかし、確実に人間の老化を防止し、寿命を延長させる治療法は知られていない。ただし、さまざまな要因が老化および寿命に関与することが報告されている。その中でも、ミトコンドリアの機能不全や機能障害によるエネルギー低下が、老化のメカニズムであることが示唆されている(非特許文献2-7)。
【0003】
ヒトではミトコンドリアの数と機能は10歳で8%低下することが知られており(非特許文献8)、老人ではミトコンドリアの機能が生体の正常機能を支えるに十分でなくなる可能性がある。ミトコンドリアの機能はエネルギーであるATPを産生する事なので、ミトコンドリア機能の低下は細胞エネルギー低下につながり、それが老化を促進している可能性がある。
【0004】
本発明者らは、すでにフェブキソスタットに寿命延長作用があること、ミトコンドリアの劣化を抑制することを見出し特許出願を行っている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開2020/149218号パンフレット
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Taylor RC, Dillin A (2011). "Aging as an event of proteostasis collapse". Cold Spring Harb Perspect Biol. 3 (5): a004440.
【非特許文献2】Srivastava S. The Mitochondrial Basis of Aging and Age-Related Disorders. Genes (Basel). 2017 Dec 19;8(12). pii: E398.
【非特許文献3】Sun N, Youle RJ, Finkel T. The Mitochondrial Basis of Aging. Mol Cell. 2016 Mar 3;61(5):654-666.
【非特許文献4】Wallace, D.C. (2005) A mitochondrial paradigm of metabolic and degenerative diseases, aging, and cancer: a dawn for evolutionary medicine. Annu. Rev. Genet. 39, 359-407
【非特許文献5】Pfeffer, G., Majamaa, K., Turnbull, D.M., Thorburn, D. and Chinnery, P.F. (2012)
【非特許文献6】Viscomi C. Toward a therapy for mitochondrial disease. Biochem Soc Trans. 2016 Oct 15;44(5):1483-1490.
【非特許文献7】Alston CL, Rocha MC, Lax NZ, Turnbull DM, Taylor RW. The genetics and pathology of mitochondrial disease. J Pathol. 2017 Jan;241(2):236-250.
【非特許文献8】Short KR, Bigelow ML, Kahl J, Singh R, Coenen-Schimke J, Raghavakaimal S, Nair KS. Decline in skeletal muscle mitochondrial function with aging in humans. Proc Natl Acad Sci U S A. 2005 Apr 12;102(15):5618-23.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1には、フェブキソスタットに寿命延長効果があること、また、ミトコンドリアの老化による形態変化を抑制することについて、寿命延長効果はATPの増強に基づくことについて開示されている。
しかし、フェブキソスタット単独投与による寿命延長効果は、フェブキソスタットの濃度を上げても一定以上の高濃度では効果が頭打ちとなり、それ以上の効果が見られないことを本発明者らが見出した。したがって、本発明は、フェブキソスタットによる寿命延長効果をさらに増強する方法を見出すことを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らはフェブキソスタットの寿命延長効果を高めること、特に高濃度のフェブキソスタットの寿命延長効果を効果的に発揮させることを目的として鋭意研究を行ったところ、活性酸素スカベンジャーを組み合わせることによりフェブキソスタットの寿命延長効果を低濃度から高濃度の範囲にわたって増強できることを見出した。また、同組み合わせが、αシヌクレインの毒性を軽減できることをも見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は以下の構成を有する。
(1)フェブキソスタット及び活性酸素スカベンジャーを組み合わせてなる老化防止剤、寿命延長剤又はαシヌクレイン毒性軽減剤。
(2)活性酸素スカベンジャーがビタミンC、尿酸、ビタミンEから選ばれる1以上である(1)に記載の老化防止剤、寿命延長剤又はαシヌクレイン毒性軽減剤。
(3)フェブキソスタットおよびビタミンCを組み合わせてなる老化防止剤、寿命延長剤又はαシヌクレイン毒性軽減剤。
(4)活性酸素スカベンジャーと組み合わせて使用される、フェブキソスタットの老化防止剤、寿命延長剤又はαシヌクレイン毒性軽減剤としての使用。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、フェブキソスタットと活性酸素スカベンジャーの併用投与によりヒト、あるいはヒト以外の生物の老化を防止し、寿命を延長できる。また、ヒト、あるいはヒト以外の生物のαシヌクレインの蓄積による毒性を軽減することができる。
現在、ヒト、あるいはヒト以外の生物の老化を防止し、寿命を延長するために有効な方法や剤が種々検討されているが、その効果は十分とは言えない。従って、本発明の老化防止剤または寿命延長剤は極めて有用である。また、同様に本発明のαシヌクレイン毒性軽減剤も極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】A:L4ステージの野生型(N2)線虫に対し、ミトコンドリア機能阻害剤NaN3(500 μM)と尿酸 (UA) (0,2 mM)添加し、生存時間を測定した結果を示すグラフである。B:L4ステージのN2に対し、NaN3(500 μM)とフェブキソスタット(FBX) (0,20 μg/ml)、アスコルビン酸ナトリウム (0,4 mM)を添加し、生存時間を測定した結果を示すグラフである。
図2】L4ステージの野生型(N2)線虫に対し、FBX(0,20 μg/ml)、アスコルビン酸ナトリウム (0,4 mM)を添加して飼育した場合のミトコンドリアDNA量に対するATP量を表したグラフである 。図中、A. Uは「arbitrary unit」の略である。
図3】野生型(N2)線虫に対し、FBX(0,5,10,20 μg/ml)とアスコルビン酸ナトリウム (0,4 mM)を添加して測定した生存曲線を示すグラフである。
図4】αSyn (S129A)を発現させたIs株(tmIs913[Punc-51:αSynS129A])と、コントロールとしてtmIs907[Punc-51::EGFP]に、FBX(0,10,20 μg/ml)とアスコルビン酸ナトリウム (0,4 mM)を添加し、ブリーチから96時間後の体の大きさを測定した結果を示す。A:体の大きさ(mm2)を定量し、グラフに表した。B:各サンプルの代表的な線虫の写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(老化防止剤、寿命延長剤、αシヌクレイン毒性軽減剤)
本発明の老化防止剤または寿命延長剤は、ヒトまたはヒト以外の他の生物を対象として、老化を抑制し、寿命を延ばすための剤のことをいう。
また、本発明のαシヌクレイン毒性軽減剤は、ヒトまたはヒト以外の他の生物を対象として、αシヌクレインの毒性を軽減するための剤のことをいう。αシヌクレインとは、アミノ酸140残基からなる神経細胞内にあるタンパク質であり、αシヌクレインの遺伝子に変異(異常)がある、もしくは正常なαシヌクレインが異常に蓄積した場合、パーキンソン病の原因になることがわかっている。したがって、αシヌクレインの変異や異常な蓄積による毒性を軽減できればパーキンソン病の治療や予防にもつながる。
本発明の剤は医薬品として用いることができる。
ヒト以外の生物としては、無脊椎動物、鳥類、魚類、両生類、爬虫類、哺乳類などの脊髄動物、特に哺乳動物そのうちでも例えばウシ、イヌ、ウマ、ネコ、ヒツジ、ブタ、ウサギ、マウスなどが含まれる。
【0013】
寿命延長効果の確認については、これまでにも糖尿病治療薬のメトフォルミンはC. elegansで寿命を延ばすことが報告されているが(非特許文献a、b、c、d)、同じ薬物がショウジョウバエ(非特許文献e)、あるいはヒト(非特許文献f)でも老化を防ぎ、様々な原因による死を防ぐことが示唆されている。従って、C.elegansで示された寿命延長効果は、ヒトやそれ以外の生物でも期待できる。
また、αシヌクレインの毒性軽減効果についても、すでにC.elegansのトランスジェニック株S129Aが存在し(非特許文献g)運動異常を呈するが、同時に成長遅延が見られるモデル線虫であり、C.elegansで示されたαシヌクレインの毒性軽減効果は、ヒトやそれ以外の生物でも期待できる。
[非特許文献a]Onken B, Driscoll M. Metformin induces a dietary restriction-like state and the oxidative stress response to extend C. elegans Healthspan via AMPK, LKB1, and SKN-1. PLoS One. 2010 Jan 18;5(1):e8758.
[非特許文献b]Cabreiro F, Au C, Leung KY, Vergara-Irigaray N, Cocheme HM, Noori T, Weinkove D, Schuster E, Greene ND, Gems D. Metformin retards aging in C. elegans by altering microbial folate and methionine metabolism. Cell. 2013 Mar 28;153(1):228-39.
[非特許文献c]De Haes W, Frooninckx L, Van Assche R, Smolders A, Depuydt G, Billen J, Braeckman BP, Schoofs L, Temmerman L. Metformin promotes lifespan through mitohormesis via the peroxiredoxin PRDX-2. Proc Natl Acad Sci U S A. 2014 Jun 17;111(24):E2501-9.
[非特許文献d]Chen J, Ou Y, Li Y, Hu S, Shao LW, Liu Y. Metformin extends C. elegans lifespan through lysosomal pathway. Elife. 2017 Oct 13;6. pii: e31268.
[非特許文献e]Na HJ, Pyo JH, Jeon HJ, Park JS, Chung HY, Yoo MA. Deficiency of Atg6 impairs beneficial effect of metformin on intestinal stem cell aging in Drosophila. Biochem Biophys Res Commun. 2018 Mar 25;498(1):18-24.
[非特許文献f]Campbell JM, Bellman SM, Stephenson MD, Lisy K. Metformin reduces all-cause mortality and diseases of ageing independent of its effect on diabetes control: A systematic review and meta-analysis. Ageing Res Rev. 2017 Nov;40:31-44.
[非特許文献g](Kuwahara et al. J. Biol. Chem. 287; 7098, 2012)
【0014】
(有効成分)
本発明の老化防止、寿命延長剤及びαシヌクレイン毒性軽減剤の1つの有効成分は、フェブキソスタットであり、例えば商品名フェブリク(帝人ファーマ)として知られている。
もう1つの有効成分は、活性酸素スカベンジャーである。活性酸素スカベンジャーとはヒトの身体にある 活性酸素を除去する酵素やビタミンをいい、例えばビタミンC、尿酸、ビタミンEなどが挙げられる。このうちでも尿酸やビタミンCが望ましく、ビタミンCがさらに望ましい。
フェブキソスタット単独の寿命延長効果を活性酸素スカベンジャーにより増強するメカニズムは以下の通りと考えられる。すなわち、まず、フェブキソスタットが寿命を延長するメカニズムは、フェブキソスタットがキサンチンオキシダーゼを抑制することにより、ヒポキサンチンの分解が抑制され、そのヒポキサンチンがヒポキサンチンホスリボシルトランスフェラーゼ(HPRT)を介してATPを増強し、このため老化が抑制され、寿命が延長されためであると考えられる。ところが、高濃度のフェブキソスタットはキサンチンオキシダーゼの産物である尿酸の濃度を低下させる。ここで、尿酸は活性酸素のスカベンジャーとして働くことから、高濃度のフェブキソスタットは尿酸を低下させ、この結果活性酸素作用の増強を招き、最終的に寿命延長効果を減少させると考えられる。したがって、高濃度のフェブキソスタットの投与と同時にビタミンCなどの活性酸素スカベンジャーを投与することで、寿命は高濃度フェブキソスタット単独の場合よりも延長すると考えられ、後述する実施例によりこの効果は実証された。
【0015】
(組み合わせ)
本発明の「フェブキソスタット及び活性酸素スカベンジャーを組み合わせてなる」とは、フェブキソスタットの成分と活性酸素スカベンジャーの成分が組み合わされた態様をすべて含む意味で用いられる。したがって、フェブキソスタットの成分と活性酸素スカベンジャーの成分が混合されて組成物を形成している合剤、あるいは混合されることなく、物理的に別々に存在するが、投与される際に同時期に投与されるようにまとめられて存在する薬剤の両者を含む。フェブキソスタットの成分と活性酸素スカベンジャーの成分が混合されて組成物を形成している合剤の例としては、混合されて製剤化されたものが挙げられる。製剤化の例としては、顆粒、粉体、固形剤、液体などの経口剤および坐薬が挙げられる。物理的に別々に存在するが、投与される際に同時期に投与されるようにまとめられて存在する薬剤としては、いわゆるキット剤や、1つの袋に取りまとめられる形態が挙げられる。同時期とは、必ずしも厳密な意味での同時を意味せず、効果が発揮される範囲で間隔を置く場合も本発明の同時期に含むものとする。例えば、経口剤の場合、一方を食前、一方を食後に飲むような場合は本発明の同時期に投与される場合に相当する。
上記のとおり、フェブキソスタットと活性酸素スカベンジャーをそれぞれ単独の製剤として服用することも可能である。しかし、活性酸素スカベンジャーを単独で服用すると高尿酸血症を来すので有害となることがあり、フェブキソスタットと活性酸素スカベンジャーは必ず同時期に服用する必要があり、この点からキット剤または合剤がより望ましく、合剤がよりいっそう望ましい。
本発明のフェブキソスタットおよび活性酸素スカベンジャーを組み合わせてなる老化防止剤または寿命延長剤の発明は、換言すれば、前記フェブキソスタットおよび活性酸素スカベンジャーを組み合わせて投与する工程を含む老化防止方法、または寿命延長方法の発明と言える。それぞれを投与するタイミングは、前述のとおりである。
【0016】
(投与量)
本発明の剤の投与量は、有効量であればよく、フェブキソスタットは、10~80 mg/日が望ましい。また、活性酸素スカベンジャーも有効量であればよく、ビタミンCであれば100 mg/日、尿酸であれば400 mg/日、ビタミンEであれば7 mg/日程度が望ましい。
【0017】
(投与方法)
投与方法は、上記投与量をそれぞれ1日1回または2回以上に分けて投与することが可能である。このうちでも、フェブキソスタットは、従来のフェブキソスタットの用法のように1日1回投与であってもよく、また、1日2回の投与を行ってもよい。また、活性酸素スカベンジャーも従来の用法のように投与すればよく、例えばビタミンCであれば、1日1回でもよいし、数回に分けてもよい。
合剤とする場合は、1日の投与量、投与方法を考慮して調整すればよい。
【0018】
(投与形態)
本発明医薬の投与形態は特に限定されず、経口または非経口のいずれの投与形態でもよい。また、投与形態に応じて適当な剤形とすることができ、例えば注射剤、あるいはカプセル剤、錠剤、顆粒剤、散剤、丸剤、細粒剤などの経口剤、直腸投与剤、油脂性坐剤、水性坐剤などの各種製剤に調製することができる。
本発明の剤のうち、有効成分フェブキソスタットおよび活性酸素スカベンジャーを含む剤の投与形態は、有効成分フェブキソスタットの投与形態と活性酸素スカベンジャーの投与形態が同じであってもよいし、異なってもよい。同じ投与形態の例としては、両方を錠剤で経口投与する場合、両者を合わせた合剤として経口投与する場合、両者を混合した注射剤で投与する場合などが挙げられる。また、異なる投与形態の例としては、一方を経口剤、一方を注射剤などで投与する場合が挙げられる。
【0019】
(従来の剤との併用)
本発明の老化防止剤または寿命延長剤は、細胞内のATPの増強効果を奏するものであり、本作用に影響を与えない範囲ですでに処方されている既存の老化防止剤または寿命延長剤と併用することができる。また、同様にαシヌクレイン毒性軽減剤についても従来の同作用の剤と併用することができる。
【0020】
以下、本発明の老化防止効果、寿命延長効果、ミトコンドリア保護効果又はαシヌクレイン毒性軽減効果について、実施例をもとに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定して解釈されるものではない。
【実施例0021】
〔実施例1〕ミトコンドリア機能阻害剤処理に対する尿酸とビタミンCによる線虫の耐性能の向上効果の確認
高濃度のフェブキソスタットにより尿酸値が下がり過ぎるとフェブキソスタットの効果が減弱する現象に対して、抗酸化作用を持つ尿酸とビタミンCを投与することで、ミトコンドリア阻害剤に対する耐性がどのように変化するかを検証した。
【0022】
1.試験方法
野生型のC.elegansをL4まで通常のNGM培地(線虫培養用の標準的な培地である)の上で飼育し、L4のC.elegansをNaN3 500 μM、フェブキソスタット(FBX)(0,20 μg/ml)、又は尿酸(UA)2 mM又はビタミンC(アスコルビン酸ナトリウム、Vit.C)4 mMになるように添加したNGMプレートに乗せた(各プレートに20匹ずつ。n=3)。
各プレート上で8, 14, 20, 32時間後に線虫が生存しているか否かを観察し、生存率(%)を求めた。なお、餌となる生きている大腸菌株OP50は事前にUV照射とカナマイシン添加処理をし、線虫をプレートに乗せる前に添加した。また、この際の線虫の生死判定方法は、次のように行った。
動いている線虫や餌を摂取するために咽頭筋がポンピングしている個体は生きていると見做す。動かない線虫がいた場合は白金線(線虫ピッカー)で静かに触れて、反応するかどうかを観察し、反応しない場合を死んでいると見做す。
【0023】
2.試験結果
結果を図1A、Bに示す。
(1)図1A中、ControlはNaN3(500 μM)のみを添加した培地で、UA 2 mMはNaN3(500 μM)及びUA 2 mMを添加した培地で、線虫を生育させた場合の生存曲線を示す。Control群と試験群の検定を行って求めたp値は以下に示す。
Control vs UA 2 mM P < 0.0001
本結果によれば、生育阻害剤であるNaN3のみを添加した場合に比べて、NaN3にUA 2 mMを添加した場合において生育の阻害が抑制され、生存時間が有意に延長したことがわかった。
【0024】
(2)図1B中、「FBX 0 μg/ml, Vit.C 0 mM」(Control)は、NaN3(500 μM)のみを添加した培地で、「FBX 20 μg/ml, Vit.C 0 mM」、「FBX 0 μg/ml, Vit.C 4 mM 」、「FBX 20 μg/ml, Vit.C 4 mM」は、NaN3(500 μM)とそれぞれ表示されたFBX及びVit.Cを添加した培地で、線虫を生育させた場合の生存曲線を示す。Control群と各試験群の検定を行って求めたp値を以下に示す。
「FBX 0 μg/ml, Vit.C 0 mM 」vs「FBX 20 μg/ml, Vit.C 4 mM」 P< 0.0001
「FBX 20 μg/ml, Vit.C 0 mM 」vs「FBX 20 μg/ml, Vit.C 4 mM」 P< 0.0001
「FBX 0 μg/ml, Vit.C 0 mM」 vs 「FBX 0 μg/ml, Vit.C 4 mM」 P< 0.0001
本結果によれば、NaN3のみを添加したControl群に比べて、NaN3にビタミンCを添加した群、及びビタミンCとフェブキソスタットの両方を添加した群のいずれの群においても生育の阻害が抑制され、生存時間が有意に延長したことがわかった。
【0025】
3.考察
(A)野生型線虫にNaN3処理を行うと、30時間ほどで全て死滅した。これに尿酸を2mM添加すると、生存は延長した。NaN3によるミトコンドリア阻害の際には、尿酸による抗酸化作用および未知の作用が重要である可能性を示唆する結果が得られた。
(B)上記仮説は野生型線虫にフェブキソスタット(0 又は 20 μg/ml)を与えた条件下におけるビタミンC添加による効果で支持される。すなわち、フェブキソスタット 20 μg/ml単独処理では野生型個体のNaN3耐性はあまり向上しないのに対して、これにビタミンC(4 mM)を添加すると耐性が向上している。
【0026】
[試験例2]ミトコンドリア阻害剤存在下での線虫内のATP量に対するフェブキソスタットとビタミンCの効果
本試験例では、野生型線虫に対してミトコンドリア機能阻害剤(NaN3)存在下でATP合成活性に対してフェブキソスタットとビタミンCの相乗効果を検証した。
1.試験方法
L4ステージの野生型(N2)の線虫に対し、NaN3 500 μM、フェブキソスタット(FBX) (0または20 μg/ml)とビタミンC(アスコルビン酸ナトリウム,Vit.C)(0 または 4 mM)を添加したNGMプレートの上に乗せ(各約50匹)、14時間後に成虫(Adult)の線虫のみを回収し(産まれた子供は回収しない)、ATP量とミトコンドリアDNA量を測定した。ATP量はサンプル内に含まれるタンパク量でノーマライズを行い、ミトコンドリアDNA量に対するATP量を求めた。
なお、餌となる大腸菌株OP50はNGMプレートに塗布し、その後UV照射とカナマイシン添加処理を行った。
【0027】
<ATP濃度の測定方法>
(1)サンプル調製方法
以下の手順に従いサンプルを調整した。
(i)約50匹を全て1つのチューブに集めた。
(ii)M9 bufferで5回集めた線虫を洗浄した。
(iii)液体窒素で急速凍結した。
(iv)100℃で15分間ボイルした。
(v)5分氷上で冷却した。
(vi)14800g、4℃で10分間遠心分離した。
(vii)上清を新たなチューブに移しこれを測定サンプルとした。
(2)ATP濃度の測定方法
Molecular Probes社のATP Determination Kit(A22066)を使用して測定した。測定方法は、Molecular Probes社が出しているプロトコールに従った。
【0028】
<mtDNA量の測定方法>
回収したサンプルを溶解し、qPCRによりmtDNA量を測定した。
(1)サンプル調製方法
(i)各サンプル、約50匹を集め、M9 bufferで5回洗浄した。
(ii)線虫をbuffer(lysis buffer)で溶解し、これをqPCRのサンプルとした。
(2)qPCR
SYBR GREEN PCR Master Mix (Applied Biosystems)を使用し、Applied Biosystems社のプロトコールに従い反応を行なった。また、ama-1でノーマライズを行なった。
使用したプライマーは以下の通りである。
mitoDNAを検出するため、nd-1に特異的なプライマー
forward (5-AGCGTCATTTATTGGGAAGAAGAC-3)(配列表配列番号1)
reverse (5-AAGCTTGTGCTAATCCCATAAATGT-3)(配列表配列番号2)
ゲノムDNAを検出するため、ama-1を認識するプライマー:
forward (5-AGATGGACCTCACCGACAAC-3)(配列表配列番号3)
reverse (5-CTGCAGATTACACGGAAGCA-3)(配列表配列番号4)
【0029】
2.試験結果
結果を図2に示す。ATP濃度は無添加の個体に比べてビタミンC(4 mM)単独でもフェブキソスタット(20 μg/ml)単独でもやや高くなる傾向にあるが、フェブキソスタットとビタミンC両方の存在下ではさらに高くなった(約50%向上)。
【0030】
[試験例3] フェブキソスタットの寿命延長効果に対するビタミンCの相乗効果
本試験では、寿命延長効果へのフェブキソスタットとビタミンCの相乗効果の検討を行った。
1.試験方法
野生型(N2)の線虫に対し、フェブキソスタット(FBX)(0,5,10,20 μg/ml)とビタミンC(アスコルビン酸ナトリウム ,Vit.C)(0, 4 mM)を添加し、寿命を測定した。
【0031】
【表1】
【0032】
<寿命測定方法>
(1)事前準備
寿命測定に使用する株の発生段階を一定にするために、大腸菌がなくなり1齢幼虫で成長が止まるまで待った。この線虫を餌のあるシャーレに寒天ごと切り植えた。
(2)第0日
切り植えた線虫が成虫になった段階でM9バッファーを用いてシャーレから洗い出し回収した。線虫はエッペンドルフチューブに懸濁した。線虫懸濁液と等量のブリーチ液(4N NaOH、次亜塩素酸液、M9バッファーを2:3:5で混合したもの)を加えて混和した。数分間室温で静置して上清を廃棄した。成虫は破裂して死に、受精卵のみが生存回収された。この卵を通常のNGMプレートに乗せ、培養を開始した。餌は生きている大腸菌株OP50を用いた。
(3)第1日
60 mm NGMプレート(線虫培養用の標準的な培地)に大腸菌株OP50を塗布し、その後、紫外線照射しとカナマイシンを加えた。また、その上にフェブキソスタット(FBX)(0,10,20または40 mg/L)を加えた。ビタミンC(アスコルビン酸ナトリウム,Vit.C)(0または4 mM)を加えた。
(4)第2日
孵化した線虫を、上記(3)の前日に準備しておいたNGMプレート(カナマイシン入り、FBX濃度は0,10,20または40 mg/L)、Vit.C(0または4 mM)に乗せかえて培養を開始した。
(5)第4日
ブリーチした卵が成長して成虫になった段階でFUdR(5-Fluorodeoxyuridine,終濃度0.5 mg/ml)を培地に添加した。
不妊にとなることで、異なる世代の線虫が、観察用サンプルに混ざるのを防止した。
(6)第5日
予め大腸菌を塗布したNGMプレートに紫外線を照射し、カナマイシンとFBX、Vit.Cを入れた35 mm NGMシャーレに上記(4)と同様にFUdR(終濃度0.5 mg/ml)を添加したシャーレを用意しておき、1枚のシャーレに5匹の成虫を置いて飼育を開始した。どのサンプルも1回の実験で10枚以上のシャーレを同時に観察に供した。
(6)第6日以降
1日おきに各個体について生死を判定し、データを記載した。この際の生死判定方法は次のように行った。動いている線虫や餌を摂取するために咽頭筋がポンピングしている個体は生きていると見做す。動かない線虫がいた場合は白金線(線虫ピッカー)で静かに触れて、反応するかどうかを観察した。
(6-1)第11日
新しいシャーレに虫を乗せ変えた。シャーレは2日前に、UV照射し、カナマイシンを添加、1日前にFBXとVit.Cを添加した。
(6-2)第18日
新しいシャーレに虫を乗せ替えた。シャーレは2日前に、UV照射し、カナマイシンを添加、1日前にFBXとVit.Cを添加した。
(6-3)第25日
新しいシャーレに虫を乗せ替えた。シャーレは2日前に、UV照射し、カナマイシンを添加、1日前にFBXとVit.Cを添加した。
(7)観察終了
全ての線虫が死滅したと判断された段階で寿命追跡を終了した。
【0033】
2.試験結果
フェブキソスタット非投与時にビタミンCを投与しても寿命延長効果は見られなかった(Fig.3A)。フェブキソスタット単独投与では、フェブキソスタット非投与に対して、5 μg/ml程度で、寿命延長効果が最大となり、10 μg/mlに増加しても5 μg/mlと同等かむしろやや効果が弱い結果となった(Fig.3B,C)。さらに、20 μg/mlに増加すると、フェブキソスタット非投与との差が小さくなった(Fig.3D)。つまりフェブキソスタットは濃度を一定以上に上げても寿命延長効果は頭打ちでそれ以上は上がらないことがわかった。
一方、フェブキソスタットとビタミンC併用投与では、フェブキソスタット濃度が20 μg/mlとなっても効果の減弱が認められなかった(Fig.3D)。フェブキソスタット20 μg/ml存在下では、XDH-1酵素活性抑制によるヒポキサンチン量の増加がサルベージ回路をより働かせ、かつ尿酸低下による抗酸化作用の低下をビタミンCが補うことにより、フェブキソスタットの寿命延長効果が減弱しないためと考えられる。
以上より、フェブキソスタットとビタミンC併用投与により、フェブキソスタット単独投与に比べて寿命延長効果に優れ、特に、フェブキソスタット濃度が高い場合は、活性酸素スカベンジャーの作用によりフェブキソスタットの寿命延長効果を維持することが可能であることがわかった。
【0034】
[試験例4] 家族性変異型αシヌクレイン発現線虫モデルの表現型に対するフェブキソスタットとビタミンCの相乗効果
本試験例では、線虫として遺伝性パーキンソン病の1つで毒性が強いと言われているαシヌクレイン(αSynuclein S129A)のトランスジェニック個体(以下、S129A発現線虫という)を用いて調べた。このトランスジェニック株は、Kuwahara et al. J.Biol.Chem. 287;7098,2012に記載されたものである。S129A発現線虫は、運動異常を呈するが、同時に成長遅延が見られる。本試験ではこのトランスジェニック株にフェブキソスタット(FBX)とビタミンCを投与し、その成長に対する回復効果を調べた。
【0035】
1.試験方法
(1)試験に供した線虫
αSyn (S129A)を発現させたIs株(tmIs913[Punc-51:αSynS129A])と、コントロールとしてtmIs907[Punc-51::EGFP]を用いた。
(2)αSynS129A トランスジェニック線虫の観察方法
(i)0時間
成虫をブリーチし、卵を取り出し、通常のNGMプレートに乗せた。生きている大腸菌OP50を餌とした。
(ii)36時間後
フェブキソスタット(FBX)(0,10,20 μg/ml)及びアスコルビン酸ナトリウム(Vit.C 0,4 mM)を添加した培地上に線虫を載乗せた。餌となる大腸菌株OP50は事前にUV照射とカナマイシン添加処理をした。
(iii)96時間後
線虫を写真撮影し、体の大きさ(mm2)を測定した。
【0036】
2.試験結果
図4Bは代表的な成長の程度を画像で示し、図4Aでは統計解析結果を示している。これらの図によれば、フェブキソスタット非存在下では著しい成長阻害が見られた。その際に、ビタミンC単独で投与しても効果は見られなかった。また、フェブキソスタット単独投与でも効果は弱いものであった。一方、フェブキソスタット(10 μg/mlと20 μg/ml)存在下かつビタミンC(4 mM)存在下では、成長が促進されていることが分かる。以上より、フェブキソスタットとビタミンCの相乗効果によりαシヌクレインの毒性が軽減されていることが分かった。
【0037】
〔製剤例1〕合剤の例
1錠あたり下記を含む経口投与用の合剤(錠剤タイプ)を製造した。
フェブキソスタット 20mg
アスコルビン酸ナトリウム 0.5g
アルファ化デンプン(崩壊バンダー) 70mg
ケイ化微結晶セルロース(充填剤) 32.656mg
クロスカルメロースナトリウム(崩壊剤) 10mg
ステアリン酸マグネシウム(潤滑剤) 0.8mg
【0038】
〔製剤例2〕キット剤の例
フェブキソスタットを含む下記A.の組成の錠剤とイノシンを含む下記Bの組成の剤を、それぞれ混ざらないように区切った同一袋に入れ、1回分を調整した。これを2回分すなわち1日分を同一の箱に梱包しキット剤を製造した。
A.フェブキソスタット錠
フェブキソスタット 20mg
アルファ化デンプン(崩壊バンダー) 70mg
ケイ化微結晶セルロース(充填剤) 32.656mg
クロスカルメロースナトリウム(崩壊剤) 10mg
ステアリン酸マグネシウム(潤滑剤) 0.8mg
B.ビタミンC
アスコルビン酸ナトリウム 0.5g
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明によれば、フェブキソスタットと活性酸素スカベンジャーの併用投与によりヒト、あるいはヒト以外の生物の老化を防止し、寿命を延長できる。また、ヒト、あるいはヒト以外の生物のαシヌクレインの蓄積による毒性を軽減することができる。
現在、ヒト、あるいはヒト以外の生物の老化を防止し、寿命を延長するために有効な方法や剤が種々検討されているが、その効果は十分とは言えない。従って、本発明の老化防止剤または寿命延長剤は極めて有用である。また、同様に本発明のαシヌクレイン毒性軽減剤も極めて有用である。
図1
図2
図3
図4
【配列表】
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