(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023045288
(43)【公開日】2023-04-03
(54)【発明の名称】軸受温度監視装置
(51)【国際特許分類】
F16N 29/00 20060101AFI20230327BHJP
F01M 1/20 20060101ALI20230327BHJP
F16C 9/02 20060101ALI20230327BHJP
F16N 7/18 20060101ALI20230327BHJP
F16N 29/02 20060101ALI20230327BHJP
G01K 1/14 20210101ALI20230327BHJP
【FI】
F16N29/00 B
F01M1/20 Z
F16C9/02
F16N7/18
F16N29/02
G01K1/14 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021153601
(22)【出願日】2021-09-21
(71)【出願人】
【識別番号】303047034
【氏名又は名称】株式会社ジャパンエンジンコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉川 秀一
【テーマコード(参考)】
3G313
3J033
【Fターム(参考)】
3G313AB11
3G313BC02
3G313EA17
3G313FA10
3J033AA05
3J033FA20
3J033GA05
(57)【要約】
【課題】監視対象とする軸受温度を簡易な構成で監視することができる軸受温度監視装置を提供すること。
【解決手段】内燃機関のクランク軸の軸心回りに回転するクランクのクランクピンを回転自在に軸支する軸受部の温度を監視するための軸受温度監視装置において、上方に開口する入口部を有して前記内燃機関の内壁面に設けられ、前記クランクの回転に伴って前記クランク軸の軸心回りに公転運動する前記軸受部から飛散した潤滑油を、前記入口部を介して受け入れる油受入部と、前記油受入部が受け入れた前記潤滑油の温度を測定する温度測定部と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のクランク軸の軸心回りに回転するクランクのクランクピンを回転自在に軸支する軸受部の温度を監視するための軸受温度監視装置において、
上方に開口する入口部を有して前記内燃機関の内壁面に設けられ、前記クランクの回転に伴って前記クランク軸の軸心回りに公転運動する前記軸受部から飛散した潤滑油を、前記入口部を介して受け入れる油受入部と、
前記油受入部が受け入れた前記潤滑油の温度を測定する温度測定部と、
を備えることを特徴とする軸受温度監視装置。
【請求項2】
前記油受入部の上方に設けられ、前記内燃機関の内壁面を伝って流下する潤滑油を遮る遮断部を備える、
ことを特徴とする請求項1に記載の軸受温度監視装置。
【請求項3】
前記油受入部は、前記内燃機関の内壁面に沿って上下に複数設けられている、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の軸受温度監視装置。
【請求項4】
前記油受入部の前記入口部は、前記クランク軸の軸心方向において前記軸受部よりも幅狭に構成され、前記クランク軸の軸心方向における前記軸受部の両端部のうち少なくとも一端部に対応して一つ以上設けられている、
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一つに記載の軸受温度監視装置。
【請求項5】
前記油受入部の入口幅は、前記クランク軸の軸心方向において前記軸受部の幅以上であり、前記内燃機関の前記軸受部と連動するクロスヘッドのクロスヘッドピン軸受部の幅未満である、
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一つに記載の軸受温度監視装置。
【請求項6】
前記油受入部は、前記内燃機関の前記クランクピンに対応するピストンが上死点に位置するときの前記軸受部の最上位置と、前記ピストンが下死点に位置するときの前記軸受部の最下位置との間の領域に設けられている、
ことを特徴とする請求項1~5のいずれか一つに記載の軸受温度監視装置。
【請求項7】
前記温度測定部によって測定された前記潤滑油の温度をもとに、前記軸受部の温度が異常であるか否かを判定する制御部と、
前記制御部による前記軸受部の温度の判定結果を出力する出力部と、
を備えることを特徴とする請求項1~6のいずれか一つに記載の軸受温度監視装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の軸受温度監視装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、船舶に搭載される舶用ディーゼルエンジン等の内燃機関においては、クランクピン軸受部の異常を早期に発見するための一手段として、クランクピン軸受部の温度の監視が行われている。クランクピン軸受部は、シリンダ内のピストンの往復運動をクランク軸の回転運動に変換するクランクのクランクピンを回転自在に軸支する軸受部である。
【0003】
通常、クランクピン軸受部の摺動面(内周面)とクランクピンとの間には潤滑油が供給され、当該潤滑油の油膜により、これらクランクピン軸受部とクランクピンとの円滑な摺動性が確保されている。しかし、クランクピン軸受部の摺動面とクランクピンとの間への異物の混入や、クランクピン軸受部の疲労破壊等に起因して、クランクピン軸受部の摺動面に傷や亀裂等の損傷が発生する恐れがある。この場合、上記潤滑油の油膜形成が阻害され、この結果、クランクピン軸受部の摺動面とクランクピンのジャーナルとが金属接触を起こすことから、クランク軸受部の温度(以下、軸受温度という)が過度に上昇する。
【0004】
上記の軸受温度を監視して軸受温度の過度な上昇を早い段階で検知すれば、クランクピン軸受部の異常を早期に発見することができる。これに基づき、例えば、内燃機関の負荷(エンジン負荷)を低下させて当該クランクピン軸受部の損傷の進行を抑制し、或いは、内燃機関を停止してクランクピン軸受部の点検または交換等のメンテナンスを行うことにより、クランクピン軸受部の摺動面またはジャーナルの焼損等、内燃機関の重大な損傷を未然に防ぐことが可能である。
【0005】
このような軸受温度を監視するための従来の測温技術として、例えば、クランクピン軸受部に温度センサを取り付け、軸受温度の上昇を当該温度センサによって検出するものが提案されている(特許文献1参照)。特に、この特許文献1に記載の従来技術では、温度上昇によって形状が変化する形状記憶合金で上記温度センサが製作され、軸受温度が過度に上昇した際の上記温度センサの動きが、磁気センサ等の近接スイッチを用いて非接触に検出されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した従来技術では、温度センサを取り付けた状態のクランクピン軸受部がクランク軸の回転運動に伴いクランクピンとともにクランク軸の軸心回りに公転運動するため、公転運動中のクランクピン軸受部から遠心力等によって温度センサが脱落する恐れがあり、この結果、軸受温度を測定できなくなる場合がある。
【0008】
また、上記温度センサはクランクピン軸受部とともに公転運動することになるため、上記温度センサから非接触に軸受温度の上昇を検出する上記近接スイッチを、上記温度センサと接触しないように近接させ得る位置に固定することは困難である。すなわち、クランクピン軸受部の公転運動中に、これら温度センサおよび近接スイッチが互いに接触して破損してしまい、軸受温度を測定できなくなる恐れがある。或いは、上記のような温度センサと近接スイッチとの接触を回避すべく温度センサと近接スイッチとの離間距離を長くすれば、上記温度センサの動きが上記近接スイッチで検出されない恐れがあるため、軸受温度の上昇を安定して検出することが困難になる。
【0009】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、監視対象とする軸受温度を簡易な構成で監視することができる軸受温度監視装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る軸受温度監視装置は、内燃機関のクランク軸の軸心回りに回転するクランクのクランクピンを回転自在に軸支する軸受部の温度を監視するための軸受温度監視装置において、上方に開口する入口部を有して前記内燃機関の内壁面に設けられ、前記クランクの回転に伴って前記クランク軸の軸心回りに公転運動する前記軸受部から飛散した潤滑油を、前記入口部を介して受け入れる油受入部と、前記油受入部が受け入れた前記潤滑油の温度を測定する温度測定部と、を備えることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る軸受温度監視装置は、上記の発明において、前記油受入部の上方に設けられ、前記内燃機関の内壁面を伝って流下する潤滑油を遮る遮断部を備える、ことを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る軸受温度監視装置は、上記の発明において、前記油受入部は、前記内燃機関の内壁面に沿って上下に複数設けられている、ことを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る軸受温度監視装置は、上記の発明において、前記油受入部の前記入口部は、前記クランク軸の軸心方向において前記軸受部よりも幅狭に構成され、前記クランク軸の軸心方向における前記軸受部の両端部のうち少なくとも一端部に対応して一つ以上設けられている、ことを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る軸受温度監視装置は、上記の発明において、前記油受入部の入口幅は、前記クランク軸の軸心方向において前記軸受部の幅以上であり、前記内燃機関の前記軸受部と連動するクロスヘッドのクロスヘッドピン軸受部の幅未満である、ことを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係る軸受温度監視装置は、上記の発明において、前記油受入部は、前記内燃機関の前記クランクピンに対応するピストンが上死点に位置するときの前記軸受部の最上位置と、前記ピストンが下死点に位置するときの前記軸受部の最下位置との間の領域に設けられている、ことを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係る軸受温度監視装置は、上記の発明において、前記温度測定部によって測定された前記潤滑油の温度をもとに、前記軸受部の温度が異常であるか否かを判定する制御部と、前記制御部による前記軸受部の温度の判定結果を出力する出力部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る軸受温度監視装置によれば、監視対象とする軸受温度を簡易な構成で監視することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態1に係る軸受温度監視装置が適用された内燃機関の一構成例を示す模式図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施形態1に係る軸受温度監視装置の一構成例を示す模式図である。
【
図3】
図3は、
図2に示す軸受温度監視装置のA-A線断面模式図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施形態1における油受入部の高さ方向の一配置例を示す模式図である。
【
図5】
図5は、本発明の実施形態2に係る軸受温度監視装置の一構成例を示す模式図である。
【
図6】
図6は、本発明の実施形態2における軸受温度監視装置の遮断部の幅を説明するための模式図である。
【
図7】
図7は、本発明の実施形態2における遮断部が油を遮断する状態の一例を示す模式図である。
【
図8】
図8は、本発明の実施形態3に係る軸受温度監視装置の一構成例を示す模式図である。
【
図9】
図9は、本発明の実施形態3における多段構造の油受入部の幅を説明するための模式図である。
【
図10】
図10は、本発明の実施形態4に係る軸受温度監視装置の一構成例を示す模式図である。
【
図12】
図12は、本発明の実施形態5に係る軸受温度監視装置の一構成例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、添付図面を参照して、本発明に係る軸受温度監視装置の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本実施形態により、本発明が限定されるものではない。また、図面は模式的なものであり、各要素の寸法の関係、各要素の比率などは、現実のものとは異なる場合があることに留意する必要がある。図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。また、各図面において、同一構成部分には同一符号が付されている。
【0020】
(実施形態1)
まず、本発明の実施形態1に係る軸受温度監視装置が適用された内燃機関の構成について説明する。
図1は、本発明の実施形態1に係る軸受温度監視装置が適用された内燃機関の一構成例を示す模式図である。
図1には、この内燃機関の一例として、船舶に搭載される舶用ディーゼルエンジン10が模式的に図示されている。例えば、舶用ディーゼルエンジン10は、ユニフロー掃排気方式のクロスヘッド型ディーゼルエンジン等の2ストロークディーゼルエンジンであり、船舶の推進用プロペラ(図示せず)を回転駆動させるものである。
【0021】
詳細には、
図1に示すように、舶用ディーゼルエンジン10は、高さ方向D1の下側に位置する台板1と、台板1の上に設けられる架構5と、架構5の上に設けられるシリンダジャケット11とを備える。これらの台板1と架構5とシリンダジャケット11とは、舶用ディーゼルエンジン10の高さ方向D1(すなわち上下方向)に延在する複数のタイボルト22等の連結部材により、一体に締結されて固定されている。また、舶用ディーゼルエンジン10は、シリンダジャケット11に設けられるシリンダ12と、シリンダ12の内部に設けられるピストン15と、ピストン15の往復運動に連動して回転運動するクランク軸2とを備える。
【0022】
台板1は、舶用ディーゼルエンジン10のクランク軸2等を収容するクランクケースを構成するものである。
図1に示すように、台板1の内部には、クランク3およびクランクピン4を有するクランク軸2と当該クランク軸2の軸受部(図示せず)とが設けられる。クランク軸2は、船舶の推進力を出力する出力軸の一例であり、上記軸受部によって回転自在に軸支されている。このクランク軸2には、クランク3のクランクピン4を介して連接棒6の下端部が連結されている。この連接棒6の下端部は、
図1に示すように、クランクピン4を回転自在に軸支するクランクピン軸受部7となっている。また、舶用ディーゼルエンジン10には、
図1に示すように、クランクピン軸受部7の温度(軸受温度)を監視するための軸受温度監視装置30が設けられている。軸受温度監視装置30の構成の詳細については、後述する。
【0023】
架構5の内部には、
図1に示すように、上記クランクピン軸受部7を有する連接棒6と、摺動板8と、クロスヘッド9とが設けられる。架構5は、ピストン軸方向に沿って設けられる摺動板8が舶用ディーゼルエンジン10の幅方向D2に間隔を空けて一対をなすように、台板1上に配置されている。連接棒6は、その下端部(クランクピン軸受部7)がクランクピン4に連接された態様で、一対の摺動板8の間に配置されている。クロスヘッド9には、ピストン棒16の下端部に接続されるクロスヘッドピン9aと、連接棒6の上端部に接続されるクロスヘッドピン軸受部(図示せず)とが、クロスヘッドピン9aの下半部においてそれぞれ回動自在に連結される。このクロスヘッド9は、
図1に示すように一対の摺動板8の間に配置され、この一対の摺動板8に沿って往復動自在に支持されている。
【0024】
シリンダジャケット11は、
図1に示すように、架構5の上部に設けられ、シリンダ12を支持する。シリンダ12は、
図1に示すように、シリンダライナ13とシリンダカバー14とによって構成される筒状の構造体(気筒)であり、燃料を燃焼させるための燃焼室17を有する。シリンダライナ13は、例えば円筒形状の構造体であり、シリンダジャケット11の内側に支持されている。シリンダライナ13の上部にはシリンダカバー14が固定され、これにより、シリンダライナ13の内部空間(燃焼室17等)が区画される。このシリンダライナ13の内部空間には、ピストン15がピストン軸方向(
図1では高さ方向D1)に往復動自在に設けられる。このピストン15の下端部には、
図1に示すように、ピストン棒16の上端部が連結されている。
【0025】
また、シリンダカバー14には、
図1に示すように、排気弁18と上部動弁装置19とが設けられている。排気弁18は、シリンダ12内の燃焼室17に通じる排気管21の排気口(排気ポート)を開閉可能に閉止する弁である。上部動弁装置19は、排気弁18を開閉駆動させる装置である。燃焼室17は、このような排気弁18と、上述したシリンダライナ13、シリンダカバー14およびピストン15とによって囲まれた空間である。また、舶用ディーゼルエンジン10は、シリンダ12の近傍に、排気マニホールド20を備える。排気マニホールド20は、シリンダ12の燃焼室17から排気管21を通じて排ガスを受け入れ、受け入れた排ガスを一時貯留して、この排ガスの動圧を静圧に変える。
【0026】
上述したような構成を有する舶用ディーゼルエンジン10において、シリンダ12内の燃焼室17には、掃気トランクから掃気ポート等(いずれも図示せず)を通じて燃焼用気体が供給される。この燃焼室17内においては、燃焼用気体がピストン15によって圧縮され、燃料噴射弁(図示せず)から供給された燃料が当該燃焼用気体によって着火して燃焼する。そして、燃焼室17での燃料の燃焼によって発生したエネルギーにより、ピストン15は、シリンダライナ13内をピストン軸方向に往復運動する。このとき、上部動弁装置19によって排気弁18が作動してシリンダ12の排気ポートが開放されると、燃料の燃焼後にシリンダライナ13内に残留する残留ガスが排ガスとして排気管21に排出される。これとともに、シリンダライナ13の内部空間には、掃気トランクから掃気ポート等を通じて新たに燃焼用気体が導入される。
【0027】
また、ピストン15が上述したようにピストン軸方向に往復運動すると、ピストン15とともにピストン棒16がピストン軸方向に往復運動する。これに連動して、クロスヘッド9は、摺動板8に沿ってピストン軸方向に往復運動する。これにより、ピストン15の往復運動は、クロスヘッド9を介して連接棒6に伝わり、連接棒6の下端部(クランクピン軸受部7)にクランクピン4が軸支されているクランク3の回転運動に変換される。クランク軸2は、このクランク3の回転運動に伴って回転運動し、プロペラ軸とともに船舶の推進用プロペラを回転させる。
【0028】
なお、本明細書では、説明の便宜上、
図1に示すように、舶用ディーゼルエンジン10について高さ方向D1、幅方向D2および軸方向D3が設定されているが、これらの方向は本発明を限定するものではない。舶用ディーゼルエンジン10の高さ方向D1は、上下方向であり、例えば、ピストン15の往復運動の方向に対して平行である。舶用ディーゼルエンジン10の幅方向D2は、高さ方向D1および軸方向D3に対して垂直な方向である。舶用ディーゼルエンジン10の軸方向D3は、クランク軸2の長手方向(すなわち軸心方向)である。これらの高さ方向D1、幅方向D2および軸方向D3は、互いに垂直な方向である。なお、高さ方向D1、幅方向D2および軸方向D3は、舶用ディーゼルエンジン10については勿論、舶用ディーゼルエンジン10を構成する各構成部についても同様である。
【0029】
(軸受温度監視装置の構成)
つぎに、本発明の実施形態1に係る軸受温度監視装置30の構成について説明する。
図2は、本発明の実施形態1に係る軸受温度監視装置の一構成例を示す模式図である。
図2には、
図1に示した舶用ディーゼルエンジン10のうち、この軸受温度監視装置30を含む要部を軸方向D3から見た模式図が示されている。
図3は、
図2に示す軸受温度監視装置のA-A線断面模式図である。軸受温度監視装置30は、舶用ディーゼルエンジン10のクランク軸2の軸心回りに回転するクランク3のクランクピン4を軸支するクランクピン軸受部7の温度(軸受温度)を監視するための装置である。軸受温度監視装置30は、監視対象とするクランクピン軸受部7毎に舶用ディーゼルエンジン10に設けられている。例えば、軸受温度監視装置30の配置数は、舶用ディーゼルエンジン10が備えるクランクピン軸受部7の配置数(すなわち気筒数)と同数である。本実施形態1において、軸受温度監視装置30は、
図2、3に示すように、油受入部31と、温度測定部33とを備える。
【0030】
油受入部31は、監視対象とするクランクピン軸受部7から飛散した潤滑油を受け入れるものである。詳細には、
図2、3に示すように、油受入部31は、上方(高さ方向D1の上側)に開口する入口部31aを有する容器状に構成され、舶用ディーゼルエンジン10の内壁面27からクランク軸2側に向かって延出するように当該内壁面27に設けられる。油受入部31が設けられる上記内壁面27としては、例えば、上述したクロスヘッド9および連接棒6等を収容する架構5の内壁面(架構壁25の内壁面)、クランク軸2等を収容する台板1の内壁面(台板壁26の内壁面)が挙げられる。なお、
図2では、架構壁25の内壁面27に設けられた油受入部31が例示されている。
【0031】
ここで、クランクピン軸受部7は、上述したように、クランク3のクランクピン4を回転自在に軸支する軸受部であり、クロスヘッド9と接続される連接棒6の下端部に設けられている。特に図示しないが、クランクピン軸受部7の摺動面とクランクピン4の外周面との間には、潤滑油が順次供給されている。これらクランクピン軸受部7とクランクピン4との潤滑性は、当該潤滑油の油膜によって確保される。また、クランク3は、ピストン棒16を介してピストン15(
図1参照)と連結されているクロスヘッド9の往復運動(すなわちピストン15の往復運動)に伴い、クランク軸2の軸心2a回りに回転する。クランクピン軸受部7は、このクランク3の回転に伴い、クランクピン4とともにクランク軸2の軸心2a回りに公転運動する。このクランクピン軸受部7の公転軌道Kは、例えば
図2に示すように、クランク軸2の軸心2aを中心とし、クランク軸2の軸心2aとクランクピン4の軸心4aとの間の距離を半径とする円形の軌道である。クランクピン軸受部7は、上述したピストン15の往復運動に伴い、公転軌道Kに沿って、最上位置P1側から最下位置P2側へ向かう下降動作(
図2中の矢印Y1参照)と、最下位置P2側から最上位置P1側へ向かう上昇動作(
図2中の矢印Y2参照)とを繰り返す公転運動を行う。
【0032】
なお、最上位置P1は、クランクピン軸受部7の公転軌道Kのうち最も上の位置であり、ピストン15が上死点に位置するときのクランクピン軸受部7の位置である。最下位置P2は、クランクピン軸受部7の公転軌道Kのうち最も下の位置であり、ピストン15が下死点に位置するときのクランクピン軸受部7の位置である。
【0033】
上述したように公転運動するクランクピン軸受部7からは、例えば
図2中の破線矢印で示されるように、潤滑油100が飛散する。具体的には、
図2に示すように、潤滑油100は、クランクピン軸受部7の公転運動による遠心力F1と、公転軌道Kの接線方向の力である接線方向力F2と、重力F3との合成力により、公転運動中のクランクピン軸受部7から放出される。その後、潤滑油100は、作用し続ける重力F3と空気抵抗とにより、放物線状に飛散する。油受入部31は、公転運動中のクランクピン軸受部7から飛散した潤滑油100を、入口部31aを介して受け入れる。このような油受入部31の配置および寸法は、例えば、実験またはシミュレーションの結果に基づいて、クランクピン軸受部7から飛散した潤滑油100を、舶用ディーゼルエンジン10の内壁面27等を介さずダイレクトに且つ効率よく受け入れできるように設定される。
【0034】
詳細には、油受入部31は、舶用ディーゼルエンジン10の内壁面のうち、公転運動中のクランクピン軸受部7から潤滑油100が飛散し得る領域内に配置される。例えば、本実施形態1において、油受入部31は、クランク軸2の軸心2aと交差する方向にクランクピン軸受部7の公転軌道Kを囲む台板1および架構5のうち、架構5の内壁面に配置される。特に、クランクピン軸受部7からの潤滑油100を受け入れ易くするという観点から、油受入部31は、幅方向D2における架構5の両側の内壁面のうち、クランクピン軸受部7から潤滑油100がより多く飛散し易い側、例えば
図2に示すように、クランクピン軸受部7が公転運動時に下降動作する側(
図2では公転軌道Kの右側)の架構壁25の内壁面27に配置されることが好ましい。
【0035】
また、クランクピン軸受部7の潤滑油100は、クランクピン4の軸心方向(軸心4aの長手方向)におけるクランクピン軸受部7の第1端部7aおよび第2端部7bとクランク3との間隙S1、S2(
図3参照)から放出されて飛散する。したがって、油受入部31は、
図3に示すように、クランクピン軸受部7の第1端部7aおよび第2端部7bの各々からクランクピン4の軸心4aと直交する方向に延出する仮想直線(図示せず)が油受入部31の入口部31aの内部に位置するように配置されることが好ましい。
【0036】
図4は、本発明の実施形態1における油受入部の高さ方向の一配置例を示す模式図である。
図4に示すように、油受入部31は、架構壁25または台板壁26の内壁面27(
図4では架構壁25の内壁面27)に設けられている。油受入部31がクランクピン軸受部7から飛散した潤滑油100をより多く受け入れるという観点から、油受入部31は、
図4に示すように、舶用ディーゼルエンジン10の高さ方向D1において、クランクピン4に対応するピストン15(
図1参照)が上死点に位置するときのクランクピン軸受部7の最上位置P1と、ピストン15が下死点に位置するときのクランクピン軸受部7の最下位置P2との間の領域に設けられることが好ましい。さらには、
図4に示すように、油受入部31は、最上位置P1と最下位置P2との間の領域内であって、高さ方向D1におけるクランク軸2の軸心2aの位置(軸心位置P3)よりも上方に配置されることが一層好ましい。
【0037】
油受入部31の入口幅W1は、例えば
図3に示すように、クランク軸2の軸心方向(軸心2aの長手方向)における入口部31aの開口寸法(開口幅)である。この油受入部31の入口幅W1は、クランクピン軸受部7から飛散した潤滑油100の取りこぼしを少なくするという観点から、より幅広であることが好ましく、当該潤滑油100以外の余計な油を受け入れ難くするという観点から、より幅狭であることが好ましい。すなわち、油受入部31の入口幅W1は、これら両方の観点を加味して、油受入部31がクランクピン軸受部7からの潤滑油100を効率よく受け入れできるように設定される。例えば
図3に示すように、油受入部31の入口幅W1は、クランクピン軸受部7の幅W2以上であることが好ましい。また、油受入部31の入口幅W1は、クロスヘッド9の幅W3未満であることが好ましい。
【0038】
なお、クランクピン軸受部7の幅W2は、クランク軸2の軸心方向におけるクランクピン軸受部7の寸法である。また、クロスヘッド9は、例えば
図3に示すように、クロスヘッドピン9aと、当該クロスヘッドピン9aを回動自在に軸支するクロスヘッドピン軸受部9bと、上述した摺動板8(
図1参照)に摺接するすべり金9cとによって構成される。クロスヘッドピン9aの上端部には、上述したピストン棒16が連結されている。クロスヘッドピン軸受部9bの下端部には、上述した連接棒6が連結されている。このようなクロスヘッド9の幅W3は、舶用ディーゼルエンジン10においてクランクピン軸受部7と連動するクロスヘッド9のクロスヘッドピン9aの軸心方向(長手方向)における寸法であり、例えば
図3に示すように、当該軸心方向の両側に配置される一対のすべり金9cの各内側端面間の距離に相当する。また、クランク軸2の軸心方向は、舶用ディーゼルエンジン10の軸方向D3およびクランクピン4の軸心方向と同じ方向である。
【0039】
また、上記余計な油は、クランクピン軸受部7から飛散した潤滑油100以外の油である。このような余計な油として、例えば、クロスヘッドピン軸受部9bの潤滑油101(
図3、4参照)、クロスヘッド9と摺動板8(
図1参照)との潤滑油102(
図3、4参照)等が挙げられる。これらの潤滑油101、102は、クランク3の回転運動に変換されるクロスヘッド9の往復運動や揺動等により、例えば
図3、4に示すように、クロスヘッドピン軸受部9bとすべり金9cとの間隙またはすべり金9cと摺動板8との間隙から飛散する。
【0040】
油受入部31の奥行L1は、例えば
図4に示すように、舶用ディーゼルエンジン10の内壁面27からクランク軸2の軸心2aと交差する方向に延出する油受入部31の延出寸法である。すなわち、油受入部31の入口部31aの奥行は、上記油受入部31の奥行L1から油受入部31の壁厚を差し引いたものである。このような油受入部31の奥行L1は、クランクピン軸受部7から飛散した潤滑油100を受け入れ易くするという観点から、公転運動中のクランクピン軸受部7と油受入部31とが接触しない限り、より長い寸法にすることが好ましい。
【0041】
一方、油受入部31は、
図2、3に示すように、排出管32を備えている。排出管32は、油受入部31の内部に貯留された潤滑油100を排出するための配管であり、例えば
図2に示すように、油受入部31の底部に設けられる。排出管32は、油受入部31の内部と連通し、油受入部31の内部に貯留された潤滑油100を時系列的に古いものから新しいものに取り換えるように、当該潤滑油100を徐々に排出する。排出管32の内径等の内部寸法は、
図3に示すように、後述の温度測定部33の測定端子33aが測定対象の潤滑油100に浸る程度に油受入部31の内部に当該潤滑油100を貯留し得るよう、潤滑油100の受入量と排出量とのバランスを考慮して設定される。特に図示しないが、排出管32は、オイルパン等の油回収部に通じ、油受入部31から排出した潤滑油100を当該油回収部へ注入する。
【0042】
温度測定部33は、監視対象の軸受温度を測定するための装置である。詳細には、
図2に示すように、温度測定部33は、測定端子33aを有し、この測定端子33aによって油受入部31内の潤滑油100の温度を測定し得るように構成される。より詳細には、測定端子33aは、舶用ディーゼルエンジン10の筐体壁(
図2では架構壁25)に形成された貫通孔を通じて油受入部31の内部に配置される。温度測定部33の本体は、この測定端子33aと接続された状態で舶用ディーゼルエンジン10の外壁面に取り付けられる。温度測定部33は、監視対象の軸受温度として、クランクピン軸受部7から飛散した潤滑油100の温度、すなわち、油受入部31が受け入れた潤滑油100の温度を、
図3に示すように当該潤滑油100と接触した状態の測定端子33aによって測定する。また、温度測定部33は、測定した潤滑油100の温度を表示する表示機能を有し、例えば、目盛りまたは数値表示等により、油受入部31内の潤滑油100の温度(測定値)を視認可能に表示する。
【0043】
作業者は、温度測定部33によって測定された潤滑油100の温度を視認することにより、クランクピン軸受部7の現時点での軸受温度を簡易に監視することが可能である。例えば、温度測定部33による潤滑油100の温度の測定値(絶対値)が所定の基準温度を超過すれば、作業者は、これに基づき、当該潤滑油100を放出したクランクピン軸受部7の軸受温度の過度な上昇を早期に検知するとともに、当該クランクピン軸受部7の異常発生を早期に判断して発見することができる。また、舶用ディーゼルエンジン10が複数のクランクピン軸受部7を備える(すなわち気筒数が複数である)場合、温度測定部33による潤滑油100の温度の測定値と他のクランクピン軸受部7から飛散した潤滑油の温度の測定値との差(相対値)が所定の基準値を超過すれば、作業者は、これに基づき、上記絶対値の場合と同様に、軸受温度の過度な上昇を早期に検知してクランクピン軸受部7の異常発生を早期発見することができる。或いは、温度測定部33による潤滑油100の温度の測定値とクランクピン軸受部7へ供給する前の潤滑油100の温度との差が所定の基準値を超過すれば、作業者は、これに基づき、上記絶対値の場合と同様に、軸受温度の過度な上昇を早期に検知してクランクピン軸受部7の異常発生を早期発見することができる。
【0044】
以上、説明したように、本発明の実施形態1に係る軸受温度監視装置30では、上方に開口する入口部31aを有する油受入部31を舶用ディーゼルエンジン10の内壁面27に設け、クランク軸2の軸心回りに公転運動するクランクピン軸受部7から飛散した潤滑油100を、油受入部31が入口部31aを介して受け入れ、油受入部31が受け入れた潤滑油100の温度を温度測定部33が測定するようにしている。
【0045】
上記の構成により、クランクピン軸受部7の軸受温度を直接測定しなくとも、クランクピン軸受部7から飛散した潤滑油100の温度の測定値をもとに、当該軸受温度を間接的に測定できるとともに、クランクピン軸受部7の温度上昇に伴う潤滑油100の温度上昇を検知することができる。このため、公転運動するクランクピン軸受部7に温度センサ等の測温手段を設ける必要が無く、それ故、クランクピン軸受部7から測温手段が脱落すること自体起こり得ず、クランクピン軸受部7に測温手段を取り付けるための溝や孔等の煩わしい構造も、当該測温手段から測温結果を非接触で検出する非接触センサの厳しい位置調整も不要であるとともに、上記検知した潤滑油100の温度上昇に基づいて、当該クランクピン軸受部7の過度な温度上昇を間接的に検知することができる。したがって、監視対象とする軸受温度を簡易な構成で監視することができ、当該軸受温度の定期的または継続した監視により、クランクピン軸受部7の異常を早期発見することができる。
【0046】
また、本発明の実施形態1に係る軸受温度監視装置30では、油受入部31の入口幅W1を、クランク軸2の軸心方向において、クランクピン軸受部7の幅W2以上、当該クランクピン軸受部7と連動するクロスヘッド9のクロスヘッドピン軸受部の幅W3未満に設定している。このため、油受入部31は、クランクピン軸受部7から飛散した潤滑油100の取りこぼしを少なくするとともに、当該潤滑油100以外の余計な油を受け入れ難くすることができる。したがって、油受入部31は、上記余計な油の混入を抑制するとともに、所望するクランクピン軸受部7からの潤滑油100を効率よく受け入れることができる。この結果、クランクピン軸受部7からの潤滑油100自体の温度の測定精度を向上させることができ、当該潤滑油100の温度測定を通じて、監視対象とする軸受温度の間接的な測定を精度よく行うことができる。
【0047】
また、本発明の実施形態1に係る軸受温度監視装置30では、油受入部31を、ピストン15が上死点に位置するときのクランクピン軸受部7の最上位置P1と、ピストン15が下死点に位置するときのクランクピン軸受部7の最下位置P2との間の領域に設けている。このため、油受入部31は、クランクピン軸受部7から飛散した潤滑油100をより多く受け入れることができる。これにより、監視対象とする軸受温度の間接的な測定に必要な量の潤滑油100を確保して、当該潤滑油100の温度を効率よく測定することができる。
【0048】
(実施形態2)
つぎに、本発明の実施形態2に係る軸受温度監視装置について説明する。
図5は、本発明の実施形態2に係る軸受温度監視装置の一構成例を示す模式図である。
図5に示すように、本実施形態2に係る軸受温度監視装置30Aは、上述した実施形態1に係る軸受温度監視装置30の構成に加え、さらに、遮断部34および排出管35を備える。その他の構成は実施形態1と同じであり、同一構成部分には同一符号を付している。
【0049】
遮断部34は、舶用ディーゼルエンジン10の内壁面を伝って流下する潤滑油を、油受入部31内に流入しないように遮るものである。詳細には、
図5に示すように、遮断部34は、例えば庇状に構成され、舶用ディーゼルエンジン10の内壁面27からクランク軸2側に向かって延出するように、油受入部31の上方に設けられる。遮断部34が設けられる上記内壁面27としては、油受入部31と同様に、架構壁25または台板壁26の内壁面が挙げられる。なお、
図5では、架構壁25の内壁面27に設けられた遮断部34が例示されている。
【0050】
この遮断部34の配置および寸法は、例えば、実験またはシミュレーションの結果に基づき、クランクピン軸受部7から飛散した潤滑油100の油受入部31によるダイレクトな受け入れと、舶用ディーゼルエンジン10の内壁面27を流下する油の遮断とを加味して設定される。具体的には、遮断部34は、油受入部31から上方に離間して当該油受入部31の入口部31aを覆うように、舶用ディーゼルエンジン10の内壁面27に設けられる。この際、遮断部34は、クランクピン軸受部7から飛散して油受入部31に直接受け入れられる潤滑油100の軌道(
図5の破線矢印参照)を遮断しないように、油受入部31から十分な間隔をあけて当該油受入部31の上方に配置される。
【0051】
また、遮断部34の奥行L2は、
図5に示すように、舶用ディーゼルエンジン10の内壁面27からクランク軸2の軸心2aと交差する方向に延出する遮断部34の延出寸法である。この遮断部34の奥行L2は、油受入部31に向かって舶用ディーゼルエンジン10の内壁面27を流下する油を遮るに必要な寸法となっていれば、油受入部31の奥行L1(
図4参照)に比べて短くてもよい。一方、遮断部34の奥行L2は、遮断部34から油受入部31の内部へ油が滴り落ちることを防止するという観点から、公転運動中のクランクピン軸受部7と遮断部34とが接触しない限り、油受入部31の奥行L1よりも長くすることが好ましい。
【0052】
図6は、本発明の実施形態2における軸受温度監視装置の遮断部の幅を説明するための模式図である。
図6には、
図5に示す油受入部31および遮断部34をクランク軸2側から見たものが模式的に示されている。
図6に示すように、遮断部34の幅W4は、油受入部31の入口幅W1と同じ方向(
図5に示すクランク軸2の軸心方向)の寸法である。この遮断部34の幅W4は、舶用ディーゼルエンジン10の内壁面27を伝って流下した油が入口部31aから油受入部31内へ入ることを防止するために、油受入部31の入口幅W1よりも幅広に設定される。
【0053】
なお、上記内壁面27を伝って流下する油としては、例えば、クランクピン軸受部7から飛散して上記内壁面27に付着した潤滑油、クランクピン軸受部7以外から飛散して上記内壁面27に付着した油(すなわち実施形態1と同様の余計な油)等が挙げられる。
【0054】
一方、遮断部34には、
図5、6に示すように、排出管35が設けられている。排出管35は、遮断部34によって遮断された潤滑油等の油を排出するための配管である。排出管35は、例えば
図5、6に示すように、樋等を介して遮断部34の縁端部に設けられ、油受入部31から離間した領域を通って延在するように舶用ディーゼルエンジン10の内壁面27に沿って配管される。排出管35は、遮断部34が受け止めた油を、油受入部31内に入らないように遮断部34から順次排出する。特に図示しないが、排出管35は、オイルパン等の油回収部に通じ、遮断部34から排出した油を当該油回収部へ注入する。
【0055】
(遮断部の作用)
つぎに、本発明の実施形態2における遮断部34の作用について説明する。
図7は、本発明の実施形態2における遮断部が油を遮断する状態の一例を示す模式図である。上述した遮断部34は、舶用ディーゼルエンジン10の内壁面を伝って流下する潤滑油を遮る。
【0056】
詳細には、
図7に示すように、公転運動中のクランクピン軸受部7から放出された潤滑油には、クランクピン軸受部7から直接的に油受入部31の入口部31aへ飛散する潤滑油100もあれば、クランクピン軸受部7から舶用ディーゼルエンジン10の内壁面(
図7では架構壁25の内壁面27)へ飛散する潤滑油100aもある。遮断部34は、このように飛散した潤滑油のうち、内壁面27に付着した後に油受入部31に向かって内壁面27を流下する潤滑油100aを受け止め、これにより、当該潤滑油100aの流下を遮断する。
【0057】
ここで、稼働中の舶用ディーゼルエンジン10の内部は高温状態であるため、クランクピン4とクランクピン軸受部7との間の潤滑油は、クランクピン軸受部7から飛散した後であっても温度低下し難く、クランクピン軸受部7から飛散する前の温度と略同様の温度を維持している。一方、架構壁25および台板壁26は、その外壁面が外気(舶用ディーゼルエンジン10の外部の空気)と接触した状態にある。このため、クランクピン軸受部7から架構壁25等の内壁面27へ飛散した潤滑油100aは、たとえ舶用ディーゼルエンジン10の内部であっても、架構壁25等の舶用ディーゼルエンジン10の筐体壁によって冷却される。この結果、内壁面27上の潤滑油100aの温度は、クランクピン軸受部7から飛散する前に比べて著しく低下している。
【0058】
遮断部34は、上記のように温度が低下した状態の潤滑油100aの流下を、
図7に示すように遮断し、これにより、当該潤滑油100aが入口部31aから油受入部31の内部に侵入することを防止する。この結果、遮断部34は、油受入部31内において温度測定部33(
図5参照)で本来測温されるべき潤滑油100に、当該油受入部31内の潤滑油100に比べて著しく温度が低い状態の潤滑油100aが混入する事態を防止することができる。
【0059】
また、
図7に示すように、遮断部34は、公転運動中のクランクピン軸受部7から飛散した潤滑油のうち、油受入部31の入口部31aよりも内壁面27側に飛散軌道が逸脱した潤滑油100bを受け止める。この潤滑油100bは、遮断部34が内壁面27に設けられていなければ、クランクピン軸受部7から内壁面27へ飛散する恐れがある潤滑油(以下、逸脱状態の潤滑油という)である。遮断部34は、このような逸脱状態の潤滑油100bの飛散を、上述した内壁面27を伝って流下する潤滑油100aと同様に遮断する。これにより、遮断部34は、内壁面27に付着して温度低下の恐れがある潤滑油100bの、油受入部31内への侵入を未然に防止することができる。
【0060】
このような遮断部34は、
図7に示すように、内壁面27上の潤滑油100aと逸脱状態の潤滑油100bとを遮断しながらも、クランクピン軸受部7から直接的に油受入部31の入口部31aへ向かう潤滑油100の飛散、すなわち、測温対象とする潤滑油100の飛散を阻害しない。これにより、遮断部34は、クランクピン軸受部7から飛散した潤滑油のうち、測温対象の潤滑油100を択一的に油受入部31の入口部31aへ飛散させることができる。
【0061】
特に図示しないが、遮断部34は、クランクピン軸受部7以外から飛散した余計な油についても、上述した内壁面27上の潤滑油100aおよび逸脱状態の潤滑油100bと同様に遮断する。なお、遮断部34によって遮断された油は、油受入部31内へ侵入することなく、
図5に示した排出管35を通じて遮断部34から順次排出される。
【0062】
以上、説明したように、本発明の実施形態2に係る軸受温度監視装置30Aでは、油受入部31の上方に遮断部34を設け、舶用ディーゼルエンジン10の内壁面27を伝って流下する潤滑油を遮断部34によって遮るようにし、その他を実施形態1と同様に構成している。このため、上述した実施形態1と同様の作用効果を享受するとともに、内壁面27と接触して著しく温度低下した状態の潤滑油が油受入部31内の測温対象とする潤滑油に混入する事態を防止することができる。これにより、測温対象の潤滑油の温度が本来測温されるべき温度から著しく低下する事態を回避できることから、監視対象とする軸受温度の過度な上昇に伴う潤滑油の異常な温度上昇を遅れなく検知することができる。
【0063】
(実施形態3)
つぎに、本発明の実施形態3に係る軸受温度監視装置について説明する。
図8は、本発明の実施形態3に係る軸受温度監視装置の一構成例を示す模式図である。
図8に示すように、本実施形態3に係る軸受温度監視装置30Bは、上述した実施形態2に係る軸受温度監視装置30Aの油受入部31に代えて多段構造の油受入部41を備える。その他の構成は実施形態2と同じであり、同一構成部分には同一符号を付している。
【0064】
多段構造の油受入部41は、上下に並ぶ複数の油受入部によって構成され、監視対象とするクランクピン軸受部7から飛散した潤滑油を、これら複数の油受入部の各々によって受け入れる。詳細には、
図8に示すように、多段構造の油受入部41は、複数の油受入部の一例である第1油受入部42と第2油受入部43とを備える。第1油受入部42および第2油受入部43は、上方に開口する入口部42a,43aを各々有する容器状に構成され、舶用ディーゼルエンジン10の内壁面27に沿って上下に複数(
図8では2つ)設けられている。
【0065】
第1油受入部42は、
図8に示すように、多段構造の油受入部41における最下段の油受入部であり、舶用ディーゼルエンジン10の内壁面27からクランク軸2側に向かって延出するように当該内壁面27に設けられる。第1油受入部42は、クランクピン軸受部7から飛散した潤滑油100を、入口部42aを介してダイレクトに受け入れる。この第1油受入部42の配置および寸法は、例えば、実験またはシミュレーションの結果に基づいて、クランクピン軸受部7からの潤滑油100の受け入れに好適なものに設定される。具体的には、第1油受入部42の配置および寸法は、当該潤滑油100をダイレクトに且つ効率よく受け入れ可能にするという観点から、上述した実施形態1、2における単一の油受入部31と同様に設定されることが好ましい。また、第1油受入部42には、上述した実施形態1、2と同様に排出管32が設けられている。
【0066】
第2油受入部43は、
図8に示すように、多段構造の油受入部41における最上段の油受入部である。第2油受入部43は、上述した第1油受入部42よりも高さ方向D1の上側に位置し、当該第1油受入部42と同様に、内壁面27からクランク軸2側に向かって延出するように当該内壁面27に設けられる。第2油受入部43は、第1油受入部42の上方において、クランクピン軸受部7から飛散した潤滑油100を、入口部43aを介してダイレクトに受け入れる。この際、第2油受入部43は、上述した第1油受入部42による潤滑油100の受け入れを阻害することなく、当該第1油受入部42と並行して、クランクピン軸受部7からの潤滑油100を受け入れる。特に、第2油受入部43が受け入れる潤滑油100には、第2油受入部43が設けられていなければクランクピン軸受部7から飛散して第1油受入部42よりも上側の内壁面27に付着する恐れのある潤滑油が含まれる。すなわち、第2油受入部43は、第1油受入部42と第2油受入部43との間の内壁面27を伝って流下する恐れがある潤滑油を、第1油受入部42内に侵入させることなく遮断する遮断部としての機能を兼ね備える。
【0067】
また、第2油受入部43は、
図8に示すように、上下に並ぶ第1油受入部42と第2油受入部43とを連通する連通管36を備えている。連通管36は、例えば、第1油受入部42の入口部42aに通じるように、第2油受入部43の底部等の所定部位に設けられる。連通管36は、上方の第2油受入部43の内部に受け入れられた潤滑油100を順次、下方の第1油受入部42の内部へ送出する。これにより、第1油受入部42内の潤滑油100には第2油受入部43からの潤滑油100が追加され、この結果、第1油受入部42内の潤滑油100は増量される。
【0068】
なお、本実施形態3において、温度測定部33の測定端子33aは、
図8に示すように、最下段の第1油受入部42の内部に配置されている。この測定端子33aは、クランクピン軸受部7から第1油受入部42の内部へ直接飛散した潤滑油100と、第2油受入部43から第1油受入部42に追加された潤滑油100との混合油(すなわち増量された潤滑油100)中に浸漬する。温度測定部33は、このように第1油受入部42内で増量された潤滑油100の温度を測定する。
【0069】
上記第2油受入部43の配置および寸法は、例えば、実験またはシミュレーションの結果に基づき、クランクピン軸受部7から飛散した潤滑油100の、第1油受入部42および第2油受入部43の各々によるダイレクトな受け入れを加味して設定される。具体的には、第2油受入部43は、クランクピン軸受部7から飛散して第1油受入部42に直接受け入れられる潤滑油100の軌道(
図8の破線矢印参照)を遮断しないように、第1油受入部42から十分な間隔をあけて当該第1油受入部42の上方に配置される。また、第2油受入部43の配置および寸法は、クランクピン軸受部7からの潤滑油100をダイレクトに且つ効率よく受け入れ可能にするという観点から、第1油受入部42の上方に配置されることを前提に、上述した実施形態1、2における単一の油受入部31と同様に設定されることが好ましい。特に、第2油受入部43の奥行、および、第1油受入部42と第2油受入部43との上下の離間距離は、第2油受入部43が無い場合にクランクピン軸受部7から飛散して第1油受入部42よりも上側の内壁面27に付着する恐れがある潤滑油を、当該内壁面27に付着させずに第2油受入部43で受け入れ可能となるように設定されることが好ましい。なお、第2油受入部43の奥行は、特に図示しないが、舶用ディーゼルエンジン10の内壁面27からクランク軸2の軸心2aと交差する方向に延出する第2油受入部43の延出寸法である。
【0070】
図9は、本発明の実施形態3における多段構造の油受入部の幅を説明するための模式図である。
図9には、
図8に示す多段構造の油受入部41および遮断部34をクランク軸2側から見たものが模式的に示されている。
【0071】
第1油受入部42の入口幅W5は、例えば
図9に示すように、クランク軸2(
図8参照)の軸心方向における入口部42aの開口寸法である。この第1油受入部42の入口幅W5は、クランクピン軸受部7からの潤滑油100を効率よく受け入れ可能にするという観点から、上述した実施形態1、2における油受入部31の入口幅W1(
図3参照)と同様にすることが好ましい。
【0072】
第2油受入部43の入口幅W6は、上記第1油受入部42と同様に、クランク軸2の軸心方向における入口部43aの開口寸法である。この第2油受入部43の入口幅W6は、クランクピン軸受部7からの潤滑油100を効率よく受け入れ可能にするという観点から、上述した実施形態1、2における油受入部31の入口幅W1と同様にすることが好ましい。特に、クランクピン軸受部7から飛散した潤滑油が第1油受入部42と第2油受入部43との間の内壁面27に付着して第1油受入部42の入口部42aに向かい流下する事態を防ぐために、第2油受入部43の入口幅W6は、第1油受入部42の入口幅W5以上であることがより好ましい。
【0073】
また、本実施形態3において、遮断部34の幅W4は、多段構造の油受入部41の入口幅W5、W6と同じ方向の寸法である。この遮断部34の幅W4は、舶用ディーゼルエンジン10の内壁面27を伝って流下した油が多段構造の油受入部41の各油受入部(本実施形態3では第1油受入部42および第2油受入部43)の内部へ入ることを防止するために、当該各油受入部よりも幅広に設定される。例えば、
図9に示すように、遮断部34の幅W4は、第1油受入部42および第2油受入部43の各入口幅W5、W6よりも大きい。
【0074】
また、
図8、9に示すように、遮断部34は、最上段の第2油受入部43から上方に離間して多段構造の油受入部41の各入口部を覆うように、舶用ディーゼルエンジン10の内壁面27に設けられる。この際、遮断部34は、クランクピン軸受部7から飛散して最上段の第2油受入部43に直接受け入れられる潤滑油100の軌道(
図8の破線矢印参照)を遮断しないように、当該第2油受入部43から十分な間隔をあけて多段構造の油受入部41の上方に配置される。
【0075】
なお、本実施形態3において、遮断部34の排出管35は、例えば
図8、9に示すように、多段構造の油受入部41から離間した領域を通って延在するように舶用ディーゼルエンジン10の内壁面27に沿って配管されている。
【0076】
以上、説明したように、本発明の実施形態3に係る軸受温度監視装置30Bでは、前記油受入部は、舶用ディーゼルエンジン10の内壁面27に沿って上下に複数の油受入部を設けて、多段構造の油受入部41を構成し、その他を実施形態2と同様に構成している。このため、上述した実施形態2と同様の作用効果を享受するとともに、多段構造の油受入部41のうち温度測定部33の測定端子33aが配置された油受入部(例えば最下段の第1油受入部42)の内部に、測温対象の潤滑油を効率よく受け入れることができる。これにより、測温対象の潤滑油として、監視対象とする軸受温度に一層近い温度の潤滑油を収集することができ、このような潤滑油の温度を測定することにより、当該軸受温度の監視をより高精度に行うことができる。
【0077】
(実施形態4)
つぎに、本発明の実施形態4に係る軸受温度監視装置について説明する。
図10は、本発明の実施形態4に係る軸受温度監視装置の一構成例を示す模式図である。
図11は、
図10に示す軸受温度監視装置のB-B線断面模式図である。
図10、11に示すように、本実施形態4に係る軸受温度監視装置30Cは、上述した実施形態2に係る軸受温度監視装置30Aの油受入部31に代えて幅狭な入口構造の油受入部51を備える。その他の構成は実施形態2と同じであり、同一構成部分には同一符号を付している。
【0078】
油受入部51は、上述した実施形態1~3における油受入部に比べて幅狭な入口構造を有する容器状に構成され、監視対象とするクランクピン軸受部7から飛散した潤滑油を受け入れる。この油受入部51には、上記幅狭な入口構造が、クランク軸2の軸心方向におけるクランクピン軸受部7の両端部のうち少なくとも一端部に対応して一つ以上設けられている。例えば、
図10、11に示すように、油受入部51は、上記幅狭な入口構造として、クランクピン軸受部7の第1端部7aに対応する第1入口部52と、クランクピン軸受部7の第2端部7bに対応する第2入口部53とを有する。油受入部51の上部は、第1入口部52および第2入口部53において開口し、これらの入口部以外の領域において閉じた蓋状に構成される。油受入部51は、
図10に示すように、舶用ディーゼルエンジン10の内壁面27からクランク軸2側に向かって延出するように当該内壁面27に設けられる。
【0079】
油受入部51の第1入口部52および第2入口部53の各々は、例えば
図11に示すように、上方に開口する箱状の構造体であり、クランク軸2の軸心方向においてクランクピン軸受部7よりも幅狭に構成される。これら第1入口部52および第2入口部53は、
図10、11に示すように、舶用ディーゼルエンジン10の内壁面27からクランク軸2側に向かって延出し且つ互いにクランク軸2の軸心方向に所定の間隔をあけて離間するように、油受入部51の上部に設けられている。また、
図11に示すように、第1入口部52と油受入部51の本体とは、連通孔54を介して互いに連通している。これと同様に、第2入口部53と油受入部51の本体とは、連通孔55を介して互いに連通している。第1入口部52は、クランクピン軸受部7の第1端部7aから飛散した潤滑油100を受け入れ、連通孔54を介して油受入部51の本体内に当該潤滑油100を流入させる。第2入口部53は、クランクピン軸受部7の第2端部7bから飛散した潤滑油100を受け入れ、連通孔55を介して油受入部51の本体内に当該潤滑油100を流入させる。
【0080】
これら第1入口部52および第2入口部53の各々の配置および寸法は、例えば、実験またはシミュレーションの結果に基づいて、クランクピン軸受部7からの潤滑油100の受け入れに好適なものに設定される。
【0081】
詳細には、
図11に示すように、第1入口部52は、クランク軸2の軸心方向における油受入部51の両端部のうち、クランクピン軸受部7の第1端部7a側に配置される。すなわち、クランクピン軸受部7の第1端部7aからクランクピン4の軸心4aと直交する方向に延出する仮想直線(
図11中の一点鎖線参照)が、第1入口部52の内部に位置する。第1入口部52がクランクピン軸受部7の第1端部7aからの潤滑油100を受け入れ易くするという観点から、クランクピン4の軸心方向(軸方向D3)における第1入口部52の中心位置とクランクピン軸受部7の第1端部7aの位置とは一致することが好ましい。
【0082】
また、
図11に示すように、第1入口部52の幅W7は、本実施形態3における油受入部51の幅狭な入口幅の一例であり、クランク軸2の軸心方向における第1入口部52の開口寸法である。この第1入口部52の幅W7は、クランクピン軸受部7の第1端部7aからの潤滑油100を受け入れ易くするという観点から、当該第1端部7aとクランク3との間隙S1よりも大きいことが好ましい。
【0083】
第2入口部53は、
図11に示すように、クランク軸2の軸心方向における油受入部51の両端部のうち、クランクピン軸受部7の第2端部7b側に配置される。すなわち、クランクピン軸受部7の第2端部7bからクランクピン4の軸心4aと直交する方向に延出する仮想直線(
図11中の一点鎖線参照)が、第2入口部53の内部に位置する。第2入口部53がクランクピン軸受部7の第2端部7bからの潤滑油100を受け入れ易くするという観点から、クランクピン4の軸心方向における第2入口部53の中心位置とクランクピン軸受部7の第2端部7bの位置とは一致することが好ましい。
【0084】
また、
図11に示すように、第2入口部53の幅W8は、本実施形態3における油受入部51の幅狭な入口幅の一例であり、クランク軸2の軸心方向における第2入口部53の開口寸法である。この第2入口部53の幅W8は、クランクピン軸受部7の第2端部7bからの潤滑油100を受け入れ易くするという観点から、当該第2端部7bとクランク3との間隙S2よりも大きいことが好ましい。
【0085】
さらに、上述した第1入口部52および第2入口部53の各幅W7、W8は、第1入口部52および第2入口部53がクランクピン軸受部7の潤滑油100以外の余計な油を受け入れ難くするという観点から、クランクピン軸受部7の幅W2未満であることが好ましく、クランクピン軸受部7の幅W2の1/2未満であることがより好ましい。また、
図11に示すように、クランク軸2の軸心方向における第1入口部52の一端部と第2入口部53の他端部との間の幅W9は、クランクピン軸受部7の幅W2より大きく、上述したクロスヘッド9のクロスヘッドピン軸受部の幅W3(
図3参照)未満であることが好ましい。一方、上述した遮断部34の幅W4(
図6参照)は、第1入口部52および第2入口部53の各幅W7、W8よりも大きく、且つ、油受入部51の上記幅W9よりも大きい。
【0086】
特に図示しないが、第1入口部52および第2入口部53の各奥行は、油受入部51の本体の奥行よりも大きくてもよいし、当該本体の奥行以下であってもよい。クランクピン軸受部7から飛散した潤滑油100を受け入れ易くするという観点から、第1入口部52および第2入口部53の各奥行は、より大きい方が好ましい。
【0087】
なお、本実施形態4において、温度測定部33の測定端子33aは、
図10,11に示すように、油受入部51の本体内部に配置されている。この測定端子33aは、クランクピン軸受部7から第1入口部52または第2入口部53を介して油受入部51の本体内部に受け入れられた潤滑油100中に浸漬する。温度測定部33は、このように油受入部51内の潤滑油100の温度を測定する。なお、油受入部51の本体には、上述した実施形態1~3と同様に排出管32が設けられている。
【0088】
以上、説明したように、本発明の実施形態4に係る軸受温度監視装置30Cでは、油受入部51の入口部を、クランク軸2の軸心方向においてクランクピン軸受部7よりも幅狭に構成し、当該軸心方向におけるクランクピン軸受部7の両端部のうち少なくとも一端部に対応して一つ以上設けるようにし、その他を実施形態2と同様に構成している。このため、上述した実施形態2と同様の作用効果を享受するとともに、油受入部51が測温対象の潤滑油を受け入れるための入口部を、当該潤滑油が放出されるクランクピン軸受部7の、上記軸心方向における両端部の位置の少なくとも一方に絞り込むことができる。これにより、クランクピン軸受部7以外からの余計な油が油受入部51内へ侵入することを最小限に抑制しながら、測温対象の潤滑油を効率よく受け入れることができ、この結果、測温対象の潤滑油の温度が監視対象の軸受温度に一層近いものとなるから、このような潤滑油の温度を測定することにより、当該軸受温度の監視をより高精度に行うことができる。
【0089】
(実施形態5)
つぎに、本発明の実施形態5に係る軸受温度監視装置について説明する。
図12は、本発明の実施形態5に係る軸受温度監視装置の一構成例を示す模式図である。
図12に示すように、本実施形態5に係る軸受温度監視装置30Dは、上述した実施形態1に係る軸受温度監視装置30構成に加え、さらに、出力部38と制御部39とを備える。その他の構成は実施形態1と同じであり、同一構成部分には同一符号を付している。
【0090】
出力部38は、監視対象とする軸受温度の判定結果を出力するものである。詳細には、出力部38は、表示デバイスまたは音出力デバイス等の装置によって構成され、
図12に示すように、制御部39と信号の送受信可能に接続される。出力部38は、制御部39によるクランクピン軸受部7の温度の判定結果、すなわち、監視対象とする軸受温度が異常であるか否かの判定結果を出力する。例えば、出力部38は、当該軸受温度が異常であるか否かの判定結果を、光または文字等の視覚的に確認可能な情報の表示によって出力してもよいし、音等の聴覚的に確認可能な情報によって出力してもよい。なお、出力部38が出力する軸受温度の判定結果としては、例えば、監視対象とする軸受温度が過度に上昇したか否かを示す判定結果、クランクピン軸受部7に異常が発生したか否かを示す判定結果等が挙げられる。出力部38は、上記のように軸受温度の判定結果を出力することにより、クランクピン軸受部7の過度な温度上昇または異常発生を外部(作業者等)に報知することができる。
【0091】
制御部39は、上述した出力部38の動作を制御する制御機能と、監視対象とする軸受温度が異常であるか否かを判定する判定部としての処理機能とを兼ね備える。詳細には、制御部39は、処理プログラムを実行するCPUおよびメモリ等によって構成され、
図12に示すように、温度測定部33および出力部38と信号の送受信可能に接続される。制御部39は、温度測定部33によって測定された潤滑油の温度を示す電気信号を、時系列に沿って連続的または断続的に取得する。制御部39は、取得した電気信号によって示される温度情報、すなわち、上記測定された潤滑油の温度をもとに、監視対象とするクランクピン軸受部7の温度が異常であるか否かを判定する。
【0092】
具体的には、制御部39は、クランクピン軸受部7の潤滑油の温度について予め設定された基準値を有する。制御部39は、温度測定部33から取得した潤滑油の温度測定値と上記基準値とを比較し、この潤滑油の温度測定値が上記基準値を超過する場合、クランクピン軸受部7からの潤滑油の温度が過度に上昇した異常状態にあると判定する。これに基づいて、制御部39は、監視対象とする軸受温度の異常な上昇、すなわち、クランクピン軸受部7の異常発生を判定する。その後、制御部39は、クランクピン軸受部7の異常発生を示す情報を、軸受温度の判定結果として出力するように出力部38を制御する。この際、制御部39は、上記クランクピン軸受部7の異常発生の情報とともに、軸受温度の異常な上昇を示す情報を出力部38に出力させてもよい。
【0093】
また、舶用ディーゼルエンジン10が複数のクランクピン軸受部7を備える(すなわち気筒数が複数である)場合、制御部39は、温度測定部33から取得した潤滑油の温度測定値と、舶用ディーゼルエンジン10内における他のクランクピン軸受部から飛散した潤滑油の温度測定値とを比較して、監視対象とする軸受温度の判定を行ってもよい。例えば、制御部39は、温度測定部33による潤滑油の温度測定値と他のクランクピン軸受部から飛散した潤滑油の温度測定値との温度差を算出し、この算出した温度差が上記基準値を超過する場合、クランクピン軸受部7からの潤滑油の温度が過度に上昇した異常状態にあると判定する。制御部39は、この温度差に基づく判定処理の場合も、上述した温度測定値と基準値との比較による判定処理と同様に、クランクピン軸受部7の異常発生を判定し、このクランクピン軸受部7の異常発生等の判定結果を出力するように出力部38を制御する。
【0094】
或いは、制御部39は、温度測定部33から取得した潤滑油の温度測定値と、クランクピン軸受部7へ供給する前の潤滑油の温度測定値との温度差をもとに、監視対象とする軸受温度の判定を行ってもよい。例えば、制御部39は、温度測定部33による潤滑油の温度測定値とクランクピン軸受部7へ供給する前の潤滑油の温度測定値との温度差を算出し、この算出した温度差が上記基準値を超過する場合、クランクピン軸受部7からの潤滑油の温度が過度に上昇した異常状態にあると判定する。制御部39は、この温度差に基づく判定処理の場合も、上述した温度測定値と基準値との比較による判定処理と同様に、クランクピン軸受部7の異常発生を判定し、このクランクピン軸受部7の異常発生等の判定結果を出力するように出力部38を制御する。
【0095】
また、制御部39は、温度測定部33から取得した潤滑油の温度測定値と上記基準値とを比較した結果、この潤滑油の温度測定値が上記基準値以下である場合、クランクピン軸受部7からの潤滑油の温度が許容範囲内の状態(正常状態)であると判定する。これに基づいて、制御部39は、監視対象とする軸受温度が正常状態である、すなわち、クランクピン軸受部7が正常状態であると判定する。なお、制御部39は、上述した温度差に基づく判定処理を行う場合、上記潤滑油の温度差が基準値以下であれば、クランクピン軸受部7が正常状態であると判定する。
【0096】
制御部39は、上記いずれの判定処理においても、クランクピン軸受部7が正常状態であると判定した場合、クランクピン軸受部7の正常状態を示す情報を、軸受温度の判定結果として出力するように出力部38を制御する。この際、制御部39は、上記クランクピン軸受部7の正常状態の情報とともに、軸受温度の正常状態を示す情報を出力部38に出力させてもよい。或いは、制御部39は、軸受温度が正常状態である場合、出力部38を停止させ、軸受温度が異常状態である場合のみ出力部38を動作させてもよい。
【0097】
以上、説明したように、本発明の実施形態5に係る軸受温度監視装置30Dでは、制御部39が、温度測定部33によって測定された潤滑油の温度をもとに、クランクピン軸受部7の温度が異常であるか否かを判定し、出力部38が、制御部39による軸受温度の判定結果を出力するようにし、その他を実施形態1と同様に構成している。このため、上述した実施形態1と同様の作用効果を享受するとともに、監視対象の軸受温度が過度に上昇したか否か、すなわち、クランクピン軸受部7の異常が発生したか否かを時系列に沿って自動的に判定することができる。これにより、当該軸受温度を手間なく自動で監視することができ、クランクピン軸受部7の異常発生を簡易且つ早期に検知することができる。
【0098】
なお、上述した実施形態1~5では、油受入部を、クランクピン軸受部7が公転運動時に下降動作する側の架構壁25の内壁面27に配置していたが、本発明は、これに限定されるものではない。例えば、本発明に係る軸受温度監視装置の油受入部は、クランクピン軸受部7が公転運動時に上昇動作する側の架構壁の内壁面に配置されてもよい。また、当該油受入部が配置される内壁面は、架構壁の内壁面に限らず、台板壁の内壁面であってもよい。
【0099】
また、上述した実施形態1~5では、舶用ディーゼルエンジン10の幅方向D2に対して傾斜する態様の油受入部を例示したが、本発明は、これに限定されるものではない。例えば、本発明に係る軸受温度監視装置の油受入部は、舶用ディーゼルエンジン10の幅方向D2に対して平行な方向に内壁面から延出する態様のものであってもよい。また、遮断部についても同様に、当該幅方向D2に対して平行な方向に内壁面から延出する態様のものであってもよい。
【0100】
また、上述した実施形態1~5では、本発明に係る軸受温度監視装置が適用される内燃機関の一例として、舶用ディーゼルエンジンを例示したが、本発明は、これに限定されるものではない。例えば、本発明に係る軸受温度監視装置は、車両のエンジン等、舶用ディーゼルエンジン以外の内燃機関に適用されてもよい。
【0101】
また、上述した実施形態3では、多段構造の油受入部の一例として、内壁面に沿って上下に並ぶ2つの油受入部(第1油受入部42および第2油受入部43)によって構成される二段構造の油受入部を示したが、本発明は、これに限定されるものではない。例えば、上記多段構造の油受入部は、内壁面に沿って上下に並ぶ3つ以上の油受入部によって構成されてもよい。
【0102】
また、上述した実施形態3では、多段構造の油受入部のうち最下段の油受入部の内部に温度測定部の測定端子を配置し、当該最下段の油受入部内に収集された潤滑油の温度を測定していたが、本発明は、これに限定されるものではない。例えば、当該温度測定部の測定端子は、多段構造の油受入部のうち、いずれの油受入部内に配置されてもよいし、多段構造の油受入部の全てに配置されてもよい。
【0103】
また、上述した実施形態4では、クランクピン軸受部の軸心方向の両端部に対応して2つの幅狭な入口部を備えた油受入部を例示したが、本発明は、これに限定されるものではない。例えば、当該幅狭な入口部は、クランクピン軸受部の軸心方向の両端部のうち一端部に対応して、油受入部に一つ設けてもよい。
【0104】
また、上述した実施形態1~5により本発明が限定されるものではない。上述した各構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。例えば、本発明に係る軸受温度監視装置は、上述した実施形態1~5のうち少なくとも2つを組み合わせたものであってもよい。その他、上述した実施形態1~5に基づいて当業者等によりなされる他の実施形態、実施例および運用技術等は全て本発明の範疇に含まれる。
【符号の説明】
【0105】
1 台板
2 クランク軸
2a 軸心
3 クランク
4 クランクピン
4a 軸心
5 架構
6 連接棒
7 クランクピン軸受部
7a 第1端部
7b 第2端部
8 摺動板
9 クロスヘッド
9a クロスヘッドピン
9b クロスヘッドピン軸受部
9c すべり金
10 舶用ディーゼルエンジン
11 シリンダジャケット
12 シリンダ
13 シリンダライナ
14 シリンダカバー
15 ピストン
16 ピストン棒
17 燃焼室
18 排気弁
19 上部動弁装置
20 排気マニホールド
21 排気管
22 タイボルト
25 架構壁
26 台板壁
27 内壁面
30、30A、30B、30C、30D 軸受温度監視装置
31、41、51 油受入部
31a、42a、43a 入口部
32、35 排出管
33 温度測定部
33a 測定端子
34 遮断部
36 連通管
38 出力部
39 制御部
42 第1油受入部
43 第2油受入部
52 第1入口部
53 第2入口部
54、55 連通孔
100、100a、100b、101、102 潤滑油
D1 高さ方向
D2 幅方向
D3 軸方向
F1 遠心力
F2 接線方向力
F3 重力
K 公転軌道
P1 最上位置
P2 最下位置
P3 軸心位置
S1、S2 間隙
Y1、Y2 矢印
【手続補正書】
【提出日】2022-08-08
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のクランク軸の軸心回りに回転するクランクのクランクピンを回転自在に軸支する軸受部の温度を監視するための軸受温度監視装置において、
上方に開口する入口部を有して前記内燃機関の内壁面に設けられ、前記クランクの回転に伴って前記クランク軸の軸心回りに公転運動する前記軸受部から飛散した潤滑油を、前記入口部を介して受け入れる油受入部と、
前記油受入部が受け入れた前記潤滑油の温度を測定する温度測定部と、
前記油受入部の上方に設けられ、前記内燃機関の内壁面を伝って前記油受入部に向かい流下する潤滑油を遮る遮断部と、
を備えることを特徴とする軸受温度監視装置。
【請求項2】
前記油受入部は、前記内燃機関の内壁面に沿って上下に複数設けられている、
ことを特徴とする請求項1に記載の軸受温度監視装置。
【請求項3】
前記油受入部の前記入口部は、前記クランク軸の軸心方向において前記軸受部よりも幅狭に構成され、前記クランク軸の軸心方向における前記軸受部の両端部のうち少なくとも一端部に対応して一つ以上設けられている、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の軸受温度監視装置。
【請求項4】
前記油受入部の入口幅は、前記クランク軸の軸心方向において前記軸受部の幅以上であり、前記内燃機関の前記軸受部と連動するクロスヘッドのクロスヘッドピン軸受部の幅未満である、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の軸受温度監視装置。
【請求項5】
前記油受入部は、前記内燃機関の前記クランクピンに対応するピストンが上死点に位置するときの前記軸受部の最上位置と、前記ピストンが下死点に位置するときの前記軸受部の最下位置との間の領域に設けられている、
ことを特徴とする請求項1~4のいずれか一つに記載の軸受温度監視装置。
【請求項6】
前記温度測定部によって測定された前記潤滑油の温度をもとに、前記軸受部の温度が異常であるか否かを判定する制御部と、
前記制御部による前記軸受部の温度の判定結果を出力する出力部と、
を備えることを特徴とする請求項1~5のいずれか一つに記載の軸受温度監視装置。