(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023045301
(43)【公開日】2023-04-03
(54)【発明の名称】サージカルブラジャー
(51)【国際特許分類】
A41C 3/12 20060101AFI20230327BHJP
【FI】
A41C3/12 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021153625
(22)【出願日】2021-09-21
(71)【出願人】
【識別番号】306033379
【氏名又は名称】株式会社ワコール
(71)【出願人】
【識別番号】000173588
【氏名又は名称】公益財団法人がん研究会
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100176245
【弁理士】
【氏名又は名称】安田 亮輔
(72)【発明者】
【氏名】矢野 智之
(72)【発明者】
【氏名】辛川 領
(72)【発明者】
【氏名】南 智沙
(72)【発明者】
【氏名】加藤 玲子
(72)【発明者】
【氏名】山川 真友美
【テーマコード(参考)】
3B131
【Fターム(参考)】
3B131AA17
3B131AA18
3B131AA29
3B131AB04
3B131AB06
3B131AB07
3B131BA41
3B131BA45
3B131BB01
3B131BB11
(57)【要約】
【課題】乳房再建手術後の日常生活においてブラジャーが乳房にフィットするように、より望ましい乳房の再建を可能とするサージカルブラジャーを提供する。
【解決手段】サージカルブラジャー1は、乳房再建手術に用いられ、再建される乳房の大きさ及び形状の指標とされる。サージカルブラジャー1は、患者Aの左右の乳房BL,BRの位置にあてがわれる一対のカップ部2と、一対のカップ部2の下縁部22及び左右の脇側部23に連結され、一対のカップ部2を支持する土台部3と、を備える。土台部3は、患者Aの左右の脇部分にあてがわれる一対の土台端部32を有する。一対の土台端部32は、胸囲方向D1における終端部12を構成しており、患者Aの左右の脇部分に固定される一対の脇固定部F3aを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の左右の乳房のうち少なくともいずれか一方を再建する乳房再建手術に用いられ、再建される乳房の大きさ及び形状の指標とされるサージカルブラジャーであって、
前記患者の前記左右の乳房の位置にあてがわれる一対のカップ部と、
前記一対のカップ部の下縁部及び左右の脇側部に連結され、前記一対のカップ部を支持する土台部と、を備え、
前記土台部は、前記左右の脇側部に連結されると共に前記患者の左右の脇部分にあてがわれる一対の土台端部を有し、
前記一対の土台端部は、前記サージカルブラジャーの胸囲方向における終端部を構成しており、前記左右の脇部分に固定される一対の脇固定部を含む、サージカルブラジャー。
【請求項2】
前記一対のカップ部の上縁部に連結される一対のストラップ部を更に備え、
前記一対のストラップ部のそれぞれは、前記左右の乳房のそれぞれの上方部分に固定される上固定部を含む、請求項1に記載のサージカルブラジャー。
【請求項3】
前記一対の土台端部は、前記患者の身長方向に対応する上下方向において、前記一対のカップ部の長さの1/2以上の長さを有する、請求項1又は2に記載のサージカルブラジャー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳房再建手術に用いられるサージカルブラジャーに関する。
【背景技術】
【0002】
乳がんを罹患した患者は、患部である乳房(例えば、何れか一方の乳房)の切除手術を受けた場合には、乳房の一部又は全部を失うこととなる。近年、失われた部分を再建する乳房再建手術が知られている。乳房再建手術としては、患者自身の組織の一部を移植する自家組織再建手術と、シリコーン等からなる人工物を用いるインプラント再建手術の2種類がある。非特許文献1には乳房再建の概要が記載され、例えば特許文献1には、インプラント再建手術を受けた患者が再建した乳房の保護やサポートを行うために手術後に着用することのできるブラジャーが記載されている。特許文献2~4には、ヌードで乳房形態の対称性をゴールとする非繊維性の鋳型を作製し、手術に用いる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-119942号公報
【特許文献2】特開2013-000330号公報
【特許文献3】特開2015-054089号公報
【特許文献4】特開2016-214829号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】“乳房再建のしおり”[on line]、令和3年3月29日、がん研有明病院形成外科、[令和3年9月17日検索]、インターネット(URL:https://www.jfcr.or.jp/hospital/department/clinic/general/plastic_surgery/pdf/info_20210329_1.pdf)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した自家組織再建手術は、インプラントを用いず患者自身の腹部や背部から皮膚、脂肪、筋肉の一部に栄養血管を付けて移植する点で、インプラント再建手術とは異なっている。このような自家組織再建手術として、例えば穿通枝皮弁法が知られている。本発明者らが得た知見によれば、自家組織再建手術を受けた患者は、手術後の日常生活において「ブラジャーのサイズが合わない」又は「ブラジャーのワイヤーが胸に当たって痛い」等といった悩みを持つ傾向にある。その原因として、従来の自家組織再建手術において、施術者である医師は乳房のサイズを目視で確認しながら乳房を再建せざるを得なかったという点が考えられる。そこで、再建手術のゴールを術中に用いるブラジャーのフィット感とすることで、手術後に患者がブラジャーの装着においてサイズや形が合わないといった問題を解決する。
【0006】
まず、手術中の患者はブラジャーを着用しておらず、目視によるサイズ調整には限界がある。更に手術の方式の都合上、再建された乳房は大きくなりがちである(いったん小さくしたものを再び大きくするのは難しいため)。従来の自家組織再建手術では、こういった問題を解決することは困難であった。本発明者らは、自家組織再建手術において、ブラジャーが着用された状態の乳房をイメージしながら乳房の再建を行うことで、上記問題を解決し、患者の満足度を高めることができると考えた。
【0007】
本発明は、乳房再建手術後の日常生活においてブラジャーが乳房にフィットするように、より望ましい乳房の再建を可能とするサージカルブラジャーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、患者の左右の乳房のうち少なくともいずれか一方を再建する乳房再建手術に用いられ、再建される乳房の大きさ及び形状の指標とされるサージカルブラジャーであって、患者の左右の乳房の位置にあてがわれる一対のカップ部と、一対のカップ部の下縁部及び左右の脇側部に連結され、一対のカップ部を支持する土台部と、を備え、土台部は、左右の脇側部に連結されると共に患者の左右の脇部分にあてがわれる一対の土台端部を有し、一対の土台端部は、サージカルブラジャーの胸囲方向における終端部を構成しており、左右の脇部分に固定される一対の脇固定部を含む。
【0009】
このサージカルブラジャーは、乳房再建手術において、再建される乳房の大きさ及び形状の指標とされる。一対の土台端部が、患者の左右の脇部分にあてがわれ、一対の脇固定部が、それらの脇部分に固定される。その状態で、一対のカップ部は、左右の乳房の位置に正確に配置される。再建すべき乳房の位置を覆うカップ部に合わせて乳房が再建される(造形される)ことにより、再建された乳房は患者の本来の乳房に近い大きさ及び形状を有する乳房となる。その結果として、整容性が損なわれず、乳房再建手術後の日常生活において、ブラジャーに乳房がフィットする。別の観点では、乳房再建手術後の日常生活において、ブラジャーが乳房にフィットする。本発明のサージカルブラジャーによれば、より望ましい乳房の再建が可能となる。
【0010】
サージカルブラジャーが、一対のカップ部の上縁部に連結される一対のストラップ部を更に備え、一対のストラップ部のそれぞれは、左右の乳房のそれぞれの上方部分に固定される上固定部を含んでもよい。この構成によれば、ストラップ部のそれぞれに設けられた上固定部が、左右の乳房の上方部分に固定される。これにより、一対のカップ部が引き上げられることとなり、一対のカップ部が、患者の左右の乳房の位置により正確に配置される。サージカルブラジャーの全体が確実に固定され、乳房再建手術を迅速かつ確実に実施することができる。
【0011】
サージカルブラジャーにおいて、一対の土台端部は、患者の身長方向に対応する上下方向において、一対のカップ部の長さの1/2以上の長さを有してもよい。この構成によれば、土台端部の長さが十分に確保されている。よって、土台端部の脇固定部を、患者の左右の脇部分にしっかりと固定することができる。
【0012】
また、本発明の別の観点として、以下の方法[1]~[3]が提供されてもよい。
[1]
乳房再建手術における整容性を高めるための方法であって、
患者の乳房の形状を3Dスキャナにより測定したデータに基づいて、
サージカルブラジャーを作製する方法。
[2]
[1]に記載の方法によりサージカルブラジャーを作製し、
術中にサージカルブラジャーに合わせて乳房の形状を整え乳房再建を行うことを特徴とする乳房再建方法。
[3]
乳房再建手術方法が自家組織再建手術である[2]記載の乳房再建方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、乳房再建手術後の日常生活においてブラジャーに乳房がフィットする(すなわちブラジャーが乳房にフィットする)ように、より望ましい乳房の再建を可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本開示の一実施形態に係るサージカルブラジャーを示す正面図である。
【
図2】カップ部及び土台端部を拡大して示す正面図である。
【
図3】サージカルブラジャーが患者に装着されて使用される状態を示す図である。
【
図4】変形例に係るサージカルブラジャーを示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、図面の説明において同一要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0016】
図1を参照して、本実施形態に係るサージカルブラジャー1について説明する。サージカルブラジャー1は、患者Aの左右の乳房BL,BR(
図3参照)のうち少なくともいずれか一方を再建する乳房再建手術に用いられる。患者Aは、例えば、乳がんの罹患経験を有し、患部である乳房の切除手術を受けた人である。サージカルブラジャー1は、主として、自家組織再建手術に用いられる。サージカルブラジャー1の使用方法(手術方法を含む)については後述する。自家組織再建手術の対象となる乳房(再建される乳房)は、切除手術によって一部又は全部が失われた乳房である。サージカルブラジャー1は、再建される乳房の大きさ及び形状の指標とされる。指標は、「目安」と言い換えることもでき、又は「物差し」と言い換えることもできる。本明細書において、サージカルブラジャーは、「メジャメントブラジャー」又は「乳房再建手術用ブラジャー」と言い換えることもできる。
【0017】
上記背景及び使用目的のため、サージカルブラジャー1は、日常生活において着用される一般のブラジャーとは異なる構成を有する。
図1に示されるように、サージカルブラジャー1は、左右一対のカップ部2と、一対のカップ部2の下縁部22側を支持する土台部3と、一対のカップ部2の上縁部21に連結される左右一対のストラップ部4とを備える。サージカルブラジャー1は、基本的に左右対称な構成を有する。サージカルブラジャー1の説明において、左右一対が設けられた部材又は構成に関し、片方のみについて説明がなされるが、もう片方も同じ構成を有する。したがってもう片方の構成の説明は省略される。
【0018】
一対のカップ部2は、胸囲方向D1において互いに離間している(間隔を有する)。各カップ部2は、人体のバストの形状に対応するように、サージカルブラジャー1の正面側に突出する椀形状をなしている。カップ部2は、例えば3枚の生地が接ぎ合わされることにより形成される。カップ部2は、(計測方法については後述するが)患者Aの左右の乳房BL,BRに適合するカップサイズ、又はそれよりも小さいカップサイズに設定される。本実施形態では、カップ部2は、患者Aの左右の乳房BL,BRに適合するカップサイズよりも小さいカップサイズに設定されることが好ましい。その利点についても後述する。カップ部2は、手術時に、患者Aの左右の乳房BL,BRの位置にあてがわれる(
図3参照)。
【0019】
土台部3は、一対のカップ部2の下縁部22に連結されて下縁部22側を支持する土台本体31と、一対のカップ部2の左右の脇側部23に連結されて脇側部23側を支持する土台端部32とを有する。土台本体31は、一対のカップ部2の下縁部22側において、サージカルブラジャー1の胸囲方向D1(左右方向)に延在する。土台本体31は、一対のカップ部2の間に位置する前中心部33を含む。下縁部22と脇側部23とは、例えば、同一の生地により一体に(連続的に)形成されている。土台端部32の胸囲方向D1における伸長性は、土台本体31の胸囲方向D1における伸長性と同じであってもよい。
【0020】
土台部3は、一対の円弧状の乳房保持部25を介して、カップ部2の下縁部22及び脇側部23に連結されている。すなわち、一対の乳房保持部25が、カップ部2と土台部3との間に介在する。
【0021】
図2に示されるように、乳房保持部25のそれぞれには、例えば、円弧状のワイヤー部材51が設けられる。この場合、乳房保持部25は「ワイヤー部」と呼ぶこともできる。ワイヤー部材51は、下縁部22に縫着されたテープ部材に内包されてもよい。乳房保持部25は、土台本体31の前中心部33の位置からサージカルブラジャー1の上脇端部11にまで、略U字状に湾曲しながら延在する。
【0022】
また、土台端部32にそれぞれには、例えば、上下方向D2に延在する芯材52が設けられる。芯材52によって、土台端部32の強度が高められている。芯材52は、土台端部32に縫着されたテープ部材に内包されてもよい。芯材52は、例えば、土台端部32の上下方向D2の長さH3の略全域にわたって延在する。
【0023】
各ストラップ部4は、例えば、カップ部2の上縁部21における上端部21aに連結されている。ストラップ部4の下端である連結端(第一端)41が、カップ部2の上端部21aに縫合されている。ストラップ部4は、例えばテープ状素材によって構成されている。
【0024】
続いて、
図1及び
図2を参照して、サージカルブラジャー1が備える特有の構成について説明する。上記した土台端部32を含む土台部3、ワイヤー部材51を含む乳房保持部25、及び芯材52を含む土台端部32も、サージカルブラジャー1に特有の構成と言えるが、一般のブラジャーにもあり得るものである。一方、以下に説明する構成は、サージカルブラジャー1のために専用に設計されたものである。
【0025】
まず、
図1に示されるように、一対の土台端部32は、胸囲方向D1におけるサージカルブラジャー1の終端部12を構成している。すなわち、土台端部32には、一般のブラジャーに設けられる「バック部」は連結されていない。サージカルブラジャー1は、バック部を備えていない。
【0026】
次に、各ストラップ部4は、連結端41の反対側において、開放端(第二端)42を有する。一対の開放端42は、サージカルブラジャー1の上端部を構成している。すなわち、開放端42は、一般のブラジャーのように、バック部に連結されていない。サージカルブラジャー1はバック部を備えていないので、開放端42はストラップ部4の遊端である。したがって、ストラップ部4の長さは、一般のブラジャーのストラップ部よりも短く、例えば20cm以下である。
【0027】
開放端42には、素材の端部が折り返されてストラップ部4に縫合されることにより、輪状部44が形成されている。この輪状部44には、例えば、サージカルブラジャー1が量産される際、ロックス(タグ)が通され、顧客ラベルが付けられる。
【0028】
サージカルブラジャー1は、更に、サージカルブラジャー1を患者Aの身体(胸部及び脇部)に固定するための複数の固定部を有する。
図1及び
図2に示されるように、一対の土台端部32は、患者Aの左右の脇部分に固定される一対の脇固定部F3aを含む。脇固定部F3aは、例えば、上下方向D2においては、土台端部32の長さH3の略全域にわたって延在し、胸囲方向D1においては、カップ部2の脇側部23に近接する領域まで延在する。また土台部3は、左右の乳房BL,BRのそれぞれの下方部分に固定される一対の下固定部F3cを含む。下固定部F3cは、脇固定部F3aに隣接しており、カップ部2の下縁部22の最下端部付近にまで延在する。更に、土台部3は、前中心部33の位置に設けられた前中心固定部F3bを含む。前中心固定部F3bは、カップ部2,2の間隔に隣接する例えばひし形状の領域に設けられる。
【0029】
またストラップ部4は、連結端41と開放端42の間の中間部43から連結端41に至る領域に設けられた上固定部F4を含む。上固定部F4は、左右の乳房BL,BRのそれぞれの上方部分に固定される。上固定部F4は、例えば、ストラップ部4の長さの半分以上の長さにわたって設けられてもよい。ストラップ部4は、ストラップ部4の全体のうち、連結端41寄りに設けられる。ストラップ部4上であればどの部分でも固定が可能なため、上固定部F4の位置及び範囲は、特に定まっていなくてもよく、手術時の状況等に応じて、適宜に固定位置が変更され得る。更に、カップ部2は、上端部21aの位置に設けられたカップ端固定部F2を含む。カップ端固定部F2は、上端部21aを含んだ、例えば三角形状の領域に設けられる。
【0030】
これらの固定部は、手術時に、縫合糸(手術用針糸)、又は医療用ホッチキス(スキンステイプラー)等の固定具(
図3参照)を用いて患者Aの身体に固定される部分である。必要とされるサージカルブラジャー1の固定の度合い、再建される乳房の大きさ、又は患者Aの体型等に応じて、固定される箇所数、又は固定範囲は、適宜に変更されてよい。これらの固定部は、生地又は素材を適切に選定することにより、少なくとも、固定具による固定に耐えることのできる強度を有している。
【0031】
脇固定部F3aに関しては、特に、サージカルブラジャー1の全体を患者Aの身体に装着(固定)するため、高いレベルの固定度合いが求められる。そのため、
図2に示されるように、土台端部32は、患者Aの身長方向に対応する上下方向D2において、カップ部2の長さH2の1/2以上の長さH3を有する。土台端部32は、上下方向D2において、カップ部2の長さH2の2/3以上の長さH3を有してもよい。サージカルブラジャー1においては、土台端部32に脇固定部F3aが設けられるため、土台端部32の上下方向D2の長さが十分に確保されていることが重要である。
【0032】
サージカルブラジャー1は、オートクレーブもしくはガス滅菌により滅菌されて、手術に用いられる。オートクレーブで滅菌する場合は、高温により縮むことがあるので、加熱によって縮みにくい素材を使用することが好ましい。
【0033】
図3を参照して、本実施形態のサージカルブラジャー1の使用方法について簡単に説明する。患者Aの上半身が、手術台X上に横たえられて、患者Aの胸部上にサージカルブラジャー1があてがわれる。カップ部2は、患者Aの左右の乳房BL,BRの位置にあてがわれる。当然ながら、再建される乳房は、左の乳房BLのみの場合もあるし、右の乳房BLのみの場合もある。再建される乳房が両方の乳房BL,BRの場合もある。
【0034】
脇固定部F3aは、患者Aの脇部分にあてがわれ、ストラップ部4は、左右の乳房BL,BRのそれぞれの上方部分に乗る。この状態で、縫合糸等の固定具による固定が行われる。一対の脇固定部F3aは、例えば、第一縫合糸101及び第二縫合糸102によって、患者Aの脇部分に縫い付けられ、固定される。脇固定部F3aに関しては、第一縫合糸101のように脇固定部F3aの上部において少なくとも一箇所、及び、第二縫合糸102のように脇固定部F3aの下部において少なくとも一箇所の計二箇所以上において固定がなされることが好ましい(ただし必須ではない)。別の固定方法として、脇固定部F3aの上部において少なくとも一箇所と、下固定部F3cにおいて一箇所の計二箇所以上において固定がなされてもよい。前中心固定部F3bは、例えば、第三縫合糸103によって、患者Aの胸の中央部分に縫い付けられ、固定される。上固定部F4は、例えば、第四縫合糸104によって、患者Aの乳房BL,BRのそれぞれの上方部分に縫い付けられ、固定される。
図3に示す例では、カップ端固定部F2及び下固定部F3cにおける固定は省略されている。カップ端固定部F2及び/又は下固定部F3cにおいて、縫合糸による固定が行われてもよい。カップ端固定部F2及び/又は下固定部F3cにおける固定は、乳房再建の支障とならない範囲で、固定具が取り付けられる。
【0035】
患者Aの身体に取り付けられたサージカルブラジャー1が、再建される乳房の大きさ及び形状の指標とされる。カップ部2の内面側において、穿通枝皮弁法による乳房の再建が行われるが、その詳細についてはこの次に述べる。
【0036】
本実施形態において、サージカルブラジャー1は、以下の[1]に示す作製方法によって作製される。またサージカルブラジャー1を用いた乳房再建手術は、以下の[2]及び[3]に示す方法によって行われる。
【0037】
[1]:乳房再建手術における整容性を高めるための方法であって、患者の乳房の形状を3Dスキャナにより測定したデータに基づいて、サージカルブラジャー1を作製する方法。
[2]:[1]に記載の方法によりサージカルブラジャー1を作製し、術中にサージカルブラジャー1に合わせて乳房の形状を整え乳房再建を行うことを特徴とする乳房再建方法。
[3]:乳房再建手術方法が自家組織再建手術である[2]記載の乳房再建方法。
以下、各方法について説明する。
【0038】
[1]に関して、従来は、乳房再建のゴールである整容性を左右の乳房が見た目で同じになることとしていた。すなわち、医師は目視によって再建側の乳房が、健側(非治療側)の乳房と同じサイズ感になっているかを確認しながら胸の形を整えていた。しかしながら、医師が手術中に目視で認識できる形に合わせて乳房形状を整えることには限界があり、再建側の乳房が大きくなりがちであるといった問題があった。その結果、手術後にブラジャーが合わない等、日常生活において悩みや不便さを抱えている患者も多い。本発明者らは、乳房再建手術に供する情報として、患者の乳房の形状を精密計測し、そのデータに基づいてサイズの合ったブラジャーを選定・作製し、その形状に沿って乳房再建を行うことで患者の術後の悩みや不便さが軽減されるのではないかと考えた。具体的には、まず再建手術前に3Dスキャナで正確に測定された患者乳房の形状(乳癌切除前であれば、患側、健側の形状、乳癌切除後であれば健側の形状)に基づいて手術の際に用いるサージカルブラジャー1をセミオーダーにより選定・作製する。医師は、サージカルブラジャー1に合う形状に乳房再建することを整容性のゴールとすることで、左右対称性を正確に再現した乳房再建を行うことができる。ここでは、3Dスキャナは、3D smart&try(登録商標)の一部として採用されているものを使用し、精密なデータをもとに、患者一人一人に合ったサージカルブラジャー1を選定・作製している。サージカルブラジャー1は、患者がゴールとする乳房の鋳型となるものであり、各人に合ったものを作製することが必要である。
【0039】
[2]及び[3]に関して、どのようにサージカルブラジャー1を術中に使用するか説明する。乳房再建は、まず、自家組織(移植皮弁)を準備することから始まる。移植皮弁は、多くの場合、腹部皮弁を準備する。腹部の皮膚と皮下組織を深下腹壁動静脈とともに剥離、切除する。移植部位である乳房欠損部は、欠損のままに平らになっている場合と組織拡張器が入っている場合があるが、乳癌摘出時の傷を再度切って開き、皮下剥離を乳房の形態に沿うように剥離する、あるいは組織拡張器を取りだし、移植皮弁が入るスペースを作る。その後第4肋骨を2-3cm外し、その下にある内胸動静脈を同定剥離する。マイクロサージャリーによって、移植皮弁の動静脈とレシピエントの動静脈を吻合する。具体的には、手術用顕微鏡を用いて、移植皮弁の深下腹壁動静脈とレシピエントの内胸動静脈の動脈と静脈を、各々9-0ナイロン等を用いて血管吻合する。
【0040】
次に、乳房形態を作る。乳房形態形成時に予め準備していたサージカルブラジャー1を使用する。サージカルブラジャー1は、上述のように患者がゴールとする乳房の鋳型の役割を果たす。まず、腹部から横向きに採取した移植皮弁をマイクロサージャリーによって血管吻合後、縦配置とし、明らかにボリュームがオーバーになる、もしくは穿通枝から遠位の血流の悪い部位、総じて移植皮弁の1/3程度をカットし、乳房皮膚下に埋め込むために、一部移植皮弁の皮膚を除去し、脂肪だけにし、これを乳房頭側相当に仮固定する。移植皮弁の尾側をロールさせ、アンダーバスト部位相当に配置する。この状況で皮膚を仮縫合し、術中座位とする。この術中座位にて左右の対称性を目視で確認するとともに、サージカルブラジャー1を用手的もしくは手術用針糸等の固定具で固定し(
図3参照)、ボリュームの多い部位、もしくは皮弁が十分に入りこまず凹んでいる部位を記憶、もしくは体表上にマーキングし、再度ベッドをフラットに近くし、移植皮弁の減量や仮止めのし直しを行なう。その後再度座位とし、確認を行なう。この座位での確認―フラットでの減量や固定のし直しを繰り返し、乳房形態作成を終了する。サージカルブラジャー1は、乳房再建用に最適化された利便性の高いブラジャーであり、両側の乳房の整容性の確保を目的とする。サージカルブラジャー1でボリュームを確認しているので、左右対称性も良く、術後ブラジャーが合わず、日常生活で支障を来すということがない。
【0041】
次に、上記実施形態のサージカルブラジャー1の効果について説明する。サージカルブラジャー1は、乳房再建手術において、再建される乳房の大きさ及び形状の指標とされる。一対の土台端部32が、患者Aの左右の脇部分にあてがわれ、一対の脇固定部F3aが、それらの脇部分に固定される。その状態で、一対のカップ部2は、左右の乳房BL,BRの位置に正確に配置される。再建すべき乳房の位置を覆うカップ部2に合わせて乳房が再建される(造形される)ことにより、再建された乳房は患者Aの本来の乳房に近い大きさ及び形状を有する乳房となる。その結果として、整容性が損なわれず、乳房再建手術後の日常生活において、ブラジャーに乳房がフィットする。別の観点では、乳房再建手術後の日常生活において、ブラジャーが乳房にフィットする。また、土台端部32がサージカルブラジャー1の胸囲方向における終端部12を構成している。すなわち、通常のブラジャーには当然に設けられるバック部が設けられていないので、サージカルブラジャー1を患者に装着させやすい。すなわち、手術時、患者Aは手術台Xに寝た状態になっており、背中までサージカルブラジャー1を回し付けることが難しい。よって、サージカルブラジャー1には、バック部が必要とされない。バック部の省略により、手術時における患部に対する雑菌の混入も防止される。本実施形態のサージカルブラジャー1によれば、より望ましい乳房の再建が可能となる。
【0042】
また、ストラップ部4のそれぞれに設けられた上固定部F4が、左右の乳房BL,BRの上方部分に固定される。これにより、一対のカップ部2が引き上げられることとなり、一対のカップ部2が、患者Aの左右の乳房BL,BRの位置により正確に配置される。サージカルブラジャー1の全体が確実に固定され、乳房再建手術を迅速かつ確実に実施することができる。
【0043】
また、土台端部32の長さH3(
図2参照)が十分に確保されている。よって、土台端部32の脇固定部F3aを、患者Aの左右の脇部分にしっかりと固定することができる。また、十分に高い土台端部32は、乳房が脇の方へはみ出してしまうことを防止する。
【0044】
また、土台端部32の伸長性が比較的小さくなっていることにより、患者Aの身体に対するサージカルブラジャー1の固定位置がずれにくく、乳房再建手術時の施術性が高められる。
【0045】
更にまた、サージカルブラジャー1のカップ部2のカップサイズは、患者Aの左右の乳房BL,BRに適合するカップサイズよりも小さいカップサイズに設定される。患者Aの上半身が、手術台X上において斜めに横たわっている場合(座位の場合)に乳房が再建されるので、再建される乳房には、立位の際とは異なる方向に、重量が加わっている。水平面を基準とした座位(手術台X)の傾斜角度は、特に限定されないが、例えば45°である。その結果、再建される乳房が大きくなりがちである。しかしながら、サージカルブラジャー1が本来の適合サイズよりも小さめに選定されていることで、再建された乳房は、手術後に患者Aが立位の姿勢をとった際、違和感のない大きさとなっており、よりブラジャーにフィットすることになる。
【0046】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限られない。例えば、
図4に示されるように、ストラップ部が省略されたサージカルブラジャー1Aが用いられてもよい。カップ部を構成する生地、素材、又は接ぎ構造は、適宜に変更されてよい。
【0047】
土台端部32に設けられた芯材52は省略されてもよい。土台端部32の上下方向の長さは、カップ部の長さの1/2未満であってもよい。
【0048】
実施形態に係るサージカルブラジャー1において、前中心固定部F3b、下固定部F3c、カップ端固定部F2、及び上固定部F4のうちのいずれか又は全部が省略されてもよい。変形例に係るサージカルブラジャー1Aにおいて、前中心固定部F3b、下固定部F3c、及びカップ端固定部F2のうちのいずれか又は全部が省略されてもよい。
【0049】
上記実施形態では、患者の乳房の形状が、3Dスキャナにより測定され、そのデータに基づいてサージカルブラジャー1が作製される方法について説明した。この方法に限られず、患者の乳房の形状が店頭販売員等によって手動で測定され、その測定結果に基づいてサージカルブラジャー1が作製されてもよい。
【0050】
サージカルブラジャー1,1Aが、インプラント再建手術に用いられてもよい。又は、乳がんに限られず、左右の乳房BL,BRのうちいずれかの(乳がん以外の)腫瘍等の摘出手術によって乳房の一部又は全部が失われた場合にも、サージカルブラジャー1を適用することができる。
【符号の説明】
【0051】
1,1A…サージカルブラジャー、2…カップ部、3…土台部、4…ストラップ部、11…上脇端部、12…終端部、21…上縁部、21a…上端部、22…下縁部、23…脇側部、31…土台本体、32…土台端部、33…前中心部、41…連結端(第一端)、42…開放端(第二端)、43…中間部、A…患者、BL,BR…乳房、D1…胸囲方向、D2…上下方向、F2…カップ端固定部、F3a…脇固定部、F3b…前中心固定部、F3c…下固定部、F4…上固定部、H2…(カップ部の)長さ、H3…(土台端部の)長さ。