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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023004533
(43)【公開日】2023-01-17
(54)【発明の名称】多孔質ガラス部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 8/00 20060101AFI20230110BHJP
   C03C 11/00 20060101ALI20230110BHJP
【FI】
C03B8/00 A
C03C11/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021106275
(22)【出願日】2021-06-28
(71)【出願人】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】相徳 孝志
【テーマコード(参考)】
4G014
4G062
【Fターム(参考)】
4G014AG00
4G062AA01
4G062BB01
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4G062DA05
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4G062KK10
4G062MM17
4G062MM23
4G062NN34
(57)【要約】
【課題】割れやクラックが発生しにくい多孔質ガラス部材の製造方法を提供する。
【解決手段】ガラス母材を熱処理して2相に分相させた後、一方の相を酸で除去することにより多孔質ガラス部材前駆体を得る工程、及び、
前記多孔質ガラス部材前駆体を有機溶媒中に浸漬させる工程、
を備えることを特徴とする多孔質ガラス部材の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス母材を熱処理して2相に分相させた後、一方の相を酸で除去することにより多孔質ガラス部材前駆体を得る工程、及び、
前記多孔質ガラス部材前駆体を有機溶媒中に浸漬させる工程、
を備えることを特徴とする多孔質ガラス部材の製造方法。
【請求項2】
前記有機溶媒が、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n-ペンタン及びn-ヘキサンから選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の多孔質ガラス部材の製造方法。
【請求項3】
前記多孔質ガラス部材前駆体を前記有機溶媒中に浸漬させた後、加熱処理を行う工程、を備えることを特徴とする請求項1または2に記載の多孔質ガラス部材の製造方法。
【請求項4】
前記加熱処理の温度が500~1000℃であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の多孔質ガラス部材の製造方法。
【請求項5】
前記多孔質ガラス部材の細孔径が1~200nmであることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の多孔質ガラス部材の製造方法。
【請求項6】
前記ガラス母材が、モル%で、SiO 40~80%、B 0超~40%、LiO 0~20%、NaO 0~20%、KO 0~20%、P 0~2%、ZrO 0超~20%、Al 0~10%、及び、RO(RはMg、Ca、Sr及びBaから選択される少なくとも1種) 0~20%を含有することを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の多孔質ガラス部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質ガラス部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、多孔質ガラスは、シャープな細孔分布と大きな比表面積を持ち、耐熱性、耐有機溶媒性を持つため、分離膜、散気管、電極材料や触媒の担持体など幅広い用途への利用が検討されている。一般に、多孔質ガラスは、アルカリホウケイ酸ガラスからなるガラス母材を熱処理してシリカリッチ相と酸化ホウ素リッチ相の2相に分離し、酸化ホウ素リッチ相を酸で除去することにより作製される(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭48-101409号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述のようにして得られた多孔質ガラスは、割れやクラックが発生しやすいという問題がある。
【0005】
以上に鑑み、本発明は、割れやクラックが発生しにくい多孔質ガラス部材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者が鋭意検討した結果、多孔質ガラス部材前駆体に対して、特定の処理を施すことにより、上記技術的課題を解決し得ることを見出した。
【0007】
即ち、本発明の多孔質ガラス部材の製造方法は、ガラス母材を熱処理して2相に分相させた後、一方の相を酸で除去することにより多孔質ガラス部材前駆体を得る工程、及び、多孔質ガラス部材前駆体を有機溶媒中に浸漬させる工程、を備えることを特徴とする。本発明者の調査の結果、作製した多孔質ガラスに割れやクラックが発生するのは、多孔質ガラスの細孔内に残存した水分による毛細管力が原因であることがわかった。この水分は酸処理時の酸に含まれる水分や、必要に応じて酸処理工程の後に行われる洗浄工程で使用する洗浄水等に起因するものである。ここで、水は比較的表面張力が高い液体であるため、それに応じて表面張力と正の相関がある毛細管力も大きくなる。そのため、得られた多孔質ガラス部材の細孔中に残存する水が揮発する際に、毛細管力に起因する応力が発生し、割れやクラックが発生すると考えられる。一方、有機溶媒は水よりも表面張力が低いため、毛細管力も小さくなる。そのため、多孔質ガラス部材前駆体を有機溶媒中に浸漬して、細孔内の水分を有機溶媒と置換させることにより、その後有機溶媒が揮発した場合に発生する応力を低減できるため、割れやクラックの発生を抑制することができる。
【0008】
有機溶媒が、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n-ペンタン及びn-ヘキサンから選択される少なくとも1種であることが好ましい。これらの有機溶媒は表面張力が特に小さく、毛細管力も小さくなる。そのため、これらの有機溶媒を使用することにより、上述した本発明の効果をより一層得やすくなる。
【0009】
多孔質ガラス部材前駆体を有機溶媒中に浸漬させた後、加熱処理を行う工程、を備えることが好ましい。このようにすれば、多孔質ガラス部材の骨格強度を高めることができる。このメカニズムは明らかではないが、隣接する骨格同士が加熱処理により軟化流動して互いに結合し骨格径が大きくなる、あるいは、骨格自体が焼き締まって緻密になり強化される、等の理由が考えられる。なお、細孔内に有機溶媒が残存すると、当該有機溶媒が経時的に変質して多孔質ガラス部材が着色する傾向がある。ここで、上記のように加熱処理を行うことにより、細孔内における有機溶媒を十分に除去することができ、残存有機溶媒に起因する着色を抑制することもできる。
【0010】
加熱処理の温度が600~1000℃であることが好ましい。
【0011】
多孔質ガラス部材の細孔径が1~200nmであることが好ましい。このようにすれば、可視光透過率の高い多孔質ガラス部材とすることができる。なお、毛細管力は細孔径に反比例する傾向があるため、多孔質ガラス部材の細孔径が小さい場合は、細孔内部に残存する水分による毛細管力が大きくなる傾向がある。そのため、上記の通り多孔質ガラス部材の細孔径が小さい場合は、細孔内に残存する水分により割れやクラックが発生しやすくなるため、本発明を適用する効果を享受しやすくなる。
【0012】
ガラス母材が、モル%で、SiO 40~80%、B 0超~40%、LiO 0~20%、NaO 0~20%、KO 0~20%、P 0~2%、ZrO 0超~20%、Al 0~10%、及び、RO(RはMg、Ca、Sr及びBaから選択される少なくとも1種) 0~20%を含有することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の製造方法によれば、製造工程における多孔質ガラス部材の割れやクラックが発生しにくくなる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の多孔質ガラス部材の製造方法はガラス母材を熱処理して2相に分相させた後、一方の相を酸で除去することにより多孔質ガラス部材前駆体を得る工程、及び、多孔質ガラス部材前駆体を有機溶媒中に浸漬させる工程、を備えることを特徴とする。以下に、各構成要素について詳細に説明する。
【0015】
ガラス母材の組成は、例えば、モル%で、SiO 40~80%、B 0超~40%、LiO 0~20%、NaO 0~20%、KO 0~20%、P 0~2%、ZrO 0超~20%、Al 0~10%、及び、RO(RはMg、Ca、Sr及びBaから選択される少なくとも1種) 0~20%を含有するものが挙げられる。このようにガラス組成を限定した理由を以下に説明する。なお、特に断りがない場合、以下の成分含有量に関する説明において、「%」は「モル%」を意味する。
【0016】
SiOはガラスネットワークを形成する成分である。SiOの含有量は40~80%、45~75%、47~65%、特に50~60%であることが好ましい。SiOの含有量が少なすぎると、多孔質ガラス部材の耐候性や機械的強度が低下する傾向がある。また、製造工程において、シリカゲルの水和による膨張量が、シリカリッチ相中からNaO等のアルカリ成分が溶出することによる収縮量より小さくなりやすく、多孔質ガラス部材に割れが発生しやすくなる。一方、SiOの含有量が多すぎると、分相しにくくなる。
【0017】
はガラスネットワークを形成し、分相を促進する成分である。Bの含有量は0超~40%、10~30%、特に15~25%であることが好ましい。Bの含有量が少なすぎると、上記効果を得にくくなる。一方、Bの含有量が多すぎると、ガラス母材の耐候性が低下しやすくなる。
【0018】
LiOは溶融温度を低下させて溶融性を改善する成分であるとともに、分相を促進させる成分である。LiOの含有量は0~20%、0超~20%、0超~15%、0.3~15%、0.3~10%、特に0.6~10%であることが好ましい。LiOの含有量が多すぎると、逆に分相しにくくなる。
【0019】
NaOは溶融温度を低下させて溶融性を改善する成分であるとともに、分相を促進させる成分である。NaOの含有量は0~20%、0超~20%、3~15%、特に4~10%であることが好ましい。NaOの含有量が多すぎると、逆に分相しにくくなる。
【0020】
Oは溶融温度を低下させて溶融性を改善する成分であるとともに、分相を促進させる成分である。また、シリカリッチ相中のZrO含有量を増加させる成分である。そのため、KOを含有させることにより、得られる多孔質ガラス部材中のZrO含有量が増加し、耐アルカリ性を向上させることができる。KOの含有量は0~20%、0超~20%、0.3~5%、0.5~3%、特に0.8~3%であることが好ましい。KOの含有量が多すぎると、逆に分相しにくくなる。
【0021】
LiO+NaO+KOの含有量は0~20%、0超~20%、2~15%、4~12%、特に5~10%であることが好ましい。LiO+NaO+KOの含有量が多すぎると、分相しにくくなる。なお、本明細書において「x+y+・・・」は各成分の含有量の合量を意味する。
【0022】
NaO/Bは0.1~0.5、0.15~0.45、特に0.2~0.4であることが好ましい。このようにすれば、製造工程において、シリカゲルの水和による膨張量と、シリカリッチ相中からNaOが溶出することによる収縮量のバランスが取れ、多孔質ガラス部材に割れが発生しにくくなる。なお、本明細書において「x/y」はx成分の含有量をy成分の含有量で除した値を意味する。
【0023】
(LiO+NaO+KO)/Bは0.2~0.5、0.29~0.45、0.31~0.42、特に0.33~0.42であることが好ましい。このようにすれば、製造工程において、シリカゲルの水和による膨張量と、シリカリッチ相中からアルカリ成分が溶出することによる収縮量のバランスが取れ、多孔質ガラス部材に割れが発生しにくくなる。
【0024】
は分相を顕著に促進させる成分である。また、シリカリッチ相中のZrO含有量を増加させる成分である。そのため、Pを含有させることにより、得られる多孔質ガラス部材中のZrO含有量が増加し、耐アルカリ性を向上させることができる。Pの含有量は0~2%、0超~2%、0.01~1.5%、特に0.02~1%であることが好ましい。Pの含有量が多すぎると、溶融中に分相しやすくなる。ガラスが溶融中に分相すると、分相状態を制御できず、透明性を有するガラスを得にくくなる。またPの含有量が多すぎると、溶融中に結晶化しやすくなり、この場合もまた、透明性を有するガラスを得にくくなる。
【0025】
ZrOはガラス母材の耐候性や多孔質ガラス部材の耐アルカリ性を向上させる成分である。ZrOの含有量は0超~20%、2~15%、特に2.5~12%であることが好ましい。ZrOの含有量が少なすぎると、上記効果を得にくい。一方、ZrOの含有量が多すぎると、失透しやすくなるとともに分相しにくくなる。
【0026】
なおP/ZrOは、0.005~0.5、特に0.01~0.2であることが好ましい。P/ZrOが大きすぎると溶融中に分相または結晶化しやすくなり、透明性を有するガラスを得にくくなる。一方、P/ZrOが小さすぎると分相しにくくなる。
【0027】
Alは多孔質ガラス部材の耐候性や機械的強度を向上させる成分である。Alの含有量は0~10%であり、0.1~7%、特に1~5%であることが好ましい。Alの含有量が多すぎると、溶融温度が上昇し溶融性が低下しやすくなる。
【0028】
RO(RはMg、Ca、Sr及びBaから選択される少なくとも1種)は、シリカリッチ相中のZrO含有量を増加させる成分である。そのため、ROを含有させることにより、得られる多孔質ガラス部材中のZrO含有量が増加し、耐アルカリ性を向上させることができる。また、ROは多孔質ガラス部材の耐候性を向上させる成分である。ROの含有量(MgO、CaO、SrO及びBaOの合量)は0~20%であり、1~17%、3~15%、4~13%、5~12%、特に6.5~12%であることが好ましい。ROの含有量が多すぎると、分相しにくくなる。なお、MgO、CaO、SrO及びBaOの含有量は各々0~20%、1~17%、3~15%、4~13%、5~12%、特に6.5~12%であることが好ましい。また、MgO、CaO、SrO及びBaOから選択される少なくとも2種の成分を含有させる場合、その合量は0~20%、1~17%、3~15%、4~13%、5~12%、特に6.5~12%であることが好ましい。ROのなかで、多孔質ガラス部材の耐アルカリ性を向上させる効果が特に大きいという点で、CaOを使用することが好ましい。
【0029】
ガラス母材には、上記成分以外にも下記の成分を含有させることができる。
【0030】
ZnOはシリカリッチ相中のZrO含有量を増加させる成分である。また多孔質ガラス部材の耐候性を向上させる効果もある。ZnOの含有量は0~20%、0~10%、特に0~3%未満であることが好ましい。ZnOの含有量が多すぎると、分相しにくくなる。
【0031】
また、TiO、La、Ta、TeO、Nb、Gd、Y、Eu、Sb、SnO及びBi等を各々15%以下、各々10%以下、特に各々5%以下、合量で30%以下の範囲で含有させてもよい。
【0032】
なお、PbOは環境負荷物質であるため、実質的に含有しないことが好ましい。ここで「実質的に含有しない」とは、意図的に原料として含有させないことを意味し、客観的には含有量が0.1%未満の場合を指す。
【0033】
上記のガラス組成が得られるように調合した原料バッチを、例えば1300~1600℃で4~12時間で溶融する。次いで、溶融ガラスを成形した後、例えば400~600℃で10分~10時間徐冷を行うことによりガラス母材を得る。得られたガラス母材の形状は特に限定されないが、平面形状が矩形や円形の板状であることが好ましい。なお、得られたガラス母材を所望の形状にするために、切削、研磨等の加工を施しても構わない。
【0034】
得られたガラス母材は、アスペクト比が2~1000、特に5~500であることが好ましい。アスペクト比が小さすぎると、酸化ホウ素リッチ相を酸により除去(エッチング)する工程において、ガラス母材の表面と内部にてエッチング速度に大きな差が出るため、多孔質ガラス部材内部に応力が発生しやすく、割れが発生しやすくなる。一方、アスペクト比が大きすぎると、取り扱いにくくなる。
【0035】
なお、得られたガラス母材の底面積と厚みは、上記アスペクト比となるように適宜調整すればよい。例えば、底面積は1~1000mm、特に5~500mmであることが好ましく、厚みは0.1~1mm、特に0.2~0.5mmであることが好ましい。
【0036】
次に、得られたガラス母材を熱処理し、シリカリッチ相と酸化ホウ素リッチ相の2相に分相(スピノーダル分相)させる。熱処理温度は500~800℃、特に600~750℃であることが好ましい。熱処理温度が高すぎると、ガラス母材が軟化し、所望の形状を得にくくなる。一方、熱処理温度が低すぎると、ガラス母材を分相させにくくなる。熱処理時間は1分以上、10分以上、特に30分以上であることが好ましい。熱処理時間が短すぎると、ガラス母材を分相させにくくなる。熱処理時間の上限は特に限定されないが、長時間熱処理しても分相はある一定以上は進まなくなるため、現実的には180時間以下である。
【0037】
次に、2相に分相させたガラス母材を酸に浸漬させ、酸化ホウ素リッチ相を除去し、多孔質ガラス部材前駆体を得る。酸としては、塩酸や硝酸を用いることができる。なお、これらの酸を混合して用いてもよい。酸の濃度は0.1~5規定、特に0.5~3規定であることが好ましい。酸の浸漬時間は1時間以上、10時間以上、特に20時間以上であることが好ましい。浸漬時間が短すぎると、エッチングが不十分となり、所望の連続孔を有する多孔質ガラス部材前駆体を得にくくなる。浸漬時間の上限は特に限定されないが、現実的には100時間以下である。浸漬温度は20℃以上、25℃以上、特に30℃以上であることが好ましい。浸漬温度が低すぎると、エッチングが不十分となり、所望の連続孔を有する多孔質ガラス部材前駆体を得にくくなる。浸漬温度の上限は特に限定されないが、現実的には、95℃以下である。
【0038】
なお、ガラス母材を分相させる工程において、ガラス母材の最表面にシリカ含有層(シリカを概ね80モル%以上含有する層)が形成される場合がある。シリカ含有層は酸で除去し難いため、シリカ含有層が形成された際は、分相させたガラス母材を切削または研磨し、シリカ含有層を除去した後に酸に浸漬させると、酸化ホウ素リッチ相を除去しやすくなる。また、シリカ含有層を除去するために、分相後のガラス母材をフッ酸に短時間浸漬させてもよい。
【0039】
さらに、得られた多孔質ガラス部材前駆体の細孔中に残留するZrOコロイドやSiOコロイドを除去することが好ましい。
【0040】
ZrOコロイドは、例えばガラス母材を硫酸に浸漬させることで除去することができる。硫酸の濃度は0.1~5規定、特に1~5規定であることが好ましい。硫酸への浸漬時間は1時間以上、特に10時間以上であることが好ましい。浸漬時間が短すぎると、ZrOコロイドを除去しにくくなる。浸漬時間の上限は特に限定されないが、現実的には100時間以下である。浸漬温度は20℃以上、25℃以上、特に30℃以上であることが好ましい。浸漬温度が低すぎると、ZrOコロイドを除去しにくくなる。浸漬温度の上限は特に限定されないが、現実的には95℃以下である。
【0041】
SiOコロイドは、例えばガラス母材をアルカリ水溶液に浸漬させることで除去することができる。アルカリ水溶液としては、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液等を用いることができる。なお、これらのアルカリ水溶液を混合して用いてもよい。アルカリ水溶液への浸漬時間は10分間以上、特に30分間以上であることが好ましい。浸漬時間が短すぎると、SiOコロイドを除去しにくくなる。浸漬時間の上限は特に限定されないが、現実的には100時間以下である。浸漬温度は15℃以上、特に20℃以上であることが好ましい。浸漬温度が低すぎると、SiOコロイドを除去しにくくなる。浸漬温度の上限は特に限定されないが、現実的には95℃以下である。
【0042】
得られた多孔質ガラス部材前駆体を有機溶媒中に浸漬させることにより、多孔質ガラス部材前駆体の細孔内部に残存する水分を有機溶媒と置換する。その後、多孔質ガラス部材前駆体を乾燥させることにより多孔質ガラス部材を得る。
【0043】
有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n-ペンタン及びn-ヘキサンが挙げられる。これらの有機溶媒の表面張力は、水の表面張力(約72.8dyn/cm)の概ね1/3以下と非常に小さく、毛細管力も小さくなる。そのため、多孔質ガラス部材前駆体の細孔内部の水分をこれらの有機溶媒で置換することにより、乾燥に伴い発生する応力を低減することができ、割れやクラックの発生を抑制することができる。
【0044】
上記のようにして得られた多孔質ガラス部材に対し、さらに加熱処理を行うことが好ましい。このようにすれば、多孔質ガラス部材内部の骨格強度を高めることができる。また、細孔内における有機溶媒を十分に除去することができ、残存有機溶媒に起因する着色を抑制することができる。
【0045】
加熱処理温度は500~1000℃、特に600~900℃であることが好ましい。また、加熱処理時間は1分~50時間、1~30時間、特に5~24時間であることが好ましい。加熱処理温度が低すぎる、または加熱処理時間が短すぎると、上述の効果を得にくくなる。一方、加熱処理温度が高すぎる、または加熱時間が長すぎると、細孔径が大きくなりすぎたり、場合によっては細孔が消滅したりして、所望の機能を有する多孔質ガラス部材を得られないおそれがある。細孔径が大きくなりすぎたり、細孔が消滅すると、それに応じて多孔質ガラス部材の比表面積が小さくなる傾向があるため、多孔質ガラス部材を触媒やガス等の担持体として使用する場合に、担持サイトが少なくなるという問題がある。
【0046】
得られた多孔質ガラス部材は、質量%で、SiO 50~99%(さらには、54~90%)、NaO 0~15%(さらには、0.01~10%)、KO 0~10%(さらには、0~5%)、P 0~10%(さらには、0超~8%)、ZrO 0超~30%(さらには、4~25%)、Al 0~20%(さらには、1~15%)、及び、RO(RはMg、Ca、Sr及びBaから選択される少なくとも1種) 0~20%(さらには、0~15%)を含有することが好ましい。このように多孔質ガラス部材がSiO及びZrOを所定量含有することにより、優れた耐アルカリ性を達成することができる。
【0047】
多孔質ガラス部材の細孔径は、細孔径1~200nmであることが好ましい。細孔径が小さすぎると、ガス等の透過性が悪化し、所望の機能を有する多孔質ガラス部材を得られないおそれがある。また、細孔径が小さいと骨格径も小さくなる傾向があり、その結果、骨格強度が低下してクラックが発生しやすくなる。一方、細孔径が大きすぎると、細孔の比表面積が小さくなって担持サイトが少なくなる。また、光透過率が低下してガス吸着による呈色が確認しにくくなり、ガスセンサとしての利用が困難となる。細孔径の下限は3nm以上、4nm以上、5nm以上、6nm以上、7nm以上、8nm以上、10nm以上、15nm以上、特に20nm以上であることが好ましい。一方、細孔径の上限は100nm以下、50nm以下、48nm以下、46nm以下、特に45nm以下であることが好ましい。なお、細孔は、真球や略楕円体が連なった形状や、チューブ状等の様々な形状を有する。
【0048】
なお、多孔質ガラス部材のアスペクト比、底面積、厚み等の寸法はガラス母材と同様である。具体的には、多孔質ガラス部材のアスペクト比は2~1000、特に5~500であることが好ましい。多孔質ガラス部材の底面積は1~1000mm、特に5~500mmであることが好ましく、厚みは0.1~1mm、特に0.2~0.5mmであることが好ましい。
【実施例0049】
以下、実施例に基づき本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0050】
表1~3は、本発明の実施例(No.1~20)、及び比較例(No.21~25)を示している。
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【0053】
【表3】
【0054】
表中の各組成になるように調合した原料を白金坩堝に入れた後、1400℃~1500℃で4時間溶融した。原料の溶融に際しては、白金スターラーを用いて攪拌し、均質化を行った。次いで、溶融ガラスを金属板上に流し出して板状に成形した後、540℃~580℃で30分間徐冷しガラス母材を得た。
【0055】
得られたガラス母材を8mm×8mm×0.5mmのサイズとなるよう切削及び研磨した。その後、電気炉にて表に記載の条件で熱処理し、分相させた。分相後のガラス母材を、1規定の硝酸(95℃)中に24時間~48時間浸漬した後、イオン交換水で洗浄し、続いて3規定の硫酸(95℃)中に48時間浸漬した後、イオン交換水で洗浄し、さらに0.5規定の水酸化ナトリウム水溶液(室温)中に3~5時間浸漬した後、イオン交換水で洗浄した。このようにして、分相後のガラス母材にエッチング処理をおこなうことにより細孔を形成した。このようにして多孔質ガラス部材前駆体を得た。
【0056】
多孔質ガラス部材前駆体を表に記載の有機溶媒中に浸漬することにより、細孔内部の水を有機溶媒に置換した。その後、多孔質ガラス部材前駆体を室温にて半日以上乾燥させた。No.15~20については、乾燥後の多孔質ガラス部材前駆体に対して、さらに表に記載の条件で加熱処理を行った。なお、No.21~25の試料については有機溶媒中への浸漬は行わなかった。以上のようにして、多孔質ガラス部材を得た。
【0057】
得られた多孔質ガラス部材の断面をFE-SEM(日立製作所製SU-8220)で観察したところ、いずれのガラスもスピノーダル分相に基づいたスケルトン構造を有していた。
【0058】
得られた多孔質ガラス部材について、EDX(堀場製作所製EX-370X-Max150)を用いて組成分析を行った。なお分析は、多孔質ガラス部材断面の中央部の3点について行い、その平均値を採用した。
【0059】
また多孔質ガラス部材について、以下の方法により、細孔径、比表面積、光透過率、耐クラック性、耐アルカリ性を評価した。
【0060】
細孔径は、細孔分布測定装置(アントンパール社製QUADRASORB SI)により測定した。なお、得られた細孔分布の中央値を細孔径とした。
【0061】
比表面積はカンタクローム社製QUADRASORB SIを用いて測定した。
【0062】
光透過率は、分光光度計(日立ハイテクサイエンス社製 UH-4150)により測定した。
【0063】
耐クラック性は以下のようにして評価した。各組成についてサンプルを10個ずつ作製し、クラックや割れの発生しなかったサンプル数が6個以上の場合は「○」、5個以下の場合は「×」として評価した。なお、得られた多孔質ガラス部材を水中に半日以上浸漬させた後、室温にて半日以上乾燥させたサンプルについても、同様に耐クラック性を評価した。
【0064】
耐アルカリ性は以下のようにして評価した。80℃に保持した0.5規定の水酸化ナトリウム水溶液中に多孔質ガラス部材を20分間浸漬した。浸漬前後での比表面積当たりの重量減少量が1mg/m未満のものを「◎」、1mg/m以上、3mg/m未満のものを「○」、3mg/m以上のものを「×」として評価した。
【0065】
本発明の実施例であるNo.1~20では、エッチング処理工程の後に有機溶媒に浸漬する工程を経ることにより多孔質ガラス部材を作製したため、耐クラック性がいずれも「○」であった。特に、得られた多孔質ガラス部材に対してさらに追加の加熱処理を行ったNo.15~20では、水浸漬後の耐クラック性についても「○」であった。一方、比較例であるNo.21~25では、エッチング処理工程の後に有機溶媒に浸漬する工程を経ることなく多孔質ガラス部材を作製したため、耐クラック性がいずれも「×」であった。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の方法により製造される多孔質ガラス部材は、分離膜、散気管、電極材料や触媒の担持体等の用途に好適である。