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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023045348
(43)【公開日】2023-04-03
(54)【発明の名称】マグネシウム合金
(51)【国際特許分類】
   C22C 23/02 20060101AFI20230327BHJP
   B22D 21/04 20060101ALI20230327BHJP
【FI】
C22C23/02
B22D21/04 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021153698
(22)【出願日】2021-09-22
(71)【出願人】
【識別番号】000142872
【氏名又は名称】株式会社戸畑製作所
(71)【出願人】
【識別番号】519087941
【氏名又は名称】株式会社グローバルマグネシウムコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100126712
【弁理士】
【氏名又は名称】溝口 督生
(72)【発明者】
【氏名】松本 敏治
(72)【発明者】
【氏名】野坂 洋一
(72)【発明者】
【氏名】松本 大毅
(57)【要約】
【課題】難燃性に加えて機械的特性が十分となるマグネシウム合金を提供する。
【解決手段】本発明のマグネシウム合金は、全体に対して、5.5質量%~6.5質量%のアルミニウム(Al)と、
全体に対して、0.2質量%~0.5質量%のカルシウム(Ca)と、
全体に対して、0.1質量%~0.6質量%のマンガン(Mn)と、
全体に対して、0.5質量%~1.5質量%のミッシュメタル(Mm)と、
残部のマグネシウムおよび不可避不純物とからなる。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
全体に対して、5.5質量%~6.5質量%のアルミニウム(Al)と、
全体に対して、0.2質量%~0.5質量%のカルシウム(Ca)と、
全体に対して、0.1質量%~0.6質量%のマンガン(Mn)と、
全体に対して、0.5質量%~1.5質量%のミッシュメタル(Mm)と、
残部のマグネシウムおよび不可避不純物とからなる、マグネシウム合金。
【請求項2】
前記カルシウムが、全体に対して0.25質量%~0.35質量%である、請求項1記載のマグネシウム合金。
【請求項3】
前記ミッシュメタルが、全体に対して0.5質量%~1.0質量%である、請求項1または2記載のマグネシウム合金。
【請求項4】
前記マグネシウム合金の試験片における引張強度が、260MPa以上である、請求項1から3のいずれか記載のマグネシウム合金。
【請求項5】
前記マグネシウム合金の試験片における伸びが、15.0%以上である、請求項1から4のいずれか記載のマグネシウム合金。
【請求項6】
前記マグネシウム合金の試験片におけるシャルピー衝撃試験での衝撃吸収エネルギーが、13J以上である、請求項1から5のいずれか記載のマグネシウム合金。
【請求項7】
前記ミッシュメタルは、スカンジウム(Sc)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジウム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)ルテチウム(Lu)の少なくとも一つ以上の組み合わせである、請求項1から6のいずれか記載のマグネシウム合金。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか記載の、マグネシウム合金を用いた鋳造構造部材。
【請求項9】
前記鋳造構造部材は、自動車、二輪車、航空機、船舶、鉄道車両のいずれかにおける、
内燃機関および電動によるパワートレイン、トラクションモータ、インバータ、減速機、伝達機関、ピストン、シャフト、コンロッド、カバー部、シリンダ、シリンダブロック、アーム、ナックル、ピラー、ホイール、コンプレッサ筐体、ステアリング、内部筺体、エンジンマウント、オイルパン、ギア、ギアケース、ナット、ねじ、ボルト、LED照明装置のヒートシンク、空圧・電動工具、およびそれらを構成する部材および筐体の少なくとも一つを含む、請求項8記載のマグネシウム合金を用いた鋳造構造部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性と機械的特性を向上させたマグネシウム合金に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器や精密機器、自動車や航空機などの輸送機器、製造機械など、様々な機器や装置において筐体や各種部品などを構成するために鉄やアルミニウムなどの様々な金属素材が用いられる。
【0003】
電子機器や精密機器は、作業性や持ち運び容易性などの観点から、軽量化を必要としている。軽量でありながら、十分な耐久性や強度を必要としている。このような観点から、電子機器や精密機器の筐体や各種部品など(部材)を構成する素材として、軽量性のある金属素材が使われるようになってきている。
【0004】
ここで、輸送機器には、燃費向上や輸送性能向上のために特に軽量化が求められている。輸送機器の軽量化が図られれば、輸送機器の走行性能や飛行性能が高まる。さらには、輸送機器の軽量化が図られれば、必要となる燃料を削減することができ、燃費性能が向上するからである。近年は輸送機器の電動化、特に自動車の電動化、電動自動車(EV)化が急激に進められており、その電池重量、電力消費および航続距離の観点から軽量化ニーズが非常に高くなっている。もちろん、軽量化に伴うメリットはほかにも多々ある。
【0005】
このような観点から、軽量性のある金属素材としてアルミニウムなどの軽金属やその合金が用いられるようになってきている。このような軽金属の素材において、ダイカストなどの鋳造による成形工程に適した軽金属の合金が求められるようになっている。また、輸送機器に用いられる構造部材では、軽量化に加えて強度などの機械的特性の高さも併せて求められる。
【0006】
例えば、軽自動車や二輪車を含む自動車のホイールなど足回り部材の軽量化は、ばね下重量の低減に直結するため、燃費および操舵性の向上に貢献する。一方で、荷重や動作負荷がかかる。あるいは物理的衝突などの負荷も加わる。このような負荷に耐えるだけの強度などが必要である。
【0007】
これは、製造機械などにおいても同様である。多くの機器や装置は、作業の容易性、運搬の容易性、低燃費性、エコロジー性などを必要としており、これを実現する基準の一つとして、軽量化が求められている。この軽量化を実現するために、軽金属の素材が用いられている。あるいは開発されている。
【0008】
上述した自動車のホイールの軽量化には、最初においては鉄系金属が用いられ、次いでアルミニウムを主成分とするアルミニウム合金が用いられている。このアルミニウムよりもマグネシウムは元素として軽量である。マグネシウムの室温における密度は、1.7g/cm3であり、この密度は鉄の密度の約1/4であり、アルミニウムの密度の約2/3である。
【0009】
このため、一部の車両ではAM60というマグネシウム合金が採用されている。このAM60合金は、アルミニウムが6質量%程度、マンガンが0.3質量%程度、残りがマグネシウムと不可避不純物である合金である。このAM60合金をダイカストにより車両用ホイールとして製造されている。
【0010】
しかしながら、AM60合金は発火温度が低く燃えやすいという問題がある。元素としてのマグネシウムは発火温度が低く、このためマグネシウム合金も発火温度が低く燃えやすい。すなわち、難燃性が低い。AM60のマグネシウム合金を車両用ホイールなどの構造部材として成形する際には、ダイカストが用いられることが好ましい。コスト低下や生産量の増加に適しているからである。
【0011】
このダイカストなどの成形過程において、マグネシウム合金には熱が加わる。このため、難燃性が低いことは好ましくない。製造精度や製造工程に悪影響を与えるからである。また、輸送機器や電子機器などは、使用の状態によって高温になることもある。この場合にも、輸送機器や電子機器などの構造部材にマグネシウム合金が使用されると、難燃性が低いことは好ましくない。
【0012】
このため、AM60として知られるマグネシウム合金は、輸送機器や電子機器などの構造部材として使用されるには難燃性が不十分である問題があった。
【0013】
このため、難燃性を向上させるマグネシウム合金の技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特表2013-512338号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
特許文献1は、1.0重量%~7.0重量%のAl、0.05重量%~2.0重量%のCa、0.05重量%~2.0重量%のYと、0重量%超過及び6.0重量%以下のZnと、残部としてのMg、及びその他不可避な不純物を含み、前記CaとYとの含量は、前記マグネシウム合金の全重量に対して0.1%~2.5%であることを特徴とする1.0重量%~7.0重量%のAl、0.05重量%~2.0重量%のCa、0.05重量%~2.0重量%のYと、0重量%超過及び6.0重量%以下のZnと、残部としてのMg、及びその他不可避な不純物を含み、前記CaとYとの含量は、前記マグネシウム合金の全重量に対して0.1%~2.5%であることを特徴とするマグネシウム合金を開示する。
【0016】
特許文献1のマグネシウム合金は、難燃性を向上させており、高温環境となる機器の構造部材に用いられたり、製造時の高温環境に対応できたりする。
【0017】
しかしながら、特許文献1のマグネシウム合金は、Y(イットリウム)を添加している。イットリウムが添加されると、合金製造の溶解時にスラッジが形成されてしまう問題がある。スラッジが形成、混入されると、マグネシウム合金を素材としてダイカストなどで構造部材を製造する場合に、耐食性や機械的特性が低下する問題につながる。
【0018】
また、機械的特性が低下すると、製造された構造部材の強度が不足するなどの問題がある。ここで、車両用ホイールなどの輸送機器の構造部材などにおいては、強度の指標としての引張強度が重要となる。また、ある程度の伸びや靭性が適度にあることも必要である(使用における負荷への対応のため)。特許文献1のマグネシウム合金では、引張強度は十分であるが、伸びや靭性が不十分であるという問題があった。この問題は、製造時の問題および製造された構造部材の必要特性として不十分である問題となる。
【0019】
加えて、車両用ホイールなどの構造部材では、衝撃への耐久性が高いことも必要である。自動車などの輸送機器は、段差のある場所などを走行することが避けられない。このようなときに、タイヤには振動や衝撃が強く加わる。すなわち、車両用ホイールにも衝撃が加わる。
【0020】
このため、車両用ホイールなどに適用可能なマグネシウム合金には、衝撃吸収性の高さが求められる。
【0021】
本発明は、上記課題に鑑み、難燃性に加えて機械的特性が十分となるマグネシウム合金を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記課題に鑑み、本発明のマグネシウム合金は、全体に対して、5.5質量%~6.5質量%のアルミニウム(Al)と、
全体に対して、0.2質量%~0.5質量%のカルシウム(Ca)と、
全体に対して、0.1質量%~0.6質量%のマンガン(Mn)と、
全体に対して、0.5質量%~1.5質量%のミッシュメタル(Mm)と、
残部のマグネシウムおよび不可避不純物とからなる。
【発明の効果】
【0023】
本発明のマグネシウム合金は、従来のアルミニウム合金よりも軽量である。このため、車両用ホイールなど従来はアルミニウム合金が通常と考えられていた分野の構造部材の材料としての置き換えが可能となる。従来のアルミニウム合金より軽量であることで、例えば輸送機器の構造部材に適用されると、輸送機器の燃費向上などに繋がる。
【0024】
また、難燃性に優れており、製造時や構造部材としての使用時での、高温環境に対しても対応できる。結果として、製造の容易性向上や、構造部材の適用範囲の拡大につながる。
【0025】
また、引張強度の高さや一定以上の伸びもあることで、これまではマグネシウム合金での適用が難しいと考えられていた分野にも適用が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の実施の形態1におけるマグネシウム合金の製造工程のフローチャートである。
図2】本発明の実施の形態における溶融工程を示す模式図である。
図3】3つの引張強度、伸び、衝撃吸収エネルギーの測定結果を示す表である。
図4】アルミニウムとミッシュメタルのそれぞれの組成範囲を変化させた(カルシウムとマンガンは0.3質量%で一定。マグネシウムは残部)場合の、引張強度を示すクロス表である。
図5】アルミニウムとミッシュメタルのそれぞれの組成範囲を変化させた(カルシウムとマンガンは0.3質量%で一定。マグネシウムは残部)場合の、伸びを示すクロス表である。
図6】、アルミニウムとミッシュメタルのそれぞれの組成範囲を変化させた(カルシウムとマンガンは0.3質量%で一定。マグネシウムは残部)場合の、衝撃吸収エネルギーを示すクロス表である。
図7】本発明の実施の形態におけるマグネシウム合金の燃焼試験の結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の第1の発明に係るマグネシウム合金は、全体に対して、5.5質量%~6.5質量%のアルミニウム(Al)と、
全体に対して、0.2質量%~0.5質量%のカルシウム(Ca)と、
全体に対して、0.1質量%~0.6質量%のマンガン(Mn)と、
全体に対して、0.5質量%~1.5質量%のミッシュメタル(Mm)と、
残部のマグネシウムおよび不可避不純物とからなる。
【0028】
この構成により、引張強度、伸び、衝撃吸収性に優れて、軽量化が求められる構造部材に適したマグネシウム合金が得られる。
【0029】
本発明の第2の発明に係るマグネシウム合金では、第1の発明に加えて、前記カルシウムが、全体に対して0.25質量%~0.35質量%である。
【0030】
この構成により、伸びが十分なマグネシウム合金を得ることができる。
【0031】
本発明の第3の発明に係るマグネシウム合金では、第1または第2の発明に加えて、前記ミッシュメタルが、全体に対して0.5質量%~1.0質量%である。
【0032】
この構成により、更に伸びの大きなマグネシウム合金を得ることができる。
【0033】
本発明の第4の発明に係るマグネシウム合金では、第1から第3のいずれかの発明に加えて、前記マグネシウム合金の試験片における引張強度が、260MPa以上である。
【0034】
この構成により、荷重や負荷への高い耐久性が求められる構造部材などへの適用ができる。
【0035】
本発明の第5の発明に係るマグネシウム合金では、第1から第4のいずれかの発明に加えて、前記マグネシウム合金の試験片における伸びが、15.0%以上である。
【0036】
この構成により、構造部材に過剰な荷重や負荷がかかる際にも直ちに破損せず、変形することで高い安全性が求められる構造部材などへの適用ができる。
【0037】
本発明の第6の発明に係るマグネシウム合金では、第1から第5のいずれかの発明に加えて、前記マグネシウム合金の試験片におけるシャルピー衝撃試験での衝撃吸収エネルギーが、13J以上である。
【0038】
この構成により、構造部材に適用された場合に、構造部材に加わる衝撃の吸収性が高いマグネシウム合金を得ることができる。
【0039】
本発明の第7の発明に係るマグネシウム合金では、第1から第7の発明に加えて、前記ミッシュメタルは、スカンジウム(Sc)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジウム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)ルテチウム(Lu)の少なくとも一つ以上の組み合わせである。
【0040】
この構成により、引張強度、伸び、衝撃吸収性に優れたマグネシウム合金を得ることができる。
【0041】
本発明の第8の発明に係るマグネシウム合金を用いた鋳造構造部材は、第1から第7のいずれかのマグネシウム合金を用いる。
【0042】
この構成により、荷重や負荷、変形、衝撃などへの耐性に優れた鋳造構造部材とできる。
【0043】
本発明の第9の発明に係るマグネシウム合金を用いた鋳造構造部材では、第8の発明に加えて、前記鋳造構造部材は、自動車、二輪車、航空機、船舶、鉄道車両のいずれかにおける、
内燃機関および電動によるパワートレイン、トラクションモータ、インバータ、減速機、伝達機関、ピストン、シャフト、コンロッド、カバー部、シリンダ、シリンダブロック、アーム、ナックル、ピラー、ホイール、コンプレッサ筐体、ステアリング、内部筺体、エンジンマウント、オイルパン、ギア、ギアケース、ナット、ねじ、ボルト、LED照明装置のヒートシンク、空圧・電動工具、およびそれらを構成する部材および筐体の少なくとも一つを含む。
【0044】
この構成により、荷重や負荷、変形、衝撃などへの耐性に優れた部材が得られる。
【0045】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態を説明する。
【0046】
(実施の形態1)
【0047】
(マグネシウム合金)
【0048】
本発明のマグネシウム合金は、次の組成を有する。
全体に対して、5.5質量%~6.5質量%のアルミニウム(Al)と、
全体に対して、0.2質量%~0.5質量%のカルシウム(Ca)と、
全体に対して、0.1質量%~0.6質量%のマンガン(Mn)と、
全体に対して、0.5質量%~1.5質量%のミッシュメタル(Mm)と、
残部のマグネシウムおよび不可避不純物とからなる。
【0049】
マグネシウム合金が含む組成として、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、マンガン、ミッシュメタルである。ここで、このとき、原料の由来、製造工程などにおいて不可避に混じってしまう不可避混合物が、マグネシウム合金に含まれることは除外しない。
【0050】
加えて、マグネシウム合金の特性や性質を損なうものでない成分が添加されることを除外しない。同様に、発明の意図を阻害しない成分が添加されることを除外しない。例えば、上述した成分以外の成分が添加されるが、本発明でのマグネシウム合金の性質や意図を阻害しない場合である。
【0051】
アルミニウム(以下、必要に応じて「Al」という)の組成比率は、全体に対して、5.5mass%~6.5質量(mass)%である。カルシウム(以下、必要に応じて「Ca」という)の組成比率は、全体に対して、0.2質量%~0.5質量%である。マンガン(以下、必要に応じて「Mn」という)の組成比率は、0.1質量%~0.6質量%である。ミッシュメタル(以下、必要に応じて「Mm」という)の組成比率は、0.5質量%~1.5質量%である。
【0052】
本発明のマグネシウム合金は、このような組成比率を備えている。
【0053】
本発明のマグネシウム合金においては、引張強度、伸び、衝撃吸収性が求められる。例えば、本発明のマグネシウム合金は、輸送機器や設備機器の構造部材などに使用される。一例としては、車両用ホイールに使用される。
【0054】
このような用途であるマグネシウム合金では、車両用ホイールなどの構造部材となった場合での荷重や負荷への耐性が求められる。十分な引張強度は、この荷重や負荷への耐性を実現するために求められる。
【0055】
同時に、車両用ホイールなどの構造部材には、加えた荷重や負荷に応じて変形やひずみが生じる。このため、これらに使用されるマグネシウム合金には、特性として十分な伸びが求められる。また、特性として伸びを有していることは、塑性加工などにも好適である。
【0056】
また、車両用ホイールなどの構造部材には、衝撃が加わることも多い。車両用ホイールであれば、車両が段差に乗り上げたときに衝撃を受ける。設備機器であれば、落下などの衝撃を受ける可能性もある。このような衝撃に対する衝撃吸収性も、マグネシウム合金には求められる。
【0057】
上述した組成比率を有する本発明のマグネシウム合金は、これらの用途に適する引張強度、伸び、衝撃吸収性を有する。すなわち、目的とする用途に適したマグネシウム合金である。
【0058】
また、ミッシュメタルは、次の通りである。
【0059】
ミッシュメタルは、スカンジウム(Sc)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジウム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)ルテチウム(Lu)の少なくとも一つ以上の組み合わせである。
【0060】
ミッシュメタルを含むことで、強度特性や難燃性が向上する。加えて、耐食性の向上をもたらす。
【0061】
(製造工程)
【0062】
マグネシウム合金は、これらの組成比率に応じたそれぞれの組成によって製造される。
【0063】
図1は、本発明の実施の形態1におけるマグネシウム合金の製造工程のフローチャートである。
【0064】
図1のフローチャートに示される通り、マグネシウム合金は、秤量工程ST1、溶融工程ST2、固化工程ST3、成形工程ST4を経て、製造される。もちろん、図1では、製造工程における主だった工程を示しており、他の工程が追加されてマグネシウム合金が製造されても問題ない。
【0065】
秤量工程ST1では、上述したような組成比率になるように、アルミニウム、カルシウム、ミッシュメタル、マンガン、マグネシウムが秤量される。不可避混合物は、原料であるアルミニウムなどの純度などによって含まれうるし、秤量工程ST1などにおいて混合してしまうことで含まれうる。
【0066】
溶融工程ST2では、秤量されたそれぞれの原料が溶融容器にて溶融される。図2は、本発明の実施の形態における溶融工程を示す模式図である。秤量された原料である、アルミニウム、カルシウム、マンガン、ミッシュメタル、マグネシムが溶融容器100に投入される。溶融容器100に投入されたこれらの原料は、加熱によって溶融される。
【0067】
溶融工程ST2を経て得られる溶融金属が、冷却によって固化される。これが固化工程ST3である。固化工程ST3にて冷却により固化されることで、固化した合金が得られる。
【0068】
次いで、必要に応じて成型工程ST4(例えば、固化工程ST3の後で行われてもよいし、固化工程ST3と並行して成型工程ST4が行われてもよい)が、実施される。この成形工程ST4を経て、例えばインゴット形状などのマグネシウム合金が製造される。
【0069】
もちろん、成形工程ST4の後で、追加的な工程が実施されてもよい。
【0070】
このようにして製造されたマグネシウム合金は、主成分がマグネシウムであることで、アルミニウムを主成分とするアルミニウム合金よりも軽量である。また、この組成比率を有することで、車両用ホイールを始めとした、輸送機器や設備機器の構造部材に適したマグネシウム合金が得られる。
【0071】
(マグネシウム合金の特性)
【0072】
本発明のマグネシウム合金に求める特性として、次のように特定した。
【0073】
(1)引張強さ:マグネシウム合金の試験片における引張強度が、260MPa以上である。
【0074】
(2)伸び:マグネシウム合金の試験片における伸びが、15.0%以上である。
【0075】
(3)衝撃吸収性(衝撃吸収エネルギー):マグネシウム合金の試験片におけるシャルビー衝撃試験での衝撃吸収エネルギーが、13J以上である。
【0076】
上述した組成および組成比率を備える本発明のマグネシウム合金は、これら(1)~(3)の特性を備えている。これらの特性を備えることで、上述した車両用ホイールなどの輸送機器の構造部材や、設備機器の構造部材に好適に使用できる。マグネシウムを主成分とすることで、非常に軽量であり、成形加工や使用された構造部材の十分な品質を実現できる。
【0077】
(測定方法)
上述の組成・組成範囲で定義されたマグネシウム合金について、(1)引張強度、(2)伸び、(3)衝撃吸収エネルギーについて測定した。それぞれの測定方法は次の通りである。
【0078】
(1)引張強度
上述した組成範囲の中で、組成比率を変更した複数の種類のマグネシウム合金の試験片を製作した。これらの試験片について、万能試験機(INSTRON製、5982型)を用いて引張強度(JIS Z 2241(ISO-6892-1に対応)規格中3.10.1「引張強さ」)を測定した。
【0079】
(2)伸び
上述した組成範囲の中で、組成比率を変更した複数の種類のマグネシウム合金の試験片を製作した。これらの試験片について、万能試験機(INSTRON製、5982型)を用いて、伸び(JIS Z 2241(ISO-6892-1に対応)規格中 3.3(伸び))を測定した。
【0080】
(3)衝撃吸収エネルギー
上述した組成範囲の中で、組成比率を変更した複数の種類のマグネシウム合金の試験片を製作した。これらの試験片について、シャルビー式衝撃試験機(株式会社 森試験機製作所製)を用いて、シャルピー衝撃値を測定した(JIS Z 2242(ISO148-1に対応))。
【0081】
試験温度を20±5℃、試験片温度を20±5℃とした。試験片が破断するときの吸収エネルギーを算出した。
【0082】
(測定結果)
【0083】
図3は、3つの引張強度、伸び、衝撃吸収エネルギーの測定結果を示す表である。異なる組成比率で複数種類のマグネシウム合金の試験片についての結果である。
【0084】
ここで、複数種類のマグネシウム合金は、カルシウムについては、カルシウムを含まない表の1番上の試験片およびカルシウムが0.6質量%である2番目の試験片を除いて、0.3質量%で固定し、マンガンについても0.3質量%で固定している。アルミニウムを5.0質量%~7.5質量%の範囲で変化させ、ミッシュメタルについては、0.0質量%から2.0質量%で変化させている。
【0085】
図3の表中には、それぞれの試験片についての引張強度の値、伸びの値、衝撃吸収エネルギー値が示されている。これら3つの特性について、アルミニウムの組成範囲の変化を縦軸、ミッシュメタルの組成範囲の変化を横軸として、クロス表にしたものを図4図6に示す。
【0086】
図4は、アルミニウムとミッシュメタルのそれぞれの組成範囲を変化させた(カルシウムとマンガンは0.3質量%で一定。マグネシウムは残部)場合の、引張強度を示すクロス表である。枠に色付けしている引張強度の値は、規定している引張強度260MPa以上の組成比率の試験片を示す。枠に色付けされていない組成比率の試験片は、規定している引張強度260MPa以上を満たしていない。
【0087】
例えば、アルミニウムが5.0質量%、ミッシュメタルが0.5質量%、カルシウムとマンガンはそれぞれ0.3質量%で、残部がマグネシウムである組成比率のマグネシウム合金は、引張強度が258MPaであり、規定した260MPaを下回っている。
【0088】
図5は、アルミニウムとミッシュメタルのそれぞれの組成範囲を変化させた(カルシウムとマンガンは0.3質量%で一定。マグネシウムは残部)場合の、伸びを示すクロス表である。枠に色付けしている伸びの値は、規定している伸び15%以上の組成比率の試験片を示す。枠に色付けされていない組成比率の試験片は、規定している伸び15%以上を満たしていない。
【0089】
例えば、ミッシュメタルが0.0質量%あるいは2.0質量%のマグネシウム合金は、伸びが13.7%や14.8%などであり、規定している15%以上を満たしていない。
【0090】
図6は、アルミニウムとミッシュメタルのそれぞれの組成範囲を変化させた(カルシウムとマンガンは0.3質量%で一定。マグネシウムは残部)場合の、衝撃吸収エネルギーを示すクロス表である。枠に色付けしている伸びの値は、規定している衝撃吸収エネルギーが13J以上の組成比率の試験片を示す。枠に色付けされていない組成比率の試験片は、規定している衝撃吸収エネルギーが13J以上を満たしていない。
【0091】
例えば、アルミニウムの組成比率が7.0質量%のマグネシウム合金や、ミッシュメタル2.0質量%のマグネシウム合金の衝撃吸収エネルギーは、12.5Jや12.0Jなどで、規定する13J以上を満たしていない。
【0092】
図4図6の全体で、目標とする次の特性を満たすのは、最初に示した組成・組成比率のマグネシウム合金である。
【0093】
(1)引張強さ:マグネシウム合金の試験片における引張強度が、260MPa以上である。
(2)伸び:マグネシウム合金の試験片における伸びが、15.0%以上である。
(3)衝撃吸収性(衝撃吸収エネルギー):マグネシウム合金の試験片におけるシャルビー衝撃試験での衝撃吸収エネルギーが、13J以上である。
【0094】
すなわち、これら(1)~(3)の特性を満たすのは、図4図6のそれぞれから明らかなとおり、次の組成範囲を持つマグネシウム合金である。
【0095】
全体に対して、5.5質量%~6.5質量%のアルミニウム(Al)と、
全体に対して、0.2質量%~0.5質量%のカルシウム(Ca)と、
全体に対して、0.1質量%~0.6質量%のマンガン(Mn)と、
全体に対して、0.5質量%~1.5質量%のミッシュメタル(Mm)と、
残部のマグネシウムおよび不可避不純物とからなる、マグネシウム合金。
【0096】
図4は、引張強度についてのクロス表であるが、図4において枠で囲んでいる範囲が、引張強度が260MPa以上の範囲である。この範囲から分かる通り、アルミニウムは5.5質量%~6.5質量%であり、ミッシュメタルは0.5質量%~1.5質量%である。
【0097】
図5は、伸びについてのクロス表であるが、図5において枠で囲んでいる範囲が、伸びが15.0%以上の範囲である。この範囲から分かる通り、アルミニウムは5.5質量%~6.5質量%であり、ミッシュメタルは0.5質量%~1.5質量%である。
【0098】
図6は、衝撃吸収エネルギーについてのクロス表であるが、図6において枠で囲んでいる範囲が、衝撃吸収エネルギーが13J以上の範囲である。この範囲から分かる通り、アルミニウムは5.5質量%~6.5質量%であり、ミッシュメタルは0.5質量%~1.5質量%である。
【0099】
これら図4図6の3つの試験結果(上述の(1)~(3)の特性目標に対応する試験結果)から、アルミニウムは5.5質量%~6.5質量%であり、ミッシュメタルは0.5質量%~1.5質量%であることが、適切であると確認された。
【0100】
また、図3の表の2番目に示す通り、カルシウムが0.6質量%である場合には、伸びが14.7%である。このため、カルシウムが0.5質量%より高い場合には、目標とする特性を満たせない。
【0101】
図7は、本発明の実施の形態におけるマグネシウム合金の燃焼試験の結果を示す表である。図7の燃焼試験では、それぞれの組成範囲での合金を溶融させた状態で大気中に保持し、溶湯に問題が無かったものを「〇」、溶湯に問題があったものを「×」として示している。目視で確認し、溶湯表面に燃焼が確認された場合は、難燃性が低いものであるとして、「×」とした。
【0102】
図7の結果から、カルシウムが0質量%である場合、0.1質量%である場合には、燃焼してしまう。すなわち、適切な添加範囲ではない。0.6質量%の場合には、難燃性では問題が無かったが、図3の結果についての上述の通り、伸びが不足しており不適である。このため、カルシウムの上限範囲は、0.5質量%であることが適切であることが確認された。
【0103】
燃焼試験で、溶湯表面が燃焼することは、製品製造時の溶解および鋳造の工程において発火、燃焼が生じる可能性があるということである。すなわち、適切な製造や使用を考慮すると難燃性が低いということである。このようなマグネシウム合金は好ましくない。カルシウムは、マグネシウム合金の難燃性を高めるための要素であるので、燃焼試験で「×」が確認された0.1質量%は、カルシウムの添加量が不足している。一方、0.2質量%では、「〇」である(図7において)。これにより、0.2質量%以上のカルシウムが必要であることも確認された。
【0104】
よって、以上より、カルシウムは0.2質量%~0.5質量%であることが適切であると確認された。
【0105】
マンガンは、図3図6から、0.3質量%であることで、他の組成範囲が上述であれば、目標の特性(1)~(3)を満たすことが確認された。マンガンの量が増えすぎると機械的特性を悪くするので、マンガンは、0.1質量%~0.6質量%であることが適当である。
【0106】
マグネシウムは残部である。
【0107】
図4図6のそれぞれの特性(1)~(3)に対応する結果において、特性を満たす範囲(表の中央付近の枠囲み部分)での、個々の特性の測定結果は次の通りである。図4の上に、この枠囲み部分の9つの組成のそれぞれの試験片を、1~9として、下記にそれぞれの結果を示す。
【0108】
1.アルミニウムが5.5質量%、ミッシュメタルが0.5質量%(カルシウムは0.3質量%、マンガンは0.3質量%で固定。マグネシウムは残部であることは、下記2以降でも共通)のマグネシウム合金。
引張強度:260MPa
伸び:23.1%
衝撃吸収エネルギー:15.8J
【0109】
2.アルミニウムが6.0質量%、ミッシュメタルが0.5質量%(カルシウムは0.3質量%、マンガンは0.3質量%で固定。マグネシウムは残部である)のマグネシウム合金。
引張強度:268.5MPa
伸び:26.3%
衝撃吸収エネルギー:13.0J
【0110】
3.アルミニウムが6.5質量%、ミッシュメタルが0.5質量%(カルシウムは0.3質量%、マンガンは0.3質量%で固定。マグネシウムは残部である)のマグネシウム合金。
引張強度:273.5MPa
伸び:25.4%
衝撃吸収エネルギー:15.4J
【0111】
4.アルミニウムが5.5質量%、ミッシュメタルが1.0質量%(カルシウムは0.3質量%、マンガンは0.3質量%で固定。マグネシウムは残部である)のマグネシウム合金。
引張強度:277.5MPa
伸び:16.0%
衝撃吸収エネルギー:20.3J
【0112】
5.アルミニウムが6.0質量%、ミッシュメタルが1.0質量%(カルシウムは0.3質量%、マンガンは0.3質量%で固定。マグネシウムは残部である)のマグネシウム合金。
引張強度:269.0MPa
伸び:16.4%
衝撃吸収エネルギー:18.4J
【0113】
6.アルミニウムが6.5質量%、ミッシュメタルが1.0質量%(カルシウムは0.3質量%、マンガンは0.3質量%で固定。マグネシウムは残部である)のマグネシウム合金。
引張強度:267.0MPa
伸び:16.5%
衝撃吸収エネルギー:14.4J
【0114】
7.アルミニウムが5.5質量%、ミッシュメタルが1.5質量%(カルシウムは0.3質量%、マンガンは0.3質量%で固定。マグネシウムは残部である)のマグネシウム合金。
引張強度:278.0MPa
伸び:15.0%
衝撃吸収エネルギー:15.1J
【0115】
8.アルミニウムが6.0質量%、ミッシュメタルが1.5質量%(カルシウムは0.3質量%、マンガンは0.3質量%で固定。マグネシウムは残部である)のマグネシウム合金。
引張強度:272.5MPa
伸び:16.5%
衝撃吸収エネルギー:17.5J
【0116】
9.アルミニウムが6.5質量%、ミッシュメタルが1.5質量%(カルシウムは0.3質量%、マンガンは0.3質量%で固定。マグネシウムは残部である)のマグネシウム合金。
引張強度:277.0MPa
伸び:18.2%
衝撃吸収エネルギー:14.7J
【0117】
すなわち、図4図6の枠で囲まれた範囲が、特性(1)~(3)を満たす沿組成範囲であることが確認された。すなわち、次の通りであり、既述した通りである。
全体に対して、5.5質量%~6.5質量%のアルミニウム(Al)と、
全体に対して、0.2質量%~0.5質量%のカルシウム(Ca)と、
全体に対して、0.1質量%~0.6質量%のマンガン(Mn)と、
全体に対して、0.5質量%~1.5質量%のミッシュメタル(Mm)と、
残部のマグネシウムおよび不可避不純物とからなるマグネシウム合金。
このマグネシウム合金は、(1)~(3)の特性を満たして、軽量であるマグネシウムを主成分として、軽量化を実現しつつも、車両用ホイールなどの構造部材に対応できるマグネシウム合金である。これが、図3図7で示す試験結果から確認された。
【0118】
(より組成範囲を絞ったバリエーション)
【0119】
(カルシウムの組成範囲)
カルシウムが、全体に対して0.25質量%~0.35質量%であることも好適である。
【0120】
カルシウムの組成範囲がより絞られていることで、伸びの特性を更に高めることができる。
【0121】
ここで、Caに関しては次のように組成を判断すればよい。
【0122】
Ca含有量は、次の理由の通り、0.2質量%以上である必要がある。Caは、マグネシウム合金を鋳造する際に、溶湯表面に強固な保護膜を形成することができ、この保護膜によって難燃性が向上する。0.2質量%未満ではこの保護膜の形成が不十分で、難燃性の向上効果も不十分になってしまうからである。
【0123】
Caは大量に添加すると伸びが低下する傾向にあり、0.5質量%を超えると特にその傾向が顕著になってしまう。また、Caが多すぎると溶湯の濡れ性が上がって、炉壁への親和性が上がり、発火し易くなってしまうからである。
【0124】
また、マンガン(Mn)の組成についても次のように判断されればよい。
【0125】
Mn含有量は、次の理由で、0.1質量%以上である必要があり、0.25質量%以上であると好ましい。Mnが含まれていると鋳造の際に溶湯中に含まれる鉄を除去する効果が発揮されるが、0.1質量%未満ではその除去効果が不十分で、マグネシウム合金中に鉄が残存し、耐食性が低下するからである。
【0126】
一方で、次の理由で、Mn含有量は0.6質量%以下である必要があり、0.35質量%以下であると好ましい。Mnが多すぎるとAlとの金属間化合物やMnの単体が析出しやすくなる傾向にあり、0.6質量%を超えるとこの問題が無視できなくなるからである。
【0127】
(ミッシュメタルの組成範囲)
ミッシュメタルが、全体に対して0.5質量%~1.0質量%であることも好適である。ミッシュメタルがこの範囲であることで、マグネシウム合金の伸びがより高まる。
【0128】
図5に示されるように、ミッシュメタルが0.5質量%~1.0質量%であると伸びが16%以上となり、より高くなる。
【0129】
以上のように、実施の形態1におけるマグネシウム合金は、車両用ホイールなどの構造部材に適した引張強度、伸び、衝撃吸収性を備える。
【0130】
(実施の形態2)
【0131】
次に、実施の形態2について説明する。実施の形態2では、実施の形態1で説明したマグネシウム合金使用態様について説明する。実施の形態1で説明したマグネシウム合金は、鋳造構造部材に適用される。すなわち、実施の形態2では、実施の形態1でのマグネシウム合金を用いた鋳造構造部材について説明する。
【0132】
実施の形態1で得られるマグネシウム合金を、鋳造し、必要な成形加工などを施すことで、鋳造構造部材が得られる。
【0133】
ここで、鋳造構造部材としては次のようなものがあり得る。
【0134】
自動車、二輪車、航空機、船舶、鉄道車両のいずれかにおける、内燃機関および電動によるパワートレイン、トラクションモータ、インバータ、減速機、伝達機関、ピストン、シャフト、コンロッド、カバー部、シリンダ、シリンダブロック、アーム、ナックル、ピラー、ホイール、コンプレッサ筐体、ステアリング、内部筺体、エンジンマウント、オイルパン、ギア、ギアケース、ナット、ねじ、ボルト、LED照明装置のヒートシンク、空圧・電動工具、およびそれらを構成する部材および筐体の少なくとも一つ。
【0135】
このような分野として使用される。
【0136】
マグネシウム合金は非常に軽量であり、これらに例示した構造部材に使用されると、構造部材の軽量化を実現できる。また、適した引張強度、伸び、衝撃吸収性を有することで、構造部材の成形加工や構造部材の実使用において、より適した状態とできる。
【0137】
また、本発明のマグネシウム合金が、これらの鋳造構造部材に用いられることで、鋳造構造部材の固定時に発生する応力に耐えることができる十分な強度をもつことができる。また、振動や衝撃にも十分に耐えることができる。
【0138】
車両用ホイールに適用される場合には、ホイール締結部の応力、振動、衝撃に耐えることができる。
【0139】
なお、実施の形態1で説明されたマグネシウム合金は、本発明の趣旨を説明する一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲での変形や改造を含む。
【符号の説明】
【0140】
100 溶融容器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7