(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023045389
(43)【公開日】2023-04-03
(54)【発明の名称】インクジェット印刷装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/14 20060101AFI20230327BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20230327BHJP
【FI】
B41J2/14 603
B41J2/01 129
B41J2/01 501
B41J2/14 613
B41J2/14 605
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021153773
(22)【出願日】2021-09-22
(71)【出願人】
【識別番号】000137823
【氏名又は名称】株式会社ミマキエンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】100148301
【弁理士】
【氏名又は名称】竹原 尚彦
(74)【代理人】
【識別番号】100176991
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 由布子
(74)【代理人】
【識別番号】100217696
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 英行
(72)【発明者】
【氏名】丸山 恭平
(72)【発明者】
【氏名】古瀬 真行
【テーマコード(参考)】
2C056
2C057
【Fターム(参考)】
2C056FC01
2C056HA44
2C057AF72
2C057AG68
2C057AG77
2C057AG99
(57)【要約】
【課題】フィルタ表面でのブリッジング現象の発生を抑制する。
【解決手段】インクジェット印刷装置1は、印刷時に主走査方向Yに移動するインクジェットヘッド3と、インクジェットヘッド3において、ノズル孔31a(ノズル)にインクを供給する経路上に設けられたフィルタ室33と、フィルタ室33内でヘッドフィルタ34に載置された球体50と、を有する。球体50は、ヘッドフィルタ34の網目よりも大きい直径φを有する。球体50は、ヘッドフィルタ34上で、インクジェットヘッド30の移動により転動可能に配置されている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷時に走査方向に移動するインクジェットヘッドと、
前記インクジェットヘッドにおいて、ノズルにインクを供給する経路上に設けられたフィルタ室と、
前記フィルタ室内でフィルタに載置された転動体と、を有し、
前記転動体は、前記フィルタの網目よりも大きい直径を有し、
前記転動体は前記フィルタ上で、前記インクジェットヘッドの移動により転動可能に配置されている、インクジェット印刷装置。
【請求項2】
前記転動体は、非磁性の金属材料で形成された球体である、請求項1に記載のインクジェット印刷装置。
【請求項3】
前記球体は、前記フィルタに複数載置されており、
前記フィルタの面積に対する前記球体の投影面積の割合が、3%以上、30%以下である、請求項2に記載のインクジェット印刷装置。
【請求項4】
前記球体は、前記フィルタに複数載置されており、
前記フィルタに対する前記球体の投影面積の合計が、前記フィルタの面積の1/3~1/30である、請求項2に記載のインクジェット印刷装置。
【請求項5】
前記インクは、紫外線硬化型のインクである、請求項1から請求項4の何れか一項に記載のインクジェット印刷装置。
【請求項6】
前記インクは、三次元造形に用いられるサポート材インクである、請求項1から請求項5の何れか一項に記載のインクジェット印刷装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット印刷装置には、インクカートリッジからヘッドユニットのノズルまでのインクの供給路の途中に、フィルタ室を配置したものがある。フィルタ室には、フィルタが配置されており、異物などが除去されたインクがヘッドユニットに供給されるようにしている。
【0003】
特許文献1は、フィルタ室内の気泡を解消するために、インクの通流方向におけるフィルタの上流側に、撹拌部材(プレート、ボール)を設けて、フィルタ室内に乱流を発生させることを開示している。
特許文献2は、フィルタ室に浮子体を配置して、フィルタ室内に乱流を発生させて、フィルタの目詰まりを抑制することを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平05-131645号公報
【特許文献2】特許4911303号公報
【発明の概要】
【0005】
撹拌体や浮遊体は、インクの流れに乱流を発生させるだけであり、フィルタでのブリッジング現象の発生を防ぐことが難しい。ブリッジング現象が起こると、インク中の細かな粒子などが凝集して、フィルタの開口を覆うように架橋する結果、フィルタが目詰まりする。
特に、いわゆる凝集型のインクは、外部刺激が作用すると、インク中に微粒子状の凝集物が生じやすいという傾向がある。そのため、ブリッジング現象によるフィルタの目詰まりを防ぐことが難しかった。
そこで、ブリッジング現象の発生を抑制できるようにすることが、求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
(1)印刷時に走査方向に移動するインクジェットヘッドと、
前記インクジェットヘッドにおいて、ノズルにインクを供給する経路上に設けられたフィルタ室と、
前記フィルタ室内でフィルタに載置された転動体と、を有し、
前記転動体は、前記フィルタの網目よりも大きい直径を有し、
前記転動体は前記フィルタ上で、前記インクジェットヘッドの移動により転動可能に配置されている、インクジェット印刷装置である。
【0007】
(2)前記転動体は、非磁性の金属で形成された球体である。
【0008】
(3)前記球体は、前記フィルタに複数載置されており、
前記フィルタの面積に対する前記球体の投影面積の割合が、3%以上、30%以下である。
【0009】
(4)前記球体は、前記フィルタに複数載置されており、
前記フィルタに対する前記球体の投影面積の合計が、前記フィルタの面積の1/3~1/30である。
【0010】
(5)前記インクは、紫外線硬化型のインクである。
【0011】
(6)前記インクは、三次元造形に用いられるサポート材インクである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ブリッジング現象の発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】インクジェット印刷装置を説明する図である。
【
図2】インクジェット印刷装置の要部拡大図である。
【
図3】インクジェットヘッドの断面を模式的に示した図である。
【
図4】ヘッドフィルタと球体との関係を説明する図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を、メディアMに対して印刷を行うインクジェット印刷装置1に適用した場合を例に挙げて説明する。
【0015】
図1は、インクジェット印刷装置1を説明する模式図である。
図2は、キャリッジ3の部分を拡大して示した図である。
なお、各図面における符号「Y」は、主走査方向を意味し、符号「X」は、副走査方向を意味し、符号「Z」は、鉛直線方向を意味する。
【0016】
図1に示すように、インクジェット印刷装置1では、水平に配置されたガイドレール2で、キャリッジ3が支持されている。キャリッジ3は、ガイドレール2の長手方向(主走査方向Y)に進退移動可能に設けられている。
図2に示すように、キャリッジ3には、複数のインクジェットヘッド30(30a~30d)と、UV照射器32が搭載されている。以下においては、インクジェットヘッド30a~30dを区別しない場合には、単純にインクジェットヘッド30とも表記する。
【0017】
キャリッジ3の下方には、メディアMが位置している。メディアMに対して印刷を行う際には、キャリッジ3が、ガイドレール2上を主走査方向Yに移動する。この際に、図示しない制御装置の指令に基づいて、各インクジェットヘッド30(30a~30d)から、メディアMの表面にインク滴が吐出されて、メディアMの表面に画像が形成される。
印刷に用いられるインクが、紫外線硬化型のインクである場合、メディアM上に着弾したインク滴に、UV照射器32から紫外線を照射して、インク滴を固化、定着させる。
【0018】
図3は、インクジェットヘッド30の断面を模式的に示した図である。
インクジェットヘッド30は、メディアMとの対向部にノズルプレート31を有する。ノズルプレート31では、複数のノズル孔31aから構成されるノズル列が、同一方向に並んで設けられている。
【0019】
インクジェットヘッド30の上部には、インク供給口36を持つヘッドポート35が取り付けられている。インク供給口36には、インクタンク10から延びるインク供給管11が接続されている。インク供給口36は、フィルタ室33に連絡している。フィルタ室33には、インクタンク10内のインクが、インク供給口36を介して供給される。
【0020】
フィルタ室33に供給されたインクは、ヘッドフィルタ34を通ってインク吐出室(図示せず)に供給される。インク吐出室には、ピエゾ素子が設けられている。ピエゾ素子が駆動されると、インク吐出室内のインクが、ノズル孔31aからメディアMに向けて吐出される。
【0021】
ここで、ヘッドフィルタ34は、水平線方向に沿う向きで設けられており、フィルタ室33に供給されたインクは、ヘッドフィルタ34を上方から下方に横切って通過する。
なお、水平線方向とは、インクジェット印刷装置1の設置面G(
図1参照)に対する設置状態を基準とした水平線方向を意味する。
ここで、使用するヘッドフィルタ34の網目(目開き)は、インクジェットヘッド30の種類に応じて、最適の口径が異なる。本実施形態では、一例として、5~8μmの目開きのヘッドフィルタ34を採用している。
【0022】
インク中には、顔料や樹脂などの細かな粒子が分散している。そのため、インク中の細かな粒子などが凝集して、ヘッドフィルタ34の網目を覆うように架橋する現象(ブリッジング現象)が発生することがある。そうすると、凝集した粒子などにより、ヘッドフィルタ34に目詰まりが生じることがある。
【0023】
本実施形態では、ヘッドフィルタ34の目詰まりを防ぐことを目的として、フィルタ室33内に転動体(球体50)を配置している。
具体的には、水平線に沿う向きで設けられたヘッドフィルタ34に、少なくともひとつの転動体(球体50)を載置している。
本実施形態では、上面視において円形の外形を持つ球体50を、ヘッドフィルタ34に載置している。ここで、本明細書における「球体」は、ヘッドフィルタ34の上面に点接触できる程度の真円度を有していれば良い。よって、球体50は、真円球である必要は無い。よって、上面視において楕円形の外形を持つ球体であっても、ヘッドフィルタ34の上面に点接触できるものであれば、採用可能である。
【0024】
本実施形態では、メディアMに対する印刷時に、キャリッジ3が主走査方向Yに移動する際のモーメント(加速度)で、球体50がヘッドフィルタ34の表面を転動するようにしている。
本件発明では、転動する球体50が、以下のような作用を生じることで、ブリッジング現象の発生を抑制すると考察している。
(a)転動する球体50が、ヘッドフィルタ34の表面にインクの対流を発生させて、ヘッドフィルタ34の表面に凝集した粒子を分散させる。
(b)転動する球体50が、ヘッドフィルタ34の表面に凝集した粒子をかき分けて移動することで、ヘッドフィルタ34の表面に凝集した粒子を分散させる。
(c)球体50は、その転動方向が特定の方向に限定されない。そのため、球体50が、ヘッドフィルタ34の上面の特定の領域に偏らずにランダムに移動する結果、ヘッドフィルタ34の特定の領域のみに偏らずに、広い範囲に亘ってブリッジング現象の発生を抑制する。
【0025】
ここで、フィルタ室33を通過するインク中に球体50が没したときに、球体50には浮力が作用する。球体50が、作用する浮力でヘッドフィルタ34の表面から離れると、印刷時にヘッドフィルタ34の表面を球体50が転動できなくなって、上記の作用(a)、(b)、(c)が発揮されなくなる可能性がある。
例えば、樹脂製の球体にすると比重が低いので、インク中に没したときにヘッドフィルタ34の表面から浮き上がる可能性がある。また、球体は、ヘッドフィルタ34の上面に物理的に接触しつつ、インクジェットヘッド30の移動に伴って、ヘッドフィルタ34の上面を転がって移動(転動)できる程度の密度が必要である。
そこで、本実施形態では、非磁性の金属材料で形成した球体、具体的には、比重が高く、耐久性に優れたステンレス製の球体を採用している。
【0026】
球体50は、ヘッドフィルタ34の網目(目開き)よりも大きい直径で少なくとも形成される。本実施形態では、一例として1φ(直径1mm)の球体を用いている。これは、球体50の直径がヘッドフィルタ34の網目よりも小さいと、球体50がヘッドフィルタ34の網目に詰まる等、球体50の転動に支障が生じる可能性があるからである。
【0027】
図4は、ヘッドフィルタ34と球体50との関係を説明する図である。
図4の(a)は、インクジェットヘッド30におけるフィルタ室33周りを拡大して示した模式図である。この
図4の(a)は、
図3におけるA-Aに沿う断面図に相当する。
図4の(b)は、ヘッドフィルタ34の面積に対する球体50の投影面積を説明する図である。
図4の(c)は、ヘッドフィルタ34の面積に対する平行ピン50Aの投影面積を説明する図である。
なお、
図4の(b)、(c)では、球体50と平行ピン50Aの有効転動範囲と投影面積をハッチングを付して示している。
【0028】
断面視においてフィルタ室33は、略矩形形状を成しており、フィルタ室33の下部側(ノズルプレート31側)の開口が、ヘッドフィルタ34で覆われている。フィルタ室33に供給されたインクは、ヘッドフィルタ34を上方から下方に通過して、ノズルプレート31側に供給されるようになっている。
ヘッドフィルタ34の使用面積は、断面視におけるフィルタ室33の開口面積と略同じである。球体50は、ヘッドフィルタ34の上面に点接触する球体であり、上面視において円形の外形を有している。
【0029】
インクジェット印刷装置1では、メディアMに対する印刷時に、インクジェットヘッド30が主走査方向Yに移動する。
本実施形態では、インクジェットヘッド30が移動する際に、球体50がフィルタ室33内を自由に転動できるように、フィルタ室33に配置する球体50の総数と直径を決定している。
【0030】
具体的には、ヘッドフィルタ34の面積に対する各球体の投影面積の合計の割合(球体の配置密度)が、3%以上30%以下となるように、球体の総数と直径を設定している。
ここで、各球体50の直径がφである場合、ひとつの球体50の投影面積Rは、π(φ/2)
2となる。ここで、球体50の投影面積Rは、
図4の(b)において、ハッチングを付した円形の領域である(R=π(φ/2)
2)。
ヘッドフィルタ34に載置される球体50の総数が、N個である場合。全球体の投影面積R2は、N×π(φ/2)
2となる(R2=N×π(φ/2)
2)。
そうすると、ヘッドフィルタ34の面積R1に対する全球体の投影面積R2の割合は、R2/R1=(N×π(φ/2)
2)/R1となる。
【0031】
本実施形態では、ヘッドフィルタ34の面積R1に対する全球体の投影面積R2の割合が、3%以上、30%以下となる下記の関係を満たすように、球体の配置密度(R2/R1)と直径φが設定されている。
0.03≦配置密度≦0.3 ・・・(1)
よって、例えばヘッドフィルタ34の面積R1が、20mm2であり、球体50の直径が1φ(1.0mm)、1.5φ(1.5mm)、2φ(2.0mm)である場合、球体の投影面積と配置密度の値は下記表のようになる。
【0032】
【0033】
よって、上記式(1)を満たす球体の総数Nは、
1φ(1mm)の球体を用いる場合は、1個から7個になる。
1.5φ(1.5mm)の球体を用いる場合は、1個から4個になる。
2φ(2mm)の球体を用いる場合は、1個から2個になる。
【0034】
なお、配置密度が小さくなると、ブリッジング現象の抑制が不十分となって、インクのヘッドフィルタ34の通過が阻害される可能性が高くなる。
よって、ヘッドフィルタ34の面積R1に対する全球体の投影面積R2の割合(配置密度)は、3%以上30%以下であることが好ましいが、5%以上20%以下、10%以上20%以下であることが好ましい。
配置密度が30%を越えると、ヘッドフィルタ34をインクが通過する際の抵抗が大きくなる。配置密度が3%未満になると、ブリッジング現象の抑制が不十分となる。
【0035】
よって、配置密度の条件が5%以上20%以下である場合、球体50の直径が1φ(1mm)であるときは、球体の総数は、2個から5個になる。球体50の直径が1.5φ(1.5mm)であるときは、球体の総数は、1個から3個になる。球体50の直径が2φ(2mm)であるときは、球体の総数は、1個になる。
【0036】
さらに、配置密度の条件が10%以上20%以下である場合、球体50の直径が1φ(1mm)であるときは、球体の総数は、3個から5個になる。球体50の直径が1.5φ(1.5mm)であるときは、球体の総数は、2個または3個になる。球体50の直径が2φ(2mm)であるときは、球体の総数は、1個になる。
【0037】
ここで、下記の条件でインクを通過させた後のヘッドフィルタの目詰まりの程度を、
(A)ヘッドフィルタ34に、転動体(球体50、平行ピン50A)を載置した場合と、(B)ヘッドフィルタ34に球体50を載置しない場合の各々について検証した。
以下、検証条件と、検証結果を説明する。
【0038】
[検証条件]
<ヘッドフィルタ>
4mm×5mmの面積を持つ矩形形状のヘッドフィルタを用いた。
検証にあたりヘッドフィルタを、疑似ヘッドにおける4mm×5mmの開口を持つフィルタ室に配置して、フィルタ室に供給されたインクが、フィルタを上方から下方側に横切って流れるようにした。この場合のフィルタ面積は、20mm
2である。
<転動体>
(A)球体
1φ(直径1mm)のステンレス製の5個の球体50を、疑似フィルタ室内でヘッドフィルタに載置した(
図4の(b)参照)。この場合における5個の球体のヘッドフィルタ40に対する投影面積Rは、3.93mm
2である。
(B)平行ピン
2φ(直径2mm)、長さ4mmの平行ピン50Aを、疑似フィルタ室内でヘッドフィルタに載置した(
図4の(c)参照)。この場合における平行ピンのヘッドフィルタ40に対する投影面積R’は、8.0mm
2である。
<試験条件>
・印刷時のキャリッジ(インクジェットヘッド)の走査を模擬するために、疑似ヘッドを、速度:466mm/s、加速度:0.43Gで移動させながら、常温環境下で、SPインクを水頭差50cmで流しながらヘッドフィルタを通過させた。
【0039】
上記試験条件での検証結果を、下記表2、表3に示す。
ここで表2における表面画像は、試験後のヘッドフィルタ40の表面の電子顕微鏡写真である。なお、顕微鏡写真では、凝集物や異物が少ないほど黒色が強く現れ、凝集物や異物は白色で現れる。面積解析は、異物が付着している領域を赤色で現わしている。
【0040】
【0041】
【0042】
撹拌体をヘッドフィルタに載置しない場合、ヘッドフィルタの閉塞率は、試験前の50.28%から76.13%まで増加した。また、ヘッドフィルタにおけるSPインクの流量の低下率は100%であった。
撹拌体としてのひとつの平行ピンをヘッドフィルタに載置した場合、フィルタの閉塞率は、試験前の50.28%から64.51%まで増加した。SPインクの流量の低下率は、36.20%であった。
撹拌体としての5個の球体をヘッドフィルタに載置した場合、フィルタの閉塞率は、試験前の50.28%から66.31%まで増加した。SPインクの流量の低下率は、8.50%であった。
【0043】
以上より、転動体をヘッドフィルタに載置すると、試験後のインクの流量の低下が、転動体を載置しない場合よりも抑えられることが確認された。
また、撹拌体として球体を用いると、平行ピンの場合よりも試験後のインクの流量の低下が抑えられることを確認した。
【0044】
図4の(b)に示すように、球体50は、ヘッドフィルタ34の上面に点Cで接触(点接触)する。そのため、4mm×5mmのヘッドフィルタ34における球体50の有効転動範囲は、3mm×4mmの範囲となる
一方、
図4の(c)に示すように、平行ピン50Aは、ヘッドフィルタ34の上面に線C’で接触(線接触)する。そのため、4mm×5mmのヘッドフィルタ34における平行ピン50Aの有効転動範囲は、2mm×5mmの範囲となる。
そのため、転動体として、球体50の方が、平行ピン50Aよりもより広い範囲を転動する。
【0045】
そして、インクジェットヘッド30のフィルタ室33に転動体を配置する場合、インク供給口36から転動体を投入することになる。
ここで、平行ピン50Aをヘッドフィルタ34に載置する場合、平行ピン50Aは、当該平行ピン50Aの長手方向を主走査方向Yに直交する向きに配置する必要がある。しかし、平行ピン50Aをインク供給口36から投入する場合、平行ピン50Aの長手方向が、必ずしも主走査方向Yに直交する向きになるとはいえない。
【0046】
これに対して、球体50の場合には、向きを揃える必要が無い。
よって、有効転動範囲の広さと設置の容易さから、本実施形態では、転動体として球体50を採用している。ただし、平行ピン50Aの使用を排除するものではない。
【0047】
ヘッドフィルタ34上に複数の球体50を載置すると、インクジェットヘッド30が主走査方向に移動する際に、球体50の移動方向は、平行ピン50Aのように特定の方向に限定されない。よって、球体50の各々がランダムに移動することになる(
図4の(a)参照)。その結果、ヘッドフィルタ34上に凝集した粒子を、粒子が凝集した領域を通過する球体50で、より確実に分散させることができるようになる。これにより、ブリッジング現象の発生を抑制できる。
【0048】
なお、前記した実施形態では、フィルタ室33内のヘッドフィルタ34を通過するインクが、紫外線硬化型のインクである場合を例示した。紫外線硬化型のインクは、凝集物を生じやすい傾向が高い。そのため、ヘッドフィルタ34上に複数の球体を載置することで、紫外線硬化型のインクを使用するヘッドフィルタ34において、目詰まりの発生の可能性を低減できる。
【0049】
なお、印刷装置が、立体構造物の造形装置である場合には、本件発明を、サポート材インクを吐出するインクジェットヘッドのフィルタ室に適用することが好ましい。
ここで、サポート材インクとは、造形物を支持する領域(サポート領域)の造形に用いられるインク組成物である。サポート材インクは、一例として、特開2018-183890号公報に開示されたものがある。
立体構造物の造形では、サポート材インクの使用量が、造形物を形成する他のインクよりも使用量が多い。そのため、サポート材インク用のインクジェットヘッドでは、フィルタの目詰まりが、他のインクジェットヘッドに比べて起こりやすい。
よって、サポート材インク用のインクジェットヘッドにおいて、ヘッドフィルタ34上に複数の球体を載置することで、ヘッドフィルタ34における目詰まりの発生の可能性を低減できる。
【0050】
前記した実施形態では、ヘッドフィルタ34の面積R1に対する各球体50の投影面積の合計R2の割合を考慮して、載置する球体の総数を決定する場合を例示した(前記式(1)参照)。
ここで、ヘッドフィルタ34の面積R1を基準として、球体50の総数と直径φを設定しても良い。
【0051】
例えば、各球体50の投影面積の合計R2が、ヘッドフィルタ34の面積R1の1/30以上、1/3以下となる下記の関係を満たすように、球体50の総数と、直径φを設定しても良い。
(R1/30)≦球体の投影面積の合計R2≦(R1/3) ・・・(2)
【0052】
よって、例えばヘッドフィルタ34の面積R1が12mm2である場合、ヘッドフィルタ34に載置する球体50の投影面積の合計R2が、0.4mm2以上、4mm2以下となる関係を満たすように、球体の総数と、直径φが設定される。
【0053】
前記した表1を参照すると、上記式(2)を満たす球体の総数Nは、
1φ(1mm)の球体を用いる場合は、1個から5個になる。
1.5φ(1.5mm)の球体を用いる場合は、1個から2個になる。
2φ(2mm)の球体を用いる場合は、1個になる。
【0054】
また、インクジェットヘッド30の主走査方向Yに直交する方向のヘッドフィルタ34の長さL(
図4の(b)参照)と、球体50の直径φを考慮して、ヘッドフィルタ34に載置する球体の総数を決定しても良い。
【0055】
例えば、
図4の(b)に示すように、ヘッドフィルタ34が、主走査方向Yの直交方向に長さL(5mm)を有しており、球体50が直径φ(1mm)である場合、球体50は、主走査方向Yの直交方向に少なくとも5個(5÷1=5個)並ぶことができる。
図4の(a)に示すように、インクジェットヘッド30が移動する際の球体50の移動方向はランダムである。そのため、インクジェットヘッド30が移動を繰り返す間に、球体50が一部に偏る可能性がある。
そこで、球体50の総数を、(i)ヘッドフィルタ34上で複数の球体が、主走査方向Yの直交方向に少なくとも1列を越えて並ぶことができる個数に設定し、かつ(ii)ヘッドフィルタ34の面積に対する各球体の投影面積の合計の割合が、前記した30%を超えないように設定することが好ましい。
【0056】
例えば、直径1mmの球体50の総数を7個にすると、(i)(ii)の条件を充足する。この場合、一部の球体50の配置に偏りが生じたとしても、5個を超えた分の2個の球体が、偏りにより生じた空間を埋めることができる。これにより、インクジェットヘッド30が移動する際の広い範囲を球体50が転動できる。そして、(ii)の条件を満たしていることで、球体50がヘッドフィルタ34を通過するインクの流れを阻害し難くなるようにしている。
なお、(ii)の条件に代えて、(iii)各球体50の投影面積の合計R2が、ヘッドフィルタ34の面積R1の1/3以下となる条件を採用しても良い。
【0057】
以上の通り、実施の形態では以下の構成を有するインクジェット印刷装置1を開示した。
(1)インクジェット印刷装置1は、印刷時に主走査方向Yに移動するインクジェットヘッド30と、
インクジェットヘッド30において、ノズル孔31a(ノズル)にインクを供給する経路上に設けられたフィルタ室33と、
フィルタ室33内でヘッドフィルタ34(フィルタ)に載置された球体50と、を有する。
球体50は、ヘッドフィルタ34の網目よりも大きい直径φを有する。
球体50は、ヘッドフィルタ34上で、インクジェットヘッド30の移動により転動可能に配置されている。
【0058】
このように構成すると、印刷時にインクジェットヘッド30が変位する際に、ヘッドフィルタ34に載置された球体50がヘッドフィルタ34上を転動する。これにより、転動する球体50によりヘッドフィルタ34の表面にインクの対流が発生して、凝集した粒子が分散して、ブリッジング現象の発生を抑制できる。
また、転動する球体50が、ヘッドフィルタ34の表面の凝集物に触れて、凝集物を拡散させるので、ブリッジング現象の発生を抑制できる。
【0059】
(2)球体50は、非磁性の金属材料(ステンレス)で形成したものである。
【0060】
球体50が軽量であると、フィルタ室34を通過するインク中に球体50が没したときに、球体50が浮力で持ち上げられて、ヘッドフィルタ34から離れる可能性がある。そうすると、ヘッドフィルタ34の表面にインクの対流を発生させることができなくなって、ブリッジング現象の発生を抑制できなくなる可能性がある。
そのため、非磁性の金属材料から形成した球体50を採用することで、フィルタ室33を通過するインク中に球体50が没したときに、球体50が浮力でヘッドフィルタ34の表面から離れることを防止できる。これにより、ヘッドフィルタ34に載置された球体50が、印刷時にヘッドフィルタ34上を転動するので、転動する球体50によりヘッドフィルタ34の表面にインクの対流を発生させて、ブリッジング現象の発生を抑制できる。
【0061】
また、樹脂製の球体にすると、球体がヘッドフィルタ34の上面を転動するため、経時的に摩耗する可能性がある。球体が摩耗すると、ブリッジング現象の発生の抑制が不十分となる可能性がある。さらに、摩耗に起因して、球体が破損すると、生じた破片などが異物となって、ヘッドフィルタ34に好ましくない影響を生ずる可能性もある。
なお、磁性を持つ材料で形成すると、球体が磁化した場合に、球体同士が磁力で集合することや、フィルタ室34を構成する壁に磁着して、動かなくなる可能性がある。かかる場合、球体50がヘッドフィルタ34の上面を転動しなくなる結果、ブリッジング現象の発生を抑制できなくなる可能性もある。
上記のように、ステンレス製の球体とすることで、かかる事態の発生を好適に防止できる。
【0062】
(3)球体50は、ヘッドフィルタ34に複数載置されている。
球体50は、ヘッドフィルタ34の面積R1に対する球体50の投影面積の合計R2の割合が、3%以上、30%以下となる配置密度、である。
【0063】
球体50の配置密度(R2/R1)が高くなると、球体50同士がぶつかって、球体50のヘッドフィルタ34上の転動が不十分となる。そうすると、ヘッドフィルタ34における球体50が転動する範囲が狭くなって、ヘッドフィルタ34の表面にインクの対流を十分に発生させることが難しくなる。
さらに、球体50の配置密度(R2/R1)が高くなると、球体50が、ヘッドフィルタ34を通過するインクの流れに対する抵抗となって、ヘッドフィルタ34を通過するインクの流量が低下してしまう。
また、球体50の配置密度が低くなると、ヘッドフィルタ34における球体50が実際に転動する範囲が狭くなって、ヘッドフィルタ34の表面にインクの対流を十分に発生させることが難しくなる。
球体50の配置密度を上記の範囲に設定すると、凝集物を分散させるのに必要な対流を、ヘッドフィルタ34の表面に発生させることができる。よって、ブリッジング現象の発生を抑制できる。
【0064】
(4)球体50は、ヘッドフィルタ34に複数載置されている。
球体50は、当該球体50のヘッドフィルタ34の面積に対する投影面積の合計R2が、ヘッドフィルタ34の面積R1の1/3~1/30になるように、球体50の総数と直径が設定されている。
【0065】
このように構成すると、凝集物を分散させるのに必要な対流を、ヘッドフィルタ34の表面に発生させることができる。よって、ブリッジング現象の発生を抑制できる。
【0066】
(5)インクは、紫外線硬化型のインクである。
【0067】
紫外線硬化型のインクは、凝集物が発生しやすい。よって、紫外線硬化型のインクを採用するインクジェット印刷装置に適用することで、ブリッジング現象の発生を抑制できる。
【0068】
(6)インクは、三次元造形に用いられるサポート材インクである。
【0069】
三次元造形に用いられるサポート材は使用量が多いので、ノズルの目詰まりが起こりやすい傾向がある。よって、三次元造形に用いられるインクジェット印刷装置に適用することで、ブリッジング現象の発生を抑制できる。
【0070】
本願発明は、上記した実施の形態の態様に限定されるものではなく、本願発明の技術的な思想の範囲内で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0071】
1 インクジェット印刷装置
30(30a~30d) インクジェットヘッド
32 UV照射器
33 フィルタ室
34 ヘッドフィルタ
35 ヘッドポート
36 インク供給口
50 球体(転動体)
50A 平行ピン(転動体)
M メディア
X 主走査方向