(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023045441
(43)【公開日】2023-04-03
(54)【発明の名称】トリチウム水捕集システム
(51)【国際特許分類】
B01D 59/26 20060101AFI20230327BHJP
【FI】
B01D59/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021153845
(22)【出願日】2021-09-22
(71)【出願人】
【識別番号】511232189
【氏名又は名称】加藤 行平
(74)【代理人】
【識別番号】100147348
【弁理士】
【氏名又は名称】堀井 哲夫
(72)【発明者】
【氏名】加藤 行平
(57)【要約】
【課題】トリチウム水を含む汚染水から、液体の状態のトリチウム水を捕集し除去するための、簡便で、安全な装置を提供すること。
【解決手段】トリチウム水を含む汚染水からトリチウム水を冷却して凝固させることで捕集するトリチウム水捕集器を含むトリチウム水捕集システムであって、冷却用の冷媒が、水 42-47重量%、エチレングリコール 47-51重量%、ジエチレングリコ―ル 1.5-2.0重量%、各種添加剤 3.5-4.5重量%からなる自動車用クーラントであって、前記各種添加剤の総量に対して、リン酸有機化合物であって該化合物に占めるリン酸の質量が10分の1以下である化合物1.4-2.6重量%を含む、希釈を行わない固定処方である自動車用クーラントであることを特徴とするトリチウム水捕集システム。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリチウム水を含む汚染水からトリチウム水を捕集するトリチウム水捕集システムであって、
a)冷媒や汚染水の出入口を除き開口部がない状態である略密閉状態の容器と、前記容器に設けられ、前記汚染水を注入する注入口と、前記容器に設けられ、処理水を排出する排出口と、前記容器の内部で、前記汚染水の通過経路に置かれ、前記トリチウム水を吸着する、活性白土、カオリン、のいずれか1つ以上を含む多孔質土類を含む吸着剤とを有し、前記トリチウム水の凝固点以下の温度に冷却した前記汚染水を、前記注入口から注入し、前記汚染水が前記吸着剤を通過する際に、前記トリチウム水が凝固し、その凝固したトリチウム水が前記吸着剤に吸着され、残余の汚染水が前記排出口より排出されることを特徴とするトリチウム水捕集器と、
b)前記トリチウム水捕集器に冷却した汚染水を供給する配管と、
c)前記トリチウム水捕集器から排出される汚染水を送出する配管と、
d)前記トリチウム水捕集器に注入する汚染水を、特定の冷媒によって、前記トリチウム水の凝固点近傍の温度に精密に冷却する精密冷却装置と、
e)前記精密冷却装置に注入する汚染水を、特定の冷媒によって、予備冷却する予備冷却装置と
を有することを特徴とし、
前記特定の冷媒が、水 42-47重量%、エチレングリコール 47-51重量%、ジエチレングリコ―ル 1.5-2.0重量%、各種添加剤 3.5-4.5重量%からなる自動車用クーラントであって、前記各種添加剤の総量に対して、リン酸有機化合物であって該化合物に占めるリン酸の質量が10分の1以下である化合物1.4-2.6重量%を含む、希釈を行わない固定処方である自動車用クーラントであることを特徴とするトリチウム水捕集システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリチウムを捕集する装置に関し、特に、原子力発電所の事故による放射性物質で汚染された廃水(汚染水)中に存在するトリチウム水を凝固によって捕集する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
事故を起こした原子力発電所の冷却に用いられた水(汚染水)には、種々の放射性物質が含まれており、それらを除去して、生物にとって安全なレベルとして、自然界に排水できるようにすることが求められている。
【0003】
ここで、汚染水中の、放射性のトリチウム(三重水素)以外の放射性物質については、既に実用化されている多核種除去設備(ALPS)などによって除去が可能である。しかしながら、トリチウムについては、その物性が水素と酷似していることから、容易に除去することができていない。
【0004】
また、一般に、トリチウムは酸素と結合し、トリチウム水として、汚染水中に気体または液体の状態で存在することが多い。
【0005】
トリチウムを除去する装置としては、特許文献1には、トリチウム水蒸気からパラジウム水素透過膜などを用いてトリチウムを分離する技術思想が開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、トリチウム水を含むガスを吸着剤であるゼオライトを流過させることにより、トリチウムを分離する技術思想が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7-253487号公報
【特許文献2】特開平10-128072号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1及び特許文献2に記載された装置においては、いずれも気体となっているトリチウム水蒸気、あるいは、トリチウム水を含むガスを処理するようになっており、放射性物質の拡散の恐れが高い気体状態での取扱いが必要であり、簡便で、安全性の高い装置を提供することは難しい。
【0009】
一方、トリチウム水は、凝固(凍結)温度が、通常の水、すなわち軽水とは異なるという物性の相違があり、それを利用することによって、気体ではなく、液体または固体状態で処理することが可能である。
【0010】
そこで、本発明では、液体の状態のトリチウム水を捕集し除去するための、簡便で、安全な装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するための、汚染水中のトリチウム水を捕集するトリチウム水捕集器であって、
-略密閉状態とすることができる箱状の容器と、
-容器に設けられ、汚染水を注入する注入口と、
-容器に設けられ、処理水を排出する排出口と
-容器の内部で、汚染水の通過経路に置かれ、トリチウム水を吸着する吸着剤と
を有し、トリチウム水の凝固点以下の温度に冷却した汚染水を、注入口から注入し、汚染水が吸着剤を通過する際に、トリチウム水が凝固し、その凝固したトリチウム水が吸着剤に吸着され、残余の汚染水が排出口より排出されることを特徴とする。
【0012】
これによれば、凝固したトリチウム水を、通常の水から選別して吸着させて捕集することができ、効率的な汚染水処理が可能となる。
【0013】
更に、本発明のトリチウム水捕集器は、トリチウム水捕集器が、持ち運び可能で、かつ、密閉可能であることを特徴としてもよい。このようにすると、捕集したトリチウム水を所定の保管場所で安全に保管することができる。
【0014】
更に、本発明のトリチウム水捕集器は、吸着剤が、多孔質土類を含むことを特徴としてもよい。ここで、多孔質土類は、サイズの異なる多種類の空間を多数持つもので、活性白土が好適であるが、それに限定されない。これによれば、汚染水中のトリチウム水が、凝固した状態で、この空間によって効率よく捕集される。
【0015】
また、本発明は、上記課題を解決するための、トリチウム水を含む汚染水からトリチウム水を捕集するトリチウム水捕集システムであって、
-先に述べたトリチウム水捕集器と、
-トリチウム水捕集器に冷却した汚染水を供給する配管と、
-トリチウム水捕集器から排出される汚染水を送出する配管と、
-トリチウム水捕集器周辺をトリチウム水の凝固点未満の温度に冷却する周辺冷却装置と
を有することを特徴とする。
【0016】
これによれば、トリチウム水の捕集を、効率よく、安全に実行することができるシステムを提供することができる。
【0017】
更に、本発明のトリチウム水捕集システムは、周辺冷却装置が、
-略密閉状態の冷却槽と
-冷却槽内に敷設され、汚染水の冷却のための冷媒を循環する冷媒循環配管と
-冷却槽内に設置された攪拌器と
を有することを特徴としてもよい。これによれば、トリチウム水捕集器の周辺の冷却が適切に行われ、効率のよいトリチウム水の捕集ができる。
【0018】
更に、本発明のトリチウム水捕集システムは、周辺冷却装置の冷媒が、プロピレングリコール水溶液であることを特徴としてもよい。このようにすると、冷却温度の精密な制御が可能となる。
【0019】
更に、本発明のトリチウム水捕集システムは、
-トリチウム水捕集器に注入する汚染水をトリチウム水の凝固点近傍の温度に精密に冷却する精密冷却装置
を有することを特徴としてもよい。これによれば、トリチウム水捕集器に注入される汚染水の温度が適正範囲に制御されるため、効率のよいトリチウム水の捕集が可能となる。
【0020】
更に、本発明のトリチウム水捕集システムは、精密冷却装置が、
-略密閉状態の冷却槽と
-冷却槽に汚染水を注入する汚染水注入口と
-冷却槽から汚染水を排出する汚染水排出口と
-冷却槽内に敷設され、汚染水の冷却のための冷媒を循環する冷媒循環配管と
-冷却槽内に設置された攪拌器と
を有することを特徴としてもよい。これによれば、精密冷却装置が簡便に実現できる。
【0021】
更に、本発明のトリチウム水捕集システムは、精密冷却用の冷媒が、プロピレングリコール水溶液であることを特徴としてもよい。このようにすると、冷却温度の精密な制御が可能となる。
【0022】
更に、本発明のトリチウム水捕集システムは、
-前記精密冷却装置に注入する汚染水を予備冷却する予備冷却装置
を有することを特徴としてもよい。このようにすると、精密冷却の前に、所定温度の近くまで汚染水が冷却されているので、精密冷却が短時間に、かつ、精度高く行える。
【0023】
更に、本発明のトリチウム水捕集システムは、予備冷却装置が、
-略密閉状態の冷却槽と
-冷却槽に汚染水を注入する汚染水注入口と
-冷却槽から汚染水を排出する汚染水排出口と
-冷却槽内に敷設され、汚染水の冷却のための冷媒を循環する冷媒循環配管と
-冷却槽内に設置された攪拌器と
を有することを特徴としてもよい。これによれば、予備冷却装置が簡便に実現できる。
【0024】
更に、本発明のトリチウム水捕集システムは、予備冷却に用いられる冷媒が、エチレングリコール水溶液であることを特徴としてもよい。温度保持の要求が厳しくない場合に、取扱いが容易で、コストが安いエチレングリコールを用いることで、経済的な効果が期待できる。
【0025】
更に、本発明のトリチウム水捕集器またはトリチウム水捕集システムは、精密冷却装置、周辺冷却装置、トリチウム水捕集器、または、その間を接続する配管の内部の汚染水の流路に凝固促進剤を投入する、凝固促進剤投入部を設けたことを特徴としてもよい。
【0026】
例えばホウ酸ソーダのような凝固作用を促進する凝固促進剤を汚染水中に投入すれば、凝固作用が促進され、効率よくトリチウム水が捕集できる。
【発明の効果】
【0027】
本発明のトリチウム水捕集器及びトリチウム水捕集システムによれば、精密冷却による温度制御によってトリチウム水を凝固させて、多孔質土類に吸着させることで捕集(捕まえて集める)し、かつ、捕集器を取り外し、密閉して保管できるようにしたから、トリチウムの拡散などの危険を最小限にした安全で、かつ、効率のよいトリチウム水捕集処理が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の一実施形態のトリチウム水捕集システムの説明図である。
【
図2】本発明の一実施形態のトリチウム水捕集システムの冷却装置の斜視図である。
【
図3】本発明の一実施形態のトリチウム水捕集器の周辺の斜視図である。
【
図4】本発明の一実施形態のトリチウム水捕集器の斜視図である。
【
図5】本発明の一実施形態のトリチウム水捕集器の断面図である。
【
図6】本発明の一実施形態のトリチウム水捕集器の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
図面を参照しながら、本発明の実施の形態について以下に説明する。
図1は本発明の一実施形態のトリチウム水捕集システム1の構成図である。
【0030】
トリチウム水捕集システム1は、汚染水の流れの順に、汚染水に混合している夾雑物を除去する夾雑物除去部10、汚染水の予備冷却を行う予備冷却装置20、予備冷却された汚染水を精密冷却する精密冷却装置30、精密冷却された汚染水からトリチウム水を捕集するトリチウム水捕集器40、トリチウム水捕集器40の周辺を冷却する周辺冷却装置50、トリチウム水が除去された汚染水を貯える貯水槽60を有する。
【0031】
更に、精密冷却装置30及び周辺冷却装置50に用いる冷媒を冷却する3次冷媒槽70、3次冷媒槽70及び予備冷却装置20に用いる冷媒を冷却する2次冷媒槽80、2次冷媒槽80を冷却するための1次冷媒冷却装置90を含んでいる。
【0032】
夾雑物除去部10は、内部に網目状のフィルターを有し、汚染水に含まれる夾雑物が下流へと送られることを阻止する。
【0033】
図2は本発明の一実施形態のトリチウム水捕集システム1に用いられる予備冷却装置20の構造を示す斜視図である。略密閉状態(冷媒や汚染水などの出入口を除き開口部がない状態)の、内部に空間を有する直方体であり、上面に設けられた冷媒入口21と冷媒出口22との間を結び、直方体の下方へらせん状に降下し、底部近くで直線状に上昇していく冷媒配管23(4組)と、直方体の上面に設けられ、直方体内部に汚染水を供給する汚染水入口24と、汚染水入口から供給された汚染水を送出するための汚染水出口25と、直方体内部の汚染水を攪拌するために軸に4枚の羽根を設置して軸の回転で攪拌を行う、2個の攪拌器26とを有する。
【0034】
冷却配管23は、コイル状で、高さ50cm、管の外径6cm、6~7段のスパイラル形状とすることが望ましいが、システム全体の規模にもよるので、この寸法形状に限定されない。
【0035】
なお、予備冷却装置20だけでなく、精密冷却装置30、3次冷媒槽70、2次冷媒槽80も同様の構造とすることができる。ここで、精密冷却装置30においては、冷媒入口31、冷媒出口32、冷媒配管33、汚染水入口34と、汚染水出口35、攪拌器36と読み替える。
【0036】
冷媒槽においては、冷却対象は、汚染水でなく、被冷却冷媒であるので、汚染水入口、汚染水出口は、それぞれ、被冷却冷媒入口、被冷却冷媒出口とするため、3次冷媒槽70では、冷媒入口71、冷媒出口72、冷媒配管73、被冷却冷媒入口74と、被冷却冷媒出口75、攪拌器76と読み替え、2次冷媒槽80では、冷媒入口81、冷媒出口82、冷媒配管83、被冷却冷媒入口84、被冷却冷媒出口85、攪拌器86と読み替えるものとする。
【0037】
なお、上記の冷却装置及び冷却槽及び後述の周辺冷却装置の構成は、同様のものでなくてもよく、それぞれが用途に合った周知の冷却機構で構成してもよい。
【0038】
図3は本発明の一実施形態のトリチウム水捕集器40の周辺の斜視図である。トリチウム水捕集器40は、周辺冷却装置50の中に、4台設置される。周辺冷却装置50は、他の冷却装置と類似の構造となっており、冷媒入口51、冷媒出口52、冷媒配管53、攪拌器56を有し、冷媒配管53を通る冷媒と攪拌器56によって冷却がなされるが、冷却されるのは、内部に設置されたトリチウム水捕集器40及びその周辺の配管と空気である。
【0039】
なお、トリチウム水捕集器40を複数個設置するのは、いずれかが満杯になった場合の交換の間も運転を停止しなくてよいようにしたものであるが、その個数は4に限定されず、1つ以上であればよい。
【0040】
トリチウム水捕集器40を4台内蔵した周辺冷却装置50の外形寸法は、幅200cm、高さ140cm、奥行60cm程度が望ましいが、システム全体の規模や内蔵するトリチウム水捕集器の寸法にもよるため、この寸法には限定されない。 更に、高さ方向の両サイドには、それぞれ、例えば、長さ20cm、16cmのガイド付きの溝を4組設け、この溝でトリチウム水捕集器40を保持する。
【0041】
図4は、本発明の一実施形態のトリチウム水捕集器40の斜視図、
図4は断面図、
図5は側面図である。トリチウム水捕集器40は、略密閉状態の内部に空間を有する直方体の容器41と、その上面に設けられた汚染水の入口である汚染水入口42と処理された水(処理水)の出口である処理水出口43とを有する。容器の外形寸法は、幅100cm以上、高さ50cm程度、奥行5~10cm程度が望ましいが、システム全体の規模などからこの寸法には限定されない。容器の上蓋及び底板については脱着可能な構造とするが、それと異なる構造であってもよい。
【0042】
汚染水入口42からは配管421が容器41内部の上方に水平状態で延伸し、容器41内で下方に向けて汚染水を噴出できる噴出口422が複数個設けられている。
【0043】
容器41の内部は、高さ方向に3層のトリチウム水捕集層411a、411b、411cを設ける。各層は底面に金属の格子状の網412を有し、その上に金属製またはポリプロピレン製の細かい網状容器413を置き、その中に吸着剤414を、網状容器413の容積の90%程度充填する。吸着剤414としては、サイズの異なる多種類の空間を多数持つ、多孔質土類、例えば、活性白土などが望ましい。なお、充填量は、汚染水の濃度、捕集されるトリチウム水の濃度などを勘案して適宜、変更すればよい。
【0044】
最下層のトリチウム水捕集層411cの下方には、多数の孔416を有する底板415が設けられ、更にその下方に、処理された水を受けて処理水出口43方向へ傾斜により流す処理水受け皿431を有し、その受け皿431の終端には処理水出口へ向かう配管432が接続されている。
【0045】
なお、必要に応じ、汚染水入口42あるいは処理水出口43の近傍には、流量を調整したり、逆流を防止したりする周知のバルブ(弁)を設けてもよい。
【0046】
このトリチウム水捕集器40は、周辺冷却装置50から、略密閉状態を維持したまま、脱着可能なように構成されている。例えば、トリチウム水捕集器40の容器41に、周辺冷却装置50側に設けたガイド付きの溝と摺動するような形状または部材を設けるなどの周知の手段でよい。また、密閉状態の維持には、先に述べたバルブを自動または手動で閉じることで実現ができる。なお、トリチウム水捕集器40は、遠隔操作で脱着が可能であるようにする。このようにすれば放射線被曝の危険を少なくすることができる。
【0047】
このような構成のトリチウム水捕集システム1の作用について説明する。
まず、1次冷媒冷却装置90において、1次冷媒であるフロンガスが冷却される。1次冷媒冷却装置90については、詳細は図示しないが、周知のコンプレッサとコンデンサを用いるフロンガス冷却装置を用いればよい。フロンガスは、周知のように冷却能力は高いが、その温度の安定性は十分ではなく、精密な冷却には適さない。ここではフロンガスを概ね摂氏0度以下に粗冷却する。
【0048】
次に、冷却されたフロンガスは、2次冷却槽80の冷媒入口81に送り込まれ、冷媒配管83を通過して冷媒出口82へと流れ、最終的には1次冷却槽90へと戻ってくる。ここで、2次冷媒槽80には、被冷却冷媒入口81から流入し被冷却冷媒出口82へと向かう冷却対象の冷媒で満たされている。ここで冷却対象の冷媒としては、フロンガスよりやや温度安定性の高い、エチレングリコールの50%水溶液(EGブラインと呼ぶ)を用いる。
【0049】
なお、EGブラインには、防錆添加剤や表面張力降下性界面活性剤などの添加剤を添加してもよい。添加剤としては、それらの効果が高い、合成脂肪酸、モリブデンソーダ、トリルトリアゾール、更にアルカリ性とするための苛性ソーダ水溶液、苛性カリ水溶液などの一部または全部を含むものが望ましい。
【0050】
2次冷却槽80の冷媒配管83と攪拌器86の働きで、フロンガスとEGブラインとの間の熱交換がなされ、EGブラインは、好ましくは摂氏-0.5度から摂氏3.0度、より好ましくは、摂氏1.0度から摂氏2.5度の範囲で、汚染水の予備冷却と3次冷媒の冷却が適切に行うことができる温度を選定して冷却される。
【0051】
なお、これらの温度の制御は、図示しないバルブや流量計を用いてフロンガスやEGブラインの流量を制御することと、攪拌器86の運転・停止や攪拌速度調節によって、EGブラインの攪拌を制御することとで、実現できる。
【0052】
この冷却されたEGブラインは、3次冷却槽70に送られる。3次冷却槽70では、冷媒入口71、冷媒配管73、冷媒出口72へと進む間に、攪拌器76の助けもあって、3次冷却槽で冷却されるべき別の冷媒を冷却する。ここで用いられる冷却対象の冷媒は、プロピレングリコールの30%水溶液(PGブラインと呼ぶ)が好ましい。PGブラインは、水分比率を高くすることができ、そのことにより水の大きな潜熱を利用して、EGブラインよりも更に温度安定性をよくすることができるので、精密な冷却に適しており、また、EGブラインと比較すると金属に対する酸化作用が低いので、防錆添加剤を少なくすることができるからである。
【0053】
なお、PGブラインには、防錆添加剤や表面張力降下性界面活性剤などの添加剤を添加してもよい。添加剤としては、それらの効果が高い、合成脂肪酸、モリブデンソーダ、トリルトリアゾール、更にアルカリ性とするための苛性ソーダ水溶液、苛性カリ水溶液などの一部または全部を含むものが望ましい
【0054】
ここで、PGブラインは、好ましくは摂氏0.5度から摂氏4.0度、より好ましくは、摂氏2.0度から摂氏3.5度の範囲で、トリチウム水の捕集が最も効率的になる温度を選定し、かつ、その温度変動を、好ましくは+-0.2度以内、より好ましくは+-0.1度以内に維持するように冷却される。
【0055】
なお、これらの温度の制御は、図示しないバルブや流量計を用いてEGブラインやPGブラインの流量を制御することと、攪拌器76の運転・停止や攪拌速度調節によって、PGブラインの攪拌を制御することとで、実現できる。
【0056】
次に、汚染水の処理について説明する。図示しないトリチウム水を含む汚染水の発生源から本システムに供給される汚染水は、まず、夾雑物除去部10を通過して汚染水に混合している夾雑物(ゴミ、固形物など)をフィルターによって除去する。なお、既にそれらのものが除去されていればこの部分は必要ない。
【0057】
次に、汚染水は、予備冷却装置20の汚染水入口24から装置内部に供給される。一方、予備冷却装置20の冷媒入口21には、先に説明した2次冷却槽80からのEGブラインが供給されるように配管されており、冷媒配管23、冷媒出口22へと進む間に、攪拌器26の助けもあって、汚染水は、EGブラインとの間で熱交換がなされ、トリチウム水の凝固温度と同程度か、やや高めの温度、好ましくは摂氏4.5度から摂氏6.0度、より好ましくは、摂氏4.5度から摂氏5.0度の範囲で、精密冷却を効率よく行える温度を選定して冷却され、汚染水出口25から次工程へと流出する。ここで、トリチウム水の凝固温度は、1気圧で摂氏4.49度であるが、高圧や低圧の環境であると、変動することはある。
【0058】
なお、これらの温度の制御は、図示しないバルブや流量計を用いてEGブラインや汚染水の流量を制御することと、攪拌器26の運転・停止や攪拌速度調節によって、汚染水の攪拌を制御することとで、実現できる。
【0059】
引き続き、予備冷却された汚染水は精密冷却装置30の汚染水入口34から装置内部に供給される。一方、精密冷却装置30の冷媒入口31には、先に説明した3次冷却槽70からのPGブラインが供給されるように配管されており、冷媒配管33、冷媒出口32へと進む間に、攪拌器36の助けもあって、汚染水は、PGブラインとの間で熱交換がなされ、トリチウム水の凝固温度近傍の温度、すなわち、好ましくは摂氏2.5度から摂氏5.0度、より好ましくは、摂氏3.5度から摂氏4.5度の範囲で、トリチウム水の捕集が最も効率的になる温度を選定し、かつ、その温度変動を、好ましくは+-0.2度以内、より好ましくは+-0.1度以内に維持するように冷却され、汚染水出口35から次工程へと流出する。
【0060】
なお、これらの温度の制御は、図示しないバルブや流量計を用いてPGブラインや汚染水の流量を制御することと、攪拌器36の運転・停止や攪拌速度調節によって、汚染水の攪拌を制御することとで、実現できる。
【0061】
引き続き、精密冷却された汚染水は、4個あるトリチウム水捕集器40のいずれかの汚染水入口42へと向かう。なお、トリチウム水捕集器40を内蔵している周辺冷却装置50の冷媒入口51には、3次冷媒槽70からのPGブラインが供給され、冷媒配管53、冷媒出口52へと向かう間に攪拌器56の助けもあって、内部に設置されたトリチウム水捕集器40及びその周辺の配管と空気が、PGブラインとの間で熱交換がなされ、好ましくは摂氏1.5度以上でトリチウム水凝固温度未満、より好ましくは、摂氏3.0度から摂氏4.4度の範囲で、トリチウム水の捕集が最も効率的になる温度を選定し、かつ、その温度変動を、好ましくは+-0.2度以内、より好ましくは+-0.1度以内に維持するように冷却される。
【0062】
なお、これらの温度の制御は、図示しないバルブや流量計を用いてPGブラインの流量を制御することと、攪拌器56の運転・停止や攪拌速度調節によって、トリチウム水捕集器40周辺の空気の攪拌を制御することとで、実現できる。
【0063】
トリチウム水捕集器40の内部では、供給された汚染水が、汚染水入口42から、配管421、噴出口422を通って、最上層のトリチウム水捕集層411aへと散布される。ここで、トリチウム水は、好ましくは摂氏1.5度以上でトリチウム水凝固温度未満、より好ましくは、摂氏3.0度から摂氏4.4度の範囲の中の適切な温度に保たれ、既に一部凝固を開始しているか、まだ液体の状態(過冷却状態)で、トリチウム水捕集層411aの網状容器413の中の吸着剤414を通過しようとする。その際に、吸着剤414との接触による刺激によって未凝固の部分も急速に凝固が生じ、固体となったトリチウム水は、吸着剤414に吸着される。
【0064】
ここで、トリチウム水捕集層は、更に2層あり、中間層411b、最下層411cにおいても、凝固トリチウム水の吸着が行われる。
【0065】
なお、トリチウム水と通常の水では、凝固点の差が摂氏で約4.5度あること、及び、トリチウム水の解離度が小さいことから、凝固時に必要なエネルギーが小さいことなどから、トリチウム水は、通常の水と混合した状態でも、摂氏1.5度とトリチウム水凝固温度との間で、大部分が凝固して捕集されるものと考えられる。
【0066】
このようにしてトリチウム水が除去された汚染水(処理水と呼ぶ)は、処理水受け皿432から配管432を経て処理水出口43へと送られる。
【0067】
その後、処理水は、貯水槽60に貯えられ、成分測定などの後、排水適格であれば、直接または保存槽65を経由して河川や海への排水や蒸発による大気中への放出がなされ、あるいは、最終処分まで保存槽65に保存される。また、更に残留トリチウム水が存在する場合には、貯水槽60から、予備冷却装置20へ供給し、再度、トリチウム水の捕集を行ってもよい。
【0068】
なお、トリチウム水の凝固を促進するために、汚染水をトリチウム水捕集器40に供給する直前の配管部分に、凝固促進剤投入部を設けてもよい。例えば、ホウ酸ソーダの微粉末のような凝固促進剤をシリンダを用いて配管内に注入する構成とする。ホウ酸ソーダの微粉末は、トリチウム水が凝固点以下の温度になった際に、凝固を促進する効果がある。この場合、ホウ酸ソーダは、できるだけ結晶水の少ないものが望ましいが、必ずしも無結晶でなくてもよい。なお、凝固促進剤としては、ホウ酸ソーダに限定されず、ケイ酸ソーダ、硝酸ソーダ、次亜リン酸ソーダなどの、凝固促進の効果のあるものであればよい。また、凝固促進剤の投入場所も、トリチウム水捕集器40に汚染水を供給する直前でなく、精密冷却装置30内やそこからトリチウム水捕集器40までの間、あるいはトリチウム水捕集器40内部で投入してもよい。
【0069】
また、これまでの説明では触れなかったが、冷媒や汚染水を移送する配管についても、適切なブラインを用いて冷却を行い、温度の上昇が起きないようにするものとする。
【0070】
また、これまでの説明の中で、ブラインの濃度を、EGブラインの場合、エチレングリコールの50%水溶液としたが、これに限定されず、好ましくは30%から55%、より好ましくは40%から55%のうちの、適切な濃度とすればよい。PGブラインの場合も、プロピレングリコールの30%水溶液としたが、これに限定されず、好ましくは10%から50%、より好ましくは20%から40%のうちの、適切な濃度とすればよい。また、エチレングリコールとプロピレングリコールの組合せにも限定されず、他の予備冷却と精密冷却とに使い分けて使用できる冷媒であればそのようなものでもよい。
【0071】
また、EGブラインの冷却用にフロンを用いるとしたが、それに限定されず、ノンフロン冷媒(例えばプロパン・ブタン・イソブタン)やアンモニアなどの冷却剤を用いてもよい。
【0072】
更に、これまでの説明では、汚染水の冷却手段として、EGブラインを用いる予備冷却装置20とPGブラインを用いる精密冷却装置30を設けるとしたが、どちらか一方のみで、必要な温度精度の冷却が可能であれば、他方は省略することが可能である。その場合は、2次冷却槽80、3次冷却槽70のいずれかが不要となる場合もある。
【0073】
また、多孔質土類として、活性白土を好適例として挙げたが、これに限定されず、カオリン、酸性白土、珪藻土、ゼオライト、陶土などであってもよく、セラミックスであってもよい。
【0074】
なお、本発明のシステムを構成する装置の間の配管については、適宜、流量調整弁、逆流防止弁(逆止弁)、コック、ドレインなどを必要に応じて設けてもよい。
【0075】
次に、本発明の別の実施形態につき、説明する。
この実施形態では、自動車用に用いるクーラントを冷却水として用いるものである。この実施形態は、本願と同一の発明者による特開2019-026797に記載されている自動車用クーラントを用いるものであり、技術説明は、前記公開特許を転記して行う。
【0076】
今回適用する自動車用クーラントの技術分野は、一般に、自動車エンジンの冷却を行うためのクーラント、及びそのクーラントの基材、及びそのクーラントの添加剤に関し、特に防錆性にすぐれたクーラント、及びそのクーラントの基材、及びそのクーラントの添加剤に関する。
【0077】
その背景技術としては、地球環境の激変が深刻な問題となりつつある今、地球人は真剣に地球環境保護に取り組まなければならない。しかし、生活環境はできる限り維持することも探究すべきである。このような中で、自動車については、究極としては燃料電池車が理想であるが、当面、ハイブリッド車のほか、従来からのエンジンによる自動車についても継続的に性能向上が求められている。
【0078】
このようなエンジンの性能向上は、必ず冷却系統の負担増に直結する。そこで、冷却系統に用いられるクーラントについても、その性能の向上が望まれている。
【0079】
そのようなクーラントとしては、特許文献1には、水溶性有機媒体を主成分とし、カルボン酸基を4個以上含む脂肪族多価カルボン酸および/またはその塩を含むクーラントの技術思想が開示されている。これによればアルミニウム合金製ラジエターに対して高い交換寿命を有するラジエタークーラントを提供することができる。
【0080】
なお、先行技術文献としては特開2003-342559号公報がある。
【0081】
しかしながら、特許文献1のクーラントでは、多岐にわたるクーラントに求められる要求を満たすことは困難であるという問題点がある。
【0082】
すなわち、冷却系統はエンジンが高機能化されると、冷却系統すべての部位を均一に冷却する必要性が高くなる。また、高機能、軽量エンジンほど、エンジン各部位の高周波振動が激しくなるので、その対策が必要となってくる。
【0083】
エンジンの冷却系統に使用されている部材は、鉄、及びその合金、銅、黄銅、アルミ、アルミ合金、合成ゴム、各種プラスチックスであり、エンジンの振動で発生する高周波振動により、静電気が発生する。発生した静電気は、各部位により異なる電位となる。
【0084】
すなわち、冷却系に電位差が生じることは、即ガルバニック腐食の発生に繋がるので、防錆に対しては厳しい条件となる。特に、鉄においては、高周波振動が増加した場合に、防錆対策に十分留意しなければならない。
【0085】
そこで、今回適用するクーラント(本発明)(以下、「本発明」とある部分は「今回適用するクーラント」と読み替えてもよい。)では、冷却性能に優れ、金属に対する防錆性能を向上させ、長寿命の自動車用クーラントを提供することを課題とする。
【0086】
課題を解決するための手段として、第1の本発明は、上記課題を解決するための、自動車用クーラントの基材であって、水を50%未満とし、残余を、エチレングリコールとジエチレングリコールとを15:1から53:1の間の比率としたことを特徴とする。
【0087】
ここでは、添加剤を添加する前の比率であり、添加剤添加後の自動車用クーラントにおける比率とは異なる。
【0088】
これによれば、グリコール類による不凍効果が十分に発揮でき、更に、水の比率を抑えたことにより、水単独での蒸発を抑制することができ、金属の酸化を防止することができる。
【0089】
第2の本発明は、上記課題を解決するための、自動車用クーラントの添加剤であって、一価カルボン酸と二価カルボン酸とを含むことを特徴とする。
【0090】
これは、第1の本発明のクーラント基材に添加することが望ましいが、それには限定されず、一般に使用されるクーラント基材に添加してもよい。これは、以下の添加剤についても同様である。
【0091】
なお、一価カルボン酸と二価カルボン酸との比率は、1:1程度が好ましいが、それに限定されるものではない。
【0092】
これによると、これらのカルボン酸は、一般に金属の腐食防止用に用いられており、クーラントに添加することによって、防錆効果が得られる。
【0093】
第3の本発明は、上記課題を解決するための、自動車用クーラントの添加剤であって、モリブデン酸ソーダを含むことを特徴とする。
【0094】
これによると、モリブデン酸ソーダは、金属が複合して使用されている場所に、適量を添加することで、異常な金属腐食の発生がほとんど皆無に近くなる。
【0095】
第4の本発明は、上記課題を解決するための、自動車用クーラントの添加剤であって、フッ素系界面活性剤を含むことを特徴とする。
【0096】
これによると、高分子フッ素系界面活性剤は、液体と固体の界面で、表面張力を顕著に降下させる効果が大きい。高性能のエンジンは、高周波振動の巣窟のような状態で、冷却面には真空が無数に発生している。この現象によるダメージを極限まで回避する方法として、液の表面張力をフッ素系の高分子界面活性剤によって降下させ、金属が酸化する機会を大きく抑制している。
【0097】
第5の本発明は、上記課題を解決するための、自動車用クーラントの添加剤であって、リン酸有機高分子化合物を含むことを特徴とする。
【0098】
これによると、有機リン酸エステルなどのリン酸有機高分子化合物で、リン酸の含有量が少ないものを添加することによって、リン酸と反応した鉄が、リン酸有機高分子化合物側に付くようにしたため、金属表面側にはリン酸鉄(電気的不導体)を生成しない。これによって、電位差を生じないようにして、金属腐食を防止する効果を奏する。
【0099】
第6の本発明は、上記課題を解決するための、自動車用クーラントの添加剤であって、消泡剤を含むことを特徴とする。
【0100】
特に、80℃以上で発生した泡を消す作用を有するものが望ましい。
【0101】
第7の本発明は、上記課題を解決するための、自動車用クーラントであって、第1の発明のクーラント用基材に、第2から第6の本発明の少なくともいずれか1のクーラント用添加剤を加えてなることを特徴とする。
【0102】
これによると、これまで述べてきた、クーラント用基材、クーラント用添加剤の効果を併せて奏することができる。
【0103】
第8の本発明は、上記課題を解決するための、第7の本発明の自動車用クーラントであって、希釈を行わない固定処方であることを特徴とする。
【0104】
これは、従来の不凍液規格では、原液の性状を規定し、実際使用に当たっては、原液を水と希釈して使用するように規定しているが、最近の厳しい環境問題と苛酷なエンジンの作動要件では、クーラント(冷却液)に対する要求性状が厳しくなり、固定した水を含むクーラントが望ましいため、希釈しない固定処方とした。
【0105】
但し、適切に希釈の管理がなされれば、最終的にこの比率となるように希釈される原液であってもよい。
【0106】
第9の本発明は、上記課題を解決するための、第7または第8の本発明の自動車用クーラントの試験装置であって、流量計と加熱槽との間に、透明なパイプを有することを特徴とする。
【0107】
このようにすると、自動車用クーラントの試験の際に、泡の大きさを目視で確認することができ、クーラントの評価が容易となる。
【0108】
発明の効果としては、本発明の自動車用クーラント基材、自動車用クーラント添加剤、または自動車用クーラントによれば、冷却性能に優れ、金属に対する防錆性能を向上させ、長寿命の自動車用クーラントを提供することができる。
【0109】
本発明の、最も好適な配合の、自動車用クーラントは、次のとおりである。
【0110】
自動車用クーラントの状態として、重量パーセントが
基準 最適範囲 好適範囲
水 45 42-47 40-49
エチレングリコール 49 47-51 45-53
ジエチレングリコール 2 1.5-2.5 1- 3
各種添加剤 4 3.5-4.5 3- 5
この状態では、添加剤を除いたクーラント基材の基準の構成では、水は46.9%で、エチレングリコール:ジエチレングリコールは、24.5:1となる。
【0111】
次に、各種添加剤の比率は、添加剤合計を100として、
基準 最適範囲 好適範囲
一価合成カルボン酸 27 22-32 18-36
二価合成カルボン酸 27 22-32 18-36
苛性ソーダ 20 16-24 12-28
銅用防錆剤 10 6-14 2-18
混合酸化防止剤 10 6-14 2-18
モリブデン酸ソーダ 2 1.4-2.6 1.0-3.0
リン酸有機高分子化合物 2 1.4-2.6 1.0-3.0
フッ素系界面活性剤 1 0.6-1.4 0.2-1.6
消泡剤 1 0.6-1.4 0.2-1.6
が望ましい。
【0112】
ここで、不凍液規格では、原液の性状を規定し、実際使用に当たっては、30%~55%の不凍液濃度に水と希釈して使用するように規定しているが、最近の厳しい環境問題と苛酷なエンジンの作動要件では、クーラントに対する要求性状が厳しくなり、固定した水を含むクーラントの必要性が高くなった。
【0113】
即ち最近の、特にディーゼルエンジンに適応するクーラントは、不凍効果はクーラントに期待する効果の一部に過ぎず、エンジン冷却システムとして最適の温度を維持すると共に、高周波振動の巣とも言えるエンジン冷却面を保護し、冷却効果を最大に発揮する性能を維持しなければならない。
【0114】
そこで、希釈を行わない水を含んだ固定配合比率のクーラントが望ましくなっている。ここで、水を47.4%(すなわち、50%未満)としたことは、水を加えることにより、エチレングリコールの凍結点(凝固点)が大幅に下がることは知られており、不凍液としての効果を発揮できると共に、水の比率を抑えることで、水のみが蒸発し水蒸気になる機会を抑制している。これにより、金属表面が酸化する機会を大きく抑制している。特に、水単独の蒸発を抑制するには、水の比率が50%を明らかに割り込むことが望ましい。
【0115】
ジエチレングリコールは、少量を添加することによって、水のエチレングリコールに対しての溶解性を改善することができる。その結果として、クーラントの凝固点を下げることができる。
【0116】
次に、具体的な製造工程を説明する。
工程A:一価合成カルボン酸を少量のエチレングリコールで溶解する。
工程B:モリブデン酸ソーダを少量の水で透明に溶解する
工程C:消泡剤を少量のブチルトリグリコールエーテルで溶解する。
工程D:リン酸有機高分子化合物をエチレングリコールまたは水で溶解する。
工程E:フッ素系界面活性剤を、エチレングリコールまたは水で溶解する。
工程F:混合酸化防止剤を、エチレングリコールまたは水で溶解する。
工程G:残りの水に苛性ソーダを入れ、所定時間経過後、銅用防錆剤を入れる。
工程H:工程Gの生成物に、工程A~工程Fの生成物を投入する。
工程I:残りのエチレングリコールに二価合成カルボン酸とジエチレングリコールを投入する。
工程J:工程Hの生成物を、少しずつ工程Iの生成物に混入する。
【0117】
グリコール類(エチレングリコール+ジエチレングリコール)の比率が水より多い「グリコールリッチ」の状態で、しかも、このような工程で混合することによって、グリコール類の中に水が取り込まれる、いわゆるウォーターインオイルのような状態が実現できる。
【0118】
次に、各添加剤の特質と効果について説明する。
一価合成カルボン酸は、イソナノン酸(C9H18O2 )(商品名キョーワノイック-N)が望ましいが、これに限定するものではない。また、二価合成カルボン酸は、
ドデカンニ酸 C12H22O4 または HOOC(CH2)10COOH あるいは
セバシン酸 C10H18O4 または HOOC(CH2)8COOH
で、好適なのは、ドデカン二酸とセバシン酸をほぼ等量に併用することで、副作用が消えていく。これは、セバシン酸は異性体があって違う働きをする場合があるので、セバシン酸だけでは期待する目的を達成することができない場合があり、ドデカン二酸を加えることが好ましいが、これに限定するものではない。
【0119】
合成カルボン酸は、一般的に金属の総合防錆剤として広く使用されており、クーラント基材に添加することで防錆効果が得られる。但し、エンジンクーラントの使用条件で検討すると、金属腐食を起こす恐れもあり、特に銅イオンにたいして反応する場合の頻度が高いので、一定量以上使用しないことが望ましい。なお、一価と二価の合成カルボン酸を等量で組み合わせたのは、実験結果の解析より採用した。
【0120】
銅用防錆剤については、銅の防錆剤にはベンゾトリアゾールと、トリルトリアゾールが広く使用されているが、エンジンクーラントの使用条件で実験を繰り返すと、ベンゾトリアゾールの場合は条件により、銅に対して攻撃性が激しく起こる事象が確認される。
【0121】
その場合、機器分析では、アルカノールアミンの存在を示す反応が現れる場合があり、トリルトリアゾールのみを使用した場合では、そのような現象は起きにくい。以上の結果から、トリルトリアゾールのみを、銅に対する防錆剤として採用した。
【0122】
混合酸化防止剤については、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)が好適であるがこれに限定されるものではない。エンジンクーラントの作動条件として、冷却系統内表面の温度が非常に高く、クーラントの流速が速いので、液温を主体にして考えた方が合理的と考える。
【0123】
酸化防止剤は、自己犠牲タイプであり、高温用になる程、副作用が懸念される。液温は、現在主流の加圧タイプでも105℃以下であることから、BHT(ブチル化ヒドロキシトルエン)を主体として考える。
【0124】
なお、酸化防止剤は必要以上に添加すると、必要以上に分解し、本体に害を及ぼす懸念が大きい。従って酸化防止剤は、一回に一定量以上は添加できないことから、定期的に追加添加する必要がある。
【0125】
モリブデン酸ソーダは、金属が複合して使用されている場所に、先に述べた量を添加すると、異常な金属腐食の発生がほとんど皆無に近くなる。
【0126】
ここで、モリブデン酸ソーダを適量使用すると、鉄、アルミの表面を保護する効果がある訳であるが、適量の範囲は狭いため、原液タイプで、希釈する場合には、量の特定ができないため、使用が難しいが、希釈の必要のない固定処方タイプでは、容易に使用できる。
【0127】
なお、モリブデン酸ソーダは、環境汚染の恐れが指摘されているが、長寿命のクーラントであれば、廃棄時に注意することで環境問題は起こらない。
【0128】
苛性ソーダについては、無機アルカリとしては一般的に苛性ソーダと苛性カリがあるが、苛性ソーダを使用する。苛性カリについては、実用実験において、異常値が発生する場合が目につき、その原因解析が特定できない場合が多い。一方、一般に苛性カリは水が少ない場合、苛性ソーダに比して表面張力が低いと言われるが、このクーラントの場合は、水が十分あるので苛性ソーダで問題はない。
【0129】
なお、苛性ソーダを添加する目的は、これまでに述べた添加剤のほとんどが弱酸性であるので中和することである。
【0130】
フッ素系界面活性剤については、サーフロン(登録商標、AGCセイミケミカル社)が好適であるが、それに限定されるものではない。フッ素系界面活性剤には、液体と固体の界面で、表面張力を顕著に降下させる効果が大きい。
【0131】
近年の高性能エンジンは、高周波振動の巣窟のような状態で、冷却面には真空が無数に発生している。この現象によるダメージを極限まで回避する方法として、液の表面張力をフッ素系の高分子界面活性剤による降下と、クーラント基材に含まれる水の濃度を50%未満に抑え、添加剤を、液と親和性の高い物質のみを選択することで、水のみが蒸発し、水蒸気になる機会を極限まで抑制する。この対策で、金属が酸化する機会を大きく抑制している。
【0132】
リン酸有機高分子化合物については、有機リン酸エステル、例えば、SC有機化学株式会社のChelexTD(トリイソデシルホスファイト)、ChelexOL(トリオレイルホスファイト)などが好適であるが、これに限定されるものではない。リン酸有機高分子化合物に占めるリン酸の質量を、好ましくは10分の1以下、より好ましくは20分の1以下にする。
【0133】
ここで、従来は、クーラントにおける鉄防錆は、鉄金属表面にリン酸鉄の被膜を薄く均一に形成させることで対応していたが、リン酸鉄を極薄く均一に皮膜形成させることは極めて困難で、電位差を生じさせることが多かった。
【0134】
本発明では、微量のリン酸を含有するリン酸有機高分子化合物を用いたことで、リン酸と反応した鉄を、金属表面側ではなく、リン酸有機高分子化合物側に結合させるようにした。
【0135】
実用実験では、金属表面にリン酸鉄の痕跡はないし、液側にごく僅かの沈殿が認められたが、クーラントの性能には何ら影響がなかった。
【0136】
消泡剤については、80℃以上で発生する泡を消すことができるものが望ましく、プルルニックL-61(商品名)が好適であるが、これに限定されるものではない。
【0137】
なお、先に述べた組成には含まれないが、添加剤として、少量の硝酸ソーダを添加してもよい。硝酸ソーダの添加は、アルミ及びアルミ合金を安定的に保護することに有効である。
【0138】
アルミの防錆については、種々あるがアルマイト加工にしても窒化処理にしても、被膜形成物がアルミと電位差が大きく異なり、冷却系等の流体とアルミが接触するケースでは困難な条件が多く、硝酸ソーダを微量添加する方法が、実用実験では最も信頼性が高い。
【0139】
本発明で特に留意した事項は、耐用年数を伸ばす方法として冷却系統内面の金属に防錆被膜を形成する方法は採らず、界面にクーラントをできる限り密着させて、酸素の接触を避ける方法を前提に処方を考案した。
【0140】
しかし、酸素の接触を0にすることは、出来ないのが現実であり、鉄に対しては、極少量の鉄イオンの生成を前提に、高分子に少量のリン酸が結合している高分子有機リン酸化合物(界面活性剤)を添加して、クーラント側に捕集する方法を採用した。
【0141】
このような観点から処方を組む時、使用中、定期的(例えば3年毎、あるいは5年毎など)に追加しなければならない添加剤がある。酸化防止剤については、自己犠牲タイプの薬剤であり、また一回に添加可能な量が少ないし、また添加量が多いと弊害も出て来るので、一回の添加量は、できるだけ少ない方が好ましい。
【0142】
カルボン酸は、最初に処方した量で、基本的には10年程度は耐えると考えている。
【0143】
銅の防錆剤(トリルトリアゾールなど)も、銅の他の物質と錯体を作り易い性質から、消耗の多い添加剤である。従って定期的に添加を必要とする添加剤である。
【0144】
モリブデン酸ソーダ、高分子有機リン化合物(界面活性剤)は4~5年は補充する必要はないと考えているが、更に長く使用する場合は、残存する量を測定してから添加する方法が好ましい。
【0145】
<実験結果>
フッ素系の界面活性剤を処方しているのは、エンジン冷却内面は、若干の空気を含むことが避けられないので、この空気の粒子を最小にすることで、冷却面に空気が直接接触する事を避けることができる。このことにより、冷却効果を高めることができる
【0146】
より詳細には、液体が気体になる時、潜熱を奪う。液中の気体は泡状態になり、泡が小さくてたくさんある方がすぐつぶれるので、その熱をたくさん奪うことになる。冷却液の液中に発生する泡を小さくてたくさん作るためにフッ素系の界面活性剤を入れることが好ましい。
【0147】
更に、現在のラジエーターの構造は、1.5気圧前後の加圧式になっており、圧はリザーブタンクのところにあるバルブで調整している。エンジン燃焼室の温度は高くなっており、エンジンの燃焼室に接した冷却液には、エンジンの熱により液中に気体が発生する。上述の通り冷却液中に発生する気泡の粒は小さい方がいいので、フッ素系の界面活性剤を入れることが好ましい。
【0148】
実際に、現在の不凍液規格(JIS K2234)にある循環腐食試験装置を改造して本発明のクーラントの効果を検証することとした。
【0149】
図示を省略するが、本発明のクーラントの試験装置1であり、上記JISに示された装置を改良して用いている。
【0150】
この試験装置1は、細部はJISによるが、図示しない組立試験片を組込んだ加熱槽11からラジエター12、ウォーターポンプ13、流量計14をクーラントが循環するようになっており、ここで、流量計14と加熱槽11との間に、強化ガラス製のパイプ15.及び/または耐熱ガラス製のパイプ16を設置する。更にこれらのパイプを、内部を観察できるように透明にする。なお、透明部材はガラスには限定されない。
【0151】
このような装置で各種の条件で試験液(クーラント相当)を流し、温度、流速を変化させて観察すると、フッ素系界面活性剤を処方した液は、泡の直径が小さくなるために、液の着色が濃くなり、試験機に装着した温度計の温度が低くなる。なお、この試験では液を循環させると必ず液中に泡が観察される。
【0152】
具体的な試験方法として、試験液を循環するモーター17に図示しない変速機を装備しておき、1日8時間の試験時間内の各1時間において、55分間を500回転で作動させた後、5分間変速機を作動させて1,000回転にして、5分後また500回転に戻し、これを8時間繰り返すことが好ましい。なお、今後の可能性として作動条件を変えることはあり得る。
【0153】
フッ素系の界面活性剤に注目したのは、他の界面活性剤を処方した場合は、繰り返し試験をした場合に結果にバラツキが多く、耐熱性に問題を感じたことと、有効濃度がフッ素系界面活性剤を使用した場合の10倍以上あるので、新たに副作用と考えられる現象が起きる場合もあるためである。
【0154】
更に、金属腐食試験は、規格試験(連続加熱試験)より、8時間加熱16時間放置を90日乃至120日繰り返す試験の方が試験片に与える影響が実際に即していると考える。
【0155】
現在の内燃機関は、静電気発生の巣のような状態で、エンジン内面に防錆被膜を作ることは、エンジン内面に電位差のデパートを造る様な感じでガルバニック腐食を簡単に起こす結果となる。
【0156】
鉄については、空気(酸素)を触れさせない工夫として、カルボン酸塩で覆い、万一鉄イオンが発生したら液側にキャッチする目的で、リン酸を含む高分子界面活性剤を処方したものである。
【0157】
これに従って処方したクーラント(冷却液)の評価方法として、種々の考案を思索し、実験室的方法を試みた結果、次の結論を得た。
【0158】
1)JIS規格等公的規格の試験方法では、結果の促進方法として、連続加熱方法と、連続的空気吹込み方法を採用し、試験液としては、サンプルを指定した混合割合の腐食液を容量比で30%に希釈した液を使用することになっている。
【0159】
今回は、希釈せずそのまま使用する液の試験であることと、現在のラジエターの構造は、全てのラジエターが加圧タイプであり、かつ空気が遮断されているタイプであるので、空気の吹込みは削除することとした。
【0160】
試験方法として、JIS規格では、連続加熱する方法を採用しているが、実際使用では、あり得ないことで、今回は8時間加熱、16時間放置の繰り返しと、従来のJIS規格では、LLC(ロングライフクーラント)では720時間となっているのを、今回は、2ケ月間、3ケ月間、4ケ月間、5ケ月間を試験期間とした試験を実施し、JIS法の試験方法と比較した。
【0161】
結果として、3ケ月間以降は、結果に有意差は無いと判断した。しかし、この試験方法で全ての処方をカバーしているかどうかについて証明出来るものではないが、この処方に近似した処方では、安定した結果が得られた。
【0162】
2)この処方が、従来の処方に対して優位性を持っていると考えている点は、鉄に対する防錆方法として、現在のエンジンの特性として、非常に静電気の起き易い高周波振動の巣とも言える性質を持っているので、皮膜を作ることで防錆することは、電気化学的に電位差が生地の金属と同じであれば問題ないが、現実にはあり得ない。
【0163】
特に、鉄については条件を満足しないとガルバニック腐食の巣と化し大きなダメージを起こす結果になり、エンジンが修復不能になるという問題があるため、注意が必要である。
【0164】
なお、これまで説明した実施例は、クーラント基材、及びクーラント添加剤の基準となる配合比率であるが、この比率に限定されることなく、各々、最適範囲であれば、ほぼ同等の効果を奏し、好適範囲であれば、それなりの効果を奏する。
【0165】
また、添加剤の種類を減少したり、増加したりしてもよく、その場合には、当然、配合比率も変動することがあり得る。
【符号の説明】
【0166】
1 トリチウム水捕集システム
20 予備冷却装置
30 精密冷却装置
40 トリチウム水捕集器
50 周辺冷却装置
60 貯水槽
70 3次冷媒槽
80 2次冷媒槽
90 1次冷媒冷却装置