(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023045509
(43)【公開日】2023-04-03
(54)【発明の名称】ジフルオロリン酸塩の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 25/455 20060101AFI20230327BHJP
H01M 10/0567 20100101ALN20230327BHJP
【FI】
C01B25/455
H01M10/0567
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021153965
(22)【出願日】2021-09-22
(71)【出願人】
【識別番号】000157119
【氏名又は名称】関東電化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 宣久
【テーマコード(参考)】
5H029
【Fターム(参考)】
5H029AJ14
5H029HJ14
(57)【要約】
【課題】塩酸などの強酸性物質を副生せずに、取り扱いやすい原料を用いて簡便にジフルオロリン酸塩を製造できる新たな製造手法を提供すること。
【解決手段】第1のアルカリ金属のジフルオロリン酸塩と、当該第1のアルカリ金属に比してイオン半径の大きな第2のアルカリ金属のフッ化物とを、該ジフルオロリン酸塩及び該フッ化物の溶解が可能な溶媒中で反応させて、第2のアルカリ金属のジフルオロリン酸塩を得る、ジフルオロリン酸塩の製造方法。第1のアルカリ金属がリチウム及びナトリウムから選ばれる少なくとも1種であり、第2のアルカリ金属がナトリウム、カリウム、ルビジウム及びセシウムから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のアルカリ金属のジフルオロリン酸塩と、当該第1のアルカリ金属に比してイオン半径の大きな第2のアルカリ金属のフッ化物とを、該ジフルオロリン酸塩及び該フッ化物の溶解が可能な溶媒中で反応させて、第2のアルカリ金属のジフルオロリン酸塩を得る、ジフルオロリン酸塩の製造方法。
【請求項2】
第1のアルカリ金属がリチウム及びナトリウムから選ばれる少なくとも1種であり、
第2のアルカリ金属がナトリウム、カリウム、ルビジウム及びセシウムから選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記溶媒として、第1のアルカリ金属のフッ化物の溶解度が反応温度において5g/溶媒100g以下である極性溶媒を用いる、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記溶媒として、第1のアルカリ金属のジフルオロリン酸塩の溶解度が反応温度において1g/溶媒100g以上であり、且つ、第2のアルカリ金属のフッ化物の溶解度が、反応温度において0.1g/溶媒100g以上である極性溶媒を用いる、請求項1~3の何れか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記溶媒が水、アルコール類、及びアルキレングリコールジアルキルエーテル類から選ばれる少なくとも一種である、請求項1~4の何れか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
反応によって前記溶媒中に析出した第1のアルカリ金属のフッ化物を濾別して除去する、請求項1~5の何れか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
反応温度が5℃以上80℃以下である、請求項1~6の何れか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池などの電池の添加剤等に用いられるジフルオロリン酸塩の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ナトリウムやセシウム等のリチウム以外のアルカリ金属のジフルオロリン酸塩は、リチウムイオン二次電池の添加剤や、ナトリウムイオン電池の添加剤等に使用されている(特許文献1及び2)。
これまで、ナトリウムやセシウム等のアルカリ金属のジフルオロリン酸塩の製法としては、以下のものなどが知られている。
【0003】
例えば、特許文献3には、アルカリ金属、アルカリ土類金属又はオニウムのハロゲン化物、炭酸塩、ホウ酸塩、リン酸塩、水酸化物及び酸化物からなる群より選択される少なくとも1種の塩と、リンのオキシ塩化物及び塩化物からなる群より選択される1種のリン化合物と、水とフッ化水素とを反応させることを特徴とするジフルオロリン酸塩の製造方法が記載されている。
【0004】
また、非特許文献1には、ジフルオロリン酸と塩化セシウムを反応させてセシウムのジフルオロリン酸塩を製造している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】US10770749B2
【特許文献2】WO2014/161746号のパンフレット
【特許文献3】WO2016/017389号のパンフレット
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Spectrochimica Acta, Vol. 38A, No. 7, pp. 785-790, 1982
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献1に記載の製造方法は、副生物として強酸である塩酸が発生し、その除去操作が煩雑である上、取り扱いが難しいジフルオロリン酸を用いており、強酸性物質の副生がなく、原料の取り扱いの容易なジフルオロリン酸の製造方法が求められている。また特許文献3に対しても、リチウム以外のアルカリ金属のジフルオロリン酸塩の製法として、取り扱いやすい原料を用いて簡便にジフルオロリン酸塩を製造できる新たな方法が求められている。
【0008】
従って、本発明の目的は、前記の課題を解決するべくなされたものであり、塩酸などの強酸性物質を副生せずに、取り扱いやすい原料を用いて簡便にジフルオロリン酸塩を製造できる新たな製造手法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、前記課題を解決すべく、鋭意検討した。その結果、第1のアルカリ金属のジフルオロリン酸塩と、当該アルカリ金属に比してイオン半径の大きな第2のアルカリ金属のフッ化物とをこれらを溶解可能な溶媒中で反応させることで、上記の課題が解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。即ち、本発明は以下のものを提供する。
【0010】
[1] 第1のアルカリ金属のジフルオロリン酸塩と、当該第1のアルカリ金属に比してイオン半径の大きな第2のアルカリ金属のフッ化物とを、該ジフルオロリン酸塩及び該フッ化物の溶解が可能な溶媒中で反応させて、第2のアルカリ金属のジフルオロリン酸塩を得る、ジフルオロリン酸塩の製造方法。
【0011】
[2] 第1のアルカリ金属がリチウム及びナトリウムから選ばれる少なくとも1種であり、
第2のアルカリ金属がナトリウム、カリウム、ルビジウム及びセシウムから選ばれる少なくとも1種である、[1]に記載の製造方法。
【0012】
[3] 前記溶媒として、第1のアルカリ金属のフッ化物の溶解度が反応温度において5g/溶媒100g以下である極性溶媒を用いる、[1]又は[2]に記載の製造方法。
【0013】
[4]前記溶媒として、第1のアルカリ金属のジフルオロリン酸塩の溶解度が、反応温度において1g/溶媒100g以上であり、且つ第2のアルカリ金属のフッ化物の溶解度が、反応温度において0.1g/溶媒100g以上である極性溶媒を用いる、[1] ~[3]の何れか1項に記載の製造方法。
【0014】
[5] 前記溶媒が水、アルコール類及びアルキレングリコールジアルキルエーテル類から選ばれる少なくとも一種の極性溶媒である、[1]~[4]の何れか1項に記載の製造方法。
【0015】
[6] 反応によって前記溶媒中に析出した第1のアルカリ金属のフッ化物を濾別して除去する、[1]~[5]の何れか1項に記載の製造方法。
【0016】
[7] 反応温度が5℃以上80℃以下である、[1]~[6]の何れか1項に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明のジフルオロリン酸塩の製造方法によれば、塩酸などの取り扱いにくい強酸性物質を副生せずに、アルカリ金属のジフルオロリン酸塩やアルカリ金属のフッ化物等の取り扱いやすい原料を用いて簡便にジフルオロリン酸塩を製造できる。
本発明の方法ではジフルオロリン酸リチウムやナトリウムやアルカリ金属のフッ化物等の安価な原料を用いる上、副生物はアルカリ金属のフッ化物であり濾過等の作業で除去が容易であり、精製作業が容易である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明のジフルオロリン酸塩の製造方法を、その好ましい実施形態に基づいて詳述するが、本発明はこれらの内容に限定されない。
【0019】
まず、本発明のジフルオロリン酸塩の製造方法について説明する。本発明の製造方法は、第1のアルカリ金属のジフルオロリン酸塩と、当該第1のアルカリ金属に比してイオン半径の大きな第2のアルカリ金属のフッ化物とを、該ジフルオロリン酸塩及び該フッ化物の溶解が可能な溶媒中で反応させて、第2のアルカリ金属のジフルオロリン酸塩を得ることを特徴の一つとする。本発明では原料に塩素化合物を用いないために、得られるジフルオロリン酸塩は塩素不純物含量が本質的に低いものとなる。
【0020】
本発明における反応機構は以下の式(i)のカチオン交換反応である。
MPO2F2 + AF→ APO2F2 + MF (i)
(Mは第1のアルカリ金属であり、Aは第2のアルカリ金属であり、AはMに比してイオン半径が大きい。)
【0021】
上記反応がより進みやすい点、また副生物である第1のアルカリ金属Mのフッ化物を析出させやすく、目的物であるジフルオロリン酸塩の精製が容易な点から、第1のアルカリ金属Mがリチウム及びナトリウムから選ばれる少なくとも1種であり、
第2のアルカリ金属Aはナトリウム、カリウム、ルビジウム及びセシウムから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
ただし、第1のアルカリ金属Mがナトリウムの場合、第2のアルカリ金属Aは、カリウム、ルビジウム及びセシウムから選ばれる少なくとも1種である。
【0022】
上記反応がより進みやすい点、また、副生物である第1のアルカリ金属Mのフッ化物を効率よく析出させることができ、目的物であるジフルオロリン酸塩の精製が一層容易な点から、第1のアルカリ金属Mと第2のアルカリ金属Aとは、イオン半径の差が大きいことが好ましく、例えば、第1のアルカリ金属Mがリチウムである場合に第2のアルカリ金属Aは、カリウム、ルビジウム及びセシウムから選ばれる少なくとも1種であること、或いは、第1のアルカリ金属Mがナトリウムである場合に第2のアルカリ金属Aは、ルビジウム及びセシウムから選ばれる少なくとも1種であることが特に好ましい。
【0023】
本発明の反応に用いる溶媒は、第1のアルカリ金属のジフルオロリン酸塩MPO2F2と、当該第1のアルカリ金属に比してイオン半径の大きな第2のアルカリ金属のフッ化物AFとが溶解可能な溶媒である。前記溶媒としては極性溶媒を用いることが反応進行性や目的物であるジフルオロリン酸塩の精製効率等の点で好ましい。本明細書では、極性溶媒は一般に低極性溶媒と呼ばれる比誘電率10未満の溶媒を含むものとする。第1のアルカリ金属のジフルオロリン酸塩MPO2F2の溶解性の点から、反応に用いる溶媒は、25℃の比誘電率が7以上であることが好ましく、30以上であることがより好ましい。
【0024】
本発明において用いる溶媒は、第1のアルカリ金属のジフルオロリン酸塩MPO2F2の反応温度における溶解度が、1g/溶媒100g以上であることが反応性が高く、目的とする第2のアルカリ金属のジフルオロリン酸塩APO2F2を得やすい点から好ましく、20g/溶媒100g以上であることがより好ましく、40g/溶媒100g以上であることが特に好ましい。
【0025】
本発明において用いる溶媒は、第2のアルカリ金属のフッ化物AFの溶解度が、反応温度において0.1g/溶媒100g以上であることが、反応性が高く、目的とする第2のアルカリ金属のジフルオロリン酸塩APO2F2を得やすい点から好ましく、1g/溶媒100g以上であることがより好ましく、10g/溶媒100g以上であることが特に好ましく、50g/溶媒100g以上であることが更に一層好ましい。
【0026】
本発明において上記反応に用いる溶媒は、反応温度における第1のアルカリ金属のフッ化物MFの溶解度が第2のアルカリ金属のフッ化物AFよりも低いことが、副生物である第1のアルカリ金属のフッ化物を濾過で容易に反応系から除けて精製が容易であるとともに、反応進行性が良い点で好ましい。この観点から、溶媒は、反応温度における第1のアルカリ金属のフッ化物MFの溶解度S1(g/溶媒100g)と、第2のアルカリ金属のフッ化物AFの溶解度S2(g/溶媒100g)との差(S2-S1)が、2g以上であることが好ましく、4g以上であることがより好ましく、100g以上であることが特に好ましい。
【0027】
反応温度における第1のアルカリ金属のフッ化物の溶解度は、例えば5g/溶媒100g以下であることが、副生物である第1のアルカリ金属のフッ化物MFを濾過で容易に反応系から除けやすい点で好ましく、3g/溶媒100g以下であることがより好ましく、1g/溶媒100g以下であることが更に一層好ましく、0.5g/溶媒100g以下であることが特に好ましい。
【0028】
本発明の製造方法において特に好ましい反応に用いる溶媒としては、水、アルコール類及びアルキレングリコールジアルキルエーテル類から選ばれる少なくとも一種が、カチオン反応進行の点、第1のアルカリ金属のフッ化物MFの精製しやすさの点で好適に挙げられる。アルコール類としては、炭素原子数1以上4以下の1価の脂肪族アルコール、炭素原子数2以上6以下の多価アルコールが挙げられる。上記1価の脂肪族アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、iso―ブタノール等が挙げられる。また上記多価アルコールとしては、エチレングリコール、グリセリン、ソルビタン、トリメチロールプロパン等が挙げられる。更に、アルキレングリコールジアルキルエーテル類としては、炭素原子数が4以上8以下のものが好適に挙げられ、1,3-ジメトキシプロパン、1,2-ジメトキシエタン、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテルなどが挙げられる。なかでも、本発明の製造方法において反応に用いる溶媒は、水又はアルコール類であることが、カチオン反応の進行しやすさや、第1のアルカリ金属のフッ化MFが析出しやすく、濾過により除去しやすい点で好ましく、水又は炭素原子数1~4の1価の脂肪族アルコールであることが、カチオン反応の進行しやすさや、第1のアルカリ金属のフッ化MFが析出しやすく、且つ安価であり、且つ取り扱いが容易である点でより好ましい。炭素原子数1~4の1価の脂肪族アルコールとしては、産業利用性の点から、メタノール、エタノール、イソプロパノールが好ましい。
【0029】
溶媒中の第1のアルカリ金属のジフルオロリン酸塩MPO2F2及び第2のアルカリ金属のフッ化物AFの濃度は、MPO2F2及びAFの合計量が、溶媒、MPO2F2及びAFの合計量に対し、10質量%以上となる量であることが、反応進行性や生産性の点で好ましく、50質量%以下となる量であることが産業利用性の点で好ましい。これらの観点から、溶媒中のMPO2F2及びAFの濃度は、MPO2F2及びAFの合計量が、溶媒、MPO2F2及びAFの合計量に対し、10質量%以上50質量%以下であることが好ましく、20質量%以上40質量%以下であることがより好ましい。
【0030】
反応に用いる、第1のアルカリ金属のジフルオロリン酸塩MPO2F2及び第2のアルカリ金属のフッ化物AFのモル比率は、1:1又はそれに近い範囲であることが、反応進行性や副生物の少なさ等の点で有利であり、例えば、AF:MPO2F2=1:0.80~1.20が挙げられ、1:0.95~1.05がより好適である。
【0031】
本発明の製造方法におけるカチオン反応において、第1のアルカリ金属のジフルオロリン酸塩MPO2F2及び第2のアルカリ金属のフッ化物AFを反応させる温度は5℃以上であることが反応進行の点で好ましく、80℃以下であることがジフルオロリン酸イオンの分解を抑制する点で好ましい。これらの点から、反応温度は10℃以上60℃以下がより好ましく、20℃以上40℃以下が特に好ましい。
【0032】
上記の反応での反応時間に特に限定はなく、十分に反応を進行させる点から10分以上が好ましく、製造時間短縮と純度とのバランスの点から、24時間以下が好ましい。これらの点から20分以上12時間以下がより好ましく、30分以上6時間以下が特に好ましい。
【0033】
本発明の製造方法は大気等の活性雰囲気下において行ってもよく、窒素やアルゴン等の不活性雰囲気下においておこなってもよい。窒素雰囲気下であることが生成物の安定性に優れ微量な分解をも抑制できる点で好ましく、大気雰囲気下であることは安価な製造設備を使用できる点や製造作業が簡便である点で好ましい。
【0034】
本発明の製造方法において、溶媒に第1のアルカリ金属のジフルオロリン酸塩MPO2F2及び第2のアルカリ金属のフッ化物AFを添加して行ってもよく、MPO2F2及びAFに溶媒を添加して行ってもよい。溶媒の添加時間、又はMPO2F2及びAFの添加時間は、任意に設定することができる。本発明の製造方法において、反応は、大気圧下で行っても、減圧下で行ってもよい。
【0035】
第1のアルカリ金属のジフルオロリン酸塩MPO2F2及び第2のアルカリ金属のフッ化物AFの接触後に撹拌操作を行っても行わなくてもよいが、撹拌操作を行うことが生産性の点から好ましい。
【0036】
反応後に、反応液中に不溶解成分が生成している場合には、通常の濾過操作によって濾別することができる。特に本発明の製造方法では、第1のアルカリ金属のフッ化物MFが析出し、それを除去することで精製効率を高めることができるほか、反応液から第1のアルカリ金属のフッ化物MFが析出することで、液中での反応効率が高めやすいと考えられる。
【0037】
なお第1のアルカリ金属のフッ化物MFを濾別して除去する場合には、第2のアルカリ金属のジフルオロリン酸塩APO2F2が濾液中に存在しており固液分離によりAPO2F2とMFとを分離する場合のみならず、第1のアルカリ金属のフッ化物MFとともに第2のアルカリ金属のジフルオロリン酸塩APO2F2も溶媒中に析出し、これを共に固液分離にて反応液から分離する場合も含むものとする。後者の場合、析出した第1のアルカリ金属のフッ化物MF及び第2のアルカリ金属のジフルオロリン酸塩APO2F2を濾別して反応液から除去した後、得られた固体に対し、後述する精製工程である抽出(濾過)の工程を行うことが好ましい。つまり、固体状のジフルオロリン酸塩APO2F2を溶解し、フッ化リチウム等の第1のアルカリ金属のフッ化物MFの溶解度の小さい溶媒と混合し、次いで濾別することでAPO2F2を溶解し、MFが除去された濾液を得ることができるため好ましい。APO2F2を溶解しMFの溶解度の小さい溶媒の種類やその温度としては、後述するものが好適に挙げられる。
【0038】
濾液中に余剰に存在する反応溶媒等の溶媒は、一般的な加熱操作や減圧操作や晶析濾過操作によって除去することができる。このときの加熱乾燥温度は加熱分解を避ける点や省エネルギーの点から、30℃~120℃が好ましく、さらには、40℃~100℃がより好ましい。また、乾燥時に減圧を行う場合は、圧力(絶対圧)は例えば100hPa~1hPaの範囲が挙げられる。
【0039】
本発明の製造方法において、得られたジフルオロリン酸塩を、さらなる精製工程に付すこともできる。精製方法として、特に限定されず、例えば抽出(濾過)や、洗浄や再結晶といった公知の手法を用いることができる。また、上記の溶媒乾燥前の濾液を抽出工程に供してもよい。
【0040】
抽出(濾過)としては、固体状のジフルオロリン酸塩APO2F2を溶解し、フッ化リチウム等の第1のアルカリ金属のフッ化物MFの溶解度の小さい溶媒を用いる。溶媒に反応物を溶解し、不溶解分を分離し、エバポレーター等で脱溶媒することで高純度なジフルオロリン酸塩を得ることができる。
【0041】
洗浄としては、例えば、得られた粗ジフルオロリン酸塩に対し、ジフルオロリン酸塩の溶解度の小さい溶媒を用いる。溶媒により洗浄を行うことで不純物を洗い流すことで高純度なジフルオロリン酸塩を得ることができる。
【0042】
再結晶としては、例えば、ジフルオロリン酸塩を溶解する溶媒を用い、溶解度の温度依存性を利用する。溶媒に反応物を溶解し、加熱及び冷却を行うことで高純度のジフルオロリン酸塩の結晶を析出させることができる。
【0043】
また、上記の溶媒乾燥前の濾液について、溶媒抽出を行う際には、濾液に目的とするジフルオロリン酸塩の溶解度が、濾液中の溶媒よりも高い溶媒を用いて抽出する(以下、「濾液の抽出」と記載する場合がある)。抽出溶媒をエバポレーター等で脱溶媒することで高純度なジフルオロリン酸塩を得ることができる。
【0044】
上記の抽出(濾過)や洗浄や再結晶、濾液の抽出を行う溶媒の種類としては、ジフルオロリン酸塩等と反応するか、分解や変質を生じさせない限り、特に限定されないが、例えば、水、炭酸エステル類、エステル類、リン酸エステル類、エーテル類、ニトリル化合物、アミド化合物、アルコール類、アルカン類等が挙げられる。例えば以下の化合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0045】
炭酸エステル類としては、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等が挙げられ、好ましくは、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチレンカーボネート、又はプロピレンカーボネートが挙げられる。
エステル類としては、酢酸メチル、酢酸エチル等が挙げられ、好ましくは、酢酸エチル、酢酸ブチルが挙げられる。
リン酸エステルとしては、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、亜リン酸トリメチル、亜リン酸ジエチルメチル等が挙げられる。
エーテル類としては、上記の反応溶媒の例として挙げたアルキレングリコールジアルキルエーテル類等のほか、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン等が挙げられる。
ニトリル化合物としては、アセトニトリル等が挙げられる。アミド化合物としては、ジメチルホルムアミド等が挙げられる。
アルコール類としては、上記の反応溶媒として用いるアルコール類として挙げたものが挙げられる。
アルカン類としては、ヘキサン、n-ヘプタン等が挙げられる。
【0046】
上記の水又は有機溶媒は一種類を単独で使用してもよく、2種類以上を混合して用いても良い。溶媒はジフルオロリン酸塩を溶解することができてもよく、できなくても撹拌ができる量であればよい。
【0047】
例えば、反応溶媒として上記で好ましいものとして挙げた溶媒により、濾液の抽出や固体状のジフルオロリン酸塩の抽出(濾過)を行うことで、精製効率を高めることができるため好ましい。濾液の抽出に用いる抽出溶媒や、固体状のジフルオロリン酸塩の抽出(濾過)に用いる抽出溶媒(特に固体状のジフルオロリン酸塩APO2F2を溶解し、フッ化リチウム等の第1のアルカリ金属のフッ化物MFの溶解度の小さい溶媒)の例については、上記で挙げた反応溶媒を適宜用いることができるが、なかでも水及び/又はアルコール類を用いることが、精製効率が高い点で好ましい。濾液の抽出や固体状のジフルオロリン酸塩の抽出(濾過)に用いる抽出溶媒による抽出工程は、常温又は温度調整して行うことができ、その温度としては10℃以上50℃以下がジフルオロリン酸塩の分解抑制や精製効率を高める観点から好適であり、10℃以上40℃以下が特に好適である。
【実施例0048】
以下に実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、かかる実施例に限定されるものではない。
【0049】
[実施例1]
<ジフルオロリン酸セシウムの合成>
反応容器として、500mL容量のパーフルオロアルコキシアルカン製容器を用いた。溶媒と、ジフルオロリン酸リチウム(LiPO2F2)38.25gと、フッ化セシウム(CsF)51.23gを反応容器に投入した。溶媒としては、水を152.47g用いた。ジフルオロリン酸リチウム(LiPO2F2)と、フッ化セシウム(CsF)のモル比は表1に示す通りであり、原料(LiPO2F2及びCsF)の溶媒中の濃度、つまり、溶媒と、LiPO2F2と、CsFの合計量中におけるLiPO2F2及びCsFの合計量の割合)は表1に示す濃度であった。
大気雰囲気下、撹拌しながら20℃で30分間反応させた。反応物を濾別して固液分離した後に、得られた濾液を絶対圧10hPaの減圧下40℃で濃縮乾燥させて乾燥粉末を得た。得られた乾燥粉末におけるアニオンの組成を31P-NMR及び19F-NMRにて調べたところ、PO2F2アニオンが99.0モル%、PO3F及び(PO2F)2Oアニオンが0.0モル%、PO4アニオンが0.0モル%、Fアニオンが1.0モル%であった。得られた乾燥粉末を水に0.01質量%濃度に溶解させた溶解液を得て、得られた溶解液について、以下条件のイオンクロマトグラフィーにてカチオン組成を調べたところ、M(Li):A(Cs)がピーク面積比で5.1:94.9%であった。
本製造方法では、反応系中に溶解度の低いLiFが析出し、それを固液分離することで除去するため濾液中に原料由来のCsはほぼすべて存在する。このため、濾液をそのまま乾燥させた乾燥体中のカチオン分析及びアニオン分析の結果より、原料であるCsF中のCs量に対する、得られたCsPO2F2中のCs量の割合が90%程度かそれ以上と推測される。
【0050】
イオンクロマトグラフィー分析:
イオンクロマトグラフィーとしてはダイオネクス ICS-3000を用いた。 溶離液50mM MSA(メタンスルホン酸)、カラム:Cs-16、カラム温度30℃、注入量25μlとし、リテンションタイム(単位μS/min)は、Li:4.49、Na;5.67、K:9.30、Rb:12.2、Cs:16.1であった。
【0051】
[実施例2]
反応容器として、20mL容量のパーフルオロアルコキシアルカン製容器を用いた。ジフルオロリン酸リチウム(LiPO2F2)1.86gと、フッ化セシウム(CsF)2.62gを用い、原料モル比を表1記載の通りとした。反応温度を下記表1に記載の通りとした。それらの点以外は実施例1と同様にして乾燥粉末を得た。得られた乾燥粉末について実施例1と同様に分析した結果を表1に示す。
【0052】
[実施例3]
反応容器として、20mL容量のパーフルオロアルコキシアルカン製容器を用いた。ジフルオロリン酸リチウム(LiPO2F2)1.94gと、フッ化セシウム(CsF)2.72gを用い、原料モル比を表1記載の通りとした。反応温度を下記表1に記載の通りとした。それらの点以外は実施例1と同様にして乾燥粉末を得た。得られた乾燥粉末について実施例1と同様に分析した結果を表1に示す。
【0053】
[実施例4]
反応容器として、20mL容量のパーフルオロアルコキシアルカン製容器を用いた。ジフルオロリン酸リチウム(LiPO2F2)1.28gと、フッ化セシウム(CsF)1.76gを用い、原料モル比を表1記載の通りとした。反応温度と反応溶媒の種類、溶媒中の原料濃度を下記表1に記載の通りとした。それらの点以外は実施例1と同様にして乾燥粉末を得た。得られた乾燥粉末について実施例1と同様に分析した結果を表1に示す。
【0054】
[実施例5]
反応容器として、500mL容量のパーフルオロアルコキシアルカン製容器を用いた。ジフルオロリン酸リチウム(LiPO2F2)16.14gと、フッ化セシウム(CsF)22.86gを用い、原料モル比を表1記載の通りとした。反応溶媒として水の代わりに、1,2-ジメトキシエタン(DME)を用い、反応温度、溶媒中の原料濃度を下記表1に記載の通り変更し、反応時間を24時間とした。それらの点以外は実施例1と同様に反応させ、反応液を濾過した。濾別後、得られた残渣に水を120mL加えて、30℃にて60分間ふり交ぜた後濾別し、得られた濾液を絶対圧10hPaの減圧下80℃で濃縮乾燥させて乾燥粉末30.67gを得た。得られた乾燥粉末について実施例1と同様に分析した。結果を表1に示す。
本製造方法では、反応により生成したCsPO2F2のDMEへの溶解度が低いため、析出した固体を精製した。得られた乾燥粉末の量と、カチオン分析及びアニオン分析の結果より、原料であるCsF中のCs量に対する得られたCsPO2F2中のCs量の割合が80%と算出された。
【0055】
[実施例6]
反応容器として、500mL容量のパーフルオロアルコキシアルカン製容器を用いた。ジフルオロリン酸リチウム(LiPO2F2)21.57gと、フッ化ナトリウム(NaF)8.4gを用い、原料モル比を表1記載の通りとした。溶媒中の原料濃度を下記表1の記載の通り変更した。それらの点以外は実施例1と同様に反応させた後に濾液を得た。得られた濾液を絶対圧10hPaの減圧下、40℃で濃縮乾燥させて乾燥粉末を得た。得られた乾燥粉末について実施例1と同様に分析した結果を表1に示す。
【0056】
[実施例7]
反応容器として、20mL容量のパーフルオロアルコキシアルカン製容器を用いた。ジフルオロリン酸リチウム(LiPO2F2)2.12gと、フッ化ルビジウム(RbF)2.03gを用い、原料モル比を表1記載の通りとした。溶媒中の原料濃度を下記表1の記載の通り変更した。それらの点以外は実施例1と同様に反応させ、実施例1と同様に分析した。結果を表1に示す。
【0057】
[実施例8]
反応容器として、20mL容量のパーフルオロアルコキシアルカン製容器を用いた。ジフルオロリン酸ナトリウム(NaPO2F2)1.26gと、フッ化セシウム(CsF)1.55gを用い、原料モル比を表1記載の通りとした。溶媒の種類、溶媒中の原料濃度を下記表1の記載の通り変更した。それらの以外は実施例1と同様に反応させ、乾燥粉末を得た。得られた乾燥粉末に対し、50mLのメタノールを加えて、30℃で1時間ふり交ぜた後に濾別した。得られた濾液について、絶対圧10hPaの減圧下で、40℃で濃縮乾燥させて乾燥粉末1.40gを得た。得られた乾燥粉末について実施例1と同様に分析した。結果を表1に示す。
本製造方法では、ジフルオロリン酸ナトリウムと残存する原料や副生物等を分離するための精製工程を行った。得られた乾燥粉末の量と、カチオン分析及びアニオン分析の結果より、原料であるCsF中のCs量に対する得られたCsPO2F2中のCs量の割合が56%と算出された。
【0058】
[実施例9]
反応容器として、50mL容量のパーフルオロアルコキシアルカン製容器を用いた。ジフルオロリン酸リチウム(LiPO2F2)5.19gと、フッ化カリウム(KF)2.82gを用い、原料モル比を表1記載の通りとした。溶媒中の原料濃度を下記表1の記載の通り変更した。それらの点以外は実施例1と同様に反応させ、実施例1と同様に分析した。結果を表1に示す。
【0059】
[比較例1]
反応容器として、250mL容量のパーフルオロアルコキシアルカン製容器を用いた。ジフルオロリン酸セシウム(CsPO2F2)11.10gと、フッ化ナトリウム(NaF)2.02gを用いた。溶媒中の原料濃度、反応温度を下記表1の記載の通り変更した。これらの点以外は実施例1と同様に反応させて乾燥粉末を得た。得られた乾燥粉末に対し230gのメタノールを加えて、30℃で60分間ふり交ぜた後に濾別した。得られた濾液について、絶対圧10hPaの減圧下、30℃で濃縮乾燥させて乾燥粉末を得た。得られた乾燥粉末9.90gについて実施例1と同様に分析した。結果を表1に示す。本製造方法では、精製を行ったにも拘らず、表1に示す通り、乾燥粉末中のNaPO2F2の量はごく僅かであった。得られた乾燥粉末の量と、カチオン分析及びアニオン分析の結果より、原料であるNaF中のNa量に対する得られたNaPO2F2中のNa量の割合が16%と算出された。
【0060】
[比較例2]
反応容器として、50mL容量のパーフルオロアルコキシアルカン製容器を用いた。ジフルオロリン酸リチウム(LiPO2F2)1.65gと、塩化セシウム(CsCl)2.54gを用い原料濃度を下記表1の記載の通り変更し、反応時間を12時間とした。それらの点以外は実施例1と同様に反応させて乾燥粉末を得た。得られた乾燥粉末は、60mLアセトンにて30℃で洗浄した後、絶対圧10hPaの減圧下で、30℃で再度乾燥させて乾燥粉末を得た。得られた乾燥粉末を、実施例1と同様に分析した。結果を表1に示す。
【0061】
[比較例3]
反応容器として、50mL容量のパーフルオロアルコキシアルカン製容器を用いた。ジフルオロリン酸リチウム(LiPO2F2)2.09gと、炭酸セシウム(Cs2CO3)2.64gを用い、原料モル比を表1記載の通りとした。溶媒中の原料濃度、溶媒種類を下記表1の記載の通り変更した。それらの点以外は実施例1と同様に反応させて乾燥粉末を得た。得られた乾燥粉末を、実施例1と同様に分析した。結果を表1に示す。
【0062】
【0063】
表1に示す通り、第1のアルカリ金属のジフルオロリン酸塩と、当該第1のアルカリ金属に比してイオン半径の大きな第2のアルカリ金属のフッ化物とを反応させた各実施例では、ジフルオロリン酸塩のカチオン交換反応が効果的に進行した。実施例1~4、6、7、9では、濾液の乾燥物は、精製を行っていないにもかかわらず、高いカチオン交換率を示した。また固液分離後の精製を行った実施例5、8においても、56%以上の収率で比較的高純度の目的物が得られた。
一方、原料ジフルオロリン酸塩のアルカリ金属に比して原料フッ化物のアルカリ金属のイオン半径が小さい比較例1では、カチオン交換が進んでいないことが示された。
また比較例2、3は、カチオン交換原料としてアルカリ金属のフッ化物ではなく塩化物又は炭酸塩を用いた場合を示す。このような場合、この点以外は略同条件で行った実施例1、4とそれぞれ比較して、カチオン交換反応に劣ることが示された。特にカチオン交換原料としてアルカリ金属のフッ化物ではなく塩化物を用いた場合には、反応時の発熱が生じ、ジフルオロリン酸イオンの分解の割合が大きいことを本発明者は確認している。
【0064】
なお、実施例で用いたフッ化物の溶媒への溶解度の一部を下表に示す。また、ジフルオロリン酸リチウムは、20~60℃での水への溶解度が80g/100g溶媒以上であり、20℃でのメタノールへの溶解度が60g/溶媒100g以上であり、60℃でのDMEへの溶解度が40g/溶媒100g以上である。ジフルオロリン酸ナトリウムは、20℃でのメタノールへの溶解度が10g/溶媒100g以上である。ジフルオロリン酸セシウムは、60℃でのDMEへの溶解度が0.1g/溶媒100g程度である。
【0065】