(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023045523
(43)【公開日】2023-04-03
(54)【発明の名称】屈折率計測装置
(51)【国際特許分類】
G01N 21/45 20060101AFI20230327BHJP
【FI】
G01N21/45 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021153999
(22)【出願日】2021-09-22
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】504155293
【氏名又は名称】国立大学法人島根大学
(71)【出願人】
【識別番号】000151852
【氏名又は名称】株式会社東洋精機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100116861
【弁理士】
【氏名又は名称】田邊 義博
(72)【発明者】
【氏名】横田 正幸
(72)【発明者】
【氏名】金森 光太郎
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059AA05
2G059BB04
2G059BB08
2G059EE01
2G059EE04
2G059EE09
2G059FF01
2G059FF04
2G059GG01
2G059GG02
2G059HH02
2G059KK04
2G059MM01
(57)【要約】
【課題】2次元的に広がりのある領域に対して塗布された塗料の屈折率を、硬化乾燥途中を含めて計測する技術を提供すること。
【解決手段】 評価対象である塗料に屈折率が既知である粉末を混ぜた混合塗料を塗布した試料に関し、デジタルホログラフィ(測定部10)を用い、試料Obの所定領域について、所定時間間隔毎の透過光の再生画像を作成する再生画像作成部21と、作成された再生画像に基づいて、前記時間間隔毎の当該領域の透過光強度を決定する強度決定部23と、決定された透過光強度に基づき、透過光強度が最大になる時間を導出する時間導出部24と、導出された時間と、前記既知の屈折率と、を組として出力する出力部25と、を具備したことを特徴とする屈折率計測装置1。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
評価対象である塗料に屈折率が既知である粉末を混ぜた混合塗料を塗布した試料に関し、
デジタルホログラフィを用い、試料の所定領域について、所定時間間隔毎の透過光の再生画像を作成する再生画像作成手段と、
再生画像作成手段により作成された再生画像に基づいて、前記時間間隔毎の当該領域の透過光強度を決定する強度決定手段と、
強度決定手段により決定された透過光強度に基づき、透過光強度が最大になる時間を導出する時間導出手段と、
時間導出手段により導出された時間と、前記既知の屈折率と、を組として出力する出力手段と、
を具備したことを特徴とする屈折率計測装置。
【請求項2】
屈折率が異なる粉末を用い、
出力手段を制御して、時間導出手段により導出された時間に対する、当該決定された時間にかかる粉末の屈折率をプロットし、塗料の経時的な屈折率変化のグラフを出力する出力制御手段を具備したことを特徴とする請求項1に記載の屈折率計測装置。
【請求項3】
デジタルホログラフィを用い、前記領域について、前記時間間隔毎の位相画像および/または位相差画像を作成する位相画像作成手段を具備し、
出力制御手段は、再生画像と、位相画像および/または位相差画像と、を動画として出力する制御をおこなうことを特徴とする請求項2に記載の屈折率計測装置。
【請求項4】
評価対象である塗料に屈折率が既知である粉末を混ぜた混合塗料を塗布した試料に関し、
デジタルホログラフィを用い、試料の所定領域について、所定時間間隔毎の反射光の再生画像を作成する再生画像作成手段と、
再生画像作成手段により作成された再生画像に基づいて、前記時間間隔毎の当該領域の反射光強度を決定する強度決定手段と、
強度決定手段により決定された反射光強度に基づき、反射光強度が最小になる時間を導出する時間導出手段と、
時間導出手段により導出された時間と、前記既知の屈折率と、を組として出力する出力手段と、
を具備したことを特徴とする屈折率計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタルホログラフィを用いた、広がりのある領域面にかかる塗料の屈折率の評価技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、塗料は、製品の保護や美観向上などを目的として様々な業界で用いられている。近年では、機能性(耐熱、耐擦傷、絶縁、防汚、消臭など)を付与したり、環境に配慮した配合としたりするなど、一層多様性が増してきている。
この多様性は、基本組成の配合比の変更、複数の混和材や多数の添加剤の付加削減などにより実現されるため、その組合せは無限であるともいえる。そして、多くの塗料で重要視される見栄えや質感に関しては、塗膜の膜厚方向の変化を与える屈折率が大きく関係する。
ここで、塗料は揮発成分の有無などにより乾燥や硬化までの時間は異なるが、塗布から乾燥硬化までの間に一般的に屈折率が変化していく。このため、塗料塗布前の屈折率と乾燥硬化後の屈折率を把握しておくことは塗料開発の基礎情報として極めて重要である。
【0003】
しかしながら、従来の技術では以下の問題点があった。
上述の様に、近年の塗料の多様性に由来する新たな混和材や添加剤によって、屈折率の変化が予想しづらく、乾燥硬化の中途の屈折率も大きく変わってしまう場合があった。
また、乾燥硬化途中の塗膜の性状がちょうど要求仕様に合う場合があり、特に塗料開発の現場では、そのときを含め前後の塗料の屈折率の変化具合や硬化乾燥の程度情報など含め関連情報を知りたいという要求が存在する。
一方、屈折率計を用いれば、屈折率を逐次的に求めることは可能である。しかしながら、上述のような関連情報は得られずじまいである。
また、屈折率計では、測定点一点の屈折率の情報が得られるに過ぎず、例えばラメの入っている塗膜、塗布面が湾曲している塗膜など、2次元的に広がりのある面の屈折率を計測ないし評価する必要がある対象に対しては、十分な屈折率情報が得られないという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-211395号
【特許文献2】特開2017-044611号
【特許文献3】特開2019-194526号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】S.G. Croll : Journal of Coatings Technology., 58, 41-58 (1986)
【非特許文献2】R. E. IMHOF, C. J. WHITTERS and D. J. S. BIRCH : Materials Scienceand Engineering, B5 113-117 (1990)
【非特許文献3】T. Yasui, T. Yasuda, K. Sawada, and T. Araki : Appl. Opt., 44,6849-6856 (2005)
【非特許文献4】T. Yasuda, T. Iwata. T. Araki, and T. Yasui : Appl. Opt., 46,7518-7526 (2007)
【非特許文献5】寶迫巌, 福永香 : 第25回塗料・塗装研究発表会 講演予稿集, pp.32-33 (2010)
【非特許文献6】J. I. Amalvy, C. Lasquibar, R. Arizaga, H. Rabal, and M. Trivi :Progress in Organic Coatings, 42, 89-99 (2001)
【非特許文献7】R. Arizaga, E. Grumel, N. Cap, and M. Trivi : JCT Reserch, 3,295-299 (2006)
【非特許文献8】I. Yamaguchi, M. Yokota, T. Ida, M. Sunaga, and K. Kobayashi : Opt.Rev., 14, 362-364 (2007)
【非特許文献9】G. G. Romero, E. E. Alanis and H. J. Rabal : Opt. Eng. 39[6] 1652-1658 (2000)
【非特許文献10】R. Arizaga, N. Cap, H. Rabal and M. Trivi : Opt. Eng. 41[2] 287-294 (2002)
【非特許文献11】木本嘉毅、山口一郎、横田正幸、“デジタルホログラフィによる乾燥初期の塗装面の観測と解析”、塗装工学、45、448-456 (2010)
【非特許文献12】横田正幸、小林幸一、“位相シフトデジタルホログラフィと重量法による塗料乾燥評価とクリア塗料に対する減少体積の計算による蒸発溶剤の推定”,塗装工学,48,556-569 (2013)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記に鑑みてなされたものであって、2次元的に広がりのある領域に対して塗布された塗料の屈折率を、硬化乾燥途中を含めて計測する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の屈折率計測装置は、評価対象である塗料に屈折率が既知である粉末を混ぜた混合塗料を塗布した試料に関し、デジタルホログラフィを用い、試料の所定領域について、所定時間間隔毎の透過光の再生画像を作成する再生画像作成手段と、再生画像作成手段により作成された再生画像に基づいて、前記時間間隔毎の当該領域の透過光強度を決定する強度決定手段と、強度決定手段により決定された透過光強度に基づき、透過光強度が最大になる時間を導出する時間導出手段と、時間導出手段により導出された時間と、前記既知の屈折率と、を組として出力する出力手段と、を具備したことを特徴とする。
【0008】
すなわち、請求項1に係る発明は、塗料中に分散させた粉末の屈折率に塗料の屈折率が一致ないし近づいたときにエリアの透過光強度が最も大きくなることを利用して、2次元的に広がりのある領域における乾燥途中ないし硬化途中の塗料の屈折率を計測することができる。
換言すれば、現実の塗布に近い状況における動的な塗料屈折率を評価する基礎技術を提供することができる。
【0009】
塗料には、接着剤が含まれるものとする。自然に固化、硬化していくものに限らず、UV硬化型の接着剤であってもよい。また、色材を含まない無色の塗料の他、有色透明塗料であってもよく、適宜、試料厚みを薄くし、また、照射光の強度を強くするなどして有色塗料を評価してもよい。
粉末は、塗料の塗布前の屈折率から乾燥硬化後の屈折率までの間にある屈折率であるものを採用し、塗料評価に影響を与えない大きさと混和量とする。たとえば、1μm~50μm、1vol%~5vol%の例を挙げることができる。なお、塗料に対して溶出、変質、反応しないものとすることはいうまでもない。なお、分散性がよい方が好ましいが、原理的に屈折率が一致するときに透過光強度が最も大きくなるので、塗料評価に影響を与えないのであれば必ずしも高分散性は要求されない。
試料の大きさ(評価領域)は、デジタルホログラフィの光学系に依存するが、1mm×1mm~100mm×100mmとすることができる。当該領域の再生画像の強度分布は屈折率分布と考えることができる。
透過光強度の決定は、単純に平均値を算出するほか、中央値の算出、平準化処理または平滑化処理をおこなった結果に基づき決定してもよい。
所定時間間隔に限定はないが、5秒毎、30秒毎とする例を挙げることができる。ただし位相飛びが生じないまたは位相接続が可能な時間間隔とするのが好ましい。
最大になる時間の算出は、最大値を与えた時間としてもよいが、大抵、小刻みに上下しながらある程度の時間ほぼ同じ値を与えるので、その滞在時間の中央の時間(時刻)としてもよい。
出力は広義であり、モニタへの出力のほか、記憶手段への出力などもふくまれ、特に限定されない。
【0010】
請求項2に記載の屈折率計測装置は、請求項1に記載の屈折率計測装置において、屈折率が異なる粉末を用い、出力手段を制御して、時間導出手段により導出された時間に対する、当該決定された時間にかかる粉末の屈折率をプロットし、塗料の経時的な屈折率変化のグラフを出力する出力制御手段を具備したことを特徴とする。
【0011】
すなわち、請求項2に係る発明は、広がりのある領域の屈折率の経時変化を知ることが可能となる。
【0012】
なお、屈折率の異なる粉末の用い方については、粉末1を混ぜた混合塗料、粉末2を混ぜた混合塗料、・・・、として、別々にデータを採取する方法の他、粉末を塗料中で区別できるときは混合粉末として塗料に混ぜて計測してもよい(塗料が単純な場合は、経時的に複数ピークをもつ透過光強度が測定される)。また、ホログラムは領域撮影に適しているので、エリアを区画して塗り分けて強度測定してもよい。
また、得られた点を補完して、屈折率曲線をプロットすることもできる。プロットないしグラフ出力は、PCモニタ上とするのが好ましい。
【0013】
請求項3に記載の屈折率計測装置は、請求項2に記載の屈折率計測装置において、デジタルホログラフィを用い、前記領域について、前記時間間隔毎の位相画像および/または位相差画像を作成する位相画像作成手段を具備し、出力制御手段は、再生画像と、位相画像および/または位相差画像と、を動画として出力する制御をおこなうことを特徴とする。
【0014】
すなわち、請求項3に係る発明は、乾燥硬化の際の塗膜の状態(たとえば流動性や表面性状など)も多角的に動的に把握可能であり、塗料開発に資することができる。
【0015】
動画出力は、再生画像と、位相画像および/または位相差画像と、を同期させて等時間間隔で連続的に出力する様にする。このときの時間間隔は再生画像の時間間隔と一致させる必要はない。たとえば、再生画像は5秒毎の像として作成し、動画出力はこれを0.1秒毎に切り替えていく例を挙げることができる。
【0016】
請求項4に記載の屈折率計測装置は、評価対象である塗料に屈折率が既知である粉末を混ぜた混合塗料を塗布した試料に関し、デジタルホログラフィを用い、試料の所定領域について、所定時間間隔毎の反射光の再生画像を作成する再生画像作成手段と、再生画像作成手段により作成された再生画像に基づいて、前記時間間隔毎の当該領域の反射光強度を決定する強度決定手段と、強度決定手段により決定された反射光強度に基づき、反射光強度が最小になる時間を決定する時間決定手段と、時間決定手段により決定された時間と、前記既知の屈折率と、を組として出力する出力手段と、を具備したことを特徴とする。
【0017】
すなわち、請求項4に係る発明は、塗料中に分散させた粉末の屈折率に塗料の屈折率が一致ないし近づいたときにエリアの反射光強度が最も小さくなることを利用して、2次元的に広がりのある領域の乾燥途中ないし硬化途中の塗料の屈折率を計測することができる。
換言すれば、屈折率と強い相関のある反射率に基づいて、乾燥硬化の中途段階の屈折率を計測することができる。
【0018】
なお、屈折率が異なる粉末を用い、出力手段を制御して、時間導出手段により導出された時間に対する、当該決定された時間にかかる粉末の屈折率をプロットし、塗料の経時的な屈折率変化のグラフを出力する出力制御手段を具備してもよい。
同様に、デジタルホログラフィを用い、前記領域について、前記時間間隔毎の位相画像および/または位相差画像を作成する位相画像作成手段を具備し、出力制御手段は、再生画像と、位相画像および/または位相差画像と、を動画として出力する制御をおこなうようにしてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、2次元的に広がりのある領域に対して塗布された塗料の屈折率を、硬化乾燥途中を含めて計測する技術を提供することができる。
加えて、乾燥硬化の際の塗膜の状態も多角的に動的に把握可能であり、塗料開発に資することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】屈折率測定装置の基本的な構成である光学系(測定系)と処理系とを示した模式図である。
【
図2】試料を塗布するシャーレと、マスクの様子を示す説明図である。
【
図3】モニタ上のグラフおよび動画の描画例を示した説明概念図である。
【
図4】混合塗料の屈折率の時間変化を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しながら詳細に説明する。本実施の形態では、デジタルホログラフィにイマルジョン(immersion)法を組み合わせ、塗料の乾燥硬化の中途段階の面の屈折率を計測する態様を説明する。また、本実施の形態において主として説明する塗料は透明塗料であるものとする。
【0022】
図1は、屈折率測定装置の基本的な構成である光学系(測定系)と処理系とを示した模式図である。
屈折率測定装置1は、大きく、光学系を構成する測定部10と、データ処理をおこなう処理部20とに分かれる。
【0023】
測定部10は、機能的にはデジタルホログラフィであり、レーザ出射部11と、レンズ-フィルタ部12と、ビームスプリッタ13(13a、13b)と、ミラー14(14a、14b)と、CMOSカメラ15と、両凸レンズ16と、を有する。なお、ビームスプリッタ13aで反射された出射光の光路には試料Obが差し込まれている。
【0024】
レーザ出射部11からは、波長λ=657.8nmの半導体レーザ光が出射される。
レンズ-フィルタ部12は、両凸レンズ、光アイソレータ、波長板、偏光子、空間フィルタ、両凸レンズ、絞り(ピンホール)、平凸レンズ等により構成される。出射光は、両凸レンズによってコリメートされ、光アイソレータにて戻り光を防ぎつつ透過光を直線偏光化する。これを、λ/2波長板と偏光子に透過させ、両凸レンズにより焦点位置で開口5μmのピンホールを通過させてほこりなどによる回折像をカットする。通過光を焦点距離100mmの平凸レンズに通しコリメートする。
続いてこの光をビームスプリッタ13aにより2分割し、反射光は試料Obを通過させて両凸レンズ16により集光し、物体光としてビームスプリッタ13bを透過させる。ビームスプリッタ13aを透過した光はミラー14a、14bにて反射させ、参照光としてビームスプリッタ13bにて反射させる。なお、ミラー14bは若干傾け軸外し角度を設定している。軸外しをすることにより、再生像において、0次光、実像、共役像が重なってしまうと行った画像劣化を抑制することが可能となる。
ビームスプリッタ13bを経て物体光と参照光とは合波され、得られた像(ホログラム)をCMOSカメラ15にて記録する。CMOSセンサは、1024×1024ピクセル(1ピクセルの大きさである画素ピッチは5.5μm×5.5μm)のものを用いた。なお、記録の時間間隔は5.0秒ごととした。記録データは順次処理部20へ送出する。
【0025】
次に、試料Obについて説明する。
試料Obは、粉末入り塗料(混合塗料)であり、シャーレに塗布したものを用いる。
【0026】
塗料は、透過光の強度変化により、乾燥硬化の中途の屈折率等の評価を行うため、ここでは水溶性クリア塗料H30(GSIクレオス社)を用いている。原料は、主として、アクリル系合成樹脂、顔料、有機溶剤、水により構成される。
これに、CaF2粉末(粒径数μm~10μm:屈折率n=1.4338)を、1~5vol%添加して分散させて混合塗料とする。この混合塗料をシャーレに1mm厚に塗布する。
【0027】
シャーレは12×12mmの窓をあけた1mm厚アクリル板をガラス基板に接着してなり、さらに外形3.0mm×3.0mm、開口部2.0mm×1.5mmのマスクをアクリル板とは反対側のガラス基板に張り合わせて形成される。すなわち、シャーレは、開口部の塗料の乾燥硬化情報をとれる容器として構成されたものである(
図2)。
【0028】
評価原理について説明する。
混合塗料中の塗料部分の屈折率は乾燥硬化により徐々に変化する。そして、CaF2粉末の屈折率に一致する際に混合塗料の透過光強度が最も強くなることを利用すれば、塗料の乾燥硬化の中途の屈折率を知得することができる(イマルジョン法)。なお、塗料と粉末の屈折率をそれぞれnl、npとすると、混合塗料の光の透過率Trは、Tr=4nl・np/(nl+np)2で与えられる。
屈折率測定装置1では、透過率の推移(透過光強度の推移)を測定し、乾燥硬化途中の塗料の屈折率の経時的な変化を計測評価するものである。
【0029】
次に、処理部20について説明する。処理部20は、ハードウェアとしてはパーソナルコンピュータであり、CPU、RAM、HDD、ビデオカード、モニタ、NIC等を備え、OS、処理アプリケーションがインストールされたものである。なお、これらのハードウェアおよびHDDにインストールされたOSや処理アプリケーションの図示は省略する。
【0030】
処理部20は、機能的構成として、再生画像作成部21と、位相画像作成部22と、強度決定部23と、時間導出部24と、出力部25と、出力制御部26と、を有する。
【0031】
再生画像作成部21は、測定部10、特に、CMOSカメラ15からの各ピクセルの情報を逐次入力し、所定の処理をおこない再生像を作成する。具体的には、試料Obのマスク内側の長方形窓を通過した透過光(屈折光)について、CMOS上の各画素における透過光強度に基づき再生像を作成する。当然ながらこの画像は透過部分を反映した長方形画像である。ここでは、5秒毎の再生像を作成する。
再生画像作成部21は、処理アプリケーション、HDD、RAM等によりその機能を実現できる。
【0032】
位相画像作成部22は、同様に、CMOSカメラ15からの各ピクセルの情報を逐次入力し、所定の処理をおこない位相像を作成する。具体的には、再生像と同様に、長方形窓を通過した透過光(屈折光)について、CMOS上の各画素における位相に基づき位相像を作成する。当然ながらこの画像は透過部分を反映した長方形画像である。また、5秒毎の位相像を作成するので、10秒前(5秒の倍数であればよい)の位相との差に基づき位相差画像も作成する。
位相画像作成部22は、処理アプリケーション、HDD、RAM等によりその機能を実現できる。
【0033】
なお、再生像と位相像の構成方法については、本願発明者による特許文献1~3などに開示してあるのでその説明を省略する。
【0034】
強度決定部23は、再生画像作成部21により再生された再生画像に基づいて、その再生領域の透過光強度を決定する(各画像すなわち、5秒毎の強度を決定する)。塗料の質感等に大きく影響を与える屈折光(ここでは透過光)は、本来ピンポイントで評価されるべきものでなく、エリア評価(2次元的な大きさをもった面での評価)をおこなう必要があり、強度決定部23ではこれを反映して透過光強度を決定する(本実施の形態では平均値(各点の強度の合計/点の総数)にて強度を算出する)。
強度決定部23は、処理アプリケーション、CPU、RAM等によりその機能を実現することができる。
【0035】
時間導出部24は、強度決定部23により決定された透過光強度に基づき、透過光強度が最大になる時間を導出する。この時間の基点は、塗布開始時刻としてもよいし、測定開始時刻としてもよい。上述の様に、領域平均値とする場合、最大となった時間そのものとしてもよいし、最大値付近では時間間隔にも依存するが概ねフラットまたは上に凸の二次関数となるため、その中央の時刻を算出して充てるようにしてもよい。
時間導出部24は、処理アプリケーション、OS、RAMなどによりその機能を実現することができる。
【0036】
出力部25は、時間導出部24により導出された時間と、CaF2粉末の屈折率と、を組とし、HDDに記録し、また、必要に応じてモニタ描画のために出力する。
出力部25は、OS、HDD、モニタなどによりその機能を実現することができる。
【0037】
出力制御部26は、出力部25を制御して、時間導出部24により導出された時間に対する屈折率をモニタ上にプロットし、塗料の経時的な屈折率変化のグラフを出力(描画)する。
なお、以上の説明で示したCaF2では、1点しか描画できないので、適宜粒径を変化させ、また、不純物を含ませることにより屈折率を異ならせたCaF2粉末を用いることにより、または、別組成ないし別種の粉末を用いることにより、複数組のデータを取得しておき、これをプロットしてグラフ化するものとする。
【0038】
出力制御部26は、さらに、再生像と位相像と位相差画像と、を動画として出力する制御もおこなう。
図3は、モニタ上のグラフおよび動画の描画例を示した説明概念図である。図では、グラフ31に屈折率の経時変化を、グラフ32に再生像を、グラフ33に位相像を、グラフ34に位相差画像を描画している。
【0039】
また、グラフ31は、横軸を縦線31aがスライドするように描画され、経過時刻を認識しやすくしている。これと連動して、グラフ32~34では、当該時刻における画像を描画するようにしている。また各グラフ中には、経過時刻の表示もおこなうようにしている。
動画は、5秒毎の各画像を短時間に更新していくことにより再生される。たとえば、塗布から5秒毎に10000秒まで記録をとったとすると、各画像は2000枚となる。これを、1秒間に40枚再生すると50秒の動画となる。再生に際しては、適宜再生に適した画像形式に変換をおこなうものとする。なお、再生枚数または動画の長さは適宜変更可能とし、画面上にて縦線31aをつまんで左右にスライドさせるような対話的な操作とするようにしてもよい。
出力制御部26は、ビデオカード、モニタ、CPU、OS、処理アプリケーションによりその機能を実現することができる。
【0040】
<具体例>
次に、CaF
2を用いた水溶性クリア塗料H30の屈折率の測定の具体例について説明する。
図4は、混合塗料の屈折率の時間変化を示したグラフである。なお、図には、クリア塗料H30単体について、塗布からの屈折率の変化を、別途屈折計で測定した結果も示している。
混合塗料の屈折率は、塗布直後から次第に大きくなり、塗布から105分(6300秒)で最大値をとり、その後次第に小さくなっている。そして塗布から105分後のクリア塗料H30単体の屈折率は約1.43である。すなわち、予想通り、混合塗料の屈折率が最大になるところで塗料単体の屈折率がCaF
2の屈折率に一致することが確認できた。
以上から、評価対象である塗料(塗料単体)に対して、屈折率が既知である粉末を混ぜた混合塗料を塗布した試料についてデジタルホログラフィを用い、所定領域の再生像に基づき透過過光強度が最大となったときには、その塗料単体の屈折率が粉末の屈折率に一致するので、塗布からの経過時間と屈折率との関係、すなわち、乾燥硬化中途の塗料の屈折率が測定できたことになる。そして、粉末(すなわち屈折率)を種々変えることにより、塗布からの経過時間と、そのときの塗料(塗料単体)の屈折率との関係(グラフ)を得ることができる。点と点の間は適宜補完処理をおこない、時間-屈折率の変化曲線を得ることができる。
【0041】
以上説明したように、屈折率測定装置1によれば、2次元的に広がりのある領域に対して塗布された塗料の屈折率を、硬化乾燥途中を含めて計測することができ、屈折率の変化の様子と、乾燥硬化の様子(再生像、位相像、位相差画像)をリンクさせて把握することができ、接着剤を含み塗料の開発に資することができる。特に、塗膜の質感などは、ピンポイントでなく、広がりのある2次元面における屈折率分布が印象を左右するので、実際に即した測定ないし評価が可能となる。
【0042】
なお、有色透明塗料の評価も同様に可能であり、有色不透明の塗料であっても、塗膜を薄くするなどして透過光に基づき評価可能である。
また、透過光と強い相関のある反射光を用いて塗料の屈折率を評価することも可能である。この場合は、反射光の最小値を与える時間から、塗布からの経過時間-塗料の屈折率の最大値、を評価することができる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、位相像、位相差画像も得られるので、屈折率と塗りむらとの関係についての基礎情報ないし基礎技術をえることも可能となる。
【符号の説明】
【0044】
1 屈折率測定装置
10 測定部
11 レーザ出射部
12 レンズ-フィルタ部
13 ビームスプリッタ
14 ミラー
15 CMOSカメラ
16 両凸レンズ
20 処理部
21 再生画像作成部
22 位相画像作成部
23 強度決定部
24 時間導出部
25 出力部
26 出力制御部
31 屈折率の経時変化グラフ
31a 縦線
32 再生像
33 位相像
34 位相差画像
Ob 試料