(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023045532
(43)【公開日】2023-04-03
(54)【発明の名称】タングステン合金及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 27/04 20060101AFI20230327BHJP
C22F 1/18 20060101ALI20230327BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20230327BHJP
B22F 3/24 20060101ALI20230327BHJP
C22C 1/04 20230101ALI20230327BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20230327BHJP
【FI】
C22C27/04 101
C22F1/18 B
B22F1/00 E
B22F1/00 C
B22F1/00 P
B22F3/24 C
C22C1/04 D
C22F1/00 623
C22F1/00 628
C22F1/00 660A
C22F1/00 661Z
C22F1/00 681
C22F1/00 687
C22F1/00 691Z
C22F1/00 691B
C22F1/00 661B
C22F1/00 691C
C22F1/00 692A
C22F1/00 692B
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021154014
(22)【出願日】2021-09-22
(71)【出願人】
【識別番号】591160512
【氏名又は名称】金属技研株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】394002039
【氏名又は名称】株式会社サンリック
(71)【出願人】
【識別番号】504151365
【氏名又は名称】大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100078776
【弁理士】
【氏名又は名称】安形 雄三
(74)【代理人】
【識別番号】100121887
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 好章
(74)【代理人】
【識別番号】100200333
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 真二
(72)【発明者】
【氏名】尾ノ井 正裕
(72)【発明者】
【氏名】新倉 高一
(72)【発明者】
【氏名】鄭 憲採
(72)【発明者】
【氏名】松本 康裕
(72)【発明者】
【氏名】猪爪 正志
(72)【発明者】
【氏名】小島 純一
(72)【発明者】
【氏名】牧村 俊助
(72)【発明者】
【氏名】栗下 裕明
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018AA20
4K018AB02
4K018AC01
4K018BA09
4K018BA20
4K018BC01
4K018BC16
4K018DA32
4K018EA11
4K018EA21
4K018KA63
4K018KA70
(57)【要約】 (修正有)
【課題】高電気抵抗率を有するタングステン合金及びその製造方法を提供する。
【解決手段】タングステン並びに1若しくは2つ以上の異種金属元素を固溶させて成るタングステン合金であって、前記タングステン合金は、前記タングステンに対し、0.1~19重量%の前記異種金属元素を含む。前記異種金属元素は、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、ロジウム(Rh)、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)のいずれかから選択されることが望ましい。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タングステン並びに1若しくは2つ以上の異種金属元素を固溶させて成るタングステン合金であって、
前記タングステン合金は、前記タングステンに対し、0.1~19重量%の前記異種金属元素を含むことを特徴とするタングステン合金。
【請求項2】
前記タングステン合金は、前記タングステンに対する電気抵抗率が、室温で1.5~10倍、高温で1.1~3倍である請求項1に記載のタングステン合金。
【請求項3】
前記異種金属元素は、ルテニウム、オスミウム、イリジウム、ロジウム、ハフニウム、ジルコニウムのいずれかから選択される請求項1又は2に記載のタングステン合金。
【請求項4】
更に遷移金属炭化物を含み、前記遷移金属炭化物は、前記タングステンに対して0.25~5mol%以下である請求項1乃至3のいずれか1項に記載のタングステン合金。
【請求項5】
前記遷移金属炭化物は、第4周期、第5周期若しくは第6周期のいずれか且つ第3乃至第10族元素のいずれかの遷移元素の炭化物から選択される請求項4に記載のタングステン合金。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載のタングステン合金の製造方法であって、
タングステン及び異種金属元素を固溶させる第1固溶工程、
固溶させた前記タングステン及び前記異種金属元素を焼結させる焼結工程、並びに
前記焼結工程の最中若しくはその後に前記第1固溶工程とは別の第2固溶工程を具備し、
前記第1及び第2固溶工程では、10-8~100Paの真空条件下にて固溶させ、前記焼結工程では、10-8~10-5Paの真空条件下にて焼結させることを特徴とするタングステン合金の製造方法。
【請求項7】
前記第1固溶工程において、固溶温度が-20~100℃である請求項6に記載のタングステン合金の製造方法。
【請求項8】
前記焼結工程において、焼結温度が1200~1800℃である請求項6又は7に記載のタングステン合金の製造方法。
【請求項9】
前記第2固溶工程において、固溶温度が1500~3000℃である請求項6乃至8のいずれか1項に記載のタングステン合金の製造方法。
【請求項10】
前記異種金属元素は、1又は2つの元素である請求項6乃至9のいずれか1項に記載のタングステン合金の製造方法。
【請求項11】
前記異種金属元素は、ルテニウム、オスミウム、イリジウム、ロジウム、ハフニウム、ジルコニウムのいずれかから選択される請求項10に記載のタングステン合金の製造方法。
【請求項12】
更に遷移金属炭化物を含み、前記遷移金属炭化物は、前記タングステンに対して0.25~5mol%以下である請求項6乃至11のいずれか1項に記載タングステン合金の製造方法。
【請求項13】
前記遷移金属炭化物は、第4周期、第5周期若しくは第6周期のいずれか且つ第3乃至第10族元素のいずれかの遷移元素の炭化物から選択される請求項12に記載のタングステン合金の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高電気抵抗率を有するタングステン合金及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造のための蒸着源としてジュール加熱による真空中での高温ヒータやボートの開発が求められている。現在は黒鉛ヒータ、タンタルヒータ、モリブデンヒータが主流である。黒鉛ヒータは高温まで使用可能であるが、清浄性の問題や耐酸化性能に課題がある。タンタルヒータは高温で活性なため雰囲気によって脆化するという課題(環境脆化)がある。モリブデンヒータは上記二種に比較して使用最高温度の上限が低く、電気抵抗も低いという課題がある。
【0003】
更に近年では、上記三種のヒータに係る懸念材料である清浄性の問題や耐酸化性能、高温で使用することによる環境脆化をクリアしたヒータとして、タングステンヒータが用いられることがある。タングステンヒータは、高温で使用可能であることもさることながら、蒸気圧も低く清浄な環境を実現できるという利点がある。しかしながら、純タングステンヒータの場合、電気抵抗が小さいため、多くの電力を消費してしまうことが課題であった。
【0004】
上述のように、タングステンヒータは、半導体製造のための蒸着源及び薄膜作成の際に用いられることがある。そのようなタングステンヒータの例として、実開昭61-23197号公報(特許文献1)に開示されている。特許文献1に記載のタングステンヒータは、タングステンワイヤをコイル状に巻回し、更にその上からタングステンワイヤを逆向きに巻回し、その上からアルミナをコーティングしたものである。しかしながら、特許文献1に記載のタングステンヒータは、元々磁性体の金属薄膜を作製する際の磁界発生を抑え、金属片の飛び出しを防止して確実に金属薄膜を作成するのが目的であり、電気抵抗に関しては不明であること、また、電気抵抗だけでなく、清浄性の問題や耐酸化性能、高温(例えば1500℃以上)での蒸着作業における脆化などが改善できているかが不明である。
【0005】
以上のことを鑑みた場合、高抵抗なタングステンヒータの開発が期待されている。高抵抗なタングステンヒータとなると、合金化したタングステン、即ちタングステン合金を用いることが考えられる。
【0006】
ここで、高抵抗なタングステン合金を実現するために、タングステン母相中に異種金属を固溶させ、(伝導電子の有効な散乱体として知られる)大きな格子ひずみを引き起こすことが主要な手法として考えられるが、大きな格子ひずみを持つ異種金属は(系全体の自由エネルギーを高めるため)固溶しにくいので、そのような異種金属を見つけるのは容易ではない。また、室温では格子ひずみが(残留抵抗として)電気抵抗に大きく寄与するが、高温では(格子ひずみによる伝導電子の散乱よりも)格子振動(フォノン)による伝導電子の散乱が支配的となるため、固溶元素を加えても、(使用を想定している)高温での電気抵抗にはほとんど寄与しないという考え方が支配的であった。また、タングステン自体も他の金属と固溶しにくいという点がある。
【0007】
一般的にもともと脆性材料であるタングステンの機械特性を向上させるためにレニウム(非特許文献1参照)やルテニウム(非特許文献2参照)などの元素を固溶させる場合がある。しかし、非特許文献1に記載の技術では、このような固溶しやすい元素は格子定数を大きく変えないので電気抵抗は向上させることは難しい。また、レニウムは添加量を多くしないと、抵抗値が大きくならず、材料費も高価なので製造コストが高くなることが懸念される。また、非特許文献2に記載の技術は、主にタングステンの延性を検討する目的でルテニウムを固溶させるものであり、0.5wt%(重量%)RuまでのW-Ru合金製造が試みられたが、0.1wt%Ruを超える合金は製造中に破断し得られていない。ただし、0.1wt%までの微量Ru固溶による電気抵抗向上が示されているが、室温での電気抵抗上昇は純タングステンの1.35倍程度にとどまっている。また、ヒータに必要な高温での電気抵抗については不明である。
【0008】
一方で、中性子との核反応によりタングステン中に生成されるレニウムとオスミウムの効果を調べる目的で、タングステンに異種金属を固溶させる例として、レニウムとオスミウムを添加することにより、室温での電気抵抗を測定した例が非特許文献3に開示されている。そのような中、レニウムに比べてオスミウムは非常に電気抵抗を向上させると言えるが、有害性の高い酸化オスミウムを生成するために開発研究の難易度も高く継続的な調査もされておらず、重要な高温での電気抵抗に関しても計測されていない。
【0009】
このようにして、タングステン合金を含むタングステン材料については、先に述べたように高温で使用可能であるという利点があるものの、電気抵抗が小さいこと、また固溶により電気抵抗を大きく向上させることの可能な異種金属が少ないこと、更にまた低温脆化や再結晶脆化(高温下で再結晶することによる脆化)、又は、放射線(例えば中性子線等)などによる照射脆化といったことが懸念材料であった。このような脆化を改善した技術として、例えば国際特許公開第2013/018714号(特許文献2)にIII~VI族遷移元素の炭化物をタングステンの(アキレス腱である)粒界に固溶偏析・微細析出させた合金が開示されている。
【0010】
特許文献2に記載の技術は、遷移金属炭化物とタングステンの混合粉末を、メカニカルアロイング(MA)法及び熱間等方加圧(HIP)法により処理するとともに、さらに粒界すべりに基づく組織制御(GSMM:Grain boundary Sliding based Microstructural Modification)法を適用することにより、高強度及び高靭性を有し、且つ脆化が改善された合金及びその製造方法である。
【0011】
しかしながら、特許文献2に記載の技術は、元々脆化を改善する目的で種々最適化を検討したものであり、タングステン合金が高温ヒータに所望の電気抵抗を有するかどうかは不明である。また、当該合金製造におけるMA工程の際、純水素の他、不活性ガスとしてアルゴン等の希ガスを用いるが、不活性ガスが(ナノサイズのガスバブルとして微細分散し)不純物になってしまうといった不安材料がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】実開昭61-23197号公報
【特許文献2】国際特許公開第2013/018714号
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】依田連平他,「W-Re系合金の諸性質について」,日本金属学会誌,第34巻,第11号,1092-1097頁(1970).
【非特許文献2】渡辺潔,「タングステン線の延性に与えるルテニウムの効果」,日立評論,VOL.53,N0.11,1971,p1058-1062.
【非特許文献3】Jian-Chao He et al., “Fabrication and Characterization of W-Re-Os Alloys for Studying Transmutation Effects of W in Fusion Reactors”, Materials Transactions, Vol. 45, No. 8 (2004) pp. 2657 to 2660.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
以上の事情を鑑み、本発明は、高電気抵抗率を有するタングステン合金及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
タングステン並びに1若しくは2つ以上の異種金属元素を固溶させて成るタングステン合金であって、前記タングステン合金は、前記タングステンに対し、0.1~19重量%の前記異種金属元素を含むことを特徴とすることにより効果的に達成される。
【0016】
更に本発明に係るタングステン合金の上記目的は、前記タングステン合金は、前記タングステンに対する電気抵抗率が、室温で1.5~10倍、高温で1.1~3倍であることにより、或いは前記異種金属元素は、ルテニウム、オスミウム、イリジウム、ロジウム、ハフニウム、ジルコニウムのいずれかから選択されることにより、或いは更に遷移金属炭化物を含み、前記遷移金属炭化物は、前記タングステンに対して0.25~5mol%以下であることにより、或いは前記遷移金属炭化物は、第4周期、第5周期若しくは第6周期のいずれか且つ第3乃至第10族元素のいずれかの遷移元素の炭化物から選択されることにより、より効果的に達成される。
【0017】
本発明に係るタングステン合金の製造方法の上記目的は、タングステン及び異種金属元素を固溶させる第1固溶工程、固溶させた前記タングステン及び前記異種金属元素を焼結させる焼結工程、並びに前記焼結工程の最中若しくはその後に前記第1固溶工程とは別の第2固溶工程を具備し、前記第1及び第2固溶工程では、10-8~100Paの真空条件下にて固溶させ、前記焼結工程では、10-8~10-5Paの真空条件下にて焼結させることを特徴とすることにより効果的に達成される。
【0018】
更に本発明に係るタングステン合金の製造方法の上記目的は、前記第1固溶工程において、固溶温度が-20~100℃であることにより、或いは前記焼結工程において、焼結温度が1200~1800℃であることにより、或いは前記第2固溶工程において、固溶温度が1500~3000℃であることにより、或いは前記異種金属元素は、1又は2つの元素であることにより、或いは前記異種金属元素は、ルテニウム、オスミウム、イリジウム、ロジウム、ハフニウム、ジルコニウムのいずれかから選択されることにより、或いは更に遷移金属炭化物を含み、前記遷移金属炭化物は、前記タングステンに対して0.25~5mol%以下であることにより、或いは前記遷移金属炭化物は、第4周期、第5周期若しくは第6周期のいずれか且つ第3乃至第10族元素のいずれかの遷移元素の炭化物から選択されることにより、より効果的に達成される。
【発明の効果】
【0019】
本発明においては、大きな格子ひずみを与える少量の遷移元素(例えばルテニウムなど)をタングステンに対して添加、固溶させることにより、また、当該合金内に高密度の格子欠陥を熱的に安定な状態で設けることにより、高抵抗なタングステン合金ができた。
【0020】
また、本発明に係るタングステン合金の製造方法によれば、あらゆる脆化に強いタングステン合金の製造が可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】実施例1において電気抵抗値を測定したスリット付き円板を示す概略図である。
【
図2】実施例1にて測定した室温での電気抵抗値の変化を示すグラフである。
【
図3】実施例2にて測定した高温(1800℃)での電気抵抗値の変化を示すグラフである。
【
図4】実施例3にて測定した室温での電気抵抗率の比較を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら説明する。
【0023】
先ず、本発明に係るタングステン合金は、基本的にタングステンに対し、0.1~19重量%の異種金属元素を含み、且つ前記タングステンに対する電気抵抗率が、室温(10~30℃)で1.5~10倍、高温(1200~2000℃)で1.1~3倍である。
【0024】
ここで言う異種金属元素とは、周期表の第4周期及び第5周期の遷移元素であって、尚且つこれらの周期の第3乃至第10族元素、並びに周期表の第6周期の遷移元素であって、尚且つ第6周期の第3乃至5、第7乃至10族元素を指す(即ち、タングステンを除く)。即ち、第4周期ならば原子番号21のスカンジウムから原子番号28のニッケルまで、第5周期ならば、原子番号39のスカンジウムから原子番号46のパラジウムまで、そして第6周期なら、ランタノイド、原子番号72のハフニウムから原子番号78の白金までの金属を使用可能である(ちなみに、タングステンは原子番号74である。)。
【0025】
異種金属元素については、上記の元素から選択可能であるが、タングステンの電気抵抗の制御(高抵抗化)や種々の脆性の改善を考慮するならば、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、イリジウム(Ir)、ロジウム(Rh)、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)といった、第5若しくは第6周期の第4、5、7、8、9族元素が望ましい。更には、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、ロジウム(Rh)、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)が望ましい。その理由としては、これらの異種金属元素は、原子半径や電気陰性度がタングステンと大きく異なり、タングステンに固溶すると大きな格子ひずみを与えると考えられること、(平衡状態図が得られているため)固溶及び焼結させることが比較的容易であること、また、タングステンと合金を成すとき、例えばMA(メカニカルアロイング)等の固溶方法を用いることによって、高密度の格子欠陥ができ、その格子欠陥(特に粒界)において、過飽和に固溶した異種元素の一部が析出し、析出物のピン止め効果により熱的に安定な状態に置かれる結果、異種元素固溶による主たる電気抵抗上昇にさらにプラスする形で高い(所望の)電気抵抗やその抵抗値の制御、或いは種々の脆性の改善に影響を与えると思われる。
【0026】
なお、異種金属元素であるが、W-A(Aは上述の異種金属元素)といった二元系タングステン‐異種金属元素の合金ならば、タングステンに対して、0.1~19重量%が望ましい。0.1重量%未満であると、抵抗値(電気抵抗値)が純タングステンとほぼ変わらない。19重量%より多いと、最大固溶限度以上となり、却って抵抗値がまた純タングステンと変わらなかったり、他の脆化(低温脆化、再結晶脆化)を促進してしまったりする可能性がある。ちなみに、タングステンに対する(平衡状態図の)最大固溶限度は、例えばオスミウムならば19重量%、ルテニウムならば14重量%、イリジウムならば10.3重量%、ロジウムならば7重量%、ジルコニウムならば1.8重量%、ハフニウムならば9重量%である。
【0027】
上記二元系タングステン‐異種金属元素の合金、即ち二元系タングステン合金に関しては、純タングステンに比べて、先に述べたように、電気抵抗率が、室温(10~30℃)で1.5~10倍、高温(1200~2000℃)で1.1~3倍である。
【0028】
また、異種金属元素に関しては、W-A-A’(A、A’は上述の異種金属元素であり、A≠A’である。)といった三元系タングステン‐異種金属元素の合金ならば、二元系タングステン‐異種金属元素の合金同様に、タングステンに対して、A及びA’共に、0.1~19重量%が望ましい。0.1重量%未満であると、抵抗値が純タングステンとほぼ変わらない。19重量%より多いと、最大固溶限度以上となり、却って抵抗値がまた純タングステンと変わらなかったり、他の脆化(再結晶脆化等)を促進してしまったりする可能性がある。
【0029】
更に、異種金属元素に関しては、四元系タングステン‐異種金属元素の合金とすることも可能である。
【0030】
また、本発明に係るタングステン合金は、W-A-B(Aは、上述の異種金属元素であり、Bは、遷移金属炭化物である。)といった三元系タングステン合金であればAは、タングステンに対して、0.25~5mol%以下が望ましい。0.25mol%よりも少ないと、粒界強化に必要な遷移金属炭化物の粒界での固溶偏析・微細析出が得られない。5mol%を超えると、遷移金属の炭化物の粗大化が見られるようになり、必要な微細分散が得られない。ここで、Bは、遷移金属炭化物であると記したが、本発明に係るタングステン合金に含まれる遷移金属炭化物について説明する。
【0031】
W-A-Bの三元系タングステン合金における遷移金属炭化物については、第4周期、第5周期若しくは第6期のいずれか且つ第3乃至第10族元素のいずれかの遷移元素の炭化物から選択される。このような炭化物から選択される理由としては、融点が極めて高いため高温でも熱的に安定に存在する結果固溶(例えばメカニカルアロイング(以下、「MA」とする。)等による)で導入された高密度の格子欠陥(特に粒界)が炭化物によってピン止めされ、高温においても格子欠陥の消滅が抑制されること、また、粒界や粒内に析出した遷移金属炭化物はタングステン母相と原子のマッチングの良いKurdjumov-Sach.の方位関係(K-S関係)を満足し、とくに(本来弱く割れやすい)粒界への遷移金属炭化物の固溶偏析・析出は粒界を著しく強化する働きをもつこと等により、所望の電気抵抗値を得る他、再結晶脆化等を改善するためである。
【0032】
以上、本発明に係るタングステン合金について述べた。次に、本発明に係るタングステン合金の製造方法について、主に二元系タングステン合金を例に説明する。
【0033】
先ず、タングステンに異種金属元素を固溶させる。異種金属元素については、先に述べたように、周期表の第4周期及び第5周期の遷移元素であって、尚且つこれらの周期の第3乃至第10族元素、並びに周期表の第6周期の遷移元素であって、尚且つ第6周期の第3乃至5、第7乃至10族元素を指す(即ち、タングステンを除く)。即ち、第4周期ならば原子番号21のスカンジウムから原子番号28のニッケルまで、第5周期ならば、原子番号39のスカンジウムから原子番号46のパラジウムまで、そして第6周期なら、ランタノイド、原子番号72のハフニウムから原子番号78の白金までの金属を採用可能である(ちなみに、タングステンは原子番号74である。)。
【0034】
異種金属元素については、上記の元素から選択可能であるが、タングステンの電気抵抗の制御(高抵抗化)や種々の脆性の改善を考慮するならば、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、イリジウム(Ir)、ロジウム(Rh)、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)といった、第5若しくは第6周期の第4、5、7、8、9族元素が望ましい。更には、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、ロジウム(Rh)、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)が望ましい。その理由としては、これらの異種金属元素は(原子半径や電気陰性度がタングステンと大きく異なることから)タングステンに固溶すると大きな格子ひずみを生ずると考えられること、(すでに平衡状態図が得られているため)固溶、析出、及び焼結させることが比較的容易であること、また、タングステンと合金を成すとき、例えばメカニカルアロイングを用いた場合、高密度の格子欠陥ができると思われる。
【0035】
なお、異種金属元素であるが、W-A(Aは上述の異種金属元素)といった二元系タングステン‐異種金属元素の合金ならば、タングステンに対して、Aは、0.1~19重量%が望ましい。0.1重量%未満であると、抵抗値が純タングステンとほぼ変わらない。19重量%より多いと、最大固溶限度以上となり、却って抵抗値がまた純タングステンと変わらなかったり、他の脆化(再結晶脆化等)を促進してしまったりする可能性がある。タングステンに対して、0.1~19重量%が望ましい。0.2重量%未満であると、抵抗値が純タングステンとほぼ変わらず、合金を加熱した際に格子欠陥が消滅してしまうことがある。2.0重量%より多いと、格子欠陥が思うようにできなくなり、却って抵抗値がまた純タングステンと変わらなかったり、他の脆化(再結晶脆化等)を促進してしまったりする可能性がある。
【0036】
また、この固溶工程において、W-A-A’(A、A’は上述の異種金属元素であり、A≠A’である。)といった三元系タングステン‐異種金属元素の合金ならば、二元系タングステン‐異種金属元素の合金同様に、タングステンに対して、A及びA’共に、0.1~19重量%が望ましい。0.1重量%未満であると、抵抗値が純タングステンとほぼ変わらない。19重量%より多いと、最大固溶限度以上となり、却って抵抗値がまた純タングステンと変わらなかったり、他の脆化(再結晶脆化等)を促進してしまったりする可能性がある。
【0037】
また、更に四元系以上のタングステン‐異種金属元素の合金とすることも可能である。
【0038】
ここで、タングステン‐異種金属元素の固溶工程においては、メカニカルアロイングの他、熱処理炉での溶体化処理などが含まれる。
【0039】
また、本発明に係るタングステン合金は、W-A-B(Aは、上述の異種金属元素であり、Bは、遷移金属炭化物である。)といった三元系タングステン合金であればAは、タングステンに対して、5mol%以下が望ましい。5mol%を超えると、遷移金属の炭化物あるいは酸化物の粗大化が見られるようになり、必要な微細分散が得られない。ここで、Bは、遷移金属炭化物であると記したが、本発明に係るタングステン合金に含まれる遷移金属炭化物について説明する。
【0040】
W-A-Bの三元系タングステン合金における遷移金属炭化物については、第4周期、第5周期若しくは第6周期のいずれか且つ第3乃至第10族元素のいずれかの遷移元素の炭化物から選択される。このような炭化物から選択される理由としては、融点が高いため高温でも熱的に安定に存在する結果、MAで導入された高密度の格子欠陥(特に粒界)が炭化物によってピン止めされ、高温においても格子欠陥の消滅が抑制されること、また、粒界や粒内に析出した遷移金属炭化物はタングステン母相と原子のマッチングの良いK-Sの方位関係を満足し、とくに(本来弱く割れやすい)粒界への遷移金属炭化物の固溶偏析・析出は粒界を著しく強化する働きをもつこと等により、所望の電気抵抗値を得る他、再結晶脆化や放射線による照射脆化等を改善するためである。
【0041】
そして、タングステンに異種金属元素や遷移金属炭化物を固溶させる方法について説明する。ここで、遷移金属炭化物を固溶させる理由は、異種金属元素の固溶とは異なり、いずれも固溶させた後に粒界あるいは粒内に微細に析出させて微細析出物として利用するためである。それ故、焼結の前の段階(第1固溶工程とする。)で固溶させることが求められる。したがって、固溶のためにアーク溶解等既知の方法とは異なる方法を採ることが必要である。タングステンに例えば、遷移元素炭化物等を固溶させるためには、メカニカルアロイニング(MA)法が望ましい。メカニカルアロイング法とは、一般的に不活性ガス及び/又は真空雰囲気中で、例えばボールミルにおけるボールの衝突エネルギーを利用して、粉末同士の折りたたみと圧延という強度の塑性変形を繰り返し起こさせることにより、合金化と結晶粒の超微細粒化(高密度の格子欠陥(特に結晶粒界)の導入)を行う方法である。しかしながら、本発明においては、脆化を促進する不純物の酸素や窒素を含まない真空条件下が好ましい。但し、真空下でのMAでは、MAにより発生する熱が容器内部に蓄積される結果、多数のボールや容器内壁への粉末の凝着が著しく、メカニカルアロイングされた(貴重な)粉末の回収が困難になるため、MA実施中は絶えず冷風(0℃以下)を送り、容器内部を強制冷却する。不活性ガスを用いると、不活性ガス自体が不純物となって、合金自体の電気抵抗値の制御がうまくできなかったり、他の脆化改善の妨げになる可能性が出たりする。
【0042】
一方、異種金属元素に対しては、その固溶に必要な相互拡散の進行に十分な時間の加熱を行えば、平衡状態図に示される量の異種元素が固溶するため、焼結後の加熱による固溶、或いは焼結時の固溶が有効である。また、異種金属元素の原子半径や電気陰性度がタングステンと大きく異なる場合には、異種金属元素の(平衡状態図に示される)固溶限度は限られるため、焼結後や焼結時の加熱による固溶方法では限られた固溶度しか得られない。その場合でも、MAを用いると固溶限以上の固溶度を実現することが可能である(強制固溶)。
【0043】
ここで、このタングステン並びに異種金属元素、遷移金属炭化物を固溶させる固溶工程(第1固溶工程)において、まず、焼結前の固溶工程における固溶温度は、-20~100℃が好ましい。-20℃未満であればMAに使用する容器やボールが破損する恐れがあり(低温脆化)、100℃より大きいと、MAされた粉末の凝結が顕著になる。また、固溶させる際は10-8~100Paの真空条件下、あるいは純水素雰囲気(~大気圧=1.013×105Pa)、あるいは不活性ガス雰囲気(~大気圧)、あるいは水素と不活性ガスの混合ガス雰囲気(~大気圧)が好ましい。10-8Pa未満であると、そのような超真空の維持は困難であり、100Paより超えると粉末の酸化が無視できない。次に、焼結中あるいは焼結後の固溶工程(第2固溶工程とする)における固溶温度は、1500℃~(平衡状態図で)最大固溶限度を示す温度(約3000℃)が望ましい。1500℃未満であると、固溶度が不十分であり、最大固溶限を示す温度、即ち3000℃を超えると、温度をさらに上昇しても固溶度は増加しない。ちなみに「(平衡状態図で)最大固溶限度を示す温度」とは、本願の場合、タングステン並びに異種金属元素を最大量固溶させるときの固溶限度を示す温度であり、例えばオスミウムならば2945℃、ルテニウムならば2300℃、イリジウムならば2545℃、ロジウムならば2240℃、ジルコニウムならば2210℃、ハフニウムならば2512℃である。
【0044】
次に、異種金属元素、遷移金属炭化物を固溶させたタングステン合金を焼結させる。焼結方法については、単に焼結することを観点とするならば、常圧焼結法や先に述べた熱間等方加圧(HIP)法を用いればよいが、これらの方法では、相対密度97%以上の高密度焼結体を得るには長時間の加熱を必要とし、加熱後の冷却に要する時間も長い(徐冷)。特に、焼結と固溶を同時に実施する場合には、固溶した異種金属元素の冷却中の析出を抑制するために速い冷却速度が必要になるので、これらの冷却速度の遅い方法では異種金属元素の十分な固溶度が得られない可能性が高い。また、MAで強制固溶された異種金属元素を含む合金粉末の焼結については、通常の焼結方法では高密度化のために、2000℃程度の高温、および長時間の加熱が必要になるため、そのような加熱の間に、強制固溶された異種金属元素は(平衡状態図を満足するように)析出を開始する。あるいは、焼結後の冷却速度が遅いので、冷却中の析出も起こると考えられる。それに対し、例えばプラズマ焼結装置を用いた放電プラズマ焼結法(パルス通電法、パルス通電加圧焼結法、プラズマ活性化焼結法、通電加熱焼結法等)ならば、かなり低い加熱温度(1500~1800℃)、短時間(10分程度)での(高密度焼結体を得るための)焼結が可能であり、冷却する時間も析出を抑制可能な急冷から広範囲の冷却時間での冷却が可能である。これらのため、放電プラズマ焼結法では、焼結と固溶を同時に行うことも可能であり、また、MAで強制固溶された異種金属元素の合金粉末に対しても、(析出が起こる前に)その高い固溶度をほぼ維持した状態で高密度焼結体を得ることが可能である。
【0045】
ちなみに、焼結する焼結工程における、焼結温度は1200~1800℃が好ましい。1200℃未満であれば焼結が不十分であり、1800℃より大きいと、組織の粗大化が起こり、脆化の改善に必要な微細結晶粒や微細析出(ナノ組織)が得られない。また冷却時間は、1800℃から600℃まで1分~60分間が好ましい。1分未満であれば、本製造方法では実現困難であり、60分より大きいと非効率的である。また、焼結させる際は、10-8~10-4Paの真空条件下が好ましい。10-8Pa未満であると、そのような超真空の維持が困難であり、10-4Paより超えるとタングステン合金の酸化が問題になる可能性がある。
【0046】
以上、本発明の実施形態を述べたが、この実施形態に限定されるものではなく、本願の明細書、特許請求の範囲及び/又は図面に記載の事項の範囲内で、様々な態様を採ることは言うまでもない。
【実施例0047】
以上に述べた実施形態に係る実施例を説明する。なお、本実施例はあくまで一例であり、また、次に述べるものに限定されるものではなく、本願の明細書、特許請求の範囲及び/又は図に記載の事項の範囲内で、様々な態様を採ることは言うまでもない。
【0048】
[製造例]タングステン合金の製造
先ず、タングステン並びにタングステンに対して1.0重量%(以下、wt%と記すことがある)のルテニウムを同一容器内でメカニカルアロイング(MA)法により固溶させた。その時、固溶処理の開始温度は、-5℃程度で、10-5Paの真空雰囲気下で固溶させた。
【0049】
次に1重量(wt)%のルテニウムを固溶させたタングステン合金(以下「W-1.0wt%Ru合金」とする。)を、プラズマ焼結装置を用いた放電プラズマ焼結法にて、焼結させた。ちなみに製造時の焼結温度は1600~1700℃であった。その後W-1.0wt%Ru合金を得た。また、この状態では、XRDによる格子定数精密測定の結果、一部のルテニウムしか固溶していないことが判明したので、固溶促進のために、1800℃で1時間、真空加熱した。加熱時の真空度は8×10-5Pa、加熱後の冷却速度は、1300度まで3分間(冷却速度:~2.8℃/sec)であった。
【0050】
[実施例1]室温におけるタングステン合金の電気抵抗値測定
上記製造例で製造したW-1.0wt%Ru合金の他、上記製造例に倣ってタングステンに対して、0.2重量%、0.5重量%及び2.0重量%のルテニウムを含有したタングステン合金を製造した。以下、これらの合金を「W-0.2wt%Ru合金」、「W-0.5wt%Ru合金」及び「W-2.0w%Ru合金」とする。但し、焼結後の固溶熱処理(1800℃x1hの真空加熱)は、Ru濃度の高いW-2wt%Ru合金に対してのみ行った。また、比較して、純タングステン、即ち0wt%ルテニウムのタングステンを用いた。
【0051】
次に純タングステン並びに得られた各タングステン合金に関して、
図1に示すようなスリット付き円板1を作製し、四端子法で電気抵抗値を室温で測定した。純タングステン並びに得られた各タングステン合金に係るスリット付き円板1は、直径(
図1中のφ)が13mm、厚みが0.5mmの円板に、幅d
1が1mm、高さh
1が9.5mmの1つのスリット2と、幅d
2が0.5mm、距離D
3が8mmとなるような2つのスリット3が設けられている。スリット2については、円板の中心Oを幅d
1の中点となるように設けられている。スリット3については、各スリット3間の間隔D
2がが6mmであり、且つスリット円板1の円弧から内側に3mmの距離D
1を以って設けられている。なお、電気抵抗値は、日置電機社製の抵抗計を用いた。ちなみに、この実施例では室温は20℃であったが、大体10~35℃くらいを室温とする。
【0052】
次に、室温での電気抵抗値測定の後、各スリット付き円板1について室温から1800℃まで真空雰囲気下で、一定昇温速度で加熱し、昇温時と降温時の1000~1800℃における電気抵抗値を測定した後に、更に前記各スリット付き円板1について電気抵抗値を室温で測定した。
【0053】
1800℃まで加熱前後の室温における抵抗値を表1及び
図2として下記に記す。
【0054】
【0055】
純タングステン並びにW-0.2wt%Ru合金、W-0.5wt%Ru合金を比較してみると、ルテニウムの添加量を多くすると、温での電気抵抗値が増加した。そして、1800℃に加熱後は、純タングステン並びにW-0.2wt%Ru合金、W-0.5wt%Ru合金の電気抵抗値は、加熱前の室温での電気抵抗値に比べると下がった。これは、室温での電気抵抗値を測定した時には、合金の中には格子欠陥があったが、1800℃に加熱した場合は、かなりの格子欠陥が消滅してしまったために抵抗値が下がったものと思われる。
【0056】
一方、Ru濃度の比較的高いW-1.0wt%Ru合金及びW-2.0wt%Ru合金の場合は、加熱前の段階で、Ru固溶促進のための真空熱処理(1800℃x1h)を行っているため、加熱前後で抵抗値は変わらなかった。このことは、室温での電気抵抗測定の前にRu固溶促進のための熱処理を行っていたため、電気抵抗測定時の格子欠陥の消滅はない、即ち無視で来たために抵抗値がほぼ変わらなかったものと思われる。
【0057】
以上のことから、固溶が可能であり、且つ加熱した際に格子欠陥が消滅しない方が所望の電気抵抗値を得る合金であることが示唆される結果となった。
【0058】
[実施例2]高温(1800℃)におけるタングステン合金の電気抵抗値測定
次に実施例2として、1800℃の高温ヒータを想定して、1800℃まで加熱している最中の1000~1800℃における電気抵抗値を、実施例1同様に純タングステン並びに各タングステン合金(「W-0.2wt%Ru合金」、「W-0.5wt%Ru合金」、「W-1.5wt%Ru合金」及びW-2.0wt%Ru合金」)について測定した。なお、各タングステン合金については、実施例1同様にスリット付き円板1を作製し、二端子法で電気抵抗値を測定した。但し、W-2.0wt%Ru合金については、昇温中にスリット部に割れが生じたため、高温の電気抵抗値は測定できなかった。
【0059】
その1800℃における測定結果を表2及び
図3として下記に記す。
【0060】
【0061】
ルテニウム添加による電気抵抗の顕著な上昇は、室温では、ルテニウム固溶に伴う大きな格子ひずみによって伝導電子が散乱されることに起因し、高温では、その大きな格子ひずみによる格子振動の変化によってフォノンによる伝導電子の散乱が増加することに起因すると考えられる。固溶に伴う大きな格子ひずみは、ルテニウムのように、タングステンと結晶構造が異なり、タングステンとの原子半径の差と電気陰性度の差が大きく、固溶限が小さい場合に生じるので、同じような要因を持つロジウム、ハフニウム、オスミウム、イリジウム、ジルコニウム等の元素でも起こる。
【0062】
[実施例3]室温での電気抵抗率測定
上記実施例1及び2では電気抵抗値を測定したが、実施例3では、純タングステン並びに各タングステン合金(「W-0.2wt%Ru合金」、「W-0.5wt%Ru合金」、「W-1.5wt%Ru合金」及びW-2.0wt%Ru合金」)について測定した。ここで、測定試料については、純タングステン並びに各タングステン合金共に、直径13mm、厚み5mmの円板(図示せず。そして
図1に示すようなスリットは施していない。)を作成し、日置電機社製の抵抗計を用いて、四探針法で各測定試料の電気抵抗率を測定した。各測定試料における電気抵抗率測定を表3及び
図4として記す。
【0063】
【0064】
当初、Ru固溶に伴う室温での電気抵抗の増加量が、ほぼそのまま高温での電気抵抗の増加量として現れると予想したが、表3の実験結果では、高温での電気抵抗の増加量は室温での増加量よりもかなり高く、特にRu濃度の最も高いW-1.0wt%Ru合金では、2倍以上も増加している。この結果は、Ru固溶に伴う格子振動の変化によって、高温における伝導電子の格子散乱(フォノンによる散乱)の効果がRu固溶により増大していることを示しており、固溶による格子ひずみの大きい異種元素ほど、高温での電気抵抗を向上させる効果を持つと考えられる。学術的にも工学的にも重要な結果である。