IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大阪瓦斯株式会社の特許一覧

特開2023-45570二酸化炭素回収装置及び二酸化炭素回収方法
<>
  • 特開-二酸化炭素回収装置及び二酸化炭素回収方法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023045570
(43)【公開日】2023-04-03
(54)【発明の名称】二酸化炭素回収装置及び二酸化炭素回収方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/04 20060101AFI20230327BHJP
   B01D 53/06 20060101ALI20230327BHJP
   B01D 53/14 20060101ALI20230327BHJP
【FI】
B01D53/04 230
B01D53/06 100
B01D53/14 210
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021154074
(22)【出願日】2021-09-22
(71)【出願人】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】大塚 浩文
(72)【発明者】
【氏名】大倉 良一
【テーマコード(参考)】
4D012
4D020
【Fターム(参考)】
4D012BA01
4D012BA03
4D012BA10
4D012CA03
4D012CC04
4D012CD03
4D012CE03
4D012CF04
4D012CF05
4D012CG01
4D012CH04
4D012CH05
4D012CH10
4D012CK03
4D012CK05
4D012CK10
4D020AA03
4D020BA16
4D020BA19
4D020BB03
4D020BC01
4D020CB08
4D020CC10
4D020CD03
4D020DA03
4D020DB03
4D020DB06
(57)【要約】
【課題】経済的に有利な方法で、大気に含まれる低濃度の二酸化炭素を回収して、高純度の二酸化炭素を得ることができる二酸化炭素回収装置を提供する。
【解決手段】二酸化炭素を可逆的に吸脱着可能な吸着材を含有し、二酸化炭素を含有する空気が供給される吸着ローター1と、吸着ローター1に60℃以上120℃以下の再生用ガスを供給する再生用ガス供給部2と、吸着ローター1を通過した再生用ガスからアミン吸収法によって二酸化炭素を分離して回収する二酸化炭素回収部3と、を備えるとともに、二酸化炭素回収部3で二酸化炭素が分離された再生用ガスが再生用ガス供給部2に送入されて循環利用されるように構成され、再生用ガスの循環経路内に、再生用ガスに含まれる酸素の濃度を低減するための酸素除去部4を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素を可逆的に吸脱着可能な吸着材を含有し、二酸化炭素を含有する空気が供給される吸着ローターと、
前記吸着ローターに60℃以上120℃以下の再生用ガスを供給する再生用ガス供給部と、
前記吸着ローターを通過した前記再生用ガスからアミン吸収法によって二酸化炭素を分離して回収する二酸化炭素回収部と、を備えるとともに、
前記二酸化炭素回収部で二酸化炭素が分離された前記再生用ガスが前記再生用ガス供給部に送入されて循環利用されるように構成され、
前記再生用ガスの循環経路内に、前記再生用ガスに含まれる酸素の濃度を低減するための酸素除去部を備える二酸化炭素回収装置。
【請求項2】
前記酸素除去部が、前記再生用ガスに水素を添加する水素添加手段と、前記水素添加手段で添加された水素を、前記再生用ガスに含まれる酸素との反応により接触酸化させる酸化触媒とからなる請求項1に記載の二酸化炭素回収装置。
【請求項3】
前記吸着ローターが、大気圧下に設置される請求項1又は2に記載の二酸化炭素回収装置。
【請求項4】
二酸化炭素を含有する空気を、二酸化炭素を可逆的に吸脱着可能な吸着材を含有する吸着ローターに0℃以上40℃以下で接触させて、前記空気に含まれる二酸化炭素を前記吸着ローターに吸着させる吸着工程と、
二酸化炭素を吸着した前記吸着ローターに60℃以上120℃以下の再生用ガスを通じて、体積基準で2%以上10%以下の二酸化炭素を含有する前記再生用ガスを回収する再生工程と、
前記再生工程で回収した前記再生用ガスをアミン水溶液に接触させて、前記アミン水溶液に二酸化炭素を吸収させ、体積基準で0.2%以上1%以下の二酸化炭素を含有する前記再生用ガスを回収する再生用ガス回収工程と、
二酸化炭素を吸収した前記アミン水溶液を100℃以上150℃以下に加熱して、脱水後の体積基準で99%以上の二酸化炭素を含有するガスを回収する二酸化炭素回収工程と、を含み、
前記再生用ガス回収工程で回収した前記再生用ガスを60℃以上120℃以下に加熱するとともに、酸素の少なくとも一部を除去して前記再生用ガスとして循環利用する二酸化炭素回収方法。
【請求項5】
前記再生用ガスからの酸素の除去は、前記再生用ガスに水素を添加した後、酸化触媒に接触させて、前記水素と前記再生用ガスに含まれる酸素とを反応させて水蒸気に変換する方法で行う請求項4に記載の二酸化炭素回収方法。
【請求項6】
前記吸着工程及び前記再生工程を大気圧下で行う請求項4又は5に記載の二酸化炭素回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大気に含まれる低濃度の二酸化炭素を回収して、高純度の二酸化炭素を得るための二酸化炭素回収装置及び二酸化炭素回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化石燃料の燃焼に伴い放出された二酸化炭素による地球温暖化が問題となっており、化石燃料の燃焼に伴う二酸化炭素の大気中への放出を抑制することが急務となっている。一方で、化石燃料の利用が、技術的あるいは経済的に避けられない用途も存在することから、大気中の二酸化炭素を回収する直接空気回収(Direct Air Capture)技術への期待が高まっている。
【0003】
二酸化炭素は、水素と反応させてメタンなどの炭化水素に変換することができる。この際、水素の製造を太陽光発電や風力発電のような再生可能エネルギー由来の電力を用いて行うとともに、二酸化炭素は大気から回収したものを利用することとすれば、得られた炭化水素は、燃焼利用しても、燃料の製造から利用までの過程を通算して、大気中の二酸化炭素濃度を増加させることがないので、カーボンニュートラルな炭化水素となる。
【0004】
燃焼排ガスからの二酸化炭素の回収技術は公知である。燃焼排ガスをアミン化合物の水溶液と接触させて、燃焼排ガスに含まれる二酸化炭素の大部分を除去するとともに、二酸化炭素を吸収したアミン水溶液を加熱して、体積基準で99%以上の二酸化炭素を含む高純度の二酸化炭素を回収するアミン吸収法二酸化炭素除去設備は、石炭火力発電所排ガスからの二酸化炭素回収設備として実用化されている(非特許文献1)。
【0005】
アミン吸収法は、高純度(例えば99.5%以上)の二酸化炭素を回収できることから、回収した二酸化炭素を燃料などの原料とする際には有利である。一方で、燃焼排ガスからアミン水溶液に二酸化炭素を回収する際には、二酸化炭素分子は気液界面を通過することになり、効率的な二酸化炭素回収を行うには、気液の接触を促進する必要がある。そこで、接触面積を高めるための充填物を充填した充填塔の上部からアミン水溶液を流下させ、下部から上部に燃焼排ガスを流通して、向流接触させる方法が一般的に採用されているが、この方法ではガスの圧力損失が高くなるという問題がある。
【0006】
大気に含まれる二酸化炭素(約400ppm)の回収では、燃焼排ガス(通常4%~13%程度)と比較して、同じ量の二酸化炭素を回収するために処理が必要なガスの量が100~300倍となるため、ガスの圧力損失が高くなるアミン吸収法の利用は現実的ではない。
【0007】
固体状の二酸化炭素吸着材が知られている(非特許文献2、3)。このような固体吸着材をハニカム状の担体に担持した二酸化炭素吸着体を用いると、圧力損失を抑制しながら、短時間に多量のガスを処理することができる。固体吸着材は、低温で二酸化炭素を吸着し、高温で二酸化炭素を脱離するので、低温で二酸化炭素を含む大気を流通すると、固体吸着材に二酸化炭素が吸着され、これに高温の再生用ガスを流通すると、二酸化炭素が脱離して、二酸化炭素濃度の高まったガスが得られる。
【0008】
ハニカム状の担体を円盤状のハニカムローターとして形成し、その回転により吸着部と再生部を繰り返し移動するように構成し、連続的に大気に含まれる二酸化炭素の吸着と、再生用ガスによる再生を行うことができる二酸化炭素の濃縮装置も知られている(特許文献1)。
【0009】
固体の二酸化炭素吸着材として、シリカや活性炭などの多孔質担体に、分子量の大きいアミン、例えばポリエチレンイミンなどを担持した吸着材、あるいは弱塩基性陰イオン交換樹脂などが知られており、これらの固体吸着材は、大気中の希薄な二酸化炭素でも吸着することが可能である。一方で、これらの吸着材から、常圧の下で、120℃程度よりも低い温度で、高純度の二酸化炭素を回収することは通常不可能である。これは以下の理由による。
【0010】
固体吸着材の二酸化炭素を吸着する部位をAとすると、二酸化炭素の吸着は以下の化学反応式で表される。
A+CO → A・CO (1)
【0011】
ここで、25℃において、COの平衡圧が10Pa(大気中の100ppmに相当)であり、125℃においてCOの平衡圧が100kPa(大気中の100%に相当)であるとすると、反応(1)のGibbsエネルギー変化は、25℃において-22.8kJ/mol、125℃において0kJ/molとなる。狭い温度範囲においては、反応(1)のエンタルピー変化、エントロピー変化は、相変化がない限り一定とみなしうるから、25℃及び125℃のGibbsエネルギー変化からなる連立一次方程式を解くと、反応(1)のエンタルピー変化及びエントロピー変化は、エンタルピー変化ΔH=-90.9kJ/mol、エントロピー変化ΔS=-228.3J/(mol・K)と計算される。
【0012】
吸着反応(1)に関し、前記のようなエンタルピー変化及びエントロピー変化を示す吸着材Aが存在すれば、25℃において大気からCOを吸着して100ppmまで二酸化炭素を低減するとともに、125℃に加熱することで常圧の二酸化炭素を回収することができる。しかし、CO(気体)の25℃における標準エントロピーは、213.6J/(mol・K)であるところ、吸着反応(1)によるエントロピーの減少が228.3J/(mol・K)であるならば、吸着反応(1)により、CO(気体)の25℃における標準エントロピーを超えたエントロピーの減少が起こることになる。気体分子の吸着によるエントロピーの減少は、気体分子の並進運動が凍結されることによるので、標準エントロピーの5割から7割程度となるのが一般的であり、吸着により、吸着分子の標準エントロピーを超えてエントロピーが減少することは、通常の吸着現象では起こり得ない。脱離温度として125℃よりも高い温度、例えば200℃を採用すれば、25℃において大気中の二酸化炭素を吸着して100ppmまで低減し、200℃において100kPaの二酸化炭素を回収することも可能であるが、再生用熱源としてよりより高温の熱源が必要となることに加えて、固体吸着材の熱劣化が進行する問題がある。特に、アミン系の吸着材やイオン交換樹脂は、高温で酸素が存在する雰囲気下では熱劣化が進行しやすい。
【0013】
特許文献2は、ガス状二酸化炭素及び二酸化炭素と異なるガスを含むガス混合物から、ガス状二酸化炭素を吸着する吸着材を用いた循環式吸着/脱着により、二酸化炭素を分離する方法を開示している。
【0014】
具体的には、吸着材を伴う吸着構造体を含むユニットを使用し、ユニットは400mbar abs以下の真空圧力に排気可能であり、吸着構造体は少なくともガス状二酸化炭素を脱着するために少なくとも80℃の温度まで加熱可能であり、ユニットはガス混合物の貫流と、吸着工程において吸着材をそれと接触させるために解放可能であり、以下の順序及びこの順序に繰り返す工程からなる方法であって、
(a)吸着工程において、ガス混合物を吸着材に接触させ、少なくともガス状二酸化炭素を0.8-1.1bar absの範囲の周囲大気圧条件と-40~60℃の範囲の周囲大気温度条件のもとで吸着材上に吸着させ、
(b)脱離工程において、ユニットを20-400mbar absの範囲の圧力に排気し、ユニット中の吸着材を80-130℃の範囲の温度に加熱し、少なくともユニットから脱離したガス状二酸化炭素を抽出し、ユニットの中又は下流で凝縮によってガス状二酸化炭素を水から分離し、
(c)吸着材を工程(b)の圧力で周囲大気温度条件以上の温度に強制的に冷却し、周囲大気圧条件にユニットを再加圧し、
工程(b)で蒸気をユニットに注入し、貫流させ、ユニットの圧力レベルにおいて、飽和蒸気又は130℃までの過熱蒸気温度の過熱蒸気の条件のもとで吸着材に接触させ、全工程(b)中に注入された蒸気の全工程(b)中に放出されたガス状二酸化炭素に対するモル比が40:1より少ない方法である。
【0015】
この文献の方法では、二酸化炭素を吸着した吸着材を、80℃から130℃の範囲の温度に加熱することに加えて、20-400mbar abs(約0.02気圧~0.4気圧)まで減圧し、さらに過熱蒸気を共存させることにより二酸化炭素の分圧を下げる効果も併用して二酸化炭素の脱離を行っている。また、減圧排気により酸素濃度が低下することから、脱離工程における吸着材の熱劣化も抑制することができる。
【0016】
しかし、過熱蒸気を併用して二酸化炭素の脱離を行うには、多量の蒸気が必要になり、二酸化炭素回収に必要なエネルギーが増大する問題がある。
【0017】
電気ヒーターにより加熱しながら、90℃、30mbarで脱着させる方法も提案されているが(非特許文献4)、真空ポンプの設備費用がかさむほか、真空度の高い領域では、真空ポンプの効率低下が大きくなるため、多くの電力を消費する問題もある。
【0018】
また、減圧により二酸化炭素を脱離させる場合、減圧に耐える容器内で二酸化炭素の脱離を行う必要があることから、設備コストが増大する問題があるほか、空気の漏れ込みにより、回収される二酸化炭素の濃度が低下することが避けがたい。
【0019】
以上をまとめると、大気に含まれる低濃度の二酸化炭素を回収して、高純度の二酸化炭素を得るための二酸化炭素回収装置及び二酸化炭素回収方法はなお確立されていないのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】特開2017-154063号公報
【特許文献2】特許第6622302号公報
【非特許文献】
【0021】
【非特許文献1】中神、エネルギー・資源、40巻3号、193-196頁(2019年)
【非特許文献2】C.W.Jonesほか、Chemical Reviews、116巻、11840-11876頁(2016年)
【非特許文献3】余語、ゼオライト、37巻2号、47-58頁(2020年)
【非特許文献4】国立研究開発法人科学技術振興機構低炭素社会戦略センター、二酸化炭素のDirect Air Capture(DAC)法のコストと評価(Vol.2)(2021年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本発明が解決しようとする課題は、以上の問題に鑑み、大気に含まれる低濃度の二酸化炭素を回収して、高純度の二酸化炭素を得るための経済的に優れた二酸化炭素回収装置及び二酸化炭素回収方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記課題を解決するために、本発明は、
二酸化炭素を可逆的に吸脱着可能な吸着材を含有し、二酸化炭素を含有する空気が供給される吸着ローターと、
前記吸着ローターに60℃以上120℃以下の再生用ガスを供給する再生用ガス供給部と、
前記吸着ローターを通過した前記再生用ガスからアミン吸収法によって二酸化炭素を分離して回収する二酸化炭素回収部と、を備えるとともに、
前記二酸化炭素回収部で二酸化炭素が分離された前記再生用ガスが前記再生用ガス供給部に送入されて循環利用されるように構成され、
前記再生用ガスの循環経路内に、前記再生用ガスに含まれる酸素の濃度を低減するための酸素除去部を備える二酸化炭素回収装置を提供する。
【0024】
この構成によれば、大量の空気を圧力損失の低い吸着ローターで処理して、再生用ガス中の二酸化炭素濃度を高めたのちに、アミン吸収法を利用する二酸化炭素分離部で二酸化炭素を回収することから、大量の空気を効率的に処理しつつ、高純度の二酸化炭素を回収することができる。加えて、再生用ガスの酸素濃度が空気中の酸素濃度よりも低く保たれることから、再生用ガスの温度が高い場合でも、吸着材の熱劣化が抑制できる。
【0025】
また、上記の発明において、前記酸素除去部が、前記再生用ガスに水素を添加する水素添加手段と、前記水素添加手段で添加された水素を、前記再生用ガスに含まれる酸素との反応により接触酸化させる酸化触媒とからなるものであると、簡単な設備で容易に吸着ローター再生用ガスに含まれる酸素の濃度を低減することができる。
【0026】
また、上記の発明において、前記吸着ローターが、大気圧下に設置される構成であると、吸着ローターによる二酸化炭素の吸脱着を大気圧下において行うことができ、減圧下において行う場合と比較して、より経済的に優れたものとなる。
【0027】
また、上記課題を解決するために、本発明は、
二酸化炭素を含有する空気を、二酸化炭素を可逆的に吸脱着可能な吸着材を含有する吸着ローターに0℃以上40℃以下で接触させて、前記空気に含まれる二酸化炭素を前記吸着ローターに吸着させる吸着工程と、
二酸化炭素を吸着した前記吸着ローターに60℃以上120℃以下の再生用ガスを通じて、体積基準で2%以上10%以下の二酸化炭素を含有する前記再生用ガスを回収する再生工程と、
前記再生工程で回収した前記再生用ガスをアミン水溶液に接触させて、前記アミン水溶液に二酸化炭素を吸収させ、体積基準で0.2%以上1%以下の二酸化炭素を含有する前記再生用ガスを回収する再生用ガス回収工程と、
二酸化炭素を吸収した前記アミン水溶液を100℃以上150℃以下に加熱して、脱水後の体積基準で99%以上の二酸化炭素を含有するガスを回収する二酸化炭素回収工程と、を含み、
前記再生用ガス回収工程で回収した前記再生用ガスを60℃以上120℃以下に加熱するとともに、酸素の少なくとも一部を除去して前記再生用ガスとして循環利用する二酸化炭素回収方法も提供する。
【0028】
この方法によれば、大量の空気を圧力損失の低い吸着ローターで処理して、再生用ガス中の二酸化炭素濃度を体積基準で2%以上10%以下に高めたのちに、アミン吸収法を利用する二酸化炭素回収部で二酸化炭素を回収することから、大量の空気を効率的に処理しつつ、脱水後の体積基準で99%以上の二酸化炭素を含む高純度の二酸化炭素を回収することができる。加えて、再生用ガスの酸素濃度が空気中の酸素濃度よりも低く保たれることから、再生用ガスの温度が高い場合でも、吸着材の熱劣化が抑制できる。
【0029】
また、上記の発明において、前記再生用ガスからの酸素の除去は、前記再生用ガスに水素を添加した後、酸化触媒に接触させて、前記水素と前記再生用ガスに含まれる酸素とを反応させて水蒸気に変換する方法で行うと、容易に吸着ローター再生用ガスに含まれる酸素の濃度を低減することができる。
【0030】
また、上記の発明において、前記吸着工程及び前記再生工程を大気圧下で行う構成とすれば、吸着ローターによる二酸化炭素の吸脱着を大気圧下において行うことができ、減圧下において行う場合と比較して、より経済的に優れたものとなる。
【発明の効果】
【0031】
以上の構成によれば、経済的に有利な方法で、大気に含まれる低濃度の二酸化炭素を回収して、高純度の二酸化炭素を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明の二酸化炭素回収装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明にかかる二酸化炭素回収装置及び二酸化炭素回収方法の実施形態について説明する。
【0034】
〔二酸化炭素回収装置の概要〕
図1に示すように、本例の二酸化炭素回収装置は、二酸化炭素を可逆的に吸脱着可能な吸着材を含有し、二酸化炭素を含有する空気が供給される吸着ローター1や吸着ローター1に60℃以上120℃以下の再生用ガスを供給する再生用ガス供給部2、吸着ローター1を通過した再生用ガスからアミン吸収法によって二酸化炭素を分離して回収する二酸化炭素回収部3を備えるとともに、二酸化炭素回収部3で二酸化炭素が分離された再生用ガスが再生用ガス供給部2に送入されて循環利用されるように構成され、再生用ガスの循環経路内に、再生用ガスに含まれる酸素の濃度を低減するための酸素除去部4を備える。
【0035】
〔吸着ローター〕
吸着ローター1は、軸中心に回転自在に支持されており、一定の速度で所定方向(例えば、図1の矢印X方向)に回転するように構成される。この吸着ローター1は、大気圧下に設置されている。この吸着ローター1においては、処理位置1aにおいて二酸化炭素を含有する空気が供給され、空気が供給された箇所が吸着ローター1の回転によって後述する再生用ガスが供給される再生位置1bに移動する。尚、吸着ローター1の基材は、十分な強度があって、変形しにくく、比熱容量が小さいものであれば、その材質は問わないが、セラミックペーパー、活性炭素繊維ペーパー、耐熱性の有機繊維紙などを加工したコルゲートハニカムが好ましい。本例の吸着ローター1は、基材としてコルゲートハニカムを採用し、ハニカム構造を構成する柱体の柱方向が回転軸とほぼ平行となるように構成したものである。図1では、吸着ローター1に対して、柱方向一方側から空気が供給され、他方側から再生用ガスが供給されるようになっている。尚、空気の供給方向と再生用ガスの供給方向とが同方向であっても構わない。
【0036】
二酸化炭素を可逆的に吸脱着できる吸着材としては、0℃以上40℃以下で大気に接触させて、大気中の二酸化炭素を吸着できるものであればよい。テトラエチレンペンタアミン(TEPA)、ペンタエチレンヘキサアミン(PEHA)、ポリエチレンイミン(PEI)を高比表面積のシリカや活性炭などに担持した吸着材、一又は二級アミノ基を官能基として持つ弱塩基性陰イオン交換樹脂からなる吸着材、KやNaの炭酸塩又は炭酸水素塩を活性炭やシリカ、アルミナなどに添着又は担持した吸着材などが例示できる。
【0037】
この吸着ローター1に、二酸化炭素を含有する空気を、大気圧下において0℃以上40℃以下で接触させることで、空気に含まれる二酸化炭素を吸着させることができる(吸着工程)。
【0038】
〔再生用ガス供給部〕
再生用ガス供給部2は、再生用ガスを60℃以上120℃以下に加熱して、吸着ローター1のうち再生位置1bに位置する箇所(以下、「吸着ローター1の再生箇所」ともいう)に送入するものであり、ブロアー21や複数の熱交換器22,23,24で構成される。また、再生用ガス供給部2では、吸着ローター1の再生箇所に送入された再生用ガスが、後述する二酸化炭素回収部3の吸収塔31に供給された後に回収され、吸着ローター1の再生箇所に再度送入される。つまり、再生用ガス供給部2は、再生用ガスの循環利用を可能にする循環経路を有する。
【0039】
尚、図1に示した再生用ガス供給部2は、複数の熱交換器として、吸着ローター1の再生箇所に送給される再生用ガスを蒸気により加熱する熱交換器22と、熱交換器22に送給される前の再生用ガスを吸着ローター1の再生箇所を通過した再生用ガスにより予熱する熱交換器23と、吸着ローター1及び熱交換器23を通過した再生用ガスを、後述する二酸化炭素回収部3の吸収塔31に送入する前に冷却水で冷却する熱交換器24とを備える。このように、複数の熱交換器22,23,24を備えることで、エネルギー消費を低減することができる。例えば、吸着ローター1出口の再生用ガス(吸着ローター1の再生箇所を通過した再生用ガス)の温度は通常60℃以上となっているので、後述する二酸化炭素回収部3の吸収塔31を出て、熱交換器22に送給される前の再生用ガスと熱交換することで、熱交換器22において再生用ガスの加熱に必要なエネルギーを低減できる。
【0040】
この再生用ガス供給部2によって、吸着ローター1の再生箇所に再生用ガスを供給することにより、吸着ローター1に吸着されていた二酸化炭素が吸着材から脱離して、再生用ガスに回収され、吸着ローター1が再生される。再生用ガスに含まれる二酸化炭素の濃度は、できるだけ低いほうが、効率的に吸着ローター1を再生することができるが、後述するアミン吸収法を利用する二酸化炭素回収部3での二酸化炭素除去率が通常80%~95%程度の範囲となることから、通常は体積基準で0.2%~1%の二酸化炭素を含む。
【0041】
吸着ローター1に送給する再生用ガスは、その温度が高いほど、吸着ローター1の再生を短時間で行うことができ、再生用ガスに回収される二酸化炭素の濃度が高まりやすいが、一方で、温度が高いほど、吸着材の熱劣化が進行する懸念もある。従って、再生用ガスの加熱温度は、60℃以上120℃以下とする必要があり、より好ましくは75℃~105℃の範囲とする。
【0042】
吸着ローター1を通過した再生用ガスは、吸着ローター1から脱離した二酸化炭素を含むので、体積基準で2%~10%の二酸化炭素を含む。
【0043】
この再生用ガス供給部2によれば、大気圧下において、二酸化炭素を吸着した吸着ローター1に60℃以上120℃以下の再生用ガスを通じて、体積基準で2%以上10%以下の二酸化炭素を含有する再生用ガスを回収できる(再生工程)。
【0044】
〔二酸化炭素回収部〕
二酸化炭素回収部3は、吸着ローター1の再生箇所を通過した、体積基準で2%~10%の二酸化炭素を含んだ再生用ガスから、アミン吸収法を利用して二酸化炭素を分離し、高濃度の二酸化炭素を含むガスを得るとともに、体積基準で0.2%~1%の二酸化炭素を含むガスを得るものである。
【0045】
二酸化炭素回収部3は、公知のアミン吸収法を利用する二酸化炭素回収方法が採用でき、例えば、図1に示すように、吸収塔31や再生塔32、気液分離器33、循環用ポンプ34、複数の熱交換器35,36,37,38で構成される。
【0046】
この二酸化炭素回収部3では、幾何学的な表面積を高めるため充填剤を充填した吸収塔31の上部から、アミン水溶液を流下させるとともに、被処理ガス、ここでは吸着ローター1の再生箇所を通過し、体積基準で2%~10%の二酸化炭素を含んだ再生用ガスを吸収塔31の下部から送入して、アミン水溶液と被処理ガスを向流接触させ、被処理ガスに含まれる二酸化炭素をアミン水溶液に回収する。
【0047】
二酸化炭素を吸収したアミン水溶液は、再生塔32に送入され、熱交換器36での低圧蒸気などを温熱源とする熱交換によって100℃~150℃に加熱され、吸収した二酸化炭素を放出し、熱交換器35での吸収塔31から送出されたアミン水溶液を冷熱源とする熱交換及び熱交換器37での冷却水を冷熱源とする熱交換によって冷却されて、吸収塔31に返送される。再生塔32内においてアミン水溶液から放出された二酸化炭素は、再生塔32内の水蒸気とともに、熱交換器38での冷却水を冷熱源とする熱交換によって冷却されて、気液分離器33に送入され、当該気液分離器33において水と分離されて回収される。このようにして回収される二酸化炭素は、通常99%以上であり、好ましくは99.5%以上の純度となる。
【0048】
アミン水溶液に用いるアミンとしては、モノエタノールアミン(MEA)、メチルジエタノールアミン(MDEA)、2-エチルアミノエタノール(EAE)などが使用でき、再生塔32における加熱温度及びアミン水溶液の流量を適切に選択することにより、体積基準で2%~10%の二酸化炭素を含んだ再生用ガスから二酸化炭素を除去して、体積基準で0.2%~1%の二酸化炭素を含むガスを得ることができる。
【0049】
このような二酸化炭素回収部3によれば、再生工程で回収した再生用ガス(体積基準で2%以上10%以下の二酸化炭素を含有する再生用ガス)をアミン水溶液に接触させて、アミン水溶液に二酸化炭素を吸収させ、体積基準で0.2%以上1%以下の二酸化炭素を含有する再生用ガスを回収できる(再生用ガス回収工程)。また、二酸化炭素を吸収したアミン水溶液を100℃以上150℃以下に加熱して、脱水後の体積基準で99%以上の二酸化炭素を含有するガスを回収できる(二酸化炭素回収工程)。
【0050】
〔酸素除去部〕
酸素除去部4は、再生用ガスの循環経路内に、再生用ガスに含まれる酸素の濃度を低減するものである。
【0051】
再生用ガスとして空気に代えて窒素を用いると、吸着ローター1から二酸化炭素を脱離させる際に(吸着ローター1を再生させる際に)おける吸着材の熱劣化が抑制できるだけでなく、二酸化炭素回収部3でアミン水溶液に溶解する酸素の量も低減できることから、アミン水溶液の劣化も抑制できるため、運転費用が低減できる。しかし、吸着ローター1を用いて、吸着及び再生を連続的に行う二酸化炭素回収方法では、吸着ローター1の隙間などからの空気の漏れこみを完全に排除することは困難であり、窒素を充填して運転を始めたとしても、徐々に空気に置き換わることが避けられない。
【0052】
そこで、本発明では、再生用ガスの循環経路内に、再生用ガスに含まれる酸素の濃度を低減するための酸素除去部4を設けて、再生用ガスの酸素濃度を空気よりも十分低い水準で一定に保つように構成している。
【0053】
水素と酸素との反応は、Ptなどの貴金属を担持した酸化触媒を用いると室温付近から開始することが知られており、60℃以上であれば十分な速度で進行する。例えば、図1に示すように、二酸化炭素回収部3から返送され、再度吸着ローター1の再生箇所へと送給される再生用ガスに、水素供給部41(水素添加手段)から水素を添加するとともに、60℃以上に加熱した上で、容器に収容された酸化触媒42に通じる構成とすれば、添加された水素と再生用ガスに含まれる酸素とを反応させて水蒸気に変換できる。したがって、再生用ガスの酸素濃度が低減できるとともに、再生用ガスを水素の燃焼熱によりさらに加熱することができる。
【0054】
酸化触媒は、Ptをアルミナやチタニア、ジルコニアなどの無機酸化物担体に担持したものが好ましく、必要に応じてPdやRhを助触媒として添加してもよい。酸化触媒の形状は問わないが、コージェライトやステンレス箔からなるハニカム担体に触媒成分をコートしたハニカム触媒を用いると、圧力損失が小さく有利である。
【0055】
水素の添加量は、循環経路内への空気の漏れこみ量を勘案して、適宜設定できるが、通常は再生用ガスに対して体積基準で0.05~0.3%程度とする。
【0056】
〔別実施形態〕
〔1〕上例では、エネルギー消費を低減するために、熱交換器を用いて適宜熱交換を行う態様としたが、これに限られるものではなく、熱交換を行わない態様であってもよい。
【0057】
〔2〕上例では、酸素除去部4が水素供給部41や酸化触媒42からなる態様としたが、これに限られるものではなく、再生用ガスに含まれる酸素濃度の低減を図れる態様であれば、どのような態様であってもよい。
【0058】
〔3〕上例では、吸着ローター1を大気圧下に設置し、吸着ローター1による空気に含まれる二酸化炭素の吸着(吸着工程)及び吸着ローター1からの二酸化炭素の脱離による吸着ローター1の再生(再生工程)を大気圧下において行う態様としたが、これに限られるものではない。必ずしも吸着ローター1を大気圧下に設置する必要はなく、吸着ローター1を、経済性を損なわない範囲での減圧が可能な容器内に収容してもよく、この場合には、吸着工程や再生工程を、経済性を損なわない範囲で減圧した圧力下で行ってもよい。
【0059】
尚、上記実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、大気に含まれる低濃度の二酸化炭素を回収して、高純度の二酸化炭素を得る装置及び方法として利用することができる。
【符号の説明】
【0061】
1 :吸着ローター
2 :再生用ガス供給部
21 :ブロアー
22,23,24:熱交換器
3 :二酸化炭素回収部
31 :吸収塔
32 :再生塔
33 :気液分離器
34 :循環用ポンプ
35,36,37,38:熱交換器
4 :酸素除去部
41 :水素供給部(水素添加手段)
図1